特許第6899591号(P6899591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899591
(24)【登録日】2021年6月17日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】塗膜転写具
(51)【国際特許分類】
   B43L 19/00 20060101AFI20210628BHJP
【FI】
   B43L19/00 H
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-536037(P2018-536037)
(86)(22)【出願日】2016年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2016085609
(87)【国際公開番号】WO2018037578
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2019年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2016-161586(P2016-161586)
(32)【優先日】2016年8月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000237237
【氏名又は名称】フジコピアン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一也
(72)【発明者】
【氏名】小崎 博史
(72)【発明者】
【氏名】金田 富夫
【審査官】 飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2003/0041977(US,A1)
【文献】 特開2014−061676(JP,A)
【文献】 米国特許第06554045(US,B1)
【文献】 特開平11−020389(JP,A)
【文献】 特開2007−136959(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0037611(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部カセット及び前記外部カセット内に収納された内部カセットを備える塗膜転写具であって、
前記内部カセットは、
基材テープ上に塗膜を設けた転写テープを繰出す繰出部と、
前記転写テープを被転写面に押圧して前記塗膜を転写する転写押圧部と、
塗膜転写後の前記基材テープを巻取る巻取部と、
前記繰出部と前記巻取部を連動回転させる連動回転機構と
を有し、
前記外部カセットは、ボタン及び弾性部材を有し、
前記ボタンを押圧して前記外部カセット内に押し込むことにより、前記内部カセットが移動させられ、それにより前記転写押圧部が前記外部カセットから突出し、前記ボタンの押圧を解除すると、前記弾性部材の作用により前記内部カセットが押し戻され、それにより前記転写押圧部が前記外部カセット内に収納され、前記転写押圧部は、前記ボタンが押圧され続けなければ、前記外部カセットの内部に収納されるように構成されており、
前記塗膜を転写するために前記転写押圧部を前記被転写面に押圧する押圧姿勢において押圧方向を下側とした場合に、前記ボタンは前記塗膜転写具の上側となる面に設けられ、
前記転写押圧部の突出方向を前後方向とし、前記ボタンを前記外部カセット内に最も押し込んだ状態である最押し込み状態における前記転写押圧部の先端を前端とした場合に、前記最押し込み状態における前記ボタンの前記前後方向の中間位置から前記前端までの距離を前記塗膜転写具の前記前後方向の全長で割った値が0.35以下であり、
前記塗膜転写具は、前記最押し込み状態で、前記転写押圧部に作用する前記転写押圧部を前記外部カセット内へ押し戻す外力の前記ボタンへの作用を低減する外力作用低減部
をさらに備え、
前記外力作用低減部は、前記ボタンに設けられた係合部を含み、
前記係合部は、前記ボタンを押圧すると前記内部カセットと係合し、前記ボタンの押圧を解除すると前記弾性部材の作用により前記内部カセットとの係合が解除される、
塗膜転写具。
【請求項2】
外部カセット及び前記外部カセット内に収納された内部カセットを備える塗膜転写具であって、
前記内部カセットは、
基材テープ上に塗膜を設けた転写テープを繰出す繰出部と、
前記転写テープを被転写面に押圧して前記塗膜を転写する転写押圧部と、
塗膜転写後の前記基材テープを巻取る巻取部と、
前記繰出部と前記巻取部を連動回転させる連動回転機構と
を有し、
前記外部カセットは、ボタン及び弾性部材を有し、
前記ボタンを押圧して前記外部カセット内に押し込むことにより、前記転写押圧部が前記外部カセットから突出し、前記ボタンの押圧を解除すると、前記弾性部材の作用により前記転写押圧部が前記外部カセット内に収納され、
前記塗膜を転写するために前記転写押圧部を前記被転写面に押圧する押圧姿勢において押圧方向を下側とした場合に、前記ボタンは前記塗膜転写具の上側となる面に設けられ、
前記転写押圧部の突出方向を前後方向とし、前記ボタンを前記外部カセット内に最も押し込んだ状態である最押し込み状態における前記転写押圧部の先端を前端とした場合に、前記最押し込み状態における前記ボタンの前記前後方向の中間位置から前記前端までの距離を前記塗膜転写具の前記前後方向の全長で割った値が0.35以下であり、
前記塗膜転写具は、前記最押し込み状態で、前記転写押圧部に作用する前記転写押圧部を前記外部カセット内へ押し戻す外力の前記ボタンへの作用を低減する外力作用低減部
をさらに備え、
前記外力作用低減部は、前記ボタンに設けられた係合部を含み、
前記係合部は、前記ボタンを押圧すると前記内部カセットと係合し、前記ボタンの押圧を解除すると前記弾性部材の作用により前記内部カセットとの係合が解除され、
前記ボタンを押圧すると、前記内部カセットに設けられた移動軸が前記ボタンに設けられた長穴内を移動し、又は前記ボタンに設けられた移動軸が前記内部カセットに設けられた長穴内を移動することによって、前記内部カセットが前記外部カセット内を移動して、前記転写押圧部が前記外部カセットから突出する、塗膜転写具。
【請求項3】
前記外力作用低減部は、前記移動軸と係合する軸保持部をさらに含み、
前記軸保持部は、前記最押し込み状態において、前記転写押圧部を前記外部カセット内へ押し戻す外力によって前記移動軸と係合する方向に前記長穴から延設された切り欠き部を含む、請求項2に記載の塗膜転写具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、文字修正用塗膜、接着用の粘着剤塗膜、装飾用塗膜等を被転写面に押圧転写するための塗膜転写具に関し、特に、塗膜転写具を使用したことがなく、使い方がよくわからない使用者でも、塗膜を転写するために最適な塗膜転写具の持ち方をすることができる塗膜転写具に関する。
【背景技術】
【0002】
塗膜転写具は、一般に、テープの外面に塗布された糊や修正インクなどの塗膜を、紙などの被転写体へ転写するようになっている。テープは、ケース部分より突出した転写ヘッドに掛け回されている。そのため、転写ヘッドを押す押圧力が一定でないと、転写された塗膜が蛇行したり、細切れに転写されたりし、使用者が意図したように転写することができないことがある。
【0003】
転写ヘッドにかかる押圧力を一定にし、転写ヘッドが蛇行しないように使用するためには、塗膜転写具の持ち方が非常に重要である。使い慣れた使用者は、どのような持ち方が適切であるかを知っているので、塗膜転写具を上手に使用することができる。しかしながら、塗膜転写具を使い慣れていない使用者は、適切な持ち方がわからず、適切な持ち方をしない。そのため、転写ヘッドにかかる押圧力が一定せず、或いは転写ヘッドが蛇行して、思ったように塗膜を転写することができないことが多い。
【0004】
このような塗膜転写具を適切な持ち方で持たないことにより発生する不具合を防止するために、従来から特許文献1,2のような塗膜転写具が提案されてきた。特許文献1は、指先当接部を設けた転写具を開示しており、特許文献2は、親指が当接する第1凹陥部、人差し指と親指の指間が当接する第2凹陥部、及び中指あるいは薬指が当接する第3凹陥部を形成した塗膜転写具を開示している。
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の(塗膜)転写具では、必ずしも、使用者が指先当接部に指先を当接させなくても、或いは各凹陥部にそれぞれの指を当接させなくても、(塗膜)転写具を使用して、塗膜を被転写面に転写することはできる。このため、特許文献1や特許文献2の(塗膜)転写具では、使用者の持ち方を、塗膜を転写するために適切な持ち方に限定することはできない。よって、塗膜転写具を使用したことがなく、使い方がよくわからない使用者に、塗膜を転写するために最適な塗膜転写具の持ち方をしてもらうための対策としては、不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−051066号公報
【特許文献2】特開2012−200965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、塗膜転写具を使用したことがなく、使い方がよくわからない使用者であっても、塗膜を転写するために最適な塗膜転写具の持ち方をして、転写された塗膜が蛇行したり、細切れに転写されたものとなったりせず、使用者が意図したように転写することができる塗膜転写具の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1観点に係る塗膜転写具は、外部カセット及び前記外部カセット内に収納された内部カセットを備える。前記内部カセットは、基材テープ上に塗膜を設けた転写テープを繰出す繰出部と、前記転写テープを被転写面に押圧して前記塗膜を転写する転写押圧部と、塗膜転写後の前記基材テープを巻取る巻取部と、前記繰出部と前記巻取部を連動回転させる連動回転機構とを有する。前記外部カセットは、ボタン及び弾性部材を有する。前記ボタンを押圧して前記外部カセット内に押し込むことにより、前記転写押圧部が前記外部カセットから突出し、前記ボタンの押圧を解除すると、前記弾性部材の作用により前記転写押圧部が前記外部カセット内に収納される。前記塗膜を転写するために前記転写押圧部を前記被転写面に押圧する押圧姿勢において押圧方向を下側とした場合に、前記ボタンは前記塗膜転写具の上側となる面に設けられる。前記転写押圧部の突出方向を前後方向とし、前記ボタンを前記外部カセット内に最も押し込んだ状態である最押し込み状態における前記転写押圧部の先端を前端とした場合に、前記最押し込み状態における前記ボタンの前記前後方向の中間位置から前記前端までの距離を前記塗膜転写具の前記前後方向の全長で割った値が0.35以下である。前記塗膜転写具は、外力作用低減部をさらに備える。前記外力作用低減部は、前記最押し込み状態で、前記転写押圧部に作用する前記転写押圧部を前記外部カセット内へ押し戻す外力の前記ボタンへの作用を低減する。前記外力作用低減部は、前記ボタンに設けられた係合部を含む。前記係合部は、前記ボタンを押圧すると前記内部カセットと係合し、前記ボタンの押圧を解除すると前記弾性部材の作用により前記内部カセットとの係合が解除される。
【0009】
本発明の第2観点に係る塗膜転写具は、第1観点に係る塗膜転写具であって、前記ボタンを押圧すると、前記内部カセットに設けられた移動軸が前記ボタンに設けられた長穴内を移動し、又は前記ボタンに設けられた移動軸が前記内部カセットに設けられた長穴内を移動することによって、前記内部カセットが前記外部カセット内を移動して、前記転写押圧部が前記外部カセットから突出する。
【0010】
本発明の第3観点に係る塗膜転写具は、第2観点に係る塗膜転写具であって、前記外力作用低減部は、前記移動軸と係合する軸保持部をさらに含む。前記軸保持部は、前記最押し込み状態において、前記転写押圧部を前記外部カセット内へ押し戻す外力によって前記移動軸と係合する方向に前記長穴から延設された切り欠き部を含む。
【発明の効果】
【0011】
第1観点では、転写押圧部を被転写面に押圧する押圧姿勢における上側面の前端に近い位置に、外部カセットの内部方向に押し込むボタンが設けられている。また、このボタンを押圧し続けなければ、転写押圧部が内部に収納され、塗膜を転写できない。このため、使用者は、転写押圧部の付近の転写押圧部に押圧力を負荷しやすい位置を、塗膜転写具を掴む方向に指で押さえなければ、塗膜を転写することができない。このように、第1観点では、塗膜転写具の保持と転写押圧部への押圧に適した位置に設けられ、かつ、塗膜転写具の保持と転写押圧部への押圧に適した押圧方向であるボタンが提供される。そして、このボタンを押圧し続けなければ、転写押圧部が内部に収納され、塗膜を転写できない。このため、塗膜転写具を使用したことがなく、使い方がよくわからない使用者であっても、塗膜を転写するために最適な塗膜転写具の持ち方をすることができる。よって、転写された塗膜が蛇行したり、細切れに転写されたものとなったりせず、使用者が意図したように塗膜を転写することができるようになる。さらには、転写押圧部を内部に押し戻す外力がボタンへ作用しにくくしたので、転写押圧部を被転写面に押圧する力で不意にボタンが押し戻され、塗膜転写ができない状態になることもない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態の塗膜転写具の内部カセットを示す図である。
図2】本発明の第1実施形態の塗膜転写具の外部カセットへの内部カセットの装着の際に、ボタンに内部カセットを装着した状態を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態の塗膜転写具のケースにトーションバネを装着し、位置関係を明確にするために内部カセットを装着する前のボタンをケースに装着した状態を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態の塗膜転写具のケースにトーションバネを装着し、ボタンに装着した内部カセットをケースに装着し終えた状態を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態の塗膜転写具のケースにカバーを装着することによって、組立が完成した状態を示す図である。
図6】本発明の第1実施形態の塗膜転写具のボタンを押圧して、転写ヘッドが出入したそれぞれの状態を示す図である。
図7】本発明の第1実施形態の塗膜転写具の被転写面への押圧姿勢を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図5図6に本発明の第1実施形態の塗膜転写具A全体を、図1に第1実施形態の塗膜転写具Aの内部カセット2を示す。
【0014】
塗膜転写具Aは、基材テープT1上に塗膜を設けた転写テープTを繰出部から繰出し、転写押圧部で転写テープTを押圧して塗膜を被転写面へ転写した後、基材テープT1を巻き取るように構成されている。また、基材テープT1の巻取り長さが転写テープTの繰出し長さより長くなるように、繰出コアと巻取コアを連動回転させ、転写テープTに適度な張力をかけることによって、転写テープTがたるまないように構成されている。
【0015】
塗膜転写具Aの筐体部分である外部カセット1は、少なくともケース11、カバー12及びボタン13で構成されている。外部カセット1は内部に空間を有する筐体であり、内部の空間に内部カセット2を収納する。外部カセット1のボタン13を押圧すると、内部カセット2の転写押圧部25が外部カセット1から突出し、転写テープTから塗膜が転写可能となる。
【0016】
図1に内部カセット2を示す。図1(a)は、内部カセット2の部品構成を示すために、内ケース21及び内カバー22とその他の部品とに分離し、その他の部品が内部カセット2に組み込まれた状態に配置した図であり、図1(b)は、内部カセット2の組立が完了した状態を示す図であり、図1(c)は、内ケース21単体を図1(a)とは反対方向から見た図である。図1に示すように、内部カセット2は、内ケース21と内カバー22で構成される筐体に、繰出コア23と巻取コア24が回転可能に軸支されている。繰出コア23には転写テープTが巻きつけられ、転写テープTを繰出す繰出部が形成されており、巻取コア24は塗膜の転写後の基材テープT1を巻き取る巻取部となっている。内部カセット2からは転写ヘッド25が突出し、転写テープTから塗膜を被転写面に押圧転写する転写押圧部が形成される。
【0017】
内部カセット2では、内ケース21を内カバー22へ固定する方法として、その一方に設けたピンを他方に設けた穴に圧入して嵌合する方法が用いられているが、これらを固定する方法は嵌合に限定されるものではなく、任意の方法を用いることができる。
【0018】
繰出コア23と巻取コア24には、プーリー部231、241が設けられている。プーリー部231と241には1本のOリング26が掛けまわされ、繰出コア23と巻取コア24はOリング26により連動回転可能となっている。内部カセット2では、基材テープT1の巻取り長さが転写テープTの繰出し長さより長くなるように、繰出コア23の転写テープTを巻き付ける外径と巻取コア24の基材テープT1を巻き付ける外径とが設定される。そして、Oリング26と巻取コア24のプーリー部241とが滑ることによって、転写テープTの繰り出し長さと基材テープT1の巻き取り長さの差を吸収するように、繰出コア23と巻取コア24とが連動回転する。これにより、転写テープTに適度な張力がかかり、転写テープTがたるまない。内部カセット2ではコア同士の連動機構として、Oリングを使用しているが、本発明の塗膜転写具の連動機構はOリングに限定されるものではなく、ギヤや摩擦車など、任意の連動機構が使用可能である。
【0019】
内部カセット2の組み立てに当たっては、まず内ケース21に、転写ヘッド25と、転写テープTを含む繰出コア23及び巻取コア24とを、転写テープTのルートを形成しつつ組み込む。次に、繰出コア23と巻取コア24のそれぞれのプーリー部231、241にOリング26を掛け回し、最後に内ケース21に内カバー22を装着する。
【0020】
塗膜転写具Aでは、内部カセット2は内ケース21に設けられた3箇所の円柱状の移動軸と内カバー22に設けられた2箇所の円柱状の移動軸によって、外部カセット1内部を摺動可能となるように、外部カセット1に収納される。図1に示すように、内ケース21には、転写ヘッド25側から順に3本の移動軸211、212、213が設けられる。内カバー22には、内ケース21の2本の移動軸212、213に相当する位置に、移動軸222、223が設けられる。
【0021】
内部カセット2が収納される外部カセット1は、図6に示すように、ケース11、カバー12、ボタン13、及びトーションバネ14の4部品で構成される。トーションバネ14は、外部から内部へ押圧して外部カセット1内に没入させたボタン13を、外部へ押し戻す弾性力を付加する弾性部材である。したがって、例えば、ケース及び/又はカバーに一体に設けた弾性部材などによって、ボタン13を押し戻す弾性力が付加できれば、必ずしもトーションバネ14を使用する必要はない。
【0022】
外部カセット1への内部カセット2の装着に当たっては、図2に示すように、まず、ボタン13を内部カセット2へ装着する。ボタン13は、外部カセット1の外部に露出して使用者が押圧する部分となる押圧板131と、押圧板131の両端から略平行に突出する2枚のガイド板132から構成される。2枚のガイド板132には長穴であるガイド穴1321が対向する位置に設けられている。また、ボタン13には、ケース11とカバー12の回転中心軸113、123が挿入されて、外部からボタン13が押圧された際にボタン13の回転中心となる回転中心穴1322が設けられている。
【0023】
ボタン13の2枚のガイド板132を弾性変形させることによって、2枚のガイド板132の間隔を広げて、2枚のガイド板間に内部カセット2を挿入する。また、内部カセットの移動軸212、222を長穴であるガイド穴1321に装着する。2枚のガイド板132間の距離は内部カセット2の幅よりも僅かに大きく、また、ガイド穴1321の幅は移動軸212、222の直径よりも僅かに大きくなっている。そのため、内部カセット2はガイド穴1321に沿って、ボタン13に対して摺動可能となる。
【0024】
図3に示すように、ケース11のバネ受軸114にトーションバネ14のコイル状部分の内径をセットする。次に、ボタン13を装着した内部カセット2をケース11に装着することによって、図4の状態とする。図3は、トーションバネ14とボタン13との位置関係を明確にするために、内部カセット2を装着する前のボタン13をケース11に装着した状態を示す図である。(実際の組立では、内部カセット2をボタン13に装着した状態で、ケース11に装着する)。図3(a)は内部カセット2を装着する前のボタン13をケース11に装着した状態を示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)の状態をケース11の上面を断面としてケース11の上面側から見た断面図である。トーションバネ14を装着したケース11への、ボタン13を装着した内部カセット2の装着に当たっては、内カバー22の移動軸223を、ケース11に設けられた長穴形状であるガイド溝111内に装着する。また、ボタン13の回転中心穴1322にケース11の回転中心軸113を装着する。このとき、ケース11に装着されたトーションバネ14の端部が、ボタン13の押圧板131の内側に設けられた押さえリブ1323と当接する。これにより、ボタン13をケース11から押し出す方向へのトーションバネ14の弾性力が負荷される。
【0025】
最後に、内部カセット2が装着されたケース11にカバー12を装着することによって、図5に示す塗膜転写具Aは完成する。カバー12を装着する際には、カバー12の内壁に設けられた長穴形状であるガイド溝121内に、内部カセット2の移動軸213を装着し、カバー12の内壁に設けられた長穴形状であるガイド溝122内に、内部カセット2の移動軸211を装着する。また、カバー12の内壁に設けられた回転中心軸123をボタン13の回転中心穴1322に装着する。ガイド溝121、122、111の幅は、それぞれ移動軸213、211、223の外径よりも僅かに大きく、かつガイド溝121、122、及び111は平行に設けられている。そのため、内部カセット2は、これら3本のガイド溝に沿って、ケース11とカバー12に対して摺動可能となる。
【0026】
塗膜転写具Aでは、ケース11をカバー12へ固定する方法として、その一方に設けたピンを他方に設けた穴に圧入して嵌合する方法を用いているが、これらを固定する方法は嵌合に限定されるものではなく、任意の方法を用いることができる。
【0027】
ボタン13を押圧して内部へ押し込むと、ケース11とカバー12に設けられた回転中心軸113、123回りにボタン13は回転し、塗膜転写具Aは図6(b)及び図6(c)に示す状態となる。ボタン13が回転中心軸113、123回りに回転すると、ボタン13に設けられたガイド穴1321も回転中心軸113、123回りに回転する。ガイド穴1321内に挿入されている内部カセット2の移動軸212、222は、ガイド穴1321に対してガイド穴1321内を移動する。また、内部カセット2の移動軸211、213がそれぞれカバー12のガイド溝122、121内に、移動軸223がケース11のガイド溝111内に挿入されている。さらに、ガイド溝122、121、111は、外部カセット1に対し転写ヘッド25が出入する方向を長手方向とする長穴形状である。よって、内部カセット2は外部カセット1に対して、外部カセット1に対し転写ヘッド25が出入りする方向にのみ移動可能となっている。このため、ボタン13を押し込んだ際に、ガイド穴1321から内部カセット2の移動軸212、222に伝達される力のうち、外部カセット1に対し転写ヘッド25が出入する方向の成分のみが、内部カセット2の移動に作用する。その結果、内部カセット2は外部カセット1に対し転写ヘッド25が出入する方向へ移動する。
【0028】
なお、塗膜転写具Aでは、ボタン13を回転中心軸113、123回りに回転する形態としているが、本発明のボタン13は回転式のものに限定されない。例えば、押圧方向へ平行移動する形態のものなど、任意の形態のボタンが使用可能である。また、塗膜転写具Aでは、ボタン13から内部カセット2への動力伝達方法を、ボタン13に設けた長穴であるガイド穴1321と、内部カセット2に設けた円柱である移動軸212,222の組み合わせとしている。しかしながら、本発明の動力伝達方法は、ボタンに設けた円柱と内部カセットに設けた長穴の組み合わせの他、任意の方法が使用可能である。また、塗膜転写具Aでは、内部カセット2と外部カセット1のスライド機構を、内部カセット2に設けた円柱である移動軸と、外部カセット1に設けた長穴であるガイド溝との組み合わせとしている。しかしながら、本発明のスライド機構は、内部カセット2が外部カセット内をスムーズにスライド可能なものであれば、任意の機構が使用可能である。
【0029】
ボタン13は、ガイド穴1321の端部と内部カセットの移動軸212、222が接触するまで回転して、外部カセット1内に押し込まれる。ガイド穴1321の端部に移動軸212、222が接触すると、ボタン13に設けられた係合部である止めリブ1324が、内部カセット2の内ケース21、内カバー22のそれぞれに設けられた係合溝214、224と係合する。転写ヘッド25が外部カセット1から突出した状態で、止めリブ1324と係合溝214、224は係合する。止めリブ1324と係合溝214、224との係合によって、転写ヘッド25が内部へ押し戻される力を、止めリブ1324で受ける。止めリブ1324は、係合溝214、224とともに転写ヘッド25が内部へ押し戻される力を受けるので、転写ヘッド25を被転写面に押圧する力の反力がボタン13へ作用するのを低減する外力作用低減部として作用する。このため、止めリブ1324と係合溝214、224を設けることにより、転写ヘッド25に作用する被転写面からの反力により、不意に転写ヘッド25が外部カセット1の内部に押し戻されることがなくなる。つまり、転写押圧部を内部に押し戻す外力がボタン13へ作用しにくいため、転写押圧部を被転写面に押圧する力で不意にボタン13が押し戻され、塗膜転写ができない状態になることもない。よって、使用者が強い力でボタン13を押圧しなくても、安定して塗膜転写をすることができる。
【0030】
転写押圧部である転写ヘッド25を被転写面に押圧する力の反力がボタン13へ作用するのを低減する効果(以下、反力低減効果という)を確実なものとするためには、止めリブ1324と係合溝214、224との係合代を長くすることが効果的である。係合代とは、止めリブ1324と係合溝214,224が係合時に重なり合う長さである。しかしながら、この係合代を大きくし過ぎると、ボタン13の押圧を解除した際に、止めリブ1324と係合溝214、224の係合がスムーズに解除できない可能性がある。すなわち、使用者がボタン13の押圧を解除しても、ボタン13が戻らず、転写ヘッド25が突出したままとなることもあり得る。しかしながら、係合代を短くし過ぎると、係合が外れて、反力低減効果が十分に発揮されないことがあり得、また、係合部が破損し易くなり得る。このような理由から、係合代の長さは1.0mm以上2.5mm以下が好ましく、1.5mm以上2.0mm以下がより好ましい。
【0031】
また、止めリブ1324と係合溝214、224との係合の解除がスム−ズでない等の他の問題を生じることなく、反力低減効果をより確実なものとするためには、他の構造の外力作用低減部を併用することが好ましい。他の構造の外力作用低減部の好ましい例としては、切り欠き部1325が挙げられる。切り欠き部1325は、ボタン13を外部カセット1内に最も押し込んだ状態において、転写ヘッド25を外部カセット1内へ押し戻す外力によって移動軸212、222と係合する方向に、長穴1321から延設される。
【0032】
切り欠き部1325は、移動軸212、222の外形形状とほぼ同形状で、移動軸212、222の外形よりも僅かに大きいことが好ましい。転写ヘッド25を被転写面に押圧すると、転写ヘッド25に被転写面を押圧する力の反力が作用し、この反力により転写ヘッド25が外部カセット1の内部へ押し戻される方向に力が作用する。塗膜転写具Aでは、ボタン13に切り欠き部1325が設けられているので、転写ヘッド25が僅かに外部カセット1の内部に押し戻された時点で、切り欠き部1325に移動軸212、222が係合する。切り欠き部1325と移動軸212、222とが係合することより、移動軸212、222が、ガイド穴1321内を移動することができなくなる。転写ヘッド25に作用する反力が、ボタン13に影響するためには、移動軸212,222がガイド穴1321内を移動することが必要である。よって、切り欠き部1325を設けることにより、反力低減効果をより確実なものとすることができる。
【0033】
切り欠き部1325は、転写ヘッド25に作用する外力自身によって、移動軸212、222と係合する。そのため、転写ヘッド25の被転写面への押圧を解除するだけで、移動軸212、222との係合が解除される。したがって、止めリブ1324と係合溝214、224のように係合がスムーズに解除できなくなる可能性はない。
【0034】
ケース11に装着されたトーションバネ14の端部がボタン13の押圧板131の内側に設けられた押さえリブ1323と当接することによって、ボタン13をケース11から押し出す方向へトーションバネ14の弾性力が負荷されている。このため、ボタン13への押圧を解除すると、ボタン13はケース11とカバー12に設けられた回転中心軸113、123回りに回転し、まず、止めリブ1324と係合溝214、224との係合が解除される。止めリブ1324と係合溝214,224の係合が解除されるので、内部カセット2も転写ヘッド25が外部カセット1内に収納される方向へ移動可能となる。ボタン13は、移動軸212、222がガイド穴1321の端部と接触して、それ以上回転できなくなるまで回転する。ボタン13がトーションバネ14の弾性力によって回転すると、ボタン13に設けられたガイド穴1321も回転中心軸113、123回りに回転する。ガイド穴1321内に挿入されている内部カセットの移動軸212、222は、ガイド穴1321に対してガイド穴1321内を移動するので、ボタン13を押圧した時とは逆に、転写ヘッド25が外部カセット1内に収納される。これにより、塗膜転写具Aはボタン13を押圧する前の状態に復帰する。
【0035】
塗膜転写具Aでは、図7(a)に示すように、塗膜を転写するための転写押圧部である転写ヘッド25を被転写面に押圧する押圧姿勢において、押圧方向を下側とした場合に、ボタン13は塗膜転写具Aの上側となる面に設けることが好ましい。塗膜転写具Aは、図7(b)のように転写ヘッド25を被転写面に対して垂直に立てて使用することもできる。しかしながら、本発明における押圧姿勢とは、図7(a)のように転写ヘッド25を被転写面に対して、図7(a)に示す角度Qが鋭角となるように傾けた状態での姿勢を意味する。図7(a)の状態で塗膜転写具Aを使用する場合に、ボタン13を上側に設けることによって、ボタン13を押圧する指で、転写ヘッド25への押圧力も負荷できる。そのため、転写ヘッド25へ負荷する押圧力が安定し易くなる。
【0036】
ボタン13が外部カセット1内に最も押し込まれた状態における転写ヘッド25の先端を塗膜転写具Aの前端とし、転写ヘッド25の突出方向を塗膜転写具Aの前後方向とする。この場合に、ボタン13が外部カセット1内に最も押し込まれた状態におけるボタン13の前後方向の中間位置から前記前端までの距離(図6(b)参照)を、塗膜転写具の前記前後方向の全長(図6(b)参照)で割った値をRとする。このとき、Rが0.35以下であることが好ましく、より好ましくは0.3以下である。
【0037】
塗膜転写具Aでは、上記のようにボタン13を押圧している間のみ、転写ヘッド25が外部カセット1から突出する。そのため、ボタン13を押圧している間しか、塗膜を被転写面に転写することができない。一方、塗膜転写具Aでは、前記の押圧姿勢において、押圧方向を下側とした場合に、ボタン13は塗膜転写具Aの上側に設けられている。そのため、ボタンを押圧する方向が塗膜転写具Aを保持する方向と一致するとともに、ボタンを押圧する指により、転写ヘッド25への押圧力を負荷し易くなる。また、塗膜転写具Aでは、Rが0.35以下である。そのため、ボタンを押圧する指が転写ヘッド25近傍で塗膜転写具を保持することになり、使用者が意図した押圧力を転写ヘッド25へ安定的に負荷することができる。
【0038】
このように、塗膜転写具Aでは、ボタン13が設けられていることにより、転写ヘッド25近傍の転写ヘッド25への押圧力を負荷し易い位置を、塗膜転写具Aを掴む方向へ押圧しなければ、転写ヘッド25が突出しない。このため、塗膜転写具を使用したことがなく、使い方がよくわからない使用者であっても、転写ヘッドへの押圧力を安定させることが難しい位置、すなわち、転写ヘッドから遠い位置を掴んで塗膜を転写することが無い。また、転写ヘッドへの押圧力を負荷し難い位置のみに指をあてがって、塗膜を転写することも無い。したがって、塗膜転写具を使用したことがなく、使い方がよくわからない使用者であっても、必ず、塗膜を転写するために最適な塗膜転写具の持ち方をする。よって、塗膜転写具Aを使用することにより、転写された塗膜が蛇行したり、細切れに転写されたものとなったりせず、使用者が意図したように塗膜を転写することができる。
【0039】
塗膜転写具Aでは、不使用時には常に転写ヘッド25が外部カセット1内に収納されているので、不使用時に転写ヘッド25上の塗膜にキズがつくことはなく、異物が付着することもない。
【実施例】
【0040】
図6(a)、(b)に示す塗膜転写具であって、図6(b)の塗膜転写具Aの全長で、ボタン13の中間位置から転写ヘッド先端までの距離を割った値Rが0.3の塗膜転写具A1を準備した。塗膜転写具A1の内部カセットに収納された転写テープは、幅が5mmで全面に修正塗膜が塗布されたものを使用した。
【0041】
次に、塗膜転写具A1と同じ内部カセットを使用し、外部カセット1のボタン13押圧前の外観形状、ボタン13の回転中心穴1322の位置、及びボタン13を押圧することによる転写ヘッド25の突出量が塗膜転写具A1と同様で、ボタン13の全長を変更することによって、Rを0.35とした塗膜転写具A2を準備した。
【0042】
また、塗膜転写具A2と同様に、塗膜転写具A1と同じ内部カセットを使用し、外部カセット1のボタン13押圧前の外観形状、ボタン13の回転中心穴1322の位置、及びボタン13を押圧することによる転写ヘッド25の突出量が塗膜転写具A1と同様で、ボタン13の全長を変更することによって、Rを0.4とした塗膜転写具B1を準備した。
【0043】
最後に、塗膜転写具A1と同じ内部カセットを使用し、外部カセットの外観形状がボタンを押圧する前の塗膜転写具A1と同様であるが、ボタン13部分を押圧してもボタン13部分は押し込むことができず、当初から転写ヘッドが外部へ突出している塗膜転写具B2を準備した。
【0044】
塗膜転写具を使用したことのないモニター10名を準備し、このうち5名には、塗膜転写具B2、B1、A2、A1の順番で転写テストを実施させ、残り5名には、塗膜転写具A1、A2、B1、B2の順番で転写テストを実施させた。モニターには、塗膜転写具B1、A2、A1については、ボタンを押した状態でなければ塗膜転写ができないこと、転写ヘッドを押圧しながら転写ヘッドを移動することによって塗膜が転写できること、及び、塗膜を転写するために塗膜転写具を移動する方向のみを説明し、塗膜転写具の持ち方については一切説明しなかった。
【0045】
まず、最初に使用する塗膜転写具を、任意に2回程度転写して、塗膜転写の仕方を理解した後に、転写テストを実施した。6mm幅×200mmの長方形の枠を印刷したA4サイズのPPC用紙を準備し、塗膜を前記枠の端から端まで連続して、枠から塗膜がはみ出さないように転写するようモニターに指示して、転写テストを実施した。
【0046】
転写テストの結果を表1に示す。テスト結果は、転写塗膜の直進性(枠からの転写塗膜のはみ出し有無)と、転写塗膜の連続性について評価した。転写塗膜の直進性については、全く枠からのはみ出しが無ければ3、長さ10mm未満の枠からのはみ出しが2箇所以下であれば2、長さ10mm以上の枠からのはみ出しがあるか、或いは、長さ10mm未満の枠からのはみ出しが3個以上であれば1とした。転写塗膜の連続性については、全く途切れずに転写できていれば3、途切れた部分が2箇所以下であれば2、途切れた部分が3箇所以上であれば1とした。
【0047】
【表1】
【符号の説明】
【0048】
A :塗膜転写具
T :転写テープ
T1 :基材テープ
1 :外部カセット
11 :ケース
111 :ガイド溝
113 :回転中心軸
114 :バネ受軸
12 :カバー
121、122 :ガイド溝
123 :回転中心軸
13 :ボタン
131 :押圧板
132 :ガイド板
1321 :ガイド穴
1322 :回転中心穴
1323 :押さえリブ
1324 :止めリブ
1325 :切り欠き部
14 :トーションバネ
2 :内部カセット
21 :内ケース
211、212、213:移動軸
214 :係合溝
22 :内カバー
222、223 :移動軸
224 :係合溝
23 :繰出コア
231 :プーリー部
24 :巻取コア
241 :プーリー部
25 :転写ヘッド
26 :Oリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7