(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記追跡手段は、前記移動体捕獲装置の位置及び移動ベクトル、及び、前記侵入物の位置及び移動ベクトルを算出し、前記侵入物を追跡するための最適な経路を算出するように構成されている、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の移動体捕獲装置。
前記追跡手段は、前記移動体捕獲装置の位置及び移動ベクトル、及び、前記侵入物の位置及び移動ベクトルに基づいて、前記侵入機を捕獲するために好適な捕獲戦略を判断するように構成されている、請求項5に記載の移動体捕獲装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、小型無人ヘリコプターが、空港周辺や人口密集地域など、飛行が制限されている領域(以下、「制限領域」と呼ぶ。)に侵入する場合がある。小型無人ヘリコプター(以下、制限領域へ侵入した小型ヘリコプターを「侵入機」と呼ぶ。)の無断侵入は、盗撮、情報漏洩、爆発物や薬品等の有害物質の落下、あるいは、発火物や毒物等によるテロリズムなどの問題がある。そして、侵入機が、地上に落下すると、人的被害・物的被害を生じる原因となる。特に、侵入機が、例えば、爆発物や毒物を搭載している場合には、地上に落下させると、これらの被害が甚大になる。これに対して、例えば、網を吊り下げた無人ヘリコプターを地上から操作して、侵入機を捕獲する技術が提案されている。しかし、侵入機が操作者の視覚外に移動した場合には捕獲は不可能であるし、視認できる範囲であっても、操作者からの距離が大きく離れると、捕獲のための適格な操作が困難である。また、侵入機を網で絡めとる手法は、侵入機を地上に落下させる危険を十分に解消していない。しかも、侵入機を網で絡めとっても、捕獲する側の無人ヘリコプター自体がバランスを崩し、落下する場合があるという問題もある。さらに、侵入機がプロペラ保護枠(プロペラガード)を備える場合には、プロペラを網に絡めることはできないから、侵入機を捕捉できないし、網を接触させることで、侵入機を地上に落下させる危険がある。
【0005】
本発明はかかる問題の解決を試みたものであり、操作者の視覚が不十分であっても、侵入機を地上に落下させることなく捕獲することができる移動体捕獲装置、移動体捕獲方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の発明は、制限領域への侵入が制限されており、回転部分を有する侵入物を捕獲する移動体捕獲装置であって、前記侵入物に向かって自律移動するための自律移動手段と、外部の画像を取得する画像取得手段と、前記画像に含まれる物体が、前記侵入物であることを認識する認識手段と、前記侵入物の位置を測定する位置測定手段と、前記侵入物を追跡する追跡手段と、前記侵入物の前記回転部分に絡ませて、前記侵入物を地上に落下させることなく捕獲するための複数の紐状部材と、を有する移動体捕獲装置である。
【0007】
第一の発明の構成によれば、移動体捕獲装置は、自律移動しつつ、取得した画像中の侵入物を認識し、侵入物の位置を測定して追跡し、紐状部材を侵入物の回転部分に絡ませて捕獲することができる。紐状部材は、侵入物の回転部分に保護枠が備えられていたとしても、容易に保護枠を乗り越えて回転部分に到達するし、保護枠によって保護されていない回転部分の上部から回転部分に到達することもできる。さらに、紐状部材は、侵入物の回転部分の回転によって生じる気流に引き込まれることによっても、容易に回転部分に到達する。この点、網の場合には、回転部分に保護枠が備えられていた場合には、回転部分に絡まることは困難である。以上のように、第一の発明の構成によれば、操作者の視覚が不十分であっても、地上に落下させることなく侵入機を捕獲することができる。
【0008】
第二の発明は、第一の発明の構成において、前記紐状部材は、中間部材を介して前記移動体捕獲装置の本体に接続されており、前記中間部材は、前記紐状部材に負荷がかかった場合には、姿勢変化及び/または形状変化を生じ、前記移動体捕獲装置の重心が水平方向においてずれることがないように構成されている移動体捕獲装置である。
【0009】
第三の発明は、第一の発明または第二の発明の構成において、弾性を有する紐状の部材の先端に重り部材が配置された伸縮部材を有する移動体捕獲装置である。
【0010】
第四の発明は、第三の発明の構成において、前記伸縮部材の伸長時の前記移動体捕獲装置の本体からの距離は、前記紐状部材の前記本体からの距離よりも長く構成されており、前記伸縮部材が前記侵入機を捕捉すると、前記伸縮部材の弾性によって、前記侵入物を前記本体に引き付け、前記紐状部材が前記侵入物に絡むように構成されている、移動体捕獲装置である。
【0011】
第五の発明は、第一の発明乃至第四の発明のいずれかの構成において、前記認識手段は、深層学習(ディープラーニング)によって取得した特徴データを参照する移動体捕捉装置である。
【0012】
第六の発明は、第一の発明乃至第五の発明のいずれかの構成において、前記追跡手段は、前記移動体捕獲装置の位置及び移動ベクトル、及び、前記侵入物の位置及び移動ベクトルを算出し、前記侵入物を追跡するための最適な経路を算出するように構成されている、移動体捕獲装置である。
【0013】
第七の発明は、第六の発明の構成において、前記追跡手段は、前記移動体捕獲装置の位置及び移動ベクトル、及び、前記侵入物の位置及び移動ベクトルに基づいて、前記侵入機を捕獲するために好適な捕獲戦略を判断するように構成されている、移動体捕獲装置である。
【0014】
第八の発明は、自律飛行可能な移動体捕獲装置が実施する侵入物の捕獲方法であって、画像取得手段によって、外部の画像を取得する画像取得ステップと、前記画像に含まれる物体が、制限領域への侵入が制限されている侵入物であることを認識する認識ステップと、前記侵入物の位置を測定する位置測定ステップと、前記侵入物を追跡する追跡ステップと、紐状部材を前記侵入物の回転部分に絡ませて、前記侵入機を捕獲する捕獲ステップと、を含む捕獲方法である。
【0015】
第九の発明は、自律飛行可能な移動体捕獲装置を制御するコンピュータを、前記侵入物に向かって自律移動するための自律移動手段、外部の画像を取得する画像取得手段、前記画像に含まれる物体が、前記侵入物であることを認識する認識手段、前記侵入物の位置を測定する位置測定手段、前記侵入物を追跡する追跡手段、前記侵入物の前記回転部分に紐状部材を絡ませて、前記侵入物を地上に落下させることなく捕獲するための捕獲手段、として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、操作者の視覚が不十分であっても、侵入機を地上に落下させることなく捕獲することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。以下の説明においては、同様の構成には同じ符号を付し、その説明を省略又は簡略する。なお、当業者が適宜実施できる構成については説明を省略し、本発明の基本的な構成についてのみ説明する。
【0019】
<第一の実施形態>
図1乃至
図10は、本発明の実施形態に係る移動体捕獲装置1(以下、「捕獲装置1」と呼ぶ。)の構成及び作用を示す概略図である。
図1等に示す捕獲装置1は、侵入制限領域に侵入した侵入物を捕獲する移動体捕獲装置の一例である。侵入制限領域は、例えば、空港近傍や人口密集地域である。本実施形態において、侵入物は、無人飛行体(「ドローン」とも呼ばれる。)であるとして説明し、その無人飛行体を侵入機200とする。捕獲装置1は、自律飛行を行い、侵入機200を画像認識により認識し、侵入機200の移動ベクトルを算出し、好適な捕獲戦略を判断し、侵入機200を追跡し、侵入機200を地上に落下させることなく捕獲することができるように構成されている。
【0020】
図1に示すように、捕獲装置1は、筐体2を有する。筐体2には、丸棒状のアーム4が接続されている。各アーム4にはモーター(図示せず)が接続されており、各モーターにはプロペラ6が接続されている。各モーターは、筐体2内のコンピュータによってそれぞれ独立して制御され、捕獲装置1は、上下水平方向の移動や空中での停止(ホバリング)及び姿勢制御を自在に行うことができるようになっている。アーム4には保護枠8が接続され、プロペラ6が他の物体と直接接触することを防止している。アーム4及び保護枠8は、例えば、炭素繊維強化プラスチックで形成されており、強度を保ちつつ、軽量に構成されている。
【0021】
筐体2には、捕獲装置1の各部を制御するコンピュータ、無線通信装置、GPS(Global Positioning System)を利用した測位装置、加速度センサー、ジャイロセンサー、磁気センサー、気圧センサー、バッテリー等が配置されている。また、筐体2には、固定装置12を介して、情報収集装置10が配置されている。情報収集装置10は、カメラ10a及びレーザー距離計(レーザーレンジ)10bで構成されている。カメラ10aは、可視光カメラ、または、近赤外線カメラであるが、切り替え可能なハイブリッドカメラであってもよい。
【0022】
捕獲装置1は、カメラ10aによって、外部の画像を取得する。レーザー距離計10bは、レーザーの発信部と受信部を有し、発信部から出たレーザービームが測定対象に反射して帰ってくるまでの時間や、反射して帰ってきたときの位相を利用して、測定対象との距離を測定する。固定装置12は、いわゆる、ジンバルであり、捕獲装置1の姿勢が変化しても、カメラ10a及びレーザー距離計10bを一定の方向に保つ機能を有する。固定装置12は、例えば、3軸のジンバルである。また、固定装置12によって、カメラ10a及びレーザー距離計10bの方向を変えることもできるようになっている。
【0023】
上述の筐体2等の構成が、捕獲装置1の本体部分である。以下に説明する構成は、捕獲のための機構である。筐体2には、中心ワイヤ22が接続されており、中心ワイヤ22には、固定紐26を介して中間部材24が接続されている。中心ワイヤ22は、例えば、ナイロン繊維で形成されたテグスで形成されている。中間部材24は、例えば、直径2m(メートル)の輪状部材であり、例えば、アルミニウム合金で形成されている。中間部材24は、中心ワイヤ22に固定紐26を介して接続されており、矢印Aに示すように、輪の内側の円形面を、中心ワイヤ22に対して、略垂直の状態から略平行まで、その姿勢を変えることができるようになっている。中間部材24には、複数の紐状部材28が接続されている。紐状部材28は、例えば、ナイロン繊維で形成されたテグスであり、約10m(メートル)の長さである。紐状部材28は、中心ワイヤ22よりも細いテグスである。紐状部材28は、中間部材24に対して、脱着可能に接続されている。本実施形態においては、紐状部材28は、8本である。なお、紐状部材28の自由端近傍部は、紐状部材28の他の部分よりも重く構成してもよい。これにより、紐状部材28が、捕獲装置1が高速移動しても、鉛直に近い状態で吊り下がっている状態を維持できるし、また、多少の風が吹いている状況でも、鉛直に近い状態を維持できる。ただし、後述のように、紐状部材28が、侵入機200のプロペラの回転による気流に巻き込まれることができる点は有用であるから、紐状部材28の自由端近傍を他の部分よりも重くする場合には、気流に巻き込まれないような重さよりは軽くする。
【0024】
また、中心ワイヤ22にはゴム紐30が接続され、ゴム紐30の先端には、重り32が配置されている。重り32は、例えば、弾性部材であり、具体的には、例えば、硬式テニスボールである。ゴム紐30は、弾性を有する伸縮部材の一例である。ゴム紐30は、捕獲装置1の移動による振動によって、伸縮するようになっている。このとき、重り32の作用によって、より大きく伸縮するようになっている。紐状部材28とゴム紐30及び重り32で、捕獲部材20を構成している。ゴム紐30は、中心ワイヤ22に脱着可能に接続されている。ゴム紐30は、負荷がかかっていない状態で約12メートルであり、負荷がかかると、約17メートルまで伸びるようになっている。なお、伸長した場合の長さは紐状部材28よりも長ければ、本実施形態とは異なり、ゴム紐30に負荷がかかっていない状態の長さは紐状部材28の長さ以下にしてもよい。
【0025】
捕獲装置1は、継続的に、捕獲装置1自体の位置、移動方向及び速度(移動ベクトル)を計測あるいは算出している。捕獲装置1自体の位置、移動方向及び速度は、GPS装置及び慣性センサーで算出することができる。捕獲装置1は、カメラ10aによって、外部の画像を取得し、ディープラーニングで作成した物体のカテゴリーごとの特徴データに基づいて、その画像中の物体のカテゴリーを認識する。そして、捕獲装置1は、侵入機200が無人飛行体であると認識すると、侵入機200を追跡する。追跡において、捕獲装置1は、カメラ10aが取得した画像中の侵入機200の動きを分析し、侵入機200がカメラ10aの視覚範囲から外れることがないように、また、できるだけ、侵入機200をカメラ10aの視覚の中心に位置するように、飛行方向・飛行速度を制御する。また、捕獲装置1は、侵入機200の位置、移動方向及び速度(移動ベクトル)を算出する。捕獲装置1は、侵入機200の位置、移動方向及び速度は、レーザー距離計10bで取得したデータに基づいて算出する。
【0026】
図2を使用して、捕獲装置1の捕獲戦略を説明する。捕獲装置1が、侵入機200を捕獲するための戦略は、例えば、侵入機200の真上近傍から捕獲部材20を覆いかぶせるように接触させる戦略P1、侵入機200の斜め上方から捕獲部材20を接触させる戦略P2、侵入機200の側面から捕獲部材20を接触させる戦略P3がある。捕獲装置1は、例えば、捕獲装置1と侵入機200の相対位置、相対移動方向、相対移動速度によって、好適な捕獲戦略を判断する。捕獲装置1は、戦略P1を採用する場合には、最終的に、侵入機200の上空領域S1に位置するように、好適な経路R1を選択する。捕獲装置1は、戦略P2を採用する場合には、最終的に、侵入機200の斜め上空領域S2に位置するように、好適な経路R2を選択する。捕獲装置1は、戦略P3を採用する場合には、最終的に、侵入機200の側方領域S3に位置するように、好適な経路R3を選択する。捕獲戦略は、上記に限らず、例えば、侵入機200が下降してくる場合であって、捕獲装置1の高度が侵入機200よりも低い場合には、捕獲装置1は、上昇しつつ、捕獲部材20を侵入機200に接触させる戦略も可能である。
【0027】
以下、捕獲装置1による、捕獲戦略の判断(選択)について、例示する。例えば、侵入機200が、捕獲装置1に向かって飛行している場合には、戦略P3を採用する。そして、仮に、戦略P3が奏功しなかった場合には、侵入機200を後ろから追跡し、再度、戦略P3を採用するか、あるいは、戦略P1または戦略P2を採用するかを判断する。
【0028】
例えば、侵入機200が、捕獲装置1と離れる方向で飛行しており、相対的に遅い速度v1で飛行している場合には、戦略P1を採用する。そして、仮に、戦略P1が奏功しなかった場合には、侵入機200を追跡し、再度、戦略P1を採用するか、あるいは、戦略P2または戦略P3を採用するかを判断する。
【0029】
例えば、侵入機200が、捕獲装置1と離れる方向で飛行しており、上記速度v1よりも速い速度v2で飛行している場合には、戦略P2を採用する。そして、仮に、戦略P2が奏功しなかった場合には、侵入機200を追跡し、再度、戦略P2を採用するか、あるいは、戦略P1または戦略P3を採用するかを判断する。
【0030】
捕獲装置1は、
図3に示すように、侵入機200の所定距離d内に入ると、
で侵入機200に向かい、捕獲部材20を侵入機200に接触させるようになっている。距離dは、例えば、10メートルである。
【0031】
捕獲部材20による侵入機200の捕獲態様は様々であるが、代表的なものを説明する。
図4に示すように、侵入機200の概略構成は、制御装置等を格納する筐体202、アーム204及びプロペラ206である。紐状部材28は、侵入機200のプロペラ206に絡まる。紐状部材28は、紐状であるから、例えば、網状の部材よりも高い確率で、プロペラ206に絡まり、かつ、プロペラ206の回転によって、時間が経過するにつれて、強固に絡まり、捕獲装置1の本体に引き付けることができる。これにより、例えば、一本の紐状部材28が侵入機200に絡まったとしても、時間が経つにつれて、侵入機200を捕獲装置1の本体に引き付けるから、他の紐状部材28も侵入機200に絡まり、ますます、侵入機200を強固に捕獲することができるようになっている。本発明の発明者は、この構成によって、侵入機200を地面に落下させることなく捕獲できることを実験によって確認している。また、紐状部材28は、侵入機200が、プロペラが他の物体と接触することを防止する保護枠を備えている場合であっても、保護枠の内部に容易に入り込み、プロペラ206に絡まるようになっている。上述した従来技術のように、網状部材の場合には、保護枠内に網が入り込むことは困難であるから、侵入機を網に絡めとることは困難であり、網を侵入機に接触させることで、侵入機のバランスを崩して、侵入機を落下させてしまう場合がある。この点、捕獲装置1の紐状部材28は、保護枠内に容易に入り込むことができるから、確実に、侵入機のプロペラに絡むことができるようになっている。
【0032】
紐状部材28は、捕獲装置1に中間部材24を介して接続されているから、紐状部材28が侵入機200に絡まった場合には、
図5に示すように、中間部材24がその姿勢を変えて、侵入機200の重量が捕獲装置1の中心部の略円直線上の位置に加わるようになっている。捕獲装置1の重心は、中心部の円直線上であり、侵入機200の重量が加わっても、捕獲装置1の水平方向の重心位置は変わらない。これにより、捕獲装置1が、侵入機200を捕獲した場合に、バランスを崩すことがないようになっている。
【0033】
図6〜
図8を使用して、別の捕獲パターンを説明する。
図6に示すように、ゴム紐30が侵入機200を捕獲した場合、
図7に示すように、侵入機200の重量や動きによって、ゴム紐30は伸長する。ゴム紐30は、弾性を有し、伸長すると収縮する。このため、伸長したゴム紐30は、
図8に示すように、収縮する。ここで、ゴム紐30は、最も短い状態で、紐状部材28よりも長いのであるが、伸長した後収縮する場合には、その勢いによって、重り32を紐状部材28が届く範囲内に移動させる。ゴム紐30が収縮すると、侵入機200を捕獲装置1に近接させるから、紐状部材28も侵入機200に絡まる。すなわち、先端に重り32が配置されたゴム紐30が、伸長及び収縮をしながら、侵入機200を捕獲し、捕獲後は、侵入機200の運動エネルギーあるいは位置エネルギーによって一旦は伸長し、その後、収縮して、侵入機200を紐状部材28が届く距離まで導くのである。本発明の発明者は、実験によって、ゴム紐30と重り32の構成が、侵入機200の捕獲に有効であることを確認している。なお、ゴム紐30が、侵入機200を捕捉し、伸長するときには、侵入機200の重量の一部はゴム紐30の伸長によって吸収されるから、捕獲装置1にかかる重量は小さく、捕獲装置1の制御装置は、時間的な余裕をもって、捕獲装置1の浮力の調整等を実施することができる。
【0034】
図9を参照して、ゴム紐30及び重り32の動作の一例を説明する。重り32が、例えば、侵入機200のプロペラ206に衝突して、ゴム紐30が侵入機200のいずれの部分にも絡まなかった場合、重り32の弾性によって、重り32は、例えば、矢印A1方向に飛ぶ。すなわち、重り32は、侵入機200から離れる方向に動く。そして、重り32が、侵入機200から離れ、その移動による力と、ゴム紐30が重り32を引き付ける力が等しくなった時点で、ゴム紐30の弾性によって、矢印A2に示すように、侵入機200に近づくよう動く。これにより、ゴム紐30及び重り32が、最初に侵入機200に接したときには、侵入機200を捕捉できないとしても、繰り返し、侵入機200の捕捉を試みることができるようになっている。
【0035】
図10を参照して、紐状部材28の動作の一例を説明する。
図10に示すように、侵入機200が、プロペラ206の保護枠(プロペラガード)208を備えている場合であっても、紐状部材28によって、侵入機200を捕捉することができる。例えば、紐状部材28のうちの1本を紐状部材28Aとすると、例えば、戦略P1を採用するときは、保護枠208の影響を受けず、プロペラ206に到達することができる。
【0036】
紐状部材28のうちの一本を紐状部材28Bとすると、例えば、戦略P3を採用して、紐状部材28Bが侵入機200の側方から近づいた場合、保護枠208を容易に乗り越える。また、矢印X1に示すように、プロペラ206の回転による気流B1に引き込まれることによっても、紐状部材28Bは、容易にプロペラ206に到達し、絡まる。
【0037】
本発明の発明者は、
図10に示す紐状部材28A及び28Bの作用効果を実験によって確認している。なお、このような作用効果は、侵入機200の保護枠208が、侵入機200全体を覆う網である場合であっても、有効である。
【0038】
図11は、捕獲装置1の機能構成を示す図である。
図11に示すように、捕獲装置1は、CPU100、記憶部102、無線通信部104、GPS(Global Positioning System)部106、慣性センサー部108、駆動制御部110、画像処理部112、距離測定部114及び、電源部116を有する。
【0039】
捕獲装置1は、無線通信部104によって、基地局50と通信可能になっている。捕獲装置1は、無線通信部104によって、基地局50から、発進指示等の指示を受信する。基地局は、コンピュータで構成されている。
【0040】
捕獲装置1は、GPS部106と慣性センサー部108によって、捕獲装置1自体の位置を測定することができる。GPS部106は、基本的に、3つ以上のGPS衛星からの電波を受信して捕獲装置1の位置を計測する。慣性センサー部108は、例えば、加速度センサー及びジャイロセンサーによって、出発点からの捕獲装置1の移動を積算して、捕獲装置1の位置を計測する。捕獲装置1自体の位置情報は、捕獲装置1の移動経路の決定及び自律移動のために使用するほか、画像処理部112及び距離測定部114によって収集した情報(測定データ)と座標(位置)とを紐づけするために使用する。
【0041】
駆動制御部110によって、捕獲装置1はそれぞれモーターに接続されたプロペラ6(
図1参照)の回転を制御し、上下水平移動や空中停止、傾きなどの姿勢を制御するようになっている。
【0042】
画像処理部112によって、捕獲装置1はカメラ10a(
図1参照)を作動させて外部の画像を取得することができる。
【0043】
距離測定部114によって、捕獲装置1はレーザー距離計10b(
図1参照)を作動させて、特定の対象と捕獲装置1との間の距離を計測することができる。
【0044】
電源部116は、例えば、交換可能な可充電電池であり、捕獲装置1の各部に電力を供給するようになっている。
【0045】
記憶部102には、出発点から目的位置まで自律移動するための移動計画を示すデータ等の自律移動に必要な各種データ及びプログラム、捕獲作業を行う作業予定領域の地形、形状や構造物の位置を示す情報のほか、以下の各プログラムが格納されている。
【0046】
記憶部102には、自律移動プログラム、位置情報生成プログラム、移動ベクトル算出プログラム、衝突回避プログラム、情報受信プログラム、画像取得プログラム、物体認識プログラム、追跡プログラム、及び、捕獲プログラムが格納されている。物体認識プログラムは、画像中の物体のカテゴリーを認識する一般物体認識プログラムであり、例えば、画像中の物体が、無人飛行体なのか、鳥なのか、などを判断するためのプログラムである。
【0047】
CPU100及び自律移動プログラムは、自律移動手段の一例である。捕獲装置1は、例えば、基地局50から、制限領域に侵入した物体があることを示す情報を概略の位置を示す位置情報を受信すると、記憶部102に格納された移動予定領域の地形や構造物の位置を参照し、侵入物の概略位置へ向かって、自律移動するようになっている。侵入物の概略位置は、例えば、基地局50がレーダー装置を備えている場合には、概略の方向と距離がわかるから、その情報を利用する。なお、本実施形態とは異なり、捕獲装置1は、定期的に、所定の空間領域を巡回するということでもよい。
【0048】
CPU100及び位置情報生成プログラムは、位置情報生成手段の一例である。位置情報は、捕獲装置1自体の位置を示す情報及び侵入物の位置を示す情報である。捕獲装置1は、GPS部106と慣性センサー部108によって捕獲装置1の絶対位置や姿勢を示す情報を継続的に生成し、保持している。また、レーザー距離計10bによって同一の物体について複数の距離情報(異なる位置からの距離を示す情報)を取得しており、例えば、制限領域に侵入した侵入機200について、捕獲装置1との相対位置を算出することができる。そして、捕獲装置1自体の絶対位置はGPS部106と慣性センサー部108によって計測できるから、捕獲装置1は、捕獲装置1自体の絶対位置を参照して、侵入機200の絶対位置を算出することができる。なお、位置計測についての詳細な説明は、省略する。
【0049】
CPU100及び移動ベクトル算出プログラムは、移動ベクトル情報生成手段の一例である。捕獲装置1は、複数時点において、捕獲装置1及び侵入機200の位置を計測することによって、捕獲装置1及び侵入機200の移動方向と移動速度を示す移動ベクトルを算出することができる。
【0050】
CPU100及び衝突回避プログラムは、衝突回避手段の一例である。捕獲装置1は、レーザー距離計10bによって計測した捕獲装置1と他の物体(「物体A」という。)との距離が、所定の距離以内になった場合には、駆動制御部110によって、捕獲装置1と物体Aとの距離を所定距離よりも大きくするようになっている。これにより、捕獲装置1が物体Aと衝突することを回避することができる。所定の距離は、例えば、1m(メートル)である。物体Aは、例えば、侵入機200である。
【0051】
CPU100及び情報受信プログラムは、受信手段の一例である。捕獲装置1は、例えば、基地局50から、発進準備指示情報、侵入物の概略位置情報、侵入物の更新位置情報、発進指示情報などの各種情報を受信する。
【0052】
CPU100及び画像取得プログラムは、画像取得手段の一例である。捕獲装置1は、基地局50から発進した後、目標領域に到達した時点で、画像取得を開始するようになっている。目標領域は、例えば、侵入物の概略位置の100メートル以内である。なお、本実施形態とは異なり、捕獲装置1は、発進後、継続的に画像を取得するように構成されていてもよい。
【0053】
CPU100及び物体認識プログラムは、物体認識手段の一例である。捕獲装置1は、物体認識プログラムによって、深層学習(ディープラーニング)によって生成された特徴データを参照する。特徴データは記憶部102に格納されている。深層学習(ディープラーニング)とは、多層構造のニューラルネットワークの機械学習であり、画像認識の分野が有力な活用分野の一つである。
【0054】
捕獲装置1は、物体認識プログラムによって、例えば、無人飛行体(ドローン)の特徴データを参照する。特徴データは記憶部102に格納されている。特徴データは、例えば、無人飛行体の外観について、輪郭や個々の構成の方向といった多数の特徴を示すデータである。特徴データには、可視光のもとにおける特徴データと近赤外線のもとにおける特徴データが含まれている。捕獲装置1は、画像処理部112が可視光カメラを作動させているときには可視光特徴データを参照し、画像処理部112が近赤外線カメラを作動させているときには近赤外線特徴データを参照するようになっている。なお、本実施形態とは異なり、捕獲装置1が遠赤外線カメラを有する場合には、特徴データには、遠赤外線のもとでの特徴データを含むように構成する。
【0055】
捕獲装置1は、カテゴリーごとの多数の特徴情報に基づいて、カメラによって取得した画像に含まれる物体の特徴を識別して、物体のカテゴリーを認識できるようになっている。ここで、カテゴリーとは、無人飛行体(ドローン)や鳥というように、物体の種類を意味する。
【0056】
具体的には、捕獲装置1は、カメラ10aで取得した画像について、例えば、輪郭や個々の構成の方向といった特徴を多数抽出し、深層学習(ディープラーニング)で取得した各カテゴリーの特徴データと対比して、相関性(相関度)を判断する。相関度が高いほど、取得した画像中の物体が特定のカテゴリーに属する可能性が高い。例えば、相関度が0の場合には、特定のカテゴリーに属する可能性(以下、「カテゴリー共通確率」と呼ぶ。)は0%として、相関度が最大値を示すときに、カテゴリー共通確率が100%であると定義する。捕獲装置1は、カテゴリー共通確率が所定の基準値である、例えば、95%以上であるときに、取得した画像中の物体のカテゴリーが、特定のカテゴリーに属すると判断する。
【0057】
CPU100及び追跡プログラムは、追跡手段の一例である。捕獲装置1は、追跡プログラムによって、カメラ10aで取得する画像中に常に侵入機200が含まれるように、捕獲装置1の飛行を制御する。すなわち、捕獲装置1は、カメラ10aによって継続的に取得する画像中における侵入機200の移動方向、レーザー距離計10b等によって取得する侵入機200の移動速度等を参照し、侵入機200がカメラ10aの画像に捕捉されるように、飛行を制御する。
【0058】
CPU100及び捕獲プログラムは、捕獲手段の一例である。捕獲装置1は、捕獲装置1自体の位置、移動速度及び移動方向と、侵入機200の位置、移動速度及び移動方向に基づいて、侵入機200を捕獲するための好適な戦略を判断し、好適な飛行経路を選択する(
図2参照)。捕獲装置1は、侵入機200に近づき、捕獲距離以内(
図2参照)に入ったと判断した場合には、捕獲行動を開始する。捕獲距離は、例えば、5m(メートル)である。捕獲行動は、捕獲装置1と侵入機200との距離をより近接させ、紐状部材28、ゴム紐30及び重り32で構成される捕獲部材20を侵入機200に接触させる動作である。捕獲装置1は、捕獲行動においても、侵入機200との衝突を回避するために、上述の衝突回避プログラムによって、侵入機200と一定の距離以内には近接しないようになっている。
【0059】
以下、
図12及び
図13を使用して、捕獲装置1の動作を説明する。
【0060】
捕獲装置1が、目標領域に到達したと判断すると(ステップST1)、画像取得を開始する(ステップST2)。目標領域とは、例えば、基地局50から受信した侵入物の位置情報に示される概略位置から半径100メートル(m)以内の領域である。捕獲装置1は、画像中の物体が捕獲対象の無人機であると判断すると(ステップST3)、その無人機(侵入機200)との距離及び方角を測定し、追跡を開始する(ステップST4)。そして、捕獲距離以内に入ったと判断する(ステップST5)、捕獲行動を開始し(ステップST6)、捕獲が完了したと判断すると(ステップST7)、作業を停止して、基地局50へ帰還する(ステップST8)。上述のステップST5において、捕獲距離以内に入っていないと判断した場合には、ステップST4及びステップST5を繰り返す。すなわち、捕獲装置1は、捕獲距離以内に入るまで、継続的に侵入機200との距離及び方角を測定し、捕獲装置1自体の移動経路を調整している。
【0061】
上述の追跡ステップ(ステップST4)において、捕獲装置1は、
図13に示すように、まず、捕獲装置1自体の位置と侵入物の位置を計測する(ステップST41)。次いて、捕獲装置1は、捕獲装置1自体の移動速度及び移動方向を示す移動ベクトルを取得し、また、侵入物である侵入機200の移動ベクトルを算出する(ステップST42)。そして、捕獲装置1は、捕獲装置1自体の位置及び移動ベクトルと、侵入機200の位置及び移動ベクトルに基づいて、好適な捕獲戦略(
図2のP1〜P3)を判断し(ステップST43)、好適な飛行経路を算出し(ステップST44)、追跡を実施する(ステップST45)。
【0062】
なお、本実施形態とは異なり、捕獲装置1が操作者(基地局50)の視覚範囲内であれば、捕獲距離内に入った場合に、基地局50からの信号によって、捕獲を実施するようにしてもよい。
【0063】
次に、
図14を参照して、第二の実施形態について説明する。なお、第一の実施形態と共通する構成については説明を省略し、第一の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0064】
第二の実施形態の捕獲装置1は、中間部材24Xを有する。中間部材24Xには、紐状部材28が接続されている。中間部材24Xは、弾性変形可能な材料で構成されている。
弾性変形可能な材料は、例えば、ピアノ線(高炭素鋼)である。
図14の下の図のように、紐状部材28に、侵入機200が絡まると、その負荷によって、変形する。すなわち、中間部材24Xがその形状を変えて、侵入機200の重量が捕獲装置1の中心部の略円直線上の位置に加わるようになっている。捕獲装置1の重心は、中心部の円直線上であるが、侵入機200の重量が加わっても、捕獲装置1の水平方向の重心位置は変わらない。これにより、捕獲装置1が、侵入機200を捕獲した場合に、バランスを崩すことがないようになっている。また、中間部材24Xは、変形するだけではなくて、姿勢変化も生じる(
図5参照)から、変形と姿勢変化の双方によって、侵入機200の重量が捕獲装置1の中心部の略鉛直線上の位置に加わるようにすることができる。
【0065】
なお、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。例えば、第一の実施形態と第二の実施形態の構成を適宜、組み合わせてもよい。