特許第6899507号(P6899507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899507
(24)【登録日】2021年6月17日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】誘導加熱装置及び塗装乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/44 20060101AFI20210628BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20210628BHJP
   F26B 3/347 20060101ALI20210628BHJP
   F26B 23/08 20060101ALI20210628BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   H05B6/44
   H05B6/10 331
   F26B3/347
   F26B23/08 A
   B05C9/14
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-26777(P2017-26777)
(22)【出願日】2017年2月16日
(65)【公開番号】特開2018-133232(P2018-133232A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000208695
【氏名又は名称】第一高周波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】特許業務法人勇智国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100187436
【弁理士】
【氏名又は名称】寺脇 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100155136
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 陽一
(72)【発明者】
【氏名】中根 雅陽
(72)【発明者】
【氏名】上條 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 千春
(72)【発明者】
【氏名】宮原 健太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正統
【審査官】 西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−146721(JP,A)
【文献】 特開2006−021088(JP,A)
【文献】 特開2015−028908(JP,A)
【文献】 特開平07−132260(JP,A)
【文献】 特開2004−157503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/00− 6/44
F26B 1/00−25/22
B05C 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の被加熱部材を誘導加熱によって加熱する加熱ユニットを備える誘導加熱装置であって、
前記加熱ユニットは、
コイル線が同一の平面上に複数回巻かれることによって形成されたトランスバース型のコイルである第1のコイル部と、
前記第1のコイル部に電気的に直列に接続され、前記第1のコイル部が形成する前記平面の垂線であって前記第1のコイル部の重心位置を通る垂線を内包するようにコイル線が螺旋状に巻かれることによって形成されたソレノイド型のコイルである第2のコイル部と、
前記第1のコイル部と前記第2のコイル部とを離間させた状態で接続するコイル線であって前記第1のコイル部の外周部から前記第2のコイル部へ延伸する延伸部と、
を備える
誘導加熱装置。
【請求項2】
導電性の被加熱部材を誘導加熱によって加熱する加熱ユニットを複数備える誘導加熱装置であって、
前記加熱ユニットは、
コイル線が同一の平面上に複数回巻かれることによって形成されたトランスバース型のコイルである第1のコイル部と、
前記第1のコイル部に電気的に直列に接続され、前記第1のコイル部が形成する前記平面の垂線であって前記第1のコイル部の重心位置を通る垂線を内包するようにコイル線が螺旋状に巻かれることによって形成されたソレノイド型のコイルである第2のコイル部と、
を備え、
前記複数の加熱ユニットを構成する複数の前記第1のコイル部と複数の前記第2のコイル部とが電気的に直列に接続されている
誘導加熱装置。
【請求項3】
請求項2に記載の誘導加熱装置であって、
前記複数の加熱ユニットは、
前記複数の前記第1のコイル部が互いに電気的に直列に接続され、
前記複数の前記第2のコイル部が互いに電気的に直列に接続され、
前記電気的に直列に接続された前記複数の前記第1のコイル部からなる直列回路の一端と、前記電気的に直列に接続された前記複数の前記第2のコイル部からなる直列回路の一端とが電気的に直列に接続された構成となっている
誘導加熱装置。
【請求項4】
導電性の被加熱部材を誘導加熱によって加熱する加熱ユニットを備える誘導加熱装置であって、
前記加熱ユニットは、
コイル線が同一の平面上に複数回巻かれることによって形成されたトランスバース型のコイルである第1のコイル部と、
前記第1のコイル部に電気的に直列に接続され、前記第1のコイル部が形成する前記平面の垂線であって前記第1のコイル部の重心位置を通る垂線を内包するようにコイル線が螺旋状に巻かれることによって形成されたソレノイド型のコイルである第2のコイル部と、
を備え、
当該誘導加熱装置は、さらに、前記第1のコイル部と前記第2のコイル部との距離を変更可能な距離変更機構を備える
誘導加熱装置。
【請求項5】
請求項2または請求項に記載の誘導加熱装置であって、
前記複数の加熱ユニットに高周波電力を供給する高周波電力供給装置と、
前記複数の加熱ユニットのそれぞれの加熱対象となる複数の被加熱部材のうちの1つの被加熱部材の温度を検出する温度検出部と、
を備え、
前記高周波電力供給装置は、前記温度検出部によって検出された温度に基づいて、前記複数の加熱ユニットに供給する高周波電力を制御する
誘導加熱装置。
【請求項6】
導電性の被加熱部材を誘導加熱によって加熱する加熱ユニットを備える誘導加熱装置であって、
前記加熱ユニットは、
コイル線が同一の平面上に複数回巻かれることによって形成されたトランスバース型のコイルである第1のコイル部と、
前記第1のコイル部に電気的に直列に接続され、前記第1のコイル部が形成する前記平面の垂線であって前記第1のコイル部の重心位置を通る垂線を内包するようにコイル線が螺旋状に巻かれることによって形成されたソレノイド型のコイルである第2のコイル部と、
を備え、
前記誘導加熱装置は、前記被加熱部材を誘導加熱によって加熱することによって当該被加熱部材に塗布された塗料を乾燥させる装置である
誘導加熱装置。
【請求項7】
塗装を乾燥させる方法である塗装乾燥方法であって、
塗料が塗布された導電性の被加熱部材を準備する第1の工程と、
前記被加熱部材を誘導加熱によって加熱可能な加熱ユニットを準備する第2の工程と、
前記加熱ユニットに高周波電力を供給することによって、前記被加熱部材を加熱する第3の工程と、
前記加熱ユニットに供給する高周波電力を制御することによって、前記被加熱部材の温度を調整する第4の工程と、
を備え、
前記第2の工程は、
前記加熱ユニットとして、
コイル線が同一の平面上に複数回巻かれることによって形成されたトランスバース型のコイルである第1のコイル部と、
前記第1のコイル部に電気的に直列に接続され、前記第1のコイル部が形成する前記平面の垂線であって前記第1のコイル部の重心位置を通る垂線を内包するようにコイル線が螺旋状に巻かれることによって形成されたソレノイド型のコイルである第2のコイル部と、
を備える加熱ユニットを準備する工程を含む
塗装乾燥方法。
【請求項8】
請求項7に記載の塗装乾燥方法であって、
前記第4の工程は、前記加熱ユニットに供給する高周波電力を制御することによって前記被加熱部材に加熱処理を施す工程を含む
塗装乾燥方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の塗装乾燥方法であって
前記第1の工程は、前記被加熱部材を複数準備する工程を含み、
前記第2の工程は、前記加熱ユニットを複数準備する工程を含み、
前記第2の工程において準備する前記複数の加熱ユニットを構成する複数の前記第1のコイル部と複数の前記第2のコイル部とが電気的に直列に接続されており、
前記第3の工程は、前記複数の加熱ユニットに1つの電源から高周波電力を供給することによって、前記複数の被加熱部材のそれぞれを前記複数の加熱ユニットのそれぞれによって加熱する工程を含み、
前記第4の工程は、前記複数の加熱ユニットに供給する高周波電力を制御することによって、前記複数の被加熱部材の温度を調整する工程を含む
塗装乾燥方法。
【請求項10】
請求項9に記載の塗装乾燥方法であって
前記第4の工程は、
前記複数の加熱ユニットのそれぞれの加熱対象となる前記複数の被加熱部材のうちの1つの被加熱部材の温度を検出する工程と、
前記検出した温度に基づいて、前記複数の加熱ユニットに供給する高周波電力を制御することによって、前記複数の被加熱部材の温度を調整する工程と、
を含む
塗装乾燥方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の塗装乾燥方法であって、
前記複数の加熱ユニットは、
前記複数の前記第1のコイル部が互いに電気的に直列に接続され、
前記複数の前記第2のコイル部が互いに電気的に直列に接続され、
前記電気的に直列に接続された前記複数の前記第1のコイル部からなる直列回路の一端と、前記電気的に直列に接続された前記複数の前記第2のコイル部からなる直列回路の一端とが電気的に直列に接続された構成となっているとともに、
前記第1のコイル部と前記第2のコイル部との距離を変更可能な距離変更機構を備え、
前記第3の工程及び前記第4の工程のうちの少なくとも一方の工程は、
前記第1のコイル部と前記第2のコイル部との距離を変更する工程を含む
塗装乾燥方法。
【請求項12】
請求項7から請求項11のいずれか一つに記載の塗装乾燥方法であって、
前記第1の工程は、粉末状の塗料が塗布された導電性の前記被加熱部材を準備する工程を含む
塗装乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱装置及び塗装乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗装を乾燥させる方法としては、ガス式の乾燥炉を用いる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、乾燥炉による加熱には時間がかかり、また、被加熱部材を均一に加熱することが困難であるといった課題があった。また、塗装が施された被加熱部材を均一に加熱するために、誘導加熱と赤外線とを用いて塗装を乾燥させる方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、2種類の熱源を用いるため、装置が複雑化、大型化してしまうといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−178347
【特許文献2】特開2013−228148
【特許文献3】特開2001−217065
【特許文献4】特開2002−126584
【特許文献5】特開2010−281490
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘導加熱によって塗装を乾燥させる装置及び方法においては、塗装が施された導電性の被加熱部材を均一に加熱することが求められる。なお、このような課題は、塗装を乾燥させる場合に限らず、一般に、誘導加熱によって被加熱部材を加熱する場合においても同様に発生する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、導電性の被加熱部材を誘導加熱によって加熱する加熱ユニットを備える誘導加熱装置が提供される。前記加熱ユニットは、コイル線が同一の平面上に複数回巻かれることによって形成されたトランスバース型のコイルである第1のコイル部と、前記第1のコイル部に電気的に直列に接続され、前記第1のコイル部が形成する前記平面の垂線であって前記第1のコイル部の重心位置を通る垂線を内包するようにコイル線が螺旋状に巻かれることによって形成されたソレノイド型のコイルである第2のコイル部とを備える。
この形態によれば、第1のコイル部(トランスバース型のコイル)と第2のコイル部(ソレノイド型のコイル)とは電気的に直列に接続されているので、第1のコイル部による誘導加熱と、第2のコイル部による誘導加熱とを1つの電源からの電力供給によって、同時に行うことができ、加熱工程の簡略化、誘導加熱装置の構造および回路構成の簡易化を実現することができる。
さらに、この形態の加熱ユニットは少なくとも2種類のコイル部(第1のコイル部、第2のコイル部)を備えるので、主に第1のコイル部によって加熱される部分(以下、第1被加熱部分とも呼ぶ)の熱容量と、主に第2のコイル部によって加熱される部分(以下、第2被加熱部分とも呼ぶ)の熱容量とが異なっていても、各被加熱部分(第1被加熱部分及び第2被加熱部分)の各熱容量に応じて各コイル部の形状(例えば、コイルの巻き数)を調整することによって、これら熱容量の異なる被加熱部分を略等しい(または、所定の温度差以下に抑制した)温度となるように加熱することが可能である。よって、1つの被加熱部材が熱容量の異なる被加熱部分を有する場合であっても、1つの電源によって、同時に、当該被加熱部材を略均一に(または、各被加熱部分の温度差を所定の温度差以下に抑制して)加熱することができる。
【0007】
(2)上記形態の誘導加熱装置において、前記加熱ユニットを複数備え、前記複数の加熱ユニットを構成する複数の前記第1のコイル部と複数の前記第2のコイル部とが電気的に直列に接続されている構成としてもよい。
この形態によれば、熱容量の異なる被加熱部分を有する被加熱部材を、同時に、複数個、加熱することができる。
【0008】
(3)上記形態の誘導加熱装置において、前記複数の加熱ユニットは、前記複数の前記第1のコイル部が互いに電気的に直列に接続され、前記複数の前記第2のコイル部が互いに電気的に直列に接続され、前記電気的に直列に接続された前記複数の前記第1のコイル部からなる直列回路の一端と、前記電気的に直列に接続された前記複数の前記第2のコイル部からなる直列回路の一端とが電気的に直列に接続された構成としてもよい。
この形態によれば、1つの加熱ユニット単位で考察した場合に、複数の加熱ユニットのうちの少なくとも1つの加熱ユニットは、当該加熱ユニットを構成する第1のコイル部と第2のコイル部との間に形成される空間に、電気的な接続部材を介在させることを回避した構成(図5参照)を実現することができる。したがって、この形態によれば、同じ加熱ユニット内の第1のコイル部の一端と第2のコイル部の他端とが電気的に接続され、かつ、各加熱ユニット間の接続方法として、一の加熱ユニットの第2のコイル部の一端と他の加熱ユニットの第1のコイル部の他端とが電気的に接続される構成(図1参照)と比較して、複数の加熱ユニットを構成する第1のコイル部と複数の第2のコイル部との間に形成される空間に介在する電気的な接続部材の数を少なくした構成を実現することができる。よって、第1のコイル部と第2のコイル部との間に形成される空間に介在する電気的な接続部材が及ぼす電気的・磁気的な影響を抑制することができる。
【0009】
(4)上記形態の誘導加熱装置において、前記第1のコイル部と前記第2のコイル部との距離を変更可能な距離変更機構を備える構成としてもよい。
この形態によれば、加熱時の被加熱部材の姿態において第1のコイル部が形成する平面の垂線方向を当該被加熱部材の長手方向とした場合に、長手方向の長さが異なる種々の被加熱部材を、第1のコイル部と第2のコイル部との距離を変更することによって加熱することができる。特に、上記(3)の形態に本形態を適用した場合、複数の加熱ユニットを構成する複数の第1のコイル部と複数の第2のコイル部との間に形成される空間に介在する電気的な接続部材が少ないので、第1のコイル部と第2のコイル部との距離を変更した場合の接続部材への影響を軽減することができる。例えば、接続部材の長さの調整作業が必要である場合であっても、第1のコイル部と第2のコイル部との距離を変更した場合に、接続部材の数が少ないので、当該調整作業を軽減することができる。その他、接続部材が変形可能な部材で形成されている場合であっても、第1のコイル部と第2のコイル部との距離を変更した場合に、変形させる接続部材の数が少ないので、接続部材の変形による影響を軽減することができる。
【0010】
(5)上記形態の誘導加熱装置において、前記複数の加熱ユニットに高周波電力を供給する高周波電力供給装置と、前記複数の加熱ユニットのそれぞれの加熱対象となる複数の被加熱部材のうちの1つの被加熱部材の温度を検出する温度検出部とを備え、前記高周波電力供給装置は、前記温度検出部によって検出された温度に基づいて、前記複数の加熱ユニットに供給する高周波電力を制御する構成としてもよい。
この形態によれば、複数の被加熱部材のうちの1つの被加熱部材の温度に基づいて複数の加熱ユニットに供給する高周波電力を制御するので、複数の被加熱部材の温度に基づいて複数の加熱ユニットに供給する高周波電力を制御する構成と比較して、制御を簡易化することができる。また、温度検出部を1つだけ備えるので、構造の簡易化、低コスト化を実現することがでできる。
【0011】
(6)上記形態の誘導加熱装置において、当該誘導加熱装置は、前記被加熱部材を誘導加熱によって加熱することによって当該被加熱部材に塗布された塗料を乾燥させる装置である構成としてもよい。
この形態によれば、塗料を乾燥させる際の制御として必要である被加熱部材の昇温速度の制御や、被加熱部材の温度の上限値の制御など、被加熱部材の温度に関する制御を、加熱ユニットに供給する電力の制御によって行うので、塗料を乾燥させる工程を簡易化することができる。
【0012】
(7)本発明の他の形態によれば、塗装を乾燥させる方法である塗装乾燥方法が提供される。この塗装乾燥方法は、塗料が塗布された導電性の被加熱部材を準備する第1の工程と、前記被加熱部材を誘導加熱によって加熱可能な加熱ユニットを準備する第2の工程と、前記加熱ユニットに高周波電力を供給することによって、前記被加熱部材を加熱する第3の工程と、前記加熱ユニットに供給する高周波電力を制御することによって、前記被加熱部材の温度を調整する第4の工程と、を備え、前記第2の工程は、前記加熱ユニットとして、コイル線が同一の平面上に複数回巻かれることによって形成されたトランスバース型のコイルである第1のコイル部と、前記第1のコイル部に電気的に直列に接続され、前記第1のコイル部が形成する前記平面の垂線であって前記第1のコイル部の重心位置を通る垂線を内包するようにコイル線が螺旋状に巻かれることによって形成されたソレノイド型のコイルである第2のコイル部と、を備える加熱ユニットを準備する工程を含む。
この形態によれば、被加熱部材を加熱する第3の工程と、被加熱部材の温度を調整する第4の工程とに用いる加熱ユニットが備える第1のコイル部(トランスバース型のコイル)と第2のコイル部(ソレノイド型のコイル)とは電気的に直列に接続されているので、例えば、被加熱部材を加熱する第3の工程と、被加熱部材の温度を調整する第4の工程とにおいて、第1のコイル部と第2のコイル部とに高周波電力を供給する際に、1つの電源からの電力供給によって行うことができ、被加熱部材を加熱する工程および被加熱部材の温度を調整する工程の簡略化を実現することができる。また、被加熱部材を加熱する工程および被加熱部材の温度を調整する工程を実行するための加熱ユニットと当該加熱ユニットに高周波電力を供給するための電源とを含む回路の構成および構造の簡易化を実現することができる。
さらに、本形態の第3の工程と第4の工程とに用いる加熱ユニットは、少なくとも2種類のコイル部(第1のコイル部、第2のコイル部)を備えるので、主に第1のコイル部によって加熱される部分(以下、第1被加熱部分とも呼ぶ)の熱容量と、主に第2のコイル部によって加熱される部分(以下、第2被加熱部分とも呼ぶ)の熱容量とが異なっていても、各被加熱部分の各熱容量に応じて各コイル部の形状(例えば、コイルの巻き数)を調整することによって、これら熱容量の異なる被加熱部分を略等しい(または、所定の温度差以下に抑制した)温度となるように加熱することが可能である。よって、1つの被加熱部材が熱容量の異なる被加熱部分を有する場合であっても、1つの電源によって、同時に、当該被加熱部材を略均一に(または、各被加熱部分の温度差を所定の温度差以下に抑制して)加熱することを可能にする。
すなわち、本形態の塗装乾燥方法は、熱容量の異なる第1被加熱部分と第2被加熱部分とを有する被加熱部材に塗布された塗料を乾燥させる際に、第1被加熱部分と第2被加熱部分との温度を略等しくした状態(または、所定の温度差以下に抑制した状態)で、被加熱部材を加熱する第3の工程と、被加熱部材の温度を調整する第4の工程とを実現することができる。
【0013】
(8)上記形態の塗装乾燥方法において、前記第4の工程は、前記加熱ユニットに供給する高周波電力を制御することによって前記被加熱部材に加熱処理を施す工程を含む構成としてもよい。
この形態によれば、被加熱部材を加熱する第3の工程を加熱ユニットによって行うとともに、被加熱部材に加熱処理を施して温度を調整する第4の工程を当該加熱ユニットに供給する高周波電力を制御することによって行う。したがって、この形態の塗装乾燥方法を、例えば、複数の工程を一つの設備によって行うバッチ式の塗装乾燥方法に適用することができる。この形態の塗装乾燥方法をバッチ式の塗装乾燥方法に適用した場合、各工程毎に設備を設けて塗装乾燥を行う連続式の塗装乾燥方法と比較して、被加熱部材の塗装を乾燥させるための設備を小さくすることができる。一例として、連続式の塗装乾燥方法においては、被加熱部材を加熱する工程を誘導加熱によって行い、被加熱部材の温度を調整する工程を当該被加熱部材に温風を当てて行う場合があるが、このような連続式の塗装乾燥方法と比較して、本形態の塗装乾燥方法は、複数の工程を加熱ユニットによって実現することができるので、設備の小型化、低コスト化を実現することができる。
【0014】
(9)上記形態の塗装乾燥方法において、前記第1の工程は、前記被加熱部材を複数準備する工程を含み、前記第2の工程は、前記加熱ユニットを複数準備する工程を含み、前記第2の工程において準備する前記複数の加熱ユニットを構成する複数の前記第1のコイル部と複数の前記第2のコイル部とが電気的に直列に接続されており、前記第3の工程は、前記複数の加熱ユニットに1つの電源から高周波電力を供給することによって、前記複数の被加熱部材のそれぞれを前記複数の加熱ユニットのそれぞれによって加熱する工程を含み、前記第4の工程は、前記複数の加熱ユニットに供給する高周波電力を制御することによって、前記複数の被加熱部材の温度を調整する工程を含む構成としてもよい。
この形態によれば、第3の工程を複数の被加熱部材に対して同時に実施することができるとともに、第4の工程を複数の被加熱部材に対して同時に実施することができるので、複数の被加熱部材の塗装乾燥を効率的に行うことができる。また、複数の加熱ユニットに1つの電源から高周波電力を供給するので、複数の加熱ユニットに複数の電源から高周波電力を供給する方法と比較して、各加熱ユニットへ高周波電力を供給する制御を簡易化することができるとともに、複数の電源を用意する必要がないことによる低コスト化を実現することができる。
また、本形態の塗装乾燥方法によれば、塗装を乾燥させる対象である被加熱部材の個数に応じた個数の加熱ユニットを用意することによって、当該複数の被加熱部材の塗装乾燥をすることができる。比較例として、塗装乾燥方法を構成する複数の各工程毎に設備が必要となる連続式の塗装乾燥方法は、塗装を乾燥させる対象である被加熱部材の個数に関わらず、当該複数の各工程毎に設備を用意する必要がある。したがって、本形態の塗装乾燥方法によれば、連続式の塗装乾燥方法と比較して、加熱ユニットの個数を変更することによって、塗装乾燥させる対象物の個数(生産量)に応じて設備の規模の最適化を実現することができるとともに、低コスト化を実現することができる。
【0015】
(10)上記形態の塗装乾燥方法において、前記第4の工程は、前記複数の加熱ユニットのそれぞれの加熱対象となる前記複数の被加熱部材のうちの1つの被加熱部材の温度を検出する工程と、前記検出した温度に基づいて、前記複数の加熱ユニットに供給する高周波電力を制御することによって、前記複数の被加熱部材の温度を調整する工程と、を含む構成としてもよい。
この形態によれば、複数の被加熱部材の温度を調整する際に、複数の被加熱部材のうちの1つの被加熱部材の温度を検出するので、複数の被加熱部材の温度を検出する方法と比較して、温度を検出するための設備を簡易化することができるとともに、低コスト化を実現することができる。さらに1つの被加熱部材の温度に基づいて複数の加熱ユニットに供給する高周波電力を制御するので、複数の被加熱部材の温度に基づいて複数の加熱ユニットに供給する高周波電力を制御する方法と比較して、制御を簡易化することができる。
【0016】
(11)上記形態の塗装乾燥方法において、前記複数の加熱ユニットは、前記複数の前記第1のコイル部が互いに電気的に直列に接続され、前記複数の前記第2のコイル部が互いに電気的に直列に接続され、前記電気的に直列に接続された前記複数の前記第1のコイル部からなる直列回路の一端と、前記電気的に直列に接続された前記複数の前記第2のコイル部からなる直列回路の一端とが電気的に直列に接続された構成となっているとともに、前記第1のコイル部と前記第2のコイル部との距離を変更可能な距離変更機構を備え、前記第3の工程及び前記第4の工程のうちの少なくとも一方の工程は、前記第1のコイル部と前記第2のコイル部との距離を変更する工程を含む構成としてもよい。
この形態によれば、第1のコイル部と第2のコイル部との距離を変更することによって、被加熱部材に対する加熱の態様を変更することができる。例えば、被加熱部材の熱容量の異なる部分が均一な温度となるように、第1のコイル部と第2のコイル部との距離を調整する構成とすれば、熱容量の異なる部分を有する被加熱部材に温度ムラが生じることをさらに抑制することが可能となる。
【0017】
(12)上記形態の塗装乾燥方法において、前記第1の工程は、粉末状の塗料が塗布された導電性の前記被加熱部材を準備する工程を含む構成としてもよい。
この形態によれば、被加熱部材に塗布された塗料は粉末状であるので、溶剤に溶かした塗料が塗布された導電性の被加熱部材の塗装乾燥を誘導加熱によって行う場合と比較して、被加熱部材を加熱する第3の工程および被加熱部材に加熱処理を施して温度を調整する第4の工程において、被加熱部材に塗布された塗料が沸騰(揮発)して乾燥後の塗料に沸騰による気泡の痕跡が残存してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態としての塗装乾燥装置の全体の構成を模式的に示す説明図である。
図2】昇降装置によって誘導加熱コイルを被加熱部材側に下降させた状態を模式的に示す説明図である。
図3】誘導加熱コイルの形状を拡大して示す説明図である。
図4】被加熱部材に塗布された塗料を乾燥させる塗装乾燥方法の工程の一例を示す工程図である。
図5】第2実施形態としての塗装乾燥装置の全体の構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明にかかる実施の形態について、図面を参照しながら以下の順序で説明する。
A.第1実施形態:
B.第2実施形態:
C.変形例:
【0020】
A.第1実施形態:
図1は、本発明の一実施形態としての塗装乾燥装置100の全体の構成を模式的に示す説明図である。塗装乾燥装置100は、塗料が塗布された導電性の被加熱部材を誘導加熱によって加熱することによって、当該被加熱部材に塗布された塗料を乾燥させる装置である。
【0021】
本実施形態の塗装乾燥装置100は、被加熱部材5a〜5fを載せるためのテーブル9と、被加熱部材5a〜5fをそれぞれ個別に加熱する誘導加熱コイル10a〜10fと、誘導加熱コイル10a〜10fを昇降させる昇降装置50と、誘導加熱コイル10a〜10fに高周波電力を供給する高周波電力供給装置60と、被加熱部材5aの温度を測定し、測定した温度を高周波電力供給装置60に出力する放射温度計70と、を備えている。後述するように、高周波電力供給装置60は、放射温度計70によって測定された1個の被加熱部材5aの温度に基づいて、誘導加熱コイル10a〜10fに供給する高周波電力のフィードバック制御(本実施形態ではPID制御)を実行することによって、6個の被加熱部材5a〜5fの温度を調整することが可能な構成となっている。
【0022】
被加熱部材5a〜5fは、本実施形態では、自動車のエンジンのオイルフィルターの一部を構成し、内部にエレメントを収納することが可能な金属製のケーシングである。具体的には、図1に示すように、被加熱部材5aは、底部6aと円筒部7aとを有する円筒状の部材であり、開口部分には外側に折り返された折り返し部8aが形成されている。他の被加熱部材5b〜5fの構成も同様である。そして、本実施形態の被加熱部材5a〜5fの表面には、粉末状の塗料が塗布されている。本実施形態の塗装乾燥装置100は、粉体塗装が施された6個の被加熱部材5a〜5fを6個の誘導加熱コイル10a〜10fのそれぞれによって誘導加熱することによって、6個の被加熱部材5a〜5fの表面に塗布された粉末状の塗料を定着させる。
【0023】
誘導加熱コイル10a〜10fは、隣接する誘導加熱コイル同士が銅製のブスバー(バスバー)を介して連結されることにより、電気的に直列に接続されている。具体的には、図1に示した例では、誘導加熱コイル10aを形成するコイル線の一端部の近傍部分がブスバー20aに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部の近傍部分がブスバー20bに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル10bを形成するコイル線の一端部の近傍部分がブスバー20bに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部の近傍部分がブスバー20cに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル10cを形成するコイル線の一端部の近傍部分がブスバー20cに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部の近傍部分がブスバー20dに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル10dを形成するコイル線の一端部の近傍部分がブスバー20dに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部の近傍部分がブスバー20eに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル10eを形成するコイル線の一端部の近傍部分がブスバー20eに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部の近傍部分がブスバー20fに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル10fを形成するコイル線の一端部の近傍部分がブスバー20fに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部の近傍部分がブスバー20gに電気的に接続されている。そして、直列回路の末端のブスバー20a及びブスバー20gが高周波電力供給装置60の端子に電気的に接続されている。
【0024】
さらに、本実施形態では、誘導加熱コイル10a〜10fのそれぞれを形成するコイル線は、銅製の中空パイプ(銅パイプ)によって構成されており、当該中空パイプの内部に冷却水を循環させることが可能であるように構成されている。そして、本実施形態では、隣接する誘導加熱コイルを形成するコイル線の端部同士がホースを介して直列に連結されるとともに、冷却水を循環させる冷却水循環装置90に接続されている。したがって、1台の冷却水循環装置90によって、6個の誘導加熱コイル10a〜10fのコイル線の内部に冷却水を循環させることができる。この結果、誘導加熱コイル10a〜10fに高周波電力を供給した際における当該誘導加熱コイル10a〜10fの過熱を抑制することができる。なお、図1では、誘導加熱コイル10a〜10fを形成する各コイル線の端部同士を連結するホースは、黒の太い実線として示されている。
【0025】
昇降装置50は、上下に移動可能なアーム部52を有しており、当該アーム部52は、ブスバー20a及びブスバー20gを支持する絶縁性の支持板54に接続されている。したがって、誘導加熱コイル10a〜10fは、昇降装置50によって上下に昇降可能であるように構成されている。
【0026】
図2は、昇降装置50によって、誘導加熱コイル10a〜10fを被加熱部材5a〜5f側に下降させた状態を模式的に示す説明図である。図2に示すように、昇降装置50が誘導加熱コイル10a〜10fを被加熱部材5a〜5fが配置されたテーブル9側に下降させると、誘導加熱コイル10a〜10fのそれぞれの内側に被加熱部材5a〜5fのそれぞれが内包された状態となる。この状態において、高周波電力供給装置60が誘導加熱コイル10a〜10fに高周波電力を供給することによって、導電性の被加熱部材5a〜5fのそれぞれが誘導加熱コイル10a〜10fによって加熱され、当該被加熱部材5a〜5fに塗布された塗料が乾燥される。
【0027】
次に、誘導加熱コイル10a〜10fの形状の詳細について説明する。本実施形態では、6個の誘導加熱コイル10a〜10fはほぼ同一の形状を有しているため、以下では、被加熱部材5aを加熱対象とする誘導加熱コイル10aの形状の詳細について説明する。
【0028】
図3は、誘導加熱コイル10aの形状を拡大して示す説明図である。この図3には、互いに垂直なX軸、Y軸、Z軸が示されている。誘導加熱コイル10aは、コイル線が同一の平面上(図3ではXY平面上)に複数回巻かれることによって形成されたトランスバース型のコイル(いわゆるパンケーキ型のコイル)であるトランスバース型コイル部13aを備えている。さらに、誘導加熱コイル10aは、トランスバース型コイル部13aに電気的に直列に接続され、トランスバース型コイル部13aが形成する平面の垂線であって、トランスバース型コイル部13aの重心位置Gを通る垂線である垂線PLを内包するようにコイル線が螺旋状(円筒状)に巻かれることによって形成されたソレノイド型のコイルであるソレノイド型コイル部15aを備えている。
【0029】
本実施形態では、誘導加熱コイル10aは、1本のコイル線によって形成されており、当該コイル線は、端部11aから延びてトランスバース型コイル部13aを形成するとともに、下方(Z軸の負の方向)に延伸部14aとして延び、その後、上述したソレノイド型コイル部15aを形成し、その後、上方(Z軸の正の方向)に延伸部16aとして延び、終端の端部18aを形成する。
【0030】
そして、誘導加熱コイル10aを形成するコイル線の端部11aの近傍部分12aは、ネジ穴が形成された銅板21bに溶接によって電気的に接続されている。そして、銅板21bのネジ穴とブスバー20bに形成された長穴とにボルト22bが通され、ナット23bによって締結されることによって、銅板21bとブスバー20bとが電気的に接続されている。同様に、誘導加熱コイル10aを形成するコイル線の端部18aの近傍部分17aは、ネジ穴が形成された銅板21aに溶接によって電気的に接続されている。そして、銅板21aのネジ穴とブスバー20aに形成された長穴とにボルト22aが通され、ナット23aによって締結されることによって、銅板21aとブスバー20aとが電気的に接続されている。これにより、隣接する誘導加熱コイル間の距離を調整することが可能となっている。なお、誘導加熱コイル10aを形成するコイル線の端部11a及び端部18aには、上述したように、冷却水を循環させるためのホースが接続される。
【0031】
次に、誘導加熱コイル10aがこのような形状を有している理由について説明する。上述したように(図1参照)、本実施形態の被加熱部材5aは、底部6aと円筒部7aとを有する円筒状の部材であり、開口部分には外側に折り返された折り返し部8aが形成されている。このため、被加熱部材5aの折り返し部は、円筒部7aよりも熱容量が大きくなっている。
【0032】
仮に、被加熱部材5aをトランスバース型コイル部13aのみによって加熱すると、被加熱部材5aの底部6aはトランスバース型コイル部13aによる誘導加熱によって温度が上昇し、円筒部7aも底部6aからの熱伝導によって温度が上昇するが、熱容量の大きい折り返し部8aは円筒部7aからの熱伝導によっては十分に温度が上昇せず、被加熱部材5aに大きな温度ムラが生じてしまう。
【0033】
そこで、本実施形態では、誘導加熱コイル10aは、被加熱部材5aの底部6aをトランスバース型コイル部13aによって加熱し、熱容量の大きい折り返し部8aをソレノイド型コイル部15aによって加熱するように構成されている。これにより、本実施形態の誘導加熱コイル10aによれば、熱容量の大きい折り返し部8aを有する円筒状の被加熱部材5aを均一に加熱することが可能となる。
【0034】
なお、本実施形態では、誘導加熱コイル10aを形成するコイル線のうち、トランスバース型コイル部13aとソレノイド型コイル部15aとを繋ぐ2つの延伸部14a、16aが近接した位置となるように構成されている。このため、当該2つの延伸部14a、16aによって生じる磁界は相殺される。したがって、2つの延伸部14a、16aによって生じる磁界の影響によって被加熱部材5aの円筒部7aに加熱ムラが生じてしまうことを抑制することができる。
【0035】
次に、塗装乾燥装置100を用いて被加熱部材に塗布された塗料を乾燥させる方法の一連の工程について説明する。
【0036】
図4は、被加熱部材に塗布された塗料を乾燥させる塗装乾燥方法の工程の一例を示す工程図である。本実施形態の塗装乾燥方法は、複数の被加熱部材5a〜5fに対する昇温処理、加熱処理(均熱処理)及び降温処理を1台の塗装乾燥装置100によって行うバッチ式の塗装乾燥方法である。
【0037】
最初に、工程S10では、粉体塗装が施された被加熱部材5a〜5fをテーブル9上に配置する。次に、工程S20では、誘導加熱コイル10a〜10fを被加熱部材5a〜5f側に降下させる。
【0038】
次に、工程S30では、誘導加熱コイル10a〜10fへの高周波電力の供給を開始し、被加熱部材5a〜5fが所定時間(例えば、30秒から1分)かけて170℃まで昇温するように、誘導加熱コイル10a〜10fに供給する高周波電力を制御する。すなわち、工程S30では、被加熱部材5a〜5fに対して昇温処理を実施する。次に、工程S40では、被加熱部材5a〜5fの温度が170℃に達した後、所定時間(例えば、1分半から2分半)、当該温度を維持するように、誘導加熱コイル10a〜10fに供給する高周波電力を制御しながら被加熱部材5a〜5fを加熱する。すなわち、工程S40では、被加熱部材5a〜5fに対して加熱処理(均熱処理)を実施する。
【0039】
次に、工程S50では、被加熱部材5a〜5fの温度が170℃から所定の降温速度で降温するように、誘導加熱コイル10a〜10fに供給する高周波電力を制御する。すなわち、被加熱部材5a〜5fに対して降温処理を実施する。そして、降温処理の終了により、塗装の乾燥工程を終了する。
【0040】
すなわち、本実施形態では、複数の被加熱部材5a〜5fに対する昇温処理、加熱処理(均熱処理)及び降温処理を、複数の誘導加熱コイル10a〜10fに対して1台の高周波電力供給装置60から高周波電力を供給することによって実現している。
【0041】
本実施形態では、工程30、工程40及び工程50において、高周波電力供給装置60は、6個の被加熱部材5a〜5fのうちの1個の被加熱部材5aの温度を放射温度計70によって監視しており、当該監視している温度に基づいて、6個の誘導加熱コイル10a〜10fに供給する高周波電力のフィードバック制御(PID制御)を実行する。ただし、工程30は、予め実験により最適化された一定の出力で誘導加熱コイル10a〜10fに高周波電力を供給することによって、被加熱部材5a〜5fを170℃まで昇温させる工程としてもよい。また、工程50は、6個の誘導加熱コイル10a〜10fへの高周波電力の供給を終了し、自然冷却によって降温させる工程としてもよい。
【0042】
上述したように、本実施形態では、6個の誘導加熱コイル10a〜10fは高周波電力供給装置60に対して電気的に直列に接続されており、6個の誘導加熱コイル10a〜10fの形状及び6個の被加熱部材5a〜5fの形状は略同一である。したがって、6個の誘導加熱コイル10a〜10fに対して1台の高周波電力供給装置60によって高周波電力を供給すると、6個の被加熱部材5a〜5fのそれぞれの温度の上昇及び下降の態様はほぼ等しくなる。したがって、6個の被加熱部材5a〜5fのうちの1個の被加熱部材5aの温度を放射温度計70によって測定し、当該測定した温度に基づいて、6個の誘導加熱コイル10a〜10fに供給する高周波電力のフィードバック制御(本実施形態ではPID制御)を実行することによって、6個の被加熱部材5a〜5fの温度を一括で制御することができる。この結果、塗装乾燥装置100の構成を簡略化することが可能となる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、各誘導加熱コイルは、トランスバース型コイル部と、当該トランスバース型コイル部に電気的に直列に接続されたソレノイド型コイル部とを備えるので、トランスバース型コイル部による誘導加熱と、ソレノイド型コイル部による誘導加熱とを1つの電源からの電力供給によって、同時に行うことができ、加熱工程の簡略化、塗装乾燥装置100の構造および回路構成の簡易化を実現することができる。
【0044】
さらに、本実施形態によれば、各誘導加熱コイルは少なくとも2種類のコイル部(トランスバース型コイル部及びソレノイド型コイル部)を備えるので、主にトランスバース型コイル部によって加熱される部分(以下、第1被加熱部分とも呼ぶ。本実施形態では被加熱部材5aの底部6a)の熱容量と、主にソレノイド型コイル部によって加熱される部分(以下、第2被加熱部分とも呼ぶ。本実施形態では被加熱部材5aの折り返し部8a)の熱容量とが異なっていても、各被加熱部分(第1被加熱部分及び第2被加熱部分)の各熱容量に応じて各コイル部の形状(例えば、コイルの巻き数)を調整することによって、これら熱容量の異なる被加熱部分を略等しい(または、所定の温度差以下に抑制した)温度となるように加熱することが可能である。よって、1つの被加熱部材が熱容量の異なる被加熱部分を有する場合であっても、1つの電源によって、同時に、当該被加熱部材を略均一に(または、各被加熱部分の温度差を所定の温度差以下に抑制して)加熱することが可能である。
【0045】
さらに、本実施形態によれば、複数の誘導加熱コイル10a〜10fが電気的に直列に接続されているので、熱容量の異なる被加熱部分を有する被加熱部材を、同時に、複数個、加熱することができる。
【0046】
さらに、本実施形態によれば、高周波電力供給装置60は、複数の被加熱部材5a〜5fのうちの1つの被加熱部材5aの温度に基づいて複数の誘導加熱コイル10a〜10fに供給する高周波電力を制御するので、複数の被加熱部材5a〜5fの温度に基づいて複数の誘導加熱コイル10a〜10fに供給する高周波電力を制御する構成と比較して、制御を簡易化することができる。また、放射温度計70を1つだけ備えればよいので、構造の簡易化、低コスト化を実現することがでできる。
【0047】
さらに、本実施形態によれば、塗装乾燥装置100は、複数の被加熱部材5a〜5fを誘導加熱によって加熱することによって当該被加熱部材5a〜5fに塗布された塗料を乾燥させるので、塗料を乾燥させる際の制御として必要である被加熱部材5a〜5fの昇温速度の制御や、被加熱部材5a〜5fの温度の上限値の制御など、被加熱部材5a〜5fの温度に関する制御を、誘導加熱コイル10a〜10fに供給する電力の制御によって行うので、塗料を乾燥させる工程を簡易化することができる。
【0048】
さらに、本実施形態によれば、被加熱部材を加熱する工程(昇温処理)と、被加熱部材に加熱処理(均熱処理)を施す工程とを、誘導加熱コイルに供給する高周波電力を制御することによって行う。したがって、本実施形態の塗装乾燥方法を、例えば、複数の工程を一つの設備によって行うバッチ式の塗装乾燥方法に適用することができる。本実施形態の塗装乾燥方法をバッチ式の塗装乾燥方法に適用した場合、各工程毎に設備を設けて塗装乾燥を行う連続式の塗装乾燥方法と比較して、被加熱部材の塗装を乾燥させるための設備を小さくすることができる。一例として、連続式の塗装乾燥方法においては、被加熱部材の加熱を誘導加熱によって行い、加熱処理(均熱処理)を被加熱部材に温風を当てて行う場合があるが、このような連続式の塗装乾燥方法と比較して、本実施形態の塗装乾燥方法は、複数の工程を誘導加熱コイルによって実現することができるので、設備の小型化、低コスト化を実現することができる。
【0049】
さらに、本実施形態によれば、被加熱部材を加熱する工程(昇温処理)を複数の被加熱部材5a〜5fに対して同時に実施することができるとともに、加熱処理(均熱処理)を複数の被加熱部材5a〜5fに対して同時に実施することができるので、複数の被加熱部材5a〜5fの塗装乾燥を効率的に行うことができる。また、複数の誘導加熱コイル10a〜10fに1つの高周波電力供給装置60から高周波電力を供給するので、複数の誘導加熱コイル10a〜10fに複数の電源から高周波電力を供給する方法と比較して、各誘導加熱コイルへ高周波電力を供給する制御を簡易化することができるとともに、複数の電源を用意する必要がないことによる低コスト化を実現することができる。
【0050】
さらに、本実施形態によれば、塗装を乾燥させる対象である被加熱部材の個数に応じた個数の誘導加熱コイルを用意することによって、当該複数の被加熱部材の塗装乾燥をすることができる。比較例として、塗装乾燥方法を構成する複数の各工程毎に設備が必要となる連続式の塗装乾燥方法は、塗装を乾燥させる対象である被加熱部材の個数に関わらず、当該複数の各工程毎に設備を用意する必要がある。したがって、本実施形態の塗装乾燥方法によれば、連続式の塗装乾燥方法と比較して、誘導加熱コイルの個数を変更することによって、塗装乾燥させる対象物の個数(生産量)に応じて設備の規模の最適化を実現することができるとともに、低コスト化を実現することができる。
【0051】
さらに、本実施形態によれば、粉末状の塗料が塗布された導電性の被加熱部材(粉体塗装が施された被加熱部材)に対して誘導加熱による塗装乾燥を適用するので、例えば、溶剤に溶かした塗料が塗布された導電性の被加熱部材に対して誘導加熱による塗装乾燥を適用する方法と比較して、被加熱部材を加熱する工程および被加熱部材に加熱処理(均熱処理)を施す工程において、被加熱部材に塗布された塗料が沸騰(揮発)して乾燥後の塗料に沸騰による気泡の痕跡が残存してしまうことを抑制することができる。
【0052】
さらに、本実施形態によれば、図1に示すように、略同一形状(同じ巻き方)の複数の誘導加熱コイル10a〜10fが電気的に直列に接続されているので、隣接する誘導加熱コイルの間においては磁界が打ち消し合うことになる。ここで、仮に、巻き方が逆向きの複数の誘導加熱コイルが電気的に直列に接続されている場合には、隣接する誘導加熱コイルの間において磁界が強め合ってしまい、当該磁界の影響によって被加熱部材の温度が想定よりも上昇してしまう場合がある。これに対して、本実施形態では、隣接する誘導加熱コイルの間においては磁界が打ち消し合うことになるので、隣接する誘導加熱コイルの間の距離を小さくしても、被加熱部材の温度が想定よりも上昇してしまうことがない。したがって、本実施形態によれば、隣接する誘導加熱コイルの間の距離を小さくすることができ、装置の小型化を実現することができる。
【0053】
B.第2実施形態:
図5は、第2実施形態としての塗装乾燥装置100bの全体の構成を模式的に示す説明図である。以下では、上述した第1実施形態と異なる構成について説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0054】
本実施形態の塗装乾燥装置100bは、6個の誘導加熱コイル30a〜30fを備える。本実施形態の誘導加熱コイル30aは、上述した第1実施形態と同様に、コイル線が同一の平面上に複数回巻かれることによって形成されたトランスバース型のコイル(いわゆるパンケーキ型のコイル)であるトランスバース型コイル部33aと、トランスバース型コイル部33aに電気的に直列に接続され、トランスバース型コイル部33aが形成する平面の垂線であって、トランスバース型コイル部33aの重心位置を通る垂線を内包するようにコイル線が螺旋状(円筒状)に巻かれることによって形成されたソレノイド型のコイルであるソレノイド型コイル部35aとを備えている。他の誘導加熱コイル30b〜30fの構成も同様である。具体的には、図5に示すように、誘導加熱コイル30bはトランスバース型コイル部33bとソレノイド型コイル部35bとを備え、誘導加熱コイル30cはトランスバース型コイル部33cとソレノイド型コイル部35cとを備え、誘導加熱コイル30dはトランスバース型コイル部33dとソレノイド型コイル部35dとを備え、誘導加熱コイル30eはトランスバース型コイル部33eとソレノイド型コイル部35eとを備え、誘導加熱コイル30fはトランスバース型コイル部33fとソレノイド型コイル部35fとを備えている。
【0055】
ただし、本実施形態では、上述した第1実施形態とは異なり、6個のトランスバース型コイル部33a〜33fが互いに電気的に直列に接続され、さらに、6個のソレノイド型コイル部35a〜35fが互いに電気的に直列に接続され、電気的に直列に接続された6個のトランスバース型コイル部33a〜33fからなる直列回路の一端と、6個のソレノイド型コイル部35a〜35fからなる直列回路の一端とが電気的に直列に接続された構成となっている。
【0056】
具体的には、図5に示した例では、誘導加熱コイル30aのトランスバース型コイル部33aを形成するコイル線の一端部の近傍部分がブスバー40aに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部の近傍部分がブスバー40bに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル30bのトランスバース型コイル部33bを形成するコイル線の一端部の近傍部分がブスバー40bに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部の近傍部分がブスバー40cに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル30cのトランスバース型コイル部33cを形成するコイル線の一端部の近傍部分がブスバー40cに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部の近傍部分がブスバー40dに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル30dのトランスバース型コイル部33dを形成するコイル線の一端部の近傍部分がブスバー40dに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部の近傍部分がブスバー40eに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル30eのトランスバース型コイル部33eを形成するコイル線の一端部の近傍部分がブスバー40eに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部の近傍部分がブスバー40fに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル30fのトランスバース型コイル部33fを形成するコイル線の一端部の近傍部分がブスバー40fに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部の近傍部分がブスバー40gに電気的に接続されている。
【0057】
さらに、誘導加熱コイル30aのソレノイド型コイル部35aを形成するコイル線の一端部がブスバー42aに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部がブスバー42bに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル30bのソレノイド型コイル部35bを形成するコイル線の一端部がブスバー42bに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部がブスバー42cに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル30cのソレノイド型コイル部35cを形成するコイル線の一端部がブスバー42cに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部がブスバー42dに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル30dのソレノイド型コイル部35dを形成するコイル線の一端部がブスバー42dに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部がブスバー42eに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル30eのソレノイド型コイル部35eを形成するコイル線の一端部がブスバー42eに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部がブスバー42fに電気的に接続されている。そして、誘導加熱コイル30fのソレノイド型コイル部35fを形成するコイル線の一端部がブスバー42fに電気的に接続されており、当該コイル線の他端部がブスバー42gに電気的に接続されている。
【0058】
さらに、電気的に直列に接続された6個のトランスバース型コイル部33a〜33fからなる直列回路の一端であるブスバー40gと、6個のソレノイド型コイル部35a〜35fからなる直列回路の一端であるブスバー42gとが柔軟性を有するリッツ線43によって電気的に接続されることによって、これらの2つの直列回路が電気的に直列に接続された構成となっている。そして、この2つの直列回路が直列に接続された回路の末端のブスバー40a及び42aが高周波電力供給装置60の端子に電気的に接続されている。なお、図示は省略するが、リッツ線43は、外側から水冷により過熱を抑制する構成となっている。
【0059】
すなわち、上述した第1実施形態では、6個のトランスバース型コイル部13a〜13fと、6個のソレノイド型コイル部15a〜15fとの間を電気的に接続する部材として、12本のコイル線(例えば、図3に示した延伸部14a及び延伸部16a)が存在している構成であるのに対し(図1参照)、本実施形態では、6個のトランスバース型コイル部33a〜33fと、6個のソレノイド型コイル部35a〜35fとの間を電気的に接続する部材としては、1本のリッツ線のみが存在している構成となっている。
【0060】
さらに、本実施形態では、昇降装置50は、上下に独立して移動可能な2つのアーム部56及びアーム部57を有しており、アーム部56とアーム部57との間の距離Lを変更することが可能な構成となっている。アーム部56は、ブスバー40a及びブスバー40gを支持する絶縁性の支持板58に接続されており、アーム部57は、ブスバー42a及びブスバー42gを支持する絶縁性の支持板59に接続されている。ここで、上述したように、本実施形態では、6個のトランスバース型コイル部33a〜33fと、6個のソレノイド型コイル部35a〜35fとの間を電気的に接続する部材としては、1本のリッツ線のみが存在している構成となっている。したがって、本実施形態では、各誘導加熱コイル30a〜30fを構成するトランスバース型コイル部33a〜33fとソレノイド型コイル部35a〜35fとの間の距離を容易に変更することが可能な構成となっている。
【0061】
したがって、本実施形態によれば、加熱対象となる被加熱部材の高さ(図3の垂線PL方向の長さ)が変更となった場合であっても、各誘導加熱コイル30a〜30fを構成するトランスバース型コイル部33a〜33fとソレノイド型コイル部35a〜35fとの間の距離を変更することによって、容易に対応することが可能となる。
【0062】
なお、本実施形態においても、隣接するトランスバース型コイル部を形成するコイル線の端部同士がホースを介して直列に連結されるとともに、隣接するソレノイド型コイル部を形成するコイル線の端部同士がホースを介して直列に連結され、冷却水循環装置90に接続されている。したがって、上述した第1実施形態と同様に、1台の冷却水循環装置90によって、6個の誘導加熱コイル30a〜30fのコイル線の内部に冷却水を循環させることができる。この結果、誘導加熱コイル30a〜30fに高周波電力を供給した際における当該誘導加熱コイル30a〜30fの過熱を抑制することができる。なお、図5では、誘導加熱コイル10a〜10fを形成する各コイル線の端部同士を連結するホースは、黒の太い実線として示されている。
【0063】
以上説明した本実施形態によれは、上述した第1実施形態の効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0064】
本実施形態によれば、複数のトランスバース型コイル部33a〜33fが互いに電気的に直列に接続され、複数のソレノイド型コイル部35a〜35fが互いに電気的に直列に接続され、電気的に直列に接続された複数のトランスバース型コイル部33a〜33fからなる直列回路の一端と、電気的に直列に接続された複数のソレノイド型コイル部35a〜35fからなる直列回路の一端とが電気的に直列に接続されている。したがって、本実施形態によれば、複数の誘導加熱コイル30a〜30fのうちの少なくとも1つの誘導加熱コイルは、当該誘導加熱コイルを構成するトランスバース型コイル部とソレノイド型コイル部との間に形成される空間に、電気的な接続部材(第1実施形態の誘導加熱コイル10aにおける延伸部14a、16b)を介在させることを回避した構成(図5参照)を実現することができる。したがって、この本実施形態によれば、図1の第1実施形態に示した構成と比較して、複数の誘導加熱コイル30a〜30fを構成するトランスバース型コイル部33a〜33fと複数のソレノイド型コイル部35a〜35fとの間に形成される空間に介在する電気的な接続部材の数を少なくした構成を実現することができる。よって、トランスバース型コイル部とソレノイド型コイル部との間に形成される空間に介在する電気的な接続部材が及ぼす電気的・磁気的な影響を抑制することができる。
【0065】
さらに、本実施形態では、複数のトランスバース型コイル部33a〜33fと複数のソレノイド型コイル部35a〜35fとの間に形成される空間に介在する電気的な接続部材としては柔軟性を有するリッツ線43のみが存在しているので、複数のトランスバース型コイル部33a〜33fと複数のソレノイド型コイル部35a〜35fとの距離を昇降装置50によって変更することができる。そして、複数のトランスバース型コイル部33a〜33fと複数のソレノイド型コイル部35a〜35fとの距離を昇降装置50によって変更することによって、高さの異なる種々の被加熱部材を加熱することができる。
【0066】
C.変形例:
なお、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0067】
C1.変形例1:
上記実施形態では、誘導加熱コイル10a〜10fを昇降装置50によって昇降させる構成としたが、この代わりに、被加熱部材が配置されたテーブル9を昇降させる構成としてもよい。
【0068】
C2.変形例2:
上記実施形態では、塗装乾燥装置100は、6個の誘導加熱コイル10a〜10fを備える構成としたが、塗装乾燥装置100が備える誘導加熱コイルの個数は、6個に限定されない。例えば、塗装乾燥装置100が備える誘導加熱コイルの個数は、1個であってもよく6個以外の複数の個数であってもよい。すなわち、塗装乾燥の工程に必要とされる処理能力に応じた個数の誘導加熱コイルを塗装乾燥装置100が備える構成としてもよい。
【0069】
C3.変形例3:
上記実施形態では、塗装乾燥装置100が備える誘導加熱コイルとして、トランスバース型コイル部とソレノイド型コイル部とを備える形状のコイルを採用したが、塗装乾燥装置100が備える誘導加熱コイルとして、他の形状のコイルを採用してもよい。例えば、塗装乾燥装置100が備える誘導加熱コイルとして、椀型のコイルや、円錐型のコイル等を採用してもよい。また、トランスバース型コイル部のみを備える形状のコイルやソレノイド型コイル部のみを備える形状のコイルを採用してもよい。すなわち、塗装乾燥装置100が備える誘導加熱コイルとして、被加熱部材の形状に応じた任意の形状のコイルを採用してもよい。
【0070】
C4.変形例4:
上記実施形態では、被加熱部材と誘導加熱コイルとが相対的に静止した状態で当該被加熱部材を加熱する構成としたが、被加熱部材をさらに均一に加熱するために、被加熱部材を回転させながら加熱する構成や、誘導加熱コイルを被加熱部材に対して上下方向に移動させながら加熱する構成、またはこれらを組み合わせた構成を採用してもよい。
【0071】
C5.変形例5:
上記第2実施形態において、被加熱部材の加熱中に、複数のトランスバース型コイル部33a〜33fと複数のソレノイド型コイル部35a〜35fとの距離を昇降装置50によって変更する構成としてもよい。具体的には、例えば、被加熱部材の熱容量の異なる部分が均一な温度となるように、複数のトランスバース型コイル部33a〜33fと複数のソレノイド型コイル部35a〜35fとの距離を昇降装置50によって調整する構成とする。この構成によれば、熱容量の異なる部分を有する被加熱部材に温度ムラが生じることをさらに抑制することが可能となる。なお、被加熱部材の加熱を中断して、複数のトランスバース型コイル部33a〜33fと複数のソレノイド型コイル部35a〜35fとの距離を変更する構成としてもよい。
【0072】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0073】
5a〜5f...被加熱部材
6a...底部
7a...円筒部
8a...折り返し部
9...テーブル
10a〜10f...誘導加熱コイル
13a...トランスバース型コイル部
15a...ソレノイド型コイル部
20a〜20g...ブスバー
21a...銅板
21b...銅板
30a〜30f...誘導加熱コイル
33a〜33f...トランスバース型コイル部
35a〜35f...ソレノイド型コイル部
40a〜40g...ブスバー
43...リッツ線
50...昇降装置
52...アーム部
54...支持板
56...アーム部
57...アーム部
58...支持板
59...支持板
60...高周波電力供給装置
70...放射温度計
90...冷却水循環装置
100...塗装乾燥装置
100b...塗装乾燥装置
図1
図2
図3
図4
図5