【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「環境調和型製鉄プロセス技術開発(STEP2)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リーク率kを操業中に正確に求めることは、以下の理由で重要である。例えば、特定の触媒反応器のみを整備するため、その触媒反応器の弁機構の下流側を大気(または加熱炉内)に開放する場合がある。この場合に弁機構のリーク率が過大であれば、弁機構から多くの原料ガスがリークする。そして、原料ガスが燃焼性を有し、かつ、原料ガスが大気と混合して爆発限界を超える条件である場合、発火する可能性がある。もしリーク率が確実に爆発限界を満足しない条件であることが明らかではない場合、安全性を確保するために、他の触媒を含めて原料ガスの供給を停止する必要がある。この場合、操業の効率が損なわれる。従って、このような操業の場合、リーク率の測定および管理が重要である。
【0009】
あるいは、特定の触媒反応器を、他の全ての触媒反応器が何らかの理由で閉塞した場合(例えば、触媒反応の副生成物で閉塞した場合)に開放するためのバイパス管として使用する場合がある。この場合、バイパス管用の触媒反応器には、触媒を充填しないか、少量の充填に留めることになる。また、バイパス管用の触媒反応器にも弁機構が設けられる。通常の操業時には、この弁機構を閉止状態として他の全ての触媒反応器に大半の原料ガスが通気するように設定する。もし、この弁機構のリーク率が過大であった場合、この弁機構を閉止状態としても、多くの原料ガスがこの弁機構をリークしてしまう。弁機構をリークした原料ガスはほとんど改質されていない。この結果、流出集合管から流出される改質ガス中に、ほとんど改質されていない原料ガスが多く含まれることになる。したがって、改質性能が低下する問題を生じる。この場合、もし、弁機構のリーク率を正確に把握することができれば、整備を行うことによって弁機構のリーク率を改善するという判断を簡単に下すことができる。
【0010】
あるいは、触媒の経時劣化による触媒反応装置全体での改質性能の変化を安定化させるために、以下の操業を行う場合がある。すなわち、使用済み触媒の新触媒への交換後、操業の初期には一部の触媒反応器の弁機構を閉止状態として原料ガスの通気による触媒劣化から保護する一方で、他の触媒反応器の弁機構を開放状態とする。これにより、他の触媒反応器を用いて原料ガスの改質を行う。その後、操業の継続につれて他の触媒反応器での改質性能が経時劣化によって低下した時点で、閉止状態としていた一部の触媒反応器の弁機構を開放する。これにより、新たに開放された触媒反応器における比較的高い改質能力を用いて触媒反応を継続する。これにより、触媒反応装置全体での改質性能の低下を改善することができる。以上のような装置において、弁機構のリーク率が過大であれば、閉止状態とされた弁機構に対応する触媒反応器にも、触媒充填後の早い段階から多くの原料ガスが流通する。この結果、これらの触媒反応器においても触媒充填後の早い段階から触媒劣化が生じるので、所望の改質性能安定化効果を得ることができない可能性がある。もし、弁機構のリーク率を正確に把握することができれば、整備を行うことによって弁機構のリーク率を改善するという判断を簡単に下すことができる。
【0011】
単独の触媒反応器からなる触媒反応装置においては、数式(1)における差圧△Pおよびリーク流量Q
cを容易に測定できる。例えば、非高温部である供給側に弁機構を設け、この弁機構の△PおよびQ
cを測定すれば良い。したがって、リーク率kを求めることは困難ではない。しかし、特許文献1、2に開示されるような複数の触媒反応器が並列に配置されるとともに各触媒反応器が弁機構を独立に備える触媒反応装置では、リーク率を求めることは容易ではない。これらの触媒反応器のうち、一部の触媒反応器の弁機構のみ閉止状態とした場合、この弁機構を通気できなくなった原料ガスは、他の触媒反応器(すなわち、弁機構が開放状態とされた触媒反応器)に容易に流路を変更することができる。このため、差圧△P(この場合の差圧は、流入集合管内のガス圧と流出集合管内のガス圧との差圧となる)の変化はそもそも小さい。
【0012】
さらに、閉止状態とされた弁機構におけるリーク流量が開放状態とされた弁機構を通気するガス流量に比べて十分に小さい場合、閉止状態とされた弁機構におけるリーク流量によって変化する差圧△Pの量は、測定精度上、検出不可能な場合が多い。なお、閉止状態とされた各弁機構でのリーク流量を把握する方法として、触媒反応器に微小な流速を検出可能な流量センサ、例えば、カルマン渦流速計やコリオリ流速計等の流量センサを直接、配置することが考えられる。しかし、触媒反応器は高温に維持されることが多い。したがって、センサの耐熱性上、このような計測は困難である。したがって、リーク率kの把握は容易ではなかった。
【0013】
もし、非常に高精度な圧力センサを用いることができ、かつ、触媒反応器の弁機構での圧力−流量特性も正確に知られているのであれば、差圧△Pの変化から閉止状態の弁機構でのリーク流量を測定できる可能性はある。しかし、例えば、原料ガスが炭化水素を含有するガスであり、触媒反応が水蒸気改質反応であり、かつ生成ガス(改質ガス)が合成ガスとなる場合、操業中に副反応である炭化水素の接触分解反応によってコーク(固体の炭素または炭化水素)が生成する。そして、コークが触媒層(即ち、固定床)内に徐々に堆積して触媒層でのガスの通気を妨げることによって、触媒反応器における圧力−流量特性が刻々と変化する。したがって、このような条件下では、上記の方法で弁機構のリーク流量を求めることはできない。また、極めて高精度の圧力計を用いることは、経済合理性の観点から現実的でない。
【0014】
あるいは、触媒反応器ごとにオリフィス式流速計(配管中にオリフィスを設け、その前後での圧力差を検出して流速に換算する原理のもの)を設け、この流速計の差圧検出器を触媒反応器の低温部分(原料ガスの入側)に設置する方法も考えられる。この方法では、流量計のコストを削減しつつ、リーク流量を測定できる可能性がある。しかし、触媒反応器内の流速は、通過するガスと触媒との接触時間を確保するため、通常、極めて小さいもの、例えば、数十cm/s程度に設定されることが多い。このため、オリフィス前後で生じる差圧は極めて微小なものとなり、計測誤差が大きくなるか、あるいは、高価な精密差圧計を多数配置する必要がある。したがって、経済合理性の観点から現実的でない。
【0015】
このように、複数の触媒反応器が並列に配置されるとともに各触媒反応器が弁機構を独立に備える場合、閉止状態とされた一部の弁機構のリーク流量およびリーク率を簡易に検知することができなかった。
【0016】
一方、熱電対等の温度計測装置を各触媒反応器に設置することは、技術的な困難が比較的少ないため、操業管理および設備保護を目的として一般に行われている。触媒反応器の温度、具体的には触媒層の温度を触媒反応器用の弁機構のリーク率測定に用いることができれば、安価にリーク率を測定できることになる。しかし、このような提案は従来なされていなかった。
【0017】
そこで、本発明では、加熱炉内に複数並列に配置される触媒反応器を備える触媒反応装置において、個々の触媒反応器に高価な計測装置を設けることなく、安価、かつ、簡易に弁機構のリーク率をオンラインで測定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、触媒反応装置内に並列に複数配置された弁機構のリーク率を測定する弁機構のリーク率の測定方法であって、前記触媒反応装置は、並列にn台配置され、原料流体を固定床である触媒層で処理する触媒反応器、全ての前記触媒反応器に流体を供給するための集合管である流入集合管、前記触媒反応器毎に設けられ、前記触媒反応器内に流体を流通させる開放状態、および前記触媒反応器への流体の流通を遮断する閉止状態のいずれかに互いに独立して設定可能な前記弁機構、全ての前記触媒反応器から流出する流体を集めて下流に流出させるための集合管である流出集合管、全ての前記触媒反応器の触媒層内にそれぞれ設けられ、触媒層温度T
iを計測する触媒層温度計、および前記流入集合管の流体温度である流入温度を計測する流入温度計を備え、炉温調整可能な加熱炉内に配置される加熱炉内装置と、前記流入集合管に供給する流体を予熱する流体予熱装置と、前記流入集合管に供給する流体を原料流体と非反応性流体との間で切り替えるための流体切り替え装置と、前記流入集合管を通過する流量を測定する流量計と、前記流入集合管と前記流出集合管との間の差圧を測定する差圧計測装置と、を備え、前記リーク率の測定方法は、全ての前記弁機構を開放状態として前記流入集合管に非反応性流体が通過するように前記流体切り替え装置を設定する第1の操作と、前記流入温度計が所定の流入温度を示すように前記流体予熱装置を調整する第2の操作と、前記n台中の所定のn
c台の触媒反応器に対応する前記弁機構を閉止状態とした後、定常状態となるまで操業状態を維持し、前記定常状態における前記差圧△P
3、および前記n
c台の触媒反応器の触媒層温度T
c3,iを記録し、
k
i=α
1・Q
c3,i・(△P
3)
−1/2
Q
c3,i:閉止状態での弁機構のリーク流量
α
1:モデル定数
なる式で定義されるi番目の弁機構のリーク率k
iを、前記触媒層温度T
c3,iを用いた関数として算出する第3の操作と、を含むことを特徴とする弁機構のリーク率の測定方法が提供される。
【0019】
ここで、加熱炉内装置は、更に、前記加熱炉の炉温を計測する炉温温度計を備え、前記第3の操作では、更に、前記加熱炉の炉温T
fを記録し、前記閉止状態での弁機構のリーク流量Q
c3,iを、
Q
c3,i=a
1・(T
f−T
c3,i)
a
1:モデル係数
なる式により算出してもよい。
【0020】
また、加熱炉内装置は、更に、前記加熱炉の炉温を計測する炉温温度計を備え、前記第2の操作では、前記所定の流入温度である流入温度T
in2を記録すると共に、i番目の前記触媒反応器の前記触媒層温度T
iが定常状態となるまで操業状態を維持し、定常状態での前記触媒層温度T
iを触媒層温度T
2,iとして記録し、前記第3の操作では、更に、前記加熱炉の炉温T
fを記録し、
k
i=a
2Ln[(T
f−T
in2)/(T
f−T
2,i)]
/Ln[(T
f−T
in2)/(T
f−T
c3,i)]
a
2:モデル係数
なる式を用いてリーク率k
iを算出してもよい。
【0021】
また、前記第2の操作では、前記所定の流入温度である流入温度T
in2を記録すると共に、前記第3の操作では、前記流入温度計が前記流入温度T
in2とは異なる流入温度T
in4示すように前記流体予熱装置を調整し、前記触媒層温度T
iが定常状態となるまで操業状態を維持し、定常状態での前記触媒層温度T
iを触媒層温度T
c4,iとして記録し、前記閉止状態での弁機構のリーク流量Q
c3,iを、
Q
c3,i=−β
i/Ln[(T
c4,i−T
c3,i)/(T
in4−T
in2)]
β
i:モデル係数
なる式を用いて算出してもよい。
【0022】
原料流体は炭化水素を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の他の観点によれば、並列に複数配置された弁機構のリーク率を測定する触媒反応装置であって、並列にn台配置され、原料流体を固定床である触媒層で処理する触媒反応器、全ての前記触媒反応器に流体を供給するための集合管である流入集合管、前記触媒反応器毎に設けられ、前記触媒反応器内に流体を流通させる開放状態、および前記触媒反応器への流体の流通を遮断する閉止状態のいずれかに互いに独立して設定可能な前記弁機構、全ての前記触媒反応器から流出する流体を集めて下流に流出させるための集合管である流出集合管、全ての前記触媒反応器の触媒層内にそれぞれ設けられ、触媒層温度T
iを計測する触媒層温度計、および前記流入集合管の流体温度である流入温度を計測する流入温度計を備え、炉温調整可能な加熱炉内に配置される加熱炉内装置と、前記流入集合管に供給する流体を予熱する流体予熱装置と、前記流入集合管に供給する流体を原料流体と非反応性流体との間で切り替えるための流体切り替え装置と、前記流入集合管を通過する流量を測定する流量計と、前記流入集合管と前記流出集合管との間の差圧を測定する差圧計測装置と、を備え、更に、全ての前記弁機構を開放状態として前記流入集合管に非反応性流体が通過するように前記流体切り替え装置を設定する第1の手段と、前記流入温度計が所定の流入温度を示すように前記流体予熱装置を調整する第2の手段と、前記n台中の所定のn
c台の触媒反応器に対応する前記弁機構を閉止状態とした後、定常状態となるまで操業状態を維持し、前記定常状態における前記差圧△P
3、および前記n
c台の触媒反応器の触媒層温度T
c3,iを記録し、
k
i=α
1・Q
c3,i・(△P
3)
−1/2
Q
c3,i:閉止状態での弁機構のリーク流量
α
1:モデル定数
なる式で定義されるi番目の弁機構のリーク率k
iを、前記触媒層温度T
c3,iを用いた関数として算出する第3の手段と、を実行させる弁機構リーク率測定装置を備える、ことを特徴とする触媒反応装置が提供される。
【0024】
本発明が対象とする系では、弁機構前後での圧力変化は、弁機構の前後での絶対圧力に比べて十分に小さく、温度変化も比較的小さい。上記数式(1)におけるDは、設計上、固定値であり、ζ
opは、数値解析等によって、容易に求めることのできる固定値である。さらに、弁機構を流れる流体を非圧縮性流体とし(後述するように、当該流体は実際に非圧縮性流体とみなせる場合がほとんどである)、固定値化できるものをモデル定数にまとめると、上記数式(1)は、次の数式(2)に簡略化できる。
k=α
1・Q
c・(△P)
1/2 (2)
α
1:モデル定数
【0025】
この数式を、並列に設けられた複数の触媒反応器のうち、i番目の触媒反応器の弁機構に適用すると、以下の数式(3)が得られる。以下、添え字iは、触媒反応器番号を意味するものとする。△Pの添え字3は、上記第3の操作で得られる値であることを意味する。添え字cは、個々の触媒反応器において閉止状態であることを意味する。
k
i=α
1・Q
c3,i・(△P
3)
1/2 (3)
Q
c3,i:閉止状態での弁機構のリーク流量
【0026】
なお、本発明におけるリーク率は、Cv値に対応するものに限定されるものではない。つまり、触媒反応器の用途に応じて任意の基準差圧(弁機構前後での差圧)を適宜設定し、この条件下での閉止状態時のリーク流量と開放状態時の流量(基準流量)との比をリーク率として用いることができる。このようにして求めたリーク率は、当業者にとっては自明な簡単な工学的知識に基づく演算によって容易にCv値に対応する値に変換することもできる。
【0027】
(本発明の特徴)
本発明に係る触媒反応装置では、加熱炉内に複数の触媒反応器が並列に配列されており、かつ、各触媒反応器に弁機構が設けられている。したがって、弁機構は、触媒反応装置内に並列に複数配置されている。本発明の第1の特徴は、これらの触媒反応器の温度分布の変化、具体的には、触媒反応器内に設置される触媒層の温度分布の変化という比較的容易な測定によって、個々の弁機構のリーク率をオンラインで容易に測定可能なことである。
【0028】
原料流体は、炭化水素を含有する場合もありうる。この場合、原料流体を改質する際に触媒反応器内でコークが多量に堆積するので、触媒反応器自体の通気抵抗係数が操業中に刻々と変化する。本発明の第2の特徴は、このような系においても、触媒層の温度分布の変化および差圧△P
3に基づいて、弁機構のリーク率を弁機構毎に独立に測定することができ、測定精度がより高い。
【0029】
本発明者は、触媒反応器内でのコーク堆積によって生じる圧力損失係数(抵抗係数)ηの変化が触媒反応器における熱貫流率hと一意の関係を持つことを見出した。本発明の第3の特徴は、抵抗係数ηと熱貫流率hとの関係に基づいて、リーク率を測定することである。
【0030】
(ηとhの関係)
ここで、触媒反応器における抵抗係数ηと、熱貫流率hとの相関について説明する。本発明者は、抵抗係数ηと、熱貫流率hに比例するモデル定数β(具体的な内容は後述する)との間に一意の関係があることを見出した。本発明者は、η/η
0とβ/β
0の関係を特定の触媒反応装置にて調査した。ここで、触媒層にコーク堆積のない状態を添え字0で表す。この結果、本発明者は、両者の間に
図3に示すような関係があることを見出した。
図3の横軸、縦軸はいずれも対数軸である。
図3に示すように、η/η
0とβ/β
0との間には正の相関がある。
【0031】
本発明者は、この理由を以下のように考えている。即ち、触媒層内にコークの堆積のない初期の状態に比べて、コークの堆積を生じると触媒反応器内で熱が伝わり易くなる。コークの主成分は、熱伝導率の比較的高い物質である固体カーボンであり、触媒粒子間および触媒粒子と反応器内壁管の隙間をコークが埋める。したがって、主にコーク経由の熱伝導によって触媒層中の伝熱が担われる。コークの堆積量が多くなると(すなわち、抵抗係数が大きくなると)、熱貫流率h、すなわちモデル定数βの値も大きくなる。このため、
図3に示す関係が得られると考えられる。
【0032】
図3の関係は、形式的に次の式で表現できる。モデル定数a
iの値は、
図3の例では0.42となる。この相関を用いたリーク率k
iの具体的な算出方法は後述する。
β
i=β
0,i・(η
i/η
0,i)
ai
a
i:モデル定数
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように本発明によれば、加熱炉内に複数並列に配置される弁機構のリーク率を、触媒反応器内の温度を測定することで簡易に算出することができる。したがって、個々の触媒反応器に高価な計測装置を設けることなく、安価、かつ、簡易に弁機構のリーク率をオンラインで測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0036】
<1.第1の実施形態>
(1.全体構成)
まず、
図1〜
図2に基づいて、第1の実施形態に係る触媒反応装置1の全体構成を説明する。触媒反応装置1は、流体切り替え装置110と、ガス予熱装置111と、加熱炉内装置A1と、冷却装置117と、流量調整装置118と、ブロワ119とを備える。
【0037】
加熱炉内装置A1は、加熱区間A内に設けられており、流入集合管101と、流量計112と、流入圧力計113と、流入温度計114と、複数の(
図1の例ではn台。nは3以上の整数)の触媒反応器2と、触媒反応器2毎に設けられる触媒層内堆積物除去装置3と、触媒反応器2毎に設けられる弁機構4と、触媒反応器2毎に設けられる触媒層温度計115と、流出集合管102と、流出圧力計116とを備える。
【0038】
加熱炉内装置A1は、図示しない加熱炉によって加熱される。このような加熱炉としては、例えば、炉内にガスバーナを多数配置した直火式加熱炉を用いることができる。加熱炉内で触媒反応器2あるいは配管の存在しない代表点に炉温を計測する温度計(炉温温度計)が設置される。そして、ガスバーナの燃焼量を制御することによって、この温度計の実測値が目標値に一致するように、炉温の調整がなされる。
【0039】
したがって、加熱炉内装置A1を構成する触媒反応器2は、加熱炉(すなわち、外部)から加熱される。これにより、触媒反応に要する反応熱が触媒反応器2に供給される。したがって、触媒反応器2は、外熱式触媒反応器となっている。触媒反応器2は、加熱区間A内に並列に複数(
図1の例ではN個)配置されている。触媒反応器2は、直管内に触媒が充填された構成を有しており、触媒は、触媒層として直管内に固定床として固定されている。また、直管下部に触媒落下防止用の網等が設けられている。直管の一端が入側、反対端が出側とされる。そして、入側から原料ガスが導入され、原料ガスが触媒層(固定床)を通過する際に触媒反応が生じる。触媒反応後の原料ガス、すなわち改質ガスは、出側から流出される。加熱炉内装置A1の詳細な構成については後述する。
【0040】
流体切り替え装置110は、原料流体供給装置100、非反応性流体供給装置200、および流入集合管101に接続されている。流体切り替え装置110は、流入集合管101に供給するガスを原料流体供給装置100から供給される原料ガスと非反応性流体供給装置200から供給される非反応性ガスとの間で切り替える装置である。流体切り替え装置110としては、例えば、上流側の2つのポートが原料流体供給装置100(より具体的には、原料流体供給装置100から伸びる配管)と非反応性流体供給装置200(より具体的には、非反応性流体供給装置200から伸びる配管)とにそれぞれ接続され、下流側のポートが流入集合管101に接続される構造の三方弁を用いることができる。
【0041】
原料流体供給装置100は、原料ガスを触媒反応器2に供給する装置であり、例えばガスホルダやガス発生炉等である。原料ガスは、後述する触媒層内の触媒反応によって改質されるガスである。第1の実施形態および後述する他の実施形態が対象とする触媒反応は、特に制限されない。一例として、触媒反応は、操業中に触媒層の流通抵抗が大きく変化しうるものであってもよい。この場合、原料ガスの例としては、天然ガス、ナフサ、コークス炉ガス等、あるいは、タールを含む石炭乾留ガス等の炭化水素を含有するガスが挙げられる。原料ガスが炭化水素を含む場合、原料ガスは、触媒層によって水蒸気改質される。改質された原料ガス、すなわち改質ガスは、反応流体回収装置300に回収される。
【0042】
この際、副反応である炭化水素の接触分解反応によって副生成物であるコークが生成されることがある。触媒層内で生成したコークは、徐々に触媒層(固定床)中の触媒間の空間に堆積するので、操業中に触媒層の流通抵抗(この場合は、通気抵抗)が増大する。さらに、第1の実施形態および後述する他の実施形態が対象とする触媒反応は、熱伝導率が触媒のものに比べて少なくとも著しくは小さくはない副生成物が生成されるものであってもよい。コークは、このような熱伝導率条件を満たす副生成物の一例である。以下、説明の便宜のために、副生成物がコークである場合を一例として説明するが、副生成物がコークに限られないことは勿論である。
【0043】
なお、水蒸気改質の反応性を確保するために、触媒層の温度、すなわち触媒層温度は、例えば700℃以上といった高温に設定され、全ての触媒反応器2においてこの触媒層温度条件を満足するように加熱炉の炉温T
fが調整される。以下、i番目の触媒反応器2の触媒層温度を「触媒層温度T
i」とも称する。
【0044】
非反応性流体供給装置200は、非反応性ガスを触媒反応器2に供給する装置であり、例えばガスホルダ等が挙げられる。非反応性ガスは、触媒層温度に加熱された触媒によって化学反応を生じないガスである。このような化学反応としては、例えば、上記の原料ガスの水蒸気改質反応が挙げられる。さらに、第1の実施形態および後述の各実施形態では、操業の便宜のために、非反応性ガスは、例えば、触媒反応器2の昇温時などに触媒反応器2に単独で通気されることがある。もし、昇温途中の触媒反応器2に原料ガスを供給した場合、改質反応が生じず、原料ガスを無駄に消費することになるとともに、温度条件次第では、凝縮性のガス(例えば、タールガス)が凝縮して触媒反応器2を閉止させる可能性がある。このような現象を防止するために原料ガスの代わりに触媒反応器2に非反応性ガスを通気させてもよい。この場合、非反応性ガスは、少なくとも常温から触媒反応温度の範囲において安定な物質であり、かつ、触媒との間に顕著な反応を生じないものである必要がある。上記の各条件を満たす非反応性ガスは、アルゴン等の不活性ガスや窒素ガス等が該当する。なお、第1の実施形態および後述する他の実施形態では、触媒反応装置1内を流通する流体(例えば原料ガス、非反応性ガス、改質ガス)を全て気体としたが、液体であっても一向に問題はない。
【0045】
ガス予熱装置111は、流入集合管101に導入される原料ガスまたは非反応性ガスを予熱する装置である。原料ガスまたは非反応性ガスは、予熱された後に触媒反応器2に導入される。ガス予熱装置111は、流入集合管101の一方の端部、すなわち単管の流入管101aに設けられる。ガス予熱装置111は、例えば熱交換器である。ガス予熱装置111は、管路の壁面が直接加熱される加熱管であってもよい。なお、流入集合管101と原料流体供給装置100との間には、ブロワ等の流体搬送装置等を適宜設けても良い。
【0046】
流入集合管101は、全ての触媒反応器2に流体、例えば原料ガスまたは非反応性ガスを供給するための単一の集合管である。流入集合管101の一方の端部は単管の流入管101aとなっており、流入管101aは、流体切り替え装置110に接続されている。他方の端部は複数の(N本の)流入分岐管101bとなっており、各流入分岐管101bに触媒反応器2の入側の端部が接続されている。流入管101aと流入分岐管101bとは連結管101cによって連結されている。
【0047】
触媒反応器2は、固定床である触媒層を内蔵した直管状の装置であり、加熱区間A内に並列に複数配置されている。触媒反応器2の入側の端部は流入集合管101の流入分岐管101bに連結され、出側の端部は流出集合管102の流出分岐管102bに連結されている。触媒反応器2は、触媒層を用いた触媒反応により原料ガスを改質する。そして、触媒反応器2は、改質後の原料ガス、すなわち改質ガスを流出集合管102に排出する。触媒反応器2の詳細な構成については後述する。
【0048】
触媒層内堆積物除去装置3は、触媒反応器2毎に設けられ、触媒層内に堆積したコーク等の副生成物、すなわち堆積物を操業中に除去する。触媒層内堆積物除去装置3は、互いに独立して駆動することができる。触媒層内堆積物除去装置3の具体例は後述するが、例えば特許文献1、2に開示された装置を特に制限なく使用することができる。なお、触媒層内堆積物除去装置3は省略されてもよい。例えば、原料ガスの改質によって堆積物が生成しない場合、あるいは、堆積物が生成して触媒層の通気抵抗を上昇させる場合であってもその堆積量が触媒反応器の閉塞にまでは至りえない場合には触媒層内堆積物除去装置3は省略されてもよい。
【0049】
弁機構4は、触媒反応器2毎に設けられる。すなわち、弁機構4は、触媒反応装置1内に並列に複数配置される。弁機構4は、具体的には、流入分岐管101bに設けられる。弁機構4は、後述する流出分岐管102bに設けられても良いし、触媒反応器2内に設けられても良い。弁機構4は、触媒反応器2内に原料ガス等を流通させる開放状態、および触媒反応器2への原料ガス等の流通を遮断する閉止状態のいずれかに互いに独立して設定可能となっている。
【0050】
弁機構4の例としては、特許文献1、2に挙げられる高温弁が挙げられる。このような高温弁(例えば、特許文献1に挙げられる弁座および弁体)においては、閉止状態の部材間のシール(例えば、弁体−弁座間のシール)は、比較的小さな力で押しつけられた金属間の接触によるものである。したがって、部材間に僅かな隙間の生じることが避けられない。もし、各部材(例えば、弁体および弁座)に弾性変形量の大きい材料を用いることができれば高温弁のシールを飛躍的に向上させることができるものの、700℃以上といった高温で大きな変形に耐えうる工業的な弾性材料は存在しない。したがって、第1の実施形態および後述の各実施形態が対象とする弁機構4では、リークは常に発生する。このような前提のもとにリーク率を適正に管理することを考えることが実用的である。
【0051】
流出集合管102は、全ての触媒反応器2から流出する流体、例えば改質ガスまたは非反応性ガスを集めて下流に流出させるための単一の集合管である。流出集合管102の一方の端部は複数の(N本の)流出分岐管102bとなっており、各流出分岐管102bに触媒反応器2の出側の端部が接続されている。流出集合管102の他方の端部は単管の流出管102aとなっている。流出管102aと流出分岐管102bとは連結管102cによって連結されている。流出管102aは、冷却装置117、流量調整装置118、およびブロワ119を介して反応流体回収装置300に接続されている。したがって、流出集合管102から流出された改質ガスは、冷却装置117、流量調整装置118、およびブロワ119を通って反応流体回収装置300で回収される。反応流体回収装置300は、例えば、ガスホルダ等で構成される。
【0052】
流量計112は、加熱区間A内の流入管101aに設けられ、流入集合管101内の流量Q
Tを測定する。流量Q
Tは、各触媒反応器2に導入されるガスの総量となる。流量計112としては、例えば、オリフィスを用いた装置が挙げられる。具体的には、オリフィスが流入管101a内に設けられる。そして、流量計112は、オリフィス前後の差圧からベルヌイの原理に基づいて流速を測定し、その値を流量Q
Tに換算する。詳細は後述するが、第1の実施形態および後述の各実施形態では、流量Q
Tとして、非反応性ガスの流量を使用する。したがって、流量計112は、非反応性流体供給装置200の流出口に設けられても良い。本実施形態の装置系においては、ガス温度が場所や時刻によって変動するので、流量Q
Tを、例えば、標準状態での流量に換算して用いることができる。
【0053】
流入温度計114は、例えば連結管101c内に設けられ、流入集合管101内のガス温度、すなわち流入温度T
inを測定する。触媒層温度計115は、触媒反応器2毎に設けられ、触媒層内の温度、すなわち触媒層温度T
iを測定する。これらの温度計には熱電対を用いることができる。この場合、例えば、温度検出部を連結管101cあるいは触媒反応器2内に挿入し、連結管101cの管壁あるいは触媒反応器2の管壁を貫通して信号線を加熱炉外に引き出す。そして、加熱炉外に設けられた温度変換器に信号線を接続させる。温度変換器は、温度を計測および記録する。なお、触媒層温度計115の温度検出部は、触媒層の中心部に配置されることが好ましいが、設計上の便宜があれば、触媒層内のより下流側、触媒層の下方の触媒反応器内空間、または、触媒層と触媒反応器2の容器外壁面とで挟まれる空間に設けられても良い。
【0054】
流入圧力計113は、例えば、加熱区間A内の流入管101aに設けられ、流入集合管101内のガス圧を測定する。流出圧力計116は、加熱区間A内の流出管102aに設けられ、流出集合管102内のガス圧を測定する。これらは、差圧計測装置を構成する。これらの圧力計を実現する方法としては、例えば、流入管101aと流出管102aにそれぞれ圧力導管を設けて圧力導管の端部を加熱炉外に引き出し、この端部に市販のダイヤフラム型圧力計を接続する等すればよい。
【0055】
触媒反応装置1に含まれるこれらの計測機は、工業的な外熱式触媒反応器2に関する技術分野では、操業管理のために標準的に設置されている場合が多いものである。
【0056】
冷却装置117は、改質ガス中の凝縮成分(例えばタール等)を除去するとともに、改質ガスを後段の流量調整装置118、及び反応流体回収装置300に供給可能な温度(例:80℃未満)まで冷却する。冷却装置117の具体例としては、熱交換器やスクラバが挙げられる。冷却された改質ガスは、流量調整装置118を通ってブロワ119に導入される。
【0057】
流量調整装置118は、全ての流入分岐管101b内の原料ガスの流量を合計した原料ガス流量が目標値となるように調整する装置である。流量調整装置118は、例えば、改質ガスの流量を調整する弁であり、電動モータやエアシリンダ等の駆動装置を備える。流量調整弁には市販のものを用いることができる。
【0058】
ブロワ119は、冷却装置117によって冷却された改質ガスを反応流体回収装置300に供給する(送風する)。ブロワ119も特に制限されず、市販のターボ式・容積式のブロワであってもよい。ブロワ119および流量調整装置118の設定値を調整することで、原料ガス流量が目標値となるように調整することができる。
【0059】
触媒反応装置1は、工業的に実用化されているものであり、例えば、炭化水素(例えば、天然ガス)の水蒸気改質用の外熱式触媒反応装置で使用される一般的な材質や構造によって実現される。
【0060】
(2.触媒反応器の具体例)
触媒反応器2としては、例えば特許文献1、2に開示されたものを特に制限なく使用することができる。以下、触媒反応器2の具体例を幾つか説明する。なお、以下に説明する例では、触媒反応器2内に触媒層内堆積物除去装置3が組み込まれている。
【0061】
(2−1.第1の例)
まず、
図4に基づいて、触媒反応器2の第1の例について説明する。第1の例は、特許文献1の第1の実施形態に開示された触媒反応器に相当する。したがって、ここに開示されていないパラメータについては、適宜特許文献1に開示されたパラメータを適用することができる。
【0062】
図4に示すように、第1の例に係る触媒反応器2は、反応容器40と、流入路41と、流出路42と、触媒層43と、触媒保持器44と、心棒48と、駆動装置49とを備える。触媒保持器44は、互いに平行に配置された複数のロッド44aと、ロッド44aの端部間を連結するロッド固定具44bとを備える。これらのうち、触媒保持器44、心棒48、および駆動装置49によって触媒層内堆積物除去装置3が実現される。この例では、弁機構4は流入分岐管101b内に設けられてもよい。
【0063】
(反応容器の形状)
反応容器40は、上下両端に開口を有し、これらの開口間に触媒を収納できるものであればどのような形状でもよい。上方の開口は、流入路41に通じており、触媒反応用の原料ガスの反応容器40への流入口に当たるものである。下方の開口は、流出路42に通じており、改質ガスの反応容器40からの流出口に当たるものである。反応容器40は、例えば、円筒状、角型ダクト状などの形状であることができる。以下では、角型ダクト状の反応容器を例に説明する。
【0064】
第1の例に係る触媒反応器2の説明において、「容器の中心軸」とは、容器の水平断面の図心を鉛直方向に連ねたものと定義する。「反応容器の厚み」は、水平断面における反応容器の長さのうちの最小の長さに相当し、「反応容器の幅」は、水平平面における反応容器の長さのうちの最大の長さに相当する。容器が円筒の場合には、容器の「幅」および「厚」を「直径」と置き換えればよい。
【0065】
(触媒保持器)
触媒保持器44は、反応容器40内で触媒層43を触媒層43の下面全体で保持するとともに、通気性を有する。触媒保持器44には、網、パンチングメタル、複数の棒を用いて棒の間に空間を生じるように水平方向に各棒を互いに平行に並べて棒の両端を固定したもの等を用いることができる。
図4に示した触媒保持器44は、複数のロッド44aの両端をロッド固定具44bで固定して作製したものの例である。
【0066】
(触媒層の駆動機構)
本発明では、触媒保持器44を昇降させることによってその上の触媒層43を反応容器40内で昇降させる。そのために、反応容器40には触媒保持器44を昇降させる駆動装置49が装備される。駆動装置49には、エアシリンダ、ラックピニオン等の歯車を利用した昇降装置などの、一般的な駆動機構を用いることができる。触媒保持器44は、心棒48を用いて駆動装置49に結合される。駆動装置49を作動させると、保持器44の全体が反応容器40の軸線(反応容器40の中心軸)に沿って移動して、触媒層43の全体をやはり反応容器40の軸線に沿って上下に移動させる。
【0067】
少なくとも心棒48の触媒保持器44側の一部は反応容器40、または、流入路41、流出路42の内側に存在する必要がある。駆動装置49は、反応容器40の外部に設けることができる。反応容器40を例えば加熱炉などの加熱装置(図示せず)内に配置する場合には、駆動装置49を加熱装置外に設けることもできる。この場合、市販の昇降装置を使える一方で、心棒48が反応容器40を貫通する部分を高温用パッキン等で封止する必要がある。
【0068】
駆動装置49全体を、
図4に示したように反応容器40内に設ける場合には、駆動装置49を、例えば反応容器40内の高温や腐食性物質から保護するために、耐熱・耐食性のものとする必要がある。これは、一例として、駆動装置49のエアシリンダ全体をハステロイ(登録商標)等の耐熱合金製とすることによって実現できる。この場合、エアシリンダへの供給エア配管(図示せず)は反応容器40を貫通するが、この部分は非可動部なので、配管を全周溶接するなどして封止を図ればよい。
【0069】
(触媒層の昇降)
触媒保持器44の上面全体に触媒を充填して触媒層を形成する。このように形成された触媒層の側面は、反応容器40の内壁面に常に接触し続ける。触媒保持器を上昇させると触媒層には上向きに力が与えられ、触媒層側面では反応容器内壁面からの下向きの摩擦力を生じる。この結果、触媒層内では、壁面近傍の触媒では壁面の拘束が大きいために上方への移動量が触媒保持器の上昇量よりも平均的に小さくなるとともに、この部分での触媒粒子の充填率は上昇する。一方、壁面から遠い、触媒層の中心部では壁面の拘束がより弱いので、触媒層の上方への移動量は比較的大きく、この部分での触媒粒子の充填率の上昇はより小さい。この結果、触媒保持器の上昇中には、壁面近傍から中心にかけて触媒層のせん断変形を生じ、触媒層のいたるところで触媒粒子間の相対変位が発生する。この相対変位によって触媒粒子間の空間が変形するので、この空間に堆積していた副生コーク(すなわち、副生成物)は、破砕され、押し出されて触媒層外に排出されうる。このように、触媒保持器の上昇によって触媒層の平均充填率は上昇する。
【0070】
これに対して、触媒保持器の下降時には、触媒層の平均充填率は昇降開始前のレベルまで低下する。これは、触媒保持器の下降時には、壁面の拘束によって、下方の触媒層から順に徐々に落下するため触媒層の下降中には触媒粒子間の平均距離が増大し、この触媒間の位置関係の一部が触媒層の下降完了後まで維持されるため、触媒層の充填率が低下する。また、触媒層下降時の充填率の低下にともなう触媒粒子間隔の増大に伴って、粒子間に堆積した副生コークが移動して触媒外に排出されうる。この結果、触媒層の昇降を繰り返しても充填率が上昇し続けて最密充填に至ることはなく、長期間に渡ってコーク除去を継続できる。このように、触媒層の昇降操作によって、触媒層内に堆積したコークを除去することができる。また、この手法において触媒層からコークを除去するための原理は、触媒粒子間の空間を変形させることであるので、触媒層の昇降速度は必ずしも大きい必要はない。10mm/s程度の昇降速度で充分な効果が得られる。また、粒子間の相対変位量も粒子の寸法程度(例えば、10mm)でよい。
【0071】
(流入路、流出路)
流入路41は、流入分岐管101bに連結されている。したがって、流入路41には原料ガスが導入される。
図4中の矢印P1は原料ガスの流れを示す(触媒層中で下降流の場合)。流出路42は、流出分岐管102bが連結されている。流出路42には、改質ガスが導入される。その後、改質ガスは、流出分岐管102bを通って冷却装置117に導入される。
【0072】
(触媒層)
触媒層43は、触媒粒子が反応容器40内で触媒保持器44上に充填して積層されることで形成される。触媒粒子は、原料ガスの改質の触媒となるものであり、原料ガスは、触媒粒子に接触した際に改質される。例えば、触媒粒子上で触媒反応が起こることで、原料ガス中の水蒸気とタールガスが改質されて一酸化炭素ガスと水素ガスとコークが生じる。
【0073】
触媒層43を構成する触媒粒子は、原料ガスを改質(例えば、水蒸気改質やクラッキング)できる触媒であれば、どのようなものであってもよい。例えば、原料ガスが炭化水素を含む場合、触媒粒子としては、Ni−アルミナ系触媒、Ni−マグネシア−アルミナ系触媒等を用いることができる。
【0074】
(2−2.第2の例)
つぎに、
図5〜
図7に基づいて、触媒反応器2の第2の例について説明する。第2の例は、特許文献1の第2の実施形態に開示された触媒反応器に相当する。したがって、ここに開示されていないパラメータについては、適宜特許文献1に開示されたパラメータを適用することができる。
【0075】
触媒反応器2は、反応容器10と、流入路11と、流出路12と、触媒層13と、触媒保持器14と、弁座15と、通気孔16と、弁体17と、心棒18と、断熱材19と、連結管20と、駆動装置21とを備える。弁座15、通気孔16、弁体17、及び心棒18は、弁機構4として機能する。また、触媒保持器14、心棒18、連結管20、および駆動装置21によって触媒層内堆積物除去装置3が実現される。また、弁座15および弁体17により弁機構4が実現される。
【0076】
(反応容器)
反応容器10は、触媒層13と、触媒保持器14と、弁座15と、通気孔16と、弁体17と、心棒18とを収容する円筒形状の部材である。反応容器10の形状を円筒形状とすることで、高温下でも半径方向(長さ方向に垂直な方向)の歪みが生じにくい。もちろん、設計上の便宜等の理由により、反応容器10の形状を他の形状としてもよい。例えば、反応容器10は、水平断面が正多角形となる角筒形状、水平断面が楕円となる楕円筒形状であってもよい。
【0077】
(流入路)
流入路11は、反応容器10の上端で反応容器10に連結されている。すなわち、反応容器10の上端には通気孔11aが形成されており、この通気孔11aを介して流入路11と反応容器10とが連結されている。流入路11は、流入分岐管101bに連結されており、原料流体供給装置100から発生した原料ガスを反応容器10内に導入する。矢印P1は、原料ガスの流動方向を示す。
【0078】
(流出路)
流出路12は、反応容器10の下端で反応容器10に連結されている。すなわち、反応容器10の下端には通気孔12aが形成されており、この通気孔12aを介して流出路12と反応容器10とが連結されている。流出路12は、流出分岐管102bに連結されており、反応容器10内で生成した改質ガスを粉塵回収器6に導入する。矢印P2は、改質ガスの流動方向を示す。
【0079】
流入路11及び流出路12は、触媒反応器2の側方に配置されているので、触媒反応器2を上下に貫通する心棒18との干渉を回避できる。ここで、各触媒反応器2の流入路11及び流出路12を触媒反応器2間で共有することで、触媒反応器2同士を並列接続してもよい。
【0080】
(触媒層)
触媒層13は、反応容器10内に設けられる。触媒層13は、触媒粒子が反応容器10内で触媒保持器14上に充填して積層されることで形成される。触媒粒子は、原料ガスの改質の触媒となるものであり、原料ガスは、触媒粒子に接触した際に改質される。例えば、触媒粒子上で触媒反応が起こることで、原料ガス中の水蒸気とタールガスが改質されて一酸化炭素ガスと水素ガスとコークが生じる。
【0081】
また、触媒層13は、反応容器10の内壁面に接触している。このため、触媒層13の昇降時には、壁面摩擦の効果によって触媒層13の上部は下部に遅れて下降する。したがって、触媒層13の充填率が一時的に低下する。この際、触媒粒子間の平均的な間隙が拡大するため、触媒層の静止時には除去ガスが通過しにくい部位(例:触媒保持器直上の触媒粒子等)にも除去ガスが到達し、そこでの副生成物を除去できる。
【0082】
また、触媒層13は、反応容器10内で3層形成されている。そして、各層の触媒層13が触媒保持器14によって保持される。このように触媒層13を多層構造とすることで、各触媒保持器14に掛かる荷重を低減することができる。もちろん、触媒層13の層数は3層に限られない。
【0083】
触媒層13を構成する触媒粒子は、原料ガスを改質(例えば、水蒸気改質やクラッキング)できる触媒であれば、どのようなものであってもよい。例えば、原料ガスが炭化水素を含む場合、触媒粒子としては、Ni−アルミナ系触媒、Ni−マグネシア−アルミナ系触媒等を用いることができる。また、触媒粒子の大きさは、後述する触媒保持器14の通気孔14cを通過しない程度の大きさであればよい。
【0084】
(触媒保持器)
触媒保持器14は、触媒層13を保持する部材であり、触媒層13毎に設けられる。触媒保持器14は、後述する心棒18に固定され、心棒18と一体となって昇降する。
【0085】
触媒保持器14は、反応容器10内で触媒層13を触媒層13の下面全体で保持するとともに、通気性を有する。具体的には、触媒保持器14は、触媒粒子の落下を防ぎつつ、各種ガス(原料ガス及び改質ガス)を流通させる構造を有する必要がある。具体的には、触媒保持器14は、
図6に示すように、複数のリング状部材14aと、リング状部材14a同士を連結する連結部材14bとを備える。各リング状部材14aは、互いに直径が異なっており、連結部材14b上に同心円状に配置される。ここで、各リング状部材14aの中心点は、心棒18の中心軸上に配置される。また、リング状部材14aの断面(周方向に垂直な断面)形状は特に制限されないが、強度の観点から矩形であることが好ましい。また、リング状部材14a間には、通気孔14cが形成される。各種ガス及び副生成物は、この通気孔14cを通過する。
【0086】
連結部材14bは、リング状部材14a同士を連結するとともに、これらを心棒18に固定させる。すなわち、連結部材14bは、心棒18から放射状に伸びる部材となっている。連結部材14bの断面(長さ方向に垂直な断面)形状も矩形であることが好ましい。リング状部材14a及び連結部材14bの断面積を大きくすることで、触媒保持器14の強度を大きくすることができる。触媒保持器14は、例えば、反応容器10の水平断面形状と同じ形状に加工された網、パンチングメタル等であってもよい。
【0087】
触媒保持器14は、常温及び触媒反応の温度まで加熱された時のいずれにおいても、耐熱・耐腐食性・曲げやせん断に対する強度および靭性を備えた金属材料で構成されることが好ましい。このような金属材料の例として、ステンレス鋼、ハステロイ(登録商標)やインコネル(登録商標)等のニッケル合金、チタン、チタン合金等を挙げることができる。
【0088】
(弁座、通気孔)
次に、弁座15は、
図7に示すように、反応容器10の内壁面に設けられている。弁座15は、反応容器10内の空間を水平方向に仕切る部材である。また、弁座15の中心部分には、弁座15を上下に貫通する通気孔16が形成されている。心棒18は通気孔16を貫通しており、原料ガスは、この通気孔16を通過することができる。すなわち、通気孔16の直径は、心棒18の直径よりも大きい。また、弁座15の下端面には、略円錐形状の切り欠きが形成されている。したがって、弁座15の下端面には凹形状が形成されている。弁座15の材質は触媒保持器14の材質と同様であればよい。
【0089】
(弁体)
弁体17は、心棒18と一体となって昇降する部材であり、円錐台形形状となっている。弁体17は、心棒18と一体となって昇降することで、通気孔16を開放、または閉止することができる。例えば、弁体17は、
図7(b)の実線で示される位置(この位置は後述する開放位置18aに相当する)に存在する場合に、通気孔16を開放する。この場合、原料ガスは、通気孔16を通って触媒層13に到達することができる。一方、弁体17は、
図7(b)の二点鎖線で示される位置(この位置は後述する閉止位置18bに相当する)に存在する場合に、通気孔16を閉止する。この場合、弁座15及び弁体17によって流入路11と反応容器10内の触媒層13とが遮断されるので、原料ガスは触媒層13に到達することができない。すなわち、原料ガスの反応容器10への流通が遮断される。弁体17の材質は触媒保持器14の材質と同様であればよい。
【0090】
なお、
図7(a)の破線17dは、通気孔16を閉止した弁体17の上端部を示し、破線17e及び
図7(b)中の直線17bは、通気孔16を閉止した弁体17と弁座15との接触線を示す。この接触線は円形となる。
【0091】
このように、弁座15及び弁体17のいずれも軸対称形状(接触線17bが円形)となっている。このため、原料ガスの遮断性をより高めることができる。尚、設計上の便宜の理由等から、接触線17bが楕円形等のなめらかで角を持たない形状であってもよい。この場合、弁座15の水平断面形状及び弁体17の切り欠きの水平断面形状を楕円形等にすればよい。
【0092】
(心棒)
心棒18は、反応容器10内を上下に伸びる円柱または円筒形状の部材(すなわち、丸棒または円管)である。心棒18には、触媒保持器14及び弁体17が固定されており、触媒保持器14及び弁体17とともに昇降する。また、心棒18の上端部は、断熱材19を介して駆動装置21に連結されている。心棒18は、駆動装置21によって昇降する。具体的には、心棒18は、
図5(b)に示すように、弁体17が通気孔16を開放する開放位置18aと、
図5(c)に示すように、弁体17が通気孔16を閉止する閉止位置18bとの間を昇降する。
【0093】
さらに、心棒18は、副生成物の除去時には、
図5(d)に示す中間位置18cと
図5(b)に示す開放位置18aとの間で昇降することが可能となっている。中間位置18cは、開放位置18aと閉止位置18bとの間に設定される。
図5に示す例では、中間位置18cは、開放位置18aと閉止位置18bとの中点に中間位置18cが設定されるが、他の位置に中間位置18cが設定されても良いことはもちろんである。
【0094】
中間位置の設定方法は特に制限されないが、例えば上述したエアシリンダ中の中間位置に相当する位置にリミットスイッチを設ける方法等が挙げられる。より具体的には、このようなリミットスイッチを有する3ポジション式のエアシリンダを駆動装置21として用いれば良い。また、複数の2ポジション型エアシリンダを直列に結合することで、3ポジション式のエアシリンダを実現してもよい。なお、中間位置の数は複数であってもよい。この場合、駆動装置21のポジション数は中間位置の数に応じて増大する。
【0095】
駆動装置21は、図示しない増速装置による制御により、原料ガスの遮断時には心棒18を閉止位置18bで停止させ、原料ガスの改質時には、心棒18を開放位置18aで停止させる。さらに、駆動装置21は、副生成物の除去時には、心棒18を中間位置18cと開放位置18aとの間を昇降させる。駆動装置21の制御は、図示しない反応器群制御装置によって行われる。これにより、本実施形態では、原料ガスの流通を遮断させることなく触媒層13を昇降させることができる。すなわち、本実施形態では、心棒18を中間位置18cと開放位置18aとの間で昇降させる。
【0096】
上記のように、心棒18が開放位置18a(または中間位置18c)にある場合に、弁体17は弁座15と非接触であり、通気孔16が開放される。この場合、原料ガスが触媒反応器2内に導入される。また、心棒18が閉止位置18bにある場合に、弁体17は弁座15と接触し、通気孔16が閉塞する。この場合、原料ガスは触媒反応器2から遮断される。そして、心棒18が開放位置18a(または中間位置18c)にある際に、弁機構4は開放状態となり、心棒18が閉止位置18bにある際に、弁機構4は閉止状態となる。
【0097】
断熱材19は、心棒18の熱が駆動装置21に伝わりにくくするために設けられる部材である。断熱材19は、反応容器10の上端面10aを貫通し、連結管20内に伸びている。そして、断熱材19は、連結管20内で駆動装置21の駆動棒21aと連結されている。なお、断熱材19の下端部は、心棒18の昇降時に反応容器10内に配置される。これにより、心棒18の昇降中であっても、心棒18の熱が駆動装置21に伝わりにくくなる。断熱材19は、例えばセラミックス等で構成される。なお、断熱材19の構造としては、フランジ間に断熱材を挟む構造や、単に複数の金属板を軸方向に多数重ねる構造としてもよい。後者の場合、金属板間の接触熱抵抗を利用して軸方向の熱流束を抑制することができる。断熱材19は、高温用パッキンであってもよい。
【0098】
(連結管及び駆動装置)
連結管20は、反応容器10と駆動装置21とを連結する管状部材である。駆動装置21は、心棒18を開放位置18a、閉止位置18b、中間位置18cとの間で昇降させる部材であり、駆動棒21aと、シリンダ22と、ピストン23とを備える。したがって、駆動装置21はいわゆる3ポジション型のエアシリンダを利用した昇降装置となっている。駆動棒21aは、断熱材19を介して心棒18に連結されている。シリンダ22は、ピストン23が収納される部材であり、ピストン23は、シリンダ22内に供給されるガスによってシリンダ22内を昇降する。ピストン23には、駆動棒21aが連結される。駆動棒21aは、ピストン23と連動して昇降する。これにより、駆動装置21は、心棒18を昇降させる。なお、ピストン23がシリンダ22の下端に到達した際に、心棒18は開放位置18aに到達し、ピストン23がシリンダ22の上端に達した際に、心棒18は閉止位置18bに到達する。中間位置では18cでは、シリンダ上下の圧力をバランスさせて開放位置と閉止位置間での所定の停止位置にシリンダを維持する。もちろん、駆動装置21は心棒18を上述した態様で昇降させることができればよいので、駆動機構はエアシリンダに限定されない。例えば、駆動装置21の駆動機構は、ラックピニオン等であってもよい。
【0099】
駆動装置21は、
図5に示されるように、反応容器10の外部に設けられる。さらに、駆動装置21は、加熱装置(反応容器10等を加熱する装置)内に配置されてもよい。この場合、駆動装置21を高温や腐食性物質から保護するために、駆動装置21を耐熱・耐食性が高い材質で構成することが好ましい。例えば、駆動装置21のエアシリンダ全体をハステロイ(登録商標)等の耐熱合金で構成してもよい。この場合、エアシリンダにガスを供給する配管(図示せず)は反応容器10を貫通するが、この部分は非可動部なので、配管を全周溶接するなどして封止を図ればよい。なお、心棒18の上昇時に、触媒保持器14の一部が触媒層13に食い込んで自由落下しえなくなる場合があるので、駆動装置21は心棒18の上昇時だけでなく下降時も駆動されることが好ましい。なお、駆動装置21は、図示しない反応器群制御装置による制御によって駆動する。
【0100】
第2の例では、複数の触媒反応器2のうち、いずれかの触媒反応器2の弁機構4を選択的に閉止状態とすることができる。たとえば、いずれか1つの触媒反応器2の弁機構4を開放状態とし、残りの触媒反応器2の弁機構4を閉止状態とすることができる。これにより、特定の触媒反応器2に大きな流量の原料ガスを流通させることができ、この触媒反応器2内の副生成物を容易に除去することができる。
【0101】
(3.弁機構のリーク率の測定方法)
つぎに、弁機構4のリーク率の測定方法を説明する。リーク率の測定方法は、第1〜第3の操作で構成される。リーク率の測定方法は、原料ガスを改質ガスに改質する通常の(正規の)操業中の任意のタイミングで行われれば良い。
【0102】
(3−1.第1の操作)
第1の操作では、全ての弁機構4を開放状態とするとともに、流体切り替え装置110を操作して非反応性ガスを流入集合管101に供給する。これにより、全ての触媒反応器2に非反応性ガスを通過させる。この際の流入温度が第1の流入温度T
in1となるようにガス予熱装置111を調整する。同時に、流入集合管101の流量Q
Tおよび各々の触媒反応器2の触媒層温度計115にて測定された触媒層温度T
1,iを記録する(添え字iは触媒反応器の番号、添え字1は第1の操作時、後述する添え字2は第2の操作時を示す。添え字3は第3の操作時を示す。添え字の意味は以下同様である。)。ここで、本操作に要する時間を節約するために、流入温度T
in1は、正規の触媒反応操業時の炉温条件で実現される流入温度、または、この温度に近い温度であることが好ましい。流入温度T
in1は、初期温度である。
【0103】
(3−2.第2の操作)
第2の操作では、ガス予熱装置111を調整して、流入温度を上記の第1の流入温度T
in1とは異なる第2の流入温度T
in2(所定の流入温度)に設定する。このときの各々の触媒反応器2の触媒層温度計115にて計測された触媒層温度T
2,iを記録する。流入温度T
in2は、流入温度T
in1より高くても低くてもどちらでもよいが、少なくとも炉温T
fと十分な差異(すなわち、後述するリーク率が算出できる程度の差異。例えば10℃程度)が与えられていることが好ましい。本実施形態においては、T
in1がT
fから十分異なる場合には、T
in2は、T
in1と同じ温度であってもよい。
【0104】
(3−3.第3の操作)
第3の操作は、測定操作と、リーク率算出操作とに区分される。測定操作では、以下の操作を行う。
【0105】
(3−3−1.測定操作)
測定操作では、n台の弁機構4のうち、所定のn
c台の触媒反応器2に対応する弁機構4を閉止状態とした後(ここでは仮に、i=1〜n
cを閉止、n
c+1〜nを開放したものとする)、触媒反応装置1が定常状態となるまで操業条件を維持する。ここで、定常状態とは、少なくとも、全ての触媒反応器2内の触媒層温度が一定となり、かつ、流入集合管101内のガス圧と流出集合管102内のガス圧との差圧が一定となる状態を意味する。
【0106】
ついで、定常状態における上記差圧△P
3、炉温T
f、閉止状態とした弁機構4に対応する触媒反応器2の触媒層温度T
c3、iを記録する。なお、第1〜本測定操作の期間を通じて流量Q
Tは、一定となるように制御される。測定操作が完了した後は、正規の触媒反応の操業に復帰させてよい。
【0107】
(3−3−2.リーク率の算出操作)
次に、リーク率の算出操作について説明する。第1の実施形態に係る触媒反応装置1では、弁機構4前後での圧力変化は、弁機構4の前後での絶対圧力に比べて十分に小さく、温度変化も比較的小さい。上記数式(1)におけるDは、設計上、固定値であり、ζ
opは、数値解析等によって、容易に求めることのできる固定値である。さらに、流量Q
Tを一定とし、固定値化できるものをモデル定数にまとめると、上記数式(1)は、次の式に簡略化できる。
k=α
1・Q
c・(△P)
1/2 (2)
α
1:モデル定数
【0108】
この数式を、i番目の触媒反応器2(以下、「触媒反応器i」とも称する)に対応する弁機構4(以下、「弁機構i」とも称する)に適用すると、以下の数式(3)が得られる。
k
i=α
1・Q
c3,i・(△P
3)
1/2 (3)
Q
c3,i:閉止状態での弁機構iのリーク流量
【0109】
ここで、α
1は、閉止状態となった弁機構iの圧力損失係数(抵抗係数)に比例する定数に相当する。差圧△P
3は、上記の測定操作で測定された値を用いれば良い。したがって、リーク流量Q
c3,iを求めることができれば、弁機構iのリーク率k
iを求めることができる。しかし、前述のように、リーク流量Q
c3,iを直接に測定することは困難である。
【0110】
そこで、本第1の実施形態および後述の各実施形態では、リーク流量Q
c3,iを上記測定操作で測定した触媒層温度T
c3,iの関数として算出する。本第1の実施形態においては、この関数を次の数式(4)とする。なお、第1の実施形態および後述の他の実施形態において、温度の単位は℃とする。
【0111】
Q
c3,i=func(T
f−T
c3,i) (4)
func():()内を独立変数とした関数
【0112】
数式(4)の意味するところを説明する。流入集合管101から触媒反応器iまでの間を通過する非反応性ガスの流れ方向に沿った伝熱を以下のようにモデル化する。まず、流入集合管101から触媒反応器iまでの間の管路およびこれに続く触媒反応器i内のガス流れ方向の座標をx、その始点(x=0)を流入集合管101内の流入温度計測点(この点での温度を流入温度T
inとする)、その終点を触媒反応器iの触媒層温度計測点(x=X
i、この点での温度を触媒層温度T
iとする)、炉温をT
f、位置xにおける管路内代表温度(例えば、断面平均温度)を管路温度Tと定義する。
【0113】
上記第2の操作によって非反応性ガスの流入温度T
in2は、炉温T
fに対して十分な差異が与えられる。各触媒反応器2での触媒層温度計測点に至るまでの管路系(具体的には、流入温度の計測点から触媒層温度の計測点までの管路系)は、炉温T
fによって加熱されるので、もし、この管路系内でのガス流量が0であれば、管路系内のガス温度は、理想的には炉温T
fとなる。この状態は、上記測定操作によって閉止状態とされた弁機構iにおいて、リーク率が0の状態に対応する。尚、触媒反応器の軸方向伝熱等の影響によってガス流量が0であっても定常状態で触媒層温度T
iが炉温T
fと厳密には一致しない値T
f’である場合には、上記の式中のT
fをT
f’と置き換えることによってモデルの高精度化を図ることができる。T
f’の求め方としては、例えば、供給ガス流量を0とした試験を行ってこの試験の定常状態でのT
iのT
fからの差△T
fを予め求めておき、次に、実操業において測定されたT
fにこの△T
fを加えた値をT
f’として使用することができる。
【0114】
しかし、実際の弁機構iでは必ずリークが存在するので、この弁機構iのリーク流量Q
c3,i、すなわち管路系を流れるガスの流量は、0より大きな値となる。
【0115】
ここで、管路内局所での非反応性ガスには、T
fとTとの温度差に基づいて、管路、触媒反応器の壁面、および触媒層を通じて伝熱がなされるものとし、熱流束q’’は、単位管長当たり次の数式(5)で表現されるものとする。
q’’=hL(T
f−T) (5)
【0116】
ここで、hは、熱貫流率であり、一般には位置xの関数である。簡便のため、本第1の実施形態では、特定の触媒反応器iにおいて、少なくとも第1の操作〜測定操作の期間ではhを一定値と仮定する。この熱流束によって管路および触媒反応器i内の温度T(非反応性ガスの温度)は、この区間でガス流れを非圧縮性流体とみなした場合、流れ方向に進むにつれて昇温する。その結果、管路系内でのガス温度は下流に進むにつれて流入温度T
in2から炉温T
fに近づき、各触媒反応器iでの触媒層温度計測点での触媒層温度T
c3,iは、一般に流入温度T
in2と炉温T
fの中間の温度になる。リーク流量Q
c3,iが大きいほど、管路系を貫流する炉からの熱伝導に対するガスの持ち込み顕熱の影響が増すため、触媒層温度T
c3,iは、流入温度T
in2により近い値となる。そして、その昇温率は、熱バランスから次の数式(6)で表わすことができる。
ρCpQ
c3,idT/dx=hL(T
f−T) (6)
h:熱貫流率(W/(m
2・K))
L:配管の周長(m)
ρ:非反応性ガスの密度(kg/m
3)
Cp:非反応性ガスの比熱(J/(kg・K))
Q
c3,i:触媒反応器iにおける非反応性ガスのリーク流量(m
3/s)
【0117】
触媒反応装置1全体で原料ガスの圧力変化が大きく、原料ガスが非圧縮性流体ではない場合であっても、この区間に関しては一般に流量変化および密度変化を大きく設定する必要性が小さいので、原料ガスを実質的に非圧縮性流体とみなせる場合が多い(一般に、密度変化が10%以下の場合には非圧縮性流体として扱うことができるといわれている)。したがって、ここでも非反応性ガスを非圧縮性気体とみなせることになる。
【0118】
流入集合管101から触媒反応器2までの温度変化は、比較的小さいものとし、かつ、ρ、Cp、Q
c3,iを一定としてこの微分方程式を解くと、以下の数式(7)が得られる。
【0119】
Q
c3,i=(h
iLX
i/ρCp)/Ln[(T
f−T
in2)/(T
f−T
c3,i)] (7)
ただし、T=T
in2(x=0)、T=T
c3,i(x=X
i)
【0120】
したがって、第1の実施形態では、数式(4)は数式(7)で示されることになる。定数h
i、X
i、ρ、Cp等を予め測定等によって求めておき、これらの測定値と、流入温度T
in2および炉温T
fを数式(7)に適用することで、リーク流量Q
c3,iが算出される。さらに、このリーク流量Q
c3,iを数式(3)に適用することで、弁機構iのリーク率k
iが算出される。具体的にこれらの定数を求める方法としては、例えば、ρおよびCpに関しては、想定されるガス組成および温度における値をこのガスを構成する純物質の公開熱物性データベースから得られる値を組み合わせて求める。X
iには、例えば、図面上の配管の長さを用いることができる。h
iに関しては、例えば、後述の特殊な試験を行って触媒反応器内の流量を直接に求め、さらに、予め定めたX
i、ρ、Cpの定数値とともに数式(7)に代入してh
iを求めればよい。h
iは操業中に刻々と変化しうる値であるので、操業中の平均値等の代表値を定数として用いることができる。
【0121】
あるいは、(T
f−T
c3,i)の範囲は、操業中に大きく変動しないことを前提に線形近似を行うと、以下の数式(7’)が得られる。
Q
c3,i=a
1・(T
f−T
c3,i) (7’)
a
1:モデル係数
【0122】
したがって、数式(7’)を用いてリーク流量Q
c3,iを算出しても良い。この場合、モデル定数a
1を予め特定しておく必要がある。モデル定数a
1は、各触媒反応器2に対応する管路系の伝熱特性、例えば、管路径、管路長、管路外壁の熱貫流率、並びに、触媒反応器内の触媒の伝熱特性等によって決まる係数である。これらの伝熱特性値を個別に正確に求めることは、モデルを汎用化するうえで有益であるものの、相応の手間と費用を要する。
【0123】
そこで、操業条件の変動範囲が限定的な系においては、何らかの特殊な試験(例えば、使い捨ての流量計を特定の触媒反応器2に設置して、熱間での閉止状態時のリーク流量Q
c3,iを測る等)を1度実施して単一のモデル定数であるa
1を直接求めてもよい。つまり、使い捨ての流量計を用いてリーク流量Q
c3,iを求める一方で、上述した第1〜第3の操作を行う。そして、数式(7’)、リーク流量Q
c3,i、炉温Tf、および触媒層温度T
c3,iに基づいて、モデル定数a
1を算出すれば良い。このモデル定数a
1を全触媒反応器2の代表値として以降の操業に適用することで、所要精度を満足しつつ、モデル定数調整の手間と費用を削減できる。なお、使い捨ての流量計としては、例えばオリフィス式流量計等が挙げられる。上述したように、オリフィス前後で生じる差圧は極めて微小なものとなるため、流量計にはある程度の精度が求められる。ただし、1度限りの使用になるので、流量計の使用によるコスト増は抑えられる。
【0124】
また、モデル定数a
1の伝熱特性は、一般的に触媒反応器2毎に異なることが多い(例えば、流入集合管101と触媒反応器2間の距離(より具体的には、X
iの値)は、触媒反応器2ごとに異なる設計とすることが多い)。従ってモデル定数a
1もモデル定数a
1,i等のように触媒反応器2毎に個別に算出してもよい。
【0125】
第1の実施形態によれば、まず、リーク流量Q
c3,iを触媒層温度T
c3,iの関数として算出する。ついで、このリーク流量Q
c3,iを数式(3)に適用することで、リーク率k
iを算出する。したがって、触媒反応器i内に設置される触媒層の温度分布の変化(つまり、触媒層温度T
c3,iの変化)という比較的容易な測定によって、個々の弁機構4のリーク率k
iをオンラインで容易に測定することができる。そして、触媒層温度T
c3,iは、熱電対等の温度計測装置によって安価かつ簡易に測定可能である。したがって、個々の触媒反応器iに高価な計測装置を設けることなく、安価、かつ、簡易に弁機構iのリーク率k
iをオンラインで測定することができる。
【0126】
上述した第1〜第3の操作は、作業者によって人為的に行われても良いし、
図1に示す弁機構リーク率測定装置1000によって行われても良い。弁機構リーク率測定装置1000は、例えば、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、通信装置等のハードウェア構成を有する。ROMには、上記第1の操作〜第3の操作を行う第1の手段〜第3の手段を実現可能なプログラムが記録されており、CPUは、このプログラムを読み出して実行する。これにより、第1〜第3の手段が実現される。通信装置は、加熱炉内装置A1内に設けられた各計測機器(例えば流量計112、流入圧力計113等)から送信される測定値を受信する。測定値はCPUによる演算に使用される。通信装置は、CPUが生成した各種の制御信号を各駆動装置(例えば、流体切り替え装置110、ガス予熱装置111、触媒層内堆積物除去装置3等)に送信する。これらの駆動装置は、制御信号に基づいて駆動する。第1〜第3の操作が人為的に行われる場合、弁機構リーク率測定装置1000は省略されてもよい。
【0127】
<2.第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、上記の第2〜第3の操作が第1の実施形態と異なる。これ以外の点は第1の実施形態と同様である。そこで、第2〜第3の操作について説明する。
【0128】
(2−1.第2の操作)
第2の操作では、ガス予熱装置111を調整して、流入温度を上記の第1の流入温度T
in1とは異なる第2の流入温度T
in2に設定する。ついで、触媒反応装置1が定常状態となるまで待機する。この間、炉温T
fは一定に保持する。そして、触媒反応装置1が定常状態となった後、触媒層温度T
2,iを記録する。さらに、差圧△P
2(すなわち、流入集合管102内のガス圧と流出集合管103内のガス圧との差)を測定する。
【0129】
(2−2.第3の操作)
第3の操作のうち、リーク率の算出操作が第1の実施形態と異なる。そこで、リーク率の算出操作について説明する。第1の実施形態で示した数式(7)をガス流量Q
2,i(この場合、ガス流量Q
2,iは、開放状態におけるガス流量を意味する)に適用すると、以下の数式(8)が得られる。
【0130】
Q
2,i=(h
iLX
i/ρCp)/Ln[(T
f−T
in2)/(T
f−T
2,i)] (8)
【0131】
したがって、ガス流量Q
2,iとリーク流量Q
c3,iの比は、次の数式(9)で示される。
Q
c3,i/Q
2,i=Ln[(T
f−T
in2)/(T
f−T
2,i)]
/Ln[(T
f−T
in2)/(T
f−T
c3,i)] (9)
【0132】
リーク率k
iは、弁機構4の前後に差圧(基準差圧)を与えた場合の開放状態時のガス流量(基準流量)と閉止状態時のリーク流量との比である。したがって、ガス流量Q
2,iおよびリーク流量Q
c3,iを測定した際の差圧が同一になるように補正を行えば、Q
c3,i/Q
2,iからリーク率k
iを求めることができる。即ち、リーク率k
iは、以下の数式(10)で示される。
【0133】
k
i=a
2Q
c3,i/Q
2,i
=a
2Ln[(T
f−T
in2)/(T
f−T
2,i)]
/Ln[(T
f−T
in2)/(T
f−T
c3,i)] (10)
a
2:モデル定数
【0134】
ここで、モデル定数a
2は圧力補正項であり、差圧△P
2、△P
3が弁機構4前後の絶対圧に比べて十分に小さい場合には、例えば、以下の数式(11)で示される。
a
2=(△P
2/△P
3)
1/2 (11)
【0135】
したがって、数式(10)は、以下の数式(10’)に置き換えられる。基準流量は第2の操作時におけるガス流量Q
2,iとなる。
k
i=Ln[(T
f−T
in2)/(T
f−T
2,i)]
/Ln[(T
f−T
in2)/(T
f−T
c3,i)]
*(△P
2/△P
3)
1/2 (10’)
【0136】
したがって、数式(10’)および上述した各測定値に基づいて、リーク率k
iが算出される。第2の実施形態の利点は、弁機構4が開放状態となる際に通気抵抗が変化する系(例えば、触媒層内にコーク等の副生成物が堆積する系)において、弁機構4の開放状態での通気抵抗の変化の影響を考慮してリーク率k
iを算出できることである。
【0137】
したがって、第2の実施形態は、原料ガスの改質時にコーク等が副生し、副生成物が触媒層の通気抵抗を刻々と変化させる触媒反応装置系において、特に有益である。なぜならば、このような系においては、仮にリーク流量Q
c3,iが測定できたとしても、弁機構4の封止性の劣化によるリーク流量Q
c3,iの増加と触媒層の通気抵抗の増大によるリーク流量の低下を定量的に切り分けることが困難であり、弁機構4の性能劣化(リーク率の増大)を評価し難いからである。つまり、実際はリーク率k
iが増大しているにもかかわらず、触媒層の通気抵抗の増大によってリーク流量Q
c3,iが見かけ上低下する可能性がある。第2の実施形態は、このような通気抵抗の増大を考慮してリーク流量Q
c3,iを算出することができる。
【0138】
第2の実施形態の別の利点は、リーク率k
iの算出に当たって、ρ、Cp、h
i、X
iといった伝熱特性値を必要としないことである。これらの値を熱間で正確に求めるためには、手間と費用を必要とする。
【0139】
なお、コーク等の副生成物による通気抵抗の影響がなく、かつ弁機構4が開放状態となっている際の通気性をもとに弁機構4のリーク率を求める必要がある場合には、例えば、次のようにすればよい。上述した第1および第2の操作を実施する時期をコーク等の副生成物が十分に堆積する前の操業の初期の段階とし、ここで上記の必要なデータを測定しておく。第3の操作は、コークが堆積した後も含めた任意のタイムングで実施すればよい。第2と第3の操作の間の期間には特に制約はなく、この期間に改質操業を行ってもよい。但し、この期間に改質操業を行う場合には、第3の操作の前に第1および第2の操作のうち、少なくとも非反応性ガスの供給と流入温度の変更の操作を改めて実施する必要がある(データを記録する必要はない。第1および第2の操作時にデータを記録しているからである)。
【0140】
<3.第3の実施形態>
第3の実施形態では、第3の操作が上述した第1の実施形態と異なる。これ以外の点は第1の実施形態と同様である。そこで、以下、第3の操作について説明する。
【0141】
(3−1.第3の操作の概要)
第3の操作では、流入温度T
inを流入温度T
in1、T
in2のいずれとも異なる流入温度T
in4(なお、ここでは説明の便宜上添字に4を使用する)に設定し、触媒反応装置1が定常状態となるまで待機する。そして、この時の触媒反応器iの触媒層温度T
c4,iを記録し、以下の数式(12)に基づいて、リーク流量Q
c3,iを算出する。その後は、第1の実施形態と同様にリーク率k
iを算出する。
Q
c3,i=func(T
c4,i−T
c3,i) (12)
【0142】
(3−2.測定操作)
測定操作では、まず、第1の実施形態と同様の操作を行うことで、定常状態における上記差圧△P
3、炉温T
f、閉止状態とした弁機構4に対応する触媒反応器2の触媒層温度T
c3、iを記録する。
【0143】
ついで、流入温度T
inを流入温度T
in1、T
in2のいずれとも異なる流入温度T
in4に設定し、触媒反応装置1が定常状態となるまで待機する。そして、この時の触媒層温度T
c4,iを記録する。なお、第1〜本測定操作の期間を通じて流量Q
Tは、一定となるように制御される。測定操作が完了した後は、正規の触媒反応の操業に復帰させてよい。
【0144】
(3−3.リーク率の算出操作)
リーク率の算出操作では、測定操作によって得られた測定データを用いて、各触媒反応器2でのリーク流量Q
c3,iを以下の手順で算出する。まず、触媒反応器iにおいて、以下の数式(13)によって定義されるモデル定数β
iを導入する。各パラメータの単位を考慮すると、モデル定数β
iは、流量と同等の単位(m
3/s)を有する。
β
i=hLX
i/(ρC
p) (13)
h:熱貫流率(W/(m
2・K))
L:配管の周長(m)
ρ:ガスの密度(kg/m
3)
Cp:ガスの比熱(J/(kg・K))
X
i:流入管から触媒反応器間の配管の長さ(m)、具体的には、流入集合管101内の流入温度計測点から触媒反応器iの触媒層温度計測点までの距離
【0145】
数式(13)は、上述した数式(6)によって得られるものである。すなわち、流入集合管101から触媒反応器2までの温度変化は、比較的小さいものとし、かつ、ρ、Cp、Q
c3,iを一定としてこの微分方程式を解くと、検討対象とする流路の終点である触媒層温度計測点(x=X
i)での触媒層温度T
iは、次の数式(14)で表される。
T
i=T
f−(T
f−T
in)exp[−hLX
i/(ρCpQ
c3,i)] (14)
X
i:触媒反応器iにおける触媒層温度計測点のx座標
但し、T=T
in(x=0)
T=T
i(x=X
i)
【0146】
ここで、数式(14)において、hLX
i/(ρCp)をβ
iと定義する。これにより、モデル定数β
iが得られる。さらに、数式(14)はβ
iを用いて以下のように表される。
T
i=T
f−(T
f−T
in)exp[−β
i/Q
c3,i)] (15)
【0147】
そして、上記の操作で得られた流入温度T
in2、T
in4、触媒層温度T
c3,i、T
c4,iを数式(15)に代入すると、以下の数式(15−1)、(15−2)が得られる。
T
c3,i=T
f−(T
f−T
in2)exp[−β
i/Q
c3,i)] (15−1)
T
c4,i=T
f−(T
f−T
in4)exp[−β
i/Q
c3,i)] (15−2)
【0148】
数式(15−2)から数式(15−1)を減じ、さらにリーク流量Q
c3,iについて整理すると、以下の数式(16)が得られる。
Q
c3,i=−β
i/Ln[(T
c4,i−T
c3,i)/(T
in4−T
in2)] (16)
【0149】
したがって、リーク率の算出操作では、数式(16)を用いて、触媒反応器iにおけるリーク流量Q
c3,iを算出する。その後、第1の実施形態と同様の処理により、リーク率k
iを算出する。
【0150】
ここで、モデル定数β
iは数式(13)で定義されるものの、β
iを求めるために数式(13)右辺の物性値および伝熱特性値を個別に求めて数式(13)に代入する必要は必ずしもない。
【0151】
第3の実施形態では、数式(16)で用いるβ
iには固定値を用いる。β
iの値を決める方法は、例えば、以下の試験(以下、この試験を「βi算出用試験」とも称する)で求められる。具体的には、予め流れの抵抗係数が既知の抵抗体、例えば、触媒層に比べて十分に抵抗係数の高いオリフィスを各触媒反応器2に装着した状態で第1の操作〜測定操作を行う。これにより、触媒反応器iにおいて上述した流入温度T
in2、T
in4、触媒層温度T
c3,i、T
c4,iを測定する。さらに、触媒層温度T
c3、iの測定時にオリフィス前後の差圧を測定する。差圧の測定には、上述した各圧力計と同様の圧力計を用いれば良い。この差圧により、触媒反応器iでの流量配分を計算できる。なお、上述したように、触媒反応器内の流速は、通過するガスと触媒との接触時間を確保するため、通常、極めて小さいもの、例えば、数十cm/s程度に設定されることが多い。一方、弁を閉止した触媒反応器においては、流速は、通常、数cm/s以下とより小さなものである。もし、触媒反応装置内の触媒反応器において弁開と弁閉の触媒反応器が混在する場合には、大半のガスが弁開の触媒反応器を通過することになり、実質的に弁開の触媒反応器の圧力損失係数のみに基づいて触媒反応器前後での差圧(全触媒反応器において共通)が決定されることになる。なぜならば、弁開の触媒反応器を流れる流量は、ほぼ、[供給流量]/[弁開の触媒反応器数]の値で一定となり、弁閉での触媒反応器でのリーク流量が少々、変化したとしても弁開の触媒反応器に流れる流量に対する流量変化の比率が微小なため、差圧の変化も小さく、リーク流量変化の定量的な測定が困難だからである。そこで、βi算出用試験においては、想定される弁閉時の抵抗係数に相当する抵抗係数を有するオリフィスを全ての触媒反応器に対して設置することが考えられる。この場合、各触媒反応器の平均流量は、弁閉時のリーク流量相当となり、供給流量と圧力差を測定することによって、弁閉時の流量−圧力損失−系内温度差の関係を求めることができる。この流量配分と、流量Q
Tとに基づいて、リーク流量Q
c3、iを算出できる。そして、流入温度T
in2、T
in4、触媒層温度T
c3,i、T
c4,i、リーク流量Q
c3,i、および数式(16)に基づいて、モデル定数β
iの値を決定できる。このようにして求めたβ
iを実操業で用いればよい。なお、β
iは、全ての触媒反応器2に対して求めても良いし、いずれかの触媒反応器2に対してのみ求め、これを他の触媒反応器2に適用しても良い。また、
図3からも明らかな通り、β
iは正規の操業中に時々刻々と変動するものである。したがって、β
iを任意のタイミングで更新することが好ましい。
【0152】
<4.第4の実施形態>
次に、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態は、リーク率の算出操作が第3の実施形態とは異なる。これ以外の点は第3の実施形態と同様である。そこで、ここでは、リーク率の算出操作について説明する。
【0153】
第4の実施形態では、触媒反応器iにおける抵抗係数η
iを次の数式(17)で定義する。
η
i=△P/Q
i2 (17)
【0154】
ここで、△Pは、流入集合管と流出集合管との間の差圧、すなわち圧力損失であり、Q
iは触媒反応器iにおけるガス流量である。したがって、触媒反応器iにおける弁機構4が閉止状態となる場合、ガス流量Q
iはリーク流量Q
c3、iとなる。
【0155】
上述したように、本発明者らは、この抵抗係数η
iとモデル定数β
i間に正の相関のあることを見出した。この相関の物理的意味は、抵抗係数η
iの値の増大とモデル定数β
iの値の増大は、ともに触媒層内におけるコーク堆積量の増大によって引き起こされることによるものである。具体的には、触媒層の中にコークが堆積すると、堆積コークによって触媒層内の流路が実質的に狭くなるので、リーク流量Q
c3,iが減少する。その一方で、圧力損失△Pはほとんど変動しない。上述したように、第3の実施形態に係る触媒反応装置1では、複数の触媒反応器2が並列に配置されている。この場合、いずれかの触媒反応器iが閉止したとしても、触媒反応の触媒層を通過できなくなったガスが他の触媒反応器2に容易に迂回する。このため、閉止した触媒層の入側と出側の差圧はあまり変化せず、閉止した触媒反応器iでのリーク流量Q
c3,iが低下する。このため、触媒反応器iのリーク流量Q
c3,iが減少するが、圧力損失△Pはほとんど変動しない。このため、数式(17)から抵抗係数η
iの値が増大する。
【0156】
一方、コークの熱伝導率は空間を満たす原料ガス、改質ガスあるいは触媒粒子の熱伝導率よりも一般に大きいので、触媒層内の触媒粒子間の空間中にコーク粉が堆積すると、堆積コーク粉を通じて触媒層内で熱が伝わりやすくなり、触媒層の熱伝導率が増大する。数式(13)における熱貫流率hは、触媒層内を流れるガスの触媒粒子表面での熱伝導、触媒層の熱伝導、触媒反応器外壁の熱伝導、および加熱炉内ガスの触媒反応器外壁上での熱伝導を総合した伝熱性を示す係数である。これらの伝熱の各要素のうち、いずれかの伝熱が促進されると、熱貫流率hの値は増大する。従って、堆積コーク粉の増大によって触媒層の熱伝導率が増大すると、熱貫流率hが増大し、数式(13)から、β
iが増大する。
【0157】
そこで、第4の実施形態では、上記の抵抗係数η
iとモデル定数β
iとの関係を次の数式(18)でモデル化する。
β
i=β
0,i・(η
i/η
0,i)
ai (18)
β
0,i:β
iの初期値
a
i:モデル定数(a
i≧0)
【0158】
数式(17)のη
iをη
3,iとした上で、数式(17)を数式(18)に代入すると、次の数式(19)が得られる。
【0160】
この数式(19)を数式(16)に代入してリーク流量Q
c3,iについて整理すると次の数式(20)が得られる。
【0162】
したがって、リーク率の算出操作では、数式(20)に基づいて、触媒反応器iのリーク流量Q
c3,iを算出する。その後、第3の実施形態と同様の方法を用いてリーク率k
iを算出する。
【0163】
ここで、モデル定数ai、モデル定数の初期値β
0,i、抵抗係数の初期値η
0,iは、第3の実施形態のβi算出用試験と同様に求められる。すなわち、コーク堆積の無い状態(正規の操業を開始する前の状態)で、β
i算出用試験を行う。これにより、モデル定数の初期値β
0,iが算出される。さらに、差圧△P
3、リーク流量Q
c3,iから抵抗係数の初期値η
0,iも算出される。その後、正規の操業を行っている間の任意のタイミングでβ
i算出用試験を行う。これにより、モデル定数β
iが算出される。また、モデル定数β
iを算出した際の差圧△P
3、リーク流量Q
c3,iから抵抗係数η
iが算出される。そして、得られた値を、横軸をηi/η
0,iの対数軸、縦軸をβi/β
0,iの対数軸とした平面上にプロットし、各点の近似直線を最小二乗法等により算出する。そして、この近似直線の傾きをモデル定数aiとすればよい。モデル定数aiは、触媒反応器2毎に適用しても良いし、いずれかの触媒反応器2に対して算出されたモデル定数aiを他の触媒反応器2に流用しても良い。
【0164】
第4の実施形態では、以下の効果が得られる。モデル定数β
iは、
図3からも明らかな通り、時々刻々と変動するものである。したがって、第3の実施形態において、精度良くリーク流量Q
c3,iを算出しようとした場合には、頻繁にモデル定数β
iを更新する必要がある。さらに、モデル定数β
iは、操業条件によっても変動しうる。しかし、モデル定数β
iの算出には手間がかかる。これに対し、数式(20)は、時々刻々と変動するβ
iを考慮した数式となっている。したがって、モデル定数aiさえ算出してしまえば、後は時々刻々と変動するモデル定数β
iを考慮してリーク流量Q
c3,iを算出できるので、より容易かつ高精度にリーク流量Q
c3,iを算出することができる。
【実施例】
【0165】
<1.実施例1>
実施例1では、7本の触媒反応器2を有する(すなわち、N=7の)触媒反応装置1を準備した。そして、原料ガスとしてタールを含有したコークス炉ガスを各触媒反応器iに供給し、加熱炉温度を約800℃に維持した正規の操業条件で改質操業を行った。その後、供給ガスを非反応性ガスである窒素ガスに切り替え、窒素ガスを40Nm
3/hの流量で各触媒反応器2に供給するとともに、炉温T
fを780℃に設定した(第1の操作)。
【0166】
ついで、ガス予熱装置111を調整して、窒素ガスの流入温度T
in2の目標値を750℃に設定した。その後、触媒反応装置1が定常状態となるまで待機した(第2の操作)。ついで、3番目および4番目の触媒反応器2(i=3、4)に対応する弁機構4を閉止状態とし、触媒反応装置1が定常状態となるまで待機した。触媒反応装置1が定常状態となった後、触媒層温度T
c3,iを記録した(測定操作)。触媒層温度(触媒反応器温度)T
c3,iは表1に示すものであった。この一連の操作の間、流入集合管内のガス圧と流出集合管内のガス圧との差圧△P
3は、流入圧力計113および流出圧力計116の検出精度の範囲内で一定であり、その値は、61Paであった。
【0167】
【表1】
【0168】
ついで、第1の実施形態に記載されたリーク率の算出操作により3番目、4番目の触媒反応器2のリーク率k
iを算出した。具体的には、数式(7’)に基づいて、リーク流量Q
c3,iを算出した。ここで、モデル係数a
1の値には、上述した方法により事前に測定した値である3×10
−4を用いた。そして、算出されたリーク流量Q
c3,iを数式(3)に適用することで、リーク率kiを算出した。ここで、モデル定数α
1の値には、事前に調査して調整した値である0.4を用いた。なお、弁機構4の開放状態時の基準流量を定義する際の圧力、すなわち基準圧力を1kPaとした。結果を表2に示す。
【0169】
【表2】
【0170】
<2.実施例2>
実施例2では、第2の実施形態に記載されたリーク率の算出操作により3番目、4番目の触媒反応器2のリーク率k
iを算出した。具体的には、以下に示す操作以外は実施例1と同様の処理を行った。第2の操作では、流量温度T
in2の目標値を790℃に設定し、触媒反応装置1が定常状態となるまで待機した。また、触媒反応装置1が定常状態となった後、3番目および4番目の触媒反応器2(i=3、4)の触媒層温度T
2,iを記録した。測定操作では、3番目および4番目の触媒反応器2に対応する弁機構4を閉止状態とし、触媒反応装置1が定常状態となるまで待機した。触媒反応装置1が定常状態となった後、触媒層温度T
c3,iを記録した。表3に触媒層温度T
2,i、T
c3,i、流入温度T
in2、炉温T
fを示す。以上の操作を行っている間、流入集合管内のガス圧と流出集合管内のガス圧との差圧(つまり、差圧△P
2、△P
3)は、流入圧力計113および流出圧力計116の検出精度の範囲内で一定であり、29Paであった。
【0171】
【表3】
【0172】
ついで、数式(10’)に基づいて、リーク率k
iを算出した。ここで、モデル定数a2は、(△P
2/△P
3)
1/2=1とした。リーク率k
iの算出に直接は使用されないが、ここでの基準流量は、差圧△P
2=29Paにおける触媒反応器2のガス流量Q
2,iとなる。結果を表4に示す。
【0173】
【表4】
【0174】
<3.実施例3>
実施例3では、第3の実施形態に記載されたリーク率の算出操作により3番目、4番目の触媒反応器2のリーク率k
iを算出した。具体的には、以下に示す操作以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0175】
具体的には、原料ガスとしてタールを含有したコークス炉ガスを各触媒反応器2に供給し、加熱炉温度を約800℃に維持した正規の操業条件で改質操業を行った。その後、供給ガスを非反応性ガスである窒素ガスに切り替え、800℃に予熱した窒素ガスを40Nm
3/hの流量で各触媒反応器2に供給した(第1の操作)。
【0176】
ついで、ガス予熱装置111を調整して、窒素ガスの流入温度T
in2の目標値を750℃に設定した(第2の操作)。
【0177】
ついで、3番目の触媒反応器2(i=3)に対応する弁機構4を閉止状態とし、触媒反応装置1が定常状態となるまで待機した。触媒反応装置1が定常状態となった後、3番目の触媒反応器2の触媒層温度T
c3,iを記録した。ついで、ガス予熱装置111を調整して、窒素ガスの流入温度T
in4の目標値を710℃に設定し、触媒反応装置1が定常状態となるまで待機した。触媒反応装置1が定常状態となった後、3番目の触媒反応器2の触媒層温度T
c4,iを記録した。流入温度T
in2、T
in4、触媒層温度T
c3,i、T
c4,iを表5に示す。なお、これら一連の操作の間、流入集合管内のガス圧と流出集合管内のガス圧との差圧は、流入圧力計113および流出圧力計116の検出精度の範囲内で一定であり、25Paであった。
【0178】
【表5】
【0179】
ついで、数式(16)に基づいて、3番目の触媒反応器2のリーク流量k
iを算出した。具体的には、モデル定数β
iをβi算出用試験により算出した。βi算出用試験は、3番目の触媒反応器2にコークが堆積されていない状態で行った。この結果、モデル定数β
iは6.7となった。そして、この値と、数式(16)に基づいて、リーク流量Q
c3,i(触媒反応器流量Q
i)算出したところ、1.3Nm
3/hとなった。ついで、数式(3)に基づいて、リーク率k
iを算出したところ、リーク率k
iは4.7×10
−3と算出された。結果を表6に示す。表6には、モデル定数β
i、リーク流量Q
c3,iも併せて示す。
【0180】
【表6】
【0181】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。