(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機酸は、用意する前記水溶液に前記金属イオンの濃度の2倍以上5倍以下の濃度で含まれる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子分散液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の金属ナノ粒子分散液の製造方法について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(水溶液の調製条件や液中プラズマの発生条件等)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(液中プラズマの発生装置の構成等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解し、実施することができる。また、本明細書において数値範囲を示す「A〜B」との表記は、A以上B以下を意味する。
【0016】
[金属ナノ粒子分散液の製造方法]
ここに開示される金属ナノ粒子分散液の製造方法は、以下の工程を含む。このことにより、目的の金属ナノ粒子が水溶液を分散媒として分散されている金属ナノ粒子分散液を得ることができる。以下、各工程について説明する。
(1)金属イオンと、還元剤と、保護剤と、を含む水溶液を用意する。
(2)水溶液中でプラズマを発生させることで金属イオンを還元し、水溶液中に金属イオンを構成する金属からなる金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散液を製造する。
【0017】
1.水溶液の用意
まず、金属ナノ粒子の原料となる金属イオン(金属源)を含む水溶液(以下、単に「原料水溶液」とも言う。)を調製する。ここで、金属ナノ粒子を構成する金属としては特に制限されず、所望の組成の金属ナノ粒子を構成する各種の金属を考慮することができる。具体的には、金属としては、例えば、元素周期表の第1族〜第14族に属する元素からなる金属の単体、あるいは、これらの2種以上の元素からなる合金等を考慮することができる。特に好ましい態様としては、貴金属元素の単体もしくは貴金属元素と合金を形成する卑金属元素が挙げられる。ここで合金は、貴金属元素同士の合金であってもよいし、貴金属元素と卑金属元素との合金であってもよい。具体的には、例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)およびオスミウム(Os)等の貴金属元素と、カリウム(K)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、タングステン(W)などの卑金属元素が例示される。これらは金属ナノ粒子として有用であるばかりでなく、ソリューションプラズマ法により還元されやすくナノ粒子を形成しやすいという点においても好ましい。
【0018】
原料水溶液は、例えば、水、塩基性又はアルカリ性水溶液に溶解性を示す当該金属の化合物を当該水や水溶液に溶解させる等して用意することができる。かかる金属の化合物については特に制限されず、酸化物、フッ化物、塩化物,臭化物等のハロゲン化物、硝酸塩、酢酸塩、アルコキシド、ギ酸塩、硫酸塩等が例示される。より具体的には、例えば、金属成分が金(Au)である金化合物としては、酸化金(III)、塩化金(I)、八塩化四金、塩化金(III)、臭化金(III)、フッ化金(III)、フッ化金(V)、水酸化金(I)、水酸化金(III)およびこれらの水和物等が挙げられる。これらの例からもわかるように、金属イオンは、Au
3+等の単純な水和イオンとして水溶液中に存在していてもよいが、より安定な錯体の形態で含まれていてもよい。このような錯体としては、例えば、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体などを考慮することができる。例えば、金については、代表的には、テトラヒドロキシ金(III)酸イオン:[Au(OH)
2]
−や、シアン化金(III)イオン:[Au(CN)
2]
−、テトラクロリド金(III)酸イオン:[AuCl
4]
−等が例示される。
【0019】
この金属イオンは、プラズマを照射する前の原料水溶液中に、プラズマ照射によって形成される金属ナノ粒子が凝集しない程度の濃度で含まれることが好ましい。ここで本技術においては、後述する還元剤として、2種類の還元剤を併用している。このことにより、従来のソリューションプラズマ法における原料水溶液の濃度(例えば、0.01mM〜2mM程度、典型的には0.08mM〜0.3mM程度)と比較して、格段に高濃度である10mM以上の濃度の原料水溶液を用いることができる。
【0020】
原料水溶液に含まれる金属イオンの濃度は、液中でのプラズマの発生形態などにもよるため厳密に規定されるものではないが、例えば、10mM以上(10mM超過)の濃度を目安として設定することができる。もちろん、原料水溶液の濃度は10mM未満(例えば、2mM超過10mM未満)とすることも可能である。しかしながら、この場合は、本発明の利点が明瞭に発揮できないという点において好ましくない。原料水溶液の濃度は、12mM以上が好ましく、15mM以上がより好ましく、例えば20mM程度とすることができる。原料水溶液の濃度の上限は、例えば100mM程度を目安とすることができる。100mMよりも高濃度とすると、生成した金属ナノ粒子が周辺環境等の影響により凝集しやすくなるために好ましくない。原料水溶液の濃度は、例えば、90mM以下がより好ましい。
【0021】
なお、原料水溶液中には、上記のいずれか1種の金属イオンが単独で含まれていてもよいし、2種以上の金属イオンが組み合わされて含まれていてもよい。2種以上の金属イオンを含む場合、原料水溶液の濃度は、これら全ての金属イオンについての合計の濃度を意味する。また、金属合金からなるナノ粒子の製造を行う場合、原料水溶液中には、目的の合金を構成する金属イオンを、目的の合金組成に応じた化学量論比で含むように調製すればよい。なお、本明細書において、合金とは、2種以上の元素を含む金属的性質を示す材料の全般を包含する。合金における各元素の混じり方は、固溶体、化合物、およびこれらの混合のいずれであってもよい。
【0022】
また、上記水溶液は還元剤を含む。還元剤は、金属イオンを還元して金属ナノ粒子を形成するために機能する。本技術においては、還元剤として、低級アルコールと有機酸とを併用するようにしている。
【0023】
低級アルコールは、一般的な化学反応においても還元剤として使用し得る化合物である。しかしながら、ソリューションプラズマ法において水溶液中に低級アルコールを存在させることで、水溶液の絶縁破壊電圧を高めることができ、後述のソリューションプラズマ中に還元に作用するラジカル種をより多量に発生させることができるという特別な作用効果を奏する。
【0024】
なお、本発明において、「低級アルコール」とは、炭素原子数が1〜5の、直鎖または分岐鎖を有する、飽和または不飽和のアルコールである。
低級アルコールとしては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール(n−プロピルアルコール)、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、1−ブタノール(n−ブチルアルコール)、2−ブタノール(sec−ブチルアルコール)、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール(2−メチルプロピルアルコール)、1−ペンタノール(n−ペンチルアルコール)、2−ペンタノール(sec−アミルアルコール)、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール(イソアミルアルコール)、2−メチル−2−ブタノール(tert−アミルアルコール)、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール(ネオペンチルアルコール)等の一価のアルコールや、エチレングリコール、プロピレングリコール等の2価のアルコール、グリセリン等の多価アルコールが例示される。なかでも、本発明における低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノールおよびi−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノールおよびsec−ブタノール、および各種ペンタノール等の一価の飽和アルコールであるのが好ましく、さらに直鎖の飽和アルコールであるのがより好ましい。これらは1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、取り扱い性等を考慮すると、低級アルコールはいずれか1種を用いることが好ましい。また、炭素原子数が多すぎる場合は、分子量や分子径が大きくなりすぎるため、ソリューションプラズマ中に発生するラジカルの状態、特に後述の水素ラジカルの発生およびその作用等を妨げるおそれがあるために好ましくない。
【0025】
低級アルコールは、水溶液中にごくわずかでも存在することで、上記のソリューションプラズマに含まれる還元性ラジカルの量を増やすことができ、還元反応を促進させることができる。すなわち、より速い反応速度で金属ナノ粒子を製造することが可能となる。ここで、低級アルコールの濃度は、水溶液全体の5体積%以上であると、例えば還元性の水素ラジカルの量が著しく増大されるために好ましい。低級アルコールの濃度は、10体積%以上が好ましく、20体積%以上がより好ましい。しかしながら、水素ラジカルの量は、低級アルコールの濃度が20〜25体積%付近で極大となり、それ以上の範囲では減少傾向がみられる。したがって、低級アルコールの濃度は、例えば50体積%以下を目安に調整するのが好ましく、40体積%以下がより好ましく、30体積%以下がより適当であり、例えば25体積%以下が適切である。
【0026】
また、有機酸も、一般的な化学反応において還元剤として使用し得る化合物である。ソリューションプラズマ法において水溶液中に有機酸を存在させることで、還元速度を速めることができ、後述のソリューションプラズマにおいて、粒子径が小さく揃った金属ナノ粒子を好適に発生させることができるという特別な作用効果が奏される。
【0027】
有機酸としては、水溶液中で還元性を示し得る各種の有機酸およびその塩を含むことができる。例えば、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸、シュウ酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、グリコール酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、炭酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、グルタミン酸、タンニン酸、スルファミン酸、安息香酸、サリチル酸等の有機酸や、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム等の有機酸塩が例示される。厳密な制限はないが、有機酸は低級脂肪酸であることが好ましく、例えば、炭素数は10以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましく、8以下や7以下、例えば6程度であることが好ましい。本技術において、有機酸としては、分子構造内にカルボキシ基と水酸基とを併せ持つオキシ酸およびその塩であることがより好ましい。オキシ酸としては、例えば、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。特に、本発明における有機酸としては、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム等のクエン酸ナトリウムが好ましく、特にクエン酸三ナトリウムであるのがより好ましい。これらは1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、取り扱い性等を考慮すると、有機酸はいずれか1種を用いることが好ましい。
【0028】
有機酸は、水溶液中にごくわずかでも存在することで、上記のソリューションプラズマにおける金属イオンの還元速度を高めることができる。ここで、有機酸の濃度は、その還元力によっても異なるために一概には言えない。有機酸の濃度は、典型的には、水溶液中に含まれる金属イオンのモル濃度の1倍以上であることが好ましく、2倍以上がより好ましく、3倍以上が特に好ましい。しかしながら、過剰な有機酸の存在は金属イオンの還元反応を却って不安定にさせ得るために好ましくない。したがって有機酸のモル濃度は、水溶液中に含まれる金属イオンの濃度の20倍以下であることが好ましく、15倍以下がより好ましく、10倍以下が特に好ましい。
【0029】
さらに、上記水溶液は保護剤を含む。保護剤は、水溶液中の金属ナノ粒子の表面を保護し、金属ナノ粒子が凝集することを抑制して、金属ナノ粒子の水溶液中で安定な分散状態を維持する機能を有する。
保護剤としては、従来より金属ナノ粒子の製造に際して用いられる各種の保護剤の1種または2種以上を特に制限無く用いることができる。このような保護剤としては、例えば、水に分散または溶解可能な高分子類、糖類、樹状高分子化合物、チオール化合物、金属配位性化合物および界面活性剤等が例示される。より具体的には、例えば、ゼラチン,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,ポリエチレングリコール,アラビアゴム,高分子シクロデキストリンおよびアクリロニトリル等に代表される高分子類、オリゴ糖,環状オリゴ糖等に代表される糖類、デンドリマー類等に代表される樹状高分子化合物、メルカプト酢酸やメルカプトプロピオン酸等のメルカプトカルボン酸,メルカプトアルキルアミン類,アルキルチオール,ハロゲン化チオコリン,チオフェノール,ベンゼンチオール等に代表されるチオール化合物、イソシアニド類,ニトリル類,アミン類,タウリン等に代表される金属配位性化合物、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB),ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB),オクチルトリメチルアンモニウムブロミド(OTAB)等の第4級アンモニウム塩型や、α−スルホ脂肪酸エステルナトリウム等のベンザルコニウム塩,アルキルアミンオキシド等のアルキルアミン塩型等のカチオン性界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS),α−スルホ脂肪酸エステルナトリウム塩などのアニオン性界面活性剤、N,N−ジメチルドデシルアミン=N=オキシド等に代表される両性イオン界面活性剤、エーロゾルOT等に代表される非イオン性界面活性剤等の界面活性剤類が挙げられる。中でも、金属ナノ粒子の保護剤として汎用されているポリビニルピロリドン(PVP)の使用が簡便で好ましい。
【0030】
保護剤は、原料水溶液中に高濃度に形成される金属ナノ粒子を保護し、分散性を維持することが求められる。したがって、保護剤の重量平均分子量(Mw)はある程度大きいことが好ましい。保護剤が例えばPVPである場合、そのMwは、例えば、5000以上が好ましく、1万以上がより好ましく、2万以上が特に好ましい。例えば、PVPのMwは2.5万以上とすることができる。しかしながら、保護剤の分子構造が過剰に大きくなると、金属イオンの還元効率を低下させたり、立体障害が生じたりし得るために好ましくない。かかる観点から、PVPのMwは、おおよそ5万以下程度とすることが好適である。
【0031】
また保護剤の濃度は、形成された金属ナノ粒子が凝集しない程度の濃度であればよい。なお、本発明者らの検討によると、保護剤が重合体(ポリマー)である場合、この重合体はソリューションプラズマによる反応場では、ある程度分解された状態でも保護剤として機能していると考えられる。そしてまた、保護剤がPVPである場合、その濃度は構成単位であるビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドン;VP)を基本単位としたモノマー換算濃度で評価して差し支えないことを確認している。したがって、例えば保護剤が上記のPVPである場合、原料水溶液中のPVPのモル濃度は、例えば、構成単位であるビニルピロリドン(111.14g/mol)に換算した濃度(単量体濃度)として、原料水溶液に含まれる金属イオンのモル濃度に対して、0.5倍以上であることが好ましく、1倍以上であることがより好ましく、例えば1.2倍以上とすることができる。しかしながら、保護剤のモル濃度が過剰に高くなることも、金属イオンの還元効率を低下させ得るために好ましくない。かかる観点から、PVPのモル濃度は、金属イオン濃度のおおよそ20倍以下程度、例えば10倍以下程度とすることが好適である。
【0032】
なお、原料水溶液中でソリューションプラズマを安定して発生させるために、原料水溶液の電気伝導度はおおよそ300μS・cm
−1以上であることが好ましい。電気伝導度が300μS・cm
−1未満であると、ソリューションプラズマの発生に多くの電力を要し、好適にソリューションプラズマを発生し難くなるために好ましくない。原料水溶液の電気伝導度は、好ましくは500μS・cm
−1以上、より好ましくは1000μS・cm
−1以上である。その一方で、電気伝導度が2500μS・cm
−1を超過する場合は、プラズマ発生のために電極間に投入した電力がイオン電流として消費されてしまい、定常的にプラズマを発生させるのが困難となるために好ましくない。かかる観点から、原料水溶液の電気伝導度は、好ましくは2500μS・cm
−1以下、より好ましくは2300μS・cm
−1以下、さらに好ましくは2000μS・cm
−1以下である。上記有機酸還元剤として塩基性塩を用いる場合、原料水溶液の電気伝導度は概ね上記範囲に収まることが多い。しかしながら、原料水溶液の電気伝導度が万一、上記範囲に満たない場合は、例えば、塩化カリウム(KCl)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等の電解質を原料水溶液に加えるようにしてもよい。
【0033】
2.ソリューションプラズマによる金属イオンの還元
そして本技術では、以上のように金属イオンと還元剤と保護剤とを含む原料水溶液を用意し、該水溶液中でプラズマを発生させる。換言すると、本技術においては、金属イオンの還元の場として、該水溶液中で発生させるプラズマ反応場を利用するようにしている。水溶液中で発生させるプラズマ(ソリューションプラズマ)では、プラズマを構成する正負のイオン、電子およびラジカル等の活性種の作用によって、原料水溶液中に含まれる金属イオンの還元と、これに伴うゼロ価の金属からなるナノ粒子の形成とが実現される。ここで活性種としては、典型的には、水溶液中の水分子が分解されて生成する水素イオン、水酸化物イオン、酸素イオン、水素ラジカル、酸素ラジカルおよびヒドロキシラジカル等が考慮できる。そして本技術においては、これらの活性種に加え、水溶液に添加された還元剤やその誘導体が還元性ラジカル等として機能し得る。
【0034】
ここで、原料水溶液中で発生させるプラズマの態様は特に制限されない。好適には、以下に説明する態様のソリューションプラズマであることが好ましい。
すなわち、ソリューションプラズマは、原料水溶液中に電極を設置し、この電極間にマイクロ波や高周波を印加することで原料水溶液を高電界に晒し、原料水溶液を構成する物質を気化、電離させることで、発生させることができる。ソリューションプラズマの好ましい一態様では、電圧の印加によって発生した気相中に、当該気体を構成する分子を部分的ないしは完全に電離させることができる。このようなソリューションプラズマにおいては、プラズマ相を気相が取り囲み、気相をさらに液相が取り囲む。このような構成によって、プラズマを構成する上記のプラズマ活性種は制限された気相中で自由にかつ高濃度で運動し得る。そのため、解放された気相中に発生される気相プラズマ(典型的には、大気圧プラズマ、低圧プラズマ等)とは異なる物理的および化学的性質を示す。
【0035】
例えば、気相プラズマは、気体の温度を上げて行った際にこの気体を構成する中性分子が電離してプラズマ化することで発生する。このとき、固体・液体・気体間の相転移とは異なって気体からプラズマへの転移は徐々に起こるため、構成分子のごく一部が電離した電離度が非常に低い状態のプラズマとなり得る。これに対しソリューションプラズマは、典型的には、まず水溶液中での電圧の印加により当該液体がジュール加熱されて気相を形成し、さらにこの気相においてプラズマが発生することで形成される。すなわち、液ソリューションプラズマは、プラズマという高エネルギー状態が液中(すなわち凝縮相)に閉じ込められており、閉鎖系の物理が実現するとともに、解放されない高密度なプラズマ反応場が形成される。
【0036】
また、金属ナノ粒子のプレカーサーともいえる金属イオンは、ソリューションプラズマにおいては液相を介して供給される。すなわち、本技術では、金属イオンは限定された反応場に高密度で(高濃度で)効率的に供給される。したがって、本発明の製造方法においては、金属イオンの還元を高効率で行うことができ、金属ナノ粒子分散液を生産性良く製造することができる。
【0037】
なお、以上のようなソリューションプラズマは、電極間にかかる電位差の違い等によって、雷のような火花放電、コロナ放電、グロー放電、アーク放電等であり得る。火花放電が継続的に流れるとグロー放電あるいはアーク放電となる。ここで、液中で発生されるグロー放電プラズマは、その他のプラズマに対してさらに異なる特徴を有している。例えば、アーク放電プラズマは粒子密度が高く、イオンや中性粒子の温度が電子温度とほぼ等しい局所熱平衡状態にある熱プラズマである。これに対し、グロー放電プラズマは、電子温度は高いがイオンや中性粒子の温度が低い非平衡状態にある低温プラズマである。また、コロナ放電では連続的なプラズマの発生は難しいことに加え、水の分解により水素ラジカルと共に酸化性のヒドロキシラジカルが比較的多く形成されるという特徴があるのに対し、グロー放電プラズマではプラズマの持つエネルギーが高く、酸化性のヒドロキシラジカルがさらに分解されて還元性の水素ラジカルが多く生成される。すなわち、グロー放電プラズマによると、金属イオンの還元がより一層効率的に行われることとなる。このことから、本技術におけるソリューションプラズマは、グロー放電プラズマであることが好ましい。
【0038】
かかるグロー放電プラズマは、サブマイクロ秒のパルス幅の直流電圧を、高い繰り返し周波数で印加することにより、比較的安定して発生させることができる。そのため、プラズマ相を囲む液体の膨張・圧縮運動とプラズマ相とは連動し、安定なプラズマ発生状態を長時間(例えば、2時間以上)に亘って維持することができる。そのため、例えば、ソリューションプラズマにおいては、電極間に発生される気相はその一部が浮力により電極間から浮上して液表面に到達することがあり得るものの、その大部分は電極間に一定の大きさの気相として定常的に維持される。つまり、ソリューションプラズマにおいてはプラズマの発生状態を定常的にコントロールすることができる。本技術による金属ナノ粒子分散液の製造方法では、このような制御されたプラズマを利用することを好ましい形態としている。発生したプラズマがグロー放電プラズマであるかどうかは、例えば、プラズマ発光分光分析等により求められるタウンゼント第2係数が0.0005〜0.005の範囲にあることで確認することができる。
【0039】
なお、上記のとおり、ソリューションプラズマによると、金属イオンは活性種によって還元される。したがって、例えば熱還元法等とは異なり、還元のために原料水溶液を加熱する必要はない。その結果、本技術によると、金属イオンの還元および金属ナノ粒子の製造を低温で進行させることができる。ここで低温とは、例えば、90℃未満であって、より適切には80℃以下、例えば70℃以下、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、例えば40℃以下とすることができ、典型的には30℃以下、例えば室温(25℃)程度以下であってよい。このように低温環境で金属ナノ粒子を製造すると、ナノ粒子の粗大化が抑制されて、粒子径にバラつきの少ない単分散な金属ナノ粒子を製造することができる。なお、当然のことながら、本技術の実施温度は必ずしも上記温度範囲に限定されるものではない。
【0040】
以下、好適な一実施態様を例に、ソリューションプラズマの発生条件について説明する。
図1は、原料水溶液2中でソリューションプラズマPを発生させるためのソリューションプラズマ発生装置1の構成を説明する模式図である。ソリューションプラズマ発生装置1は、容器10と、一対の電極4と、外部電源12とを備えている。一対の電極4は、容器10に保持され、容器10内にて所定の間隔を以て対向するように配置されている。電極4には、外部電源12が接続されている。容器10内には、撹拌手段8が設けられている。
【0041】
容器10は、例えばガラス製のビーカーであってよい。撹拌手段8は、特に制限されず、例えばマグネチックスターラーであってよい。
電極4の形状は特に制限されず、例えば、平板電極や棒状電極、およびこれらの組み合わせ等であってよい。
図1では、電界を局所的に集中させ易いとの観点からは、線状(ワイヤ状、針状)電極を採用している。電極4の材質についても特に制限されず、例えば、鉄(Fe)、金(Au)、タングステン(W)、白金(Pt)等により構成するとよい。また電極4は、電界集中を妨げる余分な電流を抑えるために、先端部(例えば、0.1〜2mm程度)のみを露出させ、残りの部分を絶縁部材6等で覆って絶縁している。絶縁部材6は、例えばゴムまたは樹脂(例えば、フッ素樹脂)により構成するとよい。
外部電源12は、直流パルス電圧を発生することが可能な直流パルス電源であるとよい。
【0042】
金属ナノ粒子を製造するに際しては、原料水溶液2を容器10に収容する。容器10に収容された原料水溶液2は、撹拌手段8によって均一に撹拌される。電極4は、原料水溶液2の中で対向している。そしてこの電極4間に、外部電源12から所定の条件の直流パルス電圧を印加する。直流パルス電圧の印加条件は、原料水溶液2中に含まれる原料化合物の種類やその濃度、さらには装置1の構成条件等にもよるものの、例えば、パルス周波数は、凡そ1kHz以上が好ましく、10kHz以上がより好ましく、また、凡そ300kHz以下が適切であり、200kHz以下が好ましく、150kHz以下がより好ましい。パルス幅については、凡そ0.1μs以上が好ましく、1μs以上がより好ましく、また、凡そ10μs以下が好ましく、5μs以下がより好ましい。パルス電圧については、凡そ500V以上が好ましく、1000V以上がより好ましく、また、5000V以下が好ましく、2000V以下がより好ましい。
【0043】
これにより、原料水溶液2中で電極4間にソリューションプラズマPを発生させることができる。一般的には、原料水溶液2(液相)中で、電極4のジュール熱によって電極4間に気相が形成され、その中にソリューションプラズマ(プラズマ相)Pが形成される。このプラズマ反応場は、上記条件の直流パルス電圧によると、電極4間に定常的に維持される。かかるプラズマ反応場では、液相からプラズマ相に向かって、水、金属イオン、還元剤および保護剤が供給される。また、プラズマ相から液相に向かって、高いエネルギーを有した電子、イオン、ラジカル等の活性種が供給される。そしてこれらは、主として液相と気相との界面において接触(衝突)する。とりわけ、水から発生する水素ラジカル,水素イオン,ヒドロキシラジカル等の活性種は反応性が高く、特に水素ラジカルが液相中に含まれる金属イオンと接触することで、かかる金属イオンを好適に還元する作用を示す。このことにより、金属イオンは還元されて、液相中に金属ナノ粒子が形成される
【0044】
ここで、本技術では、還元剤として、ソリューションプラズマによる非平衡な反応場の形成において異なる作用を示す2通りの還元剤を併用するようにしている。このことにより、ソリューションプラズマによる反応場に還元性ラジカルを高濃度に発生させ、金属ナノ粒子の核を高濃度に形成することができる。またこれと同時に、金属イオンをその場で迅速に還元させることができ、形成された金属ナノ粒子に凝集のための時間を与えるのを抑制することができる。その結果、高濃度に形成される金属ナノ粒子は、凝集することなく、保護剤によってその表面が保護される。これにより、ソリューションプラズマ法において高濃度の原料水溶液を用いた場合であっても、形成された金属ナノ粒子の凝集を抑制して、金属ナノ粒子分散液を製造することができる。
【0045】
金属ナノ粒子の生成は、ソリューションプラズマの発生直後から始まり、液相中に金属源が無くなるまで続けられる。このことは、概ね無色透明であった原料水溶液が、プラズマの発生と共に、赤茶色ないしは褐色に変色してゆくことによって確認することができる。ナノ粒子は環境温度に依存することなく、例えば、極めて低温領域や、室温領域においても生成される。このことから、具体的には図示しないが、ソリューションプラズマ発生装置1は、原料水溶液2の温度上昇を抑制するために、容器10内を例えば0℃〜25℃(例えば0℃〜20℃)の温度範囲で任意の温度に調節可能な冷却装置を備えていてもよい。また、容器10は、より多量の原料水溶液2をソリューションプラズマPに接触させるために、循環経路と、循環経路に原料水溶液2を送る循環機構とを備えていてもよい。かかる循環機構は、原料水溶液2の供給口と回収口とを備えており、連続的に金属ナノ粒子分散液を製造できるようにしてもよい。また、ソリューションプラズマ発生装置1は、原料水溶液2とソリューションプラズマPとの接触頻度(すなわち金属ナノ粒子の製造効率)を高めるために、電極4の対を2対以上備えていてもよい。
【0046】
[金属ナノ粒子分散液]
本技術によると、水溶液中に、高濃度、かつ、分散した状態で、金属ナノ粒子を製造することができる。換言すると、水溶液中に金属ナノ粒子を分散状態で高濃度に含む、金属ナノ粒子分散液を得ることができる。かかる金属ナノ粒子分散液中の金属ナノ粒子の濃度は、原料水溶液に仕込まれる金属イオンの濃度に拠るが、例えば、金属ナノ粒子を構成する金属元素換算の濃度として、10mM以上程度、例えば10mM超過程度であって、100mM以下程度、例えば80mM以下程度とすることができる。
【0047】
なお、本明細書において「金属ナノ粒子を構成する金属元素換算の濃度」とは、金属ナノ粒子を構成する各金属元素のモル濃度の総和をいう。一例として、AuAg合金ナノ粒子について説明すると、金(Au)元素のモル濃度M
1と、銀(Ag)元素のモル濃度M
2と、の合計(M
1+M
2)のモル濃度である。
【0048】
また、分散液中の金属ナノ粒子の粒子径は極めて微細なものとして得ることができ、例えば、個数基準の最大頻度粒子径として20nm以下であり、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは5nm以下であり、例えば3nm以下であり得る。最大頻度粒子径の下限は特に制限されず、例えば0.5nm程度であり得る。なお、金属ナノ粒子のZ平均粒子径は通常1nm程度以上となり、典型的には10nm以上であり、例えば15nm程度以上であり得る。また、金属ナノ粒子のZ平均粒子径は、通常300nm程度以下となり、典型的には100nm以下であり、例えば60nm程度以下であり得る。また、金属ナノ粒子の多分散性指数(Polydispersity Index:PDI)は、0.6以下となり得る。PDIがこのような値であることで、金属ナノ粒子の粒度分布はシャープであり、粒度の揃った金属ナノ粒子であると評価できる。金属ナノ粒子のPDIは、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下、例えば0.3以下であり得る。
【0049】
なお、本明細書において「最大頻度粒子径」は、動的光散乱(Dynamic light scattering:DLS)法に基づき検出される散乱光の強度の時間的変化(ゆらぎ)から光子相関法により自己相関関数を求め、これをヒストグラム法で解析して得られる粒子径分布における最大頻度粒子径である。本技術では、高濃度の金属ナノ粒子分散液が得られるため、かかるDLS法に基づく測定は、金属ナノ粒子分散液を、そこに含まれる金属ナノ粒子の構成金属元素で換算したモル濃度が約0.2mMとなるように精製水で希釈してから測定した値を採用している。
【0050】
また、「Z平均粒子径」は、上記DLS法において光子相関法で求めた自己相関関数を、キュムラント法で解析したときに得られる平均粒子径(散乱強度加重高調波平均粒径ともいう。)である。
そして「PDI」は、上記DLS法において光子相関法で求めた自己相関関数をキュムラント法で解析して得られる粒子径分布についての分散度を示す指標である。PDIは0から1までの範囲の値をとり、PDIが「0」であるときに全ての粒子の径が同一(単分散)であることを示し、PDIが「1」に近づくほど粒度分布がブロードになり多分散性が強くなることを意味する。
【0051】
また、微細で単分散な金属ナノ粒子を含む分散液は、表面プラズモン共鳴(Surface plasmon resonance:SPR)現象によって、特定の波長の光を吸収することが知られている。またその結果として、吸収波長に対応した補色に呈色することが知られている。本技術では、例えば、ナノ粒子を構成する金属が「金」である、金ナノ粒子分散液を好ましく製造することができる。金ナノ粒子は、可視光の緑領域(500〜600nm)に強い吸収帯を生じ、その補色である赤色を呈することが知られている。この極大吸収波長は、金属ナノ粒子の組成(自由電子状態)や粒子径、形状等によって変化することが知られている。本技術によると、例えば、測定波長領域を380〜780nmとする紫外可視分光法による吸収スペクトル(UV−visスペクトル)において、例えば、523〜525nmといった限られた範囲に極大吸収波長を1つ備える金ナノ粒子分散液を製造することができる。
【0052】
換言すると、このような金属ナノ粒子分散液は、上記のとおり、DLS法による最大頻度粒子径が例えば0.5〜3nm程度と微細であり、PDIが0.6以下(例えば0.2〜0.4)と粒度が揃った、球形の金ナノ粒子を含む分散液であると評価することができる。本技術によると、上記の色調を呈する金ナノ粒子分散液を高濃度で得ることができる。このことによって、例えば、より少量で鮮やかな赤色を発色し、色ムラの少ない緻密な彩色を施すことが可能な色材としての金ナノ粒子分散液が提供される。
【0053】
本明細書において「極大吸収波長」とは、吸光光度計を用い、金属ナノ粒子分散液について測定波長領域を380〜780nmとするUV−vis吸収スペクトルを測定したときに、吸光度が極大となる吸収波長をいう。本技術では、得られる分散液における金属ナノ粒子の濃度が高いことから、極大吸収波長の測定は、分散液に含まれる金属ナノ粒子の濃度が約0.2mMとなるように、当該分散液を精製水で希釈してから測定した値を採用している。
【0054】
以下、本発明に関する幾つかの試験例を説明するが、本発明をこれらの試験例に限定することを意図したものではない。
【0055】
(例1)
金属源として塩化金(III)四水和物(HAuCl
4・4H
2O)を、有機酸系還元剤としてクエン酸三ナトリウムを、保護剤としてMwが2.9万のPVPを用意した。また、低級アルコール系還元剤としてのエタノールを含む22.5%エタノール水溶液を用意した。そして、下記の表1に示すように、HAuCl
4の濃度が10mM、クエン酸三ナトリウムの濃度が38mM、PVPの濃度が13mMとなるように、これらの材料をエタノール水溶液に添加して混合することで、例1の反応溶液を用意した。この反応溶液のpHは6であった。なお、PVPの濃度は、上記の通り、ビニルピロリドンに換算したときの濃度である。
【0056】
(例2)
HAuCl
4の濃度が20mM、クエン酸三ナトリウムの濃度が75mM、PVPの濃度が25mMとなるように、これらの材料をエタノール水溶液に添加して混合し、後は例1と同様にして、例2の反応溶液を用意した。なお、例2において、金属源、還元剤(クエン酸三ナトリウム)および保護剤の各濃度は例1の約2倍であり、各材料の配合比は例1と同じである。
(例3)
エタノール水溶液の濃度を32.5%と高くしたこと以外は、例2と同様にして、例3の反応溶液を用意した。
【0057】
(例4)
保護剤としてのPVPの濃度を160mMと高くしたこと以外は、例2と同様にして、例4の反応溶液を用意した。
(例5)
HAuCl
4の濃度が50mM、クエン酸三ナトリウムの濃度が175mM、PVPの濃度が63mMとなるように、これらの材料をエタノール水溶液に添加して混合し、後は例1と同様にして、例5の反応溶液を用意した。
【0058】
(例6)
還元剤として、クエン酸三ナトリウムに代えて、クエン酸を用いたこと以外は、例2と同様にして、例6の反応溶液を用意した。なお、この反応溶液はクエン酸三ナトリウムを含まないために酸性となることから、水酸化ナトリウム水溶液を加えることで、pHを6に調整した。
【0059】
(例7)
還元剤として、クエン酸三ナトリウムに代えて、アスコルビン酸を用いた。そして、HAuCl
4の濃度が10mM、アスコルビン酸の濃度が90mM、PVPの濃度が20mMとなるように、これらの材料をエタノール水溶液に添加して混合し、後は例1と同様にして、例7の反応溶液を用意した。なお、この反応溶液はクエン酸三ナトリウムを含まないために酸性となることから、水酸化ナトリウム水溶液を加えることで、pHを11に調整した。
【0060】
(例8)
HAuCl
4の濃度が20mM、保護剤としてのPVPの濃度が80mMとなるように、これら材料を水に添加して混合し、例8の反応溶液を用意した。なお、例8の反応溶液には、還元剤としてのエタノールおよびクエン酸三ナトリウムは含まれていない。また、この反応溶液はクエン酸三ナトリウムを含まないために酸性となるため、水酸化ナトリウム水溶液を加えることで、pHを6に調整した。
【0061】
(例9)
HAuCl
4の濃度が20mM、PVPの濃度が25mMとなるように、これらの材料を還元剤としてエタノールを22.5%含むエタノール水溶液に添加して混合し、後は例1と同様にして、例9の反応溶液を用意した。なお、例9の反応溶液には、還元剤としてのクエン酸三ナトリウムが含まれておらず酸性となるため、水酸化ナトリウム水溶液を加えることで、pHを6に調整した。
【0062】
(例10)
HAuCl
4の濃度が20mM、クエン酸三ナトリウムの濃度が75mM、PVPの濃度が80mMとなるように、これら材料を水に添加して混合し、例10の反応溶液を用意した。なお、例10の反応溶液には、還元剤としてのエタノールは含まれていない。
【0063】
(例11)
HAuCl
4の濃度が20mM、クエン酸三ナトリウムの濃度が150mM、PVPの濃度が80mMとなるように、これら材料を水に添加して混合し、例11の反応溶液を用意した。なお、例11の反応溶液には、還元剤としてのエタノールは含まれていない。
【0064】
(例12)
HAuCl
4の濃度が20mM、クエン酸三ナトリウムの濃度が75mM、PVPの濃度が160mMとなるように、これら材料を水に添加して混合し、例12の反応溶液を用意した。なお、例12の反応溶液には、還元剤としてのエタノールは含まれていない。
【0065】
(例13)
還元剤として、クエン酸三ナトリウムに代えて、有機化合物の還元に用いられる還元剤として代表的な水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)を用いた。そして、HAuCl
4の濃度が20mM、水素化ホウ素ナトリウムの濃度が10mM、保護剤としてのPVPの濃度が100mMとなるように、これら材料を水に添加して混合し、例13の反応溶液を用意した。なお、例13の反応溶液には、還元剤としてのエタノールおよびクエン酸三ナトリウムは含まれていない。また、この反応溶液はクエン酸三ナトリウムを含まないために酸性となるため、水酸化ナトリウム水溶液を加えることで、pHを6に調整した。
【0066】
(例14)
保護剤としてのPVPの濃度が25mMとなるように、これらの材料を還元剤としてエタノールを22.5%含むエタノール水溶液に添加して混合し、後は例13と同様にして、例14の反応溶液を用意した。なお、例14の反応溶液には、還元剤としてのクエン酸三ナトリウムが含まれておらず酸性となるため、水酸化ナトリウム水溶液を加えることで、pHを6に調整した。
【0067】
次いで、例1〜14の反応溶液中で、
図1に示した装置を用いてソリューションプラズマを発生させた。反応溶液2は、ガラス製のビーカーからなる容器10にそれぞれ約30mLずつ収容し、マグネチックスターラーからなる撹拌装置7により撹拌した。また、反応溶液2中に、プラズマを発生させるための一対の電極4を浸漬させた。電極4には、直径が0.8mmのタングステンワイヤ(ニラコ社製)を用い、電極間距離を0.5mmに設定した。この電極4に外部電源12としてのバイポーラパルス電源((株)栗田製作所製、MPS−R06K02C−WP1F)を接続し、電極間に、パルス周波数:150kHz、パルス幅:1μs、パルス電圧:1000Vの直流パルス電圧を1分間印加した。パルス電圧の印加直後から、黄色透明であった反応溶液が徐々に着色することが確認された。
【0068】
[呈色評価]
ソリューションプラズマを照射した例1〜14の反応溶液を、総金属濃度が約0.2mMとなる程度に希釈し、目視により希釈溶液の呈色を評価した。その結果を表1に示した。
【0069】
[可視・紫外分光分析]
また、ソリューションプラズマを照射した例1〜14の反応溶液について、紫外可視赤外分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製、U−3900H)を用いて吸収スペクトルを測定し、極大吸収波長を調べた。得られた極大吸収波長を表1に示した。
【0070】
[粒度分布測定]
さらに、ソリューションプラズマを照射した例1〜14の反応溶液中のナノ粒子の粒度分布をDLS法に基づき測定した。測定には、粒度分布測定装置(Malvern Instruments社製、ゼータサイザーナノZS)を使用した。散乱光強度の測定結果から個数基準の最大頻度粒径、Z平均粒子径およびPDIを算出し、表1に示した。
【0072】
[評価]
表1に示すように、例1〜7の反応溶液は、鮮やかな赤色に呈色したことが確認できた。これらの反応溶液の吸収スペクトルには、523〜525nmと極めて限定された範囲に一つの極大吸収波長が見られることがわかった。また、DLS法による反応溶液中の粒子の粒度分布解析により、例1〜7の反応溶液中には、個数基準の最大頻度粒径が1〜2nmという極めて微細な粒子が形成されていることが確認された。以上のことから、これらの反応溶液は、523〜525nmの緑色の光を吸収し、緑色の補色である赤色に発色していることがわかった。
【0073】
粒子径が10nm程度以下の金ナノ粒子を含むコロイド溶液は、表面の電子と可視光の相互作用によるプラズモン発色により赤色を呈することが知られている。これらのことから、例1〜7の反応溶液中では、ごく短時間のソリューションプラズマの照射により金(III)イオンが還元されることによって、粒径が1〜2nm程度の金ナノ粒子が形成されたといえる。すなわち、原料水溶液の濃度を10mM以上と高濃度にした場合であっても、ソリューションプラズマ法によってナノ粒子を形成できることが確認できた。また、ソリューションプラズマ法による高濃度のナノ粒子の製造には、従来法で知られているように、クエン酸三ナトリウム、クエン酸、アスコルビン酸等の有機酸や、エタノール等の低級アルコールの還元剤としての使用が有効であることがわかった。
【0074】
例1〜7における粒子のZ平均粒子径は56nm以下(例えば18〜56nm)であり、後述の例8、10〜14等と比較して、相対的に微細な粒子の集合であるといえる。また、PDIも0.53以下(0.24〜0.53)と比較的小さく、金ナノ粒子は顕著に凝集することも無く、粒度分布は概ね好適な分散状態を示すことが確認できた。以上のことから、例1〜7においては、粒径が1nmまたは2nm程度の金ナノ粒子を10、20、50mMの濃度で含む金ナノ粒子分散液が得られたことが確認できた。
【0075】
これに対し、例8の反応溶液は、薄黄色に呈色していた。しかしながら、例8の反応溶液の吸収スペクトルには、極大吸収波長は観測されなかった。つまり、この溶液の黄色は、420nm近傍の紫色の光を吸収してその補色である黄色に発色しているわけではないことがわかった。また、DLS法による粒度分布解析では、例8の反応溶液中に、最大頻度粒子径が63nm、Z平均粒子径が98nm、PDIが0.34と、全体的に極めて粗大な粒子が揃って形成されていることが確認できた。また、ソリューションプラズマの照射後の反応溶液の固形分濃度は低く、粒子は少量しか形成されていないこともわかった。これらのことから、反応溶液の薄黄色の呈色は未反応の塩化金酸によるものであるといえる。また、例8の反応溶液には、保護剤としてのPVPは含まれているが、還元剤としてのエタノールおよびクエン酸三ナトリウムはいずれも含まれていないことから、金(III)イオンは還元直後にうまく保護剤によって保護されることなく、凝集してしまったものと考えられる。また、還元剤としてのエタノールおよびクエン酸三ナトリウムが含まれていないことから、1分間という短時間で金(III)イオンの還元を好適に進行させることができなかったと考えられる。以上のことから、ソリューションプラズマによって高濃度原料溶液中にナノ粒子を形成するためには、保護剤の他に、エタノールおよびクエン酸三ナトリウム等の還元剤が必要であることが確認できた。
【0076】
例9は、保護剤の他に、低級アルコール系還元剤としてのエタノールは含むが、有機酸系還元剤であるクエン酸三ナトリウム等は含まない反応溶液系である。例9の反応溶液中には、最大頻度粒子径が2nm、Z平均粒子径が39nmと、微細なナノ粒子が形成されていることが確認できた。しかしながら、PDIが0.56とやや大きめの値であり、極大吸収波長は544nmと長波長側にシフトしており、これに伴い、溶液の外観は紫色を呈するものであった。このことから、例9の反応溶液中では、粒径の小さなナノ粒子とともに粒径の大きいナノ粒子(凝集粒子)とが混在していることがわかる。したがって、ソリューションプラズマによって高濃度原料溶液中にナノ粒子を形成する場合、たとえ反応用液中に低級アルコールであるエタノールが含まれていても、分散剤の機能を有するクエン酸三ナトリウム等の有機酸による還元剤を含まないと、粒子の粗大化が生じてしまうことがわかった。
【0077】
例10は、保護剤と、有機酸系還元剤としてのクエン酸三ナトリウム等は含むが、低級アルコール系還元剤としてのエタノールを含まない反応溶液系である。例10の反応溶液では、最大頻度粒子径が4nm、Z平均粒子径が93nm、PDIが0.53と、比較的微細なナノ粒子が形成されているものの全体としては粗大な粒子が形成され、かつ凝集していることが確認できた。また、この反応溶液の極大吸収波長は531nmと、例1〜7に比べて長波長側にシフトしており、これに伴い溶液の外観は赤紫色を呈するものであった。このことから、ソリューションプラズマによって高濃度原料溶液中にナノ粒子を形成する場合、たとえ反応用液中に保護剤と有機酸系還元剤としてのクエン酸三ナトリウムが含まれていても、低級アルコール系還元剤としてのエタノールを含まないと、粒子の粗大化が生じてしまうことがわかった。
【0078】
例11は、例10よりも有機酸系還元剤としてのクエン酸三ナトリウムの濃度を2倍に高めて、粒子の粗大化を抑制できないかを検討した例である。例11の反応溶液では、最大頻度粒子径が3nm、Z平均粒子径が89nm、PDIが0.47と、比較的微細なナノ粒子が形成されているものの全体としては粗大な粒子が混じり、凝集も生じていることが確認できた。また、この反応溶液の極大吸収波長は530nmで例10とほぼ同じであり、溶液の外観は赤紫色を呈するものであった。このことから、ソリューションプラズマによって高濃度原料溶液中にナノ粒子を形成する場合、たとえ反応用液中に保護剤と、有機酸系還元剤としてのクエン酸三ナトリウムを十分に含むようにしても、低級アルコール系還元剤としてのエタノールが含まれないと、粒子の粗大化が生じてしまうことがわかった。
【0079】
例12は、例10よりも保護剤としてのPVPの濃度を2倍に高め、形成された粒子の凝集を抑制できないかを検討した例である。例12の反応溶液では、最大頻度粒子径が51nm、Z平均粒子径が112nm、PDIが0.65と、粗大な粒子が混じっていることが確認できた。また、この反応溶液の極大吸収波長は535nmと例10よりもさらに長波長側にシフトし、形成された金ナノ粒子の径がさらに粗大化していることがわかった。しかしながら例12の分散液では、PDIが大きく微細な粒子も含むことから、極大吸収波長の測定が可能であったと考えられる。このことからも、ソリューションプラズマによって高濃度原料溶液中にナノ粒子を形成する場合、反応用液中には、保護剤と、有機酸系および低級アルコール系の2種類の還元剤の存在が必要であることが確認できた。そして高濃度原料溶液を使用するソリューションプラズマ法では、たとえ保護剤の濃度を高めたとしても、形成される金属ナノ粒子の凝集は抑制できないこともわかった。
【0080】
例13、14は、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いた例である。例13では有機酸系還元剤と低級アルコール系還元剤の両方を含まないが、例14では低級アルコール系還元剤を加えている。例13の反応溶液では、最大頻度粒子径が75nm、Z平均粒子径が124nm、PDIが0.61と、全例中で最も粗大な粒子が形成されて、かつ凝集を生じている様子が確認できた。また、例14の反応溶液では、最大頻度粒子径が66nm、Z平均粒子径が94nm、PDIが0.64と、例13よりは若干微細な粒子が形成されているが、全例中で2番目に粗大な粒子が形成されて、かつ凝集を生じている様子が確認できた。以上のことから、従来の有機化学反応で還元剤として汎用されている水素化ホウ素ナトリウムは、ソリューションプラズマ法による金属ナノ粒子の形成には適していないことが確認できた。本願に係るソリューションプラズマ法による金属ナノ粒子の形成は、通常の熱還元法等とは全く異なる反応機構によって実現されていることが確認できた。
【0081】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれ得る。