(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変位計は、前記ギヤの外方に位置する基準点と前記ギヤの外周面との間の距離を非接触で測定する変位計である、請求項1〜7の何れか一項に記載のギヤ位置決め装置。
前記ギヤの回転角度を調整する工程では、前記測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とが一致したときの前記ギヤの回転角度を取得し、取得した前記ギヤの回転角度に基づいて前記測定対象部が基準位置に配置されるように前記ギヤの回転角度を調整する、請求項13に記載のギヤ位置決め方法。
前記ギヤの回転角度を調整する工程では、前記第1の一致点に対応する前記歯底上の位置が前記基準位置に配置されるように前記ギヤの回転角度が調整される、請求項15に記載のギヤ位置決め方法。
前記ギヤの回転角度を調整する工程では、前記第2の一致点に対応する前記歯先上の位置が前記基準位置に配置されるように前記ギヤの回転角度が調整される、請求項16に記載のギヤ位置決め方法。
ギヤの外周面の一部に対してX線を照射するX線照射部と、前記ギヤの外周面の一部で回折されたX線を第1の検出位置で検出する第1の検出素子と、前記ギヤの外周面の一部で回折されたX線を前記第1の検出位置とは異なる第2の検出位置で検出する第2の検出素子と、を備える応力測定装置を用いて、前記ギヤの外周面の残留応力を測定する応力測定方法であって、
前記ギヤをチャックに取り付ける工程と、
所定の回転軸線を中心に前記ギヤが回転するように、前記チャックを回転駆動する工程と、
前記ギヤを回転させながら、前記ギヤの外方に位置する基準点と前記ギヤの外周面との間の距離を表す測定値を連続的又は周期的に取得する工程と、
前記ギヤの回転角度と前記測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とに基づいて、前記ギヤの外周面の一部を測定対象部として設定し、該測定対象部が前記X線照射部に対面する位置に配置されるように前記ギヤの回転角度を調整する工程と、
前記測定対象部に向けて前記X線照射部からX線を照射する工程と、
前記第1の検出素子及び前記第2の検出素子によって、前記測定対象部において回折されたX線を検出する工程と、
前記第1の検出素子及び前記第2の検出素子の検出値に基づいて、前記測定対象部の残留応力を測定する工程と、
を含む、応力測定方法。
前記ギヤの回転角度を調整する工程では、前記測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とが一致したときの前記ギヤの回転角度を取得し、取得した前記ギヤの回転角度に基づいて前記測定対象部が前記X線照射部に対面する位置に配置されるように前記ギヤの回転角度を調整する、請求項21に記載の応力測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ギヤの外周面の位置決めを自動で行うことについてのニーズがある。しかしながら、ギヤの外周面の位置決めを自動で行うものは知られていない。
【0005】
本開示は、ギヤの外周面の位置決めを自動で行うことができるギヤ位置決め装置、応力測定システム、ギヤ位置決め方法及び応力測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一側面に係るギヤ位置決め装置は、ギヤを保持するチャックと、所定の回転軸線を中心にギヤが回転するように、チャックを回転駆動する回転駆動機構と、ギヤを回転させながら、ギヤの外方に位置する基準点とギヤの外周面との間の距離を表す測定値を連続的又は周期的に取得する変位計と、ギヤの回転角度と測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とに基づいて、ギヤの外周面の一部を測定対象部として設定し、該測定対象部が基準位置に配置されるように回転駆動機構を制御する制御装置と、を備える。
【0007】
上記一側面に係るギヤ位置決め装置では、ギヤの回転角度と測定値と基準値との関係から、ギヤの外周面の一部が測定対象部として設定され、当該測定対象部が基準位置に配置されるように回転駆動機構が制御される。したがって、測定対象部を自動で基準位置に配置することができる。
【0008】
一実施形態では、制御装置は、測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とが一致したときのギヤの回転角度を取得し、取得したギヤの回転角度に基づいて前記ギヤの外周面の一部が基準位置に配置されるように回転駆動機構を制御してもよい。
【0009】
上記実施形態では、測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とが一致したときのギヤの回転角度から、ギヤの外周面の一部が基準位置に配置される。これにより、ギヤの測定対象部を自動で基準位置に配置することができる。
【0010】
一実施形態では、少なくとも1つの基準値は複数の基準値を含み、制御装置は、ギヤの回転角度と測定値との関係を示す相関データからギヤの回転に応じて測定値が増加した後に減少する第1の区間を抽出し、第1の区間内の測定値と複数の基準値との間の複数の一致点のうち測定値が最も大きい第1の一致点に基づいてギヤの歯底を特定し、歯底の一部が基準位置に配置されるように回転駆動機構を制御する第1の制御モードと、相関データからギヤの回転に応じて測定値が減少した後に増加する第2の区間を抽出し、第2の区間内の測定値と複数の基準値との間の複数の一致点のうち測定値が最も小さい第2の一致点に基づいてギヤの歯先を特定し、歯先の一部が基準位置に配置されるように回転駆動機構を制御する第2の制御モードと、の少なくとも何れか一方の制御モードを含んでいてもよい。
【0011】
上記実施形態の第1の制御モードでは、第1の区間内の測定値と複数の基準値との間の複数の一致点のうち測定値が最も大きい第1の一致点に基づいてギヤの歯底を特定することで、ギヤの回転中心が偏心している場合であっても、歯底を高い精度で特定することができる。同様に、第2の制御モードでは、第2の区間内の測定値と複数の基準値との間の複数の一致点のうち測定値が最も小さい第2の一致点に基づいてギヤの歯先を特定することで、ギヤの回転中心が偏心している場合であっても、歯先を高い精度で特定することができる。
【0012】
一実施形態では、制御装置は、第1の制御モードを含み、第1の制御モードでは、第1の一致点に対応する歯底上の位置が基準位置に配置されるように、制御装置が回転駆動機構を制御してもよい。この実施形態では、歯底の歯面側の領域を基準位置に配置することができる。
【0013】
一実施形態では、制御装置は、第1の制御モードを含み、第1の区間は、ギヤの回転に応じて測定値が増加する第1の領域、及び、ギヤの回転に応じて測定値が減少する第2の領域を含み、第1の制御モードでは、制御装置が、第1の領域内の第1の一致点に対応するギヤの第1の回転角度と、第2の領域内の第1の一致点に対応するギヤの第2の回転角度とを特定し、第1の回転角度と第2の回転角度との中間の回転角度に対応する歯底上の位置が基準位置に配置されるように回転駆動機構を制御してもよい。この実施形態では、歯底の中央領域を基準位置に配置することができる。
【0014】
一実施形態では、制御装置は、第2の制御モードを含み、第2の制御モードでは、第2の一致点に対応する歯先上の位置が基準位置に配置されるように、制御装置が回転駆動機構を制御してもよい。この実施形態では、歯先の歯面側の領域を基準位置に配置することができる。
【0015】
一実施形態では、制御装置は、第2の制御モードを含み、第2の区間は、ギヤの回転に応じて測定値が減少する第3の領域、及び、ギヤの回転に応じて測定値が増加する第4の領域を含み、第2の制御モードでは、制御装置が、第3の領域内の第2の一致点に対応するギヤの第3の回転角度と、第4の領域内の第2の一致点に対応するギヤの第4の回転角度とを特定し、第3の回転角度と第4の回転角度との中間の回転角度に対応する歯先上の位置が基準位置に配置されるように回転駆動機構を制御してもよい。この実施形態では、歯先の中央領域を基準位置に配置することができる。
【0016】
一実施形態では、変位計は、ギヤの外方に位置する基準点とギヤの外周面との間の距離を非接触で測定する変位計であってもよい。例えば、変位計は、渦電流式の変位センサであってもよい。非接触式の変位計を用いることによって、ギヤと変位計との接触に起因する位置ずれを防止することができる。
【0017】
一側面では、上記ギヤ位置決め装置と、ギヤの外周面の残留応力を測定する応力測定装置とを備える応力測定システムが提供される。本応力測定装置は、基準位置に配置されたギヤの外周面の一部に対してX線を照射するX線照射部と、ギヤの外周面の一部で回折されたX線を第1の検出位置で検出する第1の検出素子と、ギヤの外周面の一部で回折されたX線を第1の検出位置とは異なる第2の検出位置で検出する第2の検出素子と、を含む。
【0018】
上記一側面に係る応力測定装置では、ギヤ位置決め装置によって基準位置に配置されたギヤの外周面の一部に対してX線が照射され、第1の検出位置及び第2の検出位置で回折X線が検出される。これにより、ギヤの外周面の一部の残留応力を測定することができる。
【0019】
一実施形態では、X線照射部、第1の検出素子及び第2の検出素子が、直線状に配列されており、応力測定システムは、ギヤの歯すじの方向と、X線照射部、第1の検出素子及び第2の検出素子の配列方向とが一致するように、応力測定装置及びチャックの少なくとも何れか一方を回転させる回転機構を更に備えていてもよい。このように、ギヤの歯すじの方向と、X線照射部、第1の検出素子及び第2の検出素子の配列方向とを一致させることで、残留応力の測定精度を高めることができる。
【0020】
一実施形態では、基準位置が、X線照射部に対面する位置であってもよい。これにより、上記ギヤ位置決め装置によって位置決めされたギヤの一部の残留応力を測定することができる。
【0021】
一側面に係るギヤ位置決め方法は、ギヤをチャックに取り付ける工程と、所定の回転軸線を中心にギヤが回転するように、チャックを回転駆動する工程と、ギヤを回転させながら、ギヤの外方に位置する基準点とギヤの外周面との間の距離を表す測定値を連続的又は周期的に取得する工程と、ギヤの回転角度と測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とに基づいて、ギヤの外周面の一部を測定対象部として設定し、該測定対象部が基準位置に配置されるようにギヤの回転角度を調整する工程と、を含む。
【0022】
上記一側面に係るギヤ位置決め方法では、ギヤの回転角度と測定値と基準値との関係から、ギヤの外周面の一部が測定対象部として設定される。したがって、測定対象部を自動で基準位置に配置することができる。
【0023】
一実施形態に係るギヤの回転角度を調整する工程では、測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とが一致したときのギヤの回転角度を取得し、取得したギヤの回転角度に基づいてギヤの外周面の一部が基準位置に配置されるようにギヤの回転角度を調整してもよい。
【0024】
上記実施形態では、測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とが一致したときのギヤの回転角度から、ギヤの外周面の一部が基準位置に配置されるようにギヤの回転角度が調整される。これにより、ギヤの測定対象部を自動で基準位置に配置することができる。
【0025】
一実施形態では、少なくとも1つの基準値は複数の基準値を含み、ギヤの回転角度を調整する工程では、ギヤの回転角度と測定値との関係を示す相関データからギヤの回転に応じて測定値が増加した後に減少する第1の区間を抽出し、第1の区間内の測定値と複数の基準値との間の複数の一致点のうち測定値が最も大きい第1の一致点に基づいてギヤの歯底を特定し、歯底の一部が基準位置に配置されるようにギヤの回転角度を調整してもよい。
【0026】
上記実施形態では、第1の区間内の測定値と複数の基準値との間の複数の一致点のうち測定値が最も大きい第1の一致点に基づいてギヤの歯底を特定することで、ギヤの回転中心が偏心している場合であっても、歯底を高い精度で特定することができる。
【0027】
一実施形態では、少なくとも1つの基準値は複数の基準値を含み、ギヤの回転角度を調整する工程では、ギヤの回転角度と測定値との関係を示す相関データからギヤの回転に応じて測定値が減少した後に増加する第2の区間を抽出し、第2の区間内の測定値と複数の基準値との間の複数の一致点のうち測定値が最も小さい第2の一致点に基づいてギヤの歯先を特定し、歯先の一部が基準位置に配置されるようにギヤの回転角度を調整してもよい。
【0028】
上記実施形態では、第2の区間内の測定値と複数の基準値との間の複数の一致点のうち測定値が最も小さい第2の一致点に基づいてギヤの歯先を特定することで、ギヤの回転中心が偏心している場合であっても、歯先を高い精度で特定することができる。
【0029】
一実施形態のギヤの回転角度を調整する工程では、第1の一致点に対応する歯底上の位置が基準位置に配置されるようにギヤの回転角度が調整されてもよい。この実施形態では、歯底の歯面側の領域を基準位置に配置することができる。
【0030】
一実施形態では、第1の区間は、ギヤの回転に応じて測定値が増加する第1の領域、及び、ギヤの回転に応じて測定値が減少する第2の領域を含み、ギヤの回転角度を調整する工程では、第1の領域内の第1の一致点に対応するギヤの第1の回転角度と、第2の領域内の第1の一致点に対応するギヤの第2の回転角度とを特定し、第1の回転角度と第2の回転角度との中間の回転角度に対応する歯底上の位置が基準位置に配置されるようにギヤの回転角度が調整されてもよい。この実施形態では、歯底の中央領域を基準位置に配置することができる。
【0031】
一実施形態のギヤの回転角度を調整する工程では、第2の一致点に対応する歯先上の位置が基準位置に配置されるようにギヤの回転角度が調整されてもよい。この実施形態では、歯先の歯面側の領域を基準位置に配置することができる。
【0032】
一実施形態では、第2の区間は、ギヤの回転に応じて測定値が減少する第3の領域、及び、ギヤの回転に応じて測定値が増加する第4の領域を含み、ギヤの回転角度を調整する工程では、第3の領域内の第2の一致点に対応するギヤの第3の回転角度と、第4の領域内の第2の一致点に対応するギヤの第4の回転角度とを特定し、第3の回転角度と第4の回転角度との中間の回転角度に対応する歯先上の位置が基準位置に配置されるようにギヤの回転角度が調整されてもよい。この実施形態では、歯先の中央領域を基準位置に配置することができる。
【0033】
一側面では、ギヤの外周面の一部に対してX線を照射するX線照射部と、ギヤの外周面の一部で回折されたX線を第1の検出位置で検出する第1の検出素子と、ギヤの外周面の一部で回折されたX線を第1の検出位置とは異なる第2の検出位置で検出する第2の検出素子と、を備える応力測定装置を用いて、ギヤの外周面の残留応力を測定する応力測定方法が提供される。この方法は、ギヤをチャックに取り付ける工程と、所定の回転軸線を中心にギヤが回転するように、チャックを回転駆動する工程と、ギヤを回転させながら、ギヤの外方に位置する基準点とギヤの外周面との間の距離を表す測定値を連続的又は周期的に取得する工程と、ギヤの回転角度と測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とに基づいて、ギヤの外周面の一部を測定対象部として設定し、該測定対象部がX線照射部に対面する位置に配置されるようにギヤの回転角度を調整する工程と、測定対象部に向けてX線照射部からX線を照射する工程と、第1の検出素子及び第2の検出素子によって、測定対象部において回折されたX線を検出する工程と、第1の検出素子及び第2の検出素子の検出値に基づいて、測定対象部の残留応力を測定する工程とを含む。
【0034】
上記一側面に係る方法では、ギヤ位置決め装置によって基準位置に配置されたギヤの外周面の一部に対してX線が照射され、第1の検出位置及び第2の検出位置で回折X線が検出される。これにより、ギヤの外周面の一部の残留応力を測定することができる。
【0035】
一実施形態のギヤの回転角度を調整する工程では、測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とが一致したときのギヤの回転角度を取得し、取得したギヤの回転角度に基づいてギヤの外周面の一部がX線照射部に対面する位置に配置されるようにギヤの回転角度を調整してもよい。
【0036】
上記実施形態では、測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とが一致したときのギヤの回転角度から、ギヤの外周面の一部がX線照射部に対面する位置に配置される。これにより、測定対象部を自動でX線照射部に対面する位置に配置し、当該測定対象部の応力を測定することができる。
【0037】
一実施形態では、X線照射部、第1の検出素子及び第2の検出素子が、直線状に配列されており、X線を照射する工程よりも前に、ギヤの歯すじの方向と、X線照射部、第1の検出素子及び第2の検出素子の配列方向とが一致するように、応力測定装置及びチャックの少なくとも何れか一方を回転させる工程を更に含んでいてもよい。このように、ギヤの歯すじの方向と、X線照射部、第1の検出素子及び第2の検出素子の配列方向とを一致させることで、残留応力の測定精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の一側面及び種々の実施形態によれば、ギヤの位置決めを自動で行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
図1は、一実施形態に係るギヤ位置決め装置10を示す正面図である。
図2は、一実施形態に係る応力測定システム20を示す平面図である。
図3は、一実施形態に係る応力測定システム20を示す側面図である。
図1〜3では、水平方向をX方向及びY方向、鉛直方向をZ方向で図示している。
図4は、
図2のIV−IV線に沿った概略的な断面図である。
【0041】
(応力測定システムの構成)
図1に示すように、ギヤ位置決め装置10は、チャック12、回転駆動機構14及びスライド機構15を備えている。チャック12は、ギヤWを保持するための部材であり、軸線CLを中心に回転可能に構成されている。チャック12に保持されるギヤWは、軸線CLに一致する回転軸線を有している。
図2に示すように、ギヤWの外周面には、歯底Wz及び歯先Waが交互に形成されており、歯底Wz及び歯先Waは、歯面Wsを介して互いに接続されている。ギヤWの径方向の中心位置には、軸線CL方向にギヤWを貫通する貫通孔が形成されていてもよい。
【0042】
チャック12は、円柱状又は円板状をなしており、その上面には、軸線CLの周方向に沿って配列された複数の爪部12Aが設けられている。
図2に示す実施形態では、チャック12は、3つの爪部12Aを有している。これらの爪部12Aは、軸線CLの径方向に移動可能に構成されている。一実施形態では、チャック12は、圧縮空気によって爪部12Aの位置をチャック12の径方向に移動させるエアチャックであってもよい。この場合には、チャック12には、ホースを介してコンプレッサが接続される。チャック12の上面には、ギヤWの回転軸線と軸線CLとが一致するようにギヤWが支持される。例えば、ギヤWの貫通孔には、爪部12Aが挿入され、これらの爪部12Aが径方向外側に移動することによって、ギヤWがチャック12に固定される。なお、チャック12としては、エアチャックとは異なる任意の種類のチャックを利用することができる。また、一実施形態では、爪部12Aの径方向の位置を検出するセンサ、及び、当該センサに接続する配線13が設けられてもよい。なお、説明の便宜上、
図2では、ギヤWの一部を透過してチャック12を図示している。
【0043】
回転駆動機構14は、軸線CLを中心にギヤWが回転するように、チャック12を回転駆動させる装置である。回転駆動機構14は、回転シャフト14A及びケース14Bを備えている。回転シャフト14Aは、軸線CL方向、即ちギヤ位置決め装置10の上下方向に沿って延びており、その上端はチャック12に接続されている。回転シャフト14Aの下端は、ケース14B内に設けられた軸受に接続されている。この軸受は、回転シャフト14Aを回転可能に支持している。また、ケース14B内には、モータ14Mが設けられている。モータ14Mは、駆動力伝達機構を介して回転シャフト14Aに駆動力を付与する。回転シャフト14Aは、モータ14Mからの駆動力によって軸線CLを中心に回転する。回転シャフトの14Aの回転力はチャック12に伝達され、チャック12及びギヤWが軸線CLを中心に回転する。モータ14Mは、制御装置18に電気的に接続されており、制御装置18からの制御信号を受けて作動が制御される。
【0044】
後述するように、制御装置18は、ギヤWの回転角度が所望の回転角度になるように回転駆動機構14のモータ14Mを制御する。例えば、制御装置18は、所定の単位角度だけギヤWを回転させる制御を複数回実行することによって、ギヤWの回転角度を所望の回転角度になるように制御する。なお、一実施形態では、回転駆動機構14は、ギヤWの回転角度を検出する回転角度検出センサ14Sを更に備えていてもよい。回転角度検出センサ14Sは、回転シャフト14Aの回転角度からギヤWの回転角度を検出し、検出した回転角度を示す情報を後述する制御装置18に送信する。
【0045】
なお、一実施形態では、配線13が回転シャフト14Aに絡むのを避けるため、チャック12の回転角度は、予め設定された回転角度の範囲内に制限されていてもよい。また、回転駆動機構14の回転シャフト14Aは、軸線CLに対して時計回り及び反時計回りの両方の方向に回動可能に構成されている。
【0046】
スライド機構15は、電動シリンダ15Aを備えている。電動シリンダ15Aは、例えばモータの回転によってシリンダの伸縮を制御することで、回転駆動機構14をX方向に沿って移動させる。
【0047】
図4に示すように、ギヤ位置決め装置10は、基台11上に立設された支柱17を更に備えている。支柱17は、基台11から上方に延びており、その上端部に変位計16が固定されている。この変位計16は、チャック12に保持されるギヤWの外方に配置されている。変位計16は、ギヤWの外方に位置する基準点16Xを有しており、当該基準点16XとギヤWの外周面との間の距離Lを表す測定値を取得する(
図2参照)。なお、変位計16は、測定値を連続的に取得してもよいし、予め定められた時間間隔で測定値を周期的に取得してもよい。一実施形態では、変位計16は、基準点16Xと外周面との間の距離Lを非接触で測定する非接触型の変位計であってもよい。非接触型の変位計としては、レーザー式の変位センサ、及び、渦電流式変位計が例示される。渦電流式変位計は、ギヤWの外周面に光を照射しないで基準点16XからギヤWの外周面までの間の距離Lを検出する非光学式の変位計である。なお、変位計16は、距離Lではなく、基準となる位置からの変位を測定してもよい。変位計16は、後述の制御装置18に電気的に接続されている。
【0048】
ギヤ位置決め装置10は、制御装置18を更に備えている。制御装置18は、プロセッサ、記憶部等を備えるコンピュータであり、応力測定システム20の各部を制御する。制御装置18は、回転駆動機構14及び変位計16に接続されている。制御装置18は、ギヤWが軸線CLを中心に回転するように回転駆動機構14に制御信号を送出する。また、制御装置18は、ギヤWを軸線CLを中心に回転させながら、距離Lを表す測定値を変位計16から取得する。そして、ギヤWの回転角度と、変位計16の測定値と予め定められた少なくとも1つの基準値とに基づいて、ギヤWの外周面の一部を測定対象部として設定する。より具体的には、制御装置18は、変位計16から取得した測定値と予め定められた基準値とが一致したときのギヤWの回転角度を取得し、取得したギヤWの回転角度に基づいてギヤWの外周面の一部を測定対象部として設定する。また、制御装置18は、設定した測定対象部が基準位置RLに配置されるよう回転駆動機構14を制御する。
【0049】
制御装置18には、操作装置19が接続されている。操作装置19は、表示装置及び入出力装置を備えており、オペレータが後述する複数の基準値を入力可能となっている。さらに、操作装置19は、オペレータによって選択された制御モードを受け付け、選択された制御モードでギヤ位置決め装置10が動作するように制御装置18に信号を送出する。
【0050】
図5及び
図6を参照して、変位計16の測定値について説明する。
図5及び
図6は、ギヤWの回転角度と変位計16の測定値との関係を示す相関データを表すグラフであり、横軸はギヤWの回転角度を示し、縦軸は基準点16XとギヤWの外周面との間の距離Lを示している。これらのグラフは、例えば、制御装置18が、ギヤWの回転角度を所定の単位角度ずつ変化させながら、基準点16XとギヤWの外周面との間の距離Lを表す測定値を変位計16から取得することで生成される。
図5は、測定対象として回転中心が軸線CLに対して偏心していないギヤWを用いたときの測定値の一例であり、
図6は、測定対象として回転中心が軸線CLに対して偏心しているギヤWを用いたときの測定値の一例である。なお、
図5及び
図6に示す測定値では、歯底Wz及び歯先Waに対応する位置で測定値がフラットになる区間が含まれているが、測定対象のギヤWの形状によってはフラットな区間が存在しない場合もあり得る。
図5及び
図6に示す実施形態では、複数の基準値として、基準値A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、B1、B2、B3、B4、B5、B6、B7(以下、「基準値A1〜A7、B1〜B7」と称する)が設定されている。
【0051】
一実施形態では、制御装置18は、第1の制御モード及び第2の制御モードを有し得る。制御装置18は、第1の制御モード及び第2の制御モードのうち、オペレータによって選択された制御モードでギヤ位置決め装置10の動作を制御することが可能である。
【0052】
まず、第1の制御モードについて説明する。第1の制御モードでは、ギヤWの歯底Wzが特定され、歯底Wzの一部が基準位置RLに配置されるようにギヤWの回転角度が制御される。第1の制御モードでは、制御装置18は、
図5及び
図6に示す相関データから、ギヤWの回転に応じて測定値が増加した後に減少する第1の区間D1,Daを抽出する。次いで、制御装置18は、第1の区間D1,Da内の測定値と複数の基準値A1〜A7、B1〜B7との複数の一致点を抽出し、当該複数の一致点のうち測定値が最も大きな第1の一致点を特定する。ここで、一致点とは、相関データにおいて測定値と基準値A1〜A7、B1〜B7とが等しくなる点である。言い換えれば、一致点とは測定値と基準値A1〜A7、B1〜B7との交点を意味している。なお、制御装置18は、測定値と基準値A1〜A7、B1〜B7とが完全に等しくなる点だけでなく、測定値と基準値A1〜A7、B1〜B7との差異が所定の閾値よりも小さくなる点を一致点として特定してもよい。
図5の例では、第1の区間D1内の測定値に対して基準値A1、A2、A3、A4、A5、B5、B6及びB7が一致点を有している。これらの一致点のうち、基準値が最も大きい一致点は、第1の区間D1内の測定値と基準値A5との一致点b11、b12である。したがって、制御装置18は、一致点b11、b12を第1の一致点として設定する。同様に、
図6の例では第1の区間Da内の測定値と複数の基準値A1〜A7、B1〜B7との複数の一致点のうち測定値の最も大きい一致点b21、b22を第1の一致点として設定する。制御装置18は、第1の一致点b11及びb12に対応するギヤWの回転角度を取得し、当該回転角度から歯底Wzの範囲を特定する。同様に、制御装置18は、第1の一致点b21及びb22に対応するギヤWの回転角度を取得し、当該回転角度から歯底Wzの範囲を特定する。そして、制御装置18は、特定した歯底Wzの一部を測定対象部として設定し、当該測定対象部が基準位置RLに配置されるように回転駆動機構14を制御する。
【0053】
第1の制御モードにおいて、特定対象部を決定する手法についてより詳細に説明する。第1の制御モードでは、特定対象部を決定するための手法として、後述する第1の手法又は第2の手法が用いられる。第1の手法では、制御装置18は、第1の区間D1のうち測定値が増加する第1の領域R1内に位置する第1の一致点b11に対応する第1の回転角度θ1と、第1の区間D1のうち測定値が減少する第2の領域R2内に位置する第1の一致点b12に対応する第2の回転角度θ2を特定する(
図5参照)。次いで、制御装置18は、第1の回転角度θ1と第2の回転角度θ2の中間の回転角度α1を得る。制御装置18は、回転角度α1に対応する歯底Wz上の位置が基準位置RLに配置されるように回転駆動機構14を制御する。同様に、制御装置18は、第1の区間Daのうち測定値が増加する第1の領域R1内に位置する第1の一致点b21に対応する第1の回転角度θ1’と、第1の区間Daのうち測定値が減少する第2の領域R2内に位置する第1の一致点b22に対応する第2の回転角度θ2’を特定する(
図6参照)。次いで、制御装置18は、第1の回転角度θ1’と第2の回転角度θ2’の中間の回転角度α1’を得る。制御装置18は、回転角度α1’に対応する歯底Wz上の位置が基準位置RLに配置されるように回転駆動機構14を制御する。この第1の手法では、歯底Wzの中央領域が基準位置RLに配置されることとなる。
【0054】
特定対象部を決定するための第2の手法では、第1の一致点b11に対応する第1の回転角度θ1及び第1の一致点b12に対応する第2の回転角度θ2を特定し、第1の回転角度θ1及び第2の回転角度θ2の何れか一方に対応する歯底Wz上の位置が基準位置RLに配置されるように回転駆動機構14を制御する。同様に、第1の一致点b21に対応する第1の回転角度θ1’及び第1の一致点b22に対応する第2の回転角度θ2’を特定し、第1の回転角度θ1’及び第2の回転角度θ2’の何れか一方に対応する歯底Wz上の位置が基準位置RLに配置されるように回転駆動機構14を制御する。この第2の手法では、歯底Wzの歯面Ws側の領域が基準位置RLに配置されることとなる。
【0055】
次いで、第2の制御モードについて説明する。第2の制御モードでは、ギヤWの歯先Waが特定され、歯先Waの一部が基準位置RLに配置されるようにギヤWの回転角度が制御される。第2の制御モードでは、制御装置18は、
図5及び
図6に示す相関データから、ギヤWの回転に応じて測定値が減少した後に増加する第2の区間D2,Dbを抽出する。次いで、制御装置18は、第2の区間D2,Db内の測定値と複数の基準値A1〜A7、B1〜B7との複数の一致点(交点)を抽出し、当該複数の一致点のうち測定値が最も小さい第2の一致点を特定する。
図5の例では、第2の区間D2内の測定値に対して基準値A1、A2、A3、A4、A5、B5、B6及びB7が一致点を有している。これらの一致点のうち、基準値が最も小さい一致点は、第2の区間D2内の測定値と基準値B5との一致点s11、s12である。したがって、制御装置18は、一致点s11、s12を第2の一致点として設定する。同様に、
図6の例では、第2の区間Db内の測定値と複数の基準値A1〜A7、B1〜B7との複数の一致点のうち測定値の最も小さい一致点s21、s22を第2の一致点として設定する。制御装置18は、第2の一致点s11及びs12に対応するギヤWの回転角度を取得し、当該回転角度から歯先Waの範囲を特定する。同様に、制御装置18は、第2の一致点s21及びs22に対応するギヤWの回転角度を取得し、当該回転角度から歯先Waの範囲を特定する。そして、制御装置18は、特定した歯先Waの一部を測定対象部として設定し、当該測定対象部が基準位置RLに配置されるように回転駆動機構14を制御する。
【0056】
第2の制御モードにおいて、特定対象部を決定する手法についてより詳細に説明する。第2の制御モードでは、特定対象部を決定するための手法として、後述する第3の手法又は第4の手法が用いられる。第3の手法では、制御装置18は、第2の区間D2のうち測定値が減少する第3の領域R3内に位置する第2の一致点s11に対応する第3の回転角度θ3と、第2の区間D2のうち測定値が増加する第4の領域R4内に位置する第2の一致点s12に対応する第4の回転角度θ4を特定する(
図5参照)。次いで、制御装置18は、第3の回転角度θ3と第4の回転角度θ4の中間の回転角度α2を得る。制御装置18は、回転角度α2に対応する歯先Wa上の位置が基準位置RLに配置されるように回転駆動機構14を制御する。同様に、制御装置18は、第2の区間Dbのうち測定値が減少する第3の領域R3内に位置する第2の一致点s21に対応する第3の回転角度θ3’と、第2の区間Dbのうち測定値が増加する第4の領域R4内に位置する第2の一致点s22に対応する第4の回転角度θ4’を特定する(
図6参照)。次いで、制御装置18は、第3の回転角度θ3’と第4の回転角度θ4’の中間の回転角度α2’を得る。制御装置18は、回転角度α2’に対応する歯先Wa上の位置が基準位置RLに配置されるように回転駆動機構14を制御する。この第3の手法では、歯先Waの中央領域が基準位置RLに配置されることとなる。
【0057】
特定対象部を決定するための第4の手法では、第2の一致点s11に対応する第3の回転角度θ3及び第2の一致点s12に対応する第4の回転角度θ4を特定し、第3の回転角度θ3及び第4の回転角度θ4の何れか一方に対応する歯先Wa上の位置が基準位置RLに配置されるように回転駆動機構14を制御する(
図5参照)。同様に、第2の一致点s21に対応する第3の回転角度θ3’及び第2の一致点s22に対応する第4の回転角度θ4’を特定し、第3の回転角度θ3’及び第4の回転角度θ4’の何れか一方に対応する歯先Wa上の位置が基準位置RLに配置されるように回転駆動機構14を制御する(
図6参照)。この第4の手法では、歯先Waの歯面Ws側の領域が基準位置RLに配置されることとなる。
【0058】
次に、
図3を参照して、応力測定システム20について説明する。
【0059】
応力測定システム20は、上述したギヤ位置決め装置10及び応力測定装置22を備えている。応力測定装置22は、ギヤWの外周面の残留応力を測定するための装置であり、チャック12に保持されるギヤWの外方に配置されている。
【0060】
応力測定装置22は、X線照射部24、第1の検出素子26及び第2の検出素子28を備えている。X線照射部24、第1の検出素子26及び第2の検出素子28は、応力測定装置22の前面22Fに設けられている。X線照射部24は、検査対象となるギヤWの外側面に向けてX線を照射する装置である。より具体的には、X線照射部24は、ギヤWの測定対象部に対してX線を照射する。すなわち、X線照射部24と基準位置RLとは互いに対面する位置に設けられている。第1の検出素子26は、ギヤWの外側面で回折した回折X線を第1の検出位置で検出する装置である。第2の検出素子28は、ギヤWの外側面で回折した回折X線を第1の検出位置とは異なる第2の検出位置で検出する装置である。一実施形態では、X線照射部24、第1の検出素子26及び第2の検出素子28は直線状に並ぶように配列されていてもよい(
図10(A)参照)。なお、特開2017−009356号公報に公知の残留応力測定装置が開示されており、本開示では残留応力測定装置の詳細説明を省略する。
【0061】
(ギヤ位置決め方法)
次に、一実施形態に係るギヤ位置決め方法について説明する。
【0062】
図7は、一実施形態のギヤ位置決め方法MT1を示すフローチャートである。方法MT1では、まず工程ST1において、複数の基準値が設定される。複数の基準値は、オペレータによって設定された値であってもよいし、基準点16XとギヤWの外周面との距離Lに基づいて自動的に生成された値であってもよい。例えば、制御装置18は、基準点16XとギヤWの歯底Wzとの間の距離よりも若干小さな値を基準値A1として設定する。次いで、基準値A(n+1)(n=1、2、3・・・)を、以下の式(1)から求めてもよい。
A(n+1)=A1+C・n ・・・(1)
【0063】
同様に、制御装置18は、基準点16XとギヤWの歯先Waとの間の距離よりも若干小さな値を基準値B1として設定する。次いで、基準値B(n+1)(n=1、2、3・・・)を、以下の式(2)から求めてもよい。
B(n+1)=B1+C・n ・・・(2)
【0064】
なお、上記の式(1)及び(2)において、Cは定数を表している。すなわち、複数の基準値An,Bnは、所定の定数C刻みで設定された値である。
【0065】
また、複数の基準値は、次のように設定されてもよい。まず、制御装置18は、チャック12に保持されたギヤWを回転させながら、変位計16によって基準点16XとギヤWの外周面との間の距離Lを連続的又は周期的に測定する。次いで、制御装置18は、基準点16XからギヤWの歯先Waまでの距離の値を複数記録し、その平均値又は最小値を求め、当該平均値又は最小値を最小の基準値にする。また、制御装置18は、基準点16XからギヤWの歯底Wzまでの距離の値を複数記録し、その平均値又は最大値を求め、当該平均値又は最大値を最大の基準値にする。そして、最小の基準値から最大の基準値までの間に複数の(一例として20個前後の)基準値を均等に割り当ててもよい。
【0066】
方法MT1では、次いで工程ST2が行われる。工程ST2では、ギヤWがチャックに取り付けられる。例えば、工程ST2では、ギヤWの回転軸線が軸線CLに一致した状態で、ギヤWがチャック12の上に載置される。次いで、チャック12の爪部12AがギヤWの径方向外側へ移動され、ギヤWがチャック12上に固定される。なお、工程ST2では、スライド機構15によって回転駆動機構14がX方向に移動されてから、ギヤWの取り付けが行われてもよい。次いで、工程ST3では、軸線CLを中心にギヤWが回転するように、チャック12が回転駆動される。
【0067】
次いで、工程ST4が行われる。工程ST4では、ギヤWが回転している状態で、ギヤWの外方に位置する基準点16XとギヤWの外周面との間の距離Lを表す測定値が変位計16によって取得される。この測定は、連続的に行われてもよいし、所定の時間間隔で周期的に行われてもよい。
【0068】
次いで、工程ST5が行われる。工程ST5では、変位計16の測定値と基準値A1〜A7及びB1〜B7とが一致したときのギヤWの回転角度から、ギヤWの外周面の一部が測定対象部として設定される。工程ST5では、制御装置18が上述した第1の制御モード又は第2の制御モードで動作することによって、ギヤWの外周面の一部が測定対象部として設定される。続く工程ST6では、ギヤWの測定対象部が基準位置RL、例えばX線照射部24に対面する位置に停止するように回転駆動機構14が制御される。
【0069】
なお、制御装置18が、第1の制御モードで動作する場合には、工程ST6において、歯底Wzの一部が基準位置RLに配置されるようにギヤWの回転角度が制御される。
図5に示す測定値を例として説明すると、第1の制御モードの第1の手法では、回転角度α1に対応する歯底Wz上の位置が基準位置RLに配置される。また、第1の制御モードの第2の手法では、第1の回転角度θ1及び第2の回転角度θ2の何れか一方に対応する歯底Wz上の位置が基準位置RLに配置される。
【0070】
また、制御装置18が、第2の制御モードで動作する場合には、工程ST6において、歯先Waの一部が基準位置RLに配置されるようにギヤWの回転角度が制御される。
図5に示す測定値を例として説明すると、第2の制御モードの第3の手法では、回転角度α2に対応する歯先Wa上の位置が基準位置RLに配置されるように回転駆動機構14が制御される。また、第2の制御モードの第4の手法では、第3の回転角度θ3及び第4の回転角度θ4の何れか一方に対応する歯先Wa上の位置が基準位置RLに配置されるように回転駆動機構14が制御される。なお、制御装置18は、ギヤWの測定対象部を基準位置RLに移動させるために、回転シャフト14Aの回転方向を逆転させてもよい。
【0071】
(応力測定方法)
次に、一実施形態の応力測定方法について説明する。
【0072】
図8は、一実施形態に係る応力測定方法MT2を示すフローチャートである。方法MT2は、上述した応力測定システム20を用いて実施される。方法MT2では、まず工程ST11〜工程ST16が行われる。工程ST11〜工程ST16は、方法MT1の工程ST1〜工程ST6と同様であるので、説明を省略する。
【0073】
方法MT2では、次いで工程ST17が行われる。工程ST17では、工程ST16において基準位置RLに配置されたギヤWの測定対象部に向けてX線照射部24からX線が照射される。次いで、工程ST18では、第1の検出素子26及び第2の検出素子28によって、ギヤWの測定対象部において回折された回折X線が検出される。次いで、工程ST19では、第1の検出素子26及び第2の検出素子28によって検出されたX線の強度から、ギヤWの測定対象部の残留応力が測定される。このようにして、一実施形態に係る応力測定方法では、ギヤWの測定対象部の残留応力が測定される。
【0074】
上述した一側面及び種々の実施形態では、ギヤWの測定対象部を基準位置に自動で位置決めすることができる。したがって、オペレータの手作業によらず、ギヤWの測定対象部の応力測定を行うことが可能となる。これにより、ギヤWの位置決めに要する時間も短縮することができる。
【0075】
また、上記実施形態では、第1の区間D1,Da内の測定値と複数の基準値との第1の一致点からギヤWの歯底Wzの範囲を特定している。同様に、上記実施形態では、第2の区間D2,Db内の測定値と複数の基準値との第2の一致点からギヤWの歯先Waの範囲を特定している。このように、測定値と複数の基準値との第1の一致点及び第2の一致点を用いることによって、ギヤWの回転中心が軸線CLに対して偏心している場合であっても歯底Wz及び歯先Waの範囲を高精度で特定することができる。よって、ギヤWの位置決め精度を向上することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、複数の基準値を用いているので、寸法、歯先間隔、形状等が異なるギヤWの位置決めを高精度で行うことができる。
【0077】
さらに、上記実施形態では、非接触型の変位計16を用いて距離Lを表す測定値を取得しているので、ギヤと変位計16との接触に起因する位置ずれを防止することができると共に、ギヤWの材質又は温度等の影響によって測定誤差が生じることを防止することができる。変位計16として、渦電流式変位計を使用した場合には、レーザー型の変位計と異なり、測定時に光が乱反射することがないので、光の乱反射に起因する誤作動を防止することができる。
【0078】
以上、種々の実施形態に係るギヤ位置決め装置、応力測定システム、ギヤ位置決め方法及び応力測定方法について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形態様を構成可能である。以下、応力測定システムの変形例について説明する。
【0079】
(第1の変形例)
以下、
図9(A)及び
図10を参照して、第1の変形例に係る応力測定システムについて説明する。
図9(A)は、第1の変形例に係る応力測定システム30を模式的に示す側面図である。なお、以下では、上述の実施形態と実質的に同一の要素については説明を省略し、相違点について主に説明する。
【0080】
図9(A)に示されるように、応力測定システム30は、応力測定装置22を軸線32Xを中心に回転させるための回転機構32を備えている。軸線32Xは、応力測定装置22の前面22Fに垂直な方向に延びている。回転機構32は、回転シャフト32A及びケース32Bを備えている。回転シャフト32Aの一端は応力測定装置22に接続されており、回転シャフト32Aの他端はケース32B内に設けられた軸受に回転可能に支持されている。ケース32B内には、モータが設けられている。モータは、駆動力伝達機構を介して回転シャフト32Aに駆動力を付与する。回転シャフト32Aは、モータからの駆動力によって軸線32Xを中心に回転する。回転シャフト32Aの回転力は応力測定装置22に伝達され、応力測定装置22を軸線32Xを中心に回転させる。モータは、制御装置18に電気的に接続されており、制御装置18からの制御信号を受けて作動が制御される。
【0081】
本変形例では、
図10に示すように、検査対象であるギヤが、はすば歯車W1である場合について説明する。はすば歯車W1は、歯すじが回転軸線に対して斜めに延びている歯車である。回転機構32は、
図10(A)に示すように、X方向から見たときに、はすば歯車W1の歯すじの方向(
図10(A)及び(B)の矢印T参照)とX線照射部24、第1の検出素子26及び第2の検出素子28の配列方向(
図10(A)及び(B)の矢印22L参照)とが交差する配置から、
図10(B)に示すように、X方向から見たときに、はすば歯車W1の歯すじの方向とX線照射部24、第1の検出素子26及び第2の検出素子28の配列方向とが一致した配置になるように、応力測定装置22を軸線32Xを中心に回転させる。
【0082】
一実施形態では、回転機構32は、はすば歯車W1の外周面にX線照射部24からX線を照射する前に応力測定装置22を軸線32Xを中心に回転させることができる。
【0083】
上述のように、第1の変形例では、はすば歯車W1の外周部側の残留応力を測定する前に、
図10(B)に示されるように、はすば歯車W1の歯すじの方向とX線照射部24、第1の検出素子26及び第2の検出素子28の配列方向とが一致するように、応力測定装置22を回転させる。これにより、残留応力の測定精度を高めることができる。
【0084】
(第2の変形例)
次に、
図9(B)及び
図10を参照して、第2の変形例に係る応力測定システムについて説明する。
図9(B)は、第2の変形例に係る応力測定システム42を模式的に示す側面図である。なお、以下では、上述の実施形態と実質的に同一の要素については説明を省略し、相違点について主に説明する。
【0085】
図9(B)に示すように、応力測定システム42は、ギヤ位置決め装置10に代えてギヤ位置決め装置40を備えている。ギヤ位置決め装置40は、本体ユニット40H及び回転機構46を備えている。本体ユニット40Hは、チャック12、回転駆動機構14、基台44、支柱45及び変位計16を備えている。基台44の上面には、回転駆動機構14が支持されている。基台44には、支柱45が立設されており、支柱45の上端部には変位計16が固定されている。
図4に示す実施形態と同様に、変位計16は、ギヤWの外方に配置されている。
【0086】
回転機構46は、X方向に延在する軸線46Xを中心に本体ユニット40Hを回転させる装置であり、回転シャフト46A及びケース46Bを備えている。回転シャフト46Aの一端は本体ユニット40Hに接続されており、回転シャフト46Aの他端はケース46B内に設けられた軸受に回転可能に支持されている。ケース46B内には、モータが設けられている。モータは、駆動力伝達機構を介して回転シャフト46Aに駆動力を付与する。回転シャフト46Aは、モータからの駆動力によって軸線46Xを中心に回転する。回転シャフトの46Aの回転力は本体ユニット40Hに伝達され、本体ユニット40Hを軸線46Xを中心に回転させる。モータは、制御装置18に電気的に接続されており、制御装置18からの制御信号を受けて作動が制御される。
【0087】
回転機構46は、
図10(A)に示すように、X方向から見たときに、はすば歯車W1の歯すじの方向とX線照射部24、第1の検出素子26及び第2の検出素子28の配列方向とが交差する配置から、
図10(B)に示すように、X方向から見たときに、はすば歯車W1の歯すじの方向とX線照射部24、第1の検出素子26及び第2の検出素子28の配列方向とが一致した配置になるように、本体ユニット40Hを軸線46Xを中心に回転させる。
【0088】
さらに、
図9(B)に示すように、ギヤ位置決め装置40は、ロボシリンダ48を更に備えている。ロボシリンダ48は、回転機構46に接続されている。ロボシリンダ48は、回転機構46を、X方向、Y方向及びZ方向に移動させる。すなわち、ロボシリンダ48は、回転機構46をX方向、Y方向及びX方向にそれぞれ移動させるための第1シリンダ機構、第2シリンダ機構及び第3シリンダ機構を有している。なお、ロボシリンダ48の構成は公知であるので、ロボシリンダ48の詳細の説明は省略する。このロボシリンダ48は、制御装置18に接続され、制御装置18からの制御信号によって動作が制御される。
【0089】
上述のように、第2の変形例では、はすば歯車W1の外周面の残留応力を測定する前に、
図10(B)に示されるように、はすば歯車W1の歯すじの方向とX線照射部24、第1の検出素子26及び第2の検出素子28の配列方向とが一致するように、本体ユニット40Hを軸線46Xを中心に回転させる。これにより、残留応力の測定精度を高めることができる。一実施形態では、はすば歯車W1の外周面の残留応力を測定する前に、ロボシリンダ48を用いて本体ユニット40HのX方向、Y方向及びZ方向の位置を調整することによって、X線照射部24とはすば歯車W1の測定対象部との離間距離を調整するようにしてもよい。
【0090】
第2の変形例では、ロボシリンダ48を用いてチャック12のX方向、Y方向及びZ方向の位置を移動させることができるので、種々のサイズのギヤWの位置決め及び応力測定を行うことができる。
【0091】
第2の変形例によっても、応力測定装置22は、ギヤの歯すじの方向と、X線照射部、第1の検出素子及び第2の検出素子の配列方向とを一致させることで、残留応力の測定精度を高めることができる。
【0092】
なお、上述した種々の実施形態及び変形例は、矛盾のない範囲で組み合わせることができる。例えば、第2の変形例に第1の変形例の回転機構32を追加することも可能である。この場合には、はすば歯車W1の外周面の残留応力を測定する前に、応力測定装置22及びはすば歯車W1の双方を回転させることができる。
【0093】
(実施形態の補足説明)
なお、上述の実施形態では、変位計16の測定値と複数の基準値との一致点を特定しているが、基準値は1つであってもよい。
【0094】
例えば、基準点16XとギヤWの歯底Wzまでの距離よりも若干小さい値が1つの基準値として設定されてもよい。その場合は、制御装置18は、第1の区間D1,Da内の測定値と当該1つの基準値との一致点に対応するギヤWの回転角度からギヤの歯底Wzを特定し、歯底Wzの一部が基準位置RLに配置されるようにギヤWの回転角度を制御してもよい。
【0095】
別の例では、基準点16XとギヤWの歯先Waまでの距離よりも若干大きい値を1つの基準値として設定してもよい。その場合は、制御装置18は、第2の区間D2,Db内の測定値と当該1つの基準値との一致点に対応するギヤWの回転角度からギヤの歯先Waを特定し、歯先Waの一部が基準位置RLに配置されるようにギヤWの回転角度を制御してもよい。
【0096】
上記実施形態では、制御装置18は第1の制御モード及び第2の制御モードを有しているが、制御装置18は少なくとも何れか一方の制御モードを有していればよい。
【0097】
上記実施形態では、変位計16は非接触式の変位計であるが、接触式の変位計を利用してもよい。
【0098】
上記実施形態では、ギヤ位置決め装置10が応力測定システム20の一部とされているが、ギヤ位置決め装置は、独立して利用されてもよく、応力測定装置以外の検出装置と組み合わせて利用されてもよい。また、
図1に示す実施形態では、回転駆動機構14がギヤWの回転角度を検出する回転角度検出センサ14Sを備えているが、回転駆動機構14は回転角度検出センサ14Sを備えていなくてもよい。この場合には、例えば制御装置18が、所定の単位角度だけギヤWを回転させる制御を実行した回数からギヤWの回転角度を取得してもよい。