特許第6899307号(P6899307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

特許6899307蓄熱用マイクロカプセル及びマイクロカプセルシート
<>
  • 特許6899307-蓄熱用マイクロカプセル及びマイクロカプセルシート 図000003
  • 特許6899307-蓄熱用マイクロカプセル及びマイクロカプセルシート 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899307
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】蓄熱用マイクロカプセル及びマイクロカプセルシート
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20210628BHJP
【FI】
   C09K5/06 J
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-198144(P2017-198144)
(22)【出願日】2017年10月12日
(65)【公開番号】特開2018-76485(P2018-76485A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2020年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-211751(P2016-211751)
(32)【優先日】2016年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】永井 龍夫
(72)【発明者】
【氏名】荻野 明人
(72)【発明者】
【氏名】中西 伸夫
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−148676(JP,A)
【文献】 特開2007−145943(JP,A)
【文献】 特開2016−87537(JP,A)
【文献】 特開2005−134101(JP,A)
【文献】 特開2017−137437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00−5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯物質として少なくとも下記2種類の脂肪酸エステルを含有するマイクロカプセルであって、壁膜がポリウレタン膜又はポリウレア膜である蓄熱用マイクロカプセル。
(1)一般式[R−COO−R]で表され、総炭素数が23以下の脂肪酸エステル(以下「脂肪酸エステルA」という。)
(式中、Rは炭素数が7〜18の直鎖又は分岐の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、Rは炭素数が1〜4の直鎖又は分岐の飽和又は不飽和炭化水素基を表す。)。
(2)一般式[R−COO−R]で表され、総炭素数が20以上の脂肪酸エステル(以下「脂肪酸エステルB」という。)
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数が7〜18の直鎖又は分岐の飽和又は不飽和炭化水素基を表す。)。
【請求項2】
前記脂肪酸エステルAのR基がメチル基である請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項3】
前記脂肪酸エステルAのR基が、炭素数が13〜18の直鎖飽和炭化水素基である請求項1又は2に記載のマイクロカプセル。
【請求項4】
前記脂肪酸エステルBのR基及びR基の少なくとも一方が、炭素数が13〜18の直鎖飽和炭化水素基である請求項1又は2に記載のマイクロカプセル。
【請求項5】
前記脂肪酸エステルBのR基及びR基の両方が、炭素数が13〜18の直鎖飽和炭化水素基である請求項4に記載のマイクロカプセル。
【請求項6】
前記脂肪酸エステルAと脂肪酸エステルBの合計に対する脂肪酸エステルAの重量比が5〜30重量%である請求項1〜5のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項7】
前記芯物質中の脂肪酸エステルA及び脂肪酸エステルBの合計重量割合が80重量%以上である請求項1〜6のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項8】
前記壁膜が、多価イソシアネート及び多価アルコールから成るポリウレタン膜である請求項1〜7のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項9】
前記多価イソシアネートが、(i)脂肪族多価イソシアネート又は(ii)脂肪族多価イソシアネート及び芳香族多価イソシアネートの混合物である請求項8に記載のマイクロカプセル。
【請求項10】
前記脂肪族多価イソシアネートと前記芳香族多価イソシアネートの配合比率(脂肪族多価イソシアネート:芳香族多価イソシアネート)が重量比で1:0〜1である請求項9に記載のマイクロカプセル。
【請求項11】
前記多価アルコールが重合度1200以下のポリビニルアルコールである請求項8〜10のいずれか一項に記載のマイクロカプセル。
【請求項12】
支持体上の少なくとも一方の面に、請求項1〜11のいずれか一項に記載の蓄熱用マイクロカプセルを含有するマイクロカプセル層を有するマイクロカプセルシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱性(保熱性)に優れ、芯物質の漏出が抑制された蓄熱用マイクロカプセル、及びそれを用いたマイクロカプセルシートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーの有効な利用方法として、化学物質の潜熱を利用する技術が提唱されている。この技術は化学物質の相変化点での潜熱を利用するものであり、使用する蓄熱材としては潜熱の高いパラフィンに代表される炭化水素化合物等の有機物質が知られている。このような蓄熱材として2種類の炭化水素化合物を使用した高熱量で熱応答性の高い蓄熱材が開示されている(特許文献1等)。
また、蓄熱材の相変化による蓄熱材の漏出を防止するために、蓄熱材をマイクロカプセル化する技術が知られている。マイクロカプセル化技術は、疎水性の蓄熱材と水系溶媒をO/W型(水中油型)のエマルジョンとして、疎水性の蓄熱材を芯物質としてその周囲にマイクロカプセルの壁膜を形成する技術であり、メラミンとホルムアルデヒドを水性溶媒に混合し、更に蓄熱材と混合して乳化させた後に、蓄熱材を芯物質としてその周囲でメラミンとホルムアルデヒドを重縮合させてメラミン樹脂の壁膜を形成するin−situ法(特許文献2等)や、蓄熱材と多価イソシアネート又は多価アミンを混合し、これとは別に水性溶媒に多価アルコールを混合し、両者を混合して乳化させた後に、蓄熱材を芯物質としてその周囲でポリウレタン樹脂又はポリウレア樹脂の壁膜を形成する界面重合法(特許文献3等)が知られている。ポリウレタン樹脂又はポリウレア樹脂の壁膜は、イソシアネートの反応性が高く有害物質が放出されない、壁膜の強度が強く破壊されにくいなど、一般にメラミン樹脂の壁膜より優れる点が多い。
【0003】
蓄熱材をポリウレタン樹脂又はポリウレア樹脂の壁膜を用いてマイクロカプセル化する場合には、蓄熱材として使用される有機物質は極性が低いものが多く、極性が高いイソシアネートは蓄熱材への溶解性が低いため、壁膜の強度を強くすることが困難であった。この問題を解決するため、特定構造の多価イソシアネート化合物を用いてイソシアネートの蓄熱材への溶解性を高める技術(特許文献4)やイソシアネートの溶解性が高い飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸を蓄熱材として使用する技術(特許文献5)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−145942
【特許文献2】特開2002−038136
【特許文献3】特開2006−233342
【特許文献4】特開2009−091472
【特許文献5】特開2007−244935
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイクロカプセルのポリウレタン樹脂又はポリウレア樹脂の壁膜の強度を強くするためには、特許文献4に記載の技術では、十分な壁膜の強度が得られるだけの溶解性は得られていない。また、特許文献5に記載の技術では、イソシアネートを飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸に溶解させると、脂肪酸が有するカルボキシ基とイソシアネート基が反応して壁膜の形成を阻害する問題や、飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸は僅かではあるが水に溶解するため、乳化分散時に蓄熱材がO/W型のエマルジョンに残留して、得られたマイクロカプセルに内包されない問題がある。
そこで、本発明は、蓄熱性(保熱性)に優れると共に芯物質の漏出が抑制されたマイクロカプセル及びそれを用いたマイクロカプセルシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、芯物質として少なくとも2種類の特定構造の脂肪酸エステルを含有させ、ポリウレタン樹脂又はポリウレア樹脂の壁膜を有するマイクロカプセルを作製することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、芯物質として少なくとも下記2種類の脂肪酸エステルを含有するマイクロカプセルであって、壁膜がポリウレタン膜又はポリウレア膜である蓄熱用マイクロカプセルである。
(1)一般式[R−COO−R]で表され、総炭素数が23以下の脂肪酸エステル(以下「脂肪酸エステルA」という。)
(式中、Rは炭素数が7〜18の直鎖又は分岐の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、Rは炭素数が1〜4の直鎖又は分岐の飽和又は不飽和炭化水素基を表す。)。
(2)一般式[R−COO−R]で表され、総炭素数が20以上の脂肪酸エステル(以下「脂肪酸エステルB」という。)
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数が7〜18の直鎖又は分岐の飽和又は不飽和炭化水素基を表す。)。
また、本発明は、支持体上の少なくとも一方の面に、この蓄熱用マイクロカプセルを含有するマイクロカプセル層を有するマイクロカプセルシートである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、蓄熱性(保熱性)に優れると共にマイクロカプセルの壁膜の強度と緻密性に優れ、内包する蓄熱性(保熱性)を有する芯物質の漏出が抑制されたマイクロカプセル及びそれを用いたマイクロカプセルシートを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例における壁膜の強度を測定するための試験方法を示す図である。
図2】比較例1のマイクロカプセルスラリーを作製した際に生成した沈殿物を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[芯物質]
本発明のマイクロカプセルは、芯物質として少なくとも2種の特定構造の脂肪酸エステル(下記の脂肪酸エステルAと脂肪酸エステルB)を含有する。
本発明のマイクロカプセルの壁膜の強度と緻密性が優れ、芯物質の漏出が抑制される理由は明らかではないが、芯物質として、一方に短鎖の炭化水素鎖を有する脂肪酸エステルAと両方に長鎖の炭化水素鎖を有する脂肪酸エステルBを併用することにより、多価イソシアネートの芯物質への溶解性が向上し、多価イソシアネートと多価アルコールの反応性が調整されて、壁膜形成が均一に進行するため、緻密かつ十分な強度を有する壁膜が得られるものと推定される。
【0010】
(1)脂肪酸エステルA:一般式[R−COO−R]で表され、総炭素数が23以下、好ましくは20以下、より好ましくは19以下、の脂肪酸エステル
式中、Rは、炭素数が7〜18、好ましくは13〜18、より好ましくは15〜17である、直鎖又は分岐の、好ましくは直鎖の、飽和又は不飽和の、好ましくは飽和の炭化水素を表し、より好ましくはアルキル基を表す。
が飽和炭化水素基、特にアルキル基であると、固体状態と液体状態に相変化を繰り返しても酸化などの化学変化を起こしにくいため好ましい。
は、炭素数が1〜4、好ましくは1〜2、より好ましくは1である、直鎖又は分岐の、好ましくは直鎖の、飽和又は不飽和の、好ましくは飽和の炭化水素を表し、より好ましくはアルキル基を表す。
が飽和炭化水素基、特にアルキル基であると、芳香族多価イソシアネート及び脂肪族多価イソシアネートの溶解性が高いため好ましい。
脂肪酸エステルAは、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0011】
脂肪酸エステルAとしては、例えば、カプリン酸メチル、カプリン酸エチル、カプリン酸プロピル、カプリン酸イソプロピル、カプリン酸ブチル、カプリン酸イソブチル、カプリン酸t−ブチル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ブチル、ラウリン酸イソブチル、ラウリン酸t−ブチル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸プロピル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ミリスチン酸イソブチル、ミリスチン酸t−ブチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸プロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ブチル、パルミチン酸イソブチル、パルミチン酸t−ブチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸プロピル、ステアリン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸イソブチル、ステアリン酸t−ブチルなどが例示できる。
脂肪酸エステルAとしては、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステルであると、蓄熱性(保熱性)が優れるためより好ましく、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステルがさらに好ましい。
特に、脂肪酸エステルAがパルミチン酸メチル、ステアリン酸メチルであると、芳香族多価イソシアネート及び脂肪族多価イソシアネートの溶解性と蓄熱性(保熱性)のバランスが良好であるため好ましい。
【0012】
(2)脂肪酸エステルB:一般式[R−COO−R]で表され、総炭素数が20以上、好ましくは26以上、より好ましくは28以上、更に好ましくは30以上、の脂肪酸エステル。
式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数が7〜18、好ましくは13〜18、より好ましくは15〜17である、直鎖又は分岐の、好ましくは直鎖の、飽和又は不飽和の、好ましくは飽和の炭化水素を表し、より好ましくはアルキル基を表す。なお、R及びRは、同じであってもよい。
本発明では、RとRの少なくとも一方の、好ましくは両方の、炭素数が13〜18であることが好ましく、15〜17であることがより好ましい。
また、本発明では、RとRの少なくとも一方、好ましくは両方が、直鎖飽和炭化水素、特に直鎖アルキル基であることが好ましい。
脂肪酸エステルBは、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0013】
脂肪酸エステルBとしては、例えば、カプリン酸カプリル、カプリン酸ラウリル、カプリン酸ミリスチル、カプリン酸パルミチル、カプリン酸ステアリル、ラウリン酸カプリル、ラウリン酸ラウリル、ラウリン酸ミリスチル、ラウリン酸パルミチル、ラウリン酸ステアリル、ミリスチン酸カプリル、ミリスチン酸ラウリル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸パルミチル、ミリスチン酸ステアリル、パルミチン酸カプリル、パルミチン酸ラウリル、パルミチン酸ミリスチル、パルミチン酸パルミチル、パルミチン酸ステアリル、ステアリン酸カプリル、ステアリン酸ラウリル、ステアリン酸ミリスチル、ステアリン酸パルミチル、ステアリン酸ステアリルなどが例示できる。
脂肪酸エステルBとしては、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、又は脂肪酸ミリスチル、脂肪酸パルミチル、脂肪酸ステアリルであると、蓄熱性(保熱性)に優れるためより好ましい。
特に、脂肪酸エステルBがステアリン酸ステアリルであると、ステアリン酸は動植物の油脂に多く含まれるカルボン酸であり、これを原料とするステアリン酸ステアリルは、生態及び環境に安全な物質であること、容易かつ安価に入手できること、比較的高い潜熱(約220kJ/mol)を持つこと、融点(約60℃)付近で壁膜であるポリウレタン膜又はポリウレア膜の形成反応が促進されることなど、多くの利点があるため好ましい。
【0014】
脂肪酸エステルAと脂肪酸エステルBの合計に対する脂肪酸エステルAの重量比は、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%であり、より好ましくは少なくとも20重量%である。
脂肪酸エステルBを単独で用いた場合は、多価イソシアネートは脂肪酸エステルBへの溶解性が低いため、壁膜の強度と緻密性に優れたマイクロカプセルを得ることが困難となる。また、十分な蓄熱性(保熱性)も得られない(後記比較例1参照)。前者については、十分な壁膜の強度と緻密性が得られるだけの溶解性が得られないためと考えられる。また、後者については、マイクロカプセルスラリーを作製する際に、スラリー中に若干の沈殿物が生じた(図2)ことから推察されるように、未溶解の多価イソシアネートが沈殿物となって系内に残留し、カプセル化反応を阻害したり生成したカプセルを破壊したりしたためと考えられる。脂肪酸エステルAと併用することにより、前述のとおり多価イソシアネートの芯物質への溶解性が向上して、これらの問題が解消されるものと考えられる。
また、脂肪酸エステルAと脂肪酸エステルBの合計に対する脂肪酸エステルAの重量比は、好ましくは70重量%以下、より好ましくは50重量%以下、更に好ましくは30重量%以下である。最も好ましくは20重量%以上30重量%以下である。長鎖炭化水素基を2つ有する脂肪酸エステルBは蓄熱性(保熱性)に貢献すると考えられるが、脂肪酸エステルAは一般に融点が低いため、脂肪酸エステルAと併用する場合には、脂肪酸エステルAが多いと、蓄熱性(保熱性)が低下する傾向にある(後記実施例1,3,4参照)。
脂肪酸エステルAが更に多いと、所望するマイクロカプセルの蓄熱性(保熱性)が得られにくくなり(後記比較例2参照)、脂肪酸エステルAを単独で用いた場合は、得られるマイクロカプセルは蓄熱性(保熱性)が低いものに限定される。
【0015】
本発明では、芯物質の全量が脂肪酸エステルA及び脂肪酸エステルBであることが好ましいが、芯物質として脂肪酸エステルA及び脂肪酸エステルBに加えてこれら以外の物質を併用してもよい。
本発明において、脂肪酸エステルA及び脂肪酸エステルB以外の芯物質として、脂肪酸エステルA及び脂肪酸エステルB以外の脂肪酸エステルを用いてもよく、また、テトラデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、パラフィンワックス等の脂肪族炭化水素化合物、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類、ベンゼン、p−キシレン等の芳香族炭化水素化合物、ステアリルアルコール等のアルコール類などを用いてもよい。
芯物質として脂肪酸エステルA及び脂肪酸エステルB以外の物質を併用する場合、芯物質中の脂肪酸エステルA及び脂肪酸エステルBの合計重量割合は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%である。
【0016】
[壁膜]
本発明のマイクロカプセルは、ポリウレタン膜又はポリウレア膜を壁膜として有する。
ポリウレタン膜は多価イソシアネートと多価アルコールとから成ることが好ましい。
ポリウレア膜は多価イソシアネートと多価アミンとから成ることが好ましい。
本発明においては、壁膜としてポリウレタン膜が好ましい。
【0017】
[イソシアネート]
本発明では、緻密な壁膜を得るため、多価イソシアネートは、好ましくは脂肪族多価イソシアネート及び/又は芳香族多価イソシアネートであり、より好ましくは(i)脂肪族多価イソシアネート又は(ii)脂肪族多価イソシアネート及び芳香族多価イソシアネートの混合物であり、更に好ましくは脂肪族多価イソシアネート及び芳香族多価イソシアネートの混合物である。
多価イソシアネートとして脂肪族多価イソシアネート及び芳香族多価イソシアネートを併用した場合には、十分な壁膜の強度が得られるだけの溶解性を得ることと、多価イソシアネートと多価アルコールの反応性を調整することが、特に容易となるとものと推定される。
【0018】
本発明で使用する脂肪族多価イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネートなどが例示できる。また、芳香族多価イソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4'−ジイソシアネートなどが例示できる。本発明で使用するこれらのポリマーであるイソシアヌレート体、ビウレット体等も使用可能である。
本発明では、脂肪族多価イソシアネートとしてはヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体が好ましく、芳香族多価イソシアネートとしてはジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネートが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体とジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネートを併用することがより好ましい。
本発明では、脂肪族多価イソシアネートと芳香族多価イソシアネートの含有量が、芯物質100重量部に対して脂肪族多価イソシアネートと芳香族多価イソシアネートの合計で10〜30重量部であると、緻密な壁膜を有し蓄熱性(保熱性)に優れたマイクロカプセルが容易に得られるため好ましい。また、脂肪族多価イソシアネートと芳香族多価イソシアネートの配合比率(脂肪族多価イソシアネート:芳香族多価イソシアネート)は重量比で、好ましくは1:0〜1、より好ましくは1:0〜0.4である。
【0019】
[多価アルコール]
本発明で使用する多価アルコールとしては、アラビアゴム、カルボキシセルロース、でんぷん、ポリビニルアルコール、エチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリル系共重合体、スチレンスルホン酸系共重合体などが例示できる。本発明では、イソシアネートと反応する水酸基の分子内比率が高く、壁膜の形成が容易であるため、ポリビニルアルコールが好ましい。
本発明で使用するポリビニルアルコールとしては、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシル基、カルボニル基、アセチルアセトン基などで変性した変性ポリビニルアルコールなどが例示できる。
本発明では、厚さが均一な壁膜が容易に得られるため、部分ケン化ポリビニルアルコールが好ましい。また、ポリビニルアルコールの重合度は1200以下であることが好ましく、200〜1200であることがより好ましい。特に好ましくは、重合度が200〜1200である部分ケン化ポリビニルアルコールである。
【0020】
[多価アミン]
本発明で使用する多価アミンとしては、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミンなどが挙げられる。
脂肪族ポリアミンとしては、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、4−アミノメチルオクタメチレンジアミン、3,3′−イミノビス(プロピルアミン)、3,3′−メチルイミノビス(プロピルアミン)、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリス(2−アミノエチル)アミン、1,2−ビス(3−アミノプロピルオキシ)エタン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。
芳香族ポリアミンとしては、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルエーテル、2,4−(又はm−、o−)トリレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、ベンジジン、ビス(3,4−ジアミノフェニル)スルホン、ジアミノナフタレンなどが挙げられる。
【0021】
[マイクロカプセルの作製方法]
本発明のマイクロカプセルは、上記芯物質に多価イソシアネートを溶解させる工程、水性溶媒に多価アルコール及び/又は多価アミンを溶解させる工程、及びこれら2つの溶解液を加温状態で乳化混合する工程から成る製法により製造することができる。
本発明のマイクロカプセルは、芯物質に多価イソシアネートを含有させ、水性溶媒に多価アルコールを含有させ、両者を乳化混合してO/W型エマルジョンとした後に、芯物質の周囲でポリウレタン膜を形成させる界面重合法により壁膜を形成することが好ましい。界面重合法により形成させたポリウレタン膜は、他の方法により形成させたポリウレタン膜より緻密性が高く、芯物質の漏出が抑制されるため好ましい。
なお、界面重合時の多価イソシアネートと多価アルコールの配合比率は、NCO:OHのモル比が好ましくは1:1〜2、より好ましくは1:1〜1.5である。
また、多価イソシアネートと多価アルコールから形成されるウレタンと芯物質との重量比(ウレタン:芯物質)は、好ましくは1:1.5〜9、より好ましくは1:2.3〜4である。
このようにして得られた蓄熱用マイクロカプセルの使用に適した温度範囲は、好ましくは40℃〜80℃、より好ましくは45℃〜65℃程度である。
【0022】
[マイクロカプセルの平均粒子径]
本発明のマイクロカプセルの平均粒子径は、適宜調整可能であり特に制限はないが、レーザー光散乱法で測定した体積50%平均粒子径(以下、「D50」ともいう。)が5.0μm以上30.0μm以下であることが好ましい。D50が5.0μm未満であると、マイクロカプセル中において壁膜が占める割合が相対的に増加し、内包する芯物質が相対的に減少するため、十分な蓄熱性(保熱性)が得られないことがある。また、D50が30.0μmを超えると、壁膜の厚さと緻密性が低下して、芯物質の漏出が十分に抑制されないことがある。
なお、レーザー光散乱法によるD50の測定は、MALVERN社製MASTER SIZER Sなどを使用して行うことが可能である。
【0023】
[マイクロカプセルシート]
本発明のマイクロカプセルシートは、上質紙、再生紙、塗工紙、あるいは合成紙、プラスチックフィルム等のシート状物からなる支持体上の少なくとも一方の面に、上記本発明のマイクロカプセルを含有するマイクロカプセル層を有する。
このマイクロカプセル層は、必要に応じて、更にバインダー、ステー剤、増粘剤、その他の添加剤を含んでもよい。これらは要求品質に応じて併用してもよい。
これらのバインダー、ステー剤、その他の添加剤は、水、アルコール、ケトン類、エステル類、炭化水素などの溶剤に溶かして使用するほか、水又は他の媒体中に乳化又はペースト状に分散した状態で使用してもよい。
一例として、上記マイクロカプセル及び上記任意のバインダー、ステー剤、その他の添加剤を含有する塗工液を、支持体上の少なくとも一方の面に塗工、乾燥することにより、マイクロカプセル層を形成することができる。
【0024】
本発明のマイクロカプセルシートで使用するバインダーとしては、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、アマイド変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、ブチラール変性ポリビニルアルコール、オレフィン変性ポリビニルアルコール、ニトリル変性ポリビニルアルコール、ピロリドン変性ポリビニルアルコール、シリコーン変性ポリビニルアルコール、その他の変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体並びにエチルセルロース、アセチルセルロースのようなセルロース誘導体、カゼイン、アラビヤゴム、酸化澱粉、エーテル化澱粉、ジアルデヒド澱粉、エステル化澱粉、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリビニルブチラール、ポリスチロース及びそれらの共重合体、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、ケトン樹脂、クマロン樹脂などを例示することができる。
本発明のマイクロカプセルシートにおいて、バインダーの配合量は、マイクロカプセル層の固形分100重量部に対して、20〜200重量部であることが好ましく、50〜100重量部であることがより好ましい。
【0025】
本発明のマイクロカプセルシートにおいて、加圧によるマイクロカプセル破壊を抑制するために、マイクロカプセル層に更にステー剤を含有させてもよい。使用できるステー剤としては、例えば、澱粉粒、セルロース繊維、天然高分子の微粒子などが挙げられる。
【0026】
本発明のマイクロカプセルシートにおいて、支持体上にマイクロカプセル層を形成する手段は、特に限定されるものではなく、本技術分野の周知慣用技術を適宜利用することができる。
また、上記塗工液を塗工するための塗工装置としては、一般的な塗工装置であるロッドブレードコーター、ベントブレードコーター、ベベルブレードコーター、バーブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、ゲートロールコーター、カーテンコーター、ダイコーター、カーテンダイコーター、グラビアコーター、フレキソグラビアコーター、スプレーコーター、サイズプレス等の各種装置を、オンマシン又はオフマシンで適宜使用することができる。
本発明においてこれらの塗工装置を使用する場合は、エアーナイフコーター、カーテンコーター、カーテンダイコーターを使用して塗工液を塗工すると、ロッドブレードコーター等の、ブレード等を押し付けて塗工液を掻き取る塗工装置を使用して塗工するよりも、塗工時に塗工液中のマイクロカプセルが破壊されにくいため好ましい。
本発明のマイクロカプセルシートのマイクロカプセル層の塗工量は、所望するマイクロカプセルシートの蓄熱性(保熱性)等に応じて適宜選択可能であり特に制限されないが、支持体の片面あたり、通常固形分で10〜100g/m程度である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。なお、部及び%は、特にことわらない限り重量部及び重量%を表す。
【0028】
[実施例1]
ステアリン酸メチル(和光純薬工業株式会社製)20部をビーカーに入れ、60℃に加温して溶解した。次いで、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(東ソー株式会社製芳香族多価イソシアネート、商品名:ミリオネートMR−300)2.4部及びイソシアヌレート基含有ポリイソシアネート(DIC株式会社製脂肪族多価イソシアネート、商品名:DN902S)4.8部を加えて溶解した。別途、ステアリン酸ステアリル(和光純薬工業株式会社製)80部をビーカーに入れ、60℃に加温して溶解した。次いで、上記ステアリン酸メチルと芳香族多価イソシアネート、脂肪族多価イソシアネートの混合溶解液をこのステアリン酸ステアリルの溶解液に加えて、60℃に加温しながら均一になるまで十分に撹拌した。
得られた溶液を、60℃に加温した部分ケン化ポリビニルアルコール水溶液(株式会社クラレ製、商品名:PVA205、重合度500、固形分5%)260部中に混合し、撹拌機を使用して乳化分散を行った。得られたエマルジョンは、体積50%平均粒子径(D50)が8.5μmのO/W型エマルジョンであった。このO/W型エマルジョンを80℃に加温したウオーターバス中で撹拌しながら90分間壁膜の形成反応を続けた後、常温まで冷却し、濃度調整のため水を添加した。その結果、固形分25%のマイクロカプセルスラリーを得た。得られたスラリー中のマイクロカプセルの体積50%平均粒子径(D50)は10.0μmであった。
【0029】
[実施例2]
ステアリン酸ステアリル20部をパルミチン酸パルミチル(和光純薬工業株式会社製)20部に変更した以外は実施例1と同様にしてマイクロカプセルスラリーを得た。
[実施例3]
ステアリン酸メチルの配合量20部を40部に、ステアリン酸ステアリルの配合量80部を60部に、それぞれ変更した以外は実施例1と同様にしてマイクロカプセルスラリーを得た。
[実施例4]
ステアリン酸メチルの配合量20部を60部に、ステアリン酸ステアリルの配合量80部を40部に、それぞれ変更した以外は実施例1と同様にしてマイクロカプセルスラリーを得た。
[実施例5]
ステアリン酸メチル20部をパルミチン酸メチル(東京化成工業株式会社製)20部に変更した以外は実施例1と同様にしてマイクロカプセルスラリーを得た。
[実施例6]
ステアリン酸メチル20部をミリスチン酸メチル(東京化成工業株式会社製)20部に変更した以外は実施例1と同様にしてマイクロカプセルスラリーを得た。
[実施例7]
ステアリン酸ステアリル20部をミリスチン酸ミリスチル(花王株式会社製)20部に変更した以外は実施例1と同様にしてマイクロカプセルスラリーを得た。
【0030】
[比較例1]
ステアリン酸メチルを配合せず、ステアリン酸ステアリルの配合量80部を100部に変更した以外は実施例1と同様にしてマイクロカプセルスラリーを作製した。このマイクロカプセルスラリー中に、若干の沈殿物が生じた(図2)。この沈殿物の体積50%平均粒子径(D50)は150μmであった。
[比較例2]
ステアリン酸ステアリルを配合せず、ステアリン酸メチルの配合量20部を100部に変更した以外は実施例1と同様にしてマイクロカプセルスラリーを作製した。
【0031】
[比較例3]
ミリスチン酸ドデシル(和光純薬工業株式会社製)50部とデカン酸デシル(和光純薬工業株式会社製)50部をビーカーに入れ、40℃に加温して溶解した。次いで、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(東ソー株式会社製芳香族多価イソシアネート、商品名:ミリオネートMR−300)2.4部及びイソシアヌレート基含有ポリイソシアネート(DIC株式会社製脂肪族多価イソシアネート、商品名:DN902S)4.8部を加えて溶解した。
得られた溶液を、40℃に加温した部分ケン化ポリビニルアルコール水溶液(株式会社クラレ製、商品名:PVA205、重合度500、固形分5%)260部中に混合し、撹拌機を使用して乳化分散を行った。得られたエマルジョンは、体積50%平均粒子径(D50)が8.5μmのO/W型エマルジョンであった。このO/W型エマルジョンを80℃に加温したウオーターバス中で撹拌しながら90分間壁膜の形成反応を続けた後、常温まで冷却し、濃度調整のため水を添加した。その結果、固形分25%のマイクロカプセルスラリーを得た。得られたスラリー中のマイクロカプセルの体積50%平均粒子径(D50)は10.0μmであった。
【0032】
上記で作製したマイクロカプセルについて、下記評価を行った。
[蓄熱性(保熱性)]
厚さ100μmのPETフィルムの片面上に、作製したマイクロカプセルスラリーを、乾燥後の塗工量が20g/mとなるように塗工し、80℃に保った送風乾燥機で1分間乾燥してマイクロカプセル層を形成し、23℃、50%RHの環境下で24時間静置してマイクロカプセルシートを得た。
このマイクロカプセルシートを60℃の乾燥機内に1分間静置し(蓄熱処理)、底面φ70mmのステンレス製カップの底面と側面に、蓄熱処理後のマイクロカプセルシートをマイクロカプセル層を内側にして巻き付け、カップに45℃の温水20mlを注いだ。2分後の温水の温度を測定して、蓄熱性(保熱性)を評価した。
【0033】
[壁膜の緻密性]
厚さ100μmのPETフィルムの片面上に、作製したマイクロカプセルスラリーを、乾燥後の塗工量が20g/mとなるように塗工し、80℃に保った送風乾燥機で1分間乾燥してマイクロカプセル層を形成し、23℃、50%RHの環境下で24時間静置してマイクロカプセルシートを得た。
このマイクロカプセルシートを120℃で2時間加熱処理して、加熱前後の重量差から壁膜の緻密性を評価した。重量差が小さいほど、芯物質の漏出が少なく、壁膜の緻密性が高いといえる。
重量差(g/m)=(加熱処理前の重量(g/m))−(加熱処理後の重量(g/m))
【0034】
[壁膜の強度]
上記壁膜の緻密性の試験で作製したマイクロカプセルシートから5cm×5cmの測定サンプルを切り出し、図1に示すように積層し、200gf/cmの荷重を掛けて60℃で24時間加熱処理した。この加熱処理後にあぶらとり紙への芯物質の付着状態を目視で観察し、これを壁膜の強度として評価した。あぶらとり紙への芯物質の付着は芯物質の漏出によるものであり、即ち壁膜の強度の弱さによるものといえる。
○:あぶらとり紙に芯物質の付着がない。
△:あぶらとり紙に芯物質が点状に付着している。
×:あぶらとり紙の全面に芯物質が付着している。
【0035】
評価結果を表1に示す。
【表1】
【0036】
表1から、マイクロカプセルの芯物質として脂肪酸エステルAと脂肪酸エステルBを含有する場合には、蓄熱性(保熱性)に優れると共に、壁膜の緻密性と強度が優れ芯物質の漏出が抑制されていることがわかる(実施例1〜7)。
また、蓄熱性(保熱性)をみると、脂肪酸エステルAと脂肪酸エステルBの合計に対する脂肪酸エステルAの重量比が30重量%以下のものが最も良い(実施例3、4に対する実施例1)。
一方、マイクロカプセルの芯物質として脂肪酸エステルBのみを含有する場合、蓄熱性(保熱性)が劣るとともに、壁膜の緻密性と強度が劣る(比較例1)。
また、マイクロカプセルの芯物質として脂肪酸エステルAのみを含有する場合には、特に、蓄熱性(保熱性)が劣る(比較例2)。
また、脂肪酸エステルAを含有しない場合には、蓄熱性(保熱性)が劣るとともに、壁膜の緻密性と強度が劣る(比較例3)。
図1
図2