(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897951
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】カッターホイール
(51)【国際特許分類】
B28D 5/00 20060101AFI20210628BHJP
C03B 33/10 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
B28D5/00 Z
C03B33/10
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-256570(P2016-256570)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-108660(P2018-108660A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2019年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】地主 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩
【審査官】
永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−006832(JP,A)
【文献】
特開平09−188534(JP,A)
【文献】
特開2000−219527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
C03B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周面に互いに交わる2つの斜面によるV字形の刃先稜線を有し、この刃先稜線の全域に所定のピッチで溝部が加工され、前記溝部と残った刃先稜線部とが交互に形成されている円板状のカッターホイールであって、
前記溝部の深さが1〜3μmで形成され、この溝部の長さが当該溝部の深さの3.5〜8倍で形成され、前記刃先稜線部の長さが5〜15μmで形成されているカッターホイール。
【請求項2】
前記カッターホイールの直径が1〜5mmであり、前記2つの斜面が交わる刃先角度が90〜120°である請求項1に記載のカッターホイール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス等の脆性材料基板や、2枚の脆性材料基板を貼り合わせた貼り合わせ基板の表面に分断用のスクライブライン(切り溝)を加工する際に使用されるカッターホイール(スクライビングホイールともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板等の脆性材料基板(以下「基板」ともいう)を分断する加工では、カッターホイールを基板表面に押し付けてスクライブラインを形成し、その後、スクライブラインに沿って裏面側から外力を印加して基板を撓ませることにより、単位基板ごとに分断する方法が一般的に知られており、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
脆性材料基板にスクライブラインを加工するカッターホイールは、直径1〜4mmの円板体の円周面に互いに交わる2つの斜面によるV字形の刃先を有し、中心に取り付け用の軸受孔を備えたカッターホイールが用いられる。
【0004】
上記のカッターホイールとして、刃先稜線が滑らかに仕上げられたカッターホイール(以下これを「ノーマルカッターホイール」という)と、刃先稜線に所定のピッチで溝部(切り欠き)を設けたカッターホイール(以下これを「溝付きカッターホイール」という)とがある。後者の溝付きカッターホイールでは、溝部のピッチが例えば20〜200μmで形成され、溝部の刃先稜線方向に沿った長さが溝の深さに対して1.5〜2.5倍の比率で形成されているのが一般的である。
【0005】
これらのカッターホイールによって形成されるスクライブラインについて、
図3を参照しつつ説明する。
図3は、基板に形成されるスクライブラインのリブマーク及び垂直クラックを示すものであって、
図3(a)はスクライブライン方向に沿った断面図であり、
図3(b)はスクライブラインを直交する方向に沿った断面図である。
スクライブラインSは、基板表面のカッターホイールの食い込み痕跡である塑性変形領域と、塑性変形領域直下に生じ、基板Wの厚み方向に浸透する垂直クラック8とにより形成される。垂直クラック8の上部には、所定の深さにわたってリブマーク7と呼ばれる特徴的な痕跡が生じる。
図3のL1は基板W表面からのリブマーク量(深さ)を表し、L2は基板W表面からの垂直クラック量(浸透深さ)を表すものである。
【0006】
ノーマルカッターホイールでは、スクライブライン形成時にきれいな溝面を形成することができるものの、その反面、基板表面に対する食い込み力が小さく刃先が滑りやすいといった欠点がある。これに対し、刃先稜線に溝部(切り欠き)を設けた溝付きカッターホイールでは、溝部と刃先稜線部(凸部)とが交互に形成されているこれにより、ノーマルカッターホイールに比べて高いスクライブ荷重で基板表面に食い込むことができ、上記したリブマークや垂直クラックによるスクライブラインを効果的に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3787489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の溝付きカッターホイールであっても、液晶表示パネルなどの貼り合わせ基板におけるシール部直上でのスクライブラインの加工には問題があった。
図7及び
図8は、分断前の液晶表示パネルのマザー基板を示すものであって、2枚の大面積ガラス基板W、W、すなわち、液晶を駆動する薄膜トランジスタTFT(Thin Film Transistor)等の電子デバイスが形成されたガラス基板と、対向電極が形成されたガラス基板とを、シール部10を介して複数の液晶注入領域11をなすように貼り合わせて形成されている。そして、近年ではこのシール部10の直上位置で大面積ガラス基板Wにカッターホイール12でスクライブラインSを加工し、次の工程でスクライブラインSから単位製品に分断するようにしている。
【0009】
このシール部10の直上でカッターホイール12を用いてガラス基板WにスクライブラインSを加工する場合、従来の溝付きカッターホイールでは、シール部10の素材が持つ弾性等やシールによる基板の内部応力の変化により、基板表面に水平方向に走る不規則な亀裂(水平クラック)が生じやすく、あるいは垂直クラックが十分に形成できないといった問題点があった。垂直クラックが不十分であると、スクライブラインにおいて分断できなかったり、分断面に傷痕等の破壊が生じたりして端面強度が劣化するなどの不具合が発生し、不良品の発生頻度が高くなる。
【0010】
そこで本発明は、ガラス等の脆性材料基板に対して水平クラックが少なく、高浸透のスクライブラインを形成でき、これにより端面強度に優れた単位製品に分断することのできるカッターホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明では次のような技術的手段を講じた。すなわち本発明は、円周面に互いに交わる2つの斜面によるV字形の刃先稜線を有し、この刃先稜線の全域に所定のピッチで溝部が加工され、前記溝部と残った刃先稜線部とが交互に形成されている円板状のカッターホイールであって、前記溝部の深さが1〜3μmで形成され、この溝部の長さが当該溝部の深さの3.5〜8倍で形成され、前記刃先稜線部の長さが5〜15μmで形成されている構成とした。
ここで、前記カッターホイールの直径を1〜5mmとし、前記2つの斜面が交わる刃先角度が90〜120°とするのがよい。
【発明の効果】
【0012】
上記のごとく構成されたカッターホイールによれば、刃先稜線部のエッジが基板に食い込んで深いリブマークを形成すると共に、分断に必要な高浸透の垂直クラックを形成することができる。特に本発明では、溝部の長さを当該溝部の深さの3〜8倍と長くしたので、刃先稜線部に荷重を集中させ、基板に垂直クラックが浸透しにくい条件においてもスクライブラインを高浸透で加工することができるとともに、水平クラックの発生を抑制することができる。これにより、次のブレイク工程できれいな分断面でブレイクすることができ、端面強度に優れた単位製品を得ることができるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る溝付きカッターホイールの側面図。
【
図2】本発明に係る溝付きカッターホイールの正面図。
【
図3】脆性材料基板に形成されるスクライブラインを示す断面図。
【
図4】本発明に係る溝付きカッターホイールを用いたスクライブ試験データを示す図。
【
図6】本発明に係る溝付きカッターホイールのスクライブライン形成領域を棒グラフに表した図。
【
図7】加工対象となる貼り合わせ基板を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の溝付きカッターホイールについて、図に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る溝付きカッターホイールAを示す側面図であり、
図2はその正面図である。なお、
図1の円で囲った領域を同図右上において拡大して示した。この溝付きカッターホイールAは、工具特性に優れた金属材料、例えば超硬合金や焼結ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンド等から作製され、円板状のボディ1の中心に取り付け用の軸受孔2を有し、円周面に互いに交わる左右の斜面3a、3aからなる刃先稜線4が形成されている。溝付きカッターホイールAの直径Dは2〜4mmのものから選択されるが、本実施形態では直径Dを2mmとした。また、左右の斜面3a、3aが交わる刃先角度αが100°または105°、厚みが650μm、軸受孔2の内径が0.8mmで形成されている。
【0015】
さらに、本発明の溝付きカッターホイールAは、刃先稜線4の全域に所定のピッチで溝部5…が加工され、この溝部5と、残った刃先稜線部6とが交互に形成されることにより構成されている。
【0016】
本発明の溝付きカッターホイールAの第1の実施形態では、カッターホイール全周を275分割して溝部5を形成し、当該溝部5の深さ5bを2.5μmとし、溝部5の円周方向の長さ5aを深さ5bの約4.5倍の11.5μmとし、刃先稜線部6の円周方向の長さ6aを12.5μmで形成した。また、2つの斜面3a、3aが交わる刃先角度αを100°とした。以下、この第1の実施形態の溝付きカッターホイールをホイールNo.1とする。
第2の実施形態では、溝部5の分割数や溝部5の長さ5a及び深さ5b、刃先稜線部6の長さ6aがホイールNo.1と同じであって、刃先角度αを105°とした。以下、これをホイールNo.2とする。
第3の実施形態では、溝部5の分割数が275で、当該溝部5の深さ5bを3μmとし、溝部5の長さ5aを11.5μmとし、刃先稜線部6の長さ6aを12.5μmで形成した。また、刃先角度αを100°とした。以下、これをホイールNo.3とする。
第4の実施形態では、溝部5の分割数や溝部5の長さ5a及び深さ5b、刃先稜線部6の長さ6aがホイールNo.3と同じであって、刃先角度αを105°とした。以下、これをホイールNo.4とする。
第1の比較例では、溝部5の分割数が300で、当該溝部5の深さ5bを3μmとし、溝部5の長さ5aを9μmとし、刃先稜線部6の長さ6aを8.5μmで形成した。また、刃先角度αを100°とした。以下、これをホイールNo.5とする。
第2の比較例では、溝部5の分割数や溝部5の長さ5a及び深さ5b、刃先稜線部6の長さ6aがホイールNo.5と同じであって、刃先角度αを105°とした。以下、これをホイールNo.6とする。
【0017】
上記のごとく構成した溝付きカッターホイールAを、
図9に示すスクライブ装置Bのスクライブヘッド13に取り付け、テーブル14上に載置したガラス基板Wの表面に押し付けながら相対的に直線移動させることにより、ガラス基板Wの表面に分断用のスクライブラインSを加工する。
このとき、上記したホイールNo.1〜6の溝付きカッターホイールAでは、いずれの場合も
図4、5に示す通り、ガラス基板Wにリブマークを形成することができ垂直クラックを形成することができた。
【0018】
図4はホイールNo.1〜6の各溝付きカッターホイールAをそれぞれ0.05MPa、0.06MPa、0.07MPaのスクライブ荷重でガラス基板Wに対し複数回ずつスクライブ試験したときのリブマーク量L1、及び垂直クラック量L2の平均値を示すものである。なお、加工対象となるガラス基板Wは厚み0.2mmのものを用いた。
さらに、
図5は、
図4の各数値データを線グラフで表したものであって、
図5(a)は基板表面からリブマークの深さを示すものであり、
図5(b)は基板表面からリブマークを含めた垂直クラックの深さを示すものである。
また、
図6は各溝付きカッターホイールAのスクライブ荷重の観点から見たスクライブライン形成領域を棒グラフで表したものである。
【0019】
これによれば、本発明に係るホイールNo.1〜6の溝付きカッターホイールAでは、最低の42.99μmから最高で62.99μmの深いリブマーク量L1が検出された。また、垂直クラック量L2でも最低の174.20μmから最高で190.12μmの高浸透の数値が検出された。この試験データから、ガラス基板Wに確実にリブマークを形成すると共に、分断に必要な垂直クラックが形成されたことがわかる。
【0020】
ここで、
図6から、刃先角度100°のNo.1、3、5については比較的低荷重からリブマークが形成され、垂直クラックが生じていることがわかる。しかし、比較例であるNo.5においては、全ての領域で垂直クラックが比較的浅くなっており、特に低荷重側の0.05MPaで差が大きくなっている。このことからは、同じ荷重でスクライブしていても、No.1、3においてはより効率的に基板に荷重が伝えられていると考えられる。
本試験条件においては、刃先角度100°で特にこのような傾向が顕著であるが、基板の厚さ等を変更したスクライブ条件においては刃先角度105°においても同様の傾向が見られた。
このように、溝部5の長さ5aを溝部5の深さ5bの3.5〜8倍と長くしたことで、刃先稜線部6のエッジに荷重が集中し、スクライブ領域の低荷重側においても効率良く深い垂直クラックを形成することができるとともに、余分な荷重による水平クラックが発生しにくくなる。
通常、シール上でのスクライブにおいては、基板の内部応力の変化により垂直クラックが入りにくく、一方で水平クラックが生じやすい。しかし、
図4に示すようなスクライブ形成領域の0.05MPaの比較的低いスクライブ荷重で、スクライブラインSを高浸透で加工することが容易にできる。これにより、水平クラックの発生を抑制し、次のブレイク工程できれいな分断面でブレイクすることができ、端面強度に優れた単位製品を得ることが可能となる。
【0021】
なお、試験データの提示は省略するが、上記の直径2mmの溝付きカッターホイールAと同じ刃先構成を有する直径3mmの溝付きカッターホイールや直径4mmの溝付きカッターホイールの場合でも、上記した直径2mmの溝付きカッターホイールAと同じような深いリブマークと高浸透の垂直クラックを有するきれいなスクライブラインを形成することができた。
【0022】
上記した溝付きカッターホイールAの溝部5の長さ5a及び深さ5bの数値は、最も好ましい一例として示したものであって、本発明は上記の数値に限定されるものではなく以下の範囲内で実施することができる。すなわち、溝部5の深さ5bは1〜3μm、溝部5の長さ5aは深さ5bの3.5〜8倍、刃先稜線部の長さが5〜15μmの範囲内で実施可能である。また、刃先角度αも90〜120°の範囲のものが許容できる。さらに、溝部5の側面形状も、
図1に示した台形状に代えてV字形状や円弧形状としてもよい。
【0023】
以上、本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものではなく、本発明の目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、ガラス等の脆性材料基板や、2枚の脆性材料基板を貼り合わせた貼り合わせ基板の表面に分断用のスクライブラインを加工する際に使用されるカッターホイールに好適に利用される。
【符号の説明】
【0025】
A 溝付きカッターホイール
B スクライブ装置
S スクライブライン
W 脆性材料基板
α 刃先角度
1 ボディ
2 軸受孔
3a 斜面
4 刃先稜線
5 溝部
5a 溝部の長さ
5b 溝部の深さ
6 刃先稜線部
6a 刃先稜線部の長さ
7 リブマーク
8 垂直クラック