特許第6899096号(P6899096)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899096
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/43 20060101AFI20210628BHJP
   C03B 17/06 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   C03B5/43
   C03B17/06
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-215486(P2017-215486)
(22)【出願日】2017年11月8日
(65)【公開番号】特開2019-85306(P2019-85306A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】玉村 周作
(72)【発明者】
【氏名】福西 晃朗
【審査官】 松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−227337(JP,A)
【文献】 特表2009−541201(JP,A)
【文献】 特表2014−524882(JP,A)
【文献】 特開2013−79156(JP,A)
【文献】 特開2017−206394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/43
C03B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形炉の炉壁に周囲が取り囲まれた成形部で第1溶融ガラスを流動させながら成形し、ガラス物品を製造する工程を備えたガラス物品の製造方法であって、
前記炉壁の炉内側表面に保護ガラス層を形成する工程を備えていることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記保護ガラス層を形成する工程が、前記ガラス物品を製造する工程の前に別に実施されることを特徴とする請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記炉壁が、炭化ケイ素質又は窒化ケイ素質の耐火物を含み、
前記保護ガラス層を形成する工程では、前記成形炉の炉内に気化した酸化ホウ素を供給することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記保護ガラス層を形成する工程では、酸化ホウ素を含有する第2溶融ガラスを前記成形部に供給し、前記第2溶融ガラスから酸化ホウ素を気化させることを特徴とする請求項3に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記第2溶融ガラスの供給温度が、前記第1溶融ガラスの供給温度よりも高いことを特徴とする請求項4に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記第2溶融ガラスの酸化ホウ素の含有量が、前記第1溶融ガラスの酸化ホウ素の含有量よりも多いことを特徴とする請求項4又は5に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
炉壁と、前記炉壁に周囲が取り囲まれた成形部とを有する成形炉を備えたガラス物品の製造装置であって、
前記炉壁の炉内側表面に保護ガラス層を備えていることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項8】
前記炉壁が、炭化ケイ素質又は窒化ケイ素質の耐火物を含み、
前記保護ガラス層が、酸化ホウ素を含有することを特徴とする請求項7に記載のガラス物品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
板ガラス等のガラス物品の製造工程において、溶融ガラスを流動させながら成形する成形部の周囲は、溶融ガラスの温度を安定させるために炉壁で取り囲まれている。このような炉壁の一種として、特許文献1には、二酸化ケイ素を主成分とする酸化皮膜を備えた炉壁が開示されている。この酸化皮膜は、炭化ケイ素焼結体から構成される炉壁表面を酸化することで形成された皮膜であり、二酸化ケイ素の結晶の一種であるクリストバライトを含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−79156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス物品の製造工程において、成形炉の炉壁の劣化は、ガラス物品の生産性や品質に影響を及ぼすことになる。特許文献1に開示の酸化皮膜を備えた炉壁では、例えば、溶融ガラスから気化した蒸気に対する耐性が必ずしも十分ではなく、未だ改善の余地がある。
【0005】
詳細には、特許文献1に開示されているように、成形炉の炉壁が炭化ケイ素質の耐火物で構成されている場合、炭化ケイ素質の耐火物の表面酸化により形成される酸化皮膜は、溶融ガラスから気化した蒸気により侵されやすい。また、酸化皮膜中に空気中の酸素が拡散し、酸化皮膜の表面から耐火物中への酸素の透過を許容する場合がある。これにより、耐火物中の炭化ケイ素(SiC)の酸化が進行し、下記式に示すような炭酸ガスが発生する。
SiC+2O→SiO+CO
【0006】
このとき、耐火物の酸化皮膜の粘度は、溶融ガラスから気化した蒸気との反応、及び炉壁の使用時における熱によって低下している。この状態の酸化皮膜は、上記のように発生した炭酸ガスの気泡によって突き破られ、酸化皮膜には破裂した部分が多数形成される場合がある。そして、この酸化皮膜の破裂に伴って酸化皮膜の破片が炉内に飛散して溶融ガラスに付着し、得られるガラス物品に欠陥を発生させる場合がある。
【0007】
なお、上記のような炉壁を構成する耐火物を要因としたガラス物品の欠陥は、炉壁を構成する耐火物が炭化ケイ素質以外の材質の場合であっても同様に生じることがある。
【0008】
本発明は、溶融ガラスの周囲を取り囲む炉壁の耐久性を高め、得られるガラス物品において、炉壁を構成する耐火物を要因とした欠陥の発生を抑えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、成形炉の耐火物からなる炉壁に周囲が取り囲まれた成形部で第1溶融ガラスを流動させながら成形し、ガラス物品を製造する工程を備えたガラス物品の製造方法であって、炉壁の炉内側表面に保護ガラス層を形成する工程を備えていることを特徴とする。このような構成によれば、炉壁の炉内側表面が、保護ガラス層によって保護される。保護ガラス層は、酸化皮膜よりも第1溶融ガラスから気化した蒸気に対する耐性が得られ易く、酸素バリア性を維持し易い。従って、耐火物の酸化が生じ難くなり、得られるガラス物品において、炉壁を構成する耐火物を要因とした欠陥の発生を抑えることができる。
【0010】
上記の構成において、保護ガラス層を形成する工程が、ガラス物品を製造する工程の前に別に実施されることが好ましい。すなわち、保護ガラス層を形成する工程は、ガラス物品を製造する工程の実施中に同時に行ってもよいが、この場合にはガラス物品の製造開始直後において保護ガラス層が十分に形成されないおそれがある。従って、ガラス物品を製造する工程の前に保護ガラス層を形成する工程を別に実施し、ガラス物品の製造開始直後から成形炉の炉壁の炉内側表面に保護ガラス層が十分形成された状態とすることが好ましい。これにより、得られるガラス物品において、炉壁を構成する耐火物を要因とした欠陥の発生をより確実に抑えることができる。
【0011】
上記の構成において、炉壁が、炭化ケイ素質又は窒化ケイ素質の耐火物を含み、保護ガラス層を形成する工程では、成形炉の炉内に気化した酸化ホウ素を供給することが好ましい。このようにすれば、気化した酸化ホウ素が炉壁の炉内側表面に存在する二酸化ケイ素と反応し、炉壁の炉内側表面に保護ガラス層が形成される。
【0012】
上記の構成において、保護ガラス層を形成する工程では、酸化ホウ素を含有する第2溶融ガラスを成形部に供給し、第2溶融ガラスから酸化ホウ素を気化させることが好ましい。このようにすれば、第2溶融ガラスから気化した酸化ホウ素が炉壁の炉内側表面に存在する二酸化ケイ素と反応し、炉壁の炉内側表面に保護ガラス層が形成される。また、成形部に連続的に第2溶融ガラスを供給すれば、成形炉内で気化した酸化ホウ素の濃度を高い状態に維持できるため、酸化ホウ素と二酸化ケイ素との反応が頻繁に生じる。従って、炉壁の炉内側表面における保護ガラス層の形成を促進することができる。
【0013】
上記の構成において、第2溶融ガラスの供給温度が、第1溶融ガラスの供給温度よりも高いことが好ましい。このようにすれば、保護ガラス層を形成する工程において、第2溶融ガラスから気化する酸化ホウ素の量が多くなる。従って、炉壁の炉内側表面における保護ガラス層の形成を促進することができる。
【0014】
上記の構成において、第2溶融ガラスの酸化ホウ素の含有量が、第1溶融ガラスの酸化ホウ素の含有量よりも多いことが好ましい。このようにすれば、保護ガラス層を形成する工程において、第2溶融ガラスから気化する酸化ホウ素の量が多くなる。従って、炉壁の炉内側表面における保護ガラス層の形成を促進することができる。
【0015】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、炉壁と、炉壁に周囲が取り囲まれた成形部とを有する成形炉を備えたガラス物品の製造装置であって、炉壁の炉内側表面に保護ガラス層を備えていることを特徴とする。このような構成によれば、上述した対応する構成と同様の作用効果を得ることができる。
【0016】
上記の構成において、炉壁が、炭化ケイ素質又は窒化ケイ素質の耐火物を含み、保護ガラス層が、酸化ホウ素を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上のような本発明によれば、成形部の周囲を取り囲む炉壁の耐久性を高め、得られるガラス物品において、炉壁を構成する耐火物を要因とした欠陥の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ガラス物品の製造装置の全体構成、及びガラス物品を製造する工程を示す模式図である。
図2】保護ガラス層を形成する工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、ガラス物品の製造装置、及びガラス物品の製造方法の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
<ガラス物品の製造装置>
図1に示すように、ガラス物品の製造装置1は、第1溶融ガラスGMからガラス物品としてのガラス板GAを製造する装置である。なお、本実施形態では、ガラス板GAは、一又は複数の製品ガラス板が採取されるガラス原板である。
【0021】
ガラス物品の製造装置1は、第1溶融ガラスGMからガラスリボンGRを成形する成形炉2と、ガラスリボンGRを徐冷する徐冷炉3と、ガラスリボンGRからガラス板GAを切り出す切断部4とを備えている。
【0022】
成形炉2は、耐火物からなる炉壁5と、第1溶融ガラスGMからガラスリボンGRを成形する成形部(成形体とも呼ばれる)6と、成形部6の下方位置でガラスリボンGRを表裏両側から挟むエッジローラ7とを備えている。
【0023】
炉壁5は、成形部6の周囲を取り囲むように天壁5aと側壁5bとを備え、各壁部の炉内側表面には、非晶質の保護ガラス層8が形成されている。保護ガラス層8は、酸化ホウ素を含有し、例えば炉内の熱によって半溶融状態を維持している。保護ガラス層8の厚みは、0.2〜2mmであることが好ましい。なお、保護ガラス層8は、成形炉2の炉壁5の一部(例えば、天壁5a)のみに形成されていてもよい。また、保護ガラス層8は、成形炉2の炉壁5の炉内側表面から徐冷炉3の炉壁9の炉内側表面の一部に跨るように形成されていてもよい。
【0024】
成形炉2の炉壁5を構成する耐火物は炭化ケイ素質である。炭化ケイ素質の熱伝導性及び均熱性は比較的高いため、炉壁5の熱伝導性及び均熱性を高めることができる。これにより、第1溶融ガラスGMの成形温度を安定させ、ガラスリボンGR及びガラス板GAの品質を安定させることができる。
【0025】
成形部6は、オーバーフローダウンドロー法によって第1溶融ガラスGMからガラスリボンGRを成形するものであって、上端部にオーバーフロー溝6aが形成された断面視略楔形をなす。成形部6は、成形部6のオーバーフロー溝6aの上方から溢れ出た第1溶融ガラスGMを、両側面6bに沿ってそれぞれ流下させ、その下端部6cで合流させて板状に成形する。なお、成形部6は、上記の構成に限らず、スロットダウンドロー法やリドロー法など、オーバーフローダウンドロー法以外の他の成形方法を実施する構成であってもよい。
【0026】
エッジローラ7は、成形部6の下方位置で、第1溶融ガラスGMの幅方向収縮を規制して所定幅のガラスリボンGRとする。
【0027】
徐冷炉3は、エッジローラ7の下方位置に設けられ、ガラスリボンGRに対して除歪処理を施すためのものであって、ガラスリボンGRの周囲を取り囲むように炉壁(側壁)9を備えている。徐冷炉3は、上下方向に複数段設けられたアニーラローラ10を有する。なお、炉内に生じる上昇気流を阻止するために、成形炉2と徐冷炉3との境界部などの所定位置に、ガラスリボンGRが通過可能な開口部を有する仕切り部(図示省略)を設けてもよい。
【0028】
炉壁9を構成する耐火物は炭化ケイ素質である。炭化ケイ素質の熱伝導性及び均熱性は比較的高いため、炉壁9の熱伝導性及び均熱性を高めることができる。これにより、ガラスリボンGRの徐冷温度を安定させ、ガラスリボンGR及びガラス板GAの品質を安定させることができる。
【0029】
徐冷炉3の下方位置には、ガラスリボンGRを表裏両側から挟持する支持ローラ11が設けられている。支持ローラ11とエッジローラ7との間、または支持ローラ11と何れか一箇所のアニーラローラ10との間では、ガラスリボンGRを薄肉にすることを助長するための張力が付与されている。
【0030】
切断部4は、支持ローラ11の下方位置で、降下してくる縦姿勢(例えば、鉛直姿勢)のガラスリボンGRを所定の長さ毎に幅方向に切断することにより、ガラスリボンGRからガラス板GAを順次切り出すように構成されている。ここで、幅方向は、ガラスリボンGRの長手方向(搬送方向)と直交する方向であり、本実施形態では実質的に水平方向と一致する。
【0031】
切断部4は、縦姿勢のガラスリボンGRの表面GRx上を走行することで、ガラスリボンGRの幅方向に沿ってスクライブ線S1を形成するホイールカッター(図示省略)と、スクライブ線S1が形成された領域に裏面GRyから当接する第1支持部12と、切り出し対象のガラス板GAに対応する部分のガラスリボンGRの幅方向端部を支持した状態で、スクライブ線S1及びその近傍に曲げ応力を作用させるための動作を行う第2支持部13とを備えている。
【0032】
ホイールカッターは、降下中のガラスリボンGRに追従降下しつつ、ガラスリボンGRの幅方向の全幅又は一部にスクライブ線S1を形成する構成となっている。この実施形態では、相対的に厚みが大きくなるガラスリボンGRの幅方向端部(耳部)にも幅方向にスクライブ線S1が形成される。なお、スクライブ線S1はレーザの照射等によって形成してもよい。
【0033】
第1支持部12は、ガラスリボンGRの幅方向に沿って長尺となるように形成されており、降下中のガラスリボンGRに追従降下しつつ、ガラスリボンGRの全幅又は一部(例えば中央部)と当接する構成となっている。
【0034】
第2支持部13は、ガラスリボンGRの幅方向両端部を表裏両側から挟持するチャック機構により構成されている。本実施形態では、第2支持部13は、ガラスリボンGRの幅方向両端部のそれぞれにおいて、ガラスリボンGRの長手方向に間隔を置いて複数設けられている。一方側の幅方向端部に設けられた複数の第2支持部13は、これら全てが同一のアーム(図示省略)によって保持されている。また同様に、他方側の幅方向端部に設けられた複数の第2支持部13も、これら全てが同一のアーム(図示省略)によって保持されている。そして、各々のアームの動作により、複数の第2支持部13が降下中のガラスリボンGRに追従降下しつつ、矢印Aで示すように、支持したガラスリボンGRを第2支持部13を支点として湾曲させるための動作を行う。これにより、スクライブ線S1及びその近傍に曲げ応力を付与し、ガラスリボンGRをスクライブ線S1に沿って幅方向に割断する。この割断の結果、ガラスリボンGRからガラス板GAが切り出される。そして、本実施形態では、切り出されたガラス板GAが、第2支持部13によって別の搬送手段(図示省略)に引き渡されるようになっている。なお、第2支持部13は、挟持する支持形態に限らず、ガラスリボンGR(又はガラス板GA)の表裏面のいずれか一方の面のみを負圧吸着によって支持するものであってもよい。
【0035】
ここで、本実施形態では、切断部4は、折り割り割断を実施するものであるが、これに限定されるものではなく、レーザ割断、レーザ溶断などの他の切断方法を実施するものであってもよい。また、切断部4は、方向変換部(例えば、複数のガイドローラ)によって、ガラスリボンGRを縦姿勢から横姿勢(例えば、水平方向)へと姿勢を変換して案内した後、方向変換部の下流側において横姿勢のガラスリボンGRを幅方向に切断するようにしてもよい。
【0036】
<ガラス物品の製造方法>
ガラス物品の製造方法は、上記の構成を備えた製造装置1を用いて、第1溶融ガラスGMからガラス板GAを製造する工程を備えている。詳細には、図1に示すように、ガラス板GAを製造する工程は、成形炉2で第1溶融ガラスGMからガラスリボンGRを成形する成形工程と、成形されたガラスリボンGRを徐冷炉3で徐冷する徐冷工程と、徐冷(冷却)されたガラスリボンGRを切断部4で所定長さ毎に幅方向に切断する切断工程とを備えている。なお、ガラス板GAの耳部は、後続の工程で切断してもよい。
【0037】
ガラス物品の製造方法は、ガラス板GAを製造する工程の前に、製造装置1の成形炉2の炉壁5の炉内側表面に保護ガラス層8を形成する工程を更に備えている。
【0038】
保護ガラス層8を形成する工程では、図2に示すように、酸化ホウ素を含有する第2溶融ガラスGMxを成形部6に供給し、成形部6のオーバーフロー溝6aから溢れ出させる。第2溶融ガラスGMxは、通常の成形時と同様に、連続的に供給することが好ましい。これにより、第2溶融ガラスGMxから気化(蒸発)した蒸気S中に含まれる酸化ホウ素が、炉壁5に含まれる炭化ケイ素の酸化によって炉内側表面に存在する二酸化ケイ素と反応する。この反応の結果、炉壁5の炉内側表面に保護ガラス層8が形成される。ここで、第2溶融ガラスGMxの供給時間は、酸化ホウ素の含有量や供給温度によって異なるが、例えば、3〜30日である。
【0039】
保護ガラス層8は、第1溶融ガラスGMから気化した蒸気に対する耐性が得られ易く、酸素バリア性を維持し易い。従って、炉壁5に含まれる炭化ケイ素の酸化が生じ難くなる。これにより、炉壁5の炉内側表面からの炭酸ガスの発生も抑えられるため、炭酸ガスの気泡を要因とした酸化皮膜の破裂は生じ難くなる。従って、得られるガラス板GAにおいて、炉壁5を構成する耐火物を要因とした欠陥の発生を抑えることが可能となる。
【0040】
第1溶融ガラスGM及び第2溶融ガラスGMxとしては、例えば、ソーダガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、アルカリ含有ガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。無アルカリガラスのガラス組成は、例えば、質量%で、SiO 50〜70%、Al 12〜25%、B 0〜12%、LiO+NaO+KO(LiO、NaO及びKOの合量) 0〜1%未満、MgO 0〜8%、CaO 0〜15%、SrO 0〜12%、BaO 0〜15%を含む。また、強化ガラスとして用いられるアルカリ含有ガラスのガラス組成は、例えば、質量%で、SiO 50〜80%、Al 5〜25%、B 0〜15%、NaO 1〜20%、KO 0〜10%を含む。
【0041】
第1溶融ガラスGMとしては、質量%で、SiO 55〜70%、Al 10〜25%、B 0〜3%、LiO+NaO+KO(LiO、NaO及びKOの合量) 0〜1%未満、MgO 0〜8%、CaO 2〜12%、SrO 0〜8%、BaO 0〜15%を含む高歪点ガラスが好ましい。これは、高歪点ガラスでは、B含有量が少なく、耐火物を要因とした欠陥が発生しやすいので、本実施形態による欠陥の発生を抑える効果が顕著となるからである。
【0042】
保護ガラス層8の形成を促進する観点からは、第2溶融ガラスGMxは、耐火物の成分と反応する成分を含有することが好ましい。例えば、第2溶融ガラスGMxは、酸化ホウ素(B)を5質量%以上含有していることが好ましく、10質量%以上含有していることがより好ましい。
【0043】
保護ガラス層8を形成する工程では、蒸気S中の酸化ホウ素量を多くして保護ガラス層8の形成を促進する観点からは、第2溶融ガラスGMxの供給温度T0が、ガラス板GAを製造する工程における第1溶融ガラスGMの供給温度(成形温度)T1よりも高いことが好ましい。ガラス組成によっても異なるが、例えば、供給温度T1が1100〜1200℃である場合に、供給温度T0は1200℃よりも高い温度から1350℃までとすればよい。ここで、供給温度とは、成形部での溶融ガラスの温度であり、本実施形態では、成形部6の両側面6bにおける溶融ガラスの温度を意味する。
【0044】
ここで、供給温度T0のみに着目した場合、供給温度T0は、蒸気S中の酸化ホウ素量を多くする観点からは、1200℃以上であることが好ましく、1250℃以上であることがより好ましく、1300℃以上であることが特に好ましい。
【0045】
保護ガラス層8を形成する工程では、第2溶融ガラスGMxが成形部6の下方で板状に成形される必要はない。従って、第2溶融ガラスGMxから気化する酸化ホウ素量を増やす観点からは、第2溶融ガラスGMxは板引きができない程度の粘度(例えば、2000Pa・s以下)となる高い温度に維持されることが好ましい。図示例では、第2溶融ガラスGMxは、雫状ガラスGDになって成形部6から落下(滴下)している。この際、エッジローラ7及び/又はアニーラローラ10は、成形部6から落下する第2溶融ガラスGMx(雫状ガラスGD)が付着しないように、ローラの対向間隔を大きくするなどして、ガラスリボン成形時の基準位置BPから退避させることが好ましい。また、落下する第2溶融ガラスGMxを回収する籠等の回収部(図示省略)を成形炉2又は徐冷炉3の炉内に設けてもよい。
【0046】
保護ガラス層8を形成する工程で使用する第2溶融ガラスGMxのガラス組成は、ガラス板GAを製造する工程で使用する第1溶融ガラスGMのガラス組成と同じであってもよいし、異なっていてもよい。第1溶融ガラスGM中の酸化ホウ素の含有量が少ない場合(例えば、酸化ホウ素の含有量が5質量%未満の場合)は、第2溶融ガラスGMxとしては、第1溶融ガラスGMとは異なるガラス組成とし、酸化ホウ素の含有量を第1溶融ガラスGMよりも多くすることが好ましい。第2溶融ガラスGMxと第1溶融ガラスGMのガラス組成が異なる場合、保護ガラス層8を形成する工程の後に生地替えを行う。
【0047】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0048】
上記実施形態では、保護ガラス層を形成する工程において、酸化ホウ素を含有する第2溶融ガラスを成形部に供給する場合を説明したが、保護ガラス層を形成する方法はこれに限定されない。例えば、酸化ホウ素を含有する第2溶融ガラスを収容した耐火性容器を成形炉の炉内に配置してもよいし、酸化ホウ素を含有する気体を成形炉の炉内に直接供給してもよい。
【0049】
上記実施形態では、保護ガラス層を形成する工程において、第2溶融ガラスから気化した酸化ホウ素と、成形炉の炉壁の炉内側表面に存在する二酸化ケイ素とを反応させて保護ガラス層を形成する場合を説明したが、保護ガラス層の形成方法はこれに限定されない。炉壁の炉内側表面に存在する二酸化ケイ素と反応させる物質は、二酸化ケイ素と反応性を有するものであれば、アルカリ金属酸化物(例えば、NaO、KO等)であってもよい。この場合、保護ガラス層を形成する工程において、例えば、アルカリ金属酸化物を10質量%含有する溶融ガラスを供給するようにしてもよい。
【0050】
上記実施形態では、炉壁が炭化ケイ素質の耐火物である場合を説明したが、窒化ケイ素質の耐火物であってもよい。あるいは、炭化ケイ素質及び/又は窒化ケイ素質を含み、更にこれら以外の耐火物を含んでいてもよい。
【0051】
上記実施形態では、ガラス物品を製造する工程の前に、保護ガラス層を形成する工程を別に実施する場合を説明したが、保護ガラス層を形成する工程は、ガラス物品を製造する工程と同時に実施してもよい。すなわち、保護ガラス層を形成しながらガラス物品を製造してもよい。
【0052】
上記実施形態では、ガラス物品としてガラス板を製造する場合を説明したが、ガラス物品はこれに限定されない。ガラス物品は、例えば、ガラスリボンをロール状に巻き取ったガラスロールや、ガラス管などであってもよい。ガラスロールは、ガラス板と同様に成形部でガラスリボンを成形した後、徐冷炉の下方で縦方向に搬送されるガラスリボンをロール状に巻き取ったり、方向変換部の下流側で横方向に搬送されるガラスリボンをロール状に巻き取ったりすることで得られる。ガラスロールの場合、ガラスリボンの耳部を切断した後にロール状に巻き取ることが好ましく、また、ガラスリボンと保護シート(例えば、樹脂シートなど)を重ねて両者を一緒に巻き取ることが好ましい。一方、ガラス管は、例えば、ダンナー法により製造することで得られる。ガラス管の製造装置の場合、成形部は円筒状であり、成形スリーブとも呼ばれる。この成形部を回転駆動させながら第1溶融ガラスを巻き付け、第1溶融ガラスを管状に成形する。
【符号の説明】
【0053】
1 ガラス物品の製造装置
2 成形炉
3 徐冷炉
4 切断部
5 炉壁
6 成形部
6a オーバーフロー溝
7 エッジローラ
8 保護ガラス層
9 炉壁
10 アニーラローラ
11 支持ローラ
GA ガラス板(ガラス物品)
GM 第1溶融ガラス
GMx 第2溶融ガラス
GR ガラスリボン
S 蒸気
図1
図2