【文献】
B. Louis et al.,Airway Area by Acoustic Reflection: The Two-Microphone Method,Journal of Biomechanical Engineering,1993年 8月,vol.115, no.3,p.278-285
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記音響センサ配列は、前記第1の位置に位置決められる第1の音響センサ、及び前記第2の位置に位置決められる第2の音響センサを有する、請求項1に記載のシステム。
前記通路はチューブを有し、前記第1の音響センサ及び前記第2の音響センサは、前記チューブに沿った前記第1の位置及び前記第2の位置に位置決められ、前記チューブは、ユーザの口及び/又は鼻で終端している第1の端部を有する、請求項2に記載のシステム。
前記音響伝達関数を導出する処理を行う前に、前記第1の位置及び前記第2の位置における前記音響センサ配列の出力を処理するためのフーリエ変換処理構成を有する、並びに前記音響伝達関数を導出する処理を行う前に、フーリエ変換された信号を平均化するための平均化構成をさらに有する、請求項1に記載のシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、呼吸低下事象(呼吸の中断ではなく浅呼吸事象)の場合、一般に40%未満の気流の減少がある。PAPシステムは、中枢性の呼吸低下事象と閉塞性の呼吸低下事象とを区別することができない。両方の場合において、気道は依然として少なくとも一部が開いているので、圧力パルスが気流の増大につながる。中枢性の呼吸低下の場合、気流の減少は、神経筋の呼吸ドライブの減少により生じるのに対し、閉塞性の呼吸低下の場合、減少は、気道の狭窄により生じ、これは、上気道抵抗の増大につながる。
【0007】
閉塞性の呼吸低下の場合、CPAP圧力の増大は、気道開存性を達成するのに有益である。中枢性の呼吸低下の場合、圧力の増大は、気流を増大させず、まさに反対を示す、つまり、不要な圧力の増大は、不快につながり、ユーザがシステムを使用する遵守を低下させる。
【0008】
現在のPAPシステムは、呼吸ドライブも気道抵抗も測定することができない。しかしながら、(上気道及び肺も対象として含む)呼吸器系全体の抵抗は、強制オシレーション法(FOT)を使用することにより測定されることができる。FOT技術は、低周波数の正弦波励起(通例1ミリバール)により気道内の圧力を調節する。使用される周波数は20Hz未満である。周波数領域におけるそのような解析は、肺、咽頭及び上気道の全体的な抵抗を単に決定しているだけで、その抵抗の変化を引き起こす上気道のセグメントを位置特定するための、時間領域の空間情報を提供していない。
【0009】
FOTシステムは通例、どちらかと言うと不格好で、例えば大きなスピーカのような、かさばって扱い難い装置を必要とするので、家での使用には適さない。
【0010】
従って、現在のPAPシステムが呼吸低下は上気道の狭窄による又は呼吸ドライブの減少により生じているかを判断することができないという第1の問題がある。
【0011】
幾人かの患者は、その閉塞特性が原因により、PAP治療にあまり適応していない。結果として、ますます多くの患者は代替の治療を探し、これは特に軽度から中程度のOSAで苦しんでいる患者である。
【0012】
OSAの病態生理学は、それがしばしば解剖学的及び神経筋の機能障害の相互作用に起因しているので、複雑である。PAP治療の能力は、病態生理学な要因に関係なく、上気道の全ての崩壊レベルを治療する及び故に全てのOSA患者に有効なことである。多くの治療の代替案が患者の受け入れが高くても、これら代替案は、上気道の特定のレベルを治療するだけである。これは、これらの代替案の適用がOSA亜集団に制限される。
【0013】
PAP治療の代替案が同時に上気道の全てのレベルを治療できないことは、最適な臨床結果を補償するために、患者の選択がこれらの代替案の鍵となる結果をもたらす。これは、PAPの代替案の対象である患者がOSAの原因をより深く学ぶ必要がある。
【0014】
他の呼吸状態、例えば慢性閉塞性肺疾患(COPD)で苦しんでいる多くの患者は、例えば肺から息を吐き出すことが難しいような、呼吸器症状で苦しんでいる。これらの症状をモニタリングするために上述したFOTを使用することが知られている。
【0015】
上気道を評価するための音響技術が当該技術分野において知られていて、フード研究所の"the pharyngometer of Eccovision, and the Rhinometry system"が例である。
【0016】
米国特許第8424527号は、加えられた気道圧の下で気道の狭窄を研究するため、音響トランスデューサPAPマスクに組み込まれたシステムを開示している。単一のセンサは、マイク及び音源として機能する。米国特許出願公開第2013/0046181号は、気道の狭窄を撮像するために音響パルスを用いる、患者が首の周りに着用する襟を開示している。これらの例は、上気道特性を解決するため、音響の実行可能性を実証している。これらの例は、スピーカ/トランスデューサにより供給されるアクティブ音源の散乱音を解析するという共通点を持つ。
【0017】
従って、適切な非PAP治療が選択されるのを可能にするために使用されるような、気道の解析及び診断システムは、主にこれらシステムが通常の睡眠中での使用に適さないため、測定手法において邪魔であるという第2の問題がある。例えば、ユーザの邪魔をする音を鳴らすことは望ましくなく、システムは、ユーザに対し最小限の邪魔である必要がある。
【0018】
さらに、幾つかの状態に対し、特に吸気中又は呼気中の気道のモニタリングは、特に関心のある診断である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、特許請求の範囲により規定される。
【0020】
本発明によれば、上気道を解析するシステムを提供し、このシステムは、
ユーザの気道と連通する通路、
前記通路に対して第1の位置及び第2の位置に位置決められた音響センサ配列、並びに
前記第1の位置及び前記第2の位置における音響センサ配列信号間の関係からパラメタを導出する処理器であり、前記パラメタは上気道の閉塞の存在に基づいて変化している、処理器
を有し、前記処理器は、前記解析するシステムの外部にあるノイズ源から受信した周囲ノイズ、及び前記ユーザにより生成されるノイズのみを有する音信号を処理し、第1の位置及び第2の位置における前記センサ配列の信号を用いて、吸気と呼気とを区別する。
【0021】
周囲ノイズが十分な音響レベルでない場合、先行技術のFOT装置とは対照的に前記システムをコンパクト及び計量にさせるために、必ずしもシステムに取り付けられる必要のない、外部音源が患者の近傍にあってもよい。システムは、気道の狭窄を検出することができ、これは診断情報として使用され得る。システムは、閉塞の位置及び任意で気道の狭窄の程度を検出するようにも配され得る。このように、狭窄している気道のレベルを突き止めること、及び任意で狭窄がどの様に生じるかをモニタリングすることも可能にする。気道特性は、センサにより取り込まれた信号の変化として現れる。少なくとも2つのセンサを使用することにより、上気道の動的特性及び呼吸気流の動態は、これらのセンサを通過して進む如何なる音に基づいて解決され得る。これは、特定の音源の必要性を回避するので、解析システムの外部にある音源が使用される。音響センサは、これらの外部の音を検出するのに使用され、これら外部の音は、ユーザにより生成されるノイズ、周囲音又は(例えばポンプのような)患者治療システムの部品により生成されるノイズを有する。システムは、スタンドアロン型の診断装置の一部とすることができる、又は例えばPAPシステムのような治療装置、若しくは流量計或いは肺活量計に組み込まれることができる。
【0022】
吸気と呼気とを区別することにより、追加の診断価値及び関連性の情報が得られてもよい。呼吸周期中の上気道抵抗の変化は臨床的な関連が大きい。例えば、COPD患者は通例、吸気よりも呼気がより難しいことを経験している。従って、この影響は、吸気及び呼気中の音響インピーダンスの変化を用いて、客観的なやり方で定量化され得る。
【0023】
音響センサ配列は、第1の位置に位置決められる第1の音響センサ、及び第2の位置に位置決められる第2の音響センサを有する。代替例は、1つのセンサが異なる時間に異なる位置で使用されることである。従って、"第1の位置及び第2の位置に位置決められる"センサ配列は、2つのセンサを持つことにより第1の位置及び第2の位置に静止して位置決められる、又は1つのセンサだけを使用して、前記2つの位置に動的に位置決められてもよい。"通路に対して"位置決めることは、(一端又は両端を含む)通路に沿った異なる位置を意味している。
【0024】
通路は、その中に気流が存在しているチャンバとすることができる。1つの例において、第1及び第2のセンサは、ユーザの口及び/又は鼻で終端する第1の端部を持つチューブ形式の通路に沿った第1の位置及び第2の位置に位置決められることができる。第2の例において、第1及び第2のセンサは、ユーザにガス流を送出するための(閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を治療するためにPAP治療において用いられる患者インタフェース)患者インタフェースの内側に患者の口及び/又は鼻を収容するための空間の内部に位置決められる。
【0025】
音響センサ配列は、音波により生じるフロー又は圧力を検出することができる如何なるセンサ配列とすることができる。例えば、他の圧力センサ又はフローセンサが使用されることができたとしても、前記センサはマイクを有する。
【0026】
ある例の組において、処理器は、センサ信号から音響伝達関数を導出し、この音響伝達関数から音響インピーダンス形式のパラメタを導出するように適応する。
【0027】
このシステムは、専用のアクティブ及び可聴音源を必要とする代わりに、気道の狭窄を検出するために、呼吸から生じるノイズ又は圧力治療装置により生み出される音を使用することができる。従って、通路に沿って進行する音は、システムの外部にあるノイズ源から受信される周囲ノイズ、及びユーザにより生成されるノイズのみを有することができる。閉塞は、気道の断面の変化及び/又は感知される閉塞を生じさせる気道セグメントのフロー抵抗の他の変化として現れる。
【0028】
システムは、ユーザの頭の直近にノイズ源を必要とすることを回避することにより、より邪魔にさせないことができる。代わりに、2つ又はそれ以上のセンサが、存在している周囲ノイズを測定するのに使用され、これにより、気道の入力音響インピーダンスを連続的に導出し、このことから、例えば夜間に(部分的な)崩壊が起きているかを決定できる。
【0029】
しかしながら、前記システムは、解析のための所望の周波数スペクトルを供給するための音源と共に使用されることができる。周囲音に加えて音源を使用することは、音源の強度が減る一方、所望の周波数範囲にわたり最小の信号強度を保証することを意味する。このオプションは、専用の音源を使用しない動作のモードに加えて、装置の追加の動作のモードとして与えられることができる。
【0030】
前記システムは、音響伝達関数を導出する処理を行う前に、第1及び第2のマイクの出力を処理するためのフーリエ変換処置構成を使用することができる。音響伝達関数を導出する処理を行う前に、フーリエ変換された信号を平均化するための平均化構成が使用される。好ましくは、音響インピーダンスは、周波数領域における複素インピーダンスとして得られる。この複素関数の形式は、例えばトレーニングデータベースの使用に基づいて、気道の閉塞を決定するために解釈されることができる。
【0031】
処理器はさらに、時間領域のインパルス応答を得て、気道の直径を距離の関数として導出するように適応される。
【0032】
通路は好ましくは、チューブを有し、このチューブは、真っ直ぐ、湾曲及び柔軟とすることができる。柔軟なチューブの場合、チューブは、発生する閉塞を最小限にするために、コイル状にする又は曲げられることができる。しかしながら、チューブ以外の形状的特徴がフローストリームを誘導するのに使用されることができる。例えば、別々に位置決められたセンサを持つマスクの形状は、解決されるのに十分な情報を可能にする。
【0033】
本発明はさらに、
患者の鼻及び/又は口にガスを送出するためのマスク、並びに
上気道を解析するための本発明のシステム
を有する患者インタフェース装置も提供する。
【0034】
例えばチューブのような通路に沿ってセンサが取り付けられるとき、この通路は前記マスクに接続している。
【0035】
解析システムは、無呼吸の種類の診断に使用するのに適したデータを供給することができる。代わりに、前記解析は、呼吸圧支持システムの一部としてリアルタイムで使用されることができる。この場合、本発明は、
加圧空気の供給源、
前記空気の圧力を制御するための圧力制御ユニット、及び
本発明の患者インタフェース装置
を有する呼吸支持圧システムを供給し、前記加圧空気は、センサを通過してユーザに供給され、及び空気の圧力は、検出される上気道の閉塞の存在(並びに好ましくは、そのような閉塞の位置及び程度)に基づいて制御される。
【0036】
本発明は、上気道を解析するための方法も提供し、この方法は、
ユーザの気道と連通する通路に対して、第1の位置及び第2の位置に音響センサ配列を設けるステップ、
解析システムの外部にあるノイズ源から受信される周囲ノイズ及びユーザにより生成されるノイズのみを有する音を検出するために、前記音響センサ配列を使用するステップ、
前記第1及び第2の位置における前記センサ配列信号間の関係からパラメタを導出するステップ、
上気道の閉塞の存在を検出するために前記パラメタを解釈するステップ、並びに
前記第1の位置及び前記第2の位置における前記センサ配列信号を用いて、吸気と呼気とを区別するステップ
を有する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
実施例は、ユーザの口及び/又は鼻に通じる流路に沿って少なくとも2つのセンサ位置が設けられる上気道を解析するためのシステムを提供している。これらの位置において受信したセンサ信号間の関係が導出され、この関係は、少なくとも上気道の閉塞の存在、並びに好ましくはこのような閉塞の位置及び/又は程度も検出するために解釈される。
【0039】
例は、診断ツールとして単独で用いられることができ、他の例はPAPシステムの制御を支援するのに用いられることができる。
【0040】
第1の例は、診断を目的に説明される。
【0042】
この例は、ユーザ4の口及び/又は鼻で終端している一端を備えるチューブ形式の通路2を使用している。この例は、ユーザの口に通じている前記流路を示す。
図1に示されていないが、前記一端は、口(及び/又は鼻)の周りで密封されている。
【0043】
第1の音響センサ10aは、前記一端から前記通路に沿って距離Xaにある第1の位置に位置決められ、第2の音響センサ10bは、前記一端から前記通路に沿って距離Xbにある第2の位置に位置決められる。前記通路の他端は開いているので、ユーザの呼吸する空気流は通路に沿って流れる。
【0044】
通路2は、この通路が他の構成要素に組み込まれた管であり得たとしても、チューブ形式とすることができ、故に、通路2は、必ずしも別個のチューブとして形成される必要はない。基本的に、前記センサは、流路に沿って置かれ、この流路は、通路内にあってもよいし又は他の幾何学的な構成要素によりもたらされてもよい。
【0045】
ある例において、音圧波又はこのような音圧波により生じる気流の向き及び速度の変化に反応する他の音響センサが使用されることができたとしても、センサ10a、10bはマイクを有する。音響センサという用語は故に、音圧波の特性又は効果を検出するセンサに関係していると理解されるべきである。
【0046】
前記通路の開いている端部は、環境音又はノイズが入ってくるのを可能にして、これがマイクにより検出される。
【0047】
人間の気道は、開いた管腔構造であり、音響信号を伝えるための導波路と考えることができる。この管腔構造が例えば上気道のセグメントを狭窄するように幾何学的特性を変える場合、システムの音響インピーダンスの変化の結果として、音響信号の伝達及び反射が変化する。この変化は、受信した音響信号のエネルギー密度スペクトルにおいて測定される。故に、気道抵抗の変化は、この関数の変化により表される。
【0048】
口又は鼻における(音圧と速度との比である)音響インピーダンスを決定するために、マイク10a及び10bにおける音響信号間の伝達関数が分からなければならず、チューブの音響特性は、口における音響インピーダンスが式
【数1】
を用いて決定されることを可能にする。
【0049】
ここでρ及びcは夫々、音の密度及び速度であり、kは、波数=ω/cであり、ここでωは、短時間フーリエ変換(STFT)の特性により定められる角周波数である。Xa及びXbは、
図1に示される距離である。
【0050】
源特性は、両方のマイク信号Ha及びHbに存在し、伝達関数Hab=Ha/Hbだけが必要とされるので、これら源特性は効率的にキャンセルされ、周囲音、さらに検査下にある被験者のいびきの音さえも含む如何なる音源が使用され得ることを意味している。このようにして、解析システムの外部にあるノイズ源から受信される周囲ノイズ、及びユーザにより生成される雑音だけを有する音信号が処理される。
【0051】
低レベルの環境音、特に夜間の場合、信号対ノイズ比を増大させるために、より長い期間にわたりマイク信号を平均化することが有利である。
【0052】
図2は、使用され得る信号処理を示す。
【0053】
最初に、処理器18は、フーリエ変換ユニット20a、20bを使用することにより、両方のマイク信号のフーリエ変換、例えばいわゆる短時間フーリエ変換を行うために使用される。平均化ユニット22a、22bによりある時間にわたる平均が得られる。
【0054】
前記処理器は、モジュール24により示されるような音響伝達関数Habを導出する。この伝達関数は、複素数値である。伝達関数は次いで、モジュール26において上記関係を用いて音響インピーダンスを計算するのに使用される。
【0055】
検出器28は、上気道の閉塞の存在及び位置を検出するために前記音響インピーダンスを解釈するために使用される。一般的に、検出器28のような検出器は、上気道の閉塞の存在、程度及び/又は位置を検出するために、導出されたパラメタを解釈するために使用される。その一方、診断アプリケーションに対しては、閉塞が存在しているかどうかを知るだけで十分であり、治療アプリケーションは、閉塞の位置及び/又は程度を必要とする。
【0056】
音響インピーダンスは、(この場合、周波数に対するインピーダンス値の)関数の形式のパラメタを形成し、単一の値を形成しない。"パラメタ"という用語はそれに応じて理解されるべきである。パラメタは、気道閉塞の存在及び位置の検出を可能にするために解釈される。
【0057】
このようして伝達関数を導出することは、ルーチン処理であり、"スペクトル推定器(spectrum estimator)"として知られている。伝達関数に加え、コヒーレンスもルーチンにより取得される。これは、伝達関数の周波数の関数として、前記信号対ノイズ比に対する尺度である。これは、例えば十分な信号対ノイズ比を持つ周波数のみを選択するために使用される。
【0058】
検出器28は例えば、管理学習(supervised learning)に基づく単純分類器とすることができる。システムは、開いた気道インピーダンス及び幾つかの既知の閉塞インピーダンスを用いてトレーニングされる。このトレーニング設定は次いで、実際の測定されたインピーダンスと比較される。現在の値に最も近いトレーニング設定から対応するスペクトルを選択することにより、閉塞が検出されることができる。この最も近い値は、例えば最小二乗マッピングのような如何なる近似法/マッピング法を用いて導出されることができる。
【0059】
複素インピーダンスは、周波数領域で得られるので、時間領域のインパルス応答も利用可能である。気道直径は、音響パルス反射率測定を用いて、距離の関数として計算されることができる。各直径の変化は、(時間及び振幅の両方における)それ自身の反射係数を生成する。前記反射と入射波との間の距離から、前記直径を距離の関数として再構成できるアルゴリズム(例えばWare-Aki法)が存在している。
【0060】
図3において、開いている口から3つの異なる距離における閉塞に対する簡略化した咽頭モデルのプロトタイプを用いて測定された3つの複素インピーダンス曲線が示される。このグラフは、検出され得る大きな差異を明確に示している。
図3は、周波数に対する音響インピーダンスを描いている。
【0061】
例として、マイクは、19mmの内径のチューブにおいて、6cm離して取り付けられる。チューブは、治療システムのマスク又は顔キャップの上に取り付けられる。通路は、チューブとして実施されるとき、直線である必要はなく、特に必要な間隔は例えば1cmから20cmの範囲にあるので、例えばチューブがマスクに嵌合し得るように簡単に折り畳まれる又は巻かれることができる。
【0062】
システムは、(鼻腔の解析のための)鼻腔計(rhinometer)として使用されることができ、通例は鼻孔と同様の直径を持つ細いチューブが例えば被験者の頬の上で折り畳まれ、例えば鼻枕に組み込まれる。
【0063】
説明されるシステムは、ユーザの気道、特に閉塞の位置に関する情報を得るためのモニタリング装置として使用され、これは患者が手術、インプラント又は口腔装置のようなCPAP治療の代替手段に適しているかを決定するための、診断目的に使用される。このモニタリングは、睡眠学習の一部として、閉塞性睡眠時無呼吸の患者に対し家で行われることができる。無呼吸又は呼吸低下事象の各々に対し、各気道セグメントにおける気道抵抗の変化が計算され得るので、睡眠専門医が閉塞の主要な一因である気道セグメントを決定することができる。
【0064】
本発明は、圧力バーストが適用されるべきかどうかに関し、正しい決定が行われ得るように、例えば呼吸低下の種類を決定するための呼吸圧支持システム、例えばCPAP又はAPAPシステムの一部として使用する。実際に、現在のPAPシステムの1つの問題は、上気道の狭窄により引き起こされる、又は呼吸ドライブの減少により低呼吸が引き起こされるかを決定できないことである。測定システムは、自動PAP(APAP)システムにおける圧力滴定を改善するのに使用されることができる。
【0065】
現在のAPAPシステムは単に、少なくとも40%のフローの大幅な減少が検出されるとき、圧力パルスを送るだけである。上述されるモニタリングシステムは、各呼吸周期において気道抵抗の変化を恒久的にモニタリング及び計算することが可能であり、気道抵抗がある呼吸サイクルから次の呼吸サイクルまでに変化するとき、それに応じて圧力を増大又は減少させてもよい。このようにして、APAPシステムは、気道開存性の変化により早く応答し、圧力パルスを用いた治療に適しているかを決定することができる。
【0066】
図4は、患者に呼吸療法を施すための一般的なシステムを示す。
【0067】
システム30は、圧力発生装置32、解析システムの通路としても機能し、エルボーコネクタ34に結合される送出導管2、及び患者インタフェース装置36を含む。圧力発生装置32は、呼吸ガス流を発生させるように構成され、限定しないが、ベンチレータ、定圧支持装置(例えば持続的気道陽圧装置、すなわちCPAP装置)、可変圧力装置及び自動滴定圧支持装置を含む。
【0068】
送出導管2は、圧力発生装置32からエルボーコネクタ34を通り患者インタフェース装置36に呼吸ガス流を伝える。送出導管2、エルボーコネクタ34及び患者インタフェース装置36はしばしばまとめて患者回路と呼ばれる。
【0069】
患者インタフェース装置は、シェル40及びクッション42の形式であるマスク38を含み、例示的な実施例において鼻及び口マスクである。しかしながら、患者の気道に呼吸ガス流を送出することを容易にする如何なる種類のマスク、例えば鼻マスク、鼻枕/クッション又はフルフェイスマスクがマスクとして使用されてもよい。クッション42は、柔らかい、柔軟な材料、例えば限定しないが、シリコーン、適切な柔らかい熱可塑性エラストマ、独立気泡フォーム又は上記材料の如何なる組み合わせから作られる。
【0070】
そこにエルボーコネクタ34が結合されるシェル40における開口は、圧力発生装置32からの呼吸ガス流がシェル40及びクッション42により定められる内部空間に伝えられ、次いで患者の気道に伝えられることを可能にする。
【0071】
患者インタフェース組立体36は、説明される実施例において二点式のヘッドギアであるヘッドギア構成要素44も含む。ヘッドギア構成要素44は、第1及び第2のストラップ46を含み、これらストラップの各々は、患者の耳より上の患者の顔の側面に位置決められるように構成される。
【0072】
患者インタフェース組立体は、接触領域を増大させることにより患者の顔にかかる力を減らすための額パッド(図示せず)を付加的に含むことができる。
【0073】
圧力発生装置32は、圧力制御装置46により制御される。これは、モジュール48及び送出導管2に沿って置かれる関連付けられたセンサ10a、10bにより表される上述したモニタリングシステムからの入力を受信する。
【0074】
マイクを使用している幾つかの例において、追加の音源は必要ない。例えば、気道音響インピーダンスを測定するための音響信号は、環境からのノイズ又は治療装置におけるファンからの固有のノイズとすることができる。しかしながら、音源の使用は、より信頼できる結果、例えば疑似ランダムノイズ信号又は時間領域のパルス刺激を与える。このように、幅広いスペクトル音源が提供されることができる。このオプションは、専用の音源を使用しない動作モードに加え、より正確な結果を可能にするために、装置の追加の動作モードとして提供されることができる。
【0075】
信号処理は、上に説明したようにSTFTを使用する。他の既知の信号処理技術、例えば時間領域の反射率測定法又は他のフーリエ変換、例えば高速フーリエ変換が使用されることができる。
【0076】
上記の例において、閉塞位置の検出は、複素インピーダンス関数を(周波数に関して)トレーニングデータと照合(matching)することに基づいている。他の手法が用いられてもよい。例えば、インピーダンス関数は、関数形状を示す異なる測定基準(metric)を導出するためにさらに処理されることができ、これは次いで、ルックアップテーブルに記憶されるデータと比較される。異なる測定基準は次いで、気道閉塞の存在及び位置を決定するために解析される"パラメタ"を形成する。従って、インピーダンス関数とトレーニング値との直接的な比較は、必須ではなく、データの評価が行われる前に、他のデータ処理が実行されることができる。
【0077】
上に説明されるように、前記システムは、2つのセンサ信号を用いて吸気と呼気とを区別することが可能である。
【0078】
吸気及び呼気中、異なる波形が受信される。特に、COPD患者にとって、この差異は、患者が呼気の問題で苦しんでいるので、重要である。
【0079】
システムは、解析方法を患者の呼吸パターンと同期することを可能にする。これは、呼吸相の関数として、上気道の音響特性の特徴化を可能にする。呼吸周期中の上気道抵抗の変化は臨床的な関連が大きい。上述したように、COPD患者は通例、吸気よりも呼気がより難しいことを経験している。この影響は、吸気及び呼気中の音響インピーダンスの変化を使用して、客観的なやり方で定量化され得る。
【0080】
呼吸音は、第1及び第2の音響センサ10a、10bにより検出される。これらは、受信される環境音に対する補完的方法に用いられる。呼吸音は気道自身から生じるので、これらの音は、鼻/口を介して気道に入る環境音への別々の音響経路を辿る。結果として、呼吸音の解析は、補完的な情報を環境音の解析に提供する。
【0081】
外部音は、患者から遠いマイク(10a)により最初に受信される一方、患者の音は、患者に近いマイク(10b)により早く拾われるという事実に基づいて、呼吸音と外部音との区別を最初に可能にする。2つのマイク信号の信号処理は故に、2つのマイク間において別々の相対時間シフトを持つ成分を区別することが可能である。
【0082】
マイクの音は、呼吸周期の異なる相のタイミングを決定するのに使用されることが知られている。これらの既知の方法は、マイク信号の一方に適用される、又は上に説明したように一対のマイク信号から抽出される呼吸音信号に適用される。
【0083】
Peter Hult他著、文献"A bioacoustics method for timing of the different phases of the breathing cycle and monitoring of breathing frequency", in Medical Engineering Physics 22(2000)425.433に1つの例が開示されている。呼吸周期は、2つの吸気相、つまり吸気相及び吸気後休止、2つの呼気相、つまり呼気相及び呼気後休止を持つ。吸気及び呼気信号は、認識され得る異なる強度及び包絡線特性を持つ。
【0084】
Ahmad Abushaker他著、論文"Lung Capacity Estimation Through Acoustic Signal of Breath", in Proc.IEEE 12
th Int. Conf. on BIBE, 11-13 November 2912においてもう1つの例が開示されている。これは、呼吸相が音響的に決定される方法を説明し、後で肺活量を計算するのに使用する。
【0085】
本発明のシステムに使用されるマイクは、例えば上で参照した2つの論文に説明されるような追加の情報を供給してもよい。1つの例は、患者が肺を空気で満たして又は空にしての何れか一方で呼吸を止めるよう要求されることである。これらの様々な状況(例えば呼吸を止めている及び呼吸中)における測定されるインピーダンスの変化は、医師に価値のある追加の診断データを与える。
【0086】
音響インピーダンスの測定は、測定される呼吸音が上気道抵抗の変化を修正することが可能であるため、呼吸音の測定を改善するのに使用されることもできる。実際に、この手法は、上気道自身の呼吸音の仮想測定として見られ、(例えば呼吸器閉塞の程度及び位置に関連する)呼吸音源の良好な特定を可能にする。
【0087】
上記の詳細な例は、2つの音響センサを使用している。音響インピーダンスの測定は、その位置が時間と共に変化され得る場合、単一のセンサだけ、例えばマイクだけを使用して行われる。呼吸の相を検出する能力は、マイクの移動が患者の呼吸と同期されることを意味し、ハードウェア要件を減らすことを可能にする。異なる位置におけるセンサ信号の集合の時間分離を可能にするために、呼吸パターンの周期性を考慮する。これは、異なるマイクの音響感度間における必然的な僅かな差異から生じる僅かな測定誤差も削除する。
【0088】
上記の例は、音響信号の変化を検出するためのマイクを使用している。マイクは、従来の圧力検出ダイヤフラム装置として実施されてもよいが、マイクは、マイクロマシン技術システム(MEMS)のセンサとして実施されてもよい。その上、他の種類のセンサ、例えば風速計のような音波の進行により生じる通路内の気流又は圧力の変化に応答する及び温度差に基づいて粒子速度を測定するいわゆるMicroflown(Trade Mark)センサが使用されることができる。
【0089】
本発明は、様々な診断応用シナリオ、例えば
(家での)自然睡眠における呼吸及び気道開存性のスクリーニング、
家で陽圧気道療法(CPAP、APAP)により治療される患者の呼吸及び気道開存性のモニタリング、
睡眠学習中の開存性のモニタリング(睡眠ポリグラフィー検査)、
集中治療室における気道開存性のモニタリング、
外科的介入中及び介入後のウェイクアップルームにおける意識不明の人の音響呼吸パターン及び気道開存性のモニタリング、
睡眠呼吸障害(SDB)で苦しむ人の気道開存性のモニタリング、
気道抵抗の変化に基づくAPAPシステムにおける圧力滴定、
呼吸疾患の進行のモニタリング、並びに
呼吸薬物応答のモニタリング
に用いられることができる。
【0090】
上で説明したように、本発明は、狭窄及び閉塞を測定するために上気道抵抗をモニタリングするため、閉塞性睡眠時無呼吸の患者のスクリーニングのため、閉塞位置のより正確なトポロジー診断のため、及びPAPシステムにフィードバックを提供するために、呼吸低下事象中に気道抵抗をモニタリングするために使用される。
【0091】
システムは、センサ信号処理を実施するための制御器を使用する。制御器に用いられる構成要素は、これらに限定しないが、従来のマイクロ処理器、ASIC及びFPGAを含む。
【0092】
様々な実施において、処理器又は制御器は、例えばRAM、PROM、EPROM及びEEPROMのような揮発性及び不揮発性コンピュータメモリのような1つ以上の記憶媒体と関連付けられる。記憶媒体は、1つ以上の処理器及び/又は制御器において実行されるとき、必要とされる機能を行う1つ以上のプログラムを用いて符号化されている。様々な記憶媒体は、処理器又は制御器内に固定される、又は記憶媒体に記憶される1つ以上のプログラムが処理器若しくは制御器に読み込まれるような移送可能であってもよい。
【0093】
上記の例は、所望する情報を解決する最小構成として2つのセンサを使用する。しかしながら、2つよりも多くのセンサが処理するための追加の情報を集めるのに使用されてもよい。第1及び第2のセンサだけの参照は故に、2つのセンサだけの使用に限定されないととるべきである。
【0094】
開示される実施例の他の変形例は、図面、本開示及び添付の特許請求の範囲を学ぶことから、請求される本発明を実施する当業者により理解及びもたらされ得る。請求項において、"有する"という言葉は、それ以外の要素又はステップを排除するものではなく、要素が複数あることを述べないことが、それら要素が複数あることを排除するものではない。ある方法が互いに異なる従属請求項に挙げられているという単なる事実は、これらの方法の組み合わせが有利に用いられないことを示してはいない。請求項における如何なる参照符号もその範囲を限定するとは考えるべきではない。