【0088】
より詳細には、下記項目1〜42によって本発明を説明することができる:
1.ポリアリーレンスルフィド、ポリオレフィン、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン又はそれらのコポリマーからなる群から選択される1つ以上のポリマーを含む繊維と、
硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム、硫酸カルシウム、硫酸鉛(II)又はそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上の無機塩と、
を含み、
1つ以上の無機塩が繊維の少なくとも一部の表面上に存在する、織布ウェブ又は不織布ウェブ。
2.1つ以上の無機塩が沈殿により繊維の少なくとも一部の表面上に施される、項目1に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブ。
3.ポリマーがポリアリーレンスルフィド、特にポリフェニレンスルフィドを含むか又はそれのみからなる、項目1又は2に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブ。
4.ポリマーがポリオレフィン、特にポリプロピレンを含むか又はそれのみからなる、項目1又は2に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブ。
5.平均繊維直径が約0.01μm〜約20μmであり、及び/又は平均繊維長が約0.01μm〜約500μmである、上記項目のいずれか一項に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブ。
6.約20μm〜約10mmの厚さを有する、上記項目のいずれか一項に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブ。
7.約100g/cm
2〜約600g/cm
2の密度を有する、上記項目のいずれか一項に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブ。
8.織布ウェブ又は不織布ウェブの総重量に対して約0.01wt−%〜約70wt−%の量で1つ以上の無機塩を含む、上記項目のいずれか一項に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブ。
9.1つ以上の無機塩が硫酸バリウムを含むか又はそれのみからなる、上記項目のいずれか一項に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブ。
10.硫酸バリウムが、約0.01μm〜約50μmのサイズのメジアン粒径(d
50)を有する結晶子を含むか又はそれのみからなる、項目9に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブ。
11.項目1〜10のいずれか一項に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブを製造する方法であって、
(i)未加工の織布ウェブ又は不織布ウェブを準備する工程と、
なお、織布ウェブ又は不織布ウェブは、第1の主要面及び第2の主要面を有し、またポリアリーレンスルフィド、ポリオレフィン、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン又はそれらのコポリマーからなる群から選択される1つ以上のポリマーを含む繊維を含む、
(ii)織布ウェブ又は不織布ウェブの少なくとも一部を、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、鉛の塩又はそれらの混合物の第1の溶液と接触させる工程と、
(iii)織布ウェブ又は不織布ウェブの少なくとも一部を、硫酸塩、硫酸若しくはそれらの混合物の第2の溶液と、又は三酸化硫黄を含む気体若しくは気体混合物と接触させる工程と、
(iv)第1の溶液と、第2の溶液又は気体若しくは気体混合物とを接触させることで、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム、硫酸カルシウム、硫酸鉛(II)又はそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上の無機塩を繊維の少なくとも一部の表面上に形成する工程と、
を含む、方法。
12.(i)未加工の織布ウェブ又は不織布ウェブを準備する工程と、
(ii)織布ウェブ又は不織布ウェブの第1の主要面の少なくとも一部を第1の溶液と接触させる工程と、
(iii)織布ウェブ又は不織布ウェブの第2の主要面の少なくとも一部を、その第2の溶液と、又は三酸化硫黄を含む気体若しくは気体混合物と接触させる工程と、
(iv)第1の溶液と、第2の溶液又は気体若しくは気体混合物とを接触させる工程と、
を含む、項目11に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブを製造する方法。
13.(i)未加工の織布ウェブ又は不織布ウェブを準備する工程と、
(ii)織布ウェブ又は不織布ウェブの第1の主要面の少なくとも一部及び第2の主要面の少なくとも一部を、第1の溶液と接触させる工程と、
(iii)織布ウェブ又は不織布ウェブの第1の主要面の少なくとも一部及び第2の主要面の少なくとも一部を、第2の溶液と、又は三酸化硫黄を含む気体若しくは気体混合物と接触させる工程と、
(iv)第1の溶液と、第2の溶液又は気体若しくは気体混合物とを接触させる工程と、
を含む、項目11に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブを製造する方法。
14.第1の溶液が、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、鉛の過塩素酸塩、塩素酸塩、塩化物塩、ヨウ化物塩若しくは臭化物塩、又はこれらの塩の混合物を含む、項目11〜13のいずれか一項に記載の方法。
15.第1の溶液が、バリウム若しくはストロンチウムの過塩素酸塩、塩素酸塩若しくは塩化物塩、又はこれらの塩の混合物を含む、項目11〜13のいずれか一項に記載の方法。
16.第1の溶液が、バリウムの過塩素酸塩若しくは塩化物塩又はこれらの塩の混合物を含む、項目15に記載の方法。
17.第1の溶液がバリウムの塩化物塩を含む、項目16に記載の方法。
18.第2の溶液が硫酸塩、硫酸又はそれらの混合物を含む、項目11〜17のいずれか一項に記載の方法。
19.第2の溶液が硫酸塩を含む、項目18に記載の方法。
20.第2の溶液がナトリウム又はカリウムの硫酸塩を含む、項目19に記載の方法。
21.第2の溶液が硫酸ナトリウムを含む、項目19に記載の方法。
22.第1の溶液と第2の溶液とのモル濃度の比率が約5:1〜約1:5の範囲内にある、項目11〜21のいずれか一項に記載の方法。
23.第1の溶液及び第2の溶液のモル濃度が約0.0001M〜約10Mの範囲内にある、項目11〜22のいずれか一項に記載の方法。
24.織布ウェブ又は不織布ウェブを第1の溶液及び第2の溶液又は気体若しくは気体混合物と約1秒〜約750時間の間接触させる、項目11〜23のいずれか一項に記載の方法。
25.織布ウェブ又は不織布ウェブを第1の溶液及び第2の溶液又は気体若しくは気体混合物と約1秒〜約1時間の間接触させる、項目24に記載の方法。
26.織布ウェブ又は不織布ウェブを第1の溶液及び第2の溶液又は気体若しくは気体混合物と約1秒〜約10分の間接触させる、項目24に記載の方法。
27.約0℃〜約200℃の範囲内の温度で工程を1つ以上行う、項目11〜26のいずれか一項に記載の方法。
28.約10kPa〜約20MPaの圧力で工程を1つ以上行う、項目11〜27のいずれか一項に記載の方法。
29.第1の溶液及び第2の溶液の少なくとも一方又は両方が水溶液である、項目11〜28のいずれか一項に記載の方法。
30.第1の溶液及び第2の溶液の少なくとも一方又は両方が1つ以上の有機溶媒を含有する溶液である、項目11〜29のいずれか一項に記載の方法。
31.工程ii)及び工程iii)を同時に行う、項目11〜30のいずれか一項に記載の方法。
32.工程ii)及び工程iii)を順次行う、項目11〜30のいずれか一項に記載の方法。
33.工程ii)を工程iii)の前に行う、項目32に記載の方法。
34.工程iii)を工程ii)の前に行う、項目32に記載の方法。
35.織布ウェブ又は不織布ウェブを工程ii)と工程iii)との間に乾燥させる、項目32〜34のいずれか一項に記載の方法。
36.第1の溶液がバリウムの過塩素酸塩若しくは塩化物塩又はこれらの塩の混合物を含み、第2の溶液が硫酸塩、硫酸又はそれらの混合物を含む、項目11〜35のいずれか一項に記載の方法。
37.第1の溶液が塩化バリウムを含み、第2の溶液が硫酸ナトリウムを含む、項目11〜35のいずれか一項に記載の方法。
38.第1の溶液が塩化バリウムを含み、第2の溶液が硫酸ナトリウムを含み、織布ウェブ又は不織布ウェブが、ポリアリーレンスルフィド及びポリオレフィンからなる群から選択される1つ以上のポリマーを含む繊維を含む、項目11〜35のいずれか一項に記載の方法。
39.第1の溶液が塩化バリウムを含み、第2の溶液が硫酸ナトリウムを含み、織布ウェブ又は不織布ウェブが、ポリフェニレンスルフィド及びポリプロピレンからなる群から選択される1つ以上のポリマーを含む繊維を含む、項目11〜35のいずれか一項に記載の方法。
40.アルカリ水電解における隔膜又は膜としての、項目1〜10のいずれか一項に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブの使用。
41.項目1〜10のいずれか一項に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブを備える、電解セル。
42.項目1〜10のいずれか一項に記載の織布ウェブ又は不織布ウェブを使用する、アルカリ水電解を行う方法。
【実施例】
【0091】
材料
本研究で使用されるポリフェニレンスルフィド(PPS)ニードルフェルトは2mmの厚さを有し、Heimbach GmbHにより供給されたものとする。ポリフェニレンスルフィド(PPS)タイプは、面積比重量550g/m
2及び200Paで空気透過率160l/dm
2/minを有する306P41 5/5とした。4mm厚のアスベスト膜サンプルをアルカリ電解槽用の一般的な隔膜とした(クリソタイル、Mg
3Si
2O
5(OH)
4)。
【0092】
0.5mmの厚さを有するZirfon Perl(商標)(AGFA)も比較目的で使用した。過塩素酸バリウム無水物及び硫酸(95%〜97%)をAlfa Aesar及びJ.T. Bakerからそれぞれ購入し、更なる精製を行うことなく使用した。過塩素酸バリウム及び硫酸(95%〜97%)の溶液は、それらの対応する量を脱イオン水に溶解することによって調製した。
【0093】
本研究では電解質に、高圧ゼロギャップアルカリ水電解槽に使用される一般的な電解質に相当する25wt.%の水酸化カリウム、及び食塩電解に使用される一般的な電解質に相当する35wt.%の水酸化ナトリウムを使用した。
【0094】
沈殿方法
基礎となる膜材料中へのBaSO
4の沈殿(ラボスケール)
ラボスケールの沈殿膜(直径20mm、厚さ2mm)の製造に使用されるセルは2つの区画からなる(
図2)。ポリフェニレンスルフィドの基礎となる膜材料1を区画間に固定した。0.1Mの過塩素酸バリウム溶液2及び0.1Mの硫酸溶液3を各区画内に同時に注入した。これらの溶液を、膜を介して3日間室温で相互作用させることによって沈殿が基礎となる膜材料本体において起こった。
【0095】
1つのラボスケールのポリフェニレンスルフィド膜サンプルの重量を沈殿前後に測定した。沈殿前の重量は0.183gであったのに対し、
図2に示されるようなセルにおける沈殿後、ラボスケールのポリフェニレンスルフィド膜サンプル重量が0.213gに増大した。
【0096】
基礎となる膜材料中へのBaSO
4の沈殿(プロトタイプスケール)
プロトタイプ電解槽において工業条件で膜を試験するために、より大きな沈殿セルを設計し、そこには直径300mm及び2mm厚のポリフェニレンスルフィドマトリックス4を設置し、同様の沈殿剤2及び3により沈殿プロセスにかけた。沈殿前のプロトタイプサイズのポリフェニレンスルフィド膜サンプルの重量は39.036gであった。
図3に示されるようなセルにおける沈殿後、ポリフェニレンスルフィド膜サンプル重量が43.590gに増大した。
【0097】
膜の調整
膜は全て測定前に
図4に示されるような機器を用いて25wt.%の水酸化カリウム電解質に浸した。電解質6を、セラミックフリット8上に設けた膜7上に注ぎ入れ、真空ポンプ9を用いて膜本体に強制的に通した。
【0098】
特性化方法
概略
セパレータ材料の作製に加えて、イオン伝導率及び気密性の決定に関する方法体系が本発明者らにより開発され、Electrochimica Acta 2014, 127, pages 153 to 158に掲載されている。これらの2つのパラメータの最適化は、実のところ相反する要件であり、電解プロセス効率の改善をもたらし得るものである。それ故、室温で動作する非ゼロギャップ及びゼロギャップの両方の大気圧ラボスケール構成を室内に(in house)
図5及び
図6それぞれに示されるように構築した。
【0099】
非ゼロギャップセル(
図5)は25wt.%の水酸化カリウム6で充填される2コンパートメント四電極セルである。アノード15及びカソード14として作用する2つのNiディスクは、区画間に設置したセパレータ7から離して置く。
図7に詳細に図示した2つの鉛/フッ化鉛電極(25℃でNHEに対して−0.317V)を、センス電極10及び参照電極11として使用する。16及び17と符号をつけた開口はそれぞれ酸素排気口及び水素排気口として作用する。
【0100】
ゼロギャップセル(
図6)は、セパレータ7がアノード18及びカソード19として作用する2つのNiメッシュ間に挟まれている点で非ゼロギャップセルと異なる。このセルでは、センス電極10及び参照電極11が電線の外側に設けられ、それらの浸漬深さが、測定される抵抗に影響を及ぼし得ない。カソードの電気接続部20は、膜7の左側に位置するアノードのものに対して対称をなす。21及び23と符号をつけた開口はゼロギャップセルにおいてそれぞれ酸素排気口及び水素排気口として作用する。
【0101】
非ゼロギャップセル(5)は、四重極質量分析計(QMS)と連結した場合、電解中にアノード区画に発生し、セパレータを越えてカソード区画内の生成する水素の純度を低減させる酸素のモニタリングも可能にする。QMS検出キャピラリーをPVCホルダー12に設ける。
【0102】
抵抗測定
ゼロギャップ構成及び非ゼロギャップ構成を両方とも抵抗測定に使用した。抵抗測定は、Gamryのポテンショスタットによる定電流モードの電気化学インピーダンス分光法(EIS)を用いて実施した。膜タイプ(ポリフェニレンスルフィド、BaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィド、アスベスト及びZirfon Perl(商標))毎に少なくとも3回の測定を行った。膜を用いない測定は、膜を設置しない際のゼロギャップ構成における短絡を回避するために、非ゼロギャップ構成でのみ行った。周波数を1kHzから100mHzまで掃引するとともに、印加する直流密度は160mA/cm
2及び200mA/cm
2とし(測定中に電解状態をもたらす)、交流の振幅は10mA/cm
2とした。両者の電流密度(160mA/cm
2及び200mA/cm
2)は工業用アルカリ水電解槽において印加される電流密度と略同等のものである。
【0103】
非ゼロギャップ構成では、接点はあるものの電流の流れを妨げないために、溶液中への参照電極及びセンス電極の浸漬深さはわずか約2mmとした。セルには25wt.%の水酸化カリウム溶液を完全に充填した。
【0104】
非ゼロギャップ構成では、セルに膜を実装する場合、膜を実装しないセンス電極と参照電極との間の距離と比較して、膜の厚さのためにアノードとカソードとの間の距離を長くした。それ故この場合、電極同士がより近くなり、膜厚が相殺される(
図8)。非ゼロギャップセル(
図5)は、セルに膜を実装しない(
図8)25wt.%の水酸化カリウム溶液の伝導率の測定にも使用した。ゼロギャップセル構成(
図6)では、その設計に起因して、センス電極10及び参照電極11が電線の外側に設けられ、それらの浸漬深さが、測定される抵抗に影響を及ぼさなかった。
【0105】
酸素透過測定
或る一定量の発生した酸素がアノード側からカソード側へと膜を通って流れる。非ゼロギャップセル構成(
図5)は、電解中にアノード区画に発生し、セパレータを越えてカソード区画内の生成する水素の純度を低減させる酸素のモニタリングを可能にする。
【0106】
種々のセパレータに関する酸素クロスオーバーのin situ測定は、所望の電解レジーム(regime)をもたらすクロノポテンショメトリー法を四重極質量分析計と併せることによって行った。四重極質量分析計(QMS)キャピラリーをPVCキャピラリー12に最大1cm挿入し、酸素クロスオーバーを検出するようにカソード区画に固定した。センス電極及び参照電極の浸漬深さは酸素透過測定に影響しなかった。
【0107】
所望の電解状態を得るとともに、膜を通る酸素クロスオーバーを四重極質量分析によって測定するために、Gamryのポテンショスタットと併せたクロノポテンショメトリー法を使用して、一定電流を印加した。ガス透過測定は160mA/cm
2の電流密度で実施した。200mA/cm
2のより高い電流では、水酸化カリウム溶液がPVCキャピラリー内で上昇し、四重極質量分析計キャピラリーを損傷させる傾向にあった。キャピラリーの損傷を回避するとともに測定精度を維持するために、透過測定は全て160mA/cm
2の電流密度で行った。
【0108】
非ゼロギャップセルにおける酸素透過測定中、参照電極及びセンス電極を、セルの底面から約5mm以内まで浸漬させ、セル容積の70%を25wt.%の水酸化カリウム溶液で充填した。セルを電解質で70%を超えて充填させた幾つかの試行実験を行ったところ、四重極質量分析計キャピラリーを設けたPVCキャピラリー内に電解質の泡が広がることにより、四重極質量分析計キャピラリーが損傷するおそれがあった。工業条件との確実な類似性が存在し、なお、懸濁液−気体(セパレータにおける電解質と気泡との混合物)の密度はセパレータの下部でより大きく、上方向に減少することが期待される。再現性を確実にするために各酸素透過測定は少なくとも2回実施した。
【0109】
理論に束縛されることを望むものではないが、ゼロギャップセル、より正確には大気圧で動作するゼロギャップセル(
図6)が酸素透過率の決定に適さない1つの理由は、大気圧におけるゼロギャップ構成において発生した気泡が著しく大きいことから、電解質に溶解した分子酸素しかセパレータ7を越えることができないためであると考えられる。しかしながら、セパレータを越える分子酸素はNiメッシュカソード19において容易に減少する、すなわち、O
2は、セル開口22に取り付けたPVCホルダー12に設けられるQMS検出キャピラリーに達する前に還元されてOH
−へと戻る。非ゼロギャップセル(
図5)では、そのPVCホルダー12に設けられるQMS検出キャピラリーがセパレータ7とカソード14との間に位置する。したがって、分子酸素はNiディスクカソードで還元される前にQMS検出キャピラリーに達する。これらの検討は、Electrochimica Acta 2014, 127, pages 153 to 158に詳細に提示されている。
【0110】
水素透過測定
アノード及びカソード並びにセンス電極及び参照電極を交換した以外は酸素透過測定に使用したものと同じ非ゼロギャップ電気化学セル(
図5)を用いて、カソード区画で発生する水素の、酸素が生成するアノード区画へのクロスオーバーをモニタリングした。
【0111】
化学安定性
沈殿膜の化学安定性を求めるために、沈殿膜を25wt.%の水酸化カリウム及び35wt.%の水酸化ナトリウムに3ヶ月間浸漬させた後に、抵抗測定及び酸素透過測定を繰り返した。水酸化カリウム溶液のこの濃度は、アルカリ水電解で使用される水酸化カリウム溶液と略同等のものである。水酸化ナトリウム溶液の上記の濃度は、膜を備える食塩電解構成における水酸化ナトリウム濃度と略同等のものである。
【0112】
機械的安定性
膜の機械的安定性は、膜を50mm及び100mm直径の円筒ディスク上に曲げ加工する前後に秤量することによって評価した(
図9)。曲げ加工後、抵抗及び酸素透過を先の段落に記載したように測定した。
【0113】
沈殿剤濃度及び沈殿温度による、沈殿膜のイオン伝導率及び酸素透過に対する影響
沈殿剤濃度及び沈殿温度を変えることによって、ラボスケールの沈殿膜(直径20mm、厚さ2mm)を作製するのに
図2に示されるセルを使用した。3つの異なるH
2SO
4及びBa(ClO
4)
2沈殿剤濃度は0.01M、0.1M及び0.5Mとした。沈殿プロセスは、同じ濃度のH
2SO
4及びBa(ClO
4)
2沈殿剤溶液を同時に注入することによって行った。これらの3つの選んだ濃度を用いた沈殿を8℃、22℃及び40℃で実施して、沈殿が形成する温度による、得られるセパレータの物理化学特性に対する影響を評価した。
【0114】
イオン伝導率(測定したイオン抵抗により得られる)及び酸素透過率は、先の段落で説明したようにゼロギャップセル構成(
図6)及び非ゼロギャップセル構成(
図5)をそれぞれ用いて求めた。これらの測定に使用される溶液も25wt.%の水酸化カリウムとした。
【0115】
膜は全て、これらの測定前に25wt.%のKOH電解質6に浸すことによって予め調整しておいた。電解質を、セラミックフリット8上に設けた膜7上に注ぎ入れ、真空ポンプ9により膜本体に強制的に通した。
【0116】
セパレータのイオン抵抗はおよそ3週間の浸漬後に測定したが、本発明者らのこれまでの作業の結果から、浸漬期間は抵抗には影響を及ぼすものの、酸素透過率には影響を及ぼさないことが示されたことから、酸素透過率測定に関しては浸漬期間を厳密にモニタリングしなかった。
【0117】
XRD測定は、PPSマトリックスを除く3つのモル濃度の沈殿剤溶液を混合することによってBaSO
4粉末について行った。これらの溶液の温度は、沈殿前に8℃、22℃又は40℃に調節した。BaSO
4粉末沈殿プロセス自体も、セパレータの作製と同様にこれらの3つの温度で起きた。同様に、XRD測定は、BaSO
4をPPSマトリックス中に沈殿させることによって形成されるセパレータについても行った。X線回折ソフトウェアXPowder 12vers. 04.10をXRDスペクトル解析のために使用した。BaSO
4をPPSマトリックス中に沈殿させることによって形成されるセパレータ形態は、走査型電子顕微鏡検査(SEM)によって評価した。
【0118】
特性化結果
抵抗測定
セル定数K(表I)を算出するために、既知の伝導率k
stの0.1M KCl及び1M KClの2つの標準電解質の抵抗R
stは、
図5に示される非ゼロギャップ四電極セルを用いて測定した。セル定数の平均値はK
平均=1.38±0.03cm
−1であった。
【数2】
【0119】
表I:開回路電位(OCP)での非ゼロギャップセルにおける標準溶液の抵抗測定値R
st、既知の標準溶液の伝導率κ
st及び算出したセル定数K。
【0120】
【表1】
【0121】
電解質の抵抗R
elは同じ非ゼロギャップ電気化学セル(
図5)を用いて測定した。25wt.%の水酸化カリウム(5.5Mの水酸化カリウム)電解質のイオン伝導率は次のように算出した。
【数3】
【0122】
非ゼロギャップ及びゼロギャップ構成の両方の測定において実施した電気化学インピーダンス分光法を用いてセルインピーダンスZを求めた:
【数4】
(式中、Zは複素インピーダンスであり、Z
Re及びZ
Imはそれぞれ複素インピーダンスの実数部及び虚数部である)。実施した測定全てに関する複素インピーダンスの虚数部はミリオーム範囲であり、オーム範囲にあるインピーダンスの実数部と比較して無視することができる。それ故、測定されるZ
Reがセル抵抗R
cを表す(
図10)。
【0123】
R
c及びR
elが分かると、非ゼロギャップ構成(
図5及び
図8a、
図8b)に関する膜抵抗R
Mを算出することができる。
【数5】
【0124】
ゼロギャップセル(
図6)では、測定されるセル抵抗がセパレータ抵抗に直接的に対応するため、セパレータの抵抗測定は単純化され(
図8c)、次のように求めることができる。
【数6】
【0125】
続いて、下記式を用いて膜の伝導率k
Mを算出した:
【数7】
(式中、Lは膜の厚さであり、Aは電解質に曝される膜の表面である(Oリングによりセル内に設置後2.54mm
2)。表IIは、非ゼロギャップセル構成を用いて求めた純ポリフェニレンスルフィド、BaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィド、アスベスト及び電解質自体の伝導率の概要を示すものである。
【0126】
表II:非ゼロギャップセルにおいて水酸化カリウム溶液中、開回路電位(OCP)で実施した抵抗測定に関して算出した溶液及び膜の伝導率(κ)。
【0127】
【表2】
【0128】
短期間の浸漬の測定後、ポリフェニレンスルフィド及びBaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィドのサンプルをセルから取り出し、密封プラスチック管に入れ、これに20mlの25wt.%の水酸化カリウム溶液を充填した。長期間の浸漬による伝導率及びガス透過に対する効果を調査するために、水酸化カリウム溶液を含有するこれらの管内でサンプルを3ヶ月間保持した。アスベストサンプルは測定中に水酸化カリウム溶液で湿潤し、その後、セルから取り出した。水酸化カリウム溶液中における3ヶ月間のアスベストサンプルの浸漬は、構造劣化をもたらすと考えられる。それ故、アスベストサンプルは、水酸化カリウム溶液を更に添加することなくプラスチック管内で浸潤させたままとした。
【0129】
沈殿膜及び純ポリフェニレンスルフィドの伝導率は類似するため、アルカリ水電解槽に沈殿膜を使用した場合、エネルギー消費の増大をもたらす付加的な電圧降下は生じないと考えられることが示される。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、160mA/cm
2で行った測定と比較して200mA/cm
2におけるポリフェニレンスルフィド及びBaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィドのより高い伝導率は、測定前の水酸化カリウム中におけるサンプルのより長い浸漬に起因するものと考えている(
図11)。浸漬期間の影響は、アスベストサンプル及びBaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィドにとって等しく顕著なものである。当業者等の測定におけるより大きな電流は純電解質又はアスベストサンプルの伝導率に影響を及ぼさなかったことから、より大きな電流はイオン伝導率に影響を及ぼすとは思われない。
【0130】
ゼロギャップセル構成(
図6)によって抵抗がより単純に求められ、またより良好な測定再現性がもたらされたことを考慮して、ゼロギャップ構成(
図6)のみを用いて更なる抵抗測定を行った。加えて、現行の技術水準のZirfon Perl(商標)膜を特性化した。それらは
図4に示されるように調整して、封止プラスチック管に入れ、測定前にこれに20mlの25wt.%の水酸化カリウム溶液を充填した。
【0131】
Mini Test Cell(作用面積120cm
2)における付加的な試験を行って、工業スケールの電解セルに使用されるような2kA/m
2(200mA/cm
2)及び6kA/m
2(600mA/cm
2)の電流密度を印加した場合の80℃における電圧降下を求めた。本発明による膜の厚さは約2mmであり、Zirfon Perl(商標)膜の厚さは0.5mmであった。本発明による膜及びZirfon Perl(商標)膜により得られる電圧降下は、厚さがかなり違うにもかかわらず類似することが分かった(
図22を参照)。これにより、Zirfon Perl(商標)膜と比較して本発明による膜のイオン伝導率が著しく改善したことが示される。例えば2.7m
2の膜表面を有する、工業スケールのアルカリ水電解槽セルにおける本発明による膜の適用が実現可能である。
【0132】
本発明による膜を伴うセルの測定電圧は6kA/m
2で2.07Vであった。さらに、
図22における曲線の傾き(線形適合(linear fit))を表す、本発明による2mm厚の膜のk因子を、30wt.−%のKOH水溶液及び20%wt.−%のNaOH水溶液において求めた。得られた値はそれぞれ0.07V/(kA/m
2)〜0.08V/(kA/m
2)及び0.085V/(kA/m
2)〜0.095V/(kA/m
2)であった。1mm厚の相当する膜に関するk因子は0.035V/(kA/m
2)であると評価される。本発明による膜によりもたらされるラボスケールのイオン伝導率は276mS/cm(3週間の浸漬後)であり、得られるk因子は0.073V/(kA/m
2)を示し、工業用プロトタイプ試験(0.07V/(kA/m
2)〜0.08V/(kA/m
2)との極めて良好な合致が確認される。Goreにより供給されるPTFEを伴うPPSセパレータのイオン伝導率は極めて低い値(伝導率は27±12mS cm
−1に等しい)に起因して
図22には示さない。
【0133】
酸素透過
非ゼロギャップセル構成において実施される酸素透過測定は、電解前、電解中及び電解後に水素、水、窒素、酸素及びアルゴンのイオン電流をモニタリングすることに基づくものとした。電解前、電解中及び電解後に得られた水素、水、窒素、酸素及びアルゴンに関するイオン電流の四重極質量分析による結果の一般的な例を、
図12に示す。
【0134】
電解中、セル内に膜を設置しない場合、アノード区画からの酸素は妨げられることなく四重極質量分析計キャピラリーに接近し得るため、酸素イオン電流が僅かに増大し、水素イオン電流は著しく増大した。他方、空気を表すN
2に関するイオン電流は減少した。セル内に設置される沈殿膜が、純ポリフェニレンスルフィドと比較して酸素イオン電流のより顕著な低下をもたらしたことにより、これらの膜の酸素透過特性の違いが示される。
【0135】
ポリフェニレンスルフィド膜を設置すると、電解中に生成するより少量の酸素が、カソード区画内に到達し、四重極質量分析計キャピラリーにより検出された。イオン電流の低下は、四重極質量分析計キャピラリーの近くで発生する水素圧力に由来するものである。しかしながら、酸素及び窒素のイオン電流プロットから、膜を設置しない場合又はポリフェニレンスルフィド膜、ポリフェニレンスルフィドのBaSO
4沈殿膜若しくはアスベストを設置した場合の酸素透過において明確な違いが示される。
【0136】
ポリフェニレンスルフィドのBaSO
4沈殿膜の挙動は、電解が開始したときにはアスベストと類似するが、それらのアノード電流は電解の後期で異なる(
図13)。
【0137】
種々の膜を越える酸素透過の定量化
電解中にアノード区画に発生して膜を越えた後、四重極質量分析計によりカソード区画内で測定した酸素の分圧y
O2ELS(atm)を定量化するために、電解が停止する直前に測定した酸素イオン電流j
32ELS(A)を次のように規定した:
【数8】
(式中、S
32,O2(A/atm)はO
2の感度因子であり、S
32,air(A/atm)はO
2の感度因子である)。
【0138】
水素流中の空気の分圧y
air(atm)は下記式により表すことができる:
【数9】
(式中、j
28ELS(A)は電解が停止する直前に測定した窒素イオン電流であり、j
28air(A)は電解が開始する前に測定した窒素イオン電流である)。
【0139】
空気中のO
2の感度因子S
32,air(A/atm)はj
32air(A)、すなわち空気中のO
2イオン電流に等しい。
【数10】
【0140】
空気中の酸素イオン電流も次のように表すことができる:
【数11】
(式中、S
32,O2はO
2の感度因子(A/atm)である)。
【0141】
式(8)〜式(10)を式(7)に組み込むことによって、電解中にアノード区画に発生して膜を越えた後、四重極質量分析計によりカソード区画内で測定した酸素の分圧y
O2ELS(atm)を次のように算出することができる。
【数12】
【0142】
酸素透過の定量化のために、電解が開始する前及び電解が停止する直前の酸素及び水素のイオン電流値を、各測定に関する四重極質量分析計スペクトル(
図13)から抜き出した。
【0143】
これらの測定は大気圧で実施した。それに応じて、式(11)を用いて算出した結果に100を乗じることによって、膜を越える酸素のパーセンテージが得られた(
図14)。
【0144】
BaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィド膜を使用した場合の酸素クロスオーバーの値はアスベスト膜のクロスオーバーに近く、これは、BaSO
4が純ポリフェニレンスルフィドの酸素気密性を著しく改善させることを意味するものである。値は、水酸化カリウム中における1ヶ月間の浸漬後及びこの電解質中における3ヶ月間の長期間の浸漬後にサンプルを測定することにより示されるものである。
【0145】
水酸化カリウムへのより長い曝露はサンプルの透過特性にそれほど影響を及ぼさない。おそらく水酸化カリウム中における3ヶ月間の浸漬後のアスベストの構造劣化のために、より大きな散乱がアスベストサンプルで観察された。
【0146】
BaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィド膜及びアスベストに関する透過値は、アスベストに関する最後の極めて低い値を考慮しなければ約20%異なっていた。他方、BaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィド膜に関する透過値は、純ポリフェニレンスルフィド膜の透過値の約半分であった。
【0147】
図15に示される結果から、本発明の環境に優しいセパレータ材料(BaSO
4を伴うPPS、沈殿剤濃度0.1M、沈殿温度22℃)がZirfon Perl(商標)及びアスベストに匹敵する気密性を有し、更にはそれらのイオン伝導率を上回ることが示される。これらの結果は短期間の浸漬に関するものである。イオン伝導率はゼロギャップセル構成(ZG)で得られる抵抗値を用いて算出したのに対し、酸素透過は非ゼロギャップセル構成を用いて求めた。
【0148】
付加的な試験を行って、工業スケールの電解セルにおけるような2kA/m
2及び6kA/m
2の電流密度を印加した場合の80℃における電圧降下を求めた。本発明による膜の厚さは約2mmであり、Zirfon Perl(商標)膜の厚さは0.5mmであった。本発明による膜及びZirfon Perl(商標)膜により観察される酸素透過は類似する、すなわち、H
2中のO
2の濃度が6kA/m
2で約0.2vol.−%及び2kA/m
2で約0.6体積%であることが分かった。160mA/cm
2(1.6kA/m
2)において実験室条件下で測定したH
2中のO
2は0.08vol.−%に等しかった。例えば2.7m
2の膜表面を有する、工業スケールのアルカリ水電解槽セルにおける本発明による膜の適用が実現可能である。
【0149】
水素透過
水素透過測定についてセル構成で測定したイオン電流を、BaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィド膜を用いたサンプルに関して
図16a)〜d)、及び膜を用いないサンプルに関して
図16e)及びf)に示す。電解中にカソード区画内に生成し膜を越えて、水素透過測定用の四重極質量分析計キャピラリーが設けられたアノード区画において検出した水素の量は、
図16a)〜d))に示されるより小さい検出限界よりも小さかった。水素のイオン電流は電解前及び電解中に10
−10Aの範囲にあった。
【0150】
膜を用いずに酸素区画内で測定した水素イオン電流(
図16e)及びf))は電解前の10
−10Aの範囲から電解中の10
−6A〜10
−7Aへと上昇した。これにより、システムが原則として膜を透過する水素の変化及び膜を透過する少量の水素を検出し得ることが示される。
【0151】
他方、水素区画内で測定した水素イオン電流は電解前の10
−10Aの範囲から電解中の10
−6A〜10
−7Aへと上昇した結果(
図16)、下記式を用いて0.01%の水素検出能限界が算出された:
【数13】
(式中、y
H2ELS(%)は水素区画内の水素の分圧であり、j
2air(A)は電解が開始する前に水素区画内で測定した水素イオン電流であり、j
2ELS(A)は電解が停止する直前に水素区画内で測定した水素イオン電流である)。
【0152】
それ故、
図16a)〜d)による水素のクロスオーバーが0.01%を遥かに下回ることから、BaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィド膜を用いた場合には水素及び酸素の混合が防止されると結論づけることができる。
【0153】
化学安定性
沈殿膜の化学安定性を求めるために、ポリフェニレンスルフィド、BaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィド及びアスベストのサンプルを25wt.−%の水酸化カリウム溶液に浸漬し、抵抗(表II)及び透過(
図14)を3ヶ月間の浸漬後に測定した。
【0154】
BaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィドのサンプルを、抵抗測定及び酸素透過測定前に、35wt.%、すなわち膜タイプの食塩電解セルにおける濃度に相当する水酸化ナトリウム中における長期間、すなわち3ヶ月間の浸漬に曝し、短時間の浸漬(表III、表IV、
図18)について得られる値と比較した。短期間の浸漬(1週間未満)後の3つの測定値の平均として算出した伝導率は、35wt.%の水酸化ナトリウム中における電解に関して、この溶液中で膜を用いない又はBaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィド膜を用いた場合、それぞれ約184mS/cm及び20mS/cmとなった。長期間の浸漬後に測定したこの膜の伝導率は約20mS/cmとなり、これにより、浸漬期間が伝導率にそれほど影響しないことが示される(表III)。BaSO
4が沈殿したポリフェニレンスルフィド膜の水酸化カリウム溶液中における浸漬は、膜の伝導率に大きな影響を与えたのに対し、水酸化ナトリウム溶液中における浸漬期間の効果はごく僅かなものであった(表II及び表III)。
【0155】
表III:非ゼロギャップセルにおいて水酸化ナトリウム溶液中、開回路電位で実施した抵抗測定に関して算出した溶液及び膜の伝導率(k)
【0156】
【表3】
【0157】
水酸化カリウム及び水酸化ナトリウム溶液の両方に関する酸素透過値(パーセント)の要約を表IVに示す。酸素透過は長期間の浸漬後、これらの電解質のどちらでも変化しなかった(表IV)。
【0158】
表IV:非ゼロギャップセルにおける160mA/cm
2での25wt.%の水酸化カリウム及び35wt.%の水酸化ナトリウム中における電解中に膜を越える酸素透過のパーセンテージ(y
O2ELS)
【0159】
【表4】
【0160】
機械的安定性
BaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィド膜の機械的安定性は、膜を50mm直径の円筒アルミニウムディスク上及び100mm直径の円筒銅ディスク上に曲げ加工する前後に秤量することによって評価した。サンプルは
図9に示されるようにゴムバンドを用いて円筒ディスクに取り付けた。同じバンド(同じ弾力性)を両方の円筒サイズに用いたため、サンプル上へのゴムバンドの圧力はより大きな円筒の場合により大きくなった。24時間の曲げ加工の後、抵抗及び酸素透過を測定した(表VI)。円筒に取り付けた際にサンプルを乾燥させても、曲げ加工後の銅円筒上には反応の痕跡が観察された(
図9d)。曲げ試験にかけたサンプルを水酸化カリウム中に約3ヶ月間貯蔵し、曲げ加工前に60℃の炉内で乾燥させた。
【0161】
表V:金属円筒上への曲げ加工前後のBaSO
4膜の重量(m)
【0162】
【表5】
【0163】
表VI:非ゼロギャップセルにおける160mA/cm
2での25wt.%の水酸化カリウム中における電解中の伝導率(κ)及び酸素透過(y
O2ELS)
【0164】
【表6】
【0165】
金属円筒上への曲げ加工の前後で膜を秤量し、約2mg〜9mgの重量の減少が両円筒に関して検出された(表V)。
【0166】
曲げ加工したサンプルの伝導率は、短期間(232mS cm
−1、表II、表VI)及び長期間(716mS cm
−1)水酸化カリウム中に浸漬させた曲げ加工しなかったサンプルの値の間にある(表II)。理論に束縛されることを望むものではないが、機械的処理(曲げ加工)よりも浸漬期間及び湿潤性の方が伝導率に大きな影響を与えると考えられる。曲げ加工したサンプルの湿潤性は、水酸化カリウム中に短時間又は長時間浸漬させた両サンプルとも異なるものの、水酸化カリウム中に短時間浸漬させたサンプルに近いと考えることができ、それ故、伝導率の結果を、短時間浸漬させたサンプルの伝導率及び酸素透過と比較すべきである(表VI)。
【0167】
曲げ加工によって伝導率の大幅な増大がもたらされるのに対し、BaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィドの曲げ加工サンプルの酸素透過は依然として小さい。50mmの円筒上に曲げ加工した後の酸素透過は、水酸化カリウム中に短期間又は長期間浸漬させたBaSO
4を伴うポリフェニレンスルフィドの曲げ加工していないサンプルと比較して約12%増大するものの、より大きな円筒上への曲げ加工(より大きなゴムバンド圧力を伴う)は酸素透過の約30%の増大に影響を及ぼした(表V及び表VII)。
【0168】
沈殿剤濃度及び沈殿温度による、沈殿膜のイオン伝導率及び酸素透過に対する影響
イオン伝導率の増大及び酸素透過率の減少が(相反するものの)セパレータが満たす望ましい特性である。
図19aは0.01Mの沈殿剤濃度について温度を増大させる場合に望ましい傾向を示すものである。低い酸素透過率と同時に実現されるイオン伝導率の最適値は0.1Mの沈殿剤濃度について22℃及び40℃で観察される(
図19b)。
【0169】
XPowder 12ソフトウェアによってXRDスペクトルのピーク021、121及び002について全値半幅(HWFM)を求め、これによりシェラーの式を用いて結晶子サイズを算出することができる。粉末サンプルに関するHWFM(
図20a)はバックグラウンドを差し引かずに求めたのに対し、PPSマトリックス上に沈殿するBaSO
4結晶(
図20b)については、純粉末BaSO
4サンプルと比較して検出に利用可能なBaSO
4の量が不十分なことから、バックグラウンドを差し引いた(オートローラ(auto roller)、フラットローラ(flat roller)、2.0)。
【0170】
沈殿剤濃度0.5Mを使用した場合に最小結晶子サイズ(約25nm)が観察された。沈殿剤濃度0.1Mでは、0.5Mと比較してサイズシフトが観察される一方で、サイズに関して同じ傾向が温度とは略無関係に8℃及び22℃において観察されたものの、この傾向は40℃で著しく増大した。同じ傾向が両濃度、すなわち0.1M及び0.5Mについて観察された(
図20)。
【0171】
0.01Mでは、SEMによって観察されるより大きな粒子への結晶成長も結晶の凝集も、より高い濃度で行った実験とは対照的に多数の核形成部位によって妨げられることがない。結晶子サイズ及び凝集粒子は、溶液中におけるBaSO
4核の核形成プロセス及び成長の競合性に起因して、XRD(
図20)及びSEM(
図21)によって観察されるように0.01M沈殿剤濃度を使用する場合により大きな寸法をとり得る。
【0172】
沈殿剤濃度0.1Mを用いて沈殿温度22℃で、並びに0.01M及び0.5Mを用いて22℃で作製したセパレータについて観察される凝集体のSEM拡大図を
図21に示す。
【0173】
Na
+イオン(沈殿剤としてのNa
2SO
4)の影響。沈殿時間
材料特性に対するNa
+イオンの影響は、H
2SO
4の代わりにNa
2SO
4溶液を使用することによって1mm厚のPPSマトリックス(フェルトタイプ306P05 0/0、400g/m
2、Heimbach Filtrationにより供給、親水性処理は施さない)への沈殿プロセス中に確認した。このように作製した膜について得られる膜のイオン伝導率(κ)及び膜の電圧降下(U)に関する値を沈殿プロセス期間に応じて
図23に示す。イオン伝導率(κ)及び膜の電圧降下(U)に関する対応データをそれぞれ表VII及び表VIIIに示す。表には両方とも、H
2SO
4を沈殿物として用いて得られる結果を比較目的で示してある。
【0174】
25wt.%のKOH中における8日間の浸漬後に得られる結果から、H
2SO
4をNa
2SO
4に置き換えることによって僅かに低い伝導率がもたらされるものの、3ヶ月間の浸漬後には、H
2SO
4及びNa
2SO
4の両方によって得られる値が類似することが示された。Na
2SO
4を沈殿剤として用いて8日間の浸漬後に得られるより低い伝導率に関する本発明者らの仮説は、沈殿剤であるNa
2SO
4の使用が、BaSO
4をより内部に堆積させた結果、より高い疎水性がもたらされたというものである。このため、膜がKOH溶液中に完全に浸るまでにより長い時間が必要とされる。これは3ヶ月間の浸漬後に得られる結果によって確認された。
【0175】
結果(表VII及び表VIII)に基づき、またNa
2SO
4の高い環境適合性及び調製時の安全上の注意点を考慮して、この沈殿剤が工業スケールにおける膜の製造に選ばれると考えられる。
【0176】
表VII:H
2SO
4又はNa
2SO
4を用いた沈殿によって作製した1mm幅のPPS膜(フェルトタイプ306P05 0/0、400g/m
2、Heimbach Filtrationにより供給、親水性処理は施さない)に対する25wt.%のKOH溶液中における8日間及び3ヶ月間の浸漬後に、160mA/cm
2で実施した抵抗測定に関して算出した膜の伝導率(κ)。
【0177】
【表7】
【0178】
表VIII:H
2SO
4又はNa
2SO
4を用いた沈殿によって作製した1mm幅のPPS膜(フェルトタイプ306P05 0/0、400g/m
2、Heimbach Filtrationにより供給、親水性処理は施さない)に対する25wt.%のKOH溶液中における8日間及び3ヶ月間の浸漬後に、160mA/cm
2で実施した抵抗測定に関して算出した膜の電圧降下(U)。
【0179】
【表8】
【0180】
沈殿時間に関しては、3ヶ月間の浸漬後の結果から、H
2SO
4及びNa
2SO
4の両方について、沈殿の2時間後に著しく高い伝導率が観察されることが示される(表VII)。
【0181】
後沈殿プロセス
H
2SO
4をNa
2SO
4に置き換えることに加えて、第2の沈殿剤Ba(ClO
4)
2をBaCl
2に置き換える可能性を調査した。
図2に描かれる鉛直方向の沈殿プロセスの代わりに、「後沈殿」プロセスを使用した。後沈殿とは、マトリックス材料を第1の溶液(Ba塩)に1時間曝した後、2時間の乾燥工程を行うか又は行わずに、続いて第2の溶液(H
2SO
4又はNa
2SO
4)に1時間曝すプロセスを指すものである。算出した伝導率及び電圧降下に関するデータをそれぞれ表IX及び表Xに示す。
【0182】
表IX:Ba(ClO
4)
2又はBaCl
2の後にH
2SO
4又はNa
2SO
4を用いた、浸漬工程の間の乾燥工程(2時間)を行うか又は行わない後沈殿プロセス(沈殿剤溶液中における1時間+1時間の浸漬)によって作製した1mm幅のPPS膜サンプル(フェルトタイプ306P05 0/0、400g/m
2、Heimbach Filtrationにより供給、親水性処理は施さない)に対する25wt.%のKOH溶液中における8日間の浸漬後に、160mA/cm
2で実施した抵抗測定に関して算出した膜の伝導率(κ)。
【0183】
【表9】
【0184】
表X:Ba(ClO
4)
2又はBaCl
2の後にH
2SO
4又はNa
2SO
4を用いた、浸漬工程の間の乾燥工程(2時間)を行うか又は行わない後沈殿プロセス(沈殿剤溶液中における1時間+1時間の浸漬)によって作製した1mm幅のPPS膜サンプル(フェルトタイプ306P05 0/0、400g/m
2、Heimbach Filtrationにより供給、親水性処理は施さない)に対する25wt.%のKOH溶液中における8日間の浸漬後に、160mA/cm
2で実施した抵抗測定に関して算出した膜の電圧降下(U)。
【0185】
【表10】
【0186】
マトリックス材料としてのポリプロピレン(PP)の使用
ポリプロピレンマトリックス(1.6mm厚、ポリプロピレンニードルフェルト851914−000−5/5、親水性処理は施さない)上における沈殿プロセス(
図2)によって作製した膜についても抵抗測定を実行した。沈殿プロセスは1時間継続し、溶液はBa(ClO
4)
2及びH
2SO
4を使用した。測定前に、膜を25wt.%のKOHに12日間浸漬させた。算出したイオン伝導率及び膜の電圧降下に関するデータを表XIに示す。
【0187】
表XI:沈殿させていない及び1時間の沈殿プロセスにおいてBa(ClO
4)
2及びH
2SO
4を用いて沈殿させた1.6mm幅のポリプロピレンサンプル(フェルトタイプ851914−000−5/5、Heimbach Filtrationにより供給、親水性処理は施さない)に対する25wt.%のKOH溶液中における12日間の浸漬後に、160mA/cm
2で実施した抵抗測定に関して算出した膜の伝導率(κ)。
【0188】
【表11】
【0189】
沈殿プロセスによって伝導率が増大した結果、ポリプロピレン膜を介する電圧降下が減少した(表XI)。これは、これらの膜をアルカリ電解槽又は他のエネルギー変換システムに使用する際のエネルギー消費の削減に有益なものである。