特許第6899304号(P6899304)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 矢崎エナジーシステム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6899304-耐火電線 図000002
  • 特許6899304-耐火電線 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899304
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】耐火電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/295 20060101AFI20210628BHJP
【FI】
   H01B7/295
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-195942(P2017-195942)
(22)【出願日】2017年10月6日
(65)【公開番号】特開2019-71190(P2019-71190A)
(43)【公開日】2019年5月9日
【審査請求日】2020年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 圭一
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−301908(JP,A)
【文献】 特開2004−134267(JP,A)
【文献】 特開平05−334918(JP,A)
【文献】 特開2007−200716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の導体部と、
耐火層に接着により積層した導体層の表面を前記導体部に接触させて、該導体部の周面に巻装された耐火導体シートと、
を備える耐火電線。
【請求項2】
前記耐火層と前記導体層とが接着層により接着されている請求項1記載の耐火電線。
【請求項3】
前記導体層の表面が前記導体部の周面に接着されている請求項1又は2記載の耐火電線。
【請求項4】
耐火層に積層した接着層の表面を、前記耐火導体シート同士の接合部分に接触させて、該接合部分に跨がって貼着された耐火テープをさらに備える請求項1、2又は3記載の耐火電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災等によって高温や火炎に晒されても長時間の使用に耐え得る耐火電線に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な耐火電線では、導体を火災による高温や火炎から保護するために、フィルムの雲母等の耐火物を薄く貼り付けた面を内側にして、耐火テープを導体の外周に巻き付けている。この種の耐火電線では、導体に螺旋状に巻き付けたり縦添えした耐火テープの幅方向の一部をオーバーラップさせて重ねることで、導電性物質の浸入による漏電を防ぐことができる(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−93349号公報
【特許文献2】特開2002−8456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した耐火電線をシースに収容した耐火ケーブルを敷設する際には、シースに加わる外力や耐火ケーブルの自重によって耐火ケーブルが屈曲することがある。この屈曲で耐火テープと導体との間に滑りが生じ、それによって、耐火テープのオーバーラップ部分に隙間が生じると、その隙間から導電性物質が浸入し、耐火ケーブルの外の熱や火炎が導電性物質を介して導体に伝わってしまう。
【0005】
このため、耐火電線の耐火性能を高めるためには、例えコストがかかっても、耐火テープのオーバーラップ部分を広く取って、耐火テープ同士の間に導電性物質が浸入するような隙間ができないようにする必要がある。
【0006】
また、耐火電線を撚線に使用する場合は、耐火電線の撚り工程の際に加わるストレスで耐火テープのオーバーラップ部分に隙間が生じないように、導体に対する耐火テープの巻き付け作業を適切に行う必要がある。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、導体と導体を保護する耐火物との間に隙間が生じるのを防ぐことができる耐火電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様による耐火電線は、
棒状の導体部と、
耐火層に接着により積層した導体層の表面を前記導体に接触させて、該導体部の周面に巻装された耐火導体シートと、
を備える。
【0009】
本発明の第1の態様による耐火電線によれば、棒状の導体部とこれに巻装された耐火導体シートの導体層とで耐火電線の導体が構成され、耐火導体シートの導体層とこれに接着された耐火層とが、耐火電線の導体と耐火層との境界を構成することになる。
【0010】
このため、導体部とこれに巻装した耐火導体シートの導体層との間に滑りが生じても、耐火電線の導体と耐火層との境界を構成する耐火導体シートの導体層とこれに接着された耐火層との間には隙間が生じない。
【0011】
したがって、導体部の周面が耐火導体シートによって全て覆われていれば、仮に、耐火電線に外力が加わっても、滑りが生じて隙間ができるのは耐火導体シートの導体層と導体部の周面との間であり、耐火電線の導体と耐火層との境界には滑りやそれに伴う隙間の発生が起こらない。
【0012】
よって、導体ケーブルの導体と導体を保護する耐火物との間に隙間が生じるのを防止することができる。
【0013】
また、本発明の第2の態様による耐火電線は、本発明の第1の態様による耐火電線において、前記耐火層と前記導体層とが接着層により接着されている。
【0014】
本発明の第2の態様による耐火電線によれば、本発明の第1の態様による耐火電線において、耐火導体シートの耐火層と導体層とが接着層により接着されて一体化される。このため、耐火電線に外力が加わっても、耐火電線の導体と耐火層との境界に滑りやそれに伴う隙間の発生が起こるのを確実に防止することができる。
【0015】
さらに、本発明の第3の態様による耐火電線は、本発明の第1又は第2の態様による耐火電線において、前記導体層の表面が前記導体部の周面に接着されている。
【0016】
本発明の第3の態様による耐火電線によれば、本発明の第2の態様による耐火電線において、導体部の周面と耐火導体シートの導体層の表面とが接着により密着し一体化される。
【0017】
このため、耐火電線に外力が加わった際に、耐火電線の導体を構成する導体部と耐火導体シートの導体層との間に滑りやそれに伴う隙間の発生が起こらないようにして、耐火電線の外から導電性物質が浸入する隙間が耐火電線の導体に発生するのを防ぐことができる。
【0018】
また、本発明の第4の態様による耐火電線は、本発明の第1、第2又は第3の態様による耐火電線において、耐火層に積層した接着層の表面を、前記耐火導体シート同士の接合部分に接触させて、該接合部分に跨がって貼着された耐火テープをさらに備える。
【0019】
本発明の第4の態様による耐火電線によれば、本発明の第1、第2又は第3の態様による耐火電線において、導体部に巻装して導体部の周面を覆う耐火導体シート同士の接合部分が耐火テープによって覆われるので、耐火導体シート同士の接合部分から導体に高温の空気や火炎が達するのを防止することができる。
【0020】
また、耐火導体シートの接合部分を覆う耐火テープには、耐火導体シートの導体層のように、導体部と共に耐火電線の導体を構成する導体部分を設ける必要がない。このため、耐火導体シート同士の接合部分に貼着する耐火テープとして、耐火層を保護フィルムの一方の面に形成した一般的な耐火テープを利用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐火電線の導体と導体を保護する耐火物との間に隙間が生じるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る耐火電線の概略構成を示す斜視図である。
図2】(a)は図1の耐火電線の径方向における断面図、(b)は軸方向における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。
【0024】
以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0025】
図1は本発明の一実施形態に係る耐火電線の概略構成を示す斜視図である。図1に示す本実施形態の耐火電線1は、耐火電線1の導体3の中心部分を構成する導体部5と、導体部5に巻装された耐火導体シート7と、耐火導体シート7同士の接合部分に貼着された耐火テープ9とを有している。
【0026】
導体部5は、例えば、アルミや銅を素材とする円柱状の棒体であり、その周面51は、酸化防止膜等の絶縁被覆で覆わずに素材の表面を露出させて導電性を確保している。
【0027】
耐火導体シート7は、図2(a)の断面図に示すように、ポリエチレン等の絶縁性の素材による樹脂フィルム71(請求項中のベースフィルムに相当)の一方の接着面に、雲母の鱗片からなる耐火層73を貼り付け、さらに、耐火層73の表面に接着層75により導体層77を貼り付けて積層した、可撓性を有する積層シートで構成されている。
【0028】
導体層77は、導体部5と同じくアルミや銅を素材とする可撓性のシート状に形成されている。導体層77の表面79は、導体部5の周面51と同じく、酸化防止膜等の絶縁被覆で覆わずに素材の表面を露出させて導電性を確保している。
【0029】
耐火テープ9は、帯状の樹脂フィルム91、耐火層93及び接着層95を有している。耐火テープ9の樹脂フィルム91、耐火層93及び接着層95は、耐火導体シート7の樹脂フィルム71、耐火層73及び接着層75と同じ素材及び構成で形成されている。
【0030】
以上の構成を有する本実施形態の耐火電線1において、耐火導体シート7は、導体層77の表面79を導体部5の周面51に接触させて、導体部5に縦添えで巻装されている。これにより、導体部5とこれに巻装した耐火導体シート7との全体で、図2(a)に示す断面構造の耐火電線1が構成される。
【0031】
具体的には、導体部5とその周面51に表面79を接触させた導体層77とは、一体となって棒状の導体3を構成している。また、導体層77に接着層75を介して貼り付けた耐火層73は、耐火電線1の導体3の耐火層を構成している。さらに、耐火層73を接着面に貼り付けた樹脂フィルム71は、耐火電線1の絶縁被覆を構成している。
【0032】
ところで、上述した導体部5は、耐火電線1の全長に亘る長さを中心軸方向に有している。このため、導体部5の周面51には、図1に示すように、導体部5よりも短いサイズの耐火導体シート7が軸方向に複数並べて縦添えで巻装される。
【0033】
このため、図2(b)の断面図に示すように、導体部5の中心軸方向において隣り合う2つの耐火導体シート7,7の間には、導体部5の周方向に延在する接合部分81が、導体部5の周面51に達する深さで発生する。
【0034】
また、導体部5の周面51に縦添えで巻装した各耐火導体シート7にも、耐火導体シート7の両端が突き合わさる箇所に、図2(a)に示すように、導体部5の中心軸方向に延在する接合部分83が、導体部5の周面51に達する深さで発生する。
【0035】
そこで、これらの接合部分81,83には溶接を施して隙間をなくす。これにより、導体部5や導体層77に達して漏電の原因となる導電性物質が接合部分81,83から浸入するのを防ぐことができる。
【0036】
なお、接合部分83については、溶接するだけでは、発火の原因となる高温の空気や火炎が接合部分81,83から導体部5や導体層77に達するのを十分に防止することができない場合がある。その場合は、図1に示すように、溶接後の接合部分83を耐火テープ9でさらに覆う。
【0037】
この場合、耐火導体シート7の接合部分83は溶接により既に物理的にシールされているので、耐火導体1の導体3を構成する要素を耐火テープ9に設ける必要はない。耐火テープ9は、単に、接合部分83において導体部5や導体層77を高温や火炎から遮断する耐火耐熱機能を有していればよい。
【0038】
このため、導体層77を有する耐火導体シート7とは異なり、耐火テープ9には、図2(a),(b)に示すように、樹脂フィルム91、耐火層93及び接着層95のみを有する一般的な耐火シートを利用することができる。
【0039】
このように構成された耐火電線1は、例えば、複数本撚り合わせて巻テープで押え、シースを被せて耐火ケーブルとして利用することができる。
【0040】
以上に説明した本実施形態の耐火電線1によれば、円柱状の導体部5とその周面51に巻装された耐火導体シート7の表面79が導体部5の周面51に接触する導体層77とで、耐火電線1の導体3を構成した。
【0041】
このため、耐火導体シート7の導体層77とこれに接着層75で貼り付けられた耐火層73とで、耐火電線1の導体3と耐火層73との境界を構成するようにして、導体3と耐火層73との間に滑りが生じたり滑りによる隙間が形成されないようにすることができる。
【0042】
なお、耐火導体シート7の導体層77と耐火層73とを、接着層75以外の手段によって固着積層するようにしてもよく、導体部5の周面51と耐火導体シート7の導体層77の表面79とを導電性を有する材料で接着するようにしてもよい。
【0043】
また、耐火導体シート7の接合部分83における高温、火炎の遮断を別途実現できるのであれば、接合部分83を耐火テープ9で覆う構成は省略してもよい。
【0044】
さらに、導体部5や導体層77の素材や線径(耐火電線1を撚り合わせて耐火ケーブルとする場合はスケア(sq))は、耐火電線1の導体3に求められる送電容量を満たす限り、任意に決めることができる。
【0045】
また、耐火導体シート7や耐火テープ9の耐火層73,93と接着層75,95との間にも、樹脂フィルム71,91をさらに設けても良い。なお、耐火層73,93の一方の面側にしか樹脂フィルム71,91が存在しない場合は、樹脂フィルム71,91を耐火層73,93よりも外側に配置するのが好ましい。それにより、耐火層73,93の雲母が剥離して脱落するのを防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、高温や火炎に晒されても長時間の使用に耐え得る耐火電線に適用して極めて有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 耐火電線
3 導体
5 導体部
7 耐火導体シート
9 耐火テープ
51 導体部周面
71,91 樹脂フィルム
73 耐火導体シートの耐火層
75 耐火導体シートの接着層
77 導体層
79 導体層表面
81,83 耐火導体シート同士の接合部分
93 耐火テープの耐火層
95 耐火テープの接着層
図1
図2