(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電子部品では、実装時の方向を特定し実装ミスや製造ミスを避ける等の目的のため、部品の表面にマークを設けることがある。電子部品のマークとしては、金属材からなるマーク材料が広く用いられている(特許文献1および2)。
【0003】
しかし、このような金属材からなるマークは、電子部品に設けられた端子電極との短絡を考慮する必要があり、マーク形状や位置が制限される。特に近年、製品の小型化、高特性化の要請が強く、このような問題がより顕著となってきている。すなわち、マークが金属材からなる場合、製品が小型化されるほど、電極とマーク間の距離が狭まるため、この間が接触しやすく、ショートしやすくなる。
【0004】
このような問題を解決するため、金属以外の材料によりマークを形成する技術が提案されている(特許文献3)。特許文献3には、
ホウケイ酸ガラスと、
CrおよびMnを含み、かつFe、Ni、CuおよびCoからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む黒色酸化物と、
Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2、Mg
2SiO
4およびストロンチウム長石からなる群より選れる1種以上と、を含有する黒色マーク組成物からなるマークを有する電子部品であって、
前記黒色マーク組成物におけるホウケイ酸ガラスの含有量は、45〜85質量%であり、
前記黒色マーク組成物における Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2、Mg
2SiO
4およびストロンチウム長石からなる群より選れる1種以上の含有量は、5〜20質量%であり、
前記電子部品は、電子部品素体がBa−Nd−Ti系セラミック組成物を主成分とする電子部品が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献3に記載の黒色マーク組成物は、電子部品素体がBa−Nd−Ti系セラミック組成物を主成分とする電子部品へのマーキングに特に好適に使用され、マークと素体との間の優れた密着性、コントラストを達成する。しかし、電子部品素体の組成によっては、マークと素体との密着性や、マークのコントラストが損なわれることが本発明者らにより見出された。
【0007】
したがって、本発明は、電子部品素体の組成に関わらず、マークと素体との密着性や、マークのコントラストに優れ、より汎用性の高い黒色マーク組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成する本発明は以下の要旨を含む。
(1)ホウケイ酸ガラスと、黒色酸化物とを含有する黒色マーク組成物であって、
前記ホウケイ酸ガラスの結晶化温度が910℃未満であり、
黒色マーク組成物に含まれる無機固形分100質量%(酸化物換算)に対し、Zn含量がZnO換算で0.05質量%以下である、黒色マーク組成物。
(2)前記ホウケイ酸ガラスの結晶化温度が850℃以上である(1)に記載の黒色マーク組成物。
(3)前記ホウケイ酸ガラスの軟化点が、結晶化温度以下であり、700℃〜850℃の範囲にある、(1)または(2)に記載の黒色マーク組成物。
(4)前記ホウケイ酸ガラスの含有量が50〜90質量%である(1)〜(3)の何れかに記載の黒色マーク組成物。
(5)前記黒色酸化物の含有量が5〜30質量%である(1)〜(4)の何れかに記載の黒色マーク組成物。
(6)ZrO
2、Al
2O
3、TiO
2およびMg
2SiO
4からなる群より選れる1種以上の添加酸化物を含有する(1)〜(5)の何れかに記載の黒色マーク組成物。
(7)前記添加酸化物がZrO
2を含む(6)に記載の黒色マーク組成物。
(8)前記添加酸化物の含有量が2.5〜30質量%である(6)または(7)に記載の黒色マーク組成物。
(9)前記黒色酸化物が、FeおよびMnを含み、かつCr、Ni、CuおよびCoからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む黒色酸化物である(1)〜(8)の何れかに記載の黒色マーク組成物。
(10)前記(1)〜(9)の何れかに記載の黒色マーク組成物からなるマークを素体表面に有する電子部品。
(11)前記素体が、誘電体層と内部電極層とが積層された構造であり、
内部電極層はAgを含み、
誘電体層は、Agと同時焼成が可能であり、910℃以下で焼結可能な誘電体磁器組成物からなる(10)に記載の電子部品。
(12)前記誘電体磁器組成物は、Mg
2SiO
4、(Ca
xBa
ySr
1−x―y)TiO
3(x、yは1.0〜0.0)およびBaO−Nd
2O
3−TiO
2系セラミックからなる群から選ばれる1種以上を含有する(11)に記載の電子部品。
(13)前記(10)〜(12)の何れかに記載の電子部品を有する通信機器。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0011】
(電子部品11)
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電子部品としての高周波フィルタ11は、素体1を主要部とし、素体1に形成された端子電極6〜9を有している。端子電極6〜9は素体1の内部電極と電気的に接続しており、
図1のように端部に形成する以外にも素体1の裏面に形成することも可能である。そして、素体1の表面には、方向性を示すためのマーク10が形成されている。
【0012】
(マーク10)
マーク10の形状に特に制限はなく、長方形、三角形、球形等適宜選択できる。マークの面積も特に制限されず、用途に応じて適当な大きさとすればよい。また、その厚みにも特に限定はない。マーク10は、本発明に係る黒色マーク組成物を焼成して構成される。
【0013】
(黒色マーク組成物)
本実施形態の黒色マーク組成物は、ホウケイ酸ガラスと、黒色酸化物とを含有する。
【0014】
(ホウケイ酸ガラス)
ホウケイ酸ガラスの結晶化温度は、910℃未満であり、好ましくは850℃以上910℃未満の範囲にある。黒色マーク組成物に含まれるホウケイ酸ガラスの結晶化温度が上記範囲にあると、誘電体磁器組成物の焼結とほぼ同時にホウケイ酸ガラスが結晶化する。この結果、マークの強靭性が高くなり、マークの割れなどが発生し難くなる。
【0015】
ホウケイ酸ガラスの軟化点は、結晶化温度以下であり、好ましくは700℃〜850℃、さらに好ましくは800℃〜830℃の範囲にある。軟化点が上記範囲にあるホウケイ酸ガラスをマーク組成物に用いることで、素体焼成時の素体の収縮に、マーク形状が追従するため、素体とマークとの密着性が高くなり、マークの脱落や割れを防止できる。
【0016】
本実施形態において、ホウケイ酸ガラスは、ホウ素およびケイ素を含む酸化物であり、さらにアルミニウム、バリウム、カルシウム、マグネシウムなどを含有していてもよい。
【0017】
ホウケイ酸ガラスにおけるホウ素の含有量は、B
2O
3換算で、好ましくは0.5〜50質量%の範囲にある。ホウケイ酸ガラスにおけるケイ素の含有量は、SiO
2換算で、好ましくは10〜80質量%の範囲にある。
【0018】
ホウケイ酸ガラスが、アルミニウム、バリウム、カルシウム、マグネシウムを含む場合、これらの含有量の合計は酸化物換算で、好ましくは10〜80質量%の範囲にある。
【0019】
ホウケイ酸ガラスの結晶化温度および軟化点は、ガラス組成により制御できるが、市販品の中から、適切な結晶化温度および軟化点を有するガラスを入手することができる。
【0020】
本実施形態に係る黒色マーク組成物において、ホウケイ酸ガラスの含有量は、好ましくは50〜90質量%、さらに好ましくは60〜80質量%である。ホウケイ酸ガラスの含有量を上記範囲とすることにより、固着強度および素体材料とのコントラストを十分に確保できる非金属マークを形成し得る。
【0021】
(黒色酸化物)
本実施形態の黒色マーク組成物に使用する黒色酸化物は特に限定はされず、マーク材として用いられてきた種々の黒色酸化物が適宜に用いられる。黒色酸化物の具体例は、たとえば特開平6−340447号公報、特開平6−144871号公報、特開2000−264639号公報、特開2007−217544号公報、特開2010−77197号公報等に詳しく記載されている。好ましい黒色酸化物は、FeおよびMnを含み、かつCr、Ni、CuおよびCoからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む。このような黒色酸化物としては、例えば、Fe、Mn、CrおよびNiを含む黒色酸化物、Fe、Mn、CrおよびCoを含む黒色酸化物、Fe、Mn、CrおよびCuを含む黒色酸化物、Fe、MnおよびCuを含む黒色酸化物等が好ましい。中でも、素体とのコントラストが良好なマークを形成でき、固着強度に優れる点で、Fe、Mn、CrおよびNiを含む黒色酸化物がより好ましい。また、黒色酸化物は、上記元素に加えLaなどの希土類元素から選ばれる1種以上をさらに含んでいても良い。
【0022】
黒色マーク組成物における黒色酸化物の含有量は、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜20質量%である。黒色酸化物の含有量を上記範囲とすることにより、固着強度および素体とのコントラストを十分に確保できる非金属マークを形成し得る。
【0023】
(その他の添加酸化物)
また、本実施形態に係る黒色マーク組成物は、好ましくは、さらに、ZrO
2、Al
2O
3、TiO
2およびMg
2SiO
4からなる群より選れる1種以上の酸化物を含有する。黒色マーク組成物における上記酸化物の含有量は、好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは2.5〜30質量%である。上記酸化物の含有量を上記範囲とすることにより、素体との固着強度および素体材料とのコントラストを十分に確保できる非金属マークを形成し得る。また、このような酸化物は、素体材料との収縮率を合わせるに当たっても好適である。上記酸化物の中でも、本実施形態の黒色マーク組成物においては、ZrO
2が好ましく用いられる。
【0024】
本実施形態に係る黒色マーク組成物は、必要に応じて、さらに結晶化温度が910℃以上のホウケイ酸ガラスを含んでいてもよく、またホウケイ酸ガラス以外のガラスを含有することができる。
【0025】
黒色マーク組成物には亜鉛が含まれないことが好ましい。具体的には、黒色マーク組成物に含まれる無機固形分(酸化物換算)100質量%に対し、Zn含量は、ZnO換算で0.05質量%以下、好ましくは0.03質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下、特に好ましくは0質量%である。黒色マーク組成物に多量の亜鉛が含まれると、素体の組成にもよるが、焼結時にZnが素体側に移動し易い。Znが素体側に移動する際には、黒色酸化物に含まれるFe、Mnなどの金属成分を同伴することが多い。この結果、マーク中の着色成分が減少し、マークのコントラストが低下する。これに対し、本実施形態では、黒色マーク組成物に含まれるホウケイ酸ガラスには、実質的にZnは含まれないため、マークから素体へのZnの移行は起こらず、したがって黒色酸化物に含まれる金属成分が素体側に移行することもない。この結果、本実施形態の黒色マーク組成物によれば、高いコントラストのマークが得られる。また、本実施形態の黒色マーク組成物は、Znを含む素体およびZnを含まない素体の両者に対して好適に用いることができる。
【0026】
本実施形態に係る黒色マーク組成物は、上記構成を満足することにより、素体との固着強度および素体材料とのコントラストを十分に確保できる非金属マークを形成することができる。
【0027】
また、本実施形態に係る黒色マーク組成物によれば、非金属マークを形成できるため、マーク付近に電極パターンが配置された場合であっても、浮遊容量が発生せず、また端子とマークが接触した場合であっても、短絡が生じない。そのため、このような黒色マーク組成物によれば、マークの形状や形成する位置、さらには端子電極の形状なども自由に設定することができ、電子部品の小型化が可能となる。
【0028】
(素体1)
素体1は特に制限はないが、複数の誘電体層と、内部電極層とが積層された構造を有しており、同時焼成している。なお、本実施形態において、焼成とは、焼結を目的とした加熱処理を意味し、焼成温度とは、加熱処理の際に誘電体磁器組成物が曝される雰囲気の温度である。
【0029】
誘電体層は特に限定されないが、内部電極と同時焼成が可能な誘電体磁器組成物からなる。好ましくは、誘電体磁器組成物は、フォレステライト(Mg
2SiO
4)、(Ca
xBa
ySr
1−x―y)TiO
3(x、yは1.0〜0.0)、ガラスセラミックであってもよい。さらに、素体1は、エンスタタイト(Mg
2Si
2O
6)、アルミナ(Al
2O
3)あるいはシリカ(SiO
2)を主成分とするものであってもよい。
【0030】
また、誘電体層を形成する誘電体磁器組成物は、主成分としてBaO−Nd
2O
3−TiO
2系セラミックを含有する組成物であってもよい。BaO−Nd
2O
3−TiO
2系セラミックは、εが高く、低温焼成が可能であるため、内部電極としてAg等を用いる場合であっても好適である。これらの主成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
これらの誘電体磁器組成物の中でも、内部電極として好ましく用いられるAgと同時焼成が可能であり、910℃以下で焼結可能な材料が好ましく用いられる。本実施形態において特に好ましい誘電体磁器組成物は、フォレステライト(Mg
2SiO
4)、(Ca
xBa
ySr
1−x―y)TiO
3(x、yは1.0〜0.0)およびBaO−Nd
2O
3−TiO
2系セラミックからなる群から選ばれる1種以上を主成分として含有する。
【0032】
誘電体磁器組成物は、主成分に加え、副成分としてSiO
2、Li
2O、Al
2O
3、CaO、BaO、B
2O
3およびZnOから選ばれる1種以上を含んでいても良い。これらはそれぞれの単独酸化物として添加してもよく、複合酸化物あるいはガラスとして添加してもよい。これらの中でも、SiO
2およびLi
2Oを含み、Al
2O
3、CaO、BaO、B
2O
3およびZnOから選ばれる1種以上を含むガラスが好ましく用いられる。
【0033】
誘電体磁器組成物において、前記副成分は、主成分100質量部に対して、酸化物換算で好ましくは2〜20質量部、さらに好ましくは4〜15質量部の割合で用いられる。
【0034】
なお、副成分の原料として、後述する仮焼等の熱処理で焼成することによって酸化物となる化合物を用いることもできる。焼成により上記酸化物となる化合物としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、硫化物、有機金属化合物等が例示される。
【0035】
誘電体磁器組成物は、上記主成分および副成分を秤量、混合し、焼成することで得られる。混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができ、例えば、ボールミルなどの混合分散機で純水、エタノール等の溶媒を用いた混合方式により行うことができる。混合時間は、4時間以上24時間以下程度とすればよい。得られた誘電体磁器組成物は、ペースト化した後に、塗布、乾燥によりグリーンシートとして、素体の製造に使用する。
【0036】
(内部電極)
内部電極層は特に限定されないが、導電材としてAgを含み、たとえばAg、Ag合金(たとえばAg−Pd合金、微量のZrを含むAg)などを導電体とすることが好ましい。
【0037】
(端子電極6〜9)
端子電極に含有される導電材は特に限定されないが、本実施形態ではAg、Cuおよびこれらの合金を用いることができる。
【0038】
(電子部品の製造方法)
本実施形態に係る電子部品11の製造方法の一例を説明する。
【0039】
マーク(黒色マーク組成物)の形成方法
マークの形成方法は、マークを均一に形成できる方法であれば特に限定されず、例えば黒色マーク組成物のペーストを用いたスクリーン印刷法或いはグラビア印刷法、オフセット印刷などの厚膜形成方法が挙げられる。
【0040】
マーキング用ペーストは、ホウケイ酸ガラスと、黒色酸化物と、必要に応じて添加される各種酸化物と、溶剤、有機ビヒクルなどを含有する。マーキング用ペーストは、これらの成分を、ペースト化することにより形成する。
【0041】
なお、マーキング用ペーストを製造する際に用いる材料としては、上記した成分以外にも、焼成後に上記した黒色マーク組成物の成分となる各種酸化物、有機金属化合物、またはレジネート等を用いることもできる。
【0042】
黒色マーク組成物原料は、球状、リン片状等、その形状に特に制限はなく、また、これらの形状のものが混合したものであってもよい。また、各種材料粉末の平均粒子径は、好ましくは0.8〜1.2μm程度のものを用いればよい。
【0043】
マーキング用ペーストに含まれるバインダ樹脂としては、エチルセルロース、ポリビニルブチラールなどが挙げられるが、好ましくは、エチルセルロースを用いる。バインダ樹脂は、マーキング用ペースト中に、黒色マーク組成物原料(ホウケイ酸ガラスと、黒色酸化物と、必要に応じて添加される酸化物)100質量部に対して、好ましくは3〜15質量部含まれる。
【0044】
マーキング用ペーストの有機溶剤として、好ましくは、グリーンシート用ペーストと非相溶であるものを用いる。マーキング用ペーストの溶剤としては、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオールなどが挙げられるが、好ましくは、ジヒドロターピネオールを用いる。マーキング用ペーストの溶剤含有量は、マーキング用ペースト全体に対して、好ましくは20〜60質量%程度とする。
【0045】
マーキング用ペーストには、必要に応じて分散剤、可塑剤および粘着剤、その他添加物粉末等が含まれていてもよい。その結果、均一なマークが形成でき、固着強度が改善される。
【0046】
素体1の形成
次に、素体1の代表的な製法について説明する。まず、グリーンシートに内部電極用ペーストを印刷し、内部電極ペースト層が形成されたグリーンシートを準備する。内部電極ペースト層は、焼成後に内部電極層となる部分である。
【0047】
さらに、マーキング用ペーストをグリーンシートに印刷し、未焼成マークが形成されたグリーンシートを準備する。未焼成マークは、焼成後にマーク10となる部分である。
【0048】
未焼成マークを形成したグリーンシートと、内部電極ペースト層が形成されたグリーンシートを積層し、その積層体を所定形状に切断することにより、グリーンチップを得る。このとき、マークが形成された面が表面となるように各グリーンシートを積層する。あるいは、未焼成マークを形成せずにグリーンシートを積層し、積層体の所定部分に未焼成マークを形成することもできる。なお、マークの耐久性を高めるため、未焼成のマークが形成された面に、薄いグリーンシートをさらに1層積層してもよい。
【0049】
積層体を所望形状のグリーンチップに切断する。次に、脱バインダ処理、焼成処理が行われる。焼成温度は、910℃以下であり、ホウケイ酸ガラスの結晶化温度以上であれば良い。焼成時間は、素体が焼結し、黒色マーク組成物に含まれるホウケイ酸ガラスが結晶化する程度の時間であれば良く、一般的には0.5〜10時間程度であれば良い。その他の諸条件は、一般的な条件である。
【0050】
上記のように脱バインダ処理、焼成を経て、素体1が得られる。素体1に対して、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、端子電極6〜9を形成する。そして、必要に応じて、端子電極6〜9の表面に、めっき等により被覆層を形成する。このようにして高周波フィルタ11が製造される。高周波フィルタ11は、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0051】
特に、本発明に係る電子部品は、PC、スマートフォン、携帯通信端末等の通信機器に好適に用いることができる。
【0052】
また、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として高周波フィルタを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層型フィルタに限定されず、積層インダクタ等の積層型電子部品に用いることができる。また、本発明の黒色マーク組成物を、たとえば、電極保護層等に適用することも可能である。また、マークの用途としては、電子部品の実装時の方向性を認識するのみならず、製造時のアライメントマークや製品の識別等の用途にも用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において、コントラスト試験、ピーリング試験およびクラック等の評価は次のように行った。
【0054】
コントラスト試験(視認性)
カメラによる画像認識により方向識別マークを認識できたか否かを検証した。100個の評価用試料を評価し、方向識別マークを画像認識できなかった試料の割合を不良品率とした。不良品率0%をA、0%超10%以下をB、10%超20%以下をC、20%超30%以下をD、30%超をEとした。
【0055】
ピーリング試験(接着性)
評価用試料(100個)のマーク部分に粘着テープを張り付け、引きはがした際、マーク部分に剥がれが発生した試料の割合を不良品率とした。不良品率0%をA、0%超10%以下をB、10%超20%以下をC、20%超30%以下をD、30%超をEとした。
【0056】
クラックおよび割れの評価
評価用試料(100個)について、黒色マークが形成してある箇所まで研磨し、断面を観察してクラック、ワレが生じていないか確認した。クラックあるいは割れが観察された試料の割合を不良品率とした。不良品率0%をA、0%超10%以下をB、10%超20%以下をC、20%超30%以下をD、30%超をEとした。
【0057】
総合評価
上記評価結果のうち、最も不良品率が高い評価結果を総合評価とした。
【0058】
黒色マーク組成物中のZn含有量
実施例、比較例で準備したマーキング用ペーストを坩堝中、400℃で脱バインダし、残留固形分の蛍光X線分析(XRF)を行って、組成分析を行った。結果として、実施例で調製したマーキング用ペーストはすべてZnOが0.05質量%以下であることを確認した。比較例で用いたペースト12ではZnOが1.0質量%、ペースト14および16ではZnOが5.0質量%であった。
【0059】
ガラスの軟化点および結晶化温度
ホウケイ酸ガラスの軟化点および結晶化温度は、示差熱分析装置にて得られる示差熱曲線より求めた。測定は粉末ガラスを用いて昇温速度10℃/分で行った。
【0060】
[マーキング用ペーストの調製]
(黒色酸化物)
下記の黒色酸化物を準備した。
黒色酸化物1:MnおよびFeを含む複合酸化物
黒色酸化物2:Mn、Fe、NiおよびCrを含む複合酸化物
黒色酸化物3:Mn、FeおよびCuを含む複合酸化物
黒色酸化物4:Mn、FeおよびCoを含む複合酸化物
【0061】
(ホウケイ酸ガラス)
下表に示す組成のホウケイ酸ガラスを準備した。表中の○は、符号を付した成分を含むことを意味している。あわせて、ホウケイ酸ガラスの軟化点および結晶化温度を示す。なお、ガラスNo.1および7〜15は、構成元素は同一だが、組成比が異なるため、ガラスの軟化点、結晶化温度は異なる。
【0062】
【表1】
【0063】
(添加酸化物)
ZrO
2、Al
2O
3、TiO
2およびMg
2SiO
4の各粉末を準備した。
また、ZrO
2、Al
2O
3、TiO
2およびMg
2SiO
4を質量比25:25:25:25の比率で含む混合粉末を準備した。
【0064】
(ペーストの調整)
表1に記載のホウケイ酸ガラス、黒色酸化物および添加酸化物を、表2に記載の割合で混合し、混合物100質量部に対して、有機バインダとしてエチルセルロースを5質量部、溶剤としてブチルカルビトールを90質量部添加して、これらを室温で混合して、マーキング用ペーストを得た。
【0065】
【表2】
【0066】
[グリーンシート用ペーストの調製]
【0067】
電子部品素体を構成する誘電体磁器組成物の原料として下記を準備した。
(主成分)
フォレステライト(Mg
2SiO
4)、BaO−Nd
2O
3−TiO
2系セラミック、チタン酸カルシウム(CaTiO
3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)の各粉末を準備した。
【0068】
また、Mg
2SiO
4とBaO−Nd
2O
3−TiO
2系セラミックとを質量比30:70の比率で含む混合主成分粉末1を準備した。
Mg
2SiO
4とCaTiO
3とを質量比91:9の比率で含む混合主成分粉末2を準備した。
Mg
2SiO
4とSrTiO
3とを質量比88:12の比率で含む混合主成分粉末3を準備した。
Mg
2SiO
4とBaO−Nd
2O
3−TiO
2系セラミックとCaTiO
3とSrTiO
3とを質量比40:40:10:10の比率で含む混合主成分粉末4を準備した。
【0069】
(副成分)
副成分1:SiO
2−Li
2O−Al
2O
3−CaO−BaO−B
2O
3ガラス
副成分2:SiO
2−Li
2O−Al
2O
3−CaO−BaO−B
2O
3−ZnOガラス
副成分3:SiO
2−Li
2O−Al
2O
3−CaO−BaOガラス
副成分4:SiO
2−Li
2Oガラス
副成分5:SiO
2−Li
2O−ZnOガラス
副成分6:SiO
2−Li
2O−B
2O
3ガラス
副成分7:SiO
2−Li
2O−Al
2O
3−B
2O
3ガラス
副成分8:SiO
2−Li
2O−Al
2O
3−B
2O
3−ZnOガラス
【0070】
(ペーストの調整)
表3に示す組み合わせで、上記主成分100質量部および副成分10質量部を混合し、混合物100質量部に対して、ポリビニルブチラール樹脂10質量部と、ジオクチルフタレート(DOP)5質量部と、溶媒としてのアルコール100質量部とをビーズミルで混合してペースト化し、グリーンシート用ペーストを得た。
【0071】
【表3】
【0072】
[評価用試料の作製]
各評価用試料の作製に用いたグリーンシート用ペーストおよびマーキング用ペーストを表4に示す。グリーンシート用ペーストを用いて、PETフィルム上に乾燥後の厚みが40μmとなるようにグリーンシートを形成した。次に、マーキング用ペーストを、グリーンシート上の所定位置にスクリーン印刷した。なお、スクリーン印刷したマークの大きさは0.6mm×0.6mmの長方形で、マークの膜厚は15μm程度であった。
【0073】
続いて、予めAg導体ペーストを印刷しておいたグリーンシートを複数枚積層し、さらにマーク用ペーストが印刷されたグリーンシートを、印刷面が表面となるように積層した。さらに、マーク用ペーストが印刷された面に厚さ20μmのグリーンシートを1層積層し、積層体を得た。
【0074】
次に、この積層体を所定の寸法に切断して、グリーンチップを得た。次に、グリーンチップを加熱して、脱バインダ処理した。次に、グリーンチップを、910℃で焼成して、焼結体とし、評価用試料とした。
【0075】
評価用試料におけるマークの視認性、接着性およびクラックや割れを上記の方法で評価した。結果を、Zn含有量(黒色マーク組成物に含まれる無機固形分100質量%(酸化物換算)に対するZn含量(ZnO換算))および黒色マーク組成物に含まれるホウケイ酸ガラスの軟化点、結晶化温度とともに表4に示す。なお、試料No.12、14、16は、黒色マーク組成物に含まれる無機固形分100質量%(酸化物換算)に対し、Zn含量がZnO換算で0.05質量%を超え、比較例となる。また、試料No.24は、ホウケイ酸ガラスの結晶化温度が910℃以上であり、比較例になる。
【0076】
【表4】