特許第6899031号(P6899031)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899031
(24)【登録日】2021年6月15日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】ナノファイバヤーンの選択的浸透
(51)【国際特許分類】
   D06M 23/16 20060101AFI20210628BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20210628BHJP
   D02G 3/16 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   D06M23/16
   C01B32/174
   D02G3/16
【請求項の数】26
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-508351(P2020-508351)
(86)(22)【出願日】2018年8月1日
(65)【公表番号】特表2020-531700(P2020-531700A)
(43)【公表日】2020年11月5日
(86)【国際出願番号】US2018044732
(87)【国際公開番号】WO2019036186
(87)【国際公開日】20190221
【審査請求日】2020年4月13日
(31)【優先権主張番号】62/546,613
(32)【優先日】2017年8月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519164079
【氏名又は名称】リンテック・オヴ・アメリカ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】リマ,マルシオ・ディー
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−153392(JP,A)
【文献】 特開2015−211038(JP,A)
【文献】 特開2017−137594(JP,A)
【文献】 特開2017−106129(JP,A)
【文献】 特表2014−517797(JP,A)
【文献】 特表2018−535131(JP,A)
【文献】 特表2013−509503(JP,A)
【文献】 特表2015−533521(JP,A)
【文献】 特表2008−523254(JP,A)
【文献】 特表2018−535334(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/008632(WO,A1)
【文献】 特表2007−501525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 − 32/39
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
D06M 10/00 − 16/00
D06M 19/00 − 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の連続ナノファイバの集合体であって、
表面コーティングセクションと、
前記表面コーティングセクションと連続する露出面セクションと
を備え、
前記表面コーティングセクションが、
複数のナノファイバの第1の部分であって、この第1の部分が、第1の内部に第1の複数のファイバ間の隙間空間を画定するとともに、第1の外側表面を有する、複数のナノファイバの第1の部分と、
前記第1の複数のファイバ間の隙間空間のうちの少なくとも一部の中に配置されているとともに、前記表面コーティングセクションの前記第1の外側表面上に配置されている浸透材料と
を備え、
前記露出面セクションが、
複数のナノファイバの第2の部分であって、第2の内部に第2の複数のファイバ間の隙間空間を画定するとともに、第2の外側表面を画定する、複数のナノファイバの第2の部分と、
前記第2の複数のファイバ間の隙間空間のうちの少なくとも一部の中に配置されている浸透材料と
を備えるが、前記第2の外側表面上には浸透材料が実質的にはない、
複数の連続ナノファイバの集合体。
【請求項2】
生来のセクションを更に備え、前記生来のセクションが、第3の内部に第3の複数のファイバ間の隙間空間を画定するとともに、第3の外側表面を画定する複数のナノファイバの第3の部分を備え、前記第3の複数のファイバ間の隙間空間及び前記第3の外側表面上には浸透材料がない、請求項1に記載の連続ナノファイバの集合体。
【請求項3】
前記浸透材料が実質的にはない前記第2の外側表面と電気的に接触している導電体を更に備える、請求項1に記載の複数の連続ナノファイバの集合体。
【請求項4】
前記導電体と前記複数の連続ナノファイバの集合体との間の電気抵抗が3000オーム/cm未満である、請求項3に記載の連続ナノファイバの集合体。
【請求項5】
前記浸透材料が実質的にはない前記第2の外側表面で3000オーム/cm未満の電気抵抗を有し、前記表面コーティングセクションの前記第1の外側表面で3000オーム/cmより大きい電気抵抗を有する、請求項1に記載の複数の連続ナノファイバの集合体。
【請求項6】
前記露出面セクションと電気的に接触しているはんだ接点を更に備える、請求項1に記載の複数の連続ナノファイバの集合体。
【請求項7】
前記はんだ接点と電気的に接触する導電体を更に備える、請求項6に記載の複数の連続ナノファイバの集合体。
【請求項8】
前記導電体、前記はんだ接点、及び前記露出面セクションが、集合的に300オーム/cm未満の電気抵抗を有する、請求項7に記載の複数の連続ナノファイバの集合体。
【請求項9】
前記表面コーティングセクションと前記露出面セクションとが隣接する、請求項1に記載の複数の連続ナノファイバの集合体。
【請求項10】
前記複数のナノファイバの前記第1の部分及び前記複数のナノファイバの前記第2の部分の1つ以上が100μm未満の直径を有する、請求項1に記載の複数の連続ナノファイバの集合体。
【請求項11】
前記複数のナノファイバの前記第1の部分及び前記複数のナノファイバの前記第2の部分の1つ以上が50μm未満の直径を有する、請求項1に記載の複数の連続ナノファイバの集合体。
【請求項12】
前記ナノファイバがカーボンナノファイバである、請求項1に記載の複数の連続ナノファイバの集合体。
【請求項13】
前記カーボンナノファイバが複数層カーボンナノファイバである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の複数の連続ナノファイバの集合体。
【請求項14】
ナノファイバヤーンであって、
前記ナノファイバヤーンの外側表面を画定する複数のナノファイバと、
前記ナノファイバヤーンの内部の複数のファイバ間の隙間空間の少なくとも一部の中に配置されている浸透材料と
を備え、
前記ナノファイバヤーンの前記外側表面には浸透材料が実質的にはない、
ナノファイバヤーン。
【請求項15】
前記外側表面がカーボンナノファイバの外表面を備える、請求項14に記載のナノファイバヤーン。
【請求項16】
前記外側表面の一部分と電気的に接触し、直接物理的に接触する導電体を更に備える、請求項14に記載のナノファイバヤーン。
【請求項17】
前記外側表面の一部分と電気的に接触し、直接物理的に接触するはんだ接点を更に備える、請求項14に記載のナノファイバヤーン。
【請求項18】
前記はんだ接点、及び外側表面が、集合的に300オーム/cm未満の電気抵抗を有する、請求項14〜17のいずれかに記載のナノファイバヤーン。
【請求項19】
前記浸透材料が非導電性ポリマーである、請求項14に記載のナノファイバヤーン。
【請求項20】
前記浸透材料が、ポリマーと前記ポリマーの中のナノ粒子とを備える、請求項14に記載のナノファイバヤーン。
【請求項21】
ナノファイバ構造体を製造するための方法であって、
複数のナノファイバの集合体を提供するステップと、
前記複数のナノファイバの集合体に浸透材料を適用するステップと、
前記複数のナノファイバの集合体の外側表面に前記浸透材料のコーティングを形成するとともに、前記複数のナノファイバの集合体の内部に前記浸透材料を浸透させるステップと、
前記ナノファイバ構造体の前記外側表面上の前記浸透材料の前記コーティングを除去するステップと
を含む、方法。
【請求項22】
前記浸透材料の前記コーティングを除去するステップが、前記ナノファイバの集合体に真空を印加することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記除去するステップが、前記浸透材料の前記コーティングに流体の噴出を適用することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記浸透材料が、前記ナノファイバの集合体の前記外側表面上の前記浸透材料の前記コーティングを除去した後、前記ナノファイバの集合体の前記内部の中には留まる、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記浸透材料の前記コーティングを除去した後、はんだ接点を、前記ナノファイバの集合体の前記外側表面と直接物理的に接触させるステップを更に含む、請求項21〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記提供される複数のナノファイバの集合体が、ナノファイバのフォレストから引き出されるものである、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、米国特許法第119条の下で、ここに引用することで本明細書の記載の一部をなすものとする、2017年8月17日に出願された「Selective Infiltration of Nanofiber Yarns」と題する米国仮特許出願第62/546,613号に基づく優先権を主張する。
【0002】
本開示は、概してナノファイバ処理に関する。具体的には、本開示は、ナノファイバヤーン(yarn)の選択的な浸透に関する。
【背景技術】
【0003】
単層ナノチューブと複数層ナノチューブの両方から成るナノファイバフォレストは、ナノファイバシートの中に引き出すことができる。その引き出し前の状態で、ナノファイバフォレストは、ナノファイバの単一の層(又はナノファイバの層の積み重ね)が互いに平行であり、成長基板の表面に垂直である構成にある。ナノファイバシートの中に引き出されると、ナノファイバの向きは、成長基板の表面に平行である構成要素を有することに変化する。また、ナノファイバシートの構成は、成長した通りの(as−grown)ナノファイバフォレストに関して異なる。具体的には、引き出されたナノファイバシート内のナノチューブは、端部から端部への構成で互いに結合して、ナノファイバの長手方向軸がシートの平面に平行(つまり、ナノファイバシートの第1の主面と第2の主面の両方に平行)になる連続面を形成する。ナノファイバシートは、ナノファイバシートをナノファイバヤーンに紡ぐことを含む、さまざまな方法のいずれかで処理できる。
【発明の概要】
【0004】
本開示の例1(Example 1)は、複数のナノファイバの集合体であって、この複数のナノファイバの集合体は、表面コーティングセクションと、表面コーティングセクションと連続する露出面セクションとを備え、表面コーティングセクションは、
第1の内部に第1の複数のファイバ間の隙間空間を画定するとともに、第1の外側表面を有する複数のナノファイバの第1の部分と、第1の複数のファイバ間の隙間空間の少なくとも一部の中に配置され、且つ表面コーティングセクションの第1の外側表面上に配置されている浸透材料とを備え、前記露出面セクションは、第2の内部に第2の複数のファイバ間の隙間空間を画定するとともに、第2の外側表面を画定する複数のナノファイバの第2の部分と、第2の複数のファイバ間の隙間空間の少なくとも一部の中に配置された浸透材料とを備え、第2の外側表面は露出しているというものである。
【0005】
例2(Example 2)は、例1の主題を含み、生来のセクションを更に備え、この生来のセクションは、第3の内部に第3の複数のファイバ間の隙間空間を画定するとともに、第3の外側表面を画定する複数のナノファイバの第3の部分を備え、この第3の複数のファイバ間の隙間空間と第3の外側表面上には浸透材料がない。
【0006】
例3(Example 3)は、例1又は2のどちらかの主題を含み、露出面セクションと電気的に接触する導電体を更に備える。
【0007】
例4(Example 4)は、例3の主題を含み、導電体と複数の連続ナノファイバ(continuous nanofibers)の集合体との間の電気抵抗は3000オーム/cm未満である。
【0008】
例5(Example 5)は、例1〜4のいずれかの主題を含み、浸透材料が実質的にはない外側表面で3000オーム/cm未満の電気抵抗を有し、表面コーティングセクションで3000オーム/cmより大きい電気抵抗を有する。
【0009】
例6(Example 6)は、例1〜5のいずれかの主題を含み、露出面セクションと電気的に接触するはんだ接点を更に備える。
【0010】
例7(Example 7)は、例6の主題を含み、はんだ接点と電気的に接触する導電体を更に備える。
【0011】
実施例8(Example 8)は、例7又は8の主題を含み、導電体、はんだ接点、及び露出面セクションは、集合的に300オーム/cm未満の電気抵抗を有する。
【0012】
例9(Example 9)は、例1〜8のいずれかの主題を含み、表面コーティングセクションと露出面セクションとは隣接している。
【0013】
例10(Example 10)は、例1〜9のいずれかの主題を含み、複数のナノファイバの第1の部分及び複数のナノファイバの第2の部分の1つ以上は、100μm未満の直径を有する。
【0014】
例11(Example 11)は、例1〜9のいずれかの主題を含み、複数のナノファイバの第1の部分及び複数のナノファイバの第2の部分の1つ以上は、50μm未満の直径を有する。
【0015】
例12(Example 12)は、先行する例のいずれかの主題を含み、ナノファイバはカーボンナノファイバである。
【0016】
例13(Example 13)は、例12の主題を含み、カーボンナノファイバは複数層カーボンナノファイバである。
【0017】
例14(Example 14)は、ナノファイバヤーンであって、このナノファイバヤーンは、ナノファイバヤーンの外側表面を画定する複数のナノファイバと、ナノファイバヤーンの内部の複数のファイバ間の隙間空間の少なくとも一部の中に配置された浸透材料とを備え、ナノファイバヤーンの外側表面には、浸透材料が実質的にはないというものである。
【0018】
例15(Example 15)は、例14の主題を含み、外側表面はカーボンナノファイバの外表面を含む。
【0019】
例16(Example 16)は、例14及び15の主題を含み、外側表面の一部分と電気的に接触し、直接物理的に接触する導電体を更に備える。
【0020】
例17(Example 17)は、例14〜16のいずれかの主題を含み、外側表面の一部分と電気的に接触し、直接物理的に接触するはんだ接点を更に備える。
【0021】
例18(Example 18)は、例17の主題を含み、はんだ接点及び外側表面は、集合的に300オーム/cm未満の電気抵抗を有する。
【0022】
例19(Example 19)は、例14〜18のいずれかの主題を含み、浸透材料は非導電ポリマーである。
【0023】
例20(Example 20)は、例14〜19のいずれかの主題を含み、浸透材料はポリマー及びの中のナノ粒子を含む。
【0024】
例21(Example 21)は、ナノファイバ構造体を製造する方法であって、この方法は、複数のナノファイバの集合体を提供するステップと、複数のナノファイバの集合体に浸透材料を適用するステップと、複数のナノファイバの集合体の外側表面上に浸透材料のコーティングを形成するとともに、複数のナノファイバの集合体の内部に浸透材料を浸透させるステップと、ナノファイバ構造体の外側表面上の浸透材料のコーティングを除去するステップとを含む。
【0025】
例22(Example 22)は、例21の主題を含み、浸透材料のコーティングを除去するステップが、複数のナノファイバの集合体に真空を印加することを含む。
【0026】
例23(Example 23)は、例21又は22のどちらかの主題を含み、除去するステップは、浸透材料のコーティングに流体の噴出(burst)を適用することを含む。
【0027】
例24(Example 24)は、例21〜23のいずれかの主題を含み、浸透材料は、複数のナノファイバの集合体の外側表面上の浸透材料のコーティングを除去した後に、複数のナノファイバの集合体の内部の中には留まる(remain)。
【0028】
例25(Example 25)は、例21〜24のいずれかの主題を含み、浸透材料のコーティングを除去した後に、はんだ接点を複数のナノファイバの集合体の外側表面と直接物理的に接触させるステップを更に含む。
【0029】
例26(Example 26)は、例21〜25のいずれかの主題を含み、提供される複数のナノファイバの集合体は、ナノファイバのフォレストから引き出されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施形態における基板上のナノファイバのフォレストの一例を示す。
図2】実施形態におけるナノファイバを成長させるために使用されるリアクタの一例を示す。
図3】ナノファイバシートの相対的な寸法を識別するナノファイバシートの図であって、一実施形態において、シート内の複数のナノファイバが端から端へと、シートの表面に平行な平面に整列されていることを概略的に示す図である。
図4】ナノファイバフォレストから側面方向に引き出されているナノファイバシートの画像であって、複数のナノファイバは端から端へと整列されている。
図5図5Aは、実施形態において、材料が浸透しているナノファイバヤーンの概略的な側面図であり、浸透材料の外部層はナノファイバヤーンの一部分から除去される。図5B図5C、及び図5Dは、実施形態において、図5Aに示すナノファイバヤーンの3つのセクションのそれぞれの断面図である。
図6】実施形態において、ナノファイバヤーンに材料を浸透させ、ナノファイバヤーンの外側表面から浸透材料の外部層を除去するためのシステムの概略側面図である。
図7】実施形態において、ナノファイバヤーンに材料を浸透させ、ナノファイバヤーンの外側表面から浸透材料の外部層を除去するための例示的な方法を示すプロセスフロー図である。
図8】本開示の実施形態に従って作成されたナノファイバヤーンの電気抵抗対ナノファイバヤーン場所のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図は、例示のためだけに本開示の多様な実施形態を示す。多数の変形形態、構成、及び他の実施形態は、以下の発明を実施するための形態から明らかになる
【0032】
[概要]
ナノファイバヤーン内の複数のナノファイバ間の隙間の空間の中に材料を浸透させることは、ナノファイバヤーンの多様な特性(化学的、機械的、又は電気的な特性)を向上できる。また、概して、ナノファイバヤーンに浸透した材料の層は、ナノファイバヤーンの外側表面上に配置されたままとなる。浸透した材料が導電性ではない例(例えば、非導電性ポリマー又は電気絶縁体で充填された材料)の場合、ナノファイバヤーンの外側上にある層は、ナノファイバヤーンとの導電性の接点(例えば、電気はんだの導電率に匹敵する又は超える導電率)を確立することが困難である。ナノファイバ自体が導電性である例(例えば、カーボンナノファイバ)の場合、浸透が行われたナノファイバヤーンの外側における電気抵抗性コーティングは、システムの他の要素との導電接続を要する用途でのナノファイバヤーンの使用を妨げることがある。言い換えると、ナノファイバヤーンは導電性であってよいが、非導電(つまり、絶縁)材料の外部層は、導電性のナノファイバヤーンを電気的に遮蔽された状態にする。浸透後にナノファイバヤーンの外側表面から浸透材料を部分的に除去することは、困難であることがある。多くの場合、ナノファイバヤーンの表面上にある浸透材料は、ナノファイバヤーンの内部(つまり、外側表面により形成された境界の内側)の浸透材料にしっかりと付着している(及び/又は一体化している)。外部表面層を熱的又は化学的に除去すると、浸透が行われたナノファイバヤーンのその他の部分(複数のナノファイバ自体を含む)に損傷を与えることがある。これは、同様に、ナノファイバヤーンの電気的及び/又は機械的特性を低下させることがある。
【0033】
したがって、本開示の実施形態によれば、ナノファイバヤーンに浸透材料を浸透させ、そして、浸透が行われたナノファイバヤーンの少なくとも一部の上の浸透材料の表面層を除去するための技術が説明される。これは、浸透材料がナノファイバヤーンの内部に選択的に配置され、ナノファイバヤーンの少なくとも一部の外側表面に配置されないようにする浸透方法を可能にする。浸透材料がない(完全にない又は実質的にない)外側表面の部分を有するナノファイバヤーンの実施形態の優位点は、複数のナノファイバ(及びこれらから作られるヤーン又はその他の構成)を、電気システムの他の要素に電気的に接続できる点である。電気的接続は、ナノファイバヤーンの露出面に直接的に電極(例えば、導電性のクランプ又は接続金具)を接続する、接触させる、又は取り付けることによって確立できる。また、電気的接続は、ナノファイバヤーンの露出面に導電体(例えば、銅線またはアルミニウム線)をはんだ付けすることによって確立することもできる。これらの例は、浸透が行われたナノファイバを使用できる用途の数を増加させることができる。
【0034】
[ナノファイバフォレスト]
本明細書で使用するように、用語「ナノファイバ」は、1μm未満の直径を有するファイバを意味する。本明細書の実施形態はカーボンナノチューブから製造されるとして主に説明しているが、他の炭素同素体(グラフェン、マイクロメートルもしくはナノスケールのグラファイトファイバ及び/又はプレート、ならびに窒化ホウ素等のナノスケールファイバの他の組成物)であっても、以下に説明する技術を使用し、高密度化(densified)及び/又は機能化(functionalized)できることが理解される。本明細書で使用するように、用語「ナノファイバ」及び「カーボンナノチューブ」は、単層(single walled)カーボンナノチューブ及び/又は複数層(multi-walled)カーボンナノチューブの両方を包含し、これらは炭素原子が互いに連結されて円筒形の構造を形成するものである。一実施形態では、本明細書で言及するカーボンナノチューブは、4から10個の層(wall)を有する。本明細書で使用するように、「ナノファイバシート」又は単に「シート」は、引き出しプロセス(ここに引用することで本明細書の記載の一部をなすものとする国際公開第2007/015710号に記載)によって整列された複数のナノファイバのシートを指し、このシートのナノファイバの長手方向の軸は、シートの主面に対して垂直(つまり、多くの場合「フォレスト」と呼ばれる、シートが堆積された通り(as-deposited)の形)ではなく、シートの主面に平行になる。これは、それぞれ図3及び図4に説明され、示される。
【0035】
カーボンナノチューブの寸法は、使用する生産方法に応じて大きく変わる場合がある。例えば、カーボンナノチューブの直径は0.4nm〜100nmであってよく、その長さは10μmから55.5cmを超えるまでに及ぶ場合がある。また、カーボンナノチューブは、132,000,000:1又はそれ以上の非常に高いアスペクト比(長さ対直径の比)を有することも可能である。広範囲の寸法上の可能性を所与として、カーボンナノチューブの特性は、きわめて調整可能(adjustable)又は「調節可能(tunable)」である。カーボンナノチューブの多くの興味深い特性が特定されてきたが、カーボンナノチューブの特性を実際的な用途で利用することは、カーボンナノチューブの特徴を維持または向上できるようにする拡張可能かつ制御可能な生産方法を必要とする。
【0036】
カーボンナノチューブは、その独特な構造のため、カーボンナノチューブを特定の用途に大いに適した特定の機械的特性、電気的特性、化学的特性、熱的特定、及び光学的特性を有する。特に、カーボンナノチューブは、優れた電気伝導性、高い機械的強度、良好な熱安定性を示し、疎水性でもある。これらの特性に加えて、カーボンナノチューブは、有用な光学的特性も示す場合がある。例えば、カーボンナノチューブは、狭く選択された波長で光を放射又は検出するために発光ダイオード(LED)及び光検知器で使用されてよい。また、カーボンナノチューブは、光子輸送及び/又はフォノン輸送にも有用であることが判明するかもしれない。
【0037】
本開示の多様な実施形態によれば、ナノファイバ(カーボンナノチューブを含むが、これに限定されるものではない)は、本明細書で「フォレスト」と呼ぶ構成を含む、多様な構成において配置される場合がある。本明細書に使用するように、ナノファイバ又はカーボンナノチューブの「フォレスト」は、基板上で互いに対して実質的に平行に配置されるほぼ同等な寸法を有するナノチューブのアレイを指す。図1は、基板上の複数のナノファイバのフォレストの一例を示す。基板は、任意の形状であってよいが、一実施形態では、基板は、フォレストがアセンブルされる平面を有する。図1で分かるように、フォレスト内の複数のナノファイバは、高さ及び/又は直径がほぼ等しくてよい。
【0038】
本明細書に開示するナノファイバフォレストは、相対的に高密度であってよい。具体的には、開示するナノファイバフォレストは、少なくとも10億ナノファイバ/cmの密度を有してよい。一つの具体的な実施形態では、本明細書に説明するナノファイバフォレストは、100億/cmから300億/cmの間の密度を有してよい。他の例では、本明細書に説明するナノファイバフォレストは、900億ナノファイバ/cmのオーダーの密度を有してよい。フォレストは、高密度または低密度の領域を含んでよく、特定の領域はナノファイバを欠いていてよい。また、フォレストの中のナノファイバは、ファイバ間接続性(inter-fiber connectivity)を示してもよい。例えば、ナノファイバフォレストの中の近傍のナノファイバは、ファンデルワールス力により互いに引きつけられてよい。また、フォレストの中のナノファイバの密度は、本明細書に説明する技術を適用することによって増加させることができる。
【0039】
ナノファイバフォレストを製造する方法は、例えば、ここに引用することで本明細書の記載の一部をなすものとする国際公開第2007/015710号に説明される。
【0040】
ナノファイバ前駆体フォレスト(nanofiber precursor forests)を作り出すために多様な方法を使用できる。例えば、図2に概略で示すように、一実施形態では、複数のナノファイバを高温炉内で成長させてもよい。一実施形態では、リアクタ内に設置した基板に触媒を置いてもよく、次いでリアクタに供給される燃料化合物に触媒を曝露させてもよい。基板は、800℃または1000℃をも超える温度に耐えることができ、不活性物質であってもよい。基板は、ステンレス鋼またはアルミニウムを含んでよく、これらはその下にあるシリコン(Si)ウェハ上に配置されており、また、Siウェハの代わりに他のセラミック基板(例えば、アルミナ、ジルコニア、SiO、ガラスセラミック)を使用してもよい。前駆体フォレストのナノファイバがカーボンナノチューブである例では、例えばアセチレン等の炭素系化合物が燃料化合物として使用されてもよい。リアクタに導入後、燃料化合物(複数可)は、次いで触媒に蓄積し始めてよく、ナノファイバのフォレストを形成するために基板から上方に成長することによって集合してよい。また、リアクタは、燃料化合物(複数可)及びキャリアガスをリアクタに供給することができるガス入口と、消費された燃料化合物及びキャリアガスをリアクタから放出することができるガス出口を備えてもよい。キャリアガスの例としては、水素、アルゴン、及びヘリウムがある。また、これらのガス、特に水素は、ナノファイバフォレストの成長を容易にするためにリアクタに導入してもよい。さらに、ナノファイバに組み込まれるドーパントを、ガス流に加えてもよい。
【0041】
ナノファイバを成長させる間の反応条件は、生成するナノファイバ前駆体フォレストの特性を調整するために変化させることができる。例えば、触媒の粒径、反応温度、ガス流量、及び/又は反応時間は、所望される仕様を有するナノファイバフォレストを作り出すために、必要に応じて調整できる。一実施形態では、基板上の触媒の位置は、所望されるパターン化を有するナノファイバフォレストを形成するために制御される。例えば、一実施形態では、触媒は、あるパターンで基板上に置かれ、パターン化された触媒から成長したフォレストも、同様にパターン化される。触媒の例としては、酸化ケイ素(SiO)または酸化アルミニウム(Al)のバッファ層を有する鉄がある。これらは、とりわけ化学気相堆積法(CVD)、圧力補助(pressure assisted)化学気相堆積法(PCVD)、電子線(eBeam)堆積法、スパッタリング、原子層堆積法(ALD)、プラズマ化学気相堆積法(PECVD)を使用し、基板上に付着されてよい。
【0042】
一部の特定の実施形態では、複数のナノファイバ前駆体フォレストは、同じ基板上で順次的に成長して、代わりに「スタック」と呼ばれる複数層ナノファイバフォレストを形成してよい。
【0043】
複数層ナノファイバフォレストを製造するために使用されるプロセスでは、1つのナノファイバフォレストが基板上に形成され、続いて第1のナノファイバフォレストに接触する第2のナノファイバフォレストが後に続く。複数層ナノファイバフォレストは、例えば基板上に第1のナノファイバフォレストを形成し、第1のナノファイバフォレストに触媒を置き、次いでリアクタに追加の燃料化合物を導入して、第1のナノファイバフォレストに置かれた触媒から第2のナノファイバフォレストの成長を促進する等、多数の適切な方法により形成することができる。適用する成長方法、触媒のタイプ、及び触媒の場所に応じて、第2のナノファイバ層は、第1のナノファイバ層の上部で成長するか、又は例えば水素ガスで触媒をリフレッシュした後に、直接的に基板上で成長し、このようにして第1のナノファイバ層の下で成長するかのどちらかであってよい。なお、第1のフォレストと第2のフォレストとの間に容易に検出可能な界面があるが、第2のナノファイバフォレストは、第1のナノファイバフォレストの複数のナノファイバとほぼ端と端とが整列されていてもよい。複数層ナノファイバフォレストは、任意の数のフォレストを含んでよい。例えば、複数層前駆体フォレストは、2つ、3つ、4つ、5つ、又はそれ以上の層のフォレストを含んでよい。
【0044】
[ナノファイバシート]
本願の複数のナノファイバは、フォレスト構成での配置に加えて、シート構成で配置されてもよい。本明細書で使用するように、用語「ナノファイバシート」、「ナノチューブシート」、又は単に「シート」は、複数のナノファイバが端から端へと平面に整列されているという、複数のナノファイバの配列を指す。例示的なナノファイバシートの図は、寸法のラベルとともに図3に示される。一実施形態では、シートはシートの厚さよりも100倍以上大きい長さ及び/又は幅を有する。一実施形態では、長さ、幅、又は両方は、シートの平均厚さよりも10倍、10倍、又は10倍以上大きい。ナノファイバシートは、例えば約5nmと30μmの間の厚さ、及び意図した用途に適した任意の長さ及び幅を有する場合がある。一実施形態では、ナノファイバシートは、1cmと10メートルの間の長さ、及び1cmと1メートルの間の幅を有する場合がある。これらの長さは、単に例示のために提供される。ナノファイバシートの長さ及び幅は、製造設備の構成によって制約され、ナノチューブ、フォレスト、又はナノファイバシートのいずれかの物理的特性または化学的特性によって制約されない。例えば、連続的なプロセスは、任意の長さのシートを作ってもよい。これらのシートは、それらを作りつつ、ロールに巻き付けてもよい。
【0045】
図3で分かるように、複数のナノファイバの端から端へと整列している軸(axis)を、ナノファイバの整列方向と呼ぶ。一実施形態では、ナノファイバの整列方向は、ナノファイバシート全体を通して連続してよい。複数のナノファイバは、互いにとって必ずしも完璧に平行ではなく、ナノファイバの整列方向は、ナノファイバの整列方向の平均的な又は一般的な指標であることが理解される。
【0046】
ナノファイバシートは、シートを作り出すことができる任意のタイプの適切なプロセスを使用し、アセンブルされてよい。一部の例の実施形態では、ナノファイバシートは、ナノファイバフォレストから引き出されてよい。ナノファイバフォレストから引き出されるナノファイバシートの例は、図4に示される。
【0047】
図4で分かるように、複数のナノファイバはフォレストから側面方向に引き出され、次いで端から端へと整列して、ナノファイバシートを形成してよい。ナノファイバシートがナノファイバフォレストから引き出される実施形態では、フォレストの寸法は、特定の寸法を有するナノファイバシートを形成するために制御されてよい。例えば、ナノファイバシートの幅は、シートがそれから引き出されたナノファイバフォレストの幅にほぼ等しくてよい。さらに、シートの長さは、例えば所望するシート長が達成されたときに引き出しプロセスを完了することによって制御してもよい。
【0048】
ナノファイバシートは、多様な用途に利用できる多くの特性を有する。例えば、ナノファイバシートは調節可能な不透過率、高い機械的強度及び機械的柔軟性、熱伝導性及び電気伝導性を有してもよいし、疎水性を示してもよい。シートの中でのナノファイバの高度の整列を所与とすると、ナノファイバシートはきわめて薄くすることができる。一例では、ナノファイバシートの厚さは、(通常の測定公差の中で測定される)約10nmほどであり、ナノファイバシートをほぼ二次元にする。他の例では、ナノファイバシートの厚さは200nm又は300nmほどの高さであってもよい。したがって、ナノファイバシートは、構成要素に最小の追加厚さを追加してよい。
【0049】
ナノファイバフォレストと同様に、ナノファイバシート内のナノファイバは、ナノファイバ単独とは異なる化学的活性を提供する、シートのナノファイバの表面に化学基または化学元素を添加することによって処理剤により機能的にされてよい。ナノファイバシートの機能化は、以前に機能化されたナノファイバに対して実行される場合もあれば、以前に機能化されていないナノファイバに対して実行される場合もある。機能化は、CVD及び多様なドーピング技術を含むが、これに限定されるものではない、本明細書に説明する技術のいずれかを使用し、実行できる。
【0050】
また、ナノファイバシートは、ナノファイバフォレストから引き出されると、高い純度を有する場合があり、いくつかの例では、ナノファイバシートの90%を超える、95%を超える、又は99%を超える重量パーセントがナノファイバに起因する。同様に、ナノファイバシートは、炭素の90%を超える重量パーセント、95%を超える重量パーセント、99%を超える重量パーセント、又は99.9%を超える重量パーセントを含んでよい。
【0051】
[ナノファイバヤーン内での浸透材料の選択的浸透]
以下の例は主にヤーン(単糸(single ply yarn)、又は2又はそれ以上の独立した糸を互いに撚り合わせた撚糸(multi-ply yarn))に焦点を当てているが、これは単に説明の便宜上のためである。ヤーンだけではなく、他の形のナノファイバを以下の例に説明するナノファイバヤーンの代用品として使用できることが理解される。例えば、フォレストから引き出されたが、ヤーンのように撚られていない(又は仮撚りされた)ナノファイバのストランド(strand)も、本開示の実施形態に従って取り扱ってもよい。複数のナノファイバの実施形態は、ヤーンであるか、撚られていないストランドであるか、密度が高められているか、密度が高められていないか、又はフォレストかに関わらず、一般的に複数のナノファイバの「集合体(corrections)」又は「構造体(structures)」と呼ばれる。
【0052】
図5Aは、処理の多様な段階での例示的なナノファイバヤーン500の概略的な側面図である。具体的には、図示している例示的なナノファイバヤーン500は、そのそれぞれが処理の異なる段階に相当する、3つのセクション504、512、及び520を有するものとして図示されている。浸透材料は、より詳細に以下に説明するように、セクション512、520のいくつかの部分で選択的に配置される。
【0053】
ナノファイバヤーン500の第1のセクション504は、ナノファイバヤーン500の処理されていない、つまり「生来の(native)」部分である。一例では、この第1のセクション504は、浸透の前のナノファイバヤーン500に相当する。
【0054】
第1のセクション504は、外側表面508を含み、これは複数の独立したナノファイバの一部分がプロセス環境の外気に露出されることにより形成される。一例において、図示された第1のセクション504には、溶液であるか、ポリマーであるか、ポリマー溶液であるか、又はポリマー及び充填剤粒子であるかに関わらず、他の材料がまだ浸透していない。外側表面508は、このようにして浸透材料でコーティングされていない又は隠されていない。さらに、図5Aに示されるように、第1のセクション504の直径は、第2のセクション512及び第3のセクション520の直径よりも大きく、これは、国際公開第2007/015710号に説明するように、複数のナノファイバの集合体(例えば、ナノファイバヤーン等)において浸透材料が有することができる「高密度化」効果のためである。
【0055】
ナノファイバヤーン500の第2のセクション512は、ナノファイバヤーン500の外側表面508上に配置されているとともに、ナノファイバヤーンの内部(つまり、図5Cに示すように、複数のナノファイバ506の間のインターファイバ隙間空間(inter-fiber interstitial spaces))にも配置されている浸透材料516を有する。図示するように、図5A及び図5Cの両方を参照すると、浸透材料516は、第2のセクション512の外側表面508をコーティングし、このようにしてプロセス環境の外気からそれを隠す。浸透材料のコーティングの厚さは、説明の便宜上誇張されることが理解される。例では、浸透材料516のコーティングの実際の厚さは、5ミクロンに満たない、又は1ミクロンにも満たない。
【0056】
ナノファイバヤーン500の第3のセクション520は、浸透材料が浸透しているナノファイバヤーンを含む。浸透材料516は、このようにしてナノファイバヤーン500の内部524に配置される。より詳細には、浸透材料516は、ナノファイバヤーン500の第3のセクション520の中のナノファイバ506により画定された隙間空間の中に配置される。これは、図5Dの断面図に示される。以下により詳細に説明するように、ナノファイバヤーン500の第3のセクション520の外側表面508は、再びプロセス環境の外気に露出され、浸透材料が実質的になく、したがって3000オーム/cm未満である界面接触抵抗により導電体(例えば、銅線)との電気的接続を有することができる。いくつかの例では、「実質的にない」は、少なくとも50%の外側表面508には(連続領域であるか、又は分離しているが合計で50%の断続領域であるかに関わらず)浸透材料がなく、したがって周囲環境にナノファイバが少なくとも部分的に露出していることを意味する。他の例では、「実質的にない」は、浸透材料が、平均的に厚さ1ミクロン未満となる層でナノファイバヤーンの表面をコーティングしていることを意味してもよく、したがって印加された物理的な力(例えば、はんだガンによる加熱、導電性クランプによる衝撃)又は電気的な力(例えば、印加された電圧)に対するかなりの電気的な又は機械的な障壁を提供しない。なお、外側表面に浸透材料516が実質的に存在しないのは、例えば真空により浸透材料のコーティングが除去されたためである。浸透材料の表面コーティングの除去は、ナノファイバヤーン500の第3のセクション520の内部524には浸透材料516が留まるように制御される。
【0057】
図5B図5C、及び図5Dは、図5Aに示す3つのセクションのそれぞれのセクションの断面図を示す。図5Bに示すように、第1のセクション504の断面は、複数のナノファイバ506を含み(これらは複数のナノファイバの集合体の内部に複数のナノファイバの間の隙間空間を画定する)、露出された外側表面508も含む。図5Cに示すように、第2のセクション512の断面は、浸透材料516が浸透し、浸透材料516でコーティングされたナノファイバヤーン500の部分を示す。したがって、第1のセクション504で外気に露出された外側表面508は、ここでは浸透材料516でコーティングされる。図5Dに示す第3のセクション520の断面は、ナノファイバヤーン500の第3のセクション520の内部524(つまり、独立した複数のナノファイバ506により画定された隙間空間)に配置された浸透材料516を示す。第2のセクション512とは異なり、第3のセクション520は、外側表面508上に配置され、外側表面508をコーティングする浸透材料516の部分的な除去により、プロセス環境の外気に再び露出される外側表面508を有する。
【0058】
[例示的なシステム及び方法]
図6は、浸透材料でナノファイバヤーンの浸透を制御するための例示的なシステム600を示す。図7は、実施形態において、ナノファイバヤーンの浸透を制御するための例示的な方法700のプロセスフロー図を示す。図6及び図7を同時に参照することは、説明を容易にする。
【0059】
システム600は、浸透材料アプリケータ604及び浸透材料リムーバ608を備える。国際公開第2007/015710号に説明されるもの等の、ナノファイバをナノファイバヤーンに紡いだり、任意選択でナノファイバヤーンの密度を高めたり、ナノファイバヤーンをシステム600を通して誘導したり、処理されたナノファイバを巻き付ける等のために使用できる他の要素は、説明を明確にするために省略される。
【0060】
図示されるように、ナノファイバヤーン500はシステム600に提供される704。システム600を使用し、処理されるとき、ナノファイバヤーン500は、図5A図5Dで上記したように、第1のセクション504、第2のセクション512、及び第3のセクション520を有する。一例では、ナノファイバヤーン500は、上記に及びここに引用することで本明細書の記載の一部をなすものとする国際公開第2007/015710号に説明するように、ナノファイバフォレストから引き出され、ナノファイバヤーンとして紡がれる。しかしながら、他のタイプのナノファイバヤーンをシステム600に提供できる704ことが理解される。
【0061】
提供された704後、ナノファイバヤーン500は次いで浸透材料アプリケータ604の近くに通される。浸透材料アプリケータ604は、浸透材料をナノファイバヤーン500に適用し708、このようにして図5Cに示す第2のセクション512を作成する。浸透材料アプリケータ604は、リザーバ616及びチャネル620を備える。リザーバ616は、液体または溶融した浸透材料を保有し、チャネル620は、ナノファイバヤーンが、リザーバ616に対向するチャネル620の端部により画定された計量配分開口部(dispense opening)を通って引き出され、保有していた浸透材料を、リザーバ616からナノファイバヤーン500の中に流れることを可能にする。一例では、浸透材料アプリケータ604は、浸透材料がナノファイバヤーンに適用される708速度、及び/又は適用される708浸透材料の量を制御するコントローラ(図示省略)を備える。コントローラの具体的な例としては、質量流量コントローラ、蠕動ポンプ、タイミングバルブがある。適用される708速度及び/又は量は、チャネルの計量配分開口部でナノファイバヤーンが通過する速度と連携して選択できる。他の例では、チャネル620は、浸透材料の計量配分の量、周期性、及び/又は速度を制御するように開閉する弁を備える。
【0062】
いったん計量配分されると、浸透材料は、ナノファイバヤーン500の第2のセクション512の外部にコーティング624を形成する712。また、浸透材料は、上記に説明、図示したように、ナノファイバヤーンの内部に浸透する。浸透材料の例としては、例えば、熱可塑性物質(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、予備硬化型の粘弾性状態のエポキシド、ポリマー/溶媒の溶液(例えば、トルエン中のポリエチレン)、及び懸濁液中のコロイド粒子またはナノ粒子を含むポリマー溶液またはポリマー/溶媒の溶液(例えば、銀ナノ粒子を有するトルエン中のポリエチレン)等の溶融ポリマーがある。一部の例では、浸透材料は、ナノファイバヤーンの内部に配置された独立した複数のナノファイバの間の隙間の空間(すなわち、複数の隙間空間)に浸透し、外側表面をコーティングするだけではなく、個々のナノファイバをより密接に引き出してもよい。上記に参照したこの「高密度化」は、他の特性の中で、ナノファイバヤーンの多様な特性を改善し、これは引張り強さ及び電気伝導性を増加させることを含む。一部の場合では、浸透は、1.5よりも大きい、2.0よりも大きい、又は3.0よりも大きい係数で、ナノファイバヤーンの密度(質量/単位体積)を増加させてもよい。
【0063】
ナノファイバヤーン500の表面上のコーティング624の一部分は、次いで、浸透材料リムーバ608により、流体材料として除去される716。以下に説明する例では、このリムーバ716は、浸透材料リムーバ608により表面コーティング624に適用された真空の印加により、無接点である。例示的なシステム600では、リムーバ608は、真空源628、及び真空を表面コーティング624に近接する場所に印加するために使用される導管632を備える。異なる除去機構を使用する他のタイプのリムーバ608が、表面コーティング624を除去するために使用できることが理解される。例えば、衝撃機構は、表面コーティング624をこすり落とすために使用できる(例えば、スキージー又はトロイダル形状のスクレーパー)。別の例では、流体(例えば、圧縮空気、溶媒)の集中した噴出が、表面コーティング624を除去するために使用できる。一実施形態では、導管632は、ナノファイバヤーン500を取り囲み、真空、溶媒、衝撃、又は他の材料除去機構をヤーンの全周に提供する環状リングを備える。他のタイプの除去方法は、本開示を鑑みて理解される。
【0064】
表面コーティング624を除去する716ために使用される方法に関わらず、この除去716によって、第3のセクション520として上述し、図5Dに示したナノファイバヤーンの構造が生じる。内部の隙間には浸透材料が浸透する。一方、ヤーンの外側表面に浸透材料は実質的にはない。
【0065】
例示的なシステム600に戻ると、印加した真空が、ナノファイバヤーンの外側表面上の浸透材料のコーティングの部分を除去する716。十分な真空圧は表面コーティング624に印加されて、表面コーティング624を除去するが、ナノファイバヤーン612の内部のナノファイバ間の隙間空間の中に配置された浸透材料の少なくとも一部分を残す。これを達成するための真空圧力は、部分的に、真空源628により生じる真空の体積、ナノファイバヤーン612に近接する導管632により画定された開口部、ならびにナノファイバヤーン612及び導管632により画定された開口部を分離する距離によって決定される。さらに、真空圧力は、浸透材料の粘度に応じて変えることができる。浸透材料の粘度がより高い場合、より多くの真空圧力を印加できる。より高い真空圧力が印加される状況の例としては、溶融ポリマーがそのガラス遷移温度に近い場合、ポリマー/溶媒の溶液がポリマーを膨張させるには十分であるが、溶媒和させない溶媒含有量の場合、及びエポキシがコーティング624の形成712に比してエポキシド反応を進行する場合を含む。
【0066】
[実施例の実験]
図8は、ここで説明した実施形態がナノファイバヤーンに適用された実験例の結果を示す。この実施例では、0.3重量%のポリビニルアルコール(PVA)のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液が調製された。このポリマー溶液は、ヤーンが製造されるにつれて、カーボンナノチューブ(CNT)ヤーンに適用された。CNTフォレスト、シート、及びヤーンは、上記および国際公開第2007/015710号に説明した方法に従って作成された。CNTフォレストから引き出されたCNTシートから作り出されたCNTヤーンは、例えば、ここに引用することで本明細書の記載の一部をなすものとする米国特許出願第62/435,878号明細書に説明した方法を使用し、仮撚りされた。この実施例の実験では、ヤーン直径は約28ミクロン(測定誤差及び直径の通常の変動により、+/−10%)であった。
【0067】
提供されたヤーンは次いで上述したPVA溶液でコーティングされ、PVA溶液が浸透した。それぞれ、真空が印加されたか又は印加されなかったかに対応して、ヤーンの外側表面領域がPVA溶液で交互にコーティングされない及びコーティングされるように、真空が交互に印加され及び印加されなかった。残りの材料は、DMSOを蒸発させることで硬化させた。
【0068】
次いで外側表面上にPVAのコーティングを含んでいないセクションに2つの電極を電気的に接触させて、CNTヤーンの線形抵抗を測定した。同様に、2つの電極を、外側表面上にPVAのコーティングを含んだセクションに電気的に接触させた。これらのセクションについてもCNTヤーンの線形抵抗を測定した。
【0069】
これらの線形抵抗測定の結果を、図8に示す。陰影領域は、ナノファイバヤーンの対応するセクション上にPVAのコーティングを含んでいたCNTヤーンの領域の電気抵抗を示す。図示するように、外側表面上でPVAを欠いたナノファイバヤーンのセクション(つまり、外部PVA層が真空により除去されたセクション)の場合、測定された抵抗は250Ω/cmであった。外側表面上にPVAを含んでいた(つまり、真空が印加されなかった)セクションの場合、抵抗は5250Ω/cmであった。
【0070】
[追加の考慮事項]
本開示の実施形態の上述の説明は、例示のために提示されている。包括的であること、又は特許請求の範囲を開示された正確な形式に制限することは意図されていない。当業者は、多くの修正形態及び変形形態が、上記の開示を鑑みて可能であることを理解できる
【0071】
本明細書に使用する言語は、おもに読みやすさ及び教育の目的で選択されており、言語は、本発明の主題を詳しく説明する又は制限するために選択されなかった可能性がある。したがって、本開示の範囲が、本発明を実施するための形態によってではなく、むしろ本明細書に基づいた出願に関して生じるあらゆる特許請求の範囲によって制限されることが意図される。したがって、実施形態の開示は、例示的であることを意図するが、以下の特許請求の範囲に説明する本発明の範囲に制限的ではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8