(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
空気中のウイルスや細菌の多くは、塵埃等の微小浮遊物を媒体として存在するため、空気清浄機やエアーコンディショナーの集塵機能は、室内環境を衛生的に保つ上で重要である。この集塵機能の優劣(高低)は、おもにフィルターの集塵性能に依存し、現在では、要求性能に応じて、高性能フィルター、HEPAフィルター、およびエレクトレットフィルター等の種々のフィルターが用いられている。
【0003】
これらのフィルターのうちエレクトレットフィルターは、フィルターを構成するポリオレフィンやポリカーボネート等の疎水性繊維に、電圧の印加、繊維同士による摩擦、または液滴の衝突等(以下「エレクトレット処理」という。)により、永久分極させた帯電フィルターである。そして、該フィルターは、帯電粒子をクーロン力により捕集する作用と、非帯電粒子を誘電分極させてクーロン力により捕集する作用を有し、非帯電フィルターと比べ低い通気抵抗で同等以上の集塵性能を発揮する。しかし、捕集された塵埃中のカビや雑菌はフィルター内で繁殖し易く、繁殖したカビの胞子や雑菌の一部はフィルターをすり抜けて室内に拡散して、室内の衛生環境が損なわれ易い。
【0004】
そこで、特許文献1では、特定の繊維径を有する繊維集合体に、特定の繊維径を有する微細繊維集合体を積層した複合体(担体)を、エレクトレット処理した後に、細菌等を捕集する抗体を担持した空気清浄機用フィルター等の有害物質除去材が提案されている。そして、前記担体に抗体を担持する方法は、(i)担体をγ−アミノプロピルトリエトキシシラン等でシラン化した後、グルタールアルデヒド等で担体表面にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、(ii)未処理の担体を、抗体の水溶液中に浸漬してイオン結合により抗体を担体に固定化する方法、(iii)特定の官能基を有する担体にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、(vi)特定の官能基を有する担体に抗体をイオン結合させる方法、および、(v)特定の官能基を有するポリマーで担体をコーティングした後に、アルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法が挙げられている(段落0054)。
【0005】
しかし、これらの方法では、前記(ii)を除き、担体を前処理するか、または、特定の官能基を有する担体に限定されるため、煩雑でありコスト高になる。また、段落0052に記載されているように、抗体はタンパク質であり細菌やカビの餌となるため、フィルターの抗ウィルス効果や抗菌効果の持続性に課題があり、したがって、担体の抗菌加工や防カビ加工が必要になる。
【0006】
一方、白金ナノ粒子は酸化力が強く、抗ウイルス効果や抗菌効果が永続し、かつ毒性が低いため、抗菌・抗ウイルス製品の分野では、白金ナノ粒子を用いた発明が種々提案されている。
例えば、特許文献2に記載の発明は、分散媒体が水系で、保護コロイド形成剤を実質含まない金属ナノコロイド液を用いて、噴霧法により担体に白金等の金属ナノコロイド粒子を担持させる方法である。また、特許文献3に記載の発明は、平均粒径が1〜10nmの白金粒子を含むコロイド分散液からなる抗菌処理液に、被処理物を浸漬等した後、乾燥して白金粒子を被処理物の表面に担持させた抗菌製品である。さらに、特許文献4および5に記載の発明は、水溶性高分子や界面活性剤で保護した白金ナノ粒子を担持した羽毛および布帛である。
【0007】
そして、これらの発明が対象とする担体は、特許文献2では多孔質化処理物(段落0026)、特許文献3の実施例(具体例)では綿(段落0013)、特許文献4および5ではそれぞれ羽毛および布帛等の親水性材料である。これらの事実が示すように、白金ナノ粒子分散液は水系であるため、疎水性(撥水性)の担体に対し浸透性や濡れ性が低く、白金ナノ粒子を当該担体上に均一に担持させることは難しかった。
【0008】
空気清浄機に使うフィルターでは、高い抗ウイルス作用等が持続し、低通気抵抗で除塵効果の高い、白金ナノ粒子を担持したエレクトレットフィルターが有望である。しかし、白金ナノ粒子を含む液を、疎水性のエレクトレットフィルターに塗布や散布すると、エレクトレットフィルターは液に覆われて分極が減少し除塵効果が低下するほか、液の浸透性や濡れ性が劣り、フィルター上で液が弾かれて白金ナノ粒子を均等に担持できず、ウイルスや細菌の不活化効果(以下、単に「不活化効果」という。)が低いという課題があった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、前記のとおり、白金ナノ粒子0.01〜25mMと、非イオン性界面活性剤0.01〜5g/Lとを少なくとも含む白金ナノ粒子分散液を、エレクトレットフィルターに、エレクトレットフィルター1m
2当たり15〜300g含浸させた後に乾燥して、白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターを製造する方法等である。以下、本発明を本発明の構成要素に分けて説明する。
【0016】
(1)白金ナノ粒子分散液
本発明で用いる白金ナノ粒子分散液は、白金ナノ粒子0.01〜25mM、および非イオン性界面活性剤0.01〜5g/Lを少なくとも含む白金ナノ粒子の分散液である。
(i)白金ナノ粒子
白金ナノ粒子分散液中の白金ナノ粒子の濃度は、前記のとおり0.01〜25mMである。該濃度が該範囲内にあれば不活化効果は十分であり、また、白金ナノ粒子分散液のコストを抑えることができる。なお、該濃度は、好ましくは0.02〜10mM、より好ましくは0.1〜5mM、さらに好ましくは0.2〜1mMである。
【0017】
また、前記白金ナノ粒子の粒径は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは10nm以下である。また、前記白金ナノ粒子の製造方法は、特に限定されず、原料となる白金イオンまたは白金錯体を、還元剤または電気化学的方法により還元してナノ粒子化する還元法等の湿式法や、白金をそのまま、または担体に担持させて加熱分解する熱分解法、プラズマガス中に蒸発させて得る蒸発法等の物理気相成長法、レーザーで急速に蒸発させるレーザー蒸発法、気相中で化学反応を起こす化学気相成長法、および、白金の塊をミル等で砕き、ナノメートルの大きさまで小さくする粉砕法等の乾式法が挙げられる。
これらの方法のうち、乾式法を用いて製造した白金ナノ粒子は分散媒を加えて分散液にする。白金ナノ粒子の分散媒は、水、または水と有機溶媒の混合分散媒が挙げられる。該混合分散媒は、エレクトレットフィルターに対し白金ナノ粒子分散液の浸透性や濡れ性を向上させる。また、白金ナノ粒子分散液は市販品を用いてもよい。
【0018】
(ii)非イオン性界面活性剤
白金ナノ粒子分散液中の非イオン性界面活性剤の含有率は、0.01〜5g/Lである。該含有率が0.01g/L未満ではエレクトレットフィルターに対する白金ナノ粒子分散液の浸透性や濡れ性が充分でなく、5g/Lを超えても浸透性等は飽和する傾向にある。なお、該含有率は、好ましくは0.05〜4g/L、より好ましくは0.1〜3g/Lである。該含有率の下限値は、臨界ミセル濃度との比で示せば、臨界ミセル濃度の25%である。
また、非イオン性界面活性剤の疎水基は、例えば、炭素数が6〜18のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアリール基から選ばれる1種以上が挙げられる。また、非イオン性界面活性剤の親水基はポリエチレングリコール残基、またはポリプロピレングリコール残基が挙げられる。
また、本発明で用いる非イオン性界面活性剤のHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)は、好ましくは10〜20の範囲内である。なお、前記HLBは下記式により求めることができる。
HLB=7+11.7Log(Mw/Mo)
ただし、式中、Mwは親水基の分子量、Moは疎水基の分子量を表す。
なお、白金ナノ粒子分散液を調製する際に、非イオン性界面活性剤は、原液を用いてもよく、水で希釈して用いてもよい。
【0019】
(2)エレクトレットフィルター
前記エレクトレットフィルターは、有機繊維を含むフィルターをエレクトレット処理して得られる。
前記有機繊維の種類は、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレンおよびポリエチレン等のポリオレフィンの繊維、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート等のポリエステルの繊維、並びに、ナイロン繊維等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、前記エレクトレット処理は、放電処理や、フィルター繊維への摩擦および液滴の衝突等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
(3)白金ナノ粒子分散液の含浸方法
該含浸方法は、エレクトレットフィルターに前記白金ナノ粒子分散液を塗布、散布、または噴霧する方法が挙げられる。
白金ナノ粒子分散液の含浸量は、エレクトレットフィルター1m
2当たり15〜300gである。該含浸量が該範囲内であれば、不活化効果は高い。なお、該含浸量は、より好ましくは30〜280g、さらに好ましくは80〜210gである。
本発明の白金ナノ粒子分散液がエレクトレットフィルターの分極の減少を防止できるのは、非イオン性界面活性剤ではイオン性界面活性剤と異なり、水中でイオンに解離することなく、エーテル結合の酸素原子の極性により水中に溶解しているため、エレクトレットフィルターの分極に及ぼす影響が小さい為ではないかと推測される。
本発明によって製造した白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターは、シート状であり、空気清浄機向けのエアフィルターとして使用する場合、プリーツ加工を施して外枠に収めフィルターユニットとする方が好適に搭載できる。プリーツ加工を施すことにより、ろ過面積が増えて通気抵抗が低下するほか、塵埃の捕集量も増える。
【0021】
(4)白金ナノ粒子分散液含浸後のエレクトレットフィルターの乾燥
本発明に用いる白金ナノ粒子分散液は、非イオン性界面活性剤を用いることにより、エレクトレットフィルターに含浸させてから乾燥し終えるまでの時間、つまりエレクトレットフィルター全体が分散液に覆われ湿潤している時間を短くすれば、エレクトレットフィルターの分極の減少を防ぐことができるため、初期の除塵率が低下することなく維持できる。
また白金ナノ粒子分散液を含浸した後のエレクトレットフィルターの乾燥温度は、有機繊維を含むフィルターでは、該繊維の分解温度以下、好ましくは軟化温度以下である。なお、エレクトレットフィルターの分極は、加熱すると脱分極を起こして消失する場合があるため、この点にも注意して乾燥温度を決める必要がある。例えば、本発明で用いるエレクトレットフィルターの軟化温度は、通常、70℃程度であるため、本発明において乾燥温度は70℃以下が、脱分極が起こり難く好適である。また、白金ナノ粒子分散液を含浸してから乾燥するまでの時間は、エレクトレットフィルターの分極の減少を防止して捕集性能を維持するためには、短いほど好ましく、20分以下が望ましい。乾燥終了の目安として、乾燥後のエレクトレットフィルターの質量が含浸する前のエレクトレットフィルターの質量と実質的に差がないこと(±0.5mg以内)を目安にして、乾燥時間を設定するとよい。
【0022】
白金ナノ粒子担持フィルターを内蔵した空気清浄機
本発明の白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターを内蔵した空気清浄機の一例を
図2と
図3に示す。以下、図を用いて本発明の空気清浄機について説明する。
(1)
図2に記載の空気清浄機の主な構成
図2に記載の本発明の空気清浄機は、主に、空気清浄機本体10、脱臭フィルター20、空気清浄機用濾材30、プレフィルター40および前面パネル50からなる。
前記空気清浄機本体10は、送風量を制御するための制御部11、操作パネル12、送風するための送風ファン14、浄化した空気を排気するための排気口13を含む。また、前記空気清浄機用濾材30には、ウイルス、細菌、および塵(以下「ウイルス等」という。)を除去するための白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルター31が装着され、プレフィルター40には空気中の粗いダストを除去するための粗取り濾布41が装着され、吸気口51を有する前面パネル50により空気清浄機本体10の前面が閉じられている。
【0023】
(2)空気清浄機による空気の浄化過程
ウイルス等に汚染された空気は、送風ファン14により吸気口51を通じて空気清浄機内に流入し、粗取り濾布41により空気中の粗いダストが除かれた後、白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルター31によりウイルス等が捕集されると共に、捕集されたウイルス等をフィルターに担持した白金ナノ粒子の抗ウイルス作用等によって不活化(死滅)させることにより空気が浄化され、この浄化された空気が排気口13を通じて住環境中に供給される。
なお、
図2および
図3に掲載された空気清浄機は本発明の空気清浄機の一例に過ぎず、本発明の空気清浄機はこれに限定されない。
【0024】
(3)白金ナノ粒子の再担持
白金ナノ粒子分散液中に非イオン性界面活性剤が存在することにより、白金ナノ粒子分散液をエレクトレットフィルターに含浸させて乾燥するだけで、白金ナノ粒子を容易に、かつ繰返し担持できる。本発明の白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターは、空気清浄機内で吸引した空気中の塵埃を捕集するうちに、白金ナノ粒子にも汚れが付着して、ウィルス等との接触が不十分になれば、不活化効果が低下する。そこで、不活化効果を長く維持するための手段として、あらたに白金ナノ粒子を不活化効果が低下したエレクトレットフィルターに再担持させれば、不活化効果が回復して維持され、フィルターの交換にともなう手間やコスト増のデメリットが避けられる。フィルターには既に白金ナノ粒子が担持されているため、再担持する白金ナノ粒子の量は、不活化効果を回復させるに足るだけの量で済む。
白金ナノ粒子を再担持できる空気清浄機は、
図3に示すように、白金ナノ粒子分散液を貯留するための薬液タンク35と、該白金ナノ粒子分散液をエレクトレットフィルターに噴霧するための噴霧装置とを、さらに内蔵してなる装置である。該噴霧装置は、詳しくは、分散液を供給する為の液送ポンプ34と、分散液の供給を調整する電磁弁(図示していない。)と、分散液を一時的に貯留させるバッファタンク(図示していない。)と、分散液を微細粒子に噴霧する噴霧ノズル32と、分散液の供給路として各部品同士をつなぐ液送配管33(パイプ、エルボ、およびチーズ等)とからなる。噴霧装置は空気清浄機の制御部11と連結して制御される構成でもよく、噴霧装置専用の制御部をあらたに設けてもよい。該噴霧装置は白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルター31に向かい合う形で設置される。噴霧装置の操作者が必要に応じてスイッチをONにすれば、担持噴霧モードによって、白金ナノ粒子分散液が貯留された薬液タンクを判別し、接続された液送ポンプ34が作動して分散液を圧送し噴霧する。分散液を噴霧する噴霧ノズル32には、圧縮エアー(図示していない。)を接続して分散液の噴霧圧力を高めることにより、散液の噴霧粒径を微細にできる。なお、白金ナノ粒子分散液を含浸した後のエレクトレットフィルターは、なるべく短時間で乾燥させるために、さらに乾燥用のヒーター42を設けてもよい。また、乾燥するために空気清浄機内の送風ファン14を稼働させてエレクトレットフィルターに送風すれば、より短時間で乾燥できる。なお、乾燥時間は、制御装置に含まれるCPU11の時計機能を用いて20分以下に設定してもよい。
前記の噴霧装置の構成によって、白金ナノ粒子をエレクトレットフィルターに容易に再担持できる。
【0025】
(4)白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターの洗浄
空気清浄機を長時間使用するか、塵埃を多く含んだ汚れた空気の環境下で使用するなどして、多数の塵埃を捕集した白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターは、汚れが激しくなり、汚れによる除塵率の低下も考えられる。この場合、多くの堆積した塵埃を取り除く必要がある。本発明ではエレクトレットフィルターのぬれ性や浸透性の低さをカバーするため、非イオン性界面活性剤を用いたが、非イオン性界面活性剤の洗浄力を応用して、白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターに付着し堆積した多くの塵埃を取り除くこともできる。
そこで、非イオン性界面活性剤を水で希釈した水溶液を、空気清浄機内に設置した薬液タンクに貯留して、噴霧装置により該水溶液を白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターに噴霧して、汚れた白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターを洗浄すれば、付着・堆積した多くの塵埃を除去することができる。
以下に、空気清浄機内に装着されたエレクトレットフィルターへの白金ナノ粒子の担持および洗浄の一例を、
図3を用いて説明する。
空気清浄機本体10には、白金ナノ粒子分散液または非イオン性界面活性剤水溶液を噴霧する噴霧装置と、2つの薬液タンク35が内蔵されている。そして、前記噴霧装置は、少なくとも、噴霧ノズル32、液送配管33、および液送ポンプ34からなる。また、2つの薬液タンク35の一方には白金ナノ粒子を含む白金ナノ粒子コロイド液が貯留され、他方には非イオン性界面活性剤を水に溶かした非イオン性界面活性剤水溶液が貯留されている。該噴霧装置において、エレクトレットフィルターに白金ナノ粒子を担持する担持用噴霧モードと、非イオン性界面活性剤水溶液を噴霧して白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターを洗浄する洗浄用噴霧モードとが、任意に選択できる。エレクトレットフィルターに白金ナノ粒子を担持するモードを選択した場合、担持用噴霧モードにより液送ポンプ34で白金ナノ粒子コロイド液および非イオン性界面活性剤水溶液を両方同時に供給し、バッファタンク(図示していない。)で白金ナノ粒子分散液を調製しつつ、調製した白金ナノ粒子分散液を、噴霧ノズル32を用いて噴霧し、白金ナノ粒子をエレクトレットフィルターに担持する。一方、洗浄用噴霧モードを選択した場合は、非イオン性界面活性剤水溶液が貯留したタンクを識別し、液送ポンプ34によって非イオン性界面活性剤水溶液のみを供給して噴霧ノズル32により噴霧し、白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルター31を洗浄する。
【0026】
本発明の利点は、白金ナノ粒子分散液の噴霧と乾燥による簡単な方法により、容易にエレクトレットフィルターに白金ナノ粒子を担持して、不活化効果を付与して回復することにある。白金ナノ粒子の担持は、空気清浄機内に薬液タンクと噴霧装置を設けるだけで容易に実施できる。担持の対象となるエレクトレットフィルターの種類は問わず、またエレクトレットフィルターは白金ナノ粒子を既に担持したものに限定されない。新規、または既に使用したエレクトレットフィルターを空気清浄機内に収めて、白金ナノ粒子分散液を噴霧するだけで、白金ナノ粒子を容易に担持して機能性フィルターとして不活化効果を発揮する。噴霧装置を内蔵した空気清浄機内において、白金ナノ粒子分散液を調製する際に用いる非イオン性界面活性剤の水溶液を噴霧することにより、エレクトレットフィルターの洗浄ができるため、塵埃を多く捕集してエレクトレットフィルターの汚れが激しい時に有効である。さらにエレクトレットフィルターを洗浄した後に、白金ナノ粒子分散液を噴霧して白金ナノ粒子を再担持することもできる。定期的に白金ナノ粒子分散液を噴霧すれば、白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターの不活化効果を長期にわたり維持できる。
本発明による白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターを、従来の空気清浄機に用いても十分な不活化効果が得られ有用であるが、噴霧装置を内蔵した空気清浄機に用いると、フィルターの交換等の手間を省きつつ、白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターの不活化効果を、より高くより長い期間維持できるので、さらに有用である。
なお、上記空気清浄機内で白金ナノ粒子を担持できるフィルターは、エレクトレットフィルター以外でも構わない。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)エレクトレットフィルター(品番:A40708N、スリーエムジャパン社製)
(2)界面活性剤
以下の表1に示す非イオン性界面活性剤を使用した。
【0028】
【表1】
【0029】
(3)試薬
(i)ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(型番:165−02863、和光純薬工業社製)
(ii)クエン酸三ナトリウム二水和物(型番:191−01785、和光純薬工業社製)
(iii)L(+)−アスコルビン酸ナトリウム(型番:190−01255、和光純薬工業社製)
(4)ウイルス、微生物
(i)φX174ファージ Esherichia coliphage Phi-X174(NBRC103405)
該ファージをインフルエンザ代替ウイルスとして使用した。
(ii)大腸菌 Esherichia coli(NBRC130898 BSL2)
【0030】
2.白金ナノ粒子分散液の作製
精製水を用いて調製した、10mMのヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物の水溶液50mLと、10mMのクエン酸三ナトリウム二水和物の水溶液50mLを混合して、白金酸とクエン酸の混合液を得た。
次に、該混合液に、精製水を用いて調製した100mMのL(+)−アスコルビン酸ナトリウムの水溶液を2.5mL混合して1週間放置し、白金酸を還元して白金ナノ粒子を生成させた。
さらに、該混合液に表2に記載の添加量(g/L)になるように、表1に示す非イオン性界面活性剤を添加し、恒温槽に入れて液温を16.9〜18.4℃に調整した。なお、作製した白金ナノ粒子分散液中の白金の濃度は0.244mMであった。
【0031】
3.白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターの作製
1辺が30mmの正方形の前記フィルター上に、該フィルター1m
2当たり前記白金ナノ粒子分散液210gを、スプレーを用いて均一に散布した後、該フィルターを70℃の恒温槽内に載置して、フィルターの質量が、分散液を散布する前の質量±0.5mg以内になるまで乾燥して、白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターを作製した。なお、前記乾燥に要した時間は15分であった。
【0032】
4.除塵試験
前記白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターを、
図4に示す除塵試験装置のろ紙ケースに装着した後、粒径が0.3〜0.5μmの塵を1〜10万個含む空気を該フィルターに通し、該フィルター通過前後の気中の塵の数をパーティクルカウンターを用いて測定した。次に、得られた塵の数に基づき、下記式を用いて除塵率を求めた。その結果を表2に示す。
除塵率(%)=100×(フィルター通過前の気中の塵の数−フィルター通過後の気中の塵の数)/フィルター通過前の気中の塵の数
なお、除塵試験装置は、
図4に示すように、主に、パーティクルカウンター、吸引ポンプ(真空ポンプ)、およびガスメーターから構成されている。
【0033】
5.ウイルスの不活化試験
白金ナノ粒子担持エレクトレットフィルターに、φX174ファージを10
7PFU/ml(常用対数値は7)含む液を滴下した後、37℃の恒温槽内に載置して、フィルターの質量が、液を滴下する前の質量±0.5mg以内になるまで乾燥した。乾燥後、該フィルターを試験管内の精製水に浸漬して3分間振盪し、ウイルス含有液を得た。次に、該含有液を大腸菌C株を含む重層寒天上に滴下して、35±1℃で16〜24時間(プラークの発生が飽和するまでの時間)培養した後、培地上に発生したプラークを計測し、該含有液1mL当たりのファージ数(ウイルス数)を求めた。
図5にウイルスの不活化試験の概要を示す。また、表2に得られたファージ数(PFU/ml)の常用対数の値を示す。
また、対照例(ctrl)として白金ナノ粒子を担持していないエレクトレットフィルターにも、同様にファージを滴下して、前記と同様にしてファージ数を求めたところ、ファージ数は6であった。ここで、ファージを不活化処理したフィルター上のファージ数が、対照例(ctrl)のフィルター上のファージ数より2(常用対数値)以上減少していれば99%減少したとして、通常、ファージ(ウイルス)の不活化効果は有意と判定する。したがって、本試験において、前記有意と判定するファージ数は、対照例(ctrl)のファージ数の6から2以上減少した数(すなわち4以下)である。
【0034】
【表2】
【0035】
6.試験結果について
表2に示すように、実施例1〜12では、除塵率がすべて、目標値(基準値)であるHEPAフィルターの除塵率99.97%を超え、また、ファージ数(常用対数値)は基準値の4未満である。これに対し、比較例1および2は、ファージ数(常用対数値)が基準値の4未満であるが、除塵率は目標値未満であった。