特許第6899269号(P6899269)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899269
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】田植え機用往復動シール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20210628BHJP
   F16J 15/3208 20160101ALI20210628BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   F16J15/3204 101
   F16J15/3208
   A01C11/02 386
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-133239(P2017-133239)
(22)【出願日】2017年7月7日
(65)【公開番号】特開2019-15339(P2019-15339A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】間中 勇登
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−042833(JP,U)
【文献】 特開2016−061312(JP,A)
【文献】 特開2007−009931(JP,A)
【文献】 特開2006−029518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204−15/3236
A01C 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
田植え機の植込みアーム部の軸に実装され、補強環を埋設したゴム状弾性体からなる田植え機用往復動シールにおいて、
前記補強環を埋設する円筒状のシール本体と、
前記シール本体の機内側に一体に設けられ、前記軸の周面に摺動可能に接触するシールリップと、
機外の泥水が機内へ浸入しないように前記シール本体の機外側に一体に設けられ、前記軸の周面に摺動可能に接触するダストリップと、
前記軸の周面に摺動する前記ダストリップの先端摺動部に設けられた環状の段差部と、
を備え、
前記ダストリップをスプリング付きリップとし、
前記ダストリップの先端部の形状を、前記ダストリップの先端面と前記軸の周面とがなす角度が鈍角となるスクレーパー形状とし
前記ダストリップの先端面のうち前記段差部に位置する部分と前記軸の周面とがなす角度を鈍角にして、前記段差部の形状を、前記先端面の外周側の部分が高く、内周側の部分が低い形状にした、
ことを特徴とする田植え機用往復動シール。
【請求項2】
請求項1記載の田植え機用往復動シールにおいて、
前記補強環は、前記シール本体に埋設された環状の部分と、この環状の部分の機外側端部から径方向外方に向けて延びるフランジ部分とを有し、
前記シール本体は、前記補強環のフランジ部分を埋設し、前記シール本体の機外側端部から径方向外方に向けて設けられたフランジ部を一体に形成し、
前記ダストリップは、前記フランジ部の機外側端面から機外側に延び、根本の部分の内径を前記補強環の環状の部分の内径よりも大径としている、
ことを特徴とする田植え機用往復動シール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植え機用往復動シールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば図2に示す車両型の田植え機51にはその後端部に位置して、苗を植え込むための植込みアーム部61が設けられており、図3に示すようにこの植込みアーム部61にはその軸周部に、往復動シール71が設けられている。
【0003】
図4に示すように往復動シール71には、機内Iのオイル(グリース、図示せず)が機外Oへ漏洩しないよう軸62の周面に摺動可能に接触するシールリップ(主リップ)72が設けられるとともに、機外Oの泥水(図示せず)が機内Iへ浸入しないよう軸62の周面62aに摺動可能に接触するダストリップ73が設けられている。ダストリップ73は、ゴム状弾性体のみよりなるラバーオンリータイプのシールリップとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−61312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記往復動シール71には、以下の点で改良の余地がある。
(1)
上記往復動シール71ではそのシール性を高めるべく、軸62に対するダストリップ73のしめしろを大きく設定しているため、軸62に往復動シール71を組み付けた際にダストリップ73に大きな引張応力が発生する。ゴム状弾性体よりなるダストリップ73に大きな引張応力が発生すると、ダストリップ73に接触するオゾンや肥料・農薬等の影響によりダストリップ73の先端部73aに亀裂が生じることがある。
【0006】
(2)
ダストリップ73の先端部73aの形状が、ダストリップ73の先端面73bと軸62の周面62aとのなす角度θが鋭角である形状(θ<90度)とされているため、ダストリップ73の先端部73aのへこんだ部分73cに泥が溜りやすく、溜った泥がダストリップ73の摺動部73dに噛み込みやすい。したがってこの泥の滞留・噛み込みを原因としてダストリップ73が損傷することがある。
【0007】
(3)
田植え作業後、植込みアーム部61は洗浄される。その際、上記したようにダストリップ73の先端部73aの形状が、ダストリップ73の先端面73bと軸62の周面62aとのなす角度θが鋭角である形状とされているため、ダストリップ73の先端部73aのへこんだ部分73cに溜った泥が落ちにくく、溜った泥が次回作業時、ダストリップ73の摺動部73dに噛み込みやすい。したがってこの泥の滞留・噛み込みを原因としてダストリップ73が損傷することがある。
【0008】
ストリップのしめしろを小さく設定することができ、もって大きな引張応力が生じるのを原因としてダストリップの先端部に亀裂が生じるのを抑制することを課題とする。また、ダストリップの先端部に泥が溜りにくく、溜った泥を落としやすく、もって泥の滞留・噛み込みを原因としてダストリップが損傷するのを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
田植え機の植込みアーム部の軸に実装され、補強環を埋設したゴム状弾性体からなる田植え機用往復動シールにおいて、前記補強環を埋設する円筒状のシール本体と、前記シール本体の機内側に一体に設けられ、前記軸の周面に摺動可能に接触するシールリップと、機外の泥水が機内へ浸入しないように前記シール本体の機外側に一体に設けられ、前記軸の周面に摺動可能に接触するダストリップと、前記軸の周面に摺動する前記ダストリップの先端摺動部に設けられた環状の段差部と、を備え、前記ダストリップをスプリング付きリップとし、前記ダストリップの先端部の形状を、前記ダストリップの先端面と前記軸の周面とがなす角度が鈍角となるスクレーパー形状とし、前記ダストリップの先端面のうち前記段差部に位置する部分と前記軸の周面とがなす角度を鈍角にして、前記段差部の形状を、前記先端面の外周側の部分が高く、内周側の部分が低い形状にした。
【発明の効果】
【0011】
ストリップのしめしろを小さく設定することができ、もって大きな引張応力が生じるのを原因としてダストリップの先端部に亀裂が生じるのを抑制することができる。また、ダストリップの先端部に泥が溜りにくく、溜った泥を落としやすく、もって泥の滞留・噛み込みを原因としてダストリップが損傷するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る往復動シールの断面図
図2】田植え機の一般例を示す説明図
図3図2におけるA部拡大図であって植込みアーム部の一般例を示す説明図
図4】背景技術に係る往復動シールの断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すように、実施の形態に係る往復動シール11は、田植え機における植込みアーム部の軸周部に装着され、機内Iのオイル(グリース)が機外Oへ漏洩しないようシール作用を発揮するとともに、機外Oの泥水が機内Iへ浸入しないようシール作用を発揮する。
【0014】
往復動シール11は、補強環12を埋設したゴム状弾性体よりなり、円筒状のシール本体13を有し、このシール本体13に対し、シールリップ(主リップ)21、ダストリップ31およびフランジ部41が一体に形成されている。
【0015】
シールリップ21は、その先端部21aが装着状態において機内I側へ向くよう設けられ、機内Iのオイル(グリース)が機外Oへ漏洩しないよう軸62の周面62aに摺動可能に接触する。シールリップ21は、ゴム状弾性体よりなるリップ本体22の外周装着溝に環状のスプリング(ガータスプリング)23を嵌着したスプリング付きリップとされている。
【0016】
ダストリップ31は、その先端部31aが装着状態において機外O側へ向くよう設けられ、機外Oの泥水が機内Iへ浸入しないよう軸62の周面62aに摺動可能に接触する。ダストリップ31はこれも、ゴム状弾性体よりなるリップ本体32の外周装着溝に環状のスプリング(ガータスプリング)33を嵌着したスプリング付きリップとされている。
【0017】
また、ダストリップ31の機内I側であってシール本体13およびフランジ部41の内周側に位置して第2ダストリップ36が一体に設けられ、第2ダストリップ36の更に機内I側に位置して第3ダストリップ37が一体に設けられている。これらの第2および第3ダストリップ36,37はそれぞれ、その先端部36a,37aが装着状態において機外O側へ向くよう設けられ、機外Oの泥水が機内Iへ浸入しないよう軸62の周面に摺動可能に接触する。第2および第3ダストリップ36,37はそれぞれ、スプリングを嵌着されずにゴム状弾性体のみよりなるラバーオンリータイプのリップとされている。
【0018】
フランジ部41は、シール本体13の機外側端部から径方向外方へ向けて設けられており、当該往復動シール11をシールハウジングの軸孔内周に装着するときにこのフランジ部41がシールハウジングの軸孔開口周縁部に当接することによって、装着時の差し込み量(長さ)を規定する。補強環12は断面L字形に形成され、フランジ部41に埋設されるフランジ部分12aを有している。また上記ダストリップ31は、このフランジ部41の端面部から機外O側へ向けて一体に形成されている。
【0019】
ダストリップ31は、上記したようにゴム状弾性体よりなるリップ本体32の外周に環状のスプリング33を嵌着したスプリング付きのリップとされている。
【0020】
ダストリップ31の先端部31aの形状は、ダストリップ31の先端面31bと軸62の周面62aとがなす角度θが直角度よりも大きな鈍角となるスクレーパー形状に形成されている(θ>90度)。
【0021】
ダストリップ31の先端面31bは、断面直線状のテーパ面とされ、このダストリップ31の先端面31bには、ダストリップ31の先端摺動部31cに軸接触時の柔軟性を持たせるための環状の段差部34が設けられている。段差部34は、先端面31bの外周側の部分が高く、内周側の部分が低い形状である。
【0022】
ダストリップ31はその先端面31bの内周部を軸62の周面62aに対する摺動部とされ、この先端摺動部31cは、R≧0.2mmを充足する尖端形状に形成されている。
【0023】
上記構成の往復動シール11においては、ダストリップ31がゴム状弾性体よりなるリップ本体32の外周にスプリング33を嵌着したスプリング付きのリップとされているため、リップ本体32のしめしろによる弾性復元力のほかに、スプリング33の締付け力によってもダストリップ31が軸62の周面62aに押し付けられる。したがってラバーオンリータイプの従来対比でダストリップ31のしめしろを小さく設定しても必要なシール接触圧が確保されるため、泥水を十分にシールすることができる。その結果として、しめしろを小さく設定できるので、往復動シール11の内周側に軸62を挿入した際に生じるダストリップ31の引張応力が従来対比で小さくなる。したがってダストリップ31がオゾンや肥料・農薬などに晒されることになっても、ダストリップ31の先端部31aに亀裂が発生するのを抑制することができる。
【0024】
また、ダストリップ31の先端部31aの形状がダストリップ31の先端面31bと軸62の周面62aとがなす角度θが直角度よりも大きな鈍角となるスクレーパー形状とされているため、ダストリップ31の先端部31aに泥が溜りにくく、溜った泥がダストリップ31の先端摺動部31cに噛み込みにくい。したがって泥の滞留・噛み込みを原因としてダストリップ31が損傷するのを抑制することができる。
【0025】
また、ダストリップ31の先端部31aの形状がダストリップ31の先端面31bと軸62の周面62aとがなす角度θが直角度よりも大きな鈍角となるスクレーパー形状とされているため、ダストリップ31の先端面31bに泥が付着しても、田植え作業後の洗浄時にこの付着した泥を洗い流すことができる。したがってダストリップ31の先端面31bに付着した泥がダストリップ31の先端摺動部31cに噛み込むことによりダストリップ31が損傷するのを抑制することができる。
【0026】
また、ダストリップ31の先端摺動部31cにおいて油膜の掻き出しを抑制するには、先端摺動部31cに断面円弧形のRを付けることが好ましいが、あまり大きなRを付けると、R曲面によって大きなへこみが形成されるため、泥が付着しやすくなる。油膜の掻き出し抑制と泥の付着抑制を両立するためには、泥の粒子の大きさを考慮すると、R≧0.2mmとするのが好ましい。このような観点から上記構成の往復動シール11では、ダストリップ31の先端摺動部31cがR≧0.2mmを充足する尖端形状とされているために、油膜の掻き出し抑制と泥の付着抑制を双方共に満足することができる。尚、油膜の掻き出しは、ダストリップ31と軸62との摺動部に存在する油が軸62の往復動時に軸62の表面に付着した状態で摺動部から機外O側へ引き出されて洩れ出ることを云う。
【符号の説明】
【0027】
11 往復動シール
12 補強環
12a フランジ部分
13 シール本体
21 シールリップ
21a,31a,36a,37a 先端部
22,32 リップ本体
23,33 スプリング
31 ダストリップ
31b 先端面
31c 先端摺動部
34 段差部
36 第2ダストリップ
37 第3ダストリップ
41 フランジ部
62 軸
62a 周面
I 機内
O 機外
図1
図2
図3
図4