【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例で前提とした電力系統の構成例を示す略図である。
【0019】
図1に例示された電力系統における電力の主要な流れとしては、発電所Gにて発電された電力は送電線PLを経由し、いくつかの電圧階級の変電所SSを経て、配電系統DLに送電される。配電系統DLの適宜箇所には、大口需要家Hhや小口需要家Hlの負荷Loadが接続され、さらに近年では多数の太陽光発電設備PVが導入されてきている。なお、配電設備では、計測点103で、潮流として有効電力Pや無効電力Qを計測している。
【0020】
図1のような電力系統において、太陽光発電設備PVなどの分散電源が導入される前は、大口需要家Hhや小口需要家Hlによる負荷を計測することができていた。これに対し昨今では太陽光発電設備PVが配電系統などにも多数導入されつつあるため、需要家の負荷Loadを正しく把握するには、何等かの方法で太陽光発電設備PVの発電量を取得する必要がある。
【0021】
しかし、広範囲に分布し、大小様々な容量の全ての太陽光発電設備PVの発電量を、リアルタイムで継続的に把握し続けることは、コスト的に現実的ではない。よって、需要家の負荷Loadと混合された状態で、計測点103で計測される潮流値のみから、太陽光発電設備PVの発電量を推定する方式が望まれている。
【0022】
太陽光発電設備PVの発電量を正確に推定することで、日射の急減に備えた火力発電等の調整力を必要十分な値とすることができ、コスト面で有利となる。また太陽光発電設備PVの発電量を正確に推定できれば、実際の負荷の値も知ることができるため、太陽光発電設備PVの解列時等に,過負荷とならない適切な再閉路動作を実施することが可能となる。また、配電線や電圧調整機器の計画的な設備投資のための、正確な基礎データを得ることが出来る。
【0023】
図2は、太陽光発電設備PVを備える電力系統を表す有効電力P−無効電力Q平面を示している。次に
図2を用い、本発明の実施例に係る太陽光発電量推定手法の原理を説明する。
図2の有効電力P−無効電力Q平面において、横軸は潮流の有効電力値P、縦軸は同じく無効電力値Qである。なお
図2では、有効電力Pが正、無効電力Qが負を示す第4象限を中心に示しているが,他の象限の場合でも,複数の象限をまたぐ場合でも同様であり象限による制限はない。
【0024】
図において、Lは負荷特性であり、負荷特性Lは、太陽光発電設備PVの連系がなく、負荷Loadのみと仮定した場合の潮流の軌跡であり、その傾きがalである。今後,有効電力P−無効電力Q平面における傾きを指して力率と表記することがあるが,正式な力率へは逆正接や余弦関数等を用い容易に変換できる。ここで、656は、傾きがalの負荷特性Lと無効電力Q軸との交点で、以降この交点656を負荷特性Lの無効電力Q軸切片Q
0と記す。また、変電所SSの送り出し点103等で計測した潮流計測値が、有効電力Pm、無効電力Qmであり、これを
図2の有効電力P−無効電力Q平面上に示した位置が点657であり、この座標が(P
m、Q
m)である。次に、点657の座標(P
m、Q
m)を通って傾きapの直線667と、負荷特性Lとの交点672の座標を(P
X、Q
X)とすると、P
X−P
mが、太陽光発電量の推定値666となる。なお傾きapは、太陽光発電設備の力率であり、太陽光発電量のΔP−ΔQ平面上での変動方向を表しており、傾きalは、負荷特性Lの傾き(負荷の力率)であり、需要家の負荷のΔP−ΔQ平面上での変動方向を表している。
【0025】
上記太陽光発電量推定手法では、傾きal、傾きap、及び無効電力Q軸切片Q
0を、推定用の諸定数として使用する。これら諸定数のうち、傾きapは、太陽光発電設備に関する情報あるいは、昼間の潮流計測値の変動の大きな計測値から、比較的容易に求めることが出来る。また傾きalが既知の場合、無効電力Q軸切片Q
0は日照の無い時間帯の潮流計測値から、傾きalで無効電力Q軸に下した直線との交点として比較的容易に求めることが出来る。そこで、以降の実施例の多くは、潮流計測値を用いて傾きalを求める手法について説明する。
【0026】
図3は、本発明に係る太陽光発電量推定の機能ブロック図を示している。次に
図3を用いて太陽光発電量推定の考え方を説明する。
【0027】
図3の太陽光発電量推定機能は、これを大別すると太陽光発電量推定部200と、諸定数決定部201から構成されている。
【0028】
このうち太陽光発電量推定部200は、潮流計測情報取得手段221と、太陽光発電量推定手段222で構成されており、太陽光発電量推定の都度、実行される。諸定数決定部201は、必要に応じて適宜実行され、太陽光発電量推定に必要な諸定数の情報として、傾きal、傾きap、及び無効電力Q軸切片Q
0を算出し、適宜のタイミングで太陽光発電量推定部200に提供する。
【0029】
太陽光発電量推定部200では、まずセンサ類からの計測情報を潮流計測情報取得手段221にて取得する。取得する情報は少なくとも、有効電力P、無効電力Qを含むものとする。次に、太陽光発電量推定手段222にて、上記の潮流計測点103の配下に連系されている太陽光発電量を推定する。推定方法は、前述した
図2の方式に加え、潮流計測値(P
m、Q
m)の時間差分値を用いる方式等が利用できる。上記潮流の計測と太陽光発電量の推定は、例えば秒単位などの短い周期で行っても良い。
【0030】
次に諸定数決定部201について説明する。この諸定数決定部201は、その出力として少なくとも負荷特性の傾きalを算出するものであるので、本発明に係る電力系統の力率推定装置を示したものということができる。諸定数決定部201は、計測値データベース231、負荷特性の傾きの仮定値保持手段233、計測値射影手段232、射影値のヒストグラム作成手段234、太陽光発電量の余弦特性合致度判定手段235、統括制御手段236により構成されている。
【0031】
次に太陽光発電量推定手段222にて使用する推定用の諸定数の求め方について説明する。諸定数の例としては、太陽光発電の力率ap、負荷特性Lの傾きal、無効電力Q軸切片Q
0などがある。左記定数のうち、太陽光発電の力率apは、設備情報や、潮流値の変化の大きいデータなどを用いて比較的容易に求めることが出来る。また負荷特性Lの傾きalが求められたとすると、負荷特性Lの無効電力Q軸切片Q
0は日照の無い時間帯の潮流値から算出できる。よって、無効電力Q軸切片Q
0がわかると、太陽光発電量推定に必要な諸定数が揃うことになる。
【0032】
以降説明する
図3の機能ブロックは、上記、負荷特性Lの傾きalを求めるものである。なお、負荷特性Lの傾きalを求めるということは、負荷の力率を求めるということである。
【0033】
図3の諸定数決定部201において、まず計測値データベース231は、潮流計測情報取得部221からの計測値を取得時刻情報とともに格納する。計測値射影手段232は、前記格納したデータ(以下、潮流計測値又は(P
m、Q
m)と記載する)を有効電力P−無効電力Q平面上で、無効電力Q軸に射影する。射影は、負荷特性Lの傾きalの仮定値保持手段233にて保持している負荷特性Lの傾きalに沿って、点657の座標位置(P
m、Q
m)から無効電力Q軸上に直線を伸ばすことで行う。なお、負荷特性Lの傾きalの仮定値は、値を変更しながら順次与えられ、仮定値毎に以降の処理が実行される。
図4は、計測値射影手段232の動作の説明をするための有効電力P−無効電力Q平面を示す図であり、詳細を後述する。
【0034】
次に、射影値のヒストグラム作成手段234では、前述の無効電力Q軸上の射影のヒストグラムを作成する。このとき、ヒストグラムは、例えば30分や1時間などの時間帯毎に作成する。仮定した負荷特性Lの傾きalが正しいとき、ヒストグラムを時系列で並べると、太陽光発電量の時系列値を反映する形状のグラフが得られる。これは、計測値射影手段232で負荷特性Lの傾きalに沿った射影を行ったことにより、負荷の変動成分を排除できるためである。
図5は、射影値のヒストグラム作成手段234の動作の説明をするための有効電力P−無効電力Q平面を示す図であり、詳細を後述する。
【0035】
次に、太陽光発電量の余弦特性合致度判定手段235にて、得られたヒストグラムの時系列値が、太陽光発電量の時系列値として妥当であるか否かを判定する。判定には、斜面日射量(太陽光パネルが取り付けられた斜面における日射量)の時系列値に沿った経路で、ヒストグラムの度数を線積分した値を用いる。仮定した負荷特性Lの傾きal(負荷特性Lの傾きalの仮定値保持手段233で保持)が正しいとき、線積分値は大きくなる。線積分値を求める動作を、負荷特性Lの傾きalの仮定値保持手段233で保持する負荷特性Lの傾きalを変え、実施する。複数回試行したうち、最も大きな線積分値を得た際の、負荷特性Lの傾きalの仮定値を、太陽光発電量推定に使用する諸定数として、太陽光発電量推定手段222に向け出力する。
図6は、太陽光発電量の余弦特性合致度判定手段235の動作の説明をするための有効電力P−無効電力Q平面を示す図であり、詳細を後述する。
【0036】
諸定数決定部201における各部の動作は、統括制御手段236にて統括的に制御される。統括制御手段236では、負荷特性Lの傾きalの仮定値と線積分値の保持も行う。また、太陽光発電量推定のための諸定数を求める動作は、高頻度で行う必要は必ずしもない。例えば、主要な太陽光発電設備や需要家の設備の変更がない場合は、実施の頻度を低くできる。
【0037】
次に、
図3の主要な機能ブロックについて、その動作を説明する。まず、太陽光発電量推定手段222の動作は、前述の
図2に示した通りである。
【0038】
計測値射影手段232の動作について、
図4を用いて説明する。まず潮流計測情報取得手段221から、
図4の点657に相当する潮流計測値(P
m、Q
m)を取得する。ついで点657に相当する潮流計測値(P
m、Q
m)を通り、負荷特性Lと平行な直線L1と、無効電力Q軸との交点681を求める。この交点の無効電力の値をQ
ICとする。以上の動作を、入力して得た各時刻の潮流計測値(P
m、Q
m)毎に実行することが、計測値射影手段232の動作である。
【0039】
次に、射影値のヒストグラム作成手段234の動作を、
図5を用いて説明する。まず
図5左に示すように、多数の潮流計測値(P
m1、Q
m1)、(P
m2、Q
m2)・・・(P
mn、Q
mn)について、各々無効電力Q軸への射影を前述した手法で求める。求めた射影値をそれぞれQ
IC1、Q
IC2・・・Q
ICnとする。
【0040】
ここで、これらの射影値Q
IC1、Q
IC2・・・Q
ICnを、無効電力Q軸に沿った階級毎に度数を累積する。累積したヒストグラムを
図5右の683に示す。ヒストグラムは、本来離散値であるが、
図5ではヒストグラム683は簡略化のために連続値で示している。尚、同図のヒストグラム683は、階級に相当する軸を一般のヒストグラムとは逆の縦軸にとっている。これは有効電力P−無効電力Q平面の無効電力Q軸と共通化したためである。また、横軸は、頻度(度数)を示している。
【0041】
以上の計測値射影手段232の動作と、射影値のヒストグラム作成手段234の動作は、負荷特性Lの傾きalの仮定値保持手段233で保持する負荷特性Lの傾きalを変えながら順次実行されている。このため、
図6の太陽光発電量の余弦特性合致度判定手段235の動作の説明をするための有効電力P−無効電力Q平面を示す図では、複数の傾きalでの動作内容を、負荷特性Lの傾きal1を代表事例として示して説明を行う。
図6の左から順に傾きal1、al2・・・alnの時の動作内容を示している。なお傾きal2・・・alnでは、傾きal1と同じ処理をしているので説明を割愛する。
【0042】
図6は、射影値のヒストグラム作成手段234におけるヒストグラムの作成を、1時間毎や30分毎の時間断面毎に作成した例を示している。
図6の(a)は、負荷特性Lの傾きがal1であり、かつある時間断面t
sjでの射影値のヒストグラム683jである。図示の例では、射影値Q
IC1近辺の階級に属する頻度が最も高い例を示している。なお、時刻断面の例として、30分を時間帯の幅とした場合、例えば10:00から10:30までの30分間などを用いる。同時間帯のデータを用い、ヒストグラム683jを作成する。なお30分ごとの時間帯幅は、日照のある例えば午前5時から午後7時までの30分ごとにそれぞれ作成される。
【0043】
図6の(b)は、1つの時間帯のヒストグラム683jの例を示している。ここでは、ヒストグラムの起点を、仮定した傾きal1での負荷特性Lにおける無効電力Q軸切片Q
0においている。このため、
図6の(a)において発生頻度が最も高い射影値Q
IC1近辺の値は、
図3の起点である無効電力Q軸切片Q
0からは最遠方に位置付けされて表記されている。なおここでは発生頻度が最も高い射影値Q
IC1近辺の値をQ
ICxとして表している。
【0044】
これらを時間帯毎に、時系列で並べたものが
図6の(c)である。ヒストグラムの曲線をl1、l2・・・lmとしたとき、l1は日の出の午前5時から午前5時30分の30分間に計測された潮流計測値から求めたヒストグラムの特性、l2は午前5時30分から午前6時の30分間に計測された潮流計測値から求めたヒストグラムの特性、lmは午後6時30分から日没の午後7時の30分間に計測された潮流計測値から求めたヒストグラムの特性を表している。
【0045】
図6の(c)のヒストグラムのピークは、太陽光発電量の時系列値に相似的な形状となる。ここで相似的とは、無効電力Q軸方向のスケーリングのみの違いといいう意味で用いている。ヒストグラムが、負荷変動の影響を受けないのは、計測値射影手段232で射影の操作を行っているためである。負荷Loadの変動が負荷特性L上のみを動くとすると、射影により、負荷変動は、無効電力Q軸上の射影に影響を与えない。また、ヒストグラムのピークは、太陽光発電量のうち、直達光による太陽光発電量の時系列値に近いかたちで相似となる。これは、散乱光の重畳による太陽光発電量の増加は、継続時間が短く、ピークから外れた箇所に度数が累積するためである。ヒストグラムのピークが直達光により近いと、後述する線積分値による判定の際に精度の向上が期待できる。
【0046】
次に、太陽光発電量の余弦特性合致度判定手段235の動作について、
図6の(d)で説明する。
図6の(d)に示した曲線691は、太陽光パネルの斜面日射量にある係数αをかけ、1日での時系列値としたものである。曲線691は1日の時間推移でみると余弦特性を示す。他方において、ヒストグラム683を1日の時間推移で時系列に並べ、そのピーク位置(頻度が最も高い位置)の軌跡を描くと、理想的には晴天であれば1日の時間推移でみるとこれも余弦特性を示す。
図6の(d)では、曲線691とヒストグラムからの想定曲線が合致し、両者の余弦特性のピークに合致する形状となっている例を示している。
【0047】
しかし実際問題としては、ヒストグラム683の高頻度位置から求めた想定曲線は曇りや雨などの影響により、正しく余弦曲線を反映しないのが通常であり、このためヒストグラム683は複数日の合計の情報から求めておくのがよい。これにより可能な範囲で余弦曲線に近いものとすることができる。
【0048】
次に本発明においては、
図6に示すように、負荷特性Lの傾きalを変えて、複数の傾きの時のヒストグラム683を作成しているが、正しい傾きalでないときには曲線691の余弦極性を正しく反映することができない。逆に述べると、曲線691の余弦極性に近いヒストグラム683を選択すれば、その時の傾きalが負荷特性Lの傾きalとして、採用し得る正しい傾きalということができる。
【0049】
具体的には例えば、もし負荷特性Lの傾きalの仮定値保持手段233で仮定した負荷特性Lの傾きalが正しく、かつ
図6の(d)のようにピークに合致する条件の場合、ピークの曲線691に沿った経路でヒストグラムの階級値を累積(線積分)すると、累積値は大きくなる。他方、負荷特性Lの傾きalの仮定値保持手段233で仮定した負荷特性Lの傾きalが正しくない場合、ヒストグラム683のピークは、斜面日射量の時系列値と相似形にはならない。よって、線積分値の大小をもって、仮定した負荷特性Lの傾きalの正しさを判定できる。線積分値を最大となった際に使用した負荷特性の傾きalの仮定値を、負荷特性Lの傾きalとして、222宛てに出力する。
【0050】
負荷特性Lの傾きalの仮定値を変え、線積分を求め、最大値となるか否かの一連の動作は、統括制御手段236にて統括的に制御される。
【0051】
ここで、
図6の(d)の説明時に使用した、斜面日射量にかけるべき係数αについて説明する。この係数αは、後述する理由で、直接求めることはできない。しかし、
図7のように、斜面日射量にかけるべき係数をα1、α2・・・αnのように変化させ、累積値が最大となる係数を求めることで一般性を損なうことなく判定ができる。
【0052】
この操作により、太陽光発電量推定の対象となる系統に連系された、太陽光発電設備の定格値が不明の場合にも、適用可能となる。また、太陽光発電設備の方位角が南の場合、太陽光パネルの傾斜角の影響は、前述した斜面日射量にかける係数の走査によって相殺できる。また、ヒストグラム683の時系列値から、日の出や日没のタイミングも判断できるため、太陽光発電量推定の対象とする地域の緯度経度、月日の情報も不要となる。太陽光発電設備の方位角が南の場合、斜面日射量もランベルトの余弦則により十分な精度で簡易に算出できる。また,太陽光発電設備の方位角が南から10度前後ずれた場合でも,おおよそ余弦とみなすことが出来る。
【0053】
以上から、太陽光発電量推定の対象とする系統に連系される支配的な太陽光発電設備のパネル設置方位が南の場合、潮流値以外の外部情報を用いることなく、負荷特性の傾きを求めることが出来る。これは、従来手法が、衛星や気象観測システムからの日射量データ及び、太陽光発電設備の定格値等の情報が必要であることと比較し、優位である。あるいは、日射量情報を用いないが、太陽光発電量を0とみなせる日の到来を待つ必要がある手法と比較し、優位である。本実施例の手法によれば、例えば、学習データの取得期間の天候が全て晴れの場合にも適用できる。これは、砂漠地帯や乾季のある地域に適用する場合に有効に利用できる。
【0054】
次に
図8を用いて統括制御手段236の動作フローを説明する。まず処理ステップS451で斜面日射量の時系列値を取得する。推定対象の電力系統で支配的な太陽光発電設備PVのパネルの方位角が、ほぼ真南の場合は、斜面日射量の時系列値に、近似的に正弦関数を用いても、実用上十分な精度が得られる。よって,対象の系統の支配的或いは平均的な太陽光発電設備PVのパネルの傾斜角が不明の場合でも,厳密な斜面日射量の計算を用いず,単純な正弦関数で代用できる。加えて,使用する潮流計測値の日付も不要となる。また太陽光発電設備の緯度経度も不要となる。尚,日射量の時間推移を余弦または正弦と記しているが,基準時刻が異なるだけで同一である。両者の選択は正弦波や照度の余弦特性など慣用表現に従った。
【0055】
次に処理ステップS452で、負荷特性Lの傾きであるalを仮設定する。設定範囲は、実際の系統で生じうる値の上限から下限としても良く、対象の電力系統の負荷特性Lの傾きの範囲があらかじめ予想される場合は、ある程度狭い範囲としてもよい。例えば、上記何れかの範囲の下限にal値を設定する。設定値は、負荷特性の傾きの仮定値保持手段233に保持される。次に、処理ステップS453にて、計測値格納手段231に格納している潮流計測値(P
m、Q
m)を読みだす。次に処理ステップS454にて、無効電力Q軸への射影値を作成する。この処理は、計測値射影手段232にて実施される。
【0056】
次いで、処理ステップS455にて、射影値のヒストグラムを時間帯毎に作成する。この処理は、射影値のヒストグラム作成手段234にて実行される。通常ヒストグラムの作成には複数の(P
m、Q
m)を用いるため、適宜処理ステップS453からの処理を繰り返す。
【0057】
次に処理ステップS456にて斜面日射量に掛ける係数αを設定する。次に、処理ステップS457で、斜面日射量に係数αをかけた経路にそって、線積分を実行する。処理ステップS456、S457、S458を斜面日射量に掛ける係数αを変化させつつ行い、斜面日射量に掛ける係数αに対する線積分値の最大値を記録する。
【0058】
図11は、斜面日射量に掛ける係数αを変化させた場合の線積分値の推移の例である。同図は2つのプロットを有するが、処理ステップS452で仮定した1つのalの値に対し、
図11の1つのプロットが対応する。505が負荷特性の傾きalの仮定が正しい場合のプロット、506が負荷特性の傾きalの仮定が正しくない場合のプロットである。
【0059】
処理ステップS456、457、458の一連の処理により、
図11の505のようなプロットを作成する。前述の斜面日射量に掛ける係数に対する線積分値の最大値を記録するとは、プロット505が最大値A点をとったときの線積分値Cを記録することに相当する。
【0060】
以上処理ステップS452〜処理ステップS459の動作を、S452で設定する負荷特性の傾きalを変えつつ実施する。この時、次のal値に対し、
図11の506のようなプロットが作成される。よって、次のal値に対する線積分値の最大値は、Dである。
【0061】
上記のように、仮定したalの値に対応し、各々のalに対応する線積分値の最大値(CやDなど)を処理ステップS459で保持する。処理ステップS452で設定する負荷特性Lの傾きalの範囲を全て評価し終えたとき、処理ステップS460で、最大の線積分値に対応するalを、太陽光出力推定のための諸定数の一部として、太陽光発電量推定部222等に送出する。
【0062】
次に、
図10を用い、負荷特性Lの傾きalの仮定値の違いによるヒストグラム形状の違いの例を示す。同図の(a)は、負荷特性Lの傾きalの仮定値が正しい場合、同じく(b)は仮定値が正しくない場合の例である。尚、同図では、日照の無い時間帯も含め、ヒストグラム化している。加えて、ヒストグラムの階級の範囲も、無効電力Q軸切片Q
0より小さい範囲まで拡大している。
【0063】
図10の(a)では、日照のある時間帯のヒストグラムのピーク位置が、時系列的に正弦波状に生じており、前出の無効電力Q軸切片の余弦特性合致度判定手段235による線積分値が大きくなることが予想できる。一方
図10の(b)では、上記ピーク位置の形状が正弦波の形状からずれており、正弦波状の経路による線積分値が、(a)と比較して大きくならないことが予想できる。