【課題を解決するための手段】
【0010】
薬剤送出機器は、患者の皮膚に接着することができるような形状になっており、例えば、患者の皮膚への取付けを実現する接着層を備えた、平面状の、またはわずかに湾曲した、あるいは解剖学的に成形された底面を有することが好ましい。患者は、薬剤送出機器をパッケージから取り外し、取り付ける前に接着層から保護層を取り外す。薬剤送出機器は、薬剤送出機器がコールドチェーン保管状態から取り出された場合に機器および薬剤を周囲温度と平衡させるための遅延時間をおいて、またはおかずに、薬剤送出機器が注入の準備ができていることを使用者に対して示すことができる光学指示手段を有することが好ましい。薬剤送出機器は、薬剤送出機器の上部カバー上にあることがある、薬剤送出機器を始動するための別個のボタンを有することが好ましいが、あるいは、底面上にスイッチが存在し、皮膚に取り付けることによって薬剤送出機器が起動される。代替形態として、接着剤の保護箔を解除することによって、電気回路を起動することもできるが、薬剤送出の開始は、皮膚への取付け後に初めて可能になる。薬剤送出機器の制御システムは、皮膚への取付け前には薬剤を送出することができないようになっている。さらに別の代替形態では、好ましくは容量性センサであるセンサが、電気回路の一部である、または電気回路を起動する、あるいはセンサ信号が、薬剤送出機器を制御する処理ユニットによって処理されるという選択肢がある。容量性センサは、薬剤送出機器の底面上に直接存在していてもよいし、接着層の下に存在していてもよく、例えば、容量性センサは、薬剤送出機器の筐体に印刷されている、または取り付けられている。あるいは、容量性センサは、接着層のキャリア箔または支持フィルムに埋め込まれている。さらに別の代替形態では、容量性センサは、接着層のキャリアフィルムまたは支持フィルムに取り付けられている、または糊付けされている。さらに別の代替形態では、容量性センサは、接着層または糊自体に埋め込まれている。
【0011】
あるいは、センサは、筐体の一部である、または筐体内部に位置決めされる。センサは、機器の起動(例えば電気回路の給電)および/または送出機構による薬剤送出の開始のために、非皮膚接着位置と皮膚接着位置の間の容量の差を測定する。提示した全ての選択肢において、コールドチェーンからの機器の取出しと、電気回路の起動と、薬剤送出の開始との間には、少なくとも1つの時間遅延が存在することが好ましい。スイッチおよび/またはセンサからの信号は、プロセッサに送信されるが、ソフトウェアの設定によっては、薬剤送出機器および/もしくは薬剤の温度、またはスイッチの起動からの時間、あるいは別個の機器からのコマンドに応じて、異なる時間遅延が存在する可能性がある。薬剤送出機器の処理ユニットは、特定の待機時間または温度に達する前に起動ボタンが起動されることを防止するようにプログラムすることができる。さらに別の代替形態では、薬剤送出機器の処理ユニットは、Bluetooth接続または別のワイヤレスネットワーク接続(WLAN)などの遠隔制御システムを介して、あるいはRFIDまたはNFCチップを介して、起動および/または制御することができる。
【0012】
例えばLED灯などの光学インジケータは、例えば送出の準備ができていない、薬剤送出、送出完了、針が引き込まれた、および皮膚から取り外す準備ができたなど、薬剤送出機器の状態に応じて異なる色信号および/または異なる発行シーケンスを与えることができる。状態信号は、内部送受信ユニットを使用して携帯電話などの外部機器に並行して送信することもできる。薬剤送出機器の筐体は、ボタンおよび上部カバーで構成されることが好ましく、ボタンは、皮膚接着層と、針またはカニューレの通路とを少なくとも有する。上部カバーは、薬剤を収容しているタンクを見るための観察窓を少なくとも有することが好ましい。
【0013】
この機器は、以下のいくつかのモジュールまたはサブユニットに分割することができる。
制御ユニットを備える駆動機構。このユニットは、好ましくはバッテリによって給電され、薬剤送出機器を制御するためのプロセッサを収容している。さらに、ピストンロッドを前進させるための駆動機構は、モータ、歯車、および結合機構を備える。
【0014】
ボタンおよび観察窓を備えることが好ましい上部カバー。
流体経路ユニット。この流体経路ユニットは、針挿入および引込み機構の機械部分と、管材を介して互いに接続されたカニューレおよびスパイクとを備える。筐体は、カートリッジホルダおよびカートリッジを備える。この流体経路ユニットは、滅菌部分であり、この流体経路ユニットのカートリッジとの結合は、以下で述べるように制御された滅菌状態下で行われる。
【0015】
底面を備え、好ましくは、容量性センサ、接着層、および接着層のためのカバーまたは剥離層を備える、底面モジュール。
様々な場所で、これらの様々なサブユニットを組み立てて、薬剤送出機器を形成することができる。例えば、流体経路は、工場Aで組み立て、場所Bで滅菌するが、滅菌カートリッジの組付けは、場所Cで行うこともできる。最後に、場所Dで、薬剤を収容した滅菌流体経路ユニットを、駆動機構、上部サブユニット、および底部サブユニットと結合することができる。
【0016】
薬剤送出機器内の異なるサブユニットは、互いに電子的及び/または機械的に結合された異なる機能を提供して、信頼性が高く、また患者にとって容易な、薬剤送出機器の機能を提供する。
【0017】
注入が完了した後で、患者は、薬剤送出機器を皮膚から取り外すが、注入機器の筐体、および/または例えば接着層のキャリアフィルムなどの接着層は、皮膚からの取外しを容易にするためのグリップあるいは追加のフィルムまたはリップを備えることがある。
【0018】
好ましくはボーラス注入器またはパッチ注入器である注入機器は、モータ、歯車機構、およびタンクまたはカートリッジ内でプランジャを前進させるピストンロッドを備える駆動機構を備える第1の区画と、タンクの内容物を送出のための針またはカニューレに接続することができる流体経路を備える第2の区画とを有する、筐体を備える。後者の区画は、針挿入および引込み機構を有し、この針挿入および引込み機構は、駆動機構に永続的に結合されるか、あるいは挿入および引込み手順中に選択的に駆動機構に結合される。
【0019】
永続的な結合では、駆動機構は、1方向ラチェットを使用して挿入および引込み機構に結合されることが好ましく、1つの回転方向に駆動機構が回転することにより、ピストンロッドが前進する。この回転方向には、1方向ラチェットシステムは、挿入機構が駆動帰庫運結合されないように構成されている。1方向ラチェットシステムは、駆動機構と挿入機構の間に機能的に位置決めされた部分に直接または間接的に形成された非対称歯部の形状であることが好ましいが、この1方向ラチェットシステムは、挿入機構を起動するのに必要なトルクを変換することなく、互いに摺動して歯止めする。この1方向ラチェットは、軸方向ラチェットまたは径方向ラチェットとして構成される可能性がある。軸方向ラチェットでは、非対称歯部などの歯止め要素が、回転軸線に沿った方向を向いている。径方向ラチェットでは、歯部または可撓性アームなどの歯止め要素が、径方向を向いている。駆動機構が反対方向に回転することにより、非対称歯部が押圧されて締り嵌め(フォームフィット)構成になり、駆動機構の回転が挿入機構に伝達され、挿入機構または引込み機構が起動されることが保証される。駆動機構と挿入機構の間の結合は永続的であり、好ましくは弾性ばね手段によって付勢されている。駆動機構の回転は、1方向にしか針挿入機構に伝達されない。反対の回転方向では、ラチェット機構は、歯止めを行うとクリック音を生成して、薬剤が薬剤送出機器から吐出中であることを患者に対して示す。薬剤が吐出された後で、駆動/歯車機構の回転方向が再度逆転されて、薬剤送出機器の針引込み機構を始動する。
【0020】
結合機構の別の態様では、駆動機構は、針挿入および引込みシーケンス中にのみ選択的に針挿入および引込み機構に結合され、駆動機構は、投与量送出中には挿入機構から結合解除される。
【0021】
この結合および結合解除機構は、筐体内、好ましくは筐体に対して軸方向に固定され、長手方向軸線の周りで回転可能な、長手方向軸線を有する第1の部分を含む第1の区画内に実装され、この第1の部分は、長手方向軸線に沿って配置されている第2の部分との歯車係合、好ましくはねじ係合を有する。第1の部分と第2の部分の間の歯車係合、好ましくはねじ係合は、回転および/または軸方向平行移動によって2つの部分を互いに対して移動させるために超える必要がある第1の摩擦抵抗または摩擦を有する。この歯車係合は、回転軸線に対して斜めの角度を有する2つのハブの間のはすば歯車であってもよい。2つの部分の間の摩擦抵抗は、2つの部分の係合要素の間の嵌合、許容差、相互作用表面の表面位相幾何学、選択された材料の種類、およびシリコーン油またはテフロンスプレーなどの任意の潤滑剤の有無によって決まる。第2の部分は、第1の部分の長手方向軸線に沿って軸方向に移動可能(可動)であり、好ましくは、第1の部分および第2の部分の軸線は互いに対して位置合わせされている。さらに、第2の部分は、筐体に対して直接または間接的に摩擦嵌め嵌合しており、この摩擦嵌め嵌合は、第2の摩擦抵抗を有する。これは、ピストンロッドを前進させる従来技術の米国特許第9107999号に記載されている締り嵌め(フォームフィット)構成とは対照的であり、摩擦嵌め構成は、第1の部分と第2の部分の間の軸方向のシフトおよび相対的な回転を可能にするのに対して、締り嵌め(フォームフィット)では、回転なしの軸方向シフトしか行うことができない。
【0022】
第2の摩擦抵抗は、第1の摩擦抵抗について上述したのと同様のパラメータによって規定される。結合および結合解除機構は、さらに、第1の摩擦抵抗が第2の摩擦抵抗未満であり、第1の部分が第1の回転方向に回転すると第2の部分が第1の部分から遠ざかるように長手方向軸線に沿って軸方向に移動するようになっており、これが2つの部分の間のねじ係合または歯車係合によって引き起こされることによって規定される。軸方向シフト中には、第2の部分は、筐体への摩擦嵌合によって、回転が防止されている、または少なくとも制約されている。したがって、軸方向シフト中には、第2の部分は、回転せずにシフトするだけであるか、あるいは軸方向シフトと回転運動を組み合わせて行う。第1の部分が第1の回転方向と反対の第2の回転方向に回転すると、第1の部分と第2の部分の間の軸方向距離が減少する。例えばねじ係合の端部に到達するなど、第1の部分と第2の部分の間の係合要素の端部に到達すると、第1の部分と第2の部分とが軸方向に移動することなく一緒に回転するが、これは、第1の部分と第2の部分とが遠ざかるように移動し、かつねじ係合または歯車係合の端部によってそれ以上遠ざかるように移動することができない1つの位置で、2つの部分がねじ係合または歯車係合の他端で互いに当接したときに、起こる。第2の部分と第1の部分の間の軸方向距離の減少は、好ましくは、第1の部分と第2の部分の軸方向または径方向の当接をもたらすことができるが、あるいは、第2の部分と第1の部分が結合係合して、一緒に回転することができる。したがって、第1の部分が第1の回転方向に回転すると、それ以上の軸方向の移動が係合によって許されなくなるまで第2の部分が第1の部分から遠ざかるように軸方向に移動し、第2の部分が第1の部分と共に回転し、摩擦嵌め係合がこの回転を妨げず、このことは、筐体との締り嵌め(フォームフィット)係合とは対照的である。回転方向の逆転は、第2の部分が、それ以上の軸方向の移動が許されなくなるまで第1の位置に軸方向に戻る、または第2の部分が第1の部分に当接して、第2の部分が第1の部分と一緒に第2の回転方向に回転させられることを意味する。
【0023】
結合機構は、第1の部分と第2の部分の間にねじ係合または歯車係合を有しており、第2の部分上に存在する少なくとも1つのねじフォロワと係合する第1の部分上に存在する少なくとも1つのねじセグメントとして、または第1の部分上に存在する少なくとも1つのねじフォロワと係合する第2の部分上に存在する少なくとも1つのねじセグメントとして構成されている。ねじセグメントおよびねじフォロワは、それぞれに長さを有し、ねじまたはねじセグメントの端面が好ましくは径方向に互いに当接すると、相対的な回転および/または軸方向シフトが防止され、第1の部分と第2の部分とが一緒に回転する。代替形態では、第1の部分と第2の部分の間の歯車係合ははすば歯車であり、第1の部分の回転方向が変化すると、第2の部分を軸方向にシフトさせ、第2の部分と結合または結合解除する。
【0024】
第2の部分は、摩擦嵌め係合によって筐体に直接または間接的に結合されており、第2の部分は、第2の摩擦抵抗またはしきい値摩擦抵抗を超えた場合に、筐体に対して回転し、及び/または軸方向に摺動することができる。
【0025】
摩擦嵌め係合は、第2の部分と筐体の間に直接存在していてもよく、例えば、少なくとも1つのOリング、少なくとも1つの可撓性要素、または摩擦結合によって実現される。この摩擦嵌め係合は、好ましくは針挿入機構を収容している区画と駆動機構との間に滅菌バリアを形成することもできる。あるいは、第2の部分の摩擦嵌め係合は、例えば筐体に対して軸方向に固定され、長手方向軸線に沿って回転しないように配置されている第3の部分を介した筐体との間接結合によって実現され、この第3の部分は、筐体との間で、第3の摩擦抵抗を有する第2の摩擦嵌め係合をしている。この第3の摩擦抵抗は、結合の開放および閉止が正しく機能するために、第2の摩擦抵抗を超えている。したがって、第1の部分は、第3の部分と筐体の間の第3の摩擦抵抗未満である第2の部分と第3の部分の間の第2の摩擦抵抗未満である第1の摩擦抵抗を有する第2の部分との係合状態にある。この摩擦嵌め係合の縦続は、それら全てが、またはそれらのうちの少なくとも1つが、好ましくは針挿入機構または流体経路を収容している区画と駆動機構との間に滅菌バリアを形成するように構成することができる。
【0026】
1つの例では、第1の部分、第2の部分、および第3の部分は、同心円状に配置されたスリーブとして構成され、第3の部分は、第1および第2の部分を取り囲み、したがって、第3の部分は、第1の部分および第2の部分の周りに嵌合する、好ましくは円形の内側寸法を有する。第1の部分と第2の部分の構成は、第2の部分が第1の部分を取り囲むように、または第1の部分が少なくとも部分的に第2の部分を取り囲むようにすることができる。第3の部分と、第3の部分の筐体との第2の摩擦嵌め係合とが、滅菌バリアを形成する。滅菌バリアは、第3の部分が軸方向に移動することなく筐体に対して回転することができるように、締り嵌め(フォームフィット)係合または圧入係合として構成することができる。滅菌バリアは、駆動機構を収容することが好ましい第1の区画と、針挿入機構を備える第2の区画との間に形成されることが好ましい。あるいは、第2の摩擦嵌め係合は、挿入機構を収容する薬剤送出機器のサブアセンブリを取り囲む周囲と外部との間に滅菌バリアを形成する。滅菌バリアは、2つの要素の嵌合によって直接形成してもよいし、あるいは別個の要素を介して形成してもよく、例えば、筐体または筐体の一部は、第3の部分と筐体の間の境界を覆うエラストマでカプセル化される。好ましくはTPEであるこのエラストマは、2成分射出成形技術を用いて筐体または筐体の一部の周りに射出成形されることが好ましい。あるいは、Oリングを、滅菌バリアを提供するための別個の要素としてもよい。
【0027】
結合機構の別の態様では、第2の部分は、第1の部分と第3の部分の間に第1の部分の長手方向軸線に沿って配置されることが好ましい。したがって、第1の部分、第2の部分、および第3の部分の長手方向軸線は、全ての部分で同じであることが好ましい。第2の部分は、第1の部分が第1の回転方向に回転すると第3の部分に向かって移動可能(可動)であり、第2の部分は、第1の部分が第2の回転方向に回転すると第1の部分に向かって移動可能(可動)である。これらの移動は、縦続摩擦抵抗と、第1の部分と第2の部分の間のねじ係合との相互作用の組合せによって引き起こされる。第2の部分と第3の部分は、1方向クラッチまたは結合、好ましくは第2の部分が第3の部分に当接して、第1の部分、第2の部分、および第3の部分が大地の回転方向に共に回転すると閉じる1方向ラチェットシステムを形成する。第1の部分が第1の回転方向に回転すると、第2の部分は、1方向結合が閉じて、第1の部分、第2の部分、および第3の部分が一緒に回転するようになるまで、第3の部分に軸方向に接近する。その後に第1の部分が第2の回転方向に回転した場合には、第2の部分は、第3の部分から遠ざかるように第1の部分に向かって軸方向に移動し、それにより結合を開放する。第2の部分が第1の部分に当接すると、第1の部分および第2の部分が両方とも第2の回転方向に回転する。上述の代替形態では、第2の部分と第3の部分の間に永続的な1方向クラッチまたはラチェットが存在し、例えば、第1の部分によって駆動される軸方向に移動する第2の部分はない。この例では、1方向クラッチは、ばね手段によって永続的に閉止または付勢され、第1の回転方向に回転すると、第1の部分、第2の部分、および第3の部分が第1の回転方向に回転することが保証される。第2の回転方向に回転すると、第2の部分と第3の部分とが互いを歯止めし、これにより、第2の部分が回転し、第3の部分が筐体に対して、ラチェットシステムの寄生トルクが第3の部分の筐体との摩擦係合未満になるような摩擦抵抗または摩擦嵌めの状態になることが保証される。
【0028】
結合機構の閉止による第3の部分の回転は、本発明では、針挿入および/または針引込み機構を起動するために使用される。第3の部分が第1の回転方向に回転すると、針制御要素であることが好ましい別の部分と相互作用する少なくとも1つのカムとして構成されることが好ましい結合を介して、針制御要素が第1の部分、第2の部分、および第3の部分と一緒に第1の角度を超えて回転することが保証される。針制御要素が第1の特定の角度を超えて回転すると、針挿入機構が起動され、針カニューレホルダが針引込み位置から針挿入位置に移動することが保証される。第1の回転方向の第1の回転の直後であることもあり、あるいは第1の部分が第2の方向に特定の回転数だけ回転した後であることもある、第3の部分の第1の回転方向のさらなる回転の間、第3の部分は、第1の回転方向に第2の角度を超えて回転し、針制御要素が回転および/または平行移動して針引込み機構を起動することを保証する。
【0029】
さらに別の態様では、回転ステップおよび結合ステップの特定のシーケンスを有する方法も提供される。好ましくは、最初に、第1の部分が第1の回転方向に回転して、第2の部分と第3の部分の間の結合を閉止し、針制御要素を第1の角度を超えて回転させて、針挿入機構を起動する。その後に、第1の部分が第2の回転方向に回転し、それにより結合が開放され、ピストンロッドが前進して、タンクから薬剤を吐出する。タンクが空になったら、第1の部分の回転方向が第1の回転方向に再度逆転され、第2の部分と第3の部分の間の結合が再度閉止され、針制御要素が第2の角度を超えて回転して、針引込み機構を起動する。
【0030】
駆動機構を針挿入および引込み機構に結合するこの方法の追加ステップが、針挿入機構を起動するための結合の最初の閉止の前に追加される可能性がある。薬剤送出機器は、好ましくは、薬剤を備えたタンクを備え、薬剤は、タンク内に存在するプラグまたはプランジャを前進させることによって送出される。プランジャの前進は、駆動機構によってピストンロッドを前進させることによって実施される。ピストンロッドの端部とプランジャとの間に軸方向の隙間がある場合には、駆動機構の第1の回転方向の回転を必要とする針挿入機構を起動する前に、まず駆動機構を第2の回転方向に回転させることによってピストンロッドを前進させると有利である。したがって、この追加ステップは、第1の部分を第2の回転方向に回転させて駆動機構を起動して、薬剤を収容しているタンク内に存在するプランジャに向かってピストンロッドを前進させた後で、第1の部分を第1の回転方向に回転させて第2の部分と第3の部分の間の1方向クラッチを閉止することを含む。ピストンロッドの端部とプランジャの間の隙間は、不完全に充填されたタンクを使用していることによるものである可能性がある。ピストンロッドの最初の前進は、工場において、タンクを組み付ける間に行ってもよいし、あるいはその後に患者が使用中に行ってもよい。
【0031】
第1の部分は、駆動機構のモータに直結合される、または結合可能であるか、あるいは、歯車構成を介して駆動機構のモータに結合される。1つ目の選択肢では、駆動機構のモータは、1方向ラチェットシステムを介して第1の部分を駆動し、例えば、モータが1つの回転方向に回転すると、第1の部分が回転し、モータが反対の回転方向に回転すると、ラチェット、またはラチェットと爪機構が起動されて、第1の部分が回転せず、ラチェット機構がクリック音を生じるようになっている。駆動機構のモータは、別個の歯車機構を使用して、駆動機構を起動して、ピストンロッドを前進させる。2つ目の選択肢では、第1の部分、およびピストンロッドを前進させる駆動機構の両方が、単一の歯車機構に永続的に結合され、モータの両回転方向の回転は、第1の部分の回転、ならびに/あるいはピストンロッドの前進および/または引込みを行う駆動機構の回転を生じる。第1の部分を回転させるための1つ目の選択肢および2つ目の選択肢の歯車機構は、第1の部分が回転させられる前に無負荷行程を含むように適応させることができる。
【0032】
上述の結合機構を備える薬剤送出機器は、ボーラス注入器、パッチ注入器、またはパッチポンプであることが好ましい。
上記の結合および結合解除機構は、駆動機構と針挿入および引込み機構との間の結合を説明する。以下では、針挿入および引込み機構、ならびに駆動機構を針挿入機構に結合する方法を、薬剤送出機器の3つの実施形態について説明する。
【0033】
薬品を隔壁を有するタンクから送出するための薬剤送出機器の針挿入および引込み機構であって、薬剤送出機器が患者の皮膚に取付け可能な底面を備えた筐体を有する、針挿入および引込み機構を提供することは、1つの特徴である。タンクは、薬品が充填されたアンプルまたはカートリッジであることが好ましい。カートリッジは、片側がプランジャで閉じられ、反対側がスパイクで穿孔するのに適した隔壁で閉じられている円筒形管であることが好ましく、薬剤は、プランジャと隔壁の間に位置する。タンクは、薬剤送出機器の厚さの点で省スペース構成にするために薬剤送出機器の底面(または患者の皮膚表面)と平行に配向されることが好ましい長手方向軸線を有する。薬剤送出機器は、タンクの隔壁に挿入するためのスパイクを備えたスパイク挿入器キャリアをさらに有し、スパイク挿入器キャリアは、スパイクが隔壁を貫通しない第1の位置とスパイクが隔壁を貫通する第2の位置との間で底面と平行に移動可能(可動)である。スパイク挿入器キャリアは、スパイク挿入器キャリアを第1の位置から第2の位置に向かって移動させるように意図された付勢手段によって付勢されている。付勢手段は、例えば、ばね手段、圧縮ばね、コイルばね、波形ばね、または板ばねなどとすることができる。さらに、針挿入および引込み機構は、針または鋼製カニューレを保持するカニューレホルダを備え、カニューレホルダは、針引込み位置と針挿入位置の間で底面に対して直交して直線状に移動するように筐体内を案内される。代替形態では、カニューレホルダは、例えば底面の法線に対して角度をなす傾斜挿入を行うように筐体によって案内され、この場合には、薬剤送出機器の高さをさらに減少させることができる。針引込み位置は、患者の皮膚から最も遠く、針挿入位置は、好ましくは皮下送出のためのカニューレの位置によって規定される。カニューレホルダは、例えば、カニューレの周りに射出成形され、好ましくは高分子材料で構成される。スパイク挿入器キャリアは、カニューレホルダを針引込み位置から針挿入位置に駆動する駆動手段、好ましくは第1の案内手段を有する。カニューレホルダは、好ましくは、第1の案内手段と係合して、付勢手段がカニューレホルダを針引込み位置から針挿入位置に移動するように付勢するようにする、変換手段を有する。さらに、針制御要素は、挿入および引込み機構の一部であり、針制御要素は、カニューレホルダまたはカニューレホルダに取り付けられた部分に直接または間接的に当接して、スパイク挿入器キャリアを付勢する付勢手段の力に逆らってカニューレホルダを針引込み位置に保持する、アレスタまたは止め部を有する。針制御要素は、これにより、カニューレホルダとスパイク挿入器キャリアが第1の案内手段および変換手段を介して互いに係合するので、スパイク挿入器キャリアが第1の位置から第2の位置に向かって移動するのを防止する。また針制御要素のアレスタはそれと共に、カニューレホルダが針引込み位置に移動するのを阻止する。
【0034】
可撓性管材の形状であることが好ましい流体経路は、スパイクと針との間に流体接続が存在するように、カニューレまたはカニューレホルダとスパイク挿入器キャリアのスパイクとの間に位置決めされることが好ましい。スパイク挿入器キャリアは、筐体内を、筐体あるいは例えば底面および/または上部カバーなど筐体の一部に存在する水平直線状ガイド、チャネル、溝、または突起であることが好ましい少なくとも1つの案内スロットによって側方に案内されるか、あるいは、スパイク挿入器キャリアは、例えば流体経路ユニットなどのサブアセンブリまたは筐体部分に固定される。筐体内を摺動するスパイク挿入器キャリアの最側方位置は、止め部、ならびにキャリアおよび/または筐体上に存在するカウンタ止め部によってもたらされる。低摩擦材料および/または潤滑剤は、スパイク挿入器キャリアと筐体の間の摩擦損失を低減するように選択される。スパイクおよびスパイク挿入器キャリアは、好ましくは射出成形プロセスによって1つの材料から1ステップで構成されるように構成されることが好ましい。スパイク挿入器キャリアのスパイクは、鋭利な先端または終端部を有する中空シリンダとして構成される。先端の反対側は、スパイク挿入器キャリアの底面に取り付けられる、または取付け可能である。先端は、タンクの隔壁を貫通するように構成されており、したがって、スパイクおよび/またはスパイク挿入器キャリアの材料は、例えばPEEK、PPSU、POM、または繊維強化高分子材料などの高弾性高分子など、剛性材料である必要がある。代替形態では、スパイクは、金属から構成され、別の製造ステップでスパイク挿入器キャリアの底面に取り付けられる。スパイクは、隔壁を備えたタンクの長手方向軸線と平行に配置されることが好ましい長手方向軸線を有する。代替形態では、タンクが薬剤送出機器内で逆転されて、スパイク挿入器キャリアのスパイクが、隔壁ではなくタンクのプランジャを貫通するようになっている。いずれの構成でも、このシステムは、隔壁またはプランジャの貫通後に、薬剤がタンクから管材を介してスパイクを通ってカニューレに流れることができるように構成されている。スパイク挿入器キャリアは、好ましくは筐体によって案内されて、タンクの長手方向軸線と平行であることが好ましい直線移動を行い、好ましくは、タンクおよびスパイクの両方の長手方向軸線が、互いに位置合わせされて、タンクの隔壁の中心が穿孔されるようになっている。
【0035】
スパイク挿入器キャリアを付勢する付勢手段は、好ましくは筐体または筐体の一部とスパイク挿入器キャリアとの間に位置決めされて、スパイク挿入器キャリアが隔壁から(または代替形態ではプランジャから)最も遠い位置から隔壁貫通位置に向かって移動するようになっている。付勢手段は、ばね、磁気付勢手段、電磁気付勢手段、熱駆動付勢手段、または気体駆動付勢手段である。付勢手段の解除後に、付勢手段からスパイク挿入器キャリアに力が伝達され、これにより、その後に隔壁またはプランジャが貫通されることが保証される。停止位置は、スパイク挿入器キャリアの基部またはスパイクの基部の、隔壁との当接によって、あるいは筐体上に存在する別個の止め部によって、規定される。
【0036】
スパイク挿入器キャリアは、変換手段を介してカニューレホルダを案内および/または付勢する直線状ガイドとして構成されることが好ましい駆動手段または第1の案内手段を備える。変換手段は、駆動手段の直線状ガイドに嵌合する突起として構成されることが好ましい。直線状ガイドは、キャリアまたは筐体の底面に対して斜めに配置され、スパイク挿入器キャリアが側方に移動すると、カニューレホルダを患者の皮膚に向かって下方に移動させるようになっている。底面の法線に対する直線状ガイドの傾斜角は、20°から80°の間、好ましくは30°から70°の間、より好ましくは40°から60°の間で様々である。代替形態では、駆動手段は、カニューレホルダの挿入の速度および/または力を制御するように、例えばS字型カーブなどの非直線状カーブの形状である。
【0037】
好ましくは、カニューレホルダを針引込み位置から針挿入位置に移動させるためには、付勢手段を解除し、スパイク挿入器キャリアの駆動手段を起動する必要がある。これを行うためには、針制御要素を第1の角度を超えて回転させて、針制御要素のアレスタとカニューレホルダとの間の当接が解除されるようにする。これにより、スパイク挿入器キャリアが、付勢手段の力によって駆動されて、第1の位置から第2の位置に移動することができ、それにより、駆動手段が、それと同時にカニューレホルダを針引込み位置から針挿入位置に移動させることが保証される。針挿入位置に向かうカニューレホルダの移動は、カニューレホルダが、筐体上、筐体に取り付けられた部分上、筐体の底部上、さらには針制御要素上に位置決めすることができる第2のアレスタに当接すると、終了する。
【0038】
針制御要素は、針制御要素が第1の角度を超えて回転したときにカニューレホルダを針挿入位置にロックするロック機構を有することが好ましい。ロック機構は、針が注入中に引き込むこと、または外部の力によって針が針引込み位置から針挿入位置に移動する可能性があることを防止する。ロック機構は、針制御要素上に存在する少なくとも1つのロックアームまたはラッチ要素として構成されることが好ましい。ロックアームに取り付けられる、または取付け可能な部分は、カニューレホルダ上に存在する対応する部分、受け具、切抜き、可撓性アーム、またはラッチ要素と一致することができる。これらの部分は、例えば撓んでロック位置になるアームによる針挿入位置に向かう移動によってロック機構が起動されるように構成される。好ましくは、ロックアームの端部は、カニューレホルダ内に存在する凹部と一致する先端で終端する。
【0039】
カニューレを引き込むためには、カニューレホルダは、挿入位置から引込み位置に戻らなければならない。好ましくは、針制御要素は、針の引込み、および上述のロック機構の解除を保証する。針制御要素は、同じ方向にさらに回転し、及び/または平行移動することが好ましく、針制御要素は、針引込み手段を有する。針引込み手段は、針制御要素が、ロック機構を解除し、カニューレホルダを針挿入位置から針引込み位置に戻すように駆動しながら、第1の角度を超えるさらなる角度を超えて回転すると、カニューレホルダに当接する針引込みアームとして構成されることが好ましい。あるいは、針引込み手段は、針制御要素上には存在せず、例えばカニューレホルダの針引込み位置から針挿入位置への移動によって付勢される、または歪む、筐体の直線状ガイド内に存在するばね手段など、弾性要素として構成される。後者の場合には、ラッチ要素が、針カニューレホルダを挿入位置に固定し、針制御要素が、上記のさらなる回転中に、または第1の回転角度より大きな角度になったときに、この係合を解除する。
【0040】
針の挿入は、薬剤送出機器の底部に対して傾斜しているスパイク挿入器キャリアの第1の案内手段または直線状ガイドによって起動される、または動力を与えられることが好ましい。挿入位置になると、この案内手段に近接する第2の案内手段を、カニューレホルダの変換手段が利用できるようになる。スパイクが挿入されたキャリアの側方移動が中断されて、第1の案内手段に接続された第2の案内手段を変換手段が利用できるようになる。針の引込みは、スパイク挿入器キャリアのさらなる側方移動によって動力が与えられることはないが、これは、そのようになるとより大きな側方空間を占めることになり、さらに、隔壁を貫通したスパイクがスパイク挿入器キャリアがそれ以上側方に移動するのを防止するからである。したがって、カニューレの引込みは、ばね手段とすることができる別の手段、またはカニューレホルダを押す、または引いて針引込み位置にする針制御要素によって、動力を与えられる。第2の案内手段は、カニューレホルダを好ましくは垂直方向に開始位置に戻るまで案内する案内スロットであることが好ましい。スパイク挿入器キャリアは、カニューレホルダを針引込み位置に戻るまで直線状に案内する、底面の法線と平行に配向された直線状ガイドとして構成されることが好ましい、第1の案内手段に近接していることが好ましい第2の案内手段を有する。筐体または筐体に取り付けられた部分も、単独で、または第2の案内手段と協働して、針引込み中にカニューレホルダを案内する、底面の法線と平行に配向されることが好ましい直線状案内スロットを有することができる。
【0041】
針制御要素は、筐体に固定される、または筐体と係合して、筐体、または例えば薬剤送出機器の底面に対して直交するように配置された壁面などの筐体の一部に対する針制御要素の回転および/または平行移動を可能にすることが好ましい。したがって、筐体または筐体の一部は、少なくとも2つの案内手段、すなわち針制御要素上に存在するこのマスクは突起である少なくとも2つの対応するキーと一致する第3の案内スロットおよび第4の案内スロットとして構成されることが好ましい第3の案内手段および第4の案内手段を有する。好ましくは、これらのキーは、針制御要素の表面から突出し、第3の案内手段および第4の案内手段は、筐体の溝として構成される。案内スロットの長手方向軸線は、互いに対して角度をなして配向されることが好ましい。針制御要素は、好ましくは針制御要素と係合する少なくとも1つのカムまたはギヤホイールである係合手段を有する第3の部分を回転させることによって駆動されることが好ましい。第3の部分がその中心軸線の周りで回転すると、上記の少なくとも2つのキーが上記の少なくとも2つの案内手段内で枢動および/または移動するにつれて、針制御要素が回転および/または平行移動する。この回転と、組み合わされた平行移動とは、第3の部分の係合手段と針制御要素の間の様々な相互作用により、針制御要素の回転中心を変化させることによって制御される。針制御要素自体は、駆動機構の少なくとも1つのカムまたはギヤホイール、好ましくは第3の部分と相互作用する、好ましくは案内輪郭または案内スロットである、案内要素を有する。したがって、好ましくは、案内輪郭は、針制御要素の表面を貫通する非直線状の湾曲した開口の形状をしている。好ましい実施形態では、2つのキーは、針制御要素の表面から突出し、案内輪郭は、針制御要素の同じ表面を貫通する。好ましくは、駆動機構の少なくとも1つのカムまたはギヤホイールは、針制御要素の案内輪郭と係合する。案内輪郭は、閉じた、または部分的に開いた、非円形のループまたはカーブとして形成されることが好ましい。案内輪郭の表面は、平滑にすることができるが、歯部を備えていてもよい。後者の場合には、カムと案内輪郭の間の相互作用は、2つの係合する歯部の間の歯車係合である。
【0042】
駆動機構または第3の部分の少なくとも1つのカムはそれぞれ、駆動機構または第3の部分の回転角に応じて、針制御要素の案内輪郭の異なる部分と相互作用する可能性がある。カムと案内輪郭の相互作用が様々であることにより、回転中心を変化させたり、あるいは針制御要素に作用する力のベクトルを制御して、好ましくは針制御要素の1つのキーが最初に2つの案内手段のうちの一方の中で回転し、その後に、両方のキーが案内手段の中で回転および軸方向の平行移動を組み合わせて行うようにしたりすることが可能になる。第3の部分は、上述の結合機構を用いて駆動機構に結合される、または結合可能である。
【0043】
好ましい実施形態では、第1のキーは第3の案内手段内で回転するだけであるが、第2のキーは、第4の案内手段内で軸方向に摺動する。この第1の回転ステップは、針挿入ステップに対応することが好ましい。針の引込みに対応する第2のステップで、第1のキーおよび第2のキーの両方が案内手段を通って軸方向に平行移動し、第3の案内手段と第4の案内手段の間の角度により、針制御要素は、さらなる角度、または第2の角度を超えてさらに回転および平行移動させられる。
【0044】
針制御要素は、好ましくは針制御要素の案内輪郭と相互作用する少なくとも1つのカムを有することが好ましい第3の部分によって回転および/または平行移動することが好ましい。第3の部分を回転させる駆動機構は、電気モータ、ねじ付きロッドの回転数を減少させ、伝達可能なトルクを増大させるためにウォームホイール構成を含むことが好ましい歯車を備える。あるいは、基体駆動システム、ばね、および電磁ドライブトレーンなど、他のパワーパッケージを、駆動機構に使用することもできる。
【0045】
上述の針挿入および引込み機構を有する薬剤送出機器の針の挿入および引込みを行うために、
a)針制御要素を第1の角度を超えて回転させて、アレスタとカニューレホルダの間の当接を解除して、カニューレホルダを針引込み位置から針挿入位置に移動させ、それと同時にスパイクをタンク内に挿入するステップと、
b)薬剤送出機器の駆動機構を使用して、流体経路を介してタンク内に存在する薬剤を注入するステップと、
c)針制御要素をさらなる角度を超えて回転および/または平行移動させて、針を針挿入位置から針引込み位置に戻すステップと、
を含む方法が提供される。
【0046】
この方法は、駆動機構を針挿入機構に結合する結合シーケンスを含むこともある。好ましくは、ステップ(a)の前に、結合機構を閉じる必要があり、第1の部分が第1の回転方向に回転することによって第2の部分を第3の部分に移動させ、第3の部分は、針制御要素の案内輪郭と相互作用するカムを有することが好ましい。第2の部分の移動により、第2の部分が第3の部分に結合され、1方向ラチェットが閉止される。第3の部分は、針制御要素を第1の回転方向に第1の角度を超えて回転させて、針制御要素のアレスタをカニューレホルダから解除し、この方法のステップa)を開始する。好ましくは、この方法のステップb)では、結合機構の第1の部分の回転が第2の回転方向に逆転され、その結果として結合が開放され、第3の部分が第1の部分と共に回転しなくなり、カニューレホルダが針挿入位置に残る。回転方向の逆転により、ねじ付きロッドが回転し、これによりピストンロッドが薬剤送出のために前進することになる。好ましくは、カートリッジが空になった後で、この方法のステップc)が開始され、駆動機構の回転方向が、再度第1の回転方向に逆転される。第1の部分と、第2の部分と、第3の部分との間の結合機構は閉止され、第3の部分のカムが、針制御要素を回転および平行移動させて、カニューレホルダのロック機構が解除され、針カニューレホルダが、好ましくは針引込みアームによって針引込み位置に戻るように平行移動するようにする。代替の方法では、駆動機構が起動されて、好ましくはステップ(a)の前に、ピストンロッドが針挿入機構を解除することなく前進して、ピストンロッドとタンク内のプランジャまたはプラグとの間の軸方向距離を減少させるようにする。
【0047】
以下、針挿入および引込み機構の第2の例について述べる。この針挿入機構は、隔壁を有するタンクから薬剤を送出する注入機器に適しており、この針挿入機構は、患者の皮膚に取付け可能な底面を有する筐体内に実装される。この機構は、底面に対して平行でもよいし、直交していてもよいし、または傾斜していてもよい回転軸線を有するステアリングドラムを有する。このステアリングドラムは、好ましくはばね手段、磁気付勢手段、または電磁気付勢手段である付勢手段、あるいはモータによって、1つの回転方向に回転するように付勢されている。ステアリングドラムは、好ましくは回転軸線に平行に延びる壁面上の案内スロットである案内手段を有し、さらに、このステアリングドラムは、回転軸線と平行に延びる壁面上に位置する第1および第2のアレスタを有する。好ましくは、第1のアレスタおよび第2のアレスタは、径方向外向きまたは内向きの方向に向いており、ステアリングドラムの回転軸線と平行に延びる壁面の異なる角度および/または軸方向位置に位置決めされていることが好ましい。針挿入機構は、針またはカニューレを保持するカニューレホルダを有し、このカニューレホルダは、筐体によって直線状に案内され、筐体の底面に対して直交する、または傾斜した方向に針引込み位置から針挿入位置に移動可能である。カニューレホルダは、変換手段によってステアリングドラムおよび/または案内手段に直接または間接的に結合され、変換手段は、カニューレホルダ上に存在して案内手段と一致する直線状突起の形状であることが好ましい。案内手段は、そのように構成され、あるいは好ましくはステアリングドラムの回転軸線に対して傾斜角を有し、カニューレホルダを針引込み位置から針挿入位置に向かって移動するように付勢または駆動する。
【0048】
針挿入および引込み機構は、第1のアレスタに当接して、ステアリングドラムが1つの回転方向に回転することを防止され、その結果として針カニューレホルダが針引込み位置に留まるようにする、止め手段を有する。
【0049】
好ましくは、この針挿入機構では、止め手段が、第1の止め手段角度を超えて回転し、それにより止め手段と第1のアレスタの間の当接を解除して、第2のアレスタが止め手段を受けるまで、ステアリングドラムが付勢手段によって第1の角度を超えて上記の1つの回転方向に回転するようにする。ステアリングドラムが第1の角度を超えて回転する間に、カニューレホルダが、針引込み位置から針挿入位置に移動し、変換手段と係合する案内手段の相互作用によって駆動される。
【0050】
ステアリングドラム上の案内手段は、長手方向軸線と平行に延びる内壁または外壁の正弦曲線の形状であることが好ましく、ステアリングドラムが第1の角度を超えて回転するときに、変換手段は、この正弦形極線の第1の部分に極大部から極小部まで従動する。針カニューレホルダは、歯車係合によって針引込み位置から針挿入位置に移動する。
【0051】
針挿入機構は、止め手段の回転軸線の周りのさらなる回転を可能にすることが好ましく、止め手段は、第1の止め手段角度より大きい第2の止め手段角度までさらに回転し、それにより止め手段と第2のアレスタの間の当接を解除して、ステアリングドラムがばね手段の付勢力によって第2の角度を超えて回転するようにする。ステアリングドラムがさらに回転する間、カニューレホルダの変換手段は、好ましくは正弦カーブである案内手段の第2の部分に、極小部から極大部まで従動し、カニューレホルダは、針挿入位置から針引込み位置に戻る。この移動の間、カニューレホルダは、筐体によって、または筐体に取り付けられた部分によって直線状に案内される。
【0052】
針挿入機構は、ステアリングドラムに取り付けられた、または取付け可能な、あるいは接続可能な、ステアリングドラムの回転軸線に沿って配置された歯車を有することが好ましく、この歯車は、一致する第2のハブを有することが好ましいスパイクキャリアと係合する歯部またはギヤホイールの形状であることが好ましい。スパイクキャリアは、好ましくは筐体によって直線状に案内され、第1のスパイクキャリア位置から第2のスパイクキャリア位置に移動可能(可動)であり、ステアリングドラムが第1の角度を超えて回転するときに、スパイクキャリアが第1の位置から第2の位置に移動するようになっている。スパイクキャリアは、スパイクキャリアが第1のスパイクキャリア位置から第2のスパイクキャリア位置に移動するときにタンクの隔壁を貫通するスパイクを備える。好ましくは、この歯車は、回転方向および軸方向にステアリングドラムに固定される。
【0053】
ステアリングドラムの歯車は、筐体またはスパイクキャリア上に構成されることが好ましい第2のアレスタに当接し、止め手段が第2の止め手段角度を超えて回転したときにステアリングドラムの回転を制限し、第2の角度を超えて回転しないようにステアリングドラムの回転を制限するアレスタを備えることが好ましい。
【0054】
止め手段は、ステアリングドラムの第1のアレスタおよび/または第2のアレスタと相互作用することができる少なくとも1つのカウンタアレスタを有する。カウンタアレスタは、好ましくは半円形のアーチまたはリムである、または半月形であり、止め手段が第1の止め手段角度を超えて回転すると、ステアリングドラムの第1のアレスタとカウンタアレスタの間の当接が解除されるが、第1の止め手段角度を超えて回転することによって、ステアリングドラムが回転するにつれてカウンタアレスタが第2のアレスタの回転経路内に入り、その結果として第2のアレスタに当接することができるようになっている。したがって、アーチ形カウンタアレスタは、回転して第1のアレスタとの当接を解除するが、このアーチは、第2のアレスタの回転線内にある。カウンタアレスタを備える止め手段は、軸線に取り付けられる、または取付け可能であることが好ましく、この軸線波、注入機器の駆動機構に結合される、または結合可能である。好ましくは、止め手段は、第3の部分に直接または間接的に結合されており、第1の例で上述した第1および第2の回転方向の回転のシーケンスにより、止め手段が駆動機構に結合され、回転して針挿入機構およびスパイク挿入機構を解除することが保証される。カニューレホルダは、薬剤の送出前には、針引込み位置から針挿入位置に移動し、薬剤の送出後には、針挿入位置から針引込み位置に移動する。針挿入位置へのカニューレホルダの移動中に、スパイクがそれと同時にタンクの隔壁を貫通し、針の引込み中はタンク内に挿入されたまま留まる。
【0055】
第3の例では、変換手段は、針カニューレホルダを案内するレバーアームであり、変換手段は、ステアリングドラムの回転軸線上に存在する歯車機構と係合する。あるいは、変換手段は、ステドラ上に存在する突起またはリムの、レバーアーム上に存在する突起またはリムとの当接によるステアリングドラムの回転によって起動される。
【0056】
止め手段は、針の挿入後は、ステアリングドラムの回転を阻止する。好ましくは、第1の止め部は、ステアリングドラム上のカウンタ止め部に当接するレバーアームまたはレバーアーム機構上に存在して、レバーアームの回転が針挿入位置で停止するようになっている。止め手段とステアリングドラムの第1のアレスタの間の当接を解除した後でステアリングドラムがさらに回転すると、レバーアーム上の第1の止め部とステアリングドラム上のカウンタ止め部の間の係合が駆動されて、レバーアームが逆に回転して、カニューレホルダを針引込み位置から針挿入位置に駆動するようになっている。好ましくは、スパイク挿入機をタンクの隔壁中に駆動するために、歯車がステアリングドラムに取り付けられる、または取付け可能である。
【0057】
駆動機構は、タンクから薬剤を送出するピストンロッドを備える。提示する例では、このピストンロッドは、薬剤送出機器内で省スペース構成にするためにセグメント式ピストンロッドであり、及び/あるいは屈曲する、または折り返されるが、剛性の、直線状の、または非セグメント式のピストンロッド構成を、提示する針挿入および引込み機構と組み合わせることもできる。
【0058】
この薬剤送出機器の特徴は、プランジャを有するタンクから薬剤を送出するセグメント式ピストンロッドであり、このピストンロッドは、各セグメントの側方に、または隣接するセグメントの間に位置するヒンジを介してそれぞれが互いに接合されている複数のセグメントを含む。このピストンロッドは、隣接するセグメントがヒンジまたは関節の周りで1つの方向に回転することによって屈曲させ、後続のヒンジが開くと湾曲したピストンロッドが形成されるようにすることができる。したがって、セグメント式ピストンロッドは、1方向にしか屈曲させることができないことが好ましい。軸方向の力は、セグメント式ピストンロッドによって、セグメント式ピストンロッドの後続のヒンジを介してタンク内のプランジャに伝達することができる。後続のセグメントの間のヒンジが閉じると、それらのセグメントは、タンクに入るための積層または直線状構成を形成し、この積層構成により、ピストンロッドの1つまたは複数のセグメントの座屈が防止される。セグメント式の湾曲したピストンロッド構成では、薬剤送出機器ないでピストンロッドの省スペース構成を実施することができる。セグメント式ピストンロッドは、回転してセグメント式ピストンロッドの少なくとも最初のセグメントと係合するねじ付きロッドによって駆動されることが好ましい。セグメント式ピストンロッドの最初のセグメントは、セグメント式ピストンロッドの最後のセグメントから最も遠いものとして規定され、最後のセグメントは、タンクのプランジャと接触する。セグメント式ピストンロッドは、その長手方向軸線の周りで筐体に対して回転しないように固定され、セグメント式ピストンロッドの少なくとも最初のセグメントは、駆動スリーブまたはねじ付きロッドの外部ねじと一致する内部ねじを備えており、駆動機構によって駆動スリーブまたはねじ付きロッドが回転すると、セグメント式ピストンロッドがタンクのプランジャに向かって前進する。セグメント式ピストンロッドは、セグメント式ピストンロッドが筐体に対して回転方向に固定されるように、筐体または筐体に接続された部分の中で案内されることが好ましい。例えば、セグメント式ピストンロッドのセグメントは、筐体または筐体に接続された部分の中の案内部分または通路と一致する非円形断面を有する。あるいは、セグメント式ピストンロッドの各セグメントは、筐体の相補的な突起または溝と一致する溝、切欠き、または翼部を有して、ピストンロッドの回転を防止する。
【0059】
ピストンロッドは、好ましくは各セグメントの側面側など一方の側に位置するストラップヒンジであることが好ましいヒンジを介してそれぞれが互いに接合された複数のセグメントを備える。ピストンロッドは、1つの方向に屈曲して、それによりセグメント間の後続のヒンジを開くことができ、その一方で、後続のヒンジが閉じて、セグメントがヒンジの反対側で互いに当接したときに、軸方向の力をプランジャに伝達することができる。セグメント式ピストンロッドの最後のセグメントは、タンクのプランジャに接続するフランジまたはコネクタを備えることが好ましいタンクのプランジャに当接する。最後のセグメントは、最後のセグメントをタンク内で、またはタンク内へ案内する案内要素を有し、案内要素は、タンクの内側側壁に当接して、案内要素の法線がタンクの長手方向軸線と平行になるように最後のセグメントを案内するように構成される。タンクは、管状または円筒状の形状を有することが好ましく、ガラスまたは高分子材料で構成されることが好ましい。最後のセグメントの法線は、プランジャに当接する平面に対して直交するものとして定義される。最後のセグメントが隔壁の反対の側に規定されているタンクの開口に進入するとき、最後のセグメントは、角度をなして進入し、いわゆるピストン絞りを開始し、薬剤の送出を阻止することができる。したがって、タンク内のプランジャに適切に接続するために、案内要素が、最後のセグメントの法線がタンクの長手方向軸線と平行になり、好ましくは等しくなることを保証する。案内要素は、タンクに進入する前に筐体または筐体の一部によって案内することができ、例えば、最後の要素がタンクの開口に適切に進入することを既に保証する。
【0060】
案内要素は、最後の要素から最後から2番目の要素に向かって突出し、最後のセグメントの法線と平行に配向される。好ましくは、案内要素は、最後の要素に取り付けられた、または取付け可能なフィンの形状をしており、最後の要素が完全にタンクに封入されたときに、フィンの一方の側がタンクの長手方向軸線と平行になる。最後の要素がタンクの開口に進入する間、案内要素は、レバーアームとして機能し、それにより、最後の要素のフランジを薬剤と接触していないプランジャの端面と平行に配向する。進入前に、既に、好ましくは筐体または筐体の一部によって、フィンを適切に進入するように案内することができる。注入機器のセグメント式ピストンロッド、ひいては案内要素は、最後のセグメント上のレバーアームとして作用し、最後のセグメントがタンクのプランジャに当接するときに最後のセグメントの法線がタンクの長手方向軸線と平行になることを保証する。最後のセグメントのフィンは、最後から2番目のセグメントに向いているが、最後から2番目のセグメントに直接には係合または結合しておらず、例えば、この最後の2つのセグメントの間のヒンジの屈曲または連結の範囲と干渉しない。この最後の2つのセグメントの間のヒンジは、この2つのセグメントがヒンジ軸の周りで連結することができることを保証する。最後から2番目のセグメントに向いている案内要素またはフィンは、最後のセグメントの一体部分であることが好ましく、例えば射出成形中にモノリシック部分として形成される。案内要素またはフィンは、ヒンジの反対側に位置しており、好ましくは最後の2つのセグメントのヒンジ軸線に対して直交するように配向される。セグメント式ピストンロッドがタンクへの進入後に積層構成になると、案内要素を有していないセグメントも、タンクの内壁によって案内されることが好ましい。このようにして、セグメント式ピストンロッドは、プランジャに当接する最後のセグメントに、ヒンジを介して軸方向負荷を伝達することができる。
【0061】
好ましくは、薬剤送出機器は、プロセッサを有する制御ユニットによって制御される。制御ユニットは、例えば駆動機構の回転方向など、送出プロセス中のいくつかのステップを制御する。薬剤送出機器は、保存期間中には給電されないことが好ましいので、薬剤送出機器は、最初にシステムの電気回路を閉じることによって起動される。電気システムの起動は、遠隔制御装置、機械スイッチ、RFID回路、または容量性センサなどのセンサによって行うことができる。あるいは、電気回路は、薬剤送出機器がそのパッケージングまたはボール箱から取り出されたとき、または使用者が接着層のライナを取り除いたときに、自動的に切り替えられて送出の準備ができる。制御ユニットは、例えば患者の皮膚に取り付けられる、薬剤送出機器が送出の準備ができたことを示す、容量性センサまたはスイッチ、あるいは温度センサなどのセンサから入力を得、これらのセンサからの入力によって、あるいは薬剤送出機器上、好ましくは上部カバー内または上部カバー上に存在するボタンなど別個の機械的スイッチによって始動させることができる。制御ユニットは、温度センサ、容量性センサ、電気回路、圧力、または駆動システム内の電気モータのエンコーダなどの内部センサから情報を受け取ることができる。制御ユニットは、タイマまたは時計を含むことが好ましい。処理ユニットは、スマートフォンまたは遠隔制御ユニットなど、他の外部機器に接続するための送受信ユニットを備えることが好ましい。この接続は、好ましくはBluetoothによって、より好ましくはLow Energy Bluetooth接続プロトコルによって確立することができる。したがって、プロセッサも、外部センサ、あるいは遠隔制御機器またはスマートフォンからの入力に反応することができる。薬剤送出機器は、外部制御ユニットを用いずに、そのままで、したがって薬剤送出機器内に存在するスイッチおよび/またはセンサを使用するだけで、操作することができる。送受信ユニットと、遠隔制御機器とは、相補的な構造部である。日付、時間、注入時間、注入量、温度、コールドチェーンから取り出してから送出を開始するまでの時間、閉塞など送出中の任意のエラー、薬剤を送出してから患者の皮膚から薬剤送出機器を引き込む、または取り外すまでの経過時間、駆動システムの回転数、および回転方向など、プロセッサによって受信されたデータは、記憶媒体に記憶されることが好ましい。これらのデータは、薬剤送出機器または処理ユニットの記憶媒体から、クラウドサーバまたはスマートフォンに送信することができる。したがって、薬剤送出機器の通信は、薬剤送出機器が信号を受信せずにデータを送信する1方向通信であるか、あるいはこの医療機器がネットワークなどの外部の機器またはシステムと通信して、そこからコマンドまたはデータを受信する双方向通信である。
【0062】
外部の機器またはシステムとの通信は、外部機器との、例えば好ましくは薬剤送出機器に接続されており、薬剤送出機器と通信することが許されている、好ましい外部機器以外の外部機器との干渉を防止するために、安全な符号化されたプロトコルに従う。好ましい例では、薬剤送出機器に、近距離制御(NFC)チップを有する機器が接近し、この機器が主電気回路を起動し、及び/又は注入を開始し、及び/又はデータ伝送または通信を開始する可能性がある。この機器から直接、またはクラウドサーバを介して間接的に受信したデータは、患者、医師、または医療従事者が使用することができる。
【0063】
薬剤送出機器は、製造され、薬剤タンクが組み付けられた後は、低温条件下で保管される。これは、薬剤のほとんどが、耐用寿命を長くし、保存期間を保証するために、使用前に低温保管を必要とするからである。保管条件は、例えば0℃未満の冷凍庫内であることもあるし、あるいは例えば5℃から8℃など、0℃より若干高い冷蔵庫内であることもある。これは、液体薬剤の粘度、および使用される材料の熱膨張係数が異なることによって薬剤送出機器内で機械的に相互作用する種々の構成要素の寸法公差の両方に影響を及ぼす。一般に、例えば組替えDNA技術で得られた大きなタンパク質分子を含む溶液など、ほとんどの薬剤の粘度は、温度が低下するにつれて高くなる。これを補償するために、薬剤送出機器の制御ユニットは、薬剤送出機器内の温度に応じて、送出の速度、したがって駆動機器の回転速度を調節したり、あるいは低温の薬剤が、速度を低くして、及び/またはピストンロッドを前進させる力を大きくして送出されるように、歯車比を変更したりすることができる。あるいは、注入手順の開始前に、薬剤が加熱される。これは、冷蔵庫から取り出した後特定の時間待機することによって受動的に実施されることもあるし、あるいは、この医療機器内に存在する、またはこの医療機器を取り囲む加熱源によって能動的に行われることもある。タンク内の薬剤は、観察窓を介して薬剤を加熱する外部に存在する赤外線源によって加熱されることもあるし、あるいは赤外線源が内部に存在することもある。使用される加熱源は、限定されるわけではないが、IR源、タンクまたは管材を取り囲む加熱要素、あるいは管材をカプセル化する熱交換器、電子レンジ、発熱性の結晶化または酸化を使用して発熱するヒータバッグとすることができる。また、バッテリ自体を、薬剤および/または流体経路に対する熱源として使用することもできる。生成された熱は、タンクまたは流体経路に伝達することができ、例えば、後者の場合には、薬剤が注入の直前に加熱される。別の例では、患者の体温を使用して、タンク、流体経路、または中間要素を加熱する。
【0064】
薬剤送出機器は、無菌状態で患者に薬剤を送出する。これはつまり、製造時および保存時の流体経路ユニットおよびカートリッジへの接続部の滅菌性が保証されなければならないということである。
【0065】
第1の例では、流体経路ユニットは、好ましくは、例えばGMP EU等級付けのグレードCなどのクリーンルーム環境で製造され、組み立てられる。流体経路は、個別に、あるいはトレイまたはタブに積層された状態で、剥離パウチまたはブリスタにパッケージングされる。好ましくは、流体経路ユニットは、その後に少なくとも2つ折りの剥離パウチにパッケージングされるタブ内に置かれたトレイ内で組み立てられる。剥離パウチは、その後のガンマ線滅菌のために気密にすることもできるが、あるいは、剥離パウチは、Tyvekなどの通気性膜で構成され、その後にエチレンオキシドまたは気体プラズマ滅菌(例えばH2O2またはNOx)を使用して滅菌される。パッケージ化されたタブは、充填/最終製剤化会社に輸送され、ここで、流体経路を備えたタブを、最初にタブの第1の剥離パウチを取り除くことによって、例えばGMP EU等級付けのグレードAの無菌環境に入れ、例えば電子ビームを使用して表面を滅菌し、タブを2重ドアシステムを介して無菌環境に入れる。2重剥離パウチに封入されたタブ内に配置された空の滅菌カートリッジでも、無菌環境に入れる同じ経路を辿る。また、カートリッジも、無菌環境に入れられる。次いで、空のカートリッジが、無菌環境内で充填されて栓をされ、最後に、このカートリッジに無菌環境内で流体経路ユニットが組み付けられる。次に、無菌環境外で、この滅菌流体経路に、駆動機構、底部サブユニット、およびカバーサブユニットを組み付けることができる。
【0066】
第2の例では、他部内の滅菌流体経路ユニットが、タンクまたはアンプルを製造する会社に輸送されることを除けば、同じ経路を辿る。この会社は、第1のパウチを取り外して、包装を解いた後でタブを滅菌した後で、タブを無菌環境に入れ、空のカートリッジを流体経路に挿入する。他部内の流体経路は、再度パッケージ化および滅菌され、無菌環境で無菌充填を行う会社に輸送される。充填後、滅菌流体経路は、例えばクリーンルーム内など、無菌環境の外部で組み立てる準備ができる。
【0067】
この最初の2つの例では、タンクおよび流体経路ユニットは両方とも、無菌環境に入る前に滅菌され、無菌環境内で組み立てられる。これはつまり、スパイクとタンクの隔壁の間の空間も滅菌状態であるということである。最後の例では、タンクおよび流体経路ユニットは、両方とも異なるクラスの環境で組み立てられ、この両者が組み立てられた後で、タンクの隔壁とスパイクの間の空間が、別のステップで滅菌される。この第3の例では、流体経路は、クリーンルーム環境で組み立てられることが好ましく、タンクは無菌環境で充填される。この両者は、クリーンルーム環境で組み立てられ、これはつまり、両者の間の空間が、例えばET0またはガスプラズマ滅菌を使用した追加の滅菌ステップを必要とすることを意味しており、筐体の一部は、この中間空間を、例えばET0またはガスプラズマ滅菌を使用する別個の好ましくは最終のステップで滅菌することができるように構成される。
【0068】
患者の皮膚に取付け可能な、または取り付けられた隔壁を有するタンクから薬剤を注入するための医療機器であり、
タンクの隔壁に挿入するスパイク、患者に挿入するためのカニューレまたは針を保持するカニューレホルダ、およびスパイクとカニューレホルダの間を流体接続するための管材とを備えた流体経路であり、医療機器の保存期間中には滅菌エンクロージャに封入される流体経路と、
流体経路を封入し、針またはカニューレのための少なくとも1つの通路を有する、流体経路筐体と、
流体経路の一部または別個の部分である底面であり、患者の皮膚に取り付けるための接着層を有する底面と、を備え、
薬剤の注入中に、カニューレもしくは針および/またはスパイクが滅菌エンクロージャの外部と通信する医療機器であって、滅菌エンクロージャが、保存期間中に少なくとも部分的には接着層を封入することを特徴とする、医療機器である。好ましくは、この医療機器の保存期間中には、接着層は、剥離箔で覆われ、これが滅菌エンクロージャの一部を形成することが好ましい。接着層は、少なくとも部分的には、この医療機器の底面を封入する、または取り囲んでいる。医療機器の剥離箔は、好ましくは主は繰り箔およびステッカを含み、このステッカが、通路を覆う別の滅菌箔を流体経路筐体の周囲に接続する。
【0069】
医療機器を製造して組み立てる方法であって、
タンクの隔壁に挿入するスパイク、患者に挿入するためのカニューレまたは針を保持するカニューレホルダ、およびスパイクとカニューレホルダの間を流体接続するための管材とを備えた流体経路を準備するステップであり、流体経路が、医療機器の保存期間中には滅菌エンクロージャに封入され、流体経路が、患者の皮膚に取付け可能な底面を有する流体経路筐体に封入される、ステップと、
流体経路筐体内に存在する針挿入位置から針引込み位置に接続可能な、患者への針の挿入を開始する駆動機構を準備するステップと、
流体経路筐体に挿入することができる、薬剤を備えたカートリッジを準備するステップと、
流体経路筐体と一致する、医療機器の上部カバーを準備するステップと、を含む方法である。
【0070】
流体経路を含む流体経路筐体、駆動機構、カートリッジ、および上部カバーを組み立てて、医療機器を形成する。