(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
冷媒の吸入室と、該吸入室に前記冷媒を導くための吸入通路と、該吸入通路の開度を調整する弁装置とを備え、前記吸入通路を介して前記吸入室に導かれた冷媒を圧縮して吐出する圧縮機であって、
前記弁装置は、
前記吸入通路の一部を構成する第1通路の開度を調整する第1調整弁と、
前記第1通路における前記第1調整弁による開度調整部位より上流の上流領域から分岐して前記吸入室に接続するための第2通路の開度を調整する第2調整弁と、
を含み、
前記第1調整弁は、
前記第1通路の一部を構成する第1弁室と、
前記第1弁室内において前記第1弁室の延伸方向に移動可能に支持され、前記第1通路の前記上流領域の圧力と前記吸入室の圧力との差圧に応じて移動して前記第1通路の開度を調整する第1弁体と、
前記第1弁体を閉弁方向に付勢する第1付勢部材と、
を含み、
前記第2調整弁は、
前記第2通路の一部を構成する第2弁室と、
前記第2弁室内において前記第2弁室の延伸方向に移動可能に支持され、前記第2通路の開度を調整する第2弁体と、
前記第2弁体を開弁方向に付勢する第2付勢部材と、
前記第2弁体に形成され、前記吸入室から前記第2通路の吸入室側端部を経由して前記第2弁室に流入する流体が衝突してその流体流れによる前記第2弁体を閉弁方向に移動させる動圧を受ける受け面と、
を含み、
前記第1付勢部材の付勢力は、前記差圧が所定値より小さくなると、前記第1弁体が前記閉弁方向に移動して前記第1通路を閉止するように設定され、
前記第2付勢部材の付勢力は、空気が前記受け面に衝突する場合は、前記第2弁体が前記第2通路を開放する開弁状態を維持し、液冷媒が前記受け面に衝突する場合は、前記第2弁体が閉弁方向に移動して前記第2通路を閉止するように設定されている、圧縮機。
前記第2付勢部材の付勢力は、ガス冷媒が前記受け面に衝突する場合においても、前記第2弁体が前記開弁状態を維持するように設定されている、請求項1〜10のいずれか一つに記載の圧縮機。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施形態に係る圧縮機を説明する。実施形態に係る圧縮機は、主に車両用空調システムに適用される圧縮機として構成されている。第1実施形態では、吐出容量が固定されている固定容量式の圧縮機の場合の一例を、第2実施形態では、吐出容量を変更可能な可変容量式の圧縮機の場合の一例を、それぞれ挙げて説明する。
【0014】
[全体構成]
図1は、本発明の第1実施形態に係る固定容量式の圧縮機100の概略構成を説明するためのブロック図である。
図2は圧縮機100の後述する弁装置30の配置状態を説明するための要部断面図であり、
図3は、弁装置30を含む拡大断面図である。
【0015】
圧縮機100は、
図1に示すように、車両用空調システムの冷媒回路に組み込まれ、ハウジング10と、圧縮機構20と、弁装置30とを含んで構成されている。圧縮機100は、冷媒回路の蒸発器(低圧側)から機外低圧側冷媒循環路L1及びハウジング10に形成された吸入ポートP1を経由して機内に流入する冷媒を圧縮機構20により圧縮する。そして、圧縮機100は、圧縮機構20により圧縮した冷媒を、ハウジング10に形成された吐出ポートP2及び機外高圧側冷媒循環路L2を経由して冷媒回路の凝縮器(高圧側)へ吐出させ、冷媒を循環供給するように構成されている。なお、圧縮機100の車両エアコンシステムへの組み込み状態(設置状態)における上下方向(鉛直方向)が
図1〜
図3及び後述する各図に示されている。
【0016】
ハウジング10は、
図1から
図3に示すように、複数のシリンダボア11aが形成されたシリンダブロック11と、シリンダブロック11の一端にバルブプレート12等を介して設けられ、冷媒の吸入室H1及び吐出室H2が内部に区画形成されたシリンダヘッド13と、シリンダブロック11の他端に図示省略されたガスケット等を介して設けられたフロントハウジング14と、を含む。
【0017】
シリンダブロック11のシリンダボア11a内には、吸入室H1に導かれた冷媒を吸入して圧縮する圧縮機構20を構成するピストン21が配置されている。圧縮機構20により圧縮された冷媒は吐出室H2に導かれる。このピストン21の端面とシリンダボア11aの内周面とバルブプレート12とによって圧縮室H3が形成されている。また、シリンダブロック11とフロントハウジング14とによってクランク室H4が形成されており、ピストン21を往復動させるための図示省略した駆動軸がクランク室H4内に設けられている。
【0018】
シリンダヘッド13には、その中央部に配置された吸入室H1と、吸入室H1を環状に取り囲む吐出室H2とが区画形成されている。吸入ポートP1は、吸入室H1に機外低圧側冷媒循環路L1からの冷媒を導くための吸入通路L11の上流側端部を構成し、シリンダヘッド13の外周部に設けられ外部に開口するように形成されている。吸入ポートP1と吸入室H1とは、吸入ポートP1からシリンダヘッド13内を吸入室H1に向かって延び吸入通路L11の一部を構成する通路L11aにより連通されている。吸入室H1と圧縮室H3とは、バルブプレート12に設けられた連通孔12a(
図2参照)、及び、吸入弁形成板15に形成された吸入弁15a(
図2参照)を経由する通路L12により連通されている。圧縮室H3と吐出室H2とは、バルブプレート12に設けられた連通孔12b(
図2参照)、及び、吐出弁形成板16に形成された吐出弁16a(
図2参照)を経由する通路L21により連通されている。吐出ポートP2は、吐出室H2内の冷媒を外部(冷媒回路の凝縮器)に導くための吐出通路L22の下流側端部を構成し、シリンダヘッド13の外周部に設けられ外部に開口するように形成されている。吐出室H2と吐出ポートP2とは、シリンダヘッド13の形成壁を貫通して形成される通路L22aにより連通されている。このようにして、冷媒回路の蒸発器から機外低圧側冷媒循環路L1、吸入ポートP1を含む吸入通路L11、吸入室H1、通路L12、圧縮室H3、通路L21、吐出室H2、吐出通路L22(通路L22a及び吐出ポートP2)、及び、機外高圧側冷媒循環路L2からなる冷媒回路の冷媒循環路が構成されている。本実施形態では、吸入通路L11は、吸入ポートP1、通路L11a、及び、弁装置30の内部を経由する通路により構成され、吐出通路L22は、通路L22a及び吐出ポートP2を経由する通路により構成されている。
【0019】
圧縮機構20は、例えば、シリンダボア11a内を往復動して冷媒を圧縮する往復動式の機構を有して構成されるものである。圧縮機構20は、例えば、シリンダボア11a内に配置されるピストン21と、図示省略した駆動軸と、ピストン往復動機構22とを含む。前記駆動軸は、図示省略したエンジン等の外部駆動源に電磁クラッチを介して連結され、外部駆動源からの回転動力が電磁クラッチを介して伝達されると回転する。前記ピストン往復動機構は、ピストン21のクランク室H4側の端部に連結され、前記駆動軸の回転運動をピストン21の往復動に変換して伝達するものである。前記駆動軸が回転すると、ピストン21が一定のストロークでシリンダボア11a内を往復動するように構成されている。これにより、圧縮機構20を作動させると、蒸発器からの冷媒は、吸入通路L11を介して吸入室H1に導かれた後、通路L12を経由して圧縮室H3に導入される。そして、圧縮室H3には、前記一定のストロークにより定まる一定の容量の冷媒が吸入されて圧縮される。圧縮された冷媒は、吐出されて、通路L21、吐出室H2、通路L22a、吐出ポートP2、及び、機外高圧側冷媒循環路L2を経由して凝縮器に供給される。
【0020】
弁装置30は、吸入通路L11の開度を調整するためのものであり、吸入通路L11上に設けられる。つまり、弁装置30は、シリンダヘッド13内に組付けられている。具体的には、弁装置30の一端部が、吸入通路L11の一部を構成する通路L11aの吸入室側端部の内周壁に係合し、弁装置30の他端部が、吸入室H1内に突出するように配置されている。
このようにして、冷媒の吸入室H1と、吸入室H1に冷媒を導くための吸入通路L11と、吸入通路L11の開度を調整する弁装置30とを備え、吸入通路L11を介して吸入室H1に導かれた冷媒を圧縮して吐出する、固定容量式の圧縮機100が構成されている。以下では、弁装置30について詳述する。
【0021】
[弁装置]
弁装置30は、第1調整弁40と第2調整弁60とを含んで構成されている。本実施形態では、第1調整弁40と第2調整弁60は一体的に設けられている。
【0022】
[第1調整弁]
第1調整弁40は、吸入通路L11の一部を構成する第1通路41の開度を調整するものである。本実施形態では、第1調整弁40は、ケース42と、筒状の係合部材43と、第1弁体44と、第1付勢部材45と、を備えている。ケース42、係合部材43及び第1弁体44は、樹脂部材や金属部材等の適宜の材料で形成さすることができ、本実施形態では、いずれも樹脂部材で形成されている。
【0023】
ケース42は、一端開口の有底筒状に形成され、周壁421と、周壁421の一端部を閉塞する底壁422と、を有する。ケース42(詳しくは、周壁421)の開口端部の内側に係合部材43の一端部が嵌合することにより、ケース42と係合部材43とからなる弁ハウジングが構成される。この弁ハウジングは弁装置30の外殻をなし、弁ハウジングの内部には、第1弁体44を収容すると共に第1通路41の一部を構成する第1弁室S1が形成される。具体的には、第1弁室S1は、円柱状に形成されて一方向に延伸し、延伸方向の一端が係合部材43の一端部側の端面により規定され、延伸方向の他端が底壁422により規制され、周方向が周壁421により規定される。
【0024】
本実施形態では、第1通路41の上流側端部を構成する入口孔431が、筒状の係合部材43の筒内部により構成されている。入口孔431は、一端が第1弁室S1の延伸方向の一端に開口し、他端が通路L11aに連通している。また、第1通路41の吸入室側端部を構成する出口孔423が、ケース42の周壁421を貫通している。出口孔423は、一端が第1弁室S1の延伸方向と直交する方向の内壁面(つまり、周壁421の内壁面)424に開口し、他端が吸入室H1に開口する。出口孔423は、
図2に示すように、周壁421の開口端部側を頂点とする概ね三角形状を有して、周壁421の周方向に離間した複数の箇所に開口されている。そして、底壁422には、吸入室H1の圧力を第1弁室S1内に導入する圧力導入通路425が開口されている。圧力導入通路425は、一端が第1弁室S1の延伸方向の他端に開口し、他端が吸入室H1に開口する。
【0025】
係合部材43は、弁装置30を通路L11aの吸入室側端部の内周壁に係合させるための部材であり、概ね筒状に形成されている。係合部材43の一端部には、通路L11aの吸入室側端部の内周壁に形成される係合溝に係合する複数の係合爪432が形成されている。係合部材43の他端部には、ケース42の開口端部の内側に嵌合する嵌合部433が形成されている。係合部材43の筒内部は、円柱状に形成され、入口孔431を構成する。また、係合部材43の一端部側の端面は、第1弁体44の一端面が接離する円環状の第1弁座434を構成する。つまり、第1弁座434は、入口孔431の第1弁室側開口の周囲に形成される。また、係合部材43の外周面には、全周にわたって凸部が形成されている。係合部材43の嵌合部433がケース42の開口端部に嵌合することにより、前記弁ハウジングの外周に溝部435が形成される。この溝部435に、シール部材としてのOリング436が設けられる。
【0026】
第1弁体44は、第1弁室S1内において第1弁室S1の延伸方向に移動可能に支持され、第1通路41の上流領域の圧力と吸入室H1の圧力との差圧ΔPに応じて移動して第1通路41の開度を調整する弁体である。言い換えると、第1弁体44は、第1弁体44の移動方向の前後の差圧ΔPに応じて移動して第1通路41の開度を調整する。第1弁体44は、
図3に示すように、第1弁室S1を、入口孔431及び出口孔423が開口する一端側の第1領域S11と、圧力導入通路425が開口する他端側の第2領域S12とに区画する。第1領域S11は、第1弁室S1の一端と第1弁体44との間の領域であり、第2領域S12は、第1弁体44と第1弁室S1の他端との間の領域である。差圧ΔPは、第1領域S11の圧力と第2領域S12の圧力との差圧と等しい。
【0027】
第1弁体44により開度調整される第1通路41は、入口孔431、第1弁室S1の第1領域S11(第1弁室S1の一端と第1弁体44との間の領域)、及び、出口孔423により構成されている。
【0028】
本実施形態では、第1弁体44は、差圧ΔPが後述する所定値Cより小さい場合は、第1弁座434に当接して第1通路41を閉止し、差圧ΔPが所定値C以上である場合は、第1弁体44が第1弁座434から離れ、差圧ΔPに応じて移動することにより出口孔423の開口面積を変化させることにより、第1通路41の開度を調整する。なお、第1弁体44の構造については、後に詳述する。
【0029】
第1付勢部材45は、第1弁体44を閉弁方向に付勢する部材である。つまり、第1付勢部材45は、第1弁体44を第1弁室S1の一端側に向かって付勢している。本実施形態では、第1付勢部材45は、圧縮コイルバネからなり、第2領域S12に配置され、第1弁体44を第1弁室S1の一端側に付勢する。第1付勢部材45の一端は、ケース42の底壁422に当接し、第1付勢部材45の他端は、第1弁体44に当接している。第1弁体44は、初期状態において、第1付勢部材45の付勢力により、第1弁座434に当接して第1通路41を閉止している。
【0030】
第1付勢部材45の付勢力は、差圧ΔPが所定値Cより小さくなると、第1弁体44が閉弁方向に移動して第1通路41を閉止するように設定されている。具体的には、差圧ΔPの所定値(作動差圧)Cは、例えば、微少流量で冷媒を循環させる微少流量運転時において生じる差圧ΔPより若干大きな値に設定されている。つまり、第1付勢部材45の付勢力は、微少流量運転時の差圧ΔPによる第1弁体44を開弁方向に移動させる力より若干大きくなるように設定されている。
【0031】
[第2調整弁]
第2調整弁60は、第1通路41における第1調整弁40による開度調整部位より上流の上流領域から分岐して吸入室H1に接続するための第2通路61の開度を調整するものである。したがって、第2通路61も吸入通路L11の一部を構成している。ここで、本実施形態では、第1調整弁40による開度調整部位は、出口孔423の部位であり、第2通路61は、第1通路41における出口孔423より上流の上流領域に含まれる第1弁室S1(詳しくは、後述する第1領域S11)から分岐している。
【0032】
本実施形態では、第2調整弁60は、第2弁体62と第2付勢部材63とを含む。第2弁体62は、樹脂部材や金属部材等の適宜の材料で形成さすることができ、本実施形態では、樹脂部材で形成されている。また、本実施形態では、第2調整弁60は、第1調整弁40内に配置され、第1調整弁40と一体的に構成されている。
【0033】
第2弁体62は、第2通路61の一部を構成する第2弁室S2内において第2弁室S2の延伸方向に移動可能に支持され、第2通路61の開度を調整する弁体である。本実施形態では、第2弁体62は、第1弁体44の内部に形成される第2弁室S2としての中空部内に収容される。つまり、第1弁体44が第2弁室形成壁を兼ねている。
【0034】
第2弁室S2の延伸方向の一端には、第2通路61の上流側端部を構成する第1接続路64の一端が開口している。第1接続路64の他端は第1弁室S1の第1領域S11に開口している。また、第2弁室S2の延伸方向の他端には、第2通路61の吸入室側端部の一部を構成する第2接続路65の一端が開口している。第2接続路65の他端は第1弁室S1の第2領域S12(第1弁体44と第1弁室S1の他端との間の領域)に開口している。
【0035】
本実施形態では、第2弁室S2の延伸方向の一端は、第2弁体62に対して重力方向(上下方向)の上側に位置する。したがって、第1接続路64は第2弁室S2の重力方向上側の端面に開口されている。そして、第2弁体62は、例えば、第2弁体62の延伸方向の中心軸線が第1弁体44の延伸方向の中心軸線と概ね同軸になるように配置されている。
【0036】
本実施形態では、第2通路61は、第1接続路64、第2弁室S2、第2弁体の内部に形成される後述する内部通路66、第2接続路65、第1弁室S1の第2領域S12、及び、圧力導入通路425により構成されている。また、本実施形態では、第2接続路65、第1弁室S1の第2領域S12、及び、圧力導入通路425により第2通路61の吸入室側端部が構成されている。
【0037】
また、第2弁体62には、吸入室H1から第2通路61の吸入室側端部(第2接続路65、第1弁室S1の第2領域S12、及び、圧力導入通路425)を経由して第2弁室S2に流入する流体が衝突してその流体流れによる第2弁体62を閉弁方向に移動させる動圧を受ける受け面67が形成されている。本実施形態では、受け面67は、第2弁体62における第2通路61の前記吸入室側端部の第2弁室側開口(詳しくは、第2接続路65の第2弁室側開口)に対向する部位に形成されている。
【0038】
ここで、受け面67に作用する前記動圧は、流体(冷媒)の流速Vの二乗と流体密度(冷媒密度)ρに比例する。例えば、冷媒としてR134aを使用する場合、10℃での冷媒密度ρは、液状態で約1261kg/m
3であり、空気の密度より著しく大きい。そのため、液冷媒が受け面67に衝突したときに受け面67に作用する動圧は、流速を同じとすれば、空気が受け面67に衝突したときに受け面67に作用する動圧よりも著しく大きくなる。この受け面67に作用する動圧は、第2弁体62を閉弁方向に移動させる力となるため、液冷媒が受け面67に衝突すると、第2弁体62を閉弁方向に移動させる力が急激に上昇する。
【0039】
本実施形態では、第2弁体62は、第2弁室S2内を移動して、第1接続路64の第2弁室側開口の周囲に形成される第2弁座68に接離することにより、第2通路61の開度を調整する。なお、第2弁体62の構造については、後に詳述する。
【0040】
第2付勢部材63は、第2弁体62を開弁方向に付勢する部材である。つまり、第2付勢部材63は、第2弁体62を第2弁室S2の他端側に向かって付勢している。本実施形態では、第2付勢部材63は、圧縮コイルバネからなり、第2弁体62と第2弁室S2の一端との間の領域S21(詳しくは、後述する第2弁室S2のうちの大径空間部)に配置され、第2弁体62を第2弁室S2の他端側に付勢する。第2付勢部材63の一端は、第1弁体44の内壁(詳しくは、後述する端壁44a2)に当接し、第2付勢部材63の他端は、第2弁体62に当接している。第2弁体62は、初期状態において、第2付勢部材63の付勢力により、第2弁座68から離間して第2通路61を開放している。
【0041】
第2付勢部材63の付勢力は、空気が受け面67に衝突する場合は、第2弁体62が第2通路61を開放する開弁状態を維持し、液冷媒が受け面67に衝突する場合は、第2弁体62が閉弁方向に移動して第2通路61を閉止するように設定されている。つまり、第2付勢部材63の付勢力は、空気衝突時の動圧による閉弁方向の力より大きく、且つ、液冷媒衝突時の動圧による閉弁方向の力より小さくなるように設定されている。
【0042】
[第1弁体及び第2弁体の詳細構造]
次に、第1弁体44及び第2弁体62の詳細構造について、
図3を参照して説明する。
【0043】
本実施形態では、第1弁体44は、内部に第2弁室S2としての中空部を有している。具体的には、第1弁体44は、第1弁室S1の一端側に配置され第1弁室S1の内壁面424に沿って摺動可能に支持される大径部44aと、第1弁室S1の他端側に配置され大径部44aと協働して前記中空部(第2弁室S2)を形成する大径部44aより小径の小径部44bと、を含む。
【0044】
大径部44aは、一端開口の有底筒状に形成され、周壁44a1と、周壁44a1の一端部を閉塞する端壁44a2とを有する。周壁44a1は、円筒状に形成され、ケース42の周壁421の内壁面424に沿って摺動して支持される外周面を有する。端壁44a2は、円盤状に形成され、入口孔431の第1弁室側開口に対向して第1弁座434に接離する。第2通路61の第1接続路64は、端壁44a2(大径部44a)を貫通している。第2弁座68は、端壁44a2における第1接続路64の第2弁室側開口の周囲の円環状の部位により構成される。端壁44a2が第1弁座434に当接した状態で、周壁44a1は出口孔423を完全に覆うように配置されている。端壁44a2が第1弁座434から離れるほど出口孔423の開口面積が徐々に増大するように構成されている。
【0045】
小径部44bは、一端開口の有底筒状に形成され、周壁44b1と、周壁44b1の一端部を閉塞する端壁44b2とを有する。小径部44bの周壁44b1の開口端部が大径部44aの周壁44a1の開口端部の内側に嵌合する。周壁44b1の開口端部側には円環状の鍔部44b3が形成されている。周壁44b1の嵌合位置は鍔部44b3により定まる。また、第1付勢部材45の一端は、ケース42の底壁422に当接し、第1付勢部材45の他端は、第1弁体44の鍔部44b3に当接している。小径部44bは、第1付勢部材45の内側に位置するように配置されている。詳しくは、小径部44bの周壁44b1が第1付勢部材45の内側に位置している。端壁44b2は、圧力導入通路425の第1弁室側開口に対向する。また、第2通路61の第2接続路65は、端壁44b2(小径部44b)を貫通している。
【0046】
小径部44bが大径部44aに嵌合することにより、第2弁室S2としての中空部を内部に有する第1弁体44が形成される。第2弁室S2(中空部)は、第1接続路64から第2接続路65に向かって段付き状に縮径する円柱状空間部として形成される。
【0047】
第2弁体62は、第1弁体44の大径部44a内に配置され、第2弁座68に接離する弁部62aと、第1弁体44の小径部44bの内壁面に摺動可能に支持される軸部62bとを有する。
【0048】
弁部62aは、軸部62bより小径の円柱状に形成され、軸部62bの一端に設けられ、第1接続路64の第2弁室側開口に対向している。弁部62aは、第2弁室S2のうちの第1接続路64側の大径空間部(領域S21)に配置されている。第2付勢部材63の一端は、端壁44a2に当接し、第2付勢部材63の他端は、第2弁体62の軸部62bの端部に当接している。したがって、弁部62aは、第2付勢部材63の内側に位置するように配置されている。
【0049】
軸部62bは、第2弁室S2のうちの前記大径空間部(領域S21)より小径の段付き円柱状空間部に合せた外径を有する段付き円柱に形成されている。軸部62bの一端部(弁部側端部)は第2弁室S2のうちの前記大径空間部に位置している。また、軸部62bの他端部は、初期状態において、第2付勢部材63の付勢力により、端壁44b2に当接している。
【0050】
本実施形態では、第2弁体62の内部に内部通路66が形成されている。内部通路66は、前記大径空間部(領域S21)と第2接続路65との間を接続するための通路であり、第2通路61の一部を構成する。内部通路66の一端は軸部62bの一端部の外周面に開口し、内部通路66の他端は軸部62bの他端部側の端面に開口している。詳しくは、内部通路66は、軸部62bの他端部側の端面から弁部62a側に向って軸部62bの軸線に沿って延伸する第1内部通路66aと、第1内部通路66aの弁部側端部から軸部62bの径方向に延伸する第2内部通路66bとを含む。また、内部通路66は、第2通路61全体の中で最小の通路断面積を有する絞り部を有する。具体的には、第2内部通路66bが、前記絞り部であり、内部通路66のうちの前記大径空間部(領域S21)側の開口端に形成されている。
【0051】
また、本実施形態では、受け面67は、第1内部通路66aの弁部側端の円形の穴底面により構成され、第2接続路65の第2弁室側開口に対向している。また、入口孔431、第1接続路64、第1内部通路66a、第2接続路65、及び、圧力導入通路425は、略同一の軸線上に沿って延びている。したがって、吸入室H1から圧力導入通路425、第2接続路65及び第1内部通路66aを経由する通路が受け面67に向かって直線的に形成され、第2通路61を逆流する流体が受け面67に衝突し易い通路構造が構成されている。また、軸部62bの内部の第1内部通路66aは、逆流する流体を受け面67に向かって導くガイド部として機能する。したがって、第1内部通路66aにより、流体を効率的に受け面67に衝突させて動圧を発生させることができる。
【0052】
[弁装置の動作]
次に、弁装置30の動作について、
図4を参照して説明する。
図4は、弁装置30の動作を説明するための図である。
図4(a)は、真空引き作業が行われた時、圧縮機停止時、及び、微少流量運転時における弁装置30の動作状態を示す。
図4(b)は、前記微少流量以上の流量(小流量〜大流量)の冷媒を循環させる通常運転時における弁装置30の動作状態を示す。
図4(c)は圧縮機100が長時間停止し、液冷媒が第2通路61を逆流した時における弁装置30の動作状態を示す。
【0053】
図4(a)に示すように、初期状態において、第1調整弁40は第1通路41を閉止し、第2調整弁60は第2通路61を開放している。この状態で、圧縮機100が冷媒回路に組み込まれ、冷媒回路内の真空引き作業が、吸入通路L11の吸入ポートP1に接続される機外低圧側冷媒循環路L1に設けられるチャージバルブ(図示省略)から行われる。そして、この真空引きにより、圧縮機100内の空気が、
図4(a)に点線矢印で示すように、吸入通路L11のうちの第2通路61を逆流する。詳しくは、吸入室H1内の空気は、圧力導入通路425、第2領域S12、第2接続路65、第1内部通路66aを経由して逆流し、受け面67に衝突する。第2弁体62を開弁方向に付勢する第2付勢部材63の付勢力は、空気衝突時の動圧による閉弁方向の力より大きくなるように設定されているため、第2調整弁60の第2弁体62は第2通路61を開放する開弁状態を維持する。そして、受け面67に衝突した空気は、その後、第2内部通路66b、領域S21、第1接続路64、入口孔431、通路L11a、及び、吸入ポートP1を経由して、機外低圧側冷媒循環路L1に導かれて、前記チャージバルブを介して機外に排出される。これにより、第1調整弁40が第1通路41を閉じていても、圧縮機100の内部の真空引き作業が冷媒回路の低圧側から確実に行われる。
【0054】
圧縮機100が作動して微少流量運転を行うと、機外低圧側冷媒循環路L1から吸入ポートP1に流入した冷媒(ガス冷媒)は、
図4(a)に実線矢印で示すように、その大半が第1弁体44に衝突すると共に、その一部が第2通路61を経由して吸入室H1に導かれる。このとき、第1弁体44には、差圧ΔPによる開弁方向に移動させる力が作用する。第1弁体44を閉弁方向に付勢する第1付勢部材45の付勢力は、微少流量運転時の差圧ΔPによる第1弁体44を開弁方向に移動させる力より若干大きくなるように設定されているため、第1弁体44は閉弁状態を維持する。つまり、微少流量運転時には、
図4(a)に示すように、弁装置30は、第1調整弁40により第1通路41を閉止し、第2調整弁60により絞り部(第2内部通路66b)を有する第2通路61を開放することにより、吸入通路L11の開度を絞る。これにより、微少流量運転時に発生する吸入圧力脈動が吸入通路L11を介して圧縮機外へ伝播することを抑制する。
【0055】
図4(b)に示すように、微少流量以上の流量(小流量〜大流量)の冷媒を循環させる通常運転時には、冷媒流量の増加に伴って、差圧ΔPによる第1弁体44を開弁方向に移動させる力が増加する。この力が第1付勢部材45の付勢力より大きくなると(つまり、差圧ΔPが所定値C以上になると)、第1弁体44は第1弁座434から離間して、第1通路41を開放する。第1弁体44は差圧ΔPの増加に応じて第1通路41の開度を増加させ、差圧ΔPの減少に応じて第1通路41の開度を減少させる。第1弁体44が第1弁座434から離間した状態では、機外低圧側冷媒循環路L1から吸入ポートP1に流入した冷媒(ガス冷媒)は、
図4(b)に実線矢印で示すように、その大半が第1通路41を経由して吸入室H1に導かれ、その一部が第2通路61を経由して吸入室H1に導かれる。そして、冷媒流量が減少して、差圧ΔPによる第1弁体44を開弁方向に移動させる力が第1付勢部材45の付勢力より小さくなると(つまり、差圧ΔPが所定値Cより小さくなると)、第1弁体44は、
図4(a)に示すように、第1弁座434に当接して第1通路41を閉止する。そして、圧縮機100が停止すると、
図4(a)に示すように、弁装置30は、そのまま、第1調整弁40により第1通路41を閉止し、第2調整弁60により第2通路61を開放する。
【0056】
圧縮機100が長時間停止していると、液冷媒が圧縮機100内(例えば、クランク室H4内)に貯留される場合がある。そして、この液冷媒の貯留量が多くなった状態で、液冷媒が貯留された空間の圧力が機外低圧側冷媒循環路L1(冷媒回路の低圧側)の圧力より高くなると、その液冷媒が吸入室H1に押し出される場合がある。この吸入室H1に押出された(逆流した)液冷媒は、圧縮機100内の潤滑用のオイルと伴に、
図4(c)に点線矢印で示すように、吸入通路L11のうちの第2通路61を逆流する。詳しくは、吸入室H1内の液冷媒は、圧力導入通路425、第2領域S12、第2接続路65、第1内部通路66aを経由して逆流し、受け面67に衝突する。第2弁体62を開弁方向に付勢する第2付勢部材63の付勢力は、液冷媒衝突時の動圧による閉弁方向の力より小さくなるように設定されているため、第2調整弁60の第2弁体62は第2弁座68に当接して第2通路61を閉止する。したがって、弁装置30は吸入通路L11を全閉し、圧縮機100内に貯留した液冷媒が圧縮機内のオイルと伴に、圧縮機外に流出することを防止する。
【0057】
本実施形態による圧縮機100において、第1付勢部材45の付勢力は、差圧ΔPが所定値Cより小さくなると、第1弁体44が閉弁方向に移動して第1通路41を閉止するように設定されている。このため、差圧ΔPの所定値Cを、例えば、微少流量運転時における差圧ΔPより若干大きな値に設定することにより、圧縮機停止時や微少流量運転時においては、吸入通路L11のうちの第1通路41を閉止し、通常運転時においては、第1通路41を差圧ΔPに応じた開度で開放することができる。そして、第2付勢部材63の付勢力は、受け面67に空気が衝突する場合は、第2弁体62が第2通路61を開放する開弁状態を維持し、受け面67に液冷媒が衝突する場合は、第2弁体62が閉弁方向に移動して第2通路61を閉止するように設定されている。このため、圧縮機停止時において、液冷媒が第2通路61の吸入室側端部(圧力導入通路425、第2領域S12、第2接続路65)を経由して第2弁室S2に逆流して受け面67に衝突した場合には、第2通路61を閉止し、空気が同様に受け面67に衝突した場合には、第2通路61を開放する開弁状態を維持することができる。そして、微少流量運転時及び通常運転時においては、第2通路61の上流側から第2弁室S2に流入する冷媒流れによる動圧と、第2付勢部材63の付勢力とにより、第2弁体62を開弁方向に付勢して第2通路61を開放することができる。
したがって、微少流量運転時には、吸入通路L11のうちの第1通路41を閉止することにより吸入通路L11の開度を絞ることができるため、従来と同様に、微少流量運転時に発生する吸入圧力の脈動が吸入通路L11を介して圧縮機外へ伝播することを抑制することができる。そして、圧縮機が長時間停止して第1通路41が閉止されている状態において、第2通路61の前記吸入室側端部を液冷媒が逆流したとしても、第2通路61も閉止されるので、圧縮機内に貯留した液冷媒が圧縮機内のオイルと伴に、圧縮機外に流出することを防止することができる。さらに、第2通路61の前記吸入室側端部を空気が逆流したとしても、第2通路61は閉止されないので、圧縮機100が冷媒回路に組み込まれた状態で、冷媒回路内の真空引き作業を、機外低圧側冷媒循環路L1に設けられるチャージバルブを介して行うことができる。
このようにして、真空引き作業を従来と同様に行うことができると共に、液冷媒及びオイルの吸入通路から圧縮機外への流出を抑制可能な構造を備えた圧縮機100を提供することができる。
【0058】
図5は、本発明の第2実施形態に係る可変容量式の圧縮機100’の概略構成を説明するためのブロック図である。なお、この可変容量式の圧縮機100’における弁装置30は、第1実施形態の固定容量式の圧縮機100における弁装置30と同じである。以下では、第1実施形態と異なる構成について説明し、同じ要素については同じ符号をつけて説明を省略する。
【0059】
圧縮機100’は、クランク室(調圧室)H4内の調圧によって冷媒の吐出容量を変更できるように構成された斜板式の可変容量圧縮機である。
【0060】
本実施形態において、図示省略した前記駆動軸は、クランク室H4を横断(
図5では左右方向に延伸)し、その一端部がフロントハウジング14を貫通してフロントハウジング14の外側まで延伸している。前記駆動軸は、その前記一端部が図示省略したエンジン等の外部駆動源に電磁クラッチを介して連結され、外部駆動源からの回転動力が電磁クラッチを介して伝達されると回転する。
【0061】
本実施形態において、ピストン往復動機構22は、前記駆動軸に固定されるロータ(図示省略)にリンク機構(図示省略)を介して連結される概ね円盤状の斜板221を含む。斜板221の中央部には、前記駆動軸が挿通される貫通孔(図示省略)が形成されている。斜板221は、前記貫通孔に前記駆動軸が挿通された状態で、その外周部が一対のシュー222を介してピストンのクランク室H4側に突設された端部223に収容されている。前記貫通孔は、斜板221が最大傾角から最小傾角の範囲で傾動可能な形状に形成されている。斜板221が前記駆動軸に直交するときの斜板221の傾角を0°とした場合、前記最小傾角は略0°となる。また、前記駆動軸には、傾角を減少させる方向に斜板221を付勢する傾角減少バネ(図示省略)と、傾角を増大させる方向に斜板221を付勢する傾角増大バネ(図示省略)とが、斜板221を挟んで装着されている。圧縮機停止時には、斜板221の傾角が、例えば、最小傾角よりも若干大きくなるように各バネの付勢力が設定されている。ピストン往復動機構22は、前記駆動軸が回転すると、前記駆動軸と伴に回転し、斜板221及び一対のシュー222を介して回転運動をピストン21の往復動に変換する。ピストン21のストロークは、斜板221の傾角により定まる。冷媒の吐出容量は、斜板221の傾角が大きいほど大きくなる。斜板221の傾角は、後述する制御弁90により適宜に調整できるように構成されている。
【0062】
圧縮機100’は、供給通路L3と、排出通路L4と、差圧作動式の吐出逆止弁80と、制御弁90と、を更に含む。供給通路L3は、吐出室H2とクランク室H4との間を連通するための通路であり、吐出室H2とクランク室H4との間のシリンダヘッド13やシリンダブロック11や貫通するように形成されている。また、供給通路L3には、制御弁90が設けられている。排出通路L4は、クランク室H4と吸入室H1との間を連通し、クランク室H4内の冷媒を吸入室H1に流出させる(排出する)ための通路である。排出通路L4には、オリフィス等の絞り部OLが設けられている。したがって、供給通路L3と排出通路L4とからなる通路は、吐出室H2からクランク室H4を経由して吸入室H1に至る通路を構成する。なお、本実施形態では、クランク室H4が本発明に係る「制御圧室」に相当し、供給通路L3と排出通路L4とからなる通路が本発明に係る「制御通路」に相当する。
【0063】
吐出逆止弁80は、吐出室H2内の冷媒を外部(冷媒回路の凝縮器)に導くための吐出通路L22(詳しくは通路L22a)に設けられている。吐出逆止弁80は、前記外部から吐出室H2に向かう冷媒の逆流を阻止する差圧作動式の逆止弁である。また、本実施形態では、吐出逆止弁80は、閉弁方向の作動差圧が開弁方向の作動差圧より小さくなるように設定されている。したがって、圧縮機100’が長時間停止している場合に、圧縮機100’内で冷媒の自然流動が生じても、吐出通路L22を開弁し難い状態にすることができる。このため、吐出室H2から機外高圧側冷媒循環路L2(冷媒回路の高圧側)への冷媒の流出を効果的に抑制でき、ひいては、オイルの圧縮機外への流出を効果的に抑制することができる。
【0064】
制御弁90は、供給通路L3及び排出通路L4からなる制御通路の開度を調整してクランク室H4の圧力を変更することにより吐出容量を変更させるものである。本実施形態では、制御弁90は、前述したように、供給通路L3に設けられている。制御弁90は、供給通路L3の開度を調整して吐出室H2内の冷媒のクランク室H4への導入量(供給量)を制御することによりクランク室H4の圧力を変更し、このクランク室H4の圧力変更により吐出容量を変更させる。詳しくは、制御弁90は、例えば、シリンダヘッド13内に設けられる。制御弁90には、連通路L5を介して吸入室H1の圧力が導入されるように構成されている。制御弁90は、連通路L5を介して導入される吸入室H1の圧力を感圧し、この圧力と外部信号に基づき内蔵するソレノイド91に流れる電流によって発生する電磁力とに応じて供給通路L3の開度を調整し、これによって、吐出室H2内の冷媒のクランク室H4への導入量(供給量)を制御する。制御弁90は、クランク室H4への導入量を制御することにより、斜板221の傾角、つまり、ピストン21のストロークを増大又は減少させる。詳しくは、冷媒のクランク室H4への導入量を増大させると、吐出容量を減少させることができ、導入量を減少させると、吐出容量を増大させることができる。このようにして、制御弁90により冷媒の吐出容量を可変制御できるように構成されている。
【0065】
制御弁90は、圧縮機停止時には、ソレノイド91への通電が遮断(OFF)されると、供給通路L3(制御通路)の開度を常時最大にするように構成されている。つまり、制御弁90は、ソレノイド91を有し、ソレノイド91への通電が遮断されると、供給通路L3(制御通路)を開放するように構成されている。
【0066】
冷媒回路内の真空引き作業が、行われるとき、圧縮機100’は停止して、制御弁90のソレノイド91への通電は遮断されているため、制御弁90は前記制御通路の一部を構成する供給通路L3を開放している。したがって、吐出室H2は、供給通路L3、クランク室H4、排出通路L4を介して吸入室H1と連通している。このため、吐出室H2が吐出逆止弁80によって閉鎖されていても、機外低圧側冷媒循環路L1に設けられるチャージバルブ(図示省略)から吐出室H2を含む圧縮機内部の全ての領域の真空引きを確実に行うことができる。
【0067】
圧縮機100’が長時間停止していると、液冷媒がクランク室H4内に貯留され、この液冷媒の貯留量が多くなって、
図5に示すように、クランク室H4内における液面が上昇すると、排出通路L4が液冷媒で満たされる。このとき、クランク室H4の重力方向上部のガス冷媒で満たされている空間が密閉状態になる。そして、この状態で、クランク室H4の圧力が機外低圧側冷媒循環路L1(冷媒回路の低圧側)の圧力より高くなると、その液冷媒が排出通路L4を介して吸入室H1に押し出される。この吸入室H1に押出された(逆流した)液冷媒は、圧縮機100内の潤滑用のオイルと伴に、
図4(c)に点線矢印で示すように、吸入通路L11のうちの第2通路61を逆流し、受け面67に衝突する。この液冷媒の衝突により、第2調整弁60の第2弁体62は第2弁座68に当接して第2通路61を閉止する。したがって、弁装置30は吸入通路L11を全閉し、クランク室H4内に貯留した液冷媒が圧縮機内のオイルと伴に、圧縮機外に流出することを防止する。また、圧縮機100’は、微少流量運転時においては、第1実施形態の圧縮機100と同様に、吸入通路L11の開度を絞り、吸入圧力脈動の圧縮機外への伝播を抑制することができる。
【0068】
このように、第2実施形態に係る可変容量型の圧縮機100’においても、真空引き作業を従来と同様に行うことができると共に、液冷媒及びオイルの吸入通路から圧縮機外への流出を抑制可能な構造を備えている。
【0069】
なお、第2実施形態においては、制御弁90は、供給通路L3に設けられ、制御圧室としてのクランク室H4への冷媒の導入量を制御する場合を一例として挙げて説明したが、これに限らない。制御弁90は、排出通路L4に設けられ、クランク室H4からの冷媒の排出量を制御するようにしてもよい。つまり、制御弁90は、吐出室H2からクランク室H4(制御圧室)を経由して吸入室H1に至る制御通路の開度を調整してクランク室H4の圧力を変更することにより吐出容量を変化させるように構成されていればよい。また、制御弁90として、ソレノイド91を内蔵して電磁力を利用して作動する電気式の制御弁を採用した場合を一例に挙げて説明したが、これに限らない。制御弁90として、ソレノイド91を有さず、圧力を感知する感知部材のみにより作動する機械式の制御弁を採用してもよい。この機械式の制御弁は、冷媒充填前の状態において、前記感知部材により大気圧を感知している状態において、前記制御通路を開放するように構成されていればよい。
【0070】
上記各実施形態では、受け面67は、第2弁体62における第2通路61の吸入室側端部の第2弁室側開口(詳しくは、第2接続路65の第2弁室側開口)に対向する部位に形成されている。これにより、逆流する流体を受け面67に確実に衝突させることができるため、第2通路61を流体が逆流したときに、閉弁方向の力を第2弁体62に確実に作用させることができる。
【0071】
上記各実施形態では、第1調整弁40と第2調整弁60は、一体的に設けられている。これにより、弁装置30をシリンダヘッド13内へ容易に組付けることができる。
【0072】
上記各実施形態では、第1調整弁40の第1弁体44は内部に中空部を有し、第2調整弁60の第2弁体62は前記中空部内に収容される。これにより、第1弁体44に第2弁体62を内蔵させることができるため、弁装置30の体格増大を抑制することができる。
【0073】
上記各実施形態では、第1調整弁40は、第1通路41の上流側端部を構成し、一端が第1弁室S1の延伸方向の一端に開口する入口孔431と、第1通路41の吸入室側端部を構成し、一端が第1弁室S1の延伸方向と直交する方向の内壁面424に開口し、他端が吸入室H1に開口する出口孔423と、一端が第1弁室S1の延伸方向の他端に開口し、他端が吸入室H1に開口する圧力導入通路425と、を含む。そして、第1弁体44は、差圧ΔPが所定値Cより小さい場合は、入口孔431の第1弁室側開口の周囲に形成される第1弁座434に当接して第1通路41を閉止し、差圧ΔPが所定値C以上である場合は、第1弁体44が第1弁座434から離れ、差圧ΔPに応じて移動することにより出口孔の開口面積を変化させることにより、第1通路41の開度を調整する。これにより、第1弁体44を収容する第1弁室S1に、入口孔431、圧力導入通路425及び出口孔423の全てを開口させて、差圧作動式の第1調整弁40を構成することができるため、第1調整弁40の構造を簡素化することができる。
【0074】
上記各実施形態では、第1弁体44は、第1弁室S1の一端側に配置され第1弁室S1の内壁面424に沿って摺動可能に支持される大径部44aと、第1弁室S1の他端側に配置され大径部44aと協働して中空部を形成する大径部44aより小径の小径部44bと、を含んで構成されている。これにより、第2弁室S2としての中空部を容易に形成することができると共に、第1弁体44を第1弁室S1の延伸方向に移動可能に容易に支持することができる。また、入口孔431、第1領域S11、及び、出口孔423により、第1通路41を容易に形成することができる。
【0075】
上記各実施形態では、第1付勢部材45は、圧縮コイルバネからなり、第2領域S12に配置され、第1弁体44を第1弁室S1の一端側に付勢している。そして、小径部44bは、第1付勢部材45の内側に位置するように配置されている。これにより、圧縮コイルバネからなる第1付勢部材45の内側の領域を利用して、第1弁体44の一部を配置することができるため、弁装置30の軸長増大を抑制することができる。また、小径部44bの外周面により第1付勢部材45をガイドすることができるため、第1付勢部材45を第1弁室S1内で安定して保持することができる。
【0076】
上記各実施形態では、第2調整弁60は、第2通路61の上流側端部を構成し、一端が第2弁室S2の延伸方向の一端に開口する第1接続路64と、第2通路61の吸入室側端部の一部を構成し、一端が第2弁室S2の延伸方向の他端に開口し他端が第2領域S12に開口する第2接続路65と、を含む。そして、第2弁体62は、第2弁室S2内を移動して、第1接続路64の第2弁室側開口の周囲に形成される第2弁座68に接離することにより、第2通路61の開度を調整する。これにより、第2弁室S2としての第1弁体44内の中空部において、第2通路61の開度を調整可能な構造を構成することができる。
【0077】
上記各実施形態では、第2弁体62は、第1弁体44の大径部44a内に配置され第2弁座68に接離する弁部62aと、第1弁体44の小径部44bの内壁面に摺動可能に支持される軸部62bと、を含む。これにより、第1弁体44の小径部44bの内壁面を利用して第2弁体62を第2弁室S2の延伸方向に移動可能に容易に支持することができる。そして、第1接続路64は大径部44aを貫通し、第2接続路65は小径部44bを貫通し、内部通路66が第2弁体62の内部に形成されている。これにより、第1接続路64、第2弁室S2、内部通路66、第2接続路65、第2領域S12、及び、圧力導入通路425により、第2通路61を容易に形成することができる。
【0078】
上記各実施形態では、第2付勢部材63は、圧縮コイルバネからなり、第2弁体62と第2弁室S2の一端との間の領域S21に配置され、第2弁体62を第2弁室S2の他端側に付勢している。そして、弁部62aは、第2付勢部材63の内側に位置するように配置されている。これにより、圧縮コイルバネからなる第2付勢部材63の内側の領域を利用して、第2弁体62の一部を配置することができるため、弁装置30の軸長増大をさらに抑制することができる。また、弁部62aの外周面により第2付勢部材63をガイドすることができるため、第2付勢部材63を第2弁室S2内で安定して保持することができる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形や変更が可能である。そのうちのいくつかを以下に記載する。
【0080】
冷媒としてR134aを使用する場合、10℃での冷媒密度ρは、ガス(蒸気)状態で約20kg/m
3である。このガス冷媒の密度は空気の密度より大きい。そして、液冷媒衝突時の動圧はガス冷媒衝突時の動圧と比較しても著しく大きい。また、オイルは主に液冷媒に溶け込む性質を有する。したがって、液冷媒が逆流したときだけ第2通路61を閉止し、ガス冷媒が逆流したときは第2通路61の開弁状態を維持するように、第2付勢部材63の付勢力を設定してもよい。つまり、第2付勢部材63の付勢力は、ガス冷媒が受け面67に衝突する場合においても、第2弁体62が開弁状態を維持するように設定されていてもよい。言い換えると、第2付勢部材63の付勢力は、ガス冷媒衝突時の動圧による閉弁方向の力より大きく、且つ、液冷媒衝突時の動圧による閉弁方向の力より小さくなるように設定してもよい。これにより、圧縮機100が長時間停止しているときに、液冷媒と伴にオイルが圧縮機外に流出することを防止することができる。そして、空気衝突時はもちろんのことガス冷媒衝突時においても吸入通路L11の開弁状態を維持することができるため、空気が衝突する真空引き作業を行うことができると共に、圧縮機100が長時間停止しているときに圧縮機100内に冷媒が過剰に貯留されることを抑制することができる。
【0081】
第2通路61における内部通路66は、第2弁体62の内部に形成されものとした(詳しくは、第2弁体62の軸部62b内を貫通するように形成されるものとした)が、これに限らない。例えば、内部通路66は、軸部62bと小径部44bとの間に形成されてもよい。具体的には、
図6に示すように、内部通路66は、軸部62bの外周面と小径部44bの内壁面(詳しくは、周壁44b1の内壁面)との間の隙間領域66cと、隙間領域66cと軸部62bの他端に形成される凹部62b1内の領域との間を連通するように軸部62bの他端部に切欠かれる溝部66dとにより構成してもよい。この場合、受け面67は、凹部62b1の底面により構成される。また、溝部66dは、
図6に示すように軸部62bの周方向に離間して複数設けてもよいし、一つであってもよい。この溝部66dが第2通路61全体の中で最小の通路断面積を有する前記絞り部を構成する。また、図示を省略するが、軸部62bの外周面に、軸部62bの延伸方向の全体に亘って溝部を形成し、この溝部により内部通路66を構成してもよい。
【0082】
第2付勢部材63として圧縮コイルバネを用いたがこれに限らない。例えば、上記各実施形態のように、第2弁体62は、第1接続路64の重力方向下方において、重力方向に沿って移動可能に支持されている場合には、第2弁体62自体の自重によって、第2弁体62を開弁方向に付勢する付勢力が発生している。したがって、
図7に示すように、第2付勢部材63として第2弁体62自体を用いてもよい。これにより、第2付勢部材63の配置スペースを考慮する必要がないため、例えば、第2調整弁60の体格を小型化することができると共に、第2調整弁60の構造を簡素化することができる。また、このように、第2付勢部材63として第2弁体62自体を用いる場合には、第2弁体62の延伸方向の中心軸線は、鉛直線に対して平行に限らず、概ね±30°の範囲で設定されていればよい。つまり、第2付勢部材63として第2弁体62自体を用いる場合には、第2弁体62の延伸方向の中心軸線は、鉛直線に対して平行に、又は、鋭角に交差するように設定されていればよい。また、第2付勢部材63として圧縮コイルバネを用いる場合には、第2弁体62の延伸方向の中心軸線は鉛直線に対して任意の方向になるように、第2弁体62を配置することができる。
【0083】
第1弁体44の小径部44bの周壁44b1には、鍔部44b3が形成されるものとしたが、
図8に示すように、周壁44b1に鍔部44b3を設けなくてもよい。また、第1弁体44は、大径部44aと小径部44bにより構成されるものとしたが、これに限らない。例えば、
図9に示すように、第1弁体44は、第1弁室S1の一端側に配置され、第1接続路64が開口される端壁44cと、第1弁室S1の内壁面424に沿って摺動可能に支持される有底筒状の大径部44dとにより構成されてもよい。この場合、大径部44dの開口端部の内側に端壁44cが嵌合されることにより、第2弁室S2としての中空部が形成される。そして、大径部44dの端壁を第2接続路65が貫通する。
【0084】
第1調整弁40と第2調整弁60は、シリンダヘッド13内において一体的に設けられるものとしたが、これに限らず、シリンダヘッド13内において離間した部位にそれぞれ個別に設けてもよい。
【0085】
圧縮機100、100’は、電磁クラッチを装着した圧縮機に限らず、クラッチレス圧縮機としてもよい。圧縮機100、100’の圧縮機構20は、ピストン往復動式に限らず、スクロール式、ベーン式等の適宜の形式の圧縮機構を備えてもよい。また、可変容量式の圧縮機100’は、斜板式に限らず、揺動板式であってもよい。また、圧縮機100、100’は、圧縮機構20を駆動するモータと一体化されていてもよい。