特許第6899743号(P6899743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899743
(24)【登録日】2021年6月17日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】雪氷付着防止方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20210628BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20210628BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20210628BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20210628BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20210628BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20210628BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20210628BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20210628BHJP
   G08G 1/095 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   C09K3/18
   C09D5/02
   C09D201/00
   C09D7/40
   C09D7/63
   C09D163/00
   C09D133/00
   C09D5/00 Z
   G08G1/095 D
   G08G1/095 L
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-172261(P2017-172261)
(22)【出願日】2017年9月7日
(65)【公開番号】特開2018-44153(P2018-44153A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2020年8月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-177058(P2016-177058)
(32)【優先日】2016年9月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593084052
【氏名又は名称】株式会社カンペハピオ
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】平田 文彦
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−169384(JP,A)
【文献】 特開平10−138416(JP,A)
【文献】 特開平7−331122(JP,A)
【文献】 特開昭62−252477(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103045064(CN,A)
【文献】 特開平6−158034(JP,A)
【文献】 米国特許第5817252(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
C09D 1/00−201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂成形体を含む被塗物の表面に、水性クリヤ塗料組成物を塗装し、塗膜を形成することを含む、雪氷付着防止方法であって、前記水性クリヤ塗料組成物が、水分散性塗膜形成樹脂(A)、凍結防止剤(B)及びフッ素系界面活性剤(C)を含み、前記フッ素系界面活性剤(C)の含有量が、前記水分散性塗膜形成樹脂(A)の固形分質量100質量部を基準として、0.1〜10質量部の範囲内である、雪氷付着防止方法。
【請求項2】
前記水分散性塗膜形成樹脂(A)が、エポキシエステル樹脂及び/又はアクリル樹脂である、請求項1に記載の雪氷付着防止方法。
【請求項3】
前記被塗物がLED光源保護用成形体を含む被塗物である、請求項1又は2に記載の雪氷付着防止方法。
【請求項4】
前記被塗物がLED信号機である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の雪氷付着防止方法。
【請求項5】
前記被塗物が自動車のヘッドランプである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の雪氷付着防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雪氷付着防止方法に関し、とりわけ豪雪地帯の既設のLED信号機等に適した、雪氷付着防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明ガラスの代替として、耐衝撃性及び軽量性に優れる、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の透明樹脂材料が広く使用されるようになってきた。これらの透明樹脂材料は、最近では、道路信号機等のランプカバー、道路標識、道路遮音壁等の壁材やテラスの屋根材、航空機又は自動車用グレージング材といった屋外用途においても使用されるようになってきている。
屋外用途において特に豪雪地帯などでは、歩道信号機及び交通信号機のランプカバー又は自動車等のヘッドランプカバーなどの透明樹脂成形体へ、雪氷の付着が発生するが、このような成形体への雪氷の付着は、視認性の低下を招き交通障害ひいては交通事故の要因となりうる。歩道信号機及び交通信号機或いは航空機又は自動車等のヘッドランプ又はテールランプなどの光源において、従来白熱電球やハロゲンランプ等の高熱を発生するものを用いていたが、近年コスト削減のため電力消費量の少ないLED光源に切り替わりはじめている。LED光源は消費電力の削減には繋がるが、発熱量が従来の光源と比べ低いことから、LED光源保護用成形体の表面に雪氷が付着した場合に、雪氷が融けにくく付着しやすいという問題がある。
【0003】
以前から、各種機器や構造物等への雪氷付着の防止のため、積もった雪が流れ落ちるという流雪性の表面を有する塗膜を形成する塗料の開発が行われており、このような用途には、シリコーン樹脂やフッ素含有成分などの塗膜表面を撥水性に改質する材料の使用が提案されてきた。
【0004】
特許文献1には、重合性アクリル基含有ポリジメチルシロキサンと重合性ポリエステル及び/又はポリエーテル(メタ)アクリレートを主体とする混合物を被塗物に塗布し、電子線照射によって硬化させ滑雪性塗膜を形成する方法が開示されているが、電子線照射が必要とされるため、既に設置された信号機等の被塗物に塗工する際には照射機などの装置が必要となり、施工が簡便でないという問題が生じる。
【0005】
一方、流雪性を与える材料として、オルガノシリケートなどの、塗膜表層を親水性に改質する材料の使用も、提案されてきている。
【0006】
例えば、特許文献2には、アクリル樹脂系塗料に、オルガノシリケートとフッ素系シランカップリング剤の組み合わせを配合することで、低温時の着氷防止に効果があり、昇温時の流雪性能に優れた塗膜を形成し得る組成物が得られることが記載されている。しかしながらこの組成物は有機溶剤を含有するために、ポリカーボネート等の樹脂製基材や塗膜が形成された被塗物に適用した場合には、塗装時に該被塗物が有機溶剤を含む組成物によって浸され、塗膜に濁りが生じるという問題があった。また、降雪時には初期の性能を発揮できるものの、降雪後に気温が上昇すると、信号機等の構造物表面の積雪は、次第に水分を多く含んだベタ雪状へと変化するが、ベタ雪の場合では流雪性が低下する場合もあった。
【0007】
また、特許文献3には、オルガノシリケートとパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤を含む組成物が開示され、その組成物は、ベタ雪に対しても流雪性に優れた塗膜を与えることができることが記載されている。しかし、オルガノシリケートの加水分解溶液にもやはり、有機溶剤が必要とされており、特に被塗物が樹脂製であると、配合される有機溶剤の種類によっては、被塗物が侵され透明性及び流雪性が低下する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−332213号公報
【特許文献2】特開2003−147202号公報
【特許文献3】特開2002−206087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、既設のLED信号機等に対して容易に施工ができ、得られる塗膜が付着性、透明性、流雪性に優れる雪氷付着防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した課題について鋭意検討した結果、透明樹脂成形体を含む被塗物の表面に、水分散性塗膜形成樹脂(A)、凍結防止剤(B)及び特定量のフッ素系界面活性剤(C)を含む水性クリヤ塗料組成物を塗装し、塗膜を形成することを含む、雪氷付着防止方法によれば、上記目的を達成できることを見出した。
【0011】
即ち本発明は、下記の態様を包含する雪氷付着防止方法に関するものである。
[態様1]
透明樹脂成形体を含む被塗物の表面に、水性クリヤ塗料組成物を塗装し、塗膜を形成することを含む、雪氷付着防止方法であって、前記水性クリヤ塗料組成物が、水分散性塗膜形成樹脂(A)、凍結防止剤(B)及びフッ素系界面活性剤(C)を含み、前記フッ素系界面活性剤(C)の含有量が、前記水分散性塗膜形成樹脂(A)の固形分質量100質量部を基準として、0.1〜10質量部の範囲内である、雪氷付着防止方法。
[態様2]
前記水分散性塗膜形成樹脂(A)が、エポキシエステル樹脂及び/又はアクリル樹脂である、態様1に記載の雪氷付着防止方法。
[態様3]
前記被塗物がLED光源保護用成形体を含む被塗物である、態様1又は2に記載の雪氷付着防止方法。
[態様4]
前記被塗物がLED信号機である、態様1〜3のいずれかに記載の雪氷付着防止方法。
[態様5]
前記被塗物が自動車のヘッドランプである、態様1〜3のいずれかに記載の雪氷付着防止方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の雪氷付着防止方法(以下、「本方法」と略称する場合がある)によれば、水性クリヤ塗料組成物が常温でも塗膜を形成するため、既設のLED信号機又は航空機若しくは自動車のヘッドランプなどの透明樹脂成形体を含む被塗物に対して容易に施工することができる。また、本発明の方法により形成された塗膜は、透明性に優れることから、透明樹脂成形体の表面に形成されても視認性を低下させる心配がなく、仕上がり外観に優れる。また、本発明の方法により形成された塗膜は降り積もった雪が流れ落ちやすい性質を有していることから、本方法を施工したLED信号機又は航空機若しくは自動車のヘッドランプなどの被塗物には雪が積もり難く、豪雪地帯などでは人の手による除雪作業の回数を低減させることができる。
また、本方法により形成される塗膜は、塗装作業性が良好で被塗物の表面に対し均一な塗膜として形成され、被塗物との付着性に優れることから、長期間屋外に暴露された後においても十分な流雪性を発現することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の雪氷付着防止方法は、透明樹脂成形体を含む被塗物の表面に、特定の水性クリヤ塗料組成物を塗装し被膜を形成することを含む、雪氷付着防止方法である。
【0014】
本方法を適用する被塗物は透明樹脂成形体を含むものであり、透明樹脂成形体単体であっても、透明樹脂以外のプラスチック素材や金属素材で形成された成形体や部材と複合して構成されたものであってもよい。このような透明樹脂成形体を含む被塗物の例としては、透明樹脂であるポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等が使用されるレンズカバーやランプカバー、透明樹脂材料を用いた道路標識、道路遮音壁等の壁材、テラスの屋根材、航空機又は自動車用グレージング材等が挙げられる。好適な被塗物の例としては、信号の表示灯レンズカバーや、航空機又は自動車のヘッドランプカバー、リアランプカバー等の光源保護用成形体を含むものが挙げられる。
【0015】
なかでもLED光源保護用成形体を含む被塗物が好適であり、例えばLED信号機などを好適に用いることができる。
LED信号機としては、道路用の交通信号機、鉄道用の交通信号機など、交通用の信号機であれば特に制限されない。道路用の交通信号機としては、車両用の交通信号機、歩行者用の交通信号機、自転車用の交通信号機、路面電車用の交通信号機などが挙げられる。また、LED信号機の形状としては、縦型でも横型でもよい。例えば、赤信号のみの信号灯や赤・黄・青信号の3色の信号灯からなるものや、歩行者用の信号灯のように、赤と青の2色の信号灯からなるものであってもよい。また、新設でも既存の信号機のいずれでもよく、素材の種類、保護シートや旧塗膜の種類や有無などによって特に制限されるものでもない。
【0016】
また、自動車専用道路等の道路情報を表示するLED搭載の表示装置、例えば、LEDを搭載した道路交通標識、LED電光掲示板等も、LED光源保護用成形体を含む被塗物として好適に挙げることができる。
なお、本発明で用いる水性クリヤ塗料組成物は、発熱量が従来の光源と比べ低いLED光源保護用成形体を含む被塗物に対して特に好適に用いられるが、前記LED光源保護用成形体を含む被塗物以外の被塗物、例えば従来型の信号機や道路交通標識等に用いた場合も効果的に雪氷の付着を防止できる。
【0017】
上記被塗物の素材の具体例としては、金属素材として、例えば、鋼板、亜鉛めっき、ステンレス、アルミニウム等が挙げられ、また、プラスチック素材として、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂や各種のFRP等のプラスチック材料等が挙げられるが、なかでも、透明樹脂であるアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の各種透明樹脂が好適であり、屋外用途での耐候性、耐衝撃性及び流雪性の点から、アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂が最も好適である。また、これら金属素材やプラスチック素材を複合したもの等も被塗物として挙げることができる。これらの素材に応じて適宜、被塗物に脱脂処理や表面処理をしてもよい。
なお、信号機本体はアルミニウムやステンレス・スチール製で、信号の表示灯レンズカバーは表示灯の視認性、耐候性及び強度の点から透明なポリカーボネート樹脂製であることが多いが、このような素材構成に限定されるものではない。
また、本発明の方法を適用する前に、被塗物に洗浄や研磨等の素地調整を行うことや下塗り塗料を塗装してもよい。
【0018】
前記水性クリヤ塗料組成物を塗装する際の塗装方法としては、例えば、スプレー塗り、ローラー塗り、刷毛塗り、流し塗り等の公知の手段で塗装することができる。塗装回数は特に制限されることなく、1回又は複数回塗り重ねても良い。乾燥膜厚としては、被塗物の状態や周囲環境によって異なるが、一般には5〜80μm、好ましくは8〜70μmの範囲内とすることができる。
【0019】
乾燥方法としては、常温乾燥が採用され、乾燥によって塗膜を得ることができるが、必要に応じて加熱乾燥を併用して行なってもよい。常温乾燥では、例えば5〜45℃の環境下で乾燥することにより塗膜を得ることができる。塗装時における相対湿度(以下RHと略すことがある)は70%以下、特に60%以下が好ましい。常温乾燥の乾燥時間としては、1日以上、さらには3日以上が好ましい。加熱乾燥を併用する場合は、例えば、30〜100℃、好ましくは35〜90℃の環境下、5〜120分好ましくは10〜100分乾燥することにより塗膜を得ることができる。熱源としては、太陽光であっても良い。
かくして、被塗物上にクリヤ塗膜が形成される。
【0020】
本方法における塗膜は、塗装後初期の塗膜の動的接触角が転落角で60°以下、特に55°以下にあることができる。塗装後初期の塗膜の動的接触角が転落角で60°を超える場合は、塗膜が被覆したLED信号機等の被塗物から雪が流れ落ち難くなることがある。なお、本明細書において塗装後初期の塗膜とは、例えば、軟鋼板に、塗料を乾燥膜厚が50μmとなるようにアプリケーターで塗装し、20℃で7日間乾燥させた状態が挙げられる。
【0021】
本明細書において、動的接触角における転落角とは、水平な状態で塗膜表面に水滴を載せ、徐々に傾斜させていくと、水滴が滑り始める傾斜角度のことである。静的接触角は、塗膜表面上に水滴を載せ、水滴の縁の表面に引いた接線と塗膜表面とがなす角度をいい、この角度が小さいほど、塗膜表面が親水性であることを意味する。
【0022】
<水性クリヤ塗料組成物>
本方法に適用される、水性クリヤ塗料組成物について説明する。
本方法に適用される水性クリヤ塗料組成物は、水分散性塗膜形成樹脂(A)、凍結防止剤(B)及びフッ素系界面活性剤(C)を含み、前記フッ素系界面活性剤(C)の含有量が、前記水分散性塗膜形成樹脂(A)の固形分質量100質量部を基準として、0.1〜10質量部の範囲内である。
【0023】
前記水分散性塗膜形成樹脂(A)は、塗膜形成能を有するものであれば特に制限なく、従来から水性塗料のバインダー成分として使用されている、それ自体既知の水分散性の樹脂を使用することができる。「水性塗料」は、当技術分野で周知な用語であり、本方法に適用される水性クリヤ塗料組成物中における水の含有量が、30〜90質量%、好ましくは40〜80質量%、さらに好ましくは50〜70質量%の範囲内であることが好適である。
水分散性塗膜形成樹脂(A)の樹脂としては、具体的には、アクリル樹脂、アクリル、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂などやこれらの混合樹脂又は変性樹脂、例えばアクリル変性ポリエステル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、アクリル変性エポキシ樹脂及びエポキシエステル樹脂等が挙げられる。また、これらは単独で使用しても2種以上を併用しても良い。
【0024】
上記水分散性塗膜形成樹脂(A)を調製する方法としては、水溶媒の存在下又は有機溶媒の存在下で、乳化重合、懸濁重合、水溶液重合、分散重合など従来から公知の方法によりモノマーをポリマー化し、その後、必要に応じて水へ分散することにより得る方法が挙げられる。これらの水分散性塗膜形成樹脂(A)の水分散の手法としては、従来公知の手法を使用することができる。例えば、上記樹脂に含まれるカルボキシル基等のアニオン性基の一部又は全部をアミン等の塩基性化合物で中和してイオン化することによって水中に分散させる手法や、塩基性化合物を含有する水性媒体中に該樹脂を添加して分散させるなどの手法を用いることが可能である。
【0025】
これらの塗膜形成能を有する樹脂の中で、流雪性の点からは、エポキシエステル樹脂及び/又はアクリル樹脂の水分散体が好ましく、特に被塗物が樹脂製及び金属製のどちらであっても付着性及び流雪性に優れた塗膜を得る点からエポキシエステル樹脂の水分散体が好ましい。
【0026】
エポキシエステル樹脂の水分散体としては自己乳化型のものが適しており、その製造方法としては、例えば、エポキシ樹脂と、無水フタル酸などの二塩基酸無水物とを反応させてエステル化し、該反応により生成した樹脂のカルボキシル基を中和し水分散する方法等が挙げられる。また、該エポキシエステル樹脂は、不飽和及び/又は飽和脂肪酸やロジン等の化合物により変性されていてもよい。前記エポキシエステル樹脂としては、市販品を用いることができ、このような市販品としては、例えば、DIC(株)製のウォーターゾールCD−550LAP、BM−1000P、EFD−5501P、EFD−5530、EFD−5560、EFD−5570、EFD−5580(いずれも商品名、ウォーターゾールシリーズ)、(株)日本触媒製のアロロン5、7、27(いずれも商品名、アロロンシリーズ)が挙げられる。
【0027】
アクリル樹脂水分散体の製造方法としては、例えば、水及び界面活性剤の存在下、重合性不飽和モノマーを乳化重合する方法、重合性不飽和基含有モノマーを共重合した共重合体を前述の水分散を行なう方法等を挙げることができる。
【0028】
本発明においては、水分散性塗膜形成樹脂(A)の水分散体の平均粒子径は、被塗物との付着性および凍結融解試験後の転落角がより低値となる点から、0.005μmを超えて1μmの範囲内、より好ましくは0.01μm〜0.1μmの範囲内が好適である。また、本明細書において平均粒子径とは、コールターカウンターN4(商品名、ベックマン・コールター株式会社製、粒度分布測定装置)にて、試料を脱イオン水にて測定に適した濃度に希釈して、常温(20℃程度)にて測定した値とする。
ここで、本明細書中において、「水溶性」樹脂とは、上記「水分散」体樹脂とは異なる形態であり、樹脂を水と混合した際に、樹脂が水に溶解されている状態をとり得るものである。
【0029】
本方法に適用される水性クリヤ塗料組成物は、凍結防止剤(B)を含む。本発明の方法に適用できる水性クリヤ塗料組成物は、凍結防止剤(B)を含有することにより、被塗物との付着性及び流雪性に優れる塗膜を形成することができる。本方法に適用する凍結防止剤(B)は、凝固点降下剤として一般的に知られるもので、凝固点降下(Freezing-point depression)とは、溶質を溶媒(例えば、水)に溶かすと溶媒の凝固点が低くなる現象のことである。凍結防止剤としては、アルキレングリコール又は多価アルコールのC1〜8のモノアルキルエーテルや、多価アルコールなどの水溶性液体アルコール等が挙げられる。
これらの中でも、水性クリヤ塗料組成物の相溶性と塗膜性能(透明性、付着性、流雪性及び凍結融解試験後の転落角がより低値となる)とのバランスの観点から、水に易溶性で沸点が170℃以上、好ましくは180〜300℃の範囲内のものが好ましい。
ここで、「水に易溶性」とは、室温(20℃)において、蒸留水と相分離を生じることなく任意の割合で混和し、透明な溶液を形成することを意味する。
水に易溶性の沸点170℃以上の凍結防止剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、分子量200〜600の範囲内のポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル;トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールジエーテル;ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート;エチルジグリコール、ブチルジグリコール、グリセリン、プロピオニルカルビノールなどを挙げることができる。
これらの中でも、エチレングリコール、プロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種のものが好ましい。
【0030】
凍結防止剤(B)の含有量としては、水分散性塗膜形成樹脂(A)の固形分質量100質量部を基準として0.3〜20質量部が好ましく、さらには1.5〜15質量部の範囲内が好ましい。
水に易溶性の沸点180℃以上の凍結防止剤(B)を用いると、水分散性塗膜形成樹脂(A)と後述するフッ素系界面活性剤(C)との相乗効果により、得られる塗膜が透明性、流雪性及び凍結融解試験後の転落角に優れる。
【0031】
本発明に適用される水性クリヤ塗料組成物はフッ素系界面活性剤(C)を含む。フッ素系界面活性剤(C)としては、フッ素置換された炭化水素鎖及び親水性基を併有する化合物が挙げられる。親水性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の酸基及びこれらの酸基を塩基性化合物で中和した基;カルボキシベタイン、スルホベタイン、ホスホベタイン等のべタイン構造含有基;ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシエチレン(オキシプロピレン)基等のポリオキシアルキレン基;水酸基、アミド;3級アミノ基、4級アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0032】
具体的にはパーフルオロアルキルスルホン酸のリチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩、パーフルオロアルキルカルボン酸のカリウム塩、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩、パーフルオロアルキルジカルボン酸カリウム塩、パーフルオロアルキル燐酸塩等のアニオン性フッ素系界面活性剤;パーフルオロオクタンスルホン酸ジエタノールアミド、N−プロピル−N−(2−ヒドロキシエチル)パーフルオロオクタンスルホン酸アミド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルアルコキシレート等のノニオン性のフッ素系界面活性剤等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。前記フッ素系界面活性剤のうちのある種のものは、例えば、「メガファック」シリーズ(商品名、DIC社製)、「サーフロン」シリーズ(商品名、AGCセイミケミカル社製)、「FC」シリーズ(商品名、スリーエム社製)、「フタージェント」シリーズ(商品名、ネオス社製)、「ゾニール」シリーズ(商品名、デュポン社製)として市販されている。
【0033】
本発明において、形成される塗膜に適度な流雪性を発現させるためのフッ素系界面活性剤(C)の含有量は、水分散性塗膜形成樹脂(A)の固形分質量100質量部を基準として、0.1〜10質量部の範囲内にあることを特徴とするものであり、好ましくは0.3〜5.0質量部、特に好ましくは1.5〜3.0質量部の範囲内である。この範囲より少ないと流雪性が不十分であり、一方、多すぎると乾燥後の塗膜の光沢が低下するとともに透明性が得られず好ましくない。
【0034】
また、本発明に適用される水性クリヤ塗料組成物は、得られる塗膜性能(特に透明性)を損なわない範囲で顔料(着色顔料、体質顔料)、有機金属化合物;シランカップリング剤:前記水分散性塗膜形成樹脂(A)以外のアクリル樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等の改質用樹脂;有機溶剤;反応性希釈剤;造膜助剤、触媒、付着付与剤、沈降防止剤、消泡剤、防錆剤、防カビ剤、粘度調整剤、分散剤、湿潤剤、脱水剤、紫外線吸収剤(例えばベンゾトリアゾール系吸収剤、トリアジン系吸収剤、サリチル酸誘導体系吸収剤、ベンゾフェノン系吸収剤など)、光安定剤(例えば、ヒンダードピペリジン系など)等の塗料用添加剤等を含むことができる。
【0035】
上記塗料用添加剤のうち、造膜助剤を含有することにより、より流雪性が向上する場合がある。造膜助剤としては、2,2,4−トリメチルペンタンモノイソブチレート、3−メチル−3−メトキシブタノール等の化合物が挙げられる。造膜助剤を配合する場合は、その含有量は、凍結融解試験後の転落角がより低値となることから、水分散性塗膜形成樹脂(A)の固形分質量100質量部を基準として1〜30質量部の範囲内、好ましくは2〜20質量部の範囲内にあることが適している。
【0036】
上記添加剤のうち、水分散性塗膜形成樹脂(A)として酸化硬化系樹脂を用いる場合には、硬化触媒を含有することにより、基材との付着性及び流雪性を向上させる場合がある。酸化硬化触媒としては、酸化硬化を促進する触媒、具体的には脂肪酸の金属塩、金属酸化物、単体金属等を用いることができる。脂肪酸の金属塩の脂肪酸としては、オクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、大豆油脂肪酸、ステアリン酸、トール油脂肪酸等が挙げられる。脂肪酸の金属塩としては、コバルト、マンガン、ジルコニウム、リチウム、バリウム、亜鉛、銅、鉄、カルシウム、マグネシウム、セリウム、アルミニウム、ストロンチウム等の金属と脂肪酸との塩を挙げることができる。これらは1種で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記硬化触媒としては、上記脂肪酸の金属塩以外に、上で例示した金属の単体や酸化物の1種又は2種以上を用いることもできる。上記硬化触媒を配合する場合、有効成分の含有量としては、被塗物との付着性及び流雪性の観点から水分散性塗膜形成樹脂(A)の固形分100質量部を基準として0.1〜20質量部、好ましくは0.3〜10質量部の範囲内にあることが適している。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、下記例中の「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0038】
実施例1〜8及び比較例1〜7
表1に示す配合組成にて塗料(X−1)〜(X−15)を製造した。(X−1)〜(X−15)は全てクリヤタイプである。なお、表中の数値は固形分としての配合量である。
次に、塗料(X−1)〜(X−15)を用いて、後述する<試験塗板の作製>により、試験塗板A〜Cを作製した。
この試験塗板A〜Cを用いて、後述する<評価試験>に記載した試験方法及び評価基準により、評価試験を行った。得られた評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
(*1)水分散性塗膜形成樹脂(A−1):アクリル樹脂水分散体(アクリル酸/2−エチルヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート系共重合物)、樹脂固形分46.5質量%、平均粒子径0.125μm。
(*2)水分散性塗膜形成樹脂(A−2):自己乳化型アクリル樹脂水分散体(アクリル酸/i−ブチルメタクリレート/メチルメタアクリレート系共重合物)、樹脂固形分46.5質量%、平均粒子径0.075μm、
(*3)水分散性塗膜形成樹脂(A−3):自己乳化型エポキシエステル樹脂水分散体、酸化硬化系樹脂、樹脂固形分40質量%、平均粒子径0.31μm、
(*4)水分散性塗膜形成樹脂(A−4):自己乳化型エポキシエステル樹脂水分散体、酸化硬化型樹脂、樹脂固形分40質量%、平均粒子径0.09μm、
(*5)水溶性塗膜形成樹脂(A’−5):水溶性エポキシエステル樹脂、酸化硬化型樹脂、樹脂固形分40質量%、樹脂溶液は透明な状態で、コールターカウンターN4で平均粒子径は測定できなかった。
【0041】
(*6)溶剤系塗膜形成樹脂(A’−6):溶剤型アクリル樹脂;攪拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下装置を備えた反応容器に、「スワゾール(商品名、丸善石油化学工業、芳香族系炭化水素系有機溶剤)」23部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら120℃で攪拌し、この中に、スチレン 23.0部、メチルメタクリレート 17.7部、2−エチルヘキシルアクリレート 10.0部、i−ブチルメタクリレート 22.5部、ヒドロキシエチルメタクリレート 2.3部、アクリル酸 0.8部、のモノマー組成を混合し、そこへターシャリーブチルパーオキサイド(重合開始剤)4部とスワゾール10部の混合液を3時間かけて均一速度で滴下し、さらに同温度で2時間熟成した。その後、滴下終了後1時間熟成させ、「スワゾール1000」で固形分55%になるまで希釈し、有機溶剤型アクリル樹脂(A’−6)溶液を得た。得られた樹脂固形分の重量平均分子量は50,000であった。
【0042】
(*7)凍結防止剤(B−1):エチレングリコール、沸点197.3℃。
(*8)凍結防止剤(B−2):プロピレングリコール、沸点188.2℃。
(*9)界面活性剤(C−1):フッ素系界面活性剤、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、固形分含有率100質量%、
(*10)界面活性剤(C’−2):BYK−342、商品名、ビックケミー・ジャパン社製、固形分含有率53質量%、シリコーン系界面活性剤、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、
(*11)造膜助剤No.1:テキサノール、商品名、イーストマンコダック社製、2,2,4−トリメチルペンタンモノイソブチレート。
【0043】
(*12)硬化触媒:DICNATE−3111TL、商品名、DIC株式会社製、固形分含有率24質量%(コバルト含有率3質量%)、
(*13)増粘剤:プライマルRM−2020NPR、商品名、ローム&ハース社製、ウレタン会合型増粘剤、固形分含有率20質量%。
(*14)消泡剤:SNデフォーマー1311、商品名、サンノプコ社製、シリコーン系消泡剤、固形分含有率100質量%。
(*15)防錆剤:亜硝酸ナトリウム、別名亜硝酸ソーダ。
(*16)防カビ剤:バイオカットAF−40、商品名、日本曹達株式会社製、固形分含有率42質量%。
(*17)光安定剤:HALS−TINUVIN292、商品名、BASF社製、ヒンダードアミン系光安定剤、固形分含有率100質量%。
【0044】
<試験塗板の作製>
試験塗板A:黒色塩ビシートに、各水性クリヤ塗料組成物(X−1)〜(X−15)を乾燥膜厚が50μmとなるようにアプリケーターで塗装し、20℃、7日間乾燥させたものを試験塗板Aとした。
試験塗板B:軟鋼板に、各塗料(X−1)〜(X−15)を乾燥膜厚が50μmとなるようにアプリケーターで塗装し、20℃、7日間乾燥させたものを試験塗板Bとした。
試験塗板C:ポリカーボネート樹脂板に、各水性クリヤ塗料組成物(X−1)〜(X−15)を乾燥膜厚が50μmとなるようにアプリケーターで塗装し、20℃、7日間乾燥させたものを試験塗板Cとした。
【0045】
<評価試験>
各評価項目の試験方法及び評価基準は下記の通りである。
【0046】
(試験項目1.)光沢度
各試験塗板Aを、BYK社製のグロスメータ「micro-TRI-gloss」(商品名、光沢計)を使用し、測定角度60度にて測定した。
【0047】
(試験項目2.)透明性
各試験塗装板Cの塗膜の透明性を目視で評価した。
○:透明であり、良好、下地の視認性良好。
△:わずかに濁りがある、下地の視認性やや不良。
×:かなり濁っている、下地の視認性不良。
【0048】
(試験項目3.)静的接触角(°)
各試験塗板Aに、純水10μLを滴下し、測定温度20℃にて滴下後1分の接触角を型式CA−X(協和界面科学株式会社)のモニターを見て測定した。表中の値は3回測定したときの平均値である。
【0049】
(試験項目4.)転落角(°)
各試験塗板Aの上に純水20μLを滴下し、測定温度20℃にて塗板を傾けた際に水滴が動き出した時の塗板の角度を転落角とした。測定は動的水接触角測定装置「DSA−100 micro」(商品名、KRUSS社製)を用いた。転落角の数値が低いほど良好である。
【0050】
(試験項目5.)凍結融解試験後の転落角
各試験塗板Aを、−20℃、16時間で曝した後、45℃、8時間で曝すサイクルを1サイクルとして10サイクル試験をした後に、転落角を測定した。転落角の数値が低いほど良好である。
【0051】
(試験項目6.)初期付着性(鉄板)
JIS K 5600−5−6(1990)に準じて、各試験塗板Bの塗膜表面から5mm幅で素地まで達する6本の格子状(碁盤目様)のクロスカットを入れ、その面に粘着テープを貼着し、急激に剥がした後に、塗膜におけるクロスカット部の剥離状態を観察し下記基準にて評価した。
◎:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
○:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ、クロスカット部分でのテープ剥離面積が5%未満である。
△:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分でのテープ剥離面積が5%以上60%未満である、
×:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び
/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分でのテープ剥離面積が明確に60%以上である。
【0052】
(試験項目7.)耐水試験後の付着性(鉄板)
各試験塗板Bを40℃の温水に4日間浸漬した後、水洗いしたあとの試験板の付着性を評価した。付着性の試験方法と評価基準は(試験項目6)に記載の方法と同様に行なった。
【0053】
(試験項目8.)初期付着性(カーボネート板)
JIS K 5600−5−6(1990)に準じて、各試験塗板Cの塗膜表面から5mm幅で素地まで達する6本の格子状(碁盤目様)のクロスカットを入れ、その面に粘着テープを貼着し、急激に剥がした後に、塗膜におけるクロスカット部の剥離状態を観察して評価した。評価基準は(試験項目6)に記載の方法と同様におこなった。
【0054】
(試験項目9.)耐水試験後の付着性(カーボネート板)
各試験塗板Cを40℃の温水に4日間浸漬した後、水洗いしたあとの試験板の付着性を評価した。付着性の試験方法と評価基準は(試験項目6)に記載の方法と同様におこなった。
【0055】
(試験項目10.)流雪性1.
冬季直前に、青森県青森市内のLED信号機全面(本体;塗料が塗装されたステンレス製及びレンズカバー(ポリカーボネート樹脂製)面に刷毛を用い塗装後の乾燥膜厚が8〜20μmとなるように、各塗料(X−1)〜(X−15)を塗装し、常温で乾燥させて、流雪性評価用塗装を行った後、冬期降雪開始から24時間放置し信号機表面の残雪状態を観察し、下記基準にて目視評価した。
5:本体、レンズカバー共に雪が全く残っていない、
4:本体、レンズカバー共にLED信号機表面のうち雪で覆われている部分が半分より少ない、
3:本体、レンズカバー共にLED信号機表面のうち雪で覆われている部分が半分程度、
2:本体、レンズカバー共にLED信号機表面のうち、雪で覆われている部分が半分を超えるが、雪で覆われていない部分も認められる、
1:LED信号機表面が全面雪で覆われている。
【0056】
(試験項目11.)流雪性2.
冬季直前に、青森県青森市内の屋外駐車されている自動車の左右のヘッドランプカバー(ポリカーボネート樹脂製)を洗浄した後、片側のカバー表面に刷毛を用い塗装後の乾燥膜厚が8〜20μmとなるように、各塗料(X−1)〜(X−15)を塗装し、常温で乾燥させて、流雪性評価用塗装を行った後、冬期降雪開始から24時間放置し自動車のヘッドランプカバー部分表面の残雪状態を観察し、未塗装側と比較し、下記基準にて目視評価した。試験中、自動車のヘッドランプは、全て消灯した状態で行った。
5:未塗装側に比べ、ランプカバーに雪が残っておらず良好、
4:未塗装側に比べランプカバーの表面が雪で覆われている部分が明らかに少なく、残雪は走行により容易に雪が除去される、
3:未塗装側に比べランプカバーの表面が雪で覆われている部分が同程度であるが、残雪は走行により雪が除去される、
2:未塗装側に比べランプカバーの表面が、雪で覆われている部分が同程度であり、残雪は走行により若干雪が除去される、
1:未塗装側と比べランプカバーの表面が、雪で覆われている程度に差は無く、残雪は走行によっても除去されず、効果が認められない。
【0057】
表1の評価結果からも理解されるように、本発明によれば、作業性が良好で被塗物との付着性や流雪性等の諸性能を兼ね備えた塗膜が形成され、優れた雪氷付着防止方法を提供することができる。