(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は本発明の実施の形態における車両の構成を示す右側面図、
図2は本発明の実施の形態における車両のリーン機構の構成を示す図、
図3は本発明の実施の形態における車両の構成を示す背面図である。なお、
図3において、(a)は車体が直立している状態を示す図、(b)は車体が傾斜している状態を示す図である。
【0025】
図において、10は、本実施の形態における車両であり、本体部20と、ドライバーが搭乗して操舵する操舵部としての搭乗部11と、車体の前方において幅方向の中心に配設された前輪である操舵可能な操舵輪としての車輪12Fと、後輪として後方に配設された駆動輪であって操舵不能な非操舵輪としての左側の車輪12L及び右側の車輪12Rとを有する。
【0026】
車輪12F、車輪12L及び右側の車輪12Rが取り付けられる部分であり、搭乗部11などの車両10の車輪以外の本体部分を車体として定義する。
【0027】
さらに、前記車両10は、車体を左右に傾斜させる、すなわち、リーンさせるためのリーン機構、すなわち、車体傾斜機構として、左右の車輪12L及び12Rを支持するリンク機構30と、該リンク機構30を作動させるアクチュエータである傾斜用アクチュエータ装置としてのリーンモータ25とを有する。
【0028】
なお、車両10のリーン機構については、「傾斜部」と上位概念的に表現することがある。また、「操舵輪」は、本実施例における車輪12Fに相当し、「車両幅方向に配置された一対の車輪」が左右の車輪12L及び12Rに相当する。
【0029】
なお、前記車両10は、前輪が左右二輪であって後輪が一輪の三輪車であってもよいし、前輪及び後輪が左右二輪の四輪車であってもよいが、本実施の形態においては、図に示されるように、前輪が一輪であって後輪が左右二輪の三輪車である場合について説明する。また、操舵輪が駆動輪として機能してもよいが、本実施の形態においては、操舵輪は駆動輪として機能しないものとして説明する。
【0030】
また、本実施形態では、車両10の車体を左右に傾斜させるリーン機構として、リンク機構30と、リーンモータ25とから構成したが、リーン機構としてはこのようなものに限られるものではない。例えば、リーン機構としては、左右の車輪12L及び12Rに駆動力差を生じさせることで、車体を傾斜させる構成を採用することもできる。
【0031】
本発明に係る車両10においては、基本的に、旋回時には、左右の車輪12L及び12Rの路面18に対する角度、すなわち、キャンバ角を変化させるとともに、搭乗部11及び本体部20を含む車体を旋回内輪側へ傾斜させることによって、旋回性能の向上とドライバーの快適性の確保とを図ることができるようになっている。
【0032】
すなわち、前記車両10は車体を横方向(左右方向)にも傾斜させることができる。なお、
図2及び3(a)に示される例においては、左右の車輪12L及び12Rは路面18に対して直立している、すなわち、キャンバ角が0度になっている。また、
図3(b)に示される例においては、左右の車輪12L及び12Rは路面18に対して右方向に傾斜している、すなわち、キャンバ角が付与されている。
【0033】
前記リンク機構30は、左側の車輪12L及び該車輪12Lに駆動力を付与する電気モータ等から成る左側の回転駆動装置51Lを支持する左側の縦リンクユニット33Lと、右側の車輪12R及び該車輪12Rに駆動力を付与する電気モータ等から成る右側の回転駆動装置51Rを支持する右側の縦リンクユニット33Rと、左右の縦リンクユニット33L及び33Rの上端同士を連結する上側の横リンクユニット31Uと、左右の縦リンクユニット33L及び33Rの下端同士を連結する下側の横リンクユニット31Dと、本体部20に上端が固定され、上下に延在する中央縦部材21とを有する。
【0034】
また、左右の縦リンクユニット33L及び33Rと上下の横リンクユニット31U及び31Dとは回転可能に連結されている。さらに、上下の横リンクユニット31U及び31Dは、その中央部で中央縦部材21と回転可能に連結されている。なお、左右の車輪12L及び12R、左右の回転駆動装置51L及び51R、左右の縦リンクユニット33L及び33R、並びに、上下の横リンクユニット31U及び31Dを統合的に説明する場合には、車輪12、回転駆動装置51、縦リンクユニット33及び横リンクユニット31として説明する。
【0035】
そして、駆動用アクチュエータ装置としての前記回転駆動装置51は、いわゆるインホイールモータであって、固定子としてのボディが縦リンクユニット33に固定され、前記ボディに回転可能に取り付けられた回転子としての回転軸が車輪12の軸に接続され、前記回転軸の回転によって車輪12を回転させる。なお、前記回転駆動装置51は、インホイールモータ以外の種類のモータであってもよい。
【0036】
また、前記リーンモータ25は、電気モータ等を含む回転式の電動アクチュエータであって、固定子としての円筒状のボディと、該ボディに回転可能に取り付けられた回転子としての回転軸とを備えるものであり、前記ボディが取付フランジ22を介して本体部20に固定され、前記回転軸がリンク機構30の上側の横リンクユニット31Uに固定されている。
【0037】
なお、リーンモータ25の回転軸は、本体部20を傾斜させる傾斜軸として機能し、中央縦部材21と上側の横リンクユニット31Uとの連結部分の回転軸と同軸になっている。そして、リーンモータ25を駆動して回転軸をボディに対して回転させると、本体部20及び該本体部20に固定された中央縦部材21に対して上側の横リンクユニット31Uが回動し、リンク機構30が作動する、すなわち、屈伸する。これにより、本体部20を傾斜させることができる。なお、リーンモータ25は、その回転軸が本体部20及び中央縦部材21に固定され、そのボディが上側の横リンクユニット31Uに固定されていてもよい。
【0038】
また、リーンモータ25は、リンク機構30によるリーン角の変化を検出するリーン角センサ125を備える。該リーン角センサ125は、リーンモータ25においてボディに対する回転軸の回転角を検出する回転角センサであって、例えば、レゾルバ、エンコーダ等から成る。前述のように、リーンモータ25を駆動して回転軸をボディに対して回転させると、本体部20及び該本体部20に固定された中央縦部材21に対して上側の横リンクユニット31Uが回動するのであるから、ボディに対する回転軸の回転角を検出することによって、中央縦部材21に対する上側の横リンクユニット31Uの角度の変化、すなわち、リンク角の変化を検出することができる。
【0039】
なお、リーンモータ25は、回転軸をボディに対して回転不能に固定する図示されないロック機構を備える。該ロック機構は、メカニカルな機構であって、回転軸をボディに対して回転不能に固定している間には電力を消費しないものであることが望ましい。前記ロック機構によって、回転軸をボディに対して所定の角度で回転不能に固定することができる。
【0040】
前記搭乗部11は、本体部20の前端に図示されない連結部を介して連結される。該連結部は、搭乗部11と本体部20とを所定の方向に相対的に変位可能に連結する機能を有していてもよい。
【0041】
また、前記搭乗部11は、座席11a、フットレスト11b及び風よけ部11cを備える。前記座席11aは、車両10の走行中にドライバーが着座するための部位である。また、前記フットレスト11bは、ドライバーの足部を支持するための部位であり、座席11aの前方側(
図1における右側)下方に配設される。
【0042】
さらに、搭乗部11の後方若しくは下方又は本体部20には、図示されないバッテリ装置が配設されている。該バッテリ装置は、回転駆動装置51及びリーンモータ25のエネルギー供給源である。また、搭乗部11の後方若しくは下方又は本体部20には、図示されない制御装置、インバータ装置、各種センサ等が収納されている。
【0043】
そして、座席11aの前方には、操縦装置41が配設されている。該操縦装置41には、ドライバーが操作して操舵方向、操舵角等の操舵指令情報を入力する操舵装置としての入力部材41a、速度メータ等のメータ、インジケータ、スイッチ等の操縦に必要な部材が配設されている。
【0044】
ドライバーは、前記入力部材41a及びその他の部材を操作して、車両10の走行状態(例えば、進行方向、走行速度、旋回方向、旋回半径等)を指示する。なお、前記操舵装置として、入力部材41aに代えて他の装置、例えば、ステアリングホイール、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を使用することもできる。
【0045】
なお、車輪12Fは、サスペンション装置(懸架装置)の一部である前輪フォーク17を介して操舵軸13に接続されている。前記サスペンション装置は、例えば、一般的なオートバイ、自転車等において使用されている前輪用のサスペンション装置と同様の装置であり、前記前輪フォーク17は、例えば、スプリングを内蔵したテレスコピックタイプのフォークである。
【0046】
入力部材41aにはドライバーにより回動操作されることで旋回方向を入力するものである。入力部材41aには入力部材41aの回動を伝達する入力軸43が接続されている。また、入力軸43の回動中心と、操舵軸13の回動中心とは同一となるように設定されている。ダンパ機構70は、入力軸43と操舵軸13と間に設けられる。このダンパ機構70の詳細については後述する。
【0047】
本発明に係る車両10においては、入力部材41aの操作に応じて操舵輪としての車輪12Fの操舵角を制御するモードや、車輪12Fの操舵角を入力部材41aの操作とは無関係に回動自在な状態とするモードなど幾つかのモードを有している。ここで、車輪12Fの操舵軸(不図示)と路面の交点Pと操舵輪の接地点Oとの間には、所定のトレールL
Tがあり、後者のモードにおける旋回時には、回動自在な状態である車輪12Fは、左右の車輪12L及び12Rのキャンバ角に追随する形で、自動的に操舵される。また、本実施形態に係る車両10においては、車輪12Fの操舵軸と路面の交点Pが、前記操舵輪の接地点Oより前方である。
【0048】
なお、車輪12Fの回動とは、車両10が走行しているときにおける車輪12F自体の回転のことではなく、車輪12Fの操舵軸の回動に基づく車輪12Fの動作のことを言う。
【0049】
車輪12Fが回動自在な状態で車両10が走行するモードについて説明する。
図4は本発明の実施形態における車両10の模式図であり、左右の車輪12L及び12Rにキャンバ角が付与され、リーン制御によって車両10が旋回している状態を示している。ここで、車両10の重量をm、重力加速度をg、車両10のリーン制御におけるリーン角をθ、また旋回時の車両10の速度をV、旋回半径をRとすると、F
1及びF
2は下式(1)及び(2)によって表すことができる。
【0052】
また、幾何学的な関係により、下式(3)、(4)が成立する。
【0055】
車両10が、前記のような条件で旋回している時には下式(5)が成立する。
【0057】
これに式(1)乃至(4)を代入して整理を行うと、車両旋回半径Rは、下式(6)によって求めることができる。
【0059】
式(6)は、本発明に係る車両10においては、旋回時の車速Vと、車両10のリーン角θとを決めてやることで、車両10の進行方向を決めることができることを示している。
【0060】
入力部材41aの入力軸43の回転角、すなわち、ドライバーが入力部材41aを操作して入力した操舵角指令値としての入力部材41aの切り角は、入力操舵角検出手段としての入力部材操作角センサ123によって検出される。該ハンドル操作角センサ123は、例えば、エンコーダ等から成る。
【0061】
操舵軸13の近傍には、操舵用アクチュエータ装置としての操舵モータ65が配設されており、車輪12Fを操舵輪として入力部材41aの操作に応じて操舵角を制御するモードでは、該操舵モータ65が、前記入力部材操作角センサ123によって検出された入力部材41aの切り角に基づいて、前記操舵軸部材の下端を回転させる。
【0062】
そして、操舵モータ65が出力し、操舵軸13及び前輪フォーク17を介して車輪12Fに伝達される操舵角は、出力操舵角検出手段としての前輪操舵角センサ124によって検出される。該前輪操舵角センサ124は、例えば、操舵モータ65においてボディに対する回転軸の回転角を検出する回転角センサであって、レゾルバ、エンコーダ等から成る。なお、前輪である車輪12Fの車軸と後輪である左右の車輪12L及び12Rの車軸との距離、すなわち、ホイールベースはL
H である。
【0063】
また、車輪12Fの操舵角を入力部材41aの操作とは無関係に回動自在な状態とするモードでは、前記操舵モータ65の制御を停止することで、車輪12Fの操舵角を回動自在とする。なお、車輪12Fの操舵角を回動自在とする方法として、例えば前記操舵モータ65を0トルクに制御しても良いし、前記操舵モータ65と操舵軸13とを、クラッチなどにより、切り離しても良い。
【0064】
さらに、車両10は、駆動力発生指令を入力する駆動指令装置としてのアクセル45を操縦装置41の一部として備える。アクセル45はドライバーの踏み込み度合いに応じて、回転駆動装置51に駆動力を発生させる指令としての駆動力発生指令を入力する装置である。また、車両10は、ブレーキ46はドライバーが踏み込むことによって、車両10に制動力を付与するものである。
【0065】
また、シフトスイッチ47は、車両10の走行モードをドライバーが選択するためのスイッチであり、本実施形態では、ドライブレンジ、ニュートラルレンジ、リバースレンジ、パーキングレンジの少なくとも4つの走行モードを有している。これらの走行モードは、一般的なオートマチックトランスミッションを備える自動車などと同様のものである。
【0066】
また、車輪12Fの車軸を支持する前輪フォーク17の下端には、車両10の走行速度である車速を検出する車速検出手段としての車速センサ122が配設されている。該車速センサ122は、車輪12Fの回転速度に基づいて車速を検出するセンサであり、例えば、エンコーダ等から成る。
【0067】
次に、本発明に係る車両10のシステムについて説明する。
図5は本発明の実施形態における車両10のシステム構成を示すブロック図である。
図5において、ECUはElectronic Control Unitの略であり、CPUとCPU上で動作するプログラムを保持するROMとCPUのワークエリアであるRAMなどからなる汎用の情報処理機構である。
【0068】
車両ECU100は、図示されている車両ECU100と接続される各構成と協働・動作する。また、車両ECU100は、本発明の車両10における種々の制御処理は、車両ECU100内のROMなどの記憶手段に記憶保持されるプログラムやデータに基づいて実行されるものである。
【0069】
さらに、本発明に係る車両10においては、車両ECU100から出力される指令値に基づいて回転駆動装置51R、回転駆動装置51Lを制御する回転駆動装置ECU101、及び、車両ECU100から出力される指令値に基づいてリーンモータ25の制御を行うリーンモータECU102、及び、車両ECU100から出力される指令値に基づいて操舵モータ65の制御を行う操舵モータECU103を備えている。
【0070】
なお、「操舵輪制御部」の語は、上記のような各ECUによる制御動作を上位概念的に表現したものである。
【0071】
車速センサ122は車両10の車速を検出するものであり、車速センサ122によって検出した車速データは車両ECU100に入力される。
【0072】
また、入力部材操作角センサ123は入力部材41aの切り角を検出するものであり、入力部材操作角センサ123によって検出された入力部材41aの操作角データは車両ECU100に入力される。
【0073】
また、前輪操舵角センサ124は前輪12Fの操舵角を検出するものであり、前輪操舵角センサ124によって検出された車輪12Fの操舵角データは車両ECU100に入力される。
【0074】
また、リーン角センサ125は、車両10の傾き量を検出するものであり、リーン角センサ125によって検出された車両10の傾き量データは車両ECU100に入力される。
【0075】
また、アクセルポジションセンサ145はドライバーによるアクセル45の踏み込み量を検出するものであり、アクセルポジションセンサ145によって検出されたアクセル45の踏み込み量デーは車両ECU100に入力される。
【0076】
また、ブレーキポジションセンサ146はドライバーによるブレーキ46の踏み込み量を検出するものであり、ブレーキポジションセンサ146によって検出されたブレーキ46の踏み込み量デーは車両ECU100に入力される。
【0077】
また、シフトスイッチポジションセンサ147は、シフトスイッチ47がドライブレンジ、ニュートラルレンジ、リバースレンジのどのポジションにあるのかを検出するものであり、シフトスイッチポジションセンサ147によって検出されたポジションは車両ECU100に入力される。
【0078】
また、カメラ149は、車両10の前方の動画像データを取得して、取得した動画像データを車両ECU100に送信する。車両ECU100では、カメラ149から送信された動画像データを画像解析することで、車両10に関する予測を行ったり推定を行ったりする。本実施形態では、このような目的のためにカメラ149を用いるようにしているが、レーダーなどを用いるようにしてもよい。
【0079】
ジャイロセンサ150は、少なくとも車両10のロール角、ロールレイト、ヨーレイトを検出して、検出したデータを車両ECU100に送信する。車両ECU100では、受信したロール角、ロールレイト、ヨーレイトの各データを車両10の制御に供する。
【0080】
以上のように、車両ECU100に入力された各データは、回転駆動装置51R、回転駆動装置51L、リーンモータ25、操舵モータECU103の制御に利用される。
【0081】
次に、以上のように構成される車両10による走行モードについて説明する。本発明に係る車両10は、走行安定性を向上させるために、低速時には、操舵輪である車輪12Fを積極的に操舵させるが、高速時には操舵輪の操舵角を回動自在な状態として、車輪12L及び12Rのリーン制御に倣わせるようにする。なお、低速時、高速時の両方において、必要に怖じて車輪12L及び12Rのリーン制御を行うようにする。以下、車両10の低速時の走行モードを第1モード、高速時の走行モードを第2モードと呼ぶ。
【0082】
以下、第1モードと第2モードについて説明する。
【0083】
図6は本発明の実施形態における車両10による走行を概念的に説明する図である。
図6においては、入力部材41aの入力部材41aの切り角を右に60°とし、車速を0km/hから上げていった場合を例に説明する。また、以下、第1モードと第2モードとの切り替えの境界の車速が、15km/hの場合を例にとり説明するが、境界値がこれに限定されるものではない。
【0084】
なお、本実施形態においては、第1モードと第2モードとの切り替えを車速センサ122により検出された車両10の車速に基づいて行っているが、このような切り替えは、車速センサ122により検出された車速以外のパラメータに基づいて行うようにしてもよく、結果として低車速時に第1モード、高速時に第2モードに切り替われば良い。
【0085】
また、本実施形態においては、入力部材41aの切り角δ
Hに対する前輪操舵角δ
W(δ
W1は車輪12F(前輪)の初期操舵角)及びリーン角θの関係には、下式(7)及び(8)の関係を規定している。
【0088】
ただし、k
1及びk
2は定数であり、本実施形態ではk
1=60/30、k
2=60/40としているが、本発明がこれらに限定されるものではない。k
1は、仮想的なリーンギア比であり、k
2は仮想的な操舵ギア比のようなものであり、車両10の運転操作がしやすいものであれば任意の数値を選定することができる。
【0089】
また、
図6において、点線は車輪12Fの操舵角δ
Wを示しており、実線は車両10におけるリーン角θを示している。
【0090】
入力部材41aの切り角δ
H=60°で車速を0km/hから上げて行くと、第1モードによる車両10の走行が開始される。0km/hからの立ち上がりにおいては、操舵輪としての車輪12Fは40°の操舵角で操舵され、車輪12Fの操舵角は漸減される。一方、車両10におけるリーン角θは0から漸増されていく。なお、操舵輪12Fの漸減、及び、車両10のリーン角の漸増は、それぞれ1次関数である場合を例に説明しているが、1次関数に限定されるものではない。また、車両10におけるリーン角θが所定速度(例えば3km/h)まで、0のまま推移し、その後漸増してもよい。なお、特許請求の範囲に記載された漸増には、このように、リーン角θが所定速度(例えば3km/h)まで、0のまま推移する本実施形態の内容も含む。
【0091】
境界値である15km/hにおいて第1モードから第2モードへと切り替わるが、切り替わるタイミング以降の第2モードでは、操舵輪である車輪12Fの操舵角を回動自在な状態となり、リーン角θは式(8)により規定される30°となる。以降、さらに車速Vが上がっていっても、高速時の第2モードではリーン角θのみによって車両10の旋回を制御し、車輪12Fについては操舵角を回動自在な状態として、リーン角θに基づく旋回に倣うようにする。
【0092】
従来、上記のような第2モードでは、路面の傾斜、凹凸により車体が傾斜した場合や、横風を受ける、などといった突発的な外乱が生じた場合には、ドライバーの意図に反して車両が旋回しまう、といった問題があった。また、車体が路面の傾斜や凹凸を走行していることや、車体が横風を受けていることを、ドライバーは視覚とGとでしか知り得ることができず、運転操作が遅れる、といった問題もあった。
【0093】
上記のような問題を解決するために、本発明に係る車両10においては、入力軸43と操舵軸13との間を、操舵軸13から入力軸43に対してトルク伝達を可能とする所定の締結力で連結する連結機構として、バネ機構を採用した。さらに、前記所定の締結力は、車体の傾斜よる旋回方向に、車輪12Fの操舵角が倣うことを許容する締結力となるように設定されている。
【0094】
図7は本発明の実施形態に係る車両10における連結機構(バネ機構)の例を示す図である。また、
図7(A)は、バネ80を用いる際の軸構造の例を示している。
【0095】
図7(A)に示すように、入力軸43には回動中心に対して放射方向に延出する放射棹44と、この放射棹44から下方に延在する下方棹45とを設ける。また、操舵軸13には回動中心に対して放射方向に延出する放射棹14と、この放射棹14から上方に延在する上方棹15とを設ける。バネ80は、
図7(B)に示すように、入力軸43の下方棹45と、操舵軸13の上方棹15との間に取り付けるようにする。
【0096】
上記のような構成により、バネ80で入力軸43の角度δ
Hと操舵軸13の角度δ
Wとの間の角度差Δδに基づく、下式(9)によるトルクT
1を発生させることができる。ただし、kはバネ80のバネ定数である。なお、下式(9)は近似式である。また、
図8は軸間の角度差とバネ80の発生するトルクの関係を説明する図である。
【0098】
このように、本発明に係る車両10は、入力軸43と操舵軸13とを、車体の傾斜よる旋回方向に、操舵輪(車輪12F)の操舵角が倣うことを許容する締結力であり、かつ、操舵軸13から入力軸43に対してトルク伝達を可能とする締結力で連結する連結機構が設けられているので、このような本発明に係る車両10によれば、路面の傾斜、凹凸により車体が傾斜した場合や、横風を受ける、などといった突発的な外乱が生じた場合でも、走行が不安定となったりすることを軽減することができ、走行安定性を確保することが可能となり、ドライバーの意図に反して車両が旋回してしまうことがない。
【0099】
また、本発明に係る車両10は、連結機構を介して、入力軸43と操舵軸13とが接続されているので、このような本発明に係る車両によれば、ドライバーは入力部材からの触覚を通じて、車体が路面の傾斜や凹凸を走行していることや、車体が横風を受けていることを知覚することででき、運転操作が遅れることがない。
【0100】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。本発明に係る車両10においては、入力軸43と操舵軸13との間に、連結機構としてダンパ機構70が設けられている。すなわち、互いに回動中心が同一である入力軸43と操舵軸13とはダンパ機構70を介して接続される構成となっている。
図9は本発明の他の実施形態に係る車両10における連結機構(ダンパ機構70)の一例を示す図である。当該図は、入力軸43と操舵軸13とダンパ機構70を抜き出して示した図である。
図9に示すダンパ機構70は、回転ダンパ73によって構成されている。
【0101】
入力軸43の角速度ω
1は下式(10)により、また、操舵軸13の角速度ω
2は下式(11)により表すことができる。
【0104】
このとき、ダンパ機構70が発生するトルクT
2は、入力軸43の角速度ω
1と、操舵軸13の角速度ω
2との差に所定の定数cを乗じたもので、下式(12)のように表すことができる。
【0106】
本発明に係る車両10においては、操舵輪(12F)の操舵角が回動自在な状態とされている第2モードであっても、連結機構であるダンパ機構70を介して、操舵軸13から入力軸43に対して、ダンパ機構70が発生するトルクにより、路面の傾斜、凹凸や、横風による車体の傾きに係る情報がドライバーに伝達されることとなる。これにより、ドライバーは、上記のような各外乱に対するカウンター操作を素早く行うことが可能となる。
【0107】
ところで、式(12)によれば、入力軸43の角速度ω
1と、操舵軸13の角速度ω
2と間の角速度差Δωが大きければ大きいほど、ダンパ機構70が発生するトルクT
1が大きくなってしまうことがわかる。
図10は、入力軸43の角速度ω
1と、操舵軸13の角速度ω
2との角速度差Δωとダンパ機構70の発生するトルクの関係を説明する図である。
図10(A)は、式(12)の関係を表したものである。角速度差Δωが大き過ぎると、ダンパ機構70が発生するトルクT
1が大き過ぎてしまい、入力軸43を介して入力部材41aに大きなトルクが伝達され、ドライバーにとって負担となる可能性がある。
【0108】
そこで、ダンパ機構70においては、
図10(B)に示すように、互いの軸への回動トルクの伝達を行う際の回動トルク(トルク伝達量)に上限が設定されることが好ましい。このようなダンパ機構70としては、発生トルクに制限が設けられているダンパを適宜用いることができる。
【0109】
特に、ダンパ機構70として、MR(Magneto-Rheological:磁気粘性)流体が用いられた可変ダンパを用いることで、より決めの細かいトルク伝達量を行うことができる。例えば、このような可変ダンパを用いた場合、入力軸43の角速度ω
1と操舵軸13の角速度ω
2と間の角速度差Δωや、入力軸43の角度δ
Hと操舵軸13の角度δ
Wとの間の角度差Δδや、或いは、車両10の車速などの各パラメータに応じて、トルク伝達量を制御することができる。
【0110】
以上の実施形態では、連結機構となるダンパ機構70として、回転ダンパや可変ダンパを用いる例を説明したが、本発明に係る車両10においては、直進運動に対する緩衝を行う直線ダンパ74を用いることもできる。
【0111】
図11は本発明の他の実施形態に係る車両10における連結機構(ダンパ機構70)の例を示す図である。
図11(A)は、直線ダンパ74を用いる際の軸構造の例を示している。
【0112】
図11(A)に示すように、入力軸43には回動中心に対して放射方向に延出する放射棹44と、この放射棹44から下方に延在する下方棹45とを設ける。また、操舵軸13には回動中心に対して放射方向に延出する放射棹14と、この放射棹14から上方に延在する上方棹15とを設ける。直線ダンパ74は、
図11(B)に示すように、入力軸43の下方棹45と、操舵軸13の上方棹15との間に取り付けるようにする。
【0113】
このような実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を享受することができると共に、汎用されている直線ダンパ74を利用することができ、コストを低減することができる。
【0114】
次に、本発明に係る車両10の他の実施形態について説明する。
図12は本発明の他の実施形態に係る車両10における連結機構の例を示す図である。入力軸43の下方棹45と、操舵軸13の上方棹15との間には、直線ダンパ74に加え、バネ80が設けられていることを特徴としている。
【0115】
図12に示す実施形態では、ダンパ機構70とバネ機構で、トータルのトルクT
totalとして下式(13)が発生する。
【0117】
このような実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を享受することができると共に、ダンパ機構70のトルク特性を適宜変更することが可能となる。
【0118】
ここで、本発明に係る車両10においては、これまで説明したように、入力軸43と操舵軸13とは、車体の傾斜よる旋回方向に、操舵輪(車輪12F)の操舵角が倣う程度の比較的弱い接続で繋がれている。これにより、適度に操舵輪(車輪12F)の転舵の応答性が遅れて、車両10の転倒防止に資するようになっている。また、操舵輪(車輪12F)の転舵の遅れすぎも防ぐことができるため、操舵輪(車輪12F)が回動自在とされているときの応答性悪化も防ぐことができる。
【0119】
次に、本発明に係る車両10の他の実施形態について説明する。
図13は車体の傾斜角θ一定の時に車速に応じて必要となる操舵角の関係を示す図である。なお、本例では、当該操舵角としては車輪12F(前輪)の操舵角δ
Wを想定しているが、本実施形態の考え方は、前輪を傾斜させ、後輪を操舵するような車両にも適用可能である。
【0120】
車両10の車体の傾斜角θ一定で傾斜していることを前提として以下説明する。また、一例として、車両10の車速が低速であるV
Lのときと、この低速V
Lより高速であるV
Hのときとを比較することで検討を行う。
【0121】
車両10の車体が傾斜角θ一定で速度を上げていくと、速度の上昇に従って旋回半径が大きくならないと、遠心力との釣り合いが取れない。従って、車両10が転倒しないためには、速度の上昇に従って、操舵角δ
Wは小さくなっていかなければならない。
【0122】
車両10の車体が傾斜角θ一定で低速V
Lであるときには、車体の旋回時に車体の傾斜と釣り合う遠心力を得るために、必要となる旋回半径を小さくしなければならない。このときの操舵角をδ
WLとする。
【0123】
一方、車両10の車体が傾斜角θ一定であり、より速度が大きい高速V
Hであるときには、車体の旋回時に車体の傾斜と釣り合う遠心力は、先の旋回半径より大きくなる。このときの操舵角をδ
WHとする。ただし、δ
WH<δ
WLである。
【0124】
従って、車体の傾斜角θ一定の時に車速に応じて必要となる操舵角の関係は、
図13に示すように、点(V
L,δ
WL)及び点(V
H,δ
WH)がのった図示の曲線となる。
【0125】
本発明に係る車両10においては、入力軸43と操舵軸13との間を、操舵軸13から入力軸43に対してトルク伝達を可能とする所定の締結力で連結する連結機構が採用されている。ここで、このような連結機構に係る問題点に
図14を参照して説明する。
【0126】
図14において、連結機構の締結力によって、操舵軸13から入力軸43との間に生じるトルクとして、低速であるV
Lを基準として設定されているとする(
図14中の(1))。車体の傾斜角θ一定を保ったまま、低速V
Lから高速V
Hに車速を徐々に上げていくような場合、ドライバーが、低速V
L時のままの入力部材41aの切り角を維持すると、操舵角の切り過ぎの状態が継続してしまう(
図14中の(2))。
【0127】
そこで、本実施形態では、操舵軸13に加えるトルク(操舵トルク)を制御する操舵トルク調整機構を設けるようにしている。
図14中の(S)は、このような操舵トルク調整機構で発生する操舵トルクによって、入力部材41aの切り過ぎの状態を緩和する方向を示している。
【0128】
このような操舵トルク調整機構は、連結機構が発生するトルクの向きと、反対の向きのトルクを発生するように設定されている。また、操舵トルク調整機構の具体的な構成としては、操舵軸13に加える操舵トルクを制御すことができるものであれば、どのようなものを用いても構わないが、例えば、操舵モータ65に操舵トルク調整機構の役割を担わせることができる。
【0129】
図15は本発明の他の実施形態に係る車両10における操舵トルク調整機構を模式的に説明する図である。
【0130】
本発明に係る車両10は、入力部材41aの回動を伝達する入力軸43と、車輪12Fの回動を伝達する操舵軸13と、入力軸43と操舵軸13との間に介在し、ダンパ機構70、バネ80などからなる連結機構とを有している。
【0131】
操舵モータ65の回転軸にはモータ側ギア67が設けられており、また、操舵軸13には、操舵軸13と連れ周りする操舵軸側ギア68が設けられている。モータ側ギア67と操舵軸側ギア68とは螺合している。また、操舵モータ65は、車両10の車体の一部Bに固着される形で車体側に取り付けられるようになっている。
【0132】
このような構成により、操舵モータ65のトルクは、モータ側ギア67から操舵軸側ギア68へ、そして操舵軸13へと伝達される。このように操舵モータ65は、操舵軸13に加える操舵トルクを制御する操舵トルク調整機構として機能することができる。
【0133】
図14から、入力部材41aの切り過ぎの状態を緩和するためのトルク(すなわち、操舵トルク調整機構で発生させるトルク)は、車両10の車速が大きくなればなるほど、大きく設定しなければならない。そこで、車速センサ122で検出される車速が0でない場合においては、操舵トルク調整機構が発生するトルクは、車速センサ122で検出される車速が速いほど大きくなるように設定される。
【0134】
一方、車速センサ122で検出される車速が0であり、入力部材41aが切られている状況、すなわち、入力部材41aによって据え切りが行われている場合には、操舵軸13から入力軸43が完全に締結されている状態が理想である。
【0135】
そこで、車速センサ122で検出される車速が0である場合、操舵トルク調整機構が発生するトルクは、入力軸43と操舵軸13との回転位相差を無くすような向きと大きさにすることで、操舵軸13から入力軸43が完全に締結されている状態を実現するようにしている。
【0136】
このように、本実施形態では、車速センサ122で検出される車速に応じて、操舵軸13に加える操舵トルクを制御する操舵トルク調整機構が設けられているので、ドライバーによる操作性がより向上する。
【0137】
なお、上記の実施形態では、操舵トルク調整機構としては、車体側に固定されている操舵モータ65によって、操舵軸13に加える操舵トルクの調整を行うように構成されていたが、その他の構成の操舵トルク調整機構を採用し、操舵トルクの調整を行うようにしてもよい。
図16は、他の操舵トルク調整機構を模式的に説明する図である。
【0138】
本実施形態における操舵トルク調整機構も、入力軸43と操舵軸13との間に介在し、ダンパ機構70、バネ80などからなる連結機構とを有している。
【0139】
また、トルク調整モータ66の回転軸にはモータ側ギア67が設けられており、また、操舵軸13には、操舵軸13と連れ周りする操舵軸側ギア68が設けられている。モータ側ギア67と操舵軸側ギア68とは螺合している。
【0140】
ここで、本実施形態では、トルク調整モータ66の筐体部は、入力軸43に固定されている。 このような構成により、トルク調整モータ66のトルクは、モータ側ギア67から操舵軸側ギア68へ、そして操舵軸13へと伝達される。このように、入力軸43に固定されたトルク調整モータ66は、操舵軸13に加える操舵トルクを制御・調整する操舵トルク調整機構として機能することができる。
【0141】
図16のように構成される操舵トルク調整機構によっても、車両10の操作性をより向上させることが可能となる。
【0142】
なお、
図16の例において、操舵トルク調整機構として採用されたトルク調整モータ66には、ダンパ機構70、バネ80などからなる連結機構の役割を担わせることもできる。すなわち、
図16から連結機構であるダンパ機構70、バネ80を取り去り、取り去った連結機構分のトルクをトルク調整モータ66によって再現することで、これらを取り去っていない場合と同様の効果を得ることができる。
【0143】
以上、本発明に係る車両は、前記入力軸と前記操舵軸とを、前記車体の傾斜よる旋回方向に、前記操舵輪の操舵角が倣うことを許容する締結力であり、かつ、前記操舵軸から前記入力軸に対してトルク伝達を可能とする締結力で連結する連結機構が設けられているので、このような本発明に係る車両によれば、路面の傾斜、凹凸により車体が傾斜した場合や、横風を受ける、などといった突発的な外乱が生じた場合でも、走行が不安定となったりすることを軽減することができ、走行安定性を確保することが可能となり、ドライバーの意図に反して車両が旋回しまうことがない。
【0144】
また、本発明に係る車両は、連結機構を介して、入力軸と操舵軸とが接続されているので、このような本発明に係る車両によれば、ドライバーは入力部材からの触覚を通じて、車体が路面の傾斜や凹凸を走行していることや、車体が横風を受けていることを知覚することででき、運転操作が遅れることがない。
【0145】
本発明は、近年、エネルギー問題などの観点から注目を集めている小型化車両に関するものである。従来、このような車両においては、突発的な外乱が生じた場合にドライバーの意図に反して車両が旋回しまう、といった問題や、路面の凹凸や横風の影響をドライバーが知覚しづらく運転操作が遅れる、といった問題があった。これに対して、本発明に係る車両では、入力軸と操舵軸とを、車体の傾斜よる旋回方向に、操舵輪の操舵角が倣うことを許容する締結力であり、かつ、操舵軸から入力軸に対してトルク伝達を可能とする締結力で連結する連結機構が設けられており、このような本発明に係る車両によれば、路面の傾斜、凹凸により車体が傾斜した場合や、横風を受ける、などといった突発的な外乱が生じた場合でも、走行安定性を確保することが可能となり、産業上の利用性が大きい。