(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell;SOFC、以下「SOFC」とも記す)は、発電効率が高い、白金等の高価な触媒を必要としない、排熱を利用できるなどの利点を有するため、開発が盛んに進められている。
燃料電池は基本部分に、燃料極(アノード)/固体酸化物電解質/空気極(カソード)から構成される膜電極アセンブリもしくは膜電極複合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を備えている。さらに、燃料電池は、MEAの燃料極に接する燃料極集電体とその燃料極に水素等の燃料気体を供給する燃料極流路とを備え、燃料極に対をなす空気極側にも同様に、空気極に接する空気極集電体と、その空気極に空気を供給する空気流路とを備える。
【0003】
3価の元素をドープしたバリウムジルコネートは、高いプロトン伝導性を示す材料の中でもCO
2やH
2Oに対して比較的安定であることから、中温型燃料電池の固体電解質としての利用が期待されている。また、同様に3価の元素をドープしたバリウムセレートは、より高いプロトン伝導性を示す材料として知られている。
例えば、特開2001−307546号公報(特許文献1)には、燃料電池用のイオン伝導体として、式:BaZr
1−x−yCe
xM
yO
3−p(Mは3価の置換元素、xおよびyはそれぞれ0よりも大きく1未満の数値、x+yは1未満、pは0よりも大きく1.5未満の数値)で表されるペロブスカイト型酸化物を用いることが記載されている。
また、特開2007−197315号公報(特許文献2)には、燃料電池に用いられる混合イオン伝導体として、式:Ba
dZr
1−x−yCe
xM
3yO
3−t(M
3は3価の希土類元素、Bi、Ga、Sn、SbおよびInから選ばれる少なくとも1種の元素、dは0.98以上1以下、xは0.01以上0.5以下、yは0.01以上0.3以下、tは(2+y−2d)/2以上1.5未満)で表されるペロブスカイト型酸化物からなることを特徴とする混合イオン伝導体が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のペロブスカイト型酸化物のなかでも、イットリウムを添加したジルコン酸バリウム(BZY)やイットリウムを添加したセリウム酸バリウム(BCY)は、700℃以下の温度域でも良好なプロトン伝導性を示すことから中温型燃料電池の固体電解質部材として期待されている。そこで本発明者等はBZYやBCYのようなペロブスカイト型酸化物を用いて、アノード層、電解質層、カソード層の順に積層された固体電解質部材を作製することを検討した。具体的には、まず、アノード層材料を成形してから1000℃程度で仮焼結してアノード層材料成形体を作製し、続けてアノード層材料成形体の表面の片側に電解質層材料を塗布して1450℃程度で共焼結を行ない、最後にカソード層材料を塗布して1000℃程度で焼結を行ない、積層型の固体電解質部材の作製を試みた。しかしながら、大型の固体電解質部材を製造しようとすると、共焼結後のアノード層と電解質層との積層体に変形が起こってしまうという問題が見出された。更に、大型の積層体は共焼結後の収縮率も低く、緻密な電解質が出来上がっていないため、発電効率も低くなっていた。
【0006】
本発明者等はアノード層と電解質層との積層体の変形や収縮率の低下の原因を特定すべく種々検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
NiOとペロブスカイト型結晶構造を有する金属酸化物とを含むアノード層材料成形体を焼結する際には、通常は敷板(セッター)にアノード層材料成形体を載置して高温で焼結を行なう。金属酸化物としてBaZrO
3系のペロブスカイト型酸化物を含むアノード層材料成形体を焼結するとき、酸化ジルコニウム製の敷板を使用すると、
図4に示すように酸化ジルコニウム製の敷板41がアノード層材料成形体42に含まれるBaOを吸収してしまい、焼結性を悪くする原因となっていることが見出された。特に、アノード層材料成形体42の周縁部では反りが生じてしまい、浮き上がった部分では焼結が進んで収縮し、酸化ジルコニウム製の敷板41と接触したままの中央部ではBaOが吸収され続けて収縮せず焼結性が悪くなっていた。この焼結性のバラツキによる大きな反りの発生は、アノード層材料成形体を大型にするほど顕著であった。また、SrZrO
3系のペロブスカイト型酸化物の場合にも、酸化ジルコニウム製の敷板41がアノード層材料成形体42に含まれるSrOを吸収するため、同様に変形や収縮率の低下の問題が生じる。
一般に、酸化ジルコニウム製の敷板は焼結する材料との反応性が低いとされているが、BaOやSrOを含むアノード層材料成形体で大型のものを作製する場合には、上記のように変形や収縮率の低下という問題があることが見出された。
また、酸化アルミニウム製の敷板を用いた場合には、アノード層と電解質層との積層体の反りや変形は小さくできるものの、BaOやSrOが酸化アルミニウム製の敷板に吸収されて焼結性が悪くなり、収縮率の小さい積層体しか得られなかった。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決し、大型の固体電解質部材を、殆ど変形させずに、かつ焼結時の収縮率を大きくすることが可能な固体電解質部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る固体電解質部材の製造方法は、
アノード層を形成するためのアノード層材料を成形してアノード層材料成形体を作製する成形工程と、
前記アノード層材料成形体を焼結する焼結工程と、
を有する固体電解質部材の製造方法であって、
前記焼結工程は、酸化マグネシウム製の敷板に前記アノード層材料成形体を載置して、1300℃以上、1700℃以下に加熱して行い、
前記アノード層材料は、NiO、CuO及びFe
2O
3からなる群より選ばれた酸化物、又はこれらの混合物もしくは固溶体と、ペロブスカイト型結晶構造を有する金属酸化物と、を含み、
前記金属酸化物は、下記式[1]で表される金属酸化物又は下記式[1]で表される金属酸化物の混合物もしくは固溶体であ
り、
前記アノード層は、NiO、CuO及びFe2O3からなる群より選ばれた酸化物、又はこれらの混合物もしくは固溶体と、ペロブスカイト型結晶構造を有する前記金属酸化物とからなる(但し、不可避不純物を含み得る)、
固体電解質部材の製造方法、である。
A
aB
bM
cO
3−δ 式[1]
(式中、Aはバリウム(Ba
)及びストロンチウム(Sr)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、Bはセリウム(Ce)及びジルコニウム(Zr)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、Mはイットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、ガドリニウム(Gd)、インジウム(In)及びスカンジウム(Sc)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、aは0.85≦a≦1を満たす数、bは0.50≦b<1を満たす数、cはc=1−bを満たす数、δは酸素欠損量である。)
【発明の効果】
【0009】
上記発明によれば、大型の固体電解質部材を、殆ど変形させずに、かつ焼結時の収縮率を大きくすることが可能な固体電解質部材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
(1)本発明の一態様に係る固体電解質部材の製造方法は、
アノード層材料を成形してアノード層材料成形体を作製する成形工程と、
前記アノード層材料成形体を焼結する焼結工程と、
を有する固体電解質部材の製造方法であって、
前記焼結工程は、酸化マグネシウム製の敷板に前記アノード層材料成形体を載置して、1300℃以上、1700℃以下に加熱して行い、
前記アノード層材料は、NiO、CuO及びFe
2O
3からなる群より選ばれた酸化物、又はこれらの混合物もしくは固溶体と、ペロブスカイト型結晶構造を有する金属酸化物と、を含み、
前記金属酸化物は、下記式[1]で表される金属酸化物又は下記式[1]で表される金属酸化物の混合物もしくは固溶体である、
固体電解質部材の製造方法。
A
aB
bM
cO
3−δ 式[1]
(式中、Aはバリウム(Ba)、カルシウム(Ca)及びストロンチウム(Sr)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、Bはセリウム(Ce)及びジルコニウム(Zr)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、Mはイットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、ガドリニウム(Gd)、インジウム(In)及びスカンジウム(Sc)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、aは0.85≦a≦1を満たす数、bは0.50≦b<1を満たす数、cはc=1−bを満たす数、δは酸素欠損量である。)
上記(1)に記載の発明の態様によれば、大型の固体電解質部材を、殆ど変形させずに、かつ焼結時の収縮率を大きくすることが可能な固体電解質部材の製造方法を提供することができる。更に、上記(1)に記載の発明の態様によって得られる固体電解質部材は、焼結の前後での収縮率が大きいため緻密であり、燃料電池等に利用した場合に発電効率をより高くすることができる。
【0012】
(2)上記(1)に記載の固体電解質部材の製造方法は、
前記成形工程の後であって、かつ前記焼結工程の前に、
前記アノード層材料成形体を800℃以上、1100℃以下で仮焼結する仮焼結工程と、
前記仮焼結工程後の前記アノード層材料成形体の表面の片側に電解質層材料を塗布して乾燥させる電解質層材料塗布工程と、
を有し、
前記電解質層材料は前記金属酸化物を含むことが好ましい。
(3)上記(1)に記載の固体電解質部材の製造方法は、
前記焼結工程後の前記アノード層材料成形体の表面の片側に、前記金属酸化物を含む電解質層を気相法によって形成する電解質層形成工程、
を有することが好ましい。
上記(2)及び上記(3)に記載の発明の態様によれば、アノード層と電解質層とが積層された固体電解質部材を提供することができる。
【0013】
(4)上記(1)から上記(3)のいずれか一項に記載の固体電解質部材の製造方法は、
前記金属酸化物がBa
xZr
yCe
zY
1−y−zO
3−δ1(但し、xは0.85≦x≦1を満たす数、yは0≦y≦1を満たす数、zは0≦z≦1を満たす数、δ1は酸素欠損量であり、yとzは0.50≦y+z≦1を満たす)であることが好ましい。
上記(4)に記載の発明の態様によれば、プロトン伝導性がより高い固体電解質部材を提供することができる。
【0014】
(5)上記(2)から上記(4)のいずれか一項に記載の固体電解質部材の製造方法は、
前記焼結工程後又は前記電解質層形成工程後に、
前記アノード層材料成形体の表面に塗布された前記電解質材料の表面、又は前記アノード層材料成形体の表面に形成された前記電解質層の表面に、カソード層材料を塗布して焼結するカソード層形成工程、
を有することが好ましい。
上記(5)に記載の発明の態様によれば、電解質層がアノード層とカソード層とに挟まれた積層構造を有する固体電解質部材を提供することができる。
【0015】
[本発明の実施態様の詳細]
本発明の実施態様に係る固体電解質部材の製造方法の具体例を、以下に、より詳細に説明する。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0016】
本発明の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法は、少なくとも、成形工程と焼結工程とを有する。また、アノード層と電解質層が積層された構造の固体電解質部材を製造する場合には、仮焼結工程と電解質層材料塗布工程とを有するか、あるいは電解質層形成工程を有する。更に、電解質層上にカソード層が積層された構造の固体電解質部材を製造する場合にはカソード形成工程を有する。
以下に各工程を詳述する。
【0017】
−第1の実施形態−
本発明の第1の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法は、以下の成形工程と焼結工程とを有する。
<成形工程>
成形工程はアノード層材料を成形してアノード層材料成形体を作製する工程である。
アノード層材料は、NiO、CuO及びFe
2O
3からなる群より選ばれた酸化物、又はこれらの混合物もしくは固溶体と、ペロブスカイト型結晶構造を有する金属酸化物(以下では、単に「金属酸化物」と記す)と、を含むものであればよい。
金属酸化物は、下記式[1]で表される金属酸化物や、下記式[1]で表される金属酸化物の混合物もしくは固溶体であればよい。
A
aB
bM
cO
3−δ 式[1]
上記式[1]において、Aは、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)及びストロンチウム(Sr)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す。
上記式[1]において、Bは、セリウム(Ce)及びジルコニウム(Zr)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す。
上記式[1]において、Mは、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、ガドリニウム(Gd)、インジウム(In)及びスカンジウム(Sc)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す。特に、Mがイットリウム(Y)である場合には、固体電解質部材のプロトン伝導性がより高くなる。
【0018】
上記式[1]において、aは0.85≦a≦1を満たす数であればよく、0.88≦a≦0.98を満たす数であることがより好ましく、0.90≦a≦0.97を満たす数であることが更に好ましい。aが0.85以上であることにより高いプロトン伝導性を発現する。また、aが1以下であることにより化学的安定性が向上する。
上記式[1]において、bは0.50≦b<1を満たす数であればよく、0.70≦b≦0.95を満たす数であることがより好ましく、0.75≦b≦0.90を満たす数であることが更に好ましい。bが0.50以上であることによりプロトン伝導を阻害する相の析出を抑制することができる。また、bが1未満であることにより、固体電解質部材の伝導性がより高くなる。
上記式[1]において、cはc=1−bを満たす数である。
上記式[1]において、δは酸素欠損量であり、a、bの数値及び雰囲気に応じて決まる。
前記金属酸化物は、上記式[1]で表される化合物のなかでも、Ba
xZr
yCe
zY
1−y−zO
3−δ1(但し、xは0.85≦x≦1を満たす数、yは0≦y≦1を満たす数、zは0≦z≦1を満たす数、δ1は酸素欠損量であり、yとzは0.50≦y+z≦1を満たす)であることがより好ましい。
【0019】
アノード層材料における、NiO、CuO及びFe
2O
3からなる群より選ばれた酸化物、又はこれらの混合物もしくは固溶体の含有率は特に限定されるものではないが、線膨張係数及び発電効率のバランスを考慮すると、40質量%以上、90質量%以下であることが好ましく、60質量%以上、90質量%以下であることがより好ましい。
アノード層材料を成形する方法は特に限定されず、例えば、一軸成形やテープ成形等により行なえばよい。成形する形状も特に限定されず、直径が50mm以上の円形のものや、一辺の長さが50mm以上の矩形ものなど、所望の形状とすればよい。
アノード層材料は、強度と抵抗のバランスの観点から、厚みが300μm以上、5000μm以下となるように成形することが好ましく、400μm以上、3000μm以下とすることがより好ましく、500μm以上、2000μm以下とすることが更に好ましい。
【0020】
<焼結工程>
焼結工程は前記成形工程で作製したアノード層材料成形体を焼結する工程である。
図1に本発明の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法の一例を説明するための概略図を示す。焼結工程は
図1に示すように、酸化マグネシウム製の敷板11上に前記アノード層材料成形体12を載置して、1300℃以上、1700℃以下に加熱して行えばよい。
敷板としては酸化マグネシウム(MgO)製の敷板11を使用する。酸化マグネシウム製の敷板11は、全体が酸化マグネシウムによって形成されていてもよいし、少なくともアノード層材料成形体12を載置する面が酸化マグネシウムによって形成され、他の部分が酸化マグネシウム以外の材料によって形成されていても構わない。
【0021】
酸化マグネシウムはアノード層材料成形体12に含まれるBaOやSrOと反応しないため、酸化マグネシウム製の敷板11を使用することで、アノード層材料成形体12と酸化マグネシウム製の敷板11とが接触する面においてBaOやSrOが酸化マグネシウム製の敷板11中に吸収されないようにすることができる。このため、本発明の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法によれば、アノード層材料成形体を殆ど変形させず、焼結性にバラツキがなく均一に収縮した高収縮率の固体電解質部材(アノード層)とすることができる。また、焼結後の固体電解質部材(アノード層)は収縮率が高いため緻密になっており、燃料電池等に利用した場合に発電効率をより高くすることができる。
【0022】
アノード層材料成形体を焼結する温度は焼結性とコストの観点からは、1400℃以上、1600℃以下程度とすることがより好ましく、1400℃以上、1500℃以下程度とすることが更に好ましい。
また、焼結する雰囲気は、大気雰囲気、酸素雰囲気等であればよい。
焼結工程を行うことで、アノード層材料成形体はアノード層となる。
【0023】
−第2の実施形態−
本発明の第2の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法は、第1の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法に、更に、仮焼結工程及び電解質層材料塗布工程、あるいは電解質層形成工程、を有する。
仮焼結工程及び電解質層材料塗布工程は、前記成形工程の後であって、かつ前記焼結工程の前に行う工程である。
電解質層形成工程は、前記焼結工程の後に行う工程である。
本発明の第2の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法によれば、アノード層と電解質層とが積層された構造を有する固体電解質部材を製造することができる。
【0024】
<仮焼結工程>
仮焼結工程は、成形工程によって得られたアノード層材料成形体を仮焼結する工程である。
仮焼結する温度は800℃以上、1100℃以下程度とすればよく、より好ましくは900℃以上、1050℃以下程度、更に好ましく1000℃以上、1050℃以下程度である。
また、仮焼結する雰囲気は、大気雰囲気、酸素雰囲気等であればよい。
【0025】
<電解質層材料塗布工程>
電解質層材料塗布工程は、上記の仮焼結工程後のアノード層材料成形体(仮焼結体)の表面の片側に電解質層材料を塗布して乾燥させる工程である。
電解質層材料は、ペロブスカイト型結晶構造を有する金属酸化物を含むものであればよい。ペロブスカイト型結晶構造を有する金属酸化物としては、上記の成形工程において説明したアノード層材料に含まれる金属酸化物(前記式[1]で表される金属酸化物)と同じものを用いることができる。
電解質層材料を塗布する方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷やスプレー塗付等によって行なえばよい。
電解質層材料は、抵抗とガスリーク抑制の観点から、厚みが1μm以上、100μm以下となるように塗布することが好ましく、3μm以上、50μm以下とすることがより好ましく、5μm以上、40μm以下とすることが更に好ましい。
【0026】
電解質層材料塗布工程の後に、前述の焼結工程を行う。焼結工程は、
図2に示すようにアノード層材料成形体(仮焼結体)12が酸化マグネシウム製の敷板11と接するようにして焼結を行えばよい。電解質層材料塗布工程の後に焼結工程を行うことで、アノード層材料成形体(仮焼結体)12とその上に塗布された電解質材料13は均一に焼結されて、それぞれアノード層と電解質層になる。
【0027】
<電解質層形成工程>
上記の仮焼結工程及び電解質層材料塗布工程を行なう替わりに、電解質形成工程を行なうことによっても、アノード層と電解質層とが積層された構造を有する固体電解質部材を製造することができる。
電解質層形成工程は、焼結工程後のアノード層材料成形体の表面の片側に前記金属酸化物を含む電解質層を気相法によって形成する工程である。なお、焼結工程後のアノード層材料成形体は、均一に焼結されてアノード層となっている。
金属酸化物は、上記の成形工程において説明したアノード層材料に含まれる金属酸化物(前記式[1]で表される金属酸化物)と同じものであればよい。
金属酸化物を含む電解質層は、例えば、スパッタリング法やPLD(パルスレーザーデポジション)法よって形成することができる。
電解質層は、抵抗とガスリーク抑制の観点から、厚みが0.5μm以上、100μm以下となるように形成することが好ましく、1μm以上、50μm以下とすることがより好ましく、2μm以上、30μm以下とすることが更に好ましい。
【0028】
−第3の実施形態−
本発明の第3の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法は、第2の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法に、更にカソード層形成工程を有する。
第2の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法において、仮焼結工程及び電解質層材料塗布工程を行った場合には、カソード層形成工程は焼結工程の後に行えばよい。
第2の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法において、電解質層形成工程を行った場合には、カソード層形成工程は電解質層形成工程の後に行えばよい。
本発明の第3の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法によれば、電解質層がアノード層とカソード層とに挟まれた積層構造を有する固体電解質部材を製造することができる。
【0029】
<カソード層形成工程>
第2の実施形態に係る固体電解質部材の製造方法によって得られるアノード層と電解質層とが積層された構造を有する固体電解質部材にカソード層を形成する場合には、電解質層のアノード層が形成された面とは反対側の表面にカソード層材料を塗布して焼結すればよい。
カソード層材料は、特に限定されるものではなく、例えば、燃料電池のカソードとして用いられる公知の材料を用いることができる。なかでも、ランタンを含み、かつペロブスカイト構造を有する化合物(フェライト、マンガナイト、及び/又はコバルタイトなど)が好ましく、これらの化合物のうち、さらにストロンチウムを含むものがより好ましい。具体的には、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF、La
1−x4Sr
x4Fe
1−y2Co
y2O
3−δ、0<x4<1、0<y2<1、δは酸素欠損量である)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM、La
1−x5Sr
x5MnO
3−δ、0<x5<1、δは酸素欠損量である)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC、La
1−x6Sr
x6CoO
3−δ、0<x6≦1、δは酸素欠損量である)等が挙げられる。なお、これらのペロブスカイト型酸化物において、酸素欠損量δは、0≦δ≦0.15である。
カソード層材料の塗布方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷やスプレー塗付等によって行なえばよい。
カソード層材料は、プロトンと酸化剤との反応を促進させる観点から、厚みが1μm以上、100μm以下となるように塗布することが好ましく、5μm以上、50μm以下とすることがより好ましく、10μm以上、30μm以下とすることが更に好ましい。
焼結する温度は800℃以上、1200℃以下程度とすればよく、より好ましくは850℃以上、1150℃以下程度、更に好ましく900℃以上、1100℃以下程度である。
また、焼結する雰囲気は、大気雰囲気、酸素雰囲気等であればよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は例示であって、本発明の固体電解質部材の製造方法はこれらに限定されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲の記載によって示され、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0031】
[実施例1]
(成形工程)
アノード層材料としては、NiO粉末と、ペロブスカイト型結晶構造を有する金属酸化物のBaZr
0.8Y
0.2O
2.9(BZY)粉末と、を用いた。NiO粉末とBZY粉末と混合比は、NiOの含有率が70質量%となるようにした。前記アノード層材料を、イソプロパノールを溶媒としてボールミルで混合し、乾燥させた。乾燥後のアノード層材料を、直径140mmの円形で厚さが500μmとなるように一軸成形してアノード層材料成形体を作製した。
(仮焼結工程)
成形工程において得られたアノード層材料成形体を、大気下で、1000℃で仮焼結した。
(電解質層材料塗布工程)
電解質層材料としては、ペロブスカイト型結晶構造を有する金属酸化物のBaZr
0.8Y
0.2O
2.9(BZY)粉末を用いた。前記電解質層材料を、バインダーのエチルセルロース(エトキシ化度約49%)と、溶媒のαテルピネオールと混合してペースト状にした。この電解質層材料のペーストをスクリーン印刷により前記仮焼結後のアノード層材料成形体の表面の片側に塗布した。続いて、750℃に加熱して乾燥させ、バインダーと溶媒を除去した。更に、前記電解質層材料のペーストをスクリーン印刷により塗布し750℃で加熱してバインダーと溶媒を除去する工程を2回繰り返した。アノード層材料成形体の表面に塗布した電解質層材料の厚みは20μmとなるようにした。
(焼結工程)
電解質材料が塗布されたアノード層材料成形体(仮焼結体)を大気下、1400℃で共焼結した。焼結する際の敷板としては、酸化マグネシウム製のものを用いた。
これにより、アノード層と電解質層とが積層された構造を有する固体電解質部材No.1が得られた。
【0032】
[比較例1]
実施例1において、酸化ジルコニウム製の敷板を用いて焼結工程を行なった以外は実施例1と同様にして固体電解質部材No.2を作製した。
【0033】
[比較例2]
実施例1において、酸化アルミニウム製の敷板を用いて焼結工程を行なった以外は実施例1と同様にして固体電解質部材No.3を作製した。
【0034】
<評価>
(固体電解質部材の収縮率)
固体電解質部材No.1〜固体電解質部材No.3の直径を測定し、焼結前のアノード層材料成形体の直径と比較することで収縮率を算出した。
その結果、固体電解質部材No.1の収縮率は26%であり、固体電解質部材No.2の収縮率は23%であり、固体電解質部材No.3の収縮率は18%であった。
これにより、酸化マグネシウム製の敷板を用いて焼結した場合に収縮率が一番大きい固体電解質部材を作製することができることが示された。
【0035】
(固体電解質部材の変形具合)
固体電解質部材No.1、固体電解質部材No.2を平板上に静置し、各固体電解質部材の表面の高さを直径に沿って、レーザーを利用した高さ測定器によって測定した。その結果を
図3に表す。
図3において、縦軸は平板からの高さ(mm)を表し、横軸は直径方向の位置(mm)を表す。
図3より、酸化マグネシウム製の敷板を用いて焼結した固体電解質部材No.1は、高さ方向の変化が殆どなく、平坦に均一に焼結されていたことが分かる。また、酸化ジルコニウム製の敷板を用いて焼結した固体電解質部材No.2は、直径方向の両端部が大きく反り上がって変形していたことが分かる。
【0036】
以上により、酸化マグネシウム製の敷板を用いて焼結工程を行なうことで、高収縮率で反り等の変形が殆どない固体電解質部材を製造することができることが示された。