特許第6898544号(P6898544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6898544電子機器筐体の導通構造、およびこれを含む電子機器または映像音響機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6898544
(24)【登録日】2021年6月15日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】電子機器筐体の導通構造、およびこれを含む電子機器または映像音響機器
(51)【国際特許分類】
   H05K 5/02 20060101AFI20210628BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   H05K5/02 Q
   F16B5/02 V
   F16B5/02 C
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-123157(P2016-123157)
(22)【出願日】2016年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-228624(P2017-228624A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】710014351
【氏名又は名称】オンキヨーホームエンターテイメント株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡村 祐一
【審査官】 原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−060988(JP,A)
【文献】 特開平03−120896(JP,A)
【文献】 特開平10−200283(JP,A)
【文献】 特開2007−073758(JP,A)
【文献】 特開2004−055731(JP,A)
【文献】 実開昭59−020680(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/02
F16B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも何れか一方が、鋼板の表面に絶縁皮膜を有する表面処理鋼板で形成される締結部材及び被締結部材と、
それぞれに設けられる孔に挿通して前記締結部材と前記被締結部材とを連結するネジと、を備え、
前記締結部材の前記孔を規定する第1孔周縁部は、
前記被締結部材の前記孔を規定する前記絶縁被膜を有する第2孔周縁部に近づく方向に突出する突起を有
前記ネジは、前記締結部材の前記孔側から、前記締結部材及び前記被締結部材の前記孔に挿通して前記締結部材と前記被締結部材とを連結し、
前記ネジが前記締結部材と前記被締結部材とを連結した状態で、前記ネジのネジ頭は、前記突起を覆う、
電子機器筐体の導通構造。
【請求項2】
前記第1孔周縁部の突起の前記表面処理鋼板の厚み方向の高さを規定する突出寸法が、前記絶縁皮膜の厚み寸法よりも大きく設定される、
請求項1に記載の電子機器筐体の導通構造。
【請求項3】
前記第1孔周縁部が、内周方向に突出する複数箇所の前記突起を備え、前記孔が、前記突起により前記ネジの軸部が挿通する中心部から外周方向に延びる三つ以上の切欠を含んで規定される、
請求項1または2に記載の電子機器筐体の導通構造。
【請求項4】
前記第1孔周縁部における前記孔を規定する前記切欠の幅寸法が、前記ネジの前記軸部の直径寸法よりも小さく設定されている、
請求項3に記載の電子機器筐体の導通構造。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載の電子機器筐体の導通構造を含む、電子機器または映像音響機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器または映像音響機器等の筐体において、締結部材並びに被締結部材を相互に導通させる導通構造に関し、特に、鋼板の表面に絶縁皮膜を有する表面処理鋼板で形成される締結部材並びに被締結部材をネジで連結する電子機器筐体の導通構造に関する。
【背景技術】
【0002】
音声信号を増幅する増幅器等の映像音響機器では、内部に電子回路を載せた基板、基板間を接続する複数の配線部材、等を含み、静電気対策、EMI対策、接地対策、等のために、筐体を構成する金属の部材は、相互に導通を取る必要がある。一方で、電子機器または映像音響機器の筐体は、筐体を構成するシャーシ、天板、底板などの部材に、鋼板の表面に絶縁皮膜を有する表面処理鋼板を利用する場合がある。表面処理鋼板には、代表的には、防錆効果を備えた六価クロム膜を表層に備えた亜鉛処理鋼板、または、亜鉛処理鋼板の代用品として六価クロムを含まない樹脂コート層を備えた鋼板(クロメートフリー鋼板)、塗装鋼板、等がある。
【0003】
電子機器筐体では、表面処理鋼板を用いる部材同士を連結する場合には、表面処理された絶縁皮膜層が設けられているので、鋼板と鋼板とが導通する妨げになり、所定の対静電気特性、対EMI特性、等を実現できない場合が発生することがあるという問題がある。つまり、絶縁性樹脂膜を表層に備えた表面処理鋼板からなる板金部品同士を結合する場合に、締結部材並びに被締結部材はネジによって絶縁性の高い皮膜を介して接触することとなり、結合面に介在する絶縁性の皮膜により、結合面における導通不良が発生しやすくなる。そこで、表面処理鋼板を用いる締結部材並びに被締結部材は、特定の部分で必要に応じて絶縁皮膜層を除去して、鋼板と鋼板が確実に接触するようにして導通を確保する場合がある。
【0004】
従来には、少なくとも2つの絶縁性の高い被膜に覆われた板金部品を各々の結合面同士にて結合した結合体であって、少なくとも何れか一方の板金部品の結合面にローレット形成領域を配置し、ローレット形成領域を介して両板金部品の金属部分同志を直接結合するものがある(特許文献1)。また、前記板金部品を結合する結合手段と、少なくとも結合面の一方に相手の結合面の被膜を結合によって削り取る手段を設けたことを特徴とする板金部品の結合構造がある(特許文献2)。これらの場合に、少なくとも結合面の一方に相手の結合面の被膜を結合によって削り取る手段は、板金部品の結合面のネジなど固定部材の近傍に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−283154号公報
【特許文献2】特開2007−73758号公報
【0006】
ただし、特許文献1のような従来の板金部品の結合構造では、電子機器または映像音響機器等の筐体を構成する金属部材を相互に導通させる導通構造としては十分であっても、本来的な電子機器筐体の構成の簡素化、並びに、組み立て工程の簡素化、美観との両立、等において問題がある。例えば、特許文献2では、締結部材並びに被締結部材を連結するネジが挿通される孔とは別に、ネジの近傍に被膜を結合によって削り取る片持ち切り起こし突起を設ける必要があり、別個に突起を設けることがコスト増加要因になる、あるいは、別個に突起を設けた際に突起が外観に露出して筐体の美観を損ねる、という問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、鋼板の表面に絶縁皮膜を有する表面処理鋼板で形成される締結部材並びに被締結部材をネジで連結する電子機器または映像音響機器の筐体の導通構造において、構造が簡単でコストの増加が少なく、美観に優れる電子機器筐体の導通構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子機器筐体の導通構造は、鋼板の表面に絶縁皮膜を有する表面処理鋼板で形成される締結部材並びに被締結部材と、それぞれに設けられる孔に挿通して締結部材と被締結部材とを連結するネジと、を備え、締結部材または被締結部材の少なくとも一方の孔を規定する第1孔周縁部が、他方の孔を規定する第2孔周縁部に近づく方向に突出する突起を有する。
【0009】
好ましくは、本発明の電子機器筐体の導通構造は、第1孔周縁部の突起の表面処理鋼板の厚み方向の高さを規定する突出寸法が、絶縁皮膜の厚み寸法よりも大きく設定される。
【0010】
また、好ましくは、本発明の電子機器筐体の導通構造は、第1孔周縁部が、内周方向に突出する複数箇所の突起を備え、孔が、突起によりネジの軸部が挿通する中心部から外周方向に延びる三つ以上の切欠を含んで規定される。
【0011】
また、好ましくは、本発明の電子機器筐体の導通構造は、第1孔周縁部における孔を規定する切欠の幅寸法が、ネジの軸部の直径寸法よりも小さく設定されている。
【0012】
また、本発明の電子機器または映像音響機器は、上記の電子機器筐体の導通構造を含む。
【0013】
以下、本発明の作用について説明する。
【0014】
本発明の電子機器筐体の導通構造は、少なくとも何れか一方が、鋼板の表面に絶縁皮膜を有する表面処理鋼板で形成される締結部材並びに被締結部材と、それぞれに設けられる孔に挿通して締結部材と被締結部材とを連結するネジと、を備え、締結部材または被締結部材の少なくとも一方の孔を規定する第1孔周縁部が、他方の孔を規定する該絶縁皮膜を有する第2孔周縁部に近づく方向に突出する突起を有する。
【0015】
したがって、ネジが締結部材と被締結部材とを連結する状態では、第1孔周縁部の突起が、対応する第2孔周縁部の絶縁皮膜を除去するので、ネジ締結時に締結部材の鋼板と被締結部材の鋼板とが接触して、締結部材と被締結部材との導通をとることができる。この電子機器筐体の導通構造で設けられる突起は、ネジが挿通される孔の周縁部に設けられるので、別個に突起を設ける場合に比べてコスト増加要因にならず、かつ、締結後は、ネジ頭により隠蔽されることで、突起が外観に露出しないので筐体の美観を損ねことがない利点がある。
【0016】
好ましくは、第1孔周縁部の突起は、表面処理鋼板の厚み方向の高さを規定する突起寸法が、絶縁皮膜の厚み寸法よりも大きく設定される。このようにすれば、突起並びに突起が接触した第2孔周縁部の絶縁皮膜が除去されて鋼板が露出するので、締結部材と被締結部材との導通を確実にとることができる。
【0017】
また、第1孔周縁部は、内周方向に突出する複数箇所の突起を備えるようにして、ネジの軸部が挿通する孔が、突起によりネジの軸部が挿通する中心部から外周方向に延びるような三つ以上の切欠を含んで規定されるようにすればよい。つまり、三つ以上の複数の切欠を含む孔、例えば、十文字または(+:プラス)のような4つの切欠を含む孔であれば、内周方向に突出する4箇所の突起を形成することができる。従来のような円孔を、上記の様な中心部から外周方向に延びる切欠を規定する孔に変更するだけで、内周方向に突出する複数箇所の突起を簡易に形成することができる利点がある。
【0018】
さらに、第1孔周縁部における孔を規定する切欠の幅寸法を、ネジの軸部の直径寸法よりも小さく設定すれば、ネジが締結部材と被締結部材とを連結する状態での遊びが小さくなり、電子機器の筐体の組み立て精度を向上させることができる。ネジの軸部が挿通する中心部を規定する対向する位置にある2つ突起の離間距離が、ネジの軸部の直径寸法よりも大きければ、隣り合う位置にある突起の離間距離がネジの軸部の直径寸法よりも小さくなる場合があるからである。この点においても、筐体の美観を損ねることがない利点がある。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電子機器筐体の導通構造は、鋼板の表面に絶縁皮膜を有する表面処理鋼板で形成される締結部材並びに被締結部材をネジで連結する電子機器または映像音響機器の筐体の導通構造において、構造が簡単でコストの増加が少なく、美観に優れる電子機器筐体の導通構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の好ましい実施形態による電子機器1の筐体の導通構造10を説明する展開斜視図である。(実施例1)
図2】本発明の好ましい実施形態による電子機器1の筐体の導通構造10を説明する一部拡大図である。(実施例1)
図3】本発明の好ましい実施形態による電子機器1の筐体の導通構造10を説明する一部拡大図である。(実施例1)
図4】本発明の好ましい実施形態による他の導通構造を構成する他の孔周縁部11a、11bを説明する図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態による電子機器筐体の導通構造およびこれを用いる電子機器または映像音響機器について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の好ましい実施形態による電子機器1の筐体2の導通構造10を説明する図である。具体的には、図1は、筐体2を構成するカバー4を取り外した状態でのシャーシ3を含む電子機器1の斜視図である。この電子機器1は、具体的には音声信号を増幅する増幅器を含むオーディオ機器であり、図示を分かりやすくするために、その全体構成と、基板5の上に構成される電子回路などの導通構造10の説明に不要な一部の構成の図示を省略している。
【0023】
シャーシ3は、電子機器1の筐体2の底面および側面の一部を構成する部材である。シャーシ3は、表面処理鋼板で形成されており、プレス加工により所定の位置に孔または切り起こしを設け、また、その全体を折り曲げて全体をコの字状になるように加工されている。シャーシ3は、基板5の上に構成される電子回路のアース電位と一致するように電気的に接続されて接地されている。シャーシ3は、電子機器1の筐体2を構成するにあたって、他の部材を取り付ける基礎的な部材であるので、プレス加工および折り曲げ加工には、寸法精度が求められる。
【0024】
同様に、カバー4は、電子機器1の筐体2の天面および側面を構成する部材である。カバー4も、表面処理鋼板で形成されており、プレス加工により所定の位置に孔または切り起こしが設けられ、また、その全体を折り曲げて全体をコの字状になるように加工されている。カバー4は、シャーシ3に設けられる複数のネジ孔に対して複数のネジ6により固定される。カバー4は、電子機器1の美観に影響を与える外観視される天面および側面を構成するので、取り付けの精度を高めてシャーシ3に対して固定する必要がある。
【0025】
本実施例の導通構造10は、基板5等を内部に含む電子機器1の筐体2において、複数のネジ6により連結されるシャーシ3およびカバー4を導通させる。金属製のシャーシ3およびカバー4が導通することにより、電子機器1の対静電気特性、対EMI特性、接地特性、等を改善することができる。シャーシ3およびカバー4は、複数のネジ6により連結されるので、導通構造10も同様に複数箇所に採用可能である。以下では、図1に示す1カ所の導通構造10について説明する。
【0026】
シャーシ3には、厚みt=1.2mmの表面処理鋼板が用いられている。具体的には、この表面処理鋼板は、鋼板の両面に亜鉛メッキ層を有する亜鉛メッキ鋼板の両面に、さらに耐食性および潤滑性向上を図る表面クロメートフリー皮膜が形成されている。基材となる鋼板の厚みt0=1.2mmに対して、亜鉛メッキ層の厚みt1および表面クロメートフリー皮膜の厚みt2は、合わせて数μm程度であるものの、表面クロメートフリー皮膜は六価クロムを含まない樹脂コート層であるので、シャーシ3の表面は絶縁性の性質を有する。
【0027】
また、カバー4には、厚みt=0.8mmの表面処理鋼板が用いられている。具体的には、この表面処理鋼板は、鋼板の両面に亜鉛メッキ層を有する亜鉛メッキ鋼板の両面に、さらに耐食性および潤滑性向上を図る表面クロメートフリー皮膜が形成されている。基材となる鋼板の厚みt0=0.8mmに対して、亜鉛メッキ層の厚みt1および表面クロメートフリー皮膜の厚みt2は、合わせて数μm程度であるものの、表面クロメートフリー皮膜は六価クロムを含まない樹脂コート層であるので、カバー4の表面は絶縁性の性質を有する。
【0028】
図2および図3は、本実施例の電子機器1の筐体2の導通構造10を説明する一部拡大図である。図2は、シャーシ3およびカバー4がネジ6により連結される前の状態を模式的に説明する図であり、図3は、連結された後の状態を模式的に説明する図である。図2(b)および図3(b)は、それぞれ図2(a)並びに図3(a)におけるA−A’断面図である。ただし、図2(a)においては、ネジ6の図示を省略している。
【0029】
ネジ6は、ネジ呼び径M4x長さ8mmの金属製のタッピングネジであって、軸部8の直径が約3.8mmである。本実施例のネジ6のネジ頭7は、直径約8.0mmのナベ頭形状であるので、ネジ6の軸部8を挿通させるネジ孔13および18を規定する孔周縁部11または17は、少なくとも直径9.0mm程度のネジ頭7よりも大きい平面部分とするのが望ましい。
【0030】
シャーシ3には、ネジ6の軸部8を挿通させるネジ孔18を規定する孔周縁部17が設けられている。本実施例の孔周縁部17は、ネジ6の軸部8に対応する少なくとも直径3.6mmの円孔であるネジ孔18を規定する平面部分を有する。シャーシ3は、上記の通り表面処理鋼板が用いられているので、ネジ孔18を規定する孔周縁部17の表面は、亜鉛メッキ鋼板が露出することなく絶縁性の樹脂コート層に覆われている。なお、孔周縁部17が表面処理鋼板をプレス加工して形成されている場合には、孔周縁部17の端面には鋼板が露出する場合がある。
【0031】
カバー4には、ネジ6の軸部を挿通させるネジ孔13を規定する孔周縁部11が設けられている。カバー4は、上記の通り表面処理鋼板が用いられているので、ネジ孔13を規定する孔周縁部11の表面は、亜鉛メッキ鋼板が露出することなく絶縁性の樹脂コート層に覆われている。孔周縁部11は、ネジ6のネジ頭7に対応する少なくとも直径9.0mm程度の平面部分を有する。なお、孔周縁部11が表面処理鋼板をプレス加工して形成されている場合には、孔周縁部11の端面には鋼板が露出する場合がある。
【0032】
ただし、カバー4の孔周縁部11は、その中央付近に内周方向に突出する4箇所の突起12とともに、十字状のネジ孔13を規定する。つまり、ネジ孔13は、孔周縁部11から内周方向に突出する4箇所の突起12により、ネジ6の軸部8が挿通する中心部14から外周方向に延びる4箇所の切欠15を含んで規定される。本実施例では、切欠15の幅寸法は2.8mmであり、ネジ6の軸部8の直径寸法よりも小さく設定されている。
【0033】
カバー4の孔周縁部11の4箇所の突起12は、4箇所の切欠15を含むネジ孔13を形成するプレス加工の際に、孔周縁部11からその先端がカバー4の厚み方向において、一方の面から他方の面に突出するように切り起こされる。つまり、4箇所の突起12は、孔周縁部11の中心から直径4.0mmの寸法となる円形に対応するところを根元にして、その先端がシャーシ3に近づく方向に切り起こし加工されている。突起12は、その先端にほぼ直角の角部をもつので、切り起こし加工によってシャーシ3に近づくその先端部は、亜鉛メッキ鋼板によって形成された非常に鋭利な尖ったエッジ部分となる。本実施例では、切り起こし加工により孔周縁部11に設けられる突起12の表面処理鋼板の厚み方向の高さを規定する突出寸法hは、約0.3mmである。
【0034】
本実施例の筐体2を組み立てる場合には、シャーシ3およびカバー4を連結させるネジ6は、その軸部8をカバー4に設けられるネジ孔13に挿通させた状態で、シャーシ3に設けられるネジ孔18に螺合させられる。その結果、ネジ6を締め付けていくと、ネジ6のネジ頭7とシャーシ3の孔周縁部17とが、カバー4のネジ孔13を規定する孔周縁部11および突起12を挟み込むようになる。その結果、図3に示すように、シャーシ3およびカバー4がネジ6により連結される。
【0035】
この状態では、カバー4の孔周縁部11に設けられる突起12の突出寸法hが、シャーシ3の絶縁性の樹脂コート層の厚み寸法よりも大きいので、鋭利な尖ったエッジ部分である突起12の先端部は、比較的に柔らかい樹脂コート層に食い込むことになる。ネジ6をシャーシ3に設けられるネジ孔18に螺合させる際には、非常に強い力が働くので、カバー4の突起12の先端部は、シャーシ3の孔周縁部17の絶縁性の樹脂コート層を除去してしまう。したがって、本実施例の導通構造10では、絶縁皮膜が除去された状態でシャーシ3の鋼板とカバー4の鋼板とが接触する状態になり、電子機器1の筐体2の導通を確実にとることができる。
【0036】
本実施例のように、カバー4の孔周縁部11に突起12を設けると、従来技術のようにネジ孔13と別個の位置に突起12を設ける場合に対して、利点が多い。つまり、ネジ孔13とは別個の位置にさらに突起12を設けると、カバー4の製造する金型が複雑になり、コストの増加原因になる。しかし、このような場合に比べてカバー4の孔周縁部11に突起12を設けると、ネジ孔13を設ける公邸と同時にできるので、コスト増加要因にすることなく、導通のための突起12を設けることができる利点がある。
【0037】
また、この状態では、カバー4の孔周縁部11に設けられる突起12は、ネジ6のネジ頭7の下に隠れて、外観上に露出しない。したがって、カバー4の孔周縁部11に突起12を設けると、別個に突起を設ける場合に比べてコスト増加要因にならず、かつ、突起が外観に露出しないので筐体2の美観を損ねことがない利点がある。
【0038】
さらに、カバー4のネジ孔13は、孔周縁部11から内周方向に突出する4箇所の突起12が、幅寸法が2.8mmである切欠15を規定しているので、その中心部14には、ネジ6の軸部8を寸法的な遊びを少なくして挿通させることができる。つまり、ネジ6の軸部8は、シャーシ3に対するカバー4の取り付け位置を、正確に精度を高めて固定することができる利点がある。また、この設定値は求められる精度により調整することができる。したがって、電子機器1の筐体2の構造としても、精度を高くて美観に優れる筐体2を実現できる利点がある。
【0039】
なお、本実施例では、カバー4の孔周縁部11に突起12を設けているが、カバー4の孔周縁部11に突起12を設けずに、シャーシ3の孔周縁部17にカバー4に近づく方向にその先端部が尖るような突起を切り起こして設けてもよい。また、電子機器1の筐体2を構成するシャーシ3およびカバー4以外の表面処理鋼板を用いる部材の連結において、同様の導通構造を採用してよい。
【0040】
つまり、表面処理鋼板で形成される締結部材並びに被締結部材の少なくともいずれか一方において、これらを連結するネジが挿通される孔を規定する第1孔周縁部が、他方の孔を規定する第2孔周縁部に近づく方向に突出する突起を有していればよい。突起の突出寸法は、突起が対応する孔周縁部の絶縁皮膜を除去するのに十分なように、絶縁皮膜の厚み寸法よりも大きくすればよい。電子機器1の筐体2を構成する締結部材並びに被締結部材の導通を確実にとることができる。
【実施例2】
【0041】
図4は、本発明の他の導通構造を構成するカバー4の他の孔周縁部11aまたは11bを説明する図である。以下では、先の実施例と同一部分には同一の符号を付し、共通するシャーシ3ないしネジ6等については、説明および図示を省略する。
【0042】
具体的には、図4(a)または図4(b)に示す孔周縁部11aまたは11bは、いずれも表面処理鋼板で形成されるカバー4のネジ孔13を、その中央付近に内周方向に突出する複数箇所(3つ以上)の突起12とともに規定する。それぞれの突起12は、孔周縁部11からその先端がカバー4の厚み方向において、一方の面から他方の面であってシャーシ3に近づくように突出して切り起こされる。
【0043】
図4(a)の場合には、孔周縁部11aは、その中央付近に内周方向に突出する3箇所の突起12により、ネジ6の軸部8が挿通する中心部14から外周方向に延びる3箇所の切欠15を含んで、3つ又状のネジ孔13を規定する。3つ以上の複数の切欠15を含むネジ孔13を設ければ、3つの突起12が、対応する他方の孔周縁部の絶縁皮膜を除去するようにできるので、導通をとることができる。
【0044】
同様に、図4(b)の場合には、孔周縁部11bは、その中央付近に内周方向に突出する5箇所の突起12により、ネジ6の軸部8が挿通する中心部14から外周方向に延びる5箇所の切欠15を含んで、略星状のネジ孔13を規定する。突起12の先端部分の尖り具合は、中心部14から外周方向に延びる切欠15の数が増えるほどに鋭くすることができる。もちろん、突起12の先端部分の形状は、尖った角部である場合に限らず、面取りされていてもよい。孔周縁部11の突起12は、シャーシ3の孔周縁部17の絶縁性の樹脂コート層を除去するのに足りる端部が露出していればよい。
【0045】
本実施例のように、カバー4またはシャーシ3の孔周縁部11に複数の突起12を設ける場合には、突起12の数は3つ以上であればよい。突起12の数が3つ以上であれば、孔周縁部11に複数の突起12を設ける表面処理鋼板に対してのプレス加工が容易になり、コスト増加を抑制することができる利点がある。もちろん、従来技術のようにネジ孔13と別個の位置に突起12を設ける場合に対しても、同様の利点がある。つまり、ネジ孔13とは別個の位置にさらに突起12を設ける必要が無く、ネジ孔13を設けると同時に導通のための突起12を設けることができる利点がある。
【0046】
また、本実施例においても、カバー4の孔周縁部11に設けられる突起12は、ネジ6のネジ頭7の下に隠れて、外観上に露出しない。したがって、突起12が外観に露出しないので筐体2の美観を損ねことがない利点があるのは、同様である。さらに、いずれの場合でも、複数の突起12によってネジ6の軸部8は、シャーシ3に対するカバー4の取り付け位置を、正確に精度を高めて固定することができる。したがって、電子機器1の筐体2の構造としても、精度を高くて美観に優れる筐体2を実現できる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の電子機器筐体の導通構造は、音声信号を増幅する増幅器等の映像音響機器のみならず、他の映像音響機器又は電子計算機等の電子機器の導通構造にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 電子機器
2 筐体
3 シャーシ
4 カバー
5 基板
6 ネジ
7 ネジ頭
8 軸部
10 導通構造
11、17 孔周縁部
12 突起
13、18 ネジ孔
14 中心部
15 切欠

図1
図2
図3
図4