特許第6898274号(P6898274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6898274-点火プラグ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6898274
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】点火プラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20210628BHJP
【FI】
   H01T13/20 B
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-113693(P2018-113693)
(22)【出願日】2018年6月14日
(65)【公開番号】特開2019-216067(P2019-216067A)
(43)【公開日】2019年12月19日
【審査請求日】2020年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001058
【氏名又は名称】特許業務法人鳳国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 喜知
(72)【発明者】
【氏名】上垣 裕則
【審査官】 太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−022886(JP,A)
【文献】 特開2005−340171(JP,A)
【文献】 特開2007−179788(JP,A)
【文献】 特開2002−246146(JP,A)
【文献】 特開2010−055859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00−21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線の方向に延びる貫通孔を有する絶縁体と、
前記貫通孔の先端側に少なくとも一部が挿入された中心電極と、
前記貫通孔の後端側に少なくとも一部が挿入された端子金具と、
前記貫通孔内の前記中心電極と前記端子金具との間に配置され、抵抗体を含む接続部と、
前記貫通孔内で前記中心電極と前記接続部とを接続する第1シール部と、
前記貫通孔内で前記端子金具と前記接続部とを接続する第2シール部と、
を備える点火プラグであって、
前記第1シール部は、珪素を含むガラスと導電性物質とを含み、
前記第2シール部は、珪素を含むガラスと導電性物質とを含み、
前記第1シール部は、セラミックを含む1種以上の第1結晶を有し、
前記第2シール部は、セラミックを含む1種以上の第2結晶を有し、
前記第1シール部の断面のX線回折により得られるピークのうち、前記1種以上の第1結晶のいずれかに由来する最大ピークの強度Ib1と、前記強度Ib1が由来する第1結晶が全体に亘って形成されている基準サンプルの断面のX線回折により得られるピークの強度Ia1との比率(Ib1/Ia1)を、第1の結晶比率とし、
前記第2シール部の断面のX線回折により得られるピークうち、前記1種以上の第2結晶のいずれかに由来する最大ピークの強度Ib2と、前記強度Ib2が由来する第2結晶が全体に亘って形成されている基準サンプルの断面のX線回折により得られるピークの強度Ia2との比率(Ib2/Ia2)を、第2の結晶比率とした場合に、
前記1種以上の第2結晶のそれぞれの前記第2の結晶比率の合計値は、前記1種以上の第1結晶のそれぞれの前記第1の結晶比率の合計値より、小さい、
点火プラグ。
【請求項2】
請求項1に記載の点火プラグであって、
前記1種以上の第1結晶のうちの少なくとも1種は、前記セラミックとして珪素を含む結晶化ガラスであり、
前記1種以上の第2結晶のうちの少なくとも1種は、前記セラミックとして珪素を含む結晶化ガラスである、
点火プラグ。
【請求項3】
軸線の方向に延びる貫通孔を有する絶縁体と、
前記貫通孔の先端側に少なくとも一部が挿入された中心電極と、
前記貫通孔の後端側に少なくとも一部が挿入された端子金具と、
前記貫通孔内の前記中心電極と前記端子金具との間に配置され、抵抗体を含む接続部と、
前記貫通孔内で前記中心電極と前記接続部とを接続する第1シール部と、
前記貫通孔内で前記端子金具と前記接続部とを接続する第2シール部と、
を備える点火プラグであって、
前記第1シール部は、珪素を含むガラスと導電性物質とを含み、
前記第2シール部は、珪素を含むガラスと導電性物質とを含み、
前記第1シール部は、セラミックを含む1種以上の第1結晶を有し、
前記第2シール部に含まれる前記ガラスは、非晶質ガラスである、
点火プラグ。
【請求項4】
請求項3に記載の点火プラグであって、
前記1種以上の第1結晶のうちの少なくとも1種は、前記セラミックとして珪素を含む結晶化ガラスである、
点火プラグ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記抵抗体は、非晶質ガラスを含む、
点火プラグ。
【請求項6】
請求項5に記載の点火プラグであって、
前記第2シール部は、非晶質ガラスを含み、
前記第2シール部に含まれる前記非晶質ガラスのガラス転移温度は、前記抵抗体に含まれる前記非晶質ガラスのガラス転移温度よりも、低い、
点火プラグ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記第1シール部は、非晶質ガラスを含み、
前記第2シール部は、非晶質ガラスを含み、
前記第2シール部に含まれる前記非晶質ガラスの軟化点は、前記第1シール部に含まれる前記非晶質ガラスの軟化点よりも、低い、
点火プラグ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記第1シール部は、結晶化ガラスと非晶質ガラスとを含み、
前記第1シール部に含まれる前記結晶化ガラスは、前記第1シール部に含まれる前記非晶質ガラスに含まれる成分で構成されている、
点火プラグ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記第1シール部は、結晶化ガラスを含み、
前記第1シール部に含まれる前記結晶化ガラスは、β−ユークリプタイト、コーディエライト、β−スポジュメン、アノーサイトのうちの少なくとも1つを含む結晶化ガラスを含む、
点火プラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、絶縁体の貫通孔内にガラスシールを有する点火プラグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料を燃焼させる装置(例えば、内燃機関)における点火に、点火プラグが用いられている。点火プラグとしては、絶縁体内に挿入された一電極側導電ガラスシール材と、抵抗ガラスシール材と、他電極側導電ガラスシール材と、を有する抵抗ガラスシール点火プラグが利用されている。ここで、各導電ガラスシール材と抵抗ガラスシール材とが相互に入り込むことを抑制するために、導電ガラスシール材に結晶化ガラスを使用し、抵抗ガラスシール材に非晶質ガラスを使用する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭51−141936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、点火プラグの昇温時には、抵抗ガラスシール材が熱膨張し得る。抵抗ガラスシール材が2つの導電ガラスシール材の間で膨張すると、絶縁体内の圧力が高くなる。このような圧力に起因して、絶縁体が破損するなどの不具合が生じ得た。
【0005】
本明細書は、ガラスを含むシールを有する点火プラグの不具合を抑制する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書は、例えば、以下の適用例を開示する。
【0007】
[適用例1]
軸線の方向に延びる貫通孔を有する絶縁体と、
前記貫通孔の先端側に少なくとも一部が挿入された中心電極と、
前記貫通孔の後端側に少なくとも一部が挿入された端子金具と、
前記貫通孔内の前記中心電極と前記端子金具との間に配置され、抵抗体を含む接続部と、
前記貫通孔内で前記中心電極と前記接続部とを接続する第1シール部と、
前記貫通孔内で前記端子金具と前記接続部とを接続する第2シール部と、
を備える点火プラグであって、
前記第1シール部は、珪素を含むガラスと導電性物質とを含み、
前記第2シール部は、珪素を含むガラスと導電性物質とを含み、
前記第1シール部は、セラミックを含む1種以上の第1結晶を有し、
前記第2シール部は、セラミックを含む1種以上の第2結晶を有し、
前記第1シール部の断面のX線回折により得られるピークのうち、前記1種以上の第1結晶のいずれかに由来する最大ピークの強度Ib1と、前記強度Ib1が由来する第1結晶が全体に亘って形成されている基準サンプルの断面のX線回折により得られるピークの強度Ia1との比率(Ib1/Ia1)を、第1の結晶比率とし、
前記第2シール部の断面のX線回折により得られるピークうち、前記1種以上の第2結晶のいずれかに由来する最大ピークの強度Ib2と、前記強度Ib2が由来する第2結晶が全体に亘って形成されている基準サンプルの断面のX線回折により得られるピークの強度Ia2との比率(Ib2/Ia2)を、第2の結晶比率とした場合に、
前記1種以上の第2結晶のそれぞれの前記第2の結晶比率の合計値は、前記1種以上の第1結晶のそれぞれの前記第1の結晶比率の合計値より、小さい、
点火プラグ。
【0008】
この構成によれば、端子金具に近い第2シール部が、中心電極に近い第1シール部よりも変形し易いので、点火プラグの昇温によって貫通孔内の部材が熱膨張する場合に、第2シール部の変形によって、貫通孔内の昇圧が緩和される。これにより、絶縁体が破損するなどの不具合を抑制できる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載の点火プラグであって、
前記1種以上の第1結晶のうちの少なくとも1種は、前記セラミックとして珪素を含む結晶化ガラスであり、
前記1種以上の第2結晶のうちの少なくとも1種は、前記セラミックとして珪素を含む結晶化ガラスである、
点火プラグ。
【0010】
この構成によれば、セラミックとして珪素を含む結晶化ガラスとその周囲の珪素を含むガラスとの接触を強化できる。従って、第1シール部内に隙間が形成されることを抑制できる。また、第2シール部内に隙間が形成されることを抑制できる。
【0011】
[適用例3]
軸線の方向に延びる貫通孔を有する絶縁体と、
前記貫通孔の先端側に少なくとも一部が挿入された中心電極と、
前記貫通孔の後端側に少なくとも一部が挿入された端子金具と、
前記貫通孔内の前記中心電極と前記端子金具との間に配置され、抵抗体を含む接続部と、
前記貫通孔内で前記中心電極と前記接続部とを接続する第1シール部と、
前記貫通孔内で前記端子金具と前記接続部とを接続する第2シール部と、
を備える点火プラグであって、
前記第1シール部は、珪素を含むガラスと導電性物質とを含み、
前記第2シール部は、珪素を含むガラスと導電性物質とを含み、
前記第1シール部は、セラミックを含む1種以上の第1結晶を有し、
前記第2シール部に含まれる前記ガラスは、非晶質ガラスである、
点火プラグ。
【0012】
この構成によれば、端子金具に近い第2シール部が、中心電極に近い第1シール部よりも変形し易いので、点火プラグの昇温によって貫通孔内の部材が熱膨張する場合に、第2シール部の変形によって、貫通孔内の昇圧が緩和される。これにより、絶縁体が破損するなどの不具合を抑制できる。
【0013】
[適用例4]
適用例3に記載の点火プラグであって、
前記1種以上の第1結晶のうちの少なくとも1種は、前記セラミックとして珪素を含む結晶化ガラスである、
点火プラグ。
【0014】
この構成によれば、セラミックとして珪素を含む結晶と珪素を含むガラスとの接触を強化できる。従って、第1シール部内に隙間が形成されることを抑制できる。
【0015】
[適用例5]
適用例1から4のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記抵抗体は、非晶質ガラスを含む、
点火プラグ。
【0016】
この構成によれば、点火プラグの昇温によって貫通孔内の抵抗体が熱膨張する場合に、不具合を抑制できる。
【0017】
[適用例6]
適用例5に記載の点火プラグであって、
前記第2シール部は、非晶質ガラスを含み、
前記第2シール部に含まれる前記非晶質ガラスのガラス転移温度は、前記抵抗体に含まれる前記非晶質ガラスのガラス転移温度よりも、低い、
点火プラグ。
【0018】
この構成によれば、点火プラグの温度が抵抗体に含まれる非晶質ガラスのガラス転移温度を超える場合に、第2シール部が変形できるので、不具合を抑制できる。
【0019】
[適用例7]
適用例1から6のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記第1シール部は、非晶質ガラスを含み、
前記第2シール部は、非晶質ガラスを含み、
前記第2シール部に含まれる前記非晶質ガラスの軟化点は、前記第1シール部に含まれる前記非晶質ガラスの軟化点よりも、低い、
点火プラグ。
【0020】
この構成によれば、点火プラグの昇温時、第2シール部は、第1シール部よりも先に、柔らかくなるので、不具合を適切に抑制できる。
【0021】
[適用例8]
適用例1から7のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記第1シール部は、結晶化ガラスと非晶質ガラスとを含み、
前記第1シール部に含まれる前記結晶化ガラスは、前記第1シール部に含まれる前記非晶質ガラスに含まれる成分で構成されている、
点火プラグ。
【0022】
この構成によれば、第1シール部の結晶化ガラスと非晶質ガラスとの接触を強化できるので、結晶化ガラスと非晶質ガラスとの間に隙間が生じることが、抑制される。
【0023】
[適用例9]
適用例1から8のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記第1シール部は、結晶化ガラスを含み、
前記第1シール部に含まれる前記結晶化ガラスは、β−ユークリプタイト、コーディエライト、β−スポジュメン、アノーサイトのうちの少なくとも1つを含む結晶化ガラスを含む、
点火プラグ。
【0024】
この構成によれば、第1シール部の熱膨張が抑制されるので、第1シール部が燃焼室内に漏れる等の不具合を抑制できる。
【0025】
なお、本明細書に開示の技術は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、点火プラグや点火プラグを用いた点火装置、その点火プラグを搭載する内燃機関や、その点火プラグを用いた点火装置を搭載する内燃機関等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】一実施形態としての点火プラグ100の断面図である。
図2】X線回折により得られる強度分布のグラフの例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
A.実施形態:
A−1.点火プラグの構成:
図1は、一実施形態としての点火プラグ100の断面図である。図中には、点火プラグ100の中心軸CL(「軸線CL」とも呼ぶ)と、点火プラグ100の中心軸CLを含む平らな断面と、が示されている。以下、中心軸CLに平行な方向を「軸線CLの方向」、または、単に「軸線方向」または「前後方向」とも呼ぶ。軸線CLを中心とする円の径方向を「径方向」とも呼ぶ。径方向は、軸線CLに垂直な方向である。軸線CLを中心とする円の円周方向を、「周方向」とも呼ぶ。中心軸CLに平行な方向のうち、図1における下方向を先端方向Df、または、前方向Dfと呼び、上方向を後端方向Dfr、または、後方向Dfrとも呼ぶ。先端方向Dfは、後述する端子金具40から中心電極20に向かう方向である。また、図1における先端方向Df側を点火プラグ100の先端側と呼び、図1における後端方向Dfr側を点火プラグ100の後端側と呼ぶ。
【0028】
点火プラグ100は、軸線CLに沿って延びる貫通孔12(軸孔12とも呼ぶ)を有する筒状の絶縁体10と、貫通孔12の先端側で保持される中心電極20と、貫通孔12の後端側で保持される端子金具40と、貫通孔12内で中心電極20と端子金具40との間に配置された接続部75と、中心電極20と接続部75とに接触してこれらの部材20、75を電気的に接続する導電性の第1シール部72と、接続部75と端子金具40とに接触してこれらの部材75、40を電気的に接続する導電性の第2シール部74と、絶縁体10の外周側に固定された筒状の主体金具50と、一端が主体金具50の環状の先端面55に接合されるとともに他端が中心電極20とギャップgを介して対向するように配置された接地電極30と、を有している。本実施形態では、接続部75は、抵抗体73で形成されている。
【0029】
絶縁体10の軸線方向の略中央には、外径が最も大きな大径部14が形成されている。大径部14より後端側には、後端側胴部13が形成されている。大径部14よりも先端側には、後端側胴部13よりも外径の小さな先端側胴部15が形成されている。先端側胴部15よりもさらに先端側には、縮外径部16と、脚部19とが、先端側に向かってこの順に形成されている。縮外径部16の外径は、前方向Dfに向かって、徐々に小さくなっている。縮外径部16の近傍(図1の例では、先端側胴部15)には、前方向Dfに向かって内径が徐々に小さくなる縮内径部11が形成されている。絶縁体10は、機械的強度と、熱的強度と、電気的強度とを考慮して形成されることが好ましく、例えば、アルミナを焼成して形成されている(他の絶縁材料も採用可能である)。
【0030】
中心電極20は、金属製の部材であり、絶縁体10の貫通孔12内の前方向Df側の端部に配置されている。中心電極20は、略円柱状の棒部28と、棒部28の先端に接合(例えば、レーザ溶接)された第1チップ29と、を有している。棒部28は、後方向Dfr側の部分である頭部24と、頭部24の前方向Df側に接続された軸部27と、を有している。軸部27は、軸線CLに平行に前方向Dfに向かって延びている。頭部24のうちの前方向Df側の部分は、軸部27の外径よりも大きな外径を有する鍔部23を形成している。鍔部23の前方向Df側の面は、絶縁体10の縮内径部11によって、支持されている。軸部27は、鍔部23の前方向Df側に接続されている。第1チップ29は、軸部27の先端に接合されている。
【0031】
棒部28は、外層21と、外層21の内周側に配置された芯部22と、を有している。外層21は、芯部22よりも耐酸化性に優れる材料(例えば、ニッケルを主成分として含む合金)で形成されている。ここで、主成分は、含有率(質量パーセント(wt%))が最も高い成分を意味している。芯部22は、外層21よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅、銅を主成分として含む合金、等)で形成されている。第1チップ29は、棒部28の外層21に接合されている。棒部28(本実施形態では、外層21)は、第1チップ29が接合される母材の例である。第1チップ29は、軸部27よりも放電に対する耐久性に優れる材料(例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の貴金属)を用いて形成されている。中心電極20のうち第1チップ29を含む前方向Df側の一部分は、絶縁体10の軸孔12から前方向Df側に露出している。中心電極20のうち後方向Dfr側の部分は、軸孔12内に配置されている。このように、中心電極20の一部は、貫通孔12内に挿入されている。なお、第1チップ29は、省略されてよい。また、芯部22は、省略されてもよい。
【0032】
端子金具40は、軸線CLに平行に延びる棒状の部材である。端子金具40は、導電性材料を用いて形成されている(例えば、鉄を主成分として含む金属)。端子金具40は、前方向Dfに向かって順番で並ぶ、キャップ装着部49と、鍔部48と、軸部41と、を有している。軸部41は、絶縁体10の軸孔12の後方向Dfr側の部分に挿入されている。キャップ装着部49は、絶縁体10の後端側で、軸孔12の外に露出している。
【0033】
絶縁体10の軸孔12内において、端子金具40と中心電極20との間には、接続部75が配置されている。本実施形態では、接続部75は、電気的なノイズを抑制するための抵抗体73で形成されている。抵抗体73は、例えば、ガラスと導電性材料(例えば、炭素粒子)とセラミック粒子との混合物を用いて形成されている。接続部75と中心電極20との間には、第1シール部72が配置され、接続部75と端子金具40との間には、第2シール部74が配置されている。これらのシール部72、74は、導電性材料(例えば、銅や鉄などの金属粒子)とガラスとの混合物を用いて形成されている。中心電極20は、第1シール部72、接続部75(ここでは、抵抗体73)、第2シール部74によって、端子金具40に電気的に接続されている。
【0034】
主体金具50は、軸線CLに沿って延びる貫通孔59を有する筒状の部材である。本実施形態では、主体金具50の中心軸は、軸線CLと同じである。主体金具50の貫通孔59には、絶縁体10が挿入され、主体金具50は、絶縁体10の外周に固定されている。主体金具50は、導電材料(例えば、主成分である鉄を含む炭素鋼等の金属)を用いて形成されている。絶縁体10の前方向Df側の一部は、貫通孔59の外に露出している。また、絶縁体10の後方向Dfr側の一部は、貫通孔59の外に露出している。
【0035】
主体金具50は、工具係合部51と、先端側胴部52と、を有している。工具係合部51は、点火プラグ用のレンチ(図示せず)が嵌合する部分である。先端側胴部52は、主体金具50の先端面55を含む部分である。先端側胴部52の外周面には、図示しない内燃機関の取付孔に螺合するためのネジ部57が形成されている。ネジ部57は、軸線CLの方向に延びる雄ねじが形成された部分である。
【0036】
主体金具50の工具係合部51と先端側胴部52との間には、径方向外側に張り出したフランジ状の中胴部54が形成されている。中胴部54の外径は、ネジ部57の最大外径(すなわち、ネジ山の頂の外径)よりも、大きい。中胴部54の前方向Df側の面54fは、座面であり、内燃機関のうちの取付孔を形成する部分である取り付け部(例えば、エンジンヘッド)とのシールを形成する(座面54fと呼ぶ)。
【0037】
先端側胴部52のネジ部57と中胴部54の座面54fとの間には、環状のガスケット9が配置されている。ガスケット9は、点火プラグ100が内燃機関に取り付けられた際に押し潰されて変形し、主体金具50の座面54fと、図示しない内燃機関の取り付け部(例えば、エンジンヘッド)と、の隙間を封止する。なお、ガスケット9が省略されてもよい。この場合、主体金具50の座面54fは、直接に内燃機関の取り付け部に接触することによって、座面54fと、内燃機関の取り付け部と、の隙間を封止する。
【0038】
主体金具50の先端側胴部52には、径方向の内側に向かって張り出した張り出し部56が形成されている。張り出し部56は、少なくとも張り出し部56の後方向Dfr側の部分の内径と比べて内径が小さい部分である。本実施形態では、張り出し部56の後方向Dfr側の面56r(後面56rとも呼ぶ)では、内径が、前方向Dfに向かって、徐々に小さくなる。張り出し部56の後面56rと、絶縁体10の縮外径部16と、の間には、先端側パッキン8が挟まれている。先端側パッキン8は、例えば、鉄製の板状リングである(他の材料(例えば、銅等の金属材料)も採用可能である)。張り出し部56(具体的には、張り出し部56のうちの後面56rを形成する部分)は、パッキン8を介して間接的に、絶縁体10の縮外径部16を前方向Df側から支持している。なお、パッキン8は、省略されてもよい。この場合、張り出し部56(具体的には、張り出し部56の後面56r)は、絶縁体10の縮外径部16に接触してよい。すなわち、張り出し部56は、直接的に、絶縁体10を支持してよい。このように、張り出し部56は、直接的、または、間接的に、絶縁体10の縮外径部16を支持する支持部に対応する。
【0039】
主体金具50の工具係合部51より後端側には、主体金具50の後端を形成するとともに工具係合部51と比べて薄肉の部分である後端部53が形成されている。また、中胴部54と工具係合部51との間には、中胴部54と工具係合部51とを接続する接続部58が形成されている。接続部58の肉厚は、中胴部54と工具係合部51とのそれぞれの肉厚と比べて、薄い。主体金具50の工具係合部51から後端部53にかけての内周面と、絶縁体10の後端側胴部13の外周面との間には、円環状のリング部材61、62が挿入されている。さらに、これらのリング部材61、62の間には、タルク70の粉末が充填されている。点火プラグ100の製造工程において、後端部53が内側に折り曲げられて加締められると、接続部58が力の付加に伴って外向きに変形し、この結果、主体金具50と絶縁体10とが固定される。本実施形態では、接続部58は、径方向の外側に向かって膨らむように湾曲している(以下、接続部58を、湾曲部58とも呼ぶ)。タルク70は、この加締め工程の際に圧縮され、主体金具50と絶縁体10との間の気密性が高められる。また、パッキン8は、絶縁体10の縮外径部16と主体金具50の張り出し部56との間で押圧され、そして、主体金具50と絶縁体10との間をシールする。
【0040】
接地電極30は、金属製の部材であり、棒状の本体部37を有している。本体部37の端部33(基端部33とも呼ぶ)は、主体金具50の先端面55に接合されている(例えば、抵抗溶接)。本体部37は、主体金具50に接合された基端部33から先端方向Dfに向かって延び、中心軸CLに向かって曲がり、軸線CLに交差する方向に延びて、先端部34に至る。先端部34の後方向Dfr側の面には、第2チップ39が接合されている(例えば、抵抗溶接)。接地電極30の第2チップ39と、中心電極20の第1チップ29とは、ギャップgを形成している。すなわち、接地電極30の第2チップ39は、中心電極20の第1チップ29の前方向Df側に配置されており、第1チップ29とギャップgを介して対向している。
【0041】
本体部37は、外層31と、外層31の内周側に配置された内層32と、を有している。外層31は、内層32よりも耐酸化性に優れる材料(例えば、ニッケルを主成分として含む合金)で形成されている。内層32は、外層31よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅、銅を主成分として含む合金、等)で形成されている。第2チップ39は、本体部37の外層31に接合されている。本体部37(本実施形態では、外層31)は、第2チップ39が接合される母材の例である。なお、第2チップ39は、省略されてよい。また、内層32は、省略されてもよい。
【0042】
A−2.製造方法:
点火プラグ100の製造方法としては、種々の方法を採用可能である。例えば、以下の製造方法を採用可能である。まず、絶縁体10と、端子金具40と、抵抗体73の材料粉末と、シール部72、74のそれぞれの材料粉末と、主体金具50と、中心電極20と、直線状の接地電極30と、を含む点火プラグ100の部品を準備する。絶縁体10は、例えば、アルミナなどの材料粉末を所定の形状に成形し、成形された部材を焼成することによって、製造される。端子金具40、主体金具50、中心電極20、直線状の接地電極30などの金属部材は、例えば、鍛造、切削、溶接などの方法によって、製造される。
【0043】
次に、準備された部材を用いて、絶縁体10と中心電極20と端子金具40とを有する組立体が準備される。例えば、絶縁体10の後方向Dfr側の開口から中心電極20が挿入される。中心電極20は、絶縁体10の縮内径部11に支持されることにより、貫通孔12内の所定位置に配置される。次に、第1シール部72、抵抗体73、第2シール部74のそれぞれの材料粉末の投入と投入された粉末材料の成形とが、部材72、73、74の順番に、行われる。粉末材料は、絶縁体10の後方向Dfr側の開口から貫通孔12内に投入される。次に、絶縁体10を、部材72、73、74の材料粉末に含まれるガラス成分の軟化点よりも高い所定温度まで加熱し、所定温度に加熱した状態で、絶縁体10の後方向Dfr側の開口から、端子金具40の軸部41を貫通孔12に挿入する。この結果、部材72、73、74の材料粉末が圧縮および焼結されて、部材72、73、74が形成される。そして、端子金具40が、絶縁体10に固定される。
【0044】
絶縁体10を含む組立体の準備とは別に、主体金具50には、接地電極30が接合される(例えば、抵抗溶接)。そして、主体金具50に絶縁体10を含む上記の組立体が固定される。具体的には、主体金具50の貫通孔59内に、先端側パッキン8と、組立体と、リング部材62と、タルク70と、リング部材61とが配置され、そして、主体金具50の後端部53を内側に折り曲げるように加締めることによって、主体金具50に絶縁体10が固定される。そして、棒状の接地電極30を曲げることによって、ギャップgの距離が調整される。以上により、点火プラグ100が完成する。
【0045】
B.シール部72、74と抵抗体73の構成:
B−1.第1実施形態:
内燃機関の運転中のように、点火プラグ100が、燃料に点火する動作を繰り返す場合、点火プラグ100の温度は、燃料の燃焼によって、上昇する。これにより、絶縁体10の貫通孔12内の部材72、73、74の温度も、上昇する。また、抵抗体73の温度は、抵抗体73を流れる電流によって、上昇し得る。温度上昇に起因して、部材72、73、74は、熱膨張し得る。部材72、73、74が熱膨張する場合、部材72、73、74に作用する力(例えば、圧力)が、増大する。このような力の増大は、不具合を引き起こし得る。例えば、絶縁体10が、破損し得る。また、昇温時に第1シール部72が柔らかくなる場合、柔らかくなった第1シール部72が、絶縁体10の貫通孔12の先端側から、漏れ得る。漏れた第1シール部72が燃焼室内に入る場合、第1シール部72は、燃焼室を破損し得る。部材72、73、74は、点火プラグ100のこのような不具合を抑制できるように、構成されていることが好ましい。以下、部材72、73、74の好ましい実施形態について、説明する。
【0046】
第1実施形態のシール部72、74は、以下の構成A1〜A5を備えている。
(構成A1)第1シール部72は、珪素を含むガラスと導電性物質とを含む。
(構成A2)第2シール部74は、珪素を含むガラスと導電性物質とを含む。
(構成A3)第1シール部72は、珪素を含む1種以上の第1結晶を有する。
(構成A4)第2シール部74は、珪素を含む1種以上の第2結晶を有する。
(構成A5)第2シール部74の1種以上の第2結晶のそれぞれの結晶比率の合計値は、第1シール部72の1種以上の第1結晶のそれぞれの結晶比率の合計値よりも、小さい。
【0047】
珪素を含むガラスとしては、例えば、SiOを含むガラスが用いられる。SiOを含むガラスの組成としては、種々の組成を採用可能である。例えば、以下のガラス組成G1〜G10から任意に選択された1種以上の組成が、採用されてよい。
(G1)SiO、B、Al、LiOで構成される組成。
(G2)SiO、B、Al、LiOと、他の1以上の成分とで構成される組成。他の1以上の成分は、「MgO」、「MgO、ZnO」、「ZrO、SnO」、「ZrO、P、SnO」、「ZrO、TiO、SnO」のいずれか。
(G3)SiO、Al、LiO、NaO、KO、ZrO、TiO、P、MgOで構成される組成。
(G4)SiO、Al、LiO、BaO、SrO、ZrO、TiO、Sbで構成される組成。
(G5)SiO、Al、LiO、BaO、SrO、ZrO、TiO、Sbと、他の1以上の成分とで構成される組成。他の1以上の成分は、「ZnO」、「MgO、ZnO」のいずれか。
(G6)SiO、Al、MgOと、他の1以上の成分とで構成される組成。他の1以上の成分は、「TiO」、「MoO」のいずれか。
(G7)SiO、Al、B、MgO、ZnO、NaOで構成される組成。
(G8)SiO、Al、B、MgO、ZnO、NaOと、他の1以上の成分とで構成される組成。他の1以上の成分は、「ZrO」、「TiO、ZrO」、「LiO、ZrO」、「LiO」のいずれか。
(G9)SiO、Al、CaOで構成される組成。
(G10)SiO、Al、CaOと、他の1以上の成分とで構成される組成。他の1以上の成分は、「FeS」、「NaSO」、「Fe」、「NaCO」、「C」、「CaCO」のいずれか。
なお、各要素(例えば、SiO)のwt%は、種々の値であってよい。また、ガラスの組成は、第1シール部72と第2シール部74との間で異なっていてもよく、同じであってもよい。
【0048】
構成A3、A4の結晶は、珪素を含むガラスの結晶である。このような結晶は、シール部72、74のそれぞれのX線回折の強度分布(回折パターンとも呼ぶ)を用いて、特定可能である。第1シール部72のX線回折は、第1シール部72の中心軸CLに垂直な断面を用いて、行われる。第1シール部72の断面のおおよそ全体に、X線を照射することによって、第1シール部72の強度分布が取得される。第2シール部74のX線回折についても、同様に、行われる。取得されたX線回折の強度分布のピークは、サンプルに結晶が含まれていることを示している。測定された回折パターンを既知の物質の回折パターンと比較することにより、結晶の組成が特定される。
【0049】
シール部72、74の材料に含まれるガラス材料は、点火プラグ100の製造時に、結晶化し得る。例えば、上述したように、絶縁体10に端子金具40を固定する場合、絶縁体10の貫通孔12内に部材72、73、74の材料が配置された状態で、絶縁体10が加熱される。この加熱によって、部材72、73、74の材料は、溶融する。そして、加熱の終了後、絶縁体10は冷却され、絶縁体10の温度は、低下する。この温度低下によって、部材72、73、74内において、ガラスの結晶が、形成され得る(析出とも呼ばれる)。冷却時に、結晶が形成され易い温度に維持される時間を長くすることによって、ガラスの結晶の形成を促進できる。なお、結晶が形成され易い温度は、ガラスの組成に応じて、異なっている。
【0050】
第1シール部72は、珪素を含むP種類(Pは1以上の整数)のガラスの材料を用いて形成されてよい。この場合、第1シール部72は、珪素を含むP種類の結晶を有し得る。第2シール部74も、同様に、珪素を含むQ種類(Qは1以上の整数)のガラスの材料を用いて形成されてよい。この場合、第2シール部74は、珪素を含むQ種類の結晶を有し得る。
【0051】
上記構成A5の注目しているシール部(注目サンプルとも呼ぶ)の注目している結晶(注目結晶とも呼ぶ)の結晶比率は、注目サンプルのX線回折により得られる注目結晶に由来する最大ピークを用いて算出される比率である。図2は、X線回折により得られる強度分布のグラフの例の模式図である。横軸は、回折角度2θ(単位は度)を示し、縦軸は、回折X線強度I(測定強度Iとも呼ぶ)を示している。
【0052】
図2のグラフIxは、非晶質ガラスと結晶化ガラスとを含む部材の強度分布の例を示している(以下、強度分布Ixとも呼ぶ)。この強度分布Ixは、第1種の結晶化ガラスに由来するピークP11〜P17と、第2種の結晶化ガラスに由来するピークP21〜P22と、非晶質ガラスに由来する幅の広い強度分布Izと、を足し合わせた強度分布を示している。このような強度分布Ixは、結晶化ガラスの各ピークP11〜P17、P21〜P22と、非晶質ガラスの強度分布Iz(非晶質強度分布Izとも呼ぶ)と、に分離される。複数のピークと非晶質強度との分離は、X線回折用のデータ処理プログラム(例えば、多重ピーク分離プログラム)を用いて、行われる。例えば、結晶化ガラスに由来するピークP11〜P17、P21〜P22は、ピーク形状を示す種々の関数(例えば、ガウス関数)によって、近似される。非晶質強度分布Izは、幅広い分布を示す種々の関数(例えば、スプライン関数)によって、近似される。これらの関数のパラメータ(例えば、係数など)は、例えば、最小二乗法を用いて、決定される。
【0053】
上記構成A5の結晶比率は、強度分布のうち、珪素を含む結晶(すなわち、珪素を含むガラスの結晶)に由来する最大ピークのピーク強度を用いて、算出される。1種類の注目結晶に由来して複数のピークが観測される場合、注目結晶の最大ピークは、最も大きい測定強度Iを有するピークである。最大ピークのピーク強度としては、最大ピークの測定強度Iから非晶質強度分布Izの強度である推定強度を減算して得られる強度、すなわち、結晶化ガラスに由来する正味の強度が、用いられる。非晶質強度分布Izの推定強度としては、上述した近似関数によって示される強度が用いられる。図2中のピークP11は、第1種の結晶化ガラスの最大ピークの例である。ピーク強度PI11は、最大ピークP11のピーク強度を示しており、ピークP11の測定強度I11から、非晶質強度分布Izの推定強度Iz11を、減算して得られる(PI11=I11−Iz11)。なお、ピークP11を含む回折角度の部分範囲RA11(ここでは、ピークP11を示す回折角度の部分範囲RA11)内において、正味の強度は、回折角度に応じて変化する。ピーク強度PI11は、この範囲RA11内の最大の正味の強度である。範囲RA11内において、非晶質強度分布Izの推定強度が、回折角度に応じて大きく変化する場合、ピーク強度PI11に対応する回折角度PA11は、ピークP11の最大の測定強度Iに対応する回折角度と異なり得る。他の結晶の最大ピークについても、同様に、ピーク強度が算出される。
【0054】
最大ピークの結晶比率は、基準サンプルのピーク強度Iaに対する最大ピークのピーク強度Ibの比率である(Ib/Ia)。基準サンプルのピーク強度Iaは、後述する基準サンプルから得られる1以上のピークのうち、注目結晶の最大ピークの回折角度の範囲と同じ回折角度の範囲内のピークのピーク強度である。基準サンプルは、最大ピークが由来する結晶(すなわち、最大ピークによって示される注目結晶と同じ組成の結晶)が全体に亘って形成されているサンプルである。このような基準サンプルは、注目結晶の材料粉末の加熱と冷却とによって、製造可能である。材料粉末は、加熱によって、溶融する。加熱後の冷却時には、溶融した材料の温度が、結晶が形成され易い温度に、維持される。これにより、ガラスの結晶化が促進される。このような温度の維持は、結晶化がガラスの全体に亘って進行するまで、行われる。結晶化が十分に進行した後、ガラスは、更に、冷却される(例えば、ガラスは、常温まで、冷却される)。以上により、基準サンプルが、形成される。
【0055】
基準サンプルの断面のX線回折によって、基準サンプルの回折パターンが特定される(基準回折パターン、または、基準強度分布とも呼ぶ)。基準回折パターンの1以上のピークから、注目サンプルの注目結晶の最大ピークの回折角度の範囲と同じ回折角度の範囲内のピークである注目基準ピークが、特定される。この注目基準ピークのピーク強度である注目基準ピーク強度が、最大ピークの結晶比率の算出に用いられる。注目基準ピーク強度の算出は、基準強度分布に基づいて、最大ピークのピーク強度の算出と同じ方法で、行われる。
【0056】
このような結晶比率は、結晶が全体に亘って形成されている基準サンプルを基準とする、シール部における結晶部分の比率を示している。また、1つのシール部に珪素を含む1種以上の結晶化ガラスが含まれる場合、その1種以上の結晶化ガラスのそれぞれの結晶比率の合計値は、シール部における結晶部分の全体的な比率を示している。一般的に、結晶部分の比率が小さいほど、シール部は、柔らかい。従って、結晶比率の合計値が小さいほど、シール部は、柔らかい。
【0057】
このような結晶比率の合計値が、第1シール部72と第2シール部74との間で、比較される。ここで、第1シール部72の回折パターンのピークのうち、珪素を含む1種以上の結晶のいずれかに由来する最大ピークの結晶比率を、第1の結晶比率と呼ぶ。第2シール部74の回折パターンのピークのうち、珪素を含む1種以上の結晶のいずれかに由来する最大ピークの結晶比率を、第2の結晶比率と呼ぶ。上記の構成A5は、第1シール部72の珪素を含む1種以上の結晶のそれぞれの第1の結晶比率の合計値が、第2シール部74の珪素を含む1種以上の結晶のそれぞれの第2の結晶比率の合計値よりも小さいことを、示している。このような構成A5は、第2シール部74が、第1シール部72よりも、柔らかいことを、示している。なお、本実施形態では、第1シール部72の珪素を含む1種以上の結晶のそれぞれは、珪素を含む結晶化ガラスである。また、第2シール部74の珪素を含む1種以上の結晶のそれぞれは、珪素を含む結晶化ガラスである。
【0058】
シール部72、74が、上記構成A1〜A5(特に、構成A5)を備える場合、以下に説明するように、点火プラグ100の不具合が抑制される。上述したように、部材72、73、74の温度は、種々の原因に起因して、上昇する。温度上昇に起因して、部材72、73、74は熱膨張し得、そして、部材72、73、74に作用する力(例えば、圧力)が、増大し得る。ここで、シール部72、74が構成A5を備えるので、第2シール部74は、第1シール部72よりも、変形し易い。第2シール部74が変形する場合、部材72、73、74に作用する力は、緩和される。この結果、絶縁体10の破損は抑制される。また、第2シール部74が変形するので、第1シール部72の変形が抑制される。従って、第1シール部72が絶縁体10の貫通孔12の先端側から燃焼室内に漏れることが、抑制される。この結果、燃焼室の破損が抑制される。また、第2シール部74が、仮に絶縁体10の貫通孔12の外に漏れる場合、第2シール部74は、貫通孔12の後端側から外に移動する。このように、貫通孔12の外に移動した第2シール部74は、燃焼室内には、入らない。従って、燃焼室の破損が抑制される。
【0059】
なお、第2シール部74に含まれる結晶の組成は、第1シール部72に含まれる結晶の組成と、同じであってよく、異なっていてもよい。
【0060】
構成A1〜A5(特に、構成A5)を備えるシール部72、74を形成する方法としては、任意の方法を採用可能である。例えば、互いに異なるガラス材料を用いて、第1シール部72と第2シール部74とが形成されてよい。ここで、第1シール部72のガラスの結晶が形成され易い温度である第1結晶温度が、第2シール部74のガラスの結晶が形成され易い温度である第2結晶温度と異なるように、各シール部72、74のそれぞれのガラス材料が、選択される。そして、絶縁体10に端子金具40を固定するための加熱の後の冷却時に、絶縁体10の温度は、第2結晶温度には比較的短い時間に亘って維持され、第1結晶温度には比較的長い時間に亘って維持される。これにより、第2シール部74のガラスの結晶化が、第1シール部72のガラスの結晶化と比べて、抑制されるので、構成A5を備えるシール部72、74を、容易に、形成できる。
【0061】
なお、ガラスの結晶が形成され易い温度は、実験的に、特定される。例えば、SiO(65.9)、Al(22.7)、B(2.8)、LiO(4.8)、ZrO(2.4)、SnO(1.4)で構成される組成のガラスの結晶は、おおよそ摂氏830度で形成され得る(括弧内の数値は、wt%)。また、SiO(47.4)、Al(34.6)、LiO(11.0)、BaO(1.5)、SrO(1.5)、ZnO(0.5)、ZrO(1.5)、TiO(1.5)、Sb(0.5)で構成される組成のガラスの結晶は、おおよそ摂氏720度で形成され得る(括弧内の数値は、wt%)。これら2つのガラスのうち、一方が、第1シール部72の形成に利用され、他方が、第2シール部74の形成に利用されてよい。
【0062】
B−2.第2実施形態:
第2実施形態のシール部72、74は、以下の構成A1〜A3、B1を備えている。
(構成A1)第1シール部72は、珪素を含むガラスと導電性物質とを含む。
(構成A2)第2シール部74は、珪素を含むガラスと導電性物質とを含む。
(構成A3)第1シール部72は、珪素を含む1種以上の第1結晶を有する。
(構成B1)第2シール部74に含まれるガラスは、非晶質ガラスである。
【0063】
第1実施形態との差異は、第2実施形態では、上記構成A4、A5が、構成B1に置換された点だけである。構成A3、B1は、第1シール部72は、結晶化ガラスを含み、第2シール部74は、結晶化ガラスを含まずに非晶質ガラスを含むことを、示している。一般的に、非晶質ガラスは、結晶化ガラスと比べて、容易に変形できる。従って、シール部72、74が上記構成A1〜A3、B1を備える場合、第2シール部74は、第1シール部72よりも、変形し易い。この結果、第2実施形態のシール部72、74を備える点火プラグ100は、第1実施形態のシール部72、74を備える点火プラグ100と同様に、不具合を抑制できる。
【0064】
なお、構成A1〜A3、B1を備えるシール部72、74を形成する方法としては、任意の方法を採用可能である。例えば、上記の第1実施形態で説明した方法と同様に、互いに異なるガラス材料を用いて、第1シール部72と第2シール部74とが形成されてよい。
【0065】
B−3.第3実施形態:
第3実施形態では、抵抗体73は、以下の構成C1を備えている。
構成C1)抵抗体73は、非晶質ガラスを含む。
本実施形態の抵抗体73の構成C1は、上記の第1実施形態または第2実施形態と、組み合わされる。
【0066】
抵抗体73が非晶質ガラスを含む場合、抵抗体73がガラスとして非晶質ガラスを含まずに結晶化ガラスのみを含む場合と比べて、抵抗体73のガラス材料の選択肢が多くなる。例えば、点火プラグ100の製造時における結晶化が難しいガラスを、抵抗体73のガラスとして利用できる。従って、点火プラグ100の動作条件(例えば、動作温度など)に適した抵抗体73を備える点火プラグ100を、容易に製造できる。また、抵抗体73が非晶質ガラスを含む場合には、抵抗体73がガラスとして非晶質ガラスを含まずに結晶化ガラスのみを含む場合と比べて、抵抗体73の熱膨張率が高くなり得る。抵抗体73の熱膨張率が高い場合、点火プラグ100の昇温時に部材72、73、74に作用する力が増大し得る。上述したように、第1実施形態または第2実施形態のシール部72、74は、第2シール部74の変形によって、部材72、73、74に作用する力を緩和できる。以上により、点火プラグ100の不具合が抑制される。なお、抵抗体73に含まれる非晶質ガラスとしては、種々のガラス(例えば、上記のガラス組成G1〜G10から任意に選択された1種以上の組成のガラス)が、採用されてよい。
【0067】
B−4.第4実施形態:
第4実施形態では、抵抗体73と第2シール部74とは、以下の構成C1、C2、C3を備えている。
(構成C1)抵抗体73は、非晶質ガラスを含む。
(構成C2)第2シール部74は、非晶質ガラスを含む。
(構成C3)第2シール部74に含まれる非晶質ガラスのガラス転移温度は、抵抗体73に含まれる非晶質ガラスのガラス転移温度よりも、低い。
第3実施形態との差異は、構成C2、C3が追加されている点である。本実施形態の抵抗体73と第2シール部74との構成C1〜C3は、上記の第1実施形態または第2実施形態と、組み合わされる。
【0068】
ガラスの特徴の1つとして、ガラス転移がある。高温の流動性が高い物質が冷却される場合に、特定の温度(ガラス転移温度とも呼ばれる)以下でその物質の流動性が低下し、その物質の状態は不規則な構造をもつガラス状態になる。このような状態の変化は、ガラス転移と呼ばれる。非晶質ガラスが加熱されてその温度がガラス転移温度を超えると、その流動性が増大する。また、非晶質ガラスの温度がガラス転移温度を超えると、熱膨張率が急激に増加し得る。仮に、第2シール部74に含まれる非晶質ガラスのガラス転移温度が、抵抗体73に含まれる非晶質ガラスのガラス転移温度よりも高いと仮定する。そして、点火プラグ100の温度が、抵抗体73の非晶質ガラスのガラス転移温度を超えたと仮定する。この場合、第2シール部74が変形し難い状態で、抵抗体73の体積が膨張し得る。従って、絶縁体10の破損などの不具合が、生じ得る。
【0069】
本実施形態では、抵抗体73と第2シール部74とは、上記構成C1〜C3(特に、構成C3)を備えている。点火プラグ100の温度が上昇する場合に、第2シール部74の非晶質ガラスが、抵抗体73の非晶質ガラスよりも先に、柔らかくなる。点火プラグ100の温度が抵抗体73の非晶質ガラスのガラス転移温度を超える場合であっても、第2シール部74の変形によって、部材72、73、74に作用する力は、緩和される。以上により、点火プラグ100の不具合が抑制される。
【0070】
なお、抵抗体73に含まれる非晶質ガラスのガラス転移温度の特定方法としては、示差熱分析法(differential thermal analysis : DTA)が採用される。示差熱分析法は、JIS K 0129によって規定されており、試料及び基準物質の温度を一定のプログラムによって変化させながら、その試料と基準物質との温度差を温度の関数として測定する方法である。試料のガラス転移が生じる場合、温度差が変化する。このような温度差の変化を用いて、ガラス転移温度が特定される。抵抗体73から非晶質ガラスが取り出され、取り出された非晶質ガラスのガラス転移温度が、示差熱分析法によって測定されてよい。抵抗体73に含まれる非晶質ガラスの量が少ない場合、抵抗体73に含まれる非晶質ガラスの組成と同じ組成の非晶質ガラスのサンプルが準備され、準備されたサンプルが、ガラス転移温度の測定に用いられてよい。抵抗体73に含まれる非晶質ガラスの組成は、ICP発光分光分析法や原子吸光分析法などの化学分析によって、特定可能である。第2シール部74に含まれる非晶質ガラスのガラス転移温度も、同じ方法によって、特定可能である。
【0071】
なお、抵抗体73は、R種類(Rは1以上の整数)の非晶質ガラスを含んでよい。この場合、構成C3で用いられる抵抗体73に含まれる非晶質ガラスのガラス転移温度としては、R種類の非晶質ガラスのそれぞれのガラス転移温度のうちの、最も低い温度が採用されてよい。同様に、第2シール部74は、S種類(Sは1以上の整数)の非晶質ガラスを含んでよい。この場合、構成C3で用いられる第2シール部74に含まれる非晶質ガラスのガラス転移温度としては、S種類の非晶質ガラスのそれぞれのガラス転移温度のうちの、最も低い温度が採用されてよい。
【0072】
なお、構成C1〜C3を備える抵抗体73と第2シール部74とを形成する方法としては、任意の方法を採用可能である。例えば、互いに異なるガラス材料を用いて、抵抗体73と第2シール部74とが形成されてよい。例えば、SiO(60.1)、Al(17.3)、B(7.50)、MgO(4.04)、ZnO(2.41)、NaO(8.60)で構成される組成の第1ガラスのガラス転移温度は、おおよそ摂氏635度である(括弧内の数値は、wt%)。また、SiO(61.0)、Al(15.9)、B(7.61)、MgO(5.98)、ZnO(6.36)、NaO(2.91)、LiO(0.23)で構成される組成の第2ガラスのガラス転移温度は、おおよそ摂氏653度である(括弧内の数値は、wt%)。ここで、第2シール部74が、第1ガラスを用いて形成され、抵抗体73が、第2ガラスを用いて形成されてよい。
【0073】
B−5.第5実施形態:
第5実施形態では、シール部72、74は、以下の構成D1〜D3を備えている。
(構成D1)第1シール部72は、非晶質ガラスを含む。
(構成D2)第2シール部74は、非晶質ガラスを含む。
(構成D3)第2シール部74に含まれる非晶質ガラスの軟化点は、第1シール部72に含まれる非晶質ガラスの軟化点よりも、低い。
本実施形態のシール部72、74の構成D1〜D3は、上記の第1〜第4の実施形態のうちの任意の実施形態と、組み合わされる。
【0074】
非晶質ガラスの温度が軟化点を超えると、流動性が増大し、そして、非晶質ガラスは、柔らかくなる。仮に、第2シール部74に含まれる非晶質ガラスの軟化点が、第1シール部72に含まれる非晶質ガラスの軟化点よりも高いと仮定する。そして、点火プラグ100の温度が、第1シール部72の非晶質ガラスの軟化点を超えたと仮定する。この場合、第2シール部74が変形し難い状態で、第1シール部72が柔らかくなる。ここで、部材72、73、74の少なくとも1つが温度上昇によって熱膨張する場合、柔らかくなった第1シール部72が、絶縁体10の貫通孔12の先端側から、漏れ得る。このように、燃焼室の破損などの不具合が、生じ得る。
【0075】
本実施形態では、シール部72、74は、上記構成D1〜D3(特に、構成D3)を備えている。点火プラグ100の温度が上昇する場合に、第2シール部74の非晶質ガラスが、第1シール部72の非晶質ガラスよりも先に、柔らかくなる。部材72、73、74の少なくとも1つが温度上昇によって熱膨張する場合であっても、第2シール部74の変形によって、部材72、73、74に作用する力は、緩和される。以上により、点火プラグ100の不具合が抑制される。
【0076】
非晶質ガラスの軟化点としては、JIS R 3103−1によって規定されている軟化点が、用いられる。JIS R 3103−1によれば、寸法が一定の許容範囲にある直径0.65mm、長さ235mmの円形断面のガラス繊維が、上部の長さ100mmを規定した炉中で摂氏(5±1)度/minの速度で昇温したとき、自重で1mm/minの速度で伸びるような温度が、軟化点である。このような軟化点は、JIS R 3103−1によって規定される方法に従って、測定される。なお、第1シール部72に含まれる非晶質ガラスの量が少ない場合、第1シール部72に含まれる非晶質ガラスの組成と同じ組成の非晶質ガラスのサンプルが準備され、準備されたサンプルが、軟化点の測定に用いられてよい。第1シール部72に含まれる非晶質ガラスの組成は、ICP発光分光分析法や原子吸光分析法などの化学分析によって、特定可能である。第2シール部74に含まれる非晶質ガラスの軟化点も、同じ方法によって、特定可能である。
【0077】
なお、第1シール部72は、T種類(Tは1以上の整数)の非晶質ガラスを含んでよい。この場合、構成D3で用いられる第1シール部72に含まれる非晶質ガラスの軟化点としては、T種類の非晶質ガラスのそれぞれの軟化点のうちの、最も低い温度が採用されてよい。同様に、第2シール部74は、U種類(Uは1以上の整数)の非晶質ガラスを含んでよい。この場合、構成D3で用いられる第2シール部74に含まれる非晶質ガラスの軟化点としては、U種類の非晶質ガラスのそれぞれの軟化点のうちの、最も低い温度が採用されてよい。
【0078】
なお、構成D1〜D3を備えるシール部72、74を形成する方法としては、任意の方法を採用可能である。例えば、互いに異なるガラス材料を用いて、第1シール部72と第2シール部74とが形成されてよい。例えば、SiO(60.1)、Al(17.3)、B(7.50)、MgO(4.04)、ZnO(2.41)、NaO(8.60)で構成される組成の第3ガラスの軟化点は、おおよそ摂氏851度である(括弧内の数値は、wt%)。また、SiO(32.4)、B(32.1)、Al(27.5)、LiO(8.0)で構成される組成の第4ガラスの軟化点は、おおよそ摂氏601度である(括弧内の数値は、wt%)。ここで、第1シール部72が、第3ガラスを用いて形成され、第2シール部74が、第4ガラスを用いて形成されてよい。
【0079】
B−6.第6実施形態:
第6実施形態では、第1シール部72は、以下の構成E1、E2を備えている。
(構成E1)第1シール部72は、結晶化ガラスと非晶質ガラスとを含む。
(構成E2)第1シール部72に含まれる結晶化ガラスは、第1シール部72に含まれる非晶質ガラスに含まれる成分で構成されている。
本実施形態のシール部72の構成E1、E2は、上記の第1〜第5の実施形態のうちの任意の実施形態と、組み合わされる。
【0080】
結晶化ガラスは、非晶質ガラスと比べて、流動性が低い。従って、第1シール部72が結晶化ガラスを含む場合、第1シール部72が結晶化ガラスを含まない場合と比べて、第1シール部72の流動性が抑制される。この結果、第1シール部72が、絶縁体10の貫通孔12の先端側から漏れることは、抑制される。
【0081】
また、結晶化ガラスは、非晶質ガラスと比べて、熱膨張率が小さく、また、耐熱性が良好である。本実施形態では、第1シール部72は、結晶化ガラスを含んでいるので、第1シール部72の熱膨張率が抑制される。この結果、点火プラグ100の温度が上昇する場合に、第1シール部72の熱膨張に起因して部材72、73、74に作用する力は、緩和される。また、第1シール部72の耐熱性を、向上できる。
【0082】
さらに、本実施形態では、第1シール部72に含まれる結晶化ガラスは、第1シール部72に含まれる非晶質ガラスに含まれる成分で構成されている(構成E2)。すなわち、非晶質ガラスは、結晶化ガラスの組成と同じ組成のガラスを、含んでいる。従って、第1シール部72の結晶化ガラスと非晶質ガラスとの接触を強化できる。この結果、第1シール部72の結晶化ガラスと非晶質ガラスとの間に隙間が生じることが、抑制される。また、非晶質ガラスと結晶化ガラスとに共通するガラス材料を用いて、第1シール部72を形成できる。このように、第1シール部72を、容易に形成できる。また、第1シール部72は、結晶化ガラスと非晶質ガラスとの両方を含んでいる。従って、点火プラグ100の製造時に、第1シール部72に含まれるガラスの全てを結晶化する必要はなく、ガラスの一部が結晶化すればよい。この結果、第1シール部72を、容易に形成できる。なお、第1シール部72に含まれるガラスとしては、種々のガラス(例えば、上記のガラス組成G1〜G10から任意に選択された1種以上の組成のガラス)が、採用されてよい。
【0083】
B−7.第7実施形態:
第7実施形態では、第1シール部72は、以下の構成F1、F2を備えている。
(構成F1)第1シール部72は、結晶化ガラスを含む。
(構成F2)第1シール部72に含まれる結晶化ガラスは、β−ユークリプタイト、コーディエライト、β−スポジュメン、アノーサイトのうちの少なくとも1つを含む結晶化ガラスを含む。
本実施形態のシール部72の構成F1、F2は、上記の第1〜第6の実施形態のうちの任意の実施形態と、組み合わされる。
【0084】
以下の結晶化ガラスCG1〜CG4は、いずれも、上記構成F2を備える結晶化ガラスの例である。これらの結晶化ガラスCG1〜CG4では、追加された成分(β−ユークリプタイト、コーディエライト、β−スポジュメン、アノーサイトのいずれか)によって、熱膨張が抑制されている。従って、第1シール部72の熱膨張に起因する不具合が、抑制される。
(CG1)β−ユークリプタイト(LiO・Al・2SiO)が析出している結晶化ガラス。
(CG2)コーディエライト(2MgO・2Al・5SiO)が析出している結晶化ガラス。
(CG3)β−スポジュメン(LiO−Al−nSiO,n≧4)の固溶体が析出している結晶化ガラス
(CG4)アノーサイト(CaO・Al・2SiO)が析出している結晶化ガラス。
【0085】
β−ユークリプタイトを含む結晶化ガラスCG1のガラス成分としては、種々の組成のガラスを採用可能である。例えば、上記のガラス組成G1、G2、G4、G5のいずれかのガラスが採用されてよい。ここで、β−ユークリプタイトは、固溶体を形成してもよい。
【0086】
コーディエライトを含む結晶化ガラスCG2のガラス成分としては、種々の組成のガラスを採用可能である。例えば、上記のガラス組成G6のガラスが採用されてよい。
【0087】
β−スポジュメンを含む結晶化ガラスCG3のガラス成分としては、種々の組成のガラスを採用可能である。例えば、上記のガラス組成G2、G3のいずれかのガラスが採用されてよい。
【0088】
アノーサイトを含む結晶化ガラスCG4のガラス成分としては、種々の組成のガラスを採用可能である。例えば、上記のガラス組成G1の「LiO」を「CaO」に置換して得られる組成(すなわち、SiO、B、Al、CaO)のガラスが採用されてもよい。
【0089】
なお、各結晶化ガラスCG1〜CG4において、ガラスの組成の各要素(例えば、SiO)のwt%は、種々の値であってよい。
【0090】
C.変形例:
(1)第1シール部72は、非晶質ガラスと結晶化ガラスとの少なくとも一方を含んでよい。すなわち、第1シール部72は、非晶質ガラスを含まずに結晶化ガラスを含んでよく、結晶化ガラスを含まずに非晶質ガラスを含んでよく、非晶質ガラスと結晶化ガラスとの両方を含んでよい。同様に、第2シール部74は、非晶質ガラスと結晶化ガラスとの少なくとも一方を含んでよい。すなわち、第2シール部74は、非晶質ガラスを含まずに結晶化ガラスを含んでよく、結晶化ガラスを含まずに非晶質ガラスを含んでよく、非晶質ガラスと結晶化ガラスとの両方を含んでよい。例えば、以下の3つの組成のガラスは、いずれも、結晶化が困難なガラスである。「SiO、B、NaO、KO」、「SiO、B、CaO」、「SiO、B、CaO、NaO」。第1シール部72に含まれるガラスは、このように結晶化が困難なガラスで構成されてよい(すなわち、第1シール部72は、結晶化ガラスを含まずに非晶質ガラスを含んでよい)。同様に、第2シール部74に含まれるガラスは、このように結晶化が困難なガラスで構成されてよい(すなわち、第2シール部74は、結晶化ガラスを含まずに非晶質ガラスを含んでよい)。
【0091】
シール部72、74に含まれる珪素を含むガラスは、種々のガラスであってよい。例えば、第1シール部72が結晶化ガラスを含む場合に、その結晶化ガラスは、β−ユークリプタイト、コーディエライト、β−スポジュメン、アノーサイトのいずれも含まないガラスであってよい。また、第1シール部72が結晶化ガラスと非晶質ガラスとを含む場合に、結晶化ガラスは、非晶質ガラスには含まれない成分で構成されてよい。すなわち、結晶化ガラスの組成と同じ組成のガラスが、非晶質ガラスには含まれていなくてもよい。例えば、第1シール部72は、結晶化の容易なガラス材料と結晶化が困難なガラス材料との両方を用いて形成されてよい。そして、結晶化の容易なガラス材料が、結晶化ガラスを形成し、結晶化が困難なガラス材料が、非晶質ガラスを形成してよい。この場合、結晶化ガラスと非晶質ガラスとの間では、組成が異なっている。また、第1シール部72は、非晶質ガラスを含まずに、結晶化ガラスを含んでもよい。第2シール部74も、同様に、種々の結晶化ガラスを含んでよい。また、第2シール部74の結晶化ガラスと非晶質ガラスとの間では、組成が異なっていてよい。
【0092】
また、抵抗体73が非晶質ガラスを含み、第2シール部74が非晶質ガラスを含む場合に、第2シール部74の非晶質ガラスの転移温度は、抵抗体73の非晶質ガラスの転移温度以上であってもよい。この場合も、点火プラグ100が利用される環境下で(例えば、点火プラグ100が装着された内燃機関が運転される状態で)、点火プラグ100の温度が第2シール部74の非晶質ガラスの転移温度を超える場合には、第2シール部74の変形によって不具合を抑制できる。
【0093】
また、第1シール部72が非晶質ガラスを含み、第2シール部74が非晶質ガラスを含む場合に、第2シール部74に含まれる非晶質ガラスの軟化点は、第1シール部72に含まれる非晶質ガラスの軟化点以上であってもよい。この場合も、点火プラグ100が利用される環境下で(例えば、点火プラグ100が装着された内燃機関が運転される状態で)、点火プラグ100の温度が第2シール部74の非晶質ガラスの軟化点を超える場合には、第2シール部74の変形によって不具合を抑制できる。
【0094】
いずれの場合も、第1シール部72に含まれるガラスの組成は、第2シール部74に含まれるガラスの組成と、同じであってよく、異なっていてもよい。
【0095】
また、第1シール部72は、セラミックを含む1種以上の結晶を有してよい。例えば、第1シール部72は、ジルコニア、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素、のうちのいずれかをセラミックとして含む結晶を、有してよい。この場合、第1シール部72は、上記の構成A3に代えて、以下の構成A3aを備えてよい。
(構成A3a)第1シール部72は、セラミックを含む1種以上の第1結晶を有する。
第1シール部72の材料は、このようなセラミックを含む結晶を、含んでよい。また、第1シール部72に含まれるセラミックを含む1種以上の第1結晶のうちの少なくとも1種は、セラミックとして珪素を含む結晶化ガラスであることが好ましい。この構成によれば、珪素を含む結晶化ガラスと、その周囲に存在する珪素を含むガラス(例えば、非晶質ガラス)との接触を強化できるので、第1シール部72内に隙間が形成されることを抑制できる。ここで、セラミックを含む1種以上の第1結晶の全てが、珪素を含む結晶化ガラスであってもよい。
【0096】
第2シール部74も、同様に、上記のセラミックを含む1種以上の結晶を有してよい。この場合、第2シール部74は、上記の構成A4に代えて、以下の構成A4aを備えてよい。
(構成A4a)第2シール部74は、セラミックを含む1種以上の第2結晶を有する。
第2シール部74の材料は、このようなセラミックを含む結晶を、含んでよい。また、第2シール部74に含まれるセラミックを含む1種以上の第2結晶のうちの少なくとも1種は、セラミックとして珪素を含む結晶化ガラスであることが好ましい。この構成によれば、第2シール部74内に隙間が形成されることを抑制できる。ここで、セラミックを含む1種以上の第2結晶の全てが、珪素を含む結晶化ガラスであってもよい。
【0097】
また、シール部72、74が、上記構成A1、A2、A3a、A4aを備える場合、シール部72、74は、更に、上記の構成A5を備えることが好ましい。ここで、構成A5の「第1シール部72の1種以上の第1結晶のそれぞれの結晶比率の合計値」は、珪素を含む結晶化ガラスの結晶比率に限らず、セラミックを含む1種以上の第1結晶のそれぞれの結晶比率の合計値である。また、構成A5の「第2シール部74の1種以上の第2結晶のそれぞれの結晶比率の合計値」は、珪素を含む結晶化ガラスの結晶比率に限らず、セラミックを含む1種以上の第2結晶のそれぞれの結晶比率の合計値である。
【0098】
(2)抵抗体73は、非晶質ガラスと結晶化ガラスとの少なくとも一方を含んでよい。すなわち、抵抗体73は、非晶質ガラスを含まずに結晶化ガラスを含んでよく、結晶化ガラスを含まずに非晶質ガラスを含んでよく、非晶質ガラスと結晶化ガラスとの両方を含んでよい。抵抗体73に含まれるガラスの組成は、第1シール部72に含まれるガラスの組成と、同じであってよく、異なっていてもよい。抵抗体73に含まれるガラスの組成は、第2シール部74に含まれるガラスの組成と、同じであってよく、異なっていてもよい。
【0099】
抵抗体73は、種々のガラスを含んでよい。抵抗体73は、例えば、珪素を含むガラスを含んでよい。また、抵抗体73は、ガラスを含まずに、導電性物質(例えば、金属など)で形成されてもよい。
【0100】
(3)第1シール部72に含まれる導電性物質は、放電用の電流が流れ得る種々の物質であってよい。導電性物質は、例えば、金属(例えば、鉄、銅、グラファイトなど)であってよく、また、非晶質カーボン(例えば、カーボンブラック)であってよい。また、第1シール部72は、複数種類の導電性物質を、含んでよい。抵抗体73に含まれる導電性物質と、第2シール部74に含まれる導電性物質と、についても、同様である。なお、導電性物質は、第1シール部72と第2シール部74との間で、異なっていてもよく、同じであってもよい。また、導電性物質は、第1シール部72と抵抗体73との間で、異なっていてもよく、同じであってもよい。また、導電性物質は、抵抗体73と第2シール部74との間で、異なっていてもよく、同じであってもよい。
【0101】
(4)結晶化ガラスを含む部材(例えば、第1シール部72と抵抗体73と第2シール部74とのうちの1以上の部材)を形成する方法としては、任意の方法を採用可能である。例えば、絶縁体10に端子金具40を固定するための加熱の後の冷却時に、絶縁体10の温度が結晶化ガラスの形成されやすい温度に維持される時間を長くすることによって、結晶化ガラスの形成を促進できる。また、以下の文献には、種々のガラスの形成方法が、記載されている。特開2014−185060、特開2006−193398、特開2002−104841、特開2017−71545、特開平7−172863、特開平1−234344。上記の結晶化ガラスCG1〜CG4のいずれかを含む部材と、他のガラスを含む部材とは、これらの文献に記載の方法に基づいて、形成されてよい。
【0102】
(5)接続部75は、抵抗体73に加えて他の部材を含んでよい。接続部75は、例えば、抵抗体73に直列に接続された磁性体を含んでよい。また、接続部75は、抵抗体73に並列に接続されたコイルを含んでよい。いずれの場合も、第1シール部72は、接続部75と中心電極20とに接触し、第2シール部74は、接続部75と端子金具40とに接触する。
【0103】
(6)点火プラグ100の構成は、図1に示す構成に代えて、他の種々の構成であってよい。例えば、先端側パッキン8が省略されてもよい。この場合、主体金具50の張り出し部56は、直接的に、絶縁体10の縮外径部16を、支持する。また、中心電極の先端面(例えば、図1の第1チップ29の前方向Df側の面)に代えて、中心電極の側面(点火プラグ100の軸線CLに垂直な方向側の面)と、接地電極とが、放電用のギャップを形成してもよい。また、放電用のギャップの総数が2以上であってもよい。また、接地電極30が省略されてもよい。この場合、点火プラグの中心電極20と、燃焼室内の他の部材と、の間で、放電が生じてよい。
【0104】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0105】
8…先端側パッキン、9…ガスケット、10…絶縁体、11…縮内径部、12…貫通孔(軸孔)、13…後端側胴部、14…大径部、15…先端側胴部、16…縮外径部、19…脚部、20…中心電極、21…外層、22…芯部、23…鍔部、24…頭部、27…軸部、28…棒部、29…第1チップ、30…接地電極、31…外層、32…内層、33…基端部、34…先端部、37…本体部、39…第2チップ、40…端子金具、41…軸部、48…鍔部、49…キャップ装着部、50…主体金具、51…工具係合部、52…先端側胴部、53…後端部、54…中胴部、54f…座面、55…先端面、56…張り出し部、56r…後面、57…ネジ部、58…接続部(湾曲部)、59…貫通孔、61…リング部材、62…リング部材、70…タルク、72…第1シール部、73…抵抗体、74…第2シール部、75…接続部、100…点火プラグ、g…ギャップ、CL…中心軸(軸線)
図1
図2