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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899180
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】濁水ピットの調査装置及び調査方法
(51)【国際特許分類】
   E03F 5/10 20060101AFI20210628BHJP
【FI】
   E03F5/10 A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-97700(P2018-97700)
(22)【出願日】2018年5月22日
(65)【公開番号】特開2019-203276(P2019-203276A)
(43)【公開日】2019年11月28日
【審査請求日】2020年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 清人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 基記
(72)【発明者】
【氏名】長尾 浩利
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−194731(JP,A)
【文献】 特開平09−235974(JP,A)
【文献】 特開2000−128076(JP,A)
【文献】 特開昭53−007975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濁水ピットの内壁面を調査する装置であって、
内部空間に撮像手段を設けた本体ケースと、
前記本体ケースの内部空間に清水を供給する第1の清水供給手段と、
前記本体ケースの前側に取り付けられ、前記撮像手段による前記内壁面における撮像範囲を取り囲むように、前面が前記内壁面に当接する緩衝手段と、
前記緩衝手段が取り囲んだ領域内を排水する排水手段と、
前記緩衝手段が取り囲んだ領域内に清水を供給する第2の清水供給手段とを備えることを特徴とする濁水ピットの調査装置。
【請求項2】
前記本体ケース内の水を外部に排出可能な排水弁を備えることを特徴とする請求項1に記載の濁水ピットの調査装置。
【請求項3】
前記本体ケースに取り付けられ、ガイドワイヤが挿通可能なワイヤガイドを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の濁水ピットの調査装置。
【請求項4】
前記本体ケースの内部空間に設けられ、前記撮像範囲を照明する照明手段を備えることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の濁水ピットの調査装置。
【請求項5】
内部空間に撮像手段を設けた本体ケースと、前記本体ケースの前側に取り付けられた緩衝手段とを備える装置を用いて、濁水ピットの内壁面を調査する方法であって、
前記本体ケース内を清水で満たす工程と、
前記緩衝手段の前面を前記内壁面に接触させた状態で、前記緩衝手段で外周を取り込まれた領域内に清水を供給しながら、当該領域内の水を排出させる工程と、
前記撮像手段によって、前記内壁面を撮像する工程とを備えることを特徴とする濁水ピットの調査方法。
【請求項6】
前記内壁面に沿ってガイドワイヤを設ける工程と、
前記ガイドワイヤに沿って、前記本体ケースを昇降させる工程とを備えることを特徴とする請求項5に記載の濁水ピットの調査方法。
【請求項7】
前記本体ケース内に清水を供給すると共に、前記本体ケース内の水を外部に排出する工程を備えることを特徴とする請求項5又は6に記載の濁水ピットの調査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濁水ピットの内壁面を調査する装置、及びこの装置を用いた調査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
濁水ピットは、工場排水を外部に排出するための前処理を行う施設であり、工場の稼働中は常時稼働させる必要がある。このため、必然的に、濁水ピットは濁水を貯留した状況で調査する必要がある。濁水ピットの外周部の劣化状況は作業者が目視することによって調査可能である。しかし、透明度が非常に悪い濁水が貯留した状態で、かつ、曝気槽などではエアレーションを稼働させた状態で、調査する必要がある。さらに、濁水は弱酸性又は弱アルカリ性であり、安全上の問題が多いことから潜水士が作業して調査することは好ましくない。
【0003】
以上の理由によって、濁水ピットの内壁面の劣化状況を調査する適切な方法は存在していなかった。
【0004】
なお、特許文献1には、検査対象面側に第1透光部をカメラ前部側に第2透光部を有する伸縮可能な密閉容器と、この密閉容器内に清水を供給する清水供給手段を備える水中カメラ装置が開示されている。この装置は、密閉容器内に清水を供給することにより、密閉容器を伸長させて、第1透光部を検査対象面に接触又は近接した状態で撮像する。
【0005】
また、特許文献2には、内部に清水が充填可能な透明シートがビデオカメラの検査面側に配置された液中検査面の検査装置が開示されている。この装置は、清水を充填することにより透明シートを検査面に密着させた状態で撮像する。
【0006】
また、特許文献3には、カメラを内蔵した撮影ハウジングと、撮影対象物を覆い、撮影ハウジングの株に取り付けられる立体撮影用アタッチメントと、撮影ハウジング内に透明水(清水)を送り込む手段とを備えた水中撮影装置が開示されている。この装置は、撮影ハウジング内に透明水を送り込むことにより撮影ハウジング及び立体撮影用アタッチで覆われた部分内を透明水に置換した後に撮像する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−214335号公報
【特許文献2】特許第3079321号公報
【特許文献3】特開2005−195712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に開示された装置では、検査対象面を変更するごとに、密閉装置の伸縮を繰り返す必要があるので、作業が煩雑であり、検査対象面が広範囲であると長時間かかるという問題があった。さらに、第1透光部を検査対象面に接触させると第1透光部が傷付き、第1透光部を検査対象面から離し過ぎるとその間の濁水によって良好な撮像ができない。
【0009】
また、上記特許文献2に開示された装置でも、検査面を変更するごとに、透明シートへの清水の充填を繰り返す必要があるので、作業が煩雑であり、検査面が広範囲であると長時間かかるという問題があった。さらに、透明シートは、薄いと破損するおそれが高く、厚いと良好な撮像ができない。
【0010】
また、上記特許文献3に開示された装置でも、撮像対象物を変更するごとに、撮影ハウジング及び立体撮影用アタッチで覆われた部分内を透明水に置換する必要があるので、作業が煩雑であり、撮像対象物が広範囲であると長時間かかるという問題があった。さらに、撮影ハウジング内に送り込まれた透明水が水流拡散群によって拡散されるので、撮影が可能となるまでに時間がかかる。また、透明水に置換した後に隔壁板を抜き取り、透明水と砂泥直上水を混合させるので、透明度が劣るために良好な画像が得られないおそれもある。
【0011】
本発明は、以上の点に鑑み、濁水ピットの内壁面を調査するに適した装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の濁水ピットの調査装置は、濁水ピットの内壁面を調査する装置であって、内部空間に撮像手段を設けた本体ケースと、前記本体ケースの内部空間に清水を供給する第1の清水供給手段と、前記本体ケースの前側に取り付けられ、前記撮像手段による前記内壁面における撮像範囲を取り囲むように、前面が前記内壁面に当接する緩衝手段と、前記緩衝手段が取り囲んだ領域内を排水する排水手段と、前記緩衝手段が取り囲んだ領域内に清水を供給する第2の清水供給手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の濁水ピットの調査装置によれば、第1の清水供給手段により供給された清水によって本体ケースの内部空間が満たされた状態は、調査装置が移動して、緩衝手段が取り囲んだ領域が変わっても維持される。そのため、この領域が変わった場合には、第2の清水供給手段によって清水を当該領域内に供給することによって、当該領域内を清水又は高透明度の水によって満たせば、撮像手段によって撮像範囲を良好に撮像することができるので、本体ケース内なども清水等で置換することが必要である装置と比較して、短時間で調査を行うことが可能となる。
【0014】
本発明の濁水ピットの調査装置において、前記本体ケース内の水を外部に排出可能な排水弁を備えることが好ましい。
【0015】
この場合、第1の清水供給手段により本体ケースの内部空間に清水の供給を連続的に行えば、当該内部空間内の余剰な清水は排水弁から排出されるので、当該内部空間内に外部から濁水が流入することを防止することが可能となる。
【0016】
また、本発明の濁水ピットの調査装置において、前記本体ケースに取り付けられ、ガイドワイヤが挿通可能なワイヤガイドを備えることが好ましい。
【0017】
この場合、予めガイドワイヤを濁水ピットの適宜な位置に設けておくことにより、調査装置をガイドワイヤに沿った所望の経路で移動させることが可能となる。さらに、これにより、緩衝手段を内壁面に押し付けながら調査装置を移動可能となるので、前記領域内に外部から濁水が侵入することが防止でき、当該領域の透明度を維持することができる。
【0018】
また、本発明の濁水ピットの調査装置において、前記本体ケースの内部空間に設けられ、前記撮像範囲を照明する照明手段を備えることが好ましい。
【0019】
この場合、本体ケース外に照明手段を備える装置と比較して、濁水によって照明が邪魔されないので、撮像範囲を好適に照明することが可能となる。
【0020】
本発明の濁水ピットの調査方法は、内部空間に撮像手段を設けた本体ケースと、前記本体ケースの前側に取り付けられた緩衝手段とを備える装置を用いて、濁水ピットの内壁面を調査する方法であって、前記本体ケース内を清水で満たす工程と、前記緩衝手段の前面を前記内壁面に接触させた状態で、前記緩衝手段で外周を取り込まれた領域内に清水を供給しながら、当該領域内の水を排出させる工程と、前記撮像手段によって、前記内壁面を撮像する工程とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の濁水ピットの調査方法によれば、本体ケース内が清水で満たされた状態は、調査装置が移動して、緩衝手段が取り囲んだ領域が変わっても維持される。そのため、この領域が変わった場合には、当該領域内に清水を供給することによって、当該領域内を清水又は高透明度の水によって満たせば、撮像手段によって内壁面を良好に撮像することができるので、本体ケース内なども清水等で置換することが必要である場合と比較して、短時間で調査を行うことが可能となる。
【0022】
なお、本体ケースの内部空間に清水の供給を連続的に行うと共に、当該内部空間内の余剰な清水を排出すれば、当該内部空間内に外部から濁水が流入することが防止でき、当該内部空間の透明度を維持することができるので、好ましい。
【0023】
本発明の濁水ピットの調査方法において、前記内壁面に沿ってガイドワイヤを設ける工程と、前記ガイドワイヤに沿って、前記本体ケースを昇降させる工程とを備えることが好ましい。
【0024】
この場合、予めガイドワイヤを濁水ピットの適宜な位置に設けておくことにより、調査装置をガイドワイヤに沿った所望の経路で移動させることが可能となる。さらに、これにより、緩衝手段を内壁面に押し付けながら調査装置を移動可能となるので、前記領域内に外部から濁水が侵入することが防止でき、当該領域の透明度を維持することができる。
【0025】
また、本発明の濁水ピットの調査方法において、前記本体ケース内に清水を供給すると共に、前記本体ケース内の水を外部に排出する工程を備えることが好ましい。
【0026】
この場合、本体ケース内に外部から濁水が流入することを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る濁水ピットの調査装置の概略正面図。
図2図1のII−II線における概略断面矢視図。
図3図1のIII−III線における概略断面矢視図。
図4】本発明の実施形態に係る濁水ピットの調査方法を示すフローチャート。
図5】ガイドワイヤを濁水ピットに沿って設置した状態を示す概略側面図。
図6】本体ケースの内部空間を清水で満たした状態を示す概略側面図。
図7】調査装置を濁水ピットの底まで降下させた状態を示す概略側面図。
図8】調査装置を上昇させた状態を示す概略側面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態に係る濁水ピットの調査装置100について図1から図3を参照して説明する。
【0029】
この調査装置100は、濁水ピットAの垂直な内壁の表面(内壁面)Bを撮像することによって、内壁面Bの劣化状況などを調査する装置である。内壁面Bを撮像した画像を調査員などが目視することによって、又は画像解析することによって、内壁面Bの劣化状況などが調査される。なお、濁水ピットAの内壁面Bは、略垂直であればよく、多少の凹凸、段差、傾斜などがあってもよい。
【0030】
濁水ピットAは、工場排水を外部に排出するための前処理を行うための施設であり、その本体はコンクリート躯体からなる。
【0031】
調査装置100は、本体装置10、緩衝材(緩衝手段)20、外部給水装置(第2の清水供給手段)30、昇降用の吊り下げ具40及び昇降用のガイド50を備えている。
【0032】
なお、本願においては、清水は濁度の低い、透明度の高い水を意味する。そして、清水域は、濁水ピットA内に貯留されている濁水からなる濁水域と比較して透明度が高い領域を意味し、撮像に差支えない程度に十分な視界が確保されるものであれば濁っていてもよい。
【0033】
本体装置10は、箱体状の本体ケース11を備えている。本体ケース11は、例えば、鉄鋼などの金属板を溶接、ボルトなどを用いて組立てられたものであり、防水構造となっている。
【0034】
本体ケース11の内部空間S1には、撮像手段12が設置されている。撮像手段12は、ここでは、撮像方向が前を向くように、本体ケース11の背面板の中央部付近の内面に、図示しないネジなどの固定手段によって固定されている。撮像手段12は、例えば、画像を取得するカメラ、又は映像を取得するビデオであって、水中である程度の時間に渡って使用可能なように充電式であって防水機能を有することが好ましい。撮像手段12として、例えば、市販の水中カメラ、水中ビデオ、防水機能を有する携帯端末装置などを用いることができる。
【0035】
撮像手段12は、画像又は映像(以下、画像等という)の情報を、無線又は有線で地上などに設置された画像表示装置などを備えた画像処理装置に送信するものであっても、画像等の情報を記憶する記憶装置を備えたものであってもよい。
【0036】
本体ケース11の内部空間S1には、さらに、照明手段13が設置されている。照明手段13は、ここでは、前方を照射するように、本体ケース11の上面板及び下面板の前側の内面に、図示しないネジなどの固定手段によって、複数個固定されている。照明手段13は、例えば、充電式であって防水機能を有することが好ましい。照明手段13として、例えば、市販の水中ハロゲンライト、水中LEDライトなどを用いることができる。
【0037】
本体ケース11の前面板には開口11aが形成されており、この開口11a全体を前側(外側)から覆うように、透明又は半透明からなり板状の透明板14が前面板に接着剤やネジなどの固定手段を用いて固定されている。透明板14は、例えば、アクリル、ガラス、ポリカーボネート等のエンジニアリングプラスチックなどからなる。
【0038】
透明板14と前面板との間には隙間が存在せず、隙間を介して流体が本体ケース11の内外を流通しないように構成されている。撮像手段12は開口11a及び透明板14を介して前方を撮像するものであり、透明板14は撮像用の窓として機能する。なお、本体ケース11が、透明材からなる場合、開口11a及び透明板14を設ける必要はない。
【0039】
なお、照明手段13は、開口11a及び透明板14を介して前方の中央部に位置する撮像範囲を照明するので、照明効果が高まるように、前側の近傍にて中央に向けて照明するように傾斜して設置することが好ましい。なお、照明手段13は本体ケース11の外部に設けてもよいが、この場合、濁水を介して撮像範囲が照明されるので照明効果が劣るものとなる。また、透明板14に照明が映り込み、撮像に支障が生じるおそれもある。さらに、照明手段13を本体ケース11の内部に設けることにより、調査装置100の小型化及び簡素化を図ることが可能となると共に。透明板14と内壁面Bとの隙間を小さくすることができる。
【0040】
なお、本体ケース11の背面の壁は、左右の壁が中央部から左右外側に向って傾斜するように構成することが好ましい。これにより、透明板14で反射した光によって、本体ケース11の背面が透明板14に映ることを防ぐことが可能となる。さらに、本体ケース11の背面の反射を抑制するために、背面を黒色などの暗色に塗装することが好ましい。
【0041】
本体ケース11は、その内部空間S1が清水で満たされる。そのため、本体ケース11には、内部空間S1に清水を供給する内部供水装置(第1の清水供給手段)15が接続されている。内部供水装置15は、図示しないが地上部に設置された給水タンク、この給水タンクに接続された可撓性のホース15a、本体ケース11のここでは傾斜した背面の壁に形成され、ホース15aが接続される給水口15bなどから構成されている。
【0042】
そして、本体ケース11の上壁には外側にのみ開く排水弁16が設置されており、本体ケース11の内部空間S1の余剰な水は排水弁16から排出されるように構成されている。これにより、本体ケース11の内部空間S1内の水圧が外部より高くなるので、本体ケース11の部材間の隙間などから濁水が内部空間内に侵入することが防止され、内部空間S1を清水域とした状態を維持することが容易となる。
【0043】
本体ケース11の内部空間S1を清水で満たした清水域とすることによって、調査装置100を濁水内に沈めやすくなると共に、透明板14による光の反射と屈折による画像の歪みを防ぐことが可能となる。
【0044】
さらに、作業終了後、本体ケース11の内部空間S1を排水するために、本体ケース11の下壁には、開閉可能な排水口17が設けられている。
【0045】
緩衝材20は、本体ケース11の前側に取り付けられ、撮像手段12による内壁面Bにおける撮像範囲を取り囲むように、前面が内壁面Bに当接する環状の弾性体から構成されている。緩衝材20の前面が内壁面Bと当接することにより、本体装置10の透明板14と内壁面Bとの間に、緩衝材20で外周を取り囲まれた仮想の空間S2が形成される。緩衝材20は、発泡ゴム、エポキシゴムなどの高柔軟性を有する弾性体から形成されている。
【0046】
緩衝材20は、本体ケース11の前面に設置されるように、ここでは、本体ケース11の前面にボルトなどの図示しない固定手段を用いて固定された複数の支持部材21の前部に耐水性の接着剤などによって固定されている。支持部材21は、例えば、L字状の鋼鉄片である。
【0047】
ここでは、上側及び左右両側に設けられた支持部材21の間の隙間を覆うように、覆い材22が設けられている。覆い材22は、例えば、ゴム板であり、本体ケース11又は支持部材21に耐水性の接着剤などの固定手段によって固定されている。これにより、本体装置10と緩衝材20との間の空間S2の上側及び左右両側からは、その内外を水が流通しない。一方、本体装置10と緩衝材20との間の空間S2の下側は、支持部材21の間に隙間Mが形成されており、この隙間Mを介して空間S2内の水が内外に流通するようになっている。そして、この隙間Mが排水口として機能し、本発明の排水手段に相当する。なお、緩衝材20の一部に切り欠きを設け、この切り欠きを本発明の排水手段に相当するものとしてもよい。また、隙間Mに、外側にのみ開く弁を設けてもよい。
【0048】
外部給水装置30は、空間S2内に清水を供給する。内部供水装置30は、図示しないが地上部に設置された給水タンク、この給水タンクに接続された可撓性のホース30a、本体ケース11の前側に、図示しないが、金属板製の金具と取付ねじからなる塩化ビニル管を固定する際に使用される取付手段などによって取り付けられ、ホース30aが接続される給水管30bなどから構成されている。
【0049】
給水管30bには前方の中央側に向って清水を噴出するように、複数の噴出孔が給水管30bの延伸方向に沿って設けられている。そして、給水管30bを流れる清水が各噴出孔を介して前方中央部に向って噴出する。
【0050】
給水管30bは、本体装置10の上側と左右両側に設置されており、下側には設置されていないことが好ましい。これにより、空間S2内の濁水などの低透明度の水が隙間Mから効果的に排出されると共に隙間Mから外部の濁水が空間S2に侵入することが効果的に防止されるので、空間S2内の水の透明度を向上させることが容易となる。
【0051】
空間S2内の濁水を清水に置換するために要する時間を短くするために、空間Sの厚さは、薄いほうが好ましく、例えば1cmから5cmである。そして、空間S2の厚さを薄くするために、支持部材21と透明板14との間には凹部が設けられており、給水管30bはこの凹部内に収めることが好ましい。また、濁水と清水の置換に要する時間を短くするために、給水管30bへの清水の注入圧は、調査に影響がない程度に、なるべく強いことが好ましい。
【0052】
本体ケース11の上部には吊り下げ用のワイヤやロープ(以下、合わせて吊り下げワイヤ等という)60の先端部が係止される吊り下げ具40が複数個、左右対称に設置されている。調査装置100は、この吊り上げワイヤ等60を地上又は仮設足場C(図5図8参照)又は移動式重機の台座上等に設置された図示しない巻き上げ機によりマスト61を介して巻き上げ又は巻き出すことによって昇降される。
【0053】
本体ケース11の左右にはガイドワイヤ70が挿通されるガイド50がそれぞれ設置されている。調査装置100は、このガイドワイヤ70に沿って昇降する。ガイドワイヤ70は、地上又は仮設足場C等に設置された図示しない巻き上げ機により巻き上げ又は巻き出すことによって昇降される。吊り下げワイヤ等60又はガイドワイヤ70を昇降させる巻き上げ機としては、例えば、市販のホイスト、チェーンブロックなどを用いることができる。
【0054】
ガイドワイヤ70の下端には錘71(図5図8参照)が固定されている。濁水ピットAの内壁面Bに沿って設けられたガイドワイヤ70は、その上端が地上又は仮設足場C又は移動式重機の台座上等に設置されたマスト72(図5参照)に固定される。マスト72へのガイドワイヤ70の固定端を錘71よりも少し濁水ピットAの外側に設置することが好ましい。これにより、ガイドワイヤ70が濁水ピットAの外側に向って僅かに傾斜し、緩衝材20が内壁面Bに常に押し付けられ、緩衝材20による空間S2の形成が確実なものとなる。
【0055】
また、マスト72のガイドワイヤ70の固定端と錘71で結んだ直線、すなわちガイドワイヤ70と内壁面Bとの離隔距離が、本体装置の昇降用ガイド50と緩衝剤20の内壁面側までの距離よりも短くするように設置してもよい。これにより、ガイドワイヤ70がピット内側に凸の状態になり、緩衝剤20が内壁面Bに常に押し付けられ、緩衝剤20による空間S2の形成が確実なものとなる。
【0056】
以下、前述した調査装置100を用いた、本発明の実施形態に係る濁水ピットの調査方法について、図4のフローチャートなどの図面を参照して説明する。
【0057】
なお、本調査方法を行う前に、濁水ピットAの内壁面Bの調査対象となる部分を、作業者が水切りやブラシなどの清掃用具を用いて清掃しておくことが好ましい。また、錘71の前面側に清掃用具を固定し、錘71を沈める際に、内壁面Bの清掃を行ってもよい。
【0058】
まず、図5に示すように、ガイドワイヤ70を濁水ピットAの内壁面Bに沿って設置するガイドワイヤ設置工程STEP1を行う。このガイドワイヤ設置工程STEP1においては、先端に錘71を固定したガイドワイヤ70を、前記巻き上げ機を用いて、マスト72へのガイドワイヤ70の固定端が錘71よりも少し濁水ピットAの外側になるように設置することが好ましい。このとき、作業員は、マスト72の先端を濁水ピットAに外側に寄せてもよく、ガイドワイヤ70の上部を濁水ピットAの外側に引き寄せてもよい。
【0059】
ガイドワイヤ70の先端に錘71が固定されているので、濁水ピットA内に水流が存在する状態であっても、ガイドワイヤ70の静止状態を維持し、ひいてはガイドワイヤ70にガイドされる調査装置100の安定性を向上させることが可能となる。
【0060】
次に、図6に示すように、本体ケース11の内部空間STEP1内に内部供水装置15によって清水で満たす本体給水工程STEP2を行う。本体給水工程STEP2においては、本体ケース11の内部空間S1内を完全に清水で満たす必要はなく、本体ケース11全体が水中に沈むまでに内部空間S1内を概略清水で満たせばよい。
【0061】
次に、図7に示すように、本体ケース11の内部空間S1内が清水で満たされた状態で、調査装置100をガイドワイヤ70に沿って、濁水ピットAの底壁まで降下させる降下工程STEP3を行う。降下工程STEP3においては、ガイドワイヤ70をガイド50に挿通した状態の調査装置100を、吊り下げ具40に先端を固定した吊り下げワイヤ等60を、前記巻き上げ機を用いて降下させる。
【0062】
これにより、濁水ピットAの底壁に位置する調査装置100においては、緩衝材20の前面が内壁面Bに押し付けられるように当接しており、本体装置10の透明板14と内壁面Bとの間に、緩衝材20で外周を取り囲まれた空間S2を形成する。
【0063】
次に、本体ケース11の内部空間S1に内部供水装置15によって清水を供給すると共に、空間S2内に外部供水装置30によって清水を供給して、空間S2内の濁水を清水に置き換える清水置換工程STEP4を行う。内部供水装置15によって本体ケース11の内部空間S1に清水を供給することによって、当該内部空間S1に外部から濁水が侵入することが防止され、且つ、当該内部空間S1内の余剰な清水は排水弁16から排出されるので、当該内部空間S1内を清水域に維持することが容易となる。
【0064】
さらに、外部供水装置30によって空間S2内に清水を供給するので、空間S2内の濁水又は低透明度の水は隙間Mから外部に排出され、空間S2内は清水域となる。
【0065】
次に、撮像手段12によって、内壁面Bにおける撮像範囲を撮影する撮像工程STEP5を行う。撮像工程STEP5においては、照明手段13によって撮像範囲を照明する。
【0066】
次に、図8に示すように、調査装置100を上昇させる上昇工程STEP6を行う。上昇工程STEP6においては、吊り下げワイヤ等60を前記巻き上げ機を用いて上昇させる。
【0067】
そして、工程STEP4〜STEP6を、濁水ピットAの内壁面Bを全高さに亘って撮像するまで(STEP7:YES)繰り返す。
【0068】
濁水ピットAの内壁面Bの全高さに亘る撮像が完了すれば(STEP7:YES)、ガイドワイヤ70を横方向にずらした位置に設置するようにしてガイドワイヤ設置工程STEP1を行う。その後、工程STEP3〜STEP6を、濁水ピットAの内壁面Bを全高さに亘って撮像するまで(STEP7:YES)繰り返す。そして、以上を濁水ピットAの内壁面Bの目的となる範囲の撮像が完了するまで繰り返す(STEP8:YES)。撮像範囲は、予め損傷が予測される範囲を特定されていれば、この範囲に限定してよく、内壁面B全体に亘る必要は必ずしもない。
【0069】
なお、調査装置100を引き上げた後に、排水口17を開口することにより、本体ケース11の内部空間S1内の水を全て排出する排水工程を行った後に、本体給水工程STEP2を行って、内部空間S1を清水で満たしてもよい。ただし、引き出された本体ケース11内の水は十分に高透明度の水で満たされているので、これらの工程を省略してもよい。
【0070】
また、撮像手段12がビデオである場合、工程STEP4〜STEP6を連続的に行ってもよい。この場合、調査装置100の上昇速度は、内壁面Bの劣化状況が確認できる程度の速度とすればよい。
【0071】
以上のように、本発明の実施形態に係る濁水ピットの調査装置100及びこれを用いた調査方法によれば、本体ケース11の内部空間S1内に清水を連続して供給するので、調査装置100が上昇しても内部空間Sが清水域である状態は維持される。そして、緩衝材20を内壁面Bに当接しながら調査装置100を上昇させると共に空間S2内に清水を連続して供給するので、空間S域内に外部から濁水が侵入することが防止され、空間S2が清水域である状態が維持される。
【0072】
これらにより、共に清水域であった高透明度の内部空間S1及び空間S2を介して撮像手段12によって内壁面Bを良好に撮像することができる。よって、本体ケース11内などを清水等で置換することが必要である場合と比較して、短時間で調査を行うことが可能となる。また、一旦置換が完了したら、その後は外部からの濁水の侵入を防止するだけでよいので、清水は調査位置の水圧と同程度の圧力で少量ずつ供給すればよい。
【0073】
そして、空間S2には下側に隙間Mが形成されているが、調査装置100を上昇させるので、その移動に伴って隙間Mから濁水が空間S2内に侵入するおそれが少ない。さらに、空間S2内には清水が上側及び左右両側から中央方向に向って噴射されているので、空間S2内に存在する水は下側の隙間Mから排出されやすいので、空間S2内の透明度の向上を効率的に図ることが可能となる。
【0074】
ただし、調査装置100を下降させながら撮像してもよい。この場合、空間S2には上側に隙間Mを形成することが好ましい。
【0075】
なお、本発明は、上述した実施例に具体的に記載した濁水ピットの調査装置100及びこの調査装置100を用いた方法に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内であれば適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0076】
10…本体装置、 11…本体ケース、 11a…開口、 12…撮像手段、 13…照明手段、 14…透明板、 15…内部供水装置(第1の清水供給手段)、 15a…ホース15、 15b…給水口、 16…排水弁、 17…排水口、 20…緩衝材(緩衝手段)、 21…支持部材、 22…覆い材、 30…外部給水装置(第2の清水供給手段)、 30a…ホース、 30b…給水管、 40…吊り下げ具、 50…ガイド、 60…吊り下げワイヤ等、 61…マスト、 70…ガイドワイヤ、 71…錘、 72…マスト、 100…濁水ピットの調査装置、 A…濁水ピット、 B…内壁面、 C…仮設足場、 M…隙間(排水手段)、 S1…内部空間、 S2…空間(緩衝手段が取り囲んだ領域)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8