特許第6898797号(P6898797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6898797
(24)【登録日】2021年6月15日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】真空吸着装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/677 20060101AFI20210628BHJP
   B65G 49/07 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   H01L21/68 B
   B65G49/07 G
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-134598(P2017-134598)
(22)【出願日】2017年7月10日
(65)【公開番号】特開2019-16735(P2019-16735A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北林 徹夫
(72)【発明者】
【氏名】下嶋 浩正
(72)【発明者】
【氏名】赤間 大樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敏彦
【審査官】 鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−211098(JP,A)
【文献】 特開2006−332418(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/129599(WO,A1)
【文献】 特開2010−183090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/677
B65G 49/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面、裏面、前記表面及び前記裏面を連通させる連通孔、を有する基材と、
前記基材の表面上に配置された溶射膜と、を備える真空吸着装置であって、
前記連通孔の表面側の開口部には、該開口部を少なくとも部分的に塞ぐように多孔質体が配置され、
前記多孔質体の表面上には前記溶射膜が配置されており、
前記溶射膜は前記連通孔上に少なくとも位置していることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空吸着装置であって、
前記連通孔の前記基材の表面側には、前記連通孔の径よりも大径の座ぐり部が設けられ、
前記座ぐり部には、前記連通孔よりも大径の前記多孔質体が配置されていることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の真空吸着装置であって、
前記多孔質体の表面は、前記基材の表面と略面一であることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の真空吸着装置であって、
前記多孔質体は、気孔径5〜50μmであり、
前記多孔質体には、前記連通孔に連通する直径0.2mm以下の貫通孔が設けられていることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項5】
表面、裏面、前記表面及び前記裏面を連通させる連通孔、を有する基材と、
前記表面上に配置された溶射膜とを備える真空吸着装置であって、
前記連通孔の表面側の開口部の直径は溶射膜の厚みの2/3以下であり、かつ溶射膜の厚みは600μm以下であり、
前記溶射膜は前記連通孔上に少なくとも位置していることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項6】
請求項5に記載の真空吸着装置であって、
前記基材の前記連通孔の表面側の開口部は、直径0.2mm以下であることを特徴とする真空吸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に半導体製造装置及び半導体ウェハの加工装置などに用いられ、ウェハなどを吸着保持する真空吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス焼結体からなる吸着部材を、基材に接着して構成される真空吸着装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この真空吸着装置は、吸着面の平坦度を向上させるべく、吸着部材を気孔径30〜150μm程度の多孔質セラミックスにより形成し、基材を緻密質セラミックスにより形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−69557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
真空吸着装置では、ウェハなどの基板を保持した状態で搬送したりするため、慣性を小さくすべく薄型化が求められている。そこで、従来のセラミックス焼結体からなる吸着部材に代えて、基材上に溶射膜を配置することが考えられる。しかしながら、基材には吸着用の連通孔が設けられているため、連通孔上の溶射膜が窪んだり孔が開いたりして、連通孔上に溶射膜を適切に配置することができず、溶射膜の平坦度を真空吸着に適切なものとすることができない問題がある。
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、吸着部材を溶射膜で構成しても平坦度を適切に維持することができる真空吸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、
表面(例えば、実施形態の表面2a。以下同一。)、裏面(例えば、実施形態の裏面2b。以下同一。)、前記表面及び前記裏面を連通させる連通孔(例えば、実施形態の連通孔4。以下同一。)、を有する基材(例えば、実施形態の基材2。以下同一。)と、
前記基材の表面上に配置された溶射膜(例えば、実施形態の溶射膜3。以下同一。)と、を備える真空吸着装置(例えば、実施形態の真空吸着装置1。以下同一。)であって、
前記連通孔の表面側の開口部(例えば、実施形態の座ぐり部5。以下同一。)には、該開口部を少なくとも部分的に塞ぐように多孔質体(例えば、実施形態の多孔質体6。以下同一。)が配置され、
前記多孔質体の表面(例えば、実施形態の表面6a。以下同一。)上には前記溶射膜が配置されており、
前記溶射膜は前記連通孔上に少なくとも位置していることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、連通孔を多孔質体で少なくとも部分的に塞いでいるため、連通孔上の溶射膜を多孔質体で支えることができる。これにより、連通孔の開口部上に位置する溶射膜の部分が連通孔内に入り込んで大きく窪むことを防止し、溶射膜で吸着部材を構成した薄型の真空吸着装置の平坦度を向上させることができる。
また、連通孔上の溶射膜を多孔質体で支えているため、連通孔からのガスの吸引力も適切に維持することができる。
【0008】
[2]また、本発明においては、
前記連通孔の前記基材の表面側には、前記連通孔の径よりも大径の座ぐり部(例えば、実施形態の座ぐり部5。以下同一。)が設けられ、前記座ぐり部には、前記連通孔よりも大径の前記多孔質体が配置されていることが好ましい。
【0009】
かかる構成によれば、連通孔に対して吸着力が作用する領域を広く確保することができ、吸引力を適切に分布させることができる。
【0010】
[3]また、本発明においては、前記多孔質体の表面は、前記基材の表面と略面一であることが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、真空吸着装置の表面の平坦度を高く保持することができる。なお、本願において「略面一」とは、「面一」及び「ほぼ面一」を含むものとし、多孔質体の表面と基材の表面との段差が±10μm以内であることを意味する。
【0012】
[4]また、本発明においては、前記多孔質体は、気孔径5〜50μmであり、前記多孔質体には、前記連通孔に連通する直径0.2mm以下の貫通孔(例えば、実施形態の貫通孔7。以下同一。)が設けられていることが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、真空吸着装置の平坦度を適切に保つことができる。
【0014】
[5]また、本発明は、表面、裏面、前記表面及び前記裏面を連通させる連通孔、を有する基材と、前記表面上に配置された溶射膜とを備える真空吸着装置であって、前記連通孔の表面側の開口部の直径は溶射膜の厚みの2/3以下であり、かつ溶射膜の厚みは600μm以下であり、前記溶射膜は前記連通孔上に少なくとも位置していることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、溶射膜の厚さに対して連通孔の直径が十分に小さいため、溶射膜が窪んだり孔が開いたりすることを防止することができ、適切な平坦度を保つことができる。
【0016】
[6]また、本発明においては、前記基材の前記連通孔の表面側の開口部は、直径0.2mm以下であることが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、溶射膜の適切な平坦度を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態の真空吸着装置の一部を断面で示す説明図。
図2】第1実施形態の真空吸着装置を模式的に示す平面図。
図3】第1実施形態の他の実施例の真空吸着装置の一部を断面で示す説明図。
図4】第1実施形態の他の実施例の真空吸着装置を模式的に示す平面図。
図5】第2実施形態の真空吸着装置の基材を模式的に示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の真空吸着装置の実施形態について図を参照して説明する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態の真空吸着装置1の一部を断面で示している。図2は第1実施形態の真空吸着装置を模式的に示す平面図である。第1実施形態の真空吸着装置1は、表面2a及び裏面2bを有する円盤形状の基材2と、基材2の表面2a上に配置された溶射膜3とを備える。
【0021】
本実施形態においては、基材2はアルミニウム合金(例えば、A6061。)製で厚さを5mmに設定している。また、溶射膜3は、アルミナ原料顆粒(D50=25μm)をプラズマ溶射して形成している。
【0022】
プラズマ溶射の条件は、以下の製造条件により気孔率を調整するようにパラメータを適宜選択した。なお、溶射はプラズマ溶射に限らず、他の溶射であってもよい。例えば、酸素と燃料を使用した高速度ジェットフレームの溶射であるHVOF(High Velocity Oxygen Fuel)溶射であってもよい。
【0023】
プラズマ溶射装置:エアロプラズマ製APS−7100
作動ガス:Ar、O2
スキャン速度:100〜1000m/s
溶射距離:80mm
溶射速度:150〜330m/s
電流:80〜110A
電圧:240〜280V
電力:19〜31kW。
【0024】
本実施形態においては、溶射後に溶射膜3を表面が平坦となるように研削加工し、厚さ150μm〜300μmとした。その後、真空吸着装置1の総厚が1mmとなるように基材2を切削加工した。
【0025】
基材2は、表面2a及び裏面2bを連通させる連通孔4を備える。連通孔4の基材2の表面2a側には、連通孔4の径よりも大径の座ぐり部5が設けられている。座ぐり部5は円盤形状で底面を備える。連通孔4の上端は、座ぐり部5の底面に開口している。なお、本実施形態においては、連通孔4を座ぐり部5の底面の中央に開口させているが、本発明の真空吸着装置はこれに限らない。例えば、連通孔4は、座ぐり部5の底面に偏心させて開口させてもよい。
座ぐり部5には、連通孔4の表面2a側の開口部を少なくとも一部塞ぐようにして、連通孔4よりも大径の多孔質体6が圧入又は配置されている。これにより、連通孔4に対して吸着力が作用する領域を広く確保することができ、吸引力を適切に分布させることができる。
【0026】
本実施形態の多孔質体6は、気孔率30%、平均粒子径10μmの多孔質体を1600度で焼成した酸化アルミニウム多孔質体で構成されている。
【0027】
多孔質体6は表面6aを備え、この表面6aは、基材2の表面2aと略面一となるように設定(加工)されている。これにより、真空吸着装置1の表面の平坦度を高く保持することができる。
【0028】
ここで、実施形態において「略面一」とは、「面一」及び「ほぼ面一」を含むものとし、「ほぼ面一」とは、「面一」と見なせる程度の差しかないものを指し、本実施形態においては、例えば多孔質体6の表面6aと基材2の表面2aとの段差が±10μm以内を指すものとする。なお、本発明の真空吸着装置は、多孔質体の表面と基材の表面とが略面一となっていなくても、多孔質体によって溶射膜を支えて平坦度を向上させることができるという本発明の作用効果を得ることができる。
【0029】
多孔質体6は、気孔径5〜50μmであり、連通孔4の直径0.2mm以下の貫通孔7が設けられている。これにより、ガスを更に十分に吸引することができる。なお、貫通孔7は省略してもよい。
【0030】
[評価方法]
作成した真空吸着装置1は表面2a側にシリコンウェハを載置し、裏面2b側から排気設備(例えば、真空ポンプ)を接続して排気を行い、排気時に排気設備に流入する気体流量を測定した。
【0031】
従来のセラミック多孔質体(ポーラス体)の真空吸着装置が1200sccmの流量であり、この値を上限として、これより小さい値を合格と判断した。なお、下限値は1sccmとした。製作した真空吸着装置の評価結果は表1に示す
【0032】
【表1】
【0033】
[ウェハのスクラッチ評価]
ウェハの裏面のキズの評価としてシリコンウェハを真空吸着及び大気解放後、ウェハ裏面のスクラッチの評価を行った。評価基準は、JIS H0614に準拠した。
【0034】
評価方法は、蛍光灯を光源とし、ウェハ表面の照度を1000〜2000lxとして、ウェハを移動しながらウェハ全面の検査を行った。
【0035】
判定基準は、マイクロスクラッチ(表面に生じた蛍光灯下で目視可能な線状の深い傷)について累計長がウェハ直径の1/4以下であるものを合格とし、1/4を超えるものを不合格とした。
【0036】
連通孔4の表面2a側の開口部の直径は、溶射膜3の厚さの2/3以下であり且つ600μm以下に設定されている。
【0037】
表1の実施例1〜6は、アルミニウム製の厚さ5mmの基材2に直径2mmの連通孔4を複数設け、連通孔4の上部に多孔質体6を圧入した。そして、基材2及び多孔質体6の表面に酸化アルミニウムの溶射膜3を施工した。溶射膜3の厚さは表1のとおりである。なお、比較例1は、従来の真空吸着装置であり、溶射膜を備えておらず、溶射膜の代わりに、セラミックス焼結体からなる吸着部材が基材2の表面2aに接着されている。従って、比較例1においては、表1の溶射膜の厚さの欄に吸着部材の厚さ10000μmを記載した。また、実施例1〜6の連通孔4の配置は、図2のとおりである。
【0038】
実施例7は、実施例4の多孔質体6に直径0.2mmの貫通孔7を設けて基材2の連通孔4と連通させている点を除き実施例4と同一条件で酸化アルミニウムの溶射膜3を施工した。換言すれば、実施例1〜6では、貫通孔7は設けられていない。
【0039】
実施例1〜7では、真空吸着力が発現し真空吸着装置として機能することが確認された。またウェハへの傷も合格基準をクリアするとともに、傷が抑制されていることも確認された。特に実施例7では、真空吸着力が更に短時間で発現し真空吸着装置として機能することが確認された。
【0040】
実施例8では、図3に一部を模式的に断面で示すように、アルミニウム製で厚さ5mmの基材2に直径0.2mmの連通孔4を複数設け、その上に直接酸化アルミニウムの溶射膜3を厚さ500μmで形成した。その後、溶射膜3を研削加工して、酸化アルミニウム製の溶射膜3が所定の厚さ(300μm)となるようにし、アルミニウム製の基材2を切削加工して、真空吸着装置1の厚さ(総厚)が1mmとなるようにしている。連通孔4の配置は図4に示すとおりである。
【0041】
連通孔4には、溶射膜3の一部が入り込むが、直径が0.2mm以下であれば、連通孔4上の溶射膜3で孔が開くことや窪みがみられることはなかった。
【0042】
比較例2として、連通孔4の直径を0.3mmとし、他は実施例8と同一の真空吸着装置を作成したが、連通孔4の直上の溶射膜に孔又は窪みが確認され、基材2の表面2a全体を溶射膜3で覆うことができず、又は適切な平坦度を得られなかった。従って、連通孔4の直径は、溶射膜3の厚さの2/3以下とすることにより、溶射膜3に孔が開くことを防止できる。
【0043】
実施例9は、アルミニウム製で厚さ5mmの基材2に直径0.4mmの連通孔4を複数設け、その上に直接酸化アルミニウムの溶射膜3を1000μmで形成した。その後、溶射膜3を研削加工し、酸化アルミニウムの溶射膜3を所定の厚み(600μm)となるようにし、アルミニウム製の基材を切削加工して、真空吸着装置1の厚さ(総厚)を1.5mmとした。その結果、実施例9でも、真空吸着力が発現して正常に機能することが確認され、またウェハへの傷も抑制されることが確認された。なお、連通孔4の直径は、溶射膜3の厚さの2/3以下とすることにより、溶射膜3に孔が開くことを防止できる。従って、実施例9においては、連通孔4の直径は、0.4mm以下であればよい。
【0044】
本実施形態の真空吸着装置1によれば、溶射膜3を用いることにより従来よりも薄い真空吸着装置1を製造することができる。また、連通孔4を多孔質体6で塞いでいるため、溶射膜3が連通孔4によって大きく窪むことを防止し、真空吸着装置の平坦度を高く保持することができる。また、ガスを十分に吸引することができ、且つ、基材2の表面2aに、溶射膜3を適切に配置することができる。
【0045】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態の真空吸着装置1の基材2を模式的に示す平面図である。第2実施形態の基材は、図示省略した直径0.2mmの連通孔と連通する溝部8が設けられている。溝部8は、幅0.2mmに設定されている。他の構成は、第1実施形態の実施例8と同一である。
【0046】
第2実施形態の真空吸着装置1によっても、第1実施形態のものと同様に、溶射膜3を用いることにより従来よりも薄い真空吸着装置1を製造することができる。また、ガスを十分に吸引することができ、且つ、基材2の表面2aに、溶射膜3を適切に配置することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…真空吸着装置、 2…基材、 2a…表面、 2b…裏面、 3…溶射膜、 4…連通孔、 5…座ぐり部、 6…多孔質体、 6a…表面、 7…貫通孔、 8…溝部。
図1
図2
図3
図4
図5