特許第6899658号(P6899658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899658
(24)【登録日】2021年6月17日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】印刷機
(51)【国際特許分類】
   B41F 21/10 20060101AFI20210628BHJP
   B41F 21/04 20060101ALI20210628BHJP
   B41F 13/00 20060101ALI20210628BHJP
   B41F 33/00 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   B41F21/10
   B41F21/04
   B41F13/00 153
   B41F33/00 620
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-19740(P2017-19740)
(22)【出願日】2017年2月6日
(65)【公開番号】特開2018-126883(P2018-126883A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】714000460
【氏名又は名称】リョービMHIグラフィックテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(74)【代理人】
【識別番号】100138416
【弁理士】
【氏名又は名称】北田 明
(72)【発明者】
【氏名】小森山 哲也
【審査官】 亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−234262(JP,A)
【文献】 特開平05−305706(JP,A)
【文献】 米国特許第04700626(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 21/10
B41F 13/00
B41F 21/04
B41F 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枚葉紙に対して両面印刷を行うことのできる印刷機において、
枚葉紙の表裏を反転させるための反転機構の一部であり、枚葉紙の端部をつかむ枚葉紙保持部を外周面から突出するように有する反転関連胴と、
前記印刷機が備える、前記反転関連胴とは異なる複数の本機側胴と、
前記複数の本機側胴をそれぞれ回転駆動させる第1駆動源と、
前記第1駆動源とは別に設けられ、前記反転関連胴を回転駆動させる第2駆動源と、
前記第2駆動源の故障時において、前記第1駆動源から駆動力を前記反転関連胴に伝達することで前記反転関連胴を回転させることにより、前記反転関連胴の一部と前記複数の本機側胴のうちで前記反転関連胴に隣接する本機側胴の一部との衝突を回避するものであって、枚葉紙の搬送方向長さに対応した範囲で作動する衝突回避手段と、を備えることを特徴とする印刷機。
【請求項2】
前記反転関連胴は、前記複数の本機側胴のひとつである処理胴により搬送される枚葉紙における紙頭を前記枚葉紙保持部で保持して、前記複数の本機側胴のひとつである反転胴に、枚葉紙における紙尻を先頭として当該枚葉紙を受け渡す反転渡し胴であることを特徴とする、請求項1に記載の印刷機。
【請求項3】
前記反転渡し胴は、前記第2駆動源により回転駆動される通常運転時には、枚葉紙の搬送方向長さに応じて回転速度可変に駆動され、
前記衝突回避手段は、前記第2駆動源の故障時において、前記第1駆動源からの駆動力を受けて当該駆動力を前記反転渡し胴に伝達するように回動する駆動力伝達部材と、前記反転渡し胴とに亘って設けられたずれ手段であって、前記駆動力伝達部材と前記反転渡し胴との間で、周方向における所定範囲のずれを許容し、かつ、当該所定範囲を超えるずれを規制するずれ手段を備えることを特徴とする、請求項に記載の印刷機。
【請求項4】
前記反転渡し胴は、前記通常運転時における回転方向の前方に位置する前セグメントと、当該回転方向の後方に位置する後セグメントとを少なくとも1対備え、
前記前セグメントと前記後セグメントとは、一方が他方に対して前記反転渡し胴の中心軸に対して回動可能とされており、枚葉紙の搬送方向長さに対応する周方向寸法に合わせて相互の位置を変更でき、その状態で固定可能であり、
前記衝突回避手段は、
前記前セグメントと前記後セグメントのそれぞれの軸方向端部に、周方向に延びるように設けられた長穴と、
前記長穴の内部に一部が位置し、前記駆動力伝達部材と一体に回動して、前記第1駆動源の駆動力が前記反転渡し胴に伝達される駆動力伝達ピンと、
前記処理胴、前記反転胴、前記反転渡し胴のそれぞれとは連動せず不動に、前記駆動力伝達部材及び前記反転渡し胴の軸方向端部に対して対向して配置されており、側面の径方向位置が変化するような形状のカム部と、
一端が前記駆動力伝達ピンに対して、他端が前記反転渡し胴の軸方向端部に対して、それぞれ回動可能に設けられ、前記カム部の側面に沿って当接しつつ移動するカムフォロアを有するリンク部と、を備えることを特徴とする、請求項に記載の印刷機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枚葉紙に対して両面印刷を行うことのできる印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
枚葉紙に対して両面印刷を行うことのできる印刷機として、特許文献1に記載の「シート処理装置」が提案されている。この装置では、扱われるシートの搬送方向長さによって、印刷胴と吸着胴とを同期回転させるように、印刷胴を含む複数の胴と吸着胴とは別の駆動部によって回転駆動されている。
【0003】
この特許文献1の装置では、吸着胴を駆動するための駆動部が故障した場合、印刷胴と吸着胴との同期が崩れてしまう。そうなると、胴から突出した部分(グリッパ等)と隣接する他の胴の外周面とが衝突してしまう可能性がある。
【0004】
このような危険性は、特許文献1のような吸着胴が別駆動である印刷機に限らず、別の駆動部により他の胴(以下、「本機側胴」と称する)とは別個に回転駆動される胴を有する印刷機において存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−234262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、本機側胴の駆動部とは別の駆動部の故障時において、胴の一部同士が衝突することを回避できる印刷機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の印刷機は、枚葉紙に対して両面印刷を行うことのできる印刷機において、枚葉紙の表裏を反転させるための反転機構の一部であり、枚葉紙の端部をつかむ枚葉紙保持部を外周面から突出するように有する反転関連胴と、前記印刷機が備える、前記反転関連胴とは異なる複数の本機側胴と、前記複数の本機側胴をそれぞれ回転駆動させる第1駆動源と、前記第1駆動源とは別に設けられ、前記反転関連胴を回転駆動させる第2駆動源と、前記第2駆動源の故障時において、前記第1駆動源から駆動力を前記反転関連胴に伝達することで前記反転関連胴を回転させることにより、前記反転関連胴の一部と前記複数の本機側胴のうちで前記反転関連胴に隣接する本機側胴の一部との衝突を回避する衝突回避手段と、を備えることを特徴としている。
【0008】
上記構成を備えた本発明の印刷機では、衝突回避手段により、第2駆動源が故障した後、印刷機が停止されるまでの間に、反転関連胴の一部と複数の本機側胴のうちで反転関連胴に隣接する本機側胴の一部とが衝突することを防止できる。このため、前記各胴を損傷してしまい、修理にかかる時間や費用をなくすことができる。
【0009】
また、前記衝突回避手段は、前記枚葉紙の搬送方向長さに対応した範囲で作動するものとできる。
【0010】
この構成により、印刷機の通常運転時、反転関連胴と複数の本機側胴のうちで反転関連胴に隣接する本機側胴との間で、枚葉紙の搬送方向長さに対応した動作がなされていた場合であっても、衝突回避手段を枚葉紙の搬送方向長さに対応した範囲で作動させることで、適切な衝突防止が可能である。
【0011】
また、前記反転関連胴は、前記複数の本機側胴のひとつである処理胴により搬送される枚葉紙における紙頭を前記枚葉紙保持部で保持して、前記複数の本機側胴のひとつである反転胴に、枚葉紙における紙尻を先頭として当該枚葉紙を受け渡す反転渡し胴であるものとできる。
【0012】
この構成により、駆動源が本機側胴と異なる反転渡し胴を設けた場合でも、適切な衝突防止が可能である。
【0013】
また、前記反転渡し胴は、前記第2駆動源により回転駆動される通常運転時には、枚葉紙の搬送方向長さに応じて回転速度可変に駆動され、前記衝突回避手段は、前記第2駆動源の故障時において、前記第1駆動源からの駆動力を受けて当該駆動力を前記反転渡し胴に伝達するように回動する駆動力伝達部材と、前記反転渡し胴とに亘って設けられたずれ手段であって、前記駆動力伝達部材と前記反転渡し胴との間で、周方向における所定範囲のずれを許容し、かつ、当該所定範囲を超えるずれを規制するずれ手段を備えるものとできる。
【0014】
この構成により、駆動力伝達部材とずれ手段とにより衝突回避手段を構成できるので、衝突回避手段の構成を簡素化できる。
【0015】
また、前記反転渡し胴は、前記通常運転時における回転方向の前方に位置する前セグメントと、当該回転方向の後方に位置する後セグメントとを少なくとも1対備え、前記前セグメントと前記後セグメントとは、一方が他方に対して前記反転渡し胴の中心軸に対して回動可能とされており、枚葉紙の搬送方向長さに対応する周方向寸法に合わせて相互の位置を変更でき、その状態で固定可能であり、前記衝突回避手段は、前記前セグメントと前記後セグメントのそれぞれの軸方向端部に、周方向に延びるように設けられた長穴と、前記長穴の内部に一部が位置し、前記駆動力伝達部材と一体に回動して、前記第1駆動源の駆動力が前記反転渡し胴に伝達される駆動力伝達ピンと、前記処理胴、前記反転胴、前記反転渡し胴のそれぞれとは連動せず不動に、前記駆動力伝達部材及び前記反転渡し胴の軸方向端部に対して対向して配置されており、側面の径方向位置が変化するような形状のカム部と、一端が前記駆動力伝達ピンに対して、他端が前記反転渡し胴の軸方向端部に対して、それぞれ回動可能に設けられ、前記カム部の側面に沿って当接しつつ移動するカムフォロアを有するリンク部と、を備えるものとできる。
【0016】
この構成により、衝突回避手段を機械的に構成できるので、電気制御で衝突回避をなす構成に比べると、衝突回避手段自体が故障する可能性を低減できる。このため信頼性の高い印刷機を実現できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の印刷機によれば、衝突回避手段を設けたことにより、本機側胴の駆動部とは別の駆動部の故障時において、胴の一部同士が衝突することを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る印刷機の概略側面図である。
図2】印刷する枚葉紙が最大紙である場合に、反転渡し胴の前セグメントが後セグメントから離間した状態を示す胴の側面図である。
図3】印刷する枚葉紙が最小紙である場合に、反転渡し胴の前セグメントが後セグメントに接近した状態を示す胴の側面図である。
図4】反転渡し胴の構成を概略的に示す径方向断面図である。
図5】反転渡し胴の構成を概略的に示す端面図である。
図6】第1回避手段を示す径方向断面図である。
図7】第1回避手段の長穴の設定に関する説明図であり、(A)及び(B)は本機歯車の駆動力伝達ピンと前セグメント連動部材との関係を示したもの、(C)及び(D)は本機歯車の駆動力伝達ピンと後セグメントとの関係を示したもの、(E)は(A)及び(C)の状態を重ねて示したもの、(F)は(A)及び(D)の状態を重ねて示したもの、(G)は(B)及び(C)の状態を重ねて示したものである。
図8】(A)〜(D)は第2回避手段の動作を示す、反転渡し胴の端部における任意部分の端面視概略図である。
図9】(E)〜(H)は、図8(A)〜(D)に続く第2回避手段の動作を示す、反転渡し胴の端部における任意部分の端面視概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る印刷機の一実施形態について、図面と共に説明する。図1に、本実施形態の印刷機を概略的に示している。この印刷機は、枚葉紙を印刷部2に向けて給紙する給紙部1と、給紙部1からの枚葉紙を受け取って印刷する印刷部2と、印刷部2で印刷された枚葉紙をストックしておくための排紙部3と、を備えている。
【0020】
給紙部1は、枚葉紙をストックしておくための印刷前貯留部11と、印刷前貯留部11の枚葉紙を1枚ずつ印刷部2へ給紙する給紙装置としてのフィーダー12と、フィーダー12からの枚葉紙を受け取って搬送する径の小さな渡し胴である給紙胴13と、給紙胴13からの枚葉紙を受け取って印刷部2へ搬送する給紙胴13の2倍の径を有する給紙側渡し胴14と、を備えている。給紙胴13及び給紙側渡し胴14のそれぞれには、爪台と爪とで枚葉紙をくわえて保持するグリッパ(図示せず)及びグリッパを収容するための凹部を備えており、グリッパにより枚葉紙の受け渡しを行うようにしている。
【0021】
排紙部3は、印刷部2で一方の面又は両面に印刷がなされた枚葉紙をストックする印刷後貯留部(図示せず)と、印刷部2で前記のように印刷された枚葉紙を印刷後貯留部へ搬送する搬送部(ここではチェーン式の搬送部)31と、を備えている。
【0022】
印刷部2は、給紙側渡し胴14からの枚葉紙を受け取って搬送する印刷側渡し胴21と、印刷側渡し胴21からの枚葉紙を受け取って図示してしないインキ供給装置からのインキが供給されて一方の面に印刷を行う処理胴22と、を備えている。
【0023】
印刷部2の下方に、処理胴22により印刷された枚葉紙が受け渡されて枚葉紙の他方の面を印刷すべく枚葉紙を反転させて処理胴22に受け渡すための複数の胴を有する反転機構4を備えている。反転機構4は、処理胴22の下方に配置される反転渡し胴41と、印刷側渡し胴21の下方に配置され、反転渡し胴41からの枚葉紙を受け取って反転させる反転胴42と、を備えている。尚、枚葉紙の表裏を反転させるための反転機構4の一部を構成する反転関連胴として、本実施形態では反転渡し胴41が該当する。
【0024】
印刷部2及び反転機構4を構成する胴のうち、反転渡し胴41を除いた胴は図示しない第1駆動源により回転駆動され、反転渡し胴41は第1駆動源とは別に設けられた第2駆動源Ma(図4及び図6参照)により回転駆動される。尚、以下において、反転渡し胴41を除いた胴につき、特定の胴を示さない場合には、「本機側胴」と称して説明する。また、第1駆動源により駆動される側を「本機側」と称して説明する。
【0025】
印刷側渡し胴21は、給紙胴13の略2倍の径を有し、枚葉紙をくわえて保持すべく、爪台と爪とからなるグリッパ21Gの2つが、略180度間隔を置いて印刷側渡し胴21に形成されている2つの凹部21Rにそれぞれ収容されている(図2参照)。また、処理胴22は、給紙胴13の略3倍の径を有し、枚葉紙をくわえて保持すべく、爪台と爪とからなるグリッパ22Gの3つが、略120度の間隔を置いて処理胴22に形成されている3つの凹部22Rにそれぞれ収容されている(図2参照)。
【0026】
反転渡し胴41は、給紙胴13の略2倍の径を有し、図2に示すように、固定セグメント(以下「前セグメント」と称する)41Aと、反転渡し胴41の回転中心で回動可能な回動セグメント(以下「後セグメント」と称する)41Bとを有する支持体を、周方向において180度の間隔を置いて2箇所に備えている。前セグメント41Aは反転渡し胴41の、第2駆動源Maにより反転渡し胴41が回転駆動されている通常運転時における回転方向前方に位置し、後セグメント41Bは反転渡し胴41の通常運転時における回転方向後方に位置する。反転渡し胴41は前セグメント41Aと後セグメント41Bを少なくとも1対備えていればよく、本実施形態では2対備えている。
【0027】
各前セグメント41A及び各後セグメント41Bの外周面は、円弧状に形成されているとともに、同一曲面上に配置されている。そして、各前セグメント41A及び各後セグメント41Bが、互いに噛み合うことができる櫛歯状に構成されており、各前セグメント41Aに対して各後セグメント41Bが回動することで、後セグメント41Bに接近して両者が深く噛み合った状態と後セグメント41Bから離間して噛み合いが略解消された状態とに切り替えることができる。従って、反転渡し胴41の回転中心で前セグメント41Aを後セグメント41Bから離間する側へ最大角度回動させて両者の噛み合いを略解消することによって、後セグメント41Bの外周面の周方向長さに前セグメント41Aの外周面の周方向長さを加えた周方向長さが、印刷機が扱う枚葉紙のうちの搬送方向長さが最も長い最大紙に対応する最長長さに略等しく設定されている(図2参照)。また、前セグメント41Aを後セグメント41Bに深く噛み合うように回動させることによって、前セグメント41Aの外周面に後セグメント41Bの後側の外周面を加えた周方向長さが、印刷機が扱う枚葉紙のうちの搬送方向長さが最も短い最小紙に対応する最短長さに略等しく設定されている(図3参照)。また、2対中1対の前後セグメント41A,41Bの組み合わせにおいて、一方の前セグメント41Aの回動方向先端に、枚葉紙保持部としての、爪台と爪とからなるグリッパ41Gを備え、処理胴22からの枚葉紙の先端(下流側端)である紙頭をくわえて保持することができるようにしている。また、一方の前セグメント41Aと対をなす一方の後セグメント41Bの回動方向後端に該一方の前セグメント41Aのグリッパ41Gにより紙頭がくわえられている枚葉紙の後端(上流側端)である紙尻を吸着するサッカ41Sを備えている。
【0028】
次に、図4及び図5を参照して、反転渡し胴41の構成をより詳細に説明する。尚、説明の都合上、図4及び図5には、前セグメント41Aと後セグメント41Bを1対だけ示している。また、図示内容は構成の説明のために簡略化したり、位置関係を変更したりしていることにより、他図と一致していない部分がある。
【0029】
反転渡し胴41における前セグメント41Aの外周面部411A及び後セグメント41Bの外周面部411Bどうしは、同一曲面上に配置されている。これらの外周面部411A,411Bは円弧状に形成されている。
【0030】
前セグメント41Aの外周面部411Aには、軸心方向に離間し、且つ周方向に延びる複数の爪片412が形成されている。後セグメント41Bの外周面部411Bには、各爪片412に周方向で遊嵌し、周方向に延びる複数の案内溝413を備える。反転渡し胴41は、全体軸414と、回動軸415とを同心に備える。全体軸414は、前セグメント41A及び後セグメント41Bが一体的に軸心回りに回転する際の回転中心と軸である。回動軸415は、前セグメント41Aを後セグメント41Bに対して相対的に回動させる際の回転中心となる軸である。全体軸414はフレームFに支持され、回動軸415は全体軸414に遊嵌するよう外嵌されている。
【0031】
前セグメント41Aは、後セグメント41Bと軸心を共通にし、第2駆動源Maにより軸心回りに回転駆動される。一方、後セグメント41Bは、後セグメント回動用駆動源Mbにより軸心回りに回転駆動されることで、前セグメント41Aに対して回動可能とされている。回動軸415には、従動歯車としての後セグメント歯車4151が取付けられ、この後セグメント歯車4151に、後セグメント回動用駆動源Mbの出力軸に連結された駆動歯車4152が噛合されている。また、全体軸414の軸端には第2駆動源Maにより駆動される従動歯車としての前セグメント歯車4141が取付けられ、この前セグメント歯車4141に、第2駆動源Maの出力軸に連結された駆動歯車4142が噛合されている。
【0032】
後セグメント41Bの外周面部411Bの周方向長さは、本実施形態における印刷機が扱う枚葉紙(図5に二点鎖線で示した符号「P」で示す部分)のうち、搬送方向長さが最も短いもの(最小紙)に対応する最短距離に略等しく設定されている。前セグメント41Aに対して後セグメント41Bが最大角度回動した状態において、前セグメント41Aの外周面部411Aの周方向長さに後セグメント41Bの外周面部411Bの周方向長さを加えた周方向長さは、本実施形態における印刷機が扱う枚葉紙のうち、搬送方向長さが最も長いもの(最大紙)に対応する最長距離に略等しく設定されている。
【0033】
前セグメント41Aは、上流側から搬送されてきた枚葉紙の先端(下流側端)である紙頭を保持する先端側保持手段を、外周面部411Aの回動方向先端側に備える。後セグメント41Bは、枚葉紙の後端(上流側端)である紙尻を保持する後端側保持手段を、外周面部411Bの回動方向後端側に備えている。
【0034】
先端側保持手段は、枚葉紙の紙頭(図5に示した「P1」部分)を咥えて保持するグリッパ41Gである。このグリッパ41Gは、前セグメント41Aの胴体に支軸416を介して回動可能となっており、支軸416回りに回動することでの紙頭を保持する。後端側保持手段は、枚葉紙の紙尻(図5に示した「P2」部分)を、後セグメント41Bの外周面部411Bに吸着するサッカ41Sである。この場合、グリッパ41Gによる枚葉紙の保持力に比べて、サッカ41Sによる保持力が小さく設定されている。
【0035】
以上、前セグメント41Aと後セグメント41Bとは、一方が他方に対して反転渡し胴41の中心軸に対して回動可能とされており、枚葉紙の搬送方向長さに対応する周方向寸法に合わせて相互の位置を変更でき、その状態で固定可能に構成される。
【0036】
反転胴42は、給紙胴13と略同じ径を有する小さな胴から構成され、周方向1箇所に形成された凹部42Rに一対の爪からなるグリッパ42Gを収容している。この反転胴42は、反転渡し胴41が1回転する間に2回転することになる。
【0037】
ここで、給紙胴13、給紙側渡し胴14、印刷側渡し胴21、処理胴22、反転胴42が、図示していない歯車により機械的に連動連結され、1つの第1駆動源(図示しない)により回転駆動されて同期運転するように構成されている。一方、反転渡し胴41は、第1駆動源とは異なる第2駆動源(例えばサーボモータ)Maにより回転駆動される。このため反転渡し胴41は、複数の本機側胴(例えば反転渡し胴41に隣接する処理胴22及び反転胴42)とは別駆動される。
【0038】
第2駆動源Maは、印刷機が備える制御部(図示しない)により、枚葉紙の搬送方向長さに応じて反転渡し胴41を加減速することで、反転渡し胴41の回転位相を変化させて駆動できる。具体的に本実施形態の印刷機では、印刷可能な最大寸法の枚葉紙で、複数の本機側胴に対して反転渡し胴41が同回転位相で回転するよう第2駆動源Maが駆動する。一方、枚葉紙の搬送方向長さが最大寸法よりも小さい場合には、寸法差の分だけ反転渡し胴41が減速して回転することで、反転胴42のグリッパ42Gに対して紙尻が合うように第2駆動源Maが駆動する。このように、反転渡し胴41は、通常運転時には、枚葉紙の搬送方向長さに応じて回転速度可変に駆動される。
【0039】
前述のように、反転渡し胴41からはグリッパ41Gが突出している。また、処理胴22からはグリッパ22Gが突出している。また、反転胴42からはグリッパ42Gが突出している。しかし通常運転時には、各胴において隣接する胴の各グリッパと対向する部分に干渉を防止するための凹部が形成されていることから、隣接する胴の一部同士が衝突することはない。
【0040】
しかし、第2駆動源Maの故障時、例えば、第2駆動源Maが停止するか低速でしか駆動しなくなった場合には、反転渡し胴41の回転が停止したり、通常運転時に比べて低速回転になったりする。尚、前記「故障」は、第2駆動源Ma自体の故障に限らず、第2駆動源Maへの電力供給や、制御部による第2駆動源Maの制御に異常が発生した場合も含む。このような故障時に、反転渡し胴41は隣接する本機側胴(処理胴22、反転胴42)に対して回転位相が合わなくなってしまう。より詳しく述べると、反転渡し胴41は隣接する本機側胴(処理胴22、反転胴42)に対して、枚葉紙の搬送方向長さに応じた所定の位相のずれを超えて回転位相が合わなくなってしまう。そうすると、反転渡し胴41の一部と、反転渡し胴41に隣接する処理胴22又は反転胴42の一部とが衝突してしまう可能性がある。
【0041】
具体的に、この衝突は以下の場合が考えられる。
(1−1)反転渡し胴41のグリッパ41Gと処理胴22の外周面との衝突。
(1−2)処理胴22のグリッパ22Gと反転渡し胴41の外周面との衝突。
(2−1)反転胴42のグリッパ42Gと反転渡し胴41の後セグメント41Bとの衝突。
(2−2)反転渡し胴41の前セグメント41Aと反転胴42のグリッパ42Gとの衝突。
【0042】
これらの衝突を回避すべく、本実施形態の印刷機は、第2駆動源Maの故障時において、前記第1駆動源から駆動力を反転渡し胴41に伝達することで、反転渡し胴41に第2駆動源Maの駆動力が与えられなくなったり、駆動力が不十分にしか与えられなくなったりした場合でも、反転渡し胴41を回転させることにより、反転渡し胴41の一部と処理胴22及び反転胴42の一部との衝突を回避する衝突回避手段5を備える。
【0043】
以下、本実施形態における衝突回避手段5の構成について説明する。この衝突回避手段5は、本機側と反転渡し胴41の側とに亘って設けられている。そしてこの衝突回避手段5は、長穴511A,511Bと駆動力伝達ピン512A,512Bから構成される第1回避手段51、及び、カム部521とリンク部522とから構成される第2回避手段52を備える。
【0044】
まず、第1回避手段51について説明する。第1回避手段51は、前セグメント41Aと後セグメント41Bのそれぞれの軸方向端部に、周方向に延びるように設けられた長穴511A,511Bと、前記長穴511A,511Bの内部に一部が位置し、本機歯車6(図6参照)と一体に回動して、第1駆動源の駆動力が反転渡し胴41(前セグメント41A及び後セグメント41B)に伝達される駆動力伝達ピン512A,512Bとを備える。尚本実施形態において、図6に示すように、前セグメント連動部材4143に対応する駆動力伝達ピン512Aは、本機歯車6にねじ込まれたボルトの軸部が利用されており、後セグメント歯車4151に対応する駆動力伝達ピン512Bは、本機歯車6にねじ込まれたボルトの頭部が利用されている。しかし、駆動力伝達ピン512A,512Bの形態はこれに限られるものではなく、種々の形態とできる。
【0045】
反転渡し胴41の一方側の端部(図1における紙面表面側とは反対側の端部)には3枚の歯車が設けられている。これら歯車は、図6に示すように、反転渡し胴41の側である内側から印刷機の外部側である外側にかけて、本機歯車6、後セグメント歯車4151、前セグメント歯車4141の順に配置されている。本機歯車6は、第2駆動源Maの故障時において、第1駆動源からの駆動力を受けて当該駆動力を反転渡し胴41に伝達するための駆動力伝達部材として機能する。前セグメント歯車4141は前セグメント41Aの一部として一体で回転し、後セグメント歯車4151は後セグメント41Bの一部として一体で回転する。
【0046】
前述のように、第1駆動源の駆動力は本機歯車6に伝達される。一方、第2駆動源Maの駆動力は前セグメント歯車4141に伝達される。尚、本機歯車6と前セグメント歯車4141との回転位置関係は、通常運転の開始時に、印刷機が備える制御部によって、所定の関係に設定されている。
【0047】
また、前セグメント歯車4141よりも内側には前セグメント41Aの一部として前セグメント連動部材4143が設けられている。尚、平常運転時には、第2駆動源Maから駆動歯車4142と前セグメント歯車4141とを介して駆動力が伝達される。
【0048】
前セグメント連動部材4143の軸方向端面には、第1回避手段51の一部として、周方向に延びるように設けられた長穴511Aが形成されている(図7(A)(B)参照)。本実施形態では前セグメント連動部材4143の回転中心軸に対して回転対称に3本の長穴511Aが形成されている。ただし、長穴511Aの形成数は3本に限定されない。また、複数の長穴511Aが異径の位置に形成されていてもよい。長穴511Aの周方向長さは、本機側胴に対する反転渡し胴41(特に前セグメント41A)の位相につき、図7(A)に示すように、遅れていない状態(枚葉紙の搬送方向長さが最大の場合に対応)における本機歯車6の前セグメント連動部材4143に対応する駆動力伝達ピン512Aの位置から、図7(B)に示すように、許容される最も遅れた状態(枚葉紙の搬送方向長さが最小の場合に対応)における駆動力伝達ピン512Aの位置に対応した長さとされている。
【0049】
後セグメント歯車4151の軸方向端面にも、第1回避手段51の一部として、周方向に延びるように設けられた長穴511Bが形成されている。本実施形態では後セグメント歯車4151の回転中心軸に対して対向するように2本の長穴511Bが形成されている。ただし、長穴511Bの形成数は2本に限定されない。また、複数の長穴511Bが異径の位置に形成されていてもよい。長穴511Bの周方向長さは、本機側胴に対する後セグメント41Bの位相につき、図7(C)に示すように、進んでいない状態(枚葉紙の搬送方向長さが最大の場合に対応)における本機歯車6の後セグメント歯車4151に対応する駆動力伝達ピン512Bの位置から、図7(D)に示すように、許容される最も進んだ状態(枚葉紙の搬送方向長さが最小の場合に対応)における駆動力伝達ピン512Bの位置に対応した長さとされている。
【0050】
ここで、長穴511A,511Bの周方向寸法の設定に関し、図7を示しつつ説明する。尚、図7(A)〜(G)の各図は、内側から外側を見た場合の図であるが、説明の都合上、裏側に隠れている部分についても実線表示している(特に図7(E)〜(G))。
【0051】
図7(A)は、本機歯車6の駆動力伝達ピン512Aと前セグメント連動部材4143との関係であって、反転渡し胴41が印刷可能な最大寸法の枚葉紙(最大紙)に対応して設定されている場合、すなわち、反転渡し胴41の位相が本機側胴の位相に対して遅れていない状態を示している。図7(B)は、本機歯車6の駆動力伝達ピン512Aと前セグメント連動部材4143との関係であって、反転渡し胴41が印刷可能な最小寸法の枚葉紙(最小紙)に対応して設定されている場合、すなわち、前セグメント連動部材4143の位相が本機側胴の位相に対して最も遅れた状態を示している。
【0052】
図7(C)は、本機歯車の駆動力伝達ピン512Bと後セグメント歯車4151との関係であって、反転渡し胴41が最大紙に対応して設定されている場合、すなわち、後セグメント歯車4151の位相が本機側胴の位相に対して進んでいない状態を示している。図7(D)は、本機歯車の駆動力伝達ピン512Bと後セグメント歯車4151との関係であって、反転渡し胴41が最小紙に対応して設定されている場合、すなわち、後セグメント歯車4151の位相が本機側胴の位相に対して最も進んだ状態を示している。
【0053】
図7(E)は、図7(A)及び図7(C)の状態を重ねて示したものである。枚葉紙が最大紙の場合、本機側胴の位相に対し、前セグメント41Aは遅れなしで後セグメント41Bは進みなしとなるため、この状態となる。また、図7(F)は図7(A)及び図7(D)の状態を重ねて示したものである。枚葉紙が最小紙の場合前セグメント41Aは遅れ最大で後セグメント41Bは進み最大となるため、この状態となる。
【0054】
ところで、図7(G)は図7(B)及び図7(C)の状態を重ねて示したものであるが、本機歯車6に対する前セグメント41A及び後セグメント41Bの関係は、図7(F)の状態からこの状態まで変化する可能性がある。
【0055】
このように、図7(E)〜図7(G)に示すそれぞれの状態をとり得るように長穴511A,511Bの周方向寸法を設定しておけば、最大紙から最小紙まで対応可能な第1回避手段51を実現できることになる。
【0056】
尚、本実施形態では、図7(E)〜(G)に示すように、後セグメント歯車4151の長穴511Bは、前セグメント連動部材4143の長穴511Aよりも大径位置に形成され、大きい曲率半径を有するように形成されているが、特に限定されるものではなく、同一径位置や小径位置に形成することも可能である。
【0057】
図6に示すように、前セグメント41Aに属する前セグメント連動部材4143と、後セグメント41Bに属する後セグメント歯車4151とに挟まれて本機歯車6が位置する。本機歯車6の内外端面からは、第1回避手段51の一部として駆動力伝達ピン512A,512Bが突出している。本機歯車6の内側端面からは駆動力伝達ピン512Aが3本突出しており、これらの駆動力伝達ピン512Aの一部は前セグメント連動部材4143に形成された長穴511Aに位置している。一方、本機歯車6の外側端面からは駆動力伝達ピン512Bが2本突出しており、これらの駆動力伝達ピン512Bの一部は後セグメント歯車4151に形成された長穴511Bに位置している。
【0058】
このため、前セグメント連動部材4143に形成された長穴511Aに位置する駆動力伝達ピン512Aと、後セグメント連動部材に形成された長穴511Bに位置する駆動力伝達ピン512Bのいずれも長穴端部(本機歯車6の回転方向における先端部)にない場合は、本機歯車6が自由状態なので、本機歯車6だけが回転し得る。
【0059】
一方、前セグメント連動部材4143に形成された長穴511Aに位置する駆動力伝達ピン512Aと、後セグメント連動部材に形成された長穴511Bに位置する駆動力伝達ピン512Bとのいずれかが長穴端部(本機歯車6の回転方向における先端部)にある場合には、駆動力伝達ピン512A,512Bが長穴端部に当接するため、この当接が維持される方向において、反転渡し胴41は本機歯車6と一緒に回転する。
【0060】
したがって、本機歯車6と前セグメント41A、また、本機歯車6と後セグメント41Bとの周方向の位置ずれ(つまり位相のずれ)は、長穴511A,511Bの形成範囲内に規制され、前記範囲を超えてしまうことが防止される。よって、胴の一部同士の衝突を生じさせるような、前記規制を超えた大きなずれが生じることを防止できる。
【0061】
前述のように、長穴511A,511Bの周方向長さは枚葉紙の搬送方向長さに対応している。このことから、本実施形態の衝突回避手段5は、枚葉紙の搬送方向長さ(具体的には、本実施形態の印刷機が印刷可能な枚葉紙の最大長さから最小長さまで)に対応した周方向の範囲で作動する。
【0062】
以上、本実施形態の衝突回避手段5は、第1回避手段51として、第2駆動源Maの故障時において、第1駆動源からの駆動力を受けて当該駆動力を反転渡し胴41に伝達するための本機歯車6と、反転渡し胴41とに亘って設けられたずれ手段であって、本機歯車6と反転渡し胴41との間で、周方向における所定範囲のずれを許容し、かつ、当該所定範囲を超えるずれを規制するずれ手段としての長穴511A,511Bと駆動力伝達ピン512A,512Bとの組み合わせを備えている。
【0063】
次に、第2回避手段52について説明する。第2回避手段52の一部であるカム部521は、印刷機のフレームに支持されたことにより、処理胴22、反転胴42、反転渡し胴41のそれぞれとは連動せず不動に、本機歯車6及び前セグメント連動部材4143に対して対向して(つまり、反転渡し胴41の軸方向に並列して)配置されており、図8及び図9にハッチングを付して示した部分であって、側面の径方向位置が変化するような形状である。
【0064】
また、第2回避手段52の一部であるリンク部522は、一端が前セグメント連動部材4143に対応する3本の駆動力伝達ピン512Aのうち1本に対して、他端が前セグメント連動部材4143に対して、それぞれ回動可能に設けられ、前記カム部521の側面に沿って当接しつつ移動するカムフォロア5223を中間に有する。
【0065】
リンク部522は、図7(A)(B)に示すように(尚、図7(A)(B)にはカム部521を示していない)、一端側部材5221と他端側部材5222とが回動可能に接続され、各部材5221,5222において直線状に延びる部分が2箇所で変曲するように形成されている。ただし、各部材5221,5222はこの形状に限定されず、例えば一定曲率で湾曲する曲線状に形成することもできる。
【0066】
カムフォロア5223は円筒状体であり、一端側部材5221に、反転渡し胴41の軸方向に沿って内方に突出するように設けられている(図6参照)。このカムフォロア5223は、本機歯車6の回転に伴い、外周面がカム部521の側面に当接しつつ、カム部521に沿って移動する(図8及び図9参照)。
【0067】
カム部521は、図8及び図9に示すように、径方向寸法が周方向の中央で大きくなるように形成されている。この形状により、カムフォロア5223は径方向に移動することになる。この径方向の移動に伴い、リンク部522は、一端と他端との周方向距離が伸長及び短縮することになる。
【0068】
したがってリンク部522は、前セグメント連動部材4143を介して反転渡し胴41の位相を周方向で部分的に進めたり遅らせたりする進退操作を行うことで、反転渡し胴41を所望の回転位置に修正することができる。
【0069】
第2回避手段52により、前記進退操作は、反転渡し胴41の周方向の特定箇所でのみなされることになる。本実施形態では、前記特定箇所は、前記「1−2」の衝突(処理胴22のグリッパ22Gと反転渡し胴41の外周面との衝突)が発生する可能性がある箇所に設定されている。
【0070】
尚、通常運転時には、反転渡し胴41が高精度で処理胴22及び反転胴42に対して回転しているため、カム部521とリンク部522との動作はなされているものの、前記進退操作がされることはない。前記進退操作はあくまで、枚葉紙の搬送方向長さに対応した範囲を超える過剰な位相差を是正するために動作するよう構成されているからである。
【0071】
図8(A)〜(D)及び図9(E)〜(H)は、第2回避手段52の位置関係の変化を、本機側の正転方向(通常運転時の回転方向)での回転角度基準で15°毎に示したものである。図8(A)は処理胴22に対する反転渡し胴41の角度が0°、図8(B)は15°、図8(C)は30°、図8(D)は45°、図8(E)は60°、図8(F)は75°、図8(G)は90°、図8(H)は105°の各状態を示す。
【0072】
各図に記載した角度は、グリッパ41Gの図8(A)における角度を0°として、反転渡し胴41(前セグメント連動部材4143)の回転角度を示す。各図に記載のように、反転渡し胴41の回転角度は15°刻みで変化していないことがわかる。これは、前述のようにリンク部522によって反転渡し胴41の進退操作がなされるからである。
【0073】
以上、本実施形態の印刷機が、前記構成の衝突回避手段5(第1回避手段51、第2回避手段52)を備えることにより、反転渡し胴41の位相が本機側胴の位相より進むことは、第1回避手段51により規制される。また、反転渡し胴41の位相が本機側胴の位相より遅れることは、第2回避手段52により、グリッパが干渉してしまう範囲に限って規制される。これにより、前記「1−1」の衝突(反転渡し胴41のグリッパ41Gと処理胴22の外周面との衝突)、及び、前記「1−2」の衝突(処理胴22のグリッパ22Gと反転渡し胴41の外周面との衝突)が回避される。
【0074】
そして、前記「2−1」の衝突(反転胴42のグリッパ42Gと反転渡し胴41の後セグメント41Bとの衝突)は、反転渡し胴41の紙尻部分(つまり後セグメント41B)の位相が本機側胴部の位相より遅れることにより生じるが、このような事態は第1回避手段51により規制される。また、前記「2−2」の衝突(反転渡し胴41の前セグメント41Aと反転胴42のグリッパ42Gとの衝突)は、反転渡し胴41の紙頭部分(つまり前セグメント41A)の位相が本機側胴部の位相より進むことにより生じるが、このような事態も第1回避手段51により規制される。
【0075】
このように、長穴511A,511Bと駆動力伝達ピン512A,512Bから構成される第1回避手段51と、カム部521とリンク部522とから構成される第2回避手段52とが協働することにより、前記「1−1」〜「2−2」に列挙した衝突が有効に回避される。
【0076】
尚、衝突回避手段5により、第1駆動源の駆動力が伝達されて反転渡し胴41が回転することになるが、この第1駆動源による反転渡し胴41の回転は専ら衝突回避のためのものであって、通常の印刷を継続できるような高精度で回転させることはできない。よって、この衝突回避手段5の作動(衝突回避機能を果たすような作動を指す)は、第2駆動源Maが故障した後、印刷機の制御部によって少なくとも本機側胴(特に処理胴22及び反転渡し胴41)と反転渡し胴41とが停止させられるまでの限定された期間においてなされる。言い換えると、この衝突回避手段5は、第2駆動源Maによる反転渡し胴41の回転駆動を、精度は低いが衝突を回避できる程度になぞるべく、第1駆動源によって回転駆動させるのである。
【0077】
また、通常運転時には、前セグメント連動部材4143に形成された長穴511Aに位置する駆動力伝達ピン512Aと、後セグメント歯車4151に形成された長穴511Bに位置する駆動力伝達ピン512Bとの両方が長穴端部(本機歯車6の回転方向における先端部)にない状態となっている。このため、本機歯車6は前セグメント連動部材4143及び後セグメント歯車4151に対して自由状態となるから、衝突回避手段5は作動しない。衝突回避手段5は、第2駆動源Maの故障時において、第2駆動源Maの駆動力が消失又は減少したことによって第1駆動源の駆動力が勝ることで、前セグメント連動部材4143に形成された長穴511Aに位置する駆動力伝達ピン512Aと、後セグメント歯車4151に形成された長穴511Bに位置する駆動力伝達ピン512Bとのいずれかが長穴端部(本機歯車6の回転方向における先端部)に位置することで作動する。このように本実施形態の衝突回避手段5は、通常運転時には言わば「作動待機状態」にある。
【0078】
本実施形態の構成を採用することにより、第2駆動源Maの故障を検知したことを条件に作動する衝突回避手段を構成したり、第1駆動源の駆動力の反転渡し胴41への伝達を接続及び切断するための手段(クラッチ等)を設けたりする必要がないので、印刷機の構成を簡素化できるメリットがある。
【0079】
また、本実施形態では衝突回避手段5を機械的に構成できるので、電気制御で衝突回避をなす構成に比べると、衝突回避手段5自体の故障原因が構成部材の摩耗や損壊等に限られることから、故障の発生する可能性を低減でき、信頼性の高い印刷機を実現できる。
【0080】
本発明に係る印刷機は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0081】
本発明における枚葉紙の概念には、樹脂シート等、狭義の紙以外の素材からなるシート状体も含まれる。
【0082】
また、複数の胴の構成は前記実施形態の構成に限定されず、種々に変更が可能である。また、請求項で規定した反転関連胴は、前記実施形態では反転渡し胴41であったが、枚葉紙の搬送方向長さに対応して位相を変化させることができる胴であれば特に限定されず、例えば反転胴42等、反転機構4が有する他の胴であってもよい。
【0083】
また、前記実施形態の反転渡し胴41は、固定セグメントが前セグメント41Aであり、回動セグメントが後セグメント41Bであったが、逆に、回動セグメントが前セグメント41Aであり、固定セグメントが後セグメント41Bであってもよい。
【0084】
また、第1回避手段51として、前記実施形態では、長穴511A,511Bと駆動力伝達ピン512A,512Bとの組み合わせについて説明したが、これは一例に過ぎず、駆動力伝達部材(前記実施形態では本機歯車6)と反転渡し胴41との間で、周方向における所定範囲のずれを許容するずれ手段に該当すれば、具体的な形態は種々に変更し得る。例えば、反転渡し胴の軸方向端部において周方向に設置されたレールと、このレールに沿って周方向の所定範囲を移動可能とされた移動部との組み合わせであってもよい。
【0085】
また、前記実施形態では、前セグメント連動部材4143、後セグメント歯車4151のそれぞれにおける軸方向端部に長穴511A,511Bが形成されていた。しかしこれに限定されず、例えば歯車以外の部材を用いることで、当該部材の外周面に長穴を形成することもできる。このように第1回避手段51は、例えば周方向に沿って設けられた周方向路と、当該周方向路に沿って周方向の所定範囲を移動する移動手段であればよく、形態は限定されない。
【0086】
また、駆動力伝達ピン512A,512Bが長穴511A,511Bにおける端部に当たる際の衝撃を緩和するため、本機歯車6の側、または、前セグメント41A、後セグメント41Bの側のいずれか、または両方に衝撃吸収部を設けることもできる。例えば、長穴511A,511Bにおける端部の内面や駆動力伝達ピン512A,512Bにおける外周部に衝撃吸収部を設けることができる。
【0087】
また、第2回避手段として、前記実施形態では、カム部521とリンク部522との組み合わせについて説明したが、これは一例に過ぎず、駆動力伝達部材(前記実施形態では本機歯車6)と反転渡し胴41との間で、周方向で局所的に位置合わせを行う手段に該当すれば、具体的な形態は種々に変更し得る。例えば、不動に設けた部材に、前記カムの側面形状に対応するように湾曲した溝又は長穴を形成しておき、反転渡し胴41の側に前記溝又は長穴にならって移動する移動部を設けることで前記実施形態と同様の機能を実現できる。
【0088】
また、前記実施形態では、本機側に駆動力伝達ピン512A,512Bが設けられ、反転渡し胴側に長穴511A,511Bが設けられていたが、逆に、本機側に長穴が設けられ、反転渡し胴側に駆動力伝達ピンが設けられていてもよい。
【0089】
また、前記実施形態では、カムフォロア5223が径方向に移動するよう構成されていたが、カムフォロア5223に相当する部材が反転渡し胴41の軸方向に移動するよう構成することもできる。
【0090】
また、前記実施形態では衝突回避手段5を全て機械的に構成したが、衝突回避手段5の一部を電気的に構成し、電気的制御により衝突回避を行うことも可能である。また、衝突回避手段5の一部に油圧機構を用いることもできる。
【符号の説明】
【0091】
1…給紙部、2…印刷部、3…排紙部、4…反転機構、5…衝突回避手段、6…駆動力伝達部材(本機歯車)、22…本機側胴(処理胴)、41…反転関連胴(反転渡し胴)、41A…前セグメント、41B…後セグメント、41G…枚葉紙保持部(グリッパ)、42…本機側胴(反転胴)、51…ずれ手段(第1回避手段)、52…第2回避手段、511A…長穴、511B…長穴、512A…駆動力伝達ピン、512B…駆動力伝達ピン、521…カム部、522…リンク部、5223…カムフォロア、Ma…第2駆動源(サーボモータ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9