(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1工程において、前記ハブ本体の中心軸を中心として揺動回転する成形型を前記ハブ本体の軸方向内側端部に押し付ける揺動鍛造により、前記円筒部を前記かしめ部中間体に加工し、
前記第1工程における前記揺動鍛造の終了時点を、前記成形型を揺動回転させるためのトルクである成形型回転トルクの値を用いて決定する、
請求項9に記載のハブユニット軸受の製造方法。
前記第1工程における前記揺動鍛造の終了時点を、前記揺動鍛造の開始後に、前記成形型回転トルクが最初にほぼ一定の値に落ち着き始めた時点、又は、前記揺動鍛造の開始後に、前記成形型回転トルクが最初にほぼ一定の値に落ち着いてから、該成形型回転トルクが減少し始めた時点とする、
請求項11に記載のハブユニット軸受の製造方法。
前記第1工程において、前記ハブ本体の中心軸を中心として揺動回転する成形型を前記ハブ本体の軸方向内側端部に押し付ける揺動鍛造により、前記円筒部を前記かしめ部中間体に加工し、
前記第1工程で取得した情報は、前記成形型から前記ハブ本体の軸方向内側端部に加えた軸方向荷重と、前記成形型を揺動回転させるための成形型回転トルクと、前記成形型の軸方向の移動速度とを含む、
請求項13に記載のハブユニット軸受の製造方法。
前記第2工程において、前記ハブ本体の軸方向内側端部に加える軸方向荷重を、前記第1工程で取得した情報に加えて、前記第1工程よりも前の工程で取得した情報を利用して決定する、
請求項13又は14に記載のハブユニット軸受の製造方法。
(a)前記ハブは、前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側列の内輪軌道が外周面に備えられた外側内輪をさらに含み、該外側内輪は、前記ハブ本体に外嵌されており、前記第1工程よりも前の工程で取得した情報は、前記ハブ本体と前記内側内輪及び前記外側内輪との嵌合代と、前記ハブ本体に対する前記内側内輪及び前記外側内輪の圧入荷重と、軸受アキシアル隙間との少なくとも1つを含む、
又は、(b)前記ハブ本体は、前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側列の内輪軌道が外周面に備えられており、前記第1工程よりも前の工程で取得した情報は、前記ハブ本体と前記内側内輪との嵌合代と、前記ハブ本体に対する前記内側内輪の圧入荷重と、前記複列の外輪軌道の列間幅と、前記複列の内輪軌道の列間幅と、列ごとの前記転動体の直径と、列ごとの前記転動体のピッチ円直径との少なくとも1つを含む、
請求項15に記載のハブユニット軸受の製造方法。
前記第2工程では、前記ハブ本体の軸方向内側端部に加える軸方向荷重を従属変数とし、かつ、前記取得した情報のそれぞれと前記予圧の目標値とを独立変数に含む関係式を用いて、前記ハブ本体の軸方向内側端部に加える軸方向荷重を決定する、
請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載のハブユニット軸受の製造方法。
前記予圧が目標値になった状態での前記外輪回転トルクの値よりも、現時点での前記外輪回転トルクの値が小さい場合に、これらの値の差と、該差を0に近づけるために必要となる前記ハブ本体の軸方向内側端部に加える軸方向荷重との関係を、予め求めておき、
2段階目以降のそれぞれの段階において、直前の段階の加工の終了後に測定した前記外輪回転トルクの値を、現時点での前記外輪回転トルクの値として、該値と、前記関係とを用いて、前記ハブ本体の軸方向内側端部に加える軸方向荷重を決定する、
請求項9〜18のうちのいずれか1項に記載のハブユニット軸受の製造方法。
前記第2工程において、前記ハブ本体の中心軸を中心として揺動回転する成形型を前記ハブ本体の軸方向内側端部に押し付ける揺動鍛造により、前記かしめ部中間体を前記かしめ部に加工する、
請求項9〜19のうちのいずれか1項に記載のハブユニット軸受の製造方法。
前記第2工程において、前記ハブ本体の軸方向内側端部に対し、前記ハブ本体の中心軸を中心とする回転対称となる複数箇所に荷重を加えながら、前記かしめ部中間体を前記かしめ部に加工する、
請求項9〜19のうちのいずれか1項に記載のハブユニット軸受の製造方法。
前記第1工程と前記第2工程との間に、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する内部空間の軸方向内端開口を塞ぐシール部材を、前記外輪と前記内側内輪との間に装着する工程をさらに備える、
請求項21に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態について、
図1〜
図6を用いて説明する。まず、製造対象となるハブユニット軸受1の構造について説明し、続いて、ハブユニット軸受1の製造方法について説明する。
【0031】
<ハブユニット軸受1の構造>
図1は、ハブユニット軸受1の一例を示している。ハブユニット軸受1は、従動輪用であり、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bとを備えている。
【0032】
なお、ハブユニット軸受1に関して、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、
図1の左側である。軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、
図1の右側である。
【0033】
外輪2は、複列の外輪軌道5a、5bと、静止フランジ6とを備えている。一例において、外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属製である。他の例において、外輪2は、別の材料で形成できる。複列の外輪軌道5a、5bは、外輪2の軸方向中間部内周面に全周にわたり備えられている。静止フランジ6は、外輪2の軸方向中間部から径方向外方に突出しており、円周方向複数箇所にねじ孔である支持孔7を有する。
【0034】
外輪2は、車両の懸架装置を構成するナックル8の通孔9を挿通したボルト10を、静止フランジ6の支持孔7に軸方向内側から螺合して締め付けることで、ナックル8に支持固定されている。
【0035】
ハブ(かしめアセンブリ、かしめユニット)3は、外輪2の径方向内側に、外輪2と同軸に配置されている。ハブ3は、複列の内輪軌道11a、11bと、回転フランジ12とを備えている。複列の内輪軌道11a、11bは、ハブ3の外周面(外面)のうち、複列の外輪軌道5a、5bに対向する部分に全周にわたり備えられている。回転フランジ12は、ハブ3のうち、外輪2よりも軸方向外側に位置する部分から径方向外方に突出しており、円周方向複数箇所に取付孔13を有する。
【0036】
図示の例では、ディスクやドラムなどの制動用回転体14を回転フランジ12に結合固定するために、スタッド15の基端寄り部分に備えられたセレーション部が、取付孔13に圧入されている。また、スタッド15の中間部が、制動用回転体14の通孔16に圧入されている。さらに、車輪を構成するホイール17を回転フランジ12に固定するために、スタッド15の先端部に備えられた雄ねじ部がホイール17の通孔18に挿通した状態で、雄ねじ部にナット19が螺合して締め付けられている。
【0037】
転動体4a、4bは、複列の外輪軌道5a、5bと複列の内輪軌道11a、11bとの間に、列ごとに複数個ずつ配置されている。一例において、転動体4a、4bは、それぞれが軸受鋼などの硬質金属製あるいはセラミックス製である。他の例において、転動体4a、4bは、別の材料で形成できる。また、転動体4a、4bは、列ごとに、保持器20a、20bにより転動自在に保持されている。なお、
図1の例では、転動体4a、4bとして玉を用いているが、
図14の例に示すように、円すいころを用いる場合もある。
【0038】
ハブ(かしめアセンブリ)3は、ハブ本体(ハブ輪)21と、内側内輪22a及び外側内輪22bとにより構成されている。一例において、ハブ本体21は、中炭素鋼などの硬質金属製である。内側内輪22a及び外側内輪22bは、それぞれが軸受鋼などの硬質金属製である。他の例において、ハブ本体21、内側内輪22a及び外側内輪22bは、他の材料で形成できる。ハブ(かしめアセンブリ)3は、実質的に、ハブ本体(第1部材)21と内輪(第2部材)22a、22bとを軸方向に組み合わせて構成されている。ハブ3は、外周面(外面)23を有するハブ本体21と、ハブ本体21の外周面(外面)23に配置されかつハブ本体(第1部材)21に保持された内輪(第2部材)22a、22bと、を有する。軸方向内側列の内輪軌道11aは、内側内輪22aの外周面に備えられている。軸方向外側列の内輪軌道11bは、外側内輪22bの外周面に備えられている。回転フランジ12は、ハブ本体21の軸方向外側部に備えられている。ハブ本体21は、軸方向の中間部の外周面に円筒状の嵌合面部23を有し、かつ、嵌合面部23の軸方向外側端部に軸方向内側を向いた段差面24を有している。内側内輪22a及び外側内輪22bは、ハブ本体21の嵌合面部23に締り嵌めにより外嵌されている。さらに、ハブ本体21は、軸方向内側端部にかしめ部26を有している。かしめ部26は、ハブ本体21のうち、内側内輪22aを外嵌した部分の軸方向内側端部から径方向外側に折れ曲がっており、内側内輪22aの軸方向内側面を押さえ付けている。すなわち、内側内輪22a及び外側内輪22bは、ハブ本体21の段差面24とかしめ部26との間に挟み込まれることで、ハブ本体21に対する分離を防止されている。また、この状態で、ハブユニット軸受1を構成する複列の転動体4a、4bには、背面組合せ型の接触角とともに予圧が付与されている。一例において、ハブ本体21は、内輪22a、22bに対するかしめ部26(内輪22a、22bの保持のためのかしめ部26)を有する。ハブ本体21は、内輪22a、22bの孔120に挿入されている。ハブ本体21の周壁において、周方向に延在する曲げを有し内輪22aの軸端部を覆うかしめ部26が設けられている。
【0039】
外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する内部空間27の軸方向両端開口は、シール部材28、29により塞がれている。軸方向内側のシール部材28は、外輪2の軸方向内側端部の内周面と、内側内輪22aの軸方向内側端部の外周面との間に組み付けられている。軸方向外側のシール部材29は、外輪2の軸方向外側端部の内周面と、外側内輪22bの軸方向外側端部の外周面との間に組み付けられている。これらのシール部材28、29により、内部空間27に封入されたグリースが、内部空間27の軸方向両端開口を通じて外部空間に漏洩することが防止される。また、外部空間に存在する泥水などの異物が、内部空間27の軸方向両端開口を通じて内部空間27に侵入することが防止される。
【0040】
<ハブユニット軸受1の製造方法>
本実施形態において、ハブユニット軸受1の製造方法は、転動体4a、4bに付与する予圧を目標値に近づけるために、かしめ部26を形成するかしめ部形成工程を、第1工程と第2工程とに分けて行い、かつ、第2工程において、ハブ本体21の軸方向内側端部に加える軸方向荷重を、第1工程で取得した情報(第2情報)I
Bと、かしめ部形成工程よりも前の工程で取得した情報(第1情報)I
Aとを利用して決定する(
図2参照)。ハブ本体21の製造方法は、ハブ本体21と、ハブ本体21が挿入される孔120を有する内輪22a、22bと、を軸方向に組み合わせる工程と、ハブ本体21の軸端に少なくとも軸方向に沿った荷重(軸荷重)を加えることにより、内輪22a、22bに対するかしめ部26をハブ本体21に形成する工程とを有する。かしめ部26を形成する工程は、(a)荷重(軸荷重)を加える前に取得した第1情報I
Aと、(b)荷重(軸荷重)を加えた状態で取得した第2情報I
Bとの少なくとも1つに基づいて荷重(軸荷重)を調整する工程を含む。なお、第1工程は、かしめ部26を形成する前のハブ本体21の軸方向内側端部に備えられた円筒部25をかしめ部中間体(中間かしめ部)39に加工する工程である(
図3(a)及び
図3(b)参照)。第2工程は、かしめ部中間体39をかしめ部26に加工する工程である(
図5(a)及び
図5(b)参照)。かしめ部26を形成する工程は、所定の荷重で中間かしめ部39を形成する第1工程と、調整された荷重を中間かしめ部39に加えることにより最終的なかしめ部26を形成する第2工程と、を含む。
一例において、かしめ部中間体(中間かしめ部)39は、第1工程(例えば、荷重付加開始から荷重調整(予圧調整)の完了まで)において、少なくとも部分的に塑性変形された、ハブ本体21の軸端形状であると定義される。あるいは、かしめ部中間体(中間かしめ部)39は、荷重の調整が完了した(予圧調整完了)時点での、少なくとも部分的に塑性変形された、ハブ本体21の軸端形状であると定義される。例えば、かしめ部中間体(中間かしめ部)39は、後述する予圧が調整が完了した時点でのハブ本体21の軸端形状を有する。調整された荷重が中間かしめ部39に一定に加えられ、最終的なかしめ部26が形成される。一例において、かしめ部中間体(中間かしめ部)39は、内輪22aに実質的に非接触である。他の例において、かしめ部中間体(中間かしめ部)39は、内輪22aに実質的に接触する。
【0041】
例えば、ハブユニット軸受1の製造方法では、具体的には、第1工程において、円筒部25をかしめ部中間体39に加工する際に、どの程度の加工抵抗があるか、換言すれば、ハブ本体21の硬さがどの程度の大きさであるかといった情報(第2情報)I
Bを取得する。情報I
Bは、ハブ本体21の物理的特性に関連する情報を含む。第2工程において、情報I
Bを利用して、予圧を目標値に近づけるために必要となる、ハブ本体21の軸方向内側端部に加える軸方向荷重を決定する。一例において、さらに、第2工程において、第1工程において取得した情報(第2情報)I
Bだけでなく、かしめ部形成工程よりも前の工程において取得した情報のうち、特定の部品の寸法などの、予圧に影響を及ぼす因子に関する情報(第1情報)I
Aをも利用して、予圧を目標値に近づけるために必要となる、ハブ本体21の軸方向内側端部に加える軸方向荷重を決定する。情報(第1情報)I
Aは、ハブ本体21と内輪22a、22bとの組み合わせに関連する情報を含む。例えば、情報(第1情報)I
Aは、ハブ本体21と内輪22a、22bとを組み合わせる際に取得又は測定された情報を含む。一例において、荷重(軸荷重)を加える前に取得した第1情報I
Aと、荷重(軸荷重)を加えた状態で取得した第2情報I
Bとの両方に基づいて、中間かしめ部39を最終的なかしめ部26に加工する際の軸方向荷重が決定される。他の例において、荷重(軸荷重)を加える前に取得した第1情報I
Aのみに実質的に基づいて、中間かしめ部39を最終的なかしめ部26に加工する際の軸方向荷重が決定される。別の例において、荷重(軸荷重)を加えた状態で取得した第2情報I
Bのみに実質的に基づいて中間かしめ部39を最終的なかしめ部26に加工する際の軸方向荷重が決定される。さらに別の例において、第1情報及び第2情報の少なくとも1つと、第1及び第2情報とは異なる情報とに基づいて、中間かしめ部39を最終的なかしめ部26に加工する際の軸方向荷重が決定される。
【0042】
以下、かしめ部形成工程よりも前の工程において取得する情報I
Aと、第1工程において取得するI
Bとが、それぞれ具体的にどのような情報であるかを順番に説明した後、第2工程において、情報I
A、I
Bを利用して、予圧を目標値に近づけるために必要となる、ハブ本体21の軸方向内側端部に加える軸方向荷重を、具体的にどのように決定するかについて説明する。
【0043】
(かしめ部形成工程よりも前の工程)
本実施形態において、かしめ部形成工程よりも前の工程で取得する情報I
Aとして、3つの情報が採用される。情報I
Aに含まれる1つ目の情報は、ハブ本体21の嵌合面部23と内側内輪22a及び外側内輪22bとの嵌合代Sに関する情報である。このために、例えば、かしめ部形成工程よりも前の工程において、ハブ本体21の嵌合面部23の外径寸法と、内側内輪22a及び外側内輪22bの内径寸法とが測定される。このように測定したハブ本体21の嵌合面部23の外径寸法と内側内輪22a及び外側内輪22bの内径寸法との差である、嵌合代S(情報I
Aに含まれる1つ目の情報)が予め求められる。
【0044】
情報I
Aに含まれる2つ目の情報は、かしめ部26を形成する前の軸受アキシアル隙間Δaに関する情報である。情報I
Aに含まれる3つ目の情報は、内側内輪22a及び外側内輪22bを嵌合面部23に圧入するための圧入荷重F
pに関する情報である。これらの情報は、かしめ部26を形成する前のハブユニット軸受1の組立工程において取得される。次に、組立方法の1例について、
図1を参照して説明する。
【0045】
かしめ部26を形成する前のハブユニット軸受1は、例えば、次の手順で組み立てる。まず、保持器20aにより保持した軸方向内側列の転動体4aが、軸方向内側列の外輪軌道5aの径方向内側に配置される。保持器20bにより保持した軸方向外側列の転動体4bが、軸方向外側列の外輪軌道5bの径方向内側に配置される。次に、内側内輪22aが、外輪2の径方向内側に軸方向内側から挿入される。外側内輪22bが、外輪2の径方向内側に軸方向外側から挿入されることによって、軸受部組立体34が組み立てられる。
【0046】
次に、かしめ部26を形成する前の軸受アキシアル隙間として、軸受部組立体34の軸受アキシアル隙間△a(情報I
Aに含まれる2つ目の情報)を測定する。ここで、軸受アキシアル隙間は、アキシアル方向に関する軸受の内部隙間である。軸受部組立体34の軸受アキシアル隙間△aは、軸受部組立体34を構成する内側内輪22aと外側内輪22bとの互いに対向する軸方向側面同士を接触させた状態での、アキシアル方向に関する軸受部組立体34の内部隙間である。一例において、軸受アキシアル隙間△aは正(>0)である。このため、軸受アキシアル隙間△aは、内側内輪22aと外側内輪22bとの互いに対向する軸方向側面同士を接触させた状態で、内側内輪22a及び外側内輪22bと外輪2とを軸方向に相対移動させることに基づいて測定することができる。他の例において、軸受アキシアル隙間△aは別の値にできる。
【0047】
次に、軸受部組立体34に対して、軸方向外側のシール部材28の装着を行う。なお、軸方向内側のシール部材28は、この段階で装着せずに、かしめ部26を形成した後に装着する。
【0048】
次に、軸受部組立体34を構成する内側内輪22a及び外側内輪22bを、かしめ部26を形成する前のハブ本体21の嵌合面部23に軸方向内側(
図1において右側)から圧入する。これにより、内側内輪22a及び外側内輪22bを嵌合面部23に締り嵌めで外嵌するとともに、内側内輪22aと外側内輪22bとの互いに対向する軸方向側面同士を接触させる。また、外側内輪22bの軸方向外側面をハブ本体21の段差面24に接触させることで、かしめ部26を形成する前のハブユニット軸受1を得る。この際に、内側内輪22a及び外側内輪22bを嵌合面部23に圧入するための圧入荷重F
p(情報I
Aに含まれる3つ目の情報)を測定しておく。
【0049】
なお、上述のように軸受部組立体34を構成する内側内輪22a及び外側内輪22bを、かしめ部26を形成する前のハブ本体21の嵌合面部23に圧入すると、前記嵌合代Sに応じた分だけ内側内輪22a及び外側内輪22bが拡径され、軸受アキシアル隙間が正から負に向かう方向に変化する。この結果、この状態での軸受アキシアル隙間△a′は、負になる場合が多い。すなわち、かしめ部26を形成する前のハブユニット軸受1には、多くの場合、ある程度の予圧が付与されている。
【0050】
本実施形態において、その後、かしめ部26を形成し、かしめ部26により内側内輪22aの軸方向内側面を押さえ付けることによって、予圧を増大させる(すでに付与されている予圧を増大させる、又は、それまでに付与されていなかった予圧を付与し、かつ、予圧を増大させる)ことにより、予圧を目標値に近づける。
【0051】
(かしめ部形成工程の第1工程)
本実施形態において、第1工程で取得する情報I
Bとして、3つの情報を採用する。3つの情報は、第1工程における加工中に取得する。そこで、次に、第1工程における加工方法について説明する。
【0052】
第1工程では、
図3(a)及び
図3(b)に示すような第1成形型30を含む第1のかしめ加工装置を用いて、揺動鍛造により、円筒部25をかしめ部中間体39に加工する。なお、以下の説明中、上下方向は、図中の上下方向を意味する。
【0053】
第1成形型30は、ハブ3の上方に配置されており、ハブ3の中心軸αに対し所定角度θだけ傾斜した自転軸βを有する。また、第1成形型30は、下端部に、自転軸βを中心とする円環状の凹面である加工面部31を有している。第1成形型30は、上下方向の移動及びハブ3の中心軸αを中心とする揺動回転を可能とされており、かつ、自転軸βを中心とする自転を自在とされている。第1成形型30は、加工開始前の状態では、
図3(a)に示す位置よりも上方に位置しており、円筒部25に接触していない。
【0054】
第1成形型30を用いて、円筒部25に揺動鍛造を施す際には、ハブ本体21の変位を阻止した状態で、ハブ3に対して外輪2を回転させ、かつ、第1成形型30をハブ3の中心軸αを中心として揺動回転させる。そして、この状態で、第1成形型30を下方に移動させ、
図3(a)に示すように、第1成形型30の加工面部31を円筒部25に押し付ける。その結果、
図3(a)及び
図3(b)に示すように、かしめ部中間体39が形成される。すなわち、第1成形型30の加工面部31から円筒部25の円周方向一部に、上下方向に関して下方に向き、かつ、径方向に関して外方に向いた加工力を加える。また、この加工力を加える位置を、ハブ3の中心軸αを中心とする第1成形型30の揺動回転に伴って、円筒部25の円周方向に関して連続的に変化させる。これにより、円筒部25を軸方向外方に押し潰しつつ径方向外方に押し拡げるように塑性変形させることで、かしめ部中間体39が形成される。
【0055】
一例において、かしめ部中間体39は、
図3(b)に示すように、軸方向外側面が、内側内輪22aの軸方向内側面に接触しないか、あるいは、軸方向内側列の内輪軌道11aが変形しない程度に内側内輪22aの軸方向内側面に接触する形状を有する。例えば、かしめ部中間体39は、かしめ部中間体39の形成に伴って、予圧が変化しない形状である。一例において、このようなかしめ部中間体39を形成した時点で、揺動鍛造を終了する。その後、ハブ本体21に対して第1成形型30を上方に退避させる。
【0056】
本実施形態において、上述のようなかしめ部中間体39を形成するために、第1工程において揺動鍛造を終了する時点(タイミング)は、第1成形型30を揺動回転させるためのトルクである成形型回転トルクT
sに基づいて決定する。この点について、
図4を参照しつつ説明する。なお、成形型回転トルクT
sは、例えば、第1成形型30を揺動回転させるための図示しない成形型用電動モータの電流値に基づいて測定することができる。
【0057】
図4は、第1成形型30を用いた揺動鍛造のみによって、円筒部25をかしめ部26に加工した場合の、成形型回転トルクT
sの時間変化を示す線図である。この場合に、成形型回転トルクT
sは、揺動鍛造の開始後の第1段階(時間帯t1)で徐々に増大する。続く第2段階(時間帯t2)で成形型回転トルクT
sはほぼ一定の値に落ち着く。続く第3段階(時間帯t3)で成形型回転トルクT
sは、徐々に減少する。続く第4段階(時間帯t4)で成形型回転トルクT
sは、再びほぼ一定の値に落ち着く。
【0058】
揺動鍛造を施されたハブ本体21の軸方向内側端部は、第1段階〜第2段階(時間帯t1、t2)では、内側内輪22aの軸方向内側面に接触していない状態となる。第3段階(時間帯t3)では、軸方向内側列の内輪軌道11aが変形しない程度に、内側内輪22aの軸方向内側面に接触した状態となる。第4段階(時間帯t4)では、軸方向内側列の内輪軌道11aが変形する程度に、内側内輪22aの軸方向内側面に接触した状態となる。
【0059】
本実施形態において、成形型回転トルクT
sを確認しながら、第1段階〜第3段階(時間帯t1、t2、t3)におけるいずれかの時点で、第1工程における揺動鍛造を終了する。ただし、かしめ部26の形成作業の効率化を図る観点から、第1工程におけるハブ本体21の軸方向内側端部の加工量は、ある程度確保しておくことが望ましい。このため、第1工程における揺動鍛造を終了する時点は、第1段階(時間帯t1)よりも、第2段階(時間帯t2)や第3段階(時間帯t3)におけるいずれかの時点で終了するのが望ましい。この場合の具体的な終了の時点としては、例えば、第2段階(時間帯t2)に移行した直後の時点や、第3段階(時間帯t3)に移行した直後の時点が挙げられる。ここで、第2段階(時間帯t2)に移行した直後の時点とは、揺動鍛造の開始後に、成形型回転トルクT
sが最初にほぼ一定の値に落ち着き始めた時点(例えば、
図4中のQ1点)である。また、第3段階(時間帯t3)に移行した直後の時点とは、揺動鍛造の開始後に、成形型回転トルクT
sが最初にほぼ一定の値に落ち着いてから、成形型回転トルクT
sが減少し始めた時点(例えば、
図4中のQ2点)である。
【0060】
本実施形態において、第1工程における揺動鍛造は、第1成形型30からハブ本体21の軸方向内側端部に加わる軸方向荷重P
1と、第1成形型30を揺動回転させるための成形型回転トルクT
sと、第1成形型30の軸方向の移動速度V
sとを測定しながら行う。なお、軸方向荷重P
1は、例えば、第1成形型30を軸方向に移動させるための図示しない油圧機構内の油圧に基づいて測定することができる。また、移動速度V
sは、例えば、図示しないリニアスケールを用いて測定することができる。
【0061】
本実施形態において、第1工程で取得する情報I
Bに含まれる3つの情報として、第1工程における揺動鍛造を終了する時点における、軸方向荷重P
1と、成形型回転トルクT
sと、移動速度V
sとの、それぞれに関する情報を採用する。なお、情報I
Bは、上記の情報に代えて又は加えて、別の情報を含むことができる。
【0062】
(かしめ部形成工程の第2工程)
第2工程では、まず、予圧を目標値に近づけるために必要となる、ハブ本体21の軸方向内側端部に加える軸方向荷重P
2xを、かしめ部形成工程よりも前の工程で取得した情報I
Aと、第1工程で取得した情報I
Bとを利用して決定する。一例において、具体的には、下記の(1)式を用いて、軸方向荷重P
2xを算出する。(1)式では、軸方向荷重P
2xを従属変数とする。また、(1)式では、情報I
Aに含まれるそれぞれの情報(嵌合代S、軸受アキシアル隙間Δa、圧入荷重F
p)と、情報I
Bに含まれるそれぞれの情報(軸方向荷重P
1、成形型回転トルクT
s、及び移動速度V
s)と、予圧の目標値Xと、を独立変数に含む。
P
2x=k
1×S+k
2×Δa+k
3×F
p+k
4×P
1+k
5×T
s+k
6×V
s+k
7×X
・・・(1)
ここで、k
1、k
2、k
3、k
4、k
5、k
6、k
7は係数である。これらの係数は、予め、重回帰分析により求めておく。なお、これらの係数は、重回帰分析以外の、各種の実験やシミュレーションで求めておくこともできる。
【0063】
また、(1)式において、予圧の目標値Xは、任意の値に設定することができる。また、ハブユニット軸受1では、ハブ3に対して外輪2を回転させるためのトルクである外輪回転トルクT
gは、予圧に応じた大きさとなる。このため、(1)式において、予圧の目標値Xには、予圧の目標値に相当する外輪回転トルクT
gである、目標外輪回転トルクT
gxを入力することができる。なお、外輪回転トルクT
gは、ハブ3に対して外輪2を回転させるための図示しない外輪用電動モータの電流値に基づいて測定することができる。
【0064】
上述のようにして予圧を目標値に近づけるために必要となる、ハブ本体21の軸方向内側端部に加える軸方向荷重P
2xが算出される。続いて、軸方向荷重P
2xでかしめ部中間体39をかしめ部26に加工する。一例において、第1工程と第2工程との間で異なる工法及び/又は異なる装置を用いてかしめ部39が形成される。次に、この点について、具体的に説明する。
【0065】
第2工程では、第1工程で用いた第1のかしめ加工装置とは異なる装置、具体的には、
図5(a)及び
図5(b)に示すような第2成形型32を含む第2のかしめ加工装置を用いて、揺動鍛造により、かしめ部中間体39をかしめ部26に加工する。すなわち、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、ハブ本体21の変位を阻止し、かつ、ハブ3に対して外輪2を回転させながら、ハブ3の中心軸αを中心として揺動回転する第2成形型32の加工面部33をハブ本体21の軸方向内側端部(かしめ部中間体39)に押し付けることによって、かしめ部26を形成する。
【0066】
このような揺動鍛造によって、かしめ部26を形成する際には、第2成形型32からハブ本体21の軸方向内側端部に加わる軸方向荷重P
2を、徐々に大きくする。これにより、第2成形型32の下方への移動を進行させることで、ハブ本体21の軸方向内側端部の形状を、完成後のかしめ部26の形状に近づけていく。また、本例では、この際に、予め、軸方向荷重P
2の上限値が、軸方向荷重P
2xとなるように設定しておく。このために、例えば、第2成形型32を軸方向に移動させるための図示しない油圧機構おいて、制御弁により、軸方向荷重P
2を発生させるための油圧の値が、軸方向荷重P
2xに対応する値よりも大きくならないように設定しておく。この結果、本例では、軸方向荷重P
2が、軸方向荷重P
2xに達した時点で、軸方向荷重P
2の上昇が止まり、これと同時に、第2成形型32の下方への移動が止まる。その後、必要に応じて、第2成形型32の揺動回転を所定時間だけ継続させてから、第2工程における揺動鍛造を終了する。このようなかしめ部26の形成作業によって、予圧を増大させ、予圧を目標値に近づける。
【0067】
また、本実施形態において、第2成形型32の加工面部33は、
図5(b)に示す揺動鍛造の最終段階で、かしめ部26に対し、上下方向に関して下方に向き、かつ、径方向に関して内方に向いた加工力F
sを加えられる形状を有している(
図6参照)。換言すれば、第2成形型32の加工面部33は、
図5(b)に示す揺動鍛造の最終段階で、かしめ部26を押圧する部分が、径方向に関して外側に向かうほど上下方向に関して下側に向かう方向に傾斜した凹曲面形状を有している。
【0068】
このように、本実施形態では、第2工程における揺動鍛造の最終段階で、第2成形型32の加工面部33からかしめ部26に対し、上下方向に関して下方に向き、かつ、径方向に関して内方に向いた加工力F
sを加える。これによって、
図5(b)に矢印λで示すように、かしめ部26から嵌合面部23の内径側に材料が逃げ、かしめ部26から内側内輪22aに軸方向成分の大きい力が加わる。これにより、かしめ部26から内側内輪22aに径方向外方に向く過度な力が作用することが防止され、軸方向内側列の内輪軌道11aの形状精度が悪化するなどの不都合が生じることが防止される。
【0069】
なお、他の例において、第1工程と第2工程とで同じ工法又は同じ装置を用いてかしめ部39が形成される。例えば、第1工程と第2工程とで同じ形状の成形型を用いることが可能である。この場合は、ハブの中心軸に対する成形型の自転軸の傾斜角度である揺動角度θを、第2工程で第1工程よりも大きくすることによって、第2工程における揺動鍛造の最終段階で、成形型の加工面部からかしめ部に対し、上下方向に関して下方に向き、かつ、径方向に関して内方に向いた加工力を加えることもできる。あるいは、第1工程と第2工程とで揺動角度及び揺動中心を同じにすることもできる。
【0070】
以上のように、本実施形態のハブユニット軸受の製造方法によれば、予圧を調整すること、具体的には、予圧を目標値に近づけることができる。
【0071】
また、本実施形態では、かしめ部26の形成作業を第1工程と第2工程とに分けて行い、かつ、第1工程と第2工程とを、異なるかしめ加工装置を用いて行う。このため、ハブユニット軸受1の生産効率を高めることができる。すなわち、かしめ部26の形成作業を第1工程と第2工程とに分けて行えば、1工程あたりのかしめ加工時間を短くすることができるとともに、第1工程のかしめ加工が終了した後、続く第2工程のかしめ加工を行う間に、次のハブユニット軸受の第1工程のかしめ加工を開始することができる。したがって、その分、ハブユニット軸受1の生産効率を高めることができる。第1工程と第2工程との間で異なる工法及び/又は異なる装置を用いてかしめ部39を形成することは、例えば、第1工程及び第2工程にそれぞれ適した加工条件の設定に有利である。第1工程と第2工程とで同じ工法及び/又は同じ装置を用いてかしめ部39を形成することは、例えば、加工システムの簡素化に有利である。
【0072】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について、
図7〜
図10を用いて説明する。
【0073】
第2実施形態においても、かしめ部26を形成するかしめ部形成工程は、第1工程と第2工程とを備えている。第1工程は、かしめ部26を形成する前のハブ本体21の軸方向内側端部に備えられた円筒部25をかしめ部中間体39に加工する工程である(
図3(a)及び
図3(b)参照)。第2工程は、かしめ部中間体39をかしめ部26に加工する工程である(
図5(a)及び
図5(b)参照)。
【0074】
第1実施形態と異なり、第2実施形態では、第2工程における揺動鍛造を複数段階に分けて行う。また、それぞれの段階の揺動鍛造の終了後に、外輪回転トルクT
gを測定する。また、2段階目以降のそれぞれの段階において、ハブ本体21の軸方向内側端部に加える軸方向荷重P
2を、直前の段階の揺動鍛造の終了後に測定した外輪回転トルクT
gの情報を利用して決定する。これにより、予圧を調整する。すなわち、第2実施形態では、予圧の調整を、予圧の大きさに応じて変化する外輪回転トルクT
gを確認しながら行う。
【0075】
(かしめ部形成工程の第1工程)
本実施形態において、第1工程における揺動鍛造の前後、すなわち、ハブ本体21の円筒部25をかしめ部中間体39に加工する前後で、実質的に予圧が変化していないことを確認する。このために、具体的には、第1工程における揺動鍛造前の時点での外輪回転トルクT
g(未加工)と、第1工程における揺動鍛造後の時点での外輪回転トルクT
g(0)とを、それぞれ測定する。このように測定した第1工程における揺動鍛造の前後のそれぞれの時点での外輪回転トルクT
g(未加工)、T
g(0)が、
図7に示すように、ほぼ等しい大きさ(T
g(未加工)≒T
g(0))であること、換言すれば、両者の大きさに差があったとしても、この差が許容範囲に収まっていることを確認する。このような確認ができたならば、続く第2工程に移行する。
【0076】
(かしめ部形成工程の第2工程)
第2工程では、かしめ部中間体39をかしめ部26に加工するための揺動鍛造を複数段階に分けて行う。このような第2工程において、1段階目の揺動鍛造を行う際の軸方向荷重P
2(1)は、1段階目の揺動鍛造の終了後に、外輪回転トルクT
gが目標外輪回転トルクT
gxよりも小さくなるように調整しておく。なお、目標外輪回転トルクT
gxは、予圧が目標値になった状態での外輪回転トルクT
gであり、生産される同種の製品について、同じ大きさに決めておく。
【0077】
第2工程における1段階目の揺動鍛造を行う際には、第2成形型32からハブ本体21の軸方向内側端部に加わる軸方向荷重P
2の上限値が、軸方向荷重P
2(1)となるように設定しておく。このような設定をした上で、1段階目の揺動鍛造を開始すると、軸方向荷重P
2が徐々に上昇する。これに伴って、第2成形型32の下方への移動が進行していくことで、ハブ本体21の軸方向内側端部の形状が、完成後のかしめ部26の形状に近づいていく。そして、軸方向荷重P
2が、軸方向荷重P
2(1)に達した時点で、軸方向荷重P
2の上昇が止まり、これと同時に、第2成形型32の下方への移動が止まる。その後、必要に応じて、第2成形型32の揺動回転を所定時間だけ継続させてから、1段階目の揺動鍛造を終了する。そして、揺動鍛造の終了後、第2成形型32をハブ本体21の軸方向内側端部に対して上方に退避させ、外輪回転トルクT
g(1)を測定する。そして、
図8に示すように、その測定値T
g(1)と目標外輪回転トルクT
gxとの差△G(1)=T
gx−T
g(1)を求める。
【0078】
また、本実施形態において、
図9の線図に示すような関係、すなわち、次の段階の揺動鍛造を行う際の軸方向荷重P
2(
図9の線図の横軸の値)との関係を、予め、実験やシミュレーションにより求めておく。この関係は、目標外輪回転トルクT
gxの値よりも、現時点での外輪回転トルクT
g(例えば、T
g(1))の値が小さい場合に、これらの値の差ΔG=T
gx−T
g(
図9の線図の横軸の値)と、この差ΔGを0に近づけるために必要となる。このような関係を利用して、上述のように求めた差△G(1)から、2段階目の揺動鍛造を行う際の軸方向荷重P
2(2)を求める。
【0079】
このような軸方向荷重P
2(2)で、1段階目の揺動鍛造と同様にして、すなわち、第2成形型32からハブ本体21の軸方向内側端部に加わる軸方向荷重P
2の上限値が、軸方向荷重P
2(2)となるように設定して、2段階目の揺動鍛造を行う。揺動鍛造の終了後、第2成形型32をハブ本体21の軸方向内側端部に対して上方に退避させ、外輪回転トルクT
g(2)を測定する。
図10に示すように、その測定値T
g(2)が目標外輪回転トルクT
gxに十分に近づいていること、具体的には、測定値T
g(2)と目標外輪回転トルクT
gxとの差△G(2)=T
gx−T
g(2)が予め定めておいた閾値以下になっていることを確認する。
【0080】
なお、仮に、この確認作業において、測定値T
g(2)が目標外輪回転トルクT
gxよりも小さく、かつ、測定値T
g(2)と目標外輪回転トルクT
gxとの差△G(2)が予め定めておいた閾値を超えている場合、換言すれば、予圧が許容範囲に収まっていない場合には、予圧が許容範囲に収まっていることが確認されるまで、
図9の関係を利用して次の段階の揺動鍛造を行う際の軸方向荷重を求める作業と、求めた軸方向荷重で揺動鍛造を行う作業とを、繰り返し行う。
【0081】
なお、本実施形態において、製造方法を実施する場合には、第2工程において、2段階目以降の揺動鍛造を行う際の軸方向荷重の値として、
図9の関係を利用して求めた軸方向荷重P
2の値に、1未満の安全率ε(例えば、0.9≦ε<1)を掛けた値を採用することもできる。このようにすれば、2段階目以降の揺動鍛造後の外輪回転トルクT
gが目標外輪回転トルクT
gxよりも大きくなることを防ぎつつ、外輪回転トルクT
gを目標外輪回転トルクT
gxに十分に近づけることができる。
【0082】
以上のように、本実施形態において、予圧を調整すること、具体的には、予圧を目標値に近づけることができる。その他の構成及び作用は、第1実施形態と同様にできる。
【0083】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態について、
図11を用いて説明する。
【0084】
第3実施形態において、製造対象となるハブユニット軸受1aは、
図1に示したハブユニット軸受1との比較で、軸方向外側列の内輪軌道11bは、ハブ3aを構成するハブ本体21aの軸方向中間部の外周面に備えられている。また、ハブ本体21aは、軸方向内側部の外周面に、軸方向外側列の内輪軌道11bよりも小径の嵌合面部23aを有し、かつ、嵌合面部23aの軸方向外側端部に、軸方向内側に向いた段差面24aを有している。外周面に軸方向内側列の内輪軌道11aを有する内側内輪22aは、嵌合面部23aに締り嵌めで外嵌され、かつ、軸方向外側面を段差面24aに接触させている。この状態で、内側内輪22aの軸方向内側面は、ハブ本体21aの軸方向内側端部に備えられたかしめ部26により押さえ付けられている。また、ハブユニット軸受1aは、駆動輪用であるため、ハブ本体21aの中心部に、図示しない駆動軸をスプライン係合させるためのスプライン孔35を有している。
【0085】
ハブユニット軸受1aは、例えば、次のような手順で組み立てる。まず、保持器20aにより保持した軸方向内側列の転動体4aを、軸方向内側列の外輪軌道5aの径方向内側に配置するとともに、保持器20bにより保持した軸方向外側列の転動体4bを、軸方向外側列の外輪軌道5bの径方向内側に配置する。さらに、外輪2に軸方向外側のシール部材29を装着する。次に、外輪2の径方向内側に、かしめ部26を形成する前のハブ本体21aの軸方向中間部及び内側部を挿入する。次に、内側内輪22aを嵌合面部23aに圧入して、内側内輪22aの軸方向外側面を段差面24aに接触させる。このようなかしめ部26を形成する前のハブユニット軸受1aを組み立てた後、かしめ部26を形成する。なお、軸方向内側のシール部材29は、かしめ部26を形成した後に装着する。
【0086】
また、ハブユニット軸受1aは、かしめ部26を形成する前の組立状態、すなわち、上述のように内側内輪22aの軸方向外側面を段差面24aに接触させた組立状態で、ある程度の予圧が付与されており、その後に形成されるかしめ部26により内側内輪22aの軸方向内側面が押さえ付けられることによって、予圧が増大するようになっている。
【0087】
本実施形態において、このようなハブユニット軸受1aを製造対象として、実施の形態の第1例と同様のかしめ部26の加工方法を実施する。本実施形態において、かしめ部形成工程の第2工程で用いる、第1工程よりも前の工程で取得した予圧に影響を及ぼす因子に関する情報I
Aは、嵌合面部23aと内側内輪22aとの嵌合代S、嵌合面部23aに対する内側内輪22aの圧入荷重F
p、及びかしめ部26を形成する前の組立状態での軸受アキシアル隙間Δaとする。
【0088】
ただし、かしめ部26を形成する前の組立状態での軸受アキシアル隙間Δaを測定することが難しい場合には、軸受アキシアル隙間Δaに代えて、例えば、複列の外輪軌道5a、5bの列間幅W
oと、複列の内輪軌道11a、11bの列間幅W
iと、それぞれの列の転動体4a、4bの直径D
a、D
bと、それぞれの列の転動体4a、4bのピッチ円直径PCD
a、PCD
bとを測定し、これらの測定値を採用することができる。
【0089】
なお、複列の外輪軌道5a、5bの列間幅W
oは、軸方向内側列の外輪軌道5aと軸方向外側列の転動体4aとの接触部の中心位置と、軸方向外側列の外輪軌道5bと軸方向外側列の転動体4bとの接触部の中心位置との間の軸方向距離である。また、複列の内輪軌道11a、11bの列間幅W
iは、軸方向内側列の内輪軌道11aと軸方向外側列の転動体4aとの接触部の中心位置と、軸方向外側列の内輪軌道11bと軸方向外側列の転動体4bとの接触部の中心位置との間の軸方向距離である。
【0090】
本実施形態においても、第2工程では、まず、前記(1)式と同様の関係式を用いて、軸方向荷重P
2xを算出する。この関係式は、予圧を目標値に近づけるために必要となる、ハブ本体21aの軸方向内側端部に加える軸方向荷重P
2xを、当軸方向荷重P
2xを従属変数とし、かつ、情報I
Aに含まれるそれぞれの情報(嵌合代S、圧入荷重F
p、軸受アキシアル隙間Δa(又は、列間幅W
o、列間幅W
i、転動体4a、4bの直径D
a、D
b、及びピッチ円直径PCD
a、PCD
b))と、情報I
Bに含まれるそれぞれの情報(軸方向荷重P
1、成形型回転トルクT
s、及び移動速度V
s)と、予圧の目標値Xとを独立変数に含む。このように算出した軸方向荷重P
2xでかしめ部中間体39をかしめ部26に加工する。
【0091】
なお、揺動鍛造を行う際には、ワークに対する成形型の接触部は、成形型の揺動回転に伴って円周方向に移動するが、接触部の円周方向幅は、成形型の揺動角度θが大きくなるほど狭くなる。また、これに伴って、接触部の周辺のワークの塑性変形領域も狭くなる。一方、上述した駆動輪用のハブユニット軸受1aの場合、かしめ部26を形成する際に、ハブ本体21aに対する成形型の接触部は、第1工程よりも第2工程でスプライン孔35に近くなる。このため、特に、第2工程では、揺動鍛造を行う際のハブ本体21aの塑性変形領域がスプライン孔35に達しない程度に、第2成形型32(
図5(a)及び
図5(b)参照)の揺動角度θを大きくすることが望ましい。その他の構成及び作用効果は、第1実施形態と同様にできる。
【0092】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態について、
図12を用いて説明する。
【0093】
第4実施形態において、ハブユニット軸受の製造方法では、かしめ部形成工程の第1工程を行った後、かしめ部形成工程の第2工程を行う前に、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する内部空間27の軸方向内端開口を塞ぐシール部材29を、外輪2と内側内輪22aとの間に装着する工程を行う。すなわち、本実施形態では、外輪2と内側内輪22aとの間に軸方向内側のシール部材29を装着した状態で、かしめ部形成工程の第2工程を行う。
【0094】
また、本実施形態では、かしめ部形成工程の第2工程において、図示のような成形型36と複数個のローラ37とを含む第2のかしめ加工装置を用いる。成形型36は、ハブ本体21の上方に配置されている。また、成形型36は、ハブ本体21の中心軸αを中心とする円周方向に並べて配置されるとともに、互いに独立した上下方向移動を可能とされた複数個の成形型素子38を組み合わせてなる。複数個のローラ37は、成形型36の上方に配置されている。また、ローラ37は、ハブ本体21の中心軸αを中心とする円周方向に関して、成形型素子38の総数よりも少ない複数箇所に配置されている。より具体的には、ローラ37は、ハブ本体21の中心軸αを中心とする回転対称となる複数箇所に配置されている。特に本例では、ローラ37は、ハブ本体21の中心軸αを中心とする円周方向等間隔となる複数箇所に配置されている。
【0095】
第2工程のかしめ加工、すなわち、かしめ部26を形成するための2回目のかしめ加工を行う際には、成形型36の下側面をハブ本体21の軸方向内側部に当接させるとともに、複数個のローラ37を成形型36の上側面に押し付けた状態で、複数個のローラ37をハブ本体21の中心軸αを中心として円周方向に転送させる。これにより、複数個のローラ37を、順次、成形型素子38の上側面に押し付けることによって、成形型素子38の下側面を、順次、ハブ本体21の軸方向内側部に押し付けることで、ハブ本体21の軸方向内側部を径方向外方に塑性変形させて、かしめ部26を形成する。
【0096】
このようにしてかしめ部26を形成する際に、成形型36からハブ本体21の軸方向内側部に作用する加工力は、常に、ハブ本体21の中心軸αを中心とする回転対称となる複数箇所となる。このため、ハブ本体21の軸方向内側部に実質的に偏荷重を加えることなく、かしめ部26を形成することができる。したがって、かしめ部26の形成後に、かしめ部26から内側内輪22aに加わる力が円周方向に偏ることを容易に防げる。
【0097】
また、本実施形態では、内部空間27の軸方向内端開口を塞ぐシール部材29を装着した状態で第2工程を行うため、第2加工を行う際に、内部空間27の軸方向内端開口を通じて、外部から内部空間27に異物が侵入することが防止される。さらに、本実施形態では、かしめ部26を形成する際に、ハブ本体21の軸方向内側部に実質的に偏荷重が加わらないため、かしめ部26の形成中に、内側内輪22aが外輪2に対して径方向に変位することが防止され、シール部材29が損傷することが防止される。なお、本発明を実施する場合には、シール部材29を装着していない状態で、第2工程を行うこともできる。その他の構成及び作用効果は、第1実施形態と同様にできる。
【0098】
本発明は、上述した各実施形態を、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【0099】
例えば、第2実施形態と第4実施形態とを組み合わせて実施することができる。具体的には、第4実施形態のように、かしめ部形成工程の第1工程と第2工程との間に軸方向内側のシール部材を装着する工程を行う。また、第2工程において、ハブ本体の軸方向内側端部に対し、ハブ本体の中心軸を中心とする回転対称となる複数箇所に荷重を加えながら、かしめ部中間体をかしめ部に加工する方法を採用する場合に、第2実施形態ののように予圧調整を行うこともできる。なお、この場合には、第1工程が終了した時点での外輪回転トルクT
g(0)よりも、軸方向内側のシール部材を装着する工程が終了した時点での外輪回転トルクT
sg(0)の方が、シール部材のシールトルク(摺接抵抗)の分だけ大きくなる。そこで、この場合には、
図8及び
図10における1段階目の加工前の外輪回転トルクT
g(0)をT
sg(0)に置き換えたり、
図9のデータをシール部材を装着した後の関係にしたりするなど、第2工程で扱う外輪回転トルクのそれぞれを、前記シールトルクを考慮した値に変更すれば、第2実施形態で説明したような予圧調整を適切に行うことができる。
【0100】
なお、一実施形態において、かしめ部形成工程において、第2工程で用いる、第1工程で取得した情報I
Bに含まれる情報と、かしめ部形成工程よりも前の工程で取得した情報I
Aに含まれる情報は、それぞれ適宜の情報を選択することができる。また、第2工程では、情報I
Aと情報I
Bとのうちのいずれか一方のみを用いることもできる。
【0101】
一実施形態において、かしめ部を形成するためにハブ本体の軸方向内側端部に施すかしめ加工の方法については、従来から知られている各種方法を採用できる。また、かしめ部を形成する際に、ハブ本体の軸方向内側端部に偏荷重が加わらないようにするかしめ加工の方法としては、例えば、ハブ本体の軸方向内側端部の全周に成形型を押し付けながらかしめる方法や、特開2017−18991号公報(特許文献2)、特開2017−67254号公報(特許文献3)、及び特開2017−106510号公報(特許文献4)に記載された方法を採用することができる。
【0102】
一実施形態において、
図5(b)及び
図6に示したように、第2工程におけるかしめ加工の最終段階で、成形型の加工面部からかしめ部に対し、上下方向に関して下方に向き、かつ、径方向に関して内方に向いた加工力を加える方法は、揺動鍛造を行うかしめ加工装置に限らない。例えば、かしめ部に対して加工力を加える方法は、
図12に示したかしめ加工装置などの、他のかしめ加工装置においても適用可能である。
【0103】
一実施形態において、かしめ部形成工程の第2工程において、かしめ部を形成するのと同時に、かしめ部の軸方向内側面に円周方向に関する凹凸部であるフェイススプラインを形成する方法を採用することもできる。
【0104】
一実施形態において、かしめアセンブリの製造方法は、第1部材(21、21a)と、前記第1部材(21、21a)が挿入される孔(120)を有する第2部材(22a、22b)と、を軸方向に組み合わせる工程と、前記第1部材(21、21a)の軸端に前記軸方向の荷重を加えることにより、前記第2部材(22a、22b)に対するかしめ部(39、26)を前記第1部材(21、21a)に形成する工程であり、(a)前記荷重を加える前に取得した第1情報と(b)前記荷重を加えた状態で取得した第2情報との少なくとも1つに基づいて前記荷重を調整する工程を含む、前記工程と、を備える。
【0105】
一例において、前記第1情報は、前記第1部材(21)と前記第2部材(22a、22b)との前記組み合わせに関連する情報を含み、前記第2情報は、前記第1部材(21、21a)の物理的特性に関連する情報を含む。
【0106】
例えば、前記第1情報は、前記第1部材(21、21a)と前記第2部材(22a、22b)との前記組合わせ時に測定された情報を含む。
【0107】
一例において、少なくとも一時的に揺動かしめ法を用いて前記かしめ部(39、26)が形成される。
【0108】
一例において、前記かしめ部(39、26)を形成する工程は、所定の荷重で中間かしめ部(39)を形成する第1工程と、前記調整された荷重を前記中間かしめ部(39)に加えることにより前記かしめ部(26)を形成する第2工程と、を含む。
【0109】
一例において、前記第1工程と前記第2工程との間で異なる工法又は異なる装置を用いて前記かしめ部(39、26)が形成される、又は、前記第1工程と前記第2工程とで同じ工法又は同じ装置を用いて前記かしめ部(39、26)が形成される。
【0110】
一実施形態において、ハブユニット軸受(1、1a)は、外輪軌道(5a、5b)を有する外輪(2)と、内輪軌道(11a、11b)を有するハブ(3、3a)と、前記外輪軌道(5a、5b)と前記内輪軌道(11a、11b)との間に配置される複数の転動体(4a、4b)と、を備える。前記ハブ(3、3a)は、ハブ本体(21、21a)と、前記ハブ本体(21、21a)の外側に配置されかつ前記ハブ本体(21、21a)に保持された内輪(22a、22b)と、を有する。前記ハブユニット軸受(1、1a)を製造する方法は、前記ハブ本体(21、21a)と、前記ハブ本体(21、21a)が挿入される孔(120)を有する内輪(22a、22b)と、を軸方向に組み合わせる工程と、前記ハブ本体(21、21a)の軸端に前記軸方向の荷重を加えることにより、前記内輪(22a、22b)に対するかしめ部(39、26)を前記ハブ本体(21、21a)に形成する工程であり、(a)前記荷重を加える前に取得した第1情報と(b)前記荷重を加えた状態で取得した第2情報との少なくとも1つに基づいて前記荷重を調整する工程を含む、前記工程と、を備える。
【0111】
図13は、ハブユニット軸受(軸受ユニット)151を備える車両200の部分的な模式図である。本発明は、駆動輪用のハブユニット軸受、及び従動輪用のハブユニット軸受のいずれにも適用することができる。
図13において、ハブユニット軸受151は、駆動輪用であり、外輪152と、ハブ153と、複数の転動体156とを備えている。外輪152は、ボルト等を用いて、懸架装置のナックル201に固定されている。車輪(および制動用回22転体)202は、ボルト等を用いて、ハブ153に設けられたフランジ(回転フランジ)153Aに固定されている。また、車両200は、従動輪用のハブユニット軸受151に関して、上記と同様の支持構造を有することができる。
【0112】
本発明は、ハブユニット軸受のハブに限らず、第1部材と、第1部材が挿入される孔を有する第2部材とが軸方向に組み合わされた、他のかしめアセンブル(かしめユニット)にも適用可能である。