特許第6899095号(P6899095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899095
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】パーオキシカーバメート化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20210628BHJP
   C08C 19/25 20060101ALN20210628BHJP
【FI】
   C07F7/18 LCSP
   !C08C19/25
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-144205(P2017-144205)
(22)【出願日】2017年7月26日
(65)【公開番号】特開2019-26563(P2019-26563A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 邦宏
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭48−040726(JP,A)
【文献】 特開昭47−008516(JP,A)
【文献】 特開平2−196801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/18
C08C 19/25
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
で表されることを特徴とするパーオキシカーバメート化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーオキシカーバメート化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、分子内にアルコキシシリル基および過酸化結合を1個ずつ有する下記一般式(A)で表されるパーオキシカーバメート化合物が知られている(特許文献1)。
【化1】
【0003】
上記の一般式(A)で表されるパーオキシカーバメート化合物は、熱により過酸化結合が開裂し、t-ブトキシラジカルと、アルコキシシリル基をもつアミニルラジカルが生じる。このようなアルコキシシリル基をもつアミニルラジカルの特長として、例えば、アミニルラジカルがポリエステル樹脂と反応でき、アルコキシシリル基がガラスと反応できるため、前記一般式(A)で表されるパーオキシカーバメート化合物は、ポリエステル樹脂とガラスとの反応に使用されるラジカル発生剤として有用であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭48−40726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記一般式(A)で表されるパーオキシカーバメート化合物を、ポリマー(ゴム、ポリオレフィンなど)の変性や、ビニルモノマーなどを用いたポリマーの重合開始剤などのラジカル発生剤として使用した場合には、(1)ポリマーにアルコキシシリル基が導入されるとともに、t-ブトキシラジカルによってt-ブトキシ基も導入されるため、ポリマー中のアルコキシシリル基の導入効率が低くなること、また、(2)t-ブトキシラジカルは水素引抜反応性が高いため、ポリマー同士の架橋反応(副反応)を引き起こしてポリマーの加工性を低下させる問題や、生成したポリマーの分子量分布を大幅に増加させることの問題が生じる。
【0006】
したがって、上記課題を解決すべく、本発明は、ラジカル発生剤として、t-ブトキシラジカルを発生せずに、アルコキシシリル基をもつアミニルラジカルのみを発生させることができるパーオキシカーバメート化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、一般式(1):
【化2】
で表されるパーオキシカーバメート化合物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のパーオキシカーバメート化合物は、分子内にアルコキシシリル基および過酸化結合を2個ずつ有する化合物であり、熱などにより過酸化結合が開裂し、1分子あたり1個のアルコキシラジカルと、1分子あたり2個のアルコキシシリル基をもつアミニルラジカルを生じるが、前記アルコキシラジカルは、β−開裂により、アセトンとエチレンとなると推定される。よって、本発明のパーオキシカーバメート化合物は、t-ブトキシラジカルを発生せずに、アルコキシシリル基をもつアミニルラジカルのみを発生させることができるため、効率よくアルコキシシリル基をもつアミニルラジカルを利用できることから、ポリマー(ゴム、ポリオレフィンなど)の変性や、ビニルモノマーなどを用いたポリマーの重合開始剤などのラジカル発生剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<パーオキシカーバメート化合物>
本発明のパーオキシカーバメート化合物は、下記一般式(1)で表すことができる。
【化3】
【0010】
<パーオキシカーバメート化合物の製造方法>
前記一般式(1)で表されるパーオキシカーバメート化合物の製造方法は、何ら限定されるものではないが、例えば、一般式(2):
【化4】
で表されるパーオキシエステル化合物と、一般式(3):
【化5】
で表されるケイ素化合物を反応させる工程(以下、工程(A)とも称す)を含む製造方法が挙げられる。
【0011】
前記工程(A)において、前記一般式(2)で表されるパーオキシエステル化合物は、市販品を使用してもよく、市販品がない場合、例えば、特開昭62−043404号公報に記載の製法により製造することができる。
【0012】
前記工程(A)において、一般式(3)で表されるケイ素化合物は、一般式(2)で表されるパーオキシエステル化合物1.0モルに対して、目的物の収率性を高める観点から、1.0モル以上反応させることが好ましく、そして、1.1モル以下反応させることが好ましい。
【0013】
前記工程(A)の反応温度は、目的物の収率性を高める観点から、0℃以上であることが好ましく、5℃以上であることがより好ましく、そして、安全性の観点から15℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。
【0014】
前記工程(A)の反応時間は、原料や反応温度などによって異なるので一概には決定できないが、通常、目的物の収率性を高める観点から、0.5時間以上であることが好ましく、1.0時間以上であることがより好ましく、そして、2時間以下であることが好ましい。
【0015】
前記工程(A)は、常圧下で、空気雰囲気下で行うことができるが、窒素気流下又は窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0016】
前記工程(A)は、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒は特に制限されないが、反応系内で不活性な有機溶媒であることが好ましい。有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、トルエンなどの非極性化合物;アセトン、アセトニトリルなどの極性化合物が挙げられる。有機溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0017】
前記工程(A)において、前記有機溶媒の使用量は特に制限されないが、通常、原料の合計量100重量部に対して200〜600重量部程度である。
【0018】
得られた目的物の同定は、液体クロマトグラフィー(LC)、核磁気共鳴分光法(NMR)、赤外分光法(IR)などを用いて行うことができる。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0020】
<製造例1>
(1)パーオキシカーバメート化合物の合成
1Lビーカーに、2,5−ジメチル−2,5−ジヒドロペルオキシヘキサン(95.8%品、95.95g、0.5mоl)をピリジン(172g、2.2mоl)中に溶解・撹拌させ、10℃以下に冷却した。続いて、フェニルクロロホルメート(170g、1.0mоl)をペンタン(170g)で希釈し、上記のピリジン溶液中に10℃で滴下した。滴下終了後、1時間撹拌し、析出物とジピリジン塩酸塩をろ別した。ろ別した析出物をペンタン、水で洗浄した後に、メタノールで洗浄し、乾燥させ、上記の一般式(2)で表されるパーオキシエステル化合物(2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシ−フェニルモノカーボネート))を得た(165g、純度97.3%、収率71%)。
また、純度は、ヨードメトリーによる活性酸素量からペルオキシ基の含有量を求め、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシ−フェニルモノカーボネート)の理論活性酸素量から算出した。
【0021】
次に、上記で得られた2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(ペルオキシ−フェニルモノカーボネート)(100g、0.23mоl)をトルエン(200g)で溶解させた。このトルエン溶液に、アミノプロピルトリエトキシラン(101g、0.46mоl)を5℃で滴下し、1時間撹拌し、上記の一般式(1)で表される2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ[N−(3−トリエトキシシリル)プロピル]ペルオキシカーバメートを得た(トルエンおよびフェノール(副生成物)希釈品、400g、濃度37%)。
【0022】
なお、上記の一般式(1)で表される2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ[N−(3−トリエトキシシリル)プロピル]ペルオキシカーバメートの構造は、AVANCE400NMRスペクトルメーター(BRUCKER社製)を用いたH−NMR測定にて同定した[0.68(t,4H)、1.23(t,18H)、1.53(s,12H)、1.66−1.73(m, 4H)、2.20(s,4H)、3.26−3.31(m,4H)、3.81−3.87(q,12H)、6.03(t,2H)]。
また、濃度は、ヨードメトリーによる活性酸素量からペルオキシ基の含有量を求め、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ[N−(3−トリエトキシシリル)プロピル]ペルオキシカーバメートの理論活性酸素量から算出した。
【0023】
<実施例1>
<架橋試験>
ロール機(東洋精機社製)を80℃に加熱し、E−SBR(商品名「JSR 1502」、JSR社製)を混練した。混練しながら、E−SBRの100gに対して、上記で得られた2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ[N−(3−トリエトキシシリル)プロピル]ペルオキシカーバメートを1.48mmоl混合し、E−SBRのゴムシート(10cm×20cm)を得た。得られたゴムシートをJSRトレーディング社製キュラストメータにて、130℃で架橋試験を行った。その結果を、表1および表2に示す。
【0024】
<実施例2>
実施例1の2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ[N−(3−トリエトキシシリル)プロピル]ペルオキシカーバメートの使用量を、0.74mmоlにしたこと以外は、実施例1と同様の操作方法にて、架橋試験を行った。その結果を、表1および表2に示す。
【0025】
<比較例1>
実施例1の2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ[N−(3−トリエトキシシリル)プロピル]ペルオキシカーバメートを、下記一般式(A)で表されるパーオキシカーバメート化合物に変更した以外は、実施例1と同様の操作方法にて、架橋試験を行った。その結果を、表1および表2に示す。
【化6】
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
評価の結果、一般式(1)で表される化合物を用いた実施例1と実施例2については、一般式(A)で表される化合物を用いた比較例1よりも、最大トルク値が低下し、架橋反応が抑制されていることが確認された。さらにアルコキシシリル基が等量添加された実施例2と比較例1を比較した結果、さらに架橋反応が抑制されていることが確認された。