特許第6899240号(P6899240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899240
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】アームレスト
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/02 20060101AFI20210628BHJP
   B60N 2/75 20180101ALI20210628BHJP
   A47C 7/54 20060101ALN20210628BHJP
【FI】
   B60R21/02
   B60N2/75
   !A47C7/54 B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-70882(P2017-70882)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-172001(P2018-172001A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2020年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】 神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−125944(JP,A)
【文献】 特開2011−148383(JP,A)
【文献】 特開2013−244862(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0133322(US,A1)
【文献】 米国特許第05492361(US,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1395360(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 − 2/90
B60R 21/02 − 21/13
A47C 7/00 − 7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員が着座するシートの側方に設けられるアームレストであって、
前記乗員の左右両側に一対設けられ、前記シートの前後方向に渡って設けられる長尺部材であり、前記シートの前方側に位置する回動部、及び、前記回動部の後方部と前記シートを連結するスライド部を有する側部と、
駆動により前記側部を移動可能な駆動部と、を備え、
衝突時又は衝突予測時に前記駆動部は、前記スライド部をスライドさせることにより前記側部を後方側へ移動させると共に、前記回動部の後方部を前方部に対して相対的にシート幅方向外側に移動させる、
アームレスト。
【請求項2】
前記駆動部は、前記回動部の前記後方部をシート幅方向外側に移動させると共に、前記回動部の前記前方部をシート幅方向内側に移動させる、
請求項1に記載のアームレスト。
【請求項3】
前記駆動部は、前記乗員の肘の前後位置が肩より前側又は同位置となるように前記側部の後方側への移動を行う、
請求項1又は2に記載のアームレスト。
【請求項4】
前記側部は、前記回動部の前記前方部のシート幅方向外側、及び前記回動部の前記後方部のシート幅方向内側の少なくともいずれかに前記乗員の前腕部を支持する支持部を有する、
請求項1〜3のいずれかに記載のアームレスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アームレスト、特に乗員の体の一部を強制的に移動させることで、衝突時の乗員の移動を低減又は抑制可能なアームレストに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の乗員、例えば運転者を保護するための種々のエアバッグ等が開発されてきた。例えば特許文献1に開示された車両用運転席エアバッグ装置は、運転者の正面に展開するメインチャンバとメインチャンバの側方に展開するサブチャンバとを備え、メインチャンバとサブチャンバとによって衝突時に運転者が斜め前側へ移動する場合も保護することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−199123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばステアリングから展開されるフロントエアバッグ等は、衝突時の衝撃によって乗員が前方に移動した先で乗員を受け止めて保護している。しかしながら、衝撃が作用しても乗員が移動しにくくすることで乗員の前方移動を低減又は抑制することは、フロントエアバッグ等では実現が難しく、シートベルトの急激な巻取り等で対応していた。なお、現状では、アームレストは乗員の保護部材としては活用されていない又は活用例が非常に少ない。
【0005】
これに鑑みて、本発明が解決しようとする課題は、乗員の体の一部を強制的に移動させることで、衝突時の乗員の移動を低減又は抑制可能なアームレストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係るアームレストは、車両の乗員が着座するシートの側方に設けられるアームレストであって、乗員の左右両側に一対設けられ、乗員の前腕部が載置可能なように前後方向に延在する側部と、駆動により側部を移動可能な駆動部と、を備え、衝突時又は衝突予測時に駆動部は、側部を後方側へ移動させると共に、側部の後方部を前方部に対して相対的にシート幅方向外側に移動させる。
【0007】
本発明に係るアームレストにおいて、駆動部は、後方部をシート幅方向外側に移動させると共に、前方部をシート幅方向内側に移動させることが好ましい。
【0008】
本発明に係るアームレストにおいて、駆動部は、乗員の肘の前後位置が肩より前側又は同位置となるように側部の後方側への移動を行うことが好ましい。
【0009】
本発明に係るアームレストにおいて、側部は、前方部のシート幅方向外側、及び後方部のシート幅方向内側の少なくともいずれかに乗員の前腕部を支持する支持部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、側部の移動によって乗員が前方に移動しようとするときに肘位置が乗員の上体に引張られる位置にあるので、乗員の移動を低減又は抑制可能となり、結果として乗員が前方又は斜め前方に移動することで生じ得る傷害値の上昇を抑えるアームレストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態であるアームレストを備えたシートを示す概略図であり、図1(a)はシートを側方視で示す側方概略図であり、図1(b)はシートを平面視で示す平面概略図である。
図2図2は、本発明の一実施形態である駆動部が駆動したシートを示す概略図であり、図2(a)はシートを側方視で示す側方概略図であり、図2(b)はシートを平面視で示す平面概略図である。
図3図3は、本発明の他の実施形態であるアームレストを備えたシートを示す概略図であり、図3(a)はシートを側方視で示す側方概略図であり、図3(b)はシートを平面視で示す平面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(基本実施形態)
本発明に係るアームレストの一実施形態について、図1及び図2を参照しつつ説明する。
なお、図1は、本発明の一実施形態であるアームレスト1を備えたシート100を示す概略図であり、図1(a)はシート100を側方視で示す側方概略図であり、図1(b)はシート100を平面視で示す平面概略図である。図2は、本発明の一実施形態である駆動部3が駆動したシート100を示す概略図であり、図2(a)はシート100を側方視で示す側方概略図であり、図2(b)はシート100を平面視で示す平面概略図である。
【0013】
図1に示すように、アームレスト1は、シート100に装着され、側部2及び駆動部3を備える。
【0014】
側部2は、乗員Pの左右両側に一対設けられ、前後方向に略平行に延在する長尺部材である。なお、側部2の延在方向としては、略前後方向に沿っていれば良く、前後方向に対して上下又は左右にある程度傾斜していても良い。
【0015】
また、側部2はシート100に対して後部4を介して連結される。後部4は、シートバック101を左右方向に貫通する軸部材であり、シートバック101の上下方向略中央部に連結されると共に、側部2の後端側に連結される。本実施形態における後部4は、シートバック101内に配設されるシートフレーム102に対して、車両前後、左右、及び上下方向に不動となるように固定的に装着される。
【0016】
側部2は、スライド部21と回動部22とを有する。
【0017】
スライド部21は側部2の後方側を成す部位である。スライド部21の後方側には、スライド部21の延在方向に沿って左右方向に貫通するスライド溝23が設けられている。スライド溝23の後端部に後部4が挿通されることで、スライド部21がシート100に対して固定される。スライド部21の前方側が回動部22の後方側と連結されている。スライド部21は、前方側が略水平方向に延在する平板状に形成されている。スライド部21は、水平方向に対する傾きは維持しつつ、後述の駆動部3によって後方にスライド可能となっている。
【0018】
回動部22は側部2の前方側を成す部位である。回動部22の後方側がスライド部21の前方側を挟み込む形態に構成され、スライド部21と回動部22とは回動軸24によって上下方向に軸支されることで連結されている。回動軸24は略上下方向に沿って配置され、回動部22は回動軸24を中心として略左右方向に回動自在となっている。なお、図1に示す衝突前の初期状態では回動軸24は固定されている。
回動部22は、乗員Pの肘から手先までの前腕部が載置される部位であり、特に後方側の長さは乗員Pがくつろいだ状態で容易に肘を載置可能な位置まで延在していると良い。
【0019】
なお、回動部22において、前方部221として構成される回動軸24より前方側の部位が本発明における前方部の一例であり、後方部222として構成される回動軸24より後方側の部位が本発明における後方部の一例である。
【0020】
駆動部3は、駆動により側部2のスライド部21及び回動部22を移動させることのできる部材である。駆動部3は、図1に示すように第1駆動部31と第2駆動部32とを有する。
第1駆動部31は、駆動信号が入力されると後部4とスライド部21との連結部位に対して動力を作用させて、スライド部21を後方に移動させる。
第2駆動部32は、駆動信号が入力されると回動軸24に対して動力を作用させて、スライド部21に対して回動部22を回動させる。
第1駆動部31及び第2駆動部32の駆動形態としては、衝突によって乗員Pが前方又は斜め前方に移動し始める前に駆動可能な限り特に制限されず、例えばガス圧を用いた駆動形態であっても良く、高速で駆動するアクチュエータを用いた駆動形態であっても良い。
【0021】
駆動部3は、衝突が生じたとき又は衝突するという予測がなされたときに駆動する。本実施形態では、衝突又は衝突予測を検知部5が検知する。検知部5は、例えば車載の加速度センサ、車外を監視するカメラ、センサ又はレーダー等によって検出される衝突の有無、及び、運転制御システム等を介して判定される衝突予測の有無に関する情報が入力される。
本実施形態における駆動部3及び検知部5は独立した制御部材として記載しているが、運転制御システム等の既存の車載の制御系に含まれていても良い。
【0022】
ここで、アームレスト1による乗員Pの保護形態について詳述する。
【0023】
先ず、検知部5が衝突又は衝突予測を検知する。検知部5は、乗員Pの特に上体が前方若しくは斜め前に移動し始める前、又は移動し始めた直後の時期に検知を行う。検知部5が衝突又は衝突予測を検知すると、駆動部3に駆動信号が入力される。
なお、検知部5が駆動部3の駆動信号を機械的に出力可能となっていても良く、運転制御を行う制御部を別体に設けて、この制御部から駆動部3に対して駆動信号を出力可能となっていても良い。
【0024】
駆動信号を入力された駆動部3は、第1駆動部31はスライド部21を移動させると共に、第2駆動部32は回動部22を回動させる。
第1駆動部31は、図2(a)に示すように、後部4はシートバック101への固定状態を維持しつつ、スライド部21を後方に送り出すようにして後方側へ移動させる。
また、第2駆動部32は、図2(b)に示すように、回動軸24を中心として回動部22を回動させる。回動部22は、後方部222を前方部221に対して相対的にシート100の幅方向外側に移動させる。本実施形態では、前方部221がシート100の幅方向内側に移動し、かつ後方部222がシート100の幅方向外側に移動するように回動部22が回動する。
【0025】
駆動部3の駆動によって乗員Pの前腕部を強制的に移動させることとなる。
具体的には、第1駆動部31によるスライド部21の後方側への移動によって、乗員Pの肘が後方側に移動する。更に第2駆動部32による回動部22の回動によって、乗員Pの肘がシート100の幅方向外側に移動し、手先がシート100の幅方向内側に移動する。これにより、衝突前に比べて乗員Pは、強制的に、肘をシート100の幅方向外側に張り出しつつ、上体側に引いた状態になる。つまり、アームレスト1の側部2に載置していた乗員Pの前腕部の位置、特に肘の位置を規制することになる。
【0026】
乗員Pの肘位置の規制によって、衝突時に乗員Pが前方又は斜め前方に移動しようとしたときに、前腕部が上腕部を介して上体を引張る状態となる。よって、乗員Pは肘位置を規制しない場合に比べて前方に移動しにくくなるので、結果として乗員Pの移動を低減又は抑制することができる。乗員Pの前方への移動が低減又は抑制されると、乗員Pを拘束するためのシートベルトの張力を大きくする必要がなくなるので胸部の傷害値上昇を抑制することができる。更に、フロントエアバッグ等に当たる速度又は加速度等も低減されて乗員Pが受ける衝撃も低減される。これにより、アームレスト1による乗員Pの保護が達成される。
【0027】
本発明では、側部の移動によって乗員の肘を後方に移動させる範囲として、乗員の肘の前後位置が乗員の肩より前側又は同位置となるのが好ましい。この範囲を採ることで、先ず乗員の上体が肘より前方に移動しようとする際と、上体が肘より前側で更に前方に移動しようとする際との両状況において、上記肘位置の規制の効果を得られる。
【0028】
ここで、本発明に係るアームレストの変形例について、図3を参照しつつ説明する。
図3は、本発明の他の実施形態であるアームレスト11を備えたシート100を示す概略図であり、図3(a)はシート100を側方視で示す側方概略図であり、図3(b)はシート100を平面視で示す平面概略図である。なお、図1及び図2に示した実施形態と同様の部材については、同一の参照符号を付すこととし、詳細な説明を省略する。
【0029】
図3(a)に示すアームレスト11において、本発明の支持部の一形態として第1支持部61及び第2支持部62を設けている。
第1支持部61及び第2支持部62は、回動部22から展開するエアバッグであり、展開前は回動部22内にインフレータと共に袋体が収容されている。
具体的には、第1支持部61は回動前の回動部22における前方部221のシート100の幅方向外側で、かつ、回動部22の乗員Pの前腕部が載置される上面部より上方に展開するエアバッグである。
第2支持部62は回動前の回動部22における後方部222のシート100の幅方向内側で、かつ、回動部22の上面部より上方に展開するエアバッグである。
【0030】
第1支持部61及び第2支持部62は、衝突時又は衝突予測時にインフレータから袋体にガスが圧入されることで回動部22から上方に突出展開する。第1支持部61及び第2支持部62は、衝突時又は衝突予測時でかつ回動部22が回動する前に展開することで回動部22の上方に突出する。第1支持部61及び第2支持部62が展開すると、駆動部3の第2駆動部32が駆動して回動部22が回動する際に、第1支持部61が乗員Pの手先部分を回動部22の回動方向に押圧すると共に、第2支持部62が乗員Pの肘部分を回動方向に押圧する。
つまり、第1支持部61及び第2支持部62によって、乗員Pの前腕部を側部2の移動に追従させ易くなる。回動部22の表面素材が滑り易く形成されている場合、回動部22の回動速度、回動量等が大きい場合等は、乗員Pの前腕部が側部2の移動に完全に追従しにくくなる可能性があるが、第1支持部61及び第2支持部62を設けることで追従性を向上させることができる。
【0031】
本実施形態では第1支持部61及び第2支持部62を設けているが、本発明において支持部としては少なくともいずれかを設けていれば乗員の前腕部の側部の移動に対する追従性が向上するので好ましい。
また、図3に示した駆動部3の駆動時に第1支持部61及び第2支持部62が形成される形態に代えて、乗員Pがアームレストを通常使用する際に問題が生じない位置、大きさ及び形状であれば予め側部の上方に突出する凸部等を用いて支持部を形成しておいても良い。
【0032】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により、本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【符号の説明】
【0033】
1及び11:アームレスト、2:側部、3:駆動部、31:第1駆動部、32:第2駆動部、4:後部、5:検知部、61:第1支持部、62:第2支持部、100:シート、101:シートバック、102:シートフレーム、P:乗員
図1
図2
図3