特許第6899739号(P6899739)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899739
(24)【登録日】2021年6月17日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】ガス分離体及びガス分離装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20210628BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20210628BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20210628BHJP
   B01D 53/26 20060101ALI20210628BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20210628BHJP
   C01F 7/02 20060101ALI20210628BHJP
   F24F 3/14 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   B01D71/02 500
   B01D69/10
   B01D69/00
   B01D53/26
   B01D53/22
   C01F7/02 D
   F24F3/14
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-167037(P2017-167037)
(22)【出願日】2017年8月31日
(65)【公開番号】特開2019-42654(P2019-42654A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2019年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】米津 麻紀
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 ひとみ
(72)【発明者】
【氏名】末永 誠一
【審査官】 小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5621965(JP,B2)
【文献】 特開2003−275550(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0165385(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22、61/00−71/82
B01D 53/26−53/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、前記第1の面と対向する第2の面と、前記第1の面から前記第2の面に通じる細孔とを有する多孔質基材と、
前記多孔質基材の前記第1の面及び前記第2の面の少なくとも一方に、前記細孔の少なくとも一部を塞ぐように設けられ、繊維状無機物質を含む多孔質膜とを具備し、
前記多孔質膜の一部は、前記多孔質基材の前記細孔の内壁に沿って侵入しており、前記多孔質膜の前記細孔に対する平均進入深さが前記多孔質膜の平均膜厚以上であり、
前記多孔質基材は、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、又は銅の酸化物、窒化物、炭化物、及びケイ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む多孔質セラミックスであり、
前記繊維状無機物質は、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、又は銅の水和物を含む酸化物、窒化物、炭化物、水酸化物、ケイ酸塩、炭酸塩、及びリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、ガス分離体。
【請求項2】
前記繊維状無機物質は1nm以上10nm以下の平均直径を有する、請求項1に記載のガス分離体。
【請求項3】
前記多孔質膜の平均細孔径は1nm以上40nm以下である、請求項1又は請求項2に記載のガス分離体。
【請求項4】
前記多孔質膜の平均膜厚は0.5μm以上50μm以下である、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のガス分離体。
【請求項5】
前記繊維状無機物質は、ベーマイト及び擬ベーマイトからなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、前記多孔質セラミックスはアルミナを含む、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のガス分離体。
【請求項6】
前記多孔質基材の平均細孔径が0.15μm以上50μm以下である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のガス分離体。
【請求項7】
前記多孔質基材の体積気孔率が20%以上70%以下である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のガス分離体。
【請求項8】
空気透過率が1×10−16以上1×10−10以下である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のガス分離体。
【請求項9】
第1の空間と第2の空間との間に配置され、前記第2の空間内の分離対象ガスの分圧を前記第1の空間内の前記分離対象ガスの分圧より低くすることにより、前記第1の空間内に存在する前記分離対象ガスを前記第2の空間に透過させるガス分離体として用いられる、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のガス分離体。
【請求項10】
第1の空間と、
前記第1の空間に通じる第2の空間と、
前記第1の空間と前記第2の空間との間を仕切るように設けられた、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のガス分離体と、
前記第2の空間の分離対象ガスの分圧が前記第1の空間の前記分離対象ガスの分圧より低くなるように、前記第2の空間の前記分離対象ガスの分圧を調整するガス圧調整部とを具備し、
前記第1の空間に存在する前記分離対象ガスを、前記ガス分離体を介して前記第2の空間に透過させる、ガス分離装置。
【請求項11】
前記ガス圧調整部は、前記第2の空間の圧力を前記第1の空間の圧力より減圧する圧力調整機構を備える、請求項10に記載のガス分離装置。
【請求項12】
前記分離対象ガスは水蒸気であり、前記第1の空間に存在する前記水蒸気を、前記ガス分離体を介して前記第2の空間に透過させる、請求項10又は請求項11に記載のガス分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ガス分離体及びガス分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用エアコン等の空調技術においては、冷媒及びエネルギー効率の両面で技術が進展し、それに伴ってより快適な生活環境が求められている。このため、温度ばかりでなく、調湿、換気、気流調整、空気清浄等の空気調和機の多機能化が進んできている。エネルギー効率の向上は、ここ最近のエネルギー不足からも最重要課題となっている。高温多湿のアジア諸国においても、生活水準の向上に伴って、調湿、特に除湿は重要と考えられており、これを省エネで行うことで環境負荷の小さい空調が求められている。現在主流となっているコンプレッサー等を用いた冷媒冷却による除湿では、空気を冷却して水蒸気を凝縮すると共に、冷却した空気を再加熱して温度調整するため、多大のエネルギーを要する。このため、消費電力が増加することから、環境負荷の大きさが課題となっている。
【0003】
デシカント空調等のガス分離装置は、水蒸気を吸着する吸湿材を用いた吸湿器で室内の水分を吸着した後、これを温めて屋外に排出するため、冷媒式の除湿より省エネ性に優れている。吸湿材としては、例えばセラミックス多孔質体やゼオライト等の多孔質体に、ナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム等の塩化物や臭化物からなる潮解性物質を含浸担持させたものが知られている。しかし、吸湿材は水を吸着し続けることで飽和するため、再生処理が必要となる。吸湿材の再生処理は、吸湿材を加熱して水を排出させることにより行われる。吸湿材の再生処理を冷房と併用することは、非効率的である。
【0004】
一方、計装機器等に用いられる空気を脱湿するために、ゼオライト膜のような吸湿膜を用いた脱湿装置が知られている。ゼオライト膜を用いた脱湿装置は、水蒸気の吸湿性能に優れる反面、水蒸気の透過流量や透過速度が小さいという問題を有している。空調用途等では流量や流速を確保する必要があるため、ゼオライト膜を用いた脱湿装置では実用的な空調装置を構成することができない。ゼオライトを吸湿材として用いる場合、膜以外には粉末成形体を用いることが検討されている。しかしながら、結合剤を用いた成形体は、結合剤により粒子表面が覆われてしまうため、ゼオライト本来の吸湿性能を得ることができない。ゼオライト粉を圧縮して固めた圧粉体は、初期性能に優れる反面、時間の経過による劣化が著しく、ゼオライト膜と同様に実用的な空調装置を構成することができない。
【0005】
現行の空調方式に代わる省エネで低コストの手法として、再生処理を必要としない水蒸気分離体を用いた連続除湿方式が検討されている。水蒸気分離体を用いた調湿装置の構造としては、ポリエチレンやフッ素樹脂等を用いた2枚の水蒸気透過性膜間に塩化リチウム水溶液等の液体吸収剤を充填したガス分離体を、調湿する室内等の空間と室外等の空間との間に配置した構造が挙げられ、室内の空気と液体吸収剤との間で水蒸気透過性膜を介して水蒸気の授受が行われる。しかしながら、水蒸気透過性膜は破損しやすく、さらにこの方式では水蒸気の移動速度が遅いため、効率的に除湿を行うことが難しい。
【0006】
また、例えばアルコール水溶液から水を分離したり、水蒸気とそれとは異種の気体との混合気体から異種気体を分離する無機分離膜として、多孔質材料からなる支持体の一方の面上に、30〜5000の平均アスペクト比を有する繊維状アルミナ粒子を一方向に並列して重積した多孔質薄膜層を設けた分離膜が提案されている。このような分離膜においては、例えば平均短径が1〜10nmで、平均長径が100〜10000nmの繊維状アルミナ粒子が用いられており、重積された繊維状アルミナ粒子間に設けられる細孔を利用して液体や気体の分離性能を得ている。しかしながら、繊維状アルミナ粒子を多孔質の支持体上に単に重積した構造では、繊維状アルミナ粒子で構成した多孔質薄膜層に使用時に繊維状アルミナ粒子の配列方向に亀裂が生じ、支持体から徐々に剥離してしまうおそれがある。このため、分離性能を継続して得ることができないという課題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−176674号公報
【特許文献2】特開2003−336863号公報
【特許文献3】特許第5621965号公報
【特許文献4】特開2016−123893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、実用的なガス分離性能を維持しつつ、空調等に応用可能な性能、強度、信頼性等を得ることを可能にしたガス分離体とそれを用いたガス分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態のガス分離体は、第1の面と、前記第1の面と対向する第2の面と、前記第1の面から前記第2の面に通じる細孔とを有する多孔質基材と、前記多孔質基材の前記第1の面及び前記第2の面の少なくとも一方に、前記細孔の少なくとも一部を塞ぐように設けられ、繊維状無機物質を含む多孔質膜とを具備し、前記多孔質膜の一部は、前記多孔質基材の前記細孔の内壁に沿って侵入しており、前記多孔質膜の前記細孔に対する平均進入深さが前記多孔質膜の平均膜厚以上であり、前記多孔質基材は、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、又は銅の酸化物、窒化物、炭化物、及びケイ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む多孔質セラミックスであり、前記繊維状無機物質は、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、又は銅の水和物を含む酸化物、窒化物、炭化物、水酸化物、ケイ酸塩、炭酸塩、及びリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む
【0010】
実施形態のガス分離装置は、第1の空間と、前記第1の空間に通じる第2の空間と、前記第1の空間と前記第2の空間との間を仕切るように設けられた、実施形態のガス分離体と、前記第2の空間の前記分離対象ガスの分圧が前記第1の空間の前記分離対象ガスの分圧より低くなるように、前記第2の空間の前記分離対象ガスの分圧を調整するガス圧調整部とを具備し、前記第1の空間に存在する前記分離対象ガスを、前記ガス分離体を介して前記第2の空間に透過させるガス分離装置である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態のガス分離装置の構成を示す図である。
図2図1に示すガス分離装置のガス分離体の概略構造を示す断面図である。
図3図2に示すガス分離体の微細構造の一例を模式的に示す部分断面図である。
図4図2に示すガス分離体の微細構造の他の例を模式的に示す部分断面図である。
図5図2に示すガス分離体の使用例を示す断面図である。
図6図1に示すガス分離装置を除湿装置として用いた第1の例を示す図である。
図7図1に示すガス分離装置を除湿装置として用いた第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態のガス分離体とそれを用いたガス分離装置について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。説明中の上下等の方向を示す用語は、重力加速度方向を基準とした現実の方向とは異なる場合がある。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は実施形態によるガス分離装置の構成を示している。図1に示すガス分離装置1は、処理対象の空間(被処理空間)内に存在する、例えば水蒸気や有機溶剤系ガス(有機溶剤蒸気)等のガス(分離対象ガス)を含む空気等の被処理気体から分離対象ガスを分離し、被処理空間のガス濃度を低下させる装置である。ガス分離装置1は、第1の空間S1を構成する分離室2と、第2の空間S2を構成する減圧室3と、分離室2と減圧室3とが通じるように接続する接続路4と、分離室2と減圧室3との間を仕切るように、接続路4内に配置されたガス分離体5と、分離対象ガスを含む被処理気体を分離室2に送る送風機6と、減圧室4内を減圧する減圧ポンプ7とを備えている。
【0014】
分離室2は吸入口8Aと吐出口9Aとを有し、吸入口8Aは配管10を介して送風機6と接続されている。減圧室3は吸入口8Bと吐出口9Bとを有し、吐出口9Bは配管11を介して減圧ポンプ7と接続されている。分離室2内の第1の空間S1には、送風機6を稼働させることにより、配管10を介して分離対象ガスを含む空気等の被処理気体が送られる。被処理気体は、例えば水蒸気や有機溶剤系ガス等の分離対象ガスの濃度を低減する部屋、装置内部、工場内部(密閉空間等)、保管庫、貯蔵庫等の被処理空間(図示せず)から配管12を介して送風機6に導入される。分離室2内で分離対象ガスが分離され、ガス濃度が低減された被処理気体は、配管13を介して被処理空間に返送される。
【0015】
減圧室3内の第2の空間S2は、減圧ポンプ7を稼働させることにより、分離室2内の圧力(第1の空間S1の圧力)と減圧室3内の圧力(第2の空間S2の圧力)との間に差が生じるように減圧される。被処理気体から分離された水蒸気や有機溶剤系ガス等のガスは、減圧ポンプ7に接続された配管14を介して排出される。分離されたガス(減圧室3に透過したガス)は、大気中に放出されたり、必要に応じて回収される。減圧室3の吸入口8Bには、減圧室3の内部に外部の空気等を取り込みながら減圧するように、配管15が接続されている。配管15には、必要に応じて弁(図示せず)を設けてもよい。また、配管15は場合によっては省くことができる。
【0016】
ガス分離体5について、図2ないし図4を参照して述べる。図2はガス分離体5の概略構造を示す断面図、図4はガス分離体5の微細構造の一例を模式的に示す部分断面図、図5はガス分離体5の微細構造の他の例を模式的に示す部分断面図である。これらの図に示すように、ガス分離体5は多孔質基材21と多孔質基材21の一方の面に設けられた多孔質膜22とを有している。多孔質基材21は、上面21aと、上面21aと対向する下面21bと、上面21aから下面21bに通じる複数の細孔(図2では図示せず)とを有する。多孔質膜22は、多孔質基材21の複数の細孔の少なくとも一部を塞ぐように、多孔質基材21の上面21a及び下面21bの少なくとも一方に設けられている。図2では多孔質基材21の上面21aに多孔質膜22を形成した状態を示しているが、これに限定されるものではなく、多孔質膜22は多孔質基材21の下面21bに設けてもよいし、また上面21a及び下面21bの両面に設けてもよい。
【0017】
多孔質膜22は繊維状無機物質を含んでおり、そのような繊維状無機物質を多孔質基材21の表面(上面21a及び下面21bの少なくとも一方)に堆積させることにより形成されている。多孔質膜22は、多孔質基材21と接する接触面22aと、外部に露出する露出面22bとを有している。多孔質膜22は堆積された繊維状無機物質間の隙間に設けられた複数の微細孔(図示せず)を有しており、これらの微細孔の少なくとも一部は接触面22aから露出面22bに通じている。多孔質膜22内に設けられた微細孔は、後に詳述するように、例えばウエットシールを形成して分離対象ガスの移動経路を構成するものであり、分離対象ガスが微細孔内を接触面22aから露出面22b又は露出面22bから接触面22aに向けて移動することによって、被処理気体から水蒸気や有機溶剤系ガス等の分離対象ガスが分離される。微細孔のウエットシールは必要に応じて形成され、場合によってはウエットシールを形成することなく水蒸気等を分離することもできる。
【0018】
実施形態のガス分離体5において、多孔質膜22の一部22X、言い換えると多孔質膜22を構成する繊維状無機物質の一部は、図3及び図4に示すように、多孔質基材21の細孔23の内壁23aに沿って、細孔23内に侵入している。多孔質膜22の侵入部22Xの細孔23に対する平均進入深さは、多孔質膜22の平均膜厚以上とされている。多孔質膜22の一部22Xを、細孔23内に対して平均膜厚以上に内壁23aに沿って侵入させることによって、多孔質膜22の亀裂や多孔質膜22の多孔質基材21からの剥離を抑制することができる。多孔質膜22の細孔23に対する平均進入深さが多孔質膜22の平均膜厚未満であると、多孔質膜22の亀裂や剥離を十分に抑制することができない。
【0019】
多孔質膜22の多孔質基材21の細孔23に対する侵入部22Xの形状としては、図3に示すように、細孔23の内壁23aに沿って、多孔質膜22の一部が細孔23の深さ方向に侵入した形状が挙げられる。この場合、多孔質膜22は細孔23の上面21aに開放された部分を閉塞するのみならず、多孔質基材21内を様々な方向に延びる細孔23の開放部を閉塞するように形成されるため、多孔質膜22による分離対象ガスの吸収性及びそれに基づく分離性を高めることができる。さらに、多孔質膜22の細孔23に対する侵入部22Xの形状は、図4に示すように、細孔23の内部を遮るように多孔質膜22の一部が存在するような形状であってもよい。多孔質膜22の細孔23の内部を遮る部分22Yは、細孔23の上面開放部を閉塞する多孔質膜22に加えて、細孔23を二重に塞ぐことになるため、分離対象ガスの吸収性及びそれに基づく分離性をさらに高めることができる。多孔質膜22で細孔23の内部を塞ぐ部分22Yの形状は、図4に示す二重構造に限らず、三重もしくはそれ以上であってもよい。
【0020】
また、多孔質膜22の細孔23内への侵入量に関しては、多孔質膜22部分を構成する繊維状無機物質の質量Aに対する細孔23内に侵入している部分Xの繊維状無機物質の質量Bの比(B/A)が0.1を超えて1未満となるように設定することが好ましい。B/A比が0.1以下であると、多孔質基材21と多孔質膜22との密着性が低下するだけでなく、ガス分離率も低下する。B/A比が1以上であると、多孔質膜22のガス分離に寄与しない部分が増加し、ガス分離性能が低下すると共に、ガス透過速度も低下する。B/A比は0.2を超えて0.5未満であることが好ましい。
【0021】
多孔質膜22の平均膜厚は、以下のようにして測定するものとする。ガス分離体5から無作為に多孔質膜22内の6点を選択する。選択した各点の断面を、断面SEM(Scanning Electron Microscope)、STEM(Scanning Transmission Electron Microscope)、又は断面TEM(Transmission Electron Microscope)により観察して観察像を得る。観察像の膜内に膜厚方向に直線を引き、膜の上面及び下面と交わる2点の距離が最短となる長さを求める。1視野について3箇所以上で、上面及び下面と交わる2点間の最短距離を求めて平均値を算出する。選択した6点の各視野で、2点間の最短距離の平均値を求め、これらの値の平均値を多孔質膜22の平均膜厚とする。
【0022】
多孔質膜22の細孔23に対する平均侵入深さは、以下のようにして測定するものとする。ガス分離体5から無作為に多孔質膜22内の6点を選択する。選択した各点の断面を、断面SEM、又は断面TEMにより観察して観察像を得る。観察像において、多孔質膜22が多孔質基材21の深さ方向にどこまで侵入しているかを特定し、侵入部先端と多孔質基材21の表面との最短距離を求める。観察像内の全ての侵入部について、侵入部先端と基材表面との最短距離を求め、そのうちの最大値を選択する。この侵入部先端の距離(最大値)を選択した6点の各視野で求め、これらの値の平均値を多孔質膜22の細孔23に対する平均侵入深さとする。また、B/A比は侵入深さを求めた観察像から多孔質膜22の断面積A’と細孔23内への侵入部分22Xの断面積B’を求め、これらの比(断面積B’/断面積A’)から求めるものとする。
【0023】
多孔質基材21の構成材料は、特に限定されるものではなく、繊維状無機物質により構成される多孔質膜22の支持体としての機能を維持し得ると共に、分離対象ガスを含む被処理気体の通過を妨げない材料からなるものであればよい。多孔質基材23の構成材料としては、酸化物系、窒化物系、酸窒化物系、炭化物系のようなセラミックス材料、樹脂材料、炭素材料、金属材料等が用いられる。多孔質基材21の具体例としては、多孔質セラミックス、有機多孔質体、カーボン繊維成形体、合成繊維や天然繊維の成形体(紙を含む)や不織布等が挙げられる。多孔質基材21の具体的な構成材料としては、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、又は銅(Cu)の酸化物、窒化物、炭化物、及びケイ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物が挙げられ、これらは混合物又は複合物を構成していてもよい。
【0024】
多孔質基材21として多孔質セラミックスを用いる場合、多孔質セラミックスの構成粒子は一般的な球状又はそれに近い形状を有する粒状の粒子であってもよいが、板状の粒子であることがより好ましい。多孔質セラミックスを構成する板状粒子は、断面のアスペクト比が2以上である形状を有することが好ましく、さらに断面のアスペクト比が4以上である形状を有することがより好ましい。このような板状粒子で構成した多孔質セラミックスを多孔質基材21として用いることによって、多孔質膜22の一部を細孔23の内壁に沿って侵入させやすくすることができる。また、多孔質基材21として繊維の集合体や成形体を用いる場合にも、多孔質基材21を構成する繊維は平坦な形状を有することが好ましく、断面のアスペクト比は2以上であることが好ましく、さらに断面のアスペクト比は4以上であることがより好ましい。
【0025】
多孔質基材21の形状に関しては、平均細孔径が0.15μm以上50μm以下であり、体積気孔率(多孔質基材21内の細孔の体積率)は20%以上70%以下であることが好ましい。多孔質基材21の平均細孔径が0.15μm未満であると、分離対象ガスを含む被処理気体の通過性が低下しやすくなる。さらに、多孔質基材21の平均細孔径が小さすぎると、その上に多孔質膜22を形成した際に、繊維状無機物質の平均直径や平均長さにもよるが、細孔23内に繊維状無機物質を十分に侵入させることができない。このような点から、多孔質基材21の平均細孔径は0.5μm以上であることがより好ましい。また、多孔質基材21の平均細孔径が50μmを超えると、被処理気体の透過量が多くなりすぎて、多孔質膜22によるガス分離性能が低下しやすくなる。さらに、多孔質基材21の平均細孔径が大きすぎると、その上への多孔質膜22の形成性が低下し、多孔質膜22によるガス分離性能を十分に得ることができないおそれがある。このような点から、多孔質基材21の平均細孔径は20μm以下であることがより好ましい。
【0026】
また、多孔質基材21の体積気孔率が20%未満であると、多孔質基材21内を通過できる被処理気体の量が低下し、分離室2からの分離対象ガスの吸収量及び減圧室3への分離対象ガスの放出量が不十分になるおそれがある。さらに、多孔質基材21の体積気孔率が小さすぎると、その上に多孔質膜22を形成した際に、細孔23内に繊維状無機物質を十分に侵入させることができない。このような点から、多孔質基材21の体積気孔率は30%以上であることがより好ましい。また、多孔質基材21の体積気孔率が70%を超えると、多孔質基材21の強度が低下して、ガス分離装置1の連続運転を妨げるおそれがある。さらに、多孔質基材21の体積気孔率が大きすぎると、その上への多孔質膜22の形成性が低下し、多孔質膜22によるガス分離性能を十分に得ることができない。このような点から、多孔質基材21の体積気孔率は60%以下であることがより好ましい。なお、多孔質基材21の体積気孔率や細孔23の形状(平均細孔径)は、水銀圧入法により測定した値を示すものとする。
【0027】
多孔質基材21の厚さは特に限定されるものではないが、30μm以上3mm以下の範囲であることが好ましい。多孔質基材21の厚さが薄すぎると、ハンドリングの際にたわみ等の変形が生じ、多孔質膜22に亀裂等の欠陥が生じるだけでなく、破損するおそれがある。また、多孔質基材21の厚さが厚すぎると、水蒸気透過速度等の分離対象ガスの透過速度が遅くなり、ガス分離性能が低下するだけでなく、熱伝導性が低下するために、被処理気体から対象ガスを分離する際の熱交換にロスが生じやすくなる。多孔質基材21の全体形状は、特に限定されるものではなく、ガス分離装置1の構成に応じてディスク状(円柱状)や直方体状等の各種形状を適用することができる。
【0028】
多孔質膜22を構成する繊維状無機物質は、分離対象ガスに応じて選択することが好ましい。分離対象ガスとしては、水蒸気や有機溶剤系ガスが挙げられる。これら分離対象ガスを含む被処理気体としては、分離対象ガスを含む空気が挙げられるが、必ずしもこれに限定されない。有機溶剤系ガスとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、酢酸エチル、酢酸n−エチル、ギ酸i−ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロパノール、トリクロロエチレン、n−ヘキサン等の蒸気が挙げられる。
【0029】
多孔質膜22を構成する繊維状無機物質は、分離対象ガスが水蒸気である場合、親水性材料であることが好ましい。繊維状無機物質の構成材料としては、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、又は銅(Cu)の酸化物、窒化物、炭化物、水酸化物、ケイ酸塩、炭酸塩、及びリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つが挙げられる。
【0030】
繊維状無機物質には、Al、Si、Ti、Zr、Zn、Mg、Fe等の酸化物(水和物を含む)、Al、Cu、Zn等の水酸化物、Mg、Ca、Sr等の炭酸塩、Mg、Ca、Sr等のリン酸塩のような化合物、又はこれらの複合物や混合物等を用いることができる。また、金属水酸化物を前駆体とし、これを加水分解等で結合させ、反応を途中で止める等によって、OH基を制御した金属化合物であってもよい。繊維状無機物質の構成材料の具体例としては、アルミナ(水和物を含む)、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、カルシア、酸化亜鉛、フェライト、チタン酸バリウム等が挙げられ、また繊維状無機物質の具体例としては、Al、Cu、Zn等の金属の水酸化物ファイバ、アルミナやシリカ等の酸化物ファイバ、金属ファイバ等が挙げられる。繊維状無機物質は、さらにベーマイト及び擬ベーマイトからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましい。アルミナの水和物であるベーマイト(AlOOH)及び擬ベーマイトは、水との親和性に優れることから、ベーマイトや擬ベーマイトの繊維状物質で多孔率膜22を構成することによって、水蒸気の吸収性及び分離性を高めることができる。
【0031】
分離対象ガスが有機溶剤ガスである場合、繊維状無機物質には上述した親水性の化合物粒子の格子内にチャージバランスを崩す添加元素を導入した複合材料粒子や、親水性の化合物粒子の格子内に酸素空孔のような原子空孔を導入した欠陥導入材料粒子が用いられる。親水性化合物は上述した通りであり、そのような化合物粒子の格子内に導入する添加元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)等が挙げられる。ただし、化合物粒子を構成する陽イオン元素と重複する元素は除かれる。これらの元素を格子内に導入したり、あるいは格子内に酸素空孔等を導入することで、有機溶剤に対する親和性が得られる。
【0032】
上述したような繊維状無機物質の形状に関しては、平均直径dが1nm以上10nm以下の範囲であることが好ましく、また平均長さlが0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。このような繊維状無機物質からなる多孔質膜22内には、繊維状無機物質の隙間に微細孔が形成される。多孔質膜22の平均細孔径は1nm以上40nm以下であることが好ましい。平均直径dが1〜10nmの範囲の繊維状無機物質で多孔質膜22を構成することによって、多孔質膜22内に上記したような平均細孔径を有する微細孔を適度な量で形成することができる。繊維状無機物質の平均直径dは2nm以上10nm以下の範囲であることがより好ましい。
【0033】
上記したような微細孔を有する多孔質膜22によれば、分離対象ガスの液化物、例えば水蒸気であれば水、また有機溶剤系ガスであれば有機溶剤を微細孔内に保持し、多孔質膜22内にウエットシールを形成することができる。分離室2内の被処理気体から分離対象ガスを、ウエットシールが形成された多孔質膜22により吸収し、多孔質膜22内の分離対象ガスを分離室2と減圧室3との圧力差に基づいて減圧室3内に排出させることによって、被処理気体から分離対象ガスを分離することができる。なお、多孔質膜22を有するガス分離体5は、当初より分離対象ガスの液化物を含んでいてもよいし、ガス分離体5の使用時に液化物を含ませるようにしてもよい。
【0034】
多孔質基材21の平均細孔径や体積気孔率にもよるが、平均長さlが0.5〜10μmの繊維状無機物質を用いて多孔質膜22を形成することによって、多孔質膜22の一部を多孔質基材21の細孔内に良好に侵入させることができる。繊維状無機物質の平均長さlが10μmを超えると、細孔内に繊維状無機物質を十分に侵入させることができない。また、繊維状無機物質の平均長さlが0.5μm未満であると、多孔質膜22の形成性が低下し、ガス分離体5としての機能が低下する。繊維状無機物質の平均長さlは1μm以上3μm以下であることがより好ましい。繊維状無機物質の平均長さlは、多孔質基材21の平均細孔径を考慮して設定することが好ましい。すなわち、多孔質基材21の平均細孔径が繊維状無機物質の平均長さlの2倍以上30倍以下となるように、繊維状無機物質の平均長さlを設定することが好ましい。多孔質基材21の平均細孔径は繊維状無機物質の平均長さlの3倍以上10倍以下であることがより好ましい。
【0035】
また、多孔質膜22の平均細孔径を1nm以上40nm以下とすることによって、分離対象ガスの通り道である微細孔内に分離対象ガスの液化物を保持しやすくなり、多孔質膜22内にウエットシールが形成されやすくなると共に、分離対象ガスの適度な透過流量を確保することができる。多孔質膜22の平均細孔径が1nm未満であると、分離対象ガスの透過流量が低下しやすくなる。また、多孔質膜22の平均細孔径が40nmを超えると、ウエットシールの形成性が低下し、また分離室2内からの分離対象ガスの吸収と減圧室3への分離対象ガスの放出のバランスが低下し、ガス分離性能が低下しやすくなる。多孔質膜22の平均細孔径は2nm以上10nm以下であることがより好ましい。
【0036】
上述したような繊維状無機物質で構成された多孔質膜22は、0.5μm以上50μm以下の平均膜厚を有することが好ましい。このような平均膜厚を有する多孔質膜22にウエットシールを形成することによって、良好なガス分離性能を得ることができる。多孔質膜22の平均膜厚が0.5μm未満であると、ウエットシールの形成量等が不足し、十分なガス分離性能を得ることができないおそれがある。また、多孔質膜22の平均膜厚が50μmを超えると、分離対象ガスの透過流量が低下しやすくなる。多孔質膜22の平均膜厚は5μm以上25μm以下であることがより好ましい。
【0037】
多孔質膜22の平均細孔径は、物理ガス吸着法のBJH(Barrett,Joyner,Hallender)法により評価することができる。また、繊維状物質の多孔質堆積層における繊維状物質の平均直径は、平均細孔径の2〜4倍であるため、平均細孔径から繊維状無機物質の平均直径を換算値として求めることができる。多孔質膜22が繊維状無機物質から構成されていることは、多孔質膜22を有するガス分離体5を折り曲げて破断させ、破断面の繊維状組織を観察することにより確認することができる。曲がりやすい多孔質基材21を用いた場合、大きく曲げることで多孔質膜22が裂けるため、そのような多孔質膜22の膜表面をSEMにより観察することによって、繊維状組織を有することを確認することができる。また、多孔質膜22の組成は、膜表面をXRDで分析することにより結晶構造が特定できるため、多孔質膜22の構成材料を特定することができる。
【0038】
上述した多孔質膜22を有する多孔質基材21からなるガス分離体5は、多孔質膜22内の微細孔や多孔質膜22内の細孔に基づいて、1×10−16以上1×10−10以下の空気透過率Kを有することが好ましい。このような空気透過率を有するガス分離体5を用いることによって、多孔質膜22内に形成されたウエットシールを介して、分離室2内の被処理気体中に含まれる分離対象ガスを良好に減圧室3内に移動させることができる。複合部材21の空気透過率Kが1×10−16未満であると、分離対象ガスの透過速度が低下する。空気透過率Kが1×10−12を超えると空気漏れが生じ、ウエットシール性が低下して分離対象ガスの分離率α等が低下しやすくなる。ガス分離体5の空気透過率Kは、1×10−14以上1×10−12以下であることがより好ましい。
【0039】
ここで、空気透過率Kは、一定容量の空気を試料の垂直方向に通過させ、その際の流入と流出の圧力差ΔP[単位:kPa]と流速Qair[単位:cm/min]から、下記の(1)式に基づいて求められる。(1)式において、δは試料の厚さ、Aは試料の面積、μairは空気の粘性(18.57μPa・s)である。
K=(Qair/ΔP)・(μair/A)・δ …(1)
【0040】
ガス分離体5を水蒸気分離体として用いる場合、水蒸気分離体(5)は多孔質膜22の微細孔内に存在する水溶性吸湿剤を備えていてもよい。水溶性吸湿剤は水分を吸収して保持するため、多孔質膜22内にウエットシールを形成しやすくなる。水溶性吸湿剤としては、第1族元素や第2族元素のクエン酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物塩、酸化物塩、水酸化物塩、硫酸塩等が用いられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。水溶性吸湿剤は微細孔内に偏析させて存在させてもよいし、微細孔の内壁全体又は一部に薄く均一に付着させてもよい。水蒸気分離体(5)は多孔質膜22の微細孔内に存在するイオン性液体等のガス吸着液体を備えていてもよい。
【0041】
水溶性吸湿剤の具体例としては、塩化カルシウム(CaCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、リン酸ナトリウム(NaPO)、リン酸カリウム(KPO)、クエン酸ナトリウム(Na(CO(COO))等)、クエン酸カリウム(K(CO(COO))等)、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸リチウム(LiSO)等やこれらの水和物が挙げられる。
【0042】
ガス分離装置1に用いられるガス分離体5は、図5に示すように、気体を透過する支持体31により支持されていてもよい。図5は一対の支持体31をガス分離体5の両面に沿って配置した状態を示しているが、支持体31はガス分離体5の一方の面のみに沿って配置してもよい。支持体31には、例えば紙、パンチングメタル、ポリイミド多孔体等が用いられ、これら以外のメッシュ状物質であってもよい。支持体31は、数μm径以上の貫通孔を有していることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0043】
分離対象ガスを含む空気等の被処理気体は、上述したように送風機6を稼働させることにより分離室2内に送られる。送風機6と同時に減圧ポンプ7を稼働させ、減圧室3内を減圧することによって、分離室2内の圧力と減圧室3内の圧力との間に差を生じさせる。この圧力差によって、減圧室3内の水蒸気圧等の分離対象ガスの分圧(第2の空間S2の分離対象ガスの分圧(以下、単にガス分圧ともいう))が分離室2内の水蒸気圧等のガス分圧(第1の空間S1のガス分圧)より小さくなる。ガス分離体5は多孔質膜22の微細孔内に保持された分離対象ガスの液化物によりウエットシールを形成しているため、分離室2内と減圧室3内との間にガス分圧差を生じさせることで、ガス分離体5を介して配置された分離室2と減圧室3との間で分離対象ガスの移動が起こる。
【0044】
ガス分離体5を介して分離対象ガスの移動を生じさせるにあたって、減圧室3内の圧力が分離室2内の圧力に対して−50kPa以下となるように、減圧ポンプ7で減圧室3内を減圧することが好ましい。言い換えると、分離室2内の圧力と減圧室3内の圧力との差が50kPa以上となるように、減圧室3内を減圧することが好ましい。この圧力差が50kPa未満であると、分離室2内から減圧室3内への分離対象ガスの移動を十分に促進できないおそれがある。さらに、分離室2と減圧室3との圧力差は100kPa未満であることが好ましい。圧力差が大きすぎると、ガス分離体5を構成する多孔質基材21や多孔質膜22が破損するおそれが生じる。分離室2と減圧室3との圧力差は80〜90kPaの範囲であることがより好ましい。ただし、分離対象ガスの蒸気圧にも依存するため、必ずしもこの限りではない。
【0045】
図1に示すガス分離装置1においては、減圧室3内を減圧する減圧ポンプ7で分離室2と減圧室3との間にガス分圧差を生じさせているが、ガス分圧の調整部はこれに限られるものではない。例えば、減圧室3(第2の空間S2)に乾燥空気や加熱空気を導入するようにしてもよい。これによっても、分離室2と減圧室3との間に水蒸気圧差等のガス分圧差を生じさせることができる。図1に示すガス分離装置1において、分離室2と減圧室3との間にガス分圧差を生じさせるガス圧調整部は、特に限定されるものではなく、ガス分圧差を生じさせることが可能な各種の機構を適用することができる。
【0046】
ガス分圧が相対的に高い分離室2内の被処理気体中に含まれる分離対象ガスは、ガス分離体5内に形成されるウエットシール、具体的には多孔質膜22の微細孔内に保持された分離対象ガスの液化物に吸収される。ガス分離体5内の分離対象ガスの液化物は、ガス分圧が相対的に低い減圧室3内に透過する。分離室2内のガス分圧と減圧室3内のガス分圧とガス分離体5内の分離対象ガスの液化物量等のバランスによって、分離室2内の被処理気体中に含まれる分離対象ガスのガス分離体5による吸収とガス分離体5内の分離対象ガスの減圧室3内への放出とが連続して起こる。
【0047】
上述した分離対象ガスのガス分離体5による吸収及びガス分離体5内の分離対象ガスの減圧室3内への放出が連続して起こることによって、分離室2内(第1の空間S1)の分離対象ガスの濃度、さらには分離室2と送風機6を介して接続された被処理空間の分離対象ガスの濃度を連続的に低下させることができる。分離対象ガスが水蒸気である場合、分離室2内及び被処理空間の水蒸気量を減少させて除湿することができる。ガス濃度を低下させた空気等の被処理気体は、分離室2から被処理空間に返送される。減圧室3内に透過した水蒸気等の分離対象ガスは、配管11、減圧ポンプ7、及び配管14を介して外部に排出される。分離対象ガスが水蒸気である場合、減圧室3内に透過した水分を加湿が必要な部屋等の第3の空間に送るようにしてもよい。また、分離対象ガスが有機溶剤ガスである場合、必要に応じて有機溶剤やそのガスが回収される。
【0048】
実施形態のガス分離装置1においては、ガス分離体5がウエットシールを形成しているため、分離室2内の空気等の被処理気体中に含まれる分離対象ガスのみを減圧室3内に移動させることができる。例えば、ガス分離装置1を除湿装置として使用する場合、分離室2と減圧室3との間で、基本的には空気中の水分のみが移動し、空気中の乾燥空気はほとんど移動しない。従って、除湿対象の被処理空間の温度をほとんど変動させることがない。被処理空間の温度をほとんど変動させることなく、空間内を除湿することによって、例えば空間の冷房と併用する場合においても、熱効率を低下させるおそれがない。除湿装置を冷房と併用する際の熱効率を高めることができる。
【0049】
図2ないし図4に示したガス分離体5は、前述したように多孔質基材21とその少なくとも一方の表面に形成され、繊維状無機材料の堆積層からなると共に、繊維状無機材料間に微細孔を有する多孔質膜22とを備えている。ガス分離体5は1×10−16以上1×10−12以下の空気透過率を有している。このようなガス分離体5を用いることによって、ガス分離体5内に形成されたウエットシールを介して、分離室2内の被処理気体中に含まれる分離対象ガスを良好にかつ実用的な透過速度で減圧室3内に移動させることができる。すなわち、分離対象ガスの実用的な分離率α、例えば3〜100程度の分離率αを維持しつつ、分離対象ガスの透過速度Vを向上させることができる。これらによって、実用的に空調等に応用可能な性能、強度、信頼性等を有するガス分離体5及びそれを用いた再生処理を必要としないガス分離装置1を提供することができる。
【0050】
ガスの分離率αは、例えば水のようなガスの液化物と被処理気体を構成する乾燥空気の透過量の割合であり、下記の(2)式で定義される。
α=(N4liquid/N4air)/(N3liquid/N3air) …(2)
式(2)において、(N3liquid/N3air)は分離室2(第1の空間S1)に供給させる被処理気体(空気)に含まれるガスの液化物と乾燥空気のモル比、(N4liquid/N4air)は減圧室3(第2の空間S2)から排出される被処理気体(空気)に含まれるガスの液化物と乾燥空気のモル比である。αが1であれば、分離側空間S1から減圧側空間S2にガスの液化物(水等)と乾燥空気が同じ割合で流れることを意味する。αが100であれば、除湿側空間S1から減圧側空間S2へのガスの液化物(水等)の透過に対して乾燥空気の透過が1/100に低減されることを意味する。
【0051】
ガス(液化物)の透過速度Vは、下記の(3)式で定義される。
V=ΔMliquid/A/Δt …(3)
式(3)において、ΔMliquidは減圧側空間S2で回収されるガス液化物の量であり、Aはガス分離体5の面積、Δtは時間である。
【0052】
(第2の実施形態)
次に、第1の実施形態によるガス分離装置1を除湿装置として用いた構成例について、図6及び図7を参照して説明する。図6において、Rは除湿の対象空間Rxを構成する部屋を示しており、部屋Rは吸気口Raを有している。除湿装置1は、除湿対象の空間Rxの空気から水蒸気(水分)を除去するために、部屋Rに設けられている。図6に示す除湿装置1は、減圧室3(第2の空間S2)に外部の空気を取り込む配管15が接続された構造を有している。除湿装置1では、減圧室3内に外部の空気を取り込みながら減圧室3内が減圧される。配管15は弁16を有している。配管15は省いてもよい。
【0053】
空間Rx内の空気は、基本的に水蒸気(水分)と乾燥空気とにより構成されている。除湿装置1の分離室(除湿室)2内には、送風機6を稼働させることにより配管12、10を介して空間Rx内の空気が送られる。分離室2内で除湿された空気は、配管13を介して空間Rxに返送される。ガス分離体5を用いた除湿動作(ガス分離動作)は、第1の実施形態で詳述した通りである。すなわち、ウエットシールが形成されたガス分離体5を介して、分離室2から減圧室3に水分が透過する。このような分離室2内の空気中の水分のガス分離体5による吸収とガス分離体5内の水分の減圧室3への放出とが連続して起こるため、再生処理を伴わない連続除湿による除湿速度等の除湿性能を高めることできる。従って、実用的でかつ効率的な除湿装置1を提供することが可能となる。
【0054】
実施形態の除湿装置1の適用構造は、図6に示す構造に限定されるものではない。実施形態の除湿装置1は、種々に変形することができる。図6では第1の空間S1を除湿装置1の分離室2に設定したが、第1の空間S1はこれに限定されるものではない。図7に示すように、第1の空間S1は除湿の対象空間Rxそのものであってもよい。すなわち、第2の空間S2となる減圧室3を、第1の空間S1となる対象空間Rxとガス分離体5を介して配置してもよい。この場合、減圧室3を減圧することによって、除湿の対象空間Rx(第1の空間S1)の空気から水蒸気(水分)が直接除去される。第1の空間S1及び第2の空間S2の設定は、種々に変更することができる。
【0055】
なお、除湿速度Vは以下のようにして測定された値を示す。まず、湿度と温度を一定に保持された恒温恒湿槽の中に、直径10mmの穴の開いた1リットル容器により空間Rxを設ける。このような構造において、図1に示した除湿装置(ガス分離装置)により第1の空間に対する第2の空間の圧力を−80kPaに設定して除湿を行い、特定の相対湿度からそれより10%低い相対湿度まで除湿したときの時間を水蒸気分離体(ガス分離体)の面積換算した値とする。測定温度は40℃、水蒸気分離体の実行面積は直径10mmの円形(面積:78.54mm)とする。例えば、相対湿度が70%から60%まで低下したときの時間が1時間であれば、除湿速度Vは10%/hとなる。
【実施例】
【0056】
次に、実施例とその評価結果について述べる。
【0057】
(実施例1)
まず、多孔質基材として、平均細孔径が3.4μm、体積気孔率が40%、厚さが1mm、直径が20mmのディスク状のアルミナセラミックス製多孔体を用意した。このアルミナセラミックス製多孔体の一方の表面に、繊維状ベーマイト分散液(アルミナゾル液F1000(平均直径d=4nm、平均長さl=1.4μm)、川研ファインケミカル社製)を、スライドグラスを用いたキャスト法により塗布し、40℃で乾燥させた後、200℃で熱処理して、ベーマイトを含む繊維状無機物質からなる多孔質膜を形成することによって、ガス分離体を作製した。
【0058】
上記した多孔質膜を有するアルミナセラミックス製多孔体からなるガス分離体の形状や特性を以下のようにして測定、評価した。まず、ガス分離体の空気透過率を前述した方法により測定したところ、空気透過率Kは5×10−13であった。また、多孔質膜をXRD法により評価したところ、ベーマイト相が確認された。多孔質膜の平均膜厚及び平均細孔径を前述した方法にしたがって測定したところ、平均膜厚は17μm、平均細孔径は1.4nmであった。平均細孔径から換算される繊維状無機物質の平均直径は約4.2nmであり、原料分散液中の繊維径(平均直径d)とほぼ一致した。さらに、多孔質膜の断面TEM観察において、繊維状無機物質からなる多孔質膜の一部は、基材となるアルミナセラミックス製多孔体の細孔内に侵入していることが確認された。多孔質膜の細孔内への平均侵入深さ及び膜質量Aに対する侵入部分の質量Bの比(B/A)を前述した方法にしたがって測定したところ、平均侵入深さは20μm、質量比B/Aは0.5であった。
【0059】
上述したガス分離体を水蒸気分離体として用いて、水蒸気分離率α及び水蒸気透過速度Vを測定したところ、除湿側への供給空気の温度が40℃、飽和蒸気の条件において、水蒸気分離率α>100(測定限界以上、以下同じ)、水蒸気透過速度V=590g/h/mであった。また、ガス分離体を水蒸気分離体として用いて、1リットルの容器中の除湿を行った。容器内を減圧し、分離体を通して1時間除湿したところ、相対湿度90%であった除湿前の湿度が30%まで低減され、除湿速度は60%/hであった。さらに、除湿試験を数回繰り返し行ったところ、いずれも同様な結果が得られた。
【0060】
(実施例2)
実施例1と同一のアルミナセラミックス製多孔体に、実施例1と同一の繊維状ベーマイト分散液(アルミナゾル液F1000)をディップコートし、40℃で乾燥させた後、200℃で熱処理することによって、ベーマイトを含む繊維状無機物質からなる多孔質膜を形成した。なお、繊維状ベーマイト分散液のディップと乾燥は3回繰り返し行った。
【0061】
上記した多孔質膜を有するアルミナセラミックス製多孔体からなるガス分離体の形状や特性を実施例1と同様にして測定、評価した。その結果、空気透過率Kは8×10−13であり、多孔質膜をXRD法による評価からはベーマイト相が確認された。多孔質膜の平均膜厚は7μm、平均細孔径は1.4nmであった。さらに、多孔質膜の断面TEM観察において、繊維状無機物質からなる多孔質膜の一部は、基材となるアルミナセラミックス製多孔体の細孔内に侵入していることが確認された。また、多孔質膜は図4に示したように、細孔内に侵入した多孔質膜の一部が細孔の内部を塞ぐように存在していることが確認された。多孔質膜の細孔内への平均侵入深さは20μm、膜質量Aに対する侵入部分の質量Bの比(B/A)は0.7であった。
【0062】
上述したガス分離体を水蒸気分離体として用いて、水蒸気分離率α及び水蒸気透過速度Vを測定したところ、除湿側への供給空気の温度が40℃、飽和蒸気の条件において、水蒸気分離率α>100、水蒸気透過速度V=720g/h/mであった。また、ガス分離体を水蒸気分離体として用いて、1リットルの容器中の除湿を行った。容器内を減圧し、分離体を通して1時間除湿したところ、相対湿度90%であった除湿前の湿度が30%まで低減され、除湿速度は60%/hであった。さらに、除湿試験を数回繰り返し行ったところ、いずれも同様な結果が得られた。
【0063】
(実施例3)
実施例1と同一のアルミナセラミックス製多孔体に、実施例1と同一の繊維状ベーマイト分散液(アルミナゾル液F1000)をスプレーコートし、40℃で乾燥させた後、200℃で熱処理することによって、ベーマイトを含む繊維状無機物質からなる多孔質膜を形成した。なお、繊維状ベーマイト分散液のスプレーと乾燥は3回繰り返し行った。
【0064】
上記した多孔質膜を有するアルミナセラミックス製多孔体からなるガス分離体の形状や特性を実施例1と同様にして測定、評価した。その結果、空気透過率Kは9×10−13であり、多孔質膜をXRD法による評価からはベーマイト相が確認された。多孔質膜の平均膜厚は3μm、平均細孔径は1.4nmであった。さらに、多孔質膜の断面TEM観察において、繊維状無機物質からなる多孔質膜の一部は、基材となるアルミナセラミックス製多孔体の細孔内に侵入していることが確認された。多孔質膜の細孔内への平均侵入深さは30μm、膜質量Aに対する侵入部分の質量Bの比(B/A)は0.9であった。
【0065】
上述したガス分離体を水蒸気分離体として用いて、水蒸気分離率α及び水蒸気透過速度Vを測定したところ、除湿側への供給空気の温度が40℃、飽和蒸気の条件において、水蒸気分離率α>100、水蒸気透過速度V=770g/h/mであった。また、ガス分離体を水蒸気分離体として用いて、1リットルの容器中の除湿を行った。容器内を減圧し、分離体を通して1時間除湿したところ、相対湿度90%であった除湿前の湿度が20%まで低減され、除湿速度は70%/hであった。さらに、除湿試験を数回繰り返し行ったところ、いずれも同様な結果が得られた。
【0066】
(実施例4)
実施例1と同様にして作製したガス分離体を用いて、イソプロピルアルコール(IPA)と水の混合溶液からIPAの分離実験を行った。混合溶液としては、IPA:水=10:90(質量%)の混合物、すなわちIPAの10%水溶液を使用し、これを気化して密閉容器に充填し、図1に示したガス分離装置で−90kPaに減圧することによりガス分離を行った。実験は40℃の恒温槽内で行った。ガス分離膜を透過した気体は、アセトン・ドライアイスの冷媒で冷却して液化し、濃度を測定したところ、80%のIPA溶液であることが確認された。さらに、上記したガス分離試験を数回繰り返し行ったところ、いずれも同様な結果が得られた。
【0067】
(比較例1)
多孔質基材として、平均細孔径が0.1μm、体積気孔率が40%、厚さが1mm、直径が20mmのアルミナセラミックス製多孔体を用意した。このアルミナセラミックス製多孔体の一方の表面に、実施例1と同一の繊維状ベーマイト分散液(アルミナゾル液F1000)を、スライドグラスを用いたキャスト法により塗布し、40℃で乾燥させた後、200℃で熱処理することによって、繊維状無機物質からなる多孔質膜を形成した。
【0068】
上記した多孔質膜を有するアルミナセラミックス製多孔体からなるガス分離体を水蒸気分離体として用いて、1リットルの容器中の除湿を行った。容器内を減圧し、分離体を通して1時間除湿したところ、相対湿度90%であった除湿前の湿度が50%まで低減され、除湿速度は40%/hであった。また、再度、除湿試験を行ったところ、今度は除湿性能が得られなかった。ガス分離体の表面を肉眼で観察したところ、多孔質膜の剥離が認められた。多孔質膜の平均膜厚は17μmであった。多孔質膜の断面TEM観察において、繊維状無機物質からなる多孔質膜の一部は、基材となるアルミナセラミックス製多孔体の細孔内に侵入していたが、多孔質膜の細孔内への平均侵入深さは5μmであった。
【0069】
(比較例2)
多孔質基材として、平均細孔径が60μm、体積気孔率が40%、厚さが1mm、直径が20mmのアルミナセラミックス製多孔体を用意した。このアルミナセラミックス製多孔体の一方の表面に、実施例1と同一の繊維状ベーマイト分散液(アルミナゾル液F1000)を、スライドグラスを用いたキャスト法により塗布し、40℃で乾燥させた後、200℃で熱処理することによって、繊維状無機物質からなる多孔質膜を形成した。
【0070】
上記した多孔質膜を有するアルミナセラミックス製多孔体からなるガス分離体を水蒸気分離体として用いて、1リットルの容器中の除湿を行った。容器内を減圧し、分離体を通して1時間除湿したところ、除湿性能は得られなかった。ガス分離体の表面を肉眼で観察したところ、多孔質膜は均一に形成されておらず、所々に孔のようなくぼみが観察された。また、多孔質膜をSEMにて観察したところ、図3及び図4に示したような多孔質体の細孔を塞ぐような膜構造は観察されなかった。
【0071】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1…ガス分離装置、2…除湿室、3…減圧室、4…接続路、5…ガス分離体、6…送風機、7…減圧ポンプ、21…多孔質基材、22…多孔質膜、23…細孔、S1…第1の空間、S2…第2の空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7