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特許6899324超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性層を形成する方法において使用するための液体コーティング組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899324
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性層を形成する方法において使用するための液体コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   B05D 5/00 20060101AFI20210628BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20210628BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210628BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   B05D5/00 Z
   B05D1/36 Z
   B05D7/24 303E
   C09D183/04
【請求項の数】26
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-519997(P2017-519997)
(86)(22)【出願日】2015年7月2日
(65)【公表番号】特表2017-523917(P2017-523917A)
(43)【公表日】2017年8月24日
(86)【国際出願番号】EP2015065140
(87)【国際公開番号】WO2016001377
(87)【国際公開日】20160107
【審査請求日】2018年6月8日
(31)【優先権主張番号】14175443.2
(32)【優先日】2014年7月2日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517000036
【氏名又は名称】シラナ ゲーエムベーハー
(73)【特許権者】
【識別番号】517000047
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート チューリヒ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シーガー、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】オルベイラ、サンドロ
(72)【発明者】
【氏名】チュウ、ツォンリン
【審査官】 高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−144122(JP,A)
【文献】 特開2004−137137(JP,A)
【文献】 Junping Zhang et al.,"Superoleophobic Coatings with Ultralow Sliding Angles Based on Silicon Nanofilaments",Angewandte Chemie International Edition,ドイツ,2011年,Vol. 50, Issue 29,p.6652-6656
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D
B32B
C03C15/00−23/00
C09D1/00−10/00;101/00−201/10
C09K3/18
C23C24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超疎水性の層を形成し、表面上に超疎水性を付与するための方法であって、
a.溶媒と分散したシリコーンナノ粒子とを含む液体コーティング組成物を調製する工程、
b.任意に、表面に下塗りして、その上に超疎水性の層が形成されるべき下塗りされた表面を形成する工程、
c.超疎水性の層が形成されるべき前記表面又は下塗りされた表面上に前記液体コーティング組成物の層を塗布する工程、
d.前記液体コーティング組成物から前記溶媒を蒸発させて、超疎水性の層を形成し、前記表面又は下塗りされた表面上に超疎水性を付与する工程、
を含み、
ここで、前記分散したシリコーンナノ粒子は5〜500ppmの水を含む非プロトン性溶媒中で、式I:
Si(X (I)
(式中、
は、直鎖又は分枝のC(1−24)アルキル又はアルケニル基であり、
は、Clである。)
の少なくとも一つの化合物の重合により形成され、
前記シリコーンナノ粒子は、45〜100nmの直径を有するナノフィラメントの形状である、前記方法。
【請求項2】
前記工程a.において、前記分散したシリコーンナノ粒子が、前記液体コーティング組成物総重量に対し0.01〜40重量%の量で、前記液体コーティング組成物中に含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分散したシリコーンナノ粒子は60〜250ppmの水を含む非プロトン性溶媒中で、前記式Iの少なくとも一つの化合物の重合により形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記分散したシリコーンナノ粒子は重合によって形成され、前記式Iの少なくとも一つの化合物と水とのモル比は1を上回る、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記分散したシリコーンナノ粒子は重合によって形成され、前記式Iの少なくとも一つの化合物と水とのモル比は2:1〜1:1である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
さらに、e.前記超疎水性の層を70〜500℃の温度で熱的にアニールする工程を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
超疎水性が付与されるべき表面を下塗りして、下塗りされた表面を形成する工程b.は、溶媒と合成下塗樹脂を含み、溶媒の蒸発により下塗層を形成することができる液体下塗組成物の層を塗布する工程を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記液体コーティング組成物は、前記溶媒の蒸発によりマトリックス層を形成することができる合成マトリックス樹脂をさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記液体コーティング組成物中に含まれる前記溶媒が、プロトン性溶媒から選ばれる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記液体下塗組成物中に含まれる前記溶媒が、プロトン性溶媒から選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記液体コーティング組成物中に含まれる前記溶媒が、直鎖又は分枝のC(1−5)アルコール又はそれらの混合物から選ばれる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記液体下塗組成物中に含まれる前記溶媒が、直鎖又は分枝のC(1−5)アルコール又はそれらの混合物から選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記液体コーティング組成物は、前記組成物の空気噴霧化によって、前記組成物中で浸漬被覆することによって、塗料ローラ又はタンポンによって、静電塗装によって、溶射によって、又はインクジェット印刷によって塗布され、Rが直鎖又は分枝のC(1−24)アルケニル基である場合には、引き続いてUV又は電子ビームの照射によって硬化処理される、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記液体下塗組成物は、前記組成物の空気噴霧化によって、前記組成物中で浸漬被覆することによって、塗料ローラ又はタンポンによって、静電塗装によって、溶射によって、又はインクジェット印刷によって塗布され、Rが直鎖又は分枝のC(1−24)アルケニル基である場合には、引き続いてUV又は電子ビームの照射によって硬化処理される、請求項7、10、及び12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記液体コーティング組成物は、前記組成物の空気噴霧化によって、前記組成物中で浸漬被覆することによって、塗料ローラ又はタンポンによって、静電塗装によって、溶射によって、又はインクジェット印刷によって塗布され、Rがビニル基である場合には、引き続いてUV又は電子ビームの照射によって硬化処理される、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記液体下塗組成物は、前記組成物の空気噴霧化によって、前記組成物中で浸漬被覆することによって、塗料ローラ又はタンポンによって、静電塗装によって、溶射によって、又はインクジェット印刷によって塗布され、Rがビニル基である場合には、引き続いてUV又は電子ビームの照射によって硬化処理される、請求項7、10、及び12のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
超疎水性の層を形成し、表面上に超疎水性を付与するための液体コーティング組成物であって、溶媒と、シリコーンナノ粒子を含み、
ここで、前記分散したシリコーンナノ粒子は5〜500ppmの水を含む非プロトン性溶媒中で、式I:
Si(X (I)
(式中、
は、直鎖又は分枝のC(1−24)アルキル又はアルケニル基であり、
は、Clである)
の少なくとも一つの化合物の重合により形成され、
前記シリコーンナノ粒子は、45〜100nmの直径を有するナノフィラメントの形状である、前記組成物。
【請求項18】
超疎水性の層を形成し、表面上に超疎水性を付与するための液体コーティング組成物であって、溶媒と、液体コーティング組成物総重量に対し0.01〜40重量%の量で前記液体コーティング組成物中に分散したシリコーンナノ粒子を含み、
ここで、前記分散したシリコーンナノ粒子は60〜250ppmの水を含むトルエン中で、式I:
Si(X (I)
(式中、
は、直鎖又は分枝のC(1−24)アルキル又はアルケニル基であり、
は、Clである)
の少なくとも一つの化合物の重合により形成され、前記シリコーンナノ粒子は、45〜100nmの直径を有するナノフィラメントの形状である、前記組成物。
【請求項19】
前記分散したシリコーンナノ粒子は重合によって形成され、前記式Iの少なくとも一つの化合物と水とのモル比は1を上回る、請求項17又は18に記載の液体コーティング組成物。
【請求項20】
前記分散したシリコーンナノ粒子は重合によって形成され、前記式Iの少なくとも一つの化合物と水とのモル比は2:1〜1:1である、請求項17又は18に記載の液体コーティング組成物。
【請求項21】
前記シリコーンナノ粒子が45〜100nmの直径を有するナノフィラメントの形状である、請求項1720のいずれかに記載の液体コーティング組成物。
【請求項22】
前記シリコーンナノ粒子が45〜100nmの直径を有する、鎖状連結されたビーズ型モルフォロジーを有するナノフィラメントの形状である、請求項1720のいずれかに記載の液体コーティング組成物。
【請求項23】
前記液体コーティング組成物は、更に、前記溶媒の蒸発によりマトリックス層を形成することができる合成マトリックス樹脂を含む、請求項1722のいずれかに記載の液体コーティング組成物。
【請求項24】
前記液体コーティング組成物は、更に、前記溶媒の蒸発によりマトリックス層を形成することができる合成マトリックス樹脂を含み、前記合成マトリックス樹脂は、アクリル、アルキド又はフェノール樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、及びそれらの混合物の群から選択される、請求項1722のいずれかに記載の液体コーティング組成物。
【請求項25】
前記液体コーティング組成物は、更に、前記溶媒の蒸発によりマトリックス層を形成することができる合成マトリックス樹脂を含み、前記合成マトリックス樹脂は、アクリル、アルキド、又はフェノール樹脂から選択される、請求項17〜22のいずれかに記載の液体コーティング組成物。
【請求項26】
前記式Iの少なくとも一つの化合物は、トリクロロメチルシラン(TCMS)、トリクロロエチルシラン、及びトリクロロ(n−プロピル)シラン、並びにそれらの混合物から選択される、請求項1725のいずれかに記載の液体コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性層を形成するための液体コーティング組成物及び表面上に前記特性を付与する適切な方法、及びそのような方法の実施により得られる基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ハスの葉又はアメンボの脚部のような自然界における自己洗浄性材料に示唆され、160°を上回る水接触角を示す人工超疎水表面の開発が、複数の応用において行われている。
【0003】
特に、種々のポリ(シロキサン)を基にし、普通の言葉でシリコーンとして知られおり、気相蒸着法によりシランモノマーから直接基板表面上に「成長させた」コーティングは、複数の文献の主題であった。この技術分野において、化学蒸着(CVD)が、超疎水性、超疎油超性又は超両疎媒性を、シリコンウエハ、ガラス、繊維及びその他多数の基板に付与するための最良の方法として使用されてきた。
【0004】
例えば、EP 1 644 450 A1は2又は3個の加水分解性基を有する少なくとも1つのシラン化合物を含むコーティング用の組成物を開示しており、これは基板上に超疎水性コーティングを形成することができる。大部分の組成物が大気圧下で化学蒸着により塗布されているが、EP 1 644 450 A1は、コーティングを溶液中においても形成することができることを開示しており、そこでは、トルエンのような非プロトン性溶媒に未反応のシラン反応物を溶解した前記溶液を撹拌しながら、その中に清浄で、場合により活性化されている基板が浸漬される。シラン反応物が加水分解して、基板の表面のその場でシリコーンナノフィラメント(SNF)に重合されるまで、基板は前記溶液中に3〜4時間放置される。すなわち、コーティングは基板の表面上その場で「成長した」。
【0005】
US 8,067,765 B2は、基板上にナノテクスチャー表面を作成するために加水分解性シランベースの試薬から成る反応混合物を前記基板に接触することによる細繊維状のナノテクスチャーコーティングを基板上に堆積させる方法を開示している。シラン試薬はトルエンのような第一溶媒に含むことができ、反応混合物中に少量の水のような加水分解剤を含む基板に塗布される。しかしながら、この方法は基板を単量体シラン試薬を含む未反応の反応混合物に接触させ、反応生成物、すなわち細繊維状のナノテクスチャーコーティングを前記基板上に「成長させる」ことを必要とする。こうするには、基板上で細繊維状のナノテクスチャーコーティングを「成長させる」ために、含水量を注意深く制御しなければならない。この理由で、基板を、密封した反応容器に含まれる反応混合物中に完全に浸漬する必要がある。
【0006】
これらの方法のほとんどは基板上に完全に透明で自己洗浄性であるシリコーンコーティングを生成し、それらは複数の応用において好ましい性質である。
しかしながら、化学蒸着技術と上述の液浸法の不利な点は、被覆される基板を、CVDの場合制御された雰囲気の容器か、又は完全に基板を浸漬するためのコーティング溶液の量を保持するのに十分大きな容器に挿入しなければならないということである。
【0007】
理論的にはCVD及び/又は浸漬の如何なる装置でも任意のサイズに対応できるが、これは或るスケールで非実用的になる。例えば、石造物又は建物の窓のように大きい物体又はそれらの環境で固定される物体の場合、建物が適切な容器に入れられない限り、化学蒸着及び/又は浸漬によってその場で超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の特性を付与する実用的な方法がない。シリコーンナノフィラメントが基板上で成長するのに必要な時間(約数時間)が非常に長いために、フィラメントができる前にシラン及び/又は溶媒が蒸発するので、基板に遊離シラン反応物から成るコーティング組成物を塗布することは実際的でない。
【0008】
CVD及び/又は浸漬の両方の技術の更なる不利な点は、基板が酸性媒質、すなわち基板の表面で重合を促進する気体混合物又は酸を含む有機溶媒と直接接触しているということである。この問題は、例えばトリクロロメチルシランのようなハロゲン化されたシランモノマーを使用するとき、縮合反応中にさらに塩化水素酸さえも形成するので、さらに悪化する。
【0009】
更に、CVD及び/又は浸漬の両方の技術において成長する粒子を基板上に固定する唯一の方法は、粒子を基板に共有結合することによってである。
【0010】
このため、基板の寸法にかかわりなく実行でき、表面上にシリコーンナノフィラメント構造を形成するためにコーティング組成物に長期曝す必要がない、超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の特性を基板に付与するための代替の方法を提供することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】EP 1 644 450 A1
【特許文献2】US 8,067,765 B2
【発明の概要】
【0012】
本発明は、超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の層を形成し、表面上に前記特性を付与する方法を提供し、この方法は以下の工程を含む:
a.好ましくは液体コーティング組成物総重量に対し0.01〜40重量%の量で、溶媒と分散したシリコーンナノ粒子とを含む液体コーティング組成物を調製する工程、
b.任意に、表面に下塗りして、その上に超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の層が形成されるべき下塗りされた表面を形成する工程、
c.超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の層が形成されるべき表面又は下塗りされた表面上に前記液体コーティング組成物の層を塗布する工程、
d.前記液体コーティング組成物から前記溶媒を蒸発させて、超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の層を形成し、前記表面又は下塗りされた表面上に前記特性を付与する工程、
を含み、
ここで、前記分散したシリコーンナノ粒子は5〜500ppm、好ましくは60〜250ppm、より好ましくは75〜150ppmの水を含む非プロトン性溶媒中で、式I:
Si(R(X3−n (I)
(式中、
は、直鎖又は分枝のC(1−24)アルキル又はアルケニル基、芳香族基であり、単一共有結合、又は1〜8の炭素原子を有する直鎖又は分枝のアルキレン単位によってSi原子に結合し、
は、1〜6の炭素原子を有する直鎖又は分枝の炭化水素ラジカルであり、
は、加水分解性基であり、1以上のハロゲン又はアルコキシ基であり、
nは0又は1であり、好ましくは0である。)
【0013】
本発明は更に、超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の層を形成し、表面上に前記特性を付与するための液体コーティング組成物を提供し、前記組成物は、溶媒と、好ましくは液体コーティング組成物総重量に対し0.01〜40重量%の量で分散したシリコーンナノ粒子を含み、
ここで、前記分散したシリコーンナノ粒子は5〜500ppm、好ましくは60〜250ppmの水を含む非プロトン性溶媒、好ましくはトルエン中で、式I:
Si(R(X3−n (I)
(式中、
は、直鎖又は分枝のC(1−24)アルキル又はアルケニル基、芳香族基であり、単一共有結合、又は1〜8の炭素原子を有する直鎖又は分枝のアルキレン単位によってSi原子に結合し、
は、1〜6の炭素原子を有する直鎖又は分枝の炭化水素ラジカルであり、
は、加水分解性基であり、1以上のハロゲン又はアルコキシ基であり、
nは0又は1であり、好ましくは0である。)
の少なくとも一つの化合物の重合により形成される。
【0014】
本発明はまた、上記方法により得られる層を提供し、前記層は45〜100nmの直径を有するナノフィラメント又はナノチューブの形状であり、好ましくは鎖状連結されたビーズ型モルフォロジーを有するナノフィラメントの形状であるシリコーンナノ粒子を含む。
【0015】
本発明は更に、基板とコーティングとを含む被覆物品を提供し、前記コーティングは上記の記述による外側の超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の層と任意の中間の下塗り層を含む。
【0016】
さらに好ましい実施形態は、従属請求項と明細書中に記載する。
発明の好ましい実施例は、図面を参照して以下に記述され、これは説明だけを目的としたものであり、発明を制限するものではない。図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、シリコーンナノ粒子(1)と溶媒で構成された液体コーティング組成物を介して塗布されたシリコーンナノ粒子(1)で被覆された基板(2)の上面を表す。
図2図2は、シリコーンナノ粒子(1)で被覆された基板(2)の上面を表し、ここでシリコーンナノ粒子(1)は合成マトリックス樹脂(4)の層中に分散されている。この場合、液体コーティング組成物は、シリコーンナノ粒子(1)、合成マトリックス樹脂(4)と溶媒で構成されている。
図3図3は、シリコーンナノ粒子(1)で被覆された基板(2)の上面を表し、ここでシリコーンナノ粒子(1)は合成下塗樹脂(3)の層に部分的に囲まれている。この場合、液体コーティング組成物は、シリコーンナノ粒子(1)と溶媒で構成され、液体下塗組成物は合成下塗樹脂(3)と溶媒で構成される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における文脈では、「超疎水性層」の用語は、150°を上回る水滴の接触角を示す層のことを言い、25℃及び100kPaで5μLの水滴の光学接触角を、SCA 20ソフトウェアを実装しているDatapysics(Filderstadt/ドイツ)製の計測器OCA 20を使用して測定した。
【0019】
本発明における文脈では、「超疎油性層」の用語は、150°を上回るシクロヘキサン液滴の接触角を示す層のことを言い、25℃及び100kPaで5μLのシクロヘキサン液滴の光学接触角を、SCA 20ソフトウェアを実装しているDatapysics(Filderstadt/ドイツ)製の計測器OCA 20を使用して測定した。
【0020】
本発明における文脈では、「超両疎媒性層」の用語は、水滴及びシクロヘキサン液滴の両方に対して150°を上回る接触角を示す層のことを言い、25℃及び100kPaで5μLの液滴の光学接触角を、SCA 20ソフトウェアを実装しているDatapysics(Filderstadt/ドイツ)製の計測器OCA 20を使用して測定した。
【0021】
本発明における文脈では、「非プロトン性溶媒」の用語は、極性及び無極性非プロトン性溶媒を含む。
【0022】
本発明における文脈では、「ナノ粒子」の用語は、200nm未満、好ましくは100nm未満の少なくとも1つの寸法を有する粒子を意味する。
【0023】
本発明における文脈では、「直鎖又は分枝のC(1−24)アルキル基」の用語は、1〜16、より好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8の炭素原子を有する直鎖又は分枝の炭化水素ラジカルを好ましくは含み、最も好ましくは1〜4の炭素原子を有し、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルとイソブチル基を含む。
【0024】
本発明における文脈では、「芳香族」の用語は、フラン、フェニル、ピリジン、ピリミジン又はナフタレン、好ましくはフェニルのような5、6又は10員環系を含む置換されていてもよい炭素環及び複素環基を含み、それは、例えばメチル、エチル又はトリフルオロメチルのような置換されていてもよい低級アルキル基、例えばフッ素、塩素、臭素、好ましくは塩素のようなハロゲン、シアノ又はニトロ基によって置換されていないか又は置換されている。
【0025】
本発明における文脈では、「スペーサ単位」の用語は、1〜8の炭素原子、好ましくは1〜6、より好ましくは1、2又は3の炭素原子を有する直鎖又は分枝のアルキレン残基を含む。
【0026】
本発明における文脈では、「低級アルキル」の用語は、1〜6の炭素原子、好ましくは1〜3の炭素原子を有する直鎖及び分枝の炭化水素ラジカルを含む。メチル、エチル、プロピルとイソプロピル基が特に好ましい。
【0027】
本発明における文脈では、「加水分解性基」の用語は、例えばフッ素又は塩素、好ましくは塩素のようなハロゲン、又は、例えば1〜6の炭素原子、好ましくは1〜3の炭素原子を有する直鎖及び分枝のハイドロカーボンオキシラジカルのようなアルコキシ基を含みメトキシ、エトキシ、プロポキシ及びイソプロポキシ基が特に好ましい。
【0028】
本発明は超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の層を形成し、表面上に前記特性を付与する方法を提供し、この方法は以下の工程:
a.好ましくは液体コーティング組成物総重量に対し0.01〜40重量%の量で、溶媒と分散したシリコーンナノ粒子とを含む液体コーティング組成物を調製する工程、
b.任意に、表面に下塗りして、その上に超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の層が形成されるべき下塗りされた表面を形成する工程、
c.超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の層が形成されるべき表面又は下塗りされた表面上に前記液体コーティング組成物の層を塗布する工程、
d.前記液体コーティング組成物から前記溶媒を蒸発させて、超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の層を形成し、前記表面又は下塗りされた表面上に前記特性を付与する工程、
を含み、
ここで、前記分散したシリコーンナノ粒子は5〜500ppm、好ましくは60〜250ppm、より好ましくは75〜150ppmの水を含む非プロトン性溶媒中で、式I:
Si(R(X3−n (I)
(式中、
は、直鎖又は分枝のC(1−24)アルキル又はアルケニル基、芳香族基であり、単一共有結合、又は1〜8の炭素原子を有する直鎖又は分枝のアルキレン単位によってSi原子に結合し、
は、1〜6の炭素原子を有する直鎖又は分枝の炭化水素ラジカルであり、
は、加水分解性基であり、1以上のハロゲン又はアルコキシ基であり、
nは0又は1であり、好ましくは0である。)
の少なくとも一つの化合物の重合により形成される。
【0029】
特に好ましい実施形態において、5〜500ppm、好ましくは60〜250ppm、より好ましくは、75〜150ppmの水を含む非プロトン性溶媒中で、式I:
Si(R(X3−n (I)
(式中、
は、直鎖又は分枝のC(1−24)アルキル又はアルケニル基、芳香族基であり、単一共有結合、又は1〜8の炭素原子を有する直鎖又は分枝のアルキレン単位によってSi原子に結合し、
は、1以上のハロゲン又はアルコキシ基であり、好ましくはCl、Br、I又はFから選択されるハロゲンであり、
nは0である。)
の少なくとも一つの化合物の重合により分散したシリコーンナノ粒子が形成される。
【0030】
液体コーティング組成物中に分散されるシリコーンナノ粒子の合成のための好適な非プロトン性溶媒は、例えば、(シクロ)ペンタン、(シクロ)ヘキサン、1,4−ジオキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、クロロホルム、トルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド又はこれらの混合物である。好ましくは、非プロトン性溶媒はトルエン又はベンゼンである。
【0031】
液体コーティング組成物及び/又は液体下塗組成物中で使用される好適な溶媒は、任意のプロトン性又は非プロトン性溶媒である。好ましい実施形態において、液体コーティング組成物に含まれる溶媒は、環境にやさしい、例えば直鎖又は分枝のC(1−5)アルコールから選択されるアルコール又はそれらの混合物であるプロトン性溶媒である。典型的なアルコールは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール又はそれらの混合物である。
【0032】
重合のための非プロトン性溶媒と分散のための溶媒の両方はシリコーンナノ粒子を溶媒和させない溶媒でなければならないことを留意しなければならない。例えば、環境的に好ましい実施形態において、液体コーティングと下塗組成物でアルコールのようなプロトン性溶媒が用いられるとしても、その重合のために使われる溶媒と同じ溶媒でシリコーンナノ粒子を分散させることができる。
【0033】
本発明に記載の、表面上に超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性層を形成するための方法により、基板の表面に上述した特性を付与することができる、そしてその層は、超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性であることに加えて、さらに絶対的な光透過性を示し、その上自己洗浄性である。このように、本発明の実施形態はさらに、超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の、光学的に透明な及び/又は自己洗浄性の層を形成し、表面上に前記特性を付与する方法を提供することである。
【0034】
液体コーティング組成物は、液体コーティング組成物総重量に対し、重量基準で0.001%〜40%、好ましくは0.05%〜15%、さらに好ましくは0.1%〜5%の量で分散したシリコーンナノ粒子を含んでもよい。
【0035】
1つの特別な実施形態において、本発明は、超疎水性層を形成し、表面上に前記特性を付与する方法を提供し、この場合に、式Iの少なくとも1つの化合物の重合によって形成された分散したシリコーンナノ粒子がそのまま、すなわち得られた超疎水シリコーンナノ粒子をさらに官能基化しないで使用することができる。
【0036】
もう一つの特別な実施形態において、本発明は、超疎油性層を形成し、表面上に前記特性を付与する方法を提供し、この場合に、式Iの少なくとも1つの化合物の重合によって形成された分散したシリコーンナノ粒子は、重合の後以下の工程により、さらに官能基化される、a)得られたシリコーンナノ粒子を分離し、b)酸素プラズマ処理を使用してシリコーンナノ粒子を活性化し、c)続いて、活性化したシリコーンナノ粒子をフッ素化剤と反応させる。フッ素化剤は好ましくは、シランベースのフッ素化剤、例えば、ジ−若しくはトリ−ハロゲノシランのペルフルオロ化誘導体又はジ−若しくはトリ−アルコキシシランのペルフルオロ化誘導体のようなペルフルオロアルキルシランである。次に、このようにして得られた超疎油性のシリコーンナノ粒子は、超疎油性層を形成するのに好適な液体コーティング組成物を生成するのに適した溶媒中で再分散し、表面上に前記特性を付与することができる。超疎水性のシリコーンナノ粒子を超疎油性シリコーンナノ粒子に変更する方法は従来技術で公知であり、当業者は容易にそのような修正を行うことが可能である。典型的な出版物として、チャンとS.シーガーによる著作物:シリコーンナノフィラメントに基づく超低滑落角を有する超疎油性コーティング、Angewandte Chemie、Int. Ed. 50、6652-6656(2011)(Zhang, S. Seeger: Superoleophobic Coatings with Ultra-low Sliding Angles Based on Silicone Nanofilaments, Angewandte Chemie, Int. Ed. 50, 6652-6656(2011))が挙げられる。
【0037】
さらにもう一つの特別な実施形態において、本発明は超両疎媒性層を形成し、表面上に前記特性を付与する方法を提供し、この場合に、官能基化された及び官能基化されていないシリコーンナノ粒子の混合物が使われてもよい。
【0038】
好ましい実施形態において、分散したシリコーンナノ粒子は重合によって形成され、重合反応中における式Iの少なくとも1つの化合物と水の間のモル比は1を上回り、好ましくは2:1〜1:1、より好ましくは1.5:1〜1:1である。
【0039】
もう一つの好ましい実施形態において、方法はさらに次の工程e.を含む:e.形成された超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性層を70℃〜500℃の温度で熱的にアニールする、但しアニーリング工程が実施された温度が表面材料に有害でないものとする。好ましくは、熱アニーリング工程は、100〜450℃の温度、より好ましくは120〜400℃の温度、さらに好ましくは150℃〜350℃の温度で少なくとも(新しいコメント参照のこと)0.5時間、最も好ましくは180℃〜300℃の温度で少なくとも(新しいコメント参照のこと)0.5時間又は1〜3時間行われる。熱アニーリングにより、形成された超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性層の超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の特性がさらに増加する。
【0040】
さらにもう一つの好ましい実施形態において、液体コーティング組成物に含まれるシリコーンナノ粒子は、45〜100nmの直径を有するナノフィラメント又はナノチューブ形状、好ましくは鎖状連結されたビーズ型モルフォロジーを有するナノフィラメント形状である。
【0041】
さらに好ましい実施形態において、超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性が付与されるべき表面に下塗りされた表面を形成するために表面に下塗りする工程b.は、溶媒と合成下塗樹脂から成り、溶媒の蒸発により下塗層を形成することができる液体下塗組成物の層を塗布する工程を含む。この方法が表面を下塗りする工程を含む場合には、液体コーティング組成物は好ましくは液体下塗組成物の溶媒が全部蒸発する前に塗布される。このような方法によって、まだ完全には乾燥せず粘着性が残っている液体下塗組成物に液体コーティング組成物が塗布される。これにより、液体コーティング組成物のシリコーンナノ粒子がまだ完全には乾燥してない液体下塗組成物の中に少なくとも部分的に「沈み込む」。より好ましくは、液体下塗組成物の粘着性(持続時間)を延長するために、液体下塗組成物と液体コーティング組成物の両方の溶媒は同一である。
【0042】
さらにより好ましい実施形態において、液体コーティング組成物は、溶媒の蒸発によりマトリックス層を形成することができる合成マトリックス樹脂をさらに含む。合成マトリックス樹脂を含むことにより、分散したシリコーンナノ粒子が合成樹脂のマトリックスによって囲まれた超疎水性、超疎油性、又は超両疎媒性層を得ることができ、超疎水性、超疎油性、又は超両疎媒性層に優れた耐摩耗特性を付与し、シリコーンナノ粒子が固定・保持される。被覆基板が摩耗を受ける場合、摩耗により合成樹脂マトリックスにはまり込んだ新しい分散したシリコーンナノ粒子が現れるので、超疎水性、超疎油性、又は超両疎媒性の特性は維持される。
【0043】
さらなる好ましい実施形態において、合成下塗樹脂と合成マトリックス樹脂は、液体コーティング組成物の溶媒又は液体下塗組成物の溶媒に溶解する樹脂、例えばアクリル、アルキド又はフェノール樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンとそれらの混合物から選択される。
【0044】
もう一つのさらなる好ましい実施形態において、非プロトン性溶媒、液体下塗組成物の溶媒及び液体コーティング組成物の溶媒は同一で、好ましくはトルエンである。
【0045】
さらにもう一つのさらなる好ましい実施形態において、液体コーティング組成物及び、存在する場合には液体下塗組成物は、組成物の空気噴霧化によって、組成物中で浸漬被覆することによって、塗料ローラ又はタンポンによって、静電塗装によって、溶射によって、又はインクジェット印刷によって塗布される。Rが直鎖又は分枝のC(1−24)アルケニル基、好ましくはRがビニル基である場合には、液体コーティング組成物は、UV又は電子ビームの照射によって都合よく引き続き硬化処理される、というのは、シリコーンナノ粒子と合成マトリックス組成物の界面において不飽和基が合成マトリックス樹脂と架橋し更に結合を増加させるからである。
【0046】
さらにもう一つのさらなる好ましい実施形態において、超疎水性、超疎油性、又は超両疎媒性層は、原子間力顕微鏡で測定時に500nm未満の表面粗さを有する。
【0047】
同等に好ましい実施形態において、式Iの少なくとも1つの化合物は、トリクロロメチルシラン(TCMS)、トリクロロエチルシラン、トリクロロ(n−プロピル)シラン、トリクロロエチルシラン、トリクロロビニルシラン、トリクロロフェニルシラン、トリメトキシメチルシランとトリエトキシメチルシラン及びそれらの混合物から選択され、好ましくはトリメトキシメチルシランとトリエトキシメチルシラン及びそれらの混合物から選択される。
【0048】
超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性が酸感受性表面に付与される場合には、液体コーティング組成物中でシランと水分子の加水分解の際の塩酸の生成を回避するために、例えばメチルトリエトキシシラン、(3−フェニルプロピル)メチルジメトキシシラン又は(3−フェニルプロピル)メチルジエトキシシランのようなアルコキシシランを使用するのが好ましい。
【0049】
本発明はまた、上記方法により得られる層を提供し、前記層は45〜100nmの直径を有するナノフィラメント又はナノチューブの形状、好ましくは鎖状連結されたビーズ型モルフォロジーを有するナノフィラメントの形状であるシリコーンナノ粒子から成る。
【0050】
好ましい実施形態において、超疎水性、超疎油性、又は超両疎媒性層のシリコーンナノ粒子は、アクリル又はフェノール樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル類、ポリアミド、ポリウレタンとそれらの混合物から選択される合成樹脂の中に分散される。あるいは、液体コーティング組成物が合成マトリックス樹脂を含まない場合には、シリコーンナノ粒子は部分的に合成下塗樹脂と直接接触していてもよい。
【0051】
本発明は更に、基板とコーティングから成る被覆物品を提供し、前記コーティングは上記の記述による外側の超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の層と任意の中間の下塗り層を含む。
【0052】
好ましい実施例において、被覆物品の基板は木、ガラス、石、ミネラル、シリコン、金属又はそれらの合金、ポリマー又はポリマーアロイ、繊維、織布又は不織布及びセラミックから選択され、又は任意の中間の下塗層はアクリル、アルキド又はフェノール樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンとそれらの混合物から選択される合成樹脂から選択される。基板は、発泡体のような多孔性基板の形状である;例えばセラミック、金属、ポリマー、ガラス、石、ミネラル、シリコンであり、発泡体はそれらの外面上だけでなく孔の内壁も被覆することができる。多孔性基板において、液体下塗とコーティング組成物が多孔性基板の孔の中に入り、内部にシリコンナノ粒子を堆積させることができるので、本発明の方法は特に有利である。対照的に、ガス状のシランモノマーの拡散には限度があるので、CVD蒸着を含む方法では発泡体の内部孔の深くまで達することができない。他の多孔質材料は、紙、段ボール、フェルト、木材及び木材の複合物を含む。
【0053】
市販の典型的な下塗層は、塗料、光滑剤又はラッカーであり、特に合成樹脂と木材保存剤から成る、木材構造の保存のための光滑剤である。
【0054】
より好ましい実施形態において、任意の中間の下塗層は、脂肪酸改質ポリエステル樹脂(アルキド樹脂として知られる)と木材保存剤を含む木材構造物の保存のための光滑剤から選択される。そのような光滑剤と液体コーティング組成物の組合せは、木材基板上で非常に強い防汚効果を生む。
【0055】
もう一つのさらに好ましい実施形態において、任意の中間の下塗層は、自動車用の塗料又はコーティングから選択される。シリコーンナノ粒子のサイズが光の波長より小さいので、そのような自動車用の塗料又はコーティングと液体コーティング組成物の組合せは、そのような塗料又はコーティングの好ましい光沢を少しも失うことなく、強い超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性特性を有する自動車用塗料又はコーティングを生む。
【0056】
本発明は更に、超疎水性、超疎油性又は超両疎媒性の層を形成し、表面上に前記特性を付与するための液体コーティング組成物を提供し、前記組成物は溶媒と、好ましくは液体コーティング組成物総重量に対し0.01〜40重量%の量で分散したシリコーンナノ粒子を含み、ここで、分散したシリコーンナノ粒子は、5〜500ppm、好ましくは60〜250ppmの水を含む非プロトン性溶媒、好ましくはトルエン中で、式I:
Si(R(X3−n (I)
(式中、
は、直鎖又は分枝のC(1−24)アルキル又はアルケニル基、芳香族基であり、単一共有結合、又は1〜8の炭素原子を有する直鎖又は分枝のアルキレン単位によってSi原子に結合し、
は、1〜6の炭素原子を有する直鎖又は分枝の炭化水素ラジカルであり、
は、加水分解性基であり、1以上のハロゲン又はアルコキシ基であり、
nは0又は1であり、好ましくは0である。)
の少なくとも一つの化合物の重合により形成される。
【0057】
好ましい実施形態において、液体コーティング組成物のシリコーンナノ粒子は重合によって形成され、重合反応中における式Iの少なくとも1つの化合物と水の間のモル比は1を上回り、好ましくは2:1〜1:1である。
【0058】
もう一つの好ましい実施形態において、液体コーティング組成物のシリコーンナノ粒子は、45〜100nmの直径を有するナノフィラメント又はナノチューブ形状であり、好ましくは鎖状連結されたビーズ型モルフォロジーを有するナノフィラメント形状のシリコーンナノ粒子である。
【0059】
さらにもう一つの好ましい実施形態において、液体コーティング組成物は、溶媒の蒸発によりマトリックス層を形成することができる合成マトリックス樹脂を更に含み、好ましくは合成マトリックス樹脂は、アクリル、アルキド又はフェノール樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン及びそれらの混合物のグループから選択され、より好ましくはアクリル、アルキド又はフェノール樹脂である。もう一つの好ましい実施形態において、溶媒の蒸発によりマトリックス層を形成することができる合成マトリックス樹脂は、シリコーン樹脂である。
【0060】
さらなる好ましい実施形態において、液体コーティング組成物のシリコーンナノ粒子は、トリクロロメチルシラン(TCMS)、トリクロロエチルシラン、トリクロロ(n−プロピル)シラン、トリメトキシメチルシランとトリエトキシメチルシラン及びそれらの混合物から選択される、式Iの少なくとも1つの化合物の重合によって形成される。
【実施例】
【0061】
TCMS
シリコーンナノ粒子は、115ppmの含水量のトルエン2000mLを調製し、0.15体積%のトリクロロメチルシラン(TCMS)を反応混合物に加えることにより合成された。反応混合物を、終夜連続撹拌下で反応させた。反応完了後、トルエンは蒸発により除去され、白色様粉末が分離された。得られた粉末は乳鉢ですりつぶし、適切な溶媒に再分散し、溶媒中のシリコーンナノ粒子の分散液を調製した。
【0062】
トルエン中における1重量%シリコーンナノ粒子の分散液は、68gのトルエンに0.87gの得られたシリコーンナノ粒子粉末を加えることによって調製された。同様に、エタノール中における1重量%シリコーンナノ粒子の分散液は、79gのエタノールに0.79gの得られたシリコーンナノ粒子粉末を加えることによって得られた。
【0063】
得られた分散液は続いて、金属板に超疎水特性を付与する能力を試験した。この目的で、分散液は、3.5〜4barで操作される加圧スプレーピストルに充填され、試験金属板に一様に塗布された。各金属板を被覆した後、接触角と滑落角を3回測定し評価した。接触角と滑落角の初期状態での評価の後、被覆された金属板は200℃で2.5時間熱的にアニールされ、接触角と滑落角は2回記録された。結果を、表1と2にまとめる。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
結果から分かるように、接触角は大抵160°を上回り、滑落角は3°で上限に達した。どんな理論の束縛も望まないが、高い値の接触角と低い値の滑落角はウェンゼルからカッシー−バクスターレジームへの変化に起因していると考えられ、そこにおいて、水滴は処理された金属板の表面を濡らすことができない。
【0067】
ETCS1
シリコーンナノ粒子は、110ppmの含水量のトルエン2000mLを調製し、3ml(22.7mmol)のエチルトリクロロシラン(ETCS)を反応混合物に加えることにより合成された。反応混合物を、14時間連続撹拌下で反応させた。反応完了後、反応容器の底に灰色の混濁が見られ、最初に漏斗フィルター(孔No.5)でトルエンを濾過し、続いて約4時間かけて残留トルエンを蒸発させトルエンを除去した。白色様粉末を分離し、重量を計測した。49.2mgの得られた粉末から、完全な縮合を仮定すると2%の収率が示された。形成されたフィラメントの光学的分析から、80〜100nmの範囲の直径と数マイクロメートルの範囲の長さが示された。
【0068】
ETCS2
シリコーンナノ粒子は、110ppmの含水量のトルエン2000mLを調製し、2mL(15.1mmol)のエチルトリクロロシラン(ETCS)を反応混合物に加えることにより合成された。反応混合物を、7時間連続撹拌下で反応させた。反応完了後、反応容器の底に灰色の混濁が見られ、最初に漏斗フィルター(孔No.5)でトルエンを濾過し、続いて終夜残留したトルエンを蒸発させトルエンを除去した。白色様粉末を分離し、重量を計測した。30.4mgの得られた粉末から、完全な縮合を仮定すると1.9%の収率が示された。形成されたフィラメントの光学的分析から、80〜100nmの範囲の直径と数マイクロメートルの範囲の長さが示された。
【0069】
PTCS
シリコーンナノ粒子は、110ppmの含水量のトルエン2000mLを調製し、3mL(18.72mmol)のフェニルトリクロロシラン(PTCS)を反応混合物に加えることにより合成された。反応混合物を、14時間連続撹拌下で反応させた。反応完了後、反応容器の底に灰色の混濁が見られ、最初に漏斗フィルター(孔No.5)でトルエンを濾過し、続いて約4時間かけて残留したトルエンを蒸発させトルエンを除去した。白色様粉末を分離し、重量を計測した。19mgの得られた粉末から、完全な縮合を仮定すると0.8%の収率が示された。形成されたフィラメントの光学的分析から、80〜100nmの範囲の直径と数マイクロメートルの範囲の長さが示された。形成されたフィラメントの顕微鏡分析から、80〜100nmの範囲の直径と数マイクロメートルの範囲の長さが示され、これを図4に示す。
【0070】
VTCS
シリコーンナノ粒子は、110ppmの含水量のトルエン2000mLを調製し、3mL(23.59mmol)のビニルトリクロロシラン(VTCS)を反応混合物に加えることにより合成された。反応混合物を、14時間連測撹拌下で反応させた。反応完了後、反応容器の底に灰色の混濁が見られ、漏斗フィルター(孔No.5)でトルエンを濾過し、続いて約4時間かけて残留したトルエンを蒸発させトルエンを除去した。白色様粉末を分離し、重量を計測した。58mg得られた粉末から、完全な縮合を仮定すると3%の収率が示された。形成されたフィラメントの顕微鏡分析から、80〜100nmの範囲の直径と数マイクロメートルの範囲の長さが示され、これを図5に示す。
【0071】
実験から得られた粉末は、水と接触すると超疎水挙動を示し、強酸に対して非常に耐性があることが示された。18時間以上粉末を(濃)硫酸、(濃)硝酸又はクロム硫酸に接触させても、粉末の超疎水特性又はそのモルフォロジーに影響を及ぼさなかった。さまざまな得られた粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)及びエネルギー分散型X線分光法(EDX)による分析から、粉末は基本的にシリコーンナノフィラメントで構成されることを確認し、特にPTCSとVTCSから得られた粉末の画像を図4及び5に示す。
【符号の説明】
【0072】
1 シリコンナノ粒子
2 基板
3 合成下塗樹脂
4 合成マトリックス樹脂

図1
図2
図3
図4
図5