(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899449
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】切削油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20210628BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20210628BHJP
C10M 125/30 20060101ALN20210628BHJP
C10M 129/95 20060101ALN20210628BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20210628BHJP
C10N 30/02 20060101ALN20210628BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20210628BHJP
C10N 40/22 20060101ALN20210628BHJP
【FI】
C10M169/04
!C10M101/02
!C10M125/30
!C10M129/95
C10N30:00 Z
C10N30:02
C10N30:04
C10N40:22
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-558739(P2019-558739)
(86)(22)【出願日】2018年5月31日
(65)【公表番号】特表2020-518687(P2020-518687A)
(43)【公表日】2020年6月25日
(86)【国際出願番号】KR2018006190
(87)【国際公開番号】WO2018221972
(87)【国際公開日】20181206
【審査請求日】2019年10月28日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0068590
(32)【優先日】2017年6月1日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0061490
(32)【優先日】2018年5月30日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516210942
【氏名又は名称】ヨンチャン ケミカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YOUNG CHANG CHEMICAL CO.,LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100083138
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100189625
【弁理士】
【氏名又は名称】鄭 元基
(74)【代理人】
【識別番号】100196139
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 京子
(72)【発明者】
【氏名】イ スンフン
(72)【発明者】
【氏名】イ スンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム ソンファン
(72)【発明者】
【氏名】ハン ギョンゴク
【審査官】
川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−110180(JP,A)
【文献】
特開2009−203411(JP,A)
【文献】
特開2016−040342(JP,A)
【文献】
特開平10−053789(JP,A)
【文献】
特開2003−073687(JP,A)
【文献】
特開2003−073688(JP,A)
【文献】
特開2012−077279(JP,A)
【文献】
特開2004−315669(JP,A)
【文献】
特開2013−159658(JP,A)
【文献】
特開2014−162802(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/053192(WO,A1)
【文献】
韓国登録特許第0418258(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N 40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1、化学式2及び化学式3で表される鉱油(mineral oil)を一つ以上含む切削油組成物において、鉱油が70乃至90重量%であり、ベントナイトが1乃至2重量%であり、トリオレイン酸グリセリンが9乃至29重量%であることを特徴とする 切削油組成物。
[化学式1]
R1−(CnH2n−4)a−R2
[化学式2]
R3−(CnH2n−2)b−R4
[化学式3]
R5−(CnH2n)c−R6
(式中、nは5または6であり、aは7乃至20であり、bは39乃至52であり、cは39乃至41であり、R1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれHまたはOHである。)
【請求項2】
請求項1に記載の切削油組成物を用いる切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソー(wiresaw)切削工程中に使用される切削油組成物に関する。特に、本発明は、高度に水素化処理された炭化水素蒸留液、増粘剤および分散剤が含まれるワイヤソー切削油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤソー切削は、集積回路及び光電池産業で使用される薄型ウエハーを製造するためにインゴットをスライスする主要方法である。
【0003】
また、この方法は、他の物質の基板、例えばサファイア、炭化ケイ素またはセラミック基板をウエハーに製造する上で通常使用される方法である。
【0004】
ワイヤソーは、典型的に微細金属ワイヤのウェブ(web)またはワイヤウェブ(wireweb)を有し、ここで、個別ワイヤは、約0.15mmの直径を有し、一連のスプール、プーリー及びワイヤガイドを介して0.1乃至1.0mmの距離で互いに平行に配列される。切削は、基板などのワークピースを切削油組成物の適用された移動ワイヤと接触させることにより達成される。
【0005】
通常のワイヤソー切削過程には、鉱油(mineral oil)、増粘剤、分散剤などの含まれる切削油組成物と炭化ケイ素粒子などの硬質物質からなる研磨剤粒子とを約1:1の重量比で混合して製造された組成物が用いられる。
【0006】
切削油組成物は、潤滑及び冷却を提供し、研磨剤をワイヤに維持することにより、研磨剤が切削されるワークピースと接触できるようにする液体である。
【0007】
切削油が最適な性能を発揮するためには、潤滑性と粘性の適切なバランスが必要である。潤滑性が過度な場合には、加工材に微細研磨粒子が付いておらず滑って切削能力が減少し、潤滑性が足りない場合には、個々の微細研磨粒子が十分な切削能力を発揮しない。
【0008】
切削油組成物としては、非水性物質、例えば鉱油、灯油、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたは他のポリアルキレングリコールが挙げられる。親水性物質もワイヤソー切削工程に使用できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ワイヤソー(wiresaw)切削工程中に使用される切削油組成物に関する。従来の切削油組成物においては、層分離が生じたり、分散性が落ちたり、粘度があまり低いか高い欠点を示したり、ソーイング(Sawing)後のインゴット洗浄時間が長すぎる欠点を示したり、ソーイング(Sawing)後のウエハー反り程度が大きい欠点を示したりする場合が多かった。
【0010】
すなわち、従来の切削油組成物の場合は、層分離、分散性、粘度、ソーイング(Sawing)後の洗浄時間、ソーイング(Sawing)後のウエハー反り程度を総合的に評価したとき、これらの特性の一つ以上が不良であって不適な切削油組成物に該当する実情であった。
【0011】
本発明は、層分離、分散性、粘度、ソーイング(Sawing)後の洗浄時間、ソーイング(Sawing)後のウエハー反り程度に関する全ての特性を評価したときに一つ以上の特性が不良でないうえ、これらの特性を総合的に評価したときに従来の切削油組成物に比べて全ての特性が著しく優れる切削油組成物を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明は、まず、下記化学式1で表される、高度に水素化処理された炭化水素を発明したものであり、その次、化学式1乃至化学式3で表される、高度に水素化処理された炭化水素に増粘剤及び分散剤を混合して層分離、分散性、粘度、ソーイング(Sawing)後のインゴット洗浄時間、ソーイング(Sawing)後のウエハー反り程度が総合的に著しく優れる特性を有する切削油組成物を発明したものである。
【0013】
一実施形態に係る本発明の切削油組成物は、まず、高度に水素化処理された下記化学式1乃至化学式3で表される炭化水素である鉱油を含むものである。
【0014】
[化学式1]
R1−(CnH2n−4)a−R2
【0015】
[化学式2]
R3−(CnH2n−2)b−R4
【0016】
[化学式3]
R5−(CnH2n)c−R6
前記化学式1乃至化学式3中、nは5または6であり、R1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれHまたはOHである。
【0017】
一実施形態に係る本発明の切削油組成物は、上記化学式において、化学式1のaは7乃至20であり、化学式2のbは39乃至52であり、化学式3のcは39乃至41であることを特徴とする、高度に水素化処理された炭化水素である鉱油を含む切削油組成物であってもよい。
【0018】
一実施形態に係る本発明の切削油組成物は、増粘剤および分散剤をさらに含む切削油組成物であってもよい。
【0019】
一実施形態に係る本発明の切削油組成物は、増粘剤がベントナイト粘土(Bentonite clay)であり、分散剤がトリオレイン酸グリセリン(Glycerine trioleate)である切削油組成物であってもよい。
【0020】
一実施形態に係る本発明の切削油組成物は、鉱油65乃至93重量%、ベントナイト0.7乃至3重量%、及びトリオレイン酸グリセリン5乃至35重量%を含む切削油組成物であり、さらに好ましい切削油組成物は、鉱油70乃至90重量%、ベントナイト1乃至2重量%、及びトリオレイン酸グリセリン9乃至29重量%を含む切削油組成物であってもよい。
【0021】
一実施形態に係る本発明の切削方法は、前記切削油組成物を用いて切削する方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、層分離、分散性、粘度、ソーイング(Sawing)後のウエハー洗浄時間、ソーイング(Sawing)後のウエハー反り程度が総合的に著しく優れる切削油組成物を提供する効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
特に他に定義しない限り、本明細書で使用された全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解するのと同じ意味を持つ。一般的に、本明細書で使われた命名法は、本技術分野でよく知られており、通常使用されるものである。
【0024】
本願明細書全体において、ある部分がある構成要素を含むとするとき、これは、特に反対される記載がない限り、別の構成要素を除くものではなく、別の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【実施例】
【0025】
下記A、B、C、D項目で行われた実施例及び比較例では、次の基準で評価を行った。
【0026】
1)粘度の測定:
粘度測定にはBROOKFIELD社のDV−II+Pro modelを使用したが、粘度はSpindle No.62を用いて50rpmで評価した。この時、粘度が25℃で90乃至140mPa.sの範囲であるものが切削油組成物に適している。
【0027】
2)層分離の測定:
層分離は、切削油に炭化ケイ素(silicon carbide;SiC)を混合して層分離が生じるか否かを評価した。切削油:SiCの混合比は、1:1の重量比で混合し、常温で24時間放置した後、液の上端で層分離が起こるかを肉眼で評価し、層分離なしと層分離ありに区分した。この時、層分離が生じないものが切削油組成物に適している。
【0028】
3)分散性の測定:
分散性は、切削油に炭化ケイ素(silicon carbide;SiC)を混合して評価したが、切削油にSiCが分散する程度を肉眼で評価して良好と不良に区分した。この時、良好と評価されたものが切削油組成物に適している。
【0029】
4)ソーイング(Sawing)後のウエハー洗浄時間の測定:
ソーイング(Sawing)後のウエハー洗浄時間は、ソーイング(Sawing)後のウエハーを洗浄液に浸した後、時間が経過するにつれて、ウエハーの間に存在していた切削油とSiCのほとんどが抜け出す時間を評価した。この時、60分以下と評価されたものが切削油組成物として優れている。
【0030】
5)ソーイング(Sawing)後のウエハー反り程度の測定:
ソーイング(Sawing)後のウエハー反り程度は、洗浄の完了後に、個別ウエハーに対して反り程度を装備を用いて評価した。この時、ソーイング(Sawing)後のウエハー反り程度が10μm以下と評価されたものが切削油組成物として優れている。
【0031】
Α.実施例1乃至3及び比較例1、2:化学式1のa、化学式2のb、化学式3のcの数値範囲の評価
下記化学式1乃至3で表される鉱油を含む切削油組成物において、化学式1のa、化学式2のb、化学式3のcの数値範囲を決定するための評価を行い、表1に示した。
【0032】
[化学式1]
R1−(CnH2n−4)a−R2
【0033】
[化学式2]
R3−(CnH2n−2)b−R4
【0034】
[化学式3]
R5−(CnH2n)c−R6
前記化学式1乃至化学式3中、nは5または6であり、R1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれHまたはOHである。
【0035】
【表1】
【0036】
上記表1に示されているように、層分離、分散性、粘度、ソーイング(Sawing)後のウエハー洗浄時間、ソーイング(Sawing)後のウエハー反り程度を総合的に評価した結果、化学式1のaは7乃至20であり、化学式2のbは39乃至52であり、化学式3のcは39乃至41である実施例1乃至3は、比較例1および2に比べて著しく優れていると評価された。
【0037】
Β.実施例4乃至6及び比較例3、4:鉱油の組成比の評価
化学式1乃至化学式3で表される鉱油を含む切削油組成物において、化学式1のa値、化学式2のb値、化学式3のc値を固定した後、鉱油含有量の数値範囲を決定するための評価を行い、表2に示した。
【0038】
【表2】
【0039】
上記表2に示されているように、層分離、分散性及び粘度を総合評価した結果、鉱油含有量が70乃至90重量%である実施例1乃至3は、比較例3および4に比べて著しく優れていると評価された。
【0040】
C.実施例7、8および比較例5乃至7:ベントナイトの組成比の評価
化学式1乃至化学式3で表される鉱油を含む切削油組成物において、化学式1のa値、化学式2のb値、化学式3のc値を固定した後、ベントナイト含有量の数値範囲を決定するための評価を行い、表3に示した。
【0041】
【表3】
【0042】
上記表3に示されているように、層分離、分散性及び粘度を総合評価した結果、ベントナイト含有量が1乃至2重量%である実施例7および8は、比較例5乃至7に比べて著しく優れていると評価された。
【0043】
D.実施例9乃至11及び比較例8、9:トリオレイン酸グリセリンの組成比の評価
化学式1乃至化学式3で表される鉱油を含む切削油組成物において、化学式1のa値、化学式2のb値、化学式3のc値を固定した後、トリオレイン酸グリセリン(Glycerine trioleate)含有量の数値範囲を決定するための評価を行い、表4に示した。
【0044】
【表4】
【0045】
上記表4に示されているように、層分離、分散性及び粘度を総合評価した結果、トリオレイン酸グリセリン(Glycerine trioleate)の含有量が9乃至20重量%である実施例9乃至11は、比較例8および9に比べて著しく優れていると評価された。
【0046】
これらの結果から分かるように、化学式1のaは7乃至20であり、化学式2のbは39乃至52であり、化学式3のcは39乃至41である鉱油70乃至90重量%、ベントナイト1乃至2重量%、トリオレイン酸グリセリン(Glycerine trioleate)9乃至20重量%の場合、層分離、分散性、粘度、ソーイング(Sawing)後のウエハー洗浄時間、ソーイング(Sawing)後のウエハー反り程度を総合的に評価したときに著しく優れている。
本発明の単純な変形または変更はいずれも、当該分野における通常の知識を有する者によって容易に実施でき、それらの変形や変更も全て本発明の範囲に含まれると理解すべきである。