(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899338
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】軸方向鉄筋の曲げ内半径低減部材、その曲げ内半径低減方法及び鉄筋コンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
E04C 5/01 20060101AFI20210628BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20210628BHJP
E04B 1/20 20060101ALI20210628BHJP
E04B 1/04 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
E04C5/01
E01D1/00 C
E04B1/20 E
E04B1/04 D
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-8524(P2018-8524)
(22)【出願日】2018年1月23日
(65)【公開番号】特開2019-127709(P2019-127709A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100116207
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100089635
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 守
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(72)【発明者】
【氏名】草野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】田所 敏弥
(72)【発明者】
【氏名】中田 裕喜
(72)【発明者】
【氏名】幸良 淳志
【審査官】
伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−133041(JP,A)
【文献】
特開2000−064506(JP,A)
【文献】
特開平11−148172(JP,A)
【文献】
米国特許第05301918(US,A)
【文献】
中国特許出願公開第1827976(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/00 − 5/20
E01D 1/00 − 1/38
E04B 1/00 − 1/36
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低剛性材料から成り、
コンクリートに埋め込まれる軸方向鉄筋の直角フックにおける曲げ内側に取り付けられる軸方向鉄筋の曲げ内半径低減部材であって、
略二等辺三角形の側面形状を有し、二等辺三角形の頂点及び等辺に相当する部分は前記軸方向鉄筋の表面に取り付けられ、二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状は前記直角フックの曲げ内半径よりも大きな曲率半径の曲線であることを特徴とする軸方向鉄筋の曲げ内半径低減部材。
【請求項2】
前記二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状の曲率半径は、前記軸方向鉄筋の直径の10倍以上である請求項1に記載の軸方向鉄筋の曲げ内半径低減部材。
【請求項3】
前記二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状は直線である請求項1に記載の軸方向鉄筋の曲げ内半径低減部材。
【請求項4】
コンクリートに埋め込まれる軸方向鉄筋の直角フックにおける曲げ内側に、低剛性材料から成る曲げ内半径低減部材であって、略二等辺三角形の側面形状を有し、二等辺三角形の頂点及び等辺に相当する部分は前記軸方向鉄筋の表面に取り付けられ、二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状は前記直角フックの曲げ内半径よりも大きな曲率半径の曲線である曲げ内半径低減部材を取り付けることを特徴とする軸方向鉄筋の曲げ内半径低減方法。
【請求項5】
コンクリートと、該コンクリートに埋め込まれた軸方向鉄筋と、該軸方向鉄筋の表面に取り付けられて前記コンクリートに埋め込まれた曲げ内半径低減部材とを備え、
前記軸方向鉄筋は直角フックを含み、
前記曲げ内半径低減部材は、低剛性材料から成り、前記直角フックにおける曲げ内側に取り付けられているものであって、略二等辺三角形の側面形状を有し、二等辺三角形の頂点及び等辺に相当する部分は前記軸方向鉄筋の表面に取り付けられ、二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状は前記直角フックの曲げ内半径よりも大きな曲率半径の曲線であることを特徴とする鉄筋コンクリート構造物。
【請求項6】
前記軸方向鉄筋は柱梁接合部のコンクリートに埋め込まれ、前記軸方向鉄筋における柱の軸方向に延在する部分の仮想中心軸線と梁の軸方向に延在する部分の仮想中心軸線との交点である仮想交点から前記曲げ内半径低減部材の両端点までの距離が所定値以上である請求項5に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項7】
前記所定値は前記軸方向鉄筋の直径の10倍である請求項6に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項8】
前記コンクリートに埋め込まれ、前記軸方向鉄筋と直交する方向に延在する直交方向鉄筋を更に備え、
該直交方向鉄筋は、前記曲げ内半径低減部材を貫通する請求項5〜7のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軸方向鉄筋の曲げ内半径低減部材、その曲げ内半径低減方法及び鉄筋コンクリート構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道の高架橋等の土木構造物として、鉄筋コンクリート(Reinforced Concrete :RC)製の鉄筋コンクリート構造物(RC構造物)が広く使用されている。このようなRC構造物における柱と梁との接合部であるRC柱梁接合部は、一般に地震発生時の変形を考慮して、その仕様が決定されるので、変形性能を向上することができれば、合理的な構造物とすることができる。そして、鉄道の高架橋柱、橋脚等の耐震設計においては、一般に柱が先行して降伏し、破壊するように設計されていることも考慮して、RC柱梁接合部の変形性能を向上することが重要となる。
【0003】
また、RC柱梁接合部では、接合部内での軸方向鉄筋の定着(固定)が重要である。そこで、土木構造物においては、RC柱梁接合部の軸方向鉄筋の定着部における曲げ内半径を10φ(φ:鉄筋の径)とすることが規定されている。しかし、これは、昭和6年に発行された鉄筋コンクリート標準示方書で初めて定められ、それ以降現在に至るまで用いられている仕様である。近年では、耐震設計で想定する地震動の増大によって、RC構造物に必要とされる鉄筋量が増加しており、RC柱梁接合部においては、接合部内での配筋が過密化している(例えば、非特許文献1及び2参照。)。
【0004】
図1は従来の鉄筋コンクリート柱梁接合部における接合部内での配筋の例を示す写真であり、
図2は従来の鉄筋コンクリート柱梁接合部における接合部内での配筋を示す模式断面図である。
【0005】
図1に示されるように、RC柱梁接合部における接合部内では配筋が過密化しているので、曲げ内半径を10φの軸方向鉄筋を用いると、
図2に示されるように、直交方向鉄筋と輻輳してしまう。なお、
図2において、21はコンクリート、22は柱、23は梁、24は柱梁接合部である。また、11は、コンクリート21に埋め込まれた軸方向鉄筋、12は、軸方向鉄筋11における直角フックの曲げ部、15は、コンクリート21に埋め込まれた直交方向鉄筋、16は鉄筋の輻輳部である。さらに、P1は軸方向鉄筋11に付与される引張力、R1は曲げ部12における曲げ内半径であり、ここでは、10φであるものとする。このように、曲げ部12におけるR1が大きいと、軸方向鉄筋11が多数の直交方向鉄筋15と輻輳するので、鉄筋組立の作業性が悪化し、また、鉄筋のあき(鉄筋の面同士の距離)が十分に確保されなくなるのでコンクリート打設の施工性が低下し、施工不良が発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】吉武謙二、小川晃、小倉大季、前之園司、「梁および柱の軸方向鉄筋の定着仕様が接合部性能に及ぼす影響」、コンクリート工学年次論文集、Vol.34、No.2、pp.541−546、2012
【非特許文献2】吉武謙二、小川晃、小倉大季、長井宏平、「柱梁接合部の構造性能に及ぼす梁軸方向鉄筋の定着仕様および寸法効果の影響」、コンクリート工学年次論文集、Vol.35、No.2、pp.583−588、2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、曲げ内半径R1の小さな軸方向鉄筋11を用いると、コンクリート21の支圧破壊が生じる可能性がある。
【0008】
図3は従来の鉄筋コンクリート柱梁接合部における接合部内での支圧力の分散機構を示す模式図である。なお、図において、(a)は曲げ内半径が大きい場合の図、(b)は曲げ内半径が小さい場合の図である。
【0009】
図3(a)に示されるように、柱梁接合部24における軸方向鉄筋11の定着は、該軸方向鉄筋11に作用する引張力P1が曲げ部12によってコンクリート21への支圧力P2として分散されることによる。しかし、
図3(b)に示されるように、曲げ部12における曲げ内半径を縮小すると、支圧力P2の分散範囲が縮小されて局所的に集中するので、コンクリート21の支圧破壊が生じやすくなる。そのため、曲げ部12における曲げ内半径を縮小した場合、支圧力P2を適切にコンクリート21に分散させることが重要である。
【0010】
従来実施された柱梁接合部を模擬した実験においては、軸方向鉄筋の直角フックの曲げ内半径をパラメータとする実験が実施され、曲げ内半径を10φとした場合と曲げ内半径を3φとした場合とでは、性能に違いがみられない旨の評価がなされている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。
【0011】
一方では、曲げ内半径を小さくすると、曲げ内半径を10φとした場合とは異なる破壊形態を示すことが確認されている(例えば、非特許文献3参照。)。
【非特許文献3】堀田久人、西澤直仁、「鉄筋コンクリート柱梁L字形接合部せん断強度に及ぼす主筋配筋の影響に関する実験的研究」、コンクリート工学年次論文集、Vol.34、No.2、pp.283−288、2012
【0012】
一般に、RC柱梁接合部は、柱や梁部材よりも耐力が高い剛域として設定されて設計されている。そのため、RC柱梁接合部においては、いかなる作用及び作用の組み合わせ状況下でも、曲げ内半径を10φとした場合と同等の破壊耐力及び破壊形態を有することが必要である。
【0013】
ここでは、前記従来の技術の問題点を解決して、軸方向鉄筋の直角フックにおける曲げ内側に曲げ内半径低減部材を取り付けることによって、支圧力を集中させることなく直角フックの曲げ内半径を小さくすることができ、鉄筋組立の作業性が向上し、コンクリート打設の施工性が向上し、鉄筋コンクリートの変形性能が向上する軸方向鉄筋の曲げ内半径低減部材、その曲げ内半径低減方法及び鉄筋コンクリート構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そのために、軸方向鉄筋の曲げ内半径低減部材においては、低剛性材料から成り、コンクリートに埋め込まれる軸方向鉄筋の直角フックにおける曲げ内側に取り付けられる
軸方向鉄筋の曲げ内半径低減部材であって、略二等辺三角形の側面形状を有し、二等辺三角形の頂点及び等辺に相当する部分は前記軸方向鉄筋の表面に取り付けられ、二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状は前記直角フックの曲げ内半径よりも大きな曲率半径の曲線である。
【0016】
更に他の軸方向鉄筋の曲げ内半径低減部材においては、さらに、前記二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状の曲率半径は、前記軸方向鉄筋の直径の10倍以上である。
【0017】
更に他の軸方向鉄筋の曲げ内半径低減部材においては、さらに、前記二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状は直線である。
【0018】
軸方向鉄筋の曲げ内半径低減方法においては、コンクリートに埋め込まれる軸方向鉄筋の直角フックにおける曲げ内側に、低剛性材料から成る曲げ内半径低減部材
であって、略二等辺三角形の側面形状を有し、二等辺三角形の頂点及び等辺に相当する部分は前記軸方向鉄筋の表面に取り付けられ、二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状は前記直角フックの曲げ内半径よりも大きな曲率半径の曲線である曲げ内半径低減部材を取り付ける。
【0019】
鉄筋コンクリート構造物においては、コンクリートと、該コンクリートに埋め込まれた軸方向鉄筋と、該軸方向鉄筋の表面に取り付けられて前記コンクリートに埋め込まれた曲げ内半径低減部材とを備え、前記軸方向鉄筋は直角フックを含み、前記曲げ内半径低減部材は、低剛性材料から成り、前記直角フックにおける曲げ内側に取り付けられている
ものであって、略二等辺三角形の側面形状を有し、二等辺三角形の頂点及び等辺に相当する部分は前記軸方向鉄筋の表面に取り付けられ、二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状は前記直角フックの曲げ内半径よりも大きな曲率半径の曲線である。
【0020】
他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記軸方向鉄筋は柱梁接合部のコンクリートに埋め込まれ、前記軸方向鉄筋における柱の軸方向に延在する部分の仮想中心軸線と梁の軸方向に延在する部分の仮想中心軸線との交点である仮想交点から前記曲げ内半径低減部材の両端点までの距離が所定値以上である。
【0021】
更に他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記所定値は前記軸方向鉄筋の直径の10倍である。
【0022】
更に他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記コンクリートに埋め込まれ、前記軸方向鉄筋と直交する方向に延在する直交方向鉄筋を更に備え、該直交方向鉄筋は、前記曲げ内半径低減部材を貫通する。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、支圧力を集中させることなく直角フックの曲げ内半径を小さくすることができるので、鉄筋組立の作業性を向上させ、コンクリート打設の施工性を向上させ、鉄筋コンクリートの変形性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】従来の鉄筋コンクリート柱梁接合部における接合部内での配筋の例を示す写真である。
【
図2】従来の鉄筋コンクリート柱梁接合部における接合部内での配筋を示す模式断面図である。
【
図3】従来の鉄筋コンクリート柱梁接合部における接合部内での支圧力の分散機構を示す模式図である。
【
図4】本実施の形態における支圧力分散部材を鉄筋コンクリート柱梁接合部の軸方向鉄筋の直角フックに取り付けた状態を示す模式断面図である。
【
図5】本実施の形態における支圧力分散部材の取付範囲を示す模式断面図である。
【
図6】本実施の形態における軸方向鉄筋の配筋位置を示す模式断面図である。
【
図7】本実施の形態における支圧力分散部材の取付例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図4は本実施の形態における支圧力分散部材を鉄筋コンクリート柱梁接合部の軸方向鉄筋の直角フックに取り付けた状態を示す模式断面図、
図5は本実施の形態における支圧力分散部材の取付範囲を示す模式断面図、
図6は本実施の形態における軸方向鉄筋の配筋位置を示す模式断面図、
図7は本実施の形態における支圧力分散部材の取付例を示す模式断面図である。
【0027】
図において、20は、本実施の形態における鉄筋コンクリート構造物であって、鉄筋コンクリート製の柱22と梁23との接合部である柱梁接合部24及びその周辺部分であるものとする。前記鉄筋コンクリート構造物20は、典型的には高架橋等の土木構造物であって、鉄道用のものであってもよいし、道路用のものであってもよいし、いかなる用途のものであってもよいが、ここでは、説明の都合上、鉄道用の高架橋における鉄筋コンクリート柱梁接合部及びその周辺部分であるものとして説明する。
【0028】
なお、本実施の形態においては、「背景技術」及び「発明が解決しようとする課題」の項における説明を援用し、鉄筋コンクリート構造物20における各部の構造、動作及び効果であって、「背景技術」及び「発明が解決しようとする課題」の項において説明したものと同じものについては、
図2及び3に示される符号と同じ符号を付与することによって、適宜、説明を省略する。
【0029】
また、本実施の形態において、鉄筋コンクリート構造物20の各部及びその他の部材の構成及び動作を説明するために使用される上、下、左、右、前、後等の方向を示す表現は、絶対的なものでなく相対的なものであり、前記鉄筋コンクリート構造物20の各部及びその他の部材が図に示される姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。
【0030】
図に示される例において、コンクリート21に埋め込まれた軸方向鉄筋11は、直角フックの曲げ部12を間に挟んで、柱22の軸方向(上下方向)及び梁23の軸方向(左右方向)に延在する鉄筋である。なお、コンクリート21には、多数本の軸方向鉄筋が埋め込まれているが、図においては、図示の都合上、柱22におけるコンクリート21の左側の表面及び梁23の上側の表面に最も近接した1本の軸方向鉄筋11のみが示されている。また、該軸方向鉄筋11は、コンクリート21の表面と平行であるものとする。
【0031】
そして、前記軸方向鉄筋11における直角フックの曲げ内側、すなわち、曲げ部12の曲げ内側には、曲げ内半径低減部材としての支圧力分散部材31が取り付けられている。なお、本実施の形態における曲げ部12の曲げ内半径(曲げ部12の内側の面の曲率半径)は、10φより小さいものとする。
【0032】
前記支圧力分散部材31は、例えば、ゴム、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等の剛性の低い低剛性材料から成る側面形状が概略二等辺三角形の板部材である。そして、その板厚(図面に垂直方向の寸法)は、軸方向鉄筋11の直径φと概略等しくなっている。また、その二等辺三角形の頂点及び該頂点両側の二辺(等辺)に相当する部分は、鉄筋接合部31bであって、軸方向鉄筋11の表面に取り付けられる。前記鉄筋接合部31bは、例えば、接着剤等を介して、軸方向鉄筋11の表面に固着されることが望ましい。さらに、その二等辺三角形の底辺(頂点に対向する辺)に相当する部分は、支圧力伝達部31aであって、支圧力P2をコンクリート21へ伝達する。なお、前記支圧力伝達部31aの側面形状は、図に示されるように、曲率円の中心が曲げ部12の曲率円の中心側にあるように、すなわち、曲げ部12と同じ側に、湾曲した曲線であることが望ましい。そして、該曲線の曲率半径は、直角フックの曲げ内半径、すなわち、曲げ部12の曲率半径より大きいことが望ましく、軸方向鉄筋11の直径φの10倍以上、すなわち、10φ以上であることが更に望ましい。なお、前記曲線の曲率半径を更に大きくして無限大に近付けると直線となるのであるから、前記支圧力伝達部31aの側面形状は直線であってもよい、と言える。
【0033】
このように、支圧力分散部材31が曲げ部12の内側に取り付けられているので、
図4に示されるように、軸方向鉄筋11に引張力P1が作用すると、曲げ部12からコンクリート21へ伝達される支圧力P2は、支圧力分散部材31を介することによって、広範囲に分散される。すなわち、前記支圧力P2は、曲げ部12の内側よりも広範囲に亘って存在する支圧力分散部材31の支圧力伝達部31aからコンクリート21へ伝達されるので、局所的に集中することなく、適切に分散される。また、前記支圧力P2は、剛性の低い材料から成る支圧力分散部材31を介して、軸方向鉄筋11の曲げ部12からコンクリート21へ伝達されるので、軸方向鉄筋11が弾性変形しても、コンクリート21の各部へ満遍なく伝達される。したがって、コンクリート21の支圧破壊が生じにくくなり、柱梁接合部24は、曲げ部12の曲げ内半径を大きくした場合と同等の破壊耐力及び破壊形態を示すことになる。
【0034】
また、前記支圧力分散部材31が軸方向鉄筋11に取り付けられる範囲は、
図5に示されるようなものであることが望ましい。
図5において、12aは、柱22の軸方向に延在する軸方向鉄筋11の部分の仮想中心軸線11aと、梁23の軸方向に延在する軸方向鉄筋11の部分の仮想中心軸線11aとが交差する仮想交点である。そして、支圧力分散部材31は、その両端点31cの仮想交点12aからの距離が、所定値L以上であることが望ましい。なお、前記両端点31cは、支圧力伝達部31aの両端点であり、鉄筋接合部31bの両端点であり、支圧力伝達部31aと鉄筋接合部31bとの交点である。また、前記所定値Lは、軸方向鉄筋11の直径φの10倍、すなわち、10φであることが望ましい。
【0035】
このように、支圧力分散部材31が曲げ部12の内側に取り付けられているので、
図6に示されるような曲げ内半径を10φとした比較例の曲げ部12bよりも、曲げ部12の曲げ内半径を小さくすることができる。その結果、柱梁接合部24のように鉄筋が輻輳する箇所においても、軸方向鉄筋11の配筋を容易に行うことができ、鉄筋組立の作業性が向上し、また、コンクリート打設の施工性も向上する。なお、前記支圧力分散部材31は、軸方向鉄筋11を配筋する前に該軸方向鉄筋11の表面に取り付けられることが望ましい。
【0036】
また、
図7に示されるように、軸方向鉄筋11が複数の直交方向鉄筋15と輻輳する場合には、該直交方向鉄筋15のうちの何本かが、支圧力分散部材31をその板厚方向に貫通するようにすることができる。例えば、直交方向鉄筋15に対応する位置に貫通孔を形成した支圧力分散部材31を用意し、前記貫通孔に直交方向鉄筋15を挿入するようにして該直交方向鉄筋15に支圧力分散部材31を取り付けた後、軸方向鉄筋11を配設し、該軸方向鉄筋11の表面に支圧力分散部材31の鉄筋接合部31bを取り付けることができる。また、樹脂等の材料で支圧力分散部材31を形成するための鋳型(モールド)を用意し、軸方向鉄筋11及び直交方向鉄筋15を配筋した後に、前記鋳型を軸方向鉄筋11の曲げ部12周辺に取り付けて、溶融した樹脂等の材料を鋳型内に充填することによって、直交方向鉄筋15が板厚方向に貫通した支圧力分散部材31を形成することもできる。
【0037】
このように、本実施の形態における支圧力分散部材31は、低剛性材料から成り、コンクリート21に埋め込まれる軸方向鉄筋11の直角フックにおける曲げ内側に取り付けられる。また、本実施の形態における軸方向鉄筋11の曲げ内半径低減方法は、コンクリート21に埋め込まれる軸方向鉄筋11の直角フックにおける曲げ内側に、低剛性材料から成る支圧力分散部材31を取り付ける。さらに、本実施の形態における鉄筋コンクリート構造物は、コンクリート21と、コンクリート21に埋め込まれた軸方向鉄筋11と、軸方向鉄筋11の表面に取り付けられてコンクリート21に埋め込まれた支圧力分散部材31とを備え、軸方向鉄筋11は直角フックを含み、支圧力分散部材31は、低剛性材料から成り、直角フックにおける曲げ内側に取り付けられている。
【0038】
これにより、支圧力を集中させることなく直角フックの曲げ内半径を小さくすることができるので、鉄筋組立の作業性が向上し、コンクリート打設の施工性が向上し、鉄筋コンクリートの変形性能が向上する。
【0039】
また、支圧力分散部材31は略二等辺三角形の側面形状を有し、二等辺三角形の頂点及び等辺に相当する部分は軸方向鉄筋11の表面に取り付けられ、二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状は直角フックの曲げ内半径よりも大きな曲率半径の曲線である。さらに、二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状の曲率半径は、軸方向鉄筋11の直径φの10倍以上である。なお、二等辺三角形の底辺に相当する部分の側面形状は直線であってもよい。
【0040】
さらに、軸方向鉄筋11は柱梁接合部24のコンクリート21に埋め込まれ、軸方向鉄筋11における柱22の軸方向に延在する部分の仮想中心軸線と梁23の軸方向に延在する部分の仮想中心軸線との交点である仮想交点12aから支圧力分散部材31の両端点31cまでの距離が所定値L以上である。さらに、所定値Lは軸方向鉄筋11の直径φの10倍である。さらに、コンクリート21に埋め込まれ、軸方向鉄筋11と直交する方向に延在する直交方向鉄筋15を更に備え、直交方向鉄筋15は、支圧力分散部材31を貫通する。
【0041】
なお、本明細書の開示は、好適で例示的な実施の形態に関する特徴を述べたものである。ここに添付された特許請求の範囲内及びその趣旨内における種々の他の実施の形態、修正及び変形は、当業者であれば、本明細書の開示を総覧することにより、当然に考え付くことである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本開示は、軸方向鉄筋の曲げ内半径低減部材、その曲げ内半径低減方法及び鉄筋コンクリート構造物に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
11 軸方向鉄筋
11a 仮想中心軸線
12a 仮想交点
15 直交方向鉄筋
20 鉄筋コンクリート構造物
21 コンクリート
22 柱
23 梁
24 柱梁接合部
31 支圧力分散部材
31b 鉄筋接合部
31c 両端点