特許第6899184号(P6899184)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 田岡化学工業株式会社の特許一覧

特許6899184フルオレン骨格を有するビスフェノール類及び該ビスフェノール類から誘導されるポリアリレート樹脂
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899184
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】フルオレン骨格を有するビスフェノール類及び該ビスフェノール類から誘導されるポリアリレート樹脂
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/96 20060101AFI20210628BHJP
   C08G 63/42 20060101ALI20210628BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20210628BHJP
   C08J 5/00 20060101ALN20210628BHJP
【FI】
   C07D311/96CSP
   C08G63/42
   G02B1/04
   !C08J5/00CFD
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-169398(P2017-169398)
(22)【出願日】2017年9月4日
(65)【公開番号】特開2019-43897(P2019-43897A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000216243
【氏名又は名称】田岡化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山科 友香理
(72)【発明者】
【氏名】森永 侑加
(72)【発明者】
【氏名】松原 正晃
(72)【発明者】
【氏名】河村 芳範
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−036648(JP,A)
【文献】 ソ連国特許発明第00167303(SU,A)
【文献】 特開2003−040995(JP,A)
【文献】 特開2014−237605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 311/96
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下一般式(1)
(式中、R及びRは分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基又はアリール基を表し、n及びnはそれぞれ同一又は異なって0〜2の整数を表す。n及びnが2である場合、それぞれ対応するR及びRは同一であっても異なってもよい。)
で表されるビスフェノール化合物
【請求項2】
酸存在下、9−フルオレノンと以下一般式(2)
(式中、Rは分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、又はアリール基を表し、nは0〜2の整数を表す。nが2である場合、それぞれ対応するRは同一であっても異なってもよい。)
で表される多価フェノール化合物、及び、以下一般式(3)
(式中、Rは分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、又はアリール基を表し、nは0〜2の整数を表す。nが2である場合、それぞれ対応するRは同一であっても異なってもよい。)
で表される多価フェノール化合物とを反応させる、請求項1に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【請求項3】
以下一般式(1)
(式中、R及びRは分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基又はアリール基を表し、n及びnはそれぞれ同一又は異なって0〜2の整数を表す。n及びnが2である場合、それぞれ対応するR及びRは同一であっても異なってもよい。)
で表されるビスフェノール化合物と、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸のエステル、芳香族ジカルボン酸の酸ハライド又は芳香族ジカルボン酸の酸無水物とを重合させてなる、ポリアリレート樹脂。
【請求項4】
請求項3に記載のポリアリレート樹脂を含む成形品。
【請求項5】
成形品が光学部材である、請求項に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格を有するビスフェノール類及びその製造方法、並びに該ビスフェノール類から製造されるポリアリレート樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン骨格を有するビスフェノール類から製造される樹脂(ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等)は高耐熱性、高屈折率等といった特徴を有することが知られている。とりわけポリアリレート樹脂は、ビスフェノール類由来の構成単位及び芳香族ジカルボン酸類由来の構成単位を有する熱可塑性の全芳香族ポリエステルであり、これら樹脂の中でも特に高耐熱性を発現する樹脂として知られている。
【0003】
例えば特許文献1は、ポリアリレート樹脂を用いた熱転写記録用シートに係る発明であって、耐熱性により優れたポリアリレート樹脂を模索すべく、様々なビスフェノール類からポリアリレート樹脂を製造し、耐熱性の一つの指標であるガラス転移温度(Tg)を測定した結果が記載されている(該特許文献1、表1参照)。これらポリアリレート樹脂の中でも、特にフルオレン骨格を有するビスフェノール類由来の構成単位を有するポリアリレート樹脂のガラス転移温度が288℃と特に耐熱性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−79768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本願発明者らが前記特許文献1の記載に基づき、該引例に記載されるフルオレン骨格を有するビスフェノール類由来の構成単位を有するポリアリレート樹脂を製造してみたところ、溶媒溶解性が乏しいと共に、化学的耐熱性の指標となる5%重量減少温度が約400℃と、ガラス転移温度との差が小さく、該ポリアリレート樹脂を用いた成形品を製造することが困難であることが判明した。
【0006】
本発明の目的は、高耐熱性、高屈折率等といった特徴を有する樹脂が製造可能なフルオレン骨格を有するビスフェノール類、特に公知のフルオレン骨格を有するビスフェノール類由来の構成単位を有するポリアリレート樹脂と同程度の物理的耐熱性(ガラス転移温度)を有すると共に、溶媒溶解性に優れ、かつ化学的耐熱性の指標となる5%重量減少温度も高いポリアリレート樹脂及び該ポリアリレート樹脂が提供可能なフルオレン骨格を有するビスフェノール類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(1)で表されるビスフェノール類及び該ビスフェノール類由来の構成単位を有するポリアリレート樹脂が、溶媒溶解性に優れ、かつ、物理的耐熱性及び化学的耐熱性にも優れることを見出した。具体的には以下の発明を含む。
【0008】
[1]
以下一般式(1)
【0009】
【化1】
(式中、R及びRは分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基又はアリール基を表し、n及びnはそれぞれ同一又は異なって0〜2の整数を表す。n及びnが2である場合、それぞれ対応するR及びRは同一であっても異なってもよい。)
で表されるビスフェノール類。
【0010】
[2]
酸存在下、9−フルオレノンと以下一般式(2)
【0011】
【化2】
(式中、Rは分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、又はアリール基を表し、nは0〜2の整数を表す。nが2である場合、それぞれ対応するRは同一であっても異なってもよい。)
で表される多価フェノール類、及び、以下一般式(3)
【0012】
【化3】
(式中、Rは分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、又はアリール基を表し、nは0〜2の整数を表す。nが2である場合、それぞれ対応するRは同一であっても異なってもよい。)
で表される多価フェノール類とを反応させる、[1]に記載のビスフェノール類の製造方法。
【0013】
[3]
上記一般式(1)で表されるビスフェノール類由来の構成単位及び芳香族ジカルボン酸由来の構成単位を有するポリアリレート樹脂。
【0014】
[4]
上記一般式(1)で表されるビスフェノール類と芳香族ジカルボン酸又はその誘導体とを重合させる、[3]に記載のポリアリレート樹脂の製造方法。
【0015】
[5]
[3]に記載のポリアリレート樹脂を含む成形品。
【0016】
[6]
成形品が光学部材である、[5]に記載の成形品。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記一般式(1)で表されるビスフェノール類は、以下一般式(4)
【0018】
【化4】
(式中、R及びRはそれぞれ同一又は異なって分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、又はアリール基を表し、n及びnはそれぞれ同一又は異なって0〜2の整数を表す。n及びnが2である場合、それぞれ対応するR及びRは同一であっても異なってもよい。)
で表されるビスフェノール類よりも高屈折率であるので、各種光学用途に用いられる樹脂(例えばポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等)に好適に用いることができる。特に本発明の上記一般式(1)で表されるビスフェノール類は、上記一般式(4)で表されるビスフェノール類よりも融点が低いことから、溶融重合法等、ビスフェノール類を溶融させた後重合することにより製造される樹脂の原料として好適である。
【0019】
前述した各種樹脂の中でも、特に上記一般式(1)で表されるビスフェノール類から製造される本発明のポリアリレート樹脂は、物理的耐熱性(ガラス転移温度)が公知のフルオレン骨格を有するビスフェノール類由来の構成単位を有するポリアリレート樹脂と同程度であり、かつ溶媒溶解性に優れ、更には化学的耐熱性の指標となる5%重量減少温度と、物理的耐熱性の指標であるガラス転移温度との差が大きいことから、溶液キャスト法、射出成形等の熱溶融成形法等、様々な方法により耐熱性に優れた成形品を製造することが可能となる。
【0020】
また、本発明のポリアリレート樹脂は透明性に優れ、かつ高屈折率といった特徴も有することから、特に光学部材(例えば液晶表示装置に用いられるプリズムシート、オーバーコート剤、ハードコート剤、反射防止膜、又は光学フィルム、光学シート、光ファイバー、光導波路、ホログラム、液晶用フィルム、有機EL用フィルムや各種光学レンズ等)に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<上記一般式(1)で表されるビスフェノール類>
本発明のビスフェノール類は、上記一般式(1)で表される。上記一般式(1)中、置換基R及びRにおける分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が例示される。炭素数5〜12のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、シクロドデシル基等が例示される。アリール基としてはフェニル基、トリル基等の置換基を有してもよい芳香族基等が例示される。上述した置換基R及びRの中でも、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類の入手性の観点から、分岐を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0022】
置換基(R及びR)数を表すn及びnは、それぞれ同一又は異なって0〜2の整数であり、原料である上記一般式(1)で表されるビスフェノール類の入手性の観点から0又は1の整数であることが好ましく、0であることがより好ましい。なお、置換基数が2である場合、それぞれ対応する置換基は同一であっても異なってもよい。
【0023】
本発明の上記一般式(1)で表されるビスフェノール類は、上記一般式(4)で表されるビスフェノール類に比べて融点が低くなる。具体的には、上記一般式(1)中、n=n=0である本発明のビスフェノール類の融点は232℃であるのに対し、上記一般式(4)中、n=n=0であるビスフェノール類の融点は270℃である。また、本発明のビスフェノール類は、該ビスフェノール類自身の屈折率が1.62以上、特に1.65以上といった特徴を有する。なお、本発明のビスフェノール類の融点、及び屈折率は後述する実施例にて記載される方法により決定される。
【0024】
本発明の上記一般式(1)で表されるビスフェノール類は各種熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の原料(モノマー)としても使用可能である。原料として使用可能な熱可塑性樹脂として例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂として例えばエポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。これら樹脂の中でも、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類は高屈折といった特徴を有することから、高屈折ポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂の原料として好適である。また、上記一般式(4)で表されるビスフェノール類と比べて融点が低いことから、溶融重合法等、ビスフェノール類を溶融させた後重合することにより製造される樹脂の原料としても好適である。
【0025】
<上記一般式(1)で表されるビスフェノール類の製造方法>
本発明の上記一般式(1)で表されるビスフェノール類の製造方法について詳述する。
本発明の上記一般式(1)で表されるビスフェノール類は、酸存在下、9−フルオレノン(以下、フルオレノンと称することもある)と以下一般式(2)
【0026】
【化5】
(式中、Rは分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、又はアリール基を表し、nは0〜2の整数を表す。nが2である場合、それぞれ対応するRは同一であっても異なってもよい。)
で表される多価フェノール類、及び、以下一般式(3)
【0027】
【化6】
(式中、Rは分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、又はアリール基を表し、nは0〜2の整数を表す。nが2である場合、それぞれ対応するRは同一であっても異なってもよい。)
で表される多価フェノール類とを反応させることにより製造される(以下、ビスフェノール化反応と称することがある)。
【0028】
上記一般式(2)で表される多価フェノール類における置換基R及び置換基数nが、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類の置換基R及び置換基数nに対応し、また、上記一般式(3)で表される多価フェノール類における置換基R及び置換基数nが、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類の置換基R及び置換基数nに対応する。従って、それぞれの置換基及び置換基数の具体的態様、及び好ましい態様は上記一般式(1)で表されるビスフェノール類で詳述したものと同一となる。
【0029】
上記一般式(2)で表される多価フェノール類と上記一般式(3)で表される多価フェノール類との合計使用量は通常、フルオレノン1モルに対し2〜15モルであり、より収率良く上記一般式(1)で表されるビスフェノール類を得る観点から、好ましくは4〜12モル使用する。また、上記一般式(2)で表される多価フェノール類と上記一般式(3)で表される多価フェノール類の使用比率は通常、モル比で、上記一般式(2)で表される多価フェノール類:上記一般式(3)で表される多価フェノール類=10:90〜90:10、より収率良く上記一般式(1)で表されるビスフェノール類を得る観点から、好ましくは20:80〜60:40、さらに好ましくは、20:80〜50:50である。
【0030】
ビスフェノール化反応に使用される酸として例えば無機酸、有機酸等各種の酸が使用可能であり、具体的に無機酸としては、硫酸、塩化水素、塩酸、リン酸、ヘテロポリ酸、ゼオライト、粘土鉱物等が例示され、有機酸としては、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酸性イオン交換樹脂等が例示される。これら酸の中でも入手性、取扱性の観点から塩酸、又はパラトルエンスルホン酸が好適に用いられる。さらに、反応選択率が向上することからパラトルエンスルホン酸が特に好ましい。酸の使用量は通常、フルオレノン1モルに対し0.01〜5.0モルであり、十分な反応速度を得る観点及び後処理の容易さの観点から好ましくはフルオレノン1モルに対し0.05〜1.0モル使用する。これら酸は1種、あるいは必要に応じ2種以上併用してもよい。
【0031】
ビスフェノール化反応を実施する際、反応速度向上の観点から含硫黄化合物を共存させてもよい。使用可能な含硫黄化合物として例えば、メルカプトカルボン酸類、アルキルメルカプタン類、アラルキルメルカプタン類及びこれらの塩類等が挙げられる。具体的に例えばチオ酢酸、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸、n−ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のC1−16アルキルメルカプタン等が挙げられる。これら含硫黄化合物の中でも、工業的な取扱性の良さからドデシルメルカプタン及びβ-メルカプトプロピオン酸が好適に用いられる。これら含硫黄化合物を使用する場合の使用量は、フルオレノン1重量部に対し通常0.01〜1.0重量部、十分な反応速度を得る観点及び後処理の容易さの観点から、好ましくはフルオレノン1重量部に対し0.01〜0.50重量部である。これら含硫黄化合物は1種、あるいは必要に応じ2種以上併用してもよい。
【0032】
ビスフェノール化反応を実施する際、必要に応じ溶媒存在下で反応を実施してもよい。使用可能な溶媒としては、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類などが例示される。脂肪族炭化水素類としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等が例示され、芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が例示され、エーテル類としては、ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類が例示され、ハロゲン化炭化水素類としては、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等の脂肪族ハロゲン化炭化水素類、及びクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン化炭化水素類が例示される。これら溶媒の中でも、入手性や取扱性、反応速度、反応選択性の観点からトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が好適に使用される。これら溶媒を使用する場合の使用量は、フルオレノン1重量部に対し通常0.1〜20重量部、十分な反応速度を得る観点及び経済的な観点から、好ましくはフルオレノン1重量部に対し5〜10重量部使用する。これら溶媒は1種、あるいは必要に応じ2種以上併用してもよい。
【0033】
ビスフェノール化反応にはフルオレノン、上記一般式(2)及び上記一般式(3)で表される多価フェノール類、酸、並びに必要に応じ含硫黄化合物及び溶媒を反応器に入れ、通常内温50〜200℃、好ましくは80〜140℃、さらに好ましくは120℃〜140℃で撹拌を行うことによって実施される。また、十分な反応速度を得る観点から必要に応じて、常圧あるいは減圧還流下、脱水しながら反応を実施してもよい。
【0034】
ビスフェノール化反応後、得られた反応液を必要に応じ中和、水洗、濃縮、晶析、濾過等の常法により、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類を取り出すことができる。得られた上記一般式(1)で表されるビスフェノール類は、再結晶、蒸留、吸着、カラムクロマトグラフィー等の常法により精製することも可能である。また、必要に応じ、得られた反応液をそのまま、前述したポリアリレート樹脂の製造へと供してもよい。
【0035】
<本発明のポリアリレート樹脂>
本発明のポリアリレート樹脂は、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類由来の構成単位と芳香族ジカルボン酸由来の構成単位とを有する樹脂である。
【0036】
本発明のポリアリレート樹脂は、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類由来の構成単位以外の、他のビスフェノール類由来の構成単位を有してもよい。他のビスフェノール類として例えば、ビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ベンジル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,7’―ジヒドロキシキサンテン)]、1,1’−ビ−2−ナフトール等が挙げられる。これら他のビスフェノール類由来の構成単位は1種、あるいは必要に応じ2種以上有していてもよい。
【0037】
他のビスフェノール類由来の構成単位を有する場合における、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類由来の構成単位の割合は、全ビスフェノール類由来の構成単位に対して通常80モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは99モル%以上である。
【0038】
本発明のポリアリレート樹脂を構成する、芳香族ジカルボン酸由来の構成単位を構成する芳香族ジカルボン酸として例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸類、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基及びtert−ブチル基等からなる群から選択されるアルキル基が1個ないし2個置換したテレフタル酸及びイソフタル酸等のフタル酸誘導体類、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸等のビフェニルジカルボン酸類、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸類、ジフェニルエーテル−2,2’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,3’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸等のジフェニルエーテルジカルボン酸類が挙げられる。これら芳香族ジカルボン酸は、1種、あるいは必要に応じ2種以上組み合わせて用いてもよい。これら芳香族ジカルボン酸の中でも、フタル酸類(テレフタル酸、イソフタル酸等)、ナフタレンジカルボン酸類、ビフェニルジカルボン酸類が好適に用いられる。
【0039】
本発明の効果を損なわない範囲で、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類由来の構成単位、その他のビスフェノール類由来の構成単位及び芳香族ジカルボン酸由来の構成単位以外の他の成分由来の構成単位を含んでいてもよい。含み得る他の成分として例えば、脂肪族ジオール類、脂環族ジオール類、脂肪族ジカルボン酸類、脂環族ジカルボン酸類等が挙げられ、脂肪族ジオール類として例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。脂環族ジオール類として例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸類として例えば、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。脂環族ジカルボン酸類としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
【0040】
本発明のポリアリレート樹脂の重量平均分子量(Mw)は、製造時のハンドリング性等の観点から、5000〜200000程度の範囲から選択でき、例えば6000〜150000、特に8000〜120000、さらには10000〜100000である。重量平均分子量(Mw)は、後述する実施例にて記載される方法により算出される。
【0041】
本発明のポリアリレート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性の観点から250℃以上、特に270℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度は後述する実施例にて記載される方法により決定される。
【0042】
本発明のポリアリレート樹脂の5%重量減少温度はガラス転移温度より120℃以上高温であることが好ましく、特に140℃以上高温であることが好ましい。5%重量減少温度がガラス転移温度に対し120℃以上高温であれば、射出成形等の熱溶融成形により成形を行う際、十分な流動性が発現する程度にポリアリレート樹脂を加熱することが可能となる。5%重量減少温度は後述する実施例にて記載される方法により測定される。
【0043】
本発明のポリアリレート樹脂の屈折率は、例えば、温度20℃、波長589nmにおいて1.62以上、特に1.65以上である。従って、本発明のポリアリレート樹脂は光学部材として用いられる、高屈折ポリエステル等の屈折率と同程度かそれ以上の屈折率を示し得る。屈折率は後述する実施例にて記載される方法により決定される。
【0044】
本発明のポリアリレート樹脂は、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類由来の構成単位及び芳香族ジカルボン酸由来の構成単位といった剛直な骨格を有しているにもかかわらず、溶媒溶解性に優れる。例えば、本発明のポリアリレート樹脂は、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン)、環状ケトン類(例えばシクロヘキサノン)、アミド類(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、塩化メチレン、クロロホルム)、N−メチルピロリドン等の汎用の溶媒に溶解可能である。そのため、本発明のポリアリレート樹脂は、熱溶融成形以外にも、溶液キャスト法等、溶媒を用いた成形(フィルム化)にも供することができる。
【0045】
<ポリアリレート樹脂の製造方法>
本発明のポリアリレート樹脂は、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類と芳香族ジカルボン酸又はその誘導体とを重合することにより製造することができる。
【0046】
芳香族ジカルボン酸の使用量は、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類、及び他のビスフェノール類を使用する場合は他のビスフェノール類との合計量1モルに対して通常0.9〜2.0モル、好ましくは1.0〜1.2モルである。また、本発明のポリアリレート樹脂を製造する際、芳香族ジカルボン酸の他、芳香族ジカルボン酸の誘導体を使用することができる。使用可能な芳香族ジカルボン酸の誘導体として例えば、芳香族ジカルボン酸のエステル{例えば、アルキルエステル[例えば、メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル(例えば、C1−4アルキルエステル、特にC1−2アルキルエステル]など}、酸ハライド(酸クロライドなど)、酸無水物等が挙げられる。これら芳香族ジカルボン酸の誘導体は、モノエステル(ハーフエステル)又はジエステル、モノ酸ハライド又はジハライドであってもよい。
【0047】
本発明のポリアリレート樹脂を製造する際に利用可能な重合方法として例えば、界面重合法、溶液重合法、溶融重合法などが挙げられるが、中でも、界面重合法が好ましい。界面重合法によれば、溶液重合法や溶融重合法と比較して反応が速く、高分子量のポリアリレート樹脂を容易に得ることができる。また、界面重合法は、得られるポリアリレート樹脂の分子量がコントロールしやすい他、得られるポリアリレート樹脂の不純物が少なく、かつ高透明性を付与しうる重合法である。界面重合法は、一般的に上記一般式(1)で表されるビスフェノール類をアルカリ水溶液に混合させたアルカリ懸濁液(水相)と、芳香族ジカルボン酸の誘導体であるジカルボン酸ジハライドを水に不溶の有機溶媒に混合させた有機相とを、重合触媒の存在下で混合することにより実施され、界面重合法の具体的実施方法としては、例えばW.M.EARECKSON,J.Poly.Sci.XL399(1959)、特公昭40−1959号公報などに記載されている。以下、本発明における界面重合法について詳述する。
【0048】
上記水相として、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類、及び他のビスフェノール類を使用する場合は他のビスフェノール類をアルカリ水溶液に混合させ、次いで、重合触媒、さらに必要に応じて末端封止剤を添加する。前記水相とは別に、後述の有機相を調製するための有機溶媒に、芳香族ジカルボン酸由来の構成単位を導入するための原料である芳香族ジカルボン酸ジハライドを溶解して、有機相を調製する。その後、水相と有機相とを混合し、界面重合反応を行うことによって、有機相中に高分子量のポリアリレート樹脂が生成する。その後、ポリアリレート樹脂を含む有機相を純水やイオン交換水などで洗浄した後、該有機相を貧溶媒に滴下してポリアリレート樹脂を析出させ、析出した樹脂をろ別したり、有機溶媒を留去することでポリアリレート樹脂を得ることができる。
【0049】
アルカリ水溶液を調製するためのアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられるが、経済的に有利な点及び廃液処理が容易な点から好ましくは水酸化ナトリウムが用いられる。その使用量は、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類、及び他のビスフェノール類を使用する場合は他のビスフェノール類との合計量1モルに対して通常2.0〜8.0モル、好ましくは3.0〜5.0モルである。アルカリは1種、或いは必要に応じ2種以上併用してもよい。
【0050】
重合触媒としては、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリドデシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、キノリン、ジメチルアニリン等の第3級アミン、トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド等の第4級アンモニウム塩、トリメチルベンジルホスホニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、トリエチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライド、トリフェニルベンジルホスホニウムハライド、テトラフェニルホスホニウムハライド等の第4級ホスホニウム塩等が挙げられる。なかでも、反応速度が速く、芳香族ジカルボン酸ハライドの加水分解を最小限に抑える観点から、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド及びテトラブチルホスホニウムハライドが好ましい。その使用量は、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類、及び他のビスフェノール類を使用する場合は他のビスフェノール類との合計量1モルに対して通常0.0001〜0.05モル、好ましくは0.001〜0.01モルである。重合触媒は1種、或いは必要に応じ2種以上併用してもよい。
【0051】
有機相を調製するための溶媒としては、水と相溶せず、かつポリアリレート樹脂が可溶な溶媒であればよい。このような溶媒として例えば、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒等が例示され、なかでも、非引火性であって取扱性が良好である点から、塩化メチレンが好ましい。その使用量は、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類、及び他のビスフェノール類を使用する場合は他のビスフェノール類との合計量1重量部に対して通常3〜30重量部、好ましくは10〜20重量部である。溶媒は1種、或いは必要に応じ2種以上併用してもよい。
【0052】
必要に応じて用いられる末端封止剤として例えば、一価フェノール、一価酸クロライド、一価アルコール及び一価カルボン酸が挙げられる。一価フェノールとして例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、o−メトキシフェノール、m−メトキシフェノール、p−メトキシフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2−フェニル−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−フェニル−2−(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−フェニル−2−(3−ヒドロキシフェニル)プロパンが挙げられる。一価酸クロライドとしては、例えば、ベンゾイルクロライド、安息香酸クロライド、メタンスルホニルクロライド、フェニルクロロホルメートが挙げられる。一価アルコールとして例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールが挙げられる。一価カルボン酸として例えば、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、フェニル酢酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−メトキシフェニル酢酸が挙げられる。これら末端封止材の中でも、熱安定性、或いは分子量の調整能が高いことから、2,3,6−トリメチルフェノール及びp−tert−ブチルフェノールが好ましい。その使用量は、上記一般式(1)で表されるビスフェノール類、及び他のビスフェノール類を使用する場合は他のビスフェノール類との合計量1モルに対して通常0.01〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モルである。末端封止剤は1種、或いは必要に応じ2種以上併用してもよい。
【0053】
界面重合を実施する際の温度は、通常0〜50℃、好ましくは10〜40℃、より好ましくは20〜30℃である。0℃以上とすることにより十分な反応速度を得ることができ、また50℃以下とすることにより不純物の生成を抑制し、より高純度である本発明のポリアリレート樹脂を得ることが可能となる。
【0054】
界面重合終了後、通常、水相を分液除去することでポリアリレート樹脂を含む溶液を得る。得られたポリアリレート樹脂を含む溶液は、pHが4.0〜8.0になるように、酢酸、塩酸、シュウ酸等の酸で中和を行ってもよく、また、中和後、水洗・分液を繰り返してもよい。また、適宜ろ過操作を行うことにより、不溶解物を分離除去してもよい。
【0055】
前記操作により得られたポリアリレート樹脂を含む溶液はそのまま後述する、本発明のポリアリレート樹脂を含む成形品の製造に供してもよく、また、得られたポリアリレート樹脂を含む溶液を貧溶媒に滴下してポリアリレート樹脂を析出させ、析出した樹脂をろ別したり、該溶液から有機溶媒を留去することでポリアリレート樹脂を取り出してもよい。取り出したポリアリレート樹脂は下記する方法にて本発明のポリアリレート樹脂を含む成形品とすることができる。
【0056】
<本発明のポリアリレート樹脂を含む成形品>
本発明のポリアリレート樹脂を含む成形品を得るためには、流延法、射出成形、射出圧縮成形法、押出し成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法などを利用して製造することができるが、特に限定されるものではなく用途によって適宜使い分ければよい。以下にその一例を説明する。
【0057】
流延法はいわゆる溶液キャスト法であり、本発明のポリアリレート樹脂を有機溶媒に溶解し、該溶液を金属製のドラムやベルト、あるいは本発明のポリアリレート樹脂とは異なる他の樹脂からなるフィルム基材の上に塗布した後、有機溶媒を留去させ基材等から剥離することで本発明のポリアリレート樹脂を含むフィルムを得ることができる。
【0058】
溶液キャスト法で用いる有機溶媒として例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、トルエン、ベンゼン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランが挙げられる。中でも、ハロゲンフリーの観点から、NMP、トルエン、ベンゼン、キシレン、THF、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランが好ましく、トルエン又はTHFがより好ましい。有機溶媒は1種、或いは必要に応じ2種以上併用してもよい。
【0059】
フィルムの厚みは、1〜1000μm程度の範囲から用途に応じて選択でき、例えば、1〜200μm、好ましくは5〜150μm、より好ましくは10〜120μm程度であってもよい。
【0060】
他にも押出し成形法、カレンダー成形法などを用いて成膜(又は成形)することにより、本発明のポリアリレート樹脂を含む成形品が製造可能である。また、射出成形法などを適用すれば様々な形状を有する成形品の製造も可能である。
【0061】
成形品の形状は、例えば二次元的構造(フィルム状、シート状、板状など)、三次元構造(管状、棒状、チューブ状、中空状など)が挙げられるが、本発明のポリアリレート樹脂を含む成形品は透明性、高い屈折率を有する等、光学特性に優れていることから光学部材として好適に用いられる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0063】
〔1〕HPLC分析
・装置:(株)島津製作所製 LC−2010C、
・カラム:一般財団法人 化学物質評価研究機構製 L−column ODS(5μm、4.6mmφ×250mm)、
・移動相:A液=50%メタノール水、B液=メタノール。なお、B液濃度に付、下記の通り濃度を変化させ分析を行った。
・B液濃度:0%(0分)→100%(30分)→100%(40分)、
・流量:1.0ml/分、
・カラム温度:40℃、
・検出波長:UV 254nm。
なお、以下実施例にて記載した各成分の生成率及び含量は上記条件で測定したHPLCの面積百分率である。
【0064】
〔2〕融点(示差走査熱量測定(DSC)による融解吸熱最大温度)及びガラス転移温度 サンプル5mgをアルミパンに精密に秤取し、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社:EXSTAR DSC7020)を用い、酸化アルミニウムを対照として下記操作条件で測定し、検出された融解吸熱最大温度を融点とした。融解吸熱ピークが検出されなかったサンプル(ポリアリレート樹脂)は、変曲点の接線の交点をガラス転移温度(Tg)とした。
(操作条件)
・昇温速度:10℃/min(ビスフェノール類)、20℃/min(ポリアリレート樹脂)、
・測定範囲:30−350℃(ビスフェノール類)、150−360℃(ポリアリレート樹脂)、
・雰囲気 :開放、窒素40ml/min。
【0065】
〔3〕NMR測定
H−NMR及び13C−NMRは、内部標準としてテトラメチルシランを用い、溶媒としてDMSO−d6を用いて、JEOL−ESC400分光計によって記録した。
【0066】
〔4〕LC−MS測定
・装置:Waters社製 Xevo G2 Q−Tof、
・カラム:化学物質評価研究機構製 L−Column2 ODS(2μm、2.1mmφ×100mm)、
・カラム温度:40℃、
・検出波長:UV 220−500nm、
・移動相:A液=10mM酢酸アンモニウム水、B液=メタノール。なお、B液濃度に付、下記の通り濃度を変化させ分析を行った。
B液濃度:60%(0min)→65%(25min)→100%(35min)
・移動相流量:0.3ml/min、
・検出法:Q−Tof、
・イオン化法:ESI(+、−)法、
・Ion Source:電圧(+)2.0kV、(−)1.5kV、温度120℃、
・Sampling Cone :電圧 30V、ガスフロー50L/h、
・Desolvation Gas:温度500℃、ガスフロー1000L/h。
【0067】
〔5〕屈折率及びアッベ数
ビスフェノール類及びポリアリレート樹脂の屈折率及びアッベ数は下記の方法、条件にて測定した値である。
【0068】
・装置:アッベ屈折計((株)アタゴ製「多波長アッベ屈折計 DR−2M」)、
・測定波長:589nm(屈折率)、486、589、656nm(アッベ数)、
・測定温度:20℃。
【0069】
・ビスフェノール類の屈折率及びアッベ数:ビスフェノール類をN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと称することがある。)に溶解して2.5重量%、5重量%及び7.5重量%溶液を調製し、各溶液について上述の装置、条件にて屈折率を測定した。次に、得られた3点の測定値から近似曲線を導き、これを100重量%に外挿したときの値を各ビスフェノール類の屈折率とした。また、前述の方法により得られた各波長の屈折率に基づきアッベ数を算出した。
【0070】
・ポリアリレート樹脂の屈折率及びアッベ数:ポリアリレート樹脂粉末をNMPに溶解して1重量%、3重量%及び5重量%溶液を調製し、各溶液について上述の装置、条件にて屈折率を測定した。次に、得られた3点の測定値から近似曲線を導き、これを100重量%に外挿したときの値を各ポリアリレート樹脂の屈折率とした。また、前述の方法により得られた各波長の屈折率に基づきアッベ数を算出した。
【0071】
〔6〕5%重量減少温度
熱分析装置((株)リガク製Thermo Plus Evo II TG−DTA8121/S)を用いて、窒素気流下、室温から500℃まで10℃/分で昇温し、測定した。
【0072】
〔7〕重量平均分子量(Mw)
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、以下条件にて分析を行い、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を算出した。
・装置:TOSOH社製 EcoSEC HLC−8320GPC、
・カラム:TSKguardcolumn SuperHZ−L、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ2500、TSKgel SuperHZ1000の4本、
・流量:0.35mL/min、
・移動相:THF、
・カラム温度:40℃、
・検出器:RI。
【0073】
〔8〕ポリアリレート樹脂の溶媒溶解性試験
ポリアリレート樹脂と各有機溶媒とを室温で混合し、下記の通り目視にて溶解性を評価した。
○:ポリアリレート樹脂濃度20重量%であっても完溶した。
△:ポリアリレート樹脂濃度20重量%では完溶せず、濃度10重量%で完溶した。
×:ポリアリレート樹脂濃度10重量%でも完溶しなかった。
【0074】
〔9〕ポリアリレート樹脂の全光線透過率
下記装置にてポリアリレート樹脂の全光線透過率を測定した。
装置:日本電色工業(株)製 ヘーズメーター NDH4000
【0075】
(1)ビスフェノール類の製造
<実施例1 上記一般式(1)で表されるビスフェノール類の内、以下式(1−1)で表されるビスフェノールの製造例>
【0076】
【化7】
【0077】
攪拌器、冷却器及び温度計を備えたガラス製反応容器に、9−フルオレノン45.00g(0.250mol)、ハイドロキノン123.74g(1.124mol)、レゾルシン41.25g(0.375mol)、p−トルエンスルホン酸4.75g(0.025mol)及びp−キシレン450.00gを仕込み、120℃まで昇温した。同温度で3時間攪拌した後、反応液をHPLCにより分析したところ、9−フルオレノンのピークは検出されなかった。また、上記式(1−1)で表されるビスフェノールの生成率は51.7%であった。
【0078】
続いて得られた反応液にイオン交換水を加えて70℃まで冷却し、同温度にて24重量%水酸化ナトリウム水溶液を加え中和した後、p−キシレン45.00gを添加した。その後、反応液を86℃まで昇温し、86℃で濾過することにより無機塩を除去した。濾過後、ろ液にp−キシレンと酢酸イソプロピルを添加、撹拌、静置後、水相を分液除去した。次いで、有機相を80℃でイオン交換水を用いて洗浄した後、有機相を濃縮乾固することにより、淡橙色結晶69.87gを得た。得られた結晶をHPLCにて分析した所、上記式(1−1)で表されるビスフェノールの含量は54.9%であった。
【0079】
次いで、得られた結晶15.0gを、シリカゲルカラム(展開溶媒 クロロホルム:酢酸エチル=12/1)で精製することで、上記式(1−1)で表されるビスフェノールの含量が93.9%の結晶2.59g、及び上記式(1−1)で表されるビスフェノールの含量が88.7%の結晶4.93gを得た。
【0080】
上記実施例にて得られた結晶の内、含量(純度)が93.9%の結晶に付、1H−NMR、13C−NMR及びLC−MS分析を実施した。それぞれの分析結果を下記する。
【0081】
1H-NMR(DMSO−d,400MHz,TMS)δ(ppm):5.64(d、J=2.8Hz,2H)、6.00(d、J=8.8Hz、2H)、6.21(dd、J=2.8Hz、8.4Hz、2H)、6.55(d、J=2.0Hz、2H)、6.58(dd、J=2.8Hz、8.8Hz、2H)、7.04(d、J=8.0、4H)、7.05(d、J=8.8、2H)、7.23(dt、J=1.2Hz、8.0Hz、4H)7.36(dt、J=0.8Hz、7.2Hz、4H)、7.93(d、J=7.6Hz、4H)、9.20(bs、2H)。
【0082】
13C-NMR(DMSO−d,400MHz,TMS)δ(ppm):53.6、102.5、111.3、112.3、113.8、115.6、117.4、120.3、125.1、125.3、127.6、127.8、128.1、128.4、139.1、143.8、151.8、152.7、154.7、157.6。
【0083】
マススペクトル値(MH):363.10
【0084】
<実施例2>
攪拌器、冷却器及び温度計を備えたガラス製反応容器に、9−フルオレノン45.00g(0.250mol)、ハイドロキノン82.49g(0.749mol)、レゾルシン82.49g(0.749mol)、p−トルエンスルホン酸4.75g(0.025mol)及びp−キシレン450.00gを120℃まで昇温した。同温度で1時間攪拌した後、反応液をHPLCにより分析したところ、9−フルオレノンのピークは検出されなかった。また、上記式(1−1)で表されるビスフェノールの生成率は49.8%であった。
【0085】
続いて得られた反応液にイオン交換水を加えて65℃まで冷却し、24重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和した後、40℃まで冷却し、40℃で濾過することにより無機塩を除去した。ろ過後、ろ液を静置し、水相を分液除去した。次いで、有機相を60℃でイオン交換水を用い洗浄した後、有機相を濃縮乾固することにより、淡橙色結晶23.58gを得た。得られた結晶をHPLCにて分析した所、上記式(1−1)で表されるビスフェノールの含量は56.3%であった。
【0086】
次いで、得られた結晶15.0gを、シリカゲルカラム(展開溶媒 クロロホルム:酢酸エチル=6/1)で精製することで、上記式(1−1)で表されるビスフェノールの含量が90.3%の結晶3.5g、及び上記式(1−1)で表されるビスフェノールの含量が78.7%の結晶2.3gを得た。
【0087】
<実施例3>
攪拌器、冷却器及び温度計を備えたガラス製反応容器に、9−フルオレノン20.00g(0.111mol)、ハイドロキノン29.34g(0.266mol)、レゾルシン87.98g(0.799mol)、p−トルエンスルホン酸2.11g(0.011mol)及びトルエン200.00gを仕込み、90℃まで昇温した。同温度で3.5時間攪拌した後、反応液をHPLCにより分析したところ、9−フルオレノンのピークは検出されなかった。また、上記式(1−1)で表されるビスフェノールの生成率は33.3%であった。
【0088】
続いて得られた反応液にイオン交換水を加えて70℃まで冷却し、24重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和した後、57℃まで冷却し、57℃で濾過することにより無機塩を除去した。ろ過後、ろ液を静置し、水相を分液除去した。次いで、有機相を60℃でイオン交換水を用い3回洗浄した後、有機相を濃縮乾固することにより、淡橙色結晶12.64gを得た。得られた結晶をHPLCにて分析した所、上記式(1−1)で表されるビスフェノールの含量は45.7%であった。
【0089】
次いで、得られた結晶3.0gを、シリカゲルカラム(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=2/1)で精製することで、上記式(1−1)で表されるビスフェノールの含量が95.8%の結晶0.48g、及び上記式(1−1)で表されるビスフェノールの含量が94.1%の結晶0.23gを得た。
【0090】
<実施例4>
攪拌器、冷却器及び温度計を備えたガラス製反応容器に、9−フルオレノン20.00g(0.111mol)、ハイドロキノン29.33g(0.266mol)、レゾルシン43.99g(0.400mol)、p−トルエンスルホン酸2.11g(0.011mol)及びp-キシレン200.00gを仕込み、137℃まで昇温した。同温度で3時間攪拌した後、反応液をHPLCにより分析したところ、9−フルオレノンのピークは検出されなかった。また、上記式(1−1)で表されるビスフェノールの生成率は42.5%であった。
【0091】
(2)ビスフェノール類の物性値
実施例1で得られたビスフェノール類の融点、屈折率及びアッベ数を上述した条件により測定した。結果を表1に示す。併せて、公知のビスフェノール類である以下式(4−1):
【0092】
【化8】
【0093】
で表わされるビスフェノールの測定結果を併記した。
【0094】
【表1】
【0095】
(3)ポリアリレート樹脂の製造
<実施例4>
攪拌器、加熱冷却器、及び温度計を備えたガラス製反応器に水51.53g、水酸化ナトリウム1.26g(30mmol)、上記式(1−1)で表されるビスフェノール2.91g(8mmol)、末端封止剤としてp−tert−ブチルフェノール0.07g(0.5mmol)、重合触媒としてトリブチルベンジルアンモニウムクロリド0.02g(0.05mmol)を加えて激しく撹拌することで、アルカリ懸濁液を調製した。
別の容器にテレフタル酸ジクロリド0.84g(4.1mmol)及びイソフタル酸ジクロリド0.84g(4.1mmol)を加え、39.89gの塩化メチレンに溶解させた。この塩化メチレン溶液を、先に調製したアルカリ懸濁液へ撹拌しながら混合し、その後、18〜21℃で2時間撹拌を行うことで重合を実施した
その後、撹拌を停止して反応液を静置して水相と有機相を分離し、水相のみを反応器から抜き取り、残った有機相に酢酸0.09g、水61.82gを加えて30分間撹拌し、再度静置分離して水相を抜き出した。この水洗操作を水洗後の水相がpH7になるまで繰り返した。
水洗後、得られた有機相を約600gのメタノールへ徐々に投入することで樹脂を沈殿させ、沈殿した粉末状の樹脂をろ別、乾燥することで、上記一般式(1)で表されるビスフェノール由来の構成単位及び芳香族ジカルボン酸由来の構成単位を有するポリアリレート樹脂4.24gを得た。
【0096】
得られたポリアリレート樹脂の重量平均分子量(Mw)、ガラス転移温度(Tg)、5%重量減少温度(Td)、溶媒溶解性、屈折率及びアッベ数を上記の方法で測定した。測定結果を以下表2に示す。
【0097】
次いで、得られたポリアリレート樹脂を塩化メチレンにて10重量%になるように溶解し、ガラスプレート上にアプリケータを使用して厚み約25μmの塗膜を形成し、約23℃の環境下で2時間予備乾燥をさせ、その後に真空乾燥機に入れて40℃×30分、60℃×30分、80℃×30分と段階的に昇温して乾燥させ、厚み90μmの透明なポリアリレート樹脂フィルムを得た。得られたポリアリレート樹脂フィルムの全光線透過率を測定した。これらの結果を表2に示す。なお、以下比較例においては、ポリアリレート樹脂が塩化メチレンに溶解しなかった為、テトラヒドロフランに溶解させ、同様にポリアリレートフィルム樹脂を調製した。
【0098】
<比較例1>
実施例4において、使用したビスフェノール類を9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンに変更する以外は実施例4と同様にしてポリアリレート樹脂及びポリアリレート樹脂フィルムを得た。得られたポリアリレート樹脂の重量平均分子量(Mw)、ガラス転移温度(Tg)、5%重量減少温度(Td)、溶媒溶解性、屈折率、アッベ数およびフィルムの全光線透過率を上記の方法で測定した。測定結果を以下表2に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
上記表2における略称について
・THF:テトラヒドロフラン
・NMP:N−メチルピロリドン
・DMA:N,N−ジメチルアセトアミド