(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
[製造方法]
以下、好ましい実施の形態の一例を具体的に説明する。本開示のセルロースアセテートの製造方法は、(a)原料セルロースを、酸触媒と酢酸溶媒の存在下で無水酢酸と反応させて、セルロースアセテートのドープを生成する工程、(b)生成したセルロースアセテートのドープを、水の存在下、撹拌槽にて、回転可能な撹拌翼により撹拌しながら加水分解して、セルロースアセテートの酢化度を54%以上57%以下に調整する工程、及び(c)酢化度を調整したセルロースアセテートを水の存在下で沈澱させる工程を含み、前記撹拌翼は、撹拌軸と前記撹拌軸に固定された複数の平板状翼を有し、前記平板状翼は、平板のトップ部と平板のボトム部から構成され、前記トップ部は、下部に向かう程、回転半径方向の幅が広くなる形状を有すると共に、開口部を備えるものである。以下、各工程について説明する。
【0015】
((a)セルロースアセテートのドープを生成する工程)
セルロースアセテートのドープを生成する工程においては、酸触媒と酢酸溶媒の存在下で原料セルロースを無水酢酸と反応させる、言い換えれば、セルロースを酢化する酢化反応である。この原料セルロースは、後述する解砕工程及び/または前処理工程を経ていることが好ましい。
【0016】
(原料セルロース)
原料セルロースとしては、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ);綿花リンターなどのリンターパルプ;などが使用できる。これらのセルロースは単独で又は二種以上組み合わせてもよく、例えば、針葉樹パルプと、綿花リンター又は広葉樹パルプとを併用してもよい。原料セルロースがシート状の形態で供給されるなど、前処理工程または酢化工程以降の工程で取扱いにくい場合は、原料セルロースを解砕することが好ましい。
【0017】
リンターパルプについて述べる。リンターパルプは、セルロース純度が高く、不純物が少なく、得られるセルロースアセテート中の異物数を木材パルプより少なくできるため好ましい。
【0018】
次に、木材パルプについて述べる。木材パルプは、原料として安定供給できること、及びリンターに比べコスト的に有利であることから好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹前加水分解クラフトパルプ等が挙げられる。また、木材パルプは、広葉樹前加水分解クラフトパルプ等を綿状に解砕した解砕パルプを用いることができる。解砕は、例えば、ディスクリファイナーを用いて行うことができる。
【0019】
原料セルロースのα−セルロース含有率は、得られるセルロースアセテートの異物の発生数を少なくし、特に成形体とした場合に、その透明性を損なわないため、90重量%以上が好ましく、92重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましく、97重量%以上が最も好ましい。
【0020】
α−セルロース含有率は、以下のようにして求めることができる。重量既知の原料セルロースを25℃で17.5%と9.45%の水酸化ナトリウム水溶液で連続的に抽出し、その抽出液の可溶部分を重クロム酸カリウムで酸化し、酸化に要した重クロム酸カリウムの容量からβ,γ−セルロースの重量を決定する。初期の原料セルロースの重量からβ,γ−セルロース重量を引いた値を、原料セルロースの不溶部分の重量、言い換えればα−セルロースの重量とする(TAPPI T203)。初期の原料セルロースの重量に対する原料セルロースの不要部分の重量の割合が、α−セルロース含有率(重量%)である。
【0021】
本開示の製造方法によれば、原料セルロースのα−セルロース含有率が低い場合(例えば、90重量%以上93重量%以下、また92重量%以上93重量%以下など)、であっても、異物の発生を十分に低減したセルロースアセテートを得ることができる。例えば、構成糖分析において、キシロース、マンノースおよびグルコースのモル含量の和におけるキシロースのモル含量の割合が0.5mol%以上2.0mol%以下であってよく、1.0mol%以上2.0mol%以下であってよく、1.5mol%以上2.0mol%以下であってもよい。構成糖分析は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により行うことができる。
【0022】
(解砕工程)
原料セルロースを解砕する方法としては、湿式解砕法と乾式解砕法とがある。湿式解砕法は、原料セルロースを水または水蒸気などを添加して解砕する方法である。湿式解砕法としては、例えば、蒸気による活性化と反応装置中での強い剪断攪拌を行う方法;および希酢酸水溶液中で離解してスラリーとした後、脱液と酢酸置換を繰り返す、いわゆるスラリー前処理を行う方法等が挙げられる。また、乾式解砕法は、原料セルロースを乾燥状態のまま解砕する方法である。乾式解砕法としては、例えば、ピラミッド歯を有するディスクリファイナーで粗解砕した原料セルロースを、線状歯を有するディスクリファイナーで微解砕する方法;および内壁にライナーを取付けた円筒形の外箱と、外箱の中心線を中心として高速回転する複数の円板と、各円板の間に前記中心線に対して放射方向に取り付けられた多数の翼とを備えたターボミルを用い、翼による打撃と、ライナーへの衝突と、高速回転する円板、翼及びライナーの三者の作用で生じる高周波数の圧力振動とからなる三種類の衝撃作用により、外箱の内部に供給される被解砕物を解砕する方法等が挙げられる。
【0023】
これらの解砕方法をいずれも適宜使用することができるが、特に、ディスクリファイナーおよびターボミルを順に用いて二段解砕する方法が、得られるセルロースアセテートのアセトン不溶解物量が少なくなるため好ましい。一般的技術では、解砕されたかさ高いパルプシートの解砕物は空気搬送される。
【0024】
(前処理工程)
前処理工程は、原料セルロースと酢酸とを接触させて活性化する工程である。酢酸は、原料セルロース100重量部に対して、好ましくは10重量部以上500重量部以下用いる。この時、酢酸は、99重量%以上の濃度のものを用いることができる。
【0025】
原料セルロースと酢酸とを接触させる方法としては、例えば、酢酸もしくは1重量%以上10重量%以下の硫酸を含む酢酸(含硫酢酸)を一段階で添加する方法;または、酢酸を添加して一定時間経過後、含硫酢酸を添加する方法、含硫酢酸を添加して一定時間経過後、酢酸を添加する方法等の酢酸または含硫酢酸を2段階以上に分割して添加する方法等が挙げられる。添加の具体的手段としては、噴霧してかき混ぜる方法が挙げられる。
【0026】
そして、前処理活性化は、原料セルロースに酢酸及び/または含硫酢酸を添加した後、17℃以上40℃以下の条件下にて0.2時間以上48時間以下の間静置する、または17℃以上40℃以下の条件下にて0.1時間以上24時間以下の間、密閉及び攪拌すること等により行うことができる。
【0027】
(酢化反応工程)
原料セルロースを酸触媒と酢酸溶媒の存在下で無水酢酸と反応させて、セルロースアセテートのドープを生成する工程(酢化反応工程)について説明する。当該酢化反応工程において得られるセルロースアセテートは、セルローストリアセテートである。なお、セルローストリアセテートの酢化度は、60.0%以上62.0%以下程度のものをいう。
【0028】
酢化は、具体的には、例えば、酢酸、無水酢酸および硫酸からなる混合物に、前処理活性化した原料セルロースを添加すること;または前処理活性化した原料セルロースに、酢酸と無水酢酸の混合物および硫酸を添加すること等により開始することができる。ここで、酢酸は、99重量%以上の濃度のものを用いることができる。硫酸は、98重量%以上の濃度のものを用いることが好ましい。
【0029】
酢酸と無水酢酸の混合物を調製する場合、酢酸と無水酢酸とが含まれていれば、特に限定されないが、酢酸と無水酢酸との割合としては、酢酸300重量部以上600重量部以下に対し、無水酢酸200重量部以上400重量部以下であることが好ましく、酢酸350重量部以上530重量部以下に対し、無水酢酸240重量部以上280重量部以下であることがより好ましい。
【0030】
原料セルロース、酢酸と無水酢酸との混合物、および硫酸の割合としては、原料セルロース100重量部に対して、酢酸と無水酢酸の混合物は500重量部以上1000重量部以下であることが好ましく、硫酸は5重量部以上15重量部以下であることが好ましく、7重量部以上13重量部以下であることがより好ましく、8重量部以上11重量部以下であることがさらに好ましい。
【0031】
酢化反応系内の最高到達温度は、35℃以上55℃以下とすることが好ましく、42℃以上50℃以下とすることがより好ましい。より色相に優れたセルロースアセテートが得られるためである。
【0032】
酢化反応系内の最高到達温度が35℃以上55℃以下の範囲(中温度領域)とするため、無水酢酸、酢酸および触媒等をそれぞれ全て予冷しておくことがより好ましい。無水酢酸、酢酸および触媒等の混合溶液を調製してから予冷してもよい。
【0033】
予冷温度は、−25℃以上−10℃以下の範囲であることが好ましく、−22℃以上−20℃以下の範囲であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、酢化反応系内の最高到達温度を、35℃以上55℃以下の範囲(中温度領域)とすることができ、より色相に優れたセルロースアセテートが得られるためである。
【0034】
例えば、溶媒として酢酸、酢化剤として無水酢酸、触媒として硫酸を含む酢化混液を、予め−25℃以上−10℃以下に冷却しておき、当該酢化混液に原料セルロースを投じて撹拌する。無水酢酸の量はこれと反応するセルロース及び系内に存在する水分量よりかなり過剰に使用する。これにより、冷却された酢化混液は無水酢酸の反応熱により昇温するが最高到達温度を35℃以上55℃以下の範囲とすることができる。撹拌条件下、外部から反応系の内外には一切の熱は加えず行うこと、または併せて、撹拌条件下、反応系を冷媒により冷却して中温度領域に調整することもできる。
【0035】
酢化反応初期は固液不均一系での反応となることから、解重合反応が進行し過ぎる一方、酢化反応が進行しない等、系の反応が不均一になる部分が生じる場合がある。解重合反応を抑えつつ酢化反応を進ませ、未反応物を減らすため、可能な限り時間を掛けてアセチル系内の最高到達温度が35℃以上55℃以下の範囲(中温度領域)に到達するよう昇温するのがよいが、生産性の観点からは、原料セルロースと無水酢酸とを接触させてから45分以下、さらに好ましくは30分以下で最高到達温度が35℃以上55℃以下の範囲(中温度領域)に到達するよう昇温を行うことが好ましい。そして最高到達温度に到達した後、一定時間の間、酢化反応を継続する。この酢化反応を継続する一定時間は、30分以上50分以下が好ましい。
【0036】
また、酢化反応にかかる時間は、60分以上90分以下であることが望ましい。ここで、酢化にかかる時間とは、原料セルロースと無水酢酸とを接触させて反応を開始した時点から、次の工程において、生成したセルロースアセテートのドープを水と接触して酢化反応を停止させるまでの時間をいう。
【0037】
((b)生成したセルロースアセテートの酢化度を調整する工程)
生成したセルロースアセテートのドープを、水の存在下、撹拌槽にて、回転可能な撹拌翼により撹拌しながら加水分解して、酢化度を54%以上57%以下に調整する工程において、前記撹拌翼は、撹拌軸と前記撹拌軸に固定された複数の平板状翼を有し、前記平板状翼は、平板のトップ部と平板のボトム部から構成され、前記トップ部は、下部に向かう程、回転半径方向の幅が広くなる形状を有すると共に、開口部を備える。なお、加水分解は、ケン化と言い換えることができる。
【0038】
(b)生成したセルロースアセテートの酢化度を調整する工程、及び当該工程において用いる撹拌翼について順に説明する。
【0039】
まず、当該工程について、(a)セルロースアセテートのドープを生成する工程との関連によって説明する。(a)セルロースアセテートのドープを生成する工程においては、酸触媒として硫酸を用いて酢化反応させることが好ましいところ、硫酸は硫酸エステルとしてセルロースに結合しているため、前記酢化反応終了後、当該工程においては、熱安定性向上のため水を添加し、この硫酸エステルを加水分解(ケン化)して除去する。この水の添加により、セルロースアセテートのドープ中に存在する無水酢酸と反応して酢酸が生成する。水は、加水分解(ケン化)後のセルロースアセテートのドープ中の水分量が酢酸に対し5〜70mol%になるように添加することができる。5mol%未満であると、加水分解(ケン化)反応が進まず解重合が進み、低粘度のセルロースアセテートとなり、70mol%を超えると、酢化反応終了後のセルロースエステル(セルローストリアセテート)が析出し加水分解(ケン化)反応系から出るため、析出したセルロースエステルの加水分解(ケン化)反応が進まなくなる。
【0040】
加水分解(ケン化)に際して、酢化反応停止のために水の他、希酢酸、又は酢酸マグネシウム水溶液などの中和剤を添加してもよい。なお、酢酸マグネシウム水溶液は、酢酸マグネシウムの濃度が5〜30重量%であることが好ましい。また、希酢酸とは、1〜50重量%の酢酸水溶液をいう。
【0041】
セルロースアセテートのドープにおける硫酸イオン濃度が高いと効率よく硫酸エステルを除去することができないため、中和剤を添加して不溶性の硫酸塩を形成させることにより、硫酸イオン濃度を低下させることが好ましい。
【0042】
セルロースアセテート100重量部(セルロース換算)に対し、セルロースアセテートのドープ中の硫酸イオンを1〜6重量部に調整することが好ましい。なお、例えば、セルロースアセテートのドープに酢酸マグネシウムの酢酸−水混合溶液を添加することにより、酢化反応の停止とセルロースアセテート100重量部(セルロース換算)に対する硫酸イオンの重量比の低下とを同時に行うこともできる。
【0043】
加水分解(ケン化)反応の時間(以下、熟成時間ともいう。)は、特に限定されないが、酢化度を54%以上57%以下に調整する場合、150〜300分間行うことが好ましく、目的の酢化度とするためにはその時間を適宜調整すればよい。ここで、熟成時間は、酢化反応終了後のセルロースアセテートドープが撹拌槽内に投入されてから加水分解(ケン化)反応停止までの時間をいう。
【0044】
また、加水分解(ケン化)反応は、好ましくは50〜100℃、特に好ましくは70〜90℃の熟成温度で20〜120分間保持することにより行う。ここで、熟成温度とは、熟成時間における反応系内の温度をいう。
【0045】
加水分解(ケン化)反応工程においては、水と無水酢酸との反応熱を利用することにより、反応系全体を均一でかつ適正な温度に保持することができるため、酢化度が高すぎるものや低すぎるものが生成することが防止される。
【0046】
撹拌開始時のセルロースアセテートのドープの粘度は、100Pa・s以上200Pa・s以下が好ましく、150Pa・s以上200Pa・s以下がより好ましい。粘度がこの範囲にあることにより、得られるセルロースアセテートの異物をより顕著に低減することができる。
【0047】
次に、撹拌翼の一実施形態を
図1を用いて説明する。
図1中、1は撹拌槽であり、その形状は丸底円筒形状である。撹拌槽1の中心部に撹拌軸2が設けられている。撹拌軸2は、その上端を撹拌槽1外に設けられた駆動装置3に回転可能に接続されている。撹拌翼4は、撹拌軸2と撹拌軸2に固定された平板状翼5とを有する。平板状翼5は平板のトップ部と平板のボトム部6を備える。ボトム部6は、下部が撹拌槽1の丸底の形状に沿うように丸い略矩形状であり、開口部を有しない。トップ部は、平板状翼5において、ボトム部6より上の部分であり、下部に向かう程、回転半径方向の幅が広くなっている。また、トップ部は、撹拌軸2に沿う方向及び撹拌軸2の回転半径方向にそれぞれ複数の開口部7を備える。複数の開口部7は、撹拌軸2に最も近い位置にあり、撹拌軸2に沿う方向に長い矩形状の開口部7a;矩形状の開口部7aに対して撹拌軸2の回転半径方向の隣に設けられ、撹拌翼4の外縁に沿った斜辺を有する直角三角形状の開口部7b;さらに直角三角形状の開口部7bの下に、撹拌翼4の外縁に沿った辺を有する台形状の開口部7cの3つの開口部からなる。撹拌翼4は、図示を省略するが、2枚の平板状翼5を備える。2枚の平板翼5は、撹拌軸2を対象軸として線対称となる位置に固定される(撹拌軸を回転軸として180°の位置関係)。その他、開口部7は、開口部7aが、上下2つの矩形状の開口部となるように仕切られ、合計4つの開口部からなってもよい。また、各開口部の形状は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、適宜三角形や四角形を選択してよく、さらには各開口部の数を変えてもよい。また、平板状翼5は、2枚のみならず、例えば3枚または4枚、撹拌軸2に固定されていてもよい。さらに、平板状翼5は、撹拌軸2の回転半径方向の端部が回転方向に対し反対側に曲げられていてもよい。また、平板状翼5は、本発明の効果を奏する範囲であれば、平板状翼5の一部に撹拌軸2の直角方向に切れ目を入れたような形状である等、断片的な形状であってよい。
【0048】
平板状翼5の下端部8と撹拌槽1の底部10とのクリアランスは、より小さい方が好ましい。また、非撹拌時(特に、撹拌開始時)の撹拌槽内における前記セルロースアセテートのドープの液面11と平板状翼5の上端部9との距離も、より小さい方が好ましい。平板状翼5の上端部9は、液面11の上にあってもよく、下にあってもよい。このように、撹拌翼4が、撹拌槽1の底部10付近から、セルロースアセテートのドープ液面付近までの連続した長さを有することが好ましい。
【0049】
このような撹拌翼を使用することにより、撹拌槽内で生じ得る各段の中間で分断されたフローパターンを形成することなく、槽底部における強い吐出流により撹拌槽内のセルロースアセテートのドープ全体に軸流を生み出し、迅速な均一混合を生み出すフローパターンを実現することができる。これにより、セルロースアセテートのドープ全体に水を均一に分散することができ、セルロースアセテートの加水分解、並びに加水分解反応と並行して進行する脱硫酸反応及び解重合反応を均一に進行させることができる。その結果、得られるセルロースアセテートの異物数を低減できる。また、酢化反応において酸触媒として硫酸を用いることが好ましいところ、このような撹拌翼を使用することにより、セルロースアセテートの脱硫酸反応を促進することができ、得られるセルロースアセテートの色相も改善することができる。
【0050】
((c)酢化度を調整したセルロースアセテートを水の存在下で沈澱させる工程)
酢化度を調整したセルロースアセテートを水の存在下で沈澱させる工程について説明する。例えば、セルロースアセテートのドープと水とを混合し、セルロースアセテートを沈澱させる。水は沈澱剤として用いるところ、当該沈澱剤には、酢酸、または酢酸マグネシウム等が含まれていてもよい。つまり、希酢酸、又は酢酸マグネシウム水溶液等を用いてもよい。セルロースアセテートのドープ中の硫酸塩を溶解し、沈澱物として得られるセルロースアセテート中の硫酸塩を除去しやすいため、水または希酢酸が好ましい。
【0051】
そして、沈澱したセルロースアセテートは、水洗により遊離の金属成分や硫酸成分などを除去してもよい。
【0052】
また、セルロースアセテートの熱安定性を高めるため、さらに水洗後、必要に応じ、安定剤として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物、特に水酸化カルシウムなどのカルシウム化合物を添加してもよい。また、水洗の際にこれらの安定剤を用いてもよい。
【0053】
セルロースアセテートのドープと水を混合する具体的な手段としては、セルロースアセテートのドープと沈澱剤とを業務用ミキサーを用いて撹拌する方法;またはセルロースアセテートのドープに沈澱剤を添加し、二軸ニーダーを用いて練り込む方法などが挙げられる。例えば、業務用ミキサーを用いて撹拌する方法の場合、セルロースアセテートのドープとセルロースアセテートを沈澱させるのに必要量の沈澱剤とを一度に混合し、撹拌する。二軸ニーダーを用いて練り込む方法の場合、沈澱剤を数回に分けてセルロースアセテートのドープに添加することができるが、沈澱点を超える直前において、セルロースアセテートのドープの0.5〜2倍量の沈澱剤を一度に添加することが好ましい。
【0054】
(任意工程)
セルロースアセテートを水の存在下で沈澱させる工程の後、必要に応じ、得られたセルロースアセテートのドープの分離及び乾燥処理を行ってもよい。セルロースアセテートのドープの分離は、沈澱剤の混合の後、ろ過、遠心分離などにより脱水することが好ましい。
【0055】
また、乾燥処理は、その方法としては特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、送風や減圧などの条件下乾燥を行うことができる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥が挙げられる。
【0056】
[製造装置]
本開示の製造装置は、前記セルロースアセテートの製造方法における、セルロースアセテートの酢化度を調整する工程に用いる装置であって、撹拌槽内の中心部に撹拌翼が配置され、前記撹拌翼は、撹拌軸と前記撹拌軸に固定された複数の平板状翼を有し、前記平板状翼は、平板のトップ部と平板のボトム部から構成され、前記トップ部は、下部に向かう程、回転半径方向の幅が広くなる形状を有すると共に、開口部を備える。
【0057】
本開示の製造装置の一実施形態を、
図3に示すセルロースアセテートの製造のための一連の装置及び
図1を用いて説明する。前処理機21は、原料セルロースに酢酸または1〜10重量%の硫酸を含む酢酸(含硫酢酸)を添加して原料セルロースを前処理活性化するための装置であり、その装置の槽内に撹拌翼を備える。前処理工程を経ると、原料セルロースは、酢化機22に移る。酢化機22は、酸触媒と酢酸溶媒の存在下で無水酢酸と反応させてセルロースアセテートのドープを生成するための装置であり、その装置の槽内に撹拌翼を備える。その後、セルロースアセテートのドープは、熟成機23aに移る。熟成機23aは、生成したセルロースアセテートのドープを、水の存在下、回転可能な撹拌翼により撹拌しながら加水分解を行うための装置である。熟成機23aは、撹拌槽1内の中心部に撹拌翼4が配置され、撹拌翼4は、槽外から回転可能な撹拌軸2と撹拌軸2に固定された平板状翼5とを有する。平板状翼5は平板のトップ部と平板のボトム部6を備える。ボトム部6は、下部が撹拌槽1の丸底の形状に沿うように丸い略矩形状であり、開口部を有しない。トップ部は、平板状翼5において、ボトム部6より上の部分であり、下部に向かう程、回転半径方向の幅が広くなっている。また、トップ部は、撹拌軸2に沿う方向及び撹拌軸2の回転半径方向にそれぞれ複数の開口部7を備える。熟成機23aの撹拌槽1の上部に設けられた材料入口12からセルロースアセテートのドープが撹拌槽1の内部に入り、撹拌槽1の下部に設けられた蒸気入口13から撹拌槽1の内部へ蒸気を吹き込んで、セルロースアセテートの加水分解を行い、所定の酢化度に調整する。そして、酢化度を調整したセルロースアセテートは、撹拌槽の下部に設けられた吐出口14から排出され、沈澱槽24に移る。沈澱槽24は、セルロースアセテートを水の存在下で沈澱させるための装置であり、その装置の槽内に撹拌翼を備える。図示しないが、セルロースアセテートが沈澱した後、洗浄槽、脱水機、及び乾燥機を経て、セルロースアセテートを洗浄、分離及び乾燥してもよい。
【0058】
熟成機23aにおける撹拌翼4の撹拌翼径dと、撹拌槽1の内径Dとの比率である、d/Dの値は0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上がさらに好ましい。これにより、得られるセルロースアセテートの異物数をより低減できる。また、セルロースアセテートのドープは、撹拌開始初期が最も粘度が高いことから、このときに撹拌が可能な範囲で最大のd/Dの値を採用することが望ましい。
【0059】
本開示の製造方法及び製造装置によれば、構成糖分析において、キシロース、マンノースおよびグルコースのモル含量の和におけるキシロースのモル含量の割合が0.5mol%以上2.0mol%以下、6%粘度が100mPa・s以上140mPa・s以下、酢化度が54%以上57%以下のセルロースアセテートであって、単位重量あたりのアセトン不溶解物量が600×10
3個/g未満である、セルロースアセテートを得ることができる。
【0060】
(構成糖比)
本開示のセルロースアセテートは、構成糖分析において、キシロース、マンノースおよびグルコースのモル含量の和におけるキシロースのモル含量の割合が0.5mol%以上2.0mol%以下が好ましく、0.5mol%以上1.5mol%以下がより好ましく、0.5mol%以上1.0mol%以下がさらに好ましい。キシロース、マンノースおよびグルコースのモル含量の和におけるキシロースのモル含量の割合が2.0mol%を超えると、不純物の影響で異物数が多くなる傾向になる。
【0061】
構成糖分析におけるキシロース、マンノースおよびグルコースのモル含量の和におけるキシロースのモル含量の割合は以下の方法により求めることができる。
【0062】
セルロースアセテートを硫酸によって加水分解し、炭酸バリウムによって中和し、ろ紙およびイオン交換フィルターによってろ過した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法のうち、HPLC−CADによって得られたデータからグルコース、キシロースおよびマンノースのそれぞれのモル含量を算出し、キシロース、マンノースおよびグルコースのモル含量の和におけるキシロースのモル含量の割合を求めることができる。
【0063】
(6%粘度)
本開示のセルロースアセテートは、6%粘度が100mPa・s以上140mPa・s以下であるところ、6%粘度の下限としては105mPa・s以上が好ましく、110mPa・s以上がより好ましい。6%粘度が100mPa・s未満であると、当該セルロースアセテートの製造工程においてセルロースアセテートを含む混合液を沈澱槽へラインを通じて送る際、ポンプが空回りを起こし、セルロースアセテートの生産効率が低下してしまう。一方、6%粘度の上限は135mPa・s以下が好ましく、130mPa・s以下がより好ましい。6%粘度が140mPa・sを超えると、当該セルロースアセテートの製造工程においてセルロースアセテートを含む混合液を沈澱槽へラインを通じて送ると、そのライン中でセルロースアセテートが閉塞しやすく、セルロースアセテートの生産効率が低下してしまう。
【0064】
セルロースアセテートの製造における前述の酢化反応工程および加水分解(ケン化)反応工程における反応時間、触媒量、反応温度、反応温度を適宜調整することにより、6%粘度を調整することができる。
【0065】
ここで、6%粘度は、セルロースアセテートを95%アセトン水溶液に6wt/vol%となるよう溶解させ、オストワルド粘度計を用いた流下時間により求められるものである。
【0066】
[酢化度]
本開示のセルロースアセテートは、酢化度が54%以上57%以下であるところ、酢化度の下限値としては、54.5%以上が好ましく、55.0%以上がより好ましい。酢化度が54%未満であると、異物数が増加傾向となる。一方、酢化度の上限値としては、56.5%以下が好ましく、56.0%以下がより好ましい。酢化度が57%を超えると、異物数が増加傾向となる。
【0067】
ここで、酢化度とは、セルロース単位重量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。
【0068】
[アセトン不溶解物量]
本開示のセルロースアセテートは、異物数が少ないものであるところ、異物数は、アセトン不溶解物量によって評価できる。アセトン不溶解物量が600×10
3個/g未満であるところ、アセトン不溶解物量の上限としては、550×10
3個/g未満が好ましく、500×10
3個/g未満がより好ましい。アセトン不溶解物量が600×10
3個/以上となると、ドープをろ過する際にフィルターが目詰まりしやすくフィルターの洗浄、交換が必要となり生産性が悪化する。さらに、アセトン不溶解物量が増えすぎれば、測定時にガラスフィルターが目詰まりして測定不能となる場合がある。アセトン不溶解物量の下限値としては、より小さい方が好ましく、特に限定されるものではないが、例えば、製造コスト、生産性の観点からは、100×10
3個/g以上であってもよい。
【0069】
アセトン不溶解物量は下記の方法により求めることができる。アセトンに、1wt%固形分濃度になるようにセルロースアセテートを溶解して溶液とする。デジタルイメージングシステム(Flow CAM:Fluid Imaging Technologies社製)を用いて、溶液中の異物個数を以下の測定条件にて測定する。測定後、次式よりアセトン不溶解物量をセルロースアセテート単位重量あたりのアセトン不溶解物量として算出する。
(測定条件)
温度:25℃
測定濃度:1%
測定量:0.5ml
セル厚さ:100um
対物レンズ:10倍
測定粒子径範囲:4um−60um
測定モード:オートイメージモード
アセトン不溶解物量(×10
3個/g)
=測定個数/(測定体積×溶媒密度×固形分濃度)/1000
【0070】
[成形体]
本開示の製造方法により得られるセルロースアセテートを成形して成形体としてもよい。成形体の形状は特に制限されず、繊維状等の一次元的成形体;フィルム・シート状等の二次元的成形体であってよい。これらは、OA・家電機器分野、電気・電子分野、通信機器分野、サニタリー分野、自動車等の輸送車両分野、家具・建材等の住宅関連分野、雑貨分野等において適した形状である。成形方法としては、乾式又は湿式紡糸;溶融製膜又は溶液製膜等が挙げられる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。後述する実施例に記載の各物性は以下の方法で評価した。
【0072】
<構成糖分析>
セルロースアセテートを硫酸によって加水分解し、炭酸バリウムによって中和し、ろ紙およびイオン交換フィルターによってろ過した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法のうち、HPLC−CAD(Agilent1200シリーズシステム)から得られたデータを用いて、キシロース、マンノースおよびグルコースのモル含量を算出し、キシロース、マンノースおよびグルコースのモル含量の和におけるキシロースのモル含量の割合を求めた。
【0073】
HPLC−CAD測定条件は、以下のとおりである。
カラム:Asahipak NH2P−50 4E(4.6mmI.D.×250mm)
ガードカラム:Asahipak NH2P−50G 4A(4.6mmI.D.×10mm)
カラム温度:20℃
移動相:水/アセトニトリル=25/75(v/v)
移動相流速:1.0mL/min
【0074】
検出器:CoronaPlus CAD検出器(ESA Biosciences製)
窒素ガス圧力:35psi
ネブライザー:30℃
【0075】
<6%粘度>
セルロースアセテートの6%粘度は、下記の方法で測定した。三角フラスコに乾燥試料3.00g、95%アセトン水溶液を39.90g入れ、密栓して約1.5時間撹拌した。その後、回転振盪機で約1時間振盪して完溶させた。得られた6wt/vol%の溶液を所定のオストワルド粘度計の標線まで移し、25±1℃で約30分間整温した。計時標線間の流下時間を測定し、次式(1)により6%粘度を算出した。
6%粘度(mPa・s)=流下時間(s)×粘度計係数 (1)
【0076】
粘度計係数は、粘度計校正用標準液[昭和石油社製、商品名「JS−200」(JIS Z 8809に準拠)]を用いて上記と同様の操作で流下時間を測定し、次式(2)より求めた。
粘度計係数={標準液絶対粘度(mPa・s)×溶液の密度(0.827g/cm
3)}/{標準液の密度(g/cm
3)×標準液の流下秒数(s) (2)
【0077】
<酢化度>
セルロースアセテートの酢化度は、ASTM−D−817−91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定方法により求めた。乾燥したセルロースアセテート1.9gを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶媒(容量比4:1)150mlに溶解した後、1N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを添加し、25℃で2時間ケン化した。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N−硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定した。また、上記と同様の方法でブランク試験を行い、下記式に従って酢化度を算出した。
酢化度(%)=[6.5×(B−A)×F]/W
(式中、Aは試料での1N−硫酸の滴定量(ml)、Bはブランク試験での1N−硫酸の滴定量(ml)、Fは1N−硫酸の濃度ファクター、Wは試料の重量を示す)
【0078】
<アセトン不溶解物量>
アセトンに、1wt%固形分濃度になるようにセルロースアセテートを溶解し、回転振蕩機に取り付け、2時間振蕩(50rpm)し溶解させて溶液とした。溶液をデジタルイメージングシステム(Flow CAM:Fluid Imaging Technologies社製)に0.5ml投入し、溶液中の異物個数(測定個数)を以下の測定条件にて測定した。
(測定条件)
温度:25℃
測定濃度:1%
測定量:0.5ml
セル厚さ:100um
対物レンズ:10倍
測定粒子径範囲:4um−60um
測定モード:オートイメージモード
そして、測定後、次式よりセルロースアセテート単位重量あたりのアセトン不溶解物量を算出した。なお、アセトンの密度は、0.79g/mlである。
アセトン不溶解物量(×10
3個/g)
=測定個数/(測定体積×溶媒密度×固形分濃度)/1000
=測定個数/(0.5ml×0.79g/ml×0.01)/1000
【0079】
<吸光度法色相>
セルロースアセテート濃度既知のDMSO溶液をサンプルとして調製し、波長λ=430nmの吸光度および波長740nmの吸光度をそれぞれ測定して吸光度の差を求め、さらにセルロースアセテート濃度を100%換算して得られた値を吸光度法色相とした。セルロースアセテートの吸光度法色相は、下記の方法で測定した。
【0080】
(1)セルロースアセテートの含水率測定
赤外線水分計(METTLER TOLEDO HB43)を用いて、セルロースアセ
テートの含水率を測定し、記録用紙に記録した。
【0081】
(2)吸光度の測定
まずサンプル調製を行った。1)三角フラスコにDMSO95.00gを計量した。2)三角フラスコにスターラー回転子を入れ、セロファン、シリコン栓をして撹拌した。3)セルロースアセテートサンプル5.00gを薬包紙等に計量し撹拌している三角フラスコ内に添加した。4)セロファン、シリコン栓をしてスターラーで1hr撹拌した。5)回転振盪機(高速)で2hr振盪した。6)回転振盪機から取り外した後30分間静置し脱泡し、サンプルを調製した。
【0082】
次に、吸光度の測定を行った。サンプル調製後直ちに、つまり回転振盪機から取り外した後30分間静置し脱泡した後直ちに、島津製作所社製UV−1700にて波長λ=430nmおよび740nmの吸光度を測定した。具体的には、1)測定する30分以上前に装置の電源を入れ、装置が安定化したことを確認した。2)10cmガラスセルにレファレンス、ブランク液としてDMSOを入れベースライン補正を行った。3)三角フラスコ内のサンプルを気泡が発生しないように10cmガラスセルに移した。4)手前の測定側セルをサンプルが注入されたガラスセルに入れ替えた。5)スタートボタンを押して測定を開始した。6)表示された測定結果を記録用紙に記録した。
【0083】
(3)吸光度法色相
以下の計算式で得られた数値をセルロースアセテートのその溶媒における「吸光度法色
相」値とした。
吸光度法色相(cm
−1)=吸光度(A−B)/セル厚(cm)/セルロースアセテート
濃度(重量%)×100
吸光度:分光光度計 島津製作所社製UV−1700
A:430nmの吸光度(液の黄色味を測定)
B:740nmの吸光度(液の濁りを測定:ベースライン)
セルロースアセテート濃度(重量%):絶乾セルロースアセテート重量(g)/セルロー
スアセテート溶液全体重量(g)×100
絶乾セルロースアセテート重量(g):セルロースアセテートの重量(g)×(1−含水率(%)/100)
含水率(%):上記赤外線水分計で測定した値
【0084】
波長430nmにおける吸光度法色相は、その値が小さいほどセルロースアセテートの黄色味が少なく、色相に優れることを意味する。
【0085】
<比較例1>
α−セルロース含量98.4wt%の広葉樹クラフトパルプをディスクリファイナーで綿状に解砕し、解砕パルプを得た。100重量部の解砕パルプ(含水率7%)に29重量部の酢酸を噴霧し、良くかき混ぜた後、前処理として1時間(60分間)静置し活性化した(前処理工程)。
【0086】
予冷機に45重量%無水酢酸−酢酸溶液503重量部、98重量%硫酸13質量部、99重量%酢酸29重量部を投入し、予め−17℃に冷やしておいた。予冷機の溶液を酢化反応器に仕込んだ後、この酢酸を含浸させたパルプを、酢化反応器に撹拌しながら仕込んだ。さらに前処理機と酢化反応器とを結ぶラインを通じ、酢化反応器に45重量%無水酢酸−酢酸溶液18重量部を仕込み、酢化反応を開始した。45分を要して48℃の最高温度に調整し、パルプを混合物に加えた時点から90分間酢化して、セルロースアセテートのドープを生成した(酢化反応工程)。
【0087】
その後、生成したセルロースアセテートのドープを、
図2に示すような熟成機23bに移して撹拌を開始し、75℃になるまで蒸気を投入した。熟成機23bは、撹拌翼4に代えて、撹拌翼15をを備える他は熟成機23aと同じである。撹拌翼15は、2段のパドル翼を有する。75℃になった時点で10重量部の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を撹拌槽に添加混合し、系内の硫酸を一部中和した。更に系内濃度を調整するため、17重量部の水を撹拌槽に加えた。その後、85℃まで昇温し、60分間熟成させた。熟成工程終了後、16重量部の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加混合し、系内の硫酸を完全に中和した。最後に、系内濃度を調整するため、撹拌槽に58重量部の水を加え、セルロースアセテートを含む反応混合物を得た(加水分解(ケン化)反応工程)。なお、撹拌開始時におけるセルロースアセテートのドープの粘度は、120Pa・sであり、撹拌は、約30〜40rpmで熟成を停止するまで継続して行った。
【0088】
反応混合物は激しい撹拌の下に、希酢酸水溶液を加えて、フレークス状セルロースアセテートとした。その後、十分水洗して取り出し、脱水及び熱風乾燥により乾燥した。得られたセルロースアセテートおよび各原料の物性を評価した。
【0089】
得られたセルロースアセテートについて、構成糖比、6%粘度、酢化度、アセトン不溶解物量、吸光度法色相をそれぞれ測定した。構成糖比はグルコース97.5mol%、キシロース0.9mol%、及びマンノース1.6mol%であり、6%粘度は111mPa・s、酢化度は55.35%、アセトン不溶解物量は701×10
3個/g、吸光度法色相は0.28cm
−1であった。結果を表1に示す。
【0090】
<実施例1>
撹拌翼として2段のパドル翼を備える熟成機23bに代えて、撹拌翼4に相当するMAXBLEND(登録商標)(住友重機械プロセス機器株式会社製)を備える熟成機23a(d/D=0.7)を用いた以外は、比較例1と同様にして、セルロースアセテートを取得した。
【0091】
得られたセルロースアセテートについて、構成糖比、6%粘度、酢化度、アセトン不溶解物量、吸光度法色相をそれぞれ測定した。構成糖比はグルコース97.5mol%、キシロース0.9mol%、及びマンノース1.6mol%であり、6%粘度は102mPa・s、酢化度は55.07%、アセトン不溶解物量は579×10
3個/g、吸光度法色相は0.23cm
−1であった。結果を表1に示す。
【0092】
<比較例2>
酢化反応工程において、パルプを混合物に加えた時点から45分を要して46℃の最高温度に調整し、パルプを混合物に加えた時点から100分間酢化させ、加水分解(ケン化)反応工程において、85℃まで昇温し、70分間熟成させた以外は、比較例1と同様にして、セルロースアセテートを取得した。なお、撹拌開始時におけるセルロースアセテートのドープの6%粘度は、140Pa・sであった。
【0093】
得られたセルロースアセテートについて、構成糖比、6%粘度、酢化度、アセトン不溶解物量、吸光度法色相をそれぞれ測定した。構成糖比はグルコース97.5mol%、キシロース0.9mol%、及びマンノース1.6mol%であり、6%粘度は131mPa・s、酢化度は55.55%、アセトン不溶解物量は1093×10
3個/g、吸光度法色相は0.23cm
−1であった。結果を表1に示す。
【0094】
<実施例2>
撹拌翼として2段のパドル翼を備える熟成機23bに代えて、撹拌翼4に相当するMAXBLEND(登録商標)(住友重機械プロセス機器株式会社製)を備える熟成機23a(d/D=0.7)を用いた以外は、比較例2と同様にして、セルロースアセテートを取得した。
【0095】
得られたセルロースアセテートについて、構成糖比、6%粘度、酢化度、アセトン不溶解物量、吸光度法色相をそれぞれ測定した。構成糖比はグルコース97.5mol%、キシロース0.9mol%、及びマンノース1.6mol%であり、6%粘度は119mPa・s、酢化度は55.44%、アセトン不溶解物量は467×10
3個/g、吸光度法色相は0.20cm
−1であった。結果を表1に示す。
【0096】
<比較例3>
広葉樹クラフトパルプを純度の低いもの(α−セルロース含量93wt%)に変更した以外は、比較例1と同様にして、セルロースアセテートを取得した。なお、撹拌開始時におけるセルロースアセテートのドープの粘度は、180Pa・sであった。
【0097】
得られたセルロースアセテートについて、構成糖比、6%粘度、酢化度、アセトン不溶解物量、吸光度法色相をそれぞれ測定した。構成糖比はグルコース96.5mol%、キシロース1.7mol%、及びマンノース1.8mol%であり、6%粘度は126mPa・s、酢化度は55.18%、アセトン不溶解物量は1233×10
3個/g、吸光度法色相は0.31cm
−1であった。結果を表1に示す。
【0098】
<実施例3>
撹拌翼として2段のパドル翼を備える熟成機23bに代えて、撹拌翼4に相当するMAXBLEND(登録商標)(住友重機械プロセス機器株式会社製)を備える熟成機23a(d/D=0.7)を用いた以外は、比較例3と同様にして、セルロースアセテートを取得した。
【0099】
得られたセルロースアセテートについて、構成糖比、6%粘度、酢化度、アセトン不溶解物量、吸光度法色相をそれぞれ測定した。構成糖比はグルコース96.5mol%、キシロース1.7mol%、及びマンノース1.8mol%であり、6%粘度は128mPa・s、酢化度は55.37%、アセトン不溶解物量は592×10
3個/g、吸光度法色相は0.28cm
−1であった。結果を表1に示す。
【表1】
【0100】
実施例1〜3と比較例1〜3との対比から、本開示のセルロースアセテートの製造方法によれば、異物の発生が少なく、その結果、異物数が少ないセルロースアセテートが得られることが確認できた。また、セルロースアセテートの色相を改善できることも確認できた。