特許第6899470号(P6899470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6899470コア構築物及び医薬分子の構築におけるコア構築物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899470
(24)【登録日】2021年6月16日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】コア構築物及び医薬分子の構築におけるコア構築物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/65 20170101AFI20210628BHJP
【FI】
   A61K47/65ZNA
【請求項の数】16
【全頁数】162
(21)【出願番号】特願2020-79616(P2020-79616)
(22)【出願日】2020年4月28日
(62)【分割の表示】特願2018-54831(P2018-54831)の分割
【原出願日】2016年1月18日
(65)【公開番号】特開2020-128398(P2020-128398A)
(43)【公開日】2020年8月27日
【審査請求日】2020年4月30日
(31)【優先権主張番号】62/104,405
(32)【優先日】2015年1月16日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/114,427
(32)【優先日】2015年2月10日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/137,737
(32)【優先日】2015年3月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ツェ−ウェン
(72)【発明者】
【氏名】チュ、シン−マオ
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/103707(WO,A1)
【文献】 特表2014−515602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心コアを含むコア構築物であって、
前記中心コアは、(1)複数のリジン(K)残基又は(2)(Xaa−K)n配列を含み、各前記K残基とその次のK残基との間がグリシン(G)及びセリン(S)残基を有する充填配列により区切られ、前記K残基の数が2〜15であり、前記(Xaa−K)n配列において、Xaaが2〜12個のエチレングリコール(EG)の繰り返し単位を有するPEG化アミノ酸であり、nが2〜15の整数であり、
前記中心コアのN末端又はC末端にあるアミノ酸残基の1つは、システイン残基であり、又はアジド基若しくはアルキン基を有し、前記中心コアのN末端又はC末端にあるアミノ酸残基がシステイン残基である場合、前記コア構築物は、カップリングアームをさらに含み、前記カップリングアームの一端がシステイン残基のチオール基に結合され、前記カップリングアームの他端がアジド基、アルキン基、テトラジン基、又は歪んだアルキン基を有する、コア構築物。
【請求項2】
前記カップリングアームは、2〜12個のEGの繰り返し単位を有するPEG鎖である、請求項1に記載のコア構築物。
【請求項3】
前記アジド基を有するアミノ酸残基は、L−アジドホモアラニン(AHA)、4−アジド−L−フェニルアラニン、4−アジド−D−フェニルアラニン、3−アジド−L−アラニン、3−アジド−D−アラニン、4−アジド−L−ホモアラニン、4−アジド−D−ホモアラニン、5−アジド−L−オルニチン、5−アジド−d−オルニチン、6−アジド−L−リシン、又は6−アジド−D−リシンであり、
アルキン基を有する前記アミノ酸残基は、L−ホモプロパギルグリシン(L−HPG)、D−ホモプロパギルグリシン(D−HPG)、又はβ−ホモプロパギルグリシン(β−HPG)であり、
前記歪んだアルキン基は、トランス−シクロオクテン(TCO)、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)、ジフルオロシクロオクチン(DIFO)、ビシクロノニン(BCN)、又はジベンゾシクロオクチン(DICO)であり、
前記テトラジン基は、1,2,3,4−テトラジン基、1,2,3,5−テトラジン基、1,2,4,5−テトラジン基、又はそれらの誘導体である、請求項1に記載のコア構築物。
【請求項4】
前記中心コアのK残基にそれぞれ結合される複数の第1成分をさらに含む、請求項1に記載のコア構築物。
【請求項5】
第2成分をさらに含む、前記第2成分は、
銅触媒型アジド−アルキン環化付加(CuAAC)反応、又は歪み促進型アジド−アルキンクリックケミストリー(SPAAC)反応によりアジド基に結合され、
CuAAC反応により前記アルキン基に結合され、
逆電子要請型ディールス・アルダー(iEDDA)反応、又はSPAAC 反応により前記歪んだアルキン基に結合され、若しくは、
iEDDA反応によりテトラジン基に結合される、請求項4に記載のコア構築物。
【請求項6】
前記第1成分は、サイトカイン又は前記サイトカインの受容体に特異的な第1の一本鎖可変領域断片(scFv)、又は、前記サイトカインの可溶性受容体であり、
前記第2成分は、組織関連細胞外マトリックスタンパク質に特異的な第2のscFvである、請求項5に記載のコア構築物。
【請求項7】
前記組織関連細胞外マトリックスタンパク質は、α−アグリカン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンV、コラーゲンVII、コラーゲンIX、及びコラーゲンXIからなる群から選択される、請求項6に記載のコア構築物。
【請求項8】
前記サイトカインは、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−17(IL−17)、IL−1、IL−6、IL−12とIL−23の共有タンパク質、及びB細胞活性化因子(BAFF)からなる群から選択され、
前記サイトカインの受容体は、IL−6に特異的な受容体(IL−6R)又はIL−17に特異的な受容体(IL−17R)であり、
前記サイトカインの可溶性受容体は、TNF−α又はIL−1に特異的である、請求項6に記載のコア構築物。
【請求項9】
前記第1成分は、第1細胞表面抗原に特異的な第1のscFvであり、
前記第2成分は、第2細胞表面抗原に特異的な第2のscFvである、請求項5に記載のコア構築物。
【請求項10】
前記第1細胞表面抗原は、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD27、CD30、CD33、CD34、CD37、CD38、CD43、CD72a、CD78、CD79a、CD79b、CD86、CD134、CD137、CD138、及びCD319からなる群から選択される、請求項9に記載のコア構築物。
【請求項11】
前記第2細胞表面抗原は、CD3又はCD16aである、請求項9に記載のコア構築物。
【請求項12】
前記第1成分は、ペプチドホルモン、成長因子、又は腫瘍関連抗原に特異的な第1のscFvであり、
前記第2成分は、細胞表面抗原に特異的な第2のscFvである、請求項5に記載のコア構築物。
【請求項13】
前記ペプチドホルモンは、セクレチン、コレシストキニン(CCK)、ソマトスタチン、又は甲状腺刺激ホルモン(TSH)であり、
前記成長因子は、上皮成長因子(EGF)、突然変異型EGF、エピレグリン、ヘパリン結合上皮成長因子(HB−EGF)、血管内皮成長因子A(VEGF−A)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、及び肝細胞成長因子(HGF)からなる群から選択され、
前記腫瘍関連抗原は、ヒト上皮成長因子受容体(HER1)、HER2、HER3、HER4、糖鎖抗原19−9(CA19−9)、糖鎖抗原125(CA125)、癌胎児性抗原(CEA)、ムチン1(MUC1)、ガングリオシドGD2、メラノーマ関連抗原(MAGE)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、メソセリン、ムチン関連Tn、シアリルTn、グロボH、段階特異的胚抗原−4(SSEA−4)、及び上皮細胞接着分子(EpCAM)からなる群から選択される、請求項12に記載のコア構築物。
【請求項14】
前記細胞表面抗原は、CD3又はCD16aである、請求項12に記載のコア構築物。
【請求項15】
前記第1成分は、核因子κBリガンド(RANKL)の受容体活性化因子に特異的な第1のscFvであり、
前記第2成分は、コラーゲンI又はオステオネクチンに特異的な第2のscFvである、請求項5に記載のコア構築物。
【請求項16】
前記第1成分は、VEGF−Aに特異的なscFvであり、
前記第2成分は、分子量20,000〜50,000ダルトンの長いPEG鎖である、請求項5に記載のコア構築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年1月16日に出願された米国仮出願第62/104405号、2015年2月10日に出願された米国仮出願第62/114,427、及び2015年3月24日に出願された米国仮出願第62/137737号の優先権を主張し、その内容が参照によりすべて本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、医薬品分野に関し、特に、エフェクター(例えば、治療薬)を標的部位に送達するための標的化成分及びエフェクター成分を有するような多機能分子構築物に関する。
【背景技術】
【0003】
標的化抗原に対するモノクローナル抗体(mAb)の広範な選別及び選択方法の継続的な発展は、数年前に治療できないと考えられた多くの疾患に対する多くの治療用抗体の開発に寄与してきた。
【0004】
治療用抗体のデータベースに基づいて、約2,800種類の抗体が研究されているか、又はヒト臨床試験のために計画されており、約80種類の抗体の臨床応用が政府の薬物規制当局により承認されている。
【0005】
抗体の治療効果に関する大量のデータは、抗体が治療薬として作用する薬理学的メカニズムに関する情報を提供している。
【0006】
抗体が治療薬として作用する1つの主要な薬理学的メカニズムは、抗体が、血液循環、間質腔、又はリンパ節に存在するサイトカイン又は免疫成分であり得る疾患を引き起こすメディエーターを中和又は捕捉できることである。中和活性は、疾患を引き起こすメディエーターとそれらの受容体との相互作用を阻害する。サイトカインの可溶性受容体又は受容体の細胞外部分及びIgGのFc部分からの融合タンパク質は、抗体による中和と同様に、サイトカイン又は免疫因子を中和することができるため、治療剤として開発されている。
【0007】
臨床応用が承認されているか、又は臨床開発に供されているいくつかの治療用抗体は、受容体との結合により薬理学的効果を発揮することで、受容体とそのリガンドとの相互作用を遮断する。これらの抗体薬物では、抗体依存性細胞毒性(ADCC)及び補体媒介性細胞溶解(CMC)等のFc媒介性メカニズムは、主要なメカニズムではない。
【0008】
いくつかの治療用抗体は、標的細胞上の特定の表面抗原に結合することにより、標的細胞でFc媒介性機能及び他のメカニズムを発揮する。最も重要なFc媒介性メカニズムは、抗体依存性細胞毒性(ADCC)、及び補体媒介性細胞溶解(CMC)であり、いずれも抗体結合標的細胞の溶解を引き起こす。特定の細胞表面抗原に結合するいくつかの抗体は、結合した標的細胞のアポトーシスを誘導することができる。
【0009】
抗体は、細胞毒性分子又は他の治療剤の担体として用いられることもできるが、それ自体は、顕著な治療効果又は機能を有しない。一般に、これらの抗体は、標的細胞上の「腫瘍関連」抗原に結合するが、それ自体で細胞溶解を引き起こすことができない。Bリンパ腫上のCD19及びCD22に特異的な抗体は周知である。長年にわたり、それらの抗体は、90Y、131I、及び177Luのような非常に短い半減期を有する放射性核種を含む細胞毒性剤の担体として探索されている。いくつかの抗体は、ドキソルビシン、パクリタキセル、及びアンフォテリシンB等の細胞毒性薬物を担持したリポソームのための標的化剤としても研究されている。近年、抗体薬物複合体(ADC)の分野は、オーリスタチン、メイタンシン、カリケアマイシン、カンプトテシン等の細胞毒性が極めて高い薬物、及び細胞毒性分子を抗体分子に結合する方法の発展に起因して、研究開発の極めて盛んな時期を経験している。それらのADCは、種々の種類のリンパ腫及び白血病を含む腫瘍であって、血液、リンパ系、及び骨髄における、1つ以上のユニークなCDマーカーを発現するびまん性(又は液体)腫瘍を標的とするように設計された。固形腫瘍に対しても、いくつかのADCが開発されている。この新世代の抗体薬物複合体のうち、いくつかは臨床応用が承認されている一方、多くは臨床試験中である。
【0010】
しかしながら、第1世代のADCでは、細胞毒性薬物分子が抗体中のシステイン又はリジン残基に非選択的に結合されることにより、ADCあたり異なる数の薬物分子を有するADCの異種混合物を生じる。この場合に、安全性及び有効性の問題が発生する恐れがある。例えば、FDAにより承認された最初のADCであるゲムツズマブオゾガマイシンは、急性骨髄性白血病の治療に使用されていたが、許容できない毒性が発見されたので、市場から回収された。
【0011】
二重特異性を有する抗体を調製する概念及び方法が生まれたのは、30年以上前のことである。近年、組換え抗体工学方法の発展、及び改良医薬品の開発の推進に伴い、種々の構造を有する二重特異性抗体が開発されてきた。
【0012】
例えば、二価又は多価抗体は、2つ以上の抗原結合部位を含み得る。接続構造を介して3つ又は4つのFab断片を共有結合することにより多価抗体を調製する方法は、多く報告されている。例えば、組換え工学により、タンデムの3つ又は4つのFab繰り返し単位を発現できる抗体が調製されている。
【0013】
合成架橋剤を用いて異なる抗体又は結合断片を化学的に結合することにより、多価抗体を調製するいくつかの方法は開示されている。上記方法の1つとして、異なるリンカーを用いて、3つ、4つ、又はそれ以上の別々のFab断片を化学的に架橋する方法がある。別の方法として、複数のFabを有する構築物を調製し、それを一次元DNA足場に組み立てる方法が提供されている。標的分子への結合のために設計されたそれらの種々の多価Ab構築物は、サイズ、半減期、構造の可撓性、及び免疫系を調節する能力において互いに異なる。以上のことから、一定数のエフェクター成分を有する分子構築物、又は2つ以上の異なる種類の機能成分(例えば、少なくとも1つの標的化成分及び少なくとも1つのエフェクター成分)を有する分子構築物の調製に関する報告が成されている。しかし、通常、化学合成又は組換え技術により、標的化成分とエフェクター成分との特定の組み合わせを有する分子構築物を構築することは、困難である。従って、従来技術において、幅広い疾患に適用されるより汎用性の高い分子を構築するための新たな分子プラットフォームを提供する必要がある。
【発明の概要】
【0014】
以下は、読者に基本的な理解を提供するために本開示の簡略化された概要を提示する。この概要は、開示の広範な概要ではなく、本開示の重要な/決定的な要素を特定するものでも、本開示の範囲を描写するものでもない。その唯一の目的は、後に提示されるより詳細な説明の前置きとして、本明細書に開示されるいくつかの概念を簡略化した形で提示することである。
【0015】
< I > ペプチドコアに基づくマルチアームリンカー
【0016】
第1の態様において、本開示は、少なくとも2つの異なる機能成分が結合されたリンカーユニットに関する。例えば、該リンカーユニットには、2つの異なるエフェクター成分、1つの標的化成分及び1つのエフェクター成分、又は1つのエフェクター成分及びリンカーユニットの循環時間を延長可能なポリエチレングリコール(PEG)鎖が結合され得る。本発明のリンカーユニットは、少なくとも2つの異なる官能基を有するように設計されることにより、機能成分が各官能基と反応することでリンカーユニットに結合されることができる。従って、本発明のリンカーユニットは、2つ以上の機能成分を有する分子構築物を調製するためのプラットフォームとして機能することができる。
【0017】
本開示の種々の実施形態によれば、上記リンカーユニットは、中心コア及び複数のリンクアームを含む。上記中心コアは、(1)複数のリジン(K)残基、又は(2)(Xaa-K)n配列を含むポリペプチドコアである。上記複数のリジン(K)残基において、各K残基とその次のK残基との間がグリシン(G)及びセリン(S)残基を有する充填配列により区切られ、上記K残基の数が2〜15である。上記(Xaa-K)n配列において、Xaaが2〜12個のエチレングリコール(EG)の繰り返し単位を有するPEG化アミノ酸であり、nが2〜15の整数である。必要に応じて、上記充填配列は、2〜20個のアミノ酸残基からなる。種々の実施形態において、上記充填配列は、GS、GGS、GSG、又は配列番号:1-16の配列を含み得る。本開示のいくつかの実施形態によれば、上記中心コアは、2〜15単位のG1-5SK配列を含む。好ましくは、上記中心コアは、(GSK)2-15配列を含む。各リンクアームは、K残基とリンクアームとの間にアミド結合を形成することにより、中心コアのK残基に結合される。中心コアに結合されたリンクアームは、その遊離末端にマレイミド基を有する。中心コアのN末端若しくはC末端にあるアミノ酸残基は、アジド基若しくはアルキン基を有し、又は、中心コアのN末端若しくはC末端にあるアミノ酸残基は、システイン(C)残基であり、該システイン(C)残基において、アミノ酸残基のチオール基が、カップリングアームの遊離末端にアジド基、アルキン基、a テトラジン基、若しくは歪んだアルキン基を有するカップリングアームに結合される。
【0018】
いくつかの実施形態において、上記リンクアームは、PEG鎖であり、好ましくは、2〜20個のEGの繰り返し単位を有する。上記カップリングアームは、PEG鎖であり、好ましくは、2〜12個のEGの繰り返し単位を有する。
【0019】
アジド基を有するアミノ酸残基として、L-アジドホモアラニン(AHA)、4-アジド-L-フェニルアラニン、4-アジド-D-フェニルアラニン、3-アジド-L-アラニン、3-アジド-D-アラニン、4-アジド-L-ホモアラニン、4-アジド-D-ホモアラニン、5-アジド-L-オルニチン、5-アジド-d-オルニチン、6-アジド-L-リジン、及び6-アジド-D-リジン等が挙げられる。アルキン基を有するアミノ酸残基として、例えば、L-ホモプロパギルグリシン(L-HPG)、D-ホモプロパギルグリシン(D-HPG)、及びβ-ホモプロパギルグリシン(β-HPG)が挙げられる。
【0020】
中心コアのN末端又はC末端にあるアミノ酸残基がシステイン残基である場合に、カップリングアームの遊離末端にある歪んだアルキン基は、シクロオクテン基、例えば、トランス-シクロオクテン(TCO)基;又は、シクロオクチン基、例えば、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)基、ジフルオロシクロオクチン(DIFO)基、ビシクロノニン(BCN)基、及びジベンゾシクロオクチン(DICO)基であり得る。或いは、カップリングアームの遊離末端にあるテトラジン基は、1,2,3,4-テトラジン基、1,2,3,5-テトラジン基、及び1,2,4,5-テトラジン基、並びに、それらの誘導体、例えば、6-メチルテトラジン基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本開示の種々の実施形態によれば、上記リンカーユニットは、複数の第1成分をさらに含む。各第1成分は、チオール-マレイミド反応により1つのリンクアームに結合される。本開示の種々の任意の実施形態によれば、上記第1成分は、被験体において所望の効果(例えば、治療効果)を発揮するのに適したエフェクター成分である。或いは、上記第1成分は、リンカーユニットを目的部位に案内する標的化成分であり得る。
【0022】
必要に応じて、上記リンカーユニットは、上記第1成分と異なる第2成分をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記第2成分は、アジド基又はアルキン基を有することにより、Cu(I)が触媒として存在する「Cu(I)触媒型アルキン-アジド環化付加(CuAAC)反応」と呼ばれる反応で、中心コア又はカップリングアームの対応するアルキン基若しくはアジド基に結合されることで中心コア又はカップリングアームに結合される。或いは、いくつかの実施形態において、アジド基若しくはシクロオクチン基を有する第2成分は、「ひずみ促進型アジド-アルキンクリックケミストリー(SPAAC)反応」により、中心コア又はカップリングアームの対応するシクロオクチン基若しくはアジド基に結合されることで、中心コア又はカップリングアームに結合される。或いは、特定の実施形態において、テトラジン基若しくはシクロオクテン基を有する第2成分は、「逆電子要請型ディールス・アルダー(iEDDA)反応」により、中心コア又はカップリングアームの対応するシクロオクテン基若しくはテトラジン基に結合されることで、中心コア又はカップリングアームに結合される。本開示の任意の実施形態において、上記第1成分がエフェクター成分である場合に、上記第2成分は、上記第1成分と相加的若しくは相乗的、又は第1成分と独立して作用する別のエフェクター成分であり得る。或いは、上記第2成分は、標的化成分、又はリンカーユニットの溶解性、クリアランス、半減期、及び生物学的利用能等の薬物動態学的特性を改善させる成分であってもよい。いくつかの他の任意の実施形態において、上記第1成分が標的化成分である場合に、上記第2成分は、エフェクター成分、又はリンカーユニットの薬物動態学的特性を改善させる成分であることが好ましい。
【0023】
特定の実施形態において、リンカーユニットは、必要に応じて第1成分及び第2成分と異なる第3成分をさらに含む。第2成分が中心コアに直接結合される場合に、中心コアのもう一方の末端(即ち、第2成分に結合されていない遊離末端)は、必要に応じて、第3成分の導入に用いられることができるシステイン残基であってもよい。具体的には、システイン残基のチオール基をPEG鎖のマレイミド基と反応させ、このように結合されたPEG鎖は、カップリングアームと呼ばれ、その遊離末端にテトラジン基又は歪んだアルキン基を有する。従って、第3成分は、iEDDA反応によりカップリングアームに結合される。リンカーユニットが第2成分と第3成分の両方を含む場合に、好ましくは、第1成分及び第2成分のうちの少なくとも1つは、上述したようなエフェクターである一方、第3成分は、リンカーユニットの薬物動態学的特性を改善させる成分であり得る。薬物動態学的特性を改善させる成分の一例として、分子量約20,000〜50,000ダルトンの長いPEG鎖である。
【0024】
< II > ペプチドコアに基づくマルチアームリンカーの用途
【0025】
本開示の第1の態様に係るリンカーユニットは、臨床医学において、種々の疾患の治療に適用される。 そのため、本開示の第2の態様は、これらの疾患の治療方法に関する。本開示の種々の実施形態によれば、特定の疾患の治療方法は、治療を必要とする被験体に治療有効量の本開示の上述した態様及び実施形態に係るリンカーユニットを投与するステップを含む。 理解され得るように、上記リンカーユニットは、医薬製剤として投与され得る。該医薬製剤には、本発明のリンカーユニットに加えて、所望の投与経路に適した薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0026】
以下、本開示のいくつかの実施形態の理解を容易にするために、いくつかの特定の疾患を治療するための本発明のリンカーユニットの、第1成分と第2成分の種々の例示的な組み合わせを説明する。
【0027】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本発明の分子構築物は、免疫障害の治療に適用される。このような分子構築物において、第1成分は、サイトカイン若しくはサイトカインの受容体に特異的な一本鎖可変領域断片(scFv);又はサイトカインの可溶性受容体であり、第2成分は、組織関連細胞外マトリックスタンパク質に特異的なscFvである。この場合に、第1成分は、1つ以上の免疫障害を治療するエフェクター成分であり、第2成分は、疾患部位へのリンカーユニットの送達を容易にする標的化成分である。
【0028】
上記サイトカインの非限定的な例として、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターロイキン-17(IL-17)、IL-1、IL-6、IL-12/IL-23、及びB細胞活性化因子(BAFF)が挙げられる。また、上記サイトカイン受容体の非限定的な例として、IL-6(即ち、IL-6R)、又はIL-17(即ち、IL-17R)に特異的な受容体が挙げられる。上記サイトカインの可溶性受容体として、例えば、TNF-α又はIL-1に特異的なサイトカインの可溶性受容体が挙げられるが、これらに限定されない。上記組織関連細胞外マトリックスタンパク質の例示的な例として、α-アグリカン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンV、コラーゲンVII、コラーゲンIX、及びコラーゲンXIが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
乾癬の治療に適用されるリンカーユニットのいくつかの具体的で例示的な例によれば、第1成分は、TNF-α、IL-12/IL-23、IL-17、又はIL-17Rに特異的なscFvであり、第2成分は、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvである。
【0030】
いくつかの任意の例において、全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚ループス、又はシェーグレン症候群等の免疫障害の治療に適用されるリンカーユニットは、第1成分としてBAFFに特異的なscFv、及び第2成分としてコラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvを含む。
【0031】
関節リウマチ、乾癬性関節炎、又は強直性脊椎炎の治療において、例示的なリンカーユニットは、TNF-α、IL-1、IL-6、IL-12/IL-23、IL-17、IL-6R、又はIL-17Rに特異的なscFvである第1成分と、コラーゲンII、コラーゲンIX、コラーゲンXI、又はα-アグリカンに特異的なscFvである第2成分とを含む。
【0032】
上記リンカーユニットは、炎症性腸疾患、例えば、クローン病及び潰瘍性大腸炎等の治療にも適用される。この場合に、本発明のリンカーユニットは、第1成分としてTNF-αに特異的なscFv、及び第2成分としてコラーゲンIII又はコラーゲンVに特異的なscFvを使用する。
【0033】
本発明のリンカーユニットによって治療可能な別の疾患は、びまん性腫瘍である。該びまん性腫瘍は、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、及び骨髄腫を含むが、これらに限定されない。これらの実施形態において、第1成分は、標的化成分、例えば、第1細胞表面抗原に特異的なscFvであり、第2成分は、エフェクター成分、例えば、第2細胞表面抗原に特異的なscFvであり得る。
【0034】
びまん性腫瘍を治療するための標的化成分として適用される第1細胞表面抗原は、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD27、CD30、CD33、CD34、CD37、CD38、CD43、CD72a、CD78、CD79a、CD79b、CD86、CD134、CD137、CD138、及びCD319を含むが、これらに限定されない。その一方で、エフェクター成分として適用される第2細胞表面抗原の非限定的な例として、CD3及びCD16aが挙げられる。
【0035】
Bリンパ球由来リンパ腫又は白血病の治療において、例示的な第1成分は、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD37、CD79a、又はCD79bに特異的なscFvであり、例示的な第2成分は、CD3又はCD16aに特異的なscFvである。
【0036】
形質細胞腫又は多発性骨髄腫の治療において、例示的な第1成分は、CD38、CD78、CD138、又はCD319に特異的なscFvであり、例示的な第2成分は、CD3又はCD16aに特異的なscFvである。
【0037】
T細胞由来リンパ腫又は白血病の治療において、例示的な第1成分は、CD5、CD30、又はCD43に特異的なscFvであり、第2成分は、CD3又はCD16aに特異的なscFvである。
【0038】
骨髄性白血病の治療において、例示的な第1成分は、CD33又はCD34に特異的なscFvであり、例示的な第2成分は、CD3又はCD16aに特異的なscFvである。.
【0039】
本発明のリンカーユニットによって治療可能な別の疾患は、固形腫瘍である。該固形腫瘍は、メラノーマ、食道がん、胃がん、脳腫瘍、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、乳がん、膵臓がん、結腸がん、直腸がん、大腸がん、腎がん、肝細胞がん、卵巣がん、前立腺がん、甲状腺がん、精巣がん、及び頭頸部扁平上皮がんを含むが、これらに限定されない。また、本発明のリンカーユニットは、進行性、悪性又は転移性の固形腫瘍の治療にも適用される。
【0040】
固形腫瘍を治療するリンカーユニットの構築において、第1成分(即ち、標的化成分)は、ペプチドホルモン、成長因子、及び腫瘍関連抗原に特異的な第1のscFvから選択され、第2成分(即ち、エフェクター成分)は、細胞表面抗原に特異的な第2のscFvである。
【0041】
例えば、ペプチドホルモンは、セクレチン、コレシストキニン(CCK)、ソマトスタチン、又は甲状腺刺激ホルモン(TSH)である。成長因子として、上皮成長因子(EGF)、変異型EGF、エピレグリン、ヘパリン結合上皮成長因子(HB-EGF)、血管内皮成長因子A(VEGF-A)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、又は肝細胞成長因子(HGF)であり得る。腫瘍関連抗原の例示的な例として、ヒト上皮成長因子受容体-1(HER1)、HER2、HER3、HER4、糖鎖抗原19-9(CA 19-9)、糖鎖抗原125(CA 125)、がん胎児性抗原(CEA)、ムチン1(MUC 1)、ガングリオシドGD2、メラノーマ関連抗原(MAGE)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、メソセリン、ムチン関連Tn、シアリルTn、グロボH、段階特異的胚抗原-4(SSEA-4)、及び上皮細胞接着分子(EpCAM)を含む。細胞表面抗原として、CD3又はCD16aであり得る。
【0042】
場合によって、腫瘍関連抗原は、被験体の固形腫瘍から脱落しその循環系に入る場合がある。この場合に、本発明の固形腫瘍の治療方法は、(a)1つ以上の腫瘍関連抗原に特異的な抗体を用いて、被験体に血液透析治療を行うことにより、腫瘍から脱落して被験体の循環に入った腫瘍関連抗原を除去するステップと、(b)固形腫瘍を治療するための本発明のリンカーユニットを投与するステップと、を含む。
【0043】
本発明のリンカーユニットによって治療可能な別の代表的な疾患は、骨粗鬆症である。骨粗鬆症の治療に適用される例示的なリンカーユニットは、核因子κB(RANKL)の受容体活性化因子のリガンドに特異的な第1のscFvである第1成分(この場合に、エフェクター成分)、及びコラーゲンI又はオステオネクチンに特異的な第2のscFvである第2成分(又は、標的化成分)を含む。
【0044】
加齢黄斑変性症(AMD)は、本発明のリンカーユニットによって治療可能な疾患の別の例である。AMDの治療に適用される例示的なリンカーユニットは、VEGF-Aに特異的なscFvである第1成分、及び分子量約20,000〜50,000ダルトンの長いPEG鎖を有する第2成分を含む。この場合に、第1成分は、AMDを治療するためのエフェクター成分であり、第2成分は、リンカーユニットの薬物動態学的特性を向上させるのに用いられる。
【0045】
< III > 標的化部分及びエフェクター部分を有する分子構築物
【0046】
第3の態様において、本開示は、直接的又は間接的に互いに結合される2つのリンカーユニットを含む分子構築物に関する。1つのリンカーユニットのコアは、少なくとも1つの標的化成分に結合されるように構成され、もう1つのリンカーユニットのコアは、少なくとも1つのエフェクター成分に結合されるように構成される。本発明の分子構築物は、2つのリンカーユニットが、iEDDA反応、SPAAC反応、又はCuAAC反応により互いに結合されている利点を有する。このような設計により、複雑な構造を有する分子構築物を容易に合成することができる。本開示の原則及び精神によれば、異なる数及び/又はタイプの機能成分をそれぞれ有する2つのリンカーユニットを、独立して調製し、さらに結合することができる。このようにして、当業者であれば、異なる機能成分をそれぞれ有する分子構築物のライブラリーを構築し、そして、必要及び/又は所望の用途に応じて、該ライブラリーから分子構築物(又は、リンカーユニット)を選択して組合せることで、所望の構築物を生成することができる。さらに、リンカーユニットあたりの機能成分の数は、コアの特定の官能基の数を調整することにより制御することができる。
【0047】
本開示の一実施形態によれば、分子構築物は、第1リンカーユニット及び第2リンカーユニットを含む。具体的には、第1リンカーユニットは、第1中心コアと、第1中心コアにそれぞれ結合される1つ以上のリンクアーム(以下、第1リンクアーム)及び必要に応じてカップリングアーム(以下、第1カップリングアーム)と、を含む。第2リンカーユニットは、第2中心コアと、第2中心コアにそれぞれ結合される1つ以上のリンクアーム(以下、第2リンクアーム)及び必要に応じてカップリングアーム(以下、第2カップリングアーム)と、を含む。第1リンカーユニット及び第2リンカーユニットは、第1中心コアと第2中心コア、第1カップリングアームと第2中心コア、第1カップリングアームと第2カップリングアーム、又は、第1中心コアと第2カップリングアームのいずれかの間で起きるiEDDA、SPAAC、又はCuAAC反応により、互いに結合される。
【0048】
本開示の実施形態によれば、第1中心コア及び第2中心コアは、ともに複数のアミン基を有する。各リンクアームは、それらの間、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)基とアミン基との間にアミド結合を形成することにより中心コアに結合される。中心コアに結合された後、リンクアームは、その遊離末端にマレイミド基を有する。マレイミド基の存在下で、第1標的化成分及び第1エフェクター成分は、チオール-マレイミド反応により、第1リンクアーム及び第2リンクアームにそれぞれ結合される。
【0049】
本開示のいくつかの実施形態によれば、各リンクアームは、2-20個のEGの繰り返し単位を有するPEG鎖である。また、各カップリングアームは、2-12個のEGの繰り返し単位を有するPEG鎖である。
【0050】
本開示の種々の実施形態によれば、第1中心コア及び第2中心コアのそれぞれは、化合物コア又はポリペプチドコアであり得る。いくつかの例において、第1中心コア及び第2中心コアは両方とも、同一又は異なる化合物の化合物コアである。特定の好ましい実施形態において、第1中心コア及び第2中心コアは両方とも、同一又は異なる配列を有するポリペプチドコアである。或いは、該2つのコアのうちの一方は化合物コアであり、他方はポリペプチドコアである。
【0051】
本発明の化合物コアとして適用される化合物の非限定的な例として、ベンゼン-1,3,5-トリアミン、2-(アミノメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジアミン、トリス(2-アミノエチル)-アミン、ベンゼン-1,2,4,5-テトラアミン、3,3',5,5'-テトラアミン-1,1'-ビフェニル、テトラキス-(2-アミノエチル)メタン、テトラキス(エチルアミン)-ヒドラジン、N,N,N',N',-テトラキス-(アミノエチル)-エチレンジアミン、ベンゼン-1,2,3,4,5,6-ヘキサアミン、1-N,1-N,3-N,3-N,5-N,5-N-ヘキサキス-(メチルアミン)-ベンゼン-1,3,5-トリアミン、1-N,1-N,2-N,2-N,4-N,4-N,5-N,5-N-オクタキス-(メチルアミン)-ベンゼン-1,2,4,5-トリアミン、及びN,N-ビス[(1-アミノ-3,3-ジアミノエチル)-ペンチル]メタン-ジアミンを含む。
【0052】
中心コアが化合物コアである場合に、カップリングアームは、カップリングアームと中心コアとの間にアミド結合を形成することにより中心コアの複数のアミン基の1つに結合される。一方、カップリングアームの遊離末端には、アジド基、アルキン基、歪んだアルキン基、又はテトラジン基を有する。
【0053】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本発明のポリペプチドコアとして適用されるポリペプチドは、複数のリジン(K)残基、必要に応じて、2〜15個のK残基を含む。また、各K残基とその次のK残基との間が充填配列により区切られ、該充填配列は、グリシン(G)及びセリン(S)残基を含み、必要に応じて、該充填配列は、2〜20個のアミノ酸残基からなる。種々の実施形態において、上記充填配列は、GS、GGS、GSG、配列番号:1-16の配列を含み得る。いくつかの実施形態において、上記ポリペプチドは、2-15単位のG1-5SK配列、例えば、(GSK)2-15配列を含む。一実施形態において、上記ポリペプチドコアは、配列番号:17、18、19、21、22、23、又は24の配列を含む。
【0054】
或いは、ポリペプチドコアは、(Xaa-K)nを含み得る。Xaaは、2〜12個のエチレングリコール(EG)の繰り返し単位を有するPEG化アミノ酸であり、nは、2〜15の整数である。一実施形態において、ポリペプチドコアは、配列番号:25又は26の配列を含む。
【0055】
中心コアは、ポリペプチドコアである場合に、そのN末端若しくはC末端にシステイン残基を含み得る。これらの場合において、カップリングアームは、チオール-マレイミド反応により、中心コアのシステイン残基に結合される。システイン残基に結合されるカップリングアームは、その遊離末端にアジド基、アルキン基、歪んだアルキン基、又はテトラジン基を有する。
【0056】
第1リンカーユニット及び第2リンカーユニットは、以下に詳細に説明するように、第1カップリングアームと第2カップリングアームの有無に応じて、種々の構造により結合され得る。化合物コアを有するリンカーユニットの場合に、カップリングアーム(即ち、第1カップリングアーム又は第2カップリングアーム)を介してもう1つのリンカーユニットに結合されることが好ましい一方、ポリペプチドコアを有するリンカーユニット場合に、カップリングアームの必要性は任意となる。
【0057】
第1リンカーユニット及び第2リンカーユニットがそれぞれカップリングアームを備える場合に、カップリングアームの1つ(例えば、第1カップリングアーム)は、その遊離末端にテトラジン基を有し、もう1つのカップリングアーム(この場合に、第2カップリングアーム)は、その遊離末端に歪んだアルキン基を有する。それにより、2つのリンカーユニットは、2つのカップリングアーム(即ち、第1カップリングアームと第2カップリングアーム)の間で起きるiEDDA反応により結合される。好ましくは、上記テトラジン基は、1,2,3,4-テトラジン基、1,2,3,5-テトラジン基、及び1,2,4,5-テトラジン基、又は、それらの誘導体、例えば、6-メチルテトラジン基であり、上記歪んだアルキン基は、TCOである。両方のカップリングアーム遊離末端がそれぞれアジド基及びアルキン基を有する場合にも同様である。この場合に、2つのリンカーユニットは、2つのカップリングアーム(即ち、第1カップリングアームと第2カップリングアーム)の間で起きるCuAAC反応により結合される。或いは、一方のカップリングアームは、アジド基を有し、他方のカップリングアームは、歪んだアルキン基(好ましくは、DBCO、DIFO、BCN、又はDICO)を有する。従って、2つのカップリングアームは、SPAAC反応により結合されることができる。これらの構成は、2つのリンカーユニットの間に形成されることができる。ここで、2つのユニットは両方とも、化合物コア若しくはポリペプチドコアを有し、又は、場合によって、一方のリンカーユニットは化合物コアを有し、他方はポリペプチドコアを有する。
【0058】
1つのリンカーユニットのみがカップリングアーム(例えば、第1カップリングアームを有する第1リンカーユニット)を有する場合に、もう1つのリンカーユニットの中心コア(例えば、第2中心コア)は、ポリペプチドコアである。この場合に、1つの第2中心コアのN末端又はC末端にある第1アミノ酸残基は、アジド基又はアルキン基を有するアミノ酸残基である。いくつかの実施形態において、アジド基又はアルキン基を有するアミノ酸残基は、第1リンカーユニットの第1カップリングアームの対応するアルキン又はアジド基とCuAAC反応を起こすことにより、第1リンカーユニットと第2リンカーユニットとを結合する。或いは、1つの第2中心コアのN末端又はC末端にある第1アミノ酸残基は、アジド基を有するアミノ酸残基であり、且つSPAAC反応により、第1リンカーユニットのカップリングアームに結合され得る。該カップリングアームの遊離末端に歪んだアルキン基(好ましくは、DBCO、DIFO、BCN、又はDICO)を有する。この構成は、2つのリンカーユニットの間に形成されることができる。ここで、2つのユニットは両方とも、ポリペプチドコアを有し、又は、場合によって、一方のリンカーユニットは化合物コアを有し、他方はポリペプチドコアを有する。
【0059】
第1リンカーユニット及び第2リンカーユニットは、カップリングアーム(即ち、第1カップリングアーム及び第2カップリングアーム)が存在しなくても、結合されることも可能である。言い換えると、第1カップリングアームと第2リンカーユニットは、互いに直接結合される。この構成は、主に2つのポリペプチドコアの間に形成される。具体的には、2つの中心コアのうちの一方(例えば、第1中心コア)は、そのN末端又はC末端にアジド基を有するアミノ酸残基を含み、他方の中心コア(例えば、第2中心コア)は、そのN末端又はC末端にアルキン基を有するアミノ酸残基を含む。このようにして、第1中心コアのアジド基と第2中心コアのアルキン基との反応により、第1リンカーユニットと第2リンカーユニットとが結合する。
【0060】
アジド基を有するアミノ酸残基の非限定的な例として、L-アジドホモアラニン(AHA)、4-アジド-L-フェニルアラニン、4-アジド-D-フェニルアラニン、3-アジド-L-アラニン、3-アジド-D-アラニン、4-アジド-L-ホモアラニン、4-アジド-D-ホモアラニン、5-アジド-L-オルニチン、5-アジド-d-オルニチン、6-アジド-L-リジン、及び6-アジド-D-リジンが挙げられる。アルキン基を有するアミノ酸残基の例示的な例として、L-ホモプロパギルグリシン(L-HPG)、D-ホモプロパギルグリシン(D-HPG)、及びβ-ホモプロパギルグリシン(β-HPG)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
本開示のいくつかの実施形態によれば、分子構築物の第1リンカーユニット及び第2リンカーユニットのうちの一方は、第1リンカーユニット又は第2リンカーユニットに結合される追加のリンクアーム(以下、第3リンクアーム)をさらに含む。
【0062】
いくつかの実施形態において、第3リンクアームは、チオール-マレイミド反応により、分子量約20,000〜50,000ダルトンの長いPEG鎖に結合されるように構成される。必要に応じて、第3リンクアームは、標的化成分又はエフェクター成分としての単一のscFvに結合されるように構成される。いくつかの例において、第1リンクアーム及び第2リンクアームは、2つの異なるエフェクター成分に結合され、第3リンクアームに結合される標的化成分は、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンV、コラーゲンVII、コラーゲンIX、コラーゲンXI、アグリカン、又はオステオネクチンに特異的なscFvである。他の例において、第1リンクアーム及び第2リンクアームは、2つの異なる標的化成分に結合され、第3リンクアームに結合されるエフェクター成分は、CD3又はCD16aに特異的なscFvである。
【0063】
他の実施形態において、本発明の分子構築物は、第3リンカーユニットをさらに含む。第3リンカーユニットは、第3中心コア、リンクアーム(以下、第3リンクアーム)、及び、必要に応じてカップリングアーム(以下、第3カップリングアーム)を含む。この場合に、第3リンカーユニットは、第1カップリングアーム若しくは第2カップリングアームと第3カップリングアーム、第1中心コア若しくは第2中心コアと第3カップリングアーム、第1カップリングアーム若しくは第2カップリングアームと第3中心コア、又は第1中心コア若しくは第2中心コアと第3中心コアのいずれかの間で起きるCuAAC反応、iEDDA反応、又はSPAAC反応により、第1リンカーユニット又は第2リンカーユニットに結合される。
【0064】
第3リンカーユニットの第3リンクアームは、その遊離末端に、チオール-マレイミド反応により第2エフェクター成分又は第2標的化成分を結合するためのマレイミド基を有することができる。
【0065】
理解され得るように、NHS基を有する標的化成分/エフェクター成分(例えば、薬物)は、リンクアーム(即ち、第1リンクアー、第2リンクアーム、又は第3リンクアーム)が存在しない場合に、NHS基とK残基との間にアミド結合を形成することにより、第1中心コア、第2中心コア、及び/又は第3中心コアのK残基に直接結合されることができる。.
【0066】
本開示の種々の実施形態によれば、第1中心コア、第2中心コア、及び必要に応じて第3中心コアは、同一でも異なっていてもよい。
【0067】
< IV > 標的化部分及びエフェクター部分を有する分子構築物の用途
【0068】
本開示の第3の態様に係る分子構築物は、臨床医学において、種々の疾患の治療に適用される。そのため、本開示の第4の態様は、これらの疾患の治療方法に関する。本開示の種々の実施形態によれば、特定の疾患の治療方法は、治療を必要とする被験体に治療有効量の本開示の上述した態様及び実施形態に係る分子構築物を投与するステップを含む。理解され得るように、上記分子構築物は、医薬製剤として投与され得る。該医薬製剤には、本発明の分子構築物に加えて、所望の投与経路に適した薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0069】
以下、本開示のいくつかの実施形態の理解を容易にするために、いくつかの特定の疾患を治療するための本発明の分子構築物の第1成分及び第2成分の種々の例示的な組み合わせを説明する。
【0070】
いくつかの実施形態において、第1成分は、サイトカイン若しくはサイトカインの受容体に特異的な一本鎖可変領域断片(scFv);又はサイトカインの可溶性受容体であり、第2成分は、組織関連細胞外マトリックスタンパク質に特異的なscFvである。この場合に、第1成分は、1つ以上の免疫障害を治療するエフェクター成分であり、第2成分は、疾患部位への分子構築物の送達を容易にする標的化成分である。
【0071】
上記サイトカインの非限定的な例として、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターロイキン-17(IL-17)、IL-1、IL-6、IL-12/IL-23、及びB細胞活性化因子(BAFF)が挙げられる。上記サイトカイン受容体の非限定的な例として、IL-6(即ち、IL-6R)又はIL-17(即ち、IL-17R)に特異的な受容体である。上記サイトカインの可溶性受容体として、例えば、TNF-α又はIL-1に特異的なサイトカインの可溶性受容体が挙げられるが、これらに限定されない。組織関連細胞外マトリックスタンパク質の例示的な例として、α-アグリカン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンV、コラーゲンVII、コラーゲンIX、及びコラーゲンXIが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
乾癬の治療に適用される分子構築物のいくつかの具体的で例示的な例によれば、第1成分は、TNF-α、IL-12/IL-23、IL-17、又はIL-17Rに特異的なscFvであり、第2成分は、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvである。
【0073】
いくつかの任意の例において、全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚ループス、又はシェーグレン症候群等の免疫障害の治療に適用される分子構築物は、第1成分としてBAFFに特異的なscFv、及び第2成分としてコラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvを含む。
【0074】
関節リウマチ、乾癬性関節炎、又は強直性脊椎炎の治療において、例示的な分子構築物は、TNF-α、IL-1、IL-6、IL-12/IL-23、IL-17、IL-6R、又はIL-17Rに特異的なscFvである第1成分と、コラーゲンII、コラーゲンIX、コラーゲンXI、又はα-アグリカンに特異的なscFvである第2成分とを含む。
【0075】
分子構築物は、炎症性腸疾患の治療、例えば、 クローン病及び潰瘍性大腸炎にも適用される。この場合に、本発明の分子構築物は、第1成分としてTNF-αに特異的なscFv、及び第2成分としてコラーゲンIII又はコラーゲンVに特異的なscFvを使用する。
【0076】
本発明の分子構築物によって治療可能な別の疾患は、びまん性腫瘍である。該びまん性腫瘍は、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、及び骨髄腫を含むが、これらに限定されない。これらの実施形態において、第1成分は、標的化成分、例えば、第1細胞表面抗原に特異的なscFvであり、第2成分は、エフェクター成分、例えば、第2細胞表面抗原に特異的なscFvであり得る。
【0077】
びまん性腫瘍を治療するための標的化成分として適用される第1細胞表面抗原は、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD27、CD30、CD33、CD34、CD37、CD38、CD43、CD72a、CD78、CD79a、CD79b、CD86、CD134、CD137、CD138、及びCD319を含むが、これらに限定されない。その一方で、エフェクター成分として適用される第2細胞表面抗原の非限定的な例として、CD3及びCD16aが挙げられる。或いは、第1細胞表面抗原及び第2細胞表面抗原は、それぞれCD79a及びCD79bである。びまん性腫瘍の治療に適用される細胞毒性薬物は、オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、カリケアマイシン、及びカンプトテシンを含むが、これらに限定されない。
【0078】
Bリンパ球由来リンパ腫又は白血病の治療において、例示的な第1成分は、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD37、CD79a、又はCD79bに特異的なscFvであり、例示的な第2成分は、細胞毒性薬物、又は、CD3若しくはCD16aに特異的なscFvである。
【0079】
形質細胞腫又は多発性骨髄腫の治療において、例示的な第1成分は、CD38、CD78、CD138、又はCD319に特異的なscFvであり、例示的な第2成分は、細胞毒性薬物、又は、CD3若しくはCD16aに特異的なscFvである。
【0080】
T細胞由来リンパ腫又は白血病の治療において、例示的な第1成分は、CD5、CD30、又はCD43に特異的なscFvであり、第2成分は、細胞毒性薬物又は、CD3若しくはCD16aに特異的なscFvである。
【0081】
骨髄性白血病の治療において、例示的な第1成分は、CD33又はCD34に特異的なscFvであり、例示的な第2成分は、細胞毒性薬物、又は、CD3若しくはCD16aに特異的なscFvである。
【0082】
本発明の分子構築物によって治療可能な別の疾患は、固形腫瘍である。該固形腫瘍は、メラノーマ、食道がん、胃がん、脳腫瘍、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、乳がん、膵臓がん、結腸がん、直腸がん、大腸がん、腎がん、肝細胞がん、卵巣がん、前立腺がん、甲状腺がん、精巣がん、及び頭頸部扁平上皮がんを含むが、これらに限定されない。また、本発明の分子構築物は、進行性、悪性又は転移性の固形腫瘍の治療にも適用される。
【0083】
固形腫瘍を治療する分子構築物の構築において、第1成分(即ち、標的化成分)は、ペプチドホルモン、第1成長因子、及び腫瘍関連抗原に特異的な第1のscFvから選択され、第2成分(即ち、エフェクター成分)は、細胞毒性薬物、トール様受容体(TLR)アゴニスト、放射性核種と複合体を形成したキレート剤、サイトカイン、又は第2成長因子、細胞表面抗原、ハプテン若しくはサイトカインに特異的な第2のscFvである。
【0084】
例えば、ペプチドホルモンは、セクレチン、コレシストキニン(CCK)、ソマトスタチン、又は甲状腺刺激ホルモン(TSH)である。第1成長因子として、上皮成長因子(EGF)、変異型EGF、エピレグリン、ヘパリン結合上皮成長因子(HB-EGF)、血管内皮成長因子A(VEGF-A)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、又は肝細胞成長因子(HGF)であり得る。腫瘍関連抗原の例示的な例として、ヒト上皮成長因子受容体-1(HER1)、HER2、HER3、HER4、糖鎖抗原19-9(CA 19-9)、糖鎖抗原125(CA 125)、がん胎児性抗原(CEA)、ムチン1(MUC 1)、ガングリオシドGD2、メラノーマ関連抗原(MAGE)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、メソセリン、ムチン関連Tn、シアリルTn、グロボH、段階特異的胚抗原-4(SSEA-4)、及び上皮細胞接着分子(EpCAM)を含む。
【0085】
びまん性腫瘍の治療に適用される細胞毒性薬物として、固形腫瘍を治療するための分子構築物に用いられる細胞毒性薬物は、オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、カリケアマイシン、及びカンプトテシンを含むが、これらに限定されない。非限定的なTLRアゴニストは、リポ多糖(LPS)、モノホスホリル脂質A、モトリモード、イミキモッド、レスキモッド、ガリコイモッド、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG DON)、リポテイコ酸、β-グルカン、及びザイモサンを含む。キレート剤は、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4-二酢酸(NODA)、及びジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)からなる群から選択される。放射性核種は、111In、131I、又は177Luである。サイトカインは、IL-2、IFN-α、IFN-γ、及びTNF-αからなる群から選択され得る。第2のscFvによって特異的に識別及び結合可能な第2成長因子は、EGF、変異型EGF、VEGF-A、bFGF、又はHGFである。第2のscFvによって特異的に識別及び結合可能な細胞表面抗原は、CD3、CD16a、CD28、CD134、細胞毒性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4又はCD152)、プログラム細胞死1(PD-1又はCD279)、及びプログラム細胞死1リガンド1(PD-L1又はCD274)からなる群から選択される。第2のscFvによって特異的に識別及び結合可能なサイトカインは、IL-2、IFN-α、IFN-γ、及びTNF-αからなる群から選択される。この場合に、第2のscFvは、非中和scFvである。
【0086】
場合によって、いくつかの腫瘍関連抗原は、被験体の固形腫瘍から脱落しその循環系に入る場合がある。この場合に、本発明の固形腫瘍の治療方法は、(a)1つ以上の腫瘍関連抗原に特異的な抗体を用いて、被験体に血液透析治療を行うことにより、腫瘍から脱落して被験体の循環に入った腫瘍関連抗原を除去するステップと、(b)固形腫瘍を治療するための本発明の分子構築物を投与するステップと、を含む。.
【0087】
本開示のいくつかの実施形態によれば、第2成分がハプテンに特異的な第2のscFvである場合に、上記方法は、同一のハプテンでタグ付けされた免疫調節エフェクターを被験体に投与するステップをさらに含む。実施形態において、ハプテンは、ジニトロフェノール(DNP)、トリニトロフェノール(TNP)、WADWPGPP(配列番号:20)のアミノ酸配列を有する短いペプチドからなる群から選択される。免疫調節エフェクターは、IFN-α、IL-2、TNF-α、及びIFN-γ、並びにPD-1、PD-L1、CTLA-4、又はCD3に特異的なIgG抗体である。
【0088】
本発明の分子構築物によって治療可能な別の代表的な疾患は、骨粗鬆症である。骨粗鬆症の治療に適用される例示的な分子構築物は、核因子κB(RANKL)の受容体活性化因子のリガンドに特異的な第1のscFvである第1成分(この場合に、エフェクター成分)、及びコラーゲンI又はオステオネクチンに特異的な第2のscFvである第2成分(例えば、標的化成分)を含む。
【0089】
< V > 組織標的化機能を有する抗炎症分子
【0090】
第5の態様において、本開示は、免疫グロブリンのCH2-CH3ドメインに直接的又は間接的に結合される少なくとも1つの標的化成分及び少なくとも1つのエフェクター成分を有する結晶化可能断片(Fc)に基づく分子構築物に関する。本発明のFcに基づく分子構築物の設計は、広範囲の標的化成分及びエフェクター成分の多数の組み合わせを可能にする。そのため、本発明のFcに基づく分子構築物は、多価分子を構築するためのプラットフォームとして機能することができる。
【0091】
本開示の特定の実施形態によれば、Fcに基づく分子構築物は、IgG.Fcの1対のCH2-CH3セグメントと、第1の1対のエフェクター成分と、第1の1対の標的化成分とを含む。
【0092】
いくつかの実施形態において、本発明のFcに基づく分子構築物は、免疫疾患(特に、自己免疫疾患)又は骨粗鬆症の治療に適用される。この場合に、第1の1対のエフェクター成分は、2つのエフェクター成分からなる。該2つのエフェクター成分のそれぞれは、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターロイキン-17(IL-17)、IL-17受容体(IL-17R)、IL-1、IL-6、IL-6R、IL-12/IL-23、B細胞活性化因子(BAFF)、若しくは核因子κB(RANKL)の受容体活性化因子のリガンドに特異的な抗体断片、又はTNF-α若しくはIL-1の可溶性受容体である。さらに、該第1の1対の標的化成分は、2つの標的化成分からなる。2つの標的化成分のそれぞれは、α-アグリカン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンV、コラーゲンVII、コラーゲンIX、コラーゲンXI、又はオステオネクチンに特異的な抗体断片である。第1の1対のエフェクター成分が1対のCH2-CH3セグメントのN末端に結合される場合に、第1の1対の標的化成分は、1対のCH2-CH3セグメントのC末端に結合され、その逆もまた然りである。或いは、第1の1対のエフェクター成分及び第1の1対の標的化成分がいずれも一本鎖可変領域断片(scFv)の形態である場合に、第1の1対の標的化成分は、タンデム又はダイアボディ構造で、第1の1対のエフェクター成分のN末端に結合されることにより、1対のCH2-CH3セグメントのN末端に結合される1対の二重特異性を形成する。
【0093】
特定の実施形態において、1対のCH2-CH3セグメントは、ヒトIgG重鎖γ4又はヒトIgG重鎖γ1に由来する。
【0094】
いくつかの例において、第1の1対のエフェクター成分又は第1の1対の標的化成分は、構造(即ち、VH-CH1ドメイン及びVL-Cκドメインからなる)をとる。このFab断片は、第1重鎖及び第2重鎖のN末端に結合されることにより、Fcに基づく分子構築物は、IgG構造を採用する。この場合に、Fab構造ではない1対の成分は、1対のCH2-CH3セグメントC末端に結合される。
【0095】
他の実施形態によれば、Fcに基づく分子構築物は、2つの追加のエフェクター成分からなる第2の1対のエフェクター成分をさらに含み、該2つの追加のエフェクター成分は、いずれも上述したエフェクター成分から選択されるものである。種々の実施形態によれば、第2の1対のエフェクター成分の成分は、第1の1対のエフェクター成分と異なる。これらの実施形態において、第2の1対のエフェクター成分は、CH2-CH3セグメントの遊離C末端に結合される。
【0096】
或いは、本発明のFcに基づく分子構築物は、第2の1対の標的化成分をさらに含む。該2つの標的化成分は、上述した標的化成分から選択されるものである。種々の実施形態によれば、第2の1対の標的化成分の成分は、第1の1対の標的化成分と異なる。これらの実施形態において、第2の1対の標的化成分は、CH2-CH3セグメントの遊離C末端に結合される。
【0097】
種々の任意の実施形態によれば、上述した標的化成分及びエフェクター成分は、所望の治療効果を得るために、必要に応じて組み合わせることができる。免疫疾患を治療するためのエフェクター成分と標的化成分とのいくつかの例示的な組み合わせは、添付の特許請求の範囲に提供され、後述される。
【0098】
< VI > 組織標的化機能を有する抗炎症分子の用途
【0099】
第6の態様において、本開示は、種々の疾患の治療方法に関する。一般的に、該方法は、治療を必要とする被験体に、有効量の第5の態様及びそれに関連する実施形態に係るFcに基づく分子構築物を投与するステップを含む。
【0100】
特定の実施形態において、本発明の方法は、免疫疾患、特に自己免疫疾患の治療方法に関する。
【0101】
本開示のいくつかの実施形態によれば、自己免疫疾患は、関節リウマチ、乾癬性関節炎、又は強直性脊椎炎である。この場合に、エフェクター成分は、TNF-α、IL-12/IL-23、IL-1、IL-17、又はIL-6に特異的な抗体断片であり、標的化成分は、コラーゲンII、コラーゲンIX、コラーゲンXI、又はα-アグリカンに特異的な抗体断片であり得る。
【0102】
種々の実施形態によれば、自己免疫疾患は、乾癬である。この場合に、エフェクター成分は、TNF-α、IL-12/IL-23、又はIL-17に特異的な抗体断片であり、標的化成分は、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的な抗体断片である。
【0103】
いくつかの他の実施形態によれば、自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス、皮膚ループス、又はシェーグレン症候群である。この場合に、エフェクター成分は、BAFFに特異的な抗体断片であり、標的化成分は、コラーゲンI、又はコラーゲンVIIに特異的な抗体断片である。
【0104】
いくつかの実施形態によれば、自己免疫疾患は、炎症性腸疾患、例えば、クローン病又は潰瘍性大腸炎である。この場合に、エフェクター成分は、TNF-αに特異的な抗体断片であり、標的化成分は、コラーゲンIII又はコラーゲンVに特異的な抗体断片である。
【0105】
ここで説明した方法によって治療可能な別の疾患は、骨粗鬆症である。本開示の実施形態によれば、骨粗鬆症を治療するためのエフェクター成分は、RANKLに特異的な抗体断片を含み、標的化成分は、コラーゲンI又はオステオネクチンに特異的な抗体断片を含む。
【0106】
< VII > 腫瘍を治療するための分子構築物
【0107】
第7の態様において、本開示は、本開示の第5の態様で説明した分子構築物と同様に、免疫グロブリンのCH2-CH3ドメインに直接的又は間接的に結合される少なくとも1つの標的化成分及び少なくとも1つのエフェクター成分を有するFcに基づく分子構築物に関する。本発明のFcに基づく分子構築物のエフェクター成分及び標的化成分を選択することにより、分子構築物は、びまん性腫瘍及び固形腫瘍を含む種々の細胞増殖性疾患の治療に適用される。いくつかの実施形態において、本開示は、本開示の第1態様に係るリンカーユニットを利用することにより、本発明のFcに基づく分子構築物薬物(例えば、細胞毒性薬物)ペイロードの量を容易に制御する方法を提供する利点を有する。本明細書において、複数の薬物分子を担持するリンカーユニットは、薬物バンドルと呼ばれる。このような薬物バンドルは、抗体分子に結合される前に別々に調製することができ、それにより、抗体分子との直接結合の過酷な化学条件下で薬物分子を施すことを回避できる。
【0108】
本開示の種々の実施形態によれば、Fcに基づく分子構築物は、IgG.Fcの1対のCH2-CH3セグメント、第1の1対のエフェクター成分、及び第1の1対の標的化成分を含む。
【0109】
この態様に係る第1シリーズのFcに基づく分子構築物において、第1の1対のエフェクター成分の各エフェクター成分は、薬物バンドルであり、第1の1対の標的化成分の各標的化成分は、細胞表面抗原に特異的な抗体断片である。この場合に、第1の1対のエフェクター成分は、1対のCH2-CH3セグメントのC末端に結合され、第1の1対の標的化成分は、1対のCH2-CH3セグメントのN末端に結合される。本開示の種々の実施形態によれば、薬物バンドルは、複数の細胞毒性薬物分子、例えば、オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、カリケアマイシン、及びカンプトテシンを含み、これらのFcに基づく分子構築物によって標的化される細胞表面抗原は、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD33、CD34、CD37、CD38、CD43、CD78、CD79a、CD79b、CD138、又はCD319である。例えば、これらのFcに基づく分子構築物は、種々のびまん性腫瘍の治療に有用であるが、これに限定されない。
【0110】
この態様に係る第2シリーズのFcに基づく分子構築物において、第1の1対のエフェクター成分の各エフェクター成分は、薬物バンドルであり、第1の1対の標的化成分の各標的化成分は、腫瘍関連抗原に特異的な抗体断片である。この場合に、第1の1対のエフェクター成分は、1対のCH2-CH3セグメントのC末端に結合され、第1の1対の標的化成分は、1対のCH2-CH3セグメントのN末端に結合される。本開示の種々の実施形態によれば、薬物バンドルは、細胞毒性薬物、トール様受容体(TLR)アゴニスト、又は放射性核種と複合体を形成したキレート剤の複数の分子を含み、これらのFcに基づく分子構築物によって標的化される腫瘍関連抗原は、ヒト上皮成長因子受容体-1(HER1)、HER2、HER3、HER4、CA19-9、CA125、がん胎児性抗原(CEA)、細胞表面関連ムチン1(MUC1)、メラノーマ関連抗原(MAGE)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、ムチン関連Tn、シアリルTn、グロボH、段階特異的胚抗原-4(SSEA-4)、ガングリオシドGD2、又は上皮細胞接着分子(EpCAM)である。例えば、これらのFcに基づく分子構築物は、悪性固形腫瘍、及び/又は転移性固形腫瘍を含む種々の固形腫瘍の治療に有用であるが、これらに限定されない。
【0111】
この態様に係る第3シリーズのFcに基づく分子構築物において、第1の1対のエフェクター成分のエフェクター成分は、薬物バンドル、又は細胞表面抗原、成長因子若しくはハプテンに特異的な抗体断片であり、第1の1対の標的化成分の各標的化成分は、成長因子又はペプチドホルモンである。エフェクター成分が薬物バンドルである場合に、第1の1対のエフェクター成分は、それぞれ1対のCH2-CH3セグメントのC末端に結合され、標的化成分は、それぞれ1対のCH2-CH3セグメントのN末端に結合される。或いは、エフェクター成分が抗体断片である場合に、エフェクター成分は、それぞれ1対のCH2-CH3セグメントのN末端に結合され、標的化成分は、それぞれ1対のCH2-CH3セグメントのC末端に結合され、その逆もまた然りである。
【0112】
上記エフェクター成分及び標的化成分を選択することにより、ここで提供する第3シリーズのFcに基づく分子構築物は、悪性固形腫瘍及び/又は転移性固形腫瘍を含む種々の固形腫瘍の治療にも有用である。しかし、本開示はこの限りではない。
【0113】
本開示の実施形態によれば、エフェクター成分に適用される細胞毒性薬物は、オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、カリケアマイシン、又はカンプトテシンである。TLRアゴニストの例示的な例は、リポ多糖(LPS)、モノホスホリル脂質A、モトリモード、イミキモッド、レスキモッド、ガリコイモッド、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG DON)、リポテイコ酸、β-グルカン、及びザイモサンを含む。ここで適用されるキレート剤は、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N’,N’’’’,N’’’’’’-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、1,4,7-トリアザシクロオクタン-1,4-二酢酸-7-p-イソチオシアノベンジル(NODA)、又はジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を含むが、これらに限定されない。上述したキレート剤等と複合体を形成した放射性核種の非限定的な例として、90Y、111In、及び177Luを含む。
【0114】
エフェクター成分として適用されるいくつかの抗体断片は、細胞表面抗原、例えば、プログラム細胞死1(PD-1)、プログラム細胞死1リガンド1(PD-L1)、細胞毒性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)、CD3、CD16a、CD28、及びCD134に特異的なものである。別の例として、成長因子、例えば、上皮成長因子(EGF)、変異型EGF、エピレグリン、ヘパリン結合上皮成長因子(HB-EGF)、VEGF-A、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、及び肝細胞成長因子(HGF)に特異的な抗体断片である。ハプテンに特異的な抗体断片もここで適用される。ハプテンの例示的な例は、ジニトロフェノール(DNP)、トリニトロフェノール(TNP)、ダンシル、ペニシリン、p-アミノ安息香酸、又はa配列番号:20のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。
【0115】
このシリーズのFcに基づく分子構築物に適用される標的化成分において、標的化成分は、成長因子、例えば、EGF、変異型EGF、エピレグリン、HB-EGF、VEGF-A、bFGF、及びHGFであり得る。或いは、標的化成分は、ペプチドホルモン、例えば、CCK、ソマトスタチン、及びTSHであってもよい。
【0116】
本開示のこの態様に係るFcに基づく分子構築物は、以下に説明されるいくつかの共通の構造的特徴を共有する。
【0117】
特定の実施形態において、1対のCH2-CH3セグメントは、ヒトIgG重鎖γ4又はヒトIgG重鎖γ1に由来する。
【0118】
いくつかの例において、第1の1対のエフェクター成分(例えば、第3シリーズのFcに基づく分子構築物におけるもの)、又は第1の1対の標的化成分(例えば、第1シリーズ及び第2シリーズのFcに基づく分子構築物)は、Fab構造(即ち、VH-CH1ドメイン及びVL-Cκドメインを含む)を取る。このFab断片が第1重鎖及び第2重鎖のN末端に結合されることにより、Fcに基づく分子構築物は、IgG構造を採用する。この場合に、Fab構造ではない1対の成分は、1対のCH2-CH3セグメントのC末端に結合され得る。
【0119】
特定の実施形態によれば、本発明のFcに基づく分子構築物は、延長ペプチド及びカップリングアームをさらに含む。具体的には、該延長ペプチドは、(G2-4S)2-8C配列を有し、1対のCH2-CH3セグメントのうちの一方のC末端に結合される。この場合に、カップリングアームは、延長ペプチドのC末端に、それらの間で起きるチオール-マレイミド反応により結合される。また、薬物バンドルに結合される前に、カップリングアームの遊離末端(即ち、システイン残基に結合されていない末端)が、アルキン基、アジド基、歪んだアルキン基、又はテトラジン基で修飾されることにより、薬物バンドルが該遊離末端に、それらの間で起きる、逆電子要請型ディールス-アルダー(iEDDA)反応、ひずみ促進型アジド-アルキンクリックケミストリー(SPAAC)反応、又は銅(I)触媒型アルキン-アジド環化付加(CuAAC)反応により結合される。
【0120】
エフェクター成分が薬物バンドルである場合に、薬物バンドルは、本開示の第1態様に係るリンカーユニットとして提供され得る。具体的には、薬物バンドルは、中心コア、複数の第1リンクアーム、及び、必要に応じて第2リンクアームを含む。本開示の種々の実施形態によれば、中心コアは、複数のアミン基を有する化合物、又は複数のリジン(K)残基を有するポリペプチドであり得る。各第1リンクアームは、化合物コアのアミン基、又はポリペプチドコアのK残基との反応により中心コアに結合される末端を有する。第1リンクアームは、その遊離末端にマレイミド基を有し、各分子(例えば、細胞毒性薬物、TLRアゴニスト、又はキレート剤/放射性核種複合体の分子)は、マレイミド基との反応により、第1リンクアームを介して中心コアに結合される。
【0121】
中心コアがポリペプチドコアである場合に、中心コアのN末端又はC末端にあるアミノ酸残基は、システイン残基であり、又はアジド基若しくはアルキン基を有する。
【0122】
アジド基又はアルキン基を有する末端アミノ酸残基を含むポリペプチドコアの場合、薬物バンドルは、末端残基とカップリングアームのC末端との間で起きるCuAAC反応によりカップリングアームに結合される。
【0123】
システインである末端残基を有するポリペプチドコア、又は化合物コアの場合、薬物バンドルは、第2リンクアームを更に含む。第2リンクアームは、ポリペプチドコアのシステイン残基、又は化合物コアのアミン基との反応により中心コアに結合される末端を有する。また、第2リンクアームは、その遊離末端にアルキン基、アジド基、テトラジン基、又は歪んだアルキン基を有することにより、薬物バンドルは、カップリングアームのC末端に、それらの間で起きるCuAAC反応又はiEDDA反応により結合され得る。
【0124】
本開示のいくつかの任意の実施形態によれば、Fcに基づく分子構築物は、第2の1対のエフェクター成分、又は第2の1対の標的化成分を更に含むことができる。
【0125】
第2シリーズのFcに基づく分子構築物において、第2の1対の標的化成分は、それぞれ第1の1対の標的化成分に結合され得る。例えば、特定の実施形態において、第1の1対のエフェクター成分の各エフェクター成分は、細胞毒性薬物の複数の分子を含む薬物バンドルであり、第1の1対の標的化成分の各標的化成分は、HER2に特異的なscFvであり、第2の1対の標的化成分の各標的化成分は、HER1に特異的なscFvである。
【0126】
第3シリーズのFcに基づく分子構築物において、第2の1対のエフェクター成分は、タンデム又はダイアボディ構造で、1対のCH2-CH3セグメントのN末端に結合される1対の成分のN末端に結合されることにより、1対のCH2-CH3セグメントのN末端に結合される1対の二重特異性scFvを形成する。或いは、第3シリーズのFcに基づく分子構築物は、第2の1対の標的化成分を更に含み得る。該第2の1対の標的化成分は、タンデム又はダイアボディ構造で、1対のCH2-CH3セグメントのN末端に結合される1対の成分のN末端に結合されることにより、1対のCH2-CH3セグメントN末端に結合される1対の二重特異性scFvを形成する。
【0127】
< VIII > 腫瘍を治療するための分子構築物の用途
【0128】
第8の態様において、本開示は、種々の細胞増殖性疾患の治療方法に関する。一般的には、該方法は、治療を必要とする被験体に、有効量の、第7の態様又はそれに関する実施形態に係るFcに基づく分子構築物を投与するステップを含む。
【0129】
特定の実施形態において、本発明の方法は、びまん性腫瘍、例えば、B リンパ球由来リンパ腫又は白血病、形質細胞腫、多発性骨髄腫、T細胞由来リンパ腫又は白血病、及び骨髄性白血病の治療に関する。上述したように、本開示の第7の態様における第1シリーズのFcに基づく分子構築物は、びまん性腫瘍の治療に有用である。特定のびまん性腫瘍を治療する場合に、本発明のFcに基づく分子構築物によって標的化された細胞表面抗原の例示的な例は、添付の特許請求の範囲に提供され、後述される。
【0130】
上述したように、本発明の方法は、被験体内の固形腫瘍の治療にも適用される。固形腫瘍の例として、メラノーマ、食道がん、胃がん、脳腫瘍、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、乳がん、膵臓がん、腎がん、肝細胞がん、卵巣がん、前立腺がん、甲状腺がん、精巣がん、及び頭頸部扁平上皮がんを含むが、これらに限定されない。上述したように、本開示の第7の態様における第2シリーズ及び第3シリーズのFcに基づく分子構築物は、固形腫瘍の治療に有用である。固形腫瘍を治療するための、エフェクター成分と標的化成分とのいくつかの例示的な組み合わせは、添付の特許請求の範囲に提供され、後述される。
【0131】
本開示のいくつかの任意の実施形態によれば、固形腫瘍を治療する場合に、該方法は、(a)1つ以上の腫瘍関連抗原に特異的な抗体断片を用いて、被験体に血液透析治療を行うことにより、腫瘍から脱落して被験体の循環に入った腫瘍関連抗原を除去するステップと、(b)固形腫瘍を治療するための本開示のFcに基づく分子構築物を投与するステップと、を含む。
【0132】
Fcに基づく分子構築物がエフェクター成分としてハプテンに特異的な抗体断片を使用する場合に、本発明の方法は、本発明のFcに基づく分子構築物の投与後、同一のハプテンでタグ付けされた免疫調節エフェクターを被験体に投与するステップをさらに含む。免疫調節エフェクターの非限定的な例として、IFN-α、IL-2、TNF-α、及びIFN-γ、並びにPD-1、PD-L1、CTLA-4、及びCD3に特異的なIgG抗体を含む。
【0133】
本開示のいくつかの実施形態によれば、悪性腫瘍は、1つ以上の腫瘍関連抗原を被験体の循環に放出する場合がある。そのため、方法は、Fcに基づく分子構築物の投与前に、1つ以上の腫瘍関連抗原に特異的な抗体断片を用いて、被験体に血液透析治療を行うことにより、悪性腫瘍から脱落した腫瘍関連抗原を除去するステップを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0134】
本説明は、以下に簡単に説明する添付図面に照らして読まれた以下の詳細な説明からよりよく理解されるであろう。
【0135】
図1A-1K】本開示の特定の実施形態に係るリンカーユニットを説明する模式図である。
【0136】
図2】化合物コアを有するリンカーユニットを説明する模式図である。
【0137】
図3A-3D】本開示のいくつかの実施形態に係るT-E分子構築物を説明する模式図である。
【0138】
図4】本開示のいくつかの実施形態に係る分子構築物を構築するためのライブラリーを説明する模式図である。
【0139】
図5A-5B】本開示のいくつかの実施形態に係る分子構築物を説明する模式図である
【0140】
図6】本開示のいくつかの実施形態に係る分子構築物を説明する模式図である。
【0141】
図7A-7B】本開示の種々の実施形態に係る分子構築物を説明する模式図である。
【0142】
図8A-8F】本開示の種々の実施形態に係るFcに基づく分子構築物を説明する模式図である。
【0143】
図9A-9B】本開示の種々の実施形態に係るFcに基づく分子構築物を説明する模式図である。
【0144】
図10A-10C】本開示の種々の実施形態に係るFcに基づく分子構築物を説明する模式図である。
【0145】
図11】本開示の実施形態に係るFcに基づく分子構築物を説明する模式図である。
【0146】
図12A-12C】本開示の種々の実施形態に係るFcに基づく分子構築物を説明する模式図である。
【0147】
図13】TCO-ペプチド2精製の逆相HPLC溶出プロファイルを示す。ペプチド2は配列番号:18である。
【0148】
図14】PEG12-マレイミド結合TCO-ペプチド2の精製の逆相HPLCプロファイルを示す。
【0149】
図15】PEG12-マレイミド結合TCO-ペプチド2の質量分析法MALDI-TOFの結果を示す。
【0150】
図16A-16B】PEG12-マレイミド結合テトラジン-ペプチド2及びDBCO-ペプチド2の質量分析法MALDI-TOFの結果をそれぞれ示す。
【0151】
図17】PEG12-マレイミド結合テトラジン-ペプチド8の質量分析ESI-TOFの結果を示す。
【0152】
図18】PEG6-マレイミド結合TCO-ペプチド9の質量分析ESI-TOFの結果を示す。
【0153】
図19】1つのNHS-PEG12-アルキンカップリングアーム及び2つのNHS-PEG12-マレイミドリンクアームに結合される1,3,5-トリアミノベンゼンの質量分析ESI-TOFの結果を示す。
【0154】
図20】5 DM1-SMCC分子を有するTCO-ペプチド9の精製の逆相HPLCプロファイルを示す。
【0155】
図21】5 DM1-SMCC分子を有するTCO-ペプチド9の質量分析結果を示す。
【0156】
図22】LPSがダンシルヒドラジンとの反応により蛍光分光分析において495nmで最大発光を示したことを示す。
【0157】
図23】イミキモッドに結合したPEG5-NHSの質量分析を示す。
【0158】
図24A-24B】図24Aは、DOTA結合TCO-ペプチド9の質量分析ESI-TOFの結果を示す。図24Bは、Y3+-キレートされたDOTA結合TCO-ペプチド9の質量分析結果を示す。
【0159】
図25A-25D】図25A、25Bは、それぞれ抗CD79b抗体1F10の精製scFvタンパク質のSDS-PAGE及びELISA分析を示す。図25C図25Dは、それぞれ抗コラーゲンVII抗体LH7.2の精製scFvタンパク質のSDS-PAGE及びELISA分析を示す。
【0160】
図26A-26E】図26Aは、トラスツズマブ及びアダリムマブの精製scFvのSDS-PAGE分析を示す。図26b及び26Cは、それぞれトラスツズマブ及びアダリムマブの精製scFvのELISA分析を示す。図26D及び26Eは、それぞれセツキシマブの精製scFvのSDS-PAGE及びELISA分析を示す。
【0161】
図27A-27B】図27Aは、アダリムマブの精製scFvのSDS-PAGE分析を示す。図27Bは、アダリムマブの精製scFvのELISA分析を示す。
【0162】
図28A-28B】それぞれCD3に特異的なTCO結合scFv及びDBCO結合scFvのELISA分析を示す。
【0163】
図29A-29C】図29Aは、遊離のテトラジン官能基と、ヒトCD79bに特異的な3つのscFvとから構成される合成リンカーユニットのFPLC溶出プロファイルである。図29Bは、SDS-PAGE分析結果を示す。図29Cは、質量分析法MALDI-TOF結果を示す。
【0164】
図30A-30E】図30A及び図30Bは、それぞれHER2/neuに特異的な3つのscFvに結合したテトラジン-ペプチド2のSDS-PAGE及び質量分析結果を示す。図30Cは、TNF-αに特異的な3つのscFvに結合したTCO-ペプチド2の質量分析結果を示す。図30D及び図30Eは、それぞれPD-1に特異的な3つのscFvに結合したTCO-ペプチド2のSDS-PAGE及び質量分析を示す。
【0165】
図31】3 CCKペプチドに結合したテトラジン-ペプチド2の質量分析結果を示す。
【0166】
図32】CD20に特異的な2つのscFvに結合したTCO-ペプチド7の質量分析結果を示す。
【0167】
図32】CD20に特異的な2つのscFvに結合したTCO-ペプチド7の質量分析結果を示す。
【0168】
図33】VEGF-Aに特異的な2つのscFvに結合したTCO-ペプチド1の質量分析結果を示す。
【0169】
図34A-34B】図34Aは、CD79bに特異的な3つのscFv及びCD3に特異的な1つのscFvを有する分子構築物の質量分析結果を示す。図34Bは、HER2/neuに特異的な3つのscFv及びCD3に特異的な1つのscFvを有する分子構築物の質量分析結果を示す。
【0170】
図35】抗VEGF-AのscFvと、さらに、テトラジン-20kDaのPEGとの結合後のTCO-ペプチド1の反応混合物のSDS-PAGE分析を示す。
【0171】
図36A-36B】それぞれCD79bに特異的な3つのscFvを有する標的化リンカーユニットと、5つのDM1分子を有する薬物バンドルとを含む分子構築物のSDS-PAGE及び質量分析を示す。
【0172】
図37】CD79bに特異的な3つのscFvを有する標的化リンカーユニットと、5つのDM1分子を有する薬物バンドルとを含む分子構築物のELISA分析を示す。
【0173】
図38】HER2/neuに特異的な3つのscFvを有する標的化リンカーユニットと、5つのDM1分子を有する薬物バンドルとを含む分子構築物のSDS-PAGE分析を示す。
【0174】
図39】3つのCCK8ペプチドを有する標的化リンカーユニットと、5つのDM1分子を有する薬物バンドルとを含む分子構築物の質量分析を示す。
【0175】
図40】3つのCCK8ペプチドを有する標的化リンカーユニットと、5つのDOTA基を有する薬物バンドルとを含む分子構築物の質量分析を示す。
【0176】
図41】CD79bに特異的な3つのscFvを有するテトラジン-ペプチド2、CD20に特異的な2つのscFvを有するTCO-ペプチド7、及び5つのDM1を有する薬物バンドルを有するリンカーユニットを含む反応混合物のSDS-PAGE分析を示す。
【0177】
図42】ダンシルヒドラジンによる修飾前後のLPSの生物学的活性の分析結果を示す。
【0178】
図43】PEGリンクアームと結合しているイミキモッドの生物学的活性の分析結果を示す。
【0179】
図44】VEGF-Aに特異的な3scFv及び20kDaのPEGを有する分子構築物の、マウスにおける薬物動態学的パターンを示す。
【0180】
図45】CD79bに特異的な3つのscFvと、5つのDM1の薬物バンドルとを有する分子構築物の細胞毒性分析結果を示す。
【0181】
図46】(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.FcのSDS-PAGE分析を示す。
【0182】
図47A-47B】(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.FcのコラーゲンII及びTNF-αへの結合を分析するELISA結果を示す。
【0183】
図48A-48B】それぞれ二本鎖(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc-(scFv α IL-17)のSDS-PAGE及びELISA分析を示す。
【0184】
図49A-49B】それぞれ二本鎖(可溶性TNF-α受容体)-IgG1.CH2-CH3-scFv αコラーゲンIIのSDS-PAGE及びELISA分析を示す。
【0185】
図50】ヒトTNF-αに対するインタクト抗体及びコラーゲンIIに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質のSDS-PAGE分析を示す。
【0186】
図51A-51B】それぞれヒトIL-17に対するインタクト抗体及びコラーゲンVIIに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質のSDS-PAGE及びELISA分析を示す。
【0187】
図52A-52B】それぞれscFv αコラーゲンVII-IgG4.CH2-CH3-scFv α BAFFのSDS-PAGE及びELISA分析を示す。
【0188】
図53A-53B】それぞれヒトBAFFに対するインタクト抗体及びコラーゲンVIIに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質のSDS-PAGE及びELISA分析を示す。
【0189】
図54A-54B】それぞれ二本鎖(scFv α SPARC)-(scFv α RANKL)-hIgG4.Fc分子構築物のSDS-PAGE及びELISA分析を示す。
【0190】
図55A-55B】ヒトRANKLに対するインタクト抗体及びヒトオステオネクチンに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質のSDS-PAGE及びELISA分析を示す。
【0191】
図56】(scFv α CII)−(scFv α TNF−α)−hIgG4.Fc及び二本鎖(scFv α CII)−(scFv α TNF−α)−hIgG4.Fc−(scFv α IL−17)を有するマウス骨端骨の免疫染色を示す。
【0192】
図57】二本鎖(可溶性TNF−α受容体)−IgG1.CH2−CH3−scFv αコラーゲンIIを有するマウス骨端骨の免疫染色を示す。
【0193】
図58】BALB/cマウス体内の蛍光標識(scFv α SPARC)−(scFv α RANKL)−hIgG4.Fcの生体分布を示す。
【0194】
図59A-59B】図59Aは、C末端延長部及びシステイン残基を有する二本鎖EGF-CH2-CH3、及び二本鎖EGF-CH2-CH3-抗PD1のscFvのSDS-PAGE分析を示す。図59Bは、2 LPS分子を有するリンカーユニットに結合した二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質のSDS-PAGE分析を示す。
【0195】
図60A-60B】種々のPD-1及びERBB!に結合したEGF-IgG1.Fc-(scFv α PD1)のELISA検測結果を示す。
【0196】
図61A-61B】図61Aは、二本鎖EGF-hIgG1.Fc-(scFv α CD3)分子構築物のSDS-PAGE分析を示す。図61Bは、ERBB1、ERBB2、及びERBB3に結合した二本鎖EGF-hIgG1.Fc-(scFv α CD3)を検測するELISA分析を示す。
【0197】
図62A-62E】図62Aは、C末端延長部を有するEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)、及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)のSDS-PAGE分析を示す。図62B〜62Eは、PD-1又はCD3、並びにERBB1、ERBB2、及びERBB3に結合したEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)、及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)のELISA分析を示す。
【0198】
図63】ソマトスタチン-hIgG1.Fc、ソマトスタチン-hIgG1.Fc-(scFv α CD3)、及びソマトスタチン-hIgG1.Fc-(scFv α PD-1)のSDS-PAGE分析を示す。
【0199】
図64】EGFR発現A431細胞上のEGF-IgG1.Fc、EGF-IgG1.Fc-(scFv α PD1)、EGF-IgG1.Fc-(scFv α CD3)、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc、及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)の細胞染色分析を示す。
【0200】
図65】抗PD-1 mAbと比較した、T細胞上のEGF-IgG1.Fc-(scFv α PD1)及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)の染色分析(パネルA〜C)、並びに、抗CD3 mAbと比較した、T細胞上のEGF-IgG1.Fc-(scFv α CD3)及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)の染色分析(パネルD〜F)を示す。
【0201】
図66A-66D】図66A及び図66Bは、EGF-hIgG.Fc-scFv α CD3及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)とのインキュベーション後の、EGFR発現A431細胞のT細胞媒介細胞溶解を示す。図66C及び図66Dは、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)とのインキュベーション後の、MDA-MB-231細胞の細胞溶解の程度を示す。
【0202】
図67A-67C】EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)とのインキュベーション後の、A431細胞によるT細胞媒介細胞溶解の経時変化を示す。
【0203】
図68】二本鎖EGFw2v3-IgG1.Fc-(scFv α PD-1)とのインキュベーションの後の、ヒトPBMCによるA431の細胞溶解の程度を示す。
【0204】
一般的な実施に従って、説明された種々の特徴/要素は、縮尺通りに描かれておらず、代わりに、本発明に関連する特定の特徴/要素を最もよく例示するために描かれている。また、種々の図面における同様の参照番号および名称は、可能な場合には、同様の要素/部品を示すために使用される。
【発明を実施するための形態】
【0205】
添付の図面に関連して以下に提供される詳細な説明は、本実施例の説明として意図されており、本実施例が構築又は利用され得る唯一の形態を表すものではない。この説明は、この実施例の機能と、この実施例を構成し動作させるための一連のステップを示す。しかし、同じ又は同等の機能および順序は、異なる実施例によって達成されてもよい。
【0206】
便宜上、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で使用される特定の用語をここに集める。 本明細書中で他に定義されない限り、本開示において使用される科学技術用語は、当業者によって一般に理解され使用される意味を有するものとする。
【0207】
文脈によって他に必要とされない限り、単数形の用語は複数の形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。具体的には、本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、文脈が明らかに他に示されない限り、単数形「a」及び「an」は複数の言及を含む。また、本明細書および特許請求の範囲で使用する「少なくとも1つの」および「1つ以上の」という用語は、同じ意味を有し、1,2,3又はそれ以上を含む。さらに、「A、Bおよび/又はCの少なくとも1つ」、「A、B又はCの少なくとも1つ」、および「A、Bおよび/又はCの少なくとも1つ」という表現は、本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、A単独、B単独、C単独、AとB、BとC、AとC、及びAとBとC、をカバーすることを意図している。
【0208】
本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示された数値は可能な限り正確に報告される。しかし、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含む。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値または範囲の10%、5%、1%または0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者によって考慮される場合、平均の許容可能な標準誤差内にあることを意味する。操作例/実施例以外で、又は特に明記しない限り、本明細書中に開示される材料の量、時間、温度、操作条件、量の比などについての、数値範囲、量、値及びパーセンテージの全てが、すべての場合において、用語「約」により修飾されているものと理解されるべきである。したがって、反対に示されない限り、本開示及び添付の請求項に記載される数値パラメーターは、所望に応じて変化することのできる近似値である。少なくとも、各数値パラメーターは、報告された有効数字の数に照らして、及び通常の丸め技法を適用することによって、少なくとも解釈されるべきである。範囲は、本明細書では、1つのエンドポイントから別のエンドポイントまで、または2つのエンドポイント間で表現することができる。特に明記しない限り、本明細書中に開示される全ての範囲は、エンドポイントを包含する。
【0209】
本開示は、一般に分子構築物に関する。各分子構築物は、標的化成分(T)及びエフェクター成分(E)を含む。本明細書において、これらの分子構築物は、「T-E分子」、「T-E医薬品」又は「T-E薬物」と呼ばれる場合がある。
【0210】
本明細書において、用語「標的化成分」とは、対象となる標的(例えば、細胞表面上の受容体、又は組織内のタンパク質)に直接的又は間接的に結合することにより、本発明の分子構築物の対象となる標的への輸送を容易にする分子構築物の部分を指す。いくつかの例において、標的化成分は、分子構築物を標的細胞の近傍に誘導する。他の場合には、標的化成分は、標的細胞表面に存在する分子、又は細胞表面に存在する分子に特異的に結合する第2分子に特異的に結合する。いくつかの場合において、標的化成分は、対象となる標的に結合されると、本発明の分子構築物とともに内部に移行することができることにより、標的細胞の細胞質基質に移転される。標的化成分は、細胞表面の受容体に対する抗体若しくはリガンドであり得るか、又は、そのような抗体若しくはリガンドに結合する分子であることで、本発明の分子構築物を標的部位(例えば、選択した細胞の表面)に標的化してもよい。標的化機能を有しない治療薬に比べて、本発明の分子構築物は、疾患部位でのエフェクター(治療剤)の局在化を強化でき、又は該局在化に有利である。上記局在化は、程度又は相対的な割合をいい、疾患部位へのエフェクターの全体的又は完全な局在化を意味しない。
【0211】
本発明によれば、用語「エフェクター成分」とは、分子構築物が標的部位に誘導されると、生物学的活性(例えば、免疫応答、細胞毒性効果の発揮等を含む)又は他の機能的活性(例えば、他のハプテンタグ付き治療分子の動員)を誘発する分子構築物の部分を意味する。「エフェクト」は、治療的又は診断的であり得る。エフェクター成分は、細胞、及び/又は、 細胞外免疫調節因子に結合するものを包含する。エフェクター成分は、タンパク質、核酸、脂質、炭水化物、糖ペプチド、薬物部分(小分子薬物及び生物製剤の両方)、化合物、元素、及び同位体、並びにそれらの断片等の薬剤を含む。
【0212】
使用される第1、第2、第3等の用語は、本明細書において、種々の成分、構成要素、領域、及び/又は、セクションを説明するために使用することができるが、これらの成分(並びに、構成要素、領域、及び/又は、セクション)は、これらの用語によって制限されない。また、そのような順序番号の使用は、文脈によって明白に示されない限り、順番や順序を意味するものではない。むしろ、これらの用語は、単にある要素を別の要素と区別するために使用される。従って、以下に説明する第1成分は、例示的な実施形態の教示から逸脱することなく、第2成分と呼ぶことができる。
【0213】
ここで、用語「リンク」、「カップル」及び「接合」は、交換可能に使用され、直接結合又は間接結合により2つの要素を結合することを指すものである。
【0214】
ここで使用される用語「ポリペプチド」とは、少なくとも2つのアミノ酸残基を有するポリマーを意味する。典型的には、ポリペプチドは、2〜約200残基、好ましくは2〜50残基の長さのアミノ酸残基を含む。本明細書でいうアミノ酸配列は、該配列の、L-、D-、又はβ-アミノ酸の構成を含む。ポリペプチドは、アミノ酸ポリマーも含む。該アミノ酸ポリマーにおいて、1つ又は複数のアミノ酸残基は、天然に存在するアミノ酸に対応する人工化学類似体、又は天然に存在するアミノ酸ポリマーである。さらに、該用語は、ペプチド結合、又は他の「修飾された結合」、例えば、ペプチド結合がα-エステル、β-エステル、チオアミド、ホスホラミド、カーボネート、ヒドロキシレート等に置換されたものにより結合されたアミノ酸に適用される。
【0215】
特定の実施形態において、本明細書に記載された配列を含むアミノ酸の保存的置換も含まれる。種々の実施形態において、1、2、3、4、又は5つの異なる残基が置換される。用語「保存的置換」とは、アミノ酸の置換が分子の活性(例えば、生物学的若しくは機能的活性、及び/又は、特異性)を実質的に変更しないことをいう。典型的には、保存的アミノ酸置換は、あるアミノ酸を、類似の化学的性質(例えば、電荷又は疎水性)を有する他アミノ酸で置換することである。ある保存的置換は、標準アミノ酸が親残基と僅かに異なる非標準アミノ酸(例えば、希アミノ酸、合成アミノ酸等)に置換された「類似体置換」を含む。アミノ酸類似体は、親アミノ酸の構造を大幅に変化させず、標準アミノ酸から合成的に得ることができ、異性体、又は代謝産物前駆体である。
【0216】
特定の実施形態において、本明細書に記載されている配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%又は90%、より好ましくは少なくとも95%又は98%の配列同一性を有するポリペプチドも含む。
【0217】
本明細書でいうポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセンテージ(%)」は、特定のポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である候補配列におけるポリペプチド残基のパーセンテージとして定義される。上記配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入することにより、最大パーセント配列同一性が得られる。なお、保存的置換は、配列同一性の一部として考慮されていない。配列同一性パーセンテージを決定するためのアライメントは、当分野内の様々な方法、例えば、公然に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はガリン(DNASTAR)ソフトウェアにより達成することができる。当業者であれば、アライメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。上記パラメータは、比較される配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要である任意のアルゴリズムを含む。本明細書の目的を達成するために、2つのポリペプチド配列間の配列比較は、国立生物工学情報センター(NCBI)によってオンラインで提供されるコンピュータプログラムBlastp(タンパク質-タンパク質BLAST)により実施される。所与のポリペプチド配列Bに対する所与のポリペプチド配列Aのアミノ酸配列同一性パーセンテージ(本明細書において、所与のポリペプチド配列Bと特定の%アミノ酸配列同一性を有する所与のポリペプチド配列Aとも呼ばれる)は、以下の式により計算される。
[この文献は図面を表示できません]

%
ここで、Xは、配列アライメントプログラムBLASTにより、配列A、Bをアライメントすることで同一のマッチとして得られたアミノ酸残基の数である。Yは、配列A又はBのいずれか短い方のアミノ酸残基の総数である。
【0218】
本明細書で使用される用語「PEG化アミノ酸」は、1つのアミノ基及び1つのカルボキシル基を有するポリエチレングリコール(PEG)鎖である。一般的には、PEG化アミノ酸の一般式は、NH2-(CH2CH2O)n-COOHである。本開示において、nの値は、1〜20、好ましくは、2〜12である。
【0219】
本明細書において、ポリペプチドについては、用語「末端」は、ポリペプチドのN端又はC端にあるアミノ酸残基を指す。ポリマーについては、用語「末端」は、ポリマー(例えば、本開示のポリエチレングリコール)におけるポリマー骨格の端に位置する構成単位を指す。本明細書及び特許請求の範囲において、用語「遊離末端」は、他の分子に化学的に結合していない末端アミノ酸残基又は構成単位を指す。
【0220】
本明細書において、用語「抗原」又は「Ag」は、免疫応答を誘発する分子として定義される。この免疫応答は、分泌性、体液性、及び/又は、細胞性抗原-特異的応答を含む。本開示において、用語「抗原」は、タンパク質、ポリペプチド(その変異型又は生物学的活性断片を含む)、多糖類、糖タンパク質、糖脂質、核酸、又はそれらの組合せでありえる。
【0221】
本明細書及び特許請求の範囲において、用語「抗体」は最も広い意味で使用され、完全に集合した抗体、抗原に結合する抗体断片、例えば、抗原結合断片(Fab/Fab')、F(ab')2断片(互いにジスルフィド結合により結合された2つの抗原結合Fab部分を有する)、可変断片(Fv)、一本鎖可変断片(scFv)、二重特異的性一本鎖可変領域断片(bi-scFv)、ナノボディ、ユニボディ及びダイアボディを包含する。「抗体断片」は、完全抗体の一部、好ましくは、完全抗体の抗原結合領域又は可変領域を含む。典型的には、「抗体」は、免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的にコードされる1つ以上のポリペプチドからなるタンパク質を指す。よく知られている免疫グロブリン遺伝子には、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン及びミュー定常領域遺伝子、並びに、ミリアド免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。軽鎖は、カッパ又はラムダに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、又はイプシロンに分類される。これにより、免疫グロブリン:IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEをそれぞれ定義する。典型的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位は四量体である。各四量体は、2つの同一の1対のポリペプチド鎖から構成される、各1対のポリペプチド鎖は、1本の「軽」鎖(約25kDa)及び1本の「重」鎖(約50-70kDa)を含む。各鎖のN末端は、抗原認識主に関与する約100〜110又はそれ以上のアミノ酸を含む可変領域を定義する。用語可変軽鎖(VL)及び可変重鎖(VH)は、それぞれ上述した軽鎖及び重鎖を指す。本開示の実施形態によれば、抗体断片は、天然抗体を改変することによって、又は組換えDNA技術を使用して新規合成によって調製され得る。本開示の特定の実施形態において、抗体、及び/又は、抗体断片は、二重特異性であり得、且つ様々な構造であり得る。例えば、二重特異性抗体は、2つの異なる抗原結合部位(可変領域)を含み得る。種々の実施形態において、二重特異性抗体は、ハイブリドーマ技術又は組換えDNA技術によって調製されることができる。特定の実施形態において、二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対し結合特異性を有する。
【0222】
本明細書において、用語「特異的に結合」は、抗体又はその抗原結合断片が、約1×10-6 M、1×10-7 M、1×10-8 M、1×10-9 M、1×10-10 M、1×10-11 M、1×10-12 M以下の解離定数(Kd)で抗原に結合する能力、及び/又は、非特異的抗原に対する親和性よりも少なくとも2倍大きい親和性で抗原に結合する能力を指す。
【0223】
本明細書において、用語「免疫障害」は、体液性免疫不全、細胞性免疫不全、複合免疫不全、不特定免疫不全、及び自己免疫疾患を含む。
【0224】
本明細書において、用語「腫瘍」とは、悪性又は良性にもかかわらず、すべての新生細胞成長及び増殖、並びに、前がん性及びがん細胞又は組織を指す。本明細書及び特許請求の範囲において、用語「腫瘍」は、固形腫瘍及びびまん性腫瘍を含む。
【0225】
本明細書において、用語「固形腫瘍」は、嚢胞又は液体領域を通常含まない異常な組織塊を指す。異なるタイプの固形腫瘍は、それらを形成する細胞のタイプに命名される。固形腫瘍の例として、肉腫及びがん腫を含むが、これらに限定されない。一般的には、「肉腫」は、骨又は筋肉などの結合組織又は支持組織から生じるがんである。「がん腫」は、身体組織を覆う腺細胞及び上皮細胞から生じるがんである。
【0226】
本明細書において、用語「びまん性腫瘍」は、造血(血液形成)細胞から形成され、血液、骨髄、又はリンパ節に影響を及ぼす白血病、及び/又は、血液悪性腫瘍を指す。びまん性腫瘍の例として、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、及び骨髄腫を含むが、これらに限定されない。
【0227】
本明細書において、用語「腫瘍関連抗原」(TAA)は、当技術分野で知られている抗原であり、がん細胞表面に見られる抗原、及び、がん細胞から脱落して可溶になる抗原(即ち、可溶性がん抗原)を含む。腫瘍又は正常細胞にあるいくつかの細胞表面抗原は、可溶性対応物を有する。このような抗原は、がん関連線維芽細胞(CAFs)、腫瘍内皮細胞(TEC)及び腫瘍関連マクロファージ(TAM)に見られるものを含むが、これらに限定されない。
【0228】
本明細書において、用語「治療」は、予防的(例えば、予防薬)、治癒的又は緩和的治療を含む。本明細書で使用される「治療」行為も、予防的(例えば、予防薬)、治癒的又は緩和的治療を含む。特に、本明細書において、用語「治療」は、本発明の分子構築物又はそれを含む医薬組成物を、症状、症状に関連した病状、症状に関連した二次的な疾患若しくは障害、又は症状を引き起こす素因を有する被験体に、上記特定の疾患、障害及び/又は症状の1つ以上の病状又は特徴の、部分的若しくは完全な緩和、改善、軽減、発症の遅延、進行の阻害、重症度の軽減、及び/又は、罹患率の低減を達成する目的で、適用又は投与することを指す。治療は、疾患、障害及び/又は症状の徴候を示していない被験体、及び/又は、疾患、障害及び/又は症状の初期徴候のみを示す被験体にも、疾患、障害及び/又は症状に関連した病理学変化の発展リスクを減少させる目的で施すことができる。
【0229】
本明細書において、用語「有効量」とは、所望の治療応答を生じるのに十分な本発明の分子構築物の量を指す。薬剤の有効量は、疾患又は症状を治癒する必要はないが、疾患若しくは症状の発症を遅延、妨害又は予防し、又は疾患若しくは症状を緩和し、疾患若しくは症状を治療することができる。有効量は、適切な投薬形態で1回、2回又はそれ以上の用量に分割されることで、所定の期間内で1回、2回又はそれ以上で投与されることができる。具体的な有効量又は十分量は、処置される特定の病状、患者の身体的条件(例えば、患者の体重、年齢、又は性別)、治療を受けている被験体のタイプ、治療期間、併用療法の性質(存在する場合)、採用される特定の処方、化合物の構造又はその誘導体などの要因によって変化する。有効量は、例えば、有効成分の総質量(例えば、グラム、ミリグラム又はマイクログラム)、又は体重に対する活性成分の質量比、例えば、ミリグラム/キログラム(mg / kg)として表すことができる。
【0230】
用語「適用」及び「投与」は、本明細書において互換的に使用され、本発明の分子構築物又は医薬組成物を、治療を必要とする被検体に適用することを意味する。
【0231】
用語「被験体」及び「患者」は、本明細書では互換的に使用され、本発明の分子構築物、医薬組成物及び/又は方法によって治療可能な人類を含む動物を意味する。用語「被験体」又は「患者」は、1つの性別が特定されていない限り、オスとメスの両方の性別を指すことが意図される。従って、用語「被験体」又は「患者」は、本開示の治療方法から利益を得ることができる任意の哺乳動物を含む。「被験体」又は「患者」の例は、ヒト、ラット、マウス、モルモット、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、トリ及びニワトリを含むがこれらに限定されない。例示的な実施形態において、患者はヒトである。 用語「哺乳動物」は、ヒト、霊長類、家畜、及び、農場動物、例えば、ウサギ、ブタ、ヒツジ又は牛;動物園、スポーツ又はペット動物;及びマウスおよびラットのようなげっ歯類を含む哺乳綱のすべてのメンバーを指す。用語「非ヒト哺乳動物」は、ヒト以外の哺乳綱のすべてのメンバーを指す。
【0232】
本開示は、少なくとも、T-E医薬品の構築に基づいている。このようなT-E医薬品は、標的細胞、標的組織又は器官に、血液循環、リンパ系、及び他の細胞、組織又は器官よりも相対的に高い割合で送達できる。この場合に、医薬品の治療効果は増加する一方、副作用及び毒性の範囲、重症度は低下する。標的成分を含まない形態よりも低い用量でT-E分子の形態で治療エフェクターを投与することもできる。従って、より低い投薬量で治療エフェクターを投与しても、効力を失うことなく、副作用及び毒性を低下させることができる。
【0233】
より良い薬物標的から恩恵を受けることができる疾患
【0234】
多くの疾患に使用される薬物は、疾患部位を標的とすることができれば、すなわち正常組織又は器官よりも有利に疾患部位に局在化又は分配できれば、より良い効力及び安全性を有するように改善されることができる。以下は疾患の主要な例であり、薬物を疾患部位又は細胞に優先的に分布させることができれば、これらの薬物を改善することができる。
【0235】
I 免疫障害
【0236】
本開示の分子構築物の設計によれば、本発明の方法によって治療可能な疾患、症状及び/又は障害は、免疫障害、例えば、自己免疫障害である。該自己免疫障害は、乾癬、全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚ループス、シェーグレン症候群、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、及び炎症性腸疾患を含むが、これらに限定されない。
【0237】
関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、乾癬、クローン病、炎症性腸疾患等の自己免疫疾患のほとんどは結合組織に影響を与える。環境的、遺伝的、エピジェネティックな病因学的性質、又はそれらの組合せにかかわらず、影響を受けた組織は、長期間の炎症過程によって損傷を受ける。本発明において、抗炎症治療剤、例えば、抗TNF-α、抗IL-17、抗BAFF、抗IL-6、抗IL-12/IL-23を疾患結合組織に導入する際に、細胞外マトリックスを標的抗原として使用することが合理的である。適切な標的抗原は、種々のタイプのコラーゲン、ラミニン、エラスチン、フィブリリン、フィブロネクチン、及びテネイシンを含む。結合組織は、人体のほぼすべての部分に埋められる。しかし、異なる部位の結合組織に対する構造的及び機能的要求に基づいて、それらの細胞外マトリックスの成分は、タイプが異なり、優れた標的組織特異性を有する。
【0238】
細胞表面抗原ではなく、細胞外成分を抗炎症治療剤の標的として選択する利点は、様々なタイプのマトリックスタンパク質の選択性、及び豊富な量の細胞外マトリックスタンパク質である。さらに、細胞を抗原性標的として使用しないため、抗炎症剤の細胞への直接結合による潜在的な有害な影響を回避することができる。
【0239】
I-(i) 関節リウマチ、乾癬性関節炎、又は強直性脊椎炎
【0240】
関節リウマチ、強直性脊椎炎、及び他の自己免疫疾患の治療に、いくつかの抗TNF-α抗体、(例えば、インフリキシマブ及びアダリムマブ)、及びTNF-α受容体及びIgG.Fcの融合タンパク質(例えば、エタネルセプト)の使用が承認されており、又はヒト臨床試験に使用されている。インターロイキン-1(IL-1)受容体の細胞外部分であるアナキンラは、関節リウマチの治療薬として承認されている。IL-12及びIL-23の共有p40タンパク質に対する抗体、例えば、ウステキヌマブ及びブリアキヌマブは、乾癬性関節炎の治療、又は関節リウマチの臨床試験への使用が承認されている。IL-6受容体に対する抗体(トシリズマブ)は、関節リウマチ及び全身性若年性特発性関節炎が承認されている。いくつかの抗IL-6抗体、例えば、 サリルマブ及びオロキズマブは、関節リウマチを治療する臨床試験に使用されている。IL-17に特異的な抗体(セクキヌマブ)は、乾癬の治療が承認されており、関節リウマチ及び強直性脊椎炎の臨床試験に使用されている。
【0241】
これらの治療剤は、以前に利用可能な薬剤よりも重度の症状を改善することができるが、いくつかの治療を受けた患者に一連の重篤な副作用を引き起こした。例えば、インフリキシマブは、深刻な血液疾患(例えば、白血球減少症及び血小板減少症)、深刻な感染症、リンパ腫その他の固形腫瘍、B型肝炎の再活性化、及び結核、その他の重大な問題を引き起こすことができる。アナキンラは、頻繁な感染を引き起こし、胃腸管、気道、及び血液形成器官に深刻な副作用を引き起こす。これらの広く使用されている治療薬による重篤な副作用を最小限に抑えつつ、その治療効果を保持し、又はさらに高めることは、重要である。
【0242】
関節リウマチの患者は、膝、指、つま先の関節その他の関節が影響を受ける一方、強直性脊椎炎の患者は、骨盤の関節及び仙腸骨関節が影響を受ける。疾患関節において、骨の表面及び骨の表面を覆う関節軟骨は、関節における炎症性免疫成分によって攻撃される。関節の関節軟骨は、細胞外マトリックスを含む滑らかな軟骨である。軟骨は無血管であり、その重量の約60%が水であり、残りの成分がコラーゲン、α-アグリカン、プロテオグリカン、及び他のマトリックス分子から構成される。コラーゲンIIは、軟骨の主要原繊維を構成する。アグリカンは、軟骨において2番目に最も豊富な成分である。コラーゲンXIは、コラーゲンII原線維の表面に結合して原線維ネットワークの形成に寄与し、コラーゲンIXは、コラーゲンII及びコラーゲンXIに関連する。軟骨は大きな表面を有し、α-アグリカンは羽のような構造および形状を有する。軟骨の形成に加えて、関節は、十字靭帯のような隣接する骨を連結する靭帯と、筋肉を骨に連結する腱とを有する。靭帯及び腱は、コラーゲンI、II、III、及びエラスチンと、フィブリリン1、2とからなる原繊維ネットワークにより形成される。
【0243】
本発明によれば、抗体断片、例えば、コラーゲンII、α-アグリカン、コラーゲンXI又はコラーゲンIX、或いは、コラーゲンI、エラスチン又はフィブリリン1に特異的なscFvを標的化剤として使用することにより、TNF-α、IL-1、及びIL-12/IL-23に対するアンタゴニストを疾患関節に送達できることが合理的である。好ましい抗コラーゲンII抗体は、関節における天然コラーゲンIIに結合するが、原線維の組み立てにおいて切端されるN末端及びC末端プロペプチドに結合しないものである。好ましい抗アグリカン抗体は、天然α-アグリカン分子全体に結合するが、切端されて血液循環に入った断片に結合しないものである。抗コラーゲンIIに対するscFvを標的化剤とする本発明の分子構築物を採用することにより、従来のTNF-α、IL-1、及びIL12/IL-23に対するIgGに比べて、より多く本発明の治療剤が疾患部位に送達され、他の無関係な正常組織、特にリンパ系器官に存在する治療剤の量がより少ないため、副作用の発生がより少ない。
【0244】
I-(ii) 乾癬
【0245】
乾癬又はプラーク乾癬を有するほとんどの患者は、主に皮膚に炎症症状を示すが、他の組織及び器官には炎症症状を示さない。乾癬は、主に患者の皮膚の一部にケラチノサイトを発生する。抗TNF-α、抗IL-12/IL-23、抗IL-17若しくは抗IL-17受容体(抗IL-17R)のモノクローナル抗体、又は他の抗炎症剤、例えば、抗IL6の体系的投与は、上述したように望ましくない副作用を引き起こす。これらの全ての免疫調節抗体の深刻で有害な副作用は多く報告されている。
【0246】
他の組織の大部分よりも皮膚組織においてはるかに高いレベルで発現されるフィラグリン、コラーゲンIなどの多くの膜又は細胞外タンパク質を、治療剤を皮膚に送達する標的タンパク質として使用することができる。フィラグリンは、細胞間の密着結合部位に存在し、疾患組織部位における抗体と接触可能である。コラーゲンIは、骨マトリックス及び体の多くの部分にも存在するが、皮膚の真皮層に大量に存在する。
【0247】
乾癬の症状を引き起こす疾患ケラチノサイトによる炎症活性を減衰させるために、抗炎症抗体薬物をケラチノサイトに接触させる必要がない。ケラチノサイトは、皮膚の最も外側の表皮層にあり、血管、汗腺、及びコラーゲン繊維は、皮膚の真皮層にある。内層は脂肪組織がある皮下組織である。この3層のヒト皮膚の総厚さが2-3mmである。抗炎症抗体は、コラーゲンIに特異的なscFvによって真皮層に送達されると、他の層に拡散することができる。又は、上記抗体は、炎症性サイトカインを上記の3層の皮膚に拘束することができる。
【0248】
真皮-表皮接合部位に存在するいくつかのタンパク質を、治療剤を皮膚に運ぶための標的として使用することもできる。このようなタンパク質は、VII型コラーゲン、XVII型コラーゲン、及び5、6、10型ラミニンを含む。真皮-表皮接合部位は、皮膚の表皮層と真皮層とを接合する組織領域である。表皮の基底層の基底細胞は、半接着斑のアンカーフィラメントによって基底膜に接続する。真皮の乳頭層の細胞は、VII型コラーゲンからなるアンカー原線維により基底膜に付着する。ケラチノサイト上で発現される膜貫通タンパク質(BP180とも呼ばれる)であるXVII型コラーゲンは、下層膜へのケラチノサイトの接着を媒介する真皮-表皮基底膜領域における多タンパク質複合体である半接着斑の構造成分である。ラミニンは、基底膜に存在する構造的非コラーゲン性糖タンパク質である。多くのタイプのラミニンの中で、5、6、10型ラミニンは、重層上皮の下に存在する基底膜に特異的である。
【0249】
I-(iii) 全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚ループス、又はシェーグレン症候群
【0250】
全身性エリテマトーデス(SLE)は、核酸、ヒストン、及び他の核タンパク質等の複数の自己抗原に関する自己免疫疾患である。シェーグレン症候群は、自己免疫疾患であり、免疫系が外分泌腺、特に唾液や涙を生成する唾液腺や涙腺を攻撃することで、ドライアイ、ドライマウスの症状を引き起こすことにより、感染症などさまざまな問題が発生する。これらの疾患は、女性、特に15〜35歳の出産適齢期の女性の罹患率が高く、一般には、女性の罹患率が男性の9倍以上である。SLEは、全身性自己免疫性結合組織疾患であり、多くの臓器及び組織に影響を及ぼす。一般には、心臓、肺、膀胱および腎臓のような組織及び器官は弾性を有し、伸縮することができ、コラーゲンネットワークを含む。いくつかのタイプのSLEにおいて、皮膚での炎症症状が顕著である。
【0251】
50年以上にわたり、BAFFに特異的なヒトモノクローナル抗体であるベリムマブが開発され、承認されるまで、SLEに対する治療剤が1つも開発されていなかった。しかし、SLEに対するベリムマブの治療効果が不十分であると考えられている。ベリムマブは、多くの副作用を引き起こし、且つ、治療群での重篤な感染及び死亡率がプラセボ群より高い。興味深いことに、シェーグレン症候群の第II相試験において、ベリムマブのシェーグレン症候群に対する治療効果がSLEに対する治療効果より良好な結果を示した。
【0252】
BAFFに加えて、研究者らはSLEの他の治療標的を探索してきた。SLEの病理学的過程を引き起こす主要な炎症性サイトカインが確定されていないが、「1型インターフェロン標識」と呼ばれる1型インターフェロン刺激の下流事象として知られている遺伝子群の発現が、多くの研究で実証されている。SLEの病因は、IFN-αにより活性化される遺伝子と類似する遺伝子群の発現を誘導するトール様受容体7及び9(TLR7及びTLR9)の活性化に関連することが見出されている。
【0253】
ロンタリズマブ、シファリムマブ、及びアニフロマブを含むIFN-αに特異的ないくつかのモノクローナル抗体は、SLE治療の臨床試験において研究されている。IFN-αは多くの機能に関与しているため、疾患部位を標的とせず、IFN-αに対する抗体を全身的投与することは、重大な副作用を引き起こす可能性がある。
【0254】
I-(iv) 炎症性腸疾患
【0255】
抗TNF-α(例えば、アダリムマブ)は、クローン病及び潰瘍性大腸炎(炎症性腸疾患の一形態)にも承認されている。しかし、上述したように、抗TNF-αの投与は、重篤な感染症及びB細胞リンパ腫を含む一連の副作用を引き起こす。従って、クローン病又は潰瘍性大腸炎の患者を抗TNF-αで治療する際に、投与された抗TNF-αを主に腸及び結腸に分布させることが好ましい。コラーゲンIII及びコラーゲンVは、小腸及び大腸の結合組織における含有量が豊富である。
【0256】
II 腫瘍
【0257】
種々の臨床段階におけるびまん性腫瘍、固形腫瘍、原発性腫瘍及び転移性腫瘍を含む悪性腫瘍を治療するために、多くの種類の多数の治療剤が動物モデルおよびヒト臨床試験において開発され、実験されている。これらの治療剤のうちのいくつかは、患者への使用が政府規制当局によって承認されている。これらの治療剤は、(1)重要な細胞調節経路若しくは構造成分、又は損傷DNA若しくは重要な細胞機構を標的とする多数の化合物;(2)標的細胞のアポトーシス、抗体依存性細胞毒性(ADCC)又は補体媒介性細胞溶解(CMC)を媒介可能である、特定の細胞型の表面抗原に特異的な抗体又は特定の腫瘍関連抗原に特異的な抗体;(3)強力な細胞毒性薬物と結合する、特定の腫瘍関連抗原に特異的な抗体;(4)悪性細胞との対抗において免疫系を活性化可能である免疫調節性サイトカイン、例えば、インターフェロン-α(IFN-α)、インターロイキン-2(IL-2)、又はインターフェロン-γ(IFN-γ);(5)Bリンパ球及びTリンパ球の特定の細胞表面マーカーを標的とする抗体、例えば、抗CD20リツキシマブ;(6)成長因子受容体を標的とする抗体、例えば、抗HER2/Neuトラスツズマブ及び抗EGFRセツキシマブ;(7)血管内皮成長因子-A(VEGF-A)を標的として血管新生を阻害する抗体、例えば、ベバシツマブ;及び(8)免疫反応のネガティブフィードバックを阻害し、進行中の免疫応答の継続的な活性化を可能にする、免疫チェックポイントに結合する抗体、例えば、抗PD1(プログラム細胞死タンパク質1、CD279)抗体であるニボルマブ等、抗PD-L1(プログラム細胞死タンパク質リガンド1、CD274)抗体であるMPDL3280A、抗CTLA-4(細胞毒性Tリンパ球タンパク質4、CD152)抗体であるイピリムマブ;を含む。
【0258】
がんおよび他の多くの疾患を治療するための治療剤は、ある程度に正常細胞にも作用するため、その有用性がそれ自体の毒性によって制限され、損なわれる。従って、多くの治療剤は、限られた治療濃度域を有し、それらの毒性作用を制御するために、最適ではない用量で治療を受ける多くの患者に投与される。満足できる治療効果を達成するには、このような用量が不十分である。
【0259】
抗体-薬物複合体が積極的に研究されている。該抗体-薬物複合体は、標的化抗体によって認識される、腫瘍関連抗原を発現する標的細胞により、運ばれる細胞毒性薬物と共に腫瘍標的化抗体を内在化することを必要とする。この場合に、現行の抗体-薬物複合体の能力を制限する恐れがある。それは、腫瘍における細胞が様々な密度で腫瘍関連抗原を発現するためである。治療中において、比較的低レベルで発現する細胞は、現行の抗体薬物複合体によって殺滅されることができず、治療が中断されると、成長する可能性がある。
【0260】
II-(i) びまん性腫瘍
【0261】
II-(i)-A 白血球に由来するがん細胞を標的とする
【0262】
リンパ系及び骨髄系の悪性に形質転換された細胞に由来するがんは、すべてのがんにおいてかなりの割合を占める。このような腫瘍は、一般には、びまん性であり、固体ではない。従って、白血球由来腫瘍を標的化する際に、個々の腫瘍細胞を標的化する必要がある。従って、腫瘍細胞の細胞表面抗原の発現の確認は、白血球由来腫瘍の標的化の鍵である。
【0263】
白血球細胞(白血球)由来の腫瘍は、一般には、3種類に分類される。即ち、(1)血液及び骨髄に見られる白血病、(2)リンパ系に見られるリンパ腫、及び(3)骨髄の多くの部分及び血液に見られる骨髄腫である。
【0264】
白血病には4つの大きな分類がある。即ち、(1)急性リンパ性白血病(ALL)、(2)慢性リンパ性白血病(CLL)、(3)急性骨髄性白血病(AML)、及び(4)慢性骨髄性白血病(CML)である。しかし、診断方法及び分析方法の進歩に伴い、新しいタイプの白血病、例えば、B細胞CLL、T細胞CLL、B細胞前リンパ球性白血病、毛状細胞白血病等が発見されてきた。
【0265】
リンパ腫は2種類に分類される。即ち、(1)ホジキンリンパ腫、及び(2)非ホジキンリンパ腫である。リンパ腫患者の中に、約12%はホジキンリンパ腫患者であり、残りは非ホジキンリンパ腫患者である。非ホジキンリンパ腫は、大部分がB細胞由来であるため、B細胞非ホジキンリンパ腫のサブタイプが存在する。残りの非ホジキンリンパ腫は、T細胞リンパ腫である。
【0266】
骨髄腫は、抗体産生形質細胞に由来し、形質細胞腫とも呼ばれる。骨髄腫細胞は、骨髄に発見され、血液循環に移動でき、骨の多くの部分で成長し始めるため、骨髄腫は、多発性骨髄腫とも呼ばれる。
【0267】
白血病、リンパ腫、及び骨髄腫が骨髄様細胞、リンパ様細胞、及び形質細胞に由来するが、腫瘍種類の診断は、非常に複雑であり、組織及び細胞性を検測し、生検腫瘍サンプルに対して組織学的、免疫組織学的、形態学的、及び細胞マーカー分析を行う必要がある。骨髄系及びリンパ系は多能性幹細胞に属する。骨髄系は、顆粒細胞(好中球、好酸球、及び好塩基球)、単球及びマクロファージ、血小板に分化し、リンパ系は、B細胞及びT細胞に分化する。多くの分化及び成熟の段階において、悪性形質転換がいずれの分化段階で発生する可能性がある。さらに、がん性形質転換により、ある形質を促進し又は増加させる可能性があり、或いは形質を減少させ又は失う可能性がある。
【0268】
表面マーカー又は分化抗原、特に、CD(分化抗原群)番号が割り当てられたものは、自然免疫および適応免疫の研究において、種々の白血球と免疫細胞とを同定するには非常に有用で重要である。細胞型の同定には1群のマーカーを必要とする場合が多い。
【0269】
白血球由来のがんを標的とする抗体に基づく治療手段において、標的腫瘍の表面マーカーの同定は非常に有用で強力である。しかし、同じ種類の腫瘍を有すると診断された患者であっても、表面マーカーの密度が大きく変化することがある。
【0270】
II-(i)-B B細胞由来のリンパ球性白血病及びリンパ腫上の表面マーカー
【0271】
ALL及びCLLは、両方とも固形腫瘍ではない。ALLは、リンパ芽球、前駆B細胞、前駆T細胞、又はB細胞に由来する。ALLは、以下の免疫表現型サブタイプからなる。即ち、(1)B細胞前駆体に関連する細胞表面マーカーを発現する前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病、及び前駆T細胞のマーカーを発現する前駆T細胞急性リンパ芽球性白血病;(2)胚中心のB細胞に由来し、B細胞に関連する細胞表面マーカーを発現するバーキットリンパ腫;(3)リンパ様細胞及び骨髄様細胞の両方のマーカーを発現する急性混合型白血病である。
【0272】
CLLは、B細胞CLL(B-CLL)とも呼ばれる。それは、CLLはほとんどB細胞に由来するためである。従って、ALLとCLLとの細胞起源上の主な区別は、ALLがB細胞とT細胞の共通前駆体であるリンパ芽球に由来する一方、CLLがB細胞に由来することである。患者体内のすべてのCLL細胞は、特定のVH及びVLを発現できる単一のB細胞に由来する。CLLの細胞は、CD19及びCD20、特にCD5及びCD23を発現する。
【0273】
ホジキンリンパ腫は、リード・スターバーグ細胞の存在を特徴とする。リード・スターバーグ細胞は、B細胞に由来する多核巨細胞である。リード・スターバーグ細胞の形態及びリンパ節生検標本における反応性細胞浸潤の組成に基づいて、ホジキンリンパ腫のサブタイプは4種類に分類される。即ち、(1)結節性硬化型ホジキンリンパ腫、(2)混合細胞型(3)リンパ球リッチ型、又はリンパ球優位型、及び(4)リンパ球枯渇型である。ホジキンリンパ腫は成熟B細胞に由来することが知られている。ホジキンリンパ腫の細胞は、免疫表現型によって、CD15、CD20、CD30、CD79a、及びCD138のサブセットを発現する。非ホジキンリンパ腫の大部分はB細胞に由来する。B細胞非ホジキンリンパ腫の少なくとも14サブタイプが知られている。
【0274】
Bリンパ球は、抗原特異的抗体ソースであり、感染性病原体を防御するための適応免疫系の重要な要素である。しかし、B細胞は、病原性であり、いくつかの疾患の原因となり得る。B細胞障害は、望ましくない免疫グロブリン産生(自己免疫及びアレルギー疾患)、及び制御されない増殖(リンパ腫、白血病)に分けられる。B細胞は、多発性自己免疫障害及びB細胞系がんの治療に対する有効な標的であることが証明されている。B細胞悪性腫瘍及び抗体媒介性疾患の治療のためのB細胞枯渇に関連する多くの手法は、一部が開発に成功しているか、又は積極的な実験段階にある。これらは、ヒトB細胞表面抗原を標的とする治療用抗体、例えば、CD19、CD20、CD22、CD37、CD79a/CD79b、及びアイソタイプ特異的Ig受容体を含む。そのような抗体のいくつかは、B細胞の溶解を引き起こし得る。いくつかの他の抗体は、細胞毒性薬物と結合した場合にB細胞の溶解を引き起こす。
【0275】
多発性骨髄腫は、形質細胞骨髄腫とも呼ばれ、非ホジキンリンパ腫後の2番目に最も一般的な血液悪性腫瘍である。すべてのがんにおいて、多発性骨髄腫の発生率が1%であり、死亡率が2%である。多発性骨髄腫は、大量の骨髄腫タンパク質を産生し、骨髄を占め、骨の痛み、貧血、腎不全、感染、および神経学的問題を含む一連の症状を引き起こす。多発性骨髄腫は、Bリンパ球から分化した形質細胞の悪性形質転換に由来する。しかし、多発性骨髄腫の細胞は、CD19、CD20、及びCD22のような最も一般的なB細胞マーカーを発現しない。
【0276】
多発性骨髄腫の治療において、いくつかの治療法や薬物が実験されているか、又は承認されている。これらの治療法又は薬物には、コルチコステロイド、化学療法、プロテアソーム阻害剤、および免疫調節化合物が含まれる。
【0277】
II-(i)-C ユニークなB細胞抗原Igα、Igβ及びミジス-δを抗体の標的とする
【0278】
Igα(CD79a)/Igβ(CD79b)は一群の抗原であり、B細胞系の細胞表面に発現され、B細胞受容体(BCR)複合体を形成する。Igα/Igβは、ヘテロ二量体膜貫通タンパク質であり、ジスルフィド結合によって安定化された2つの異なるIgα鎖及びIgβ鎖から構成される。Igα/Igβは、BCRと複合体を形成し、BCR複合体により抗原を識別した後、信号を生成する。B細胞成熟の進行中、Igα/Igβは、前B細胞段階に発現され、B細胞系での発現形態に関連するCD20より早く発現される。Igα/Igβは、B細胞及びほとんどの非ホジキンリンパ腫上で発現されるため、Igα/Igβは、非ホジキンリンパ腫の治療におけるB細胞枯渇療法のための好ましい標的であると考えられている。
【0279】
mIgDおよびmIgMは、成熟B細胞の表面上で共発現され、BCRの一部として機能する。mIgDは、27個のAAのユニークなミジス-δペプチドセグメントを含む。該セグメントは、mIgHTの膜固定セグメントの細胞外部分を表し、CH3ドメインと膜貫通セグメントとの間に位置する。migis-δペプチドは、mIgD発現B細胞を標的とするための抗原部位を提供することが提案されている。この部位は、分泌型IgDではなく、mIgD発現B細胞上に存在する。
【0280】
II-(i)-D T細胞腫瘍
【0281】
Tリンパ球サブセットは、その表面分子及び分泌因子を介して、異なる種類の抗体の産生、種々のサイトカインの分泌、及び細胞毒性T細胞及び他の細胞溶解性細胞の生成を含む体液性及び細胞性免疫エフェクター機能に対する免疫調節活動の複雑なネットワークを媒介する。多くの自己免疫疾患は、自己構成要素又は細胞に対するT細胞の異常な活動によって引き起こされる。例えば、I型糖尿病では、膵臓のランゲルハンス島のインスリン産生β細胞が自己免疫性T細胞によって攻撃され、殺される。全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症、及び炎症性腸疾患等の壊滅的な自己免疫疾患は、主にT細胞によって引き起こされる。さらに、器官又は組織移植片に対する拒絶反応は、主にT細胞によって媒介される。
【0282】
T細胞悪性腫瘍のいくつかの形態もある。したがって、T細胞活性の調節、又はT細胞の除去は、創薬研究の積極的な領域となっている。CD3、CD4、CD8、CD25、及びCD28を含むT細胞表面抗原に対する種々の抗体及びそれらの修飾形態は、上述した様々なヒト疾患を治療するための動物モデルまたはヒト臨床試験において研究されている。いくつかの、細胞毒性薬物と結合した抗体又は結合していない抗体は、標的されたT細胞サブセットの溶解を引き起こし得る。いくつかの抗体は、実際に細胞を溶解することなく、T細胞のアネルギー状態又はアイドル状態、不活性状態を引き起こし得る。
【0283】
Tリンパ球は、適応免疫及び自然免疫における様々な免疫細胞及び様々な他の細胞型の活性を調節するには、主要な役割を果たす。リンパ球を標的とするための治療剤の開発において、B細胞を標的とするよりも、T細胞を標的として成功に開発された候補が少ない。しかしながら、T細胞サブセットの表面抗原を標的として開発された治療用抗体の数が増加している。T細胞表面抗原を標的とする抗体は、T細胞由来の悪性腫瘍の治療に適用されることができる。抗体によりT細胞の活性を阻害し又は増強するように調節することもできる。
【0284】
II-(i)-E 骨髄性白血病
【0285】
AMLは、成熟顆粒細胞と単球の前駆体である、骨髄幹細胞又は骨髄性芽球に由来する。AMLのサブタイプの多くは、変異原によって引き起こされる。このような変異原は、染色体転座または特定の遺伝子セグメントの喪失を引き起こす。種々の分化段階に由来するAMLの細胞は、表面マーカーのいくつかのサブセットを発現する。このような表面マーカーは、CD13、CD14、CD15、CD33、CD34、CD36、CD41、CD61、CD64、CD65、及びCD11cである。早期前駆骨髄段階に由来するAMLの細胞は、多能性幹細胞の表面マーカーであるCD34、及び未成熟骨髄細胞のマーカーであるCD33を発現する。多くの骨髄分化段階に由来するAMLの細胞は、成熟骨髄細胞のマーカーであるCD15を発現する。CMLは、幹細胞若しくは骨髄幹細胞の悪性形質転換、又はフィラデルフィア染色体の転座に引き起こされたクローン性骨髄幹細胞障害である。
【0286】
II-(ii) 固形腫瘍
【0287】
II-(ii)-A 固形腫瘍及び腫瘍関連抗原
【0288】
多くのタイプの腫瘍細胞は、正常細胞と比較して、細胞表面で高いレベルで特定の抗原を発現する。それらの抗原は、腫瘍関連抗原と呼ばれる。例えば、膵臓腫瘍患者及び複数種類の消化器がん患者(結腸直腸がん、食道がん及び肝細胞がん)からの血清試料は、CA19-9抗原(糖鎖抗原19-9、シアリル-ルイスA抗原)を含む。これらの腫瘍細胞は、細胞表面上の細胞外マトリックス上にCA19-9を発現する。同様に、卵巣がん、子宮内膜がん、卵管がんおよびいくつかの他のタイプのがんを罹患している患者からの血清試料は、CA-125(糖鎖抗原125、ムチン16)を上昇させ、これらの腫瘍の細胞はCA125を発現する。細胞表面に関連する糖タンパク質ムチン1(MUC1)の過剰発現は、結腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、及び膵臓がんに関連する場合が多い。
【0289】
ガングリオシドGD2は、神経外胚葉由来の腫瘍および肉腫で高度に発現される。このような腫瘍は、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、メラノーマ、小細胞肺がん、脳腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫、小児および青年におけるユーイング肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫、平滑筋肉腫、並びに他の成人の軟部組織肉腫を含む。
【0290】
メソセリンは、正常な中皮細胞上で発現されることがあるが、多くのヒトがん、例えば、中皮腫、膵臓、卵巣、肺、および胃の腫瘍、胆管がんおよび三重陰性乳がんにも発現される。
【0291】
Tn抗原は、糖タンパク質上の構造成分であり、そのN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が、グリコシド結合、即ち、O-グリカンを介してセリン又はスレオニンに結合される。このような抗原に単一の単糖残基を付加することにより、二糖抗原が生成される。例えば、トムセン-フリーデンライヒ抗原(TF抗原又はT抗原)がガラクトース(Gal(b1-3)GalNAc)での置換により形成され、シアリル-Tn抗原(STn抗原)がシアル酸(Neu5Ac(a2-6)GalNAc)での置換により形成される。TN及びシアリル-Tnは、通常、健康な細胞表面には見られないが、がん細胞上に見られる。
【0292】
腫瘍のマーカーとして広く研究されているか、または免疫療法の標的として研究されている腫瘍関連抗原は、(1)上皮成長因子受容体(EGFR)-ヒト上皮成長因子1(EGFR又はHER1)、HER2、HER3、HER4、又はそれらの変異型;(2)糖タンパク質-CA19-9(シアリルルイスA抗原を有する)、CA125(ムチン16又はMUC 16を有する)、細胞表面関連ムチン1(MUC1)、又はがん胎児性抗原、メラノーマ関連抗原(MAGE)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、又はメソセリン;(3)ムチン関連Tn又はシアリルTn;(4)血液型ルイス関連ルイスY、シアリルルイスY、シアリルルイスA、又はルイスX;(5)スフィンゴ糖脂質-グロボH又は段階特異的胚抗原-4(SSEA-4);(6)ガングリオシド-GD2、GD3、GM2、フコシルGM1、又はNeu5GcGM3;を含む。
【0293】
II-(ii)-B 成長因子、ペプチドホルモン、及びサイトカインを受容体過剰発現細胞の標的化剤とする
【0294】
多くの成長因子、ペプチドホルモンおよび調節性サイトカインは、人体における重要な生理学的過程を調節する。これらの物質は、異なる細胞型の受容体と相互作用することによってその機能を発揮する。最も顕著なものは、成長因子、ホルモン、またはサイトカインに応答する、臓器、体の部位若しくは機能特異的受容体を有する器官における内分泌細胞または外分泌細胞である。例えば、膵臓の外分泌細胞は、食物摂取および消化の過程において、セクレチン、ガストリン、およびコレシストキニン(CCK)に応答する受容体を有する。
【0295】
受容体保有細胞に悪性形質転換が起こる場合にも、腫瘍細胞は受容体を発現する。実際には、多くの場合において、細胞の特定変異により、受容体の異常に高い発現が発生するが、受容体自体にはこのような異常な発現が必ずしも発生しない。したがって、影響を受けた細胞は悪性形質転換が発生する。腫瘍上の受容体、例えば、ソマトスタチン受容体の過剰発現は、大部分の神経内分泌腫瘍上で強く発現され、治療および診断(例えば、ラジオイメージング)を目的とするそれらの受容体の標的化は、研究の活発な分野となっている。神経内分泌腫瘍は一般的にはまれであるが、胃腸膵神経内分泌腫瘍、甲状腺腫瘍、メルケル細胞がん、副腎髄質腫瘍などの、様々な細胞由来の腫瘍を含む。
【0296】
この研究の例は数多くある。乳がん、肺がん、結腸がんおよび他の多くのタイプのがんでの上皮成長因子受容体(EGFR)のファミリーの過剰発現は、多く報告されている。例えば、HER2/Neu受容体に特異的なモノクローナル抗体トラスツズマブは、HER2陽性乳がんの治療に広く使用されている。EGFRに特異的なセツキシマブは、転移性結腸がん、転移性非小細胞肺がん、及び頭頸部がんの治療に使用されている。いくつかのタイプのがんの治療のために、EGFRのチロシンキナーゼドメインを阻害するゲフィチニブおよびエルロチニブなどの小分子阻害剤も開発されている。
【0297】
膵臓がんは最も悪質ながんの1つである。種々のタイプの膵臓がんの中で、それらの膵管上皮細胞は膵臓の全細胞の10%のみを占めるが、外分泌細胞に由来する膵臓(管性または浸潤性)腺がんは85%を占める。外分泌細胞は、胃および十二指腸の細胞から分泌されるペプチドホルモン、ガストリン、セクレチン、またはコレシストキニンの受容体を発現し、これらのホルモンに応答し、重炭酸イオンおよび消化酵素を分泌する。膵臓がん及び他の多くのがんにおけるCCK及びガストリンの受容体の過剰発現も、ラジオイメージングの標的として研究されている。活発に研究されている他のホルモンおよび受容体は、ソマトスタチンおよびガストリン放出ペプチドである。そのようなラジオイメージング法では、CCKまたはガストリンのペプチド類似体を放射性核種のキレート化基と結合する。現像の過程において、現像剤は、受容体を発現する細胞を含む原発性腫瘍または転移性腫瘍に結合する。放射性核種、ルテチウム-177、イットリウム-90、またはインジウム-111を担持するペプチドホルモンまたはそれらの類似体も、腫瘍の治療のために実験されている。
【0298】
II-(ii)-C 免疫チェックポイントを標的とする
【0299】
CTLA-4は、免疫系をダウンレギュレートするタンパク質受容体である。CTLA-4は、T細胞の表面上に見出され、抗原提示細胞の表面上のCD80(B7-1)またはCD86(B7-2)に結合する場合に、「オフ」のスイッチとして作用する。このような結合は、免疫応答を活性化するCD28によるこれらの受容体の結合を阻止する。イピリムマブであるCTLA-4に特異的なヒトIgG1抗体は、メラノーマの治療およびいくつかの他のタイプのがんの治療に関する臨床試験において承認されている。イピリムマブによる治療は、T細胞の活性化および増殖により重篤で致命的な免疫学的副作用を引き起す。
【0300】
PD-1は、活性化されたT細胞の表面上で発現される。PD-1がそのリガンドであるPD-L1と結合すると、T細胞は不活性になる。これは、免疫応答の過度な反応を避けるために体が免疫系を調節する方法である。多くのがん細胞はPD-L1を産生し、それによってT細胞を失効させ、T細胞のがん細胞への攻撃を阻害する。PD-1に対するペンブロリズマブ及びニボルマブである2種のヒト抗体は、もはや他の薬物に反応しない切除不能な黒色腫又は転移性黒色腫及び扁平上皮性非小細胞肺がんの治療に承認されている。抗PD-L1抗体であるMPDL3280Aは、現在、トリプルネガティブ乳がん、転移性非小細胞肺がん、膀胱がんおよび腎細胞がんの第II相または第III相臨床試験中である。多数の抗PD-1抗体及び抗PD-L1抗体は、研究中又は初期の臨床試験中である。
【0301】
多くの研究者は、T細胞活性化のブレーキを解除するために、他の標的を探索している。該他の標的は、活性化T細胞上のOX40、CD137、及びCD27、並びにその対応するリガンドであるOX40L、CD137L、及びCD137抗原が存在する細胞又は腫瘍細胞である。それらの経路は、CTLA-4およびPD-1経路よりもT細胞活性化強度が低いと考えられる。
【0302】
PD-1又はPD-L1に特異的な抗体がいくつかのタイプのがんの治療に非常に有望であるが、現在の臨床開発は、それらの抗体が化学療法、他の抗体または標的療法との組み合わせを必要とすることを示唆している。また、抗体は、一連の重篤な副作用を引き起こす。本発明者らは、免疫チェックポイントに特異的な抗体が標的腫瘍部位に運ばれると、より良い治療効能が達成され、副作用が少なくなると考えている。
【0303】
II-(ii)-D 血管内皮成長因子を標的とする
【0304】
血管内皮成長因子A(VEGF-A)は、腫瘍が成長する際に、血管新生(血管形成)に必須である。血液の循環は、酸素や栄養素の供給、廃棄物処理などの機能に必要である。VEGF-Aに特異的な抗体、例えば、VEGF-Aに特異的なベバシツマブは、単独療法で、又は化学療法と組み合わせることで、いくつかの形態のがんを治療するのに有効である。しかしながら、ベバシズマブは、高血圧及び高出血リスク、腸穿孔、並びに壊死性筋膜炎等の一連の副作用を引き起こす。
【0305】
II-(ii)-E 免疫調節性サイトカインをがん治療剤とする
【0306】
本発明において言及される免疫調節性サイトカインは、刺激的であり、且つ免疫応答を活性化する主要な推進因子であることが知られている。これらのサイトカインは、インターロイキン-2(IL-2)、インターフェロン-α(IFN-α)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、及びTNF-αを含む。その中で、T細胞の強力な活性化因子であるIFN-αは、有毛細胞白血病、AIDS関連カポジ肉腫、濾胞性リンパ腫、慢性骨髄性白血病および黒色腫での使用が承認されている。しかし、今まで、臨床研究において、これらの免疫調節性サイトカインの腫瘍治療における主要な治療有用性が確立されていない。これは、主として、全身投与の場合に、それらのサイトカインの治療用量がサイトカインの副作用によって制限されるためである。一般に、サイトカインは、主にリンパ系の微小環境において作用する。
【0307】
III 骨粗鬆症
【0308】
デノスマブは、骨粗鬆症の治療において承認されている。デノスマブは、RANKL(CD254)に特異的な抗体であり、RANKL(CD254)は、RANK(RANK、核因子κBの受容体活性化因子)のリガンドである。デノスマブの開発は、骨粗鬆症の治療における大きな進歩である。しかし、デノスマブの投与は、尿路および気道の感染、白内障、便秘、発疹および関節痛などの一般的な副作用を引き起こす。したがって、治療剤を骨に優先的に運ぶことが望ましい。
【0309】
RANKLは、腫瘍壊死因子リガンドファミリーに属する膜タンパク質である。RANKLは、肺、胸腺、およびリンパ節において高レベルで検出されるが、骨髄、胃、末梢血、脾臓、胎盤、白血球、心臓、甲状腺および骨格筋においても低レベルで検出される。デノスマブのようなIgG抗RANKLは骨粗鬆症の治療剤として役立つことができるので、本発明の分子構築物はIgG抗RANKLよりも優れた治療剤を提供すべきである。
【0310】
骨粗鬆症の治療のための抗体の別の標的は、SOST遺伝子によってコードされるスクレロスチンである。糖タンパク質は、骨細胞によって産生され、分泌され、骨芽細胞の骨形成を負に調節する。SOST遺伝子の欠損または欠損変異は、進行性骨肥厚を引き起こす。SOST遺伝子の欠損変異は、骨形成を促進する。スクレロスチンに対する抗体は、骨形成を促進し、骨密度を向上させ、骨をより強くする。スクレロスチン、ブロゾズマブおよびロモズマブに対する2種のヒト化モノクローナル抗体の第I相および第II相臨床試験は、抗体治療が骨密度の増加、骨形成の促進、および骨吸収の減少と関連することを示した。
【0311】
上述した説明を鑑みて、本開示は、本発明のT-E分子を構築するための2つのタイプの分子プラットフォームを提供する。1つは「リンカーユニット」構造(下記のパートI~パートIVを参照)に基づき、もう1つは「Fc」構造(パートV~パートVIIIを参照)に基づく。以下、上記の2つの構成の構造、及び各分子構築物の実用的応用を詳しく説明する。
【0312】
パートI ペプチドコアに基づくマルチアームリンカー
【0313】
本開示の第1態様は、リンカーユニットに関する。該リンカーユニットは、(1)2-15個のリジン(K)残基を含む中心コアと、(2)中心コアのK残基にそれぞれ結合される2-15個のリンクアームとを含む。本発明の中心コアは、そのN末端若しくはC末端に、アジド基、アルキン基、テトラジン基若しくは歪んだアルキン基を有する、又は結合していることを特徴とする。
【0314】
本発明のリンカーユニットの調製において、1つの末端にN-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)基を有し、もう1つの末端にマレイミド基を有するPEG鎖をPEG鎖のNHS基とK残基のアミン基との間にアミド結合を形成することにより中心コアのK残基に結合する。本開示において、K残基に結合されるPEG鎖は、リンクアームと呼ばれる。該リンクアームは、その遊離末端にマレイミド基を有する。
【0315】
本開示の実施形態によれば、上記中心コアは、長さが8-120個のアミノ酸残基を含むポリペプチドであり、2〜15個のリジン(K)残基を含み、各K残基とその次のK残基との間が充填配列により区切られる。
【0316】
本開示の実施形態によれば、上記充填配列は、グリシン(G)及びセリン(S)残基を含み、好ましくは、上記充填配列は、G、S、及びそれらの組合せから選択される2-15残基からなる。例えば、上記充填配列は、
GS,
GGS,
GSG,
GGGS(配列番号:1),
GSGS(配列番号:2),
GGSG(配列番号:3),
GSGGS(配列番号:4),
SGGSG(配列番号:5),
GGGGS(配列番号:6),
GGSGGS(配列番号:7),
GGSGGSG(配列番号:8),
SGSGGSGS(配列番号:9),
GSGGSGSGS(配列番号:10),
SGGSGGSGSG(配列番号:11)
GGSGGSGGSGS(配列番号:12),
SGGSGGSGSGGS(配列番号:13),
GGGGSGGSGGGGS(配列番号:14),
GGGSGSGSGSGGGS(配列番号:15),又は
SGSGGGGGSGGSGSG(配列番号:16)であり得る。
【0317】
2つのリジン残基間にある充填配列は、グリシン及びセリン残基のランダムな配列及び/又は長さが様々でありえる。長い充填配列は、より少ないリジン残基を有するポリペプチドに使用され得る一方、短い充填配列は、多くのリジン残基を有するポリペプチドに使用され得る。親水性アミノ酸残基、例えばアスパラギン酸およびヒスチジンは、グリシンおよびセリンと共に充填配列に挿入され得る。充填配列は、グリシン及びセリン残基で構成されたものに加えて、アルブミン及び免疫グロブリンのような一般的なヒト血清タンパク質における可撓性、可溶性のループを採用することもできる。
【0318】
本開示の好ましい実施形態によれば、中心コアは、2-15単位のG1-5SK配列を含む。或いは、ポリペプチドは、 (GSK)2-15配列を含む。即ち、ポリペプチドは、少なくとも2つの連続した、GSK配列の単位を含む。例えば、本発明の中心コアは、
Ac-CGGSGGSGGSKGSGSK(配列番号:17)、
Ac-CGGSGGSGGSKGSGSKGSK(配列番号:18)、又は
Ac-CGSKGSKGSKGSKGSKGSKGSKGSKGSKGSK(配列番号:19)を含み得る。
ここで、Acは、アセチル基を示す。
【0319】
本開示の特定の実施形態によれば、、上記中心コアは、(Xaa-K)n配列を含むポリペプチドである。ここで、Xaaは、2〜12個のエチレングリコール(EG)の繰り返し単位を有するPEG化アミノ酸であり、nは、2〜15の整数である。
【0320】
上述したように、本発明の中心コアは、そのN末端若しくはC末端に、アジド基、アルキン基、テトラジン基若しくは歪んだアルキン基を有する、又は結合していることを特徴とする。本開示のいくつかの実施形態によれば、本発明の中心コアは、そのN末端又はC末端にアジド基又はアルキン基を有するアミノ酸残基を含む。アジド基を有するアミノ酸残基は、L-アジドホモアラニン(AHA)、4-アジド-L-フェニルアラニン、4-アジド-D-フェニルアラニン、3-アジド-L-アラニン、3-アジド-D-アラニン、4-アジド-L-ホモアラニン、4-アジド-D-ホモアラニン、5-アジド-L-オルニチン、5-アジド-d-オルニチン、6-アジド-L-リジン、又は6-アジド-D-リジンであり得る。例えば、本発明の中心コアは、以下の配列を含み得る。即ち、
Ac-(GSK)2-7-(G2-4S)1-8-AAH
Ac-AAH-(SG2-4)1-8-(GSK)2-7
Ac-AAH-(SG2-4)0-7-(GSK)2-6-(G2-4S)1-8-C、
Ac-C-(SG2-4)0-7-(GSK)2-6-(G2-4S)1-8-AAH
Ac-K-(Xaa2-12-K)2-4-Xaa2-12-AAH, 、
Ac-AAH-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)2-4
Ac-AAH-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)1-3-Xaa2-12-C、又は
Ac-C-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)1-3-Xaa2-12-AAHである。
ここで、Xaaは、特定のEGの繰り返し単位を有するPEG化アミノ酸であり、Acは、アセチル基を示し、AAHは、AHA残基を示す。
【0321】
アルキン基を有するアミノ酸の例は、L-ホモプロパギルグリシン(L-HPG)、D-ホモプロパギルグリシン(D-HPG)、又はβ-ホモプロパギルグリシン(β-HPG)を含むが、これらに限定されない。この場合に、本発明の中心コアは、以下の配列を含み得る。即ち、
Ac-(GSK)2-7-(G2-4S)1-8-GHP
Ac-GHP-(SG2-4)1-8-(GSK)2-7
Ac-GHP-(SG2-4)0-7-(GSK)2-6-(G2-4S)1-8-C、
Ac-C-(SG2-4)0-7-(GSK)2-6-(G2-4S)1-8-GHP
Ac-K-(Xaa2-12-K)2-4-Xaa2-12-GHP
Ac-GHP-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)2-4
Ac-GHP-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)1-3-Xaa2-12-C、又は
Ac-C-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)1-3-Xaa2-12-GHPである。
ここで、Xaaは、特定のEGの繰り返し単位を有するPEG化アミノ酸であり、Acは、アセチル基を示し、GHPは、HPG残基を示す。
【0322】
なお、側鎖にアジド基又はアルキン基を含む多くのアミノ酸、及びPEG化アミノ酸は、市販されている。これらのアミノ酸は、t-boc(tert-ブチルカルボニル)-又はFmoc(9-フルオレニルメチルオキシカルボニル)の保護基を有し、固相ペプチド合成に容易に適用可能である。
【0323】
本開示のいくつかの実施例によれば、中心コアは、下記の配列を含み得る。即ち、
Ac-GHPGGSGGSGGSKGSGSK(配列番号:21)、
Ac-GHPGGSGGSGGSKGSGSKGSK(配列番号:22)、
Ac-AAHGGSGGSGGSKGSGSKGSK(配列番号:23)、
Ac-GHPGGSGGSGGSKGSGSKGSGSC(配列番号:24)、
Ac-C-Xaa2-K-Xaa2-K-Xaa2-K(配列番号:25)、又は
Ac-C-Xaa6-K-Xaa6-K-Xaa6-K-Xaa6-K-Xaa6-K(配列番号:26)である。
ここで、Xaaは、特定のEGの繰り返し単位を有するPEG化アミノ酸であり、Acは、アセチル基を示し、AAHは、AHA残基を示し、GHPは、HPG残基を示す。
【0324】
或いは、本発明の中心コアは、カップリングアームに結合される。該カップリングアームは、その遊離末端(即ち、中心コアに結合されていない末端)に、官能基(例えば、アジド基、アルキン基、テトラジン基、又は歪んだアルキン基)を有する。この場合に、本発明の中心コアは、そのN末端又はC末端にシステイン残基を有する。カップリングアームに結合されるリンカーユニットを調製するためには1つの末端にマレイミド基を有し、もう1つの末端に官能基を有するPEG鎖を、PEG鎖のマレイミド基とシステイン残基のチオール基との間で起きるチオール-マレイミド反応により、中心コアのシステイン残基に結合する。本開示において、中心コアのシステイン残基に結合されるPEG鎖は、カップリングアームと呼ばれる。該カップリングアームは、その遊離末端に官能基を有する。
【0325】
好ましくは、カップリングアームは、その遊離末端に、テトラジン基又は歪んだアルキン基を有する。これらのカップリングアームは、2-12単位のEGを含む。本開示の実施形態によれば、テトラジン基は、1,2,3,4-テトラジン基、1,2,3,5-テトラジン基、1,2,4,5-テトラジン基、又はそれらの誘導体である。歪んだアルキン基の例は、トランス-シクロオクテン(TCO)基、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)基、ジフルオロシクロオクタン(DIFO)基、ビシクロノニン(BCN)基、又はジベンゾシクロオクチン(DICO)基を含むが、これらに限定されない。本開示のいくつかの実施形態によれば、テトラジン基は、6-メチル-テトラジンである。
【0326】
カップリングアームに結合される本発明の中心コアの例は、
Ac-(GSK)2-7-(G2-4S)1-8-C-Xaa2-12-テトラジン、
Ac-(GSK)2-7-(G2-4S)1-8-C-Xaa2-12-歪んだアルキン、
Ac-K-(Xaa2-12-K)2-4-Xaa2-12-C-Xaa2-12-テトラジン、
Ac-K-(Xaa2-12-K)2-4-Xaa2-12-C-Xaa2-12-歪んだアルキン、
テトラジン-Xaa2-12-C(Ac)-(SG2-4)1-8-(GSK)2-7
歪んだ アルキン-Xaa2-12-C(Ac)-(SG2-4)1-8-(GSK)2-7
テトラジン-Xaa2-12-C(Ac)-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)2-4、及び
歪んだアルキン-Xaa2-12-C(Ac)-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)2-4を含むが、これらに限定されない。
【0327】
或いは、上記中心コアは、その1つの末端にアジド基又はアルキン基を有し、1つの末端にテトラジン基又は歪んだアルキン基を有するカップリングアームに結合される。その例は、
Ac-AAH-(SG2-4)0-7-(GSK)2-6-(G2-4S)1-8-C-Xaa2-12-テトラジン、
Ac-AAH-(SG2-4)0-7-(GSK)2-6-(G2-4S)1-8-C-Xaa2-12-歪んだアルキン、
テトラジン-Xaa2-12-C(Ac)-(SG2-4)0-7-(GSK)2-6-(G2-4S)1-8-AAH
歪んだアルキン-Xaa2-12-C(Ac)-(SG2-4)0-7-(GSK)2-6-(G2-4S)1-8-AAH
Ac-AAH-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)1-3-Xaa2-12-C-Xaa2-12-テトラジン、
Ac-AAH-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)1-3-Xaa2-12-C-Xaa2-12-歪んだアルキン、
テトラジン-Xaa2-12-C(Ac)-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)1-3-Xaa2-12-AAH
歪んだアルキン-Xaa2-12-C(Ac)-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)1-3-Xaa2-12-AAH
Ac-GHP-(SG2-4)0-7-(GSK)2-6-(G2-4S)1-8-C-Xaa2-12-テトラジン、
Ac-GHP-(SG2-4)0-7-(GSK)2-6-(G2-4S)1-8-C-Xaa2-12-歪んだアルキン、
テトラジン-Xaa2-12-C(Ac)-(SG2-4)0-7-(GSK)2-6-(G2-4S)1-8-GHP
歪んだアルキン-Xaa2-12-C(AC)-(SG2-4)0-7-(GSK)2-6-(G2-4S)1-8-GHP
Ac-GHP-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)1-3-Xaa2-12-C-Xaa2-12-テトラジン、
Ac-GHP-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)1-3-Xaa2-12-C-Xaa2-12-歪んだアルキン、
テトラジン-Xaa2-12-C(Ac)-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)1-3-Xaa2-12-GHP、及び
歪んだアルキン-Xaa2-12-C(Ac)-Xaa2-12-K-(Xaa2-12-K)1-3-Xaa2-12-GHPである。
【0328】
ポリペプチドは、組換え技術を用いて、細菌または哺乳動物の宿主細胞において、設計された遺伝子セグメントを発現させることにより合成することもできる。コアが数多くのリジン残基を有し、且つかなり長い場合に、組換えタンパク質としてポリペプチドを調製することが好ましい。固相合成が採用される場合に、ポリペプチドの長さが増加するにつれて、エラーの発生確率が増加する一方、純度及び/又は収率が低下する。細菌または哺乳動物宿主細胞においてポリペプチドを調製する際に、数個のアミノ酸残基から10-20残基の範囲の充填配列を2つのK残基間に配置することができる。さらに、AHAおよびHPGは遺伝暗号によりコードされる天然アミノ酸ではないため、それらの組換えポリペプチドのN末端またはC末端残基はシステインである。組換えタンパク質を発現させ、精製した後、末端システイン残基を短い二官能性架橋剤と反応させる。該二官能性架橋剤は、その1つの末端にシステイン残基のSH基と反応可能なマレイミド基を有し、もう1つの末端にアルキン基、アジド基、テトラジン基、又は歪んだアルキン基を有する。
【0329】
PEG化アミノ酸を用いてポリペプチドを合成することは、グリシンおよびセリンのような通常のアミノ酸を用いることよりも、少ない工程を必要とする。さらに、異なる長さ(即ち、異なる数のエチレングリコールの繰り返し単位)を有するPEG化アミノ酸を使用することにより、可撓性及び可溶性を提供するとともに、リジン残基の隣接するアミノ基の間に空間を提供することができる。PEG化アミノ酸以外、中心コアは、D型アミノ酸、ホモアミノ酸、N-メチルアミノ酸等の人工アミノ酸を含むように構築されてもよい。アミノ酸分子に含まれるPEG部分が構造的可撓性及び結合基間の適切な間隔を提供し、水溶性を増強し、且つ、その免疫原性が弱いため、ポリエチレングリコール(PEG)の様々な長さを有するPEG化アミノ酸を用いて中心コアを構築することが好ましい。PEG化アミノ酸含有中心コアの合成は、通常のポリペプチドの合成方法と類似する。
【0330】
場合により、安定性を達成するため、本発明の中心コアは、そのN末端にあるアミノ基を保護するアセチル基を有する。
【0331】
理解され得るように、中心コアに結合されるリンクアームの数は、主に、中心コアに含まれるリジン残基の数によって決定される。本発明の中心コアに少なくとも2つのリジン残基が含まれるため、本発明のリンカーユニットは、複数のリンクアームを含み得る。
【0332】
図1Aに示すように、リンカーユニット10Aは、1つのHPG(GHP)残基及びそれぞれ充填配列(図面において、点線で示される)によって区切られる4つのリジン(K)残基を有する中心コア11aを含む。HPG残基とK残基との間、又はいずれの2つのK残基の間にある充填配列は、同一又は異なるアミノ酸配列を含み得る。この例において、4つのリンクアーム20a-20dは、それぞれNHS基とリジン残基のアミン基との間にアミド結合を形成することによりリジン残基に結合される。理解され得るように、上述したリンカーユニット10A又は後述のリンカーユニットのある特徴は、ここで開示される他のリンカーユニットと共通であるため、具体的な実施形態の文脈に矛盾しない限り、これらの特徴のいくつかまたはすべては、以下の実施例においても適用される。しかし、簡潔のために、以下、これらの共通特徴を繰り返して説明しないこともある。
【0333】
図1Bは、本開示の別の実施形態に係るリンカーユニット10Bを提供する。中心コア11bは、1つのシステイン(C)残基及びそれぞれ充填配列により区切られる6つのリジン(K)残基を含む。この例において、リンカーユニット10Bは、それぞれリジン残基に結合される6つのリンクアーム20a-20fを含む。本開示の実施形態によれば、リンクアームは、2-20個のEGの繰り返し単位を有するPEG鎖である。
【0334】
図1Aのリンカーユニット10Aと異なり、リンカーユニット10Bは、カップリングアーム60をさらに含む。上述したように、1つの末端にマレイミド基を有し、もう1つの末端に官能基を有するPEG鎖は、カップリングアーム60の形成に用いられる。このようにして、カップリングアーム60は、チオール-マレイミド反応により中心コア11bのシステイン残基に結合される。この例において、カップリングアーム60の遊離末端にある官能基は、テトラジン基72である。本開示の実施形態によれば、カップリングアームは、2-12個のEGの繰り返し単位を有するPEG鎖である。
【0335】
標的部位にあるエフェクター成分の放出を必要となる場合に、リンクアームに切断可能な結合を導入することができる。このような結合は、酸/アルカリ加水分解、還元/酸化、または酵素によって切断される。カップリングアームの形成に適用される切断可能なPEG鎖の一実施形態は、NHS-PEG2-20-S-S-マレイミドであり、ここで、S-Sはゆっくりと還元され得るジスルフィド結合であり、NHS基は中心コアのアミン基と結合することにより、PEG鎖が中心コアに結合される。リンクアームの遊離末端にあるマレイミド基は、アジド基、アルキン基、テトラジン基、又は歪んだアルキン基で置換されてもよい。
【0336】
本開示の特定の実施形態によれば、中心コアのK残基に結合されるリンクアームは、その遊離末端にマレイミド基を有する。このようにして、チオール基を有する機能成分(例えば、標的化成分又はエフェクター成分)は、リンクアームのマレイミド基とチオール-マレイミド反応を起こすことができる。それにより、機能成分がリンクアームに結合される。説明の便宜上、リンクアームに結合される機能成分を第1成分と呼ぶ。理解され得るように、本発明のリンカーユニットが有する第1成分の数は、中心コアのK残基の数(そのため、リンクアームの数)により決定される。従って。当業者であれば、必要に応じて、例えば、所望の標的化又は治療効果を達成するために、リンカーユニットの第1成分の数を調整することができる。
【0337】
第1成分を有するリンカーユニット10Cの例を図1Cに示す。後述の特徴以外、図1C図1Bと同様である。第一に、中心コア11dに5つのK残基があり、5つのリンクアーム20a-20eがそれぞれそれらのK残基に結合される。第二に、リンカーユニット10Cは各リンクアーム20a-20eに結合される5つの第1成分30a-30eを有する。以下に述べるように、必要に応じて使用されるテトラジン基72は、追加の機能成分、別の分子構築物(以下のパートIII又はパートVIIを参照)との結合を可能にする。
【0338】
所望の効果(例えば、治療効果)を向上させるために、本発明のリンカーユニットは、上記第1成分に加えて、第2成分をさらに含み得る。例えば、第2成分は、標的化成分又はエフェクター成分であり得る。本開示の任意の実施形態において、第1成分は、エフェクター成分であり、第2成分は、第1成分と相加的若しくは相乗的、又は第1成分と独立して作用する別のエフェクター成分であり得る。必要に応じて、第1成分及び第2成分は、異なる特性を示す。例えば、第1成分は、標的化成分であり、第2成分は、エフェクター成分であり、その逆もまた然りである。或いは、第1成分は、エフェクター成分であり、第2成分は、リンカーユニットの溶解性、クリアランス、半減期、及び生物学的利用能等の薬物動態学的特性を改善させる成分である。
【0339】
本開示の一実施形態によれば、第1成分は、本発明のリンカーユニットを病変部位を特異的に標的とする標的化成分であり、第2成分は、本発明のリンカーユニットが病変部位に送達されると、治療効果を発揮するエフェクター成分である。例えば、びまん性腫瘍の治療において、本発明のリンカーユニットは、第1成分として複数の標的化成分、及び第2成分として1つのエフェクター成分を含み得る。この場合に、標的化成分は、びまん性腫瘍上で発現される細胞表面抗原(例えば、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD37、CD79a、又はCD79b)を特異的に標的とする一方、エフェクター成分(例えば、CD3又はCD16aに特異的な抗体断片)は、T細胞又はNK細胞を腫瘍細胞を殺すように誘導する。
【0340】
本開示の別の実施形態によれば、第1成分は、エフェクター成分であり、第2成分は、標的化成分である。例えば、自己免疫疾患の治療において、本発明のリンカーユニットは、組織関連細胞外マトリックスタンパク質(例えば、α-アグリカン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンV、コラーゲンVII、コラーゲンIX、及びコラーゲンXI)を特異的に標的とする1つの標的化成分、及び病変部位で治療効果を発揮する複数のエフェクター成分を含む。
【0341】
構造上、第2成分は、中心コアのN末端又はC末端にあるアジド基、アルキン基、テトラジン基若しくは歪んだアルキン基に結合される。具体的には、必要に応じて、第2成分を短いPEG鎖(好ましくは、2-12個のEGの繰り返し単位を有する)に結合した後、アジド基若しくはアルキン基を有するN末端又はC末端アミノ酸残基(例えば、AHA残基又はHPG残基)に結合してもよい。或いは、必要に応じて、第2成分を短いPEG鎖に結合した後、中心コアのカップリングアームに結合してもよい。
【0342】
本開示のいくつかの実施形態によれば、中心コアは、そのN末端又はC末端に、アジド基(例えば、AHA残基)を有するアミノ酸残基を含む。従って、アルキン基を有する第2成分は、CuAAC反応により中心コアのN末端又はC末端に結合される。本開示の他の実施形態によれば、中心コアは、そのN末端又はC末端に、アルキン基(例えば、HPG残基)を有するアミノ酸残基を含む。それにより、アジド基を有する第2成分は、「銅(I)触媒型アルキン-アジド環化付加(CuAAC)」反応(又は「クリック」反応と略称する)により中心コアのN末端又はC末端に結合可能となる。CuAAC反応は、スキーム1の通りである。
<<スキーム1 CuAAC反応>>
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【0343】
CuAAC反応により、1,5-二置換-1,2,3-トリアゾールが得られる。アルキンとアジドとの間の反応は、非常に選択的であり、天然の生体分子の中にアルキン基およびアジド基は存在しない。さらに、この反応は迅速かつpH非感受性である。クリック反応を触媒するために、臭化第一銅又はヨウ化第一銅のような銅(I)を使用する代わりに、銅(II)と、還元剤、例えば、アスコルビン酸ナトリウムとの混合物を使用して、反応混合物中のその場で銅(I)を生成することがより好ましい。或いは、第2成分は、銅フリー反応により、本発明の中心コアのN末端又はC末端に結合され得る。この銅フリー反応において、ペンタメチルシクロペンタジエニルルテニウムクロライド錯体を触媒として使用して、アジド-アルキンクリックケミストリーを触媒する。
【0344】
図1Dは、複数の第1成分及び1つの第2成分を有する本発明のリンカーユニット10Dの例を示す。この例において、中心コア11cは、1つのHPG(GHP)残基及び5つのリジン(K)残基を含む。5つのリンクアーム20a-20eは、それぞれ中心コア11cの5つのK残基に結合される。5つの第1成分30a-30eは、それぞれチオール-マレイミド反応により上記5つのリンクアーム20a-20eに結合される。上記第1成分に加えて、リンカーユニット10Dは、短いPEG鎖62の1つの末端に結合される1つの第2成分50をさらに含む。中心コア11cとの結合前に、短いPEG鎖62のもう1つの末端にアジド基を有する。このように、アジド基は、CuAAC反応により、アルキン基を有するHPG残基と反応できることにより、第2成分50は、中心コア11cに結合される。図1Dにおけるソリッドドット40は、HPG残基とアジド基との間で起きるCuAAC反応から生じる化学結合を表す。
【0345】
或いは、第2成分は、カップリングアームを介して中心コアに結合される。本開示の特定の実施形態によれば、カップリングアームは、逆電子要請型ディールス・アルダー(iEDDA)反応(スキーム2を参照)によりTCO基を有する第2成分に効率的に結合可能なテトラジン基を有する。本開示の他の実施形態によれば、カップリングアームは、iEDDA反応によりテトラジン基を有する第2成分に結合可能なTCO基を有する。iEDDA反応において、末端アルキン基よりも、活性化エネルギーが顕著に低い歪んだシクロオクテン基を採用するため、外因性触媒を使用する必要がない。
【0346】
図1Eに示すように、リンカーユニット10Eの中心コア11dは、末端システイン(C)残基及び5つのリジン(K)残基を含む。また、図1Eに示すように、5つのリンクアーム20a-20eは、それぞれ中心コア11dの5つのK残基に結合され、且つ、5つの第1成分30a-30eは、それぞれチオール-マレイミド反応により5つのリンクアーム20a-20eに結合される。システイン残基は、カップリングアーム60に結合される。該システイン残基は、第2成分と結合する前に、その遊離末端にテトラジン基又はTCO基を有する。この例において、対応するTCO基又はテトラジン基を有する短いPEG鎖62に結合される第2成分50は、iEDDA反応によりカップリングアーム60に結合され得る。図1Eにおける楕円70は、カップリングアーム60と短いPEG鎖62との間で起きるiEDDA反応から生じる化学結合を表す。
<<スキーム2 iEDDA反応>>
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【0347】
本開示の他の実施形態によれば、第2成分と結合する前に、カップリングアームは、アジド基を有する。そのように、カップリングアームは、SPAAC反応(スキーム3を参照)により、短いPEG鎖の遊離末端に歪んだアルキン基(例えば、DBCO、DIFO、BCN、又はDICO基)を有する第2成分に結合されることができ、その逆もまた然りである。
【0348】
図1Fにおいて、リンカーユニット10Fは、カップリングアーム60が、テトラジン基又はTCO基の代わりに、アジド基又は歪んだアルキン基(例えば、DBCO基、DIFO基、BCN基、又はDICO基)を有する以外、図1Eのリンカーユニット10Eと類似する構造を有する。従って、短いPEG鎖62に結合される第2成分50は、対応する歪んだアルキン基(例えば、DBCO基、DIFO基、BCN基、又はDICO基)又はアジド基を有することで、SPAAC反応によりカップリングアーム60に結合することができる。図1Fにおけるダイヤモンド90は、カップリングアーム60と短いPEG鎖62との間で起きるSPAAC反応から生じる化学結合を表す。
<<スキーム3 SPAAC反応>>
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【0349】
スキーム4は、本発明のリンカーユニットの調製プロセスの例示である。ステップ1において、中心コアを調製する。該中心コアは、(GSK)3のアミノ酸配列を含み、且つ中心コアのC末端にL-アジドホモアラニン(AHA)残基を有する。ステップ2において、NHS基とアミン基との間にアミド結合を形成することにより、3つのリンクアームをそれぞれ中心コアのリジン(K)残基に結合する。中心コアに結合されるリンクアームは、その遊離末端にマレイミド(Mal)基を有する。ステップ3において、チオール-マレイミド反応により、3つの抗A抗原scFv(scFv α A)を第1成分として、それぞれリンクアームに結合する。ステップ4において、1つの抗B抗原scFv(scFv α B)を第2成分として短いPEG鎖に結合する。該短いPEG鎖は、4つのEGの繰り返し単位を含み、且つその遊離末端にDBCO基を有する。最後に、ステップ5において、SPAAC反応により第2成分を中心コアのAHA残基に結合する。
<<スキーム4 リンクアーム及びC末端アミノ酸残基を介して2つの異なるscFvを結合するリンカーユニットの調製>>
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【0350】
スキーム5は、本発明のリンカーユニットの調製プロセスの別の例を例示する。ステップ1において、中心コアを調製する。該中心コアは、(K-Xaa)3のアミノ酸配列を含み、且つ中心コアのC末端にシステイン残基を有する。ステップ2において、チオール-マレイミド反応によりPEG鎖を(カップリングアームとして)システイン残基に結合する。該PEG鎖は、その1つの末端にマレイミド(Mal)基を有し、もう1つの末端にテトラジン基を有する。ステップ3において、3つのリンクアームをそれぞれ中心コアのリジン(K)残基に結合する。さらに、ステップ4で説明したように、チオール-マレイミド反応により、3つの抗A抗原scFv(scFv α A)を第1成分としてそれぞれリンクアームに結合する。ステップ5において、1つの抗B抗原scFv(scFv α B)を第2成分として短いPEG鎖に結合する。該短いPEG鎖は、3つのEGの繰り返し単位を含み、且つPEG鎖の遊離末端にTCO基を有する。最後に、ステップ6において、iEDDA反応により第2成分をカップリングアームに結合する。
<<スキーム 5 リンクアーム及びカップリングアームを介して2つの異なるscFvを結合するリンカーユニットの調製>>

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【0351】
PEG化は、PEG鎖を分子(例えば、薬物またはタンパク質)に結合または連結するプロセスである。PEG化は、未修飾形態よりもいくつかの有意な薬理学的利点、例えば、溶解性の改善、安定性の向上、循環寿命の延長、及びタンパク質分解の減少を与えることが知られている。本開示の一実施形態によれば、第2成分は、分子量が約20,000〜50,000ダルトンのPEG鎖である。
【0352】
図1Gは、本発明のリンカーユニット(リンカーユニット10G)の別の例を示す。ここで、5つの第1成分30は、それぞれリンクアーム20を介してリジン残基に結合される。中心コア11eのHPG (GHP)残基は、CuAAC反応によりPEG鎖80に結合される。図1Gにおけるソリッドドット40は、AHA残基とPEG鎖80との間で起きるCuAAC反応から生じる化学結合を表す。
【0353】
図1Hは、本開示の別の例を提供する。ここで、中心コア11dのN末端は、カップリングアーム60に結合されるシステイン残基である。iEDDA反応により、PEG鎖80をカップリングアーム60に効率的に結合することができる。リンカーユニット10Hの楕円70は、カップリングアーム60とPEG鎖80との間で起きるiEDDA反応から生じる化学結合を表す。
【0354】
図1Iは、本発明のリンカーユニットの別の例を提供する。ここで、リンカーユニット10Iは、PEG鎖80がSPAAC反応によりカップリングアーム60に結合される以外、図1 Hのリンカーユニット10Hと類似する構造を有する。図1Iにおけるダイヤモンド90は、カップリングアーム60とPEG鎖80との間で起きるSPAAC反応から生じる化学結合を表す。
【0355】
本開示のいくつかの実施形態によれば、第1成分及び第2成分に加えて、本発明のリンカーユニットは、第3成分をさらに含む。この場合に、中心コアのN末端及びC末端のうちの一方は、アジド基又はアルキン基を有するアミノ酸であり、中心コアのN末端及びC末端のうちの他方は、システイン残基である。中心コアのリジン残基は、ぞれぞれリンクアームに結合される。各リンクアームは、その遊離末端にマレイミド基を有する。中心コアのシステイン残基は、カップリングアームに結合される。該カップリングアームは、その遊離末端にテトラジン基又は歪んだアルキン基を有する。それにより、上述したように、第1成分は、チオール-マレイミド反応によりリンクアームに結合され、第2成分は、iEDDA反応によりカップリングアームに結合される。さらに、第3成分は、CuAAC反応又はSPAAC反応によりアジド基又はアルキン基を有する末端アミノ酸に結合される。
【0356】
必要に応じて、第1成分、第2成分、及び第3成分は異なる。本開示の一実施形態によれば、リンカーユニットは、2つの異なる種類の標的化成分及び1種類のエフェクター成分;2つの異なる種類のエフェクター成分及び1種類の標的化成分;又は1種類の標的化成分、1種類のエフェクター成分、及び1種類のリンカーユニットの溶解性、クリアランス、半減期、及び生物学的利用能等の薬物動態学的特性を改善させる成分を含むことができる。
【0357】
図1Jのリンカーユニット10Jにおいて、中心コア11fは、そのN末端にHPG(GHP)残基を有し、そのC末端にシステイン残基を有する。リンクアーム20及びカップリングアーム60は、それぞれ中心コア11fのリジン(K)残基及びシステイン(C)残基に結合される。さらに、5つの第1成分30は、それぞれ5つのリンクアーム20に結合され、第2成分(即ち、PEG鎖)80は、カップリングアーム60に結合され、第3成分50は、短いPEG鎖62を介してHPG残基に結合される。ソリッドドット40は、HPG残基と短いPEG鎖62との間で起きるCuAAC反応から生じる化学結合を表す。楕円70は、カップリングアーム60とPEG鎖80との間で起きるiEDDA反応から生じる化学結合を表す。
【0358】
図1Kは、本開示の別の実施形態を提供する。ここで、リンカーユニット10Kは、iEDDA反応の代わりに、SPAAC反応により短いPEG鎖62がHPG残基に結合される以外、図1Jのリンカーユニット10Jと類似する構造を有する。図1Kにおけるダイヤモンド90は、短いPEG鎖62とHPG残基との間で起きるSPAAC反応から生じる化学結合を表す。
【0359】
本開示の好ましい実施形態において、リンクアームは、チオール-マレイミド反応によりスルフヒドリル基を有する第1成分に結合するために、遊離末端にマレイミド基を有する。また、第2成分に結合するために、ペプチドコアの1つの末端にシステイン残基、又はアジド基若しくはアルキン基を有するアミノ酸残基があることで、カップリングアームに結合される。
【0360】
当業者であれば、上述した構造について様々な変更を施すことができる。リンクアームの遊離末端に、マレイミド基以外の連結基、例えば、アジド基、アルキン基、テトラジン基、又は歪んだアルキン基を使用することにより、CuAAC、iEDDA、又はSPAAC反応により第1成分と結合することができる。また、ペプチドコアのシステイン残基(又は、アジド基若しくはアルキン基を有するアミノ酸残基)をN末端又はC末端に位置させる必要がない。さらに、2つ以上の上記残基をペプチドコアに導入することにより、複数のカップリングアームを結合することができ、それにより、複数の第2成分と結合する。
【0361】
パート II ペプチドコアに基づくマルチアームリンカーの用途
【0362】
従来の治療用構築物と比較して、パートIで説明した本発明のリンカーユニットは、2点で有利である。
(1)機能成分の数は、必要又は用途に応じて調整することができる。本発明のリンカーユニットは、適用要件(例えば、治療される疾患、本発明のリンカーユニットの投与経路、本発明のリンカーユニットが有する抗体の結合活性及び/又は親和性)に応じて、2つの成分(即ち、第1成分及び第2成分)又は3つの成分(即ち、第1成分、第2成分、及び第3成分)を含むことができる。例えば、本発明のリンカーユニットを組織/器官(例えば、目の治療)に直接送達する場合に、化標的成分としての第2成分を必要とせず、エフェクター成分だけで十分である。しかし、本発明のリンカーユニットを周辺的に(例えば、経口、経腸、鼻、局所、経粘膜、筋肉内、静脈内、または腹腔内注射)送達する場合に、本発明のリンカーユニットは、本発明のリンカーユニットを病変部位に標的化する標的化成分、及び病変部位で治療効果を発揮するエフェクター成分を同時に含む必要がある。本発明のリンカーユニットの標的化効果若しくは治療効果、又は安定性を向上させるために、本発明のリンカーユニットに、第3成分(例えば、第2標的化成分、第2エフェクター成分、又はPEG鎖)をさらに含むことができる。
(2)第1成分は、バンドルの形で提供される。本開示のパートIに記載されたように、第1成分の数は、中心コアに含まれるリジン残基の数によって変化する。中心コアにおけるリジン残基の数が2〜15である場合に、各リンカーユニットに少なくとも2つの第1成分を含み得る。このように、従来の治療用構築物又は方法のように単一分子(例えば、細胞毒性薬物及び抗体)を提供する代わりに、本発明のリンカーユニットは、一度により多くの機能成分(標的化成分又はエフェクター成分)を提供することができ、それによって、治療効果が大きく改善される。
【0363】
特定の治療用途において、シングルコピーの標的化成分又はエフェクター成分を有することが望ましい。例えば、炎症誘発性サイトカインを中和するためのscFvバンドルを送達するために、細胞外マトリックスタンパク質を標的とするscFvを使用する場合に、細胞性タンパク質に特異的なシングルコピーのscFvが望ましい。それにより、結合活性が強すぎることによる望ましくない影響を回避することができる。 別の例では、CD3又はCD16に特異的なscFvを用いて、T細胞又はNK細胞を標的腫瘍細胞を殺すように動員する場合に、腫瘍関連抗原に特異的なscFvバンドルを使用することができ、腫瘍関連抗原に特異的なscFvバンドルが腫瘍細胞上に結合される時に、CD3又はCD16aに特異的なシングルコピーのscFvが望ましい。 それにより、CD3又はCD16aの架橋による望ましくない影響を回避することができる。別の例では、薬物動態特性を高めるために長鎖PEGをシングルコピーだけ有することが望ましい。2つ以上の長いPEG鎖は、もつれを引き起こし、標的化成分又はエフェクター成分の結合特性に影響を与える恐れがある。
【0364】
上記の利点に基づいて、本開示の第2の態様は、本発明のリンカーユニットの用途に関する。具体的には、本開示は、異なる疾患(免疫障害、びまん性腫瘍、固形腫瘍、骨粗鬆症、及び加齢黄斑変性症を含む)の治療方法を提供する。該治療方法は、それを必要とする被験体に治療有効量の本発明のリンカーユニットを投与することを含む。
【0365】
本発明のリンカーユニットによって治療可能な疾患の一種は、免疫障害である。免疫障害の治療に適用される例示的なリンカーユニットは、炎症誘発性サイトカイン若しくはサイトカイン受容体に特異的な抗体断片、又はサイトカインに特異的な可溶性受容体である第1成分と、組織特異的細胞外マトリックス タンパク質に特異的な抗体断片である第2成分とを含む。
【0366】
一実施形態によれば、乾癬の治療に適用される本発明のリンカーユニットは、TNF-α、IL-12/IL-23、IL-17、又はIL-17の受容体に特異的なscFvである第1成分と、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvである第2成分とを含む。
【0367】
別の実施形態によれば、全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚ループス、又はシェーグレン症候群の治療に適用される本発明のリンカーユニットは、BAFFに特異的なscFvである第1成分と、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvである第2成分とを含む。
【0368】
皮膚に明らかな炎症症状を有するアトピー性皮膚炎、尋常性天疱瘡、及び複数種類の蕁麻疹等の皮膚疾患は、TNF-α、IL-12/IL-23、IL-17、又はBAFFに特異的な抗体で治療しない。それらの抗体は、十分に有効ではないためである。それらの抗炎症抗体は、皮膚に良好に分布されると、それらの皮膚疾患を治療できることが予想され得る。
【0369】
別の実施形態によれば、本発明のリンカーユニットは、関節リウマチ、乾癬性関節炎、又は強直性脊椎炎の治療に用いられる。この実施形態において、第1成分は、TNF-α、IL-1、IL-6、IL-12/IL-23、IL-17、IL-6R、又はIL-17Rに特異的なscFvであり、第2成分は、コラーゲンII、コラーゲンIX、コラーゲンXI、又はα-アグリカンに特異的なscFvである。
【0370】
さらに別の実施形態によれば、炎症性腸疾患(例えば、クローン病及び潰瘍性大腸炎)の治療に適用される本発明のリンカーユニットは、TNF-αに特異的なscFvである第1成分と、コラーゲンIII又はコラーゲンVに特異的なscFvである第2成分とを含む。
【0371】
びまん性腫瘍(例えば、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、及び骨髄腫)の治療において、本発明のリンカーユニットの第1成分は、びまん性腫瘍に関連する、及び/又は、びまん性腫瘍上で過剰発現される、細胞表面抗原に特異的な抗体断片であり、本発明のリンカーユニットの第2成分は、細胞表面抗原CD3又はCD16aに特異的な抗体断片である。本開示の実施形態によれば、びまん性腫瘍に関連する、及び/又は、びまん性腫瘍上で過剰発現される細胞表面抗原は、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD27、CD30、CD33、CD34、CD37、CD38、CD43、CD72a、CD78、CD79a、CD79b、CD86、CD134、CD137、CD138、又はCD319である。
【0372】
Bリンパ球由来のリンパ腫又は白血病の治療において、第1成分は、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD37、CD79a、又はCD79bに特異的なscFvであり、第2成分は、CD3又はCD16aに特異的なscFvである。
【0373】
形質細胞腫又は多発性骨髄腫の治療において、第1成分は、CD38、CD78、CD138、又はCD319に特異的なscFvであり、第2成分は、CD3又はCD16aに特異的なscFvである。
【0374】
T細胞由来のリンパ腫又は白血病の治療において、第1成分は、CD5、CD30、又はCD43に特異的なscFvであり、第2成分は、CD3又はCD16aに特異的なscFvである。
【0375】
骨髄性白血病の治療において、第1成分は、CD33又はCD34に特異的なscFvであり、第2成分は、CD3又はCD16aに特異的なscFvである。
【0376】
本発明のリンカーユニットによって治療可能な別の疾患は、固形腫瘍である。固形腫瘍は、メラノーマ、食道がん、胃がん、脳腫瘍、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、乳がん、膵臓がん、結腸がん、直腸がん、大腸がん、腎がん、肝細胞がん、卵巣がん、前立腺がん、甲状腺がん、精巣がん、又は頭頸部扁平上皮がんであり得る。本開示のこの実施形態によれば、本発明のリンカーユニットの第1成分は、ペプチドホルモン、成長因子、又は腫瘍関連抗原に特異的なscFvであり、第2成分は、細胞表面抗原CD3又はCD16aに特異的なscFvである。
【0377】
本開示の実施形態によれば、ペプチドホルモンは、セクレチン、コレシストキニン(CCK)、ソマトスタチン、又は甲状腺刺激ホルモン(TSH)である。
【0378】
本開示の実施形態において、成長因子は、上皮成長因子(EGF)、変異型EGF、エピレグリン、ヘパリン結合上皮成長因子(HB-EGF)、血管内皮成長因子 A(VEGF-A)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、及び肝細胞成長因子(HGF)からなる群から選択される。
【0379】
一実施形態によれば、腫瘍関連抗原は、ヒト上皮成長因子受容体(HER1)、HER2、HER3、HER4、糖鎖抗原19-9(CA 19-9)、糖鎖抗原125(CA 125)、がん胎児性抗原(CEA)、ムチン1(MUC 1)、ガングリオシドGD2、メラノーマ関連抗原(MAGE)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、メソセリン、ムチン関連Tn、シアリルTn、グロボH、段階特異的胚抗原-4(SSEA-4)、及び上皮細胞接着分子(EpCAM)からなる群から選択される。
【0380】
いくつかの例では、腫瘍関連抗原は、被験体の固形腫瘍から脱落してその循環系に入ることがある。この場合に、本発明の固形腫瘍の方法は、(a)1つ以上の腫瘍関連抗原に特異的な抗体を用いて、被験体に血液透析治療を行うことにより、腫瘍から脱落して被験体の循環に入った腫瘍関連抗原を除去するステップと、(b)固形腫瘍を治療するための本発明のリンカーユニットを投与するステップとを含む。
【0381】
骨粗鬆症の治療において、本開示の第1成分は、核因子κB(RANKL)の受容体活性化因子のリガンドに特異的なscFvであり、本開示の第2成分は、コラーゲンI又はオステオネクチンに特異的なscFvである。
【0382】
本開示の実施形態によれば、本発明のリンカーユニットは、加齢黄斑変性症(AMD)の治療に有用である。この場合に、本発明のリンカーユニットの第1成分は、VEGF-Aに特異的なscFvであり、本開示の第2成分は、分子量が約20,000〜50,000ダルトンの長いPEG鎖である。
【0383】
パート III 標的化部分及びエフェクター部分を有する分子構築物
【0384】
本開示の別の態様は、少なくとも2つのリンカーユニットを含む分子構築物に関する。本開示のパートIで説明したペプチドコアに基づくマルチアームリンカーユニットに加えて、分子構築物は、そのリンカーユニットのうちの一方又は両方として化合物コア(以下を参照)を有するリンカーユニットを使用することができる。本開示の特定の実施形態によれば、本発明の分子構築物の少なくとも1つのリンカーユニットは、ポリペプチドコアを含む。好ましくは、本発明の分子構築物の少なくとも2つのリンカーユニットは、ポリペプチドコアを含む。さらに好ましくは、本発明の分子構築物のすべてのリンカーユニットは、それぞれポリペプチドコアを含む。
【0385】
III-(i)化合物コア有するリンカーユニット
【0386】
本明細書において、本開示のパートI で説明したリンカーユニットに加えて、ポリペプチドの代わりに、化合物を中心コアとして用いた別のリンカーユニットも開示する。具体的には、該化合物は、ベンゼン-1,3,5-トリアミン、2-(アミノメチル)-2-メチルプロパン-1,3-ジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、ベンゼン-1,2,4,5-テトラアミン、3,3',5,5'-テトラアミン-1,1'-ビフェニル、テトラキス(2-アミノエチル)メタン、テトラキス-(エチルアミン)ヒドラジン、N,N,N',N',-テトラキス(アミノエチル)エチレンジアミン、ベンゼン-1,2,3,4,5,6-ヘキサアミン、1-N,1-N,3-N,3-N,5-N,5-N-ヘキサキス(メチルアミン)-ベンゼン-1,3,5-トリアミン、1-N,1-N,2-N,2-N,4-N,4-N,5-N,5-N,-オクタキス(メチルアミン)-ベンゼン-1,2,4,5-トリアミン、ベンゼン-1,2,3,4,5,6-ヘキサアミン、又はN,N-ビス[(1-アミノ-3,3-diアミノエチル)ペンチル]-メタンジアミンである。各化合物は、同一または対称的な立体配置で3つ以上のアミン基を有する。従って、化合物の1つのアミン基がカップリングアームに結合された場合に、化合物の分子のすべては、同一の立体配置を有する。
【0387】
本開示のパートIに記載の連結のメカニズムと同様に、上記の化合物が複数のアミン基を含むため、NHS基を有する複数のPEG鎖は、アミン基とNHS基との間にアミン結合を形成することにより該化合物に結合することができる。このように結合されるPEG鎖は、その遊離末端にマレイミド基を有し、リンクアームとされる。一方、化合物コアの少なくとも1つのアミン基は、1つの末端にNHS基を有し、もう1つの末端に官能基(例えば、アジド基、アルキン基、テトラジン基、又は歪んだアルキン基)を有する他のPEG鎖に結合される。このように結合されるPEG鎖は、その遊離末端に官能基を有し、カップリングアームとされる。
【0388】
従って、2つの異なる成分は、チオール-マレイミド反応(成分とリンクアームとの結合)、CuAAC反応、SPAAC反応、又はiEDDA反応(成分とカップリングアームとの結合)により、それぞれリンクアーム及び/又はカップリングアームに結合されることができる。
【0389】
本開示のいくつかの実施形態によれば、リンクアームは、2-20個のEGの繰り返し単位を有するPEG鎖であり、カップリングアームは、2-12個のEGの繰り返し単位を有するPEG鎖である。一実施形態において、リンクアーム及びカップリングアームは、両方とも12個のEGの繰り返し単位を有する。ここで、カップリングアームの1つの末端は、NHS基であり、カップリングアームのもう1つの末端は、アルキン基である。
<<スキーム 6 それぞれマレイミド基及びアジド基を有するリンクアーム及びカップリングアームの中心コアへの結合>>
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【0390】
スキーム6、7は、それぞれ中心コア間の結合、及びリンクアームとカップリングアームとの間の結合を示す。ここで、NHSは、NHSエステルを示し、Malは、マレイミド基を示し、azideは、アジド基を示し、alkyneは、アルキン基を示す。
<<スキーム 7 それぞれマレイミド基及びアルキン基を有するリンクアーム及びカップリングアームの中心コアへの結合>>
[この文献は図面を表示できません]
【0391】
中心コアとなる化合物において、複数のNH2基が対称で同一の方向で存在することを必要とするのは、 以下の理由による。即ち、1つのNH2基を用いてN-ヒドロキシスクシンイミジル基(NHS)、エステル基及びアルキン基、アジド基、テトラジン基、又は歪んだアルキン基を介して二官能性リンクアームと結合する場合に、生成物であるアルキン基、アジド基、テトラジン基又は歪んだアルキン基を有するカップリングアームを含む中心コアは、均質であり、且つ精製され得る。このような生成物を用いて、さらにマルチアームリンカーユニットを調製することができる。該マルチアームリンカーユニットの他のすべてのNH2基は、他の末端にマレイミド基又は他のカップリング基を有するリンクアームに結合される。非対称方向で複数のNH2基を有する化合物の場合に、1つの二官能性リンクアーム/カップリングアームを有する生成物は、均質ではない。
【0392】
これらの対称化合物のいくつは、より多くのリンクアーム/カップリングアームを有する中心コアを提供するようにさらに修飾されることができる。例えば、通常の化合物から合成、又は商業的に入手可能なテトラキス(2-アミノエチル)メタンをコアとして用いて、4つのリンクアーム/カップリングアームを有するリンカーユニットを構築することができる。テトラキス(2-アミノエチル)メタンをビス(スルホスクシンイミジル)スベレートと反応させることにより、2つのテトラキス(2-アミノエチル)メタン分子の縮合生成物を生成することができる。該縮合生成物をコアとして用いて、6つのリンクアーム/カップリングアームを有するリンカーユニットを構築することができる。それぞれ3つのリンクアーム/カップリングアーム、4つのリンクアーム/カップリングアーム及び6つのリンクアーム/カップリングアームを有するリンカーユニットは、ジョイント-リンカー構成を有する標的化/エフェクター分子の構築に対する要求の大部を満たすことができる。
【0393】
理解され得るように、リンクアーム及び/又はカップリングアーム、並びにそれに結合される成分は、中心コアに含まれるアミン基の数によって変化できる。いくつかの好ましい実施形態において、リンクアーム/カップリングアーム、及びそれに結合される結合成分の数は、約1-7である。
【0394】
図2に、4つのアミン基を有するベンゼン-1,2,4,5-テトラアミンが示される。これらのアミン基の3つは、それぞれリンクアーム20に結合され、これらのアミン基の1つは、遊離末端にアジド基を有するカップリングアーム60に結合される。3つの第1成分30は、それぞれチオール-マレイミド反応により3つのリンクアーム20に結合される。1つの第2成分50は、CuAAC反応によりカップリングアーム60に結合される。図2におけるソリッドドット40は、カップリングアーム60と第2成分50との間で起きるCuAAC反応から生じる化学結合を表す。
【0395】
III-(ii)ジョイント-リンカー構成を有する分子構築物
【0396】
本開示のいくつかの実施形態によれば、分子構築物は、2つのリンカーユニットを含む。該リンカーユニットは、CuAAC反応(銅又はクロロペンタメチルシクロペンタジエニルルテニウム複合体を触媒として使用する)、SPAAC反応、又はiEDDA反応により互いに結合される。この実施形態において、1つのリンカーユニットは、標的化成分となる複数の第1成分に結合される。他のリンカーユニットは、エフェクター成分となる複数の第2成分に結合される。
【0397】
本開示の他の実施形態によれば、分子構築物は、3つのリンカーユニットを含む。ここで、第1リンカーユニット及び第2リンカーユニットは、iEDDA反応により互いに結合され、第3リンカーユニットは、CuAAC反応により第1リンカーユニット又は第2リンカーユニットに結合される。或いは、第1リンカーユニット及び第2リンカーユニットは、iEDDA反応により互いに結合され、第3リンカーユニットは、SPAAC反応により第1リンカーユニット又は第2リンカーユニットに結合される。この実施形態において、第1、第2及び第3リンカーユニットは、それぞれ複数の第1、第2及び第3成分を有する。ここで、第1、第2及び第3成分は異なる。一実施形態によれば、3つの成分(即ち、第1、第2及び第3成)のうちの2つは、標的化成分であり、1つは、エフェクター成分である。別の実施形態によれば、3つの成分のうちの2つは、エフェクター成分であり、1つは、標的化成分である。別の実施形態によれば、3つの成分のうちの1つは、標的化成分であり、1つはエフェクター成分であり、もう1つは分子構築物の溶解性、クリアランス、半減期、及び生物学的利用能等の薬物動態学的特性を改善することができる成分である。
【0398】
図3A-3Dは、2つのリンカーユニット間の結合を示す。 図3Aは、iEDDA反応により互いに結合される2つのリンカーユニット(100A、200A)を含む分子構築物を示す。第1リンカーユニット100Aは、第1中心コア110a、リンクアーム120(第1リンクアームとして)、及びカップリングアーム 130a(第1カップリングアームとして)を有し、リンクアーム及びカップリングアームは、それぞれ1つの末端が第1中心コア110aに結合される。同様に、第2リンカーユニット200Aは、第2中心コア 210a、リンクアーム 220(第2リンクアームとして)、及びカップリングアーム230a(第2カップリングアームとして)を有し、リンクアーム及びカップリングアームは、それぞれ1つの末端が第2中心コア210aに結合される。カップリングアーム130a、230aの1つは、その遊離末端にテトラジン基を有し、カップリングアーム130a、230aのもう1つは、TCO基を有する。具体的には、カップリングアーム130aがその遊離末端(即ち、第1中心コア110aに結合されていない末端)にテトラジン基152を有する場合に、カップリングアーム230aは、その遊離末端(即ち、第2中心コア210aに結合されていない末端)にTCO基154を有する。その逆もまた然りである。従って、2つのリンカーユニット(100A、200A)は、カップリングアーム130a、230aのそれぞれの遊離末端の間で起きるiEDDA反応により互いに結合される。図3Aにおける楕円156は、カップリングアーム130a、230aの間で起きるiEDDA反応から生じる化学結合を表す。
【0399】
図示の実施形態において、リンクアーム120、220のそれぞれは、その遊離末端にマレイミド基を有する。従って、第1標的化成分140及び第1エフェクター成分240は、それぞれチオール基を有し、チオール-マレイミド反応によりリンクアーム120、220に結合される。
【0400】
一実施形態によれば、図3Aにおける第1中心コア110a及び第2中心コア210は、両方ともポリペプチドコアである。別の実施形態によれば、図3Aにおける第1中心コア110a及び第2中心コア210aは、化合物コアである。別の実施形態によれば、図3Aにおける第1中心コア110a及び第2中心コア210の1つは、ポリペプチドコアであり、図3Aにおける第1中心コア110a及び第2中心コア210aのもう1つは、化合物コアである。
【0401】
図3Bは、本開示の代替の実施形態を提供する。図3Bにおいて、第1中心コア110b及び第2中心コア210bは、両方ともポリペプチドコアであり、それぞれリンクアーム120、220により第1標的化成分140及び第1エフェクター成分240に結合される。この実施形態のユニークな特徴は、中心コア110b、210bの1つがN末端又はC末端にアジド基(例えば、AHA残基)を有するアミノ酸残基を含み、中心コア110b、210bのもう1つは、N末端又はC末端にアルキン基(例えば、HPG残基)を有するアミノ酸残基を含むことである。このような構成により、中心コア110a、210が互いに直接結合されることを可能にする。即ち、図3Aに示すようにカップリングアームを介せず結合される。具体的には、中心コア110bがN末端又はC末端にアジド基162を有するアミノ酸残基を含む場合に、中心コア210bは、N末端又はC末端にアルキン基164を有するアミノ酸残基を含み、その逆もまた然りである。したがって、リンカーユニット100B、200Bは、中心コア110b、210bのN末端又はC末端アミノ酸残基の間で起きるCuAAC反応により互いに直接結合されることができる。図3Bにおけるソリッドドット166は、N末端又はC末端アミノ酸残基の間で生じる化学結合を表す。
【0402】
図3Cは、本開示の別の実施形態である。リンカーユニット100C、200Cは、カップリングアーム130b、230bが、図3Aのリンカーユニット100A、200Aに示すようなアジド基152及びアルキン基154の代わりに、それぞれアジド基162及びDBCO基172を有する以外、リンカーユニット100A、200Aと類似する構造を有する。具体的には、中心コア110aは、遊離末端にアジド基162を有するカップリングアーム130b(第1カップリングアームとして)に結合され、中心コア210aは、遊離末端にDBCO基172を有するカップリングアーム 230b(第2カップリングアームとして)に結合される。リンカーユニット100C、200Cは、さらに、カップリングアーム130b、230bの間で起きるSPAAC反応により一緒に連結され、ダイアモンドに示される化学結合182を形成する。
【0403】
一実施形態において、図3Cにおける第1中心コア110a及び第2中心コア210aは、共にポリペプチドコアである。別の実施形態において、図3Cにおける第1中心コア110a及び第2中心コア210aは、共に化合物コアである。別の実施形態において、図3Cにおける第1中心コア110a及び第2中心コア210aの1つは、ポリペプチドコアであり、図3Cにおける第1中心コア110a及び第2中心コア210aのもう1つは、化合物コアである。
【0404】
理解され得るように、2つのリンカーユニットは、中心コアとカップリングアームとの間で起きるCuAAC反応により、互いに結合されることができる。図3Dにおいて、中心コア110bは、アジド基 162(例えば、AHA残基)を有するN末端又はC末端アミノ酸残基を含み、中心コア210aは、遊離末端にTCO基172を有するカップリングアーム230bに結合される。従って、リンカーユニット100B、200Cは、中心コア110bとカップリングアーム230bとの間で起きるSPAAC反応により、一緒に連結され、化学結合182を形成する。
【0405】
一実施形態によれば、図3Dにおけるリンカーユニット100B、200Cは、それぞれポリペプチドコアを含む。別の実施形態によれば、図3D における中心コア100Bは、ポリペプチドコアであり、図3Dにおける中心コア200Cは、化合物コアである。
【0406】
或いは、アルキン基(例えば、HPG残基)を有するN末端又はC末端アミノ酸残基を含むリンカーユニット、及び遊離末端にアジド基を有するカップリングアームを含むリンカーユニットは、中心コアとカップリングアームとの間で起きるアジド-アルキン環化付加により、一緒に連結されることができる。
【0407】
他の治療用構築物に比べて、本発明の分子構築物は、少なくとも以下の3点で有利である。
(1)特定の数及び/又は種類の標的化/エフェクター成分を有するリンカーユニットは、独立して調製し、次いでCuAAC反応、iEDDA反応、又はSPAAC反応により一緒に結合されることができる。
(2)標的化成分及び/又はエフェクター成分の数および種類は、適用要求(例えば、治療される疾患、結合活性、標的成分及び/又はエフェクター成分の親和性)に応じて変化し得る。標的化成分とエフェクター成分の組合せは、具体的な需要及び/又は用途に応じて調整することができる。本発明の各標的化成分及びエフェクター成分は、治療される特定の症状、患者の身体状態、および/または治療される疾患の種類などの要因によって変化し得る。臨床開業医は、最良の治療効果を達成するために、最も適切な標的化成分と最も適切なエフェクター成分とを組み合わせることができる。本開示の実施形態によれば、標的化成分は、成長因子、ペプチドホルモン、サイトカイン、又は抗体断片であり得る。エフェクター成分は、免疫調節物質、放射性核種と複合体を形成したキレート剤、細胞毒性薬物、サイトカイン、可溶性受容体、又は抗体断片であり得る。
(3)他のカップリング反応と比較して、CuAAC反応、iEDDA反応、又はSPAAC反応は、任意の2つのリンカーユニットを結合する点でより効率的である。
【0408】
図4において、6つのライブラリーが図示され、独立して調製される。この実施形態において、ライブラリー1〜6は、それぞれ機能成分に結合される複数のリンカーユニット300A、300B、300C、400A、400B、400Cを含む。リンカーユニット300A、300B、300Cのそれぞれは、構造が類似し、リンカーユニット300A、300B、300Cは、それぞれ1つの中心コア 310、1つのカップリングアーム330、及び特定の数のリンクアーム 320を含む。該カップリングアーム330は、中心コア 310に結合され、且つその遊離末端にテトラジン基350を有する。例えば、リンカーユニット300Aは、4つのリンクアーム320を含み、そのため、4つの標的化成分340aは、それぞれ4つのリンクアーム320に結合され得る。同様に、2つの標的化成分340b及び5つの標的化成分340cは、それぞれリンカーユニット300B、300Cに結合され得る。標的化成分340a、340b、及び340cは、同一であってもよいが、異なってもよい。リンカーユニット400A、400b及び400Cにおいて、これらのリンカーユニットのそれぞれは、1つの中心コア410、1つのカップリングアーム430、及び特定の数のリンクアーム420を含む。該カップリングアーム430は、中心コア410に結合され、且つその遊離末端に歪んだアルキン基450を有する。図示のように、3つのエフェクター成分440a、5つのエフェクター成分440b、及び8つのエフェクター成分440cは、それぞれリンカーユニット400A、400B、400Cに結合され得る。エフェクター成分440a、440b、440cは、同一であってもよいが、異なってもよい。ライブラリー1〜6は、独立して調製されることができる。当業者であれば、ライブラリー 1、2、3から第1リンカーユニット、ライブラリー 4、5、6から第2リンカーユニットを選んで、テトラジン基350と歪んだアルキン基450との間で起きるiEDDA反応により第1リンカーユニットと第2リンカーユニットとを結合することで、特定の数の標的化成分及びエフェクター成分を有する分子構築物を調製することができる。
【0409】
ライブラリーの概念に基づいて、本発明の分子構築物は、選択されたライブラリーに応じて異なる構成で調製され得る。図5Aは、本発明の分子構築物の実施例を提供する。ここで、第1中心コアと第2中心コア(310、410)のそれぞれは、3つのリンクアーム(320、420)及び1つのリングアーム(330、430)に結合される。3つの標的化成分340は、それぞれリンクアーム320に結合され、3つの第1エフェクター成分440は、それぞれリンクアーム420に結合される。2つのリンカーユニットは、2つのカップリングアーム330、430の間で起きるiEDDA反応により互いに結合され、化学結合356を形成する。この構成により、等しい数の複数の標的化成分及び/又はエフェクター成分が1つの分子構築物に含まれ得る。
【0410】
図5Bは、本発明の分子構築物の実施例を提供する。この実施例において、第1中心コアと第2中心コアは、それぞれ異なる数のアミン基(例えば、リジン残基)を含み、それにより、分子構築物は、等しくない標的化成分及びエフェクター成分を含む。図示の例では、第1中心コア310は、1つのカップリングアーム 330、及び2つのリンクアーム320に結合される。第2中心コア410は、1つのカップリングアーム430、及び5つのリンクアーム420に結合される。従って、2つの標的化成分340は、それぞれリンクアーム320に結合され、5つのエフェクター成分440は、それぞれリンクアーム420に結合される。図5Bにおける楕円356は、2つのカップリングアーム330、430の間の結合を表す。
【0411】
任意の実施形態では、本発明の分子構築物は、第1中心コア又は第2中心コアに結合される比較的長いPEG鎖をさらに含むことができる。それにより、本発明の分子構築物が細網内皮系からさらに分離されることができ、被験体に投与された後により長い半減期を得る。PEG鎖によりタンパク質を修飾することで、その薬物動態学的特性を改善させ、及び/又は、免疫原性を低下させる場合に、長さが20,000-50,000 ダルトンのPEGが好ましい。従って、本発明の好ましい実施形態において、比較的短いリンクアームを用いて標的化成分とエフェクター成分を結合し、本発明の分子構築物のインビボ半減期を増加させる目的で、20,000〜50,000ダルトンのPEG鎖をリンカーユニットのいずれかに結合する。
【0412】
いくつかの実施形態において、複数のscFv断片を標的化成分及び/又はエフェクター成分として用いて本発明の分子構築物を構築する。scFv断片を含む分子構築物に基づく標的化成分/エフェクター成分医薬品は、個々の抗体断片よりも長いインビボ半減期を有すべきである。いくつかの臨床用途、 例えば、抗TNF-α及び抗IL-12/IL-23による関節リウマチの治療、抗RANKLによる骨粗鬆症の治療、及び抗VEGF-Aによる加齢性黄斑変性の眼疾患において、薬物を頻繁に投与しないように、医薬品のはるかに長い半減期が望まれている。それらの用途で用いられる分子構築物において、重量が20,000~50,000ダルトンのPEG鎖をリンクアームとして用いて、標的化成分又はエフェクター成分としてのscFv断片と結合することができる。これらの長さのPEGは、多数の治療用タンパク質を改変してそれらの半減期を増加させることに使用されている。
【0413】
本開示のいくつかの実施形態によれば、リンカーユニットは、それぞれ異なる機能成分に結合される複数のリンクアームを含み得る。図6において、分子構築物は、2つのリンカーユニット100A、200Dを含む。第1機能成分 140及び第2機能成分240(1つは標的化成分、もう1つはエフェクター成分である)は、それぞれリンクアーム120、220を介して第1中心コア110a及び第2中心コア210cに結合される。2つの中心コア110a、210cは、カップリングアーム130a、230aの間で起きるiEDDA反応により互いに結合される。楕円156は、カップリングアーム130a、230aの間に形成する化学結合を表す。機能成分240に加えて、第2中心コア210cは、さらにPEG鎖260に結合される。具体的には、第2中心コア210cは、AHA残基を含む。該AHA残基は、SPAAC反応により歪んだアルキン基を有するPEG鎖260と反応してそれに結合することができる。ダイヤモンド182は、SPAAC反応から生じる化学結合を表す。所望の用途に応じて、第3成分は、第2標的化成分、第2エフェクター成分、又は分子構築物の医薬品特性を改善できる成分であり得る。本開示の実施形態によれば、PEG鎖260の分子量は、約20,000〜50,000ダルトンである。
【0414】
上記の概念に基づいて、リンカーユニットは、複数の機能成分に結合可能な複数のリンクアームを含み得る。例えば、リンカーユニットは、5-12個の機能成分に結合可能な5-12個のリンクアームを含み得る。これは、機能成分が細胞毒性薬物又はトール様受容体アゴニストのような小分子である場合に特に有用である。本明細書において、細胞毒性薬物の複数の分子を担持するリンカーユニットが薬物バンドルと呼ばれる。
【0415】
さらに、ポリペプチドコアを用いて3つのリンカーユニットを含む分子構築物を調製することができる。従って、本開示の別の態様は、3つのリンカーユニットを含む分子構築物に関する。この3つのリンカーユニットのうちの2つは、iEDDA反応により互いに結合され得る一方、第3リンカーユニットは、SPAAC反応又はCuAAC反応により上記の2つのリンカーユニットのいずれかに結合され得る。マルチリンカーユニット(例えば、3つのリンカーユニット)を構築する根拠は、2つの異なるセットの標的化成分又は2つの異なるセットのエフェクター成分をその中に組み込むことができることである。
【0416】
図7において、分子構築物は、3つのリンカーユニット(500、600、700A)を含む。リンカーユニット 500、600、700Aは、それぞれ中心コア(510、610、710)、及び中心コア(510、610、710)に結合される機能成分(540、640、740)を有するリンクアーム(520、620、720)を含む。リンカーユニット600は、カップリングアーム630に結合される1つのN末端又はC末端にあるシステイン残基、及びもう1つのN末端又はC末端にアジド基又はアルキン基を有するアミノ酸残基を含むことを特徴とする。結合される前に、カップリングアーム530、630の一方は、その遊離末端にテトラジン基を有し、カップリングアーム530、630のうちの他方は、 その遊離末端に歪んだアルキン基を有する。従って、リンカーユニット500、600は、図3Aに示めす結合方式のように、カップリングアーム530、630の間で起きるiEDDA反応により互いに結合され得る。リンカーユニット700Aの結合において、中心コア610のN末端又はC末端アミノ酸残基は、アジド基(例えば、AHA残基)を有する場合に、中心コア710は、そのN末端又はC末端に、アルキン基(例えば、HPG残基)を有するアミノ酸を含む。或いは、中心コア610のN末端又はC末端アミノ酸残基にアルキン基(例えば、HPG残基)を有する場合に、中心コア710は、そのN末端又はC末端に、アジド基(例えば、AHA残基)を有するアミノ酸を含む。このように、図3Bに示す結合方式のように、リンカーユニット600、700Aは、カップリングアームが存在しなくても、中心コア610、710のN末端又はC末端アミノ酸残基の間で起きるCuAAC反応により互いに直接結合され得る。図7における楕円560及びソリッドドット670は、それぞれiEDDA反応及びCuAAC反応から生じる化学結合を表す。
【0417】
或いは、上記の3つのリンカーユニットのうちの2つは、iEDDA反応により互いに結合され得る一方、第3リンカーユニットは、SPAAC反応により上記の2つのリンカーユニットのいずれかに結合され得る。図7Bにおいて、リンカーユニット500、600は、図7Aに示すように、iEDDA反応により互いに結合される一方、リンカーユニット700Bは、中心コア610とカップリングアーム730の間で起きるSPAAC反応によりリンカーユニット600に結合される。図7Bにおけるダイヤモンド672は、SPAAC反応から生じる化学結合を表す。
【0418】
理解され得るように、リンカーユニット500、600、700A又は700Bにそれぞれ結合される機能成分540、640、740の数は、所望の用途に応じて異なる。図4に示すライブラリーの概念では、異なる数及び/又は種類の機能成分をそれぞれ有するリンカーユニットは、異なるライブラリーとして別々に調製することができ、当業者であれば、種々の用途に応じてライブラリーから所望のリンカーユニットを選択して組み合わせることができる。
【0419】
基本的に、上述した態様及び/又は本開示の実施形態で説明した本発明の分子構築物のカップリングアームは、2-12個のEGの繰り返し単位を有するPEG鎖として設計される。上記カップリングアームは、末端にアジド基、アルキン基、テトラジン基、又は歪んだアルキン基を有する。リンクアームは、2-20個のEGの繰り返し単位を有するPEG鎖として設計される。
【0420】
ポリペプチドを中心コアとして採用することにより、本発明の分子構築物に多様性を提供することができる。該分子構築物では、1つの構築物に複数のコピー又は種類の標的化/エフェクター成分が存在し得る。それにより、薬物送達の特異性の増強、及び標的部位に対する効力が達成される。複数のリンカーユニットを含む分子構築物を用いることにより、多数の構成が採用されることができる。例えば、3つのscFv標的化成分を有する第1リンカーユニット、及び5つの細胞毒性薬物を有する第2リンカーユニット;3つのscFv標的化成分を有する第1リンカーユニット、及び3つのscFvエフェクター成分を有する第2リンカーユニット;第1セットの標的化成分の2つのscFvを有する第1リンカーユニット 、第2セットの標的化成分の2つのscFvを有する第2リンカーユニット、及び5つの細胞毒性薬物を有する第3リンカーユニット;2つのbi-scFv標的化成分を有する第1リンカーユニット、及び2つのscFvエフェクター成分を有する第2リンカーユニット;又は3つのscFv標的化成分を有する第1リンカーユニット、2つのscFvエフェクター成分を有する第2リンカーユニット、薬物動態学的特性の向上の目的で20,000-50,000ダルトンの長いPEGを導入したリンクアームである。
【0421】
本発明のいくつかの実施形態において、リンクアームとしての二機能性 PEGを用いて、標的化成分又はエフェクター成分としての抗体の抗原結合断片をポリペプチドコアにあるアミン基に結合する。各PEGは、1つの末端にNHS基、もう1つの末端にマレイミド基を有することができる。NHS基は、ポリペプチドコアにあるアミン基と結合可能であり、マレイミド基は、抗体のscFv、bi-scFv、又はFab断片のシステイン残基のスルフヒドリル基に結合可能である。scFv及びbi-scFvは、C末端に末端システイン残基を有するポリペプチドリンカーを含むように設計される。Fabは、IgG全体にペプシン切断を行うことにより得ることができ、遊離のスルフヒドリル基は、穏やかな還元反応により鎖間ジスルフィド結合に由来する。
【0422】
スキーム8-12は、特定のリンカーユニットの結合及び調製を示すいくつかの実施例を提供する。
<<スキーム 8 C末端アミノ酸残基によるリンカーユニットの結合>>
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GHP
【0423】
スキーム8は、本開示の一実施形態に係る本発明の分子構築物の調製を示す模式図である。ここで、NHSは、NHSエステルを示し、Malは、マレイミド基を示し、AAHは、L-アジドホモアラニン(AHA)残基を示し、GHPは、ホモプロパギルグリシン(HPG)残基を示し、Acは、アセチル基を示し、scFvは、一本鎖可変領域断片を示す。ステップ1において、第1中心コア及び第2中心コアをそれぞれ調製する。該第1中心コアは、 (GSK)3のアミノ酸配列を含み、且つそのC末端にL-アジドホモアラニン(AHA)残基を有する。該第2中心コアは、(GSK)5のアミノ酸配列を含み、且つそのC末端にホモプロパギルグリシン(HPG)残基を有する。ポリペプチドを安定化するために、第1中心コアと第2中心コアのN末端をそれぞれアセチル基で修飾する。ステップ2において、リンクアームをそれぞれ第1中心コアと第2中心コアにおけるリジン残基に、それらの間にアミド結合を形成することで結合する。中心コアに結合されるリンクアームは、遊離末端にマレイミド基を有する。ステップ3において、チオール-マレイミド反応により、チオール基(例えば、システイン残基)を有する第1標的化成分(即ち、抗体)を第1中心コアに結合されるリンクアームに結合する。同様に、チオール-マレイミド反応により、チオール基を有するエフェクター成分(即ち、薬物)を第2中心コアに結合されるリンクアームに結合する。ステップ4において、AHA残基とHPG残基との間で起きるCuAAC反応により2つのリンカーユニットを結合する。
<<スキーム9 リンクアームへの結合によりエフェクター成分をポリペプチドコアに結合する方法>>
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【0424】
必要に応じて、別の方法で標的化成分/エフェクター成分を中心コアに結合してもよい。スキーム9は、エフェクター成分をポリペプチドコアに結合することを説明するスキームである。ここで、リンクアームをまず中心コアに結合し、そしてエフェクター成分(即ち、薬物)をチオール-マレイミド反応によりリンクアームに結合する。スキーム10の上記別の方法において、エフェクター成分(即ち、薬物)をリンクアームに結合することにより、リンクアーム-エフェクター複合体(即ち、PEG-drug)を調製する。次に、リジン残基とNHSエステルとの間にアミド結合を形成することでリンクアーム-エフェクター複合体を中心コアに結合する。
<<スキーム10 まず、PEG鎖に結合し、そしてリジン残基のアミノ基に結合することで、エフェクター成分をポリペプチドコアに結合する別の方法>>
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【0425】
或いは、ジョイント-リンカー構成のためのリンクアームは、二重特異性scFvを結合することに使用され得る。該二重特異性scFvは、標的化成分又はエフェクター成分である。これらの構成は、標的化の特異性及び/又はエフェクターメカニズムの効力を向上させることができる。
【0426】
スキーム11は、本発明の分子構築物の調製の例を提供する。該分子構築物は、2つのリンカーユニットを含み、リンカーユニットは、両方とも (K-Xaa4)3のアミノ酸配列を含み、そのC末端にシステイン(C)残基を有する。ステップ1において、2つのカップリングアームをそれぞれリンカーユニットのC残基に結合する。そのうち1つのカップリングアームは、1つの末端にマレイミド(Mal)基を有し、もう1つの末端にテトラジン基を有する。もう1つのカップリングアームは、1つの末端にMal基を有し、もう1つの末端にTCO基を有する。ステップ2において、リンクアームとK残基との間にアミド結合を形成することでリンクアームをそれぞれリジン(K)残基に結合する。さらに、ステップ3において、チオール-マレイミド反応により3つの抗A抗原scFv(scFv α A)及び3つの抗B抗原scFv(scFv α B)をそれぞれリンカーユニットのリンクアームに結合する。最後に、ステップ4において、テトラジン基とTCO基との間で起きるiEDDA反応により2つのリンカーユニットを互いに結合する。


<<スキーム11 カップリングアームの間で起きるiEDDA反応による分子構築物の調製>>
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【0427】
スキーム12は、分子構築物の調製の例を提供する。該分子構築物は、3つのリンカーユニットを含む。そのうち2つのリンカーユニットは、それぞれscFv α A及びscFv α Bに結合され、且つスキーム11で説明したようにiEDDA反応により互いに結合される。第3リンカーユニットは、CuAAC反応により第2リンカーユニットに結合される。この例において、第3リンカーユニットは、薬物バンドルである。しかし、この反応スキームは、他の成分、例えば、scFvを有する第3リンカーユニットにも適用される。本発明の例において、中心リンカーユニット(即ち、第2リンカーユニット)は、そのN末端にHPG(GHP)残基を有し、それにより、HPG残基とAHA残基との間で起きるCuAAC反応によりAHA(AAH)残基に結合される薬物バンドルを第2リンカーユニットに結合することができる。或いは、中心リンカーユニットは、そのN末端又はC末端にAHA残基を含み得、且つSPAAC反応によりDBCO基又は他の歪んだアルキン基を有するカップリングアームを含む第3リンカーユニットに結合され得る。このようにして形成されたスキーム12の分子構築物は、3つの機能成分、即ち、scFv α A、scFv α B、及び薬物分子を有する。3つのリンカーユニットを有する分子構築物は、3つのセットのscFvを含み得る。そのうちの2つのセットを標的化成分、1つのセットをエフェクター成分とし、又は1つのセットを標的化成分、2つのセットをエフェクター成分とする。
<<スキーム 12 3つの機能成分を有するリンカーユニットを含む分子構築物の調製>>
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【0428】
標的化成分及びエフェクター成分は、すべてscFvであり、且つ600ダルトン(12単位のEG)のリンクアームを使用する場合に、合計6つのscFvを有する分子構築物は、分子量が約170,000ダルトンである。7つのscFvを有する分子構築物は、分子量が約200,000ダルトンである。8つのscFvを有する分子構築物は、分子量が約230,000ダルトンである。本発明の分子構築物のほとんどは、分子量が200,000ダルトン未満である一方、いくつかの分子構築物は、分子量が200,000-250,000ダルトンである。
【0429】
四つの異なるセットのscFvが1つの分子構築物に含まれる場合に、結合された一本鎖、scFv1-scFv2(例えば、HER2及びHER3に特異的なもの)等の二重特異性scFv(bi-scFv)を含む1つのリンカーユニット、及びそれぞれscFv(即ち、それぞれscFv3及びscFv4)を含む他の2つのリンカーユニットを有することが好ましい。二重特異性scFv1-scFv2の構築に2つの方法がある。「タンデム」構成において、VL1-VH1-VL2-VH2又はVH1-VL1-VH2-VL2が配置され、「ダイアボディー」構成において、VL2-VL1-VH1-VH2又はVH2-VH1-VL1-VL2が配置される。GGGGS(配列番号:6)繰り返し単位又は他の配列を有する適切なポリペプチドリンカーは、免疫グロブリンドメインの間に配置される。
【0430】
発明者の経験では、マレイミド及びアジド基を含むペプチド又はPEGリンカーは、マレイミド基とアジド基との間の自動結合反応により、長期間保存すると重合することがある。そのため、新しくかつ独立して各リンカーユニットを調製し、さらに、遅延なく標的化成分又はエフェクター成分をリンカーユニットに結合し、クリック反応によりリンカーユニットを結合するように処理することが好ましい。別の好ましい実施形態は、標的化成分及びエフェクター成分を両方ともアルキン基を介してリンカーユニットに結合し、1つのリンカーユニットにおけるアルキン基を、両端にアジド基を有する短いホモ二機能性リンカーを用いてアジド基に変更することである。そして、リンカーユニット(1つはアルキン基を有し、もう1つはアジド基を有する)をクリック反応により結合する。
【0431】
本発明の好ましいリンクアームは PEGである。リンクアームの長さはいくつかの考慮事項にとって重要である。リンクアームの長さは、可撓性がある結合scFv又は他の種類の機能成分が、立体的制約なしに標的細胞表面上の標的抗原部位に到達することを可能にするのに十分な長さであって、リンクアーム及びそれらのscFv断片若しくは機能成分の分子内および分子間の絡み合いを引き起こすに至らない長さ、又は組織浸透を防げるために分子構築物全体のサイズを不必要に増加させるに至らない長さである。リンクアームが長すぎると、圧縮されたクラスタがアポトーシスまたは他の細胞効果のための信号伝達プロセスを開始するために必要とされる場合に、抗原分子を引っ張って圧縮されたクラスタを形成することができない。標的抗原とその結合剤との異なる種類の組み合わせに対するリンクアームの最適長さは、過度の実験をすることなく当業者によって決定され得る。標的抗原としてのCD20および4アームPEGリンカーにおける抗CD20(リツキシマブ)Fabについての経験では、約1,000-1,200ダルトン(約25-30個のエチレングリコール単位)のPEGアームは、アポトーシスを有効に引き起こすことができる。従って、100〜1,000ダルトンのPEGリンカーは、本発明の目的に適している。本発明のいくつかの分子構築物においては、NHS-(PEG)12-マレイミド(約500ダルトン)のリンクアームが好ましい。完全に伸張した(PEG)12の長さは40-50Åである。
【0432】
適用可能なリンクアーム及びカップリングアームは、PEG鎖に制限されない。グリシン、セリン及び他のアミノ酸親水性残基を含むペプチド、及び多糖類、並びに、NHS及びマレイミド基を含むように修飾された他の生体適合性線状ポリマーを使用することができる。
【0433】
特定の治療用途では、本開示の分子構築物におけるエフェクター成分がリンクアームから放出され、標的部位の細胞(標的化成分又は周囲細胞によって結合された細胞を含む)に到達して薬理学的効果を引き起こすことができることが望ましい。この場合に、切断可能な結合がリンクアームに導入されている。加水分解、酸暴露、還元、および酵素により切断されやすい切断可能な結合が、開発されている。例えば、炎症組織に存在するマトリックスメタロプロテイナーゼに敏感なペプチドセグメントは、治療用構築物の構築に使用されている。 本発明の一実施形態において、マレイミド基に隣接するS-S結合を有するPEGリンカー、即ちNHS-PEG2-12-S-S-マレイミドを使用する。ここで、S-Sジスルフィド結合であり、緩徐に還元することができる。
【0434】
本開示のいくつかの実施形態によれば、上記の実施形態で説明した標的化成分は、成長因子、ペプチドホルモン、サイトカイン、及び抗体からなる群から選択され、エフェクター成分は、免疫調節物質、放射性核種と複合体を形成したキレート剤、細胞毒性薬物、サイトカイン、可溶性受容体、又は抗体である。
【0435】
これらの実施形態において、抗体は、抗原結合断片(Fab)、可変断片(Fv)、一本鎖可変領域断片(scFv)、単一ドメイン抗体(sdAb)、又は二重特異性一本鎖可変領域断片(bi-scFv)の形態である。一実施形態によれば、bi-scFvは、二重特異性タンデムscFv又は二重特異性ダイアボディscFvである。
【0436】
分子構築物の拡散能力を保持するために、250,000ダルトン未満の分子サイズが好ましい。したがって、scFv断片は、ほとんどの実施形態にとって好ましい。DNAレベルでは、グリシン及びセリンを主要残基として有する10-25個のアミノ酸残基のペプチドリンカーを介して、いずれかの順序(VL-VH又はVH-VL)でVL及びVHが単一のポリペプチドとして結合されるように、遺伝子が構築される。C末端には、グリシン、セリン、及び末端残基システインを有する短い延伸部が設計されている。 組換えscFv及びbi-scFvは、大腸菌及びシュードモナス・プチダなどの細菌、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などの酵母、又はCHO及びHEK293細胞株などの哺乳類細胞で調製することができる。
【0437】
本発明者らの研究室では、HEK293及びCHOの細胞株において、インビトロシステムおよび動物モデルにおける実験のために、数多くのIgG 抗体、Fab、scFv及び種々の抗体断片、Fcに基づくタンパク質、並びに他の組換え抗体が調製された。本発明者らの研究室では、ヒト臨床試験用の抗体を調製するための細胞株も開発されている。HEK293一過性発現系は、研究室で複数の1~2Lのフラスコを用いて1gまでのIgGまたは抗体断片を調製することに便利に使用することができる。本発明の分子構築物に使用されるscFv断片は、一般に、炭水化物修飾を有さず、且つ、炭水化物修飾は、scFvの、その抗原性標的に対する結合活性には必要とされない。さらに、scFvフラグメントには、1つのジスルフィド結合および1つの末端システインしか存在しない。従って、小規模細菌発現系がscFv調製の代替手段として開発されている。大腸菌を用いて細胞内封入体、ペリプラズムおよび分泌型でscFvを回収するための発現系が用いられている。scFvは、ほとんどの場合に、ほとんどのκ軽鎖のVHと相互作用するプロテインLを有するアフィニティーカラムで精製することができ、又は他の場合に、イオン交換カラムで精製することができる。
【0438】
ジョイント-リンカープラットフォームに基づく本発明の例は、主にscFv及びFabを標的化成分及び/又はエフェクター成分を使用する。しかし、特異的結合分子は、sdAb又は他の抗体断片に基づく結合分子の大きなライブラリーから選別されることもできる。免疫グロブリンドメインに基づいていないが、選択された標的分子に特異的結合親和性を有する抗体に似ている結合分子のライブラリーは、(1)標的分子と結合するために選択されたオリゴヌクレオチド又は短いペプチドであるアプタマー;(2)ヒトFyn SH3ドメインに由来する小さな結合タンパク質であるフィノマー;(3)シスタチンのシステインタンパク質阻害剤ファミリーに由来の結合タンパク質であるアフィマー;及び(4)天然のアンキリンタンパク質に由来する構造を有する遺伝子組み換えタンパク質であって、これらのタンパク質の3、4又は5個の繰り返しモチーフからなるダルピン(設計されたアンキリンリピートタンパク質)。これらの抗体模倣物の分子量が約10K〜20Kダルトンである。
【0439】
サイトカイン、成長因子、ペプチドホルモン、又はそれらの天然断片若しくは合成類似体は、標的化成分又はエフェクター成分としても使用することができる。細胞毒性薬物(例えば、オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、カリケアマイシン、及びカンプトテシン)のような小分子薬物、及び免疫賦活薬物(例えば、モトリモード、イミキモッド、レスキモッド、及びガリコイモッド)は、エフェクター成分として結合され、及び病的標的細胞又は組織に運ばれてもよい。CpGオリゴヌクレオチド、特定のグラム陰性細菌に由来するリポ多糖、並びに、特にアスペルギルスおよびアガリクス種の真菌に由来するグルカン(ザイモサンおよびβ-D-グルカン)は、強力な免疫刺激活性を有し、エフェクター成分としても使用することができる。これらの免疫賦活物質の大部分は、様々な免疫細胞上のトール様受容体に結合し、免疫系を活性化する。
【0440】
本開示のいくつかの実施形態において、本発明の分子構築物の標的化成分及びエフェクター成分の少なくとも1つは、細胞表面抗原に特異的な抗体断片である。具体的には、標的化成分が細胞表面抗原に特異的な抗体断片である場合に、本発明の構築物は、細胞/組織/器官の上で発現された細胞表面抗原を介して細胞/組織/器官を特異的に標的とすることができる。本発明の構築物のエフェクター成分として使用される細胞表面抗原特異的抗体は、細胞表面抗原との結合により信号伝達経路を活性化または阻害することにより、細胞/組織/器官上で発現された細胞表面抗原を介して細胞/組織/器官の増殖/生存/機能を調節することができる。この実施形態によれば、細胞表面抗原は、核因子κの受容体活性化因子B(RANKL)のリガンド、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD10、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16a、CD19、CD20、CD22、CD23、CD25、CD27、CD28、CD30、CD33、CD34、CD36、CD37、CD38、CD41、CD43、CD52、CD56、CD61、CD64、CD65、CD74、CD78、CD79a、CD79b、CD80、CD86、CD134、CD137、CD138、CD319、細胞毒性Tリンパ球関連タンパク質 4(CTLA-4、又はCD152)、プログラム細胞死1(PD-1、又はCD279)、及びプログラム細胞死1リガンド 1(PD-L1、又はCD274)からなる群から選択され得る。一実施例によれば、本発明の分子構築物は、びまん性腫瘍の治療に有用であり、その標的化成分は、CD19、CD20、CD38又はCD138に特異的な抗体断片であり、エフェクター成分は、CD3又はCD16aに特異的な抗体断片である。別の実施例によれば、本発明の分子構築物は、固形腫瘍の治療に有用であり、そのエフェクター成分は、PD1に特異的な抗体断片である。別の実施例によれば、本発明の分子構築物は、びまん性腫瘍の治療に有用であり、その標的化成分は、CD79aに特異的な抗体断片であり、エフェクター成分は、CD79bに特異的な抗体断片である。別の実施例によれば、本発明の分子構築物は、びまん性腫瘍に有用であり、その標的化成分は、CD79bに特異的な抗体断片であり、エフェクター成分は、CD79aに特異的な抗体断片である。
【0441】
本開示のいくつかの実施形態において、本発明の分子構築物の標的化成分は、腫瘍関連抗原に特異的な抗体断片である。該腫瘍関連抗原は、ヒト上皮成長因子受容体(HER1)、ヒト上皮成長因子受容体 2(HER2)、ヒト上皮成長因子受容体 3(HER3)、ヒト上皮成長因子受容体(HER4)、糖鎖抗原19-9(CA 19-9)、糖鎖抗原125(CA 125)、ムチン1(MUC 1)、ガングリオシドGD2、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM2、フコシルGM1、Neu5GcGM3、メラノーマ関連抗原(MAGE)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、メソセリン、ムチン関連Tn、シアリルTn、ルイスY、シアリルルイスY、ルイスA、ルイスx、ヘパリン結合上皮成長因子(HB-EGF)、グロボH、段階特異的胚抗原-4(SSEA-4)、及びトランスフェリン受容体からなる群から選択される。一実施例によれば、本発明の分子構築物は、乳腫瘍/がんの治療に有用であり、その標的化成分は、HER1又はHER2に特異的な抗体断片である。別の実施例によれば、本発明の分子構築物は、前立腺腫瘍/がんの治療に有用であり、その標的化成分は、PSMAに特異的な抗体断片である。
【0442】
本開示のいくつかの実施形態において、本発明の分子構築物の標的化成分は、組織特異的細胞外マトリックスタンパク質に特異的な抗体断片である、該細胞外マトリックスタンパク質は、オステオネクチン、α-アグリカン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンV、コラーゲンVII、コラーゲンIX、又はコラーゲンXIである。一実施例によれば、本発明の分子構築物は、関節リウマチの治療に有用であり、その標的化成分は、コラーゲンIXに特異的な抗体断片である。別の実施例によれば、本発明の分子構築物は、乾癬の治療に有用であり、その標的化成分は、コラーゲンVIIに特異的な抗体断片である。別の実施例によれば、本発明の分子構築物は、強直性脊椎炎の治療に有用であり、その標的化成分は、α-アグリカンに特異的な抗体断片である。
【0443】
本開示のいくつかの実施形態において、本開示の標的化成分及びエフェクター成分の少なくとも1つのは、サイトカインである。本開示の他の実施形態において、本開示の標的化成分及びエフェクター成分の少なくとも1つは、サイトカインに特異的な抗体断片である。この実施形態において、サイトカインは、B細胞活性化因子(BAFF)、インターロイキン-1(IL-1)、IL-2、IL-6、IL-12/IL23、IL-17、インターフェロン-α(IFN-α)、IFN-β、インターフェロン-γ(IFN-γ)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、又はトランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)である。具体的には、標的化成分がサイトカイン(例えば、TGF-β)である場合に、本発明の分子構築物は、受容体発現細胞/組織/器官(例えば、その上に発現されたTGF-β受容体を有する腫瘍細胞)を特異的に標的とすることができる。サイトカインは、本発明の分子構築物のエフェクター成分として働く場合に、サイトカイン受容体との結合によりサイトカイン関連信号伝達経路を活性化することができるため、治療効果を奏する(例えば、IFN-α受容体に結合し、炎症誘発又は抗腫瘍効果を奏するエフェクター成分としてのIFN-α)。サイトカインに特異的な抗体断片であるエフェクター成分は、サイトカインを捕捉して中和することにより、サイトカイン関連信号伝達経路を阻害することができる(例えばIL-6を中和し、IL-6に関連する炎症を阻害する抗体)。一実施例によれば、本発明の分子構築物は、自己免疫疾患の治療に有用であり、そのエフェクター成分は、TNF-α又はIL-17に特異的な抗体断片である。別の実施例によれば、本発明の分子構築物は、固形腫瘍の治療に有用であり、そのエフェクター成分は、IFN-γ又はIL-2である。別の実施例によれば、本発明の分子構築物は、固形腫瘍の治療に有用であり、そのエフェクター成分は、IFN-α又はIL-2に特異的な非中和抗体断片である。 別の実施例によれば、本発明の分子構築物は、自己免疫疾患の治療に有用であり、そのエフェクター成分は、BAFFに特異的な抗体断片である。
【0444】
本開示のいくつかの実施形態によれば、可溶性受容体は、TNF-α又はIL-1に特異的である。この実施形態において、可溶性受容体を用いて、関連する信号伝達経路を誘発することなくサイトカインを捕捉し中和する。
【0445】
本開示のいくつかの実施形態において、本発明の分子構築物の標的化成分は、成長因子である。本開示の別の実施形態において、本開示の標的化成分及びエフェクター成分の少なくとも1つは、成長因子に特異的な抗体断片である。この実施形態において、成長因子は、上皮成長因子(EGF)、変異型EGF、エピレグリン、ヘパリン結合上皮成長因子(HB-EGF)、血管内皮成長因子 A(VEGF-A)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、及び肝細胞成長因子(HGF)からなる群から選択される。上記と同様に、標的化成分が成長因子(例えば、EGF)である場合に、本発明の分子構築物は、受容体発現細胞/組織/器官(例えば、その上に発現されたEGF受容体を有する腫瘍細胞)を特異的に標的とすることができる。エフェクター成分は、成長因子(例えば、VEGF-A)に特異的な抗体断片である場合に、成長因子関連信号伝達経路((例えば、VEGF-A誘発血管新生)を捕捉して中和することができる。一実施例によれば、本発明の分子構築物は、固形腫瘍の治療に有用であり、そのエフェクター成分は、VEGF-Aに特異的な抗体断片である。
【0446】
本開示のいくつかの実施形態において、本発明の分子構築物の標的化成分は、ペプチドホルモンである。本開示の他の実施形態において、本発明の分子構築物の標的化成分及びエフェクター成分の少なくとも1つは、ペプチドホルモンに特異的な抗体断片である。この実施形態において、ペプチドホルモンは、セクレチン、コレシストキニン(CCK)、ガストリン、ガストリン放出ポリペプチド、グルカゴン様ポリペプチド1(GLP-1)、ニューロメジン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、及びソマトスタチンからなる群から選択される。一実施例によれば、本発明の分子構築物は、固形腫瘍の治療に有用であり、その標的化成分は、CCK又はソマトスタチンである。
【0447】
本開示のいくつかの実施形態において、本発明の分子構築物のエフェクター成分は、ハプテンに特異的な抗体断片である。該ハプテンは、ジニトロフェノール(DNP)、トリニトロフェノール(TNP)、ダンシル、ペニシリン、p-アミノ安息香酸、及び配列番号:20のアミノ酸配列を有する短いペプチドからなる群から選択される。具体的には、エフェクター成分は、ハプテンに特異的な抗体断片である場合に、同一のハプテンでタグ付けされた免疫調節エフェクターと共に使用されてもよい。
【0448】
本開示のいくつかの実施形態において、本発明の分子構築物のエフェクター成分は、免疫調節物質である。この実施形態によれば、免疫調節物質は、トール様受容体アゴニストである。この実施形態において、トール様受容体アゴニストは、リポテイコ酸、グルカン、モトリモード、イミキモッド、レスキモッド、ガリコイモッド、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG DON)、リポ多糖(LPS)、モノホスホリル脂質A、及びザイモサンからなる群から選択される。一実施例によれば、本発明の分子構築物は、固形腫瘍の治療に有用であり、そのエフェクター成分は、LPS又はイミキモッドである。
【0449】
本開示のいくつかの実施形態において、本発明の分子構築物のエフェクター成分は、細胞毒性薬物である。該細胞毒性薬物は、オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、カリケアマイシン、及びカンプトテシンからなる群から選択される。
【0450】
本開示のいくつかの実施形態によれば、放射性核種は、111In、131I、又は177Luである。本開示の他の実施形態によれば、キレート剤は、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4-二酢酸(NODA)、及びジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)からなる群から選択される。一実施例において、放射性核種は、90Y又は111Inであり、キレート剤は、DOTAである。別の実施例において、放射性核種は、111Inであり、キレート剤は、NOTAである。別の実施例において、放射性核種は、111Inであり、キレート剤は、NODAである。別の実施例において、放射性核種は、90Y、111In、又は177Luであり、キレート剤は、DTPAである。
【0451】
本発明の数多くの分子構築物によれば、好ましい標的化成分又はエフェクター成分は、Fab、Fv、一本鎖Fv(scFv)、単一ドメイン 抗体(sdAb)、又は抗体の他の抗原結合断片である。scFvについて、(GGGGS)2-5配列を有するポリペプチドリンカーがVLとVHとの間、又はVHとVLとの間に配置される。 剛性の二次構造がない他の可撓性の配列は、例えば、いくつかのヒト免疫グロブリンアイソタイプのCH1ドメインとCH2ドメインとの間、およびCH2ドメインとCH3ドメインとの間の連結配列も使用されてもよい。 (GGGGS)1-3のポリペプチドリンカー及び末端システイン残基は、scFv若しくは他の抗体断片、又は成長因子、ホルモン、サイトカインのC末端に配置される。スルフヒドリル基は、リンカーユニットから伸びるリンクアームの末端にあるマレイミド基と結合するためのものである。
【0452】
近年非常に活発に研究されている抗体薬物複合体(ADC)アプローチは、細胞毒性薬物のペイロードを標的細胞にもたらす根底的な根拠を有する。しかし、鎖間ジスルフィド結合の還元型スルフヒドリル基、特に、抗体分子のヒンジ領域内のものを使用する典型的なADCアプローチでは、薬剤/抗体比(DAR)は通常可変であり、薬物結合抗体分子における1~8の分布を示す。典型的なADCでは、4または5を超える平均DARは、不安定性を引き起こすため、抗体分子に凝集または沈殿の問題を引き起こすことも知られている。典型的なADC構築物では、標的化部分が2つのFab又はFv抗原結合断片に制限される。本発明において、標的化成分は、種々の抗体断片に加えて、増殖因子、サイトカイン、ホルモンであり得る。エフェクター成分は、細胞毒性薬物、トール様受容体アゴニスト、放射性核種用のキレート剤などの小分子薬物、並びに;種々の免疫因子、細胞、及び/又は、サイトカインに対するscFv等のタンパク質を含む広範なエフェクター成分であり得る。本発明の分子構築物において、標的化の特異性は、特定の標的化成分の数を調整すること、及び/又は、2つの異なるセットの標的化成分を含むことにより、高められる。
【0453】
細胞毒性薬物ペイロードを含むリンカーユニットは、別々に調製され、次に、抗体薬物複合体を調製するために、異なるIgG抗体と結合することができる。1セットの好ましい実施形態は、リンカーユニットは、特定の標的抗原に特異的なIgG分子のCH3ドメインの2つのC末端のそれぞれに結合され得る。該リンカーユニットは、3つ以上の細胞毒性薬物;2つ以上のトール様受容体アゴニスト(例えば、LPS分子);及び2つ以上の放射性核種用キレート剤(細胞毒性薬物、LPS分子、又はキレート剤のバンドルとも呼ばれる)を含む。これらの細胞毒性薬物のバンドル、LPS分子、及びキレート剤は、実験室試験、臨床試験、または商業的流通のための抗体薬物複合体を調製する学術および産業研究所に供給されることができる。
【0454】
本開示の実施形態によれば、標的化成分及びエフェクター成分の数に特に制限されないが、標的特異性及びエフェクター活性を向上させることができればよい。標的化成分及びエフェクター成分に対するリンカーユニットは、結合前に別々に調製することができる。ADCの調製において、細胞毒性薬物、LPS分子、放射性核種用キレート剤、又は他の小分子のバンドルは、 厳しい化学条件に抗体を暴露することなく別々に調製することができる。このアプローチを使用することにより、薬物が抗体分子上に直接結合される場合よりも、薬物対抗体比(DAR)を良好に制御することができる。ジョイント-リンカープラットフォームを採用することにより、様々な標的化/エフェクター医薬分子の調製に対応することができる。別の利点は、IgG.Fcが分子構築物に含まれず、補体媒介活性化のような潜在的なFc媒介効果が望ましくない場合、該効果を最小にすることができることである。
【0455】
パートIV 標的化部分及びエフェクター部分を有する分子構築物の用途
【0456】
腫瘍を治療するための免疫療法抗体および自己免疫疾患を治療するための抗炎症抗体の多くは、免疫系に作用している。予測される薬理学的効果は、標的腫瘍部位または疾患部位で免疫系を活性化するかまたは免疫活性を抑制することであるが、投与された抗体は、免疫学的な増強または抑制効果を全身的に引き起こすため、広範囲の副作用をもたらす。したがって、本発明の優先的な原理は、全身の免疫増強効果または免疫抑制効果を最小限に抑えながら、疾患部位(例えば、腫瘍、炎症部位など)に治療エフェクターを運ぶことである。
【0457】
パートIIIで説明した本発明の分子構築物は、標的化成分及びエフェクター成分を両方とも含むため、エフェクター成分に担持される薬物分子が標的化成分により所望の標的部位に送達されることができる。 従って、任意の疾患、症状及び/又は障害の標的治療は、標的化成分及びエフェクター成分の適切な選択により達成され得る。従って、本発明の別の態様は、様々な疾患、症状及び/又は障害の治療における本発明の分子構築物(ジョイント-リンカー構成及びFcに基づくものを有する分子構築物を含む)の応用に関する。本発明の方法によって治療可能な適切な疾患、症状、及び/又は、障害は、自己免疫疾患(関節リウマチ、乾癬、SLE、シェーグレン症候群、及びクローン病)、骨粗鬆症、びまん性腫瘍(様々な種類のリンパ腫及び白血病)、固形腫瘍、並びに、乾燥及び湿潤加齢黄斑変性症を含む。具体的には、これらの方法の各々は、被験体又は患者に上記の態様/実施形態のいずれかに係る治療有効量の分子構築物を投与することを含む。
【0458】
上記の疾患を治療するための標的化/エフェクター医薬品の構築に関与する標的化成分は、(1)コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンV、コラーゲンVII、コラーゲンIX、コラーゲンXI、α-アグリカン、オステオネクチン、及び、関節、皮膚又は骨における細胞外マトリックスのいくつかの他の成分に特異的なscFv;(2)CD19、CD20、CD22、CD30、CD52、CD79a、CD79b、CD38、CD56、CD74、CD78、CD138、CD319、CD5、CD4、CD7、CD8、CD13、CD14、CD15、CD33、CD34、CD36、CD37、CD41、CD61、CD64、CD65、CD11c、リンパ系及び骨髄系の細胞の他の表面抗原、並びに形質細胞の表面抗原に特異的なscFv;(3)固形腫瘍上に過剰発現されるEGFR、HER2/Neu、HER3、TN、グロボH、GD-2、CA125、CA19-9、及びCEAに特異的なscFvを含む。標的化成分は、ホルモン、成長因子、又はサイトカインの抗体であってもよい。ホルモン、成長因子、又はサイトカインの抗体は、腫瘍細胞又は他の疾患細胞に発現されるものである。なお、自己免疫疾患が結合組織の疾患であるため、様々なコラーゲンタイプは、標的化/エフェクター医薬品を標的結合組織に移動させる標的抗原として働くことができる。
【0459】
本発明のT-E医薬品のためのエフェクター成分の選択は、広範囲の分子を含み、即ち、(1)炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-12/IL-23、IL-17、IL-1、IL-6、BAFF)に特異的なscFv、(2)RANKLに特異的なscFv、(3)T細胞及びNK細胞に発現されたCD3及びCD16aに対するscFv、(4)PD-1、PD-L1、CTLA-4及び他の免疫チェックポイントに特異的なscFv、(5)免疫強化サイトカイン(IFN-α、IFN-γ、IL-2、TNF-α)、(6)細胞毒性分子、(7)TLRアゴニスト(LPS、モトリモード、イミキモッド、レスキモッド、ガリコイモッド、CpG オリゴヌクレオチド、β-グルカン、ザイモサン)、及び(9)放射性核種と複合体を形成したキレート剤を含む。
【0460】
本発明は、標的化成分の標的分子に対する結合の強度に対する要求が一様に同じではないを合理化する。例えば、CD19、CD38、HER2/Neu、EGFR、CA125に特異的なscFvを用いて、標的腫瘍細胞の表面にある腫瘍関連抗原を標的化するために、通常、標的化成分の標的腫瘍関連抗原に対する結合活性が高いことが望ましい。このようにして、抗原を発現しない他の細胞と比較して、標的細胞への特異的結合が増強される。さらに、結合親和性及び結合活性が高い場合に、標的化/エフェクター医薬品は、比較的低密度の標的抗原を発現する標的細胞に依然として結合することができる。結果として、細胞毒性薬物又は免疫増強エフェクター成分のペイロード等のエフェクター成分のペイロードは、それらのエフェクター機能を発揮する機会を増大する。
【0461】
抗炎症剤、例えば、抗TNF-α、抗IL-17、抗IL12/IL23、及び抗BAFFを疾患関節、皮膚、又はボウルに移動させるために、標的化成分が疾患部位の細胞外マトリックスにおける標的化抗原、例えば、 コラーゲンII、コラーゲンIX、コラーゲンVII、コラーゲンI、又はオステオネクチンに特異的なscFvに過度に強くに結合する必要がない。結合が強すぎると、望ましくない免疫機能を誘発するか、または細胞外マトリックスの完全性に影響を及ぼす可能性がある。標的部分の標的分子への結合活性が高くない場合であっても、細胞外タンパク質の豊富さは、治療用分子を標的化部分で隔離することができると予想される。T-E医薬品の標的化成分のオン-オフ結合の平衡状態は、T-E医薬品の局所濃度の上昇をもたらす。
【0462】
本発明は、コラーゲンII、コラーゲンI、コラーゲンVII、コラーゲンIX、又はオステオネクチンに特異的なscFvによる標的化について、結合活性が高すぎないことを合理化する。好ましい実施形態において、標的化IgG抗体は、標的抗原への結合の親和定数がKd<1x10-9である場合に、1つのscFvのみが医薬品に組み込まれ、及び2つのscFvを医薬品に使用する場合に、標的抗原に対する標的IgG抗体の結合親和性を1x10-8>Kd>1x10-9と低くする必要がある。抗TNF-αを関節に標的し、抗IL17又は抗BAFFを皮膚に標的する際の特異性を高めるために、それぞれが異なる結合抗原を有する2つの標的化成分を採用することができる。それにより、2つの標的抗原のうちの1つを発現する正常組織または細胞よりも、目的とする標的組織への結合を増強することができる。
【0463】
IV-(i)免疫障害
【0464】
自己免疫疾患の治療に使用される分子構築物は、以下の理論的根拠に基づいて設計される。即ち、炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体が炎症誘発性サイトカインによって影響を受ける疾患組織に運ばれる場合、治療効果が増強され、副作用が減少する。サイトカインは、ホルモンと異なり、一般に血流中を循環して遠隔標的細胞に作用しない。リンパ節の細胞は、遠心性リンパ管を介して出てリンパ循環に入る。リンパ球の産物は、リンパ節に入る血流に対して上流に移動してリンパ節から出ない。実際に、投与された抗体は、血液循環を介してリンパ節に入ることができる。しかしながら、サイトカイン分子は、ほとんど血液循環を介してリンパ節から出ることはない。局所リンパ節によって分泌されるサイトカインは、リンパ節の微小環境における細胞に作用する。したがって、炎症誘発性サイトカインを標的とする抗体が疾患炎症組織にある程度導かれれば、より少ない抗体がリンパ節に移動するため、副作用が減少し、より多くの抗体が疾患組織に移動し、治療効力が増強されることができる。
【0465】
TNF-αに対する抗体を例として、上記の分子構築物またはそれを含む医薬品を適用する場合、標的化成分としてコラーゲンIIに特異的なscFv、及びエフェクター成分としてTNF-αに特異的なscFvを有する分子構築物を用いて、過剰量のエフェクター成分(即ち、血液循環中のTNF-αの総量を超える量のTNF-αに特異的なscFv)を有する一定量の本発明の分子構築物が投与される。少量の治療薬が血液中のTNF-αによって中和されるが、残りの量は、コラーゲンIIが豊富な組織(関節を含む)に順調に局在する。多くのサイトカイン(インターロイキンまたはリンホカインとも呼ばれる)と同様に、TNF-αは主に免疫系の微小環境で働く。TNF-αの半減期が約1時間で、非常に短く、血液循環中にわずかな量で存在する。投与された本発明の抗TNF-αは、主にリンパ系に存在しリンパ系におけるTNF-αを中和することはない。したがって、重篤な感染を引き起こす抗TNF-αの副作用が減少される。
【0466】
一実施形態において、本発明の方法は、自己免疫の治療に有用であり、その第1標的化成分は、α-アグリカン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンV、コラーゲンVII、コラーゲンIX、又はコラーゲンXIに特異的なscFvであり、第1エフェクター成分は、TNF-α、IL-17、IL-1、IL-6、IL-12/IL-23、BAFF、IL-6(IL-6R)の受容体、若しくはIL-17(IL-17R)の受容体に特異的なscFv;又はTNF-α若しくはIL-1の可溶性受容体である。
【0467】
IV-(i)-A 乾癬
【0468】
本発明は、標的化成分としてI型コラーゲン及びVII型コラーゲンに特異的なscFv、及びエフェクター成分としてTNF-α、IL-12/IL-23、又はIL-17に特異的なscFvを用いて分子構築物を構築することが好ましい。本開示の一実施形態において、「ジョイント-リンカー」構成に基づく種々のT-E分子は、標的化成分としてコラーゲンI 及び/又はコラーゲンVIIに特異的なscFv、及びエフェクター成分としてIL-17に特異的なscFvを含む。
【0469】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、乾癬の治療に用いられる。この場合に、第1標的化成分は、コラーゲンI、又はコラーゲンVIIに特異的なscFvであり、第1エフェクター成分は、TNF-α、IL-12/IL-23、IL-17、又はIL-17Rに特異的なscFvである。
【0470】
IV-(i)-B SLE、皮膚ループス、又はシェーグレン症候群
【0471】
本発明において、BAFF又はIFN-αに特異的な抗体のscFvは、コラーゲンI及びコラーゲンVIIに特異的なscFvである標的化成分によって皮膚に運ばれる。本開示の一実施形態において、「ジョイント-リンカー」構成に基づく種々のT-E分子は、標的化成分としてコラーゲンI 及び/又はコラーゲンVII に特異的なscFv、及びエフェクター成分としてBAFFに特異的なscFvを含む。
【0472】
別の実施形態において、本発明の方法は、SLE、皮膚ループス、又はシェーグレン症候群の治療に適用される。この場合に、第1標的化成分は、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvであり、第1エフェクター成分は、BAFFに特異的なscFvである。
【0473】
IV-(i)-C 関節リウマチ、乾癬性関節炎、又は強直性脊椎炎
【0474】
別の好ましい実施形態において、本発明の方法によって治療可能な疾患は、関節リウマチ、乾癬性関節炎、又は強直性脊椎炎である。この場合に、第1標的化成分は、コラーゲンII、コラーゲンIX、コラーゲンXI、又はα-アグリカンに特異的なscFvであり、第1エフェクター成分は、TNF-α、IL-1、IL-6、IL-12/IL-23、IL-17、IL-6R又はIL-17Rに特異的なscFvである。
【0475】
IV-(i)-D 炎症性腸疾患
【0476】
コラーゲンI、III、Vは、腸及び結腸において豊富であることが見出されている。コラーゲンIが種々の組織に広く分布しているので、好ましくは、コラーゲンIII又はコラーゲンVに特異的なscFvを標的化成分として使用してTNF-αに特異的なscFvをクローン病又は潰瘍性大腸炎の患者の腸及び結腸に運ぶことが合理的である。本開示の一実施形態において、「ジョイント-リンカー」構成に基づく種々のT-E分子は、標的化成分としてコラーゲンIII及び/又はコラーゲンVに特異的なscFv、及びエフェクター成分としてTNF-αに特異的なscFvを含む。
【0477】
別の好ましい実施形態において、本発明の方法は、炎症性腸疾患の治療に使用され得る。この場合に、標的化成分は、コラーゲンIII又はコラーゲンVに特異的なscFvであり、第1エフェクター成分は、TNF-αに特異的なscFvである。この実施形態によれば、炎症性腸疾患は、クローン病又は潰瘍性大腸炎である。
【0478】
IV-(ii) 腫瘍
【0479】
本発明は、好ましい薬物標的化アプローチが2つの考慮事項を有することを合理化する。1つは、標的化剤の有効性および特異性を増加させることにより、比較的低い抗原密度を発現する標的細胞が依然として標的化剤によって結合されることである。もう1つは、治療剤が、特定の腫瘍関連抗原を発現する細胞に内在化されることを必要せず、疾患腫瘍組織に運ばれることである。このような治療剤の例は、標的細胞に対する細胞溶解効果を媒介するためにT細胞およびNK細胞を補充するscFvである。このような治療剤の例は、LPS分子等のトール様受容体アゴニスト、及び局所部位で免疫応答を誘発する、PD-1、PD-L1、CTLA-4に特異的なscFv等の免疫チェックポイントに特異的なscFvである。別の例は、放射性核種と複合体を形成したキレート剤のバンドルである。それらの治療剤の多くでは、腫瘍細胞によって発現される腫瘍関連抗原のレベルにかかわらず、疾患細胞及びバイスタンダー細胞に対する細胞溶解効果が組織部位で誘発され得る。
【0480】
したがって、本発明は、標的部位における治療剤の相対的な局在を増加させる多くの方法を具体化する。疾患部位への治療薬の特異的送達についてのこのような合理化は、がんを標的とする治療薬に限定されず、他の疾患の影響を受けた組織を標的とする治療薬にも及ぼす。標的特異的送達が絶対的である必要がない。換言すれば、投与された全ての薬物分子が所望の疾患部位に送達される必要はない。標的化成分を有さない同一の薬物に比べて、疾患標的への送達が増強されれば、薬物の治療効果が増加し、副作用が減少したと言える。
【0481】
IV-(ii)-A びまん性腫瘍
【0482】
本発明のT-E医薬品の好ましい一組の実施形態は、ジョイント-リンカー構成における細胞毒性薬物バンドルの使用である。強力な細胞毒性薬物には、オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、カリケアマイシン、カンプトテシン等が含まれる。好ましい実施形態において、5-10個の細胞毒性分子がリンカーユニットに保持される。比較のために、現在承認されているまたは臨床開発中の典型的なIgG 抗体薬物複合体は、標的化するための2つのFab断片、及び標的細胞を溶解するための、細胞毒性薬物の平均で3又は4分子の標的細胞を有する。本発明の分子構築物において、標的化成分として標的抗原に特異的な3-5個のscFv、及びエフェクター成分として5-10個の細胞毒性分子を含む。典型的な抗体薬物複合体アプローチと比較して、標的化特異性及び薬理学的効果の両方を大幅に高めることができる。さらに、標的細胞上の2つの異なる抗原に対する2つのセットのscFvを標的化成分として使用することにより、標的化の特異性および標的細胞による結合された抗体薬物複合体の摂取または内在化を高めることができる。本発明の分子構築物において、PEG又はペプチドリンクアームを介して細胞毒性分子を結合することで溶解性を向上させる。細胞毒性薬物ペイロードを有するリンカーユニットは、標的化成分に結合されたリンカーユニットとの結合の前に別々に調製される。このようなアプローチでは、リンカーユニット及び分子構築物全体の溶解性に問題がない。
【0483】
このセクションに記載された分子構築物は、標的細胞の表面抗原への結合についてより大きな結合活性を有し、また、臨床用途で認可されているかまたは臨床試験中である典型的な抗体薬物複合体よりも大きな毒性薬物ペイロードも有する。細胞毒性薬物ペイロードのバンドルを含むことで、本質的に、分子構築物の効力を向上させるため、標的化治療剤の特異性を増加させることができる。それらの治療剤は、びまん性腫瘍および固形腫瘍の治療において、より低い投与量で、増強された治療効果および低下した毒性を達成することができると予想される。このアプローチは、B細胞、T細胞、及び他の白血球に由来する異なる種類のリンパ腫及び白血病に適しているだけでなく、抗体標的化のための細胞表面分子を有する腫瘍にも適用可能である。該腫瘍は、例えば、通常多くの腫瘍に過剰発現されるヒト上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーに属する抗原を有する腫瘍である。
【0484】
抗CD3抗体のscFv断片は、腫瘍細胞を標的とするように設計されたT-E分子のエフェクター成分としてリンカーユニットに結合されることもできる。CD3に特異的なscFvの取り込みは、T細胞の動員及び腫瘍標的細胞の細胞毒性T細胞への付着を助ける。抗CD3のscFvによる結合は、T細胞の活性化を誘導し、その結果、接触または架橋された標的細胞が溶解する。抗CD3と抗原(例えば、CD20、CD30、及びEGFR)に特異的な抗体断片とを組み合わせた二重特異性抗体は、それらの抗原を発現する標的細胞を効率的に溶解することができる多くの例がある。
【0485】
上記の記載は、標的化機能に関与する分子構築物に使用され得る多くのエフェクターメカニズムを特定した。これらのエフェクターメカニズムは、細胞毒性薬物ペイロード及びCD3又はCD16aに特異的なscFvを含む。B細胞由来腫瘍、T細胞由来腫瘍、及びいくつかの他の種類の白血病(それらのうちのいくつかはびまん性の形態である)に対するエフェクターの分類は、固形腫瘍に対するエフェクターの分類とは異なる。例えば、LPSなどの免疫増強剤は、固形腫瘍を治療するための分子構築物におけるエフェクター成分として組み込まれることができる。強力な免疫増強IgGおよび抗CD28は、免疫活性を刺激するように局所腫瘍部位に適用および動員され得る。それらの強力な免疫増強剤は、様々な種類の白血病及びびまん性腫瘍を治療するための治療エフェクターとして適用できない。
【0486】
アポトーシスの効果を達成するために、結合剤は、B細胞受容体又はCD20等の標的細胞表面分子を効果的に架橋およびクラスター化することができなければならない。本発明者らは、表面分子の架橋が、標的細胞表面上の多数の小さな凝集体ではなく、架橋分子の「中心集束」クラスターを達成すべきであることを合理化する。本発明者らは、アポトーシス効果を達成する際に多くの因子が結合因子に影響を及ぼすことをさらに合理化する。結合剤の複数の価数は、架橋能力を高めることができる。しかし、結合アームが多すぎると、結合剤のサイズが増大し、その組織への浸透の能力に影響を及ぼす。結合剤は、細胞の平坦表面上の標的細胞表面に効果的に結合すべきである。したがって、PEG-scFvなどの結合アームは、ある程度の可撓性を有し、立体的制約なしに標的抗原部位に到達することができる。一方、結合アームが長すぎると、架橋およびクラスタリング効果が最適でないか、または結合アームが隣接する細胞上の細胞表面分子に到達する可能性がある。本発明者らは、十分なリンクアームがマルチアームリンカーユニットにある場合に、Fab又はscFv断片は、IgG又はF(ab')2全体よりも高い可撓性を提供できることも合理化する。
【0487】
本発明の好ましい実施形態において、上記の根拠を採用している。本発明の方法は、様々な種類の細胞上の様々な抗原に特異的な抗体に適用可能であるが、本明細書の例において、B細胞及びこれらの細胞上の抗原に特異的な抗体、即ち、CD20、CD79a/CD79b(Igα/βとしても知られている)、並びに免疫グロブリンアイソタイプ特異的抗原エピトープ(ミジス-α及びミジス-βとも呼ばれる)を使用する。これらは、α及びδ膜結合免疫グロブリン鎖のC末端から伸びる膜アンカーペプチドの外側セグメントによって表される。
【0488】
CD20は、B細胞悪性腫瘍を治療するための治療標的として提供される膜貫通タンパク質である。CD20は、B細胞前段階から最終分化した形質細胞までの分化および成熟経路にわたるBリンパ球の95%以上で発現するが、造血幹細胞には存在しない。CD20は、主に細胞表面上の四量体として存在すると考えられている。今まで最も広く使用されているB細胞標的化抗体薬物はCD20に対するキメラIgG1モノクローナル抗体であるリツキシマブである。蓄積データは、リツキシマブがB細胞リンパ腫の患者の約50%のみに有効であることを示めす。臨床用途またはヒト臨床試験で承認されている抗CD20抗体には、キメラ「C2B8」モノクローナル抗体(リツキシマブ)、モノクローナル抗体1F5およびキメラ2H7抗体が含まれる。
【0489】
CD19及びCD22等の他のB細胞表面抗原に特異的な抗体は、一般に、B細胞由来の腫瘍細胞に対して溶解作用を引き起こさない。本発明者らは、CD19のようなB細胞表面抗原に特異的なscFvをCD20に特異的なscFvと組み合わせることで、結合特異性および結合活性を高め、標的細胞を溶解することが有効であることを合理化する。このような用途において、CD20に特異的なscFvは、標的化成分及びエフェクター成分として考えられることができる。上記のような根拠に基づいて、標的B腫瘍上に一定のレベルのCD20が存在すれば、B細胞上の数多くのCDマーカーがCD20と組み合わせることができる。本開示の一実施形態において、「ジョイント-リンカー」構成に基づく様々なT-E分子は、標的化成分としてCD20及びCD19に特異的なscFv、並びにエフェクター成分としてCD3又はCD16aに特異的なscFv、及び細胞毒性薬物のバンドルを含む。
【0490】
表面抗原発現に関して多発性骨髄腫同士にかなりの異種性があるが、個々の患者の表面マーカーの系統的プロファイリングは標的化戦略を提供することができる。近年、いくつかのCDマーカー、例えば、CD38、CD138、CD78、CD319、及び他の表面抗原を標的とする多数の抗体薬物複合体又は二重特異性抗体が開発されている。本発明者らは、標的化抗体の結合活性及びエフェクターメカニズムを向上できれば、治療をより特異的及び効果的にすることを合理化する。多発性骨髄腫の治療に関する本発明の好ましい実施形態は、標的化成分としてCD38、CD78、CD138、又はCD319に特異的な1つ又は2つの抗体の3つ以上のscFv、及びエフェクター成分として5-10個の細胞毒性薬物分子を有する薬物ペイロードを使用する分子構築物である。他のエフェクター成分、例えば、CD3又はCD16aに特異的なscFvを使用してもよい。本開示の一実施形態において、「ジョイント-リンカー」構成に基づく様々なT-E分子は、標的化成分としてCD38及びCD138に特異的なscFv、並びにエフェクター成分としてCD3又はCD16aに特異的なscFv、及び細胞毒性薬物のバンドルを含む。
【0491】
細胞表面上の標的タンパク質が有効に架橋されて大きなクラスターを形成するためには、タンパク質は、(ニ次架橋剤の助けなしに)結合剤が結合するための2つ以上の抗原部位を有する必要がある。例えば、各Igα/Igβ-BCR複合体が1つのコピーのIgα及び1つのコピーのIgβしか有さないため、Igα又はIgβに特異的な複数のコピーのFab又はscFvを有する結合剤であっても、Igα/Igβ-BCRの生産的な架橋を誘導してクラスターを形成することができない。言い換えれば、Igαに特異的な4つのFab(又はscFv)を有する4-アームリンカーは、最大でも多くの4つのBCRの小さな単位を形成するが、大きな架橋複合体を形成することができない。従って、Igα/Igβ-BCRを架橋するために、4〜6-アームリンカーは、1つのリンカーユニットに結合されるIgαに特異的な2〜3個のscFv、及び他のリンカーユニットに結合されるIgβに特異的な2〜3個のscFvを有する必要がある。或いは、Igαに特異的なscFvを有する4-アームのリンカーと、Igβに特異的なscFvを有する4-アームのリンカーとを組み合わせて患者に投与する。
【0492】
本開示のいくつかの実施形態によれば、B細胞由来腫瘍を治療するために設計されたものに類似するT-E分子が設計される。それらの構築物については、T細胞のCDマーカーに特異的なscFvが標的化成分として使用され、エフェクター成分は、B細胞腫瘍を標的化するためのものと同じである。本発明は、T細胞活性化及びサイトカインストームを誘導することなくT細胞アネルギー又は機能不全を部分的に引き起こすための抗CD3抗体の断片に基づく分子構築物に関する。このような構築物は、I型糖尿病、SLE、多発性硬化症、炎症性腸疾患などを含むT細胞媒介性自己免疫疾患を治療するために使用することができる。後述されるように、標的化成分として腫瘍関連抗原に特異的な種々のscFvを有する分子構築物において、CD3に特異的なscFvは、T細胞を動員して標的腫瘍細胞を除去するエフェクター成分として使用されてもよい。
【0493】
本開示のいくつかの実施形態によれば、B細胞由来腫瘍を治療するために設計されたものに類似するT-E分子が設計される。それらの構築物については、骨髄系細胞のCDマーカに特異的なscFvが標的化成分として使用され、エフェクター成分は、B細胞腫瘍を標的化するためのものと同じである。
【0494】
本開示の他の実施形態によれば、本発明の方法によって治療可能な疾患は、びまん性腫瘍又は固形腫瘍を含む腫瘍である。これらの実施形態において、びまん性腫瘍は、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、又は骨髄腫であり得る。
【0495】
本開示の一実施形態において、本発明の方法は、びまん性腫瘍の治療に有用である。この場合に、第1標的化成分は、CD4、CD5、CD7、CD8、CD10、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD33、CD34、CD36、CD37、CD38、CD41、CD43、CD56、CD61、CD64、CD65、CD74、CD78、CD79a、CD79b、CD80、CD138、又はCD319に特異的なscFvであり、第1エフェクター成分は、細胞毒性薬物、又はCD3若しくはCD16aに特異的なscFvである。本開示の別の実施形態において、第1標的化成分及び第1エフェクター成分の1つは、CD79aに特異的なscFvであり、第1標的化成分及び第1エフェクター成分のもう1つは、CD79bに特異的なscFvである。必要に応じて、細胞毒性薬物は、オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、カリケアマイシン、及びカンプトテシンからなる群から選択される。
【0496】
1つの好ましい実施形態において、本発明の方法は、Bリンパ球由来リンパ腫又は白血病の治療に使用される。この場合に、第1標的化成分は、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD37、CD79a、又はCD79bに特異的なscFvであり、第1エフェクター成分は、細胞毒性薬物、又はCD3若しくはCD16aに特異的なscFvである。
【0497】
別の好ましい実施形態において、本発明の方法は、Bリンパ球由来リンパ腫又は白血病の治療に使用される。この場合に、第1標的化成分及び第1エフェクター成分の1つは、CD79aに特異的なscFvであり、第1標的化成分及び第1エフェクター成分のもう1つは、CD79bに特異的なscFvである。
【0498】
別の実施形態において、本発明の方法によって治療可能な疾患は、形質細胞腫又は多発性骨髄腫である。この場合に、第1標的化成分は、CD38、CD78、CD138、又はCD319に特異的なscFvであり、第1エフェクター成分は、細胞毒性薬物、又はCD3若しくはCD16aに特異的なscFvである。
【0499】
別の実施形態において、本発明の方法は、T細胞由来リンパ腫又は白血病に効果を有する。この場合に、第1標的化成分は、CD5、CD30、又はCD43に特異的なscFvであり、第1エフェクター成分は、細胞毒性薬物、又はCD3若しくはCD16aに特異的なscFvである。
【0500】
1つの実施形態において、本発明の方法は、骨髄性白血病の治療に使用される。この場合に、第1標的化成分は、CD33又はCD34に特異的なscFvであり、第1エフェクター成分は、細胞毒性薬物、又はCD3若しくはCD16aに特異的なscFvである。
【0501】
IV-(ii)-B 固形腫瘍
【0502】
本発明は、上記の腫瘍関連抗原に特異的な抗体断片に結合されたマルチアームリンカーに関する。腫瘍関連抗原に特異的な多数の抗体、例えば、抗HER2/NEU(トラスツズマブ)、抗CA19-9(クローン1116-NS-19-9由来)、抗CA125(クローンOC125由来)、抗GD2(ch14.18モノクローナル抗体)、及び抗グロボH(クローンVK9)容易に利用可能である。本発明は、治療剤を腫瘍部位に運ぶために、それらの腫瘍関連抗原に特異的な抗体のscFv又はbi-scFvをマルチアームリンカーに結合する応用に関する。
【0503】
本発明のいくつかの実施形態において、「ジョイント-リンカー」構成におけるT-E分子は、複数のコピーのリガンド、成長因子、サイトカイン又はホルモン、及び1つ以上のコピーの治療剤を腫瘍部位に結合するように設計される。上記腫瘍部位において、疾患細胞は、リガンドが結合する受容体を発現する。そのような薬物送達アプローチは、特異性を増強するため、治療剤を単に使用するよりも、高い治療効果および低い副作用を可能にする。
【0504】
そのようなアプローチに適したリガンドは、上皮成長因子(EGF)及びその変異型、エピレグリン、ヘパリン結合上皮成長因子(HB-EGF)、血管内皮成長因子A(VEGF-A)、塩基性線維芽細胞成長因子(FGF)、肝細胞成長因子(HGF)、ガストリン、CCK、セクレチン、ガストリン放出ペプチド、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、ニューロメジン、甲状腺刺激ホルモン(TSH、又はチロトロピン)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)及びソマトスタチンを含む。
【0505】
少なくとも4種類のVEGF(VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C及びVEGF-D)がある。その中でも、VEGF-Aは、血管の内皮細胞の血管新生に関与する。VEGF-Aは、VEGF受容体1、2(VEGFR1及びVEGFR2)のいずれにも結合することができる。N末端のEGFのSer2-Asp3がTrp2-Val3又はTrp2-Arg3に変異した場合、変異したEGFは、HER1だけでなく、HER2及びHER3にも結合できることが見出された(StortelerC. et al.、Biochemistry 41:8732-8741、2002)。従って、EGF(W2V3)、EGF(W2R3)、又はVEGF-Aによる標的化は、EGF又はVEGF-A受容体に特異的な抗体よりも、広範な腫瘍標的細胞に作用することができる。
【0506】
これらのペプチド又はタンパク質のほとんどは、サイズが比較的小さい。即ち、EGF:53a.a.;ソマトスタチン:14a.a.及び28a.a.;セクレチン:27a.a.;ガストリン:14〜34a.a.;CCK:8-58a.a.;ガストリン放出ペプチド:27a.a.;GLP-1:37a.a.;甲状腺刺激ホルモンの受容体結合β鎖:118a.a.;ニューロメジン:10a.a.;ACTH:39a.a.;及びGnRH:10a.a.である。VEGF-Aは120〜188a.aの2つのペプチドを有する二量体である。ラジオイメージング研究では、ホルモン、因子又は人工的に設計されたペプチドの切断されたセグメントは、それらの各自の受容体との同程度又はより強い結合を保持することが示されている。例えば、オクタペプチドは、ソマトスタチン受容体を発現する腫瘍のイメージングのために設計される。
【0507】
細菌、ウイルスおよび他の微生物の産物の中には、強い免疫応答を誘発するものがある。例えば、ブドウ球菌エンテロトキシンのようなスーパー抗原は、MHCクラスII抗原及びT細胞受容体に同時に結合することによって、T細胞の重要な部分を活性化することができる。多種多様な微生物産物は、トール様受容体(TLR)に結合して、広範囲の免疫活性を活性化することができる。
【0508】
3つのTTLRアゴニストは、特定のがんおよび感染症の治療がFDAによって承認された。TLR2及びTLR4を活性化するバチルス・カルメット・ゲランは、結核に対するワクチンとして長く使用されてきた。これは、その場の膀胱がん免疫療法における使用が承認された。もともと局所抗ウイルス剤として開発された小さなイミダゾキノリンであるイミキモッドは、TLR7にも結合し、且つ、光線性角化症および表在基底細胞がんの承認を受けた。TLR2及びTLR4に結合する、サルモネラ・ミネソタ(Salmonella minnesota)由来のリポ多糖(LPS)の誘導体であるモノホスホリル脂質Aは、子宮頸がんのほとんどの症例を引き起こす乳頭腫ウイルスに対するワクチンのアジュバントとして承認された。
【0509】
潜在的な治療用免疫刺激物質として研究されている他のTLRアゴニストは、(1)特定の真菌、特にアスペルギルスおよびアガリクス種の細胞壁に由来するβ-D-グルカン、並びにTLR2および免疫細胞の他の受容体に結合する酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomycecerevisiae)などの特定の真菌の細胞壁に由来するザイモサンを含むグルカン;(2)TLR8に結合する小分子であるモトリモード;(3)上記のイミキモド;(4)TLR9に結合する、Cに続くGヌクレオチドを含む短い一本鎖合成DNA分子であるCpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG DON);を含む。それらのTLR結合剤は、一般に、樹状細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、好中球、及び天然免疫の他の免疫細胞を活性化し、及び炎症性サイトカインの大きな配列の産生を誘導し、該配列が適応免疫を増強する。天然および適応免疫は、病理学的成分の除去に対し相乗的に作用する。
【0510】
エンドトキシンまたは外因性発熱物質とも呼ばれるグラム陰性菌由来のLPSは、免疫系の非常に強い刺激物質である。LPSは、単球、樹状細胞、及びマクロファージ上のCD14/TLR4/MD2受容体複合体に結合し、先天性免疫系の強い応答を誘発し、炎症性サイトカインの産生を誘導する。ヒトでは、1μg/ kgのLPSはショックを誘導することができ、強力な免疫刺激剤である。未修飾LPSの全身投与は非常に危険である可能性がある。
【0511】
本発明は、LPSを担体に結合して腫瘍部位に運ぶことができれば、強力なインサイチュ局所免疫応答を誘導し、炎症性サイトカインの放出を引き起こし、血管透過性を高め、及び種々のエフェクター細胞を部位に動員することができることを合理化する。これは、炎症を起こした組織の腫瘍細胞を溶解するのに役立てる。腫瘍内の細胞が腫瘍関連抗原を様々な密度で発現するので、本発明のアプローチは、腫瘍関連抗原の細胞密度にかかわらず、腫瘍部位の全ての細胞に免疫活性を誘発する。
【0512】
本発明は、LPSの強力な炎症活性が標的腫瘍部位に大きく限定されることを合理化する。従って、好ましい実施形態は、腫瘍関連抗原に特異的な3つのscFvが標的化成分として1つのリンカーユニットに結合され、2-3個のLPS又はモノホスホリル脂質A分子がエフェクター成分として他のリンカーユニットに結合される。従って、2つの腫瘍関連抗原に特異的な2つのセットのscFvは、2つのリンカーユニットに別々に結合され、該2つのリンカーユニットがさらに結合されて標的化成分を形成する。
【0513】
LPSはリンカーを介してタンパク質に結合され得ることが実証された。この方法は、1-シアノ-4-ジメチルアミノピリジニウムテトラフルオロボレート(CDAP)によるLPSの活性化、及びタンパク質の第一級アミノ基との結合を含む。この実験は、LPSがエンドトキシン活性の70%を保存しているタンパク質に結合されることを示している。本発明のリンカーユニットへのLPSの結合は、同様の手順に従って達成されることができる。LPSの炭水化物成分中のヒドロキシル基の活性化は、水溶液中で穏やかな条件下でCDAPで処理することによって行うことができる。続いて、CDAP活性化LPSをNH2----SH架橋剤と反応させ、次いでリンカーユニットのリンクアームのマレイミド基と反応させる。
【0514】
本発明は、治療薬が疾患部位に、より特異的に局在することができれば、より大きな治療濃度域が得られ、より多くの治療効果が達成され、及び副作用より少なくなることを合理化する。本発明において、T-E分子は、免疫チェックポイントに特異的なscFvを、免疫メカニズムを解放してがん細胞を破壊するエフェクター成分として運ぶように設計される。該免疫チェックポイントに特異的なscFvは、細胞毒性Tリンパ球関連タンパク質4、又はCTLA-4(CD152)、プログラム細胞死1、又はPD-1(CD279)、及びプログラム細胞死1リガンド1、又はPD-L1(CD274又はB7-H1)である。
【0515】
本発明は、それらのサイトカインが腫瘍部位に動員されると、強力な免疫活性または炎症活性を局所的に誘発することができ、腫瘍の除去に至ることを合理化する。従って、本発明は、免疫調節性サイトカイン自体ではなく、マルチアームリンカーを用いて免疫調節性サイトカインに特異的なscFv又はbi-scFvを結合する。その根拠は、scFvを用いて、既に体内に存在し血液中を循環している免疫調節性サイトカインを動員し、それらを腫瘍部位に集中させることである。これらの分子構築物に使用されるサイトカイン特異的scFvは、サイトカインの活性を中和しない。scFvは、サイトカインに対して非常に高い結合親和性を有しない。これらの個々のscFv断片は、1-5 x10-8の範囲のKdが十分である。この好ましい実施形態において、各scFvは、免疫調節性サイトカインの複数の分子を潜在的に動員し、治療効果を向上させることができる。
【0516】
いくつかの腫瘍は、2つの過剰発現腫瘍関連されたマーカーを有する。例えば、いくつかの胃腸および神経内分泌腫瘍上のCA19-9及びCCK/ガストリン受容体、又はいくつかの胸部腫瘍上のグロボH及びHER2/Neuである。本発明は、各々が異なるエフェクター剤を有する2つのガイドメカニズム(例えば、1つは細胞毒性薬物 ペイロードを有し、もう1つはLPSを有する)を用いることにより、併用治療効果がより強くなり、副作用がより小さくなることを合理化する。好ましい治療方式において、まず、LPS、抗PD-1、抗PD-L1、抗CTLA-4、抗TNF-α、抗IFN-γ、又は抗IFN-αを有する分子複合体を用いて「インサイチュ」炎症または免疫活性化を誘発し、血管透過性を高める。局所的炎症または免疫活性化が腫瘍または疾患細胞に対して完全な細胞溶解効果を奏しない場合、細胞毒性薬物ペイロードを有する分子構築物をその後投与することにより、標的腫瘍関連抗原を有する細胞に対する細胞溶解効果を増大させることができる。
【0517】
標的化成分によって標的固形腫瘍部位に運ぶことができる治療エフェクターは、(1)結合細胞を殺す細胞毒性薬物;(2)ADCC又は細胞毒性活性を誘導する抗CD16a又は抗CD3;(3)免疫活性を活性化するLPS若しくは他のTLRアゴニスト、抗IL-2、抗TNF-α、抗IFN-γ、又は抗IFN-α;(4)免疫チェックポイントを解放し、抑制的フィードバック活動を抑制する抗PD1、抗PD-L1、抗CTLA-4、又は他の免疫チェックポイント阻害剤;を含む。これらの薬剤の治療目的は、リガンドの受容体を有する腫瘍細胞の溶解を引き起こすことである。
【0518】
例えば、ジョイント-リンカー構成の種々のT-E分子は、標的化成分としてHER2/Neuに特異的なscFvの単独、又はHER1に特異的なscFvとの組合せ、及びエフェクター成分として細胞毒性薬物、LPS、又はCD3、CD16a、PD1若しくはVEGF-Aに特異的なscFvを使用する。ジョイント-リンカー構成の種々のT-E分子は、標的化成分としてGD2に特異的なscFvの単独、又はグロボHに特異的なscFvとの組合せ、及びエフェクター成分として細胞毒性薬物、LPS、又はCD3、CD16a、PD1若しくはVEGF-Aに特異的なscFvを使用する。ジョイント-リンカー構成の種々のT-E分子は、標的化成分としてコレシストキニン(CCK)の単独、又はソマトスタチンとの組合せ、及びエフェクター成分として細胞毒性薬物、LPS、又はCD3、CD16a、PD1若しくはVEGF-Aに特異的なscFvを使用する。ジョイント-リンカー構成のいくつかのT-E分子は、標的化成分として前立腺特異的膜抗原(PSMA)に特異的なscFv、及びエフェクター成分としてIL-2、TNF-α、IFN-α、又はIFN-γに特異的な非中和scFvを使用する。
【0519】
前のセクションでは、成長因子、ペプチドホルモン、又はサイトカインを標的化成分として使用するマルチアームリンカーユニットに基づく分子構築物が説明され、好ましい実施形態が記載された。それらの非免疫グロブリンペプチド又はタンパク質は、IgG様分子構築物又は二本鎖IgG.Fc融合タンパク質となるように構成されることもできる。具体的には、成長因子、例えば、EGF若しくはその変異型、エピレグリン、HB-EGF、VEGF-A、FGF、HGF、ガストリン、CCK、セクレチン、ガストリン放出ペプチド、GLP-1、ニューロメジン、TSHのβ-鎖、ACTH、GnRH、又はソマトスタチンは、標的化成分として使用されることができる。これらの成長因子またはホルモンの受容体を発現する細胞に由来する腫瘍は、通常、これらの受容体を発現する。本開示の一実施形態において、分子構築物は、IgG.Fc融合タンパク質構成における標的化成分としてEGFを使用する。エフェクター成分は、C末端ペプチドリンカーに結合される細胞毒性分子又はLPS分子を有するリンカーユニットを含む。エフェクターは、CD3、CD16a、PD-1、又はVEGF-Aに特異的なscFvであり得る。免疫調節性サイトカイン、例えば、IFN-α、TNF-α、IL-2、及びIFN-γは、エフェクター成分として使用されることができる。scFv又は免疫調節性サイトカインは、組換えペプチド鎖の一部として発現され得る。
【0520】
本発明の好ましい実施形態において、T-E分子は、標的化成分として腫瘍関連抗原に特異的なscFv、及びエフェクター成分としてハプテンに特異的なscFvを使用する。このハプテンは、ジニトロフェノール(DNP)、トリニトロフェノール(TNP)、ダンシル基、ペニシリン、p-アミノ安息香酸、又はヒト細胞のタンパク質、ウイルス、細菌由来の、既存の抗体が関与し得る短いペプチドを含む。例えば、ヒトBリンパ球上の膜結合IgEのCεmXドメインに位置する8つのアミノ酸残基のペプチドWADWPGPPは、タンパク質データベース全体においてユニークな配列であり、且つ、B細胞表面上の抗体に接触されない。このように設計されるT-E分子が腫瘍関連抗原を発現する腫瘍の患者に投与される場合に、T-E分子は、腫瘍細胞に結合し、腫瘍部位で続いて投与されるハプテンでタグ付けされた免疫調節性抗体、サイトカイン、又は他のタンパク質を動員する。
【0521】
治療用分子上にタグ付けされたハプテンは、ペプチドリンカー(例えば、GGGGS又は(GGGGS)2)を介して、抗体(例えば、PD-1、PD-L1、CTLA-4、VEGF-A、CD3、CD28に特異的なIgG抗体)、又は免疫調節性サイトカイン(例えば、IL-2、TNF-α、INF-α、又はINF-γ)のC末端に導入されたものである。ペプチドリンカー及びペプチドハプテンは、組換えタンパク質の一部として発現されることができる。リンカーユニットに基づく細胞毒性薬物ペイロードのバンドルは、リンクアームを介してハプテンでタグ付けされ、腫瘍部位に動員されてもよい。この治療戦略は、腫瘍部位における治療薬の相対的分布を増加させ、治療効果の増大、並びに毒性および副作用の減少を達成する。
【0522】
CD3又はCD28に特異的なIgGは、非常に強力なT細胞活性化因子である。これらの抗体の全身適用は、大規模なサイトカインストームを引き起こし得る。しかし、T細胞を活性化する際に、抗CD3又は抗CD28抗体を少ない量で投与し、且つ腫瘍組織に集中させることができれば、得られた効果は、局所免疫活動及び炎症の誘導に非常に有効であり、且つ様々な免疫細胞を、腫瘍細胞に対抗するように動員することができる。従って、本発明の好ましい実施形態において、これらの抗体をハプテンでタグ付ける。そして、タグ付けされた抗CD3又はCD28を非常に少量で投与する。
【0523】
ある腫瘍関連抗原(例えば、CA19-9、CA125、及びがん胎児性抗原(CEA))は、腫瘍細胞から脱落して血液循環に入る。血清サンプルにおけるこれらの抗原の検出及び測定は、健康診査において、腫瘍を予め検出するためのルーチン試験となっている。この試験は、治療後の効果及び腫瘍状態のモニターにも適用される。血清中の他の腫瘍関連抗原は、ルーチンでは試験されないが、異なる量で血液循環に存在することも知られている。
【0524】
薬物結合腫瘍腫瘍標的化医薬品の治療目的を達成する上で重要なのは、治療剤を標的腫瘍部位に特異的に運ぶこと、並びに、毒性治療剤が最少量で他の分子及び組織に入ることである。本発明は、このような腫瘍関連抗原が本発明のT-E医薬品の標的化成分の抗原性標的である場合に、CA19-9、CA125、又はCEA等の循環腫瘍関連抗原のクリアランスにも関する。血液における腫瘍関連抗原のクリアランスは、標的腫瘍関連抗原に特異的な本発明の医薬品の使用前に、血液透析により、患者の血漿を、目標となる腫瘍関連抗原に特異的な抗体が結合された樹脂で充填したアフィニティーカラムを通過することにより行うことができる。
【0525】
標的細胞上の細胞表面抗原に対する抗体の結合の際に標的細胞の溶解を引き起こすいくつかの潜在的メカニズムが存在する。これらのメカニズムには、アポトーシス、抗体依存性細胞毒性(ADCC)、及び補体媒介性細胞溶解(CMC)が含まれる。これらの3つのメカニズムの相対的重要性は、標的化抗原及び抗原に結合する抗体に依存し得る。抗体によってIgα又はIgβを標的化してB細胞溶解を引き起こす場合に、Igα又はIgβに特異的なIgG抗体は、効果的な溶解を引き起こさないため、抗体が3つの溶解メカニズムすべてを誘発ことができないことを示唆する。上述したように、抗体はIgαまたはIgβを効果的に架橋してアポトーシスを引き起こさない。抗体は効果的なADCC及びCMCを媒介することができない。従って、ある研究グループは、アポトーシスを効果的に引き起こす毒素結合抗Igβを開発している。本質的にペプチドグリカン又はムチンに属する腫瘍関連抗原に特異的な抗体は、抗体及びそれらの運ばれている細胞毒性薬物のインターナリゼーションを誘導することもできない可能性がある。
【0526】
本発明は、PEG修飾結合剤および薬物結合抗PEG抗体の連続投与の新しい治療様式にも関する。PEG修飾結合剤は、PEGに結合して薬物動態学的特性を改善させるタンパク質治療剤、及びPEGリンクアームを使用するマルチアームリンカーに基づく治療剤を含む。標的表面抗原の密度が低いこと、架橋が不十分であること、アポトーシスを誘導できないこと、または他の理由により、PEG修飾結合剤が標的細胞の有効な細胞溶解を引き起こさない場合に、薬物結合抗PEG IgG又はF(ab')2を使用することにより、細胞溶解効果を増強または誘導することができる。抗PEG IgG又はF(ab')2の複数の分子は、PEGの各鎖に結合することができ、細胞毒性薬物の複数の分子は、各抗PEG IgG又はF(ab')2分子によって担持されることができる。二価抗PEG IgG又はF(ab')2の使用は、標的表面抗原とPEGに結合された結合剤との架橋複合体を形成することができる。二価抗PEG IgG又はF(ab')2の結合は、大きな複合体(標的表面抗原+PEGに結合された結合剤+薬物結合二価抗PEG IgG又はF(ab')2)を形成することができ、このような複合体が標的細胞により内在化される。内在化された薬物は、その後、標的細胞の細胞溶解を引き起こす。この治療戦略は、腫瘍関連抗原を標的とする分子構築物と併用することにより、有効となるべきである。
【0527】
そのような戦略は、腫瘍標的化結合剤の結合および特異性の向上、及び抗PEG抗体結合による強化を達成できるため、より大きくより特異的な薬物ペイロードを可能にする。薬物結合抗PEG IgGは、以下のように調製され得る。即ち、IgGに対し、(GGGGS)2リンカー及びシステイン残基をγ重鎖のC末端に導入し、2つのスルフヒドリル基を介して細胞毒性薬物ペイロードを有する2つのリンカーユニットに結合し、ここで、各リンカーユニットは3-5分子の細胞毒性薬物を有する。
【0528】
本発明は、PEGに結合された抗体の抗原結合断片及びLPS結合抗PEG抗体の連続投与の新しい治療様式にも関する。該抗体は、CEA、グロボH、又はSSEA4等の腫瘍関連抗原に特異的である。LPS結合抗PEG IgG又はF(ab')2を使用することにより、標的腫瘍部位で強い免疫応答を誘発することができる。例えば、グロボHまたはSSEA4を発現するがんの患者に、まず、4つのscFv断片と結合した4-アームPEGリンカーを投与し、一定の時間後、LPS結合抗PEG IgG又はF(ab')2を投与する。
【0529】
本開示の特定の実施形態において、本発明の方法は、固形腫瘍の治療に有用である。
【0530】
この実施形態において、第1標的化成分は、ペプチドホルモン、成長因子、又は腫瘍関連抗原に特異的な抗体断片であり、第1エフェクター成分は、細胞毒性薬物、トール様受容体アゴニスト、放射性核種と複合体を形成したキレート剤、サイトカイン、又は成長因子、細胞表面抗原、ハプテン若しくはサイトカインに特異的な抗体断片である。
【0531】
本開示のいくつかの任意の実施形態において、エフェクター成分がハプテンに特異的な抗体である場合に、この方法は、本分子構築物の投与前に、被験体に同一のハプテンでタグ付けされた免疫調節エフェクターを投与するステップをさらに含む。
【0532】
一例によれば、本発明の方法によって治療可能な疾患固形腫瘍は、メラノーマ、食道がん、胃がん、脳腫瘍、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、乳がん、膵臓がん、結腸がん、直腸がん、大腸がん、腎がん、肝細胞がん、卵巣がん、前立腺がん、甲状腺がん、精巣がん、又は頭頸部扁平上皮がんであり得る。
【0533】
別の例によれば、腫瘍関連抗原は、ヒト上皮成長因子受容体1(HER1)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、ヒト上皮成長因子受容体3(HER3)、ヒト上皮成長因子受容体4(HER4)、糖鎖抗原19-9(CA 19-9)、糖鎖抗原125(CA 125)、ムチン1(MUC 1)、ガングリオシドGD2、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM2、フコシルGM1、Neu5GcGM3、メラノーマ関連抗原(MAGE)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、メソセリン、ムチン関連Tn、シアリルTn、ルイスY、シアリルルイスY、ルイスA、ルイスx、ヘパリン結合上皮成長因子(HB-EGF)、グロボH、及び段階特異的胚抗原-4(SSEA-4)からなる群から選択される。
【0534】
別の例によれば、ペプチドホルモンは、セクレチン、ガストリン、コレシストキニン(CCK)、ガストリン放出ポリペプチド、グルカゴン様ポリペプチド1(GLP-1)、ニューロメジン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、及びソマトスタチンからなる群から選択される。
【0535】
別の例によれば、成長因子は、上皮成長因子(EGF)、変異型EGF、エピレグリン、ヘパリン結合上皮成長因子(HB-EGF)、血管内皮成長因子A(VEGF-A)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、及び肝細胞成長因子(HGF)からなる群から選択される。一実施例において、第1標的化成分は、EGF、変異型EGF、HB-EGF、VEGF-A、bFGF、又はHGFである。別の実施例において、第1エフェクター成分は、EGF、変異型EGF、VEGF-A、bFGF、又はHGFに特異的なscFvである。
【0536】
一例において、細胞表面抗原は、PD-1、PD-L1、CTLA-4、CD3、CD16a、CD28、又はCD134である。
【0537】
別の例において、ハプテンは、ジニトロフェノール(DNP)、トリニトロフェノール(TNP)、ダンシル、ペニシリン、p-アミノ安息香酸、又は配列番号:20のアミノ酸配列を有する短いペプチドである。
【0538】
別の例において、サイトカインは、IL-2、IL-10、IL-12、IFN-α、IFN-γ、TGF-β、又はTNF-αである。一実施形態によれば、第1エフェクター成分は、IL-2、IFN-α、IFN-γ、及びTNF-αから選択されるサイトカインに特異的な非中和scFvである。
【0539】
理解され得るように、腫瘍細胞に対して細胞毒性効果を示す細胞毒性薬物は、抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、及びメゲストロール)、LHRHアゴニスト(例えば、ゴススクリン及びロイプロリド)、抗アンドロゲン(例えば、フルタミド及びビカルタミド)、光線力学療剤(例えば、バルトポルフィン、フタロシアニン、光増感剤Pc4、及びデメトキシ-ハイポクレアチンA)、窒素マスタード(例えば、シクロホスファミド、イフォスファミド、トロホスファミド、クロラムブシル、エストラムスチン、及びメルファラン)、ニトロソウレア(例えば、カルムスティーン及びロムスチン)、アルキルスルホネート(例えば、ブスルファン及びトレオスルファン)、トリアゼン(例えば、ダカルバジン、テモゾロミド)、白金含有化合物(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、及びヴィノレルビン)、タキソイド(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、及びタキソール)、エピポドフィリン(例えば、エトポシド、リン酸エトポシド、テニポシド、トポテカン、9-アミノカンプトテシン、カンプトイリノテカン、イリノテカン、クリスタノール、マイトマイシンC)、抗代謝薬物、DHFR阻害剤(例えば、メトトレキセート、ジクロロメトトレキサート、トリメトレキセート、エダトレキサート)、IMPデヒドロゲナーゼ阻害剤(例えば、ミコフェノール酸、チアゾフリン、リバビリン、及びEICAR)、リボヌクレオチドレダクターゼ阻害剤(例えば、ヒドロキシ尿素及びデフェロキサミン)、ウラシル類似体(例えば、5-フルオロウラシル(5-FU)、フロクスウリジン、ドキシフルリジン、ラットレトレックス、テガフール-ウラシル、カペシタビン)、シトシン類似体(例えば、シタラビン(araC)、シトシンアラビノシド、及びフルダラビン)、プリン類似体(例えば、メルカプトプリン及びチオグアニン)、ビタミンD3類似体(例えば、EB1089、CB1093、及びKH1060)、イソプレニル化阻害剤(例えば、ロバスタチン)、ドーパミン作動性神経毒(例えば、1-メチル-4-フェニルピリジニウムイオン)、細胞周期阻害剤(例えば、スタウロスポリン)、アクチノマイシン(例えば、アクチノマイシンD、ダクチノマイシン)、ブレオマイシン(例えば、ブレオマイシンA2、ブレオマイシンB2、ペプロマイシン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ピラルビシン、ゾルビシン、ミトキサントロン)、MDR阻害剤(例えば、ベラパミル)、Ca2+ ATPアーゼ阻害剤(例えば、タプシガルギン)、イマチニブ、サリドマイド、レナリドマイド、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、アキシチニブ、ボスチニブ、セジラニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レスタウルチブ、ネラチニブ、ニロチニブ、セマキサニブ、スニチニブ、トセラニブ、バンデタニブ、バタラニブ、リツキシマブ、ニロチニブ、ソラフェニブ、エベロリムス、テムシロリムス、プロテアソーム阻害剤(例えば、ボルテゾミブ)、mTOR阻害剤(例えば、ラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムス、及びリファフォロリムス)、オブリメルセン、ゲムシタビン、ミノマイシン、ロイコボリン、ペメトレキセド、シクロホスファミド、ダカルバジン、プロカルビジン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、カンペタテシン、プリカマイシン、アスパラギナーゼ、アミノプテリン、メトプテリン、ポルフィロマイシン、メルファラン、ロイロシジン、ロイロシン、クロラムブシル、トラベクテイン、プロカルバジン、ディスコデルモライド、カルミノマイシン、アミノプテリン、またはヘキサメチルメラミンであり得る。本開示の具体的な実施形態によれば、細胞毒性薬物は、オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、カリケアマイシン、又はカンプトテシンである。
【0540】
一実施形態によれば、トール様受容体アゴニストは、リポテイコ酸、グルカン、モトリモード、イミキモッド、レスキモッド、ガリコイモッド、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG DON)、リポ多糖(LPS)、モノホスホリル脂質A、又はザイモサンである。
【0541】
IV-(iii)骨粗鬆症
【0542】
骨の細胞外マトリックスネットワークにおいて、主要な組織特異的タンパク質は、オステオネクチンであり、システイン(SPARC)が豊富な分泌的酸性タンパク質とも呼ばれる。コラーゲンIは骨マトリクス中の主要なタンパク質であるが、皮膚を覆う結合組織にも存在する。
【0543】
骨粗鬆症の治療において、本発明は、標的化成分としてオステオネクチンに特異的なscFv及び/又はコラーゲンI、並びにエフェクター成分としてRANKL又はスクレロスチンに特異的なscFvを用いて構築物T-E分子を構築する。本発明者らは、抗RANKL又は抗スクレロスチン抗体を骨に優先的に局在化することができれば、投薬量を減少させることができ、治療有効性が増加することを合理化する。本開示の一実施形態において、「ジョイント-リンカー」構成に基づく種々のT-E分子は、標的化成分としてオステオネクチン(SPARC)及びコラーゲンIに特異的なscFv、及びエフェクター成分としてRANKLに特異的なscFvを含む。
【0544】
本開示の特定の実施形態によれば、本発明の方法は、骨粗鬆症の治療に有用である。この場合に、第1標的化成分は、コラーゲンI又はオステオネクチンに特異的なscFvであり、第1エフェクター成分は、核因子κB(RANKL)の受容体活性化因子のリガンドに特異的なscFvである。
【0545】
パートV 組織標的化機能を有する抗炎症分子
【0546】
Fcに基づく構成の広い意味では、免疫グロブリン抗体を、標的化成分又はエフェクター成分の基礎として使用し、その2つのγ重鎖のC末端にその対応するエフェクター又は標的化成分をscFvドメインの形態で導入することができる。典型的な「Fcに基づく」構成の場合、二本鎖IgG.Fcを分子プラットフォームの基礎を使用することができる。ポリペプチド鎖の各々は、各鎖に合計2〜3個の成分を有するように、1つ又は2つの標的成分及び1つ又は2つのエフェクター成分と融合することができる。Fcに基づく構成を有するT-E分子は、合計4〜6個の成分(例えば、scFv、成長因子、又はサイトカイン)を有する。必要に応じて、分子構築物のFc部分も、Fc媒介エフェクター機能、ADCC及び/又は補体媒介活性化機能を有する。特定の他の用途では、そのFc媒介エフェクター機能が望ましくない。
【0547】
Fcに基づく分子構築物を設計する際に、標的化成分をN末端若しくはC末端に位置させる。エフェクター成分は、細胞表面成分(例えば、CD3、CD16a、PD-1、PD-L1、又はCTLA-4)に結合することにより機能する場合に、末端に配置されるべきである。エフェクター成分は、可溶性因子(例えば、VEGF、TNF-α、IL-17、又はBAFF)に結合し、その機能を中和することにより機能する場合に、末端標的化成分又はエフェクター成分とCH2-CH3との間に配置されることができる。
【0548】
本開示のいくつかの実施形態において、CH2-CH3セグメント(CH2-CH3鎖)によって担持されるエフェクター成分及び標的化成分は、両方ともほとんどアミノ酸残基からなる。説明の便宜上、これらの分子構築物を、組織標的化機能を有する抗炎症分子、又は抗炎症Fcに基づく分子構築物とも呼ぶ。例えば、エフェクター成分は、抗体断片又は可溶性受容体であり得、標的化成分も抗体断片である。このセクションでこのFcに基づく分子構築物のいくつかの例示的な構造を説明する。
【0549】
図8Aは、本開示の特定の実施形態に係るFcに基づく分子構築物800Aを説明する模式図である。図示のように、Fcに基づく分子構築物800Aは、同一のCH2-CH3鎖810、CH2-CH3鎖810のN末端に結合される第1の1対のエフェクター成分E1、及びCH2-CH3鎖810のC末端に結合される第1の1対の標的化成分T1を含む。この例示的な構成において、標的化成分T1及びエフェクター成分E1は、両方とも抗体断片である。
【0550】
いくつかの実施形態において、CH2-CH3鎖は、ヒト免疫グロブリンγ1又はγ4からである。一般には、Fc媒介性機能、例えば、抗体依存性細胞毒性(ADCC)及び補体媒介活性(炎症活性化又は標的細胞溶解)が必要である場合に、γ1を選択する。Fc媒介性機能が望ましくない場合に、γ4を用いて本発明のFcに基づく分子構築物を構築する。
【0551】
図8Bに示すFcに基づく分子構築物800Bは、2つのエフェクター成分E1がそれぞれCH2-CH3鎖810のC末端に結合され、2つの標的化成分T1がそれぞれCH2-CH3鎖810のN末端に結合される以外、図8AのFcに基づく分子構築物800Aの構造と非常に類似する。
【0552】
特定の実施形態によれば、エフェクター成分及び標的化成分は、両方ともCH2-CH3鎖のN末端に結合される。例えば、エフェクター成分及び標的化成分が両方とも一本鎖可変領域断片(scFv)の形態である場合に、エフェクター成分及び標的化成分をタンデム又はダイアボディ構造で結合して、CH2-CH3鎖のN末端に結合される二重特異性scFvを形成することができる。
【0553】
Fcに基づく分子構築物800C(図8C)がFc部分を含むため、各CH2-CH3鎖810は、そのN末端にT1-E1二重特異性scFvを有する。
【0554】
上述したように、特定の実施形態によれば、抗炎症Fcに基づく分子構築物は、エフェクター成分として可溶性受容体(例えば、TNF-α又はIL-1の可溶性受容体)を使用することもできる。この場合に、Fcに基づく分子構築物800D(図8D)は、CH2-CH3鎖810のN末端にそれぞれ結合される2つのエフェクター成分E1、及びCH2-CH3鎖810のC末端にそれぞれ結合される2つの標的化成分T1を含み得る。エフェクター成分及び標的化成分をそれぞれCH2-CH3鎖のC末端及びN末端に配置することもできる(例えば、図8EのFcに基づく分子構築物800E)。
【0555】
いくつかの例において、第1の1対のエフェクター成分又は第1の1対の標的化成分は、Fab構造(即ち、VH-CH1ドメイン及びVL-Cκドメインからなる)を採用する。このFab断片は、CH2-CH3鎖のN末端に結合されることにより、Fcに基づく分子構築物はIgG構造となる。この場合に、Fab構造でない1対の成分は、1対のCH2-CH3セグメントのC末端に結合され得る。
【0556】
例えば、図8FのFcに基づく分子構築物800Fにおいて、2つの標的化成分T1の各々は、VH-CH1ドメイン820及びVL-Cκドメイン825を含むため、CH2-CH3鎖810のN末端に結合されるFab構造830を形成する。それにより、Fcに基づく分子構築物800Fは、IgG構造となる。この場合に、1対のエフェクター成分E1は、1対のCH2-CH3鎖810のC末端に結合される。
【0557】
上述したように、本発明のFcに基づく分子構築物は、最大でも合計6つの成分を有する。別の成分は、第2の1対のエフェクター成分又は第2の1対の標的化成分であり得る。
【0558】
別の実施形態によれば、Fcに基づく分子構築物900A(図9A)は、第2の1対の標的化成分T2を含む。この場合に、標的化成分T1及びT2は、タンデム又はダイアボディ構造で結合されて二重特異性scFvを形成し、且つCH2-CH3鎖910のN末端に結合される。エフェクター成分E1は、CH2-CH3鎖910のC末端に結合される。
【0559】
図9Bに示す実施形態によれば、Fcに基づく分子構築物900Bは、第2の1対のエフェクター成分E2を含む。この場合に、エフェクター成分 E1、E2は、タンデム又はダイアボディ構造で結合されて二重特異性scFvを形成し、且つCH2-CH3鎖910のN末端に結合される。標的化成分T1は、CH2-CH3鎖910のC末端に結合される。
【0560】
以上、抗炎症Fcに基づく分子構築物の基本的な構造的配置を説明した。以下、エフェクター成分及び標的化成分の特定の組合せを説明する。
【0561】
いくつかの実施形態によれば、エフェクター成分は、TNF-αに特異的なscFvであり、標的化成分は、コラーゲンII、コラーゲンIX、又はα-アグリカンに特異的なscFvである。いくつかの実施形態によれば、2つのエフェクター成分の各々は、IL-17に特異的なscFvであり、標的化成分は、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvである。或いは、2つのエフェクター成分の各々は、BAFFに特異的なscFvであり、標的化成分は、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvである。いくつかの実施形態において、2つのエフェクター成分の各々は、TNF-αに特異的なscFvであり、標的化成分は、コラーゲンIII又はコラーゲンV に特異的なscFvである。いくつかの別の実施形態において、2つのエフェクター成分は、RANKLに特異的なFabの形態であり、標的化成分は、コラーゲンI又はオステオネクチンに特異的なscFvである。例えば、このような分子構築物は、図8A-8C及び8Fのいずれか一者に示す構成を採用することができる。
【0562】
いくつかの実施形態において、第1の1対のエフェクター成分は、TNF-αに特異的なscFv又はIL-17に特異的なscFvを含み、第1の1対の標的化成分は、コラーゲンIIに特異的なscFv又はコラーゲンIXに特異的なscFvを含む。いくつかの別の実施形態において、第1の1対のエフェクター成分は、TNF-αに特異的なscFv又はIL-17に特異的なscFvを含み、第1の1対の標的化成分は、コラーゲンIに特異的なscFv又はコラーゲンVIIに特異的なscFvを含む。或いは、2つのエフェクター成分の各々は、BAFFに特異的なscFvであり、標的化成分は、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvである。或いは、2つのエフェクター成分の各々は、RANKLに特異的なscFvであり、標的化成分は、コラーゲンI又はオステオネクチンに特異的なscFvである。これらの分子構築物は、 図8B、8D、8Fのいずれか一者に示す構成を採用することができる。
【0563】
特定の実施形態において、2つのエフェクター成分は、TNF-αに特異的なFab抗体の形態であり、標的化成分は、コラーゲンII又はコラーゲンIXに特異的なscFvである。いくつかの実施形態において、2つのエフェクター成分は、IL-17に特異的なFab抗体の形態であり、標的化成分は、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvである。或いは、2つのエフェクター成分は、BAFFに特異的なFab抗体の形態であり、標的化成分は、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvである。或いは、2つのエフェクター成分は、TNF-αに特異的なFab抗体の形態であり、標的化成分は、コラーゲンIII又はコラーゲンV に特異的なscFvである。
【0564】
本発明の本質は、標的化成分とエフェクター成分との特定の組合せ又はペアリングの合理化および概念である。好ましい実施形態において、分子構築物についてFc融合構成を採用する。当業者であれば、他の分子プラットフォームを用いて本発明の1対の標的化成分及びエフェクター成分を結合することを想到できる。上記の分子プラットフォームは、例えば、ペプチド、タンパク質(例えば、アルブミン)、多糖類、ポリエチレングリコール、及び他の種類のポリマーであり、複数の分子成分を結合する構造基礎として機能する。
【0565】
パートVI 組織標的化機能を有する抗炎症分子の機能
【0566】
本開示の別の態様は、上記のパートVで説明した抗炎症Fcに基づく分子構築物の用途に関する。
【0567】
理解され得るように、上記パートIV-(i)における、適切な標的化成分及びエフェクター成分の選択についての記述は、このセクションにも適用されます。例えば、種々の免疫障害の治療に適用される抗炎症Fcに基づく分子構築物は、標的化成分としてコラーゲンII、コラーゲンXI、又はα-アグリカンに特異的な抗体断片(例えば、scFv、Fab等)、及びエフェクター成分としてTNF-α又はIL-17に特異的な抗体断片(例えば、scFv、Fab等)を含む。
【0568】
本開示の種々の実施形態によれば、 本発明の治療方法は、適切な抗炎症Fcに基づく分子構築物を治療を必要とする被験体に投与することに関する。種々の免疫障害、特に、自己免疫疾患を治療する抗炎症Fcに基づく分子構築物の具体的な例は、以下説明する。
【0569】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、関節リウマチ、乾癬性関節炎、又は強直性脊椎炎の治療に適用される。この場合に、抗炎症Fcに基づく分子構築物の各エフェクター成分は、TNF-α、IL-12/IL-23、IL-1、IL-17、又はIL-6に特異的な抗体断片であり、各標的化成分は、コラーゲンII、コラーゲンIX、コラーゲンXI、又はα-アグリカンに特異的な抗体断片である。例えば、第1の1対のエフェクター成分の各エフェクター成分は、TNF-αに特異的なscFvであり、第1の1対の標的化成分の各標的化成分は、コラーゲンIIに特異的な抗体断片である。他の実施形態において、エフェクター成分は、TNF-αに特異的なscFvであり、標的化成分は、コラーゲンIXに特異的な抗体断片である。或いは、エフェクター成分は、TNF-αに特異的なscFvであり、標的化成分は、α-アグリカンに特異的な抗体断片である。種々の実施形態によれば、上述した抗炎症Fcに基づく分子構築物は、上記の800A、800B、又は800Cの構成を有することができる。
【0570】
関節リウマチ、乾癬性関節炎、又は強直性脊椎炎を治療する別の抗炎症Fcに基づく分子構築物は、TNF-αに特異的なFab抗体の形態を有する2つのエフェクター成分を含む。この場合に、第1の1対の標的化成分の標的化成分は、ともにコラーゲンIIに特異的なscFv又はコラーゲンIXに特異的なscFvである。これらのFcに基づく分子構築物の構成は、例えば、図8Fに示された。
【0571】
本発明の方法は、乾癬の治療にも適用される。例えば、抗炎症Fcに基づく分子構築物は、エフェクター成分としてTNF-α、IL-12/IL-23、又はIL-17に特異的な抗体断片、及び標的化成分としてコラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的な抗体断片を含み得る。いくつかの実施形態によれば、エフェクター成分は、IL-17に特異的なscFvであり、標的化成分は、コラーゲンIに特異的なscFvである。或いは、エフェクター成分は、IL-17に特異的なscFvであり、標的化成分は、コラーゲンVIIに特異的なscFvである。これらの抗炎症Fcに基づく分子構築物は、上記の800A、800B、又は800Cの構成を有する。
【0572】
乾癬を治療する他の抗炎症Fcに基づく分子構築物は、IL-17に特異的なFab抗体の形態である2つのエフェクター成分を含む。この場合に、第1の1対の標的化成分の標的化成分は、ともにコラーゲンIに特異的なscFv又はコラーゲンVIIに特異的なscFvである。これらのFcに基づく分子構築物は、例えば、図8Fに示された。
【0573】
抗炎症Fcに基づく分子構築物を用いた本発明の方法によって治療可能な別の疾患は、全身性エリテマトーデス、皮膚ループス、又はシェーグレン症候群である。これらの実施形態において、各エフェクター成分は、BAFFに特異的な抗体断片であり、及び各標的化成分は、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的な抗体断片である。これらの抗炎症Fcに基づく分子構築物は、図8A〜8Cに示される構造を有することができる。理解され得るように、1対のエフェクター成分は、BAFFに特異的なFab抗体の形態であり得る一方、1対の標的化成分は、コラーゲンI又はコラーゲンVIIに特異的なscFvであり得、図8Fにおける分子構築物800Fの構成である。
【0574】
他の実施形態において、本発明の方法は、クローン病又は潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の治療に適用される。この場合に、各エフェクター成分は、TNF-αに特異的な抗体断片であり、各標的化成分は、コラーゲンIII又はコラーゲンVに特異的な抗体断片である。これらのFcに基づく分子構築物の構成は、例えば、図8A〜8Cに示された。当然、1対のエフェクター成分は、TNF-αに特異的なFab抗体の形態であり、1対の標的化成分は、コラーゲンIII又はコラーゲンVに特異的なscFvであり得る。従って、図8Fにおける構成が形成される。
【0575】
本発明の抗炎症Fcに基づく分子構築物は、骨粗鬆症の治療にも適用される。例えば、エフェクター成分は、RANKLに特異的な抗体断片であり、標的化成分は、コラーゲンI又はオステオネクチンに特異的な抗体断片である。理解され得るように、RANKLに特異的な抗体断片がscFvであることで、Fcに基づく分子構築物は、図8A〜8Cに示す構成を有することができ、或いはFabの形態であることで、Fcに基づく分子構築物は、図8Fに示す構成を有することができる。
【0576】
上記の実施例は説明の目的で示したものであり、他のT-E組合せを有する抗炎症Fcに基づく分子構築物を用いた治療も本開示の範囲内に含まれるべきである。
【0577】
パートVII 腫瘍を治療するための分子構築物
【0578】
本開示の他の態様は、パートVで説明した分子構築物に類似するFcに基づく分子構築物に関する。該Fcに基づく分子構築物は、免疫グロブリンのCH2-CH3ドメインに直接的又は間接的に結合される、少なくとも1対の標的化成分及び少なくとも1対のエフェクター成分を有する。本発明のFcに基づく分子構築物のT-E成分を選択することにより、分子構築物は、びまん性腫瘍及び固形腫瘍を含む種々の細胞増殖性疾患の治療に適用される。本開示は、以下の点にも有利である。即ち、いくつかの実施形態において、本開示の第1態様に係るリンカーユニットを利用し、本発明のFcに基づく分子構築物の細胞毒性薬物ペイロードの量を制御するための容易な手段を提供する。 該Fcに基づく分子構築物は、以下にそれぞれ後述する。
【0579】
VII-(i) 標的化成分として抗体、及びエフェクター成分として薬物バンドルを有する分子構築物
【0580】
本開示の特定の実施形態によれば、第1の1対のエフェクター成分の各エフェクター成分は、薬物バンドルであり、第1の1対の標的化成分の各標的化成分は、細胞表面抗原又は腫瘍関連抗原に特異的な抗体断片である。この場合に、腫瘍を治療するFcに基づく分子構築物は、図10Aの分子構築物1000Aの構成、又は図10Bの分子構築物1000Bの構成を含み得る。図10Aに示すように、エフェクター成分E1(例えば、薬物バンドル)は、1対のCH2-CH3セグメント1010のC末端に結合され、標的化成分 T1(この場合に、scFv)は、1対のCH2-CH3セグメント1010のN末端に結合される。別の実施形態によれば、分子構築物1000B(図10Bを参照)は、Fab1030の形態である1対の標的化成分T1を有する。具体的には、Fab1030構造は、VH-CH1ドメイン1020及びVL-Cκドメイン1025を含み、且つ1対のCH2-CH3セグメント1010のN末端に結合され、それにより、Fcに基づく分子構築物1000Aは、IgG構造となる。この場合に、1対のエフェクター成分E1は、1対のCH2-CH3鎖1010のC末端に結合される。
【0581】
いくつかの実施形態において、CH2-CH3鎖は、ヒト免疫グロブリンγ1又はγ4から採用される。一般に、γ1は、抗体依存性細胞毒性(ADCC)及び補体媒介活性(炎症性活性化又は標的細胞溶解)等のFc媒介性機能が望ましい場合に選択される。Fc媒介性機能が望ましくない場合に、γ4は、本発明のFcに基づく分子構築物を構築するために選択される。理解され得るように、上述したFc領域の構造は、パートVIIで説明した他のFcに基づく分子構築物にも適用可能である。
【0582】
薬物バンドルは、本開示のパートIに説明したリンカーユニットとして提供され得る(例えば、図1A図1Cを参照)。簡潔には、薬物バンドルは、中心コア、複数のリンクアーム、及び必要に応じてカップリングアームを含む。本開示の種々の実施形態によれば、中心コアは、複数のアミン基を有する化合物、又は複数のリジン(K)残基を有するポリペプチドであり得る。各リンクアームは、化合物コアのアミン基又はポリペプチドコアのK残基のアミン側鎖との反応により中心コアに結合される1つの末端を有する。リンクアームは、その遊離末端にマレイミド基を有し、ここで、各分子(例えば、この場合の細胞毒性薬物の分子、及び/又は、上述したTLRアゴニスト、若しくはキレート剤/放射性核種複合体)がマレイミド基との反応によりリンクアームとの結合により中心コアに結合される。本開示の任意の実施形態によれば、各エフェクター成分E1は、3-5個の細胞毒性分子を有する薬物バンドルである。
【0583】
中心コアがポリペプチドコアである場合に、中心コアのN末端若しくはC末端にあるアミノ酸残基は、システイン残基であり、又はアジド基若しくはアルキン基を有する。特定の実施形態によれば、アジド基を含む末端アミノ酸残基を有するポリペプチドコアの場合に、薬物バンドルは、該末端残基とカップリングアームのC末端との間で起きるSPAAC反応又はCuAAC反応によりカップリングアームに結合される。或いは、ポリペプチドコアがアルキン基を含む末端アミノ酸残基を有する場合に、薬物バンドルは、該末端残基とカップリングアームのC末端との間で起きるCuAAC反応によりカップリングアームに結合される。或いは、システイン基である末端残基を有するポリペプチドコア、又は化合物コアの場合に、薬物バンドルは、第2リンクアームをさらに含む。具体的には、第2リンクアームは、ポリペプチドコアのシステイン残基又は化合物コアの1つのアミン基との反応により中心コアに結合される1つの末端を有する。第2リンクアームは、その遊離末端にアルキン基、アジド基、テトラジン基、又は歪んだアルキン基を含むことにより、薬物バンドルの第2リンクアームは、カップリングアームのC末端に、それらの間で起きるiEDDA反応(テトラジン基又はシクロオクテン基を有するカップリングアーム)、SPAAC(アジド基又はシクロオクチン基を有するカップリングアーム)反応、又はCuAAC反応(アルキン基又はアジド基を有するカップリングアーム)により結合される。
【0584】
特定の実施形態によれば、腫瘍を治療するための本発明のFcに基づく分子構築物は、それぞれ(G2-4S)2-8C配列を有する1対の延長ペプチド1050(図10A及び10Bを参照)をさらに含む。図示のように、1対の延長ペプチド1050は、1対のCH2-CH3セグメント1010のC末端に結合される。延長ペプチドのC末端にあるシステイン残基は、カップリングアーム1055に、それらの間で起きるチオール-マレイミド反応により結合される。エフェクター成分E1(この場合に、薬物バンドル)に結合される前に、カップリングアームの遊離末端(即ち、システイン残基に結合されていない末端)がアルキン基、アジド基、歪んだアルキン基、又はテトラジン基で修飾されることにより、薬物バンドルは、該遊離末端に、それらの間で起きるiEDDA反応、SPAAC又はCUAAC反応により結合される。
【0585】
例えば、図10Aにおいて、エフェクター成分 E1(この場合に、薬物バンドル)の第2リンクアーム1040は、iEDDA反応によりCH2-CH3セグメント1010に結合される。図10Aに示す楕円1045は、カップリングアーム1055とエフェクター成分E1の第2リンクアーム1040との間で起きるiEDDA反応により生じる化学結合を示す。理解され得るように、iEDDA反応は、テトラジン基と、シクロオクテン基、例えば、トランスシクロオクテン(TCO)基との間で起きる。
【0586】
或いは、図10Bにおいて、エフェクター成分E1は、SPAAC反応によりCH2-CH3セグメント1010に結合される。図10Bに示すダイヤモンド1045は、カップリングアーム1055とエフェクター成分E1の第2リンクアーム1040との間で起きるSPAAC反応により生じる化学結合を示す。具体的には、SPAAC反応は、アジド基と歪んだアルキン基(例えば、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)基、ジフルオロシクロオクチン(DIFO)基、ビシクロノニン(BCN)基、及びジベンゾシクロオクチン(DICO)基を含むシクロオクチン基)との間で起きる。
【0587】
本開示のいくつかの任意の実施形態において、腫瘍を治療するFcに基づく分子構築物は、第2の1対の標的化成分をさらに含むことができる。例えば、図10Cの分子構築物1000Cは、第1の1対の標的化成分T1及び第2の1対の標的化成分T2、並びにエフェクター成分E1を含む。具体的には、第2の1対の標的化成分T2は、タンデム又はダイアボディ構造で、1対のCH2-CH3セグメント1010のN末端に結合される1対の標的化成分T1のN末端に結合されることにより、1対のCH2-CH3セグメント1010のN末端に結合される1対の二重特異性scFvを形成する。また、1対のエフェクター成分E1は、iEDDA反応でカップリングアーム1055とエフェクター成分E1の第2リンクアーム1040との間に化学結合1045を形成することによりCH2-CH3セグメント1010に結合される。しかし、本開示は、これに限定されず、他の実施形態において、エフェクター成分E1は、SPAAC反応又はCuAAC反応によりCH2-CH3セグメント1010に結合される。
【0588】
本開示の種々の実施形態によれば、図10A図10Cの何れかに例示される構成を有するFcに基づく分子構築物は、びまん性腫瘍の治療に適用される。例えば、このようなFcに基づく分子構築物の薬物バンドルは、細胞毒性薬物、例えば、オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、カリケアマイシン、及びカンプトテシンの複数の分子を含む。また、このようなFcに基づく分子構築物の標的化成分は、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD33、CD34、CD37、CD38、CD43、CD78、CD79a、CD79b、CD138、及びCD319からなる群から選択される細胞表面抗原に特異的な抗体断片(例えば、scFv、Fab等)であり得る。
【0589】
本開示の他の実施形態によれば、図10A図10Cの何れかに例示される構成を有するFcに基づく分子構築物は、悪性及び/又は転移性固形腫瘍を含む固形腫瘍の治療に適用される。いくつかの場合において、エフェクター成分として使用される薬物バンドルは、細胞毒性薬物、例えば、オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、カリケアマイシン、及びカンプトテシンの複数の分子を含む。或いは、薬物バンドルは、TLRアゴニスト、例えば、LPS、モノホスホリル脂質A、モトリモード、イミキモッド、レスキモッド、ガリコイモッド、CpG DON、リポテイコ酸、β-グルカン、及びザイモサンの複数の分子を含む。或いは、薬物バンドルは、放射性核種(例えば、90Y、111In、及び177Lu)と複合体を形成したキレート剤(例えば、DOTA、NOTA、NODA、及びDTPA)の複数の分子を含む。一方、このようなFcに基づく分子構築物の標的化成分は、HER1、HER2、HER3、HER4、CA19-9、CA125、CEA、MUC1、MAGE、PSMA、PSCAに特異的な抗体断片(例えば、scFv、Fab等);ムチン関連Tn、シアリルTn、グロボH、SSEA-4、ガングリオシドGD2、又はEpCAMであり得る。
【0590】
Fcに基づく分子構築物が第2の1対の標的化成分を有する場合に、第1の1対のエフェクター成分のエフェクター成分は、複数の細胞毒性薬物分子を含む薬物バンドルであり、第1の1対の標的化成分及び第2の1対の標的化成分は、それぞれHER2に特異的なscFv及びHER1に特異的なscFvである。
【0591】
VII-(ii) 標的化成分として成長因子/ペプチドホルモン、及びエフェクター成分として薬物バンドルを有する分子構築物
【0592】
本開示の特定の実施形態によれば、第1の1対のエフェクター成分の各エフェクター成分は、薬物バンドルであり、第1の1対の標的化成分の各標的化成分は、成長因子又はペプチドホルモンである。この場合に、Fcに基づく分子構築物は、固形腫瘍(悪性及び/又は転移性のもの)の治療に適し、図11の分子構築物1100の構成を有することができる。図11に示すように、エフェクター成分E1は、1対のCH2-CH3セグメント1110のC末端に結合され、標的化成分Tは、1対のCH2-CH3セグメント1110のN末端に結合される。
【0593】
Fcに基づく分子構築物1000A又は1000Bと同様に、本発明の分子構築物1100は、1対のCH2-CH3セグメント1110のC末端に結合され、且つ、(G2-4S)2-8C配列をそれぞれ有する1対の延長ペプチド1150を更に含む。同様に、薬物バンドルとの結合を容易にするため、システイン残基は、カップリングアーム1155に結合され、薬物バンドルは、カップリングアーム1155に、それらの間で起きるiEDDA反応、SPAAC反応、又はCuAAC反応により結合される(上記の図10Aについての説明を参照)。例えば、図11において、エフェクター成分E1の第2リンクアーム1140は、iEDDA反応によりカップリングアーム1155に結合される。ここで、楕円1145は、カップリングアーム1155とエフェクター成分E1との間で起きるiEDDA反応から生じる化学結合を表す。しかし、本開示はこれに限られない。他の実施形態において、エフェクター成分E1は、SPAAC反応又はCuAAC反応によりCH2-CH3セグメント1110に結合される。
【0594】
理解され得るように、上記パートVII-(i)におけるFcに基づく分子構築物のFc領域及び薬物バンドルについての記載は本実施形態にも適用されるため、説明を簡潔にするために、その詳細な説明を省略する。
【0595】
本発明の分子構築物(例えば、分子構築物1100)が固形腫瘍の治療に使用できるため、いくつかの実施形態によれば、エフェクター成分に適用される薬物バンドルは、複数の細胞毒性薬物分子、例えば、 オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、カリケアマイシン、及びカンプトテシンを含む。或いは、薬物バンドルは、TLRアゴニスト、例えば、LPS、モノホスホリル脂質A、モトリモード、イミキモッド、レスキモッド、ガリコイモッド、CpG DON、リポテイコ酸、β-グルカン、及びザイモサンの複数の分子を含む。或いは、薬物バンドルは、放射性核種(例えば、90Y、111In、及び177Lu)と複合体を形成したキレート剤(例えば、DOTA、NOTA、NODA、及びDTPA)の複数の分子を含む。
【0596】
一方、上記の薬物バンドルとの併用に適した標的化成分は、成長因子である。該成長因子は、EGF、変異型EGF、エピレグリン、HB-EGF、VEGF-A、bFGF、及びHGFを含むが、これらに限定されない。上記の薬物バンドルと併用可能な他の標的化成分は、ペプチドホルモンである。その例示的な例として、CCK、ソマトスタチン、及びTSHを含む。
【0597】
VII-(iii) 標的化成分として成長因子/ペプチドホルモン、及びエフェクター成分として抗体を有する分子構築物
【0598】
本開示の他の実施形態によれば、Fcに基づく分子構築物は、エフェクター成分として抗体断片、及び標的化成分として成長因子又はペプチドホルモンを有する。この分子構築物は、固形腫瘍(悪性及び/又は転移性のものを含む)の治療に適用される。
【0599】
図12Aは、Fcに基づく分子構築物1200Aを示す。ここで、1対のエフェクター成分E1(この場合に、scFv)は、1対のCH2-CH3セグメント1210のN末端に結合され、1対の標的化成分T1は、1対のCH2-CH3セグメント1210のC末端に結合される。図12B のFcに基づく分子構築物1200Bにおいて、エフェクター成分E1及び標的化成分T1は、それぞれ1対のCH2-CH3セグメント1210のC末端及びN末端に結合される。
【0600】
理解され得るように、本開示の特定の実施形態によれば、抗体断片は、Fabの形態であり得る。例えば、図12C のFcに基づく分子構築物1200Cは、Fab1230の形態である1対のエフェクター成分E1を含む。具体的には、Fab1230構造は、VH-CH1ドメイン1220及びVL-Cκドメイン1225を含む。Fab1230は、1対のCH2-CH3セグメント1210のN末端に結合されることにより、Fcに基づく分子構築物1200Cは、IgG構造となる。この場合に、1対の標的化成分T1は、1対のCH2-CH3鎖1210のC末端に結合される。
【0601】
本開示の種々の実施形態によれば、エフェクター成分として適用される抗体断片は、細胞表面抗原に特異的なものである。該細胞表面抗原は、PD-1、PD-L1、CTLA-4、CD3、CD16a、CD28、及びCD134等である。エフェクター成分の別の例は、成長因子に特異的な抗体断片である。該成長因子は、EGF、変異型EGF、エピレグリン、HB-EGF、VEGF-A、bFGF、及びHGF等である。ハプテンに特異的な抗体断片もエフェクター成分として適用される。ハプテンの例示的な例は、DNP、TNP、ダンシル、ペニシリン、p-アミノ安息香酸、及び配列番号:20のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。
【0602】
このシリーズのFcに基づく分子構築物に適用される標的化成分において、標的化成分は、成長因子、例えば、EGF、変異型EGF、エピレグリン、HB-EGF、VEGF-A、bFGF、及びHGFであり得る。或いは、標的化成分は、ペプチドホルモン、例えば、CCK、ソマトスタチン、及びTSHであり得る。
【0603】
本発明の本質は、標的化成分とエフェクター成分との特定の組合せ又はペアリングの合理化および概念である。好ましい実施形態において、分子構築物についてFc融合構成を採用する。当業者であれば、他の分子プラットフォームを用いて本発明の1対の標的化成分及びエフェクター成分を結合することを想到できる。上記の分子プラットフォームは、例えば、ペプチド、タンパク質(例えば、アルブミン)、多糖類、ポリエチレングリコール、及び他の種類のポリマーであり、複数の分子成分を結合する構造基礎として機能する。
【0604】
パートVIII 腫瘍を治療するための分子構築物の用途
【0605】
エフェクター成分及び標的化成分を選択することにより、上記のパートVIIの Fcに基づく分子構築物をびまん性腫瘍及び固形腫瘍と含む種々の腫瘍の治療に使用することができる。そのため、本開示は、パートVIIのFcに基づく分子構築物を用いる腫瘍の治療も含む。本開示の実施形態によれば、該方法は、有効量の本発明のFcに基づく分子構築物又は該分子構築物を含む医薬品を、治療を必要とする被験体に投与することを含む。
【0606】
腫瘍細胞を標的とする分子構築物、例えば、EGFR、HER2/neu、又はCD20を標的とするものでは、薬理学的目的は、それらの抗原を発現する標的細胞を溶解することである。一般に、分子構築物はFc媒介性機能、例えばADCC又は補体媒介性細胞溶解を有することがこのましい。しかし、分子構築物を強力な免疫破壊機能を有するエフェクター成分(例えば、CD3若しくはCD16aに特異的なscFv)、又は免疫調節性機能を有するエフェクター成分(例えば、PD-1、PD-L1、CTLA- 4に特異的なscFv)に結合することができる場合に、Fc媒介性機能は重要ではないかもしれない。IgG分子は、その2つの重鎖の末端に、細胞毒性分子、LPS分子、又は放射性核種と複合体を形成したキレート基からなるバンドルを結合することができる。
【0607】
ヒトIgG1のFc領域(1対のCH2-CH3ドメイン)は、抗体依存性細胞毒性(ADCC)及び補体媒介性細胞溶解(CMC)を媒介する。本発明は、このようなFc媒介性機能を維持し、抗体結合の結合を向上させる事ができることを合理化する。腫瘍におけるいくつかの細胞は、標的化抗原に対する発現量が低いため、標的化治療用抗体に耐性である。例えば、胸部腫瘍における低レベルでHER2/Neuを発現する細胞、又はB細胞リンパ腫における低レベルでCD20を発現する細胞は、トラスツズマブ又はリツキシマブによって殺されない。本発明の分子複合体は、はるかに高い結合活性を有するため、それらの細胞に十分に強く結合し、それらの細胞溶解機構を媒介することができる。
【0608】
IgGの異なるサブクラスに対する異なるFc受容体は、異なるセットのエフェクター細胞上にある。これらの受容体は、IgGのサブクラスと組合せることにより、異なる免疫メカニズムを媒介する。FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)、及びFcγRIIIb(CD16b)は、マクロファージ、好中球、及び好酸球上にあり、IgG被覆粒子および微生物の食作用を媒介する。 FcγRIIIa(CD16a)は、主にNK細胞及びある組織のマクロファージ上にあり、ADCCを媒介する。NK細胞上のFcγRIIIaがIgG1によって結合され、クラスター化される場合に、NK細胞は、IgG結合細胞を溶解する細胞毒性顆粒及び致死因子を分泌する。本発明の好ましい実施形態において、FcγRIIIに特異的な抗体のscFvをマルチアームリンカーに結合し、さらに、種々の抗原性標的(例えば、CD20、EGFR)及び種々の細胞標的に発現される腫瘍関連抗原に対するscFv に結合する。最近の論文では、HER2/Neuに特異的な1つのFab及びFcγRIIIaに特異的な1つのFabを有する二重特異性抗体は、低密度のHER2抗原を発現する腫瘍細胞を溶解する際に、抗HER2/Neu抗体トラスツズマブよりも優れている。本発明の分子構築物は、HER2/Neuのいずれに対しても高い結合活性を有し、非常に低いHER2/Neuを発現する腫瘍細胞より高い溶解活性を有するべきである。
【0609】
びまん性腫瘍、例えば、Bリンパ球由来リンパ腫又は白血病、形質細胞腫、多発性骨髄腫、T細胞由来リンパ腫又は白血病、及び骨髄性白血病の治療において、本発明のFcに基づく分子構築物は、エフェクター成分として細胞毒性薬物分子を有する薬物バンドル、及び標的化成分として適切な細胞表面抗原に特異的な抗体断片を使用する。
【0610】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、Bリンパ球由来リンパ腫又は白血病の治療に適用される。この場合に、本発明のFcに基づく分子構築物によって標的される細胞表面抗原は、ヒトBリンパ球上の細胞表面抗原、例えば、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD37 CD43、CD79a、及びCD79bである。
【0611】
他の実施形態において、本発明の方法によって治療可能なびまん性腫瘍は、形質細胞腫又は多発性骨髄腫である。この場合に標的とされる細胞表面抗原は、CD38、CD78、CD138、及びCD319を含むヒト形質細胞である。
【0612】
或いは、本発明の方法は、ヒトT細胞上の細胞表面抗原(例えば、CD5、CD30、及びCD43)を標的とする分子構築物を用いて、T細胞由来リンパ腫又は白血病を治療することに関する。
【0613】
骨髄性白血病を治療する際に、いくつかの実施形態によれば、使用される分子構築物によって標的とされる細胞表面抗原は、 CD33およびCD34のようなヒト骨髄系白血球上のものである。
【0614】
特定の実施形態によれば、本発明のFcに基づく分子構築物は、エフェクター成分として薬物バンドル、及び標的化成分として適切な腫瘍関連抗原に特異的な抗体断片を用いて、固形腫瘍、例えば、メラノーマ、食道がん、胃がん、脳腫瘍、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、乳がん、膵臓がん、結腸がん、直腸がん、大腸がん、腎がん、肝細胞がん、卵巣がん、前立腺がん、甲状腺がん、精巣がん、及び頭頸部扁平上皮がんを治療する。特に、これらの実施形態では、上記第VII-(ii)部分で説明した分子構築物が好ましい。
【0615】
いくつかの任意の実施形態によれば、固形腫瘍の治療方法は、分子構築物の投与前に、1つ以上の腫瘍関連抗原に特異的な抗体断片を用いて被験体に血液透析治療を施すことにより、腫瘍から脱落して被験体の循環に入った腫瘍関連抗原を除去するステップをさらに含む。
【0616】
或いは、固形腫瘍の治療方法は、Fcに基づく分子構築物の使用を含む。該Fcに基づく分子構築物は、エフェクター成分として薬物バンドル、又は細胞表面抗原、成長因子若しくはハプテンに特異的な抗体断片、及び標的化成分として成長因子又はペプチドホルモンを有する。このような分子構築物の例示的な例は、上記第VII-(iii)部分で説明したものを含む。このような分子構築物によって治療可能な固形腫瘍は、メラノーマ、食道がん、胃がん、脳腫瘍、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、乳がん、膵臓がん、結腸がん、直腸がん、大腸がん、腎がん、肝細胞がん、卵巣がん、前立腺がん、甲状腺がん、精巣がん、又は頭頸部扁平上皮がんである。
【0617】
いくつかの実施形態によれば、分子構築物は、エフェクター成分として細胞毒性薬物分子の薬物バンドル、及び標的化成分としてEGF又はその変異型を使用する。
【0618】
他の実施形態によれば、分子構築物は、エフェクター成分としてCD3、CD16a、PD-1、又はVEGFに特異的なscFv、及び標的化成分としてEGF又はその変異型を使用する。
【0619】
いくつかの実施形態によれば、エフェクター成分は、ハプテンに特異的な抗体断片である。この場合に、該方法は、分子構築物の投与後、被験体に同一のハプテンでタグ付けされた免疫調節エフェクターを投与するステップをさらに含む。例えば、免疫調節エフェクターは、IFN-α、IL-2、TNF-α、及びIFN-γ、並びにPD-1、PD-L1、CTLA-4、又はCD3に特異的なIgG抗体であり得る。
【0620】
いくつかの実施形態において、1対のCH2-CH3セグメントは、ヒトIgG重鎖γ1に由来する。分子構築物は、エフェクター成分として細胞毒性薬物分子又はLPS分子の薬物バンドル、及び標的化成分としてEGF若しくはその変異型、エピレグリン、HB-EGF、VEGF-A、FGF、HGF、CCK、ソマトスタチン、又はTSHを使用する。
【0621】
いくつかの実施形態において、1対のCH2-CH3セグメントは、ヒトIgG重鎖γ1に由来する。分子構築物は、エフェクター成分としてヒトCD3、CD16a、PD-1、PD-L1、又はVEGF-Aに特異的なscFvを、及び標的化成分としてEGF若しくはその変異型、エピレグリン、HB-EGF、VEGF-A、FGF、HGF、CCK、ソマトスタチン、又はTSHを使用する。
【0622】
実施例
【0623】
実施例1:ペプチドコアとしてのペプチド1(配列番号:17)、ペプチド2(配列番号:18)、及びペプチド3(配列番号:19)の合成、並びに、システイン残基のSH基とマレイミド-PEG3-トランスシクロオクテン(TCO)との結合による結合アームの形成
【0624】
固相ペプチド合成法によりペプチド1〜3を合成し、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(島津Nexera-i LC-2040C 3D HPLCシステム;カラム:クロマシル100-5C18カラム(250mmX4.6mm;5μm);移動相:アセトニトリル及び0.1%トリフルオロ酢酸;アセトニトリルの線形勾配:10%〜45%;15分間、流速:1.0 mL/min;カラム温度:25°C)により、95%純度に精製した。。
【0625】
精製されたペプチドを最終濃度2mMとなるように50mMのNaCl及び5mMのEDTAを含むリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)100mMに溶解した。溶解したペプチドを、1mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)を用いて25°Cで2時間還元させた。ペプチドとマレイミド-PEG3-TCOを1/10の割合で混合し、pH7.0、25°Cで24時間反応させることにより、システイン残基のSH基とマレイミド-PEG3-TCO(Conju-probe Inc.、San Diego、USA)を結合して機能的連結基TCOを形成した。逆相HPLC(カラム:Supelco C18カラム(250mmX10mm;5μm);移動相:アセトニトリル及び0.1%トリフルオロ酢酸;アセトニトリルの線形勾配:0%〜100%;30分間、流速:1.0mL/min;カラム温度:25°C)によりTCO結合ペプチドを精製した。図13は、TCO-ペプチド2の精製の逆相HPLC溶出プロファイルであり、図13における矢印がTCO-ペプチド2のピークを示す。
【0626】
質量分析法MALDI-TOFにより合成された3種類のTCO-ペプチド(以下に示される)を確認した。質量分析は、中央研究院分子生物学研究所のマスコア施設(IMB)(台湾、台北)で行った。測定は、ブルカー・オートフレックスIII MALDI-TOF/TOF質量分析計(ブルカー・ダルトニクス、ブレーメン、ドイツ)で行った。
【0627】
以下に示すように、本発明のTCO-ペプチド1は、分子量(m.w.)が1807.0ダルトンである。
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【0628】
以下に示すように、本発明のTCO-ペプチド2は、m.w.が2078.9ダルトンである。
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【0629】
以下に示すように、本発明のTCO-ペプチド3は、m.w.が3380.8ダルトンである。
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【0630】
実施例2: ペプチドコアとしてのペプチド1及びペプチド2の合成、並びに、システイン残基のSH基とマレイミド-PEG4-テトラジンとの結合による結合アームの形成
【0631】
実施例1と同様にペプチド1及びペプチド2を調製し、それらを2mMの最終濃度となるように50mMのNaCl及び5mMのEDTAを含む100mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解した。溶解したペプチドを1mMのTCEPを用いて25°Cで2時間還元させた。ペプチドとマレイミド-PEG4-テトラジンを1/5の割合で混合し、pH7.0、4°Cで24時間反応させることにより、システイン残基のSH基とマレイミド-PEG4-テトラジン(Conju-probe Inc.)とを結合して機能的連結基であるテトラジンを形成した。テトラジン結合ペプチドを、逆相HPLC(カラム:Supelco C18カラム(250mmX10mm;5μm);移動相:アセトニトリル及び0.1%トリフルオロ酢酸;アセトニトリルの線形勾配:0%〜100%;30分間以上、流速:1.0mL/min;カラム温度:25°C)により精製した。合成した2つのテトラジン-ペプチドの確認は、前の実施例に記載の質量分析法MALDI-TOFにより行った。
【0632】
以下に示すように、本発明のテトラジン-ペプチド1は、m.w.が1912.7ダルトンである。
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【0633】
以下に示すように、本発明のテトラジン-ペプチド2は、m.w.が2185.2ダルトンである。
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【0634】
実施例3: ペプチドコアとしてのペプチド1及びペプチド2の合成し、並びに、システイン残基のSH基とマレイミド-PEG5-DBCOとの結合による結合アームの形成
【0635】
上述した実施例と同様にペプチド1及びペプチド2を調製した。ペプチドを2mMの最終濃度となるように50mMのNaCl及び5mMのEDTAを含む100mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)に溶解した。溶解したペプチドを1mMのTCEPにより25°Cで2時間還元させた。
【0636】
ペプチドとマレイミド-PEG5-DBCO(Conju-probe Inc.)を1/5の割合で混合し、pH7.0、室温で24時間反応させることにより、システイン残基のSH基とジベンジルシクロオクチン(DBCO)とを結合して機能的連結基であるDBCOを形成した。DBCO結合ペプチドを逆相HPLC(カラム:Supelco C18カラム(250 mm X10 mm; 5 μm);移動相:アセトニトリル及び0.1%トリフルオロ酢酸;アセトニトリルの線形勾配:0%〜100%;30分間以上、流速:1.0mL/min;カラム温度:25°C)により精製した。上記合成した2つのDBCO-ペプチドの確認は、質量分析法MALDI-TOFにより行った。
【0637】
以下に示すように、本発明のDBCO-ペプチド1は、m.w.が1941.8ダルトンである。
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【0638】
以下に示すように、本発明のDBCO-ペプチド2は、m.w.が2213.9ダルトンである。
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【0639】
実施例4: ペプチドコアとしてのペプチド4(配列番号:21)、ペプチド5(配列番号:22)、及びペプチド6(配列番号:23)の合成
【0640】
固相ペプチド合成法によりペプチド4〜6を合成し、逆相HPLC(カラム:Supelco C18カラム(250mmX4.6mm;5μm);移動相:アセトニトリル及び0.1%トリフルオロ酢酸;アセトニトリルの線形勾配:2%〜90%;30分間、流速:1.0mL/min;カラム温度:25°C)により95%純度に精製した。非天然アミノ酸、ホモプロパギルグリシン(GHP)及びアジドホモアラニン(AAH)は、それぞれアルキン基及びアジド基を含む。
【0641】
上記合成した3つのペプチドのは、質量分析法MALDI-TOFにより行った。本発明のペプチド4(Ac-GHPGGSGGSGGSKGSGSK; 配列番号:21)の分子量が1317.0ダルトンであり、本発明のペプチド5(Ac-GHPGGSGGSGGSKGSGSKGSK; 配列番号:22)のm.w.が1589.9ダルトンであり、本発明のペプチド6(Ac-AAHGGSGGSGGSKGSGSKGSK; 配列番号:23)のm.w.が1634.66ダルトンである。
【0642】
実施例5: ペプチドコアとしてのペプチド7(配列番号:24)の合成、並びに、システイン残基のSH基とマレイミド-PEG3-TCO又はマレイミド-PEG4-テトラジンとの結合による結合アームの形成
【0643】
前の実施例と同様に、ペプチド7(Ac-GHPGGSGGSGGSKGSGSKGSGSC; 配列番号:24)を合成し、それを架橋剤と結合した。MALDI-TOFにより合成したTCO-ペプチド7及びテトラジン-ペプチド7を測定した。
【0644】
以下に示すように、本発明のTCO-ペプチド7は、m.w.が1736.78ダルトンである。
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【0645】
以下に示すように、本発明のテトラジン-ペプチド7は、m.w.が1820.62ダルトンである。
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【0646】
実施例6: ペプチドコアとしてのペプチド8(配列番号:25)の合成、並びに、システイン残基のSH基とマレイミド-PEG3-TCO、マレイミド-PEG4-テトラジン又はマレイミド-PEG5-DBCOとの結合による結合アームの形成
【0647】
固相ペプチド合成法によりペプチド8(Ac-C-Xaa-K-Xaa-K-Xaa-K、ここで、Xaaは、2つのEG単位を有するPEG化アミノ酸であり、配列番号:25)を合成し、逆相HPLC(カラム:クロマシル100-5C18カラム(250mmX4.6mm;5μm)、移動相:水及び0.1%TFA;アセトニトリルの線形勾配:10%〜40%;12分間、流速:1.0mL/min;カラム温度:25°C)により95%純度に精製した。
【0648】
質量分析ESI-MSにより合成したペプチド8を確認した。標準ESIイオン源が搭載されたLTQ Orbitrap XL ETD質量分析計(Thermo Fisher Scientific、San Jose、CA)を用いて高解像度及び高質量精度実験を行った。質量ESI-TOF分析は、中央研究院ゲノミクス研究センターのGRCマスコア施設(台湾、台北)で行った。合成したペプチドのサンプルは、981.9に強い分子イオンを示し、[M-H]-に対応して、PEG化ペプチドの実際の分子量が983.0ダルトンであることを示した。
【0649】
上述した実施例と同様に、ペプチドと架橋剤との結合を行った。質量分析ESI-MSにより、生成物(以下に示す。Xaa2は、2つのEG単位を有するPEG化アミノ酸を示す)を測定した。
【0650】
以下に示すように、本発明のTCO-ペプチド8は、m.w.が1478.87ダルトンである。
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【0651】
以下に示すように、本発明のテトラジン-ペプチド8は、m.w.が1584.92ダルトンである。
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【0652】
以下に示すように、本発明のDBCO-ペプチド8は、m.w.が1613.8ダルトンである。
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【0653】
実施例7: ペプチドコアとしてのペプチド9(配列番号:26)の合成、並びに、システイン残基のSH基とマレイミド-PEG3-TCOとの結合による結合アームの形成
【0654】
上述した実施例と同様に、ペプチド9(Ac-C-Xaa-K-Xaa-K-Xaa-K-Xaa-K-Xaa-K;ここで、Xaaは、6つのEG単位を有するPEG化アミノ酸であり、配列番号:26)を調製した。質量分析ESI-MSにより、合成したペプチド9を確認した。合成したペプチドのサンプルは、828.0で強い分子イオンを示し、[M+3H]3+に対応して、PEG化ペプチドの実際の分子量が2480.7ダルトンであることを示した。
【0655】
上述した実施例と同様に、合成したペプチドを架橋剤と結合し、質量分析ESI-MSにより測定した。以下に示すように、本発明のTCO-ペプチド9は、m.w.が2975ダルトンである。
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【0656】
実施例8:NHS-PEG12-マレイミドをTCO-ペプチド1及び2のNH2基と結合することによるリンカーユニットの合成
【0657】
2つのPEG12-マレイミドのリンクアームをペプチドコアTCO-ペプチド1に連結し、3つのPEG12-マレイミドのリンクアームをペプチドコアTCO-ペプチド2に連結した。Thermo Fisher Scientific Inc.(Waltham、USA)から、架橋剤、NHS-PEG12-マレイミド(スクシンイミジル-[(N-マレイミド-プロピオンアミド)-ドデカエチレングリコール]エステルを購入した。調製業者の指示に従って、結合手順を行った。リジン残基を有するペプチドを100mMで結合緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.5))に溶解した。NHS-PEG12-マレイミド架橋剤を1mMの最終濃度(0.1mMのペプチド溶液に対してモルで20倍過剰)となるように溶解したペプチドに加えた。反応混合物を室温で18時間反応させた。逆相HPLC(カラム:Supelco C18カラム(250mmX4.6mm;5μm);移動相:アセトニトリル及び0.1%トリフルオロ酢酸;アセトニトリルの線形勾配:0%〜100%;30分間以上、流速:1.0mL/min;カラム温度:25°C)によりPEG12-マレイミド結合TCO-ペプチド1及びPEG12-マレイミド結合TCO-ペプチド2を精製した。図14は、PEG12-マレイミド結合TCO-ペプチド2の精製の逆相HPLCプロファイルを示す。同図において、印がピークを示す。
【0658】
質量分析法MALDI-TOFにより、PEG12-マレイミド結合TCO-ペプチド1及びPEG12-マレイミド結合TCO-ペプチド2を確認した。
【0659】
以下に示すように、本発明のPEG12-マレイミド結合TCO-ペプチド1は、1つの、TCO基を有するカップリングアーム、及び2つの、マレイミド基を有するPEGリンクアームを含むペプチドコアに基づくリンカーユニットである。質量分析法MALDI-TOFの結果は、本発明の分子構築物のm.w.が3330.7ダルトンを示した。

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【0660】
以下に示すように、本発明のPEG12-マレイミド結合TCO-ペプチド2は、TCO基を有する1つのカップリングアーム及びマレイミド基を有する3つのPEGリンクアームを含む、ペプチドコアに基づくリンカーユニットである。図15は、質量分析法MALDI-TOF結果を示し、本発明の分子構築物のm.w.が4332ダルトンであることを示した。( (ESI-TOF)m/z(z=4):[M + 4H]+;calculated for C185H313N31O83S11083.7829; found1083.7833)、corresponding to [M+Na]+. )
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【0661】
実施例9: NHS-PEG12-マレイミドをテトラジン-ペプチド2及びDBCO-ペプチド1のNH2基に結合することによるリンカーユニットの合成
【0662】
PEG12-マレイミドの3つのリンクアームをテトラジン-ペプチド2に結合し、2つのリンクアームをDBCO-ペプチド1に結合した。NHS-PEG12-マレイミドとペプチドコアのリジン残基のNH2基との結合を、上記の実施例と同様に行った。質量分析法MALDI-TOFにより生成物を確認した。
【0663】
以下に示すように、本発明のPEG12-マレイミド結合テトラジン-ペプチド2は、テトラジン基を有する1つのカップリングアーム、及びマレイミド基を有する3つのPEGリンクアームを含む。図16Aは、質量分析法MALDI-TOFの結果であり、構築物のm.w.が4461ダルトンであることを示した。
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【0664】
以下に示すように、本発明のPEG12-マレイミド結合DBCO-ペプチド1 は、DBCO基を有する1つのリンクアーム、及びマレイミド基を有する2つのPEG リンクアームを含む。図16Bは、質量分析法MALDI-TOFの結果であり、構築物のm.w.が3445ダルトンであることを示した。
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【0665】
実施例10: NHS-PEG12-マレイミドとペプチド4〜6のNH2基との結合によるリンカーユニットの合成
【0666】
PEG12-マレイミドの2つのリンクアームをペプチド4に結合し、PEG12-マレイミドの3つのリンクアームをペプチド5及びペプチド6に結合した。NHS-PEG12-マレイミドとペプチドコアのリジン残基のNH2基との結合を、上記の実施例と同様に行った。質量分析法MALDI-TOFにより生成物を確認した。
【0667】
本発明のPEG12-マレイミド結合ペプチド4は、以下に示すように、m.w.が2817.3ダルトンであり、 1つのアルキン基、及びマレイミド基を有する2つのPEGリンクアームを含むペプチドコアに基づくリンカーユニットである。
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【0668】
本発明のPEG12-マレイミド結合ペプチド5(以下に示す)は、m.w.が3839.2ダルトンであり、1つのアルキン基、及びマレイミド基を有する3つのPEGリンクアームを含むペプチドコアに基づくリンカーユニットである。
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【0669】
PEG12-マレイミド結合ペプチド6(以下に示す)は、m.w.が3811.5ダルトンであり、1つのアジド基、及びマレイミド基を有する3つのPEGリンクアームを含むペプチドコアに基づくリンカーユニットである。

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【0670】
実施例11: NHS-PEG12-マレイミドと、TCO-ペプチド7及びテトラジン-ペプチド7のNH2基との結合によるリンカーユニットの合成
【0671】
PEG12-マレイミドの2つのリンクアームを上記の実施例で得られたペプチド7のペプチドコアに結合した。NHS-PEG12-マレイミドとペプチドコアのリジン残基のNH2基との結合を、上記の実施例と同様に行った。質量分析法MALDI-TOFにより生成物を確認した。
【0672】
本発明のPEG12-マレイミド結合TCO-ペプチド7は、以下に示すように、m.w.が3237.63ダルトンであり、1つのアルキン基、TCO基を有する1つのカップリングアーム、及びマレイミド基を有する2つのPEGリンクアームを含むペプチドコアに基づくリンカーユニットである。
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【0673】
本発明のPEG12-マレイミド結合テトラジン-ペプチド7は、以下に示すように、m.w.が3342.98ダルトンであり、1つのアルキン基、テトラジン基を有する1つのカップリングアーム、及びマレイミド基を有する2つのPEGリンクアームを含むペプチドコアに基づくリンカーユニットである。
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【0674】
実施例12: NHS-PEG12-マレイミドと、TCO-ペプチド8及びテトラジン-ペプチド8のNH2基との結合によるリンカーユニットの合成
【0675】
PEG12-マレイミドの3つのリンクアームをペプチドコアであるTCO-ペプチド8及びテトラジン-ペプチド8に結合した。NHS-PEG12-マレイミドとペプチドコアのリジン残基のNH2基との結合を、実施例8と同様に行った。質量分析法MALDI-TOFにより生成物を確認した。
【0676】
本発明のPEG12-マレイミド結合TCO-ペプチド8(以下に示す)は、m.w.が3774.9ダルトンであり、PEG化アミノ酸及びリジンに基づくリンカーユニットであり、TCO基を有する1つのカップリングアーム、及びマレイミド基を有する3つのPEGリンクアームを含む。
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【0677】
本発明のPEG12-マレイミド結合テトラジン-ペプチド8(以下に示す)は、m.w.が3856.94ダルトンであり(図17;(ESI-TOF)m/z(z=4):[M + 4H]+ Calculated for C171H287N23O71S1H3Na 964.7363; Found 964.7324)、PEG化アミノ酸及びリジンに基づくリンカーユニットであり、テトラジン基を有する1つのカップリングアーム、及びマレイミド基を有する3つのPEGリンクアームを含む。
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【0678】
実施例13: NHS-PEG6-マレイミドとTCO-ペプチド9のNH2基との結合によるリンカーユニットの合成
【0679】
PEG6-マレイミドの5つのリンクアームをペプチドコア、TCO-ペプチド9に結合した。NHS-PEG6-マレイミドとペプチドコアのリジン残基のNH2基との結合を、実施例8と同様に行った。質量分析法MALDI-TOFにより生成物を確認した。
【0680】
PEG6-マレイミド結合TCO-ペプチド9(以下に示す)は、m.w.が5543.78ダルトン(図18;(ESI-TOF)m/z(z=6):[M + 6H]+ Calculated for C244H421N29O101S1Na 924.297; Found 924.299)であり、PEG化アミノ酸及びリジンに基づくリンカーユニットであり、TCO基を有する1つのカップリングアーム、及びマレイミド基を有する5つのPEGリンクアームを含む。
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【0681】
実施例14:1つのNHS-PEG12-アルキンリンクアーム及び2つのNHS-PEG12-マレイミドリンクアームに結合される1,3,5-トリアミノベンゼンを有するリンカーユニットの合成
【0682】
1,3,5-トリアミノベンゼンをBOC Sciences、Creative DynamicInc.、NY、USAから購入し、NHS-PEG12-アルキンリンクアーム及びNHS-PEG12-マレイミドをThermo Fisher Scientific Inc. Waltham、MA、USAから購入した。リンクアームの結合をスキーム13に示す2段階法により行った。ステップ(i)において、1,3,5-トリアミノベンゼンを1 mMで結合緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水、PBS、pH 7.2)に溶解した後、NHS-PEG12-アルキン架橋剤を1 mMの最終濃度(1:1 モル比)となるように1,3,5-トリアミノベンゼン溶液に加えた。その後、250mMのNHS-PEG12-アルキン原液4μを1,3,5-トリアミノベンゼン溶液1 mlに加えた。その反応混合物を室温で1時間インキュベートした。ステップ(ii)において、NHS-PEG12-マレイミド架橋剤を10mMの最終濃度(1:30のモル比)となるようにステップ(i)のインキュベート溶液に加えた。その後、250mMのNHS-PEG12-マレイミド原液30μlをインキュベート溶液125μl に加え、最後溶液1mlとなるように結合緩衝液845μlを加えた。反応混合物を室温で2時間インキュベートした。
<<スキーム 13 1つのNHS-PEG12-アルキン リンクアーム及び2つのNHS-PEG12-マレイミドリンクアームが結合された1,3,5-トリアミノベンゼンの2段階合成>>
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【0683】
生成物である、1つのNHS-PEG12-アルキンカップリングアーム及び2つのNHS-PEG12-マレイミドリンクアームが結合された1,3,5-トリアミノベンゼンを、反応混合物を逆相HPLCカラムにかけ、リンカーユニットを含むフラクションを集めることにより精製した。生成物を質量分析ESI(図19)により分析した。データは、(ESI-TOF)m/z:[M+H]+ -calculated for C104H180N7O46 2263.1955; found 2263.1920を示した。MSスペクトルにおいて、[M+H+1]+、[M+H+2]+及び[M+H+3]+に対応する2264.1934、2265.1938及び2266.1927にも3つの同位体ピークが示された。
【0684】
実施例15:5つのDM1-SMCC分子のTCO-ペプチド9への結合
【0685】
DM1-SMCCは、リンカーであるスクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)で修飾されたN2'-ジアセチル-N2'-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-メイタンシン(DM1)であり、ALB Technology Inc.、Hong Kong、Chinaから購入された。遊離アミン基を有するTCO-ペプチド9を100mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)に溶解した。1mlのNH2含有TCO-ペプチド9溶液あたり250mMのDM1-SMCC溶液を4μlを加えることで、DM1-SMCCを1mMの最終濃度(0.04mM TCO-ペプチド9溶液に対して25倍モル過剰)となるようにTCO-ペプチド9溶液に加えた。反応混合物を室温で24時間インキュベートした。反応生成物をHPLC(カラム:Supelco C18、250mmX4.6mm、5μm;移動相:アセトニトリル及び0.1%のトリフルオロ酢酸;アセトニトリルの線形勾配:30%〜100%;流速:1.0mL/min(30分間以上);カラム温度:25°C)で分離した後、凍結乾燥した。逆相HPLCにより5つのDM1-SMCC分子を有するTCO-ペプチド9を精製した。
【0686】
図20は、5つのDM1-SMCC分子を有するTCO-ペプチド9(薬物バンドルとも呼ばれる)の精製の逆相HPLCプロファイルを示し、ここで、矢印は、ピークを示す。このように合成した薬物バンドルに質量分析を行った結果、図21に示すように、分子構築物のm.w.は7803ダルトンである。
【0687】
本発明の薬物バンドル、以下に示すように、遊離TCO官能基を有するリンカーユニット、1つのセットの5つのDM1分子(エフェクター成分として)から構成された。
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【0688】
実施例16:LPS分子のTCO-ペプチド1への結合
【0689】
AKTA Explorer FPLCシステムにおいて、Superdex 20010/300 Triconカラム(HR、GE Healthcare)を用いてSalmonella enterica sv. MinnesotaからのLPS(Cat No. L2137、Sigma)を精製した。溶出緩衝液は、50mMのHEPES、pH7.5であった。サンプルを0.5mL/minで注入し、イソクラティック溶出した後、1-mLのフラクションとなるように収集した。LPS含有フラクションをMilliQ水で3500MWCO膜を用いて4°Cで一晩透析した。後続の使用のために、透析したLPSを凍結乾燥した。
【0690】
結合前に、以下のように精製されたLPSを活性化した。即ち、2mg/mlのLPS水溶液1mlを3分間振動し、25°Cで15分間超音波処理した。次いで、4.5mMのデオキシコール酸ナトリウム(NaDC)1mlを加え、さらに2.5mMのEDTA溶液100μlを加えた。混合物を37°Cで30分間撹拌し、15分間超音波処理し、さらに37°Cで30分間撹拌した。100mg/mlの1-シアノ-4-ジメチルアミノピリジニウムテトラフルオロボレート(CDAP)40μlをアセトニトリルに加えた。30秒間後、0.2Mの水性トリエチルアミン(TEA)40μlを加えた。混合物を撹拌しながら25°Cでさらに150秒間維持し、CDAPによりLPSを活性化した。
【0691】
リンカーユニットのアミン基と後ほど結合するために、Salmonella enterica sv. MinnesotaからのLPSをダンシルヒドラジンと反応させてヒドラジン基を導入した。簡単に言えば、2.0mg/mlのダンシルヒドラジン(0.1Mのホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.3)において)1mlをCDAP活性化LPSに加えた。混合物を攪拌しながら25℃の暗所で一晩反応させた。100μlのエタノールアミンを加えることにより反応を停止させた。3,500MWCO透析膜を用いてMilli-Q水で暗所、4°Cで24時間透析することにより、未反応のダンシルヒドラジンを除去した。蛍光分光法を用いて、325nmにおける励起による発光スペクトルを測定することによりサンプルを確認した。図22は、蛍光分光分析において、LPSは、ダンシルヒドラジンと反応することにより、495nmに最大発光を有することを示した。
【0692】
精製されたLPS及びダンシル活性化LPSを質量分析法MALDI-TOFにより確認した。精製されたLPSのm.w.が143ダルトンである。ダンシル活性化LPSのm.w.が3651ダルトンであるため、1つのLPSが2つのダンシルヒドラジン分子に結合されることを示した。1つのダンシルヒドラジン分子のm.w.が265ダルトンである。
【0693】
LPS分子をTCO-ペプチド1のリジン残基のNH2基に結合した。簡単に言えば、0.67モルのダンシル活性化LPSを0.067モルのTCO-ペプチド1(0.1Mの重炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5)において)と混合し、室温で一晩反応させた。
【0694】
本発明の薬物バンドルは、以下に示すように、遊離TCO官能基を有するリンカーユニット及び1つのセットの2つのLPS分子(エフェクター成分として)から構成された。
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【0695】
実施例17:イミキモッド分子とNHS-PEG6-マレイミド結合TCO-ペプチド9との結合
【0696】
イミキモッド分子のNH2基をホモ二機能性架橋剤であるNHS-PEG5-NHS(Conju-probe Inc.)と1:3.5モル比で反応させた。質量分析は、PEG5-NHSに結合されたイミキモッドのm.w.が658.36ダルトンであることを示した(図23)。
【0697】
生成物であるイミキモッド-PEG5-NHSをHPLCにより精製して過剰の未反応の架橋剤を除去した。次いで、100mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)においてTCO-ペプチド9とイミキモッド-PEG5-NHSとを混合し、25°Cで18時間反応させた。質量分析は、イミキモッドを有する薬物バンドルのm.w.が5135ダルトンであることを示した。
【0698】
本発明の薬物バンドルは、以下に示すように、遊離TCO官能基を有するリンカーユニット及び1つのセットの5つのイミキモッド分子(エフェクター成分として)から構成された。
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【0699】
実施例18:DOTA-NHSのTCO-ペプチド9への結合
【0700】
DOTA-NHS(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)をMacrocyclics、Inc. Dallas、USAから購入した。スキーム14で説明した2段階法によりDOTA-NHSをTCO-ペプチド9に結合した。第1ステップにおいて、TCO-ペプチド9を1mMで結合緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水、PBS、5mMのEDTAを含有 pH7.0)に溶解した。反応混合物を室温で一晩インキュベートした。第2ステップにおいて、DOTA-NHSエステルを100mMの最終濃度(1:100のモル比、又は1:20の当量比)となるようにインキュベート溶液に加えた。DOTA-NHSエステルはTFAを含むため酸性であるので、NHSエステル-NH2結合反応を活性化するために、溶液をpH8.0に調整した。反応混合物を室温で一晩インキュベートした。
<<スキーム14 DOTA-NHをTCO-ペプチド9に結合する2段階法>>
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【0701】
図24Aのデータから分かるように、本発明の分子構築物のm.w.は4907.685((ESI-TOF)m/z(z=5):[M + 3H]+; calculated for C214H38N39O86S1 982.5358; found 982.5370)である。
【0702】
実施例19:イットリウム原子とTCO-ペプチド9に基づくDOTA結合リンカーユニットとのキレート化
【0703】
スキーム15は、5つのY3+イオンとDOTA結合TCO-ペプチド9とのキレート化を示した。ここで、Y(NO3)3溶液を1:100のモル比で反応混合物に加えた後、室温で2時間インキュベートした。NAP-10 Sephadex G-25カラムを用いて、遊離DOTA-NHS及びY3+イオンを反応混合物から除去した。
<<スキーム15 イットリウム原子とDOTA結合TCO-ペプチド9とのキレート化>>
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【0704】
Y3+イオンが結合されたDOTA結合TCO-ペプチド9を質量分析MALDI-TOFにより分析した。質量分析は、Y3+イオンが結合されたDOTA結合TCO-ペプチド9のサンプルのm.w.が5355ダルトンであることを示した(図24B)。
【0705】
以下に示すように、本発明の薬物バンドルは、遊離TCO官能基を有するリンカーユニット、及びY3+イオンと複合体を形成した1つのセットの5つのDOTA基(エフェクター成分として)から構成された。
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【0706】
実施例20:それぞれヒトCD79a、CD79b、及びコラーゲンVIIに特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株からVH及びVL配列を分子することによるscFvの調製
【0707】
標準ハイブリドーマ法により実験室で、抗CD79a抗体を産生するマウスB細胞ハイブリドーマ24C10、及び抗CD79b抗体を産生するハイブリドーマ1F10を調製した。ヒトコラーゲンVIIに特異的なマウスハイブリドーマ株LH7.2は、Prof. Irene M. Leigh、University of Dundee、U. K. からの贈与であった。Poly(A)+ RNAをSuperScript III RT-PCRシステム(Invitrogen、Carlsbad、USA)を用いて逆転写し、第一鎖cDNAを合成した。製造業者の説明に従って、Igプライマーセット(Novagen、Madison、USA)によって提供されたDNAプライマーを用いてPCRを行うことにより、VH及びVLのcDNAを増幅し、24C10、1F10、及びLH7.2の可変領域配列を決定した。全てのクローンについてVH及びVLの配列を決定した。
【0708】
マウス抗ヒトCD79aモノクローナル抗体クローン24C10のVH及びVLのcDNA配列をそれぞれ配列番号:27及び配列番号:28に示す。マウス抗ヒトCD79bモノクローナル抗体クローン1F10のVH及びVLのcDNA配列をそれぞれ配列番号:29及び配列番号:30に示す。マウス抗ヒトコラーゲンVII モノクローナル抗体クローンLH7.2のVH及びVLのcDNA配列をそれぞれ配列番号:31及び配列番号:32に示す。
【0709】
実施例21:ヒトCD79b又はコラーゲンVIIに特異的なscFvの調製
【0710】
抗CD79b抗体1F10のscFv(配列番号:33)及び抗ヒトコラーゲンVII抗体LH7.2のscFv(配列番号:34)を調製する時に、VL-GSTSGSGKPGSGEGSTKG-VH-(GGGGS)2-CをコードするDNA配列を合成した。可撓性のリンカーGGGGSGGGGS及びシステイン残基をscFvのC末端に導入することにより、修飾されたscFvを本発明の種々のリンカーユニットにおけるリンクアームのマレイミド基に後続に結合することができる。
【0711】
scFvをコードする配列をpG1K発現カセットに入れた。Expi293F細胞を2.0×106生存細胞/mlの密度でExpi293F発現培地に接種した後、トランスフェクションの際に細胞が活発な分裂の状態にあることを確保するために、18〜24時間維持した後トランスフェクションした。トランスフェクションの日に、7.5×108個の細胞を入れた255mlの培地を2Lのエルレンマイヤーシェーカーフラスコに入れた後、ExpiFectamineTM293トランスフェクション試薬でトランスフェクションした。トランスフェクション後、オービタルシェーカー(125 rpm)においてトランスフェクションされた細胞を37℃で16~18時間インキュベートし、次いで、そこにExpiFectamineTM293トランスフェクションエンハンサー1及びエンハンサー2を加えた後、引き続き、6日間インキュベートした。培養上清液を回収し、プロテインLアフィニティークロマトグラフィーにより培地におけるscFvタンパク質を精製した。図25A及び25Bは、それぞれ抗CD79b抗体1F10の精製scFvタンパク質についてのSDS-PAGE及びELISA分析を示した。図25C及び図25Dは、それぞれ抗コラーゲンVII抗体LH7.2の精製scFvタンパク質についてのSDS-PAGE及びELISA分析を示した。
【0712】
実施例22: HEK293過剰発現システムによる、トラスツズマブ、リツキシマブ、セツキシマブ、ニボルマブ、イピリムマブ、ラニビズマブ、アダリムマブ、及び変異テプリズマブのscFvの調製
【0713】
それらの抗体に由来のscFvを、C末端に GGGGSGGGGSの可撓性リンカー及び末端システイン残基を有するように設計された。システイン残基は、種々のリンカーユニットのリンクアームにおける遊離末端にあるマレイミド基と結合するスルフヒドリル基を提供する。トラスツズマブ、リツキシマブ、セツキシマブ、ニボルマブ、イピリムマブ、ラニビズマブ、アダリムマブ、及び変異テプリズマブのscFvを調製するために、これらのヒト化抗体のVH及びVLのDNA配列をコドン最適化なしで使用した。VL-GSTSGSGKPGSGEGSTKG-VH-(GGGGS)2-CをコードするDNA配列を合成した。テプリズマブ抗体分子は、VHのCDR3にシステイン残基を有するため、上記のSH-マレイミド結合を防げる。そのため、本発明者らは、システイン残基をセリン残基に置換する変異テプリズマブを調製した。本発明の実験で調製したトラスツズマブ、リツキシマブ、セツキシマブ、ニボルマブ、イピリムマブ、ラニビズマブ、アダリムマブ、及び変異テプリズマブのscFvのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:35〜42に記載されている。
【0714】
哺乳動物発現システムを用いてscFvタンパク質を調製する際に、後続の実験のために、Expi293FTM細胞株に基づく過剰発現システムにより10-500mgのscFvを調製した。収量は、インビトロ試験及びげっ歯類動物モデル試験に用いられる特定のscFvに関する種々の構築物を調製するのに十分であった。該システムは、Expi293FTM細胞株、カチオン性脂質系ExpiFectamineTM293試薬、ExpiFectamineTM293トランスフェクションエンハンサー1、2、及び培地(Gibco、New York、USA)を含むExpiFectamineTM293トランスフェクションキット(Life Technologies、Carlsbad、USA)を使用した。
【0715】
scFvをコードする配列をpG1K発現カセットに入れた。Expi293F細胞を2.0×106個の生存細胞/mlの密度でExpi293F発現培地に接種した後、トランスフェクションの際に細胞が活発な分裂の状態にあることを確保するために、18〜24時間維持した後トランスフェクションした。トランスフェクションの日に、7.5×108個の細胞を入れた255mlの培地を2Lのエルレンマイヤーシェーカーフラスコに入れた後、ExpiFectamineTM293トランスフェクション試薬でトランスフェクションした。トランスフェクション後、オービタルシェーカー(125 rpm)においてトランスフェクションされた細胞を37℃で16~18時間インキュベートし、次いで、そこにExpiFectamineTM293トランスフェクションエンハンサー1及びエンハンサー2を加えた後、引き続き、5〜6日間インキュベートした。培養上清液を回収し、プロテインLアフィニティークロマトグラフィーにより培地におけるscFvタンパク質を精製した。アダリムマブ及びトラスツズマブscFvタンパク質についての経験によれば、1Lの培養物から300mgを超える精製scFvを得ることができる。図26Aは、トラスツズマブ(レーン1)及びアダリムマブ(レーン2)の精製scFvのSDS-PAGE(10%)分析を示し、図26B、26Cは、それぞれトラスツズマブ及びアダリムマブの精製scFvのELISA分析を示した。図26D、26Eは、それぞれセツキシマブの精製scFvのSDS-PAGE及びELISA分析を示し、ここで、トラスツズマブscFv(抗HER2 scFv)を陰性対照とした。
【0716】
実施例23:ピキア酵母発現システムによるアダリムマブのscFvの調製
【0717】
目標scFv構築物は、先の実施例と同じであるが、使用される信号ペプチドが異なる。
【0718】
XhoI及びNotI制限部位を含むプライマー(フォワード5'-GTATCTCTCGAGAAAAGAGATATTCAGATGACGCAATCCCC-3'(配列番号:43)及びリバース5'-GTATCTGCGGCCGCTTAACAGGAGCCACCGCCAC-3'(配列番号:44))を用いて、アダリムマブのscFvのDNA配列を合成し、pPICZα発現ベクターにサブクローンした。ここで、Kex2信号ペプチドはアダリムマブのscFvの細胞外分泌を可能にする。次いで、発現プラスミドを電気穿孔法によりピキア・パストリスに転換した。高収率クローンを選別するために、ELISAと行うことでアダリムマブのscFvの発現レベルを測定した。480個の形質転換体のうち、5個を選択して、さらなるタンパク質誘導及びSDS-PAGEによる検査に提供しておいた。クローンscFv_1-A2をその後の大規模発酵のために選択した。
【0719】
高収率クローンscFv_1-A2を100mLの緩衝型グリセロール複合培地(BMGY、1% 酵母エキス、2%ペプトン、100mM K3PO4、1.34 YNB、0.4 mg/Lビオチン及び1%グリセロールを含み、pH6.0)に接種し、30°C、200rpmで24時間培養した。翌日、培地を、30℃、溶存酸素30%、pH6.0に維持した発酵条件に変更した。24時間発酵された後、窒素源(YE、ペプトン)及びメタノール(0.5%、v/v)を加えて、タンパク質発現を誘導した。培養上清液を回収し、タンパク質精製を行った。
【0720】
質量分析は、scFvのm. w.が27296.28ダルトンを示した。図27Aは、アダリムマブの精製scFvのSDS-PAGE分析を示した。図27Bは、アダリムマブの精製scFvのELISA分析を示した。scFvのサイズは予想通りであり、酵母産生のアダリムマブscFvは、Expi-293F産生のアダリムマブと同様にヒトTNF-αに結合した。
【0721】
実施例24: CCK類似体の調製
【0722】
CCKのペプチド類似体(CGGGGSDY(SO4H)L(N)GWL(N)DF-NH2; 配列番号:45)を、8-アミノ酸セグメントを有するCCK(3つの非天然アミノ酸残基)と、6つのアミノ酸残基(CGGGGS)からなる連続N末端延長部(末端にシステイン残基する)より構成されるように設計した。チロシン残基(Y)は、芳香環上のOH基が硫酸化され、L(N)は、ノルロイシン残基である。システイン残基のSH基は、本開示に係るリンカーユニットのPEG-マレイミドリンクアームと結合することができる。このペプチドは、Kelowna Inc.、Taipei、Taiwan製である。
【0723】
実施例25: TCO-CD3に特異的なscFv及びDBCO-CD3に特異的なscFvの調製
【0724】
上記の実施例と同様に、配列番号:42をコードするDNA配列を合成し、発現した。CD3に特異的なscFvのVL及びVH配列は、変異テプリズマブのVL及びVHである。Mal-PEG3-TCOとMal-PEG5-DBCO(Conju-probe、Inc.)との結合において、5mMのDTTを静かに振とうしながら室温で4時間インキュベートすることによって、変異テプリズマブの精製scFvのC末端におけるシステイン残基を還元した。NAP-10 Sephadex G-25カラムを用いて、還元型抗CD3scFvを含む緩衝液を、リン酸ナトリウム緩衝液(100mM リン酸ナトリウム、pH7.0、50 mM NaCl、及び5 mM EDTA)に置換した。還元反応および緩衝液交換の後、室温でMal-PEG3-TCO又はMal-PEG5-DBCOとscFvとを1:1のモル比で一晩を反応させることにより結合を行った。余分な架橋剤を脱塩カラムで除去し、TCO結合及びDBCO結合scFv生成物を分析した。
【0725】
質量分析MALDI-TOFの結果は、TCO結合CD3に特異的なscFvのサンプルのm.w.が28053ダルトンであり、DBCO結合CD3に特異的なscFvのサンプルのm.w.が28178ダルトンであることを示した。TCO結合CD3に特異的なscFvの純度(データは示されていない)を、12%SDS-PAGEのクマシー染色によって分析した。図28A及び図28Bは、それぞれTCO結合CD3に特異的なscFv及びDBCO結合CD3に特異的なscFvのELISA分析を示し、ここで、抗PD1scFv及び抗CD3scFvをそれぞれ陰性対照及び陽性対照とした。ELISAの結果から分かるように、TCO結合CD3に特異的なscFv及びDBCO結合CD3に特異的なscFvは、いずれもCD3-Fc-融合タンパク質に結合された。
【0726】
実施例26: CD79bに特異的な3つのscFvの、テトラジン-ペプチド2に基づく3つのPEG12-マレイミドリンクアームへの結合
【0727】
本実施例は、3つのscFvをテトラジン-ペプチド2に基づく3つのPEG12-マレイミドリンクアームに結合できることを証明することを目的とする。3つのPEG12-マレイミドリンクアームを有するテトラジン-ペプチド2に結合する前に、DTTと1F10scFvとを2:1([DTT]:[scFv])のモル比で、25°Cで静かに振とうしながら4時間インキュベートすることにより、そのC末端システインを還元状態に維持した。その後、NAP-10 Sephadex G-25カラム(GE Healthcare)を用いて、還元型1F10scFvを含む緩衝液を、マレイミド-SH結合反応緩衝液(100 mM リン酸ナトリウム、pH7.0、50mM NaCl及び5mM EDTA)に置換した。還元反応および緩衝液交換の後、4°Cで、1:4([リンカー]:[タンパク質])のモル比で、3つのPEG12-マレイミドリンクアームを有するテトラジン-ペプチド2との結合を一晩行った。
【0728】
実施例27:テトラジン-ペプチド2に基づく3つのPEG12-マレイミドリンクアームに結合されたCD79bに特異的な3つのscFvを含む標的化リンカーユニットの精製
【0729】
先の実施例の反応混合物をサイズ排除クロマトグラフィーカラムS75に注入した。CD79bに特異的な3つのscFvに結合されたPEG12-マレイミド結合テトラジン-ペプチド2を、サイズ排除クロマトグラフィーカラムS75により、遊離scFv、遊離PEG12-マレイミド結合テトラジン-ペプチド2及びCD79bに特異的な1つ又は2つのscFvに結合されPEG12-マレイミド結合テトラジン-ペプチド2から分離した。図29Aは、合成した標的化リンカーユニットのFPLC溶出プロファイルである。該リンカーユニットは、遊離のテトラジン官能基、及び1つのセットのヒトCD79bに特異的な3つのscFv(標的化成分として)から構成される。該生成物(即ち、遊離のテトラジン官能基を有し、且つ1つのセットのCD79bに特異的な3つのscFvが結合されたPEG12-マレイミド結合テトラジン-ペプチド2)を溶出フラクションにより精製し、図29Bに示す10%SDS-PAGE分析のレーン5〜7に示した。
【0730】
実施例28:テトラジン-ペプチド2に基づく3つのPEG12-マレイミドリンクアームに結合されたCD79bに特異的な3つのscFvを含む標的化リンカーユニットの質量分析法MALDI-TOFによる分析
【0731】
標的化リンカーユニット(テトラジン-ペプチド2に基づく3つのPEG12-マレイミドリンクアームに結合されたCD79bに特異的な3つのscFv)のサンプルを質量分析法MALDI-TOFにより確認した。実験的分子量の中央値は、3つのPEG12-マレイミドリンクアームを有するテトラジン-ペプチド2に結合された3つの1F10scFvの理論分子量の中央値と一致した。図29Cの質量分析プロファイルから分かるように、本発明の標的化リンカーユニットの平均分子量は、85996ダルトンである。以下の本発明の標的化リンカーユニットは、遊離のテトラジン官能基及び1つのセットのヒトCD79bに特異的な3つのscFv(標的化成分として)を有するリンカーユニットで構成された。
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【0732】
実施例29:HER2/neuに特異的な3つのscFvを有するテトラジン-ペプチド2に基づく標的化リンカーユニットの調製
【0733】
先の実施例と同様に、scFvを先の実施例で調製されたリンカーユニットに結合し、生成物を精製、分析した。図30Aは、合成した生成物のSDS-PAGE分析であり、生成物の純度が高いことを示した。しかし、実質的なPEG成分を有する分子は、一般に、同じ分子量を有するタンパク質よりもSDS-PAGEでの移動が遅い。図30Bは、精製されたリンカーユニットのm.w.が86120ダルトンであることを示した質量分析である。以下の本発明の標的化リンカーユニットは、1つの遊離のテトラジン官能基及び1つのセットのヒトHER2/neuに特異的な3つのscFv(標的化成分として)を有するリンカーユニットで構成された。
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【0734】
実施例30:TNF-α又はPD-1に特異的な3つのscFvを有するTCO-ペプチド2に基づくエフェクターリンカーユニットの調製
【0735】
上記の実施例と同様に、scFvを調製されたリンカーユニットに結合し、生成物を調製、分析した。
【0736】
図30Cは、本発明のエフェクターリンカーユニットの質量分析を示した。該エフェクターリンカーユニットは、遊離TCO官能基及び1つのセットのヒトTNF-αに特異的な3つのscFv(エフェクター成分として)を有するリンカーユニットで構成された(以下に示す)。図30Cに示すように、このエフェクターリンカーユニットの分子量が86134ダルトンである。
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【0737】
図30D及び図30E は、それぞれ別のエフェクターリンカーユニットのSDS-PAGE及び質量分析を示した。該エフェクターリンカーユニットは、1つの遊離TCO官能基及び1つのセットのヒトPD-1に特異的な3つのscFv(エフェクター成分として)を有するリンカーユニットで構成された(以下に示す)。図30Eに示すように、このエフェクターリンカーユニットの分子量が88431ダルトンである。
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【0738】
実施例31:3つのCCKペプチド分子を有するテトラジン-ペプチド2 に基づく標的化リンカーユニットの調製
【0739】
上記の実施例において CCK ペプチドを調製した。上記の実施例と同様に、ペプチドを 3-アームリンカーに結合した。質量分析は、3つのCCKペプチドを有するリンカーユニットのm.w. が8801ダルトンであることを示した(図31)。具体的には、この標的化リンカーユニットは、遊離のテトラジン官能基及び1つのセットの3つのCCKペプチド(標的化成分として)を有するリンカーユニットで構成された。
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【0740】
実施例32: CD20に特異的な2つのscFv を有するTCO-ペプチド7に基づく標的化リンカーユニットの調製
【0741】
この実施例において、2つの官能基を有するリンカーユニットを調製した。このリンカーユニットは、異なるリンカーユニットに結合可能である。3つのリンカーユニットを有する分子構築物において、この標的化リンカーユニットは、中心リンカーユニットとして使用される。該分子構築物は、2つの標的化リンカーユニット及び1つのエフェクターリンカーユニットを含む。本明細書において、2つの標的化リンカーユニットは、テトラジン基とTCO基とのiEDDA反応により結合され、中心リンカーユニット及びエフェクターリンカーユニットは、アルキン基とアジド基とのCuAAC反応により結合された。
【0742】
上記の実施例と同様に、scFvを上記の実施例で調製したリンカーユニットと結合し、生成物を精製し、分析した。得られた標的化リンカーユニット(以下に示す)は、遊離TCO 官能基、遊離アルキン基、及び1つのセットのヒトCD20に特異的な2つのscFv(標的化成分として)を有するリンカーユニットで構成された。図32の質量分析は、このような標的化リンカーユニットのm.w.が56949ダルトン(矢印で示される)であることを示した。
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【0743】
実施例33: VEGF-Aに特異的な2つのscFvの、1つの遊離TCO基及びマレイミド基を有する2つのPEGリンクアームを有するリンカーユニットへの結合
【0744】
上記の実施例と同様に、scFvを上記の実施例で調製したリンカーユニットに結合し、生成物を精製、分析した。
【0745】
以下に示す得られたリンカーユニットは、遊離TCO 官能基及び1つのセットのヒトVEGF-Aに特異的な2つのscFv (エフェクター成分として)を有するエフェクターリンカーユニットで構成された。質量分析は、このリンカーユニットのm.w.が59187ダルトンであることを示した(図33)。
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【0746】
実施例34:標的化成分としてCD79bに特異的な3つのscFv、及びエフェクター成分としてCD3に特異的な1つのscFvを有する分子構築物の調製
【0747】
この実施例において、上記の実施例で得られた標的化リンカーユニットと TCO-CD3に特異的なscFvとをテトラジン-TCO iEDDA反応により結合した。具体的には、標的化リンカーユニットは、CD79bに特異的な3つのscFv及び1つの遊離のテトラジン基を有する。
【0748】
製造者 (Jena Bioscience GmbH、Jena、Germany)の指示に従って、テトラジン-TCO ライゲーション を行った。簡単に言えば、113μlの標的化リンカーユニット(12.4 mg/ml)をエフェクターユニットを含む溶液に1:2([テトラジン]:[TCO])のモル比で加えた。室温で反応混合物を3時間インキュベートした。 生成物について質量分析を行った結果、分子量が114025ダルトンであることを示した(図34A)。
【0749】
生成物である、 CD79b に標的化成分として特異的な3つのscFv、及びエフェクター成分としてCD3に特異的な1つのscFvを有する単一のリンカーユニット分子構築物を以下に示す。
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【0750】
実施例35:標的化成分としてHER2/neuに特異的な3つのscFv a及びエフェクター成分としてCD3に特異的な1つのscFvを有する分子構築物の調製
【0751】
上記の実施例で得られた標的化リンカーユニットと TCO-CD3に特異的なscFvとをテトラジン-TCO iEDDA反応により結合した。
【0752】
上記の実施例と同様に、テトラジン-TCOライゲーションを行った。生成物は、以下に示すように、標的化成分としてHER2/neuに特異的な3つのscFv、及びエフェクター成分としてCD3に特異的な1つのscFvを有する単一のリンカーユニット分子構築物である。図34Bの質量分析は、分子構築物の分子量が112046 ダルトンであることを示した。
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【0753】
実施例36: VEGF-A及び長鎖PEGに特異的な2つのscFvを有するエフェクターリンカーユニットを含む分子構築物の調製
【0754】
1つの末端にテトラジン基を有する長鎖PEG(線形、20kDa)をClick Chemistry Tools(Scoottsdale、PA、USA)から購入した。上記の実施例と同様に、エフェクターリンカーユニットとテトラジン-長鎖PEGとをiEDDA反応により結合した。図35は、TCO-ペプチド1 と抗VEGF-A(レーン2)の scFvとの結合後の反応混合物、及びさらにテトラジン-20 kDa PEG(レーン2)との結合後の反応混合物のSDS-PAGE分析を示した。矢印#1、#2は、それぞれ抗VEGF-Aの1つ及び2つのscFvに結合されたTCO-ペプチド1であり、矢印#3、#4は、それぞれ抗VEGF-Aの1つ及び2つのscFv、さらにテトラジン-20 kDa PEG鎖に結合されたTCO-ペプチド1である。
【0755】
以下は、抗VEGF-Aの2つのscFv及び1つの20 kDa PEG鎖を有する本発明の分子構築物である。
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【0756】
実施例37: CD79bに特異的な3つのscFvを有する標的化リンカーユニット、及び5つのDM1分子を有するエフェクターリンカーユニットで構成されたジョイント-リンカー分子構築物の調製
【0757】
この実施例において、CD79bに特異的な3つのscFv及びPEG-(SMCC-DM1)5の薬物バンドルを含むジョイント-リンカー分子構築物を構築した。上記の実施例と同様に、TCO-テトラジンiEDDA反応により分子構築物を調製した。生成物は、以下に示すように、CD79bに特異的な3つのscFv 及び5つのDM1分子を有する1つの薬物バンドルを含むジョイント-リンカー分子構築物である。図36A図36B、及び図37は、それぞれ本発明のジョイント-リンカー分子構築物のSDS-PAGE、質量分析(分子量91144ダルトンを示す)、及びELISA分析を示した。矢印#1は、抗CD79bの3つのscFvを有するリンカーユニットであり、矢印2は、抗CD79bの3つのscFv及び5つのDM1分子を有する薬物バンドルを含むジョイント-リンカー分子構築物である。ELISA結果は、リンカーユニットを有する抗CD79bの3つのscFv及び抗CD79bの 3つのscFv及び5つのDM1分子を有する薬物バンドルを含むジョイント-リンカー分子構築物がCD79b-Fc融合タンパク質に特異的に結合されることを示した。
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【0758】
実施例38: HER2/neuに特異的な3つのscFvを有する標的化リンカーユニット及び5つのDM1分子を有するエフェクターリンカーユニットで構成されたジョイント-リンカー分子構築物の調製
【0759】
本実施例において、HER2/neuに特異的な3つのscFv及び5つのDM1分子を有する薬物バンドルを含むジョイント-リンカー分子構築物(以下に示す)を構築した。図38は、この生成物のSDS-PAGE分析である。左側は、抗HER2/neuの3つのscFv (薬物バンドル無)を有するリンカーユニットのSDS-PAGEパターン(対照用)である。5つのDM1分子の薬物バンドルに結合することにより、該分子構築物を大きくした。
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【0760】
実施例39: CCK8類似体の3つの分子を有する標的化リンカーユニット、及び5つのDM1分子を有するエフェクターリンカーユニットで構成されたジョイント-リンカー分子構築物の調製
【0761】
本実施において、上記の実施例に記載のiEDDA反応により、3つのCCKペプチド類似体分子及び1つの遊離テトラジン基を有する標的化リンカーユニットと、5つのDM1分子及び1つの遊離TCO基を有するエフェクターリンカーユニット(薬物バンドル)とを結合した。得られたジョイント-リンカー分子構築物は、以下に示すように、3つのCCK8ペプチド、及び5つのDM1分子を有する1つの薬物バンドルを含む。図39は、分子構築物の質量分析であり、m.w.が16381ダルトンであることを示した。
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【0762】
実施例40: CCK8類似体の3つの分子を有する標的化リンカーユニット、及び5つのDOTAキレート基を有するエフェクターリンカーユニットで構成されたジョイント-リンカー分子構築物の調製
【0763】
本実施において、上記の実施例に記載のiEDDA反応により、3つのCCKペプチド類似体分子及び1つの遊離のテトラジン基を有する標的化リンカーユニットと、Y+3と複合体を形成した5つのDOTA基及び1つの遊離TCO基を有するエフェクターリンカーユニット(薬物バンドル)とを結合した。得られたジョイント-リンカー分子構築物は、以下に示すように、3つのCCK8ペプチドと、Y+3と複合体を形成した5つのDOTA基を有する1つの薬物バンドルとを含む。図40は、分子構築物の質量分析であり、m.w.が12654ダルトンであることを示した。
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【0764】
実施例41:HER2/neuに特異的な3つのscFvを有する標的化リンカーユニット、及びCTLA-4に特異的な3つのscFvを有するエフェクター リンカーユニットで構成されたジョイント-リンカー分子構築物の調製
【0765】
本実施において、上記の実施例に記載のiEDDA反応により、HER2/neuに特異的な3つのscFv及び1つの遊離のテトラジン基を有する標的化リンカーユニットと、CTLA-4に特異的な3つのscFv及び1つの遊離TCO基を有するエフェクターリンカーユニットとを結合した。得られたジョイント-リンカー分子構築物、以下に示すように、HER2/neuに特異的な3つのscFvと、CTLA-4に特異的な3つのscFvとを含む。反応混合物のSDS-PAGE分析において、約230kDaのバンドが観察された。
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【0766】
実施例42: CD79bに特異的な3つのscFvを有する標的化リンカーユニット 1、CD20に特異的な2つのscFvを有する標的化リンカーユニット 2、及び5つのDM1分子を有するエフェクターリンカーユニットで構成されたジョイント-リンカー分子構築物の調製
【0767】
本実施において、上記の実施例で得られた、CD20に特異的な2つのscFvを有する標的化リンカーユニット(標的化リンカーユニット2)を中心リンカーユニットとして、第1標的化リンカーユニットのテトラジン基と中心リンカーユニットのTCO基とのiEDDA反応により、第1標的ユニット(標的化リンカーユニット 1)に結合した。また、中心リンカーユニットとエフェクターリンカーユニットとを、中心リンカーユニットのアルキン基とエフェクター リンカーユニットのアジド基とのCuAAC反応により結合した。図41は、異なる反応時刻での反応物及び反応混合物の分析を示した。レーン1における高密度バンドは、精製された抗CD20のscFvを示し、レーン2における矢印1は、抗CD20の2つのscFv、1つのTCO基及び1つのアルキン基を有するリンカーユニット(標的化リンカーユニット 2)を示した。レーン3における矢印#2は、抗CD79bの3つのscFv及び1つのテトラジン基を有するリンカーユニット(標的化リンカーユニット1)を示した。矢印#3は、標的化リンカーユニット1、2を有するジョイント-リンカーを示した。
【0768】
本発明のジョイント-リンカー分子構築物は、以下に示すように、CD79bに特異的な3つのscFv (第1標的化リンカーユニットに由来)、CD20に特異的な2つのscFv (中心標的化リンカーユニット又は第2標的化リンカーユニットに由来)、及び5つのDM1分子(エフェクターリンカーユニットに由来)を含む。
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【0769】
実施例43:リンクアームを介してペプチドコアに結合されたLPSの生物学的活性分析
【0770】
HEK-blueTM検出キット(InvivoGen、San Diego、USA)を用いて、製造業者の説明に従って、TLR 4刺激細胞分析を行うことにより、LPSに結合されたリンカーユニットのLPS生物学的活性を測定した。HEK-blueTM hTLR4細胞は、2つのヒト遺伝子(TLR4及びMD-2/CD14 共受容体遺伝子)、及び分泌型胚性アルカリホスファターゼ(SEAP)レポーター遺伝子を発現し、核因子(NF)-κB活性化を監視する。TLR4アゴニストとの相互作用後、TLR4は、NF-κB活性化を引き起こす信号を伝達し、分泌アルカリ性ホスファターゼを発現し、検出培地(HEK-blueTM検出;分泌アルカリ性ホスファターゼを定量的に分析するための培地; InvivoGen)によりその活性を検出し、分光光度計により測定した。
【0771】
簡単に言えば、HEK-hTLR4細胞を2.5×104細胞の密度で96ウェルプレートに接種し、選択的抗生物質ノルモシンを含む完全DMEMで維持した。異なる濃度(100μg/ mlで2倍希釈)の粗製LPS、精製LPS、ダンシルヒドラジン修飾LPS、及びペプチドコアに結合したLPSで細胞を、18時間刺激した。分光光度計を用いて620nmで培地におけるSEAPを測定することによりTLR4の活性化を分析した
【0772】
図42は、修飾前後のLPSの生物学的活性の分析結果を示した。ダンシルヒドラジンによる修飾に適したLPSフラクションを精製した。ここで、該LPSフラクションは、粗製LPSと同様の生物学的活性を有する。ダンシルヒドラジン修飾LPS及びペプチドコアに結合したLPSは、同程度の部分活性を有する。
【0773】
実施例44:リンクアームを介してペプチドコアに結合されたイミキモッドの生物学的活性分析
【0774】
HEK-blueTM検出キット(InvivoGen、San Diego、USA)を用いて、製造業者の説明に従って、TLR7刺激細胞分析を行うことにより、イミキモッドに結合されたPEG5-NHSの生物学的活性を測定した。HEK-blueTM hTLR7細胞は、2つのヒト遺伝子(TLR7 受容体遺伝子及び分泌型胚性アルカリホスファターゼ(SEAP)レポーター遺伝子)を発現する。TLR7アゴニストとの相互作用後、TLR7は、NF-κB活性化を引き起こす信号を伝達し、分泌アルカリ性ホスファターゼを発現し、検出培地(HEK-blueTM検出;分泌アルカリ性ホスファターゼを定量的に分析するための培地; InvivoGen)によりその活性を検出し、分光光度計により測定した。
【0775】
簡単に言えば、HEK-hTLR7細胞を4×10 4細胞の密度で96ウェルプレートに接種し、選択的抗生物質ノルモシンを含む完全DMEMで維持した。異なる濃度(100μg/mlで2倍希釈)のイミキモッド及びPEG5-NHSに結合したイミキモッドで細胞を、18時間刺激した。分光光度計を用いて620nmで培地におけるSEAPを測定することによりTLR7の活性化を分析した。
【0776】
図43は、リンクアームとの結合後のイミキモッドの生物学的活性を示し、リンクアームに結合したイミキモッド分子は、未修飾イミキモッドと同様の生物学的活性を有することを示した。
【0777】
実施例45:抗VEGF-Aの2つのscFv及び1つの20kDa PEGを有する分子構築物の、Balb/cマウスにおける薬物動態学的特性
【0778】
本試験において、Balb/cマウス(雌性、10週齢)を使用した。分子構築物に含まれるscFvは、上記の実施例と同様に、ラニビズマブから取得したのもである。簡単に言えば、100μgの抗VEGF-AのscFv、及び抗VEGF-Aの2つのscFvと1つの20kDa PEGとを含むリンカーユニットをそれぞれ100mlのPBSに加え、その後、尾静脈を介してマウスにそれぞれ注射した。注射の2,4,24,48,72時間後に眼窩静脈出血により血液サンプルを採取した。その後、血液を凝固させ、血清を採取した。ELISAにより、huVEGF-A組換えタンパク質で被覆した96ウェルプレート(濃度:2μg/ml、1ウェルあたり50μl)を用いて、抗VEGF-Aの活性を分析した。各ウェルにPBS(1%BSA及び1%スキムミルクを含む)で希釈した血清100μlを加え、37°Cで2時間インキュベートした。その後、PBSにより1:2000の比で希釈したHRP結合プロテインL 100μlを加え、37°Cで1時間インキュベートした。次いで、50μlのTMB基質を添加して発色させた。50μlの1M HClで反応を停止した。450nmでの吸光度をプレートリーダーで測定した。
【0779】
図44の結果は、VEGF-Aに特異的な3つのscFv及び20kDa PEG鎖を有する分子構築物が、投与72時間後であっても、かなりの血清中濃度で血清に存在していることを示した。
【0780】
実施例46: 3つの抗CD79のscFv及び5つのDM1分子を有するジョイント-リンカー分子構築物の、ラモス細胞に対する細胞毒性活性
【0781】
ラモス細胞(2x104/ウェル)を、RPMI1640培地(10%のウシ胎仔血清含有)を含有する96ウェルプレートのウェルに接種した。2時間後、異なる濃度(20nMで2倍希釈)の、抗CD79のscFv、抗CD79bの3つのscFv(薬物バンドルなし)を有するリンカーユニット、5つのDM1分子(薬物バンドル)を有するリンカーユニット、及び抗CD79bの3つのscFvと5つのDM1分子とを有する分子構築物で、細胞を処理した。6時間インキュベート後、培養培地を300gで5分間遠心分離して除去し、新しい培地を入れ、細胞をさらに24時間インキュベートした。alamarBlue細胞生存度試薬キット(Invitrogen)を用いて、製造者の説明に従って細胞の生存率を測定した。
【0782】
図45は、4つの治療群のラモス細胞の生存率の結果を示した。CD79に特異的な3つのscFv、及び5つのDM1分子の薬物バンドルを含む分子構築物は、約50%のラモス細胞の細胞溶解を引き起こした。
【0783】
実施例47:ヒトコラーゲンIIに特異的なscFv及びTNF-αに特異的なscFvを含む二本鎖IgG4.Fc融合タンパク質をコードする遺伝子セグメントの構築
【0784】
抗コラーゲンII抗体を産生するマウスB細胞ハイブリドーマII-II6B3をアイオワ大学の発達研究ハイブリドーマバンクから購入した。SuperScriptIII RT-PCRシステム(Invitrogen、Waltham、USA)によりポリ(A)+RNAの逆転写を行い、第一鎖cDNAを合成した。II-II6B3のVH及びVLのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列が公表されていない。II-II6B3の可変領域の配列を決定するために、Ig-primer Sets(Novagen、Madison、USA)によって提供されるDNAプライマーセットを用いて製造業者の説明に従ってPCRを行うことによりVH及びVLのcDNAを増幅した。コラーゲンII(CII又はCOL2)に特異的なII6B3モノクローナル抗体のVH及びVLのアミノ酸配列を配列番号:46、47に示した。TNF-αに特異的なscFvのVL及びVHの配列は、アダリムマブのVL及びVHの配列である。
【0785】
以下は、二本鎖IgG4.Fc融合タンパク質分子構築物の構成である。scFv1-scFv2-CH2-CH3(ヒトγ4)組換え鎖において、2つのscFvを可撓性のヒンジ領域を介してIgG4.FcのCH2ドメインのN末端に融合した。上記の2つのscFvのうち1つは、ヒトコラーゲンIIに特異的であり、もう1つは、ヒトTNF-αに特異的である。第1のscFv(コラーゲンIIに特異的なもの)は、VL-リンカー-VHの配向を有し、第2のscFv(TNF-αに特異的なもの)は、VH-リンカー-VLの配向を有する。2つのscFvのそれぞれにおけるVL及びVHは、親水性リンカーであるGSTSGSGKPGSGEGSTKGによって結合された。2つのscFvは、可撓性リンカーである(GGGGS)3を介して結合された。以下に示すIgG4.Fc融合タンパク質分子構築物における組換え鎖の配列を配列番号:48に示した。
【0786】
以下は、本発明の二本鎖(scFv αコラーゲンII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc分子構築物の構成である。
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【0787】
実施例48:組換え二本鎖(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc融合タンパク質の発現及び精製
【0788】
本実施において、遺伝子をコードする配列をpcDNA3発現カセットに入れた。Expi293F細胞を2.0×106 生存細胞/mlの密度でExpi293F発現培地に接種した後、トランスフェクションの際に細胞が活発な分裂の状態にあることを確保するために、18〜24時間維持した後トランスフェクションした。トランスフェクションの日に、7.5×108個の細胞を入れた255mlの培地を2Lのエルレンマイヤーシェーカーフラスコに入れた後、ExpiFectamineTM293トランスフェクション試薬でトランスフェクションした。トランスフェクション後、オービタルシェーカー(125 rpm)においてトランスフェクションされた細胞を37℃で16~18時間インキュベートし、次いで、そこにExpiFectamineTM293トランスフェクションエンハンサー1及びエンハンサー2を加えた後、引き続き、7日間インキュベートした。培養上清液を回収し、プロテインAクロマトグラフィーにより培地における組換え二本鎖(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc融合タンパク質を精製した。緩衝液をPBSに交換した後、SDS-PAGEにより(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fcタンパク質の濃度を測定し分析した。図46に示すように、II-II6B3(レーン1)及び(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc(レーン2)を10% SDS-PAGEで分析した。Fc融合分子構築物の主要なバンドが約80kDa(予想サイズと同じ)に観察された。
【0789】
実施例49:組換え二本鎖(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc融合タンパク質の結合活性のELISA分析
【0790】
ELISAによりアダリムマブ及びマウス親モノクローナル抗体II-II6B3を対照として組換え二本鎖(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc融合タンパク質の、II型コラーゲンに対する結合活性を分析した。ELISAプレートに、5μg/mLのヒトII型コラーゲン(ヒトCOL2)、マウスII型コラーゲン(マウスCOL2)、及びニワトリII型コラーゲン(ニワトリCOL2)を塗布した。1D11はアイソタイプ対照としてダニアレルゲンに対するヒトIgG1抗体であった。HRP結合ヤギ抗ヒトIgG4.Fc、ヤギ抗マウスIgG.Fc、及びヤギ抗ヒトIgG1.Fcにより、それぞれ組換え二本鎖(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc融合タンパク質、精製された抗コラーゲンII抗体(II-II6B3)及びアダリムマブを検出した。ELISA結果を図47Aに示した。
【0791】
ELISAによりアダリムマブ及びマウス親モノクローナル抗体II-II6B3を対照として二本鎖(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc融合タンパク質の、ヒトTNF-αに対する結合活性を分析した。ELISAプレートに、1μg/mLのヒトTNF-α及び1μg/mLのヒト血清アルブミン(対照)を塗布した。HRP結合ヤギ抗ヒトIgG4.Fc、ヤギ抗マウスIgG.Fc、及びヤギ抗ヒトIgG1.Fcにより、それぞれ組換え二本鎖(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc融合タンパク質、精製された抗コラーゲンII抗体(II-II6B3)及びアダリムマブを検出した。図47Bの結果から分かるように、組換え二本鎖(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc融合タンパク質がヒトTNF-αに対して有意な結合活性を示した。ここで、HSA(ヒト血清アルブミン)は対照である。
【0792】
実施例50:ヒトコラーゲンIIに特異的なscFv、TNF-αに特異的なscFv及びヒトIL-17に特異的なscFvを含む二本鎖IgG4.Fc融合タンパク質の調製
【0793】
3つのscFvを融合することによりscFv1-scFv2-CH2-CH3-scFv3(ヒトγ4)組換え鎖を構築した。そのうち、ヒトコラーゲンIIに特異的な第1のscFv及びTNF-αに特異的な第2のscFvを可撓性のヒンジ領域を介してIgG4.FcのCH2ドメインのN末端に融合した。IL-17に特異的な第3のscFvをCH3ドメインのC末端に融合した。
【0794】
コラーゲンIIに特異的なscFvのVH及びVLは、モノクローナル抗体II-II6B3に由来し、TNF-αに特異的なscFvのVH及びVLは、モノクローナル抗体アダリムマブに由来し、IL-17に特異的なscFvのVH及びVLは、セクキヌマブに由来する。第1のscFv(コラーゲンIIに特異的なもの)は、VL-リンカー-VHの配向を有し、第2のscFv(TNF-αに特異的なもの)は、VH-リンカー-VLの配向を有し、第3のscFv(IL-17に特異的なもの)は、VL-リンカー-VHの配向を有する。上記の3つのscFvのそれぞれにおけるVL及びVHは、親水性リンカーであるGSTSGSGKPGSGEGSTKGを介して結合された。第1のscFv及び第2のscFvは、可撓性リンカー(GGGGS)3を介して融合された。
【0795】
IgG4.Fc融合タンパク質分子構築物における組換え鎖の配列を配列番号:49に示した。上記の実施例と同様に、Expi293F細胞において構築された遺伝子の発現及び発現された融合タンパク質の精製を行った。新しい構築物についてSDS-PAGE及びELISAにより定性分析を行った。抗体セクリーヌマブ(Cosentyx)をChang Gung Hospital(Taipei、Taiwan)から購入し、ヒトIL-17をPeprotech(NJ、USA)から購入した。図48Aは、SDA-PAGE結果であり、新しい構築物の組換え鎖が約110kDaのサイズ(予想サイズと同じ)を有することを示した。図48Bは、ELISA分析であり、本発明の組換えFc-融合タンパク質がヒトコラーゲンII、ヒトTNF-α、及びヒトIL-17に対し結合活性を有することを示した。
【0796】
以下は、本発明の二本鎖(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc-(scFv α IL-17)分子構築物の構成である。
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【0797】
実施例51:TNF-α可溶性受容体及びコラーゲンIIに特異的なscFvを含む二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質の調製
【0798】
ヒトTNF-α受容体、IgG1.Fc、及びコラーゲンIIに特異的なscFvを融合することにより(TNF-α受容体)-CH2-CH3-scFv αコラーゲンII(ヒトγ1)組換え鎖を構築した。TNF-α受容体及びIgG1.Fcの配列は、エタネルセプトの配列である。可撓性リンカーである(GGGGS)3を介してエタネルセプト及びscFvを融合した。IgG4.Fc融合タンパク質分子構築物の組換え鎖の配列を配列番号:50に示した。
【0799】
上記の実施例と同様に、Expi293F細胞において構築された遺伝子の発現及び発現された融合タンパク質の精製を行った。新しい構築物についてSDS-PAGE及びELISAにより定性分析を行った。エタネルセプト(Enbrel)をChang Gung Hospital(Taipei、Taiwan)から購入した。図49Aは、SDS-PAGE結果であり、新しい分子構築物の組換え鎖が約100kDaのサイズ(予想サイズと同じ)を有することを示した(エタネルセプト分子の分子量が150kDaであり、その1鎖のサイズが約75kDaであり、scFvのサイズが約27kDaである)。図49Bは、ELISA結果であり、本発明の分子構築物がヒトTNF-α、ヒトコラーゲンII、及びマウスコラーゲンIIに結合したことを示した。
【0800】
以下は、本発明の二本鎖(可溶性TNF-α受容体)-IgG1.CH2-CH3-scFv αコラーゲンII分子構築物の構成である。
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【0801】
実施例52:ヒトTNF-αに対するインタクト抗体及びコラーゲンIIに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質の調製
【0802】
ヒトTNF-αに特異的なインタクト抗体及びコラーゲンIIに特異的なscFvを融合することによりIgG-scFv(ヒトγ1)組換え鎖(以下に示す)を構築した。インタクト抗体の配列は、アダリムマブの配列である。アダリムマブ及びscFvを可撓性リンカーである(GGGGS)3を介して融合した。
【0803】
2つの遺伝子をマルチクローニングサイトを有するpG1K発現カセットに挿入することにより、組換え遺伝子の重鎖及び軽鎖を構築した。ヒトTNF-αに対するインタクト抗体及びコラーゲンIIに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質を調製するために、上記の実施例と同様に、発現ベクターをExpi293F細胞にトランスフェクションした。ヒトTNF-αに対するインタクト抗体及びコラーゲンIIに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質の重鎖のアミノ酸配列を配列番号:51に示し、二本鎖融合タンパク質の軽鎖のアミノ酸配列を配列番号:52に示した。
【0804】
図50は、SDS-PAGE結果であり、本発明の延伸IgG分子構築物における組換え重鎖が約75kDaのサイズ(予想サイズと同じ)を有することを示した。
【0805】
以下は、本発明のC末端にヒトコラーゲンIIに特異的なscFvを有する延伸IgG構造の抗ヒトTNF-αの構成である。
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【0806】
実施例53:ヒトIL-17に対するインタクト抗体及びコラーゲンVIIに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質の調製
【0807】
ヒトIL-17に特異的なインタクト抗体及びコラーゲンVIIに特異的なscFvを融合することによりIgG-scFv(ヒトγ1)組換え鎖を構築した。インタクト抗体の配列は、セクリーヌマブの配列である。セクキヌマブ及びscFvを可撓性リンカーである(GGGGS)3により融合した。
【0808】
2つの遺伝子をマルチクローニングサイトを有するpG1K発現カセットに挿入することにより、組換え遺伝子の重鎖及び軽鎖を構築した。ヒトIL-17に対するインタクト抗体及びコラーゲンVIIに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質を調製するために、上記の実施例と同様に、発現ベクターをExpi293F細胞にトランスフェクションした。ヒトIL-17に対するインタクト抗体及びコラーゲンVIIに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質の重鎖のアミノ酸配列を配列番号:53に示し、二本鎖融合タンパク質の軽鎖のアミノ酸配列を配列番号:54に示した。
【0809】
図51Aは、SDS-PAGE結果であり、新しい分子構築物の組換え重鎖が75kDaのサイズ(予想サイズと同じ)を有することを示した。図51Bは、ELISA結果であり、本発明の分子構築物がヒトIL17及びヒトコラーゲンVIIに結合したことを示した。コラーゲンVIIとの結合力が相対的に低いことは、ELISAプレートを塗布するための抗原の濃度が低いためである。
【0810】
以下は、本発明のC末端にヒトコラーゲンVIIに特異的なscFvを有する延伸IgG構造の抗ヒトIL-17の構成である。
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【0811】
実施例54:ヒトコラーゲンVIIに特異的なscFv及びBAFFに特異的なscFvを含む二本鎖IgG4.Fc融合タンパク質の調製
【0812】
抗コラーゲンVII抗体を産生するマウスB細胞ハイブリドーマLH7.2mAbのcDNAは、ロンドンクイーン・メアリー大学の学術皮膚科・がん研究部門英国皮膚腫瘍研究所(Department of Academic Dermatology and Cancer Research UK skin tumor laboratory at Queen Mary University of London.)のDr. Purdieからの贈与であった。上記の実施例において、LH7.2 モノクローナル抗体のVH及びVLの配列(配列番号:29及び30)が決定された。BAFFに特異的なscFvのVL及びVHの配列は、ベリムマブのVL及びVHの配列である。
【0813】
可撓性リンカーである(GGGGS)3を介してIgG4.Fcで隔てられた2つのscFvをIgG4.FcのCH3ドメインのC末端に融合することにより、scFv1-CH2-CH3-scFv2(ヒトγ4)組換え鎖(配列番号:55)を構築した(以下に示す)。上記の2つのscFvのうち、1つは、コラーゲンVIIに特異的であり、もう1つは、BAFFに特異的である。第1のscFv(コラーゲンVIIに特異的なもの)は、VL-リンカー-VHの配向を有し、第2のscFv(BAFFに特異的なもの)は、VH-リンカー-VLの配向を有する。2つのscFvのそれぞれにおけるVL及びVHは、親水性リンカーであるGSTSGSGKPGSGEGSTKGにより結合された。
【0814】
上記の実施例と同様に、Expi293F細胞において構築された遺伝子の発現及び発現された融合タンパク質の精製を行った。新しい構築物についてSDS-PAGE及びELISAにより定性分析を行った。抗体ベリムマブ(Belynsta)をChang Gung Hospital(Taipei)から購入し、ヒトBAFFをGenScript(NJ、USA)から購入した。図52Aは、SDA-PAGE結果であり、新しい分子構築物の組換え鎖が約80-90kDaのサイズ(予想サイズと同等又はそれよりやや大きい)を有することを示した。図52Bは、ELISA結果であり、新しい構築物がヒトBAFF及びヒトコラーゲンVIIに特異的に結合したことを示した。
【0815】
以下は、本発明のscFv αコラーゲンVII-IgG4.CH2-CH3-scFv α BAFFを有する二本鎖Fc-融合分子構築物である。
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【0816】
実施例55:ヒトBAFFに対するインタクト抗体及びコラーゲンVIIに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質の調製
【0817】
ヒトBAFFに特異的なインタクト抗体及びコラーゲンtype VIIに特異的なscFvを融合することにより、IgG-scFv(ヒトγ1)組換え鎖を構築した。インタクト抗体の配列は、ベリムマブの配列である。ベリムマブ及びscFvを可撓性リンカーである(GGGGS)3を介して融合した。
【0818】
2つの遺伝子を、マルチクローニングサイトを有するpG1K発現カセットに挿入することにより、組換え遺伝子の重鎖及び軽鎖を構築した。ヒトBAFFに対するインタクト抗体及びコラーゲンVIIに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質を調製するために、上記の実施例と同様に、発現ベクターをExpi293F細胞にトランスフェクションした。
【0819】
ヒトBAFFに対するインタクト抗体及びコラーゲンVIIに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質の重鎖のアミノ酸配列を配列番号:56に示し、二本鎖融合タンパク質の軽鎖のアミノ酸配列を配列番号:57に示した。図53Aは、SDS-PAGE結果であり、新しい分子構築物の組換え重鎖が80kDaのサイズ(予想サイズと同じ)を有することを示した。図53Bは、ELISA結果であり、新しい延伸IgG構築物がヒトBAFF及びヒトコラーゲンVIIに特異的に結合したことを示した。
【0820】
以下は、C末端にヒトコラーゲンVIIに特異的なscFvを有する本発明の抗ヒトBAFF延伸IgG構造の構成である。
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【0821】
実施例56:ヒトオステオネクチンに特異的なscFv及びRANKLに特異的なscFvを含む二本鎖IgG4.Fc融合タンパク質の調製
【0822】
マウスB細胞ハイブリドーマAON-1を産生する抗オステオネクチン(SPARC)抗体をアイオワ大学の発達研究ハイブリドーマバンクから購入した。SuperScriptIII RT-PCRシステム(Invitrogen)によりポリ(A)+RNAの逆転写を行い、第一鎖cDNAを合成した。AON-1のVH及びVLのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列が公表されていない。AON-1の可変領域の配列を決定するために、Ig-primer Sets(Novagen)によって提供されるDNAプライマーセットを用いて製造業者の説明に従ってPCRを行うことによりVH及びVLのcDNAを増幅した。オステオネクチンに特異的なAON-1モノクローナル抗体のVH及びVL配列を配列番号:58及び59に示した。RANKLに特異的なscFvのVL及びVHの配列は、デノスマブのVL及びVHの配列である。
【0823】
2つのscFvを可撓性ヒンジ領域を介してIgG4.FcのCH2ドメインのN末端に融合することにより、scFv1-scFv2-CH2-CH3(ヒトγ4)組換え鎖(配列番号:60)を構築した(以下に示す)。上記の2つのscFvのうち、1つは、ヒトオステオネクチンに特異的であり、もう1つは、RANKLに特異的である。第1のscFv(オステオネクチンに特異的なもの)は、VL-リンカー-VHの配向を有し、第2のscFv(RANKLに特異的なもの)は、VH-リンカー-VLの配向を有する。2つのscFvのそれぞれのVL及びVHは、親水性リンカーであるGSTSGSGKPGSGEGSTKGを介して融合された。2つのscFvは、可撓性リンカーである(GGGGS)3を介して融合された。
【0824】
上記の実施例と同様に、Expi293F細胞において構築された遺伝子の発現及び発現された融合タンパク質の精製を行った。上記の実施例と同様に、ELISAにより、融合タンパク質とヒトオステオネクチン及びRANKLとの結合活性を分析した。新しい構築物についてSDS-PAGE及びELISAにより定性分析を行った。抗体デノスマブ(Prolia)をChang Gung Hospitalから購入し、ヒトRANKL及びヒトオステオネクチン(SPARC)をGenScriptから購入した。図54Aは、SDS-PAGE結果であり、新しい分子構築物の組換え鎖が約80kDaのサイズを有することを示した。図54Bは、ELISAであり、新しいFc-融合構築物がヒトSPARC及びヒトRANKLに特異的に結合されたことを示した。
【0825】
以下は、本発明の二本鎖(scFv α SPARC)-(scFv α RANKL)-hIgG4.Fc分子構築物の構成である。
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【0826】
実施例57:ヒトRANKLに対するインタクト抗体及びヒトオステオネクチンに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質の調製
【0827】
ヒトRANKLに特異的なインタクト抗体及びヒトオステオネクチンに特異的なscFvを融合することにより、IgG-scFv(ヒトγ1)組換え鎖を構築した。インタクト抗体の配列は、デノスマブの配列である。デノスマブ及びscFvは、可撓性リンカーである (GGGGS)3を介して結合された。
【0828】
2つの遺伝子をマルチクローニングサイトを有するpG1K発現カセットに挿入することにより、組換え遺伝子の重鎖及び軽鎖を構築した。ヒトRANKLに対するインタクト抗体及びヒトオステオネクチンに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質を調製するために、上記の実施例と同様に、発現ベクターをExpi293F細胞にトランスフェクションした。
【0829】
ヒトRANKLに対するインタクト抗体及びヒトオステオネクチンに特異的なscFvを含む二本鎖融合タンパク質の重鎖のアミノ酸配列を、配列番号:61に示し、二本鎖融合タンパク質の軽鎖のアミノ酸配列を配列番号:62に示した。図55Aは、SAS-PAGE結果であり、延伸IgG分子構築物における組換え重鎖が80kDaのサイズを有することを示した。図55Bは、ELISA結果であり、新しいFc-融合構築物がヒトSPARC及びヒトRANKLに特異的に結合されたことを示した。
【0830】
以下は、本発明のC末端にヒトオステオネクチンに特異的なscFvを有する延伸IgG構造における抗ヒトRANKLの構造である。
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【0831】
実施例58:ヒトコラーゲンIIに特異的なscFv及びTNF-αに特異的なscFvを含む二本鎖IgG4.Fc融合タンパク質と関節軟骨との結合についての免疫組織化学分析
【0832】
中央研究院ゲノミクス研究センターの組織学的コア施設で免疫組織学的分析を行うことにより、分子構築物である二本鎖(scFv αコラーゲンII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc(上記の実施例で説明した構成)と軟骨との結合の親和性を調べた。マウス骨及び軟骨サンプルは、CO2で殺したFVB/Nマウスから得たのもである。脛骨及び膝大腿骨端に結合した大腿骨を採取し、室温で10%中性緩衝ホルムアルデヒドで48時間固定した。次いで、毎日溶液を交換しながら、サンプルを10% EDTA(pH 7.4)で7日間放置して脱カルシウムした。脱カルシウム後、サンプルを室温、10%中性緩衝ホルムアルデヒドで24時間後固定し、ASP6025 Tissue Processor (Leica)において70%エタノール、4°Cで脱水し、パラフィン包埋した。
【0833】
Schmitzらが2010年に提出したプロトコルに従って、サフラニンO染色を行た。免疫染色において、厚さが3μmの切片をLeica AutoStainer XLにより脱パラフィンし、再水和させ、その後、チラミド信号増幅ビオチンキット(PerkinElmer)に記載の染色手順に基づいて染色を行った。簡単に言えば、切片を3% H2O2で15分間処理して内在性ペルオキシダーゼ活性をクエンチし、その後、1mg/mLのヒアルロニダーゼ(Sigma Aldrich)を加え37°Cで20分間処理し、さらに20μg/mLプロテイナーゼk(TOOLS)を加え室温で10分間処理することにより、抗原賦活化を行た。その後、TSAキットのTNB緩衝液で切片を密封した。マウスII-II6B3抗体で染色する際に、TNBブロッキング前に、別途のマウスIgGブロッキング試薬(Vector Laboratories)を追加した。一次抗体II-II6B3及び(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fcは、いずれも50μg/mLで使用された。HRPを組み込むする場合に、ヤギ抗マウスIgG Fc及びヤギ抗ヒトIgG Fc(Jackson ImmunoResearch)を1.6μg/mLで使用し、その後に添加したビオチン-チラミドと反応させた。次いで、ストレプトアビジン-HRPでビオチン標識をプローブし、ジアミノベンジジン基質(BioGenex)で発色的に可視化した。切片をヘマトキシリンを用いて対比染色し、Leica CV5030 Coverslipperに載せた。
【0834】
図56A〜56Cは、マウス骨端骨の免疫染色を示した。即ち、まず、マウス骨端骨を、モノクローナル抗体II-II6B3(図56A)、アダリムマブ(図56B)、及び上記の実施例で得られた(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc(図56C)と反応させ、次いで、HRP標識ヤギ抗マウス又はヤギ抗ヒト二次抗体を加え、チラミド増幅を行った。図56A及び図56Cにおいて、骨端関節軟骨(AC)及び成長板(GP)でII型コラーゲンが観察された。その結果、抗コラーゲンIIモノクローナル抗体II-II6B3は、AC及びGP部位を顕著に染色(図56A)する一方、アダリムマブは顕著な染色効果を有さなかった(図56B)。本発明の構築物は、AC及びGP部位を染色した(図56C)。当初褐色で示された陽性染色は黒色/灰色に変換された。スケールバーは250μmを表す。
【0835】
実施例59:コラーゲンIIに特異的なscFv、TNF-αに特異的なscFv及びIL-17に特異的なscFvを含む二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質と関節軟骨との結合についての免疫組織化学分析
【0836】
上記の実施例と同様に、組織薄切片を調製し、分子構築物である二本鎖(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc-(scFv α IL-17)(上記の実施例で説明した構成)及び対照で染色した。
【0837】
図56のD、Eは、マウス骨端骨のコラーゲンIIの免疫染色を示した。マウス膝の大腿骨端の厚さが3μmの切片をモノクローナル抗体、抗IL17aマウス抗体(PeproTech、NJ、USAから購入)(図56D)、及び本発明の構築物である二本鎖(scFv α CII)-(scFv α TNF-α)-hIgG4.Fc-(scFv α IL-17)(図56E)で染色し、次いで、HRPによって標識されたヤギ抗マウス又はヤギ抗ヒト二次抗体で染色し、チラミド増幅を行った。その結果、抗IL17モノクローナル抗体は顕著な染色効果を有さなかった一方、本発明の構築物は適度な染色効果を有した。
【0838】
実施例60: TNF-α可溶性受容体及びコラーゲンIIに特異的なscFvを含む二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質と関節軟骨との結合についての免疫組織化学分析
【0839】
上記の実施例と同様に、組織薄切片を調製し、分子構築物である二本鎖(可溶性TNF-α受容体)-IgG1.CH2-CH3-scFv αコラーゲンII(上記の実施例で説明した構成)及び対照で染色した。
【0840】
染色手順は先の実施例と同じであった。マウス骨端骨組織切片のサンプルは、同じバッチからのものであった。結果は、陽性対照II-II6B3が強く染色され(図57A)、エタネルセプトが顕著な染色効果を有さなく(図57B)、本発明の構築物がコラーゲンII含有成分ACおよびGPを顕著に染色した(図57C)ことを示した。
【0841】
実施例61:生体内イメージングシステムによるヒトオステオネクチンに特異的なscFv(SPARC)及びRANKLに特異的なscFvを含む組換え二本鎖IgG4.Fc融合タンパク質の生体分布についての分析
【0842】
Dylight680抗体標識キット(Thermo Scientific)を用いて、製造者の説明に従って、デノスマブと(scFv α SPARC)-(scFv α RANKL)-hIgG4.Fc(実施例56)とを結合した。8~10週齢のBALB/cマウスに、PBS又は40μgの標識抗体を静脈注射した。異なる時点で、O2におけるイソフルランでマウスを麻酔し、仰臥位でIVISスペクトル生体内イメージングシステム(PerkinElmer)に置いた。Living Image Software V3.2を用いて、ex/em=675/720で蛍光画像を撮った。
【0843】
(scFv α SPARC)-(scFv α RANKL)-hIgG4.Fcの標的効果を調べるために、腹部からの蛍光信号を観察することにより、マウス体内の抗体の組織分布を比較した。DyLight 680結合抗体投与の30分間、3時間、及び28時間後、BALB/cマウスの蛍光画像を撮って分析した。注射の30分間後、抗SPARC、(scFv α SPARC)-(scFv α RANKL)-hIgG4.Fc、及びBoneTagの四肢への浸透は、デノスマブよりも多かった。膀胱の蓄積に加えた、3時間後のデノスマブ、抗SPARC、及び(scFv α SPARC)-(scFv α RANKL)-hIgG4.Fcの分布は、より広く分散した一方、BoneTagは、頭部と四肢に制限された。抗体投与の28時間後であっても、抗SPARCで処理されたマウスについて骨構造が明確に観察された。
【0844】
図58は、蛍光標識された抗体の生体内の生体分布を示した。BALB/cマウスにPBS(1)、デノスマブ(2)、抗SPARC mAb(3)、(scFv α SPARC)-(scFv α RANKL)-hIgG4.Fc(4)、及びBoneTag(5)を静脈注射した。IVIS Spectrum imagerを用いて図示された時点で画像を撮り、Living Image softwareで分析された。スペクトルアンミキシングにより、組織の自己蛍光をDyLight 680信号と区別した。その結果、デノスマブに比べて、処置後30分、本発明の構築物が抗SPARCモノクローナル抗体に類似して分布していることを示した。より長い時点で、分布は試薬の半減期に影響された。抗SPARC及びデノスマブはいずれも抗体であり、類似する血清半減期を有した。
【0845】
実施例62:標的化成分としてEGF、及びエフェクター成分として細胞毒性分子のバンドルを含む二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質分子構築物の調製
【0846】
以下に示す構成は、EGF-CH2-CH3(ヒトγ1)の組換え鎖を構築することにより調製された二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質である。リンカーであるASGGGGSGGGGSを介してEGFのC末端の53個のa.a.をCH2のN末端に結合した。GGGDCでCH3のC末端を延長した。C末端にあるシステイン残基は、細胞毒性ペイロードのバンドルを有するリンカーユニットに結合するためのものであった。組換えペプチド鎖の配列を配列番号:63に示した。プロテインAクロマトグラフィーにより4°Cで組換えタンパク質を精製し、12% SDS-PAGEによるクマシー染色によりタンパク質の純度を分析した。図59Aは、C末端延長部及びシステイン残基を有する二本鎖EGF-CH2-CH3、及び抗PD1の二本鎖EGF-CH2-CH3-scFvのSDS-PAGE分析であり、C末端延長部を有するEGF-CH2-CH3が約38kDaのサイズ(予想サイズと同じ)を有し、EGF-CH2-CH3-(抗PD1のscFv)が約60-65kDaのサイズ(予想サイズと同じ)を有することを示した。
【0847】
以下は、本発明のC末端延長部及びシステイン残基を有する二本鎖EGF-hIgG1.Fcの構成である。
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【0848】
実施例63: SPACC反応による二本鎖EGF-CH2-CH3融合タンパク質と2つのLPS分子の薬物バンドルとの結合
【0849】
テトラジン-PEG4-Malを二本鎖EGF-CH2-CH3のC末端システイン残基に結合した。LPSに結合されたリンカーユニットの0.6モルのアリコートと0.06モルの二本鎖EGF-IgG1.Fc融合タンパク質とを、室温で0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)において10:1のモル比([リンカー]:[タンパク質])で一晩混合した。末端システインのSH基をマレイミド-PEG4-テトラジンに結合した。質量分析MALDI-TOFにより、SH-マレイミド反応によるテトラジン結合二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質の形成を確認した。質量分析は、テトラジン結合二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質のm.w.が68852であることを示した。
【0850】
さらに、遊離TCO基及び2つのLPS分子を有する薬物バンドル(リンカーユニット)と二本鎖EGF-CH2-CH3の遊離のテトラジン基とを結合した。100μlの1mg/mlの薬物バンドルをテトラジン結合二本鎖EGF-CH2-CH3を2:1のモル比([テトラジン]:[TCO])で含む溶液に加えた。反応混合物を室温で16時間インキュベートした。
【0851】
図59Bは、2つのLPS分子を有するリンカーユニットに結合された二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質のSDS-PAGE分析である。レーン1におけるバンドは、C末端リンカー及びシステイン残基を有するEGF-CH2-CH3であり、レーン2の矢印は、2つのLPS分子を有する薬物バンドルに結合されたEGF-CH2-CH3を示した。
【0852】
以下は、LPSを有するリンカーユニットに結合された二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質の構成である。
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【0853】
実施例64:標的化成分としてEGF、及びエフェクター成分としてPD1に特異的なscFvを含む二本鎖IgG1.Fc融合分子構築物の調製
【0854】
以下に示す構成は、標的化成分としてEGF、及びエフェクター成分としてPD-1に特異的なscFvを含む二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質分子構築物である。EGF-CH2-CH3-(scFv α PD1)(ヒトγ1)の組換え鎖を構築することにより、二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質、二本鎖EGF-hIgG1.Fc-(scFv α PD1)(配列番号:64)を調製した。CH2-CH3は、ヒトγ1の一部であり、且つscFvは、ヒトPD1に特異的である。PD1に特異的なscFvのVL及びVHは、ニボルマブのVL及びVHである。CH3のC末端は、可撓性リンカーである(GGGGS)3を介して抗PD1 scFvに結合された。4°CでプロテインAクロマトグラフィーにより、組換えタンパク質を精製した。
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【0855】
組換え二本鎖EGF-IgG1.Fc融合タンパク質及びEGF-IgG1Fc-(scFv α PD1)融合タンパク質にELISA分析を行うことにより、組換え二本鎖EGF-IgG1.Fc-(scFv α PD1)融合タンパク質とERBB1との結合能力を調べた。1μg/mL、2μg/mL、及び4μg/mLの組換えERBB1タンパク質をELISAプレートに塗布した。セツキシマブは、ヒトEGFRに対するヒトIgG1抗体であるため、セツキシマブscFvを陽性対照として用いた。図60AのELISA結果は、EGF-IgG1.Fc融合タンパク質及びEGF-IgG1.Fc-(scFv α PD1)融合タンパク質は、両方ともERBB1外部ドメインに結合され、且つ、セツキシマブscFvと同等の結合能力を有することを示した。各バーは、重複サンプルの平均OD450値を表した。
【0856】
ELISAプレートに1μg/mLの組換えヒトPD-1タンパク質を塗布し、組換え二本鎖EGF-IgG1.Fc-(scFv α PD1)融合タンパク質とPD-1との結合能力を調べた。ハーセプチンは、ERBB2に対するヒトIgG1抗体であるため、ハーセプチンscFvを陰性対照として用いた。各バーは、重複サンプルの平均OD450値を表した。図60BのELISA結果は、EGF-IgG1.Fc-(scFv α PD1)融合タンパク質とヒトPD-1タンパク質との陽性結合を示した。
【0857】
実施例65:標的化成分としてEGF、及びエフェクター成分としてCD3に特異的なscFvを含む二本鎖IgG1.Fc融合分子構築物の調製
【0858】
本実施において、EGF-CH2-CH3-(scFv α CD3)の組換え鎖(配列番号:65)を構築することにより、二本鎖IgG.Fc融合タンパク質を調製した。CH2-CH3は、ヒトγ1の一部であり、scFvは、ヒトCD3に特異的である。CD3に特異的なscFvのVL及びVHは、テプリズマブのVL及びVHである。CH3のC末端は、可撓性リンカーである(GGGGS)3を介して抗CD3scFvに結合された。図61Aは、二本鎖EGF-hIgG1.Fc-(scFv α CD3)分子構築物(以下に示す)のSDS-PAGE分析を示した。
【0859】
ELISA分析により組換え二本鎖EGF-hIgG1.Fc-(scFv α CD3)融合タンパク質のERBB1、ERBB2及びERBB3との結合能力を調べた。ELISAプレートに1μg/mL、2μg/mL及び4μg/mLの組換えERBB1、ERBB2、又はERBB3タンパク質を塗布した。図61B のELISA結果は、EGF-IgG1.Fc融合タンパク質及びEGF-IgG1.Fc-(scFv α CD3)融合タンパク質がERBB1外部ドメインに結合され、且つ、セツキシマブscFvと同等の結合能力を有することを示した。各バーは、重複サンプルの平均OD450値を表した。
【0860】
以下は、本発明の二本鎖EGF-hIgG1.Fc-(scFv α CD3)の構成である。
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【0861】
実施例66:標的化成分としてEGF変異型EGF(S2W/D3V)を含む二本鎖EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)の調製
【0862】
EGFの線形N末端領域における2つのアミノ酸を(Ser-2からTrp、Asp-3からValへ)置換すれば、EGFをERBB2/ERBB3ヘテロダイマー及びERBB3ホモダイマーに結合することができる。EGF(S2W/D3V)は、EGFのN末端領域における2つのアミノ酸(Ser-2からTrp、Asp-3からValへ)の置換を示す。EGF変異型EGF(S2W/D3V)を含む二本鎖EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)融合タンパク質を調製し、それらのERBB1ホモダイマー、ERBB2/ERBB3ヘテロダイマー及びERBB3ホモダイマーに対する結合能力を調べた。
【0863】
組換え二本鎖EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fcの配列を配列番号:66に示した。可撓性リンカーである(GGGGS)3を介して、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)(配列番号:67)及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)(配列番号:68)のCH3のC末端を抗PD-1及び抗CD3scFvにそれぞれ結合した。図62Aは、C末端延長部(レーン1、3)を有するEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)(レーン2)、及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)(レーン4)のSDS-PAGE分析を示した。製品のサイズは、予想サイズと一致していた。図62B、62Cは、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)と組換えPD-1又は組換えCD3-Fc融合タンパク質との結合、及びERBB1、ERBB2、及びERBB3に対する結合能力のELISA分析結果であり、図62D、62Eは、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)と組換えPD-1又は組換えCD3-Fc融合タンパク質との結合、ERBB1、ERBB2、及びERBB3に対する結合能力のELISA分析結果である。その結果は、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)が組換えPD-1、ERBB1、及びERBB3に結合でき、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)が組換えCD3、ERBB1、及びERBB3に結合できることを示した。
【0864】
以下は、本発明の二本鎖EGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fc-(scFv α PD-1)の構成である。
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【0865】
以下は、本発明の二本鎖EGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fc-(scFv α CD3)の構成である。
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【0866】
実施例67:標的化成分としてソマトスタチンを含む二本鎖IgG1.Fc融合タンパク質分子構築物の調製
【0867】
ソマトスタチン-CH2-CH3(ヒトγ1)の組換え鎖を構築することにより、二本鎖IgG.Fc融合タンパク質を調製した。リンカーであるASGGGGSGGGGSを介してソマトスタチンのC末端の14個のa.a.をCH2のN末端に結合した。CH3のC末端をGGGDCで延長した。C末端にあるシステイン残基は、薬物のバンドルに結合するためのものであった。ソマトスタチン及びIgG.Fcを含む組換えペプチド鎖の配列を配列番号:69に示した。scFv α PD-1及びscFv α CD3を有する2つの分子構築物をも調製した。図63は、ソマトスタチン-hIgG1.Fc(レーン1)、ソマトスタチン-hIgG1.Fc-(scFv α CD3)(レーン2)、及びソマトスタチン-hIgG1.Fc-(scFv α PD-1)(レーン3)のSDS-PAGE(10%)の分析結果であり、上記の3つの構築物のサイズは、予想サイズと一致することを示した。
【0868】
ソマトスタチンのサイズが非常に小さいため、SDS-PAGE分析は、ソマトスタチンがFc-融合タンパク質に組み込まれたかどうかを確認するのには適していなかった。トリプシンに分解された二本鎖ソマトスタチン-hIgG1.Fc-(scFv α PD-1)及び二本鎖 ソマトスタチン-hIgG1.Fc-(scFv α CD3)のタンデム質量分析を行うことにより、分子構築物にソマトスタチンが存在するかどうかを確認した。全ての質量分析実験は、200Hz SmartBean Laserが装備されたブルカー・オートフレックスIII MALDI TOF/TOF質量分析計(Bremen、Germany)を用いて、陽イオンリフレクトロンモードの遅延抽出により行われた。FlexControl3.4(Bruker Daltonik)でデータを手動で収集し、Flex-Analysis3.4(Bruker Daltonik)でデータ処理を行った。
【0869】
Mascot検索エンジンを用いて分子量検索により、タンパク質データベースにおいてタンパク質断片を検索し、ペプチドを確認した。MS/MSスペクトルにおいて741.37ダルトンに対応するタンパク質断片のm/z値が、ソマトスタチン断片のアミノ酸配列(NFFWK)に一致した。MS/MSスペクトルにおいて835.45及び1286.69ダルトンに対応する2つのタンパク質断片のm/z値が、ヒトIgG Fc領域における2つのペプチド断片のアミノ酸配列(DTLMISR及びEPQVYTLPPSR)に一致した。
【0870】
以下は、本発明の二本鎖ソマトスタチン-hIgG1.Fc-(scFv α PD-1)(配列番号:70)の構成である。
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【0871】
以下は、本発明の二本鎖ソマトスタチン-hIgG1.Fc-(scFv α CD3)(配列番号:71)の構成である。
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【0872】
実施例68: 二本鎖EGF-IgG1.Fc、二本鎖EGF-IgG1.Fc-(scFv α PD1)、二本鎖EGF-IgG1.Fc-(scFv α CD3)、二本鎖EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)及び二本鎖EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)融合タンパク質とEGFR発現腫瘍細胞株との結合能力の染色分析
【0873】
腫瘍細胞株A431上のEGFRとの結合能力について、5つの分子構築物を分析した。A431は、ヒト類表皮細胞がん細胞株であり、高レベルのEGFRを発現する。分析は、陽性対照としてセツキシマブscFv-FITCを用いて、1x105個のEGFR発現A431細胞を、10μg/mlのPBSにおける各構築物、1%のBSAにより、氷上で30minインキュベートすることにより行われた。細胞を洗浄し、PBS/BSAで1:200に希釈したFITC結合ヤギ抗ヒトIgG.Fc(Caltag、Buckingham、UK)により、暗所で4℃で20分間インキュベートした。a20は、ヒト膜結合IgEの膜アンカーセグメントに特異的なマウスモノクローナル抗体であり、OKT3は、ヒトCD3に特異的なマウスモノクローナル抗体であり、陰性対照として用いられた。FITC結合ウサギ抗マウスIgGまたはヤギ抗ヒトIgG.Fcを用いて、FACS(FACSCanto II; BD Biosciences)により、細胞の染色を分析した。
【0874】
図64は、EGF-IgG1.Fc、EGF-IgG1.Fc-(scFv α PD1)、EGF-IgG1.Fc-(scFv α CD3)、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc、及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)によるEGFR発現A431細胞への細胞染色分析の結果を示した。これらの5つの構築物は全て、A431細胞に実質的なレベルで積極的に結合した。
【0875】
実施例69:二本鎖EGF-IgG1.Fc、二本鎖EGF-IgG1.Fc-(scFv α PD1)、二本鎖EGF-IgG1.Fc-(scFv α CD3)、二本鎖EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)及び二本鎖EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)とヒトTリンパ球との結合の染色分析
【0876】
分画抽出されたヒト末梢血Tリンパ球により、種々のEGF-IgG.Fc-scFv構築物とCD3及びPD-1を発現するヒトTリンパ球との結合能力を調べた。Ficoll-Paque PLUS(GE Healthcare)遠心分離により、健常ドナーからのバフィーコート(台湾血液サービス財団)から末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、90%FBS/10%DMSOで凍結保存しておいた。ヒトPan T細胞分離キット(Miltenyl Biotech、Auburn、CA、USA)を用いて、非T細胞の枯渇(陰性選択)により、PBMCからヒトT細胞を調製した。10μg/mlのEGF-IgG1.Fc、EGF-IgG1.Fc-(scFv α PD1)、EGF-IgG1.Fc-(scFv α CD3)、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)を1x105個のT細胞(PBSにおいて)と共に、1%のBSAにより、氷で20分間インキュベートした。抗PD-1及びOKT3を陽性対照といて用い、EGF-IgG1.Fc及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fcを陰性対照として用いた。細胞を洗浄し、PBS/BSAで1:200に希釈したFITC結合ヤギ抗ヒトIgG.Fc(Caltag)又はウサギ抗マウスIgG.Fc(AbD Serotec)により、暗所で4℃で20分間インキュベートした。サンプルをFACS分析(FACSCanto II; BD Biosciences)によって分析した。図65A〜Cは、EGF-IgG1.Fc-(scFv α PD1)及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD1)が、抗PD-1抗体と同様に、T細胞に結合したことを示した。図65D〜Fは、EGF-IgG1.Fc-(scFv α CD3)及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)も、OKT3抗体と同様に、T細胞に結合したことを示した。
【0877】
実施例70: 二本鎖EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)の、MDA-MB-231及びA431腫瘍細胞株に対するT細胞媒介細胞毒性分析
【0878】
ヒト末梢血T細胞をT細胞の供給源として用いた。上記の実施例と同様に、T細胞を調製した。T細胞を、10μg/mlの組換えヒトIL-2(PeproTech、Rocky Hill、USA)の存在下で培養した。抗DNP AN02 mAbをアイソタイプ適合対照として用いた。
【0879】
5,000個のA431標的細胞のアリコート(100μl 完全RPMI培地において)に、組換えEGF-hIgG.Fc-Cys、EGF-hIgG.Fc-scFv α CD3、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)、又はアイソタイプ一致対照を塗布し、37°C、5%CO2の雰囲気下で30分間培養した後、ヒトT細胞と異なるE:T比(20:1、10:1又は5:1)で混合した。インキュベーションの24時間後、aCella-Tox kit(Cell Technology, Mountain View, CA)を用いて、製造業者の説明に従って、発光法により細胞毒性を分析した。プレートルミノメーター(マルチ検出マイクロプレートリーダー、DPharma、Osaka、Japan)で細胞プレートを読み取った。
【0880】
MDA-MB-231腫瘍細胞及びA431腫瘍細胞を用いて、EGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fc-scFv α CD3の、EGFR発現腫瘍細胞に対するT細胞媒介性細胞溶解を調べた。MDA-MB-231は、もともと胸水転移を伴う原発性浸潤性腺管がん由来であり、腫瘍モデル研究に広く用いられている。この細胞毒性効果について、T細胞の供給源が重要であった。ドナー#56および#59由来の単離されたヒトTリンパ球を選択して、T細胞媒介細胞毒性を調べた。10μg/mLのEGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fc又はEGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fc-scFv α CD3と共に、37°CでMDA-MB-231細胞を1時間インキュベートした後、ヒトTリンパ球と異なるE:T比(20:1、10:1又は5:1)で混合し、24時間インキュベートした。セツキシマブmAbを対照として用いた。aCella-Tox kitを用いて細胞溶解を分析した。ここに示すデータは、scFv α CD3担持EGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fcがエフェクター細胞をより効率的に動員して細胞溶解活性を発揮することを示した。
【0881】
図66A及び66Bは、EGF-hIgG1.Fc-Cys、EGF-hIgG1.Fc-scFv α CD3、及びEGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)とのインキュベーション後の、EGFRを発現するA431細胞の細胞溶解の程度を示した。図66C及び66Dは、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)とのインキュベーション後の、ドナー#56(図66C)及び#59(図66D)に由来のヒトTリンパ球によるMDA-MB-231の細胞溶解の程度を示した。これらの結果は、EGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fc-scFvαCD3が生体外でADCCによるEGFR発現MDA-MB-231細胞の溶解を媒介することを示した。
【0882】
EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)とのインキュベーション後の、ヒトTリンパ球によるA431細胞の細胞溶解の時間依存性を調べるために、A431細胞を10μg/mLのEGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fc、EGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fc-(scFv α CD3)、又は抗HER1 mAb(対照)と共に37°Cで1時間インキュベートした後、ヒトPBMCから単離されたヒトTリンパ球と異なるE:T比(20:1、10:1又は5:1)で混合し、2時間(図67A)、9時間(図67B)、又は24時間(図67C)インキュベートした。図67A〜67Cの結果は、EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α CD3)とのインキュベーション後のヒトTリンパ球による細胞溶解の程度が時間依存性であることを示した。
【0883】
実施例71: 二本鎖EGF(S2W/D3V)-IgG1.Fc-(scFv α PD-1)融合タンパク質の、A431腫瘍細胞に対するT細胞媒介細胞毒性の分析
【0884】
EGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fc及びEGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fc-scFv α PD-1は、生体外でADCCによるEGFR発現A431細胞の溶解を媒介した。上記の実施例と同様に分析を行った。A431細胞を10μg/mLのEGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fc、EGF(S2W/D3V)-hIgG1.Fc-scFv α PD-1、又は抗HER1 mAb(対照)と共に、37°Cで1時間インキュベートした後、ヒトPBMCから単離されたヒトTリンパ球と異なるE:T比(20:1、10:1又は5:1)で混合し、24時間インキュベートした。aCella-TOX kit(Cell Technology Inc.)を用いてADCCを分析した。
【0885】
図68は、二本鎖EGFw2v3-IgG1.Fc-(scFv α PD-1)とのインキュベーション後の、ヒトPBMCによるA431の細胞溶解の程度を示した。
【0886】
実施例72:組換え二本鎖 EGFw2v3-IgG1.Fc-(scFv α PD-1)及びEGFw2v3-IgG1.Fc-(scFv α CD3)融合タンパク質の生体内腫瘍モデル
【0887】
3~4週齢のNOD-SCID マウス(NOD.CB17-Prkdcscid/IcrCrlBltwをBioLasco、Taipei、Taiwanから入手した。EGF(S2W/D3V)-hIgG.Fc-Cys、EGF(S2W/D3V)-hIgG.Fc-scFv α PD-1、EGF(S2W/D3V)-hIgG.Fc-scFv α CD3、又はアイソタイプ一致対照組換えタンパク質による処理の2週前に、1匹のマウスあたり1×106個のA431細胞でマウスに細胞を腹腔内注射した。マウスを1グループあたり5匹で分け、それぞれ5mg/kgのタンパク質(50mLのPB3において)を週に3回腹腔内投与した。最初のタンパク質処理では、各マウスにヒトPBMCの2×107個の細胞を腹腔内投与した。Ficoll-Paque PLUS(GE Healthcare)密度勾配による遠心分離により、健常ドナーからのバフィーコート(台湾血液サービス財団)からPBMCを単離し、90%FBS/10%DMSOで凍結保存しておいた。使用前に、PBMCを解凍し、2x106個の細胞/mlの濃度でIMDM培地(Invitrogen)で一晩培養した。該培地は、10%熱不活性化FBS、4mM L-グルタミン、25mM HEPES、50mg/ml ペニシリン、及び100mg/mlストレプトマイシン(完全IMDM培地)を含む。腫瘍増殖を、3~4日ごとにカリパスで記録した。35日目にマウスを殺し、s.c.腫瘍を除去し、秤量し、分析した。
【0888】
実施形態の上記の説明が単なる例として与えられており、当業者によって様々な変更がなされ得ることが理解されるだろう。上記の明細書、実施例及びデータは、本発明の例示的な実施形態の構造及び使用の完全な説明を提供する。本発明の様々な実施形態が、ある程度具体的に、又は1又は複数の個々の実施形態を参照して、上述されているが、当業者は、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、開示された実施形態に多数の変更を行うことができる。
図1A
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図1B
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図1D
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図1I
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図1J
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図1K
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図2
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図4
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図6
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図7A
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図10B
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図16B
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図20
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図57
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図58
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図62E
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図64
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図67C
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図68
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]