(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1表面および第2表面を有し、前記第1表面に開口する凹部と前記凹部の底壁を貫通しかつ前記第2表面に開口する第1インク吐出通路とを有する主基板を形成する第1工程と、
前記主基板の前記第1表面に第1サポート基板を貼り付けた後、前記第2表面、前記凹部の内面および前記第1インク吐出通路の内面を含む前記主基板の露出面上に、密着層および撥水膜をその順番で形成する第2工程と、
前記主基板の前記第2表面に前記密着層および前記撥水膜を介して第2サポート基板を貼り付けた後、前記第1サポート基板を前記主基板から分離する第3工程と、
前記主基板における前記凹部の内面上および前記第1インク吐出通路の内面上に形成された前記密着層および前記撥水膜を、酸素プラズマアッシングによって除去することにより、前記第2表面上の前記密着層および前記撥水膜に、それぞれ、前記第1インク吐出通路に連通する第2インク吐出通路および第3インク吐出通路を形成する第4工程とを含み、
平面視において、前記撥水膜を貫通している前記第3インク吐出通路の内周面が、前記第1インク吐出通路の内周面に対して外方に後退している、ノズル基板の製造方法。
前記第2工程において、前記主基板の前記第1表面への前記第1サポート基板の貼り付けは、前記主基板の前記第1表面に、第1耐熱保護テープおよび第1熱剥離テープをその順に介して前記第1サポート基板が貼り付けられることにより行われ、
前記第3工程において、前記主基板の前記第2表面への前記第2サポート基板の貼り付けは、前記主基板の前記第2表面上の前記撥水膜の表面に、第2耐熱保護テープおよび第2熱剥離テープをその順に介して前記第2サポート基板が貼り付けられることにより行われる、請求項8に記載のノズル基板の製造方法。
前記凹部は、前記主基板の前記第1表面側から前記第2表面側に向かって横断面が徐々に小さくなる円錐台形状である、請求項8または9に記載のノズル基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係るインクジェットプリントヘッドの構成を説明するための図解的な平面図である。
図2は、
図1のA部を拡大して示す図解的な部分拡大平面図であって、保護基板を含む平面図である。
図3は、
図1のA部を拡大して示す図解的な部分拡大平面図であって、保護基板が省略された平面図である。
図4は、
図2のIV-IV線に沿う図解的な断面図である。
図5は、
図4のノズル孔を拡大して示す拡大断面図である。
図6は、
図5の矢印VI-VIから見た平面図である。
図7は、
図5のB部を拡大して示す部分拡大断面図である。
図8は、
図2のVIII-VIII線に沿う図解的な断面図である。
図9は、
図2のIX-IX線に沿う図解的な断面図である。
【0017】
図4を参照して、インクジェットプリントヘッド1の構成を概略的に説明する。
インクジェットプリントヘッド1は、アクチュエータ基板2および圧電素子9を含むアクチュエータ基板アセンブリSAと、ノズル基板3と、保護基板4とを備えている。以下において、アクチュエータ基板アセンブリSAを、基板アセンブリSAということにする。
【0018】
アクチュエータ基板2の表面2aには、可動膜形成層10が積層されている。アクチュエータ基板2には、インク流路(インク溜まり)5が形成されている。インク流路5は、この実施形態では、アクチュエータ基板2を貫通して形成されている。インク流路5は、
図4に矢印で示すインク流通方向41に沿って細長く延びて形成されている。インク流路5は、インク流通方向41の上流側端部(
図4では左端部)のインク流入部6と、インク流入部6に連通する圧力室7とから構成されている。
図4において、インク流入部6と圧力室7との境界を二点鎖線で示すことにする。
【0019】
ノズル基板3は、たとえば、シリコン(Si)基板(主基板)30と、シリコン基板30における圧力室7とは反対側の表面(第2表面)に形成された密着層31と、密着層31におけるシリコン基板30とは反対側の表面に形成された撥水膜32とからなる。密着層31は、撥水膜32のシリコン基板30への密着性を高めるために設けられた層であり、酸化膜等からなる。この実施形態では、密着層31は、炭素(C)を含むシリコン酸化膜(SiOC膜)からなる。撥水膜32は、FDTS膜(ペルフルオロデシルトリクロロシラン膜)からなる。この実施形態では、シリコン基板30の厚さは50μm程度であり、密着層31と撥水膜32との積層膜の厚さは、75Å〜150Å程度である。
【0020】
ノズル基板3は、アクチュエータ基板2の裏面2bにシリコン基板30側の表面(第1表面)が対向した状態で、アクチュエータ基板2の裏面2bに張り合わされている。ノズル基板3は、アクチュエータ基板2および可動膜形成層10とともにインク流路5を区画している。より具体的には、ノズル基板3は、インク流路5の底面部を区画している。
図4〜
図7を参照して、ノズル基板3には、ノズル孔20が形成されている。ノズル孔20は、圧力室7に臨む凹部20aと、凹部20aの底面に形成されたインク吐出通路20bとからなる。凹部20aはシリコン基板30におけるアクチュエータ基板2側の表面に形成されている。インク吐出通路20bは、凹部20aの底壁を貫通しており、圧力室7とは反対側にインク吐出口20cを有している。
【0021】
図5に示すように、インク吐出通路20bは、シリコン基板30における凹部20aを貫通する第1インク吐出通路20b1と、第1インク吐出通路20b1に連通しかつ密着層31を貫通する第2インク吐出通路20b2と、第2インク吐出通路20b2に連通しかつ撥水膜32を貫通する第3インク吐出通路20b3とからなる。シリコン基板30に形成された凹部20aの深さは30μm程度であり、シリコン基板30に形成された第1インク吐出通路20b1の深さは20μm程度である。圧力室7の容積変化が生じると、圧力室7に溜められたインクは、インク吐出通路20bを通り、インク吐出口20cから吐出される。
【0022】
この実施形態では、凹部20aは、シリコン基板30の表面から密着層31側に向かって横断面が徐々に小さくなる円錐台形状に形成されている。インク吐出通路20bは、円柱状である。言い換えれば、インク吐出通路20bは、横断面が円形状のストレート孔から構成されている。撥水膜32に形成された第3インク吐出通路20b3の横断面積は、シリコン基板30に形成された第1インク吐出通路20B1の横断面積とほぼ同じ大きさである。また、第3インク吐出通路20b3の内周面は、シリコン基板30の表面(アクチュエータ基板2側の表面およびその反対側の裏面)に対してほぼ垂直である。
図7に示すように、第3インク吐出通路20b3は、第1インク吐出通路20B1に比べて径方向に若干拡がった形状となる。言い換えれば、平面視において、第3インク吐出通路20b3の内周面は、第1インク吐出通路20B1の内周面に対して径方向(横方向)外方に若干後退している。この後退量Qは、1.5μm以下である。
【0023】
可動膜形成層10における圧力室7の天壁部分は、可動膜10Aを構成している。可動膜10A(可動膜形成層10)は、たとえば、アクチュエータ基板2上に形成された酸化シリコン(SiO
2)膜からなる。可動膜10A(可動膜形成層10)は、たとえば、アクチュエータ基板2上に形成されるシリコン(Si)膜と、シリコン膜上に形成される酸化シリコン(SiO
2)膜と、酸化シリコン膜上に形成される窒化シリコン(SiN)膜との積層膜から構成されていてもよい。この明細書において、可動膜10Aとは、可動膜形成層10のうち圧力室7の天面部を区画している天壁部を意味している。したがって、可動膜形成層10のうち、圧力室7の天壁部以外の部分は、可動膜10Aを構成していない。
【0024】
可動膜10Aの厚さは、たとえば、0.4μm〜2μmである。可動膜10Aが酸化シリコン膜から構成される場合は、酸化シリコン膜の厚さは1.2μm程度であってもよい。可動膜10Aが、シリコン膜と酸化シリコン膜と窒化シリコン膜との積層膜から構成される場合には、シリコン膜、酸化シリコン膜および窒化シリコン膜の厚さは、それぞれ0.4μm程度であってもよい。
【0025】
圧力室7は、可動膜10Aと、アクチュエータ基板2と、ノズル基板3とによって区画されており、この実施形態では、略直方体状に形成されている。圧力室7の長さはたとえば800μm程度、その幅は55μm程度であってもよい。インク流入部6は、圧力室7の長手方向一端部に連通している。
可動膜形成層10の表面には、金属バリア膜8が形成されている。金属バリア膜8は、たとえば、Al
2O
3(アルミナ)からなる。金属バリア膜8の厚さは、50nm〜100nm程度である。金属バリア膜8の表面には、可動膜10Aの上方位置に、圧電素子9が配置されている。圧電素子9は、金属バリア膜8上に形成された下部電極11と、下部電極11上に形成された圧電体膜12と、圧電体膜12上に形成された上部電極13とを備えている。言い換えれば、圧電素子9は、圧電体膜12を上部電極13および下部電極11で上下から挟むことにより構成されている。
【0026】
上部電極13は、白金(Pt)の単膜であってもよいし、たとえば、導電性酸化膜(たとえばIrO
2(酸化イリジウム)膜)および金属膜(たとえばIr(イリジウム)膜)が積層された積層構造を有していてもよい。上部電極13の厚さは、たとえば、0.2μm程度であってもよい。
圧電体膜12としては、たとえば、ゾルゲル法またはスパッタ法によって形成されたPZT(PbZr
xTi
1−xO
3:チタン酸ジルコン酸鉛)膜を適用することができる。このような圧電体膜12は、金属酸化物結晶の焼結体からなる。圧電体膜12は、上部電極13と平面視で同形状に形成されている。圧電体膜12の厚さは、1μm程度である。可動膜10Aの全体の厚さは、圧電体膜12の厚さと同程度か、圧電体膜12の厚さの2/3程度とすることが好ましい。前述の金属バリア膜8は、主として圧電体膜12から金属元素(圧電体膜12がPZTの場合には、Pb,Zr,Ti)が抜け出すことを防止し、圧電体膜12の圧電特性を良好に保つとともに、圧電体膜12の成膜時に、可動膜10Aに金属が拡散するのを防止する。金属バリア膜8は、圧電体膜12の水素還元による特性劣化を防止する機能も有している。
【0027】
下部電極11は、たとえば、Ti(チタン)膜およびPt(プラチナ)膜を金属バリア膜8側から順に積層した2層構造を有している。この他にも、Au(金)膜、Cr(クロム)層、Ni(ニッケル)層などの単膜で下部電極11を形成することもできる。下部電極11は、圧電体膜12の下面に接した主電極部11Aと、圧電体膜12の外方の領域まで延びた延長部11Bとを有している。下部電極11の厚さは、たとえば、0.2μm程度であってもよい。
【0028】
圧電素子9上、下部電極11の延長部11B上および金属バリア膜8上には、水素バリア膜14が形成されている。水素バリア膜14は、たとえば、Al
2O
3(アルミナ)からなる。水素バリア膜14の厚さは、50nm〜100nm程度である。水素バリア膜14は、圧電体膜12の水素還元による特性劣化を防止するために設けられている。
水素バリア膜14上に、絶縁膜15が積層されている。絶縁膜15は、たとえば、SiO
2、低水素のSiN等からなる。絶縁膜15の厚さは、500nm程度である。絶縁膜15上には、上部配線17および下部配線18(
図2、
図9参照)が形成されている。これらの配線は、Al(アルミニウム)を含む金属材料からなっていてもよい。これらの配線の厚さは、たとえば、1000nm(1μm)程度である。
【0029】
上部配線17の一端部は、上部電極13の一端部(インク流通方向41の下流側端部)の上方に配置されている。上部配線17と上部電極13との間において、水素バリア膜14および絶縁膜15を連続して貫通するコンタクト孔33が形成されている。上部配線17の一端部は、コンタクト孔33に入り込み、コンタクト孔33内で上部電極13に接続されている。上部配線17は、上部電極13の上方から、圧力室7の外縁を横切って圧力室7の外方に延びている。下部配線18については、後述する。
【0030】
絶縁膜15上には、上部配線17、下部配線18および絶縁膜15を覆うパッシベーション膜21が形成されている。パッシベーション膜21は、たとえば、SiN(窒化シリコン)からなる。パッシベーション膜21の厚さは、たとえば、800nm程度であってもよい。
パッシベーション膜21には、上部配線17の一部を露出させるパッド開口35が形成されている。パッド開口35は、圧力室7の外方領域に形成されており、たとえば、上部配線17の先端部(上部電極13へのコンタクト部の反対側端部)に形成されている。パッシベーション膜21上には、パッド開口35を覆う上部電極用パッド42が形成されている。上部電極用パッド42は、パッド開口35に入り込み、パッド開口35内で上部配線17に接続されている。下部配線18に対しても、下部電極用パッド43(
図2、
図9参照)が設けられているが、下部電極用パッド43については後述する。
【0031】
インク流路5におけるインク流入部6側の端部に対応する位置に、パッシベーション膜21、絶縁膜15、水素バリア膜14、下部電極11、金属バリア膜8および可動膜形成層10を貫通するインク供給用貫通孔22が形成されている。下部電極11には、インク供給用貫通孔22を含み、インク供給用貫通孔22よりも大きな貫通孔23が形成されている。下部電極11の貫通孔23とインク供給用貫通孔22との隙間には、水素バリア膜14が入り込んでいる。インク供給用貫通孔22は、インク流入部6に連通している。
【0032】
保護基板4は、たとえば、シリコン基板からなる。保護基板4は、圧電素子9を覆うように基板アセンブリSA上に配置されている。保護基板4は、基板アセンブリSAに、接着剤50を介して接合されている。保護基板4は、基板アセンブリSAに対向する対向面51に収容凹所52を有している。収容凹所52内に圧電素子9が収容されている。さらに、保護基板4には、インク供給用貫通孔22に連通するインク供給路53とパッド42,43を露出させるための開口部54とが形成されている。インク供給路53および開口部54は、保護基板4を貫通している。保護基板4上には、インクを貯留したインクタンク(図示せず)が配置されている。
【0033】
圧電素子9は、可動膜10Aおよび金属バリア膜8を挟んで圧力室7に対向する位置に形成されている。すなわち、圧電素子9は、金属バリア膜8の圧力室7とは反対側の表面に接するように形成されている。インクタンクからインク供給路53、インク供給用貫通孔22、インク流入部6を通って圧力室7にインクが供給されることによって、圧力室7にインクが充填される。可動膜10Aは、圧力室7の天面部を区画していて、圧力室7に臨んでいる。可動膜10Aは、アクチュエータ基板2における圧力室7の周囲の部分によって支持されており、圧力室7に対向する方向(換言すれば可動膜10Aの厚さ方向)に変形可能な可撓性を有している。
【0034】
下部配線18(
図2、
図9参照)および上部配線17は、駆動回路(図示せず)に接続されている。具体的には、上部電極用パッド42と駆動回路とは、接続金属部材(図示せず)を介して接続されている。下部電極用パッド43(
図2、
図9参照)と駆動回路とは、接続金属部材(図示せず)を介して接続されている。駆動回路から圧電素子9に駆動電圧が印加されると、逆圧電効果によって、圧電体膜12が変形する。これにより、圧電素子9とともに可動膜10Aが変形し、それによって、圧力室7の容積変化がもたらされ、圧力室7内のインクが加圧される。加圧されたインクは、インク吐出通路20bを通って、インク吐出口20cから微小液滴となって吐出される。
【0035】
図1〜
図9を参照して、インクジェットプリントヘッド1の構成についてさらに詳しく説明する。以下の説明において、
図1の左側を「左」、
図1の右側を「右」、
図1の下側を「前」、
図1の上側を「後」とそれぞれいうものとする。
図1に示すように、インクジェットプリントヘッド1の平面視形状は、前後方向に長い長方形状である。この実施形態では、アクチュエータ基板2、保護基板4およびノズル基板3の平面形状および大きさは、インクジェットプリントヘッド1の平面形状および大きさとほぼ同じである。
【0036】
アクチュエータ基板2上には、平面視において、前後方向に間隔をおいてストライプ状に配列された複数の圧電素子9の列(以下「圧電素子列」という)が、左右方向に間隔をおいて複数列分設けられている。この実施形態では、説明の便宜上、圧電素子列は、2列分設けられているものとする。
図2および
図3に示すように、アクチュエータ基板2には、圧電素子9毎に、インク流路5(圧力室7)が形成されている。したがって、アクチュエータ基板2には、平面視において、前後方向に間隔をおいてストライプ状に配列された複数のインク流路5(圧力室7)からなるインク流路列(圧力室列)が、左右方向に間隔をおいて2列分設けられている。
【0037】
図1の左側の圧電素子列に対応するインク流路列のパターンと右側の圧電素子列に対応するインク流路列のパターンとは、それらの列間の中央を結ぶ線分に対して左右対称のパターンとなっている。したがって、左側のインク流路列に含まれるインク流路5においては、インク流入部6が圧力室7に対して右側にあるのに対して、右側のインク流路列に含まれるインク流路5においては、インク流入部6が圧力室7に対して左側にある。したがって、左側のインク流路列と右側のインク流路列とでは、インク流通方向41は互いに逆方向になる。
【0038】
各インク流路列の複数のインク流路5毎に、インク供給用貫通孔22が設けられている。インク供給用貫通孔22は、インク流入部6上に配置されている。したがって、左側のインク流路列に含まれるインク流路5に対するインク供給用貫通孔22は、インク流路5の右端部上に配置され、右側のインク流路列に含まれるインク流路5に対するインク供給用貫通孔22は、インク流路5の左端部上に配置されている。
【0039】
各インク流路列において、複数のインク流路5は、それらの幅方向に微小な間隔(たとえば30μm〜350μm程度)を開けて等間隔で形成されている。各インク流路5は、インク流通方向41に沿って細長く延びている。インク流路5は、インク供給用貫通孔22に連通するインク流入部6とインク流入部6に連通する圧力室7とからなる。圧力室7は、平面視において、インク流通方向41に沿って細長く延びた長方形形状を有している。つまり、圧力室7の天面部は、インク流通方向41に沿う2つの側縁と、インク流通方向41に直交する方向に沿う2つの端縁とを有している。インク流入部6は、平面視で圧力室7とほぼ同じ幅を有している。インク流入部6における圧力室7とは反対側の端部の内面は、平面視で半円形に形成されている。インク供給用貫通孔22は、平面視において、円形状である(特に
図3参照)。
【0040】
圧電素子9は、平面視において、圧力室7(可動膜10A)の長手方向に長い矩形形状を有している。圧電素子9の長手方向の長さは、圧力室7(可動膜10A)の長手方向の長さよりも短い。
図3に示すように、圧電素子9の短手方向に沿う両端縁は、可動膜10Aの対応する両端縁に対して、それぞれ所定間隔を開けて内側に配置されている。また、圧電素子9の短手方向の幅は、可動膜10Aの短手方向の幅よりも狭い。圧電素子9の長手方向に沿う両側縁は、可動膜10Aの対応する両側縁に対して、所定間隔を開けて内側に配置されている。
【0041】
下部電極11は、可動膜形成層10の表面の周縁部を除いて、可動膜形成層10の表面のほぼ全域に形成されている。下部電極11は、複数の圧電素子9に対して共用される共通電極である。下部電極11は、圧電素子9を構成する平面視矩形状の主電極部11Aと、主電極部11Aから可動膜形成層10の表面に沿う方向に引き出され、圧力室7の天面部の周縁の外方に延びた延長部11Bとを含んでいる。
【0042】
主電極部11Aの長手方向の長さは、可動膜10Aの長手方向の長さよりも短い。主電極部11Aの両端縁は、可動膜10Aの対応する両端縁に対して、それぞれ、所定間隔を開けて内側に配置されている。また、主電極部11Aの短手方向の幅は、可動膜10Aの短手方向の幅よりも狭い。主電極部11Aの両側縁は、可動膜10Aの対応する両側縁に対して、所定間隔を開けて内側に配置されている。延長部11Bは、下部電極11の全領域のうち主電極部11Aを除いた領域である。
【0043】
上部電極13は、平面視において、下部電極11の主電極部11Aと同じパターンの矩形状に形成されている。すなわち、上部電極13の長手方向の長さは、可動膜10Aの長手方向の長さよりも短い。上部電極13の両端縁は、可動膜10Aの対応する両端縁に対して、それぞれ、所定間隔を開けて内側に配置されている。また、上部電極13の短手方向の幅は、可動膜10Aの短手方向の幅よりも狭い。上部電極13の両側縁は、可動膜10Aの対応する両側縁に対して、所定間隔を開けて内側に配置されている。
【0044】
圧電体膜12は、平面視において、上部電極13と同じパターンの矩形状に形成されている。すなわち、圧電体膜12の長手方向の長さは、可動膜10Aの長手方向の長さよりも短い。圧電体膜12の両端縁は、可動膜10Aの対応する両端縁に対して、それぞれ、所定間隔を開けて内側に配置されている。また、圧電体膜12の短手方向の幅は、可動膜10Aの短手方向の幅よりも狭い。圧電体膜12の両側縁は、可動膜10Aの対応する両側縁に対して、所定間隔を開けて内側に配置されている。圧電体膜12の下面は下部電極11の主電極部11Aの上面に接しており、圧電体膜12の上面は上部電極13の下面に接している。
【0045】
上部配線17は、圧電素子9の一端部(インク流通方向41の下流側の端部)の上面からそれに連なる圧電素子9の端面に沿って延び、さらに下部電極11の延長部11Bの表面に沿って、インク流通方向41に沿う方向に延びている。上部配線17の先端部は、保護基板4の開口部54内に配置されている。
パッシベーション膜21には、上部配線17の先端部表面の中央部を露出させる上部電極用パッド開口35が形成されている。パッシベーション膜21上に、上部電極用パッド開口35を覆うように上部電極用パッド42が設けられている。上部電極用パッド42は、上部電極用パッド開口35内で上部配線17に接続されている。左側の圧電素子列内の複数の圧電素子9に対応する複数の上部電極用パッド42は、
図1に示すように、平面視で、左側の圧電素子列の左側において、前後方向に一列状に並んで配置されている。また、右側の圧電素子列内の複数の圧電素子9に対応する複数の上部電極用パッド42は、平面視で、右側の圧電素子列の右側において、前後方向に一列状に並んで配置されている。
【0046】
図1、
図2、
図3および
図9を参照して、下部配線18は、平面視において、左側の上部電極用パッド列の後方位置および右側の上部電極用パッド列の後方位置にそれぞれ配置されている。下部配線18は、平面視で四角形状である。下部配線18の下方には、下部電極11の延長部11Bが存在している。下部配線18と下部電極11の延長部11Bとの間において、水素バリア膜14および絶縁膜15を連続して貫通するコンタクト孔34が形成されている。下部配線18は、コンタクト孔34に入り込み、コンタクト孔34内で下部電極11の延長部11Bに接続されている。
【0047】
パッシベーション膜21には、下部配線18の表面の中央部を露出させるパッド開口36が形成されている。パッシベーション膜21上には、パッド開口36を覆う下部電極用パッド43が形成されている。下部電極用パッド43は、パッド開口36に入り込み、パッド開口36内で下部配線18に接続されている。
図1、
図2および
図4に示すように、保護基板4には、左側のインク流路列に対する複数のインク供給用貫通孔22に連通する複数のインク供給路53(以下、「第1のインク供給路53」という場合がある)と、右側のインク流路列に対する複数のインク供給用貫通孔22に連通する複数のインク供給路53(以下、「第2のインク供給路53」という場合がある)とが形成されている。第1のインク供給路53は、平面視において、保護基板4の幅中央に対して左側にずれた位置に、前後方向に間隔をおいて1列状に配置されている。第2のインク供給路53は、平面視において、保護基板4の幅中央に対して右側にずれた位置に、前後方向に間隔をおいて1列状に配置されている。インク供給路53は、平面視において、アクチュエータ基板2側のインク供給用貫通孔22と同じパターンの円形状である。インク供給路53は、平面視でインク供給用貫通孔22に整合している。
【0048】
また、保護基板4には、左側の圧電素子列に対応した全ての上部電極用パッド42および左側の下部電極用パッド43を露出させるための開口部54が形成されている。また、保護基板4には、右側の圧電素子列に対応した全ての上部電極用パッド42および右側の下部電極用パッド43を露出させるための開口部54が形成されている。これらの開口部54は、平面視において、前後方向に長い矩形状である。
【0049】
図12は、保護基板の
図2に示される領域の底面図である。
図4、
図8および
図12に示すように、保護基板4の対向面51には、各圧電素子列内の圧電素子9に対向する位置に、それぞれ収容凹所52が形成されている。各収容凹所52に対してインク流通方向41の上流側にインク供給路53が配置され、下流側に開口部54が配置されている。各収容凹所52は、平面視において、対応する圧電素子9の上部電極13のパターンよりも少し大きな矩形状に形成されている。そして、各収容凹所52に、対応する圧電素子9が収容されている。
【0050】
図10は、前記インクジェットプリントヘッドの絶縁膜のパターン例を示す図解的な平面図である。
図11は、前記インクジェットプリントヘッドのパッシベーション膜のパターン例を示す図解的な平面図である。
この実施形態では、絶縁膜15およびパッシベーション膜21は、アクチュエータ基板2上において、平面視で保護基板4の収容凹所52の外側領域のほぼ全域に形成されている。ただし、この領域において、絶縁膜15には、インク供給用貫通孔22およびコンタクト孔34が形成されている。この領域において、パッシベーション膜21には、インク供給用貫通孔22、パッド開口35,36が形成されている。
【0051】
保護基板4の収容凹所52の内側領域においては、絶縁膜15およびパッシベーション膜21は、上部配線17が存在する一端部(上部配線領域)にのみ形成されている。この領域において、パッシベーション膜21は、絶縁膜15上の上部配線17の上面および側面を覆うように形成されている。換言すれば、絶縁膜15およびパッシベーション膜21には、平面視で収容凹所52の内側領域のうち、上部配線領域を除いた領域に、開口37が形成されている。絶縁膜15には、さらに、コンタクト孔33が形成されている。
【0052】
インクジェットプリントヘッド1の製造方法の概要について説明する。
図13は、アクチュエータ基板の元基板としての半導体ウエハの平面図であり、一部の領域を拡大して示してある。
アクチュエータ基板2の元基板としての半導体ウエハ(アクチュエータウエハ)100は、たとえばシリコンウエハからなる。アクチュエータウエハ100の表面100aは、アクチュエータ基板の表面2aに対応している。アクチュエータウエハ100の表面100aには、複数の機能素子形成領域101がマトリクス状に配列されて設定されている。隣接する機能素子形成領域101の間には、スクライブ領域(境界領域)102が設けられている。スクライブ領域102は、ほぼ一定の幅を有する帯状の領域であり、直交する二方向に延びて格子状に形成されている。スクライブ領域102には、切断予定線103が設定されている。アクチュエータウエハ100に対して必要な工程を行うことにより、インク流路5は形成されていないが、各機能素子形成領域101上に基板アセンブリSAの構成が形成された基板アセンブリ集合体(SA集合体)110(
図14J参照)が作成される。
【0053】
基板アセンブリ集合体110の各機能素子形成領域101に対応した複数の保護基板4を一体的に含む保護基板集合体130(
図14K参照)が予め用意されている。保護基板集合体130は、保護基板4の元基板としての半導体ウエハ(保護基板用ウエハ)に対して必要な工程を行うことにより作成される。保護基板用ウエハは、たとえばシリコンウエハからなる。
【0054】
また、基板アセンブリ集合体110の各機能素子形成領域101に対応した複数のノズル基板3を一体的に含むノズル基板集合体150(
図14Mおよび
図15F参照)が予め用意される。ノズル基板集合体150は、ノズル基板3の元基板としての半導体ウエハ(ノズルウエハ)に対して必要な工程を行うことにより作成される。ノズルウエハは、たとえばシリコンウエハからなる。ノズル基板集合体150は、
図14Mおよび
図15F参照に示すように、ノズルウエハ140と、ノズルウエハ140の一表面に形成された密着層31の材料膜である密着材料膜141と、密着材料膜141の表面に形成された撥水膜32の材料膜である撥水材料膜142とからなる。
【0055】
基板アセンブリ集合体110が作成されると、基板アセンブリ集合体110に保護基板集合体130が接合される。次に、基板アセンブリ集合体110に、インク流路5が形成される。次に、基板アセンブリ集合体110にノズル基板集合体150が接合される。これにより、基板アセンブリ集合体110と、保護基板集合体130と、ノズル基板集合体150とからなるインクジェットプリントヘッド集合体170(
図14M参照)が得られる。この後、インクジェットプリントヘッド集合体170は、切断予定線103に沿ってダイシングブレードにより切断(ダイシング)される。これによって、機能素子形成領域101を含む個々のインクジェットプリントヘッド(チップ)1が切り出される。インクジェットプリントヘッド1は、周縁部にスクライブ領域102を有し、スクライブ領域102に囲まれた中央領域に機能素子形成領域101を有することになる。
【0056】
以下、インクジェットプリントヘッド1の製造方法を具体的に説明する。
図14A〜
図14Mは、インクジェットプリントヘッド1の製造工程を示す断面図であり、
図4の切断面に対応する断面図である。
まず、
図14Aに示すように、アクチュエータウエハ100を用意する。ただし、アクチュエータウエハ100としては、最終的なアクチュエータ基板2の厚さよりも厚いものが用いられる。そして、アクチュエータウエハ100の表面100aに可動膜形成層10が形成される。具体的には、アクチュエータウエハ100の表面100aに酸化シリコン膜(たとえば1.2μm厚)が形成される。可動膜形成層10が、シリコン膜と酸化シリコン膜と窒化シリコン膜との積層膜で構成される場合には、アクチュエータ基板2の表面にシリコン膜(たとえば0.4μm厚)が形成され、シリコン膜上に酸化シリコン膜(たとえば0.4μm厚)が形成され、酸化シリコン膜上に窒化シリコン膜(たとえば0.4μm厚)が形成される。
【0057】
次に、可動膜形成層10上に、金属バリア膜8が形成される。金属バリア膜8は、たとえば、Al
2O
3膜(たとえば50nm〜100nm厚)からなる。金属バリア膜8は、後に形成される圧電体膜12からの金属原子の抜け出しを防ぐ。金属電子が抜け出すと、圧電体膜12の圧電特性が悪くなるおそれがある。また、抜け出した金属原子が可動膜10Aを構成するシリコン層に混入すると可動膜10Aの耐久性が悪化するおそれがある。
【0058】
次に、
図14Bに示すように、金属バリア膜8に、下部電極11の材料層である下部電極膜71が形成される。下部電極膜71は、たとえば、Ti膜(たとえば10nm〜40nm厚)を下層としPt膜(たとえば10nm〜400nm厚)を上層とするPt/Ti積層膜からなる。このような下部電極膜71は、スパッタ法で形成されてもよい。
次に、圧電体膜12の材料である圧電体材料膜72が下部電極膜71上の全面に形成される。具体的には、たとえば、ゾルゲル法によって1μm〜3μm厚の圧電体材料膜72が形成される。このような圧電体材料膜72は、金属酸化物結晶粒の焼結体からなる。
【0059】
次に、圧電体材料膜72の全面に上部電極13の材料である上部電極膜73が形成される。上部電極膜73は、たとえば、白金(Pt)の単膜であってもよい。上部電極膜73は、たとえば、IrO
2膜(たとえば40nm〜160nm厚)を下層とし、Ir膜(たとえば40nm〜160nm厚)を上層とするIr0
2/Ir積層膜であってもよい。このような上部電極膜73は、スパッタ法で形成されてもよい。
【0060】
次に、
図14Cおよび
図14Dに示すように、上部電極膜73、圧電体材料膜72および下部電極膜71のパターニングが行われる。まず、フォトリソグラフィによって、上部電極13のパターンのレジストマスクが形成される。そして、
図14Cに示すように、このレジストマスクをマスクとして、上部電極膜73および圧電体材料膜72が連続してエッチングされることにより、所定パターンの上部電極13および圧電体膜12が形成される。
【0061】
次に、レジストマスクが剥離された後、フォトリソグラフィによって、下部電極11のパターンのレジストマスクが形成される。そして、
図14Dに示すように、このレジストマスクをマスクとして、下部電極膜71がエッチングされることにより、所定パターンの下部電極11が形成される。これにより、主電極部11Aと、貫通孔23を有する延長部11Bとからなる下部電極11が形成される。このようにして、下部電極11の主電極部11A、圧電体膜12および上部電極13からなる圧電素子9が形成される。
【0062】
次に、
図14Eに示すように、レジストマスクが剥離された後、全面を覆う水素バリア膜14が形成される。水素バリア膜14は、スパッタ法で形成されたAl
2O
3膜であってもよく、その膜厚は、50nm〜100nmであってもよい。この後、水素バリア膜14上の全面に絶縁膜15が形成される。絶縁膜15は、SiO
2膜であってもよく、その膜厚は、200nm〜300nmであってもよい。続いて、絶縁膜15および水素バリア膜14が連続してエッチングされることにより、コンタクト孔33,34が形成される。
【0063】
次に、
図14Fに示すように、コンタクト孔33,34内を含む絶縁膜15上に、スパッタ法によって、上部配線17および下部配線18を構成する配線膜が形成される。この後、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、配線膜がパターニングされることにより、上部配線17および下部配線18が同時に形成される。
次に、
図14Gに示すように、絶縁膜15の表面に各配線17,18を覆うパッシベーション膜21が形成される。パッシベーション膜21は、たとえばSiNからなる。パッシベーション膜21は、たとえばプラズマCVDによって形成される。
【0064】
次に、フォトリソグラフィによってパッド開口35,36に対応した開口を有するレジストマスクが形成され、このレジストマスクをマスクとして、パッシベーション膜21がエッチングされる。これにより、
図14Hに示すように、パッシベーション膜21にパッド開口35,36が形成される。レジストマスクが剥離された後に、パッシベーション膜21上にパッド開口35,36を介して、それぞれ上部電極用パッド42および下部電極用パッド43が形成される。
【0065】
次に、フォトリソグラフィによって開口37およびインク供給用貫通孔22に対応した開口を有するレジストマスクが形成され、このレジストマスクをマスクとして、パッシベーション膜21および絶縁膜15が連続してエッチングされる。これにより、
図14Iに示すように、パッシベーション膜21および絶縁膜15に、開口37およびインク供給用貫通孔22が形成される。
【0066】
次に、レジストマスクが剥離される。そして、フォトリソグラフィによってインク供給用貫通孔22に対応した開口を有するレジストマスクが形成され、このレジストマスクをマスクとして、水素バリア膜14、金属バリア膜8および可動膜形成層10がエッチングされる。これにより、
図14Jに示すように、水素バリア膜14、金属バリア膜8および可動膜形成層10に、インク供給用貫通孔22が形成される。これにより、基板アセンブリ集合体110が作成される。
【0067】
次に、
図14Kに示すように、保護基板集合体130の対向面51に接着剤50が塗布され、インク供給路53とそれに対応するインク供給用貫通孔22とが一致するように、基板アセンブリ集合体110に保護基板集合体130が固定される。
次に、
図14Lに示すように、アクチュエータウエハ100を薄くするための裏面研削が行われる。アクチュエータウエハ100が裏面100bから研磨されることにより、アクチュエータウエハ100が薄膜化される。たとえば、初期状態で670μm厚程度のアクチュエータウエハ100が、300μm厚程度に薄型化されてもよい。この後、アクチュエータウエハ100の裏面100b側に、フォトリソグラフィによってインク流路5(インク流入部6および圧力室7)に対応した開口を有するレジストマスクが形成され、このレジストマスクをマスクとして、アクチュエータウエハ100が裏面100bからエッチングされる。これにより、アクチュエータウエハ100に、インク流路5(インク流入部6および圧力室7)が形成される。
【0068】
このエッチングの際、可動膜形成層10の表面に形成された金属バリア膜8は、圧電体膜12から金属元素(PZTの場合は、Pb,Zr,Ti)が抜け出すことを防止し、圧電体膜12の圧電特性を良好に保つ。また、前述のとおり、金属バリア膜8は、可動膜10Aを形成するシリコン層の耐久性の維持に寄与する。
この後、
図14Mに示すように、ノズル基板集合体150がアクチュエータウエハ100の裏面100bに張り合わされる。これにより、基板アセンブリ集合体110と、保護基板集合体130と、ノズル基板集合体150とからなるインクジェットプリントヘッド集合体170が得られる。この後、インクジェットプリントヘッド集合体170が、切断予定線103に沿ってダイシングブレードにより切断される。つまり、インクジェットプリントヘッド1を個別に切り出すための工程が行われる。
【0069】
この工程が完了すると、基板アセンブリ集合体110におけるアクチュエータウエハ100は、個々のインクジェットプリントヘッド1のアクチュエータ基板2となる。また、保護基板集合体130は、個々のインクジェットプリントヘッド1の保護基板4となる。また、ノズル基板集合体150におけるノズルウエハ140、密着材料膜141および撥水材料膜142は、それぞれ、個々のインクジェットプリントヘッド1のノズル基板3におけるシリコン基板30、密着層31および撥水膜32となる。こうして、
図1〜
図9に示す構造のインクジェットプリントヘッド1の個片が得られる。
【0070】
このようにして得られたインクジェットプリントヘッド1では、アクチュエータ基板2の側面およびノズル基板3の側面は、平面視において全方位で面一(全周囲にわたって面一)となる。つまり、この実施形態では、アクチュエータ基板2とノズル基板3との間に段差のないインクジェットプリントヘッド1が得られる。また、この実施形態では、アクチュエータ基板2の側面および保護基板4の側面も、平面視において全方位で面一(全周囲にわたって面一)となる。つまり、この実施形態では、アクチュエータ基板2と保護基板4との間にも段差のないインクジェットプリントヘッド1が得られる。
【0071】
この実施形態によるインクジェットプリントヘッドの製造方法では、保護基板集合体130が固定された基板アセンブリ集合体110にノズル基板集合体150が接合されることにより、インクジェットプリントヘッド集合体170が作成される。そして、インクジェットプリントヘッド集合体170が、ダイシングされることにより、インクジェットプリントヘッド1が個別に切り出される。このため、たとえば、個々の基板アセンブリSAを製造した後に、個々の基板アセンブリSAにノズル基板3を個別に接合してインクジェットプリントヘッドを製造する場合に比べて、インクジェットプリントヘッド1を効率よく製造することができるようになる。
【0072】
図15A〜
図15Fは、ノズル基板集合体150の製造工程を模式的に示す断面図である。
まず、
図15Aに示すように、ノズル基板3の元基板としての半導体ウエハ(ノズルウエハ)140が用意される。ただし、ノズルウエハ140としては、最終的なノズル基板3の厚さより厚いものが用いられる。ノズルウエハ140はシリコンウエハからなる。ノズルウエハ140は、アクチュエータ基板2の裏面2bに対向される側の表面(第1表面)140aと、その反対側の裏面(第2表面)140bとを有している。
【0073】
フォトリソグラフィによって凹部20aに対応した開口を有するレジストマスクが形成され、このレジストマスクをマスクとして、ノズルウエハ140がエッチングされることにより、ノズルウエハ140の第1表面140aに凹部20aが形成されるととともに、凹部20aの底面に第1インク吐出通路20b1が形成される。具体的には、まず、等方性エッチングによって円錐台形状の凹部20aが形成される。この後、異方性エッチングによって円柱状の第1インク吐出通路20b1がノズルウエハ140の厚さ中間部まで形成される。この後、レジストマスクが除去される。
【0074】
次に、
図15Bに示すように、ノズルウエハ140の第1表面140aに、第1耐熱保護テープ143および第1熱剥離テープ144を介して第1サポートウエハ145が貼り付けられる。第1耐熱保護テープ143は、たとえばポリイミドにシリコーン系粘着剤が塗布されたカプトン(登録商標)テープである。第1熱剥離テープ144は、熱を加えると剥がれるテープであり、たとえば発泡剤を含む熱発泡剥離粘着テープからなる。この実施形態では、第1熱剥離テープ144は、90℃〜120℃で熱発泡する熱発泡剥離粘着テープからなる。第1サポートウエハ145は、たとえば厚さが400μm程度のシリコンウエハからなる。
【0075】
次に、
図15Cに示すように、ノズルウエハ140が第2表面140b側から研磨されることにより、ノズルウエハ140が薄膜化される。この研磨により、たとえば、初期状態で625μm厚程度のノズルウエハ140が、50μm厚程度に薄型化されてもよい。この薄型化により、第1インク吐出通路20b1は、ノズルウエハ140における凹部20aの底壁を貫通した状態となる。なお、ノズルウエハ140の薄膜化前または薄膜化後に、60℃以上で1時間程度の熱処理または3[Torr]以下で1時間程度の真空引きを行うことにより、第1熱剥離テープ144内のガスを抜くための処理(アウトガス処理)を行うことが好ましい。
【0076】
次に、
図15Dに示すように、ノズルウエハ140における第1サポートウエハ145側とは反対側の表面ならびに凹部20aおよび第1インク吐出通路20b1の内面(側面)を含む露出面に、密着層31の材料膜である密着材料膜141および撥水膜32の材料膜である撥水材料膜142が順に形成される。これらの材料膜141,142の形成は、たとえばCVD(chemical vapor deposition)によって行われる。これらの材料膜141,142の形成は、CVD法の一種であるMCV(Molecular Vapor Deposition)(登録商標)によって行われてもよい。この実施形態では、密着材料膜141の形成には、BTCSE(トリクロロシリルエタン)ガスが用いられ、撥水材料膜142の形成には、FDTS(ペルフルオロデシルトリクロロシラン)ガスが用いられる。
【0077】
次に、
図15Eに示すように、撥水材料膜142の表面に、第2耐熱保護テープ146および第2熱剥離テープ147を介して第2サポートウエハ148が貼り付けられる。第2耐熱保護テープ146は、たとえばカプトン(登録商標)テープである。第2熱剥離テープ147は、熱を加えると剥がれるテープであり、たとえば発泡剤を含む熱発泡剥離粘着テープからなる。この実施形態では、第2熱剥離テープ147は、150℃〜170℃で熱発泡する熱発泡剥離粘着テープからなる。第2サポートウエハ148は、たとえば厚さが400μm程度のシリコンウエハからなる。
【0078】
この後、第1サポートウエハ145が、ノズルウエハ140から分離される。具体的には、第1熱剥離テープ144内の発泡剤を熱発泡させることにより、第1サポートウエハ145が第1熱剥離テープ144とともに第1耐熱保護テープ143から分離された後、第1耐熱保護テープ143がノズルウエハ140から剥がされる。
次に、
図15Fに示すように、酸素プラズマアッシングが行われる。この酸素プラズマアッシング時のステージ温度は、第2熱剥離テープ147が熱発泡を起こさない温度(たとえば15℃以下)に設定される。これにより、第1耐熱保護テープ143の剥がし面(ノズルウエハ140の第1表面140a)上に残っている粘着剤が除去されるとともに、凹部20aおよび第1インク吐出通路20b1の内面(側面)に形成された材料膜141,142が除去される。これにより、ノズルウエハ140の第1表面140aとは反対側の表面上の密着材料膜141に第1インク吐出通路20b1と連通する第2インク吐出通路20b2が形成される。また、その密着材料膜141上の撥水材料膜142に第2インク吐出通路20b2と連通する第3インク吐出通路20b3が形成される。
【0079】
このようにして形成された第3インク吐出通路20b3の横断面積は、第1インク吐出通路20b1の横断面積とほぼ同じ大きさとなる。また、第3インク吐出通路20b3の内周面は、シリコン基板30の表面(アクチュエータ基板2側の表面およびその反対側の裏面)に対してほぼ垂直である。第1インク吐出通路20b1と、第2インク吐出通路20b2と、第3インク吐出通路20b3とによってインク吐出通路20bが構成される。そして、凹部20aとインク吐出通路20bとによってノズル孔20が構成される。ノズルウエハ140、密着材料膜141および撥水材料膜142からなる積層膜は、ノズル基板集合体150を構成する。したがって、ノズル基板集合体150と、ノズル基板集合体150に第2耐熱保護テープ146および第2熱剥離テープ147を介して貼り付けられた第2サポートウエハ148とからなる、第2サポートウエハ148付きのノズル基板集合体150が得られる。
【0080】
このようにして得られた第2サポートウエハ148付きのノズル基板集合体150が、基板アセンブリ集合体110のアクチュエータウエハ100の裏面100bに貼り付けられる。この後、ノズル基板集合体150から、第2耐熱保護テープ146および第2熱剥離テープ147および第2サポートウエハ148が剥離される。
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明はさらに他の実施形態で実施することもできる。前述の実施形態では、凹部20aは、シリコン基板30の表面から密着層31側に向かって横断面が徐々に小さくなる円錐台形状に形成されているが、
図16に示すように、凹部20aは、長さ方向にわたってその横断面が円形状のストレート孔であってもよい。言い換えれば、凹部20aは、円柱状であってもよい。なお、
図16は、
図5の切断面に対応した断面図である。
【0081】
また、アクチュエータ基板2には、圧電体素子列(圧力室列)は2列分設けられているが、圧電体素子列(圧力室列)は1列分のみ設けられていてもよいし、3列分以上設けられていてもよい。
また、前述の実施形態では、水素バリア膜14の表面の一部に絶縁膜15が形成されているが、水素バリア膜14の表面の全域に絶縁膜15が形成されていてもよい。
【0082】
また、前述の実施形態では、水素バリア膜14表面の一部に絶縁膜15が形成されているが、絶縁膜15はなくてもよい。
また、前述の実施形態では、圧電体膜の材料としてPZTを例示したが、そのほかにも、チタン酸鉛(PbPO
3)、ニオブ酸カリウム(KNbO
3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)などに代表される金属酸化物からなる圧電材料が適用されてもよい。
【0083】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。