(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インク(以下、単に「水系インク」又は「インク」ともいう)は、顔料(A)、有機溶剤(B)、界面活性剤(C)及び水を含有するインクジェット記録用水系インクであって、該界面活性剤(C)が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩及びポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸塩から選ばれる1種以上の化合物(C−1)(以下、単に「化合物C−1」ともいう)と、アセチレングリコール及びアセチレングリコールのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上の化合物(C−2)(以下、単に「化合物C−2」ともいう)とを含み、該化合物(C−1)の含有量が、インク中、0.50質量%以上3.0質量%以下であり、該化合物(C−2)の含有量が、インク中、0.05質量%以上2.0質量%以下であり、該化合物(C−1)と該化合物(C−2)の質量比〔化合物(C−1)/化合物(C−2)〕が0.4以上10以下である。
なお、本明細書において、「印刷」とは、文字や画像を記録する印刷、印字を含む概念であり、「印刷物」とは、文字や画像が記録された印刷物、印字物を含む概念である。また、「水系」とは、インクに含有される媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味する。
【0009】
本発明の水系インクは、ノズルからインクを吐出しないで所定時間が経過した後のインクの吐出安定性(以下、単に「吐出安定性」ともいう)が優れ、優れた印字品質でかつ高い印字濃度の印刷物を得ることができるという優れた効果を奏する。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明において、化合物(C−1)は、インク中の顔料に吸着し、ポリオキシアルキレン部位による立体反発効果及び硫酸塩部位による静電反発効果により顔料の分散性を向上させ、これにより吐出安定性の向上に寄与すると考えられる。
また、化合物(C−1)は、同時に記録媒体上でのインク中に含まれる顔料の凝集緩和にも寄与する。これにより、インクが記録媒体上に着弾した際のドットの拡張が期待できる。一方で記録媒体上のドットから水がある程度蒸発し、有機溶剤が残存するような環境になると、静電反発力が弱まり顔料の凝集が起こり、顔料が記録媒体表面上に有効に残存することができる。そのため、ドットの拡張による印字品質の向上と浸透抑制による印字濃度向上に寄与すると考えられる。
更に、化合物(C−2)は、このドットが拡張する際に迅速にインクの表面張力を低下させ、記録媒体へのインクの濡れ性が向上し、ドットの拡張をより促進する。
本発明は、化合物(C−1)による顔料凝集の制御と化合物(C−2)によるインクの濡れ性の制御の相乗的な作用により、商業印刷に求められる低解像度で吐出液滴量の少ない高速印刷においても、吐出安定性が優れ、ドットの拡張が不足することなく、優れた印字品質でかつ高い印字濃度を達成することができると考えられる。
更に、化合物(C−1)及び化合物(C−2)の含有量を特定の範囲とし、化合物(C−1)と化合物(C−2)の質量比を制御することにより、化合物(C−1)と化合物(C−2)をそれぞれ単独で用いた際には達成できないレベルの優れた吐出安定性及び印字品質、並びに高い印字濃度を達成することができる。
【0010】
<顔料(A)>
本発明の水系インクは、顔料(A)を含有する。顔料(A)を含むことにより、染料に比べて印刷物の耐水性、耐候性が向上する。
顔料(A)は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料としては、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンから選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
顔料(A)は、水系インク中に、自己分散型顔料、ポリマー分散剤で分散された顔料、又は顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子として含有されることが好ましい。
【0011】
(自己分散型顔料)
本発明においては、自己分散型顔料を用いることもできる。自己分散型顔料とは、親水性官能基(カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性を有する親水性基、又は第4級アンモニウム基等のカチオン性を有する親水性基)の1種以上を直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である顔料を意味する。ここで、他の原子団としては、炭素数1以上12以下のアルカンジイル基、フェニレン基又はナフチレン基等が挙げられる。
顔料を自己分散型顔料とするには、例えば、親水性官能基の必要量を、常法により顔料表面に化学結合させればよい。より具体的には、硝酸、硫酸、ペルオキソ二硫酸、次亜塩素酸、クロム酸等の酸類等により液相酸化する方法やカップリング剤を用いて親水性官能基を結合する方法が好ましい。
親水性官能基の量は特に限定されないが、自己分散型顔料1g当たり100μmol以上3,000μmol以下が好ましく、親水性官能基がカルボキシ基の場合は、自己分散型顔料1g当たり200μmol以上700μmol以下が好ましい。
商業的に入手しうるカルボキシ基を有する自己分散型顔料の具体例としては、CAB−O−JET200、同300、同352K(以上、キャボット社製の商品名)、BONJET BLACK CW−1、同CW−2(以上、オリヱント化学工業株式会社製の商品名)、Aqua−Black162(東海カーボン株式会社製の商品名)、Sensijet Black SDP100、SDP1000、SDP2000(以上、センシエントテクノロジーズ社製の商品名)等が挙げられる。
上記の顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0012】
〔顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有ポリマー粒子)〕
(水不溶性ポリマー(a))
顔料(A)は、顔料(A)を含有する水不溶性ポリマー(a)の粒子(以下、単に「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)として含有されることが好ましい。
顔料含有ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマー(a)は、顔料分散作用を発現する顔料分散剤としての機能と、記録媒体への定着剤としての機能を有する。
ここで、「水不溶性」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であることを意味し、その溶解量は好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。水不溶性ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。水不溶性ポリマーがカチオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのカチオン性基を塩酸で100%中和した時の溶解量である。
水不溶性ポリマー(a)のインク中での存在形態は、顔料に吸着している状態、顔料を含有している顔料内包(カプセル)状態、及び顔料を吸着していない形態がある。顔料の分散安定性の観点から、本発明においては顔料含有ポリマー粒子の形態が好ましく、顔料を含有している顔料内包状態がより好ましい。
用いられるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、インクの吐出安定性を向上させる観点から、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物等のビニルモノマーの付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
【0013】
ビニル系ポリマーとしては、(a−1)イオン性モノマー(以下、「(a−1)成分」ともいう)と、(a−2)疎水性モノマー(以下、「(a−2)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a−1)成分由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位を有する。中でも、更に(a−3)マクロモノマー(以下、「(a−3)成分」ともいう)由来の構成単位を含有するものが好ましい。
【0014】
〔(a−1)イオン性モノマー〕
(a−1)イオン性モノマーは、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマー(a)のモノマー成分として用いられることが好ましい。イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。なお、イオン性モノマーには、酸やアミン等の中性ではイオンではないモノマーであっても、酸性やアルカリ性の条件でイオンとなるモノマーを含む。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上がより好ましく、メタクリル酸が更に好ましい。
カチオン性モノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0015】
〔(a−2)疎水性モノマー〕
(a−2)疎水性モノマーは、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリル酸エステル、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリル酸エステルとしては、炭素数1以上22以下のアルキル基を有するものが好ましく、炭素数6以上18以下のアルキル基を有するものがより好ましい。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上を意味し、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルから選ばれる1種以上を意味する。したがって「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる1種以上を意味する。以下における「(メタ)」も同義である。
【0016】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。芳香族基含有モノマーの分子量は、500未満が好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
(a−2)疎水性モノマーは、好ましくは芳香族基含有モノマーであり、より好ましくはスチレン系モノマー及び芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはスチレン系モノマーであり、より更に好ましくはスチレンである。
(a−2)疎水性モノマーは、前記のモノマーを2種以上使用してもよく、スチレン系モノマーと芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルを併用してもよい。
【0017】
〔(a−3)マクロモノマー〕
(a−3)マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマー(a)のモノマー成分として用いられることが好ましい。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(a−3)マクロモノマーの数平均分子量は1,000以上10,000以下が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(a−3)マクロモノマーとしては、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、芳香族基含有モノマー系マクロモノマー及びシリコーン系マクロモノマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロモノマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(a−2)疎水性モノマーで記載した芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロモノマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロモノマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0018】
〔(a−4)ノニオン性モノマー〕
水不溶性ポリマー(a)には、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、更に、(a−4)ノニオン性モノマー(以下、「(a−4)成分」ともいう)をモノマー成分として用いることが好ましい。
(a−4)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30)モノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;フェノキシ(エチレングリコール−プロピレングリコール共重合)(n=1〜30、その中のエチレングリコール:n=1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましく、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)モノ(メタ)アクリレートがより好ましい。
商業的に入手しうる(a−4)成分の具体例としては、NKエステルM−20G、同40G、同90G、同230G等(以上、新中村化学工業株式会社の商品名)、ブレンマーPE−90、同200、同350等、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800、同1000等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等(以上、日油株式会社の商品名)が挙げられる。
上記(a−1)〜(a−4)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
水不溶性ポリマー(a)製造時における、上記(a−1)〜(a−4)成分のモノマー混合物中の含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は水不溶性ポリマー(a)中における(a−1)〜(a−4)成分に由来する構成単位の含有量は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
(a−1)成分の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
(a−2)成分の含有量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、より更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
(a−3)成分を含有する場合、(a−3)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
(a−4)成分を含有する場合、(a−4)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、より更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0020】
(a−2)成分に対する(a−1)成分の質量比[(a−1)成分/(a−2)成分]は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.25以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.5以下である。
また、(a−3)成分を含有する場合、(a−2)成分及び(a−3)成分の合計量に対する(a−1)成分の質量比[(a−1)成分/〔(a−2)成分+(a−3)成分〕]は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、より更に好ましくは0.2以上であり、そして、好ましくは1以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.4以下、より更に好ましくは0.3以下である。
【0021】
(水不溶性ポリマー(a)の製造)
水不溶性ポリマー(a)は、モノマー混合物を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、メチルエチルケトンが好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、アゾ化合物が好ましく、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)がより好ましい。重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、2−メルカプトエタノールがより好ましい。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は、好ましくは50℃以上90℃以下、重合時間は好ましくは1時間以上20時間以下である。また、重合雰囲気は、好ましくは窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
水不溶性ポリマー(a)は、後述する顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、含有する有機溶媒を後述する工程Iに用いる有機溶媒として用いるために、そのまま水不溶性ポリマー(a)の溶液として用いることが好ましい。
水不溶性ポリマー(a)の溶液の固形分濃度は、顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。
【0022】
本発明で用いられる水不溶性ポリマー(a)の重量平均分子量は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点、並びに吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは20,000以上、より更に好ましくは30,000以上であり、そして、好ましくは500,000以下、より好ましくは400,000以下、更に好ましくは300,000以下、より更に好ましくは200,000以下、より更に好ましくは100,000以下である。
なお、重量平均分子量の測定は実施例に記載の方法により行うことができる。
【0023】
〔顔料含有ポリマー粒子の製造〕
本発明の水系インクは、顔料(A)を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有ポリマー粒子)を含有することが好ましい。
顔料含有ポリマー粒子は、水分散体として下記の工程I及び工程IIを有する方法により、効率的に製造することができる。
工程I:水不溶性ポリマー(a)、有機溶媒、顔料(A)、及び水を含有する混合物(以下、「顔料混合物」ともいう)を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(以下、「顔料水分散体」ともいう)を得る工程
【0024】
(工程I)
工程Iでは、まず、水不溶性ポリマー(a)を有機溶媒に溶解させ、水不溶性ポリマー(a)の有機溶媒溶液を得た後、顔料(A)、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を該溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。水不溶性ポリマー(a)の有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料(A)の順に加えることが好ましい。
水不溶性ポリマー(a)を溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、顔料(A)への濡れ性、水不溶性ポリマー(a)の溶解性、及び水不溶性ポリマー(a)の顔料(A)への吸着性を向上させる観点から、炭素数4以上8以下のケトンがより好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが更に好ましく、メチルエチルケトンがより更に好ましい。
水不溶性ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0025】
(中和)
水不溶性ポリマー(a)がアニオン性ポリマーの場合、中和剤を用いて水不溶性ポリマー(a)中のアニオン性基を中和してもよい。中和剤を用いる場合、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムが挙げられるが、水酸化ナトリウムが好ましい。有機アミンとしては、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
中和剤は、インクの吐出安定性を向上させる観点から、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアが好ましく、水酸化ナトリウムとアンモニアを併用することがより好ましい。また、水不溶性ポリマー(a)を予め中和しておいてもよい。
【0026】
中和剤は、十分かつ均一に中和を促進させる観点から、中和剤水溶液として用いることが好ましい。中和剤水溶液の濃度は、上記の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
水不溶性ポリマー(a)のアニオン性基の中和度は、顔料含有ポリマー粒子の顔料水分散体及びインク中における分散安定性を向上させる観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上であり、そして、好ましくは300モル%以下、より好ましくは200モル%以下、更に好ましくは150モル%以下である。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量を水不溶性ポリマーのアニオン性基のモル量で除したものである。
【0027】
(顔料混合物中の各成分の含有量)
工程Iにおける顔料(A)の顔料混合物中の含有量は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点、並びに吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは14質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
水不溶性ポリマー(a)の顔料混合物中の含有量は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点、並びに吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは4.0質量%以上、更に好ましくは5.0質量%以上であり、また、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
有機溶媒の顔料混合物中の含有量は、顔料(A)への濡れ性及び水不溶性ポリマーの顔料への吸着性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
水の顔料混合物中の含有量は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点、及び生産性を向上させる観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0028】
水不溶性ポリマー(a)に対する顔料(A)の顔料混合物中の質量比〔(A)/(a)〕は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点、並びに吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、好ましくは30/70以上、より好ましくは40/60以上、更に好ましくは50/50以上、より更に好ましくは60/40以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは75/25以下である。
【0029】
(顔料混合物の分散処理)
工程Iにおいては、前記顔料混合物を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得る。分散体を得る分散方法に特に制限はない。本分散だけで顔料粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは顔料混合物を予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、顔料粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
工程Iの予備分散における温度は、好ましくは0℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは25℃以下であり、分散時間は好ましくは0.5時間以上、より好ましくは0.8時間以上であり、また、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
顔料混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができるが、中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
【0030】
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidic社製)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて本分散を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは130MPa以上であり、また、好ましくは200MPa以下、より好ましくは180MPa以下である。
また、パス回数は、好ましくは3以上、より好ましくは10以上であり、また、好ましくは30以下、より好ましくは25以下である。
【0031】
(工程II)
工程IIでは、工程Iで得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(顔料水分散体)を得ることができる。得られた顔料水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた顔料水分散体は、顔料(A)を含有する固体の水不溶性ポリマー粒子が水を主媒体とする媒体中に分散しているものである。ここで、顔料含有ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料(A)と水不溶性ポリマー(a)により粒子が形成されていればよい。例えば、水不溶性ポリマー(a)に顔料(A)が内包された粒子形態、水不溶性ポリマー(a)中に顔料(A)が均一に分散された粒子形態、水不溶性ポリマー(a)の粒子表面に顔料(A)が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
顔料水分散体は、顔料(A)が、顔料(A)を含有する水不溶性ポリマー(a)の粒子として含有されてなることが好ましい。
【0032】
得られた顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及び水系インクの調製を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
なお、顔料水分散体の固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0033】
顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減し、水系インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは40nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは75nm以上であり、また、好ましくは150nm以下、より好ましくは120nm以下、更に好ましくは110nm以下である。
なお、顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
また、水系インク中の顔料含有ポリマー粒子は、該粒子の膨潤や収縮、該粒子間の凝集が生じないことが好ましく、水系インク中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、顔料水分散体中の平均粒径と同じであることが好ましい。水系インク中の顔料含有ポリマー粒子の好ましい平均粒径の態様は、顔料水分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じである。水系インク中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径も、実施例に記載の顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径と同様の方法により測定される。
【0034】
<有機溶剤(B)>
有機溶剤(B)は、水系インクの吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、該有機溶剤(B)の沸点が、好ましくは90℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上、より更に好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは250℃未満、より好ましくは240℃以下、更に好ましくは230℃以下、より更に好ましくは220℃以下であるものが好ましい。
なお、有機溶剤(B)として2種以上の有機溶剤を併用する場合には、有機溶剤(B)の沸点は、各有機溶剤の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値である。
【0035】
有機溶剤(B)は、好ましくは沸点90℃以上の多価アルコールを含む。該多価アルコールは、好ましくは沸点が250℃未満の化合物である。
沸点90℃以上の多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール(沸点197℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)、1,2−ブタンジオール(沸点193℃)、1,2−ペンタンジオール(沸点206)、1,2−ヘキサンジオール(沸点223℃)等の1,2−アルカンジオール;ジエチレングリコール(沸点244℃)、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、1,3−プロパンジオール(沸点210℃)、1,3−ブタンジオール(沸点208℃)、1,4−ブタンジオール(沸点230℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(沸点203℃)、1,5−ペンタンジオール(沸点242℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(沸点196℃)、1,2,6−ヘキサントリオール(沸点178℃)、1,2,4−ブタントリオール(沸点190℃)、1,2,3−ブタントリオール(沸点175℃)、ペトリオール(沸点216℃)等が挙げられる。
1,2−アルカンジオールの中では、吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは炭素数が2以上6以下の1,2−アルカンジオールであり、より好ましくはプロピレングリコールである。
1,2−アルカンジオール以外の多価アルコールの中では、吐出安定性を向上させる観点から、好ましくはジエチレングリコールである。
また、1,6−ヘキサンジオール(沸点250℃)、トリエチレングリコール(沸点285℃)、トリプロピレングリコール(沸点273℃)、グリセリン(沸点290℃)等の沸点が250℃以上の化合物を、沸点が250℃未満の化合物と組み合わせて用いることが好ましい。吐出安定性を向上させる観点から、沸点が250℃未満の化合物とグリセリンを併用することが好ましく、プロピレングリコール及びジエチレングリコールから選ばれる1種以上とグリセリンを併用することがより好ましく、プロピレングリコール、ジエチレングリコール及びグリセリンを併用することが更に好ましい。
【0036】
有機溶剤(B)は、吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、更に前記多価アルコール以外の有機溶媒を含んでもよい。
前記多価アルコール以外の有機溶媒としては、グリコールエーテル、前記多価アルコール以外のアルコール、該アルコールのアルキルエーテル、N−メチル−2−ピロリドン等の含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられる。吐出安定性を向上させる観点から、沸点90℃以上のグリコールエーテルが好ましい。前記多価アルコール以外の有機溶媒は1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0037】
グリコールエーテルの具体例としては、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられるが、吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、アルキレングリコールモノアルキルエーテルが好ましい。アルキレングリコールモノアルキルエーテルのアルキル基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、そして、好ましくは6以下、より好ましくは4以下である。アルキレングリコールモノアルキルエーテルのアルキル基は、直鎖又は分岐鎖が挙げられる。
アルキレングリコールモノアルキルエーテルの具体例としては、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールイソブチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエーテル(沸点158℃)等のエチレングリコールモノアルキルエーテル;プロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。
これらの中では、エチレングリコールモノアルキルエーテルが好ましく、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル及びジエチレングリコールイソプロピルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、エチレングリコールイソプロピルエーテル及びジエチレングリコールメチルエーテルから選ばれる1種以上がより好ましい。
【0038】
<界面活性剤(C)>
本発明の水系インクは、吐出安定性を向上させ、かつ記録媒体上での顔料凝集の制御とインクの記録媒体表面への濡れ性を制御し、印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、界面活性剤(C)を含有する。
界面活性剤(C)は、上記の観点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩及びポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸塩から選ばれる1種以上の化合物(C−1)と、アセチレングリコール及びアセチレングリコールのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上の化合物(C−2)とを含む。
【0039】
〔化合物(C−1)〕
化合物(C−1)は、インク中に含まれる顔料の良好な分散状態を得ることに寄与し、これにより吐出安定性が向上する。また、記録媒体上での顔料の凝集緩和にも寄与し、ドットの拡張を促進する。更に、記録媒体上のドットから水がある程度蒸発した際には、顔料の凝集が起こるため、ドットの拡張による印字品質の向上と浸透抑制による印字濃度向上に寄与する。
化合物(C−1)は、好ましくは下記式(I)で表される化合物である。
R
1O(AO)mSO
3M (I)
(式(I)中、R
1は炭素数8以上18以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、又はアリール基であり、AOは炭素数2以上4以下の直鎖又は分岐鎖のオキシアルキレン基であり、mはAOの平均付加モル数であり、Mはカチオンである。)
【0040】
化合物(C−1)のオキシアルキレン基であるAOは、好ましくはオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシ1−メチルトリメチレン基、オキシトリメチレン基、及びオキシテトラメチレン基から選ばれる1種以上であり、より好ましくはオキシエチレン基及びオキシプロピレン基から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはオキシエチレン基である。
化合物(C−1)のアルキレンオキシドの平均付加モル数であるmは、吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは1モル以上、より好ましくは5モル以上、更に好ましくは6モル以上、より更に好ましくは10モル以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは35モル以下、より好ましくは30モル以下、更に好ましくは20モル以下、より更に好ましくは15モル以下である。
前記式(I)において、Mで示されるカチオンは、水系インクの吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、好ましくはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン;アンモニウムイオン、炭素数1以上4以下のアルキル基で置換されたアンモニウムイオンであり、より好ましくはアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンである。
【0041】
前記式(I)において、R
1であるアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、顔料の分散性を向上させる観点から、好ましくは8以上、より好ましくは10以上であり、そして、入手性の観点から、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下、より更に好ましくは12である。具体的には、カプリル基、セチル基、ラウリル基、ミリスチル基、イソステアリル基、ステアリル基等のアルキル基;オレイル基等のアルケニル基が挙げられる。
【0042】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩又はポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩は、好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩又はポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸塩であり、より好ましくはポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンセチルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸塩及びポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸塩から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩である。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩は、例えば特開2001−151746号公報に記載の方法で製造することができる。具体的には天然アルコール又は合成アルコールのアルキレンオキシド付加物をクロルスルホン酸又は不活性ガスで希釈した三酸化硫黄ガスで硫酸化する方法により得られた硫酸化物を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アルカノールアミン等で中和して製造することができる。
商業的に入手しうるポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩としては、「エマール」、「ラテムル」(以上、花王株式会社製)等が挙げられる。
商業的に入手しうるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩の具体例としては、ラテムルWX(花王株式会社製)等が挙げられる。
【0043】
前記式(I)において、R
1であるアリール基は、好ましくはフェニル基、(ポリ)スチレン化フェニル基、トリル基、キシリル基であり、より好ましくは(ポリ)スチレン化フェニル基であり、更に好ましくはジスチレン化フェニル基である。
ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸塩は、好ましくはポリオキシアルキレン(ポリ)スチレン化フェニルエーテル硫酸塩であり、より好ましくはポリオキシエチレン(ポリ)スチレン化フェニルエーテル硫酸塩であり、更に好ましくはポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸塩である。
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸塩は、例えば特開2013−025093号公報に記載の、ジスチレン化フェノールのアルキレンオキシド付加物をスルファミン酸と反応させる方法により製造することができる。
商業的に入手しうるポリオキシアルキレン(ポリ)スチレン化フェニルエーテル硫酸塩としては、ラテムル(花王株式会社製)、ハイテノール(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0044】
化合物(C−1)は、水系インクの吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及びポリオキシエチレンアリールエーテル硫酸塩から選ばれる1種以上であり、より好ましくはポリオキシエチレンアリールエーテル硫酸塩であり、更に好ましくはポリオキシアルキレン(ポリ)スチレン化フェニルエーテル硫酸塩であり、より更に好ましくはポリオキシエチレン(ポリ)スチレン化フェニルエーテル硫酸塩であり、より更に好ましくはポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸塩である。
【0045】
〔化合物(C−2)〕
化合物(C−2)は、インクの表面張力を低下させ、記録媒体上にインクが着弾した際の濡れ広がり性の改善に寄与する。これにより顔料が記録媒体上に均一に付着し、印字品質が向上する。
化合物(C−2)におけるアルキレンオキシドは、インクの濡れ広がり性を改善し、印字品質を向上させる観点から、好ましくはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2以上4以下のアルキレンオキシドであり、より好ましくはエチレンオキシドである。
化合物(C−2)のアルキレンオキシドの平均付加モル数は、インクの濡れ広がり性を改善し、印字品質を向上させる観点から、好ましくは0モル以上、より好ましくは0.5モル以上、更に好ましくは1モル以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは25モル以下、より好ましくは15モル以下、更に好ましくは10モル以下、より更に好ましくは5モル以下、より更に好ましくは3モル以下である。
【0046】
化合物(C−2)としては、具体的には、好ましくは2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、及びこれらのエチレンオキシド(以下、「EO」ともいう)付加物から選ばれる1種以上であり、より好ましくは2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、及びこれらのEO付加物から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、及びそのEO付加物から選ばれる1種以上である。
2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールは、アセチレンと、目的とするアセチレングリコールに対応するケトン又はアルデヒドとを反応させることにより合成することができ、例えば藤本武彦著、全訂版「新・界面活性剤入門」(三洋化成工業株式会社出版、1992年)94頁〜107頁等に記載の方法で得ることができる。アセチレングリコールのEO付加物は、上記の方法で得られたアセチレングリコールにエチレンオキシドを所望付加数となる様に付加反応を行うことにより得ることができる。
【0047】
2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールの市販品としては、エアープロダクツアンドケミカル社のサーフィノール104(EO平均付加モル数:0モル、有効分100質量%)、同104PG−50(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのプロピレングリコール50質量%希釈品、EO平均付加モル数:0モル)が挙げられる。
また、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのEO付加物の市販品としては、サーフィノール420(EO平均付加モル数:1モル、有効分100質量%)、同465(EO平均付加モル数:10モル、有効分100質量%)、同485(EO平均付加モル数:30モル、有効分100質量%)等(いずれも商品名、エアープロダクツアンドケミカル社)、アセチレノールE81(EO平均付加モル数:8.1モル)、アセチレノールE100(EO平均付加モル数:10モル)、アセチレノールE200(EO平均付加モル数:20モル)等(いずれも商品名、川研ファインケミカル株式会社製)が挙げられる。
界面活性剤(C)は、化合物(C−1)及び(C−2)以外の他の界面活性剤を含んでもよいが、界面活性剤(C)中の化合物(C−1)及び(C−2)の合計含有量は、吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。
【0048】
(その他の成分)
本発明の水系インクには、上記成分の他に、通常用いられる保湿剤、湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0049】
[水系インクの製造方法]
本発明の水系インクは、顔料(A)、有機溶剤(B)、界面活性剤(C)、水、及び必要に応じてその他の成分を混合し、撹拌することによって得ることができる。
本発明に係る水系インクの各成分の含有量、インク物性は以下のとおりである。
【0050】
(顔料(A)の含有量)
水系インク中の顔料(A)の含有量は、印字濃度を向上させる観点から、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上、より更に好ましくは3.0質量%以上であり、そして、吐出安定性を向上させ、印字品質を向上させる観点から、好ましくは15.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、更に好ましく7.0質量%以下、より更に好ましくは5.0質量%以下、より更に好ましくは4.0質量%以下である。
【0051】
(顔料(A)と水不溶性ポリマー(a)との合計含有量)
水系インク中の顔料(A)と水不溶性ポリマー(a)との合計含有量は、顔料の分散性を向上させる観点から、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、より更に好ましくは3.5質量%以上、より更に好ましくは4.0質量%以上であり、そして、吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは17.0質量%以下、より好ましくは12.0質量%以下、更に好ましくは10.0質量%以下、より更に好ましくは8.0質量%以下、より更に好ましくは6.0質量%以下、より更に好ましくは5.0質量%以下である。
【0052】
(有機溶剤(B)の含有量)
水系インク中の有機溶剤(B)の含有量は、吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは25質量%以下である。
【0053】
(界面活性剤(C)の含有量)
水系インク中の化合物(C−1)の含有量は、インク中に含まれる顔料の分散状態を改質し、吐出安定性を向上させる観点、及びインクが記録媒体に着弾した際に記録媒体上での顔料の凝集を制御し、印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、0.50質量%以上であり、好ましくは0.75質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは1.2質量%以上であり、そして、吐出安定性を向上させ、印字濃度を高める観点から、3.0質量%以下であり、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.7質量%以下である。
なお、本発明において、水系インク中の化合物(C−1)の含有量は、配合前の界面活性剤有効分の量に基づく値である。
水系インク中の化合物(C−2)の含有量は、インクの表面張力を低下させ、紙面にインクが着弾した際の濡れ広がり性を改善し、印字品質を向上させる観点から、0.05質量%以上であり、好ましくは0.50質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上であり、そして、吐出安定性を向上させ、印字濃度を高める観点から、2.0質量%以下であり、好ましくは1.75質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1.3質量%以下である。
水系インク中の界面活性剤(C)の含有量は、吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下である。
【0054】
また、顔料の分散性を高め吐出安定性を改善しつつ、インクが紙面に着弾した際のインクの濡れ広がり速度と顔料の凝集速度を制御し、印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、化合物(C−1)と化合物(C−2)の質量比〔化合物(C−1)/化合物(C−2)〕は、0.4以上であり、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上、更に好ましくは1以上であり、そして、前記と同様の観点から、10以下であり、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2.5以下、より更に好ましくは2以下、より更に好ましくは1.5以下である。
【0055】
(水の含有量)
水系インク中の水の含有量は、吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上、より更に好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0056】
(水系インク物性)
水系インクの25℃の粘度は、吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは2.0mPa・s以上であり、より好ましくは3.0mPa・s以上であり、更に好ましくは5.0mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下であり、より好ましくは9.0mPa・s以下であり、更に好ましくは7.0mPa・s以下である。
なお、水系インクの粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0057】
水系インクの25℃のpHは、吐出安定性及び印字品質を向上させ、印字濃度を高める観点から、好ましくは7.0以上であり、より好ましくは8.0以上であり、更に好ましくは8.5以上である。また、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、pHは、好ましくは11.0以下であり、より好ましくは10.0以下であり、更に好ましくは9.5以下である。
なお、水系インクのpHは、実施例に記載の方法により測定される。
【0058】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、前記水系インクを用いて記録媒体に記録するインクジェット記録方法である。
本発明のインクジェット記録方法においては、シリアルヘッド方式及びラインヘッド方式等を用いることができるが、好ましくはラインヘッド方式のインクジェット記録ヘッドを有するインクジェット記録装置を用いて、本発明の水系インクを記録媒体上に吐出する。ラインヘッド方式のインクジェット記録ヘッドは、記録媒体の幅程度の長尺の記録ヘッドであり、記録ヘッドは固定して、記録媒体を搬送方向に移動させ、この移動に連動して記録ヘッドのノズル開口からインク液滴を吐出させ、記録媒体に付着させることにより、画像等を記録することができる。
印刷速度は、記録媒体の搬送速度換算で70m/min以上であることが好ましい。記録媒体の搬送速度とは、記録媒体が印刷の際に移動する方向に対して移動する速度のことである。
【0059】
記録媒体としては、普通紙、上質紙等の吸水性記録媒体、アート紙、コート紙等の低吸水性記録媒体、合成樹脂フィルム等の非吸水性記録媒体等が挙げられる。記録媒体は、ロール紙であることが好ましい。
インク液滴の吐出方式はピエゾ方式が好ましい。ピエゾ方式では、多数のノズルが、各々圧力室に連通しており、この圧力室の壁面をピエゾ素子で振動させることにより、ノズルからインク液滴を吐出させる。なお、サーマル方式を採用することもできる。
記録ヘッドの印加電圧は、高速印刷の効率性等の観点から、好ましくは5V以上、より好ましくは10V以上、更に好ましくは15V以上であり、そして、好ましくは40V以下、より好ましくは35V以下、更に好ましくは30V以下である。
【0060】
駆動周波数は、高速印刷の効率性等の観点から、好ましくは1kHz以上、より好ましくは5kHz以上、更に好ましくは10kHz以上であり、そして、好ましくは50kHz以下、より好ましくは40kHz以下、更に好ましくは35kHz以下である。
インクの吐出液滴量は、インク液滴の着弾位置の精度を維持する観点及び印字品質向上の観点から、1滴あたり好ましくは0.5pL以上、より好ましくは1.0pL以上、更に好ましくは1.5pL以上、より更に好ましくは2pL以上であり、そして、好ましくは30pL以下、より好ましくは10pL以下、更に好ましくは9pL以下である。前記水系インクを用いれば、吐出液滴量が少なくなるほど印字品質が向上し、本発明の効果がより発揮される。このような観点からは、例えば7pL以下とすることも好ましい。
【0061】
記録解像度は、好ましくは200dpi以上、より好ましくは300dpi以上であり、そして、好ましくは1200dpi以下、より好ましくは1000dpi以下、更に好ましくは800dpi以下、より更に好ましくは600dpi以下である。ここで、本発明における「記録解像度」とは、記録媒体に形成される1インチ(2.54cm)あたりのドットの数をいう。例えば「記録解像度が600dpi」とは、ノズル列の長さあたりのノズル孔の個数が600dpi(ドット/インチ)配置されたラインヘッドを用いて、記録媒体上にインク液滴を吐出すると、それに対応する1インチあたり600dpiのドットの列が、記録媒体の搬送方向と垂直な方向に形成され、そして、記録媒体を搬送方向に移動させながらインク液滴を吐出すると、記録媒体上には搬送方向にも1インチあたり600dpiのドットの列が形成されることをいう。本発明では、記録媒体の搬送方向に対して垂直な方向の記録解像度と、搬送方向の記録解像度は同じ値として表される。
水系インクの吐出安定性、印字品質及び印字濃度を総合的に考慮すると、記録解像度が300dpi以上800dpi以下、吐出液滴量が10pl以下の条件で、該水系インクを記録媒体上に吐出することが好ましい。
【0062】
水系インクの記録媒体上の付着量は、印字品質の向上及び印刷速度の観点から、固形分として、好ましくは0.1g/m
2以上であり、そして、好ましくは25g/m
2以下、より好ましくは20g/m
2以下、更に好ましくは15g/m
2以下である。
本発明のインクジェット記録方法においては、インク液滴を記録媒体上に吐出して記録した後、記録媒体上に着弾したインク液滴を乾燥する工程を有することが好ましい。
乾燥工程においては、印字品質の向上の観点から、記録媒体表面温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは50℃以上、より更に好ましくは60℃以上、より更に好ましくは65℃以上であり、そして、熱による記録媒体の変形抑制とエネルギー低減の観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、更に好ましくは120℃以下、より更に好ましくは90℃以下である。
前記水系インクは、記録解像度が300dpi以上800dpi以下、吐出液滴量が10pl以下の条件で、該水系インクを記録媒体上に吐出するインクジェット記録方法に用いることにより、その効果をより発揮させることができる。
【実施例】
【0063】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
【0064】
(1)水不溶性ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質として分子量が既知の単分散ポリスチレンを用いて測定した。
【0065】
(2)顔料含有ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS−8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定濃度は、5×10
−3%(固形分濃度換算)で行った。
【0066】
(3)固形分濃度の測定
30mlのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で更に15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0067】
(4)水系インクの粘度の測定
E型粘度計「TV−25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、25℃にて粘度を測定した。
【0068】
(5)水系インクのpHの測定
pH電極「6337−10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F−71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、25℃における水系インクのpHを測定した。
【0069】
製造例1(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
(1)水不溶性ポリマー(a1)の合成
メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製)14部、スチレン(和光純薬工業株式会社製)46部、スチレン系マクロモノマー「AS−6S」(商品名、東亞合成株式会社製、数平均分子量6,000、固形分50%)30部、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート「ブレンマーPP−1000」(商品名、日油株式会社製)25部、メチルエチルケトン25部を混合し、モノマー混合液140部を調製した。
反応容器内に、メチルエチルケトン18部及び連鎖移動剤である2−メルカプトエタノール0.03部、及び前記モノマー混合液の10%(14部)を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、モノマー混合液の残りの90%(126部)と前記連鎖移動剤0.27部、メチルエチルケトン42部及び重合開始剤2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)「V−65」(商品名、和光純薬工業株式会社製)3部を混合した混合液を滴下ロートに入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了から75℃で2時間経過後、前記重合開始剤3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、水不溶性ポリマー(a1)(重量平均分子量:60,000)の溶液を得た。水不溶性ポリマー(a1)溶液の固形分濃度は60%であった。
【0070】
(2)顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造
(工程I)
前記(1)で得られた水不溶性ポリマー(a1)の溶液を減圧乾燥させて得られた水不溶性ポリマー(a1)37部をメチルエチルケトン148部に溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液12.5部と25%アンモニア水2部、及びイオン交換水372部を加え、更にブラック顔料としてC.I.ピグメント・ブラック7(「モナーク800」、商品名、キャボット社製)100部を加え、顔料混合液を得た。中和度は100モル%であった。
得られた顔料混合液を、ディスパー翼を用いて7,000rpm、20℃の条件下で1時間混合し、予備分散して分散液を得た。得られた分散液を、マイクロフルイダイザー「高圧ホモジナイザーM-140K」(商品名、Microfluidics社製)を用いて、180MPaの圧力で15パス分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得た。
(工程II)
得られた顔料含有ポリマー粒子の分散体を、減圧下60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、遠心分離し、液層部分をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)でろ過して粗大粒子を除き、顔料含有ポリマー粒子の水分散体を得た。固形分濃度は20%であり、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は100nmであった。
【0071】
参考例1(水系インクの製造)
製造例1で得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:20%)24部(顔料3.5部、水不溶性ポリマー(a1)1.3部)、ジエチレングリコール5.0部、プロピレングリコール10.0部、グリセリン2.0部、化合物(C−1)としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(C−1a、EOの平均付加モル数18モル)1.5部、化合物(C−2)として2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド1モル付加物(C−2b、商品名:サーフィノール420、エアープロダクツアンドケミカル社製)1.2部、及び全量を100部となるようにイオン交換水を添加し、混合した。得られた混合液をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:1.2μm、材質:酢酸セルロース)で濾過し、粘度が5.5mPa・s、pHが8.8の水系インクを得た。
【0072】
参考例2
、実施例3〜10、比較例1〜6(水系インクの製造)
参考例1において、表1及び表2に示す配合組成とした以外は、
参考例1と同様の操作を行って、水系インクを得た。
表1及び表2中の各成分は下記のとおりである。
〔化合物(C−1)〕
C−1a:ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(EOの平均付加モル数:18モル)
C−1b:ポリオキシエチレン(ポリ)スチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、EOの平均付加モル数:12モル
C−1c:ポリオキシエチレン(ポリ)スチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、EOの平均付加モル数:17モル
〔化合物(C−2)〕
C−2a:サーフィノール465(エアープロダクツアンドケミカル社製の商品名、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド10モル付加物)
C−2b:サーフィノール420(エアープロダクツアンドケミカル社製の商品名、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド1モル付加物)
C−2c: サーフィノール104(エアープロダクツアンドケミカル社製の商品名、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール)
〔その他〕
C’−1:ラウリル硫酸ナトリウム、商品名「エマール0」、花王株式会社製
【0073】
<水系インクの評価試験>
調製例1(インクジェット印刷物の調製)
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、インクジェット記録ラインヘッド「UH-HA800」(商品名、パナソニック株式会社製)を装備した印刷評価装置(パナソニック株式会社製)に実施例及び比較例で得られた水系インクを充填した。
ラインヘッド印加電圧26V、吐出液適量8pl、記録解像度600dpi、吐出前フラッシング回数200発、負圧−4.0kPaを設定した。
また、印刷速度を75m/minに設定し、記録媒体として「UTOPIA INKJET MATTE 60T」(Appleton Coated社製)を用いて、印字命令を前記印刷評価装置に転送し、インクジェット記録方式で水系インクを記録媒体上に吐出し、印刷を行った。また、その印刷直後に、温風乾燥機(記録媒体表面温度:70℃)を通過させて印刷物を得て、下記の評価試験1〜3を行った。
【0074】
試験1(吐出安定性)
調製例1でインクジェット印刷物の調製を行った後、30分間前記印刷評価装置を停止させ、記録ラインヘッドを大気暴露させた。30分間経過後、再度印刷を再開した際の最初のベタ印刷物の吐出状態を観察し、下記式により吐出回復率(%)を算出した。また、以下の評価基準より吐出安定性を評価した。吐出回復率(%)が大きいほど良好であり、下記評価基準でB以上であれば実用に供することができる。
吐出回復率(%)=(30分間大気暴露後のベタ印刷の吐出面積/試験前のベタ印刷の吐出面積)×100
(評価基準)
A+:吐出回復率が85%以上である。
A:吐出回復率が80%以上85%未満である。
B:吐出回復率が65%以上80%未満である。
C:吐出回復率が65%未満である。
【0075】
試験2(印字品質性:ベタ埋まり特性)
調製例1で得られた印刷物の印字面をポータブル拡大カメラ「PIAS−II」(QEA社製)を用いて、640×480pixelsで画像を取り込み、画像解析ソフト「Image−J」を用いてベタ埋まり比率を下記の計算式を用いて算出した。また、ベタ埋まり比率を以下の評価基準より評価した。算出値が大きいほど良好である。下記評価基準でB以上であれば実用に供することができる。
ベタ埋まり比率(%)=(裏地の紙が隠れているピクセル数/全ピクセル数)×100
(評価基準)
A:ベタ埋まり比率が90%以上である。
B:ベタ埋まり比率が80%以上90%未満である。
C:ベタ埋まり比率が70%以上80%未満である。
D:ベタ埋まり比率が70%未満である。
【0076】
試験3(印字濃度)
調製例1で得られた印刷物を25℃、湿度50%で24時間放置後、印字面の印字濃度を測定した。印字濃度の測定にはマクベス濃度計(グレタグマクベス社製、品番:RD914)を用い、Duty100%で印字した黒の色濃度成分の数値を読み取った(測定条件:観測光源D65、観測視野2度、濃度基準DIN16536)。測定回数は、測定する場所を変え、双方向印字の往路において印字された部分から5点、復路において印字された部分から5点をランダムに選び、合計10点の平均値を算出した。また、印字濃度を以下の評価基準より評価した。算出値が大きいほど良好である。下記評価基準でB以上であれば実用に供することができる。
(評価基準)
A+:印字濃度が1.15以上である。
A:印字濃度が1.05以上1.15未満である。
B:印字濃度が1.00以上1.05未満である。
C:印字濃度が1.00未満である。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1及び表2から、実施例の水系インクは、比較例の水系インクに比べ、吐出安定性及び印字品質に優れ、高い印字濃度が達成されていることが分かる。
比較例1は、化合物(C−1)を用いていないため、実施例の水系インクに比べて印字品質性が劣る。
比較例2は、化合物(C−1)の含有量が0.3質量%であり、質量比〔化合物(C−1)/化合物(C−2)〕が0.25であるため、実施例の水系インクに比べて印字品質性が劣る。
比較例3は、化合物(C−1)の含有量が4.0質量%であるため、実施例の水系インクに比べて吐出安定性が劣り、印字濃度が低い。
比較例4は、質量比〔化合物(C−1)/化合物(C−2)〕が15であるため、実施例の水系インクに比べて印字品質性が劣る。
比較例5は、化合物(C−2)の含有量が2.5質量%であるため、実施例の水系インクに比べて印字濃度が低い。
比較例6は、質量比〔化合物(C−1)/化合物(C−2)〕が0.39であるため、実施例の水系インクに比べて印字品質性が劣る。