特許第6899397号(P6899397)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899397
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】磁性材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/01 20060101AFI20210628BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20210628BHJP
   C22C 22/00 20060101ALI20210628BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20210628BHJP
   C22C 19/00 20060101ALI20210628BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   H01F1/01 170
   C22C38/00 303A
   C22C22/00
   C22C19/07 C
   C22C19/00 H
   C22C27/06
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-548544(P2018-548544)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2017007950
(87)【国際公開番号】WO2018083819
(87)【国際公開日】20180511
【審査請求日】2019年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-215578(P2016-215578)
(32)【優先日】2016年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 芳郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 義政
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−277727(JP,A)
【文献】 特表2015−517023(JP,A)
【文献】 特表2011−523676(JP,A)
【文献】 特開2009−068077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/01
C22C 19/00
C22C 19/07
C22C 22/00
C22C 27/06
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気熱量効果を有する化合物の磁性材料の製造方法であり、
前記磁性材料は、少なくともFe元素を含み、包晶型の状態図を有し、
前記磁性材料を構成する原料をアルカリ金属を含む融液中で包晶温度以下で反応させて生成物を生成する工程と、
前記生成物を冷却した後、前記アルカリ金属を除去する工程と、
を備える磁性材料の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属は、少なくともNaを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記磁性材料は、下記式(1)で示される化合物である請求項1又は2に記載の製造方法。
La1−a(FeSi1−b1−b−c13 (1)
(式中、AはCe,Pr,Ndから選択される少なくとも1つの元素であり、BはAl,Mn,Co,Ni,Crから選択される少なくとも1つの元素であり、CはB,Hから選択される少なくとも1つの元素であり、a,b,c,dは、0≦≦1、0.8≦b≦0.92、0.08≦c≦0.2、0≦d≦1である。)
【請求項4】
前記磁性材料は、La(FeSi1−b13で示される化合物である請求項3に記載の製造方法。
(式中、bは、0.8≦b≦0.92である。)
【請求項5】
前記磁性材料は、下記式(2)で示される、4元系の化合物である請求項1又は2に記載の製造方法。
(A1−x2+y(C1−z) (2)
(式中、AはMn又はCoであり、BはFe,Cr又はNiであり、CはP,B,Se,Ge,Ga,Si,Sn,N,As又はSbであり、DはGe又はSiであり、x,y,zは、0<x<1、−0.1≦y≦0.1、0<z<1である。)
【請求項6】
前記磁性材料は、(MnFe1−x(PSi1−z)で示される化合物である請求項5に記載の製造方法。
(式中、x,zは、0<x<1、0<z<1である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、磁気熱量効果を有する化合物の磁性材料の製造方法に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
磁場変化を与えることにより、内部でエントロピー変化が起こり、温度が変化する磁性材料が知られている。そのような磁性材料として、Gd(ガドリニウム)や、複数の元素で構成された化合物が知られている。Gdは高価な金属材料である。そのため、Gdを使用しない化合物で磁性材料を製造する研究が進められている。特開2009−68077号公報には、La(Fe,Si)13系化合物で磁性材料を製造する技術が開示されている。また、特表2011−523676号公報には、(Mn,Fe)(P,Ge)系化合物で磁性材料を製造する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
化合物の磁性材料は、複数の原料を含む混合原料を溶融した状態で反応させた後、得られた生成物を冷却して固化することにより生成される。しかしながら化合物の磁性材料の状態図は包晶型であるため、冷却して固化した生成物の組織は分相する。そのため、混合原料を溶融して冷却するだけでは、所望する磁気熱量効果を有する化合物が得られない。従来技術では、冷却後の生成物(化合物)を数十〜数百時間熱処理(アニール処理)し、組織を均一化(単相化)する。そのため、磁性材料の製造に長時間かかる。本明細書は、化合物の磁性材料について、従来よりも製造時間を短縮する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書は、磁気熱量効果を有する化合物の磁性材料の製造方法を開示する。その製造方法は、磁性材料を構成する原料をアルカリ金属と融液中で反応させて生成物を生成する工程と、その生成物を冷却した後、アルカリ金属を除去する工程を備えていてよい。
【0005】
上記製造方法によると、磁性材料の構成原料を反応させるときに、それらの原料とともに、磁性材料を構成しないアルカリ金属を溶融する。アルカリ金属を含む融液中で磁性材料の構成原料を反応させることにより、アルカリ金属を用いない場合と比較して反応温度を包晶温度以下まで下げることができる。得られた生成物を冷却したときに、生成物の組織が分相することが抑制される。すなわち、冷却後に熱処理を行うことなく、単相の生成物(磁性材料)が得られる。固化後に熱処理が必要な従来技術と比較して、大幅に製造時間を短縮することができる。また、上記製造方法では、製造工程で分相した組織が生じないので、分相した組織を単相化する従来の製造方法と比較して、組織の均一性も向上する。なお、「磁性材料を構成しないアルカリ金属」とは、アルカリ金属が化合物の結晶を構成しないことを意味しており、例えば不可避のアルカリ金属、冷却後に除去されずに化合物中に残存したアルカリ金属等が磁性材料内に存在することはあり得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】磁性材料の製造装置の模式図を示す。
図2】磁性材料の製造方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
【0008】
本明細書では、磁気熱量効果を有する化合物の磁性材料の製造方法を開示する。その磁性材料は、単独で、あるいは、他の材料と混合され、磁気冷凍機の磁性部材として用いられてよい。
【0009】
本明細書で開示する製造方法は、下記式(1)で示される化合物(磁性材料)の製造に適用してよい。
La1−a(FeSi1−b1−b−c13 (1)
式中、AはCe,Pr,Ndから選択される少なくとも1つの元素であり、BはAl,Mn,Co,Ni,Crから選択される少なくとも1つの元素であり、CはB,Hから選択される少なくとも1つの元素であり、a,b,c,dは、0≦a≦1、0.8≦b≦0.92、0.08≦c≦0.2、0≦d≦1である。
【0010】
上記元素A,元素B,元素C及び元素比a,b,c,dを調整することにより、磁性材料の磁気熱量特性が生じる温度領域を調整したり、磁歪特性(結晶が変形する現象)を調整することができる。本明細書で開示する製造方法は、上記式(1)で示される化合物のうち、特に、La(FeSi1−b13,(0.8≦b≦0.92)で示される化合物の製造に有用である。
【0011】
また、本明細書で開示する製造方法は、下記式(2)で示される4元系の化合物(磁性材料)の製造に適用してもよい。
(A1−x2+y(C1−z) (2)
式中、AはMn又はCoであり、BはFe,Cr又はNiであり、CはP,B,Se,Ge,Ga,Si,Sn,N,As又はSbであり、DはGe又はSiであり、x,y,zは、0<x<1、−0.1≦y≦0.1、0<z<1である。
【0012】
上記式(2)に示す化合物においても、元素A,元素B,元素C,元素B及び元素比x,y,zを調整することにより、磁性材料の磁気熱量特性が生じる温度領域を調整したり、磁歪特性を調整することができる。本明細書で開示する製造方法は、上記式(2)で示される化合物のうち、特に、(MnFe1−x(PSi1−z),(0<x<1、0<z<1)で示される化合物の製造に有用である。
【0013】
本明細書で開示する製造方法は、磁性材料(化合物)を構成する原料をアルカリ金属を含む融液中で反応させて生成物を生成する工程と、得られた生成物を冷却した後、アルカリ金属を除去する工程を備えていてよい。磁性材料を構成する原料にアルカリ金属を加えることにより、磁性材料を構成する原料のみの混合原料の反応温度よりも、混合原料の反応温度を低くすることができる。包晶温度以下の低温で混合原料を反応させ、生成物を得ることができるので、生成物を冷却するときに、組織が分相することが抑制される。また、組織の分相が抑制されるので、冷却後に組織を均一化(単相化)するための熱処理(アニール処理)が不要となり、製造時間を短縮することができる。なお、熱処理を行っても、分相した組織を完全に単相化することは難しい。本明細書で開示する製造方法は、冷却後の組織が単相であるため、冷却後に熱処理が必要な製造方法と比較して、均一な組織の磁性材料が得られる。アルカリ金属は、融剤(フラックス)として用いられる。本明細書で開示する製造方法は、フラックス法を利用した製造方法ということもできる。
【0014】
磁性材料を構成する元素とアルカリ金属の混合原料は、るつぼ等の容器内で反応させてよい。容器の材料は、タンタル(Ta),タングステン(W),モリブデン(Mo)等の高融点金属、アルミナ(Al),イットリア(Y)等の酸化物、窒化アルミニウム(AlN),窒化チタン(TiN),窒化ジルコニウム(ZrN),窒化ホウ素(BN)等の窒化物セラミックス、炭化タングステン(WC),炭化タンタル(TaC)等の高融点金属の炭化物、p−BN(パイロリティックボロンナイトライド)、p−Gr(パイロリティックグラファイト)等の熱分解生成体であってよい。なお、容器の材料は、溶融させる原料の融点、溶融条件に応じて、適宜選択することができる。以上の材料のうち、アルミナ(サファイアを含む)が好適に利用される。
【0015】
磁性部材(化合物)の合成は、上記容器内に配置した混合原料を加熱する加熱装置で行ってよい。加熱装置は、熱間等方圧プレス装置等の雰囲気加圧型加熱炉であってよい。特に限定されるものではないが、磁性部材を合成する際、容器が配置される雰囲気は不活性ガス雰囲気であってよい。不活性ガスは、アルゴン,ヘリウム,ネオン,水素等であってよい。磁性部材を合成する際、容器が配置される雰囲気は、加圧されていてよい。雰囲気内の圧力は、0.1MPa以上200MPa以下であってもよく、0.1MPa以上100MPa以下であってもよく、0.1MPa以上50MPa以下であってもよく、0.1MPa以上10MPa以下であってもよい。なお、加熱装置内の雰囲気温度(溶融温度)は、合成する磁性部材の種類によって適宜調整してよい。
【0016】
加熱装置は、上下方向に並ぶ複数の発熱体を備えていてよい。各々の発熱体は、個別に制御されてよい。すなわち、各々の発熱体をゾーン制御してよい。上下方向において、容器内の融液に温度差が生じることを抑制することができる。特に限定されるものではないが、発熱体の材質は、鉄-クロム-アルミニウム(Fe−Cr−Al)系、ニッケル-クロム(Ni−Cr)系等の合金発熱体、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)等の高融点金属発熱体、炭化珪素(SiC)、モリブデンシリサイド(MoSi)、カーボン(C)等の非金属発熱体であってよい。
【0017】
アルカリ金属を除去する工程では、冷却後の生成物を溶媒で処理し、生成物内からアルカリ金属を溶解させてよい。生成物を溶媒中に浸漬させ、生成物内からアルカリ金属を溶解させてよい。溶媒として、アルコール類、有機酸,フェノール類等の有機溶媒を用いてよい。アルコールとして、メタノール,エタノール,グリセリン等を用いてよい。有機酸として、酢酸,クエン酸等を用いてよい。
【0018】
La(FeSi1−b13,(0.8≦b≦0.92)で示される磁性部材を製造する場合、少なくとも、La原料物質、Fe原料物質、Si原料物質、アルカリ金属原料物質を混合した混合原料を溶融させる。
【0019】
La原料物質として、La単体金属、ランタンシリサイド(LaSi)等のLa合金を用いてよい。取扱いを容易にするという観点より、La原料物質は、La単体金属であってよい。
【0020】
Fe原料物質として、Fe単体金属、鉄シリサイド(FeSi)等のFe合金を用いてよい。取扱いを容易にするという観点より、Fe原料物質は、Fe単体金属であってよい。
【0021】
Si原料物質として、Si単体金属、上記したランタンシリサイド,鉄シリサイド等のSi合金を用いてよい。取扱いを容易にするという観点より、Si原料物質は、Si単体金属であってよい。
【0022】
La,Fe,Siのうち、LaとSiは、単体の融点よりも低温でアルカリ金属に溶け込む。しかしながら、Feは、低温(Feの融点未満)でアルカリ金属にほとんど溶け込まない。Feは、包晶温度以下で加熱すると、その形状がほぼ変わらない。そのため、La,Fe,Siの反応性を高くするため、Feは、1〜150μmの粉末状であってよい。なお、包晶温度以下で加熱してもFeの形状がほぼ維持されるので、所望する形状のFe部材を予め作製し、そのFe部材とLa,Si,アルカリ金属を共に容器中で加熱することにより、所望する形状の磁性部材を作製してもよい。
【0023】
アルカリ金属原料物質として、Li,Na,K,Rb,Cs,Frの単体金属が挙げられる。上記製造方法で用いるアルカリ金属は、Li,Na,K,Rb,Cs,Frから選択される1種又は複数種の金属であってよく、またLi,Na,Kから選択される1種又は複数種の金属であってもよい。取扱いを容易にするという観点より、アルカリ金属原料物質は、Na金属単体であってもよい。
【0024】
また、上記式(1)で示されるLa(Fe,Si)13系の磁性部材を製造する場合、La,Fe,Si及びアルカリ金属に加え、Ce,Pr,Nd等の希土類金属、及び/又は、Al,Mn,Co,Ni,Cr等の金属単体、又は、金属化合物を含んでいてよい。
【0025】
La(FeSi1−b13,(0.8≦b≦0.92)で示されるLa(Fe,Si)13系の磁性部材を製造する場合、加熱装置内の雰囲気温度は、800℃以上であってよく、850℃以上であってもよく、900℃以上であってもよく、950℃以上であってもよく、1000℃以上であってもよい。また、雰囲気温度は、1300℃以下であってよく、1250℃以下であってもよく、1200℃以下であってもよく、1150℃以下であってもよく、1100℃以下であってもよく、1050℃以下であってもよく、1000℃以下であってもよく、950℃以下であってもよく、900℃以下であってもよい。
【0026】
(MnFe1−x(PSi1−z),(0<x<1、0<z<1)で示される磁性部材を製造する場合、少なくとも、Mn原料物質、Fe原料物質、P原料物質、Si原料物質、アルカリ金属原料物質を混合した混合原料を共に加熱する。
【0027】
Mn原料物質として、Mn単体金属、マンガンシリサイド(MnSi)等のMn合金を用いてよい。取扱いを容易にするという観点より、Mn原料物質は、Mn単体金属であってよい。
【0028】
P原料物質として、白リン,赤リン,紫リン,黒リン等のリン単体(P)、リン化鉄,リン化マンガン等のリン化合物を用いてよい。取扱いを容易にするという観点より、P原料物質は、リン単体であってよい。
【0029】
Fe原料物質、Si原料物質、アルカリ金属原料物質は、La(FeSi1−b13,(0.8≦b≦0.92)で示される磁性部材を製造する場合に用いる原料物質と同様のものを用いてよい。
【0030】
なお、Mnも、Feと同様に、Mnの融点未満ではアルカリ金属にほとんど溶け込まない。そのため、他の原料との反応性を高くするために、Mnは、1〜150μmの粉末状であってよい。あるいは、別々のMn原料物質とFe原料物質を用いることに代えて、Mn−Fe化合物の原料物質を用いてもよい。この場合も、Mn−Fe化合物は、1〜150μmの粉末状であってよい。別々のMn原料物質とFe原料物質の混合粉末又はMn−Fe化合物で所望する形状のMn−Fe部材を予め作製し、Mn−Fe部材と磁性部材を構成する他の原料とアルカリ金属をを共に容器中で加熱し、所望する形状の磁性部材を作製してもよい。
【0031】
また、上記式(2)で示される磁性部材を製造する場合、Mnに代えてCoを用い、Feに代えてCr又はNiを用い、Pに代えてB,Se,Ge,Ga,Si,Sn,N,As又はSbを用い、Siに代えてGe等の単体又は化合物を用いてもよい。
【0032】
(MnFe1−x(PSi1−z),(0<x<1、0<z<1)を含む上記式(2)で示される磁性部材を製造する場合、加熱装置内の雰囲気温度は、800℃以上であってよく、850℃以上であってもよく、900℃以上であってもよく、950℃以上であってよい。また、雰囲気温度は、1050℃以下であってよく、1000℃以下であってもよく、950℃以下であってもよく、900℃以下であってもよい。
【実施例】
【0033】
(第1実施例)
図1を参照し、磁性材料(化合物)の製造装置について説明する。製造装置10は、加熱室6と、加熱室6内に配置される容器8と、ヒータ12を備えている。Arガスタンク2が、配管5を介して加熱室6に接続されている。Arガスは、配管5を通じて加熱室6に供給される。配管5には、圧力制御装置4が設けられている。圧力制御装置4は、加熱室6内の圧力を調節する。容器8内には、磁性部材を構成原料とアルカリ金属の混合原料14が配置される。ヒータ12は、各々発熱量(温度)を独立して制御可能な発熱体12a,12b,12cを備えている。発熱体12a,12b,12cを独立して制御することにより、融液14内において、位置毎に温度差が生じることを抑制する。
【0034】
図2を参照し、La(Fe,Si)13系の磁性部材の合成例を説明する。なお、La(Fe,Si)13系の磁性部材は、図1の製造装置10で合成した。
【0035】
まず、アルカリ金属を含む混合原料を作成した。(ステップS2)。具体的には、グローブボックス内で、Na:41.2g(1.79モル)、La:2.12g(0.015モル)、Fe:10g(0.179モル)、Si:0.67g(0.024モル)を秤量し、これらの原料を内径100mmのアルミナ製ルツボ(容器)8に充填した。Fe原料としては粒子径75μm以下の粉末を使用した。
【0036】
次に、ステップS4に示すように、加熱室6内にルツボを配置し、Arガスタンク2から加熱室6にArガスを供給した。圧力制御装置4を用いて、加熱室6内の圧力が1MPaになるように、Arガスを供給した。Arガスの供給後、ヒータ12を駆動し、1050℃で12時間保持した。このときに、融液14の温度にばらつきが生じないように、各発熱体12a,12b,12cの制御を個別に行った。なお、1050℃で12時間保持することにより、溶融Naを含む生成物(La(Fe,Si)13系の磁性材料)が形成される。
【0037】
加熱終了後、生成物を室温まで自然放冷した(ステップS6)。冷却した後、ルツボ(容器)8を加熱室6から取り出し、生成物をエタノール中に1時間浸漬させ、生成物内からNaを溶解させた(ステップS8)。これにより、La(Fe,Si)13系の磁性材料を得た。
【0038】
得られた生成物(磁性材料)について、X線回折(XRD)で結晶相の同定を行ったところ、NaZn13型(立方晶)のLa(Fe,Si)13と同定された。また、得られた生成物について、蛍光X線分析(XRF)で組成分析を行ったところ、La(Fe0.88Si0.1213であることが確認された。なお、生成物には、Naが10ppmしか含まれていなかった。
【0039】
(第2実施例)
(MnFe)(PSi)系の磁性部材の合成例を説明する。(MnFe)(PSi)系の磁性部材も、図1の製造装置10で、図2のフローに従って合成した。
【0040】
まず、グローブボックス内で、Na:41.2g(1.79モル)、Mn:5.9g(0.11モル)、Fe:4g(0.07モル)、P:2.1g(0.07モル)、Si:0.63g(0.02モル)を秤量し、これらの原料を内径100mmのアルミナ製ルツボ(容器)8に充填した。Mn原料およびFe原料としては75μm以下の粉末を使用した。
【0041】
圧力制御装置4を用いて加熱室6内の圧力が1MPaになるように、Arガスタンク2から加熱室6にArガスを供給した。次に、融液14の温度にばらつきが生じないようにヒータ12を駆動し、650℃で12時間保持し、生成物を得た。加熱終了後、得られた生成物を室温まで自然放冷し、生成物をエタノール中に1時間浸漬させ、生成物内からNaを溶解させた。これにより、(MnFe)(PSi)系の磁性材料を得た。
【0042】
得られた生成物(磁性材料)について、X線回折(XRD)で結晶相の同定を行ったところ、FeP型(六方晶)の(MnFe)(PSi)と同定された。また、得られた生成物について、蛍光X線分析(XRF)で組成分析を行ったところ、(Mn0.6Fe0.4(P0.75Si0.25)であることが確認された。なお、生成物は、Naを10ppmしか含んでいなかった。
【0043】
実施例1及び2のように、磁性部材を構成する原料をアルカリ金属(Na)とともに加熱して反応させ、生成物を冷却し、その後生成物からアルカリ金属を除去することによって、冷却後の生成物をさらに熱処理することなく、単相の磁性材料が得られた。
【0044】
従来は、例えばLa(Fe,Si)13系の化合物を製造する場合、各原料の融点以上の温度で反応させることが必要であり、反応温度は1500℃程度である。また、(MnFe)(PSi)系の化合物を製造する場合の反応温度は1100℃程度である。また、生成物は分相しているので、均一化(単相化)のために冷却後に反応温度よりも低温で数十〜数百時間の熱処理(アニール処理)を行う必要である。また、熱処理を行っても、完全に均一化することは困難であった。なお、製造時間を短縮するために熱処理温度を高くするとさらに分相が進むので、熱処理温度を高くすることには限界があった。
【0045】
上記実施例のように、磁性部材を構成する原料をアルカリ金属(Na)を含む融液中で反応させることにより、混合原料の反応温度を大幅に低下させることができ、生成物の組織が分相することを抑制できる。冷却後に単相の生成物が得られるので、冷却後の熱処理を省略することができ、磁性材料の製造時間が大幅に短縮される。均一性の高い磁性材料を短時間で製造することができる。なお、上記実施例において生成物中のアルカリ金属は数ppmであり、特性に影響を及ぼすものではない。
【0046】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
図1
図2