(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抜け止め機構の環状溝は、前記円錐面から外側継手部材の奥側に向けて延び、かつ、前記止め輪と接する円筒面が形成されている請求項1に記載の摺動式等速自在継手。
前記抜け止め機構は、前記止め輪と前記円筒面との接触点から前記環状溝の奥側端面までの軸方向寸法が、止め輪を構成する線材の半径よりも長くなるように設定されている請求項2に記載の摺動式等速自在継手。
前記抜け止め機構は、環状溝の軸方向入口内径が、環状溝に嵌着された状態での止め輪の内径よりも大きく、かつ、止め輪と環状溝との接触点での内径よりも小さくなるように設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の摺動式等速自在継手。
前記抜け止め機構は、環状溝の軸方向入口内径が、外側継手部材の開口端部の全周に亘って環状溝に嵌着された状態での止め輪の内径よりも大きく設定されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の摺動式等速自在継手。
前記環状溝は、前記円錐面から外側継手部材の奥側に向けて延び、かつ、前記止め輪と接する円筒面が、旋削チップによる加工のみで形成されている請求項6に記載の摺動式等速自在継手の製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンから車輪に回転力を等速で伝達するドライブシャフトやプロペラシャフトに組み込まれる等速自在継手には、固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手の二種がある。これら両者の等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達し得る構造を備えている。
【0003】
ドライブシャフトは、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要がある。そのため、ドライブシャフトは、一般的に、エンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手を、車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手をシャフトで連結した構造を具備する。
【0004】
ドライブシャフトに組み付けられる摺動式等速自在継手の一つに、回転トルクを伝達する転動体としてボールを用いたダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)やクロスグルーブ型等速自在継手(LJ)がある。また、他の摺動式等速自在継手には、転動体としてローラを用いたトリポード型等速自在継手(TJ)がある。
【0005】
図18は、ダブルオフセット型等速自在継手を例示する。この等速自在継手は、外側継手部材111と、内側継手部材112と、複数個のボール113と、ケージ114とを備えている。
【0006】
外側継手部材111は、軸方向に延びる直線状のトラック溝118が内周面119の複数箇所に形成されている。内側継手部材112は、軸方向に延びる直線状のトラック溝120が外側継手部材111のトラック溝118と対をなして外周面121の複数箇所に形成されている。ボール113は、外側継手部材111のトラック溝118と内側継手部材112のトラック溝120との間に介在する。ケージ114は、外側継手部材111の内周面119と内側継手部材112の外周面121との間に配されている。
【0007】
この等速自在継手は、内側継手部材112、ボール113およびケージ114からなる内部部品115が外側継手部材111に軸方向摺動自在に収容された構造を具備する。この等速自在継手は、内側継手部材112の軸孔116にシャフト117の一方の軸端部を挿入してスプライン嵌合させた構造を具備する。この摺動式等速自在継手の内側継手部材112から延びるシャフト117の他方の軸端部(図示せず)に固定式等速自在継手の内側継手部材を結合させることによりドライブシャフトを構成している。
【0008】
ここで、ドライブシャフトを車体に組み付けるに際しては、前述の摺動式等速自在継手をエンジン側(インボード側)に組み付けた後、固定式等速自在継手を車輪側(アウトボード側)に組み付けている。その車輪側では、固定式等速自在継手に車輪用軸受を組み付け、ナックルにより車体の懸架装置に組み付ける。
【0009】
ドライブシャフトの摺動式等速自在継手を車体のエンジン側に組み付けた時点では、固定式等速自在継手が車輪側の車輪用軸受に組み付けられていない。そのため、摺動式等速自在継手には、固定式等速自在継手およびシャフトからなるドライブシャフトの自重が大きな荷重となってスライドアウト方向へかかる場合がある。
【0010】
このような状態になると、摺動式等速自在継手の内部部品115が外側継手部材111の開口端部122から飛び出すスライドオーバーが生じることがある。このようなスライドオーバーを防止するため、従来の摺動式等速自在継手では、外側継手部材111に収容された内部部品115の軸方向変位量を規制する抜け止め機構125が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述の特許文献1で開示された従来の摺動式等速自在継手では、外側継手部材111の開口端部122の内周面119に凹状の環状溝123を設け、その環状溝123にサークリップ124を嵌着した抜け止め機構125を採用している。
【0013】
この抜け止め機構125では、ドライブシャフトを車体に組み付けるに際して、内部部品115に大きな荷重がスライドアウト方向へかかった場合、
図19に示すように、内部部品115のボール113がサークリップ124と干渉することでボール113の軸方向変位量を規制することにより、外側継手部材111に対する内部部品115のスライドオーバーを防止するようにしている。
【0014】
この特許文献1で開示された抜け止め機構125では、外側継手部材111の開口端部122から奥側へ入り込んだ厚肉部の内周面119に、サークリップ124が嵌着される環状溝123を形成した構造を具備する。これにより、外側継手部材111の開口端部122までの肉厚を確保することで環状溝123の強度を確保するようにしている。
【0015】
しかしながら、この抜け止め機構125の場合、内部部品115のボール113がサークリップ124と接触して干渉するスライド端部位置が、外側継手部材111の開口端部122から奥側へ大きく離隔した部位となっている。その分だけ、外側継手部材111の軸方向寸法が長くなり、外側継手部材111の素材および重量の削減が困難となって等速自在継手の軽量コンパクト化が難しい。
【0016】
また、
図20および
図21に示すように、サークリップ124が嵌着される環状溝123は、外側継手部材111の内周面119に形成された断面略矩形状をなす。このように、環状溝123を深く形成していることから、サークリップ124を環状溝123に組み付けるに際して、サークリップ124の縮径量が大きくなることから、サークリップ124の組み付けおよび取り外しにおける作業性の向上が困難である。
【0017】
前述した抜け止め機構125の環状溝123は、以下の要領でもって製作される。つまり、環状溝123は、まず、
図22および
図23に示すように、外側継手部材111の開口端部122を旋削チップ129により加工する(
図23の矢印参照)。次に、
図24(A)(B)および
図25に示すように、外側継手部材111の開口端部122の加工面を突っ切りバイト130により加工する(
図25の矢印参照)。
【0018】
このように、断面略矩形状をなす環状溝123を旋削チップ129による加工と突っ切りバイト130による加工で形成することにより、環状溝123の形成には、旋削チップ129による加工と突っ切りバイト130による加工の二工程を必要とする。
【0019】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、抜け止め機構における環状溝の強度を確保すると共に止め輪の組み付け性を向上させ得る軽量コンパクトな摺動式等速自在継手及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、カップ状の外側継手部材と、その外側継手部材との間で転動体を介して角度変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材とを備え、転動体および内側継手部材を含む内部部品が外側継手部材に軸方向摺動自在に収容された摺動式等速自在継手及びその製造方法について、以下の特徴を有する。
【0021】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明に係る摺動式等速自在継手は、外側継手部材の開口端部の内周面に環状溝を形成し、その環状溝に嵌着された止め輪に転動体を干渉させることにより、内部部品の軸方向変位量を規制する抜け止め機構を具備し、その抜け止め機構の環状溝は、転動体と止め輪との接触点での軸方向接線との間で、外側継手部材の開口端部から奥側に向けて拡開する楔角度を持つように軸方向に対して傾斜した円錐面が形成されていることを特徴とする。
【0022】
本発明では、転動体と止め輪との接触点での軸方向接線と環状溝の円錐面との間で、外側継手部材の開口端部から奥側に向けて拡開する楔角度が形成された抜け止め機構を具備する。これにより、環状溝に嵌着されて円錐面と接する止め輪に転動体を干渉させることで、内部部品の軸方向変位量を確実に規制することができる。
【0023】
また、前述のような楔角度の円錐面を持つ環状溝としたことにより、内部部品の転動体が止め輪と接触して干渉するスライド端部位置が、外側継手部材の開口端部から近接した部位となる。これにより、外側継手部材の軸方向寸法を従来よりも短くすることができ、外側継手部材の素材および重量の削減が図れて等速自在継手の軽量コンパクト化が容易となる。
【0024】
さらに、前述のような楔角度の円錐面を持つ環状溝としたことにより、止め輪が嵌着される環状溝を浅く形成することができる。これにより、止め輪を環状溝に組み付けるに際して、止め輪の縮径量が従来よりも少なくて済むことから、止め輪の組み付けおよび取り外しにおける作業性の向上が図れる。
【0025】
本発明における抜け止め機構の環状溝は、円錐面から外側継手部材の奥側に向けて延び、かつ、止め輪と接する円筒面が形成されている構造が望ましい。このような構造を採用すれば、環状溝の溝底内径を小さくすることができる。これにより、抜け止め機構における環状溝の強度を確保できると共に、環状溝の加工における取り代を削減できる。
【0026】
本発明のおける抜け止め機構は、止め輪と円筒面との接触点から環状溝の奥側端面までの軸方向寸法が、止め輪を構成する線材の半径よりも長くなるように設定されている構造が望ましい。このような構造を採用すれば、転動体と干渉する止め輪を環状溝の円筒面に確実に接触させることができる。
【0027】
本発明における抜け止め機構は、環状溝の軸方向入口内径が、環状溝に嵌着された状態での止め輪の内径よりも大きく、かつ、止め輪と環状溝との接触点での内径よりも小さくなるように設定されている構造が望ましい。このような構造を採用すれば、環状溝に止め輪を確実に保持することができると共にその止め輪に転動体を確実に干渉させることができる。
【0028】
本発明における抜け止め機構は、環状溝の軸方向入口内径が、外側継手部材の開口端部の全周に亘って環状溝に嵌着された状態での止め輪の内径よりも大きく設定されている構造が望ましい。このような構造を採用すれば、環状溝に嵌着された止め輪の全周を外側継手部材の開口側から目視することができる。これにより、環状溝への止め輪の組み付け状態を確認することができ、環状溝からの止め輪の取り外しが容易となる。
【0029】
本発明に係る摺動式等速自在継手の製造方法は、外側継手部材の開口端部の内周面に、転動体を干渉させるための止め輪が嵌着される環状溝を形成し、環状溝は、転動体と止め輪との接触点での軸方向接線との間で、外側継手部材の開口端部から奥側に向けて拡開する楔角度を持つように軸方向に対して傾斜した円錐面が旋削チップによる加工のみで形成されていることを特徴とする。
【0030】
本発明では、前述のような楔角度の円錐面を持つ環状溝を旋削チップによる加工のみで形成することにより、環状溝の形成が旋削チップによる加工の一工程で済むため、従来よりも加工工数の削減が図れる。
【0031】
本発明における環状溝は、円錐面から外側継手部材の奥側に向けて延び、かつ、止め輪と接する円筒面が、旋削チップによる加工のみで形成されていることが望ましい。このようにすれば、円錐面および円筒面からなる環状溝の形成が旋削チップによる加工の一工程で済むため、加工工数の削減が図れる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、環状溝の強度を確保しつつ、外側継手部材の開口端部から近接した部位に環状溝を設けることができるので、外側継手部材の軸方向寸法の短縮化が図れる。これにより、外側継手部材の素材および重量の削減が図れて等速自在継手の軽量コンパクト化が容易となる。
【0033】
また、止め輪が嵌着される環状溝を浅く形成することができるので、止め輪を環状溝に組み付けるに際して、止め輪の縮径量が少なくて済む。これにより、止め輪の組み付けおよび取り外しにおける作業性の向上が図れる。
【0034】
さらに、止め輪が嵌着される環状溝の形成が旋削チップによる加工の一工程で済むため、加工工数の削減が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明に係る摺動式等速自在継手の実施形態を図面に基づいて以下に詳述する。
【0037】
以下の実施形態では、回転トルクを伝達する転動体としてボールを用いたダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)やクロスグルーブ型等速自在継手(LJ)に適用した場合を例示する。本発明は、転動体としてローラを用いたトリポード型等速自在継手(TJ)などの他の摺動式等速自在継手にも適用可能である。
【0038】
自動車のエンジンから車輪に動力を伝達するドライブシャフトは、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要がある。そのため、ドライブシャフトは、一般的に、エンジン側(インボード側)に軸方向変位および角度変位の両方を許容する摺動式等速自在継手を、車輪側(アウトボード側)に角度変位のみを許容する固定式等速自在継手をそれぞれ装着し、両者の等速自在継手をシャフトで連結した構造を具備する。
【0039】
図1は、前述のドライブシャフトに組み付けられた摺動式等速自在継手の一つであるダブルオフセット型等速自在継手(以下、単に等速自在継手と称す)の全体構成を示す。
【0040】
この実施形態の等速自在継手は、カップ状の外側継手部材11と、内側継手部材12と、転動体である複数個のボール13と、ケージ14とを備えている。内側継手部材12、ボール13およびケージ14からなる内部部品15が外側継手部材11に軸方向変位可能に収容されている。内側継手部材12の軸孔16にシャフト17の一方の軸端部がスプライン嵌合により結合されている。この内側継手部材12から延びるシャフト17の他方の軸端部(図示せず)に固定式等速自在継手の内側継手部材を結合させることによりドライブシャフトを構成している。
【0041】
外側継手部材11は、軸方向に延びる直線状トラック溝18が内周面19の円周方向複数箇所に等間隔で形成されている。内側継手部材12は、軸方向に延びる直線状トラック溝20が外側継手部材11のトラック溝18と対をなして外周面21の円周方向複数箇所に等間隔で形成されている。ボール13は、外側継手部材11のトラック溝18と内側継手部材12のトラック溝20との間に配されて回転トルクを伝達する。ケージ14は、外側継手部材11の内周面19と内側継手部材12の外周面21との間に介在してボール13を保持する。
【0042】
この等速自在継手では、シャフト17により外側継手部材11と内側継手部材12との間に作動角が付与されると、ケージ14に保持されたボール13は常にどの作動角においても、その作動角の二等分面内に維持され、外側継手部材11と内側継手部材12との間での等速性が確保される。また、ケージ14に保持されたボール13が外側継手部材11のトラック溝18上を転動することにより、外側継手部材11に対して内部部品15が軸方向摺動自在となっている。
【0043】
なお、この等速自在継手では、図示しないが、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防止すると共に継手外部からの異物侵入を防止するため、樹脂製あるいはゴム製の伸縮自在な蛇腹状ブーツを外側継手部材11とシャフト17との間に張設することにより、外側継手部材11の開口端部22を閉塞している。
【0044】
以上の構成からなる等速自在継手が組み付けられたドライブシャフトを車体に組み付けるに際して、固定式等速自在継手およびシャフトからなるドライブシャフトの自重が大きな荷重として等速自在継手のスライドアウト方向へかかる場合がある。そのため、内部部品15が外側継手部材11の開口端部22から飛び出すスライドオーバーを防止する必要がある。
【0045】
そこで、この実施形態の等速自在継手は、
図1に示すように、外側継手部材11の開口端部22のトラック溝18および内周面19に凹状の環状溝23を設け、その環状溝23に止め輪であるサークリップ24を嵌着した抜け止め機構25を採用している。
【0046】
この抜け止め機構25では、ドライブシャフトを車体に組み付けるに際して、内部部品15に大きな荷重がスライドアウト方向へかかった場合、
図2に示すように、内部部品15のボール13がサークリップ24と干渉することでボール13の軸方向変位量を規制する。これにより、内部部品15が外側継手部材11の開口端部22から飛び出すスライドオーバーを防止する。
【0047】
特に、この等速自在継手が組み付けられたドライブシャフトを車体に組み付けるに際して、固定式等速自在継手およびシャフトからなるドライブシャフトの自重が大きな荷重として等速自在継手のスライドアウト方向にかかった場合であっても、内部部品15のボール13がサークリップ24と干渉することで、その内部部品15のスライドオーバーを確実に防止することができる。その結果、ドライブシャフトの組み付け性が向上する。
【0048】
この実施形態の等速自在継手で採用された抜け止め機構25は、以下のような具体的構成を具備する。
【0049】
この実施形態の抜け止め機構25は、
図1および
図2に示すように、外側継手部材11の開口端部22のトラック溝18および内周面19、特に、開口端面26に近接する部位に形成された環状溝23と、その環状溝23に嵌着されたサークリップ24とで構成されている。ここで、
図3および
図4は、内部部品15の軸方向変位によりボール13がサークリップ24に接触して干渉した状態を示す。
【0050】
同図に示すように、抜け止め機構25の環状溝23は、ボール13とサークリップ24との接触点αでの軸方向接線L
1との間で、外側継手部材11の開口端部22から奥側に向けて拡開する楔角度θを持つように軸方向に対して傾斜した円錐面27が形成されている。この円錐面27は、サークリップ24との接触点βでの軸方向接線L
2と一致した位置関係にある。
【0051】
環状溝23は、前述の円錐面27と、外側継手部材11のトラック溝18から軸方向と直交する方向に延びる端面28とを備えている。サークリップ24は、環状溝23において円錐面27と端面28とに接触して円錐面27と端面28との間に挟み込まれた状態で環状溝23に保持されている。
【0052】
なお、楔角度θは5°〜25°の範囲に設定するのが良い。楔角度θが5°より小さくなると、保持力が十分でなくなりスライドオーバーを確実に防止することが困難となる。一方、楔角度θが25°より大きくなると、サークリップ24から外側継手部材11の環状溝23にかかる荷重方向がスライド方向に近くなり、溝強度の点で不利となり重量削減が困難となる。
【0053】
この抜け止め機構25では、環状溝23の軸方向入口内径D
1が、環状溝23に嵌着された状態でのサークリップ24の内径D
2よりも大きく、かつ、サークリップ24と環状溝23との接触点βでの内径D
3よりも小さくなるように設定されている。これにより、環状溝23にサークリップ24を確実に保持することができる。
【0054】
以上の構成からなる抜け止め機構25では、内部部品15に大きな荷重がスライドアウト方向へかかった場合、内部部品15のボール13がサークリップ24と接触して干渉することにより、ボール13の軸方向変位量を規制する(
図3および
図4参照)。
【0055】
この時、ボール13とサークリップ24との接触点αでの軸方向接線L
1と、サークリップ24と環状溝23の円錐面27との接触点βでの軸方向接線L
2とが、外側継手部材11の開口端部22から奥側に向けて拡開する楔角度θをなす。これにより、環状溝23に保持された状態のサークリップ24にボール13を干渉させることで、内部部品15の軸方向変位量を確実に規制することができる。
【0056】
また、前述のような楔角度θの円錐面27を持つ環状溝23としたことにより、内部部品15のボール13がサークリップ24と接触して干渉するスライド端部位置が、外側継手部材11の開口端部22から近接した部位となる。
【0057】
つまり、
図3に示すように、ボール13の中心O
1と外側継手部材11の開口端面26との軸方向寸法H
1が、従来の等速自在継手の場合(
図20参照)よりも小さくなる(H
1<H
0)。これにより、外側継手部材11の軸方向寸法を従来よりも短くすることができ、外側継手部材11の素材および重量の削減が図れて等速自在継手の軽量コンパクト化が容易となる。
【0058】
このように、環状溝23の円錐面27の楔角度θにより、サークリップ24から環状溝23の円錐面27に作用する抜け力が、外側継手部材11の軸方向よりも径方向外側へ向く方が大きくなってサークリップ24の中心O
2から円錐面27との接触点βに向けて作用するため、前述のように環状溝23が外側継手部材11の開口端部22から近接した部位に形成されていても、その環状溝23の強度を確保することができる。
【0059】
その結果、サークリップ24と円錐面27との接触点βから外側継手部材11の開口端面26までの軸方向寸法E
1を従来の等速自在継手の場合(
図21参照)よりも小さくすることができる(E
1<E
0)。この点でも、外側継手部材11の軸方向寸法を短くすることができ、外側継手部材11の素材および重量の削減が図れて等速自在継手の軽量コンパクト化に寄与する。
【0060】
さらに、前述のような楔角度θの円錐面27を持つ環状溝23としたことにより、
図4に示すように、サークリップ24が嵌着される環状溝23を従来の環状溝(
図21参照)よりも浅く形成することができる(D
4<D
0)。これにより、サークリップ24を環状溝23に組み付けるに際して、サークリップ24の縮径量が従来よりも少なくて済むことから、サークリップ24の組み付けおよび取り外しにおける作業性の向上が図れる。また、サークリップ24の内径D
2とボール13の外接円径D
5との差F
1が従来の等速自在継手の場合(
図21参照)よりも小さくなっている(F
1<F
0)。
【0061】
この実施形態の抜け止め機構25では、
図3および
図4に示すように、環状溝23の軸方向入口内径D
1が、外側継手部材11の開口端部22の全周に亘って環状溝23に嵌着された状態でのサークリップ24の内径D
2よりも大きく設定されている。なお、
図5では、外側継手部材11の環状溝23に嵌着されたサークリップ24のみを示し、内部部品15を図示省略している。
【0062】
これにより、
図5に示すように、環状溝23に嵌着された状態にあるサークリップ24の全周を外側継手部材11の開口側から目視することができる。その結果、環状溝23へのサークリップ24の組み付け状態を確認することができる。また、サークリップ24の縮径量が少ないことから、環状溝23からのサークリップ24の取り外しが容易となる。
【0063】
以上の実施形態で説明した抜け止め機構25の環状溝23は、以下の要領でもって製作することが可能である。つまり、環状溝23は、
図6(A)(B)および
図7に示すように、外側継手部材11の開口端部22を旋削チップ29により加工することで実現可能である(
図7の矢印参照)。
【0064】
このように、前述のような楔角度θの円錐面27を持つ環状溝23を旋削チップ29による加工のみで形成することにより、環状溝23の形成が旋削チップ29による加工の一工程で済むため、従来よりも加工工数の削減が図れる。
【0065】
なお、
図6(A)(B)および
図7に示す旋削チップ29による加工では、外側継手部材11の開口端部22を旋削チップ29により外側継手部材11の内周面19まで旋削しているが(
図7の矢印参照)、
図8(A)(B)および
図9に示すように、外側継手部材11の開口端部22を旋削チップ29により外側継手部材11の内周面19まで旋削せず、開口端面26のみを旋削するようにしてもよい(
図9の矢印参照)。
【0066】
以上で説明した実施形態の抜け止め機構25(
図3および
図4参照)では、環状溝23を円錐面27のみで構成した場合を例示したが、
図10および
図11に示すような抜け止め機構55であってもよい。なお、
図10および
図11において、
図3および
図4と同一または相当部分には同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0067】
図10および
図11に示す抜け止め機構55の環状溝53は、前述した円錐面27と、その円錐面27から外側継手部材11の奥側に向けて延び、かつ、サークリップ24と接する円筒面50とで構成されている。サークリップ24は、環状溝53において円錐面27と円筒面50とに接触した状態で環状溝53に保持されている。
【0068】
この実施形態の環状溝53では、円錐面27に加えて円筒面50を形成したことにより、環状溝53の溝底内径を円錐面27のみの場合(
図4参照)よりも小さくすることができる。つまり、外側継手部材11の開口端部22での肉厚を大きくすることができるので、抜け止め機構55における環状溝53の強度を確保することができると共に、環状溝53の加工における取り代を削減することができる。
【0069】
また、この実施形態の抜け止め機構55では、サークリップ24と円筒面50との接触点γから環状溝53の奥側端面28までの軸方向寸法Gが、サークリップ24を構成する線材の半径Rよりも長くなるように設定されている。これにより、ボール13と干渉するサークリップ24を環状溝53の円筒面50に確実に接触させることができる。
【0070】
なお、この実施形態の抜け止め機構55の環状溝53における円筒面50以外の構成および作用効果については、
図3および
図4に示す実施形態における抜け止め機構25と同様であるため、重複説明は省略する。
【0071】
以上の実施形態で説明した抜け止め機構55の環状溝53は、以下の要領でもって製作することが可能である。つまり、環状溝53は、
図12(A)(B)および
図13に示すように、外側継手部材11の開口端部22を旋削チップ29により加工することで実現可能である(
図13の矢印参照)。
【0072】
このように、前述のような楔角度θの円錐面27および円筒面50を持つ環状溝53を旋削チップ29による加工のみで形成することにより、環状溝53の形成が旋削チップ29による加工の一工程で済むため、従来よりも加工工数の削減が図れる。
【0073】
なお、
図12(A)(B)および
図13に示す旋削チップ29による加工では、外側継手部材11の開口端部22を旋削チップ29により外側継手部材11の内周面19まで旋削して環状溝53を形成しているが(
図13の矢印参照)、
図14(A)(B)および
図15に示すように、外側継手部材11の開口端部22を旋削チップ29により外側継手部材11の内周面19まで旋削せず、開口端面26のみを旋削するようにして環状溝53を形成してもよい(
図15の矢印参照)。
【0074】
以上の実施形態(
図1および
図2参照)では、ボールタイプの一つであるダブルオフセット型等速自在継手に適用した場合を例示したが、
図16および
図17に示す実施形態のように、他のボールタイプであるクロスグルーブ型等速自在継手にも適用可能である。
【0075】
この等速自在継手は、
図16に示すように、カップ状の外側継手部材31、内側継手部材32、転動体である複数個のボール33およびケージ34を備えている。内側継手部材32、ボール33およびケージ34からなる内部部品35が外側継手部材31に軸方向変位可能に収容されている。内側継手部材32の軸孔36にシャフト37の軸端部がスプライン嵌合により結合されている。
【0076】
外側継手部材31は、軸方向に延びる直線状トラック溝38が軸線に対して交互に逆方向に傾斜した状態で内周面39の円周方向複数箇所に等間隔で形成されている。内側継手部材32は、軸方向に延びる直線状トラック溝40が外側継手部材31のトラック溝38と反対方向に傾斜した状態で外周面41の円周方向複数箇所に等間隔で形成されている。
【0077】
ボール33は、外側継手部材31のトラック溝38と内側継手部材32のトラック溝40との交差部に組み込まれて回転トルクを伝達する。ケージ34は、外側継手部材31の内周面39と内側継手部材32の外周面41との間に介在してボール33を保持する。
【0078】
この実施形態の等速自在継手においても、
図16に示すように、外側継手部材31の開口端部42のトラック溝38および内周面39に凹状の環状溝43を設け、その環状溝43にサークリップ44を嵌着した抜け止め機構45が適用可能である。
【0079】
この抜け止め機構45においても、内部部品35に大きな荷重がスライドアウト方向へかかった場合、
図17に示すように、内部部品35のボール33がサークリップ44と干渉することでボール33の軸方向変位量を規制する。これにより、内部部品35が外側継手部材31の開口端部42から飛び出すスライドオーバーを防止する。
【0080】
この抜け止め機構45については、
図1および
図2に示す等速自在継手における抜け止め機構25,55と同様の構成および作用効果を有することから、重複説明は省略する。
【0081】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。