(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記遷移区間XYが、厚み方向に、前記X領域が前記Y領域で挟まれた構成を有し、前記Y領域のみで形成されている面内方向の端部が、前記遷移区間XYのY領域と連続的に形成されている、請求項3、4、10、11のいずれか1項に記載のプレス成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のプレス成形体の製造方法は、
重量平均繊維長Lw
Aの炭素繊維A及び熱可塑性樹脂R
Xを含むX材料と、重量平均繊維長Lw
Bの炭素繊維B及び熱可塑性樹脂R
Yを含むY材料とを加熱し、加熱されたX材料とY材料とを、成形型内で同時にプレスして、前記X材料からなるX領域と、前記Y材料からなるY領域とを有するプレス成形体を製造するプレス成形体の製造方法であって、
Lw
B<Lw
Aであり、
Lw
Bが0.1mm以上15mm以下であり、
前記プレス成形体は、前記X領域と前記Y領域とが積層された遷移区間XYを有する、プレス成形体の製造方法である。
【0013】
上記のように、本発明のプレス成形体の製造方法は、少なくとも、互いに重量平均繊維長の異なる炭素繊維を含み、かつ熱可塑性樹脂を含む、X材料とY材料とを成形型内で同時にプレスして、プレス成形体を製造するものである。
【0014】
本発明のプレス成形体の製造方法は、炭素繊維と熱可塑性樹脂を含むX材料とY材料とを成形型内で同時にプレス(以下「同時プレス」ともいう)して成形体を得るため、生産効率に優れる。
また、本発明では、同時プレスするため、得られるプレス成形体において、X材料からなるX領域とY材料からなるY領域との接合強度にも優れる。
さらに、本発明では、X材料に含まれる炭素繊維Aの重量平均繊維長Lw
Aと、Y材料に含まれる炭素繊維Bの重量平均繊維長Lw
Bとは、Lw
B<Lw
Aであるため、Y材料の方がX材料よりも流動しやすい材料である。本発明では、流動しやすいY材料を必要な部分にのみ配置してプレスすることもできるため、より複雑な形状の成形体を製造することが可能である。
【0015】
まず、X材料及びY材料に含まれる炭素繊維について説明する。
【0016】
[炭素繊維]
1.炭素繊維全般
本発明に用いられる炭素繊維としては、一般的にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油・石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維などが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの炭素繊維であっても好適に用いることができる。なかでも、本発明においては引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用いることが好ましい。
【0017】
2.炭素繊維のサイジング剤
本発明に用いられる炭素繊維は、表面にサイジング剤が付着しているものであってもよい。サイジング剤が付着している炭素繊維を用いる場合、当該サイジング剤の種類は、炭素繊維の種類、及び、X材料又はY材料に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。
【0018】
3.炭素繊維の繊維直径
本発明に用いられる炭素繊維の単糸(一般的に、単糸はフィラメントと呼ぶ場合がある)の繊維直径は、炭素繊維の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。平均繊維直径は、通常、3μm〜50μmの範囲内であることが好ましく、4μm〜12μmの範囲内であることがより好ましく、5μm〜8μmの範囲内であることがさらに好ましい。炭素繊維が繊維束状である場合は、繊維束の径ではなく、繊維束を構成する炭素繊維(単糸)の直径を指す。炭素繊維の平均繊維直径は、例えば、JIS R7607:2000に記載された方法によって測定することができる。
【0019】
[炭素繊維A]
本発明におけるX材料は重量平均繊維長Lw
Aの炭素繊維Aを含む。Lw
Aは用いるY材料に含まれる炭素繊維Bの重量平均繊維長Lw
Bよりも長い。
炭素繊維Aの重量平均繊維長Lw
Aは、1mm以上であることが好ましく、1mm以上100mm以下であることがより好ましく、3mm以上80mm以下であることが更に好ましく、5mm以上60mm以下であることが特に好ましい。Lw
Aが100mm以下であれば、X材料の流動性が低下しにくく、プレス成形の際に所望の形状のプレス成形体を得られやすい。また、Lw
Aが1mm以上の場合、得られるプレス成形体の機械強度が低下しにくく、好ましい。
【0020】
[炭素繊維Aの重量平均繊維長]
本発明においては繊維長が互いに異なる炭素繊維Aを併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる炭素繊維Aは、重量平均繊維長の分布において単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。なお、射出成形体や押出成形体に含まれる炭素繊維は、炭素繊維を射出(押出)成形体中で均一に炭素繊維を分散させるために十分な混練工程を経たものは一般的に炭素繊維の重量平均繊維長は1mm未満となる。
【0021】
炭素繊維Aの平均繊維長は、例えば、成形体から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記式(1)に基づいて求めることができる。
個々の炭素繊維の繊維長をLi、測定本数をjとすると、数平均繊維長(Ln)と重量平均繊維長(Lw)とは、一般的に以下の式(1)、(2)により求められる。
Ln=ΣLi/j ・・・式(1)
Lw=(ΣLi
2)/(ΣLi)・・・式(2)
繊維長が一定長の場合は数平均繊維長と重量平均繊維長は同じ値になる。プレス成形体からの炭素繊維Aの抽出は、例えば、プレス成形体に対し、500℃×1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて樹脂を除去することによって行うことができる。
【0022】
[炭素繊維B]
本発明におけるY材料は重量平均繊維長Lw
Bの炭素繊維Bを含む。Lw
Bは用いるX材料に含まれる炭素繊維Aの重量平均繊維長Lw
Aよりも短い。
炭素繊維Bの重量平均繊維長Lw
Bは、0.1mm以上15mm以下であり、0.2mm以上15mm以下であることが好ましく、0.5mm以上15mm以下であることがより好ましく、5mm以上15mm以下であることが更に好ましく、5mm以上10mm以下であることが特に好ましい。Lw
Bが15mm以下であれば、成形時のY材料の流動性が良好である。また、Lw
Bが0.1mm以上であれば、Y領域における機械物性が担保できる。
【0023】
[炭素繊維Bの重量平均繊維長]
本発明においては繊維長が互いに異なる炭素繊維Bを併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる炭素繊維Bは、重量平均繊維長の分布において単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
炭素繊維Bの重量平均繊維長及び数平均繊維長は、上述の式(1)、(2)と同じように測定可能である。なお、炭素繊維Bの繊維長の測定方法については後述する。
【0024】
[X材料及びY材料における炭素繊維の体積割合]
X材料とY材料のそれぞれについて、炭素繊維体積割合(Vf)は、下記式(3)で求めることができる。
炭素繊維体積割合に特に限定は無いが、炭素繊維体積割合(Vf)は、10〜60Vol%であることが好ましく、20〜50Vol%であることがより好ましく、25〜45Vol%であればさらに好ましい。
炭素繊維体積割合(Vf)=100×炭素繊維体積/(炭素繊維体積+熱可塑性樹脂体積) 式(3)
本発明においては、X材料の炭素繊維体積割合Vf
xとY材料の炭素繊維体積割合Vf
Yとが、Vf
x≧Vf
Yの関係を満たすことが、製造プロセス上好ましい。炭素繊維と熱可塑性樹脂を含む複合材料(原料基材)からX材料を切り出した後に残った端材を砕いた材料をY材料として用いた場合、Vf
X=Vf
Yとなり、端材を砕いた後、更に熱可塑性樹脂を添加してY材料を製造した場合はVf
X>Vf
Yとなる。すなわち、Vf
X≧Vf
Yとなるような製造方法を採用すれば、X材料を切り出した後に残った端材を効率的に利用できる。
【0025】
つぎに、X材料及びY材料に含まれる熱可塑性樹脂について説明する。
【0026】
[熱可塑性樹脂]
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(熱可塑性のマトリクス樹脂)は特に限定されるものではなく、所望の軟化点又は融点を有するものを適宜選択して用いることができる。熱可塑性樹脂としては、通常、軟化点が180℃〜350℃の範囲内のものが用いられるが、これに限定されるものではない。
【0027】
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂フッ素系樹脂、熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂等を挙げることができる。
【0028】
本発明のX材料及びY材料に用いられる熱可塑性樹脂は1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する態様としては、例えば、相互に軟化点又は融点が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様や、相互に平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様等を挙げることができるが、この限りではない。
また、X材料に含まれる熱可塑性樹脂R
Xと、Y材料に含まれる熱可塑性樹脂R
Yと同種の熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0029】
[線膨張係数]
本発明のプレス成形体の製造方法では、得られるプレス成形体において、X領域のみで形成された部分の板厚方向の線膨張係数E
X、遷移区間XYの板厚方向の線膨張係数E
XY、Y領域のみで形成された部分の板厚方向の線膨張係数E
Yが、E
X>E
XY>E
Yの関係を満たすことが好ましい。
プレス成形体における遷移区間XYとは、X領域とY領域とが積層された部分である。
E
X>E
XY>E
Yの関係を満たすことで、プレス成形体の少なくとも1つの面内方向の端部が、Y領域のみで形成されている場合(好ましい一例として、プレス成形体がフランジ部を有し、フランジ部の少なくとも1つの端部がY領域のみで形成されている場合)、Y領域のみで形成されている端部を他の部材と例えばネジで固定する際に、その端部は板厚方向に温度変化による膨張及び収縮を起こしにくいため(寸法安定性に優れ)、より安定的に固定することができる。
本発明では、X材料に含まれる炭素繊維Aの重量平均繊維長Lw
Aと、Y材料に含まれる炭素繊維Bの重量平均繊維長Lw
Bとは、Lw
B<Lw
Aの関係を満たすが、特に、Lw
AがX材料の板厚より大きい場合は、炭素繊維AはX材料中で面内方向に配向しやすく、板厚方向には配向しにくい。また、Lw
BがY材料の板厚より小さい場合は、炭素繊維BはY材料中で面内方向にも板厚方向にも配向しやすい。このような場合には、E
X>E
XY>E
Yの関係を満たす場合が多い。
【0030】
[プレス成形]
本発明では、X材料とY材料を加熱し、加熱されたX材料とY材料とを、成形型内で同時にプレスして、X材料からなるX領域と、Y材料からなるY領域とを有するプレス成形体を製造する。
本発明では、得られるプレス成形体が遷移区間XYを有するものとするために、X材料とY材料の少なくとも一部を重ねて同時プレスすることが好ましい。特に、後述の第一の態様では、X材料の少なくとも1つの面内方向の端部とY材料とを重ねて同時プレスすることが好ましい。X材料の少なくとも1つの面内方向の端部とY材料とを重ねるとは、
図4に示すように、X材料の端部にY材料を完全に重ねる必要は無く、Y材料の長手方向を、X材料の端部に沿うように配置すれば良く、好ましくはX材料の端部から10cm以内、より好ましくは5cm以内の位置にY材料を配置すれば良い。
本発明のプレス成形体の製造方法に用いるX材料の体積V
Xと用いるY材料の体積V
Yの比であるV
X:V
Yは、90:10〜50:50であることが好ましく、80:20〜60:40であることがより好ましい。
V
X:V
Yが90:10〜50:50であると、例えば、X材料を用いてプレス成形体の主要な部分を形成し、必要な部分(例えば端部や細部など)のみ流動性が高いY材料を用いて形成することができる。
本発明における成形方法としては、プレス成形(圧縮成形と呼ぶこともある)が利用され、ホットプレス成形やコールドプレス成形などの成形方法を利用できる。
本発明においては、とりわけコールドプレスを用いたプレス成形が好ましい。コールドプレス法は、例えば、第1の所定温度に加熱した熱可塑性炭素繊維複合材料(X材料及びY材料の総称として呼ぶ場合がある)を第2の所定温度に設定された成形型内に投入した後、加圧・冷却を行う。
具体的には、熱可塑性炭素繊維複合材料を構成する熱可塑性樹脂が結晶性である場合、第1の所定温度は融点以上であり、第2の所定温度は融点未満である。熱可塑性樹脂が非晶性である場合、第1の所定温度はガラス転移温度以上であり、第2の所定温度はガラス転移温度未満である。すなわち、コールドプレス法は、少なくとも以下の工程A−1)〜A−2)を含んでいる。
工程A−1)熱可塑性炭素繊維複合材料を、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点以上分解温度以下、非晶性の場合はガラス転移温度以上分解温度以下に加温する工程。
工程A−2)上記工程A−1)で加温された熱可塑性炭素繊維複合材料を、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点未満、非晶性の場合はガラス転移温度未満に温度調節された成形型に配置し、加圧する工程。これらの工程を行うことで、熱可塑性炭素繊維複合材料の成形を完結させることができる(プレス成形体を製造することができる)。
上記の各工程は、上記の順番で行う必要があるが、各工程間に他の工程を含んでもよい。他の工程とは、例えば、工程A−2)の前に、工程A−2)で利用される成形型と別の賦形型を利用して、成形型のキャビティの形状に予め賦形する賦形工程等がある。また、工程A−2)は、熱可塑性炭素繊維複合材料に圧力を加えて所望形状の成形体を得る工程であるが、このときの成形圧力については特に限定はしないが、成形型キャビティ投影面積に対して20MPa未満が好ましく、10MPa以下であるとより好ましい。また、当然のことであるが、プレス成形時に種々の工程を上記の工程間に入れてもよく、例えば真空にしながらプレス成形する真空プレス成形を用いてもよい。
【0031】
本発明では、X材料が板状であり、X材料の面内方向にY材料を流動して延面して、プレス成形体を製造することが好ましい。
また、本発明では、X材料の延展率D
Xが0%超50%以下であり、Y材料の延展率D
Yが10%超60%以下であり、かつD
Y>D
Xであることが好ましい。延展率が高いY材料であれば、X材料の面内方向にY材料を流動しやすい。
延展率の測定方法については後述する。
【0032】
X材料の形状は、製造するプレス成形体の3次元形状から、コンピューターにて逆成形解析により展開された形状であることが好ましい。
X材料は、炭素繊維と熱可塑性樹脂を含む複合材料(原料基材)から切り出されたものであることが好ましい。原料基材は板状であることが好ましく、X材料も板状であることが好ましい。
【0033】
Y材料は、原料基材からX材料を切り出した後に残った端材を砕いた材料を含むことが、原料基材のロスを少なくするという観点からは好ましい。
【0034】
[プレス成形体の形状]
本発明により製造されるプレス成形体の形状は特に限定されない。本発明により製造されるプレス成形体は、少なくとも1つの厚さ(板厚)を有する少なくとも1つの平面部を有することが好ましく、断面形状がT字型、L字型、コの字型、ハット型(ハット形状)およびこれらを含む三次元形状のものであってもよく、さらに凹凸形状(例えばリブ、ボスなど)を有していてもよい。本発明により製造されるプレス成形体の形状は、断面形状がハット形状である部分を含む形状であることが好ましい。
本発明により製造されるプレス成形体の例としては、
図1に示したプレス成形体や
図8に示したプレス成形体などが挙げられる。
図1は断面形状がハット形状である部分を含むプレス成形体の模式図であり、
図1(a)はプレス成形体の斜視図であり、
図1(b)はプレス成形体の平面図であり、
図1(c)は
図1(b)の一点鎖線sでプレス成形体を切断した場合の断面図(ハット形状)である。
図1のプレス成形体は、X領域(
図1中の符号X)とY領域(
図1中の符号Y)を有し、かつ
図1(c)中の符号xyで示したような遷移区間XYを有する。
また、
図8は断面形状がハット形状を有し、かつ内部に複雑な形状の構造を有するプレス成形体の模式図である。
図8のプレス成形体も、X領域(
図8中の符号X)とY領域(
図8中の符号Y)を有し、
図8中のY領域はすべてX領域と積層されているため、遷移区間XYを有する。
本発明により製造されるプレス成形体において、遷移区間XYと、前記遷移区間XYに隣接する遷移区間XYではない部分との厚さが一様である部分を有することが好ましい。厚さが一様であるとは、厚さが略一定であること、又は厚さが変化しているがその変化率が略一定であることを指す。後で詳述する
図4に示されたようにX材料とY材料を配置して同時プレスすることで、遷移区間XYと、前記遷移区間XYに隣接する遷移区間XYではない部分との厚さが一様である部分を有するプレス成形体を得ることができる。また、例えば、平板上に形成されたリブなどの凸部を有するプレス成形体においては、凸部とその凸部の周辺の領域を含む部分は、厚さが一様な部分ではない。
【0035】
つぎに、本発明のより好ましい態様について説明する。
以下に示す本発明の好ましい態様を、「第一の態様」と呼ぶ。
【0036】
[第一の態様]
第一の態様は、プレス成形体の少なくとも1つの面内方向の端部が、Y領域のみで形成されているものである。X材料が板状であり、X材料の面内方向にY材料を流動して延面して、プレス成形体を製造することがより好ましい。
第一の態様が優れている理由を以下に詳述する。
一般的に、プレス成形は、板状の成形材料を加熱し、加熱された成形材料を成形型で挟んで加圧することにより、所望の形状の成形体を得る成形方法である。成形材料が熱可塑性樹脂のみからなる場合は、プレス成形の際に成形材料が流動しやすいため、複雑な形状の成形体も容易に製造することができる。しかしながら、成形材料が熱可塑性炭素繊維複合材料である場合は、炭素繊維の繊維長が長いほど流動しにくくなるし、例えばプレス成形体の性能の向上を目的として、熱可塑性炭素繊維複合材料中の炭素繊維の配向方向を調整している場合は、流動させ過ぎると炭素繊維の配向方向に乱れが生じ、得られるプレス成形体の性能の向上の目的が十分に達成できないといった問題も起こり得る。
そこで、あまり流動させなくても所望の形状のプレス成形体を得ることができるように、プレス成形に供する熱可塑性炭素繊維複合材料を、原料基材(炭素繊維と熱可塑性樹脂を含む複合材料)から切り出す際に、パターン状にカットする(「パターンカット」ともいう)ことが好ましい。
なお、パターンカット形状(X材料の形状)は、製造するプレス成形体の3次元形状から、コンピューターにて逆成形解析により展開された形状であることが好ましい。
ただし、プレス成形に供する熱可塑性炭素繊維複合材料を原料基材から切り出すと端材(原料基材のうち、プレス成形に供するために切り出された熱可塑性炭素繊維複合材料以外の部分)が発生する。この端材の発生が材料のロスになるため、プレス成形体の製造工程における生産効率の低下の原因になることに本発明者らは着目した。
そこで、本発明者らは鋭意検討し、発生する端材の量を少なくする(1枚の原料基材から切り出す熱可塑性炭素繊維複合材料の数をより多くする)ことができれば、生産効率を高くすることができると考えた。なお、上記「1枚の原料基材から切り出す熱可塑性炭素繊維複合材料の数をより多くする」ということには、1種類の形状の熱可塑性炭素繊維複合材料を切り出す際にその数をより多くすることのみならず、異なる2種以上の形状の熱可塑性炭素繊維複合材料を切り出し、それらの合計の数をより多くすることも含むものである。
そして、原料基材からの熱可塑性炭素繊維複合材料(本発明におけるX材料)の切り方を検討することで、生産効率を高くすることが可能となった。
【0037】
例えば、
図1に示した断面形状がハット形状である部分を含むプレス成形体を製造する場合に、
図2に示したXmのような形状に熱可塑性炭素繊維複合材料をカットするのが望ましいとする。
図2の符号2は原料基材を示している。この場合、
図2に示した形状にパターンカットすると、端材(
図2中の符号3)が大量に発生する。
これに対して、本発明の好ましい態様では、同じ
図1に示した断面形状がハット形状である部分を含むプレス成形体を製造する場合において、
図3に示したXmのような形状に熱可塑性炭素繊維複合材料(X材料)をパターンカットして用いる。
図3の符号2は原料基材を示している。
図3に示した形状にパターンカットすると、端材(
図3中の符号3)の発生量は
図2の場合に比べて少ない。このようにパターンカットする形状を工夫することで、1つの原料基材から得られる熱可塑性炭素繊維複合材料(X材料)の数を増やし、発生する端材の量を削減することができる。
本発明の第一の態様では、
図3のような形状の熱可塑性炭素繊維複合材料(X材料)を用いて所望の形状のプレス成形体を製造するために、X材料の少なくとも1つの面内方向の端部と別途作成したY材料とを重ねて同時プレスすることが好ましい。X材料の少なくとも1つの面内方向の端部とY材料とを重ねてプレスする点については、前述したとおり、X材料の端部にY材料を完全に重ねる必要は無い。
すなわち、
図1のプレス成形体を製造するために、
図4のようにX材料(Xm)とY材料(Ym)を配置して、同時プレスすることによりプレス成形体を製造することが好ましい。このようにして製造されたプレス成形体は、X材料からなるX領域と、Y材料からなるY領域とを有し、X領域とY領域とが積層された遷移区間XYを有し、さらに、少なくとも1つの面内方向の端部がY領域のみで形成されているものとなる。
また、第一の態様では、プレス成形体の少なくとも1つの面内方向の端部(面内方向の末端の角部を有するプレス成形体においては望ましくは末端の角部)をY領域のみで形成することで、当該端部の欠けの発生を抑制することができる(すなわち寸法安定性に優れる)。これは前述のようにY材料の方がX材料よりも流動しやすい材料であるため、プレス成形において成形型の端まで流動することで欠けの発生を抑制することができるためである。
さらに、Y材料に含まれる炭素繊維Bの重量平均繊維長Lw
Bが0.1mm以上であることで、端部のバリの発生も抑制できるため好ましい。
第一の態様のプレス成形体は、
図1に示されるように、Y領域のみで形成されている面内方向の端部が、遷移区間XYのY領域と連続的に形成されていることが好ましい。
【0038】
また、第一の態様のプレス成形体は、遷移区間XYが、厚み方向に、X領域がY領域で挟まれた構成を有し、Y領域のみで形成されている面内方向の端部が、前記遷移区間XYのY領域と連続的に形成されている態様(以下、この態様を「態様1a」とも呼ぶ。)であることも好ましい。
態様1aのプレス成形体の一例の模式図を
図13に示す。
図13はプレス成形体の一例を示す断面模式図であり、
図1(c)と同様に、断面形状がハット形状である部分を含むプレス成形体を
図1(b)における一点鎖線sに相当する箇所で切断した場合の断面図である。
図13のプレス成形体1は、符号XYで示される遷移区間XYが、厚み方向(
図13のZ軸方向)に、X領域(Xc)がY領域(YsとYb)で挟まれた構成を有し、Y領域のみで形成されている面内方向の端部が、前記遷移区間XYのY領域(YsとYb)と連続的に形成されている。
態様1aのプレス成形体は、例えば、
図4に示されるようにX材料とY材料を配置して同時プレスすることで得ることができる。この場合、同時プレスの際に、流動しやすいY材料がX材料よりも先に流動する。したがって、プレス前にY材料が配置されたX材料の面を表面とし、表面と反対側の面を裏面とすると、同時プレスの際に、Y材料が表面から端部、さらに裏面に流動し、前述の態様1aのプレス成形体が形成される。この態様1aのプレス成形体は、端部とそれと連続する表面のみならず、裏面もY材料で形成されているため、裏面の一部も表面外観に優れ、プレス成形体の適用範囲がより広くなることが期待される。
【0039】
第一の態様のプレス成形体は、フランジ部を有し、当該フランジ部の少なくとも1つの面内方向の端部がY領域のみで形成されていることが好ましい。フランジ部とは、断面形状がハット形状である部分については、ハットのつばに相当する部分であり、
図1において符号Fで示される部分である。
図1のプレス成形体は、
図1(c)に示すように、フランジ部Fの面内方向の端部はY領域のみで形成されている部分を有している。
【0040】
図4において、X材料は
図3に示した形状で切り出されたもの(
図3のXm)であり、Y材料は別途作成したものである。Y材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、X材料と同じ原料基材を砕いて、炭素繊維の繊維長を短くしたものを用いても良いし、これを種々の成形方法でシート状に成形したものを用いても良い。また、X材料を切り出した際に発生した端材を砕いて上記と同様に作成しても良い。
なお、原料基材は特に限定なく公知の方法で製造することができる。例えば、予め熱可塑性のマトリクス樹脂を、開繊した炭素繊維束に含浸させた後にカットして作成しても良い。
【0041】
つぎに、本発明の別の好ましい態様について説明する。
以下に示す本発明の好ましい態様を、「第二の態様」と呼ぶ。
【0042】
[第二の態様]
第二の態様は、製造するプレス成形体が、断面形状がハット形状である部分を含み、Y材料を、ハット形状の天面を形成するための成形型面に収まるように配置してプレスする、プレス成形体の製造方法であることが好ましい。第二の態様では、Y材料の幅が、ハット形状の天面を形成するための成形型面の幅以下であると良い。なお、断面形状がハット形状である場合、成形体の短手方向の断面形状がハット形状部分を含むことが好ましい。
例えば
図8に示す断面形状がハット形状である部分を含むプレス成形体10においては、A3で示される部分が天面であり、RAが天面の幅である。
第二の態様が優れている理由について以下に説明する。
例えば、
図5に示した断面形状を有する成形型(上型4及び下型5)を用いて断面形状がハット形状である部分を含むプレス成形体を製造する場合、
図6に示したようにX材料(Xm)とY材料(Y1及びY2)を配置して同時プレスすることも考えられるが、このような配置でプレスすると、X材料とY材料の両方が存在する領域と、X材料しか存在しない領域が混在するため、プレス成形体の側面となる領域(特に
図5の点線Zで囲った部分)に均一に圧力がかからないため、所望の形状のプレス成形体を得るためには高い圧力をかける必要があることに本発明者らは着目した。
なお、
図5は成形型の断面を示す模式図であり、紙面の奥の方向が上型4及び下型5の長手方向である。
図6はX材料とY材料を積層して配置した状態を示す平面図であり、
図6のa方向が短手方向であり、b方向が長手方向である。
図5の成形型を用いて
図6の配置の成形材料を成形する際には、
図5の紙面の奥の方向と、
図6のb方向をあわせて成形する。
図5において、プレス時に鉛直方向に圧力がかかるので、天面となる領域とフランジ部となる領域については、圧力がかかる方向と板厚方向が一致しており、上記問題は生じにくく、側面となる領域については、圧力がかかる方向と板厚方向が異なり、板厚方向への圧力は弱くなるため、成形に必要な圧力が高くなってしまう。
そこで、本発明者らは鋭意検討し、断面形状がハット形状である部分を含むプレス成形体を製造する際には、
図7に示したように、用いるY材料(Y3)の幅(RA)が、ハット形状の天面の幅以下であり、Y材料を成形型内のハット形状の天面となる領域(A2)の範囲内に配置してプレスすることで、プレス成形体の側面となる領域(特に
図5の点線Zで囲った部分)に均一に圧力がかかるため、より低い圧力で所望のプレス成形体を成形することができる。なお、前述と同様に、
図5の成形型を用いて
図7の配置の成形材料を成形する際には
図5の紙面の奥の方向と
図7のb方向をあわせて成形する。
第二の形態によって例えば
図8に示した複雑な構造を有するハット形状のプレス成形体を製造することもできる。
なお、第二の形態はプレス成形体の断面形状がハット形状である部分を含む場合についてであるが、本発明においてはプレス成形体の形状は、断面形状がハット形状である部分を含むものに限定されず、上記の同一面内において均一に圧力をかけることが可能な形状であれば適用できることは言うまでもない。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
1.以下の製造例、実施例で用いた原料は以下の通りである。なお、分解温度は、熱重量分析による測定結果である。(PAN系炭素繊維)
東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24KS(平均繊維径7μm)(熱可塑性樹脂)
ポリアミド6:以下、PA6と略する場合がある。
結晶性樹脂、融点225℃、分解温度(空気中)300℃、
【0045】
2.評価方法
2.1 炭素繊維体積割合(Vf)の分析
プレス成形体のX領域とY領域からそれぞれサンプルを切り出し、500℃×1時間、炉内にて熱可塑性樹脂を燃焼除去し、処理前後の試料の質量を秤量することによって炭素繊維と熱可塑性樹脂の質量を算出した。次に、各成分の比重を用いて、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積割合を算出した。
Vf=100×炭素繊維体積/(炭素繊維体積+熱可塑性樹脂体積)
【0046】
2.2 重量平均繊維長の分析
X材料、Y材料、プレス成形体に含まれる炭素繊維の重量平均繊維長の測定は、予め500℃×1時間程度、炉内にて熱可塑性樹脂を除去して測定する。
【0047】
2.2.1 X材料に含まれる炭素繊維A
X材料に含まれる熱可塑性樹脂を除去した後、無作為に抽出した炭素繊維100本の長さをノギスで1mm単位まで測定して記録し、測定した全ての炭素繊維の長さ(Li、ここでi=1〜100の整数)から、次式により重量平均繊維長(Lw
A)を求めた。
Lw
A=(ΣLi
2)/(ΣLi) ・・・ 式(2)
なお、プレス成形体のX領域に含まれる炭素繊維Aの重量平均繊維長についても、X領域に含まれる熱可塑性樹脂を除去したあと、上記と同様の方法で測定することができる。
【0048】
2.2.2 Y材料に含まれる炭素繊維B
熱可塑性樹脂を除去した後、得られた炭素繊維を界面活性剤入りの水に投入し、超音波振動により充分に撹拌させた。撹拌された分散液を計量スプーンによりランダムに採取し評価用サンプルを得て、ニレコ社製画像解析装置Luzex APにて繊維数3000本の長さを計測した。
炭素繊維長の測定値を用いて、前述の式(1)、(2)と同様により数平均繊維長Ln
B、重量平均繊維長Lw
Bを求めた。
なお、実施例2、4、5、7、及び比較例3の炭素繊維Bについてのみ2.2.2の方法で測定し、実施例1、3、6、及び比較例2の炭素繊維Bについては上記2.2.1の方法で測定した。
【0049】
2.3.X材料及びY材料の延展率の測定
(1)X材料(又はY材料)を200mm×200mmにカットする。
(2)X材料(又はY材料)をマイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、OMC−150MX)にて任意に9点測定し、平均の板厚T
1を算出する。
(3)
図9のように、X材料(又はY材料)(
図9中の符号11)の半分の領域である100mm×200mmの範囲を金網(
図9中の符号12)にのせ、該金網を金属ブロックからなる敷置台(
図9中の符号13)にのせてIRオーブン(赤外線加熱機)にて加熱し、X材料(又はY材料)の弾性率が低下して、自重にて元のX材料(又はY材料)高さから10mm垂れ下がった温度を測定し、このときの温度を軟化温度とする。
この温度から+50℃を、(4)以降の加熱温度とする。
(4) 軟化温度+50℃に加熱したX材料(又はY材料)をIRオーブンから取り出し、20秒後に150℃に加熱した成形金型内にX材料(又はY材料)を設置し、平板状の成形板を油圧プレスにて作成する。
(5) このとき、成形条件は以下の通りである。
プレス下降速度:100mm/sec
型締め速度:10mm/sec
成形荷重 :80ton
上型が下降する前の、上型と下型の距離:600mm
成形型:オープンキャビティ
(6) 成形完了後、成形体を取り出し、上記(2)と同じ測定方法で平板状成形体の厚みを測定し、平均の板厚T
2を算出する。
(7) T
1とT
2より以下の値を算出する。
延展率(%)=(1−T
2/T
1)×100
【0050】
2.4.端材量
幅390mm×長さ600mmの板状複合材料(原料基材)から、
図10〜12に示すようにX材料を切り出した。X材料を切り出した枚数を測定した。
Excellent:X材料を3枚切り出せた(端材量がかなり少なかった)。
Good:X材料を2枚切り出せた(端材量が少なかった)。
Bad:X材料を1枚切り出せた(端材量が多かった)。
【0051】
2.5.プレス成形体の面内方向の末端の角部の寸法安定性
プレス成形体の面内方向の末端の角部(
図1のフランジ部Fの末端の角部)の寸法安定性は、以下の基準で評価した。
なお、プレス成形体の面内方向の末端の角部に「欠けが存在する」とは、プレス成形体の面内方向の末端の角部が、成形材料の流動不足のために、本来意図した形状(成形型の形状)になっていない状態をいう。
Excellent:プレス成形体の面内方向の末端角部に欠けが全く存在しない。
Good:プレス成形体の面内方向の末端の角部にわずかに欠けが存在する。
Bad:プレス成形体の面内方向の末端の角部に大きく欠けが存在する。
【0052】
2.6.プレス成形体の面内方向の端部のバリ発生量
成形型の上型と下型のシャーエッジ部クリアランスを0.1mmとした場合、プレス成形体の面内方向の端部(
図1のフランジ部Fの端部)に当該面内方向に垂直な方向に発生したバリの長さ(面内方向に垂直な方向における、当該端部からのバリの高さ)を定規を用いてランダムに10点測定した場合の最大長を指標とし下記基準で評価した。
Excellent:0mm以上0.5mm未満
Good:0.5mm以上1.5mm未満
Bad:1.5mm以上
【0053】
[実施例1]
(原料基材の製造)
炭素繊維として、繊維長20mmにカットした東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24K(平均繊維径7μm、単繊維数24,000本)を使用し、樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムに炭素繊維が配向した炭素繊維およびナイロン6樹脂の複合材料を作成した。得られた複合材料を260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、平均厚み2.5mm、幅390mm×長さ600mmの板状の原料基材を得た。板状の原料基材に含まれる炭素繊維の解析を行ったところ、炭素繊維体積割合(Vf)は35%、炭素繊維の繊維長は一定長であり、重量平均繊維長は20mmであった。
【0054】
(X材料の作成)
X材料を、
図10のように板状の原料基材からカットして作成した。なお、
図10は、切り出したX材料の平面図であり、長さ101は160mmであり、長さ102は130mmであり、長さ103は560mmである。
【0055】
(Y材料の製造)
原料基材を余分に作成し、大型低速プラスチック粉砕機を用いて細かく14mm角に粉砕して粒材Rを得た。この粒材Rを集めてプレス成形し(260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱)、厚さ1.6mmのY材料を作成した。Y材料に含まれる重量平均繊維長Lw
Bを測定したところ10mmであった。
【0056】
(プレス成形体の作成)
X材料とY材料を120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、赤外線加熱機により275℃まで昇温し、
図4のようにX材料とY材料を配置した。プレス圧力20MPa(加圧開始から、20MPaに達するまでの時間1秒)、で1分間加圧して、X材料とY材料を同時にプレスし、
図1の形状のプレス成形体を製造した。結果を表1に示す。
なお、X材料の延展率D
Xは15%であり、Y材料の延展率D
Yは25%であった。
【0057】
[実施例2]
X材料を
図11のようにカットし、Y材料を以下のように作成したこと以外は、実施例1と同様にプレス成形体を製造した。なお、
図11は、切り出したX材料の平面図であり、長さ201は130mmであり、長さ202は115mmであり、長さ203は530mmであった。結果を表1に示す。
(Y材料の作成)
原料基材を余分に作成し、これを大型低速プラスチック粉砕機を用いて細かく粉砕して粒材Rを得た。得られた粒材Rを東芝機械製TEM26S2軸押し出し機に投入し、シリンダ温度280℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練して、押し出し、重量平均繊維長0.2mmの炭素繊維が含まれた樹脂シート(厚さ2.0mm)を得た。これをY材料とした。
なお、X材料の延展率D
Xは15%であり、Y材料の延展率D
Yは40%であった。
【0058】
[実施例3]
X材料に含まれる炭素繊維を80mm固定長(重量平均繊維長も80mm)としたこと以外は、実施例1と同様にプレス成形体を作成した。結果を表1に示す。
なお、Y材料の延展率D
Yは25%であった。
【0059】
[実施例4]
X材料に含まれる炭素繊維を80mm固定長(重量平均繊維長も80mm)としたこと以外は、実施例2と同様にプレス成形体を作成した。結果を表1に示す。
なお、Y材料の延展率D
Yは40%であった。
【0060】
[実施例5]
X材料に含まれる炭素繊維を5mm固定長(重量平均繊維長も5mm)としたこと以外は、実施例2と同様にプレス成形体を作成した。結果を表1に示す。
なお、X材料の延展率D
Xは30%であり、Y材料の延展率D
Yは40%であった。
【0061】
[実施例6]
X材料を東邦テナックス社製W−3101連続繊維織物を8枚重ね併せたものとしたこと以外は、実施例1と同様にプレス成形体を製造した。結果を表1に示す。
なお、X材料の延展率D
Xは0%であり、Y材料の延展率D
Yは25%であった。
【0062】
[実施例7]
実施例1におけるY材料の製造段階において、得られた粒材Rを2軸押し出し機に投入する際、炭素繊維体積割合Vfが10%となるように追加でナイロン6樹脂を投入してY材料を作成したこと以外は、実施例2と同様にプレス成形体を製造した。結果を表1に示す。
なお、X材料の延展率D
Xは15%であった。
【0063】
[比較例1]
Y材料は使用せず、X材料を、
図12のように板状の原料基材からカットしたこと以外は、実施例1と同様にプレス成形体を製造した。端材の発生量が多く、生産効率は悪かった。なお、
図12は、切り出したX材料の平面図であり、長さ301は200mmであり、長さ302は150mmであり、長さ303は600mmであった。結果を表1に示す。
なお、X材料の延展率D
Xは15%であった。
【0064】
[比較例2]
Y材料を以下のように製造したこと以外は、実施例2と同様に成形体の製造を試みたが、Y材料の流動性が低く(延展率が足りず)、成形体を製造することはできなかった。
なお、X材料の延展率D
Xは15%であり、Y材料の延展率D
Yは20%であった。
(Y材料の作成)
炭素繊維として、繊維長18mmにカットした東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24K(平均繊維径7μm、単繊維数24,000本)を使用し、樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムに炭素繊維が配向した炭素繊維およびナイロン6樹脂のY材料前駆体を作成した。得られたY材料前駆体を260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、平均厚み1.2mmの板状複合材料を得た。板状複合材料に含まれる炭素繊維の解析を行ったところ、炭素繊維体積割合(Vf)は35%、炭素繊維の繊維長は一定長であり、重量平均繊維長は18mmであった。これをY材料とした。
【0065】
[比較例3]
実施例2におけるY材料の製造段階において、2軸押し出し時の混練条件を強くして、炭素繊維の重量平均繊維長を0.05mmとしたこと以外は、実施例1と同様にプレス成形体を製造した。結果を表1に示す。
なお、X材料の延展率D
Xは15%であった。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例1〜7は、X材料とY材料を同時プレスしてプレス成形体を製造するため、X領域とY領域の接合強度に優れ、かつ生産効率に優れ、流動性に優れるY材料を必要な部分にのみ配置することで、複雑な形状のプレス成形体を製造できる。また、実施例1〜7は、プレス成形体の端に発生するバリが小さく、面内方向の末端の角部の寸法安定性に優れる。さらに、発生した端材の量も少ないことから特に生産効率に優れる。
また、実施例2、4、5、7で得られたプレス成形体について、
図1(b)における一点鎖線sに相当する箇所を切断したところ、
図13のように、遷移区間XYが、厚み方向に、X領域がY領域で挟まれた構成を有し、Y領域のみで形成されている面内方向の端部が、前記遷移区間XYのY領域と連続的に形成されている態様(態様1a)であった。
【0068】
[実施例101]
(原料基材の作成)
炭素繊維として、繊維長20mmにカットした東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24K(平均繊維径7μm、単繊維数24,000本)を使用し、樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、米国特許第8946342号に記載された方法に基づき二次元ランダムに炭素繊維が配向した炭素繊維およびナイロン6樹脂の複合材料を作成した。得られた複合材料を260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、平均厚み2.5mm、幅400mm×長さ400mmの板状の原料基材を得た。板状の原料基材に含まれる炭素繊維の解析を行ったところ、炭素繊維体積割合(Vf)は35%、炭素繊維の繊維長は一定長であり、重量平均繊維長は20mmであった。
【0069】
(X材料の作成)
原料基材を120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、横248mm×縦100mm×厚み2.5mmのサイズのX材料を原料基材からカットして作成した。
【0070】
(Y材料の作成)
原料基材を余分に作成し、大型低速プラスチック粉砕機を用いて細かく12mm角に粉砕して粒材Rを得た。この粒材Rを集めてプレス成形し(260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱)、厚さ1.6mmのY材料を作成した。Y材料に含まれる重量平均繊維長を測定したところ、9mmであった。このY材料を120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、さらに、横66mm×縦100mm×厚み1.6mmの材料(Y1材料)1枚と、横16mm×縦100mm×厚み1.6mmの材料(Y2材料)2枚を切り出した。
【0071】
(プレス成形体の作成)
X材料とY材料(Y1材料及びY2材料)を
図6に示すように配置し、赤外線加熱機により275℃まで昇温し、プレス圧力20MPa(加圧開始から、20MPaに達するまでの時間1秒)、で1分間加圧して、
図8に示す形状のプレス成形体を得た。
図6中のXmはX材料を示し、Y1はY1材料を示し、Y2はY2材料を示す。
【0072】
[実施例102]
X材料は実施例101と同様に作成した。
Y材料としては、横235mm×縦42mm×厚み1.6mmのサイズの材料(Y3材料)を1枚切り出して使用した。
Y3材料の配置を
図7に示すように配置してプレス成形した(
図7中のXmはX材料を示し、Y3はY3材料を示し、A2はプレス成形体のハット形状の天面となる領域を示す)。Y3材料をハット形状の天面を形成するための成形型面(
図5のA1)に収まるように配置してプレスした。Y3材料の幅(
図7のa方向の長さであり、RAで示される。)はハット形状の天面を形成するための成形型面の幅(
図5のRA)と同じである。このため、実施例101の
図6の配置に比べて圧力が均一にかかりやすく、より低圧の条件で成形しても、実施例101と同じように
図8に示す形状のプレス成形体を成形できた。
実施例101及び102は、X材料とY材料を同時プレスしてプレス成形体を製造するため、X領域とY領域の接合強度に優れ、かつ生産効率に優れ、流動性に優れるY材料を必要な部分にのみ配置することで、複雑な形状のプレス成形体を製造できる。