特許第6897680号(P6897680)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宇部興産株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6897680-サイフォン式培養法 図000005
  • 特許6897680-サイフォン式培養法 図000006
  • 特許6897680-サイフォン式培養法 図000007
  • 特許6897680-サイフォン式培養法 図000008
  • 特許6897680-サイフォン式培養法 図000009
  • 特許6897680-サイフォン式培養法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897680
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】サイフォン式培養法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20210628BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   C12M1/00 C
   C12N1/00 A
【請求項の数】15
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2018-530320(P2018-530320)
(86)(22)【出願日】2017年7月25日
(86)【国際出願番号】JP2017026939
(87)【国際公開番号】WO2018021359
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2019年1月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-145809(P2016-145809)
(32)【優先日】2016年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】萩原 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】布施 新作
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−100097(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/012415(WO,A1)
【文献】 特開平03−195486(JP,A)
【文献】 特開2006−035024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー多孔質膜と、
前記ポリマー多孔質膜が収容された細胞培養部と、
前記細胞培養部を内部に格納した液溜め部と、
前記液溜め部の上部に配置された培地供給手段と、
前記液溜め部の底部で連通された逆U字管と、
前記逆U字管の他端の下部に設置された培地回収手段と、
前記培地回収手段に配置された培地排出手段と
を備え、
ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、
ここで、前記培地供給手段から前記液溜め部に供給された培地の液面が前記逆U字管の頂上部に達したとき、サイフォンの原理により培地が前記培地回収手段に間歇的に吐出されることを特徴とする、動物細胞を培養するための細胞培養装置。
【請求項2】
ポリマー多孔質膜と、
一端を液溜め部、他端を底部とする函状体であって、ここで、前記液溜め部に前記ポリマー多孔質膜が収容された細胞培養部を備えた前記函状体と、
前記函状体の底面側の一部に設置された回転軸と、
前記回転軸を支える軸受と、
前記液溜め部の上部に配置された培地供給手段と、
前記液溜め部の下部に配置された培地回収手段と
を備え、
ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、
ここで、前記培地供給手段から前記液溜め部に供給された培地が、前記函状体の底部の重量を超えて供給されたときに、前記液溜め部の培地が前記培地回収手段に間歇的に吐出されることを特徴とする、動物細胞を培養するための細胞培養装置。
【請求項3】
前記培地回収手段と一端部で連通した培地排出ラインと、
前記培地と一端部で連通した培地供給ラインと
をさらに備え、
ここで、前記排出ラインの他端部が、前記培地供給ラインの他端部とポンプを介して連通されており、培地が循環可能である、請求項1又は2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記培地供給手段が、ミスト供給ノズルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記ポリマー多孔質膜が、
i)折り畳まれて、
ii)ロール状に巻き込まれて、
iii)シートもしくは小片を糸状の構造体で連結されて、
iv)縄状に結ばれて、及び/又は
v)2以上が積層されて、
平面流路に設置されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項6】
前記ポリマー多孔質膜が、ケーシングを備えたモジュール化ポリマー多孔質膜であって、
ここで、前記ケーシングを備えたモジュール化ポリマー多孔質膜は、
(i)2以上の独立した前記ポリマー多孔質膜が、集約されて、
(ii)前記ポリマー多孔質膜が、折り畳まれて、
(iii)前記ポリマー多孔質膜が、ロール状に巻き込まれて、及び/又は、
(iv)前記ポリマー多孔質膜が、縄状に結ばれて、
前記ケーシング内に収容されたものであって、
ここで、前記ケーシングを備えたモジュール化ポリマー多孔質膜が、平面流路に設置されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項7】
前記ポリマー多孔質膜が、平均孔径0.01〜100μmの複数の細孔を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項8】
前記表面層Aの平均孔径が、0.01〜50μmである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項9】
前記表面層Bの平均孔径が、20〜100μmである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項10】
前記ポリマー多孔質膜の平均膜厚が、5〜500μmである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項11】
前記ポリマー多孔質膜が、ポリイミド多孔質膜である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項12】
前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、請求項11に記載の細胞培養装置。
【請求項13】
前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより得られる着色したポリイミド多孔質膜である、請求項11又は12に記載の細胞培養装置。
【請求項14】
前記ポリマー多孔質膜が、ポリエーテルスルホン多孔質膜である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の細胞培養装置を使用する、細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー多孔質膜を備えた細胞培養装置に関する。また、ポリマー多孔質膜を備えた細胞培養装置を使用した細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、治療やワクチンに用いられる酵素、ホルモン、抗体、サイトカイン、ウイルス(ウイルスタンパク質)等のタンパク質が培養細胞を用いて工業的に産生されている。しかし、こうしたタンパク質の生産技術はコストが高く、それが医療費を引き上げていた。そのため、大幅なコスト削減を目指して、高密度に細胞を培養する技術や、タンパク質の産生量を増大させるような革新的な技術が求められていた。
【0003】
タンパク質を産生させる細胞として、培養基材に接着する足場依存性の接着細胞が用いられることがある。こうした細胞は、足場依存的に増殖するため、シャーレ、プレート又はチャンバーの表面に接着させて培養する必要がある。従来、こうした接着細胞を大量に培養するためには、接着するための表面積を大きくする必要があった。ところが、培養面積を大きくするには、空間を必然的に増大させる必要があり、それがコストを増大させる要因となっていた。
【0004】
培養空間を小さくしつつ、接着細胞を大量に培養する方法として、微小多孔を有する担体、特に、マイクロキャリアを用いた培養法が開発されている(例えば、特許文献1)。マイクロキャリアを用いた細胞培養系は、マイクロキャリアが互いに凝集しないようにするために十分に攪拌・拡散される必要がある。そのため、マイクロキャリアを分散させた培地を十分に攪拌・拡散することができるだけの容積が必要となるため、培養できる細胞の密度には上限がある。また、マイクロキャリアと培地とを分離するためには、細かな粒子を分別できるフィルターで分離させる必要があり、それがコストを増大させる原因ともなっていた。こうした状況から、高密度の細胞を培養する革新的な細胞培養の方法論が希求されていた。
【0005】
<ポリイミド多孔質膜>
ポリイミド多孔質膜は、本出願前よりフィルター、低誘電率フィルム、燃料電池用電解質膜など、特に電池関係を中心とする用途のために利用されてきた。特許文献2〜4は、特に、気体などの物質透過性に優れ、空孔率の高い、両表面の平滑性が優れ、相対的に強度が高く、高空孔率にもかかわらず、膜厚み方向への圧縮応力に対する耐力に優れるマクロボイドを多数有するポリイミド多孔質膜を記載している。これらはいずれも、アミック酸を経由して作成されたポリイミド多孔質膜である。
【0006】
細胞をポリイミド多孔質膜に適用して培養することを含む、細胞の培養方法が報告されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/054174号
【特許文献2】国際公開第2010/038873号
【特許文献3】特開2011−219585号公報
【特許文献4】特開2011−219586号公報
【特許文献5】国際公開第2015/012415号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリマー多孔質膜を備えた細胞培養装置を提供することを目的とする。また、本発明は、ポリマー多孔質膜を備えた細胞培養装置を使用した細胞培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、所定の構造を有するポリマー多孔質膜が、細胞を大量に培養可能な最適な空間を提供するのみならず、乾燥に強い湿潤環境を提供することを見出し、細胞を気相暴露して培養する装置及びそれを使用する培養方法を完成させた。すなわち、限定されるわけではないが、本発明は好ましくは以下の態様を含む。
【0010】
[1] ポリマー多孔質膜と、
前記ポリマー多孔質膜が収容された細胞培養部と、
前記細胞培養部を内部に格納した液溜め部と、
前記液溜め部の上部に配置された培地供給手段と、
前記液溜め部の下部に配置された培地排出手段と、
前記培地排出手段に連通した逆U字管と、
前記逆U字管の他端に設置され、培地を回収する培地回収手段と
を備え、
ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、
ここで、前記培地供給手段から前記液溜め部に供給された培地の液面が前記逆U字管の頂上部に達したとき、サイフォンの原理により培地が前記培地回収手段に間歇的に吐出されることを特徴とする、細胞培養装置。
[2] ポリマー多孔質膜と、
一端を液溜め部、他端を底部とする函状体であって、ここで、前記液溜め部に前記ポリマー多孔質膜が収容された細胞培養部を備えた前記函状体と、
前記函状体の底面側の一部に設置された回転軸と、
前記回転軸を支える軸受と、
前記液溜め部の上部に配置された培地供給手段と、
前記液溜め部の下部に配置された培地回収手段と
を備え、
ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、
ここで、前記培地供給手段から前記液溜め部に供給された培地が、前記函状体の底部の重量を超えて供給されたときに、前記液溜め部の培地が前記培地回収手段に間歇的に吐出されることを特徴とする、細胞培養装置。
[3] 前記培地回収手段と一端部で連通した培地排出ラインと、
前記培地と一端部で連通した培地供給ラインと
をさらに備え、
ここで、前記排出ラインの他端部が、前記培地供給ラインの他端部とポンプを介して連通されており、培地が循環可能である、[1]又は[2]に記載の細胞培養装置。
[4] 前記培地供給手段が、ミスト供給ノズルである、[1]〜[3]のいずれかに記載の細胞培養装置。
[5] 前記ポリマー多孔質膜が、
i)折り畳まれて、
ii)ロール状に巻き込まれて、
iii)シートもしくは小片を糸状の構造体で連結されて、
iv)縄状に結ばれて、及び/又は
v)2以上が積層されて、
平面流路に設置されている、[1]〜[4]のいずれかに記載の細胞培養装置。
[6] 前記ポリマー多孔質膜が、ケーシングを備えたモジュール化ポリマー多孔質膜であって、
ここで、前記ケーシングを備えたモジュール化ポリマー多孔質膜は、
(i)2以上の独立した前記ポリマー多孔質膜が、集約されて、
(ii)前記ポリマー多孔質膜が、折り畳まれて、
(iii)前記ポリマー多孔質膜が、ロール状に巻き込まれて、及び/又は、
(iv)前記ポリマー多孔質膜が、縄状に結ばれて、
前記ケーシング内に収容されたものであって、
ここで、前記ケーシングを備えたモジュール化ポリマー多孔質膜が、平面流路に設置されている、[1]〜[5]のいずれかに記載の細胞培養装置。
[7] 前記ポリマー多孔質膜が、平均孔径0.01〜100μmの複数の細孔を有する、[1]〜[6]のいずれかに記載の細胞培養装置。
[8] 前記表面層Aの平均孔径が、0.01〜50μmである、[1]〜[7]のいずれかに記載の細胞培養装置。
[9] 前記表面層Bの平均孔径が、20〜100μmである、[1]〜[8]のいずれかに記載の細胞培養装置。
[10] 前記ポリマー多孔質膜の平均膜厚が、5〜500μmである、[1]〜[9]のいずれかに記載の細胞培養装置。
[11] 前記ポリマー多孔質膜が、ポリイミド多孔質膜である、[1]〜[10]のいずれかに記載の細胞培養装置。
[12] 前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、[11]に記載の細胞培養装置。
[13] 前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより得られる着色したポリイミド多孔質膜である、[11]又は[12]に記載の細胞培養装置。
[14] 前記ポリマー多孔質膜が、ポリエーテルスルホン多孔質膜である、[1]〜[10]のいずれかに記載の細胞培養装置。
[15] [1]〜[14]のいずれかに記載の細胞培養装置を使用する、細胞の培養方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、細胞培養担体としてポリマー多孔質膜を用いることにより、培養スペースや培地の量が少ない条件下でも、簡便かつ効率的な連続型細胞培養を可能とする。また、本発明のポリマー多孔質膜は、微親水性の多孔質特性を有するため、ポリマー多孔質膜内に安定した液保持がなされ、乾燥にも強い湿潤環境が保たれる。そのため、従来の細胞培養装置と比較しても極めて少量の培地でも、細胞の生存及び増殖を達成することができる。また、ポリマー多孔質膜の一部又はすべてが空気に露出した状態であっても培養が可能であるため、細胞に対して効率的な酸素供給を行うことができ、大量の細胞を培養することができる。
【0012】
本発明によれば、サイフォン機構又は鹿威し機構により、細胞培養部を気相に直接暴露させることにより、安定した酸素供給を定常的に達成できるため、酸素供給システムを使用する事なく大量の細胞を培養する事が可能となる。また、自発的に液部の移動を繰り返すシステムである為、液の流通以外、特別の装置やエネルギーを使用する事無く、運転を継続する事が可能となる。また、細胞と下部の培地貯留部(「細胞回収手段」ともいう)が乖離されているため、例えば、pH調整やグルコース注加等の調整において、強撹拌や発泡等の細胞に対する禁忌も使用可能となり、作業場の選択肢を大きく出来る上、培養スケールの理論上限等からも開放され、超大型の設備等へも展開可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態におけるサイフォン式細胞培養装置を示す図である。
図2図2は、実施形態における鹿威し式細胞培養装置を示す図である。
図3図3は、(A)一実施形態における乾熱滅菌型サイフォン式細胞培養装置(耐熱サイフォン型リアクター)、(B)モジュールを示す図である。
図4図4は、一実施形態の細胞培養装置における、液滴化培地供給手段から滴下される培地の様式を示す概念図である。(A)ドロップ型、(B)メッシュ型、(C)シャワー型を示す。(D)ドロップ型及びメッシュ型の液滴を供給するために使用される、一実施形態の細胞培養装置に適用される蓋体を示す図である。蓋体の培地供給口には、ステンレス鋼製のメッシュを巻いて形成したメッシュ束が挿入される。
図5図5は、一実施態様において、本発明の細胞培養装置を使用した場合の、ヒト皮膚線維芽細胞から産生されるフィブロネクチンの量を示したグラフである。コントロールとして、通常の培養皿でヒト皮膚線維芽細胞を培養することにより産生されたフィブロネクチンの量を示している(dish day8)。
図6図6は、ポリマー多孔質膜を用いた細胞培養のモデル図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、必要に応じて図面を参照しながら説明する。実施形態の構成は例示であり、本発明の構成は、実施形態の具体的構成に限定されない。
【0015】
1.ポリマー多孔質膜
本発明で使用されるポリマー多孔質膜中の表面層A(以下で、「A面」又は「メッシュ面」とも呼ぶ)に存在する孔の平均孔径は、特に限定されないが、例えば、0.01μm以上200μm未満、0.01〜150μm、0.01〜100μm、0.01〜50μm、0.01μm〜40μm、0.01μm〜30μm、0.01μm〜20μm、又は0.01μm〜15μmであり、好ましくは、0.01μm〜15μmである。
【0016】
本発明で使用されるポリマー多孔質膜中の表面層B(以下で、「B面」又は「大穴面」とも呼ぶ)に存在する孔の平均孔径は、表面層Aに存在する孔の平均孔径よりも大きい限り特に限定されないが、例えば、5μm超200μm以下、20μm〜100μm、30μm〜100μm、40μm〜100μm、50μm〜100μm、又は60μm〜100μmであり、好ましくは、20μm〜100μmである。
【0017】
ポリマー多孔質膜表面の平均孔径は、多孔質膜表面の走査型電子顕微鏡写真より、200点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面積の平均値から下式(1)に従って孔の形状が真円であるとした際の平均直径を計算より求めることができる。
【数1】
(式中、Saは孔面積の平均値を意味する。)
【0018】
表面層A及びBの厚さは、特に限定されないが、例えば0.01〜50μmであり、好ましくは0.01〜20μmである。
【0019】
ポリマー多孔質膜におけるマクロボイド層中のマクロボイドの膜平面方向の平均孔径は、特に限定されないが、例えば10〜500μmであり、好ましくは10〜100μmであり、より好ましくは10〜80μmである。また、当該マクロボイド層中の隔壁の厚さは、特に限定されないが、例えば0.01〜50μmであり、好ましくは、0.01〜20μmである。一の実施形態において、当該マクロボイド層中の少なくとも1つの隔壁は、隣接するマクロボイド同士を連通する、平均孔径0.01〜100μmの、好ましくは0.01〜50μmの、1つ又は複数の孔を有する。別の実施形態において、当該マクロボイド層中の隔壁は孔を有さない。
【0020】
本発明で使用されるポリマー多孔質膜表面の総膜厚は、特に限定されないが、5μm以上、10μm以上、20μm以上又は25μm以上であってもよく、500μm以下、300μm以下、100μm以下、75μm以下又は50μm以下であってもよい。好ましくは、5〜500μmであり、より好ましくは25〜75μmである。
【0021】
本発明で使用されるポリマー多孔質膜の膜厚の測定は、接触式の厚み計で行うことができる。
【0022】
本発明で使用されるポリマー多孔質膜の空孔率は特に限定されないが、例えば、40%以上95%未満である。
【0023】
本発明において用いられるポリマー多孔質膜の空孔率は、所定の大きさに切り取った多孔質フィルムの膜厚及び質量を測定し、目付質量から下式(2)に従って求めることができる。
【数2】
(式中、Sは多孔質フィルムの面積、dは総膜厚、wは測定した質量、Dはポリマーの密度をそれぞれ意味する。ポリマーがポリイミドである場合は、密度は1.34g/cm3とする。)
【0024】
本発明において用いられるポリマー多孔質膜は、好ましくは、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は0.01μm〜15μmであり、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径は20μm〜100μmであり、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記マクロボイド層の隔壁、並びに前記表面層A及びBの厚さは0.01〜20μmであり、前記表面層A及びBにおける孔がマクロボイドに連通しており、総膜厚が5〜500μmであり、空孔率が40%以上95%未満である、ポリマー多孔質膜である。一の実施形態において、マクロボイド層中の少なくとも1つの隔壁は、隣接するマクロボイド同士を連通する、平均孔径0.01〜100μmの、好ましくは0.01〜50μmの、1つ又は複数の孔を有する。別の実施形態において、隔壁は、そのような孔を有さない。
【0025】
本発明において用いられるポリマー多孔質膜は、滅菌されていることが好ましい。滅菌処理としては、特に限定されないが、乾熱滅菌、蒸気滅菌、エタノール等消毒剤による滅菌、紫外線やガンマ線等の電磁波滅菌等任意の滅菌処理などが挙げられる。
【0026】
本発明で使用されるポリマー多孔質膜は、上記した構造的特徴を備える限り、特に限定されないが、好ましくはポリイミド多孔質膜、又はポリエーテルスルホン(PES)多孔質膜である。
【0027】
1−1.ポリイミド多孔質膜
ポリイミドとは、繰り返し単位にイミド結合を含む高分子の総称であり、通常は、芳香族化合物が直接イミド結合で連結された芳香族ポリイミドを意味する。芳香族ポリイミドは芳香族と芳香族とがイミド結合を介して共役構造を持つため、剛直で強固な分子構造を持ち、かつ、イミド結合が強い分子間力を持つために非常に高いレベルの熱的、機械的、化学的性質を有する。
【0028】
本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、好ましくは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを(主たる成分として)含むポリイミド多孔質膜であり、より好ましくはテトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドからなるポリイミド多孔質膜である。「主たる成分として含む」とは、ポリイミド多孔質膜の構成成分として、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミド以外の成分は、本質的に含まない、あるいは含まれていてもよいが、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドの性質に影響を与えない付加的な成分であることを意味する。
【0029】
一実施形態において、本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより得られる着色したポリイミド多孔質膜も含まれる。
【0030】
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを重合して得られる。ポリアミック酸は、熱イミド化又は化学イミド化することにより閉環してポリイミドとすることができるポリイミド前駆体である。
【0031】
ポリアミック酸は、アミック酸の一部がイミド化していても、本発明に影響を及ぼさない範囲であればそれを用いることができる。すなわち、ポリアミック酸は、部分的に熱イミド化又は化学イミド化されていてもよい。
【0032】
ポリアミック酸を熱イミド化する場合は、必要に応じて、イミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子、有機微粒子等の微粒子等をポリアミック酸溶液に添加することができる。また、ポリアミック酸を化学イミド化する場合は、必要に応じて、化学イミド化剤、脱水剤、無機微粒子、有機微粒子等の微粒子等をポリアミック酸溶液に添加することができる。ポリアミック酸溶液に前記成分を配合しても、着色前駆体が析出しない条件で行うことが好ましい。
【0033】
本明細書において、「着色前駆体」とは、250℃以上の熱処理により一部または全部が炭化して着色化物を生成する前駆体を意味する。
【0034】
上記ポリイミド多孔質膜の製造において使用され得る着色前駆体としては、ポリアミック酸溶液又はポリイミド溶液に均一に溶解または分散し、250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上の熱処理、好ましくは空気等の酸素存在下での250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上の熱処理により熱分解し、炭化して着色化物を生成するものが好ましく、黒色系の着色化物を生成するものがより好ましく、炭素系着色前駆体がより好ましい。
【0035】
着色前駆体は、加熱していくと一見炭素化物に見えるものになるが、組織的には炭素以外の異元素を含み、層構造、芳香族架橋構造、四面体炭素を含む無秩序構造のものを含む。
【0036】
炭素系着色前駆体は特に制限されず、例えば、石油タール、石油ピッチ、石炭タール、石炭ピッチ等のタール又はピッチ、コークス、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体、フェロセン化合物(フェロセン及びフェロセン誘導体)等が挙げられる。これらの中では、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体及び/又はフェロセン化合物が好ましく、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体としてはポリアクリルニトリルが好ましい。
【0037】
また、別の実施形態において、本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、上記の着色前駆体を使用せずに、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られるポリアミック酸溶液を成形した後、熱処理することにより得られる、ポリイミド多孔質膜も含まれる。
【0038】
着色前駆体を使用せずに製造されるポリイミド多孔質膜は、例えば、極限粘度数が1.0〜3.0であるポリアミック酸3〜60質量%と有機極性溶媒40〜97質量%とからなるポリアミック酸溶液をフィルム状に流延し、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬又は接触させて、ポリアミック酸の多孔質膜を作製し、その後当該ポリアミック酸の多孔質膜を熱処理してイミド化することにより製造されてもよい。この方法において、水を必須成分とする凝固溶媒が、水であるか、又は5質量%以上100質量%未満の水と0質量%を超え95質量%以下の有機極性溶媒との混合液であってもよい。また、上記イミド化の後、得られた多孔質ポリイミド膜の少なくとも片面にプラズマ処理を施してもよい。
【0039】
上記ポリイミド多孔質膜の製造において使用され得るテトラカルボン酸二無水物は、任意のテトラカルボン酸二無水物を用いることができ、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物の具体例として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等を挙げることができる。また、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸を用いることも好ましい。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
これらの中でも、特に、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を好適に用いることができる。
【0041】
上記ポリイミド多孔質膜の製造において使用され得るジアミンは、任意のジアミンを用いることができる。ジアミンの具体例として、以下のものを挙げることができる。
1)1,4−ジアミノベンゼン(パラフェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエンなどのベンゼン核1つのべンゼンジアミン;
2)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシドなどのベンゼン核2つのジアミン;
3)1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのベンゼン核3つのジアミン;
4)3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン核4つのジアミン。
【0042】
これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるジアミンは、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
【0043】
これらの中でも、芳香族ジアミン化合物が好ましく、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミン、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを好適に用いることができる。特に、ベンゼンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル及びビス(アミノフェノキシ)フェニルからなる群から選ばれる少なくとも一種のジアミンが好ましい。
【0044】
本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、ガラス転移温度が240℃以上であるか、又は300℃以上で明確な転移点がないテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを組み合わせて得られるポリイミドから形成されていることが好ましい。
【0045】
本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、以下の芳香族ポリイミドからなるポリイミド多孔質膜であることが好ましい。
(i)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、
(ii)テトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、
及び/又は、
(iii)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド。
【0046】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜は、好ましくは、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリイミド多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は0.01μm〜15μmであり、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径は20μm〜100μmであり、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記マクロボイド層の隔壁、並びに前記表面層A及びBの厚さは0.01〜20μmであり、前記表面層A及びBにおける孔がマクロボイドに連通しており、総膜厚が5〜500μmであり、空孔率が40%以上95%未満である、ポリイミド多孔質膜である。ここで、マクロボイド層中の少なくとも1つの隔壁は、隣接するマクロボイド同士を連通する、平均孔径0.01〜100μmの、好ましくは0.01〜50μmの、1つ又は複数の孔を有する。
【0047】
例えば、国際公開第2010/038873号、特開2011−219585号公報、又は特開2011−219586号公報に記載されているポリイミド多孔質膜も、本発明に使用可能である。
【0048】
1−2.ポリエーテルスルホン(PES)多孔質膜
本発明で使用され得るPES多孔質膜は、ポリエーテルスルホンを含み、典型的には実質的にポリエーテルスルホンからなる。ポリエーテルスルホンは当業者に公知の方法で合成されたものであってよく、例えば、二価フェノール、アルカリ金属化合物及びジハロゲノジフェニル化合物を有機極性溶媒中で重縮合反応させる方法、二価フェノールのアルカリ金属二塩を予め合成しジハロゲノジフェニル化合物と有機極性溶媒中で重縮合反応させる方法等によって製造できる。
【0049】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属アルコキシド等が挙げられる。特に、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムが好ましい。
【0050】
二価フェノール化合物としては、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、4,4’−ビフェノール、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類(例えば2,2−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン、及び2,2−ビス(ヒドロキシフェニル)メタン)、ジヒドロキシジフェニルスルホン類、ジヒドロキシジフェニルエーテル類、又はそれらのベンゼン環の水素の少なくとも1つが、メチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基、又はメトキシ基、エトキシ基等の低級アルコキシ基で置換されたものが挙げられる。二価フェノール化合物としては、上記の化合物を二種類以上混合して用いることができる。
【0051】
ポリエーテルスルホンは市販品であってもよい。市販品の例としては、スミカエクセル7600P、スミカエクセル5900P(以上、住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0052】
ポリエーテルスルホンの対数粘度は、多孔質ポリエーテルスルホン膜のマクロボイドを良好に形成する観点で、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.55以上であり、多孔質ポリエーテルスルホン膜の製造容易性の観点から、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.75以下である。
【0053】
また、PES多孔質膜、又はその原料としてのポリエーテルスルホンは、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、ガラス転移温度が、200℃以上であるか、又は明確なガラス転移温度が観察されないことが好ましい。
【0054】
本発明で使用され得るPES多孔質膜の製造方法は特に限定されないが、例えば、
対数粘度0.5〜1.0のポリエーテルスルホンの0.3質量%〜60質量%と有機極性溶媒40質量%〜99.7質量%とを含むポリエーテルスルホン溶液を、フィルム状に流延し、ポリエーテルスルホンの貧溶媒又は非溶媒を必須成分とする凝固溶媒に浸漬又は接触させて、空孔を有する凝固膜を作製する工程、及び
前記工程で得られた空孔を有する凝固膜を熱処理して前記空孔を粗大化させて、PES多孔質膜を得る工程
を含み、前記熱処理は、前記空孔を有する凝固膜を、前記ポリエーテルスルホンのガラス転移温度以上、若しくは240℃以上まで昇温させることを含む、方法で製造されてもよい。
【0055】
本発明で使用され得るPES多孔質膜は、好ましくは、表面層A、表面層B、及び前記表面層Aと前記表面層Bとの間に挟まれたマクロボイド層、を有するPES多孔質膜であって、
前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた、膜平面方向の平均孔径が10μm〜500μmである複数のマクロボイドとを有し、
前記マクロボイド層の隔壁は、厚さが0.1μm〜50μmであり、
前記表面層A及びBはそれぞれ、厚さが0.1μm〜50μmであり、
前記表面層A及びBのうち、一方が平均孔径5μm超200μm以下の複数の細孔を有し、かつ他方が平均孔径0.01μm以上200μm未満の複数の細孔を有し、
表面層A及び表面層Bの、一方の表面開口率が15%以上であり、他方の表面層の表面開口率が10%以上であり、
前記表面層A及び前記表面層Bの前記細孔が前記マクロボイドに連通しており、
前記PES多孔質膜は、総膜厚が5μm〜500μmであり、かつ空孔率が50%〜95%である、
PES多孔質膜である。
【0056】
本発明の細胞培養装置に用いられる、細胞培養担体としての上述のポリマー多孔質膜は、微親水性の多孔質特性を有するため、ポリマー多孔質膜内に安定した液保持がなされ、乾燥にも強い湿潤環境が保たれる。そのため、従来の細胞培養担体を用いる細胞培養装置と比較して、極めて少量の培地でも細胞の生存及び増殖を達成することができる。また、ポリマー多孔質膜の一部又はすべてが空気に露出した状態であっても培養が可能であるため、細胞に対して効率的な酸素供給を行うことができ、大量の細胞を培養することができる。
【0057】
本発明によれば、用いる培地の量が極めて少なく、また、培養担体であるポリマー多孔質膜を気相に露出することができるため、細胞への酸素供給は拡散によって十分に行われる。したがって、本発明では特に酸素供給装置を必要としない。
【0058】
2.細胞培養装置
本発明は、サイフォン構造又は鹿威し構造を有する細胞培養装置であって、ポリマー多孔質膜と、該ポリマー多孔質膜が収容された細胞培養部と、細胞培養部を内部に格納した液溜め部と、液溜め部の上部に配置された培地供給手段と、液溜め部の下部に配置された培地排出手段を備えた培地貯留部とを備え、ここで、液溜め部に一時的に貯留された培地は、培地貯留部に間歇的に吐出されることを特徴とする細胞培養装置に関する。本発明の細胞培養装置は、典型的には、サイフォン式細胞培養装置及び鹿威し式細胞培養装置を用いて例証されるが、上述したように、液溜め部に一時的に貯留された培地が、培地貯留部に間歇的に吐出されることを特徴する培養装置であれば、上記名称のいずれかに分類する必要はない。本明細書において、概して、これらの細胞培養装置を「本発明の細胞培養装置」とも呼ぶ。以下に本発明の細胞培養装置の実施態様について、図を示しながら説明する。
【0059】
(1)サイフォン式細胞培養装置
本発明の一態様は、ポリマー多孔質膜と、前記ポリマー多孔質膜が収容された細胞培養部と、前記細胞培養部を内部に格納した液溜め部と、前記液溜め部の上部に配置された培地供給手段と、前記液溜め部の底部で連通された逆U字管と、前記逆U字管の他端の下部に設置された培地回収手段と、前記培地回収手段に配置された培地排出手段とを備え、ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、ここで、前記培地供給手段から前記液溜め部に供給された培地の液面16(図1)が前記逆U字管の頂上部に達したとき、サイフォンの原理により培地が前記培地回収手段に間歇的に吐出されることを特徴とする、細胞培養装置に関する。当該装置において、ポリマー多孔質膜を細胞培養モジュール(例えば、図3(B))に置き換えて使用することが可能である。
【0060】
図1は、本発明のサイフォン式細胞培養装置の典型例を示す図である。1つ以上の細胞培養部21a〜21fを上下方向に支柱23で保持させた細胞培養部支持体2は、液溜め部11に収納可能であり、また培養終了後に取り出せるように把手22を備える。細胞培養支持体2の断面の形状は、液溜め部11に対応させるために、適宜調整可能である。液溜め部11の断面の形状は、特に限定されないが、正方形、長方形、円形、三角形が例示され、好ましくは円形である。液溜め部11及び細胞培養支持体2の形状は、目的に応じて適宜設計を変更してもよい。
【0061】
細胞培養部21a〜21fは、培地が流通可能なように穴構造を有し、ポリマー多孔質膜(図示なし)を設置又は収容することができる。この該細胞培養部の段数は、特に限定されないが、培地が液溜め部11に貯留開始された後、最下段の細胞培養部21fに培地が浸り始めてから、最上段の細胞培養部21aに培地が浸るまでに時間差があることから、好ましくは100段以下、より好ましくは50段以下、さらにより好ましくは30段以下であり、なおより好ましくは10段以下であり、例えば、9段、8段、7段、6段、5段、4段、3段、2段、1段であってもよい。また、細胞培養において、各細胞培養部で培養された細胞への気相暴露の時間を一定にするために、液溜め部11に培地供給手段14からの培地の単位時間あたりの供給量と、該液溜め部に具備した逆U字管12の他端からの培地の単位時間あたりの吐出量は等しいことが好ましい。
【0062】
液溜め部11は、その上部に培地供給手段14と底部に逆U字管12を備える。培地供給手段14は、培地を培地貯蔵槽(図示せず)又は培地回収手段13に溜められた培地を、液溜め11に供給するための手段であり、培地の流量を調節することができる調節部を備えてもよい。また、液溜め11への培地供給手段は、図示されないが、培養液を微小液滴の状態で供給可能なミスト供給ノズルであってもよい。本発明において、ミスト供給ノズルは、培地が液滴の状態で供給される手段であればよく、ノズルの数及び配置、並びに供給される液滴のサイズは限定されない。
【0063】
一態様では、細胞培養装置は、培地排出手段15と一端部で連通した培地排出ラインと、培地供給手段14と一端部で連通した培地供給ラインとをさらに備えてもよく、培地排出ラインの他端部は、培地供給ラインの他端部とポンプを介して連通されており、培地が循環可能である。培養液を汲み上げるためのポンプの種類は、特に限定されないが、例えば流量を調節可能なペリスタポンプ等が使用可能である。上記調節部は、かかるポンプに代用可能である。
【0064】
培地回収手段13は、液溜め部11に溜められ、吐出された培地を一時的に貯留する役割を有することから、その容量は、液溜め部11の容量以上であることが好ましい。
【0065】
(2)鹿威し式細胞培養装置
本発明の一態様は、ポリマー多孔質膜と、一端を液溜め部、他端を底部とする函状体であって、ここで、前記液溜め部に前記ポリマー多孔質膜が収容された細胞培養部を備えた前記函状体と、前記函状体の底面側の一部に設置された回転軸と、前記回転軸を支える軸受と、前記液溜め部の上部に配置された培地供給手段と、前記液溜め部の下部に配置された培地回収手段とを備え、ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、ここで、前記培地供給手段から前記液溜め部に供給された培地が、前記函状体の底部の重量のバランスを超えて供給されたときに、前記液溜め部の培地が前記培地回収手段に間歇的に吐出されることを特徴とする、細胞培養装置に関する。
【0066】
図2は、本発明の鹿威し式細胞培養装置の典型例を示す図である。本発明の鹿威し式細胞培養装置は、一度、液溜め部に培地を溜め、一定期間後に培地が吐出される点において、サイフォン式細胞培養装置と機能が共通する。函状体3は、液溜め部31aと底部31bを備え、底部31bは、液溜め部31aに供給された培地の重量が閾値を超え、函状体3が傾斜し始め、培地の吐出が完了後に元の水平位置に復元し得る程度の重さを有する。液溜め部31aは、ポリマー多孔質膜を収容する役割を有するが、函状体3の傾斜によりポリマー多孔質膜が脱落しないように、液溜め部31a内に、液流通可能な穴、柵、又はメッシュ等を有する仕切り板31cを具備してもよい。なお、培地供給手段から供給される培地が、ポリマー多孔質膜に直接あたらないように、仕切り板31cで区切られ、ポリマー多孔質膜がない他方側に培地が供給可能なように、培地供給手段の配置を適宜変更することができる。
【0067】
また、函状体3の底側には、底面側の一部に回転軸33と、必要に応じて、液溜め部31aが空の状態から培地量が閾値に達するまで、好ましくは、函状体3の水平性を保持するための、底部31bの底面側の一部に支持手段(図示せず)を備えてもよい。回転軸33は、その両端が軸受34に支持され、函状体3の転倒動作を容易にする。函状体3の転倒動作を可能にする手段としては、上記に限定されず、底面側の一部に取り付けられた平板状の転倒軸を転倒支点として転倒動作自在に構成されたものであってもよい。当業者であれば、サイフォン式細胞培養装置を構成する培地供給手段、培地回収手段、培地排出手段、各種ライン、ポンプをサイフォン式細胞培養装置に適宜使用可能であることを承認し得る。
【0068】
本発明の実施形態で使用されるポリマー多孔質膜は、例えば、i)折り畳んで、ii)ロール状に巻き込んで、iii)シートもしくは小片を糸状の構造体で連結させて、及び/又は、iv)縄状に結んで、平面流路上に適用されてもよい。また、本発明の実施形態で使用されるポリマー多孔質膜は、v)2以上が積層されて、平面流路上に適用されてもよい。i)〜v)のように形状を加工することにより、一定容量の細胞培養培地中に多くのポリマー多孔質膜を入れることができる。
【0069】
本発明の実施態様で使用されるポリマー多孔質膜は、モジュール化されたポリマー多孔質膜(以下、「モジュール化ポリマー多孔質膜」という。)が使用されてもよい。本明細書において「モジュール化ポリマー多孔質膜」とは、ケーシングに収容されたポリマー多孔質膜をいう。本明細書において、「モジュール化ポリマー多孔質膜」との記載は、単に「モジュール」と記載することができ、相互に変更しても同一のことを意味する。
【0070】
本発明の実施態様で使用されるモジュール化ポリマー多孔質膜が備えるケーシングは、2以上の細胞培地流出入口を有し、該細胞培地流出入口によって培地がケーシングの内外へ流出入する。該ケーシングの細胞培地流出入口の径は、ケーシングの内部へ細胞が流入可能であるように、前記細胞の径よりも大きいことが好ましい。また、細胞培地流出入口の径が、該細胞培地流出入口よりポリマー多孔質膜が流出する径よりも小さいことが好ましい。ポリマー多孔質膜が流出する径よりも小さい径は、ケーシングに収容されたポリマー多孔質膜の形状、大きさによって適宜選択可能である。例えば、ポリマー多孔質膜がひも状である場合、該ポリマー多孔質膜の短辺の幅より小さく、該ポリマー多孔質膜が流出しない適度の径であれば特に限定されない。該細胞培地流出入口の数は、細胞培地がケーシング内外へ供給及び/又は排出されやすいように、出来るだけ多く設けられていることが好ましい。好ましくは、5以上、好ましくは10以上、好ましくは20以上、好ましくは50以上、好ましくは100以上である。細胞培地流出入口は、ケーシングの一部又は全部が、メッシュ状の構造を有していてもよい。また、該ケーシング自体がメッシュ状であってもよい。本発明において、メッシュ形状の構造とは、例えば、縦、横、及び/又は斜めの格子状の構造を有するものであって、各目開きが、流体が通過出来る程度に細胞培地流出入口を形成するものであるが、これに限定されない。
【0071】
本発明の実施態様で使用されるモジュール化ポリマー多孔質膜のケーシングは、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ステンレス鋼(「ステンレス」ともいう)などの金属などが挙げられるが、細胞の培養に影響を与えない素材であれば特に限定されない。
【0072】
本発明の実施態様で使用されるモジュール化ポリマー多孔質膜は、
(i)2以上の独立した前記ポリマー多孔質膜が、集約されて、
(ii)前記ポリマー多孔質膜が、折り畳まれて、
(iii)前記ポリマー多孔質膜が、ロール状に巻き込まれて、及び/又は、
(iv)前記ポリマー多孔質膜が、縄状に結ばれて、
該ケーシング内に収容されたものであって、該モジュール化ポリマー多孔質膜を平面流路へ適用することが可能である。
【0073】
本明細書において、「ケーシング内に2以上の独立した該ポリマー多孔質膜が集約されて収容されている」とは、互いに独立した2以上のポリマー多孔性膜が、ケーシングで囲まれた一定空間内に集約されて収容されている状態を指す。本発明において、2以上の独立した該ポリマー多孔質膜は、該ポリマー多孔質膜の少なくとも1カ所と該ケーシング内の少なくとも1カ所とを任意の方法によって固定され、該ポリマー多孔質膜がケーシング内で動かない状態に固定されたものであってもよい。また、2以上の独立したポリマー多孔質膜は、小片であってもよい。小片の形状は、例えば、円、楕円形、四角、三角、多角形、ひも状など、任意の形をとりうるが、好ましくは、略正方形が好ましい。本発明において、小片の大きさは、任意の大きさをとりうるが、略正方形である場合、長さは任意の長さでよいが、幅は、80mm以下がよく、好ましくは50mm以下がよく、より好ましくは30mm以下がよく、さらにより好ましくは20mm以下がよく、10mm以下であってもよい。また、ポリマー多孔性膜の小片が略正方形である場合、その一辺の長さは、ポリマー多孔質膜がケーシング内で動かない状態となるように、ケーシングの内壁に沿って、又は内壁の一辺の長さより短く(例えば、0.1mm〜1mm程度短い)形成されたものであってもよい。これによって、ポリマー多孔質膜内で生育される細胞にストレスが加えられることが防止され、アポトーシス等が抑制されて安定的かつ大量の細胞を培養することが可能となる。なお、ひも状のポリマー多孔質膜の場合、後述するように、(ii)前記ポリマー多孔質膜が、折り畳まれて、(iii)前記ポリマー多孔質膜が、ロール状に巻き込まれて、及び/又は、(iv)前記ポリマー多孔質膜が、縄状に結ばれて、該ケーシングに収容されてもよい。
【0074】
本明細書において、「折り畳まれたポリマー多孔質膜」とは、該ケーシング内にて折り畳まれていることで、ポリマー多孔質膜の各面及び/又はケーシング内の表面との摩擦力によってケーシング内で動かない状態となったポリマー多孔質膜である。本明細書において、「折り畳まれた」とは、ポリマー多孔膜に折り目がついた状態であってもよく、折り目がついていない状態であってもよい。
【0075】
本明細書において、「ロール状に巻き込まれたポリマー多孔質膜」とは、ポリマー多孔質膜が、ロール状に巻き込まれて、ポリマー多孔質膜の各面及び/又はケーシング内の表面との摩擦力によってケーシング内で動かない状態となったポリマー多孔性膜をいう。また、本発明おいて、縄状に編み込まれたポリマー多孔質膜とは、例えば短冊状の複数のポリマー多孔質膜を、任意の方法によって縄状に編み込み、ポリマー多孔質膜同士の摩擦力によって互いに動かない状態のポリマー多孔質膜をいう。(i)2以上の独立した前記ポリマー多孔質膜が集約されたポリマー多孔質膜、(ii)折り畳まれたポリマー多孔質膜、(iii)ロール状に巻き込まれたポリマー多孔質膜、及び(iv)縄状に結ばれたポリマー多孔質膜、が、組み合わせられてケーシング内に収容されていてもよい。
【0076】
本明細書において、「該ポリマー多孔質膜がケーシング内で動かない状態」とは、該モジュール化ポリマー多孔質膜を細胞培養培地中で培養する場合に、該ポリマー多孔質膜が継続的に形態変化しない状態になるようにケーシング内に収容されている状態をいう。換言すれば、該ポリマー多孔質膜自体が、流体によって、継続的に波打つ動きを行わないように抑制された状態である。ポリマー多孔質膜がケーシング内で動かない状態を保つため、ポリマー多孔質膜内で生育されている細胞にストレスが加えられることが防止され、細胞が死滅されることなく安定的に細胞が培養可能となる。
【0077】
(3)乾熱滅菌型サイフォン式細胞培養装置
本発明の一態様として、上記(1)において定義したサイフォン式細胞培養装置を完全に全体として乾熱滅菌可能な細胞培養装置を提供することができる。本発明によれば、ガラス製耐熱サイフォンリアクターを採用し、該リアクター内に収容されるモジュール(図3(B))であって、ステンレス鋼メッシュによって作製された、その内部にポリイミド多孔質膜を有するメタルモジュールを組み込んだ乾熱滅菌型サイフォン式細胞培養装置が提供される(図3(A))。ガラス製耐熱サイフォンリアクターとしては、サイフォンの原理により培地が間歇的に吐出される機能を有するものであれば限定されないが、例えば、ソックスレー抽出器をベースとしたものであってもよい。
【0078】
3.細胞培養装置を使用した細胞培養方法
【0079】
<細胞をポリマー多孔質膜へ適用する工程>
本発明で使用される細胞のポリマー多孔質膜への適用の具体的な工程は特に限定されない。本明細書に記載の工程、あるいは、細胞を膜状の担体に適用するのに適した任意の手法を採用することが可能である。限定されるわけではないが、本発明の方法において、細胞のポリマー多孔質膜への適用は、例えば、以下のような態様を含む。
【0080】
(A)細胞を前記ポリマー多孔質膜の表面に播種する工程を含む、態様;
(B)前記ポリマー多孔質膜の乾燥した表面に細胞縣濁液を載せ、
放置するか、あるいは前記ポリマー多孔質膜を移動して液の流出を促進するか、あるいは表面の一部を刺激して、細胞縣濁液を前記膜に吸い込ませ、そして、
細胞縣濁液中の細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる、
工程を含む、態様;並びに、
(C)前記ポリマー多孔質膜の片面又は両面を、細胞培養液又は滅菌された液体で湿潤し、
前記湿潤したポリマー多孔質膜に細胞縣濁液を装填し、そして、
細胞縣濁液中の細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる、
工程を含む、態様。
【0081】
(A)の態様は、ポリマー多孔質膜の表面に細胞、細胞塊を直接播種することを含む。あるいは、ポリマー多孔質膜を細胞縣濁液中に入れて、膜の表面から細胞培養液を浸潤させる態様も含む。
【0082】
ポリマー多孔質膜の表面に播種された細胞は、ポリマー多孔質膜に接着し、多孔の内部に入り込んでいく。好ましくは、特に外部から物理的又は化学的な力を加えなくても、細胞はポリマー多孔質膜に接着する。ポリマー多孔質膜の表面に播種された細胞は、膜の表面及び/又は内部において安定して生育・増殖することが可能である。細胞は生育・増殖する膜の位置に応じて、種々の異なる形態をとりうる。
【0083】
(B)の態様において、ポリマー多孔質膜の乾燥した表面に細胞縣濁液を載せる。ポリマー多孔質膜を放置するか、あるいは前記ポリマー多孔質膜を移動して液の流出を促進するか、あるいは表面の一部を刺激して、細胞縣濁液を前記膜に吸い込ませることにより、細胞縣濁液が膜中に浸透する。理論に縛られるわけではないが、これはポリマー多孔質膜の各表面形状等に由来する性質によるものであると考えられる。本態様により、膜の細胞縣濁液が装填された箇所に細胞が吸い込まれて播種される。
【0084】
あるいは、(C)の態様のように、前記ポリマー多孔質膜の片面又は両面の部分又は全体を、細胞培養液又は滅菌された液体で湿潤してから、湿潤したポリマー多孔質膜に細胞縣濁液を装填してもよい。この場合、細胞懸濁液の通過速度は大きく向上する。
【0085】
例えば、膜の飛散防止を主目的として膜極一部を湿潤させる方法(以後、これを「一点ウェット法」と記載する)を用いることができる。一点ウェット法は、実質上は膜を湿潤させないドライ法((B)の態様)にほぼ近いものである。ただし、湿潤させた小部分については、細胞液の膜透過が迅速になると考えられる。また、ポリマー多孔質膜の片面又は両面の全体を十分に湿潤させたもの(以後、これを「ウェット膜」と記載する)に細胞懸濁液を装填する方法も用いることができる(以後、これを「ウェット膜法」と記載する)。この場合、ポリマー多孔質膜の全体において、細胞懸濁液の通過速度が大きく向上する。
【0086】
(B)及び(C)の態様において、細胞縣濁液中の細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる。これにより細胞縣濁液中の細胞の濃度を濃縮する、細胞以外の不要な成分を水分とともに流出させる、などの処理も可能になる。
【0087】
(A)の態様を「自然播種」(B)及び(C)の態様を「吸込み播種」と呼称する場合がある。
【0088】
限定されるわけではないが、好ましくは、ポリマー多孔質膜には生細胞が選択的に留まる。よって、本発明の方法の好ましい実施形態において、生細胞が前記ポリマー多孔質膜内に留まり、死細胞は優先的に水分とともに流出する。
【0089】
態様(C)において用いる滅菌された液体は特に限定されないが、滅菌された緩衝液若しくは滅菌水である。緩衝液は、例えば、(+)及び(-)Dulbecco’s PBS 、(+)及び(-)Hank's Balanced Salt Solution等である。緩衝液の例を以下の表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
さらに、本発明の方法において、細胞のポリマー多孔質膜への適用は、浮遊状態にある接着性細胞をポリマー多孔質膜と縣濁的に共存させることにより細胞を膜に付着させる態様(絡め取り)も含む。例えば、本発明の方法において、細胞をポリマー多孔質膜に適用するために、細胞培養容器中に、細胞培養培地、細胞及び1又はそれ以上の前記ポリマー多孔質膜を入れてもよい。細胞培養培地が液体の場合、ポリマー多孔質膜は細胞培養培地中に浮遊した状態である。ポリマー多孔質膜の性質から、細胞はポリマー多孔質膜に接着しうる。よって、生来浮遊培養に適さない細胞であっても、ポリマー多孔質膜は細胞培養培地中に浮遊した状態で培養することが可能である。好ましくは、細胞は、ポリマー多孔質膜に接着する。「自発的に接着する」とは、特に外部から物理的又は化学的な力を加えなくても、細胞がポリマー多孔質膜の表面又は内部に留まることを意味する。
【0092】
上述した細胞のポリマー多孔質膜への適用は、2種類又はそれより多くの方法を組み合わせて用いてもよい。例えば、態様(A)〜(C)のうち、2つ以上の方法を組み合わせてポリマー多孔質膜に細胞を適用してもよい。細胞を担持させたポリマー多孔質膜を、上述の細胞培養装置における、平面流路へ適用して、培養することが可能である。
【0093】
その他、予め、ポリマー多孔質膜が設置された平面流路に、懸濁された細胞が含まれる培地を、細胞供給手段より滴下して播種してもよい。
【0094】
本明細書において、「懸濁された細胞」とは、例えば、トリプシン等のタンパク質分解酵素によって、接着細胞を強制的に浮遊させて培地中に懸濁して得られた細胞や、公知の馴化工程によって、培地中に浮遊培養可能となった接着細胞などを含んでいる。
【0095】
本発明に利用し得る細胞の種類は、例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌及び細菌からなる群から選択される。動物細胞は、脊椎動物門に属する動物由来の細胞と無脊椎動物(脊椎動物門に属する動物以外の動物)由来の細胞とに大別される。本明細書における、動物細胞の由来は特に限定されない。好ましくは、脊椎動物門に属する動物由来の細胞を意味する。脊椎動物門は、無顎上綱と顎口上綱を含み、顎口上綱は、哺乳綱、鳥綱、両生綱、爬虫綱などを含む。好ましくは、一般に、哺乳動物と言われる哺乳綱に属する動物由来の細胞である。哺乳動物は、特に限定されないが、好ましくは、マウス、ラット、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギなどを含む。
【0096】
本発明に利用しうる動物細胞の種類は、限定されるわけではないが、好ましくは、多能性幹細胞、組織幹細胞、体細胞、及び生殖細胞からなる群から選択される。
【0097】
本明細書において「多能性幹細胞」とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞の総称することを意図する。限定されるわけではないが、多能性幹細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、生殖幹細胞(GS細胞)等を含む。好ましくは、ES細胞又はiPS細胞である。iPS細胞は倫理的な問題もない等の理由により特に好ましい。多能性幹細胞としては公知の任意のものを使用可能であるが、例えば、国際公開第2009/123349号(PCT/JP2009/057041)に記載の多能性幹細胞を使用可能である。
【0098】
「組織幹細胞」とは、分化可能な細胞系列が特定の組織に限定されているが、多様な細胞種へ分化可能な能力(分化多能性)を有する幹細胞を意味する。例えば骨髄中の造血幹細胞は血球のもととなり、神経幹細胞は神経細胞へと分化する。このほかにも肝臓をつくる肝幹細胞、皮膚組織になる皮膚幹細胞などさまざまな種類がある。好ましくは、組織幹細胞は、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞、又は造血幹細胞から選択される。
【0099】
「体細胞」とは、多細胞生物を構成する細胞のうち生殖細胞以外の細胞のことを言う。有性生殖においては次世代へは受け継がれない。好ましくは、体細胞は、肝細胞、膵細胞、筋細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、線維芽細胞、膵細胞、腎細胞、肺細胞、又は、リンパ球、赤血球、白血球、単球、マクロファージ若しくは巨核球の血球細胞から選択される。
【0100】
「生殖細胞」は、生殖において遺伝情報を次世代へ伝える役割を持つ細胞を意味する。例えば、有性生殖のための配偶子、即ち卵子、卵細胞、精子、精細胞、無性生殖のための胞子などを含む。
【0101】
細胞は、肉腫細胞、株化細胞及び形質転換細胞からなる群から選択してもよい。「肉腫」とは、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血液等の非上皮性細胞由来の結合組織細胞に発生する癌で、軟部肉腫、悪性骨腫瘍などを含む。肉腫細胞は、肉腫に由来する細胞である。「株化細胞」とは、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質をもつに至り、半永久的な継代培養が可能になった培養細胞を意味する。PC12細胞(ラット副腎髄質由来)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来)、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来)、HL−60細胞(ヒト白血球細胞由来)、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓上皮細胞由来)、MDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)、HepG2細胞(ヒト肝癌由来細胞株)、BHK細胞(新生児ハムスター腎臓細胞)、NIH3T3細胞(マウス胎児線維芽細胞由来)などヒトを含む様々な生物種の様々な組織に由来する細胞株が存在する。「形質転換細胞」は、細胞外部から核酸(DNA等)を導入し、遺伝的性質を変化させた細胞を意味する。
【0102】
本明細書において、「接着細胞」とは、一般に、増殖のために適切な表面に自身を接着させる必要がある細胞であって、付着細胞又は足場依存性細胞ともいわれる。本発明のいくつかの実施形態では、使用する細胞は接着細胞である。本発明に用いられる細胞は、接着細胞であって、より好ましくは、培養液中に懸濁した状態でも培養可能な細胞である。懸濁培養可能な接着細胞とは、公知の方法によって、接着細胞を懸濁培養に適した状態へ馴化させることによって得ることが可能であり、例えば、CHO細胞、HEK293細胞、Vero細胞、NIH3T3細胞などが挙げられる。ここに挙げられないものであっても、本発明に用いられる細胞は、接着細胞であって、馴化によって懸濁培養可能な細胞であれば、特に限定されない。
【0103】
ポリマー多孔質膜を用いた細胞培養のモデル図を図1、2、及び3(A)に示す。これらの図は理解を助けるための図であり、各要素は実寸ではない。本発明の細胞の培養方法では、ポリマー多孔質膜に細胞を適用し、培養することにより、ポリマー多孔質膜の有する内部の多面的な連結多孔部分や表面に、大量の細胞が生育するため、大量の細胞を簡便に培養することが可能となる。また、本発明の細胞の培養方法では、細胞培養に用いる培地の量を従来の方法よりも大幅に減らしつつ、大量の細胞を培養することが可能となる。例えば、ポリマー多孔質膜の一部分又は全体が、細胞培養培地の液相と接触していない状態であっても、大量の細胞を長期にわたって培養することができる。また、細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和に対して、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積を著しく減らすことも可能となる。
【0104】
本明細書において、細胞を含まないポリマー多孔質膜がその内部間隙の体積も含めて空間中に占める体積を「見かけ上ポリマー多孔質膜体積」と呼称する(図6参照)。そして、ポリマー多孔質膜に細胞を適用し、ポリマー多孔質膜の表面及び内部に細胞が担持された状態において、ポリマー多孔質膜、細胞、及びポリマー多孔質膜内部に浸潤した培地が全体として空間中に占める体積を「細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積」と呼称する(図6参照)。膜厚25μmのポリマー多孔質膜の場合、細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積は、見かけ上ポリマー多孔質膜体積より、最大で50%程度大きな値となる。本発明の方法では、1つの細胞培養容器中に複数のポリマー多孔質膜を収容して培養することができるが、その場合、細胞を担持した複数のポリマー多孔質膜のそれぞれについての細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和を、単に「細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和」と記載することがある。
【0105】
本発明の方法を用いることにより、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和の10000倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することが可能となる。また、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和の1000倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することができる。さらに、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和の100倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することができる。そして、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和の10倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することができる。
【0106】
つまり、本発明によれば、細胞培養する空間(容器)を従来の二次元培養を行う細胞培養装置に比べて極限まで小型化可能となる。また、培養する細胞の数を増やしたい場合は、積層するポリマー多孔質膜の枚数を増やす等の簡便な操作により、柔軟に細胞培養する体積を増やすことが可能となる。本発明に用いられるポリマー多孔質膜を備えた細胞培養装置であれば、細胞を培養する空間(容器)と細胞培養培地を貯蔵する空間(容器)とを分離することが可能となり、培養する細胞数に応じて、必要となる量の細胞培養培地を準備することが可能となる。細胞培養培地を貯蔵する空間(容器)は、目的に応じて大型化又は小型化してもよく、あるいは取り替え可能な容器であってもよく、特に限定されない。
【0107】
本発明の細胞の培養方法において、例えば、ポリマー多孔質膜を用いた培養後に細胞培養容器中に含まれる細胞の数が、細胞がすべて細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地に均一に分散しているものとして、培地1ミリリットルあたり1.0×105個以上、1.0×106個以上、2.0×106個以上、5.0×106個以上、1.0×107個以上、2.0×107個以上、5.0×107個以上、1.0×108個以上、2.0×108個以上、5.0×108個以上、1.0×109個以上、2.0×109個以上、または5.0×109個以上となるまで培養することをいう。
【0108】
なお、培養中または培養後の細胞数を計測する方法としては、種々の公知の方法を用いることができる。例えば、ポリマー多孔質膜を用いた培養後に細胞培養容器中に含まれる細胞の数を、細胞がすべて細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地に均一に分散しているものとして計測する方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。例えば、CCK8を用いた細胞数計測法を好適に用いることができる。具体的には、Cell Countinig Kit8;同仁化学研究所製溶液試薬(以下、「CCK8」と記載する。)を用いて、ポリマー多孔質膜を用いない通常の培養における細胞数を計測し、吸光度と実際の細胞数との相関係数を求める。その後、細胞を適用し、培養したポリマー多孔質膜を、CCK8を含む培地に移し、1〜3時間インキュベータ内で保存し、上清を抜き出して480nmの波長にて吸光度を測定して、先に求めた相関係数から細胞数を計算する。
【0109】
また、別の観点からは、細胞の大量培養とは、例えば、ポリマー多孔質膜を用いた培養後にポリマー多孔質膜1平方センチメートルあたりに含まれる細胞数が1.0×105個以上、2.0×105個以上、1.0×106個以上、2.0×106個以上、5.0×106個以上、1.0×107個以上、2.0×107個以上、5.0×107個以上、1.0×108個以上、2.0×108個以上、または5.0×108個以上となるまで培養することをいう。ポリマー多孔質膜1平方センチメートルあたりに含まれる細胞数は、セルカウンター等の公知の方法を用いて適宜計測することが可能である。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明する。なお本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0111】
以下の実施例で使用されたポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸成分である3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とジアミン成分である4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とから得られるポリアミック酸溶液と、着色前駆体であるポリアクリルアミドとを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより、調製された。得られたポリイミド多孔質膜は、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、当該表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリイミド多孔質膜であり、表面層Aに存在する孔の平均孔径は6μmであり、表面層Bに存在する孔の平均孔径は46μmであり、膜厚が25μmであり、空孔率が73%であった。
【0112】
(実施例1)
サイフォン式リアクターによるポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養法(その1)
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標)CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、3.9×10になるまで培養を継続した。10cm径シャーレ1枚に上記浮遊培養液を夫々12ml注加した後、ナイロンメッシュ(30#、目開き547μm)にて外套(ケーシング)を形成し滅菌的にポリイミド多孔質膜を一定量(1モジュールあたり20cm)加えて封じたモジュール12個を同シャーレに加える。モジュールを細胞懸濁液で湿潤した後、CO2インキュベータ内で終夜放置した。
【0113】
翌日、モジュールを取り出し、図1に示すサイフォン式リアクターのステージ部分にモジュール10個を設置し、液溜めには、350mlの培地を(FBS2%を含むIMDM)貯留し同培地をチューブポンプ経由で毎分60mlの速度で循環させた。2日後に培養を終了した。細胞密度5.5×10細胞/cmで総細胞数1.2×10個の細胞が観察された。
【0114】
(実施例2)
サイフォン式リアクターによるポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養法(その2)
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標)CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、9.9×10になるまで培養を継続した。振盪培養向け酸素透過バッグにモジュール10個を入れ、COインキュベータ内で終夜振盪培養を行った。翌日、振盪バッグよりモジュールを取り出し、実施例1と同様の条件で、サイフォン式リアクターによる細胞培養を行った。液溜めには、350mlの培地(コージンバイオ製KBM270)を貯留し同培地をチューブポンプ経由で毎分60mlの速度で循環させた。4日後に培養を終了した所、細胞密度1.0×10細胞/cmで総細胞数2.1×10個の細胞が観察された。
【0115】
(実施例3)
メタルモジュール及びガラス製耐熱サイフォンリアクター
ポリイミド多孔質膜の有する耐熱性を最大限に活用し、簡単な全体乾熱滅菌で滅菌作業を完了すべく、ステンレス鋼メッシュ製のケーシング、中敷、及びポリイミド多孔質膜で構成されるメタルモジュールを作製した(図3(B)の一態様)。具体的には、1cm×1cmのポリイミド多孔質膜及びポリイミド多孔質膜と同面積のステンレス鋼メッシュ(「中敷」という。図示しない)を積層したもの(ポリイミド多孔質3枚、中敷1枚、ポリイミド多孔質4枚、中敷1枚、ポリイミド多孔質3枚、の順番で積層)を、ステンレスメッシュ製のケーシングで封止して、メタルモジュールを作製した。作業は、開放空間下で非滅菌的に実施した。
【0116】
このメタルモジュールを運用するためのガラス製耐熱サイフォンリアクターは、ソックスレー抽出器をベースにデザインし、耐熱性を持たせるため、ガラスと金属のみで作製した(図3(A))。メタルモジュールを入れたガラス製耐熱サイフォンリアクターを示す。このリアクター、内部にステンレスモジュール30個を非滅菌的に積層させて装置を組み立てた。その後、リアクター部分をアルミホイルで包み、摂氏190度にて80分間乾熱滅菌し、放冷した。
【0117】
次に、耐熱型サンフォンリアクターによるヒト皮膚線維芽細胞の干満培養を実施した。図3(A)に示す通り、リアクター全体を滅菌的に組み立て、COインキュベータ内に装置全体を設置した。シャーレで培養していたヒト皮膚線維芽細胞をトリプシン処理にて剥離させ、細胞懸濁液70mlを準備した。セルカウントすると、1mlあたりの生細胞数は1.4×10であった。懸濁液70mlを、メタルモジュールを設置したソックスレー管内部に注加し、30分間静置させた。静置後、内部液を滅菌的に排出し、排出された液を再度サイフォンリアクター内部に注加する。この作業を3回繰り返し、その後、液部をサンプリングして細胞数を測定したところ、細胞数は8.0×10であった。94%の細胞がこの静置条件での自然接触で吸着したといえる。次に、ポンプを用いて連続的に培地(コージンバイオ株式会社製_KBM Fibro Assistを使用)を供給する事でサイフォン機能が発現し、メタルモジュール内部に安定的かつ循環的に培地と空気(酸素)が供給される。3日に一回培地交換を実施しながら、培養を継続した。安定的かつ大量のフィブロネクチンが産生された事を、タカラバイオ製ヒトフィブロネクチン測定用Elisa−kitにて測定し、高効率な物質産生が簡便かつ継続的に達成されている事を確認した(図5)。
【0118】
図から示される通り、単位体積あたりの一日の物質産生量が優れている上に、通常のシャーレ培養とは異なり、スケールアップが非常に容易である為、コンパクトな装置で生産性を向上し得る。ヒト初代細胞を物質産生の基盤として、連続産生系を作製し、酸素供給等の手段を有する複雑な装置を使用する事無く、希少物質や有用物質を製造する方法が示された。
【符号の説明】
【0119】
1 サイフォン式細胞培養装置
11 液溜め部
12 逆U字管
13 培地回収手段
14 培地供給手段
15 培地排出手段
16 液面
2 細胞培養部支持体
21a、21b、21c、21d、21e、21f 細胞培養部
22 把手
23 支柱
3 鹿威し式細胞培養装置
31 函状体
31a 液溜め部
31b 底部
31c 仕切り板
32 ポリマー多孔質膜
33 回転軸
34 軸受
35 培地回収手段
36 培地供給手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6