特許第6899380号(P6899380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マイオーサ プロプリエタリー リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許6899380-口腔器具 図000002
  • 特許6899380-口腔器具 図000003
  • 特許6899380-口腔器具 図000004
  • 特許6899380-口腔器具 図000005
  • 特許6899380-口腔器具 図000006
  • 特許6899380-口腔器具 図000007
  • 特許6899380-口腔器具 図000008
  • 特許6899380-口腔器具 図000009
  • 特許6899380-口腔器具 図000010
  • 特許6899380-口腔器具 図000011
  • 特許6899380-口腔器具 図000012
  • 特許6899380-口腔器具 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899380
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】口腔器具
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/06 20060101AFI20210628BHJP
   A61F 5/56 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   A61M16/06 D
   A61F5/56
【請求項の数】17
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-512454(P2018-512454)
(86)(22)【出願日】2016年5月20日
(65)【公表番号】特表2018-519132(P2018-519132A)
(43)【公表日】2018年7月19日
(86)【国際出願番号】AU2016000174
(87)【国際公開番号】WO2016187646
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2019年5月13日
(31)【優先権主張番号】2015901890
(32)【優先日】2015年5月22日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】517103186
【氏名又は名称】マイオーサ プロプリエタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ジョン ファレル
【審査官】 段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0018538(US,A1)
【文献】 米国特許第07004172(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/06
A61F 5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の睡眠呼吸障害を治療する又は主として鼻を通して呼吸するように人を訓練するための口腔器具のセットであって、前記口腔器具のセットが、治療又は訓練の第1段階における使用のための第1の口腔器具と治療又は訓練の少なくとも第2段階における使用のための少なくとも第2の口腔器具とを備え、
前記第1及び少なくとも第2の口腔器具の各々が、
前部とそれぞれ後端を有する2つのアームとを有し、内壁及び外壁を含む概してU字形の器具本体を備え、
前記器具本体は、前記内壁及び前記外壁を相互接続するウェブを備え、
前記内壁及び外壁が、各々、上歯列弓受け入れチャネルを規定するように前記ウェブの上方に突出する上部を有し、
前記内壁及び外壁が、各々、下歯列弓受け入れチャネルを規定する前記ウェブから垂下する下部を有し、
前記ウェブが、呼吸のための全断面積を規定するように少なくとも1つの呼吸孔を備え、前記第1の口腔器具の前記呼吸のための全断面積が前記第2の口腔器具の前記呼吸のための全断面積よりも大きい、
口腔器具のセット。
【請求項2】
少なくとも前記第1の口腔器具の前記器具本体の前部における前記ウェブが、口が閉じるのを防ぐように適切に寸法付けられた厚みを有する請求項1に記載の口腔器具のセット。
【請求項3】
前記少なくとも第2の口腔器具の少なくとも1つの第2の口腔器具における前記器具本体の前部における前記ウェブの厚みが、前記第1の口腔器具における前記器具本体の前部における前記ウェブの厚みよりも減少させられている請求項2に記載の口腔器具のセット。
【請求項4】
前記口腔器具のセットにおける少なくとも1つの口腔器具の前記ウェブが、前記ウェブの前部から前記ウェブの前記アームの後端に向かう点まで厚くなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の口腔器具のセット。
【請求項5】
前記口腔器具のセットにおける少なくとも1つの口腔器具の前記ウェブが圧縮可能な部分を有し、前記圧縮可能な部分の各々が前記ウェブのアームの後端に向かっている請求項1〜4のいずれか一項に記載の口腔器具のセット。
【請求項6】
前記圧縮可能な部分が、それらを通る少なくとも1つ以上の圧縮可能な孔を有する請求項5に記載の口腔器具のセット。
【請求項7】
少なくとも前記第1の口腔器具が前記器具本体の前記前部に2〜4個の呼吸孔を有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の口腔器具のセット。
【請求項8】
少なくとも前記第1段階口腔器具が前記ウェブの前記アームの各後端に向かう1つ以上の呼吸孔を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の口腔器具のセット。
【請求項9】
前記口腔器具のセットが治療又は訓練の第3段階での使用のための少なくとも第3の口腔器具を更に含み、前記第3の口腔器具における呼吸のために利用可能な全断面積が前記第2の口腔器具における全断面積よりも小さい請求項1〜8のいずれか一項に記載の口腔器具のセット。
【請求項10】
前記口腔器具のセットが治療又は訓練の逐次的な3〜6段階における使用のための3〜6個の口腔器具を含み、各口腔器具が異なる呼吸用全断面積を有し、治療の各段階において使用される口腔器具が、治療の先の段階において使用される口腔器具の呼吸用全断面積よりも小さい呼吸用全断面積を有する請求項1〜9のいずれか一項に記載の口腔器具のセット。
【請求項11】
治療又は訓練の最終段階で使用される口腔器具が、1mm以下の直径又は幅の複数の呼吸孔を有する請求項10に記載の口腔器具のセット。
【請求項12】
呼吸孔を有していない治療又は訓練の最終段階のための口腔器具を更に含む請求項1〜11のいずれか一項に記載の口腔器具のセット。
【請求項13】
少なくとも1つの口腔器具の前記上歯列弓受け入れチャネル及び下歯列弓受け入れチャネルが、前記口腔器具が口内で着用されたときに前記患者の下歯列弓が前進させられるように構成される請求項1〜12のいずれか一項に記載の口腔器具のセット。
【請求項14】
前記少なくとも第2の口腔器具の少なくとも1つにおける下顎前進の程度が、前記第1の口腔器具における下顎前進の程度よりも小さい請求項13に記載の口腔器具のセット。
【請求項15】
少なくとも1つの口腔器具の前記内壁の上部が、中央に丸みのある弾性部を含み、患者の舌の先端を位置決めするための舌タグを規定する請求項1〜14のいずれか一項に記載の口腔器具のセット。
【請求項16】
前記舌タグを有する口腔器具が前記第1の口腔器具であり、前記少なくとも第2の口腔器具も丸みのある弾性部を有し、患者の舌の先端を位置決めするための舌タグを有し、前記第2の口腔器具の丸みのある弾性部が前記第1段階器具の丸みのある弾性部よりも薄い請求項15に記載の口腔器具のセット。
【請求項17】
前記口腔器具のセットが、内部に開口を有する前記舌タグを有する少なくとも1つの口腔器具を備える請求項16に記載の口腔器具のセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、睡眠呼吸障害(sleep disorder breathing)(SDB)の治療における使用のための口腔器具に関する。本開示はまた、概して、口呼吸よりもむしろ鼻呼吸するように患者を訓練する方法に関する。
【0002】
本開示はまた、SDBを患っている患者を治療するための及び/又は口呼吸よりもむしろ鼻呼吸するように患者を訓練するための複数の器具のシステムにまで及ぶ。
【0003】
明細書及び特許請求の範囲において、用語の「備えている(comprising)」は、用語の「含んでいる(including)」と同様の広い意味を有するものとして理解されるべきであり、記載された構成要素(integer)若しくはステップ又は一連の複数の構成要素若しくはステップの包含を意味するものとして理解されるが、任意の他の構成要素若しくはステップ又は一連の複数の構成要素若しくはステップの除外を意味するものではないものとして理解されるものとする。この定義は、「備える(comprise and comprises)」等の用語「備えている」の変形にも適用される。
【0004】
明細書及び特許請求の範囲において、用語「睡眠呼吸障害」は、睡眠中に上気道閉塞(upper airway obstruction)がある任意の状態を参照し、上気道閉塞は、限定はされないが、いびき、上気道抵抗症候群(upper airway resistance syndrome)(UARS)、及び閉塞性睡眠時無呼吸・呼吸低下症候群(obstructive sleep apnea-hypopnea syndrome)(OSAHS)を含む。
【背景技術】
【0005】
過去20年にわたり、医療及び歯科の専門家は、多くの健康問題の主要要因として睡眠障害をより意識するようになってきた。以前は、いびきは睡眠習慣の現われだと考えられていたが、現在では、いびきは、閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea)(OSA)のようなより深刻な疾患につながることが知られている。OSAは、心臓疾患、脳卒中、及び慢性的な日中の疲労感や自発的睡眠としての全ての原因と関連付けられてきた。OSA、いびき、及び他の症候群の重症度の種々の形態が、睡眠呼吸障害(SDB)の定義の下で記述されてきた。
【0006】
SDBは広範囲の睡眠関連呼吸異常からなり、即ち、増大した上気道抵抗に関連するそのような異常は、いびき、上気道抵抗症候群(UARS)、及び閉塞性睡眠時無呼吸・呼吸低下症候群(OSAHS)を含む。多くの臨床医は、SDBを広範囲の疾患とみなしている。この考え方は、いびきをかく人はSDBの最初の兆候を呈している可能性があり、いびきを正常とみなすべきではないということを示唆している。この考え方は、標準的ないびき、UARS、及びOSAからの進行を伴う睡眠中の気道虚脱可能性(airway collapsibility)の増加を示す実験的研究からも支持されている。
【0007】
いびきはSDBの最も一般的な態様の1つである。睡眠時無呼吸症候群が認識された後、いびきは重要な臨床症状とみなされ始めた。いびきは非常に一般的な睡眠時無呼吸の症状ではあるが、いびきをかく患者の全てが睡眠時無呼吸というわけではない。
【0008】
OSAの病因は、上気道サイズの縮小と上気道筋活動の変化の組み合わせに関係し、これにより口腔組織がつぶれ、これに伴い閉塞が生じる。人が目を覚ましているときには、筋肉が咽頭気道を開いたままにする。これらの筋肉は睡眠時には弛緩することができる。OSAに寄与すると考えられる他の要因としては、体重、舌のサイズ、軟口蓋の容積、下顎後退(retrognathic mandible)、上顎と下顎の前後不一致、及び肥満が挙げられる。
【0009】
いびき及びOSAは、一般に、舌を含む身体の種々の筋肉が弛緩するときに、例えば過剰組織による咽頭気道の閉塞によって生じるので、これらは多くの場合に互いに関連する。舌は弛緩するにつれて後方に動き、咽頭気道を閉塞する。咽頭気道が閉塞されると、吐き出された空気がその速度増大に伴い気道を通って押し出されて舌や組織の振動又は他の閉塞を生じさせ、雑音が発生する。
【0010】
いびきは睡眠中の呼吸の部分的な閉塞によって引き起こされるのに対して、OSAは、舌及び軟口蓋が咽喉の後ろにつぶれて咽頭気道を完全に塞ぐことによって、睡眠中に呼吸を止め必須酸素の流れを制限するときに生じる。このように、いびきとOSAの相関関係が医学界において一般的に認識されている。
【0011】
いびきは、眠っているときに口を通して呼吸する人々に共通する。口呼吸によって下顎が下降し、咽頭気道の面積が減少する。また、口呼吸によって舌が咽喉内へと押し戻され、それによりSDBに関連する障害が生じる。
【0012】
OSAの伝統的な治療法は、持続的陽圧呼吸器具(Continuous Positive Air Pressure Appliance)(CPAP)であった。CPAP治療は、正の空気圧を使用して睡眠中に気道を開いたままに保つ。正の空気圧はポンプによって発生され、鼻又は鼻と口にフィットする小さなマスクを通して印加される。CPAPは、気道内の構造が振動するのを防ぐことによっていびきを止める。同様に重要なこととして、CPAPは、気道が狭くなって呼吸を妨げることを防ぐ。最適な圧力がマスクを通して印加されると、呼吸は規則的になり妨げられなくなり、身体の酸素レベルが安定したままとなり、患者はいびきをかかなくなる。
【0013】
しかし、CPAPは閉塞性睡眠時無呼吸を治癒することはなく、OSAの症状に対処するだけである。従って、患者がCPAPの使用を中止すると、いびきや閉塞性睡眠時無呼吸が通常は再発することになる。このため、CPAP治療は毎晩行う必要がある。また、CPAPはかさばり、不便で且つ不快な治療方法となり、大部分の患者は治療を止め不快感に甘んじることとなる。
【0014】
SDBの治療用口腔内器具がCPAPと同じくらいの間使われてきた。あまり効果的ではなくより重度の症状には適していないと考えられているものの、それらの器具は、より使い勝手がよく、より使いやすく、また確実により可搬性がある。従って、コンプライアンス要因により、CPAP計画(regime)を伴うコンプライアンス問題を有する中程度以上の重度の患者のためのSDBに対する主要な治療法として、口腔内器具が医療従事者の注目を集めてきている。
【0015】
歯科用睡眠器具(Dental Sleep Appliances)(DSA)には多くの種類があり、それらのデザインは大きく異なる。最も一般的なものは、下顎前進装置(Mandibular Advancement Devices)(MAD)である。MAD装置の背後にある原理は、睡眠中に上顎に対して前方位置で下顎を前進させることで、舌の筋肉の活動を刺激するように間接的に舌の前進を促すことによって咽頭気道を開き、それにより舌の前方剛性も増大させる点である。舌が下顎骨接合部の後部に貼り付くので、下顎を上顎に対して前方に前進させることにより、舌を前方に引っ張り、舌が咽頭気道を閉塞するのを防ぐ。従って、下顎前進装置は、下顎を移動させ、結果として舌を前進させて口腔咽頭を開くように機能する。いびきは、気道のサイズ又は直径の増加に比例して減少すると考えられている。
【0016】
MADの1つのタイプとして、上下の歯に適合する一体型の二重マウスガード状の装置がある。そのような装置は、口を通しての本質的に無制限な呼吸を可能にすることが重要であると考えられている。この背後にある理由は、もし問題が閉塞気道であるとすると、口を通る空気の流れを制限することが逆効果であるということである。
【0017】
他のMAD装置は、前進量の設定(titration)を可能にするように調整可能に接続可能なヒンジ連結された2つの部分からなる。他のものは、リビングヒンジを有する熱可塑性の単一片から形成される。ヒンジ連結された装置の広く認識された利点は、それらを用いると無制限の呼吸に対して口を開けるのを可能にする点である。先行技術のMAD装置の目的は空気流の量を増加させることであるので、呼吸が口呼吸者(mouth breathers)にとって制限されないことが非常に重要であると考えられている。
【0018】
しかし、これらのMAD装置は、潜在的に有害な影響をもたらす。殆どの単一片装置は、上顎歯と下顎歯の両方にフィットし、典型的にはほぼ静止した状態に保持され、これにより動きを制限し、不快感を生じさせ、顎の潜在的な永続的再配置をもたらしてしまう。これらのタイプの装置は、使用者の自然な側方運動並びに前方及び後方の動きを制限するので、継続的使用により、顎関節(temporomandibular joint)(TMJ)及び関連する顔面筋肉組織が悪化する可能性があり、これらは継続的使用に伴い経時的に悪化する場合がある。
【0019】
従って、歯学界においては、咬合の変化、歯や顎関節TMJへの潜在的な損傷をもたらす下顎の過度の前進を伴うこれらの装置の中長期的な影響が懸念されている。しかし、いびき、SDB及び健康上の問題をOSAから是正する上で最優先すべきことは、開業医及び患者に、これが総合的利益のために受け入れられるべき副作用であろうと認めさせることであると考えられている。
【0020】
今や軽度から中程度のOSAにおけるSDBのための最初の選択ではあるものの、それらは、最終的にSDB問題を悪化させ得る多くの問題を生み出す可能性がある。最も深刻なのは、それらは、クラスIIの不正咬合を矯正し下顎を前方に成長させるように設計された歯列矯正器具の原理に基づいていることである。DSAの相互作用は、上顎を退避させることであり、これにより空気の空間も減少するので、使用者は器具なしではますます悪化し、無期限に着用しなければならなくなる。
【0021】
いびき及びOSAを含むSDBは、小児期にも非常に一般的であり、2〜5歳の年齢の範囲で扁桃肥大(adenotonsillar enlargement)がピークになるときにしばしば発症する。米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine)の報告によれば、健康な幼児におけるOSAの有病率は約2パーセントである。慢性的ないびきは、男児女児共にほぼ10%で発症する。
【0022】
SDBを有する小児は、行動上の問題、一般的知能の不足、学習や記憶の欠如、脳神経損傷の兆候、心血管リスクの増大、及び生活の質の低下を呈する。小児は認知発達の急速な状態にあるので、SDBに関連する健康や脳機能の変化は、特に疾患が年少期に認識されない場合あるいは不適切に治療された場合に、小児の社会上及び経済上の可能性を永続的に変える可能性がある。
【0023】
乳児及び小児におけるOSAの1つの治療は、扁桃腺及びアデノイドの外科的切除である。しかし、CPAP療法を伴う治療がますます使用されてきている。小児にCPAPを使用する際の主な懸念は、マスク及びヘッドギアが顔面の構造的変化をもたらし、また長期間使用に伴い前方への顔面成長を制限する可能性である。顔面の骨は小児では融合していないので、適応性がある。
【0024】
加えて、DSAは、小児の発育及び発達に大きな有害作用を及ぼす可能性があるので、成長期の小児には使用することができない。下顎を強制的に前進させると、結果的にクラス3の不正咬合になる可能性があり、この場合、下顎が上顎よりも発達し、上顎弓のサイズと正確に一致しなくなる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
上記の器具及び治療の全てが、物理的な外力を加えることにより咽頭気道を開放することを試みることによって、SDBの症状を改善しようとするものであることが理解されるであろう。しかし、それらは、問題の解決には至っておらず、あるいは何らかの解決策が可能であることを多少なりとも示唆している。
【課題を解決するための手段】
【0026】
よって、本発明は、患者の睡眠呼吸障害を治療する方法であって、
(a)第1の口腔器具及び少なくとも第2の口腔器具を備える口腔器具のセットを提供するステップと、
(b)第1の期間中は睡眠しつつ第1の治療段階において前記第1の口腔器具を着用することを前記患者にさせるステップと、
(c)第2の期間中は睡眠しつつ第2の治療段階において前記第2の口腔器具を着用することを前記患者にさせるステップと、を備え、
前記第1の口腔器具及び少なくとも第2の口腔器具の各々が、
前部及び2つのアームを有し内壁及び外壁を含む概してU字形の器具本体と、
前部とそれぞれ後端を有する2つのアームとを有し前記内壁及び前記外壁を相互接続するウェブと、を備え、
前記内壁及び外壁の各々が、上歯列弓受け入れチャネルを規定するように前記ウェブの上方に突出する上部を有し、
前記内壁及び外壁の各々が、下歯列弓受け入れチャネルを規定するように前記ウェブから垂下する下部を有し、
前記ウェブが、呼吸のための全断面積を規定するように少なくとも1つの呼吸孔を備え、前記第1の器具の前記呼吸のための全断面積が前記第2の口腔器具の前記呼吸のための全断面積よりも大きい方法に関する。
【0027】
この方法は、呼吸の生化学及び生理学並びにCOによって行われる重要な役割の理解に基づいている。これは、下顎を物理的に前進させることにのみ関係する先行技術のMAD装置とは全く異なる取り組みであることが理解されるであろう。
【0028】
血中CO濃度の上昇は、ヘモグロビンタンパク質が細胞レベルで酸素を放出する要因となる血液pHの低下をもたらす。逆に、血中COの減少はpHの上昇を引き起こし、結果としてヘモグロビンがより多くの酸素を獲得する。従って、細胞への最適な酸素運搬のために最適な血中COレベルが必要となる。しかし、このCO要求は大気中の含有量を超えている。身体は、動脈血中並びに肺、鼻及び咽喉の死腔(dead space)内にCOを蓄えることによって、この大気の欠乏に対処している。
【0029】
しかし、鼻よりもむしろ口が主として呼吸に用いられるとき、鼻腔はもはや呼吸経路の一部ではないので、死腔容積は減少する。これにより肺胞CO濃度及び動脈血CO濃度が低下し、それに続き細胞へ運搬される酸素が減少し、結果として低酸素症になることがある。低酸素症はSDBにおいて頻繁に発生すると考えられている。
【0030】
また、COは呼吸のトリガーとなる。正常な呼吸パターンを有する人では、化学的トリガーは、約40mmHgの圧力の動脈血COレベルに反応する。人が低COレベルの期間に曝されると、時間の経過とともに脳内の化学的トリガーがリセットされ、より低いレベルのCOに反応して過呼吸や過換気を引き起こす。結果として生じる過呼吸は、血圧及び心拍数の上昇を含む悪影響を与えたり、喘息、アレルギー及び鼻炎を悪化させることがあり、また、心臓、脳及び他の器官から最適な酸素供給を奪ってしまう。
【0031】
開示された方法は、先ず、口を通って吸入され吐き出される空気の量を呼吸孔により調節することによって作用する。理想的には、第1の器具は、器具が無い場合の呼吸のための断面積と比較して低減された呼吸のための断面積を有する。これにより、各呼吸で交換される空気の量が減少し、動脈血COレベルが上昇し、細胞にはより多くの酸素が放出される。呼吸用断面積(cross sectional breathing area)が治療の第2段階で減少させられるにつれて、患者は口を通してより少ない空気を、また鼻を通してより多い空気を吸入するように徐々に変化して動脈血COレベルをもたらし、結果として細胞への酸素供給が更に増大される。
【0032】
理論に縛られることを望む訳ではないが、この段階的なCOレベルの上昇は、患者が細胞への適切な酸素供給を有するように、最終的に正常な呼吸パターンを回復すべく化学的トリガーをリセットし得ると考えられている。
【0033】
更に、この段階的な口呼吸から鼻呼吸への移行は、人が口呼吸よりもむしろ鼻呼吸するように訓練することを支援するであろう。
【0034】
口を完全に閉塞することにより、口呼吸者を睡眠中に鼻呼吸するよう強いることが提案されてきた。最も簡単な取り組みは、単に口にテープを貼ることである。口が開くのを防ぐ顎ストラップもよく知られている。しかし、そのような性急な解決策は、呼吸習慣を再訓練することには役立たない。装置が取り外されると、その人はたやすく速やかに口呼吸に戻ってしまう。
【0035】
これは、口呼吸(及び他の口腔筋機能疾患)においては、顔面及び口の関連筋肉が、人が機能不全のやり方で呼吸するのを助けるようにプログラムされてしまっているからである。患者の身体は、どのようにして正常に呼吸するのかを知らない。
【0036】
現在、口呼吸を実際に止める唯一の方法は、筋肉が新たな方法で機能するように再訓練する筋機能療法によるものである。筋機能療法は、適切な舌の位置、改善された呼吸、咀嚼、及び嚥下を促進するための、顔及び舌の運動並びに行動修正技術を含む。筋機能療法では、筋機能療法専門家が定めた運動及び定期的な療法セッションを厳密に遵守する必要がある。全ての患者、特に子供、が遵守するとは限らない。
【0037】
理論に縛られることを望む訳ではないが、本発明者は、鼻を通して患者にゆっくりと呼吸を開始させる器具の呼吸孔を段階的に減少させることによっても、口を閉じたまま保つ口唇筋等の口腔顔面筋を再訓練し強化することを支援するものと考えている。
【0038】
第1及び/又は第2の口腔器具の上歯列弓受け入れチャネル及び下歯列弓受け入れチャネルは、器具が口内で着用されるときに、患者の下顎が前進させられるように構成されてよい。これにより舌は前方に動かされ、咽頭気道の閉塞が緩和され得る。下顎変位の程度は、それがある場合には、第1の口腔器具から第2の口腔器具に適切に減少してよい。幾つかの方法では、最終段階の口腔器具は下顎変位を有していなくてもよい。
【0039】
更なる実施形態では、治療の任意の1つ以上の段階は、目が覚めている間に口腔装具を着用することを更に含んでいてよい。これにより、呼吸を調節し、移行を訓練する効果を高めることができる。目が覚めているときに器具を着用するための適切な時間は、約20分から約4時間、好適には約1時間から約3時間、より好適には約1時間から約2時間である。
【0040】
本発明者はまた、小児の口呼吸が、小児及び最終的には成人がSDBに罹患し易くし得る顔面成長変化及び/又は口腔顔面筋緊張に重大で深刻な結果を及ぼし得ることを観察した。
【0041】
SDB症状を未だ示していないこともある口呼吸者にとっては、健康上の重大な悪影響があることが理解されるであろう。従って、SDB症状を示さない口呼吸者を訓練して、彼らの呼吸パターンを口から鼻に変えることができることが望ましい。
【0042】
よって、本発明はまた、主として鼻を通しての呼吸に人を訓練する方法であって、
(a)第1及び少なくとも第2の口腔器具を備える口腔器具のセットを提供するステップと、
(b)第1の期間中は睡眠しつつ第1の治療段階においては前記第1の口腔器具を着用することを患者にさせるステップと、
(c)第2の期間中は睡眠しつつ第2の治療段階において前記第2の口腔器具を着用することを前記患者にさせるステップと、を備え、
前記第1及び少なくとも第2の口腔器具の各々が、
前部及び2つのアームを有し内壁及び外壁を含む概してU字形の器具本体と、
前部とそれぞれ後端を有する2つのアームとを有し前記内壁及び前記外壁を相互接続するウェブと、を備え、
前記内壁及び外壁の各々が、上歯列弓受け入れチャネルを規定するように前記ウェブの上方に突出する上部を有し、
前記内壁及び外壁の各々が、下歯列弓受け入れチャネルを規定するように前記ウェブから垂下する下部を有し、
前記ウェブが、呼吸のための全断面積を規定するように少なくとも1つの呼吸孔を備え、前記第1の器具の前記呼吸のための全断面積が前記第2の口腔器具の前記呼吸のための全断面積よりも大きい方法に関する。
【0043】
第1及び/又は第2の口腔器具の上歯列弓受け入れチャネル及び下歯列弓受け入れチャネルは、器具が口内で着用されるときに、患者の下歯列弓が前進させられるように構成されてよい。これにより舌は前方に動かされ、咽頭気道の閉塞が緩和され得る。下顎変位の程度は、それがある場合には、第1の口腔器具から第2の口腔器具に適切に減少してよい。幾つかの方法では、最終段階の口腔器具は下顎変位を有していなくてもよい。
【0044】
SDBが未だ生じていない場合、上記方法での使用のためのセットにおける全ての器具が下顎を前進させる必要はない。
【0045】
上記方法での使用のための全ての器具は、内壁と外壁を相互接続するウェブを含み、このウェブは、口腔器具が患者の口内に装着されたときに、上下歯列弓の間に位置する。このように、ウェブは、使用中の上下歯列弓の間の咬合面内に広く横たわっている。
【0046】
少なくとも第1の器具のウェブは、口が閉じるのを防ぐように適切に寸法付けられている。ウェブ寸法は、患者が鼻呼吸に向けて訓練されるのに従って、それに続く器具に伴い減少してよい。
【0047】
ウェブは、ウェブの前部からアームの後端に向かう点まで適切に厚くなる。これは上下顎の歯の間の空間を埋める傾向がある。これは、いくつかの点で翼(airfoil)に似ており、ウェブを厚くする。この配置は、より大きな圧力を後臼歯にかけることにより、関節及び筋肉を弛緩させ訓練する。
【0048】
好適には、ウェブの厚い部分は圧縮可能である。圧縮は、より柔らかい又はより圧縮可能な材料の部分を設けることによって達成され得る。好適には、圧縮は、ウェブのアームの後端を通る1つ以上の孔を設けることによって達成される。
【0049】
翼形状と後臼歯間でウェブの当該部分を圧縮する能力との組み合わせは、従来の柔軟でない装置の使用者が感じるTMJの痛みや他の不快感を軽減することができる。例えば、マウスガード型の従来技術に係る多くのMAD装置は、ボイル・バイト型(boil and bite type)のマウスガードに類似している。これらは周知であり、ガードが使用者の歯及び歯列弓の形状に使用者成形されたエチレン酢酸ビニル等の熱変形可能なプラスチックから形成される。
【0050】
また、ウェブを圧縮する能力は、使用者の顎の互いに対する動きを可能にし、不快感を更に軽減し、より重要なことに、このような動きを可能にすることで口の筋肉の再訓練及び発達を可能にする。
【0051】
圧縮可能な孔はまた、呼吸孔としての二重の機能を果たし得る。
【0052】
器具の内壁は、器具が患者の口に装着されたときにウェブの上方に突出する上部とウェブから垂下する下部とを含む。
【0053】
内壁は、2つの主面、即ち舌に向かって内側に面する舌面と、歯列弓受け入れチャネル内へと外側に面するチャネル面と、を有していてよい。
【0054】
外壁は、2つの主面、即ち頬粘膜に向かって外側に面する頬面と、歯列弓受け入れチャネル内へと面するチャネル面と、を有していてもよい。
【0055】
好適には、内壁及び外壁は、患者が口を開けて眠っているときに口腔内に保持され得るように寸法付けられる。
【0056】
これらの壁は歯列弓を受け入れるための上部及び下部チャネルを規定するので、内壁及び外壁は、前部と前部から離れるように延びる2つのアーム部とを含む。
【0057】
内壁の前部は、ウェブから上方に延びるにつれて外壁から離れるように後方に傾斜していてよい。この傾斜角は、器具を着用したときに快適さをもたらすように、口蓋の自然な湾曲を採用すべく適切に選択される。
【0058】
器具は、患者の歯列の正中線に対応して、内壁の上部に形成された舌タグ、例えば内壁上の実質的に中心に形成された舌タグ又は内壁に沿って実質的に途中に形成された舌タグを含んでいてよい。
【0059】
内壁は、舌タグの周りに周縁を形成してよく、周縁は丸みを帯びていてよい。特に、周縁は、舌開口が開口の内側の位置から内壁の舌面及びチャネル面上に移行する場所で丸みを帯びていてよい。
【0060】
舌タグは、制限された気道を拡大するために、前方位置での舌の正確な位置決めのための指標として役立ち得る。舌タグについては、後で更に論じる。
【0061】
器具本体は、ポリマー材料から形成されてよい。特に、器具本体は、ポリウレタン又はシリコーンであるポリマー材料から例えば射出成形によって形成される。
【0062】
シリコーンは、柔軟性があり、使用者の歯への成形を必要としないので、特に適している。これにより快適さを改善することができ、即ち使用者の快適さ及びこれに伴いコンプライアンスにも寄与する使用者の何らかの顎運動が可能になる。
【0063】
器具本体は、幾つかの異なるサイズで作製されてよく、サイズは、人々の大多数が、適度な適合度合いで彼らの上歯列弓にフィットし得る器具を選択することができるように選択されてよい。典型的には、器具本体の3〜4個の異なるサイズが存在してよい。
【0064】
本方法は、呼吸のための断面積が段階的に減少する2つ以上の器具のセットを使用する。複数の呼吸孔が器具のウェブ内にある。第1段階の器具は、前部に2〜4個の比較的大きな呼吸孔を有していてよい。1つ以上の呼吸孔がウェブの後部に向けて位置していてもよい。
【0065】
呼吸を可能にすることに加えて、空気孔は、顎関節の穏やかな圧縮を可能にする程度の柔軟性を提供する。
【0066】
第2の器具は、同等数の孔を適切に有する。代替的には、孔の数は減らされてもよい。
【0067】
好適には、上記に開示された両方法に対して、これらの方法は、少なくとも第3の口腔器具を提供することを更に含み、この更なる1つ以上の器具は、治療の更なる段階での使用のためのものであり、治療の各段階において、呼吸のために利用可能な断面積が減少させられる。
【0068】
好適には、治療は、3〜6個の器具を伴う3〜6段階であり、各器具は、減少する空気呼吸用断面積を有する。
【0069】
このように、段階的な器具を用いると、より少ない総空気量が吸入される。最終段階の器具は、1mm以下の幅又は直径を有する複数の孔を有していてよい。幾つかの方法では、最終段階の器具は呼吸孔を全く有していなくてもよい。
【0070】
上記方法のいずれかの幾つかの態様においては、ウェブの厚みは、段階的な器具と共に減少してよい。ウェブの厚みによって、器具により顎がどの程度離れて保持されるのかがある程度は決定される。ウェブの厚みを減少させることにより、顎は、治療計画を通して、鼻呼吸のために完全に閉じられるまで近づくことが可能になる。
【0071】
上歯列弓受け入れチャネル及び下歯列弓受け入れチャネルは、着用時に下顎が前進させられるように構成されてよい。幾つかの実施形態では、これらの方法は、呼吸のための全断面積と共に下顎前進の度合いが減少する器具を用いてよい。
【0072】
舌タグが存在し、舌が舌タグ内に位置させられている場合、舌タグは上顎上の器具の収縮作用に対抗することができる。場合によっては、これにより上顎が前進することがある。
【0073】
好適には、少なくとも第1段階の器具は、最初に舌先を上方及び前方に「吸引」して、制限された気道を拡大するために、隔壁のような特性を有する舌タグを有する。
【0074】
隔壁状舌タグは、器具の各段階で次第に薄くなってよく、幾つかの実施形態では、最終的には、舌の先端を受け入れるための孔になってよい。
【0075】
下顎前進と舌を前進させることとの総合作用の結果として、従来のMAD装置と比較して、ここに開示された器具及び方法では、より少ない下顎前進で済むであろう。これにより副作用が低減され、本開示に係る器具を成人及び幼児に安全に使用させることができる。
【0076】
治療の段階は、患者の年齢、口呼吸の程度、及びSDBの重症度等の幾つかの因子に依存し得る。器具は口内で着用されるべきである。
【0077】
好適には、段階は1〜3ヶ月の間で変動してよい。全治療は最長で1〜2年である。治療の進行は、SDBをモニタリングする既知の方法を用いて医療従事者によってモニタリングされてよい。
【0078】
更なる実施形態では、治療の任意の1つ以上の段階は、目が覚めている間に口腔装具を着用することを更に含んでいてよい。これにより、呼吸を調節し移行を訓練する効果を高めることができる。目が覚めているときに器具を着用するための適切な時間は、約20分から約4時間、好適には約1時間から約3時間、より好適には約1時間から約2時間である。
【0079】
患者の睡眠呼吸障害を治療する方法における使用のための口腔器具のセットもまたここに開示され、口腔器具のセットは、第1の口腔器具及び少なくとも第2の口腔器具を備え、前記第1の口腔器具及び少なくとも第2の口腔器具の各々は、
前部及び2つのアームを有し内壁、外壁を含む概してU字形の器具本体と、
前部とそれぞれ後端を有する2つのアームとを有し前記内壁及び前記外壁を相互接続するウェブと、を備え、
前記内壁及び外壁の各々は、上歯列弓受け入れチャネルを規定するように前記ウェブの上方に突出する上部を有し、
前記内壁及び外壁の各々は、下歯列弓受け入れチャネルを規定するように前記ウェブから垂下する下部を有し、
前記ウェブは、呼吸のための全断面積を規定するように少なくとも1つの呼吸孔を備え、前記第1の口腔器具の前記呼吸のための全断面積は、前記第2の口腔器具の前記呼吸のための全断面積よりも大きい。
【0080】
第1及び/又は第2の口腔器具の上歯列弓受け入れチャネル及び下歯列弓受け入れチャネルは、器具が口内で着用されるときに、患者の下顎が前進させられるように構成されてよい。これにより舌は前方に動かされ、咽頭気道の閉塞が緩和され得る。下顎変位の程度は、それがある場合には、第1の口腔器具から第2の口腔器具に適切に減少してよい。幾つかの態様では、最終段階の口腔器具は下顎変位を有していなくてもよい。
【0081】
主として鼻を通しての呼吸に人を訓練する方法における使用のための口腔器具のセットも更に開示され、口腔器具のセットは、第1の口腔器具及び少なくとも第2の口腔器具を備え、前記第1及び少なくとも第2の器具の各々は、
前部及び2つのアームを有し内壁、外壁を含む概してU字形の器具本体と、
前部とそれぞれ後端を有する2つのアームとを有し前記内壁及び前記外壁を相互接続するウェブと、を備え、
前記内壁及び外壁の各々は、上歯列弓受け入れチャネルを規定するように前記ウェブの上方に突出する上部を有し、
前記内壁及び外壁の各々は、下歯列弓受け入れチャネルを規定するように前記ウェブから垂下する下部を有し、
前記ウェブは、呼吸のための全断面積を規定するように少なくとも1つの呼吸孔を備え、前記第1の口腔器具の前記呼吸のための全断面積は、前記第2の口腔器具の前記呼吸のための全断面積よりも大きい。
【0082】
第1及び/又は第2の口腔器具の上歯列弓受け入れチャネル及び下歯列弓受け入れチャネルは、器具が口内で着用されるときに、患者の下顎が前進させられるように構成されてよい。これにより舌は前方に動かされ、咽頭気道の閉塞が緩和され得る。下顎変位の程度は、それがある場合には、第1の口腔器具から第2の口腔器具に適切に減少してよい。幾つかの態様では、最終段階の口腔器具は下顎変位を有していなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1図1は睡眠中に正常に呼吸している人の概略図である。
図2図2は結果としていびきをもたらす気道の部分的な閉塞を伴う睡眠中に呼吸する人の概略図である。
図3図3は気道の完全な閉塞があるOSAを伴う睡眠中に呼吸している人の概略図である。
図4図4はここに開示された器具を着用している間の睡眠中に呼吸している人の概略図である。
図5図5はここに開示された口腔器具の一態様を頂部から見た背面斜視図である。
図6図6図5に示す口腔器具を底部から見た後方斜視図である。
図7図7図5に示す口腔器具の背面図である。
図8図8はここに開示された更なる口腔器具の側面図である。
図9図9図7に示す口腔器具の断面図である。
図10図10は更なる口腔器具の背面図である。
図11図11は更なる口腔器具の背面図である。
図12図12は更なる口腔器具の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
本発明に係る口腔器具は、種々の形態で実現し得る。以下、添付の図面を参照して本発明の幾つかの実施形態を詳細に説明する。この詳細な説明を提供する目的は、本発明の主題に関心がある人に、本発明をどのようにして実際的な効果をもたらすように実施するのかを教示することにある。しかし、この詳細な説明の特定の本質は、先述の広い開示の一般性に優先するものではないことが明確に理解されるべきである。
【0085】
図1は、鼻12を通して正常に呼吸している睡眠中の人10の概略図である。舌14は咽頭気道16の前方に位置している。口18は閉じており、この人は完全に鼻12を通して呼吸している。
【0086】
図2は、いびきを生じさせる気道の部分的閉塞を伴う人を示す。この人は口18を通して呼吸しており、舌14及び軟口蓋20が気道16を部分的に閉塞することを許容している。空気が閉塞を押しのけるに従い、軟口蓋20が振動して、それによりいびきに関連する雑音が生じる。
【0087】
図3は、OSAにおけるように気道16が完全に閉塞された状況を示す。
【0088】
図4は、ここに開示された口腔器具30を着用している人10を示す。下顎22は、図1〜3におけるよりも前方位置に位置していることが分かるであろう。これにより舌14が前方に移動し、それにより閉塞が軽減されて、この人は本質的に非閉塞の気道で呼吸することが可能になっている。
【0089】
図5及び6は、好適には第1段階の器具である器具30の斜視図を示す。この器具は、口腔内で柔軟且つ快適なゴム材料である医療グレードのシリコーンで作られている。
【0090】
器具30は、使用者の上歯列弓に装着するための器具本体を含む。器具本体は、患者の上歯列弓の舌側に位置させられる内壁34と、患者の頬側に位置させられる外壁36と、を含む。器具本体はまた、内壁34と外壁36とを相互接続するウェブ38を含み、ウェブ38は、使用中の上下歯列弓間の咬合面内にある。
【0091】
内壁34、外壁36、及びウェブ38は、上下の歯列弓受け入れチャネル40及び42を規定し、上下の歯列弓受け入れチャネル40及び42内には、それぞれ、上歯列弓及び関連する歯列と下歯列弓及び関連する歯列とを受け入れることができる。
【0092】
内壁34は、器具30が上歯列弓に装着されたときにウェブ38から上方に突出する上部35と、ウェブ38から下方に突出する下部37と、を含む。同様に、外壁36は、ウェブ38の上方の上部39と、ウェブ38の下方の下部41と、を含む。更に、内壁34は、舌面46及びチャネル面48を有する。
【0093】
外壁36は、口が閉じられたときに上下臼歯の頬側を実質的に覆うように寸法付けられた前部頬面72を有する。このようにして、過活動唇筋からの力は、歯に印加されるよりもむしろ面72上に分散させられ得る。
【0094】
内壁34は、患者の舌の先端を位置決めするための舌タグ60を規定する。舌タグ60は、患者の歯列の正中線に対応する内壁34の上部35の実質的中央に形成されている。
【0095】
内壁及び外壁は、正面部51と、正面部51から離れるように延びる2本のアーム部53,55と、を含む。内壁34の正面部51は、ウェブ38から約30〜40度の角度で上方に延びるにつれて外壁36から離れるように後方に傾斜している。特に、その内側に舌タブ60が形成されている内壁の領域は、30〜40度の角度で後方に傾斜していてよい。
【0096】
舌タグ60は、舌によって与えられる圧力に応答して出入り可能な円形の薄い隔壁部61を有する。舌の先端が隔壁を押圧して隔壁を変形させると、舌の先端を舌タグ上に保持するのを支援することができる僅かな吸引力が生じる。
【0097】
内壁34の下部は、舌エレベータ70を含む。内壁34は、下端縁領域52を有し、下端縁領域は、舌エレベータ50を形成するように厚くされる。舌エレベータは、気道16を開くように舌を前方に動かすのに役立つ上方位置を舌が保持するよう強制する。
【0098】
前部は、等間隔に配置された4つの呼吸孔80を内部に有し、図7においてより明確に見ることができる。
【0099】
ウェブ38の各アームはまた、アームの後端に向かう単一の孔74を有し、この孔74は図9においてより明確に見ることができる。これらの孔については、以下でさらに論じる。
【0100】
図7は、器具の正面を通って延びる4つの呼吸孔80を有する器具の背面図である。
【0101】
図8は、ウェブ38の各アーム内に位置させられた一連の孔74を示す別の器具90の側面図である。
【0102】
図9は、図7に示される器具の断面図である。ウェブ38の側面形状が点線で示されている。ウェブは後端に近づくにつれて厚くなっていることが分かるであろう。肉厚部は、臼歯を受け入れる器具の部分に対応する。孔74は、肉厚部内にある。
【0103】
ウェブのアームの孔(1つ又は複数)74は、呼吸を支援するだけでなく、ウェブの当該部分にある程度の圧縮をもたらす。これにより、患者に快適さを提供するだけでなく、患者が歯を互いに対して僅かに動かすことを可能にする、ある程度の緩衝性及び柔軟性がもたらされる。これにより、硬く柔軟性のないMAD装置を装着することによって感じる不快感を低減することができる。運動はまた、鼻呼吸するように患者を再訓練する際に重要な口腔顔面筋の訓練を可能にする。
【0104】
図10は、別の口腔器具100の背面図であり、この口腔器具100においては、前部の4つの孔80は、図7に示す器具の全断面積より小さい全断面積を有する。好適には、図7に示す器具は、第1の治療段階で使用されてよい。
【0105】
図11は、2つの前部呼吸孔を有し、それにより図5〜7に示す器具と比較して呼吸のためのより小さい全断面積を有する更なる器具110の背面図である。この器具は、治療の第2段階又は更なる段階で使用されてよい。
【0106】
図12は、器具の前部に2つのはるかに小さい呼吸孔80を有する更なる器具120を示す。この器具は、呼吸のための更に減少した全断面積を有する。
【0107】
図5〜7,10,11及び12に示す3つの異なる器具は、SDBを治療するための方法において使用されてよい。治療の第1段階では、患者は、図5〜7に示す器具を約1〜4ヶ月間毎晩着用する。この間、患者の動脈血COは上昇するはずであり、低酸素症が抑えられるはずである。患者は睡眠後により爽快に感じ始めるはずである。更に、下顎前進と舌の配置の組み合わせにより咽頭気道が開くことによって、いびきが抑えられ得る。患者は鼻を通してより多く呼吸し始めるはずである。
【0108】
第2の治療段階では、患者は、図10に示す器具を約1〜4ヶ月の更なる期間にわたって毎晩着用する。口を通しての空気の吸入が更に減少する結果、呼気中のCOレベルの更なる変化を伴って、患者は鼻を通してより多く呼吸することを求められることになる。
【0109】
第3の治療段階では、患者は、図11に示す器具を約1〜4ヶ月の更なる期間にわたって毎晩着用する。口を通しての空気の吸入が更に減少する結果、呼気中のCOレベルの更なる変化を伴って、患者は鼻を通して更に多く呼吸することを求められることになる。患者は、身体へのより良い酸素供給の利点を感じ始め、過換気よりもむしろ正常な呼吸パターンに近づき始めることになる。いびきは顕著に減少するか、あるいはなくなるはずである。
【0110】
最終治療段階では、患者は、図12に示す器具を約1〜4ヶ月の更なる期間にわたって毎晩着用する。口を通しての空気の吸入が更に減少する結果、呼気中のCOレベルの更なる変化を伴って、患者は鼻を通してより多く呼吸することを求められることになる。
【0111】
最終段階の後、患者が器具なしで鼻呼吸することができるように、患者の呼吸モードが再訓練されるべきである。睡眠中、舌は前方位置にあり、後退して気道を閉塞することはない。患者はもはやCPAPを着用することもDSAを着用することも必要としない。
【0112】
治療の1つ以上の段階において、患者は、目覚めている間に口腔器具を着用してもよい。これにより、呼吸を調節し、移行を訓練する効果を高めることができる。目が覚めているときに器具を着用するための適切な時間は、約20分から約4時間、好適には約1時間から約3時間、より好適には約1時間から約2時間である。
【0113】
開示された機器及び開示された方法には多くの利点があることが理解されるであろう。シリコーン器具は、沸騰及び咬合(boil and bite)又は特別あつらえを必要とせず、柔軟であり、快適であり、TMJへのストレスを軽減する程度の圧縮性を有する。舌タグは、舌を前方に突出させるので、更に咽頭気道を開くのを支援する。これは、先行技術のMAD装置と同じほどには下顎を過剰前進させる必要がない可能性があることを意味し得る。これは、不快感が少なく、より重要なことに損傷の可能性が低いことを意味する。従って、ここに開示された装置は、小児において安全に使用され得る。
【0114】
最も重要なことは、本開示に係る器具及び方法が、鼻を通して呼吸するのを再訓練することを可能にし、それにより、口呼吸によって引き起こされ口呼吸に関連するSDBの根本的な問題を軽減しこれに対処し得ることである。
【0115】
ここに開示された器具及び方法に対して、その精神及び範囲から逸脱することなく、種々の変更及び修正がなされ得ることが理解されるはずである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12