【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の好ましい実施形態による電子機器1の筐体2の導通構造10を説明する図である。具体的には、
図1は、筐体2を構成するカバー4を取り外した状態でのシャーシ3を含む電子機器1の斜視図である。この電子機器1は、具体的には音声信号を増幅する増幅器を含むオーディオ機器であり、図示を分かりやすくするために、その全体構成と、基板5の上に構成される電子回路などの導通構造10の説明に不要な一部の構成の図示を省略している。
【0023】
シャーシ3は、電子機器1の筐体2の底面および側面の一部を構成する部材である。シャーシ3は、表面処理鋼板で形成されており、プレス加工により所定の位置に孔または切り起こしを設け、また、その全体を折り曲げて全体をコの字状になるように加工されている。シャーシ3は、基板5の上に構成される電子回路のアース電位と一致するように電気的に接続されて接地されている。シャーシ3は、電子機器1の筐体2を構成するにあたって、他の部材を取り付ける基礎的な部材であるので、プレス加工および折り曲げ加工には、寸法精度が求められる。
【0024】
同様に、カバー4は、電子機器1の筐体2の天面および側面を構成する部材である。カバー4も、表面処理鋼板で形成されており、プレス加工により所定の位置に孔または切り起こしが設けられ、また、その全体を折り曲げて全体をコの字状になるように加工されている。カバー4は、シャーシ3に設けられる複数のネジ孔に対して複数のネジ6により固定される。カバー4は、電子機器1の美観に影響を与える外観視される天面および側面を構成するので、取り付けの精度を高めてシャーシ3に対して固定する必要がある。
【0025】
本実施例の導通構造10は、基板5等を内部に含む電子機器1の筐体2において、複数のネジ6により連結されるシャーシ3およびカバー4を導通させる。金属製のシャーシ3およびカバー4が導通することにより、電子機器1の対静電気特性、対EMI特性、接地特性、等を改善することができる。シャーシ3およびカバー4は、複数のネジ6により連結されるので、導通構造10も同様に複数箇所に採用可能である。以下では、
図1に示す1カ所の導通構造10について説明する。
【0026】
シャーシ3には、厚みt=1.2mmの表面処理鋼板が用いられている。具体的には、この表面処理鋼板は、鋼板の両面に亜鉛メッキ層を有する亜鉛メッキ鋼板の両面に、さらに耐食性および潤滑性向上を図る表面クロメートフリー皮膜が形成されている。基材となる鋼板の厚みt0=1.2mmに対して、亜鉛メッキ層の厚みt1および表面クロメートフリー皮膜の厚みt2は、合わせて数μm程度であるものの、表面クロメートフリー皮膜は六価クロムを含まない樹脂コート層であるので、シャーシ3の表面は絶縁性の性質を有する。
【0027】
また、カバー4には、厚みt=0.8mmの表面処理鋼板が用いられている。具体的には、この表面処理鋼板は、鋼板の両面に亜鉛メッキ層を有する亜鉛メッキ鋼板の両面に、さらに耐食性および潤滑性向上を図る表面クロメートフリー皮膜が形成されている。基材となる鋼板の厚みt0=0.8mmに対して、亜鉛メッキ層の厚みt1および表面クロメートフリー皮膜の厚みt2は、合わせて数μm程度であるものの、表面クロメートフリー皮膜は六価クロムを含まない樹脂コート層であるので、カバー4の表面は絶縁性の性質を有する。
【0028】
図2および
図3は、本実施例の電子機器1の筐体2の導通構造10を説明する一部拡大図である。
図2は、シャーシ3およびカバー4がネジ6により連結される前の状態を模式的に説明する図であり、
図3は、連結された後の状態を模式的に説明する図である。
図2(b)および
図3(b)は、それぞれ
図2(a)並びに
図3(a)におけるA−A’断面図である。ただし、
図2(a)においては、ネジ6の図示を省略している。
【0029】
ネジ6は、ネジ呼び径M4x長さ8mmの金属製のタッピングネジであって、軸部8の直径が約3.8mmである。本実施例のネジ6のネジ頭7は、直径約8.0mmのナベ頭形状であるので、ネジ6の軸部8を挿通させるネジ孔13および18を規定する孔周縁部11または17は、少なくとも直径9.0mm程度のネジ頭7よりも大きい平面部分とするのが望ましい。
【0030】
シャーシ3には、ネジ6の軸部8を挿通させるネジ孔18を規定する孔周縁部17が設けられている。本実施例の孔周縁部17は、ネジ6の軸部8に対応する少なくとも直径3.6mmの円孔であるネジ孔18を規定する平面部分を有する。シャーシ3は、上記の通り表面処理鋼板が用いられているので、ネジ孔18を規定する孔周縁部17の表面は、亜鉛メッキ鋼板が露出することなく絶縁性の樹脂コート層に覆われている。なお、孔周縁部17が表面処理鋼板をプレス加工して形成されている場合には、孔周縁部17の端面には鋼板が露出する場合がある。
【0031】
カバー4には、ネジ6の軸部を挿通させるネジ孔13を規定する孔周縁部11が設けられている。カバー4は、上記の通り表面処理鋼板が用いられているので、ネジ孔13を規定する孔周縁部11の表面は、亜鉛メッキ鋼板が露出することなく絶縁性の樹脂コート層に覆われている。孔周縁部11は、ネジ6のネジ頭7に対応する少なくとも直径9.0mm程度の平面部分を有する。なお、孔周縁部11が表面処理鋼板をプレス加工して形成されている場合には、孔周縁部11の端面には鋼板が露出する場合がある。
【0032】
ただし、カバー4の孔周縁部11は、その中央付近に内周方向に突出する4箇所の突起12とともに、十字状のネジ孔13を規定する。つまり、ネジ孔13は、孔周縁部11から内周方向に突出する4箇所の突起12により、ネジ6の軸部8が挿通する中心部14から外周方向に延びる4箇所の切欠15を含んで規定される。本実施例では、切欠15の幅寸法は2.8mmであり、ネジ6の軸部8の直径寸法よりも小さく設定されている。
【0033】
カバー4の孔周縁部11の4箇所の突起12は、4箇所の切欠15を含むネジ孔13を形成するプレス加工の際に、孔周縁部11からその先端がカバー4の厚み方向において、一方の面から他方の面に突出するように切り起こされる。つまり、4箇所の突起12は、孔周縁部11の中心から直径4.0mmの寸法となる円形に対応するところを根元にして、その先端がシャーシ3に近づく方向に切り起こし加工されている。突起12は、その先端にほぼ直角の角部をもつので、切り起こし加工によってシャーシ3に近づくその先端部は、亜鉛メッキ鋼板によって形成された非常に鋭利な尖ったエッジ部分となる。本実施例では、切り起こし加工により孔周縁部11に設けられる突起12の表面処理鋼板の厚み方向の高さを規定する突出寸法hは、約0.3mmである。
【0034】
本実施例の筐体2を組み立てる場合には、シャーシ3およびカバー4を連結させるネジ6は、その軸部8をカバー4に設けられるネジ孔13に挿通させた状態で、シャーシ3に設けられるネジ孔18に螺合させられる。その結果、ネジ6を締め付けていくと、ネジ6のネジ頭7とシャーシ3の孔周縁部17とが、カバー4のネジ孔13を規定する孔周縁部11および突起12を挟み込むようになる。その結果、
図3に示すように、シャーシ3およびカバー4がネジ6により連結される。
【0035】
この状態では、カバー4の孔周縁部11に設けられる突起12の突出寸法hが、シャーシ3の絶縁性の樹脂コート層の厚み寸法よりも大きいので、鋭利な尖ったエッジ部分である突起12の先端部は、比較的に柔らかい樹脂コート層に食い込むことになる。ネジ6をシャーシ3に設けられるネジ孔18に螺合させる際には、非常に強い力が働くので、カバー4の突起12の先端部は、シャーシ3の孔周縁部17の絶縁性の樹脂コート層を除去してしまう。したがって、本実施例の導通構造10では、絶縁皮膜が除去された状態でシャーシ3の鋼板とカバー4の鋼板とが接触する状態になり、電子機器1の筐体2の導通を確実にとることができる。
【0036】
本実施例のように、カバー4の孔周縁部11に突起12を設けると、従来技術のようにネジ孔13と別個の位置に突起12を設ける場合に対して、利点が多い。つまり、ネジ孔13とは別個の位置にさらに突起12を設けると、カバー4の製造する金型が複雑になり、コストの増加原因になる。しかし、このような場合に比べてカバー4の孔周縁部11に突起12を設けると、ネジ孔13を設ける公邸と同時にできるので、コスト増加要因にすることなく、導通のための突起12を設けることができる利点がある。
【0037】
また、この状態では、カバー4の孔周縁部11に設けられる突起12は、ネジ6のネジ頭7の下に隠れて、外観上に露出しない。したがって、カバー4の孔周縁部11に突起12を設けると、別個に突起を設ける場合に比べてコスト増加要因にならず、かつ、突起が外観に露出しないので筐体2の美観を損ねことがない利点がある。
【0038】
さらに、カバー4のネジ孔13は、孔周縁部11から内周方向に突出する4箇所の突起12が、幅寸法が2.8mmである切欠15を規定しているので、その中心部14には、ネジ6の軸部8を寸法的な遊びを少なくして挿通させることができる。つまり、ネジ6の軸部8は、シャーシ3に対するカバー4の取り付け位置を、正確に精度を高めて固定することができる利点がある。また、この設定値は求められる精度により調整することができる。したがって、電子機器1の筐体2の構造としても、精度を高くて美観に優れる筐体2を実現できる利点がある。
【0039】
なお、本実施例では、カバー4の孔周縁部11に突起12を設けているが、カバー4の孔周縁部11に突起12を設けずに、シャーシ3の孔周縁部17にカバー4に近づく方向にその先端部が尖るような突起を切り起こして設けてもよい。また、電子機器1の筐体2を構成するシャーシ3およびカバー4以外の表面処理鋼板を用いる部材の連結において、同様の導通構造を採用してよい。
【0040】
つまり、表面処理鋼板で形成される締結部材並びに被締結部材の少なくともいずれか一方において、これらを連結するネジが挿通される孔を規定する第1孔周縁部が、他方の孔を規定する第2孔周縁部に近づく方向に突出する突起を有していればよい。突起の突出寸法は、突起が対応する孔周縁部の絶縁皮膜を除去するのに十分なように、絶縁皮膜の厚み寸法よりも大きくすればよい。電子機器1の筐体2を構成する締結部材並びに被締結部材の導通を確実にとることができる。
【実施例2】
【0041】
図4は、本発明の他の導通構造を構成するカバー4の他の孔周縁部11aまたは11bを説明する図である。以下では、先の実施例と同一部分には同一の符号を付し、共通するシャーシ3ないしネジ6等については、説明および図示を省略する。
【0042】
具体的には、
図4(a)または
図4(b)に示す孔周縁部11aまたは11bは、いずれも表面処理鋼板で形成されるカバー4のネジ孔13を、その中央付近に内周方向に突出する複数箇所(3つ以上)の突起12とともに規定する。それぞれの突起12は、孔周縁部11からその先端がカバー4の厚み方向において、一方の面から他方の面であってシャーシ3に近づくように突出して切り起こされる。
【0043】
図4(a)の場合には、孔周縁部11aは、その中央付近に内周方向に突出する3箇所の突起12により、ネジ6の軸部8が挿通する中心部14から外周方向に延びる3箇所の切欠15を含んで、3つ又状のネジ孔13を規定する。3つ以上の複数の切欠15を含むネジ孔13を設ければ、3つの突起12が、対応する他方の孔周縁部の絶縁皮膜を除去するようにできるので、導通をとることができる。
【0044】
同様に、
図4(b)の場合には、孔周縁部11bは、その中央付近に内周方向に突出する5箇所の突起12により、ネジ6の軸部8が挿通する中心部14から外周方向に延びる5箇所の切欠15を含んで、略星状のネジ孔13を規定する。突起12の先端部分の尖り具合は、中心部14から外周方向に延びる切欠15の数が増えるほどに鋭くすることができる。もちろん、突起12の先端部分の形状は、尖った角部である場合に限らず、面取りされていてもよい。孔周縁部11の突起12は、シャーシ3の孔周縁部17の絶縁性の樹脂コート層を除去するのに足りる端部が露出していればよい。
【0045】
本実施例のように、カバー4またはシャーシ3の孔周縁部11に複数の突起12を設ける場合には、突起12の数は3つ以上であればよい。突起12の数が3つ以上であれば、孔周縁部11に複数の突起12を設ける表面処理鋼板に対してのプレス加工が容易になり、コスト増加を抑制することができる利点がある。もちろん、従来技術のようにネジ孔13と別個の位置に突起12を設ける場合に対しても、同様の利点がある。つまり、ネジ孔13とは別個の位置にさらに突起12を設ける必要が無く、ネジ孔13を設けると同時に導通のための突起12を設けることができる利点がある。
【0046】
また、本実施例においても、カバー4の孔周縁部11に設けられる突起12は、ネジ6のネジ頭7の下に隠れて、外観上に露出しない。したがって、突起12が外観に露出しないので筐体2の美観を損ねことがない利点があるのは、同様である。さらに、いずれの場合でも、複数の突起12によってネジ6の軸部8は、シャーシ3に対するカバー4の取り付け位置を、正確に精度を高めて固定することができる。したがって、電子機器1の筐体2の構造としても、精度を高くて美観に優れる筐体2を実現できる利点がある。