【発明が解決しようとする課題】
【0007】
珪酸カルシウム水和物(CSHと云う)を主体とする凝集物はリンとの反応性が良く、生成したリン酸カルシウムの大部分がク溶性であり、ク溶性リン酸の含有量の高い回収物が得られる。一方、ク溶性リン酸のうち、クエン酸アンモニウム溶液のような中性域で溶解する可溶性リン酸の割合が高いものは、植物によるリンの吸収量が多く、高い施肥効果を得ることができる。
【0008】
本発明は、珪酸カルシウム水和物(CSH)を主体とする凝集体にリン酸を反応させてなるヒドロキシアパタイト(HAPと云う)からなるリン酸肥料であって、ク溶性リン酸含有量が高く、かつク溶性リン酸のうち可溶性リン酸の割合が高いことによって、優れた施肥効果を有する
リン酸肥料の製造方法を提供する。また、好ましくは、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが小さく、リンの溶解性に優れた
リン酸肥料の製造方法を提供する。
【0009】
本発明は以下の構成を有する
リン酸肥料の製造方法に関する。
〔1〕
水ガラスと消石灰スラリーを、カルシウムとシリカのモル比(Ca/Si)が0.8〜2.0になるように反応させて珪酸カルシウム水和物を製造する際に、反応槽の消石灰スラリーに水ガラス希釈液を添加し、あるいは反応槽に消石灰スラリーと水ガラス希釈液を同時の時間に添加し、添加後に常温で反応させて珪酸カルシウム水和物を製造し、この珪酸カルシウム水和物のスラリーに、ヒドロキシアパタイトのカルシウムとリンのモル比(Ca/Pモル比)が2.0〜3.0になる量のリン酸を加え、常温でリン酸の添加時間1時間以下、および反応時間1時間以下で反応させてヒドロキシアパタイトを生成させることによって、該ヒドロキシアパタイトとシリカからなり、ク溶性リン酸(C-P
2O
5)の含有量が17.9質量%以上であり、中性クエン酸アンモニウム溶液に溶ける可溶性リン酸(S-P
2O
5)のク溶性リン酸に対する量比(S/C)が93.5%以上、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが2.8nm以下、リン酸の溶解度が4.3mg/L以上であるリン酸肥料を製造することを特徴とするリン酸肥料
の製造方法。
〔2〕カルシウムの溶解度が10.9mg/L以上である
リン酸肥料を製造する上記[1]に記載するリン酸肥料の製造方法。
〔3〕リン酸源として排水中に含まれるリン酸を利用し、排水中のリン量に対して、生成物のカルシウム量がCa/Pモル比で2.0〜3.0になるように、上記珪酸カルシウム水和物と該排水と混合して上記リン酸肥料を製造する上記[1]
または上記[2]に記載するリン酸肥料の製造方法。
【0010】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、
水ガラスと消石灰スラリーを、カルシウムとシリカのモル比(Ca/Si)が0.8〜2.0になるように反応させて珪酸カルシウム水和物を製造する際に、反応槽の消石灰スラリーに水ガラス希釈液を添加し、あるいは反応槽に消石灰スラリーと水ガラス希釈液を同時の時間に添加し、添加後に常温で反応させて珪酸カルシウム水和物を製造し、この珪酸カルシウム水和物のスラリーに、ヒドロキシアパタイトのカルシウムとリンのモル比(Ca/Pモル比)が2.0〜3.0になる量のリン酸を加え、常温でリン酸の添加時間1時間以下、および反応時間1時間以下で反応させてヒドロキシアパタイトを生成させることによって、該ヒドロキシアパタイトとシリカからなり、ク溶性リン酸(C-P
2O
5)の含有量が17.9質量%以上であり、中性クエン酸アンモニウム溶液に溶ける可溶性リン酸(S-P
2O
5)のク溶性リン酸に対する量比(S/C)が93.5%以上、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが2.8nm以下、リン酸の溶解度が4.3mg/L以上であるリン酸肥料を製造することを特徴とするリン酸肥料の製造方法である。
【0011】
珪酸カルシウム水和物(CSH)にリン酸を反応させると、カルシウムがリン酸と反応して、ク溶性リン酸を含むヒドロキシアパタイト〔Ca
10(PO
4)
6(OH)
2〕が生成し、カルシウムと離れたシリカを含む凝集物になる。本発明のリン酸肥料に用いるヒドロキシアパタイトはこのようなヒドロキシアパタイトとシリカの凝集物を含む。
【0012】
珪酸カルシウム水和物とリン酸の反応によって生じたヒドロキシアパタイトに含まれるリン酸の大部分はク溶性リン酸であり、水溶性リン酸(W-P
2O
5)は実質的に含まれていない。従って、このヒドロキシアパタイトをク溶性リン酸肥料として用いることができる。
【0013】
本発明のヒドロキシアパタイトからなるリン酸肥料において、カルシウムとリンのモル比(Ca/Pモル比)は2.0以上が好ましい。Ca/Pモル比が1.3程度では、珪酸カルシウム水和物とリン酸を長時間(48時間)反応させてもヒドロキシアパタイトが生成し難く、ク溶性リン酸の含有量は3.5質量%程度である。
【0014】
本発明の
製造方法に係るヒドロキシアパタイトからなるリン酸肥料
(以下、本発明のリン酸肥料と云う)は、Ca/Pモル比が2.0以上、好ましくはCa/Pモル比が2.0〜3.0であり、ク溶性リン酸(C-P
2O
5)の含有量が17.9質量%以上である。代表的なク溶性リン酸肥料である熔成リン肥のク溶性リン酸の含有量は概ね20質量%前後であるので、本発明のリン酸肥料は一般的な熔成リン肥と同程度のク溶性リン酸を含有している。
【0015】
本発明のリン酸肥料は、ク溶性リン酸(C-P
2O
5)の含有量が
17.9質量%以上であって、可溶性リン酸(S-P
2O
5)のク溶性リン酸(C-P
2O
5)に対する量比(S/C=(S-P
2O
5)/(C-P
2O
5))が
93.5%以上である。可溶性リン酸(S-P
2O
5)とは中性クエン酸アンモニウム溶液に溶けるリン酸を云う。
【0016】
ク溶性リン酸(C-P
2O
5)の含有量が15質量%未満では、ク溶性リン酸肥料としての効果が乏しくなる。ク溶性リン酸の含有量が多く、可溶性リン酸のク溶性リン酸に対する量比(S/C)が高いものは、リン酸の吸収効果が高く、肥料効果の良い結果が得られる。例えば、代表的なク溶性リン酸肥料である熔成リン肥は、水溶性リン酸(W-P
2O
5)を殆ど含まず、約20質量%前後のク溶性リン酸を含んでいる。このク溶性リン酸のかなりの割合が可溶性であり、可溶性リン酸量が概ね15質量%前後であり、ク溶性リン酸に対する可溶性リン酸の量比(S/C)は概ね70%前後であり、施肥後の植物のリン酸吸収量は概ね20mg程度である。
【0017】
一方、珪酸カルシウム水和物とリン酸の反応生成物であるヒドロキシアパタイトからなるリン酸肥料では、珪酸カルシウム水和物とリン酸の反応条件の相違によって可溶性リン酸量の割合が大きく異なり、ク溶性リン酸に対する可溶性リン酸の量比(S/C)は53〜100%である。
【0018】
ク溶性リン酸に対する可溶性リン酸の量比(S/C)は、施肥後の植物のリン酸吸収量に大きな相違を生じる。例えば、ク溶性リン酸量が約20質量%のリン酸肥料において、上記S/C比が約98%の場合にはリン酸の吸収量が約20mg程度と高いが、上記S/C比が約53%の場合にはリン酸の吸収量は約8mg程度であり、肥料効果が大幅に減少する。
【0019】
本発明のリン酸肥料は、ク溶性リン酸に対する可溶性リン酸の量比(S/C)が
93.5%以上であり、ク溶性リン酸の大部分がクエン酸アンモニウムなどの中性の溶媒にも溶解する可溶性リン酸である。上記S/C比が93.5%未満では施肥後のリン酸吸収効果が低いので好ましくない。
【0020】
本発明のリン酸肥料は、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが
2.8nm以下の微細結晶であるので、施肥後に溶解しやすく、水に対するリン酸の溶解度が
4.3mg/L以上であり、また、好ましくは、カルシウムの溶解度が
10.9mg/L以上である。具体的には、本発明のリン酸肥料は、例えば、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが
2.3〜2.8nmであって、リン酸の溶解度が
4.3〜5.2mg/Lであり、カルシウムの溶解度が
10.9〜11.9mg/Lである。
【0021】
一方、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが5.5nmより大きいと、ヒドロキシアパタイトが溶解し難く、ク溶性リン酸に対する可溶性リン酸の量比(S/C)が低下する。例えば、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが6.8nmでは、S/Cは53.5%と低くなる。一方、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが2.3nm未満であると、理由は明らかではないがリン酸とカルシウムの溶解度が低下し、肥効が劣る。さらに完全に非晶質のリン酸カルシウムでは、リン酸とカルシウムの溶解度は再び増大するが、ろ過性に劣り、含水率が高くなるため製造上実際的ではない。
【0022】
本発明のリン酸肥料
の製造方法は、水ガラスと消石灰スラリーを、カルシウムとシリカのモル比(Ca/Si)が0.8〜2.0になるように反応させて珪酸カルシウム水和物を製造する際に、
反応槽の消石灰スラリーに水ガラス希釈液を添加し、あるいは
反応槽に消石灰スラリーと水ガラス希釈液を同時
の時間に添加し、添加後に常温で、1〜6時間反応させて、珪酸カルシウム水和物を製造する。この珪酸カルシウム水和物のスラリーに、ヒドロキシアパタイトのカルシウムとリンのモル比(Ca/Pモル比)が2.0〜3.0になる量のリン酸を加え、常温でリン酸の添加時間1時間以下、および反応時間1時間以下で反応させてヒドロキシアパタイトを生成させ、該ヒドロキシアパタイトとシリカからなり、ク溶性リン酸(C-P
2O
5)の含有量が17.9質量%以上であり、中性クエン酸アンモニウム溶液に溶ける可溶性リン酸(S-P
2O
5)のク溶性リン酸に対する量比(S/C)が93.5%以上、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが2.8nm以下、リン酸の溶解度が4.3mg/L以上であるリン酸肥料を製造する。
【0023】
上記Ca/Siが0.8より低いと、この珪酸カルシウム水和物にリン酸を添加して製造するリン酸肥料中のリン酸含量が低くなるため好ましくない。また、Ca/Siが2.0より高いと、珪酸カルシウム水和物スラリーに未反応の消石灰が多く残存するようになり、製造したリン酸肥料中のヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが大きくなり、リン酸の溶解度が低下し、肥効が劣るため好ましくない。
【0024】
消石灰スラリーと水ガラス希釈液の添加後に常温で反応させて珪酸カルシウム水和物を合成する。この珪酸カルシウム水和物は反応性に優れるため、次の工程のリン酸を添加する時間は0.5時間程度、反応時間も0.5時間程度で反応が完了する。100℃より高い温度で合成した珪酸カルシウム水和物は、反応性に劣るため、リン酸を添加して反応させるときに、6〜48時間と非常に長い反応時間が必要になる。
【0025】
この珪酸カルシウム水和物を排水中のリンと反応させてリン酸肥料を生成させる場合にも、100℃より高い温度で合成した珪酸カルシウム水和物は、反応性に劣るためリンの回収率が低く、リン酸肥料中のリン酸濃度が高くならないため好ましくない。
【0026】
常温で珪酸カルシウム水和物を水熱合成するには、珪酸源としては
水ガラスが好ましく、珪石などの結晶質シリカ
や非晶質シリカは、段落[0042]表1に示すように85℃以上の温度が必要なため、珪酸源としては不適である。
【0027】
珪酸源として非晶質シリカを使った場合でも、180℃の水熱反応で製造した珪酸カルシウム水和物はリン酸との反応性に劣るため、ヒドロキシアパタイトの生成に70℃の温度で6時間〜48時間の反応時間を必要とする。しかも、このヒドロキシアパタイトのリン酸の溶解度は約0.1mg/L程度であり、カルシウムの溶解度はほぼ0.0mg/Lであって、リン酸とカルシウムの溶解度は何れも低い。
【0028】
珪酸源として水ガラスを使った場合は、珪酸カルシウム水和物の製造を常温で行うことができるため、珪酸カルシウム水和物の結晶子サイズは10nm未満と小さく、リン酸との反応性に優れるため、この珪酸カルシウム水和物とリン酸を反応させて生成したヒドロキシアパタイトの結晶子サイズも
2.8nm以下と小さくなり、リン酸とカルシウムの溶解度が何れも大きく、肥効に優れる。
【0029】
本発明のリン酸肥料の製造方法において、珪酸カルシウム水和物と反応させるリン酸の添加量は、ヒドロキシアパタイトに含まれるカルシウムとリンのモル比(Ca/Pモル比)が2.0以上になる量である。上記Ca/Pモル比が2.0より低いと、ヒドロキシアパタイトが生成し難く、例えば、Ca/Pモル比が1.3ではヒドロキシアパタイトが殆ど生成せず、ク溶性リン酸の含有量は3.5質量%程度である。
【0030】
一方、上記Ca/Pモル比が3.0より大きいと、リンに対するCSHの量が過剰であるので、リン酸肥料に含まれるリン酸含有量が相対的に少なくなる。例えば、Ca/Pモル比2.0のときに、ク溶性リン酸(C-P
2O
5)の含有量が21.4質量%になるときに、Ca/Pモル比を2.5に上げるとク溶性リン酸は約18質量%に低下し、Ca/Pモル比を3.0に上げるとク溶性リン酸は約15質量%に低下する。このように、十分なリン酸量を含有するヒドロキシアパタイトを生成させるには、上記Ca/Pモル比は2.0〜3.0の範囲が好ましく、2.0〜2.5の範囲がより好ましい。
【0031】
本発明の製造方法において、珪酸カルシウム水和物とリン酸との反応温度は、
表3に示すように常温が好ましい。肥効の高いリン酸肥料を製造するには、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが
2.3〜2.8nmの範囲であることが好ましいので、原料のCSHの反応性に応じて、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが上記範囲になるように適切な反応温度を選択することが重要である。反応温度が
60℃以上では加熱に必要なエネルギーが多くなるだけでなく、
段落[0050]表4に示すようにリン酸の溶解度が低下するので好ましくない。
【発明の効果】
【0032】
本発明のリン酸肥料は、
ク溶性リン酸(C-P2O5)の含有量が17.9質量%以上であり、一般的な熔成リン肥と同程度のク溶性リン酸を含有している。また、可溶性リン酸のク溶性リン酸に対する量比(S/C)が
93.5%以上であり、可溶性リン酸の割合が多く、また、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズが
2.8nm以下であるので溶解しやすく、さらにリン酸の溶解度が
4.3mg/L以上であるので、施肥後の植物のリン酸の吸収量が多く、優れた肥料効果を得ることができる。
【0033】
本発明のリン酸肥料は、水溶性リン酸を含有しないにもかかわらず、速効性のリン酸肥料である過リン酸石灰と同等の肥効があり、さらに土壌に固定化され難く、肥効が長続きするためリン酸の利用効率が高く、資源保護、環境保全的な観点からも非常に優れたリン酸肥料である。
【0034】
本発明のリン酸肥料は、珪酸カルシウム水和物とリン酸の反応によって製造されるので、珪酸カルシウム水和物からなるリン回収材を下水などの排水に接触させて排水中のリンを回収する際に、その回収物から本発明のリン酸肥料の条件に適するものを選択して利用することができる。具体的には、例えば、排水中のリン量に対して、生成物のカルシウム量がCa/Pモル比で2.0〜3.0になるように、珪酸カルシウム水和物を該排水と混合し、混合時間が1時間以下、反応時間が1時間以下、常温で反応させ、生成物を回収してリン酸肥料を製造することができる。
【0035】
本発明のリン酸肥料の製造方法は、珪酸カルシウム水和物スラリーにリン酸を反応させてヒドロキシアパタイトを生成させる方法において、100℃以下の温度で合成した珪酸カルシウム水和物を用い、ヒドロキシアパタイトのカルシウムとリンのモル比(Ca/Pモル比)が2.0以上、好ましくは2.0〜3.0になるリン酸添加量とし、リン酸の添加時間および反応時間を1時間以下に制御して製造する方法であるので、特殊な製造設備を必要とせず、容易に実施することができる。
【0036】
また、本発明のリン酸肥料の製造方法は、珪酸カルシウム水和物の結晶子サイズやカルシウムとリンのモル比(Ca/P)および反応時間を調整することによって、珪酸カルシウム水和物による排水中のリン回収において適用することができ、幅広く実施することができる。具体的には、本発明に記載の珪酸カルシウム水和物を、排水中のリンに対して、Ca/Pモル比2.0〜3.0になるように添加し、15分から1時間反応させることによって本発明のリン酸肥料を得ることができる。
【0037】
本発明のリン酸肥料は、上記製造方法によって、ヒドロキシアパタイトの結晶子サイズ
2.3〜2.8nmのリン酸肥料を得ることができ、珪酸カルシウム水和物とリン酸との反応によって製造されるリン酸肥料と同等のリン酸肥料を得ることができる。特にリン回収により得られたリン酸肥料は、リン濃度の低い条件でヒドロキシアパタイトが生成するため、一般に比表面積が66〜120m
2/gと高い特徴があり、肥効が高い。