特許第6899343号(P6899343)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899343
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/95 20130101AFI20210628BHJP
【FI】
   A61F2/95
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-26620(P2018-26620)
(22)【出願日】2018年2月19日
(65)【公開番号】特開2019-141199(P2019-141199A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2020年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑原 邦生
(72)【発明者】
【氏名】中野 英一
(72)【発明者】
【氏名】山本 敬史
(72)【発明者】
【氏名】中尾 典彦
【審査官】 磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−325672(JP,A)
【文献】 特開2005−270394(JP,A)
【文献】 特開2003−111850(JP,A)
【文献】 特表2006−515786(JP,A)
【文献】 特開2014−176654(JP,A)
【文献】 特表2007−512093(JP,A)
【文献】 特表2006−518625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82−97
A61M 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に沿って延在するシャフトと、前記シャフトの基端側に装着されたハンドルとを有するカテーテルと、
筒状構造を有する第1および第2のステントと、
前記シャフトの先端領域において、前記第1および第2のステントをそれぞれ、縮径状態にて保持するためのシースと
を備え、
前記第2のステントは、
前記シース内において前記第1のステントの内周側に配置されると共に、
前記第1のステントよりも大きい自己拡張力を有しており、
前記第2のステントにおける基端側の領域が、前記シャフトに固定されていると共に、
前記第2のステントにおける先端側の領域が、前記シャフトに固定されていない
治療装置。
【請求項2】
軸方向に沿って延在するシャフトと、前記シャフトの基端側に装着されたハンドルとを有するカテーテルと、
筒状構造を有する第1および第2のステントと、
前記シャフトの先端領域において、前記第1および第2のステントをそれぞれ、縮径状態にて保持するためのシースと
を備え、
前記第2のステントは、
前記シース内において前記第1のステントの内周側に配置されると共に、
前記第1のステントよりも大きい自己拡張力を有しており、
前記第2のステントにおいて前記自己拡張力を発揮する部分の前記軸方向に沿った長さが、前記第1のステントにおける前記軸方向に沿った長さと比べて、前記シャフトの基端側および先端側のうちの前記基端側のみへ向けて、大きくなっている
治療装置。
【請求項3】
前記第2のステントが、その基端側の一部領域において、前記シャフトに固定されている
請求項2に記載の治療装置。
【請求項4】
前記第1のステントは、生分解性を有する樹脂ステントであると共に、
前記第2のステントは、ダミーステントとしての金属ステントである
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントを利用した治療の際に用いられる治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血管や生体内の他の管状器官(消化管等)に狭窄や閉塞が起こった場合や、血管に動脈瘤や動脈解離等が生じた場合に、ステントをその患部に留置することで、管状器官の管腔を拡張・保持したり、動脈瘤等の破裂を防止することを可能とする手法(ステント留置術)が用いられている。このうち、消化管に適用(留置)されるステント(消化管ステント)は、腫瘍によって狭窄した消化管の内腔を押し開けるために使用される。
【0003】
このようなステントは、一般に、複数の線材(素線)を用いた網目状構造を有しており、例えば、金属製のステント(金属ステント)や樹脂製のステント(樹脂ステント)が用いられている。また、近年では、血管や消化管内において時間の経過とともに分解されることから、患者への負担を軽減可能な、生分解性(生体分解性)を有するステント(生分解性ステント)も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、上記したステント留置術の際には、デリバリ用のカテーテル等の治療装置が用いられる。このデリバリ用のカテーテルには、ステントを患者体内に挿入する際に、縮径された状態のステントがマウント(保持)されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−534052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようなデリバリ用のカテーテル等の治療装置では一般に、治療の際の利便性を向上させることが求められている。したがって、ステントを用いた治療の際の利便性を向上させることが可能な治療装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施の形態に係る第1の治療装置は、軸方向に沿って延在するシャフトと、このシャフトの基端側に装着されたハンドルとを有するカテーテルと、筒状構造を有する第1および第2のステントと、シャフトの先端領域において、第1および第2のステントをそれぞれ、縮径状態にて保持するためのシースとを備えたものである。上記第2のステントは、シース内において上記第1のステントの内周側に配置されると共に、この第1のステントよりも大きい自己拡張力を有している。また、上記第2のステントにおける基端側の領域が、上記シャフトに固定されていると共に、上記第2のステントにおける先端側の領域が、上記シャフトに固定されていない
本発明の一実施の形態に係る第2の治療装置は、軸方向に沿って延在するシャフトと、このシャフトの基端側に装着されたハンドルとを有するカテーテルと、筒状構造を有する第1および第2のステントと、シャフトの先端領域において、第1および第2のステントをそれぞれ、縮径状態にて保持するためのシースとを備えたものである。上記第2のステントは、シース内において上記第1のステントの内周側に配置されると共に、この第1のステントよりも大きい自己拡張力を有している。また、上記第2のステントにおいて上記自己拡張力を発揮する部分の上記軸方向に沿った長さが、上記第1のステントにおける上記軸方向に沿った長さと比べて、上記シャフトの基端側および先端側のうちの基端側のみへ向けて、大きくなっている。
【0008】
本発明の一実施の形態に係る第1および第2の治療装置では、シャフトの先端領域において、第1および第2のステントがそれぞれ、縮径状態にてシース内に保持される。また、このシース内において、第1のステントよりも大きい自己拡張力を有する第2のステントが、第1のステントの内周側に配置される。これにより、第1のステントがシース内から放出(リリース)される際に、第2のステントにおける相対的に大きな自己拡張力によって、第1のステントの拡径(展開)がサポートされるため、治療対象の部位(例えば消化管内など)に対する第1のステントの留置作業が、容易となる。
特に、本発明の一実施の形態に係る第1の治療装置では、上記第2のステントにおける基端側の領域が上記シャフトに固定されていると共に、上記第2のステントにおける先端側の領域が上記シャフトに固定されていない。また、本発明の一実施の形態に係る第2の治療装置では、上記第2のステントにおいて上記自己拡張力を発揮する部分の上記軸方向に沿った長さが、上記第1のステントにおける上記軸方向に沿った長さと比べて、上記シャフトの基端側および先端側のうちの基端側のみへ向けて、大きくなっている。これにより、本発明の一実施の形態に係る第1および第2の治療装置ではそれぞれ、例えば、この治療装置の操作者によってシースが基端側に引っ張られることで、このシース内から第1のステントが放出される際に、第2のステントは引き続きシース内に保持され易くなる(残存し易くなる)ため、操作性が向上する。したがって、治療対象の部位(例えば消化管内など)に対する第1のステントの留置作業が、更に容易なものとなる結果、利便性の更なる向上が図られる。
【0009】
本発明の一実施の形態に係る第2の治療装置では、上記第2のステントが、その基端側の一部領域においてシャフトに固定されているようにしてもよい
【0010】
また、本発明の一実施の形態に係る第1および第2の治療装置では、上記第1のステントが、生分解性を有する樹脂ステント(生分解性ステント)であると共に、上記第2のステントが、ダミーステントとしての金属ステントであるようにしてもよい。このようにした場合、自己拡張力が相対的に小さい生分解性ステントを用いる場合においても、ダミーステントとしての金属ステントによる上記したサポートを利用することで、治療対象の部位(例えば消化管内など)に対する生分解性ステントの留置作業が、容易なものとなる。したがって、このような生分解性ステントを用いた治療の際においても、利便性の向上が図られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る第1および第2の治療装置によれば、シャフトの先端領域において、第1および第2のステントをそれぞれ、縮径状態にてシース内に保持させると共に、このシース内において、第1のステントよりも大きい自己拡張力を有する第2のステントを、第1のステントの内周側に配置するようにしたので、治療対象の部位(例えば消化管内など)に対する第1のステントの留置作業を、容易なものとすることができる。よって、このような治療装置を用いて治療を行うことで、ステントを用いた治療の際の利便性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態に係る治療装置の概略構成例を表す模式断面図である。
図2図1に示した治療装置を用いたステントの留置方法の一例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(生分解性ステントの内周側に金属ステントを配置した治療装置の例)
2.変形例
【0014】
<1.実施の形態>
[構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る治療装置(治療装置4)の概略構成例を、模式的に断面図(Y−Z断面図)で表したものである。治療装置4は、患者体内の管状器官(この例では消化管)の治療の際に用いられる装置(デリバリ装置)である。この治療装置4は、図1に示したように、カテーテル1(デリバリカテーテル)と、2種類のステント(後述する樹脂ステント21および金属ステント22)と、シース3(カバー)とを備えている。
【0015】
なお、詳細は後述するが、上記した2種類のステントのうち、樹脂ステント21は、例えば上記した治療の際に、カテーテル1を用いて、治療対象の部位(例えば食道等の消化管内)に留置されるようになっている。一方で、金属ステント22は、そのような治療の際に、実際には治療対象の部位には留置されないステント(後述するダミーステントとして機能するステント)となっている。
【0016】
(カテーテル1)
カテーテル1は、患者における上記した治療対象の部位まで、上記した2種類のステント(樹脂ステント21および金属ステント22)をそれぞれ運ぶ際に使用される医療機器である。このカテーテル1は、図1に示したように、シャフト11(デリバリシャフト)と、ハンドル12(把持部,グリップ)とを備えている。
【0017】
シャフト11は、少なくとも先端部分において可撓性を有しており、自身の軸方向(長手方向)であるZ軸方向に沿って延在する形状となっている。このシャフト11は、図1に示したように、軸方向(Z軸方向)に沿った先端側から基端側へと向かって、先端領域A1、中間領域A2および基端領域A3(ハンドル内領域)を、この順に有している。
【0018】
先端領域A1では、上記した治療の際に、図1に示したように、上記した2種類のステント(樹脂ステント21および金属ステント22)がそれぞれ縮径された状態で、後述するシース3の内部に保持されるようになっている。また、基端領域A3は、図1に示したように、ハンドル12内に収容された部分に対応している。中間領域A2は、図1に示したように、先端領域A1と基端領域A3との間に位置する領域である。
【0019】
このようなシャフト11の軸方向に沿った長さ(全長)は、例えば300〜3000mm程度であり、好ましくは550〜2750mm程度、更に好ましくは800〜2600mm程度であり、好適な一例を示せば、1050mmまたは2525mmである。また、先端領域A1の長さは、搭載されるステント(樹脂ステント21および金属ステント22)の長さ(軸方向長)に応じて適宜設定されるようになっており、例えば45〜450mm程度であり、好ましくは80〜380mm程度、更に好ましくは120〜300mm程度である。中間領域A2の長さは、例えば50〜2900mm程度であり、好ましくは290〜2700mm程度、更に好ましくは450〜2450mm程度であり、好適な一例を示せば、770mmまたは2245mmである。
【0020】
また、先端領域A1の外径は、例えば0.5〜3.0mm程度であり、好ましくは1.0〜3.0mm程度、好適な一例を示せば、1.3mmである。中間領域A2の外径は、例えば1.0〜10.0mm程度であり、好ましくは2.0〜6.5mm程度、好適な一例を示せば、2.54mmである。
【0021】
なお、このようなシャフト11は、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリウレタン、ナイロン、ポリエーテルブロックアミド等の合成樹脂、SUS(ステンレス鋼)、アルミニウム(Al)等の金属材料、または、上記した合成樹脂および金属材料の組み合わせにより構成されている。また、このようなシャフト11は、ガイドワイヤを通すための中空構造(内径:例えば1mm程度)であることが望ましい。
【0022】
ハンドル12は、図1に示したように、シャフト11の基端側(基端領域A3)に装着されており、カテーテル1の使用時に操作者(医師)が掴む(握る)部分である。このハンドル12は、その軸方向(Z軸方向)に沿って延在する形状となっている。
【0023】
ハンドル12の軸方向に沿った長さは、例えば50〜200mm程度であり、好ましくは55〜170mm程度、更に好ましくは65〜140mm程度であり、好適な一例を示せば、80mmである。また、ハンドル12の外径は、例えば3〜35mm程度であり、好ましくは5〜30mm程度、好適な一例を示せば、24mmである。
【0024】
なお、このようなハンドル12は、例えば、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等の合成樹脂により構成されている。
【0025】
(樹脂ステント21および金属ステント22)
樹脂ステント21および金属ステント22はそれぞれ、図1に示したように、それらの軸方向(Z軸方向)に沿って延在する筒状(円筒状)構造を有している。上記したように、樹脂ステント21は、治療対象の部位(消化管内)に留置されるステント(消化管ステント)である。一方、金属ステント22は、治療対象の部位に樹脂ステント21を留置する際に使用されるステントであり、詳細は後述するが、そのような留置後に回収される(患者の生体外に取り出される)、ダミーステントとして機能するようになっている。また、これらの樹脂ステント21および金属ステント22はいずれも、詳細は後述するが、図1に示したように、縮径状態で保持されることが可能な構造を有している。
【0026】
このような樹脂ステント21および金属ステント22はいずれも、1または複数の線材(素線)を用いて構成されている。具体的には、例えば上記した筒状構造が網目状構造により構成されていると共に、このような筒状の網目状構造が、線材を所定のパターンで編み組むことにより形成されている。なお、この編み組みのパターンとしては、例えば、平織り、綾織り、メリヤス編み等が挙げられる。また、線材をジグザグ状に折り曲げて円筒状に加工したものを1つ以上配置することで、筒状の網目状構造を形成するようにしてもよい。
【0027】
ここで、樹脂ステント21は、図1に示したように、シース3内において、金属ステント22の外周側に、縮径された状態にて配置されている。また、樹脂ステント21は、生分解性を有するステント(生分解性ステント)となっており、金属ステント22と比べて小さい自己拡張力(自己拡径力)を有している(樹脂ステント21の自己拡張力<金属ステント22の自己拡張力)。なお、この樹脂ステント21の拡張時の外径は、例えば6〜46mm程度である。
【0028】
このような樹脂ステント21における線材(樹脂線材)の材料としては、例えば上記したように、生分解性を有する樹脂(生分解性の繊維など)が挙げられる。この生分解性の繊維としては、例えば、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ―バレロラクトン、グリコール酸、トリメチレンカーボネート、パラジオキサノン等のモノマーから合成されるホモポリマー、コポリマー、およびそれらのブレンドポリマーが挙げられる。この繊維は、モノフィラメント糸であってもよいし、マルチフィラメント糸であってもよい。また、この繊維は、撚りをかけていてもよいし、かけていなくてもよい。
【0029】
一方、金属ステント22は、図1に示したように、シース3内において、樹脂ステント21の内周側に、縮径された状態にて配置されている。また、金属ステント22は、上記したように、樹脂ステント21と比べて大きい自己拡張力を有しており、詳細は後述するが、樹脂ステント21における拡径(展開)動作のサポート(補助)を行う、ダミーステント(自己拡張力サポート部材)として機能するようになっている。つまり、前述したように、この金属ステント22自身は、治療対象の部位には留置されないようになっている。
【0030】
また、この金属ステント22は、図1に示したように、自身の基端側の一部領域(固定領域A10)において、シャフト11に対して部分的に固定されている。一方、上記した樹脂ステント21および後述するシース3はそれぞれ、シャフト11には固定されないようになっている。
【0031】
また、図1に示したように、この金属ステント22における軸方向(Z軸方向)に沿った長さ(軸方向長L22)は、樹脂ステント21における軸方向(Z軸方向)に沿った長さ(軸方向長L21)と比べて、シャフト11の基端側へ向けて大きくなっている(軸方向長L22>軸方向長L21)。つまり、図1に示したように、金属ステント22は樹脂ステント21と比べ、シャフト11の基端側へ向けて突出した部分を有している。なお、このような金属ステント22の軸方向長L22(縮径時)は、例えば8〜30cm程度であり、樹脂ステント21の軸方向長L21(縮径時)は、例えば6〜20cm程度である。
【0032】
このような金属ステント22における線材(金属線材)の材料としては、特に熱処理による形状記憶効果や超弾性が付与される、形状記憶合金が好ましく採用される。ただし、用途によっては、金属線材の材料として、ステンレス、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)等を用いてもよい。上記した形状記憶合金としては、例えば、ニッケル(Ni)−Ti合金、銅(Cu)−亜鉛(Zn)−X(X=アルミニウム(Al),鉄(Fe)等)合金、Ni−Ti−X(X=Fe,Cu,バナジウム(V),コバルト(Co)等)合金などが好ましく使用される。なお、金属線材の表面にAu,Ptなどをメッキ等の手段で被覆したもの、あるいは、Au,Ptなどの放射線不透過性の素材からなる芯材を合金で覆った複合的な線材を、金属ステント22の線材として用いるようにしてもよい。
【0033】
なお、上記した樹脂ステント21は、本発明における「第1のステント」の一具体例に対応している。また、金属ステント22は、本発明における「第2のステント(ダミーステント)」の一具体例に対応している。
【0034】
(シース3)
シース3は、前述したように、シャフト11の先端領域A1において、樹脂ステント21および金属ステント22をそれぞれ、縮径状態で保持するための部材である。具体的には図1に示したように、金属ステント22が内周側(シャフト11の外周上)に配置されると共に樹脂ステント21が外周側(シース3の内周上)に配置される順序にて、これら2種類のステントがそれぞれ、シース3内に保持されるようになっている。
【0035】
なお、このシース3の外径は、例えば2.0〜18.0mm程度であり、好ましくは3.0〜12.0mm程度、好適な一例を示せば、6.0mmである。
【0036】
このようなシース3は、この例では軟質性の部材により構成されている。縮径状態のステント(樹脂ステント21および金属ステント22)を軟質性のシース3で覆うことにより、これらのステントをそれぞれ、確実に保持することができるようになっている。また、シース3が軟質性であることにより、例えば硬質性の筒状体(シース)などと比較して、シャフト11における先端領域A1の形状変化に、シース3が容易に追従することが可能となっている。
【0037】
[動作および作用・効果]
(A.治療方法の概要)
この治療装置4は、患者における消化管付近の腫瘍等の治療の際に用いられる。具体的には、まず、操作者(医師)がカテーテル1を操作することで、シース3内に縮径された状態の樹脂ステント21および金属ステント22がそれぞれ、患者の消化管(例えば食道)内に挿入され、治療対象の部位(例えば食道等の消化管内)まで運ばれる。そして、詳細は後述するが、これら2種類のステントのうちの樹脂ステント21が、シース3内から展開されて拡径されることで、この樹脂ステント21が治療対象の部位に留置される。
【0038】
このようにして、樹脂ステント21が治療対象の部位に留置されることで、腫瘍等によって狭窄した消化管の内腔を、押し開けることが可能となる。また、特にこの樹脂ステント21は、生分解性を有するステント(生分解性ステント)であることから、消化管内において時間の経過とともに分解されるため、患者への負担を軽減することが可能となる。
【0039】
(B.治療方法の詳細について)
ここで、本実施の形態の治療装置4を用いた治療方法(生分解性の樹脂ステント21を利用した治療方法)の詳細について、具体的に説明する。
【0040】
図2は、このような治療装置4を用いた樹脂ステント21の留置方法の一例を、図2(A)〜図2(D)の順序にて、模式的に断面図で表したものである。なお、ここでは、治療対象の部位が、消化管9である場合を例に挙げて説明する。
【0041】
まず、例えば図2(A)に示したように、治療装置4の操作者が操作することで、消化管9における治療対象の部位付近まで、シース3内に縮径された状態の樹脂ステント21および金属ステント22をそれぞれ、到達させる(図2(A)中の矢印P1参照)。
【0042】
次いで、例えば図2(B)に示したように、治療装置4の操作者が、シース3を基端側に引っ張る操作を行う(図2(B)中の矢印P21参照)。すると、内周側の金属ステント22は基端側(固定領域A10)でシャフト11に固定されていると共に、外周側の樹脂ステント21よりも基端側に突出していることから、以下のようになる。すなわち、シース3内に引き続き保持(残留)されている金属ステント22における、相対的に大きな自己拡張力を利用して、樹脂ステント21がシース3内から放出(リリース)され、拡径(展開)される(図2(B)中の矢印P22参照)。
【0043】
続いて、例えば図2(C)に示したように、治療装置4の操作者が、シース3を再び先端側に押し出す操作を行うことで(図2(C)中の矢印P31参照)、消化管9における治療対象の部位付近まで、シース3を移動させる。すると、金属ステント22全体が、シース3内に再び収容されて縮径状態で保持されることで(図2(C)中の矢印P32参照)、樹脂ステント21が、消化管9の内壁に固定される。なお、この樹脂ステント21(生分解性ステント)は、一旦拡径すれば塑性変形する性質があることから、自己拡張力が相対的に小さいステントであっても、そのまま消化管9の内壁に固定させることができる。このようにして、治療対象の部位付近における消化管9の管腔が、拡張および保持されることになる。
【0044】
そして、その後は例えば図2(D)に示したように、治療装置4の操作者が、シース3およびハンドル12を基端側に引っ張る操作を行う(図2(D)中の矢印P4参照)。これにより、シャフト11、シース3、およびシース3内の金属ステント22がそれぞれ、患者の体内から取り出される(回収される)ことで、図2に示した一連の治療方法が完了となる。
【0045】
(C.治療装置4における作用・効果)
ここで、本実施の形態の治療装置4では、図1および図2に示したように、2種類のステント(樹脂ステント21および金属ステント22)が、以下のように構成されている。すなわち、まず、シャフト11の先端領域において、これらの樹脂ステント21および金属ステント22がそれぞれ、縮径状態にてシース3内に保持されている。また、このシース3内においては、樹脂ステント21よりも大きい自己拡張力を有する金属ステント22が、樹脂ステント21の内周側に配置されている。
【0046】
これにより本実施の形態では、上記した図2を用いて説明した治療方法において、樹脂ステント21がシース3内から放出される際(図2(B)参照)に、以下のようになる。すなわち、金属ステント22における相対的に大きな自己拡張力によって、この樹脂ステント21の拡径がサポートされる(図2(B)中の矢印P22参照)。つまり、金属ステント22の自己拡張力によるサポートを受けることで、相対的に小さい自己拡張力を有する樹脂ステント21が、容易に拡径することになる。なお、樹脂ステント21は、樹脂を用いて構成されていることから、一旦縮径させてしまうと塑性変形してしまうことがあり、自己拡張力を利用するだけでは、当初設計されていた外径まで拡径(回復)できないことがある。このような場合でも、本実施の形態では、金属ステント22における相対的に大きな自己拡張力を利用することで、樹脂ステント21が当初設計されていた外径まで拡径されることになる。その結果、本実施の形態では、治療対象の部位(消化管9内)に対する樹脂ステント21の留置作業が、容易となる。
【0047】
このようにして本実施の形態では、治療対象の部位(消化管9内)に対する樹脂ステント21の留置作業を、容易なものとすることができるため、以下のようになる。すなわち、このような治療装置4を用いて消化管9の治療を行うことで、自己拡張力が相対的に小さい樹脂ステント21を利用する場合においても、消化管ステントを用いた治療の際の利便性を向上させることが可能となる。
【0048】
また、本実施の形態の治療装置4では、図1に示したように、金属ステント22の基端側の一部領域(固定領域A10)が、シャフト11に固定されていると共に、金属ステント22の軸方向長L22が、樹脂ステント21の軸方向長L21と比べて、シャフト11の基端側へ向けて大きくなっている。これにより、治療装置4の操作者によってシース3が基端側に引っ張られることで(図2(B)中の矢印P21参照)、このシース3内から樹脂ステント21が放出される際に(図2(B)中の矢印P22参照)、以下のようになる。すなわち、例えば図2(B)に示したように、金属ステント22は引き続きシース3内に保持され易くなる(残存し易くなる)ため、操作性が向上することになる。したがって、治療対象の部位(消化管9内)に対する樹脂ステント21の留置作業が、更に容易なものとなる結果、利便性の更なる向上を図ることが可能となる。
【0049】
ちなみに、例えば、上記した軸方向長L21,L22が互いに等しくなっている(揃っている)ようにした場合(軸方向長L21=軸方向長L22)、以下のようなおそれが生じ得る。すなわち、例えば図2(B)に示したように、シース3内から樹脂ステント21が放出される際に、金属ステント22も一緒にシース3内から飛び出してしまい、この金属ステント22をシース3と一緒に、患者の体内から回収できなくなってしまうおそれが生じ得る。
【0050】
更に、本実施の形態の治療装置4では、消化管9内に実際に留置されるステントが、生分解性を有する樹脂ステント21(生分解性ステント)であると共に、消化管9内には留置されないステント(ダミーステント)が、金属ステント22となっている。これにより、自己拡張力が相対的に小さい生分解性ステントを用いる場合においても、ダミーステントとしての金属ステント22による上記したサポートを利用することで、治療対象の部位(消化管9内)に対する生分解性ステントの留置作業が、容易なものとなる。したがって本実施の形態では、このような生分解性ステントを用いた治療の際においても、利便性の向上を図ることが可能となる。
【0051】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。
【0052】
例えば、上記実施の形態において説明した各部材の形状や配置位置、サイズ、個数、材料等は限定されるものではなく、他の形状や配置位置、サイズ、個数、材料等としてもよい。
【0053】
具体的には、上記実施の形態では、本発明における「第1のステント」の一例として、生分解性を有する樹脂ステント21(生分解性ステント)を挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、本発明における「第2のステント」よりも小さい自己拡張力を有するものであれば、他の種類のステントを用いるようにしてもよい。また、上記実施の形態では、本発明における「第2のステント(ダミーステント)」の一例として、金属ステント22を挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、本発明における「第1のステント」よりも大きい自己拡張力を有するものであれば、他の種類(材料)のステントを用いるようにしてもよい。
【0054】
更に、上記実施の形態では、金属ステント22における軸方向長L22が、樹脂ステント21における軸方向長L21と比べて、シャフト11の基端側へ向けて大きくなっている(軸方向長L22>軸方向長L21)場合を例に挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、例えば場合によっては、これらの軸方向長L21,L22が互いに等しくなっている(揃っている)ようにしてもよい(軸方向長L21=軸方向長L22)。
【0055】
また、上記実施の形態では、主に、食道等の消化管についての治療に適用されるステントおよび治療装置を例に挙げて説明したが、これには限られない。すなわち、本発明のステントおよび治療装置はそれぞれ、食道以外の他の消化管や、消化管以外の他の体内の管状器官についての治療にも、適用することが可能である。
【0056】
更に、上記実施の形態では、カテーテルとステントとシースとによって治療装置を構成する場合を例に挙げて説明したが、これには限られない。すなわち、例えば、カテーテルとステントとによって、治療装置を構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…カテーテル、11…シャフト、12…ハンドル、21…樹脂ステント(生分解性ステント)、22…金属ステント(ダミーステント)、3…シース、4…治療装置、9…消化管、A1…先端領域、A2…中間領域、A3…基端領域、A10…固定領域、L21,L22…軸方向長。
図1
図2