特許第6897963号(P6897963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897963
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】固定装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/02 20060101AFI20210628BHJP
   B23B 31/175 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   B23B31/02 610Z
   B23B31/175
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-150038(P2017-150038)
(22)【出願日】2017年8月2日
(65)【公開番号】特開2019-25622(P2019-25622A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和弘
【審査官】 村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−238364(JP,A)
【文献】 特開平05−192886(JP,A)
【文献】 特開2002−120106(JP,A)
【文献】 特開平03−043174(JP,A)
【文献】 実開平04−122432(JP,U)
【文献】 特開平06−079569(JP,A)
【文献】 特開2000−079505(JP,A)
【文献】 米国特許第3684304(US,A)
【文献】 特公昭46−035832(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の両端に第1端部及び第2端部を有する筒状の本体部と、当該本体部の前記第1端部を塞ぐ閉鎖部とを有し、前記本体部の外周面に前記軸を挟んで対向する一対の貫通孔が形成されたワークを、固定するための固定装置であって、
基台部と、
前記基台部上に配置され、前記ワークが設置される支持台と、
前記支持台を前記基台部から離れる方向に付勢する付勢部材と、
前記貫通孔に対して進退する一対の挿入部材と、
を備え、
前記ワークを前記支持台に設置したとき、前記各貫通孔の軸線が、前記各挿入部材の軸線よりも、前記支持台から離れるように、前記付勢部材が構成され、
前記各挿入部材を前記各貫通孔に挿入したとき、前記各貫通孔の軸線と前記各挿入部材の軸線とが一致するように、前記支持台が前記基台部側に押圧されるように構成されている、固定装置。
【請求項2】
前記基台部から突出し、前記支持台上に設置された前記ワークに対し、当該ワークの内部空間に前記第2端部側から挿入可能な突出部材をさらに備えている、請求項1に記載の固定装置。
【請求項3】
前記貫通孔に挿入された前記各挿入部材が、前記突出部材と係合するように構成されている、請求項2に記載の固定装置。
【請求項4】
前記各挿入部材の外周面に取り付けられ、前記各挿入部材が前記突出部材と係合したとき、前記各貫通孔の内壁面を押圧するよう拡径する拡径部材をさらに備えている、請求項に記載の固定装置。
【請求項5】
前記ワークには、前記貫通孔が形成され、当該ワークの内壁面から前記内部空間へ突出する一対の厚肉部が形成されており、
前記突出部材は、前記一対の厚肉部の間に挿入されるように構成されている、請求項から4のいずれかに記載の固定装置。
【請求項6】
前記各挿入部材を支持し、前記基台部上で前記各挿入部材の移動する第1方向に移動可能な一対のスライド部材と、
前記突出部材の延びる第2方向に進退可能な可動部材と、
前記可動部材の第2方向の移動を、前記各スライド部材の第1方向の移動に変換する変換機構と、
をさらに備えている、請求項から5のいずれかに記載の固定装置。
【請求項7】
前記基台部は、前記ワークの軸線周りに回転可能に構成されている、請求項1から5のいずれかに記載の固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジン用のピストンを旋盤等で機械加工する際に、ピストンを主軸に固定する固定装置が開示されている。このピストンは、筒状の本体部と、その一端部を塞ぐ閉鎖部とを備え、これらが一体的に形成されている。したがって、本体部の他端部は内部空間に通じるように開口している。そして、本体部の外周面には対向する一対のピン穴が形成されている。
【0003】
このようなピストンを固定するため、特許文献1に係る装置は、ストッパと、このストッパから突出しピストンの開口に挿入される一対のフィンガジョーと、を備えている。開口に挿入された一対のフィンガジョーは、互いに離間し、先端の係合爪をピン穴に係合する。その後、フィンガジョーを下降させると、フィンガジョーとともにピストンも下降し、ピストンは、ストッパに固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−131293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記装置では、フィンガジョーをピン穴に係合させるステップと、フィンガジョーを下降させるステップとで、ピストンを固定する。したがって、ピストンを固定するには、2つの動作が必要になり、そのための制御が煩雑であるという問題がある。なお、このような問題は、ピストンに限定されるものではなく、筒状の本体部と、その一端部を塞ぐ閉鎖部とを備え、本体部の外周面に一対のピン穴が形成されているようなワーク全般を固定するのに起こり得る問題である。本発明は、この課題を解決するものであり、上記のようなワークを簡易な構成並びに制御で固定することが可能な、固定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軸方向の両端に第1端部及び第2端部を有する筒状の本体部と、当該本体部の前記第1端部を塞ぐ閉鎖部とを有し、前記本体部の外周面に前記軸を挟んで対向する一対の貫通孔が形成されたワークを、固定するための固定装置であって、基台部と、前記基台部上に配置され、前記ワークが設置される支持台と、前記支持台を前記基台部から離れる方向に付勢する付勢部材と、前記貫通孔に対して進退する一対の挿入部材と、を備え、前記ワークを前記支持台に設置したとき、前記各貫通孔の軸線が、前記各挿入部材の軸線よりも、前記支持台から離れるように、前記付勢部材が構成され、前記各挿入部材を前記各貫通孔に挿入したとき、前記前記各貫通孔の軸線と前記各挿入部材の軸線とが一致するように、前記支持台が前記基台部側に押圧されるように構成されている。
【0007】
この構成によれば、ワークを支持台に設置したとき、各貫通孔の軸線が、各挿入部材の軸線よりも、支持台から離れるように、付勢部材が調整されている。そして、各挿入部材を各貫通孔に挿入したとき、各貫通孔の軸線と各挿入部材の軸線とが一致するように、支持台が基台部側に押圧されるように構成されている。したがって、ワークを固定するための制御としては、挿入部材を貫通孔に挿入するだけであるため、ワークを簡易な構成ならびに制御で固定することができる。
【0008】
上記固定装置においては、前記基台部から突出し、前記支持台上に設置された前記ワークに対し、当該ワークの内部空間に前記第2端部側から挿入可能な突出部材をさらに備えることができる。
【0009】
上記固定装置においては、前記貫通孔に挿入された前記各挿入部材が、前記突出部材と係合するように構成することができる。
【0010】
上記各固定装置においては、前記各挿入部材の外周面に取り付けられ、前記各挿入部材が前記突出部材と係合したとき、前記各貫通孔の内壁面を押圧するよう拡径する拡径部材をさらに備えることができる。
【0011】
上記各固定装置において、前記ワークには、前記貫通孔が形成され、当該ワークの内壁面から前記内部空間へ突出する一対の厚肉部が形成されており、前記突出部材は、前記一対の厚肉部の間に挿入されるように構成することができる。
【0012】
上記各固定装置においては、前記各挿入部材を支持し、前記基台部上で前記各挿入部材の移動する第1方向に移動可能な一対のスライド部材と、前記突出部材の延びる第2方向に進退可能な可動部材と、前記可動部材の第2方向の移動を、前記各スライド部材の第1方向の移動に変換する変換機構と、をさらに備えることができる。
【0013】
上記各固定装置において、前記基台部は、前記ワークの軸線周りに回転可能に構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ピストンのようなワークを簡易な構成ならびに制御で固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る固定装置に固定されるピストンの一例を示す斜視図である。
図2図1の断面図である。
図3図1の断面図であって、図2とは90度ずれた断面図である。
図4】本発明の固定装置の一実施形態の概略構成を示す正面図である。
図5図4の固定装置における、主軸ユニットの上部を示す正面から見た断面図である。
図6図5のA−A線断面図である。
図7図5主軸ユニットの上部を側面から見た一部断面図である。
図8図4における、挿入具の動作を示す断面図である。
図9】ワークが設置されたときの固定装置の動作を示す断面図である。
図10図9のB−B線断面図である。
図11図9の拡大断面図である。
図12図9における挿入具の動作を示す断面図である。
図13】挿入部材の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る固定装置を、エンジン用のピストンを固定する固定装置に適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、固定装置に固定されたピストンは、例えば、その外周面等を、図示を省略する加工装置によって加工される。そのため、この固定装置は、固定されたピストンを回転するように、主軸の先端に構成されている。
【0017】
まず、加工対象となるピストン(ワーク)について、図1図3を参照しつつ説明する。図1はピストンの側面図、図2図1の断面図、図3図1の断面図であって、図2とは90度ずれた断面図である。
【0018】
図1図3に示すように、このワーク1は、筒状の本体部11と、この本体部11の軸方向の一方の開口を塞ぐ円柱状の閉鎖部12と、を備えており、これらが一体的に形成されている。そして、本体部11における閉鎖部12とは反対側の開口13は、外部に開放している。
【0019】
本体部11は、長手方向に延びる一対の第1壁面111と、短手方向に延びる一対の第2壁面112とで、断面長方形状に形成されている。第2壁面112の外面は、円弧状に形成されており、閉鎖部12の外周面と連続するように形成されている。また、第2壁面112は、閉鎖部12の外径よりも短くなっているため、図1及び図2に示すように、閉鎖部材の外周面と、第1壁面111との間には段119が形成されている。
【0020】
一方、第1壁面111には、この本体部11の軸線(軸心)を挟む位置に、一対の断面円形のピン穴113が形成されており、各ピン穴113は、本体部11の第1壁面111を貫通するように形成されている。また、各第1壁面111において、ピン穴113が形成されている部分は、内部空間に突出するような厚肉部114を構成している。そして、各厚肉部114において内部空間側を向く面は、互いに対向しており、これら対向する面の間に、後述する突出部材71が、開口13から挿入されるための挿入空間115が形成されている。また、閉鎖部12において、この挿入空間115と対応する位置には、ピン穴113と直交する径方向(図2の紙面と直交する方向)に延びる凹部116が形成されており、この凹部116に、後述する突出部材71の上端部が係合するようになっている。
【0021】
この凹部116は、第1壁面111と概ね平行に、閉鎖部12の径方向の概ね全体にわたって延びるように形成されている。この方向が凹部116の長手方向になる。但し、図3に示すように、凹部116の長手方向は、本体部11の第2壁面112間の長さよりも短い。そのため、凹部116の長手方向の両端と、本体部11の第2壁面112との間には、段部117が形成されている。この段部117は、後述する突出部材71と係合するようになっており、以下、係合段部117と称することとする。さらに、第2壁面112の内壁面の下端部には、切り欠き118が形成されており、この切り欠き118が後述する支持台72の縁部に係合するようになっている。
【0022】
次に、上記ワーク1を固定するための固定装置について、図4を参照しつつ説明する。図4は、固定装置の概略構成を示す正面図である。図4に示すように、この固定装置は、ワーク1を回転可能に支持する主軸ユニット2と、この主軸ユニット2の下方に配置されたシリンダユニット3と、を備えている。主軸ユニット2は、主軸モータ4と、このモータ4の上方に支持される基台部5と、を備えている。モータ4の回転軸は、上下方向に延びており、基台部5は、この上端部において回転軸回りに回転するようになっている。また、基台部5の上端部には、後述するように支持台72が取付けられており、この支持台72にワーク1が支持されるようになっている。
【0023】
シリンダユニット3は、油圧シリンダ21と、この油圧シリンダ21によって上下方向に進退可能なプッシュプルロッド22と、を備えている。そして、プッシュプルロッド22は、油圧シリンダ21から上方に延び、主軸ユニット2のモータ4を貫通して基台部5の内部まで延びている。
【0024】
次に、主軸ユニット2について、図5図7を参照しつつ、さらに詳細に説明する。図5は主軸ユニットの上部を示す正面から見た断面図、図6図5のA−A線断面図、図7は主軸ユニットの上部を側面から見た一部断面図である。以下では、図5の左右方向を左右、図6の左右方向(図5の紙面方向)を前後と称し、各図面においては、これらの方向に基づいて、説明を行う。
【0025】
まず、基台部5について説明する。図5図7に示すように、基台部5の上部には、一対の半円柱状のブロック6が隙間を空けて固定されている。そして、両ブロック6の中心部の上面には、これらブロック6の隙間を覆うように、平面視矩形状の板状の閉鎖部材7が取付けられている。そして、両ブロック6の隙間には、閉鎖部材7を挟むように一対の挿入具8が配置されており、前記隙間に沿って左右方向に移動自在に支持されている。また、両ブロック6の隙間には、挿入具8を移動させるための変換機構9が配置されており、この変換機構9に、上述したプッシュプルロッド22が連結されている。さらに、閉鎖部材7には、ワーク1を支持するための突出部材71と支持台72が配置されている。以下、これらの部材について詳細に説明する。
【0026】
閉鎖部材7の下面において、両ブロック6の隙間に対応する位置には、直方体状の凹部701が形成されている。この凹部701は、隙間の幅よりもやや広く形成されている。一方、閉鎖部材7の上面には、上述した突出部材71が取付けられている。この突出部材71は、円柱状の固定部711と、この固定部711の上端に取付けられワーク1を支持する支持部712と、を備えている。支持部712は、図5の紙面方向を長手方向とする直方体状に形成されている。以下では、支持部712の4つの側面のうち、長手方向に延びる一対の側面を第1側面713、短手方向に延びる一対の側面を第2側面714と称することとする。そして、図6に示すように、支持部712の上面において、長手方向の両端には、長手方向に延び、両第2側面714に向かって下方に傾斜する傾斜面715が形成されている。また、支持部712の両第1側面713の中央付近には、それぞれ円錐状の凹部716が対称的に形成されている。そして、後述する図11に示すように、両凹部716を通過し水平方向に延びる軸線をX2とする。
【0027】
また、閉鎖部材7の上面には、上述した支持台72が取付けられている。この支持台72は、円板状に形成され、その中央には、貫通孔721が形成されている。そして、この貫通孔721から、上述した突出部材71の固定部711が突出している。また、閉鎖部材7の上面には、複数の凸部702が形成されており、これら凸部702を受け入れる凹部が支持台72の下面に形成されている。したがって、支持台72は、閉鎖部材7の凸部702によって水平方向に位置決めされ、上下方向に移動可能にガイドされている。また、閉鎖部材7と支持台72との間には、複数のバネ73が配置されており、支持台72は、閉鎖部材7から上方に向かって付勢され、浮上している。ここで、支持台72上にワーク1が配置されておらず、支持台72がバネ73によって上方に付勢されている図5図7の位置を初期位置と称することとする。一方、後述する図9図11に示すように、支持台72上にワーク1が配置され、ワーク1の重量によって支持台72がバネ73に抗して押し下げられた位置を設置位置と称することとする。そして、この状態からワーク1がさらにしたに押し下げられ、固定状態にある位置を固定位置と称することとする。なお、支持台72が、この3つの位置、つまり初期位置、設置位置、及び固定位置のいずれに変化しても、支持台72の浮上状態が継続するようにバネ73の付勢力を定めている。
【0028】
次に、挿入具8について説明する。図5及び図7に示すように、各挿入具8は、両ブロック6の隙間で、左右方向にスライドするスライド部材81と、このスライド部材81の上端部に支持される挿入部材82とを備えている。各スライド部材81は、直方体状の本体部811と、この本体部811の上端から突出する突出部812と、備えている。図7に示すように、本体部811の一部は、両ブロック6の隙間に配置され、その他の部分は、ブロック6から上方に突出している。本体部811の下端部には、前後方向にそれぞれ突出する係合部813が形成されており、これら係合部813は、各ブロック6の上端付近で互いに向き合うように突出する第1突部61の下面と係合している。一方、本体部811の上下方向の中間付近には、閉鎖部材7側へ突出する挿入板814が取付けられている。挿入板814は、両ブロック6の上面をスライドしつつ、閉鎖部材7の凹部701とブロック6の上面との間の隙間に挿入されるようになっている。したがって、本体部811の係合部813及び挿入板814は、スライド部材81が左右方向に移動するためのガイドの役割を果たしている。また、本体部811の下面には、凹部815が形成されており、後述する回転部材92が係合するようになっている。
【0029】
スライド部材81の突出部812は、本体部811における閉鎖部材7側の端部から上方へ突出しており、その上端には、上述した挿入部材82が取付けられている。図11にも示すように、挿入部材82は、円筒状に形成された軸部821と、この軸部821の先端にバネ822を介して取付けてられた円柱状の可動部823と、軸部821及び可動部823の外周面を覆うように円筒状に形成された拡径部材824と、を備えている。
【0030】
両軸部821は、その軸心が左右方向を向くように配置されており、両軸部821の軸線に対して、上述した突出部材71の凹部716の軸線X2が一致するように、軸部821の上下方向の高さが決められている。可動部823は円板状に形成されて、軸部821の先端側に同軸上に配置されており、上述したように、バネ822によって突出部材71側へ付勢されている。但し、可動部823の後端面には軸部821の内部に係合するストッパ825が取付けられているため、バネ822によって付勢されて、軸部821から離間する長さが決められている。一方、可動部823の先端面、つまり突出部材71を向く面には、円錐状の突部826が設けられており、後述するように、この突部826が、突出部材71の凹部716に合致するようになっている。
【0031】
また、軸部821の先端部の外周面は、先端にいくにしたがって径が小さくなるテーパ状に形成されている。一方、可動部823の外周面は、後端側にいくにしたがって径が小さくなるように形成されている。そのため、軸部821の先端部と可動部823の後端部との間には、断面台形状の溝が形成される。そして、この溝を覆うように円筒状の拡径部材824が配置されている。拡径部材824はコレットと称され、その内壁面には、溝に係合するような断面形状に形成されている。また、拡径部材824は、表面に複数のスリット(図示省略)が形成されて径方向に拡径可能となっており、可動部823がバネ822に抗して軸部821側に押圧されると、溝の軸方向の長さが縮まるため、これによって拡径部材824が径方向外方に押圧される。その結果、拡径部材824が拡径するようになっている。
【0032】
また、この拡径部材824の初期状態での外径は、ワーク1のピン穴113の内径よりもやや小さくなっている。但し、拡径部材824が拡径したときの外径は、ピン穴113の内径よりもやや大きくなる。
【0033】
次に、挿入具8を移動させるための変換機構9について説明する。変換機構9は、プッシュプルロッド22の先端に取付けられる係合部材91と、この係合部材91の両側で、且つスライド部材81の下方に配置される一対の回転部材92と、で構成されている。係合部材91は、両ブロック6の隙間に配置され、左右方向の両側に凹部911が形成されている。また、係合部材91の上端部には突出部912が設けられており、この突出部912は、両ブロック6の第1突部61よりも下方に設けられた第2突部65の間に挿入されるようになっている。また、係合部材91の上面は、第2突部95に接するようになっており、これによって、係合部材91は、それ以上、上方に押し上げられないようになっている。
【0034】
各回転部材92は平板状に形成され、両ブロック6の隙間を連結するように延びる軸部材93回りに回転自在に支持されている。そして、係合部材91と対向する面に第1係合突部921が形成され、係合部材91の凹部911に移動可能に嵌まっている。また、各回転部材92においてスライド部材81と対向する面には第2係合突部922が形成され、スライド部材81の下面の凹部815に移動可能に嵌まっている。
【0035】
第1係合突部921と第2係合突部922は、軸部材93回りに約90度の角度を空けて配置されている。そして、例えば、図5の状態から係合部材91がプッシュプルロッド22によって引っ張られ、下方に移動すると、図8に示すように、第1係合突部921が下方に引っ張られ、これによって回転部材92が軸部材93回りに回転する。この回転に伴って、第2係合突部922は、閉鎖部材7側へ回転する。その結果、第2係合突部922に係合する挿入具8が閉鎖部材7側へスライドする。このとき、両挿入具8は、同時に近接するように移動し、挿入部材82が突出部材71の凹部716に係合する。
【0036】
一方、プッシュプルロッド22が上方に押し上げられると、係合部材91も上方に押し上げられる。これにより、図5に示すように、各回転部材92の第1係合突部921も上方に押し上げられ、回転部材92が回転する。この回転に伴い、第2係合突部922は閉鎖部材7から離間する方向に移動し、これによって、挿入具8は突出部材71から離間する方向にスライドする。その結果、両挿入具8の挿入部材82と、突出部材71との係合状態が解除され、両挿入部材82は互いに離間するように移動する。
【0037】
次に、上記のように構成された固定装置に対し、ワーク1を取付ける動作について、図9図12を参照しつつ説明する。まず、ワーク1の開口が下を向くように、ロボットアーム(図示省略)などで、支持台72上にワーク1を配置する。このとき、ワーク1は、各ピン穴113が各挿入部材82と対向する向きで、支持台72に配置される。そのため、図9に示すように、突出部材71は、ワーク1の内部で、厚肉部114の間に配置され、図10に示すように、突出部材71の上面の傾斜面715が、ワーク内部の係合段部117に接触する。また、ワーク1の開口縁部、つまり本体部11の下端部の切り欠き118が、支持台72の周縁に係合する。こうして、ワーク1が支持台72上に支持される。
【0038】
このとき、ワーク1の重量で、支持台72は、初期位置から設置位置に押し下げられるが、図11に示すように、支持台72が設置位置にあるときには、ワーク1のピン穴113の軸線X1は、挿入部材82の軸線X2よりも距離hだけ、やや高い位置(例えば、1mm程度)に位置するように、支持台72を支持するバネ73が調整されている。
【0039】
そして、図9及び図10の状態から、油圧シリンダ21を駆動し、プッシュプルロッド22を下方へ移動すると、係合部材91が下方に移動する。これにより、回転部材92が回転し、図12に示すように、挿入具8が互いに近接する方向に移動する。その結果、挿入部材82が、ワーク1のピン穴113に挿入される。上記のように、挿入部材82の軸線X2は、ピン穴X1の軸線X1よりもやや低い位置にあるため、挿入部材82のピン穴113への挿入により、挿入部材82の軸線X2とピン穴113の軸線X1とが一致するように、ワーク1が下方へ押し下げられる。すなわち、図11に示す距離hの分だけ、ワーク1とともに、支持台72がバネ73に抗して下方に押し下げられる。このときの支持台72の位置が上述した固定位置であり、前述したように支持台72の浮上状態は継続している。
【0040】
そして、挿入部材82の可動部823が突出部材71の凹部716に係合すると、可動部823は、軸部821に対して押圧されるため、これによって、拡径部材824が拡径する。その結果、拡径部材824がピン穴113の内壁面に密着し、挿入部材82がピン穴113に固定される。この状態で、ワーク1は、挿入部材82及び支持台72により、固定装置に強固に固定される。
【0041】
続いて、主軸モータ4を駆動し、基台部5を回転させる。これにより、図示を省略する加工具により、ワーク1の閉鎖部12など、外周面の加工を行う。また、これ以外にも、ワークに穴を形成するなど、必要な加工を施す。そして、加工が終了すると、油圧シリンダ21を駆動し、プッシュプルロッド22を上方に押し上げる。これに伴い、係合部材91が回転部材92を回転させ、図9に示すように、両挿入具8が、互いに離間する方向に移動する。これにより、挿入部材82が突出部材71から離れるため、挿入部材82の可動部823に対する押圧が解除される。その結果、拡径部材824が縮径し、拡径部材824とピン穴113の内壁面との密着状態も解除される。そして、挿入部材82がピン穴113から離脱すると、挿入部材82によるワーク1の下方への押し下げが解除される。これにより、支持台72がバネ73によって付勢され、ワーク1は初期位置までやや上昇する。この状態で、ロボットアームを駆動し、支持台72にある加工済みのワーク1を排出させる。その後、次の未加工のワーク1をロボットアームにより支持台72に配置する。
【0042】
以上のように、本実施形態によれば、ワーク1を支持台72に設置したとき、各ピン穴113の軸線が、各挿入部材82の軸線よりも、支持台72から離れるように、バネ73が調整されている。そして、各挿入部材82を各ピン穴113に挿入したとき、各ピン穴113の軸線と各挿入部材82の軸線とが一致するように、支持台72が基台部5側に押圧されるように構成されている。したがって、ワークを固定するための制御としては、挿入部材82をピン穴113に挿入するだけであるため、ワークを簡易な制御で固定することができる。
【0043】
上記固定装置では、ワーク1の開口13から挿入される突出部材71を備えているため、ワーク1を支持台72に設置したとき、ワーク1が固定されるまでの間に、ワーク1を支持台72上に安定的に保持することができる。そして、ピン穴113に挿入された挿入部材782は、突出部材71に係合する。すなわち、挿入部材82と突出部材71が連結されるため、ワーク1を、その外側及び内側の両方から強固に固定することができる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0045】
上記実施形態では、挿入部材82をピン穴113の内壁面に密着させるための拡径部材824を用いているが、他の構成でもよい。例えば、図13の挿入部材85には、その先端と外周面とを連通する油路851が形成され、その内部に油が封入されている。また、挿入部材85の外周面には、変形可能な円筒状の拡径部材852が設けられている。そして、挿入部材85の先端に設けられた可動部853は挿入部材85に対して進退するように構成され、可動部853が突出部材71に押圧されると、油路851の油を押圧する。これにより、油が拡径部材852を径方向外方に押圧し、拡径部材852とピン穴113の内壁面とが密着する。但し、この構成も一例であり、他の構成を採用してもよい。
【0046】
上記実施形態では、挿入部材82が突出部材71に係合したり、挿入部材82に拡径部材824,852を取付けて、ピン穴113の内壁面に密着させているが、これらは必須ではない。すなわち、挿入部材82、85をピン穴113に挿入したときに、支持台72が設置位置から固定位置へさらに押し下げられるように、ワーク1を押圧できるように、挿入部材82が構成されていればよい。
【0047】
また、突出部材71により、ワーク1を支持台72に設置したとき、ワーク1が固定されるまでの間に、ワーク1を支持台72上に安定的に保持することができる。但し、ワークを固定するとの観点からは、突出部材71の形状は特には限定されず、突出部材71を設けないようにすることもできる。あるいは、突出部材71に代って、支持台72上にワーク1を保持する機構を設けることもできる。
【0048】
挿入具を移動させるための機構は、特には限定されない。上記実施形態では、油圧シリンダによるプッシュプルロッドの進退を、変換機構により変換して挿入具を移動しているが、両挿入部材が互いに近接離間できるような、その他の駆動手段であってもよい。
【0049】
上記実施形態では、固定装置にモータを設け、基台部を回転自在に構成しているが、回転のための機構は必ずしも必要ではなく、本発明の固定装置は、上記のようなピストンを単に固定できようにしたものであってもよい。
【0050】
上記実施形態では、ピストンを加工対象としているが、これに限定されない。すなわち、軸方向の両端に第1端部及び第2端部を有する筒状の本体部と、この本体部の第1端部を塞ぐ閉鎖部とを有し、前記本体部の外周面に前記軸を挟んで対向する一対の貫通孔が形成されたワークであれば、本発明に係る固定装置による固定対象となる。
【符号の説明】
【0051】
1 :ワーク
11 :本体部
12 :閉鎖部
113 :ピン穴(貫通孔)
114 :厚肉部
22 :プッシュプルロッド(可動部材)
5 :基台部
9 :変換機構
71 :突出部材
72 :支持台
73 :バネ(付勢部材)
81 :スライド部材
82 :挿入部材
721 :貫通孔
824 :拡径部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13