【文献】
Eur. J. Immunol.,2004年,Vol.34,p.165-173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ナノ粒子コアが、該ナノ粒子コアの外表面上に生分解性の層を有し、かつpMHC複合体が該ナノ粒子コアまたは該ナノ粒子コア上の該生分解性の層に機能的に結合している、請求項1〜4のいずれか一項に記載のナノ粒子複合体。
pMHC複合体が、5 kD未満のサイズのリンカーを介してナノ粒子コアまたは生分解性の層に共有結合で連結されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載のナノ粒子複合体。
MHCクラスIタンパク質が、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、HLA-G、またはCD-1タンパク質の全部または一部を含む、請求項12に記載のナノ粒子複合体。
【図面の簡単な説明】
【0009】
添付の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の局面をさらに実証するために含められる。本発明は、本明細書中に提示される特定の態様の詳細な説明とともにこれらの図面の1つまたはそれ以上を参照することによって、より良好に理解することができる。
【0010】
(
図1)pMHCクラスII-NP療法が、C57BL/6マウスにおいて確立されたEAEの重症度を軽減することを示す。B6マウスを、CFA中のpMOG
35-55で免疫し、百日咳毒素の静脈内注射で処置した。15段階評価にわたる確立された基準を用いて、EAEの兆候についてマウスを採点した。罹患したマウスを、免疫化の21日後から始まる、毎週2回の7.5〜22.5 ugの用量のpMOG
38-49/IA
bコーティングNPで処置した。
(
図2)pMHCクラスII-NP療法(pMOG
38-49/I-A
bコーティングNP)で処置した慢性EAEを有するマウスは、未処置EAEマウスと比較して体重が増加したことを示す。
(
図3)EAEを有する処置マウスおよび未処置マウスの写真である。処置マウス(NAVACIM)は、未処置マウスよりも健康に見える。
(
図4)EAEに罹患したC57BL/6マウスにおける、pMOG
38-49/IA
bコーティングNPによる同起源自己調節性CD4+ T細胞の全身性増殖を示す。このモデルにおける増殖の規模は、1型糖尿病に関連したpMHCクラスIIコーティングNPで処置したNODマウスにおいて見られるものに匹敵している(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられる米国特許第8,354,110号を参照されたい)。
(
図5)未処置マウスの脊髄を示す。未処置マウスは、有意な脱髄および白質の高密度の単核細胞浸潤物を示した。
(
図6)pMOG
38-49/IA
b-NPで処置したマウスの脊髄を示す。pMHC-NP処置マウスは、有意により少ない脱髄および単核細胞浸潤物を有していた。
(
図7)2匹の未処置EAEマウスの脊髄辺縁についての代表的な例を示す。
(
図8)pMOG
38-49/IA
b-NPで処置した2匹のEAEマウスの脊髄辺縁についての代表的な例を示す。pMHC-NP処置マウスは、有意により少ない脱髄およびより低い単核細胞浸潤を有している。
(
図9−1)pMOG
36-55-I-Aβ(b)-C-Jun構築物のタンパク質配列(SEQ ID NO: 2)およびDNA配列(SEQ ID NO: 3)を示す(それぞれ、記載順にSEQ ID NO: 2〜3)。融合タンパク質中の個々の成分の配列は、
HAリーダー(下線)、続いて
(二重下線)、
(点線の下線)、および
(網掛け)の配列である。GSリンカーは強調表示されていない。
(
図9−2)
図9−1の続きを示す図である。
(
図9−3)
図9−2の続きを示す図である。
(
図10)抗原含有ベクターのDNAマップである。HAリーダー-I-Aα(b)-C-Fos-BirA-His×6融合タンパク質(284 a.a)(SEQ ID NO: 18として記載される"His×6")をコードするDNA構築物部位を、pMT/V5ハエ細胞発現ベクター中のNco I(854)とXba I(1711)との間にクローニングした。融合タンパク質は、I-Aα(d)(195 a.a.)、これに続くGSリンカー(6 a.a.)を介したC-Fos、その後のBirA配列および6×His(SEQ ID NO: 18)を含む。
(
図11)高密度(約5×10
13個/ml)に濃縮されかつ単分散されたpMHCコーティング金NP(約14 nm)の代表的なTEM画像を示す。倍率:50,000倍。
(
図12)pMHCコーティングNPのアゴニスト特性に及ぼすpMHC(GNP)用量およびpMHC結合価の影響を示す。この図は、2つの異なるpMHC-NP試料(両方とも約2×10
13個/mlの直径14nmのNPからなる)に応答して同起源8.3-CD8+ T細胞により分泌されたIFNγの量を比較している。Au-022410およびAu-21910は、それぞれ、NP1個あたり約250個および約120個のpMHCを保持していた。Au-011810-Cは、NP1個あたり約120個の対照pMHCを保持していた。
(
図13)pMHC結合価の関数としての8.3-CD8+ T細胞によるIFNγのpMHC-NP誘導性分泌を示す。8.3-CD8+ T細胞(2.5×10
5個/ml)は、3つの異なるIGRP
206-214/K
d結合価でコーティングされたNPの数を増加させながら培養した。IGRP
206-214は、抗原ペプチドVYLKTNVFL(SEQ ID NO: 19)を含む。
(
図14)pMHC-NPのより低いアゴニスト活性がpMHC-NP密度を増加させることによって、ただしpMHC結合価の閾値を上回って補償され得ることを示す。グラフは、広範なNP密度にわたって3つの異なるpMHC-NP調製物(pMHCの3つの異なる結合価数を保持している)のアゴニスト活性を比較するものである。NP1個あたり11個および54個のpMHCを保持するNPと比較した場合、8個のpMHCを保持するNPは、11個のpMHCを保持するものとは異なって、高いpMHC-NP密度でさえも、IFNγ分泌を十分に引き起こすことができないことに留意されたい。
(
図15)全pMHC投入量の関数としてのpMHC-NPのアゴニスト活性に及ぼすpMHC結合価閾値の影響を示す。
(
図16)より大きな酸化鉄NPコアを用いて作製したpMHC-NPのアゴニスト活性に及ぼすpMHC結合価の影響を示す。
(
図17)アゴニスト活性に及ぼすサイズの影響を示す。Au-0224-15は、比較的低いpMHC結合価でコーティングしたが高密度に調製した14nmのGNPであった。Au-0323-40は、高pMHC結合価であるが低密度にコーティングした40nmのGNPであった。Au-0224-15はAu-0323-40試料よりも優れたアゴニスト活性を有していた。
(
図18)pMHC-GNPの機能に対する保護PEGの効果を示す。Au-021910は、2kD チオール-PEGで保護されかつ約120個pMHC/GNPでコーティングされた、約2×10
13個/mlの直径14nmのGNPからなっていた。Au-012810 GNP(同様に約2×10
13個/mlの14nm GNP)は、5kD チオール-PEGで保護され、約175個pMHC/GNPでコーティングされた。試料Au-021910は優れたアゴニスト活性を有していた。
(
図19)NRP-V7/Kdコーティング金NPによるNRP-V7反応性CD8+ T細胞の効率的な増殖を示す。25μgのpMHCを保持する3×10
12個のNP(サイズ約10nm)(150個pMHC/NP)を使用した。前糖尿病性の10週齢NODマウスをNRP-V7/kdコーティング金NPの週2回の注射で5週間処置した。TUM/Kd四量体は陰性対照である。パネルの各列は異なるマウスに対応する。
(
図20)pMHCコーティングNPで処理したマウスにおける同起源CD8+ T細胞の大量増殖を示す。25μgのpMHCを保持する3×10
12個のIGRP
206-214/K
d-NP(サイズ約10nm)(150個pMHC/NP)を使用した。上のパネル:4回投与後に屠殺したマウスのプロファイル。下のパネル:10回注射後の2匹の異なるマウスのプロファイル(血液のみ)。
(
図21)pMHCクラスI-Np複合体についての原理と同じ原理が、pMHCクラスIIコーティングNpに当てはまることを示す(
図18を参照されたい)。NPあたり17個のpMHCでコーティングされたpMHCクラスII pMHC-Np(BDC2.5miコーティングの6〜8nmナノ粒子の粒子(SFPZ))は、53個のpMHCでコーティングされたPFM(20〜25nm)粒子よりも高いアゴニスト活性を有することに留意されたい。これは、pMHC-NPが誘導するCD4+ T細胞によるIFNγの分泌がpMHC密度の関数として増大することにより示されるように、クラスI-pMHC NpおよびクラスII-pMHC-Npの両方について問題になるのは、pMHCの絶対結合価ではなく、むしろpMHC密度であることを裏付けるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
本発明は、記載された特定の態様に限定されず、そのため、当然変化し得るものであることを理解されるべきである。さらに、本明細書中で用いる用語は、特定の態様のみを説明する目的のためであり、限定することを意図したものではないことを理解すべきである。なぜなら、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるからである。
【0012】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いる単数形「1つの(a)」、「ある(an)」および「その(the)」は、文脈上別段のはっきりした指示がない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「賦形剤」への言及には、複数の賦形剤が含まれる。
【0013】
I. 定義
他に定義されない限り、本明細書中で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。本明細書中で用いる場合、以下の用語は以下の意味を有する。
【0014】
本明細書中で用いる「含んでいる」または「含む」という用語は、組成物および方法が列挙された要素を含むが、他を排除しないことを意味するものである。組成物および方法を定義するために用いる場合の「から本質的になる」は、記載した目的のための組み合わせにとって本質的に意義のある他の要素を排除することを意味するものとする。したがって、本明細書で定義される要素から本質的になる組成物は、多発性硬化症を治療または予防するための組成物などの特許請求された発明の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない、他の材料または工程を排除しない。「からなる」は、微量要素を上回る他の成分および実質的な方法工程を排除することを意味するものとする。これらの移行用語(transition term)のそれぞれによって定義された態様は、本発明の範囲内である。
【0015】
「生体適合性の」とは、送達システムの構成成分が組織傷害またはヒト生物学的系への傷害を引き起こさないことを意味する。生体適合性を付与するために、ヒトでの安全使用の歴史があるか、またはGRAS(一般に安全と認められる)ステータスを有する、ポリマーおよび添加剤が優先的に使用される。「生体適合性」とは、組成物中で用いられる成分および添加剤が、体に悪影響を及ぼすことなく、最終的に体内で「生体吸収される」または排出される、ことを意味する。組成物が生体適合性でありかつ無毒性とみなされるために、組成物は細胞に対する毒性を引き起こしてはならない。同様に、「生体吸収性」という用語とは、患者の体内での材料の長期蓄積が避けられるように、ある期間にわたってインビボで生体吸収を受ける該材料から作製されたナノ粒子を指す。好ましい態様では、生体適合性ナノ粒子は2年未満、好ましくは1年未満、さらに好ましくは6ヶ月未満の期間にわたって生体吸収される。生体吸収率は、粒子のサイズ、使用される材料、および当業者によって十分認識される他の要因に関連する。本発明で用いるナノ粒子を形成するために、生体吸収性で生体適合性の材料の混合物が使用可能である。一態様では、酸化鉄と生体適合性生体吸収性ポリマーを組み合わせることができる。例えば、酸化鉄とPGLAを組み合わせてナノ粒子を形成することができる。
【0016】
抗原-MHC-ナノ粒子複合体とは、生体適合性で生体分解性のナノスフェアなどの表面上でのペプチド、糖質、脂質、または他の抗原分子もしくは抗原タンパク質(すなわち、自己ペプチドもしくは自己抗原)の抗原セグメント、断片もしくはエピトープの提示を指す。本明細書中で用いる「抗原」とは、対象において免疫応答を誘導することができるか、または抗病原性細胞の増殖を誘導することができる分子の全体、一部、断片またはセグメントを指す。
【0017】
範囲を含む数字表示の前に、例えば、温度、時間、量、および濃度の前に用いられる「約」という用語は、(+)もしくは(-)10%、5%、または1%変化し得る近似値を示す。
【0018】
「模倣体」は、所定のリガンドまたはペプチドの類似体であり、該類似体は該リガンドに実質的に類似している。「実質的に類似」とは、合計でリガンドの分子量の約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約10%未満、または約5%未満を占める、1つまたはそれ以上の官能基または修飾を、模倣体が有することを除いて、類似体が該リガンドと同様の結合プロファイルを有することを意味する。
【0019】
多発性硬化症(MS)は、「散在性硬化症」、「散在性脳脊髄炎」、または「アレルギー性脳脊髄炎」としても知られている。MSは、脳および脊髄の軸索の周囲の脂肪ミエリン鞘が損傷を受け、脱髄および瘢痕化、ならびに幅広い範囲の兆候および症状をもたらす炎症性疾患である。多発性硬化症関連障害には、例えば、視神経脊髄炎(NMO)、ブドウ膜炎、神経障害性疼痛などが含まれる。
【0020】
「ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質」(MOG)は、中枢神経系(CNS)中の神経の髄鞘形成のプロセスにおいて重要であると考えられている糖タンパク質である。ヒトにおいて、このタンパク質はMOG遺伝子によりコードされている。このタンパク質は、ミエリン鞘に対して構造的完全性を提供するために必要な「接着分子」として働くことが推測されており、オリゴデンドロサイト上で後期に発生することが知られている。GenBankアクセッション番号NM_001008228.2およびNP_001008229.1は、MOG遺伝子のmRNAおよびタンパク質の配列をそれぞれ表す。これらのGenBankアクセッション番号の各々と関連する配列は、すべての目的で参照により組み入れられる。
【0021】
「抗病原性自己反応性T細胞」という用語は、抗病原性特性を有するT細胞(すなわち、MSを抑制するT細胞)を指す。これらのT細胞には、抗炎症性T細胞、エフェクターT細胞、メモリーT細胞、低結合活性T細胞、Tヘルパー細胞、自己調節性T細胞、細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞などが含まれ得る。
【0022】
「抗炎症性T細胞」という用語は、抗炎症反応を促進するT細胞を指す。T細胞の抗炎症機能は、抗炎症性タンパク質、サイトカイン、ケモカインなどの産生および/または分泌を介して達成され得る。抗炎症性タンパク質はまた、免疫応答を抑制する抗増殖シグナルを包含することが意図される。抗炎症性タンパク質としては、IL-4、IL-10、IL-13、IFN-α、TGF-β、IL-1ra、G-CSF、ならびにTNFおよびIL-6の可溶性受容体が挙げられる。特定の態様では、抗原-MHCナノ粒子複合体の投与が、多発性硬化症を治療するために有効な抗炎症性T細胞の増殖およびまたは誘導の増大をもたらす。したがって、本開示の局面は、患者においてMSと関連する炎症を治療するための方法であって、抗原が多発性硬化症関連抗原である抗原-MHC-ナノ粒子複合体を該患者に投与する工程を含むか、該工程から本質的になるか、または該工程からなる、方法に関する。
【0023】
「IL-10」または「インターロイキン-10」という用語は、IL-10遺伝子によってコードされるサイトカインを指す。IL-10配列は、GenBankアクセッション番号NM_000572.2(mRNA)およびNP_000563.1(タンパク質)で表される。
【0024】
「TGF-β」または「トランスフォーミング増殖因子β」という用語は、抗炎症効果を及ぼすことができるタンパク質を指す。TGF-βは、TGF-β1、TGF-β2およびTGF-β3と呼ばれる、少なくとも3つのアイソフォームで存在する分泌タンパク質である。それはまた、このファミリーの初代メンバーであった、TGF-β1の元の名称であった。TGF-βファミリーは、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーとして知られるタンパク質のスーパーファミリーの一部であり、該スーパーファミリーには、インヒビン、アクチビン、抗ミュラー管ホルモン、骨形成タンパク質、デカペンタプレジック、およびVg-1が含まれる。
【0025】
「有効量」とは、意図された目的を達成するのに十分な量であり、そのような目的の非限定的な例としては、免疫応答の開始、免疫応答の調節、炎症反応の抑制、およびT細胞活性またはT細胞集団の調節が挙げられる。一局面において、有効量は、記載された治療目的を達成するように機能する量、例えば治療に有効な量である。本明細書中で詳細に記載されるように、有効量、つまり投与量は、目的、および組成、成分に依存し、かつ本開示に従って決定することができる。
【0026】
特許請求の範囲および/または明細書において「含む」という用語と組み合わせて使用される場合の単語「1つの(a)」または「ある(an)」の使用は、「1つ」を意味し得るが、それはまた、「1つまたはそれ以上」、「少なくとも1つ」および「1つまたは複数」の意味とも合致する。
【0027】
本明細書において「ナノスフェア」、「NP」、または「ナノ粒子」とは、適宜、対象、細胞試料、または組織試料に単独でまたは複数で投与される小さな個別の粒子を意味する。特定の態様では、ナノ粒子は形状が実質的に球形である。特定の態様では、ナノ粒子はリポソームまたはウイルス粒子ではない。さらなる態様では、ナノ粒子は中空ではない。本明細書中で用いる「実質的に球形」という用語とは、粒子の形状が約10%を超えて球からそれていないことを意味する。本発明のさまざまな既知の抗原複合体またはペプチド複合体を該粒子に付けることが可能である。本発明のナノ粒子は、サイズが約1nm〜約1μm、好ましくは約1nm〜約100nmの範囲であり、いくつかの局面では、複数のナノ粒子が意図されている場合、複数のナノ粒子の平均粒子径または中央粒子径を指す。より小さなナノサイズ粒子は、例えば、より大きな粒子を水溶液中で沈降させる分別の方法によって、得ることができる。その後、当業者に公知の方法によって溶液の上部が回収される。この上部は、より小さなサイズの粒子に富む。所望の平均サイズが生じるまで、この方法を繰り返すことができる。
【0028】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢のみを指すことまたは選択肢が相互に排他的であることが明示的に示されない限り、「および/または」を意味するために用いられるが、本開示は、唯一の選択肢を指す定義ならびに「および/または」を支持する。
【0029】
本明細書中で用いる「免疫応答」またはそれと等価な「免疫学的応答」という用語とは、細胞媒介性応答(抗原特異的T細胞またはその分泌産物により媒介される)の発生を指す。細胞性免疫応答は、クラスIまたはクラスII MHC分子と会合したポリペプチドエピトープの提示によって誘発されて、抗原特異的CD4
+ Tヘルパー細胞および/またはCD8+細胞傷害性T細胞を活性化する。その応答は他の成分の活性化を伴うこともある。
【0030】
本明細書中で用いる「炎症反応」および「炎症」という用語とは、病原体、損傷細胞、または刺激物などの有害な刺激に対する個体の血管組織の複雑な生物学的応答を示し、サイトカインの分泌、特に炎症性サイトカイン、すなわち活性化された免疫細胞によって主に産生されかつ炎症性反応の増幅に関与しているサイトカインの分泌を含む。例示的な炎症性サイトカインとしては、IL-1、IL-6、TNF-a、IL-17、IL21、IL23、およびTGF-βが挙げられるが、これらに限定されない。代表的な炎症には、急性炎症と慢性炎症が含まれる。急性炎症は、血漿および白血球による組織の浸潤に起因する炎症の古典的な兆候(腫脹、発赤、痛み、熱、および機能喪失)を特徴とする短期的なプロセスを示す。急性炎症は、一般的に、有害な刺激が存在している間は発生しており、ひとたび刺激が除去されるか、分解されるか、または瘢痕化(線維化)によって遮断されると停止する。慢性炎症は、同時活動性炎症、組織破壊、および修復への試みを特徴とする状態を示す。慢性炎症は、上に挙げた急性炎症の古典的な兆候を特徴としない。代わりに、慢性的に炎症を起こした組織は、単核免疫細胞(単球、マクロファージ、リンパ球、および形質細胞)の浸潤、組織破壊、および血管新生と線維化を含む治癒への試みを特徴とする。炎症は、個体において炎症と関連した複雑な生物学的応答を形成している事象のいずれかに影響を与えることによって、特にそれを阻害することによって、本開示の意味において抑制することが可能である。
【0031】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、「エピトープ」および「抗原決定基」という用語は、互換的に用いられ、B細胞および/またはT細胞が応答または認識する抗原上の部位を指す。B細胞エピトープは、連続アミノ酸から、またはタンパク質の三次フォールディングによって並置された非連続的アミノ酸から、形成され得る。連続アミノ酸から形成されたエピトープは、変性溶媒に曝露されても一般に保持されるのに対し、三次フォールディングによって形成されたエピトープは変性溶媒で処理した場合一般に失われる。エピトープは通常、少なくとも3個のアミノ酸、より一般的には、少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を、独特の空間的配置で含む。エピトープの空間的配置を決定する方法としては、例えば、X線結晶解析および2次元核磁気共鳴が挙げられる。例えば、Glenn E. Moriis、Epitope Mapping Protocols (1996)を参照されたい。T細胞は、CD8細胞では約9アミノ酸の連続エピトープを、かつCD4細胞では約13〜15アミノ酸の連続エピトープを認識する。エピトープを認識するT細胞は、エピトープに応答した初回抗原刺激T細胞による
3H-チミジンの取り込み(Burke et al., J. Inf. Dis., 170:1110-119, 1994)により、抗原依存性死滅(細胞傷害性Tリンパ球アッセイ法、Tigges et al., J. Immunol., 156(10):3901-3910, 1996)により、またはサイトカインの分泌により測定される、抗原依存性増殖を測定するインビトロアッセイ法によって同定することができる。細胞媒介性免疫学的応答の存在は、増殖アッセイ法(CD4
+ T細胞)またはCTL(細胞傷害性Tリンパ球)アッセイ法によって測定することができる。
【0032】
任意で、抗原または好ましくは抗原のエピトープは、MHCおよびMHC関連タンパク質などの他のタンパク質に化学的に結合させること、または他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることができる。
【0033】
本明細書中で用いる「患者」および「対象」という用語は同義的に使用され、哺乳動物を指す。いくつかの態様では、患者はヒトである。他の態様では、患者は、実験室でよく用いられる哺乳動物、例えば、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、またはヒツジである。
【0034】
本出願において用いる「ポリヌクレオチド」という用語は、組換え体または全ゲノム核酸から単離された核酸分子のいずれかを指す。「ポリヌクレオチド」という用語には、オリゴヌクレオチド(核酸の長さが100残基またはそれ未満)、組換えベクター、例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスなどが含まれる。ポリヌクレオチドには、特定の局面において、天然に存在する遺伝子またはタンパク質をコードする配列から実質的に単離された、調節配列が含まれる。ポリヌクレオチドはRNA、DNA、その類似体、またはそれらの組み合わせであり得る。ポリペプチドの全部または一部をコードする核酸は、そのようなポリペプチドの全部または一部をコードする、以下の長さの連続した核酸配列を含むことができる:10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、441、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000、1010、1020、1030、1040、1050、1060、1070、1080、1090、1095、1100、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、9000、10000個、またはそれ以上のヌクレオチド、ヌクレオシド、もしくは塩基対。また、所定の生物種に由来する特定のポリペプチドは、若干異なる核酸配列を有するが、それにもかかわらず、同じまたは実質的に類似のタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドをコードする、天然の変異を含む核酸によってコードされ得ると考えられる。
【0035】
ポリヌクレオチドは、4種のヌクレオチド塩基の特定の配列で構成される:アデニン(A); シトシン(C); グアニン(G); チミン(T); および、ポリヌクレオチドがRNAである場合にはチミンの代わりにウラシル(U)。したがって、「ポリヌクレオチド配列」という用語はポリヌクレオチド分子のアルファベット表示である。このアルファベット表示は、中央処理装置を有するコンピュータ内のデータベースに入力されて、機能的ゲノム学および相同性検索などのバイオインフォマティクスの用途に使用される。
【0036】
DNAまたはRNAなどの核酸に関して本明細書中で用いる「単離された」または「組換え」という用語は、巨大分子およびポリペプチドの天然源に存在する、それぞれ他のDNAまたはRNAから分離された分子を指す。「単離された核酸または組換え核酸」という用語とは、断片として天然に存在せずかつ自然な状態では見出されない、核酸断片を含むことを意味する。「単離された」という用語はまた、他の細胞タンパク質から単離されたポリヌクレオチド、ポリペプチド、およびタンパク質を指すために本明細書中で使用され、精製ポリペプチドと組換えポリペプチドの両方を含むものとする。他の態様では、「単離されたまたは組換え」という用語は、細胞、組織、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体またはその断片が自然界で通常結び付いている、細胞のまたは細胞ではない成分から分離されていることを意味する。例えば、単離された細胞は、異なる表現型または遺伝子型の組織または細胞から分離されている細胞である。単離されたポリヌクレオチドは、それがその天然または自然環境において、例えば染色体上で、通常結合している3'および5'連続ヌクレオチドから分離されている。当業者には明らかなように、非天然のポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体またはその断片は、その天然の対応物からそれを区別するために「単離」を必要としない。
【0037】
ポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド領域(またはポリペプチドもしくはポリペプチド領域)が他の配列に対して一定割合(例えば、80%、85%、90%、または95%)の「配列同一性」を有するとは、アライメントした場合、その割合の塩基(またはアミノ酸)がこれら2つの配列を比較した際に同一であることを意味する。アライメントおよび相同性パーセントまたは配列同一性は、当技術分野で公知のソフトウェアプログラム、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編, 1987)補遺30, セクション7.7.18, 表7.7.1に記載されているものを用いて決定することができる。好ましくは、デフォルトパラメータがアライメントのために使用される。好ましいアライメントプログラムは、デフォルトパラメータを用いるBLASTである。特に、好ましいプログラムはBLASTNおよびBLASTPであり、以下のデフォルトパラメータを用いる:Genetic code = standard; filter = none; strand = both; cutoff = 60; expect = 10; Matrix = BLOSUM62; Descriptions = 50 sequences; sort by = HIGH SCORE; Databases = non-redundant, GenBank + EMBL + DDBJ + PDB + GenBank CDS translations + SwissProtein + SPupdate + PIR。これらのプログラムの詳細は、次のインターネットアドレスで見ることができる:ncbi.nlm.nih.gov/cgi-bin/BLAST。
【0038】
本発明がポリペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、または抗体に関する場合、その等価物または生物学的等価物が本発明の範囲内で意図されることが、特に別の意図がない限り、明示的な列挙なしに推測されるべきである。本明細書中で用いる「その生物学的等価物」という用語は、参照タンパク質、抗体、断片、ポリペプチド、または核酸に言及する場合に、「その等価物」と同義であることが意図され、最小の相同性を有するが依然として所望の構造または機能を維持しているものを意図している。本明細書に具体的に列挙しない限り、本明細書中で挙げた任意のポリヌクレオチド、ポリペプチド、またはタンパク質はまた、その等価物を包含すると考えられる。一局面において、等価のポリヌクレオチドは、記載した方法における使用のための本明細書に記載されたポリヌクレオチドまたはその相補体にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものである。別の局面において、等価な抗体または抗原結合ポリペプチドは、少なくとも70%、またはその代わり少なくとも75%、またはその代わり少なくとも80%、またはその代わり少なくとも85%、またはその代わり少なくとも90%、またはその代わり少なくとも95%の親和性もしくはより高い親和性で、参照抗体もしくは参照抗原結合断片に結合するものを意図している。別の局面では、その等価物は、競合ELISAアッセイ法の下で抗体もしくは抗原結合断片のその抗原への結合について競合するものである。別の局面では、等価物は、少なくとも約80%の相同性もしくは同一性、またはその代わり少なくとも約85%、またはその代わり少なくとも約90%、またはその代わり少なくとも約95%、またはその代わり少なくとも98%の相同性もしくは同一性パーセントを有し、かつ参照タンパク質、参照ポリペプチド、または参照核酸と実質的に等価な生物学的活性を示すものである。
【0039】
「ハイブリダイゼーション」とは、1つまたはそれ以上のポリヌクレオチドがヌクレオチド残基の塩基間の水素結合によって安定化された複合体を形成するように反応する、反応を指す。水素結合は、ワトソン・クリック塩基対形成によって、フーグスティーン結合によって、または他のいずれかの配列特異的な方法で起こり得る。複合体は、二重鎖構造を形成する2本の鎖、多重鎖複合体を形成する3本またはそれ以上の鎖、単一の自己ハイブリダイズする鎖、またはこれらの任意の組み合わせを含み得る。ハイブリダイゼーション反応は、PC反応の開始、またはリボザイムによるポリヌクレオチドの酵素的切断などの、より広範なプロセスの1段階を構成することができる。
【0040】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては、以下が挙げられる:約25℃〜約37℃のインキュベーション温度;約6×SSC〜約10×SSCのハイブリダイゼーションバッファー濃度;約0%〜約25%のホルムアミド濃度;および約4×SSC〜約8×SSCの洗浄液。中程度のハイブリダイゼーション条件の例としては、以下が挙げられる:約40℃〜約50℃のインキュベーション温度;約9×SSC〜約2×SSCのバッファー濃度;約30%〜約50%のホルムアミド濃度;および約5×SSC〜約2×SSCの洗浄液。高いストリンジェンシー条件の例としては、以下が挙げられる:約55℃〜約68℃のインキュベーション温度;約1×SSC〜約0.1×SSCのバッファー濃度;約55%〜約75%のホルムアミド濃度;および約1×SSC、0.1×SSC、または脱イオン水の洗浄液。一般に、ハイブリダイゼーションのインキュベーション時間は、1回、2回、またはそれ以上の洗浄段階を伴う5分から24時間であり、洗浄インキュベーション時間は約1、2、または15分である。SSCは、0.15M NaClおよび15mMクエン酸バッファーである。当然のことながら、他のバッファー系を用いるSSCの等価物を用いることができる。
【0041】
「相同性」または「同一性」または「類似性」は、2つのペプチド間または2つの核酸分子間の配列類似性を指す。相同性は、比較のためにアライメントされ得る各配列において位置を比較することによって決定することができる。比較された配列における位置が同じ塩基またはアミノ酸で占められている場合、これらの分子はその位置で相同である。配列間の相同性の程度は、これらの配列により共有される、マッチする位置または相同な位置の数の関数である。「関連のない」または「非相同」配列は、本発明の配列のうちの1つと40%未満の同一性、または25%未満の同一性を共有するものである。
【0042】
「相同性」または「同一性」または「類似性」はまた、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする2つの核酸分子を指すことができる。
【0043】
本明細書中で用いる「治療する」という用語、「治療」という用語、および同様の用語は、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味するために使用される。その効果は、疾患のおよび/もしくは該疾患に起因する有害作用の部分的または完全な治癒という点で治療的であり得る。一局面では、治療は、確立された尺度を用いた疾患の兆候の軽減を示す。
【0044】
本明細書中で用いる「多発性硬化症関連障害」という用語は、MSに対する感受性またはMSと共存している障害を意図している。そのような障害の非限定的な例には、視神経脊髄炎(NMO)、ブドウ膜炎、神経障害性疼痛、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、散在性硬化症、全身性硬化症、脊髄視覚(spino-optical)MS、一次進行型MS(PPMS)、および再発寛解型MS(RRMS)、進行型全身性硬化症、ならびに失調性硬化症が含まれる。
【0045】
(T1D感受性遺伝子座であるIDDM7(2q31)と重なる染色体2q28-32に位置する)遺伝子によりコードされるIGRPも、ヒトT1Dにおける潜在的に関連するβ細胞自己抗原として最近同定されている。ヒトIGRPの2種のHLA-A
*0201結合エピトープ(hIGRP
228-236およびhIGRP
265-273)は、HLA-A
*0201導入遺伝子を発現するマウスMHCクラスI欠損NODマウス由来の膵島関連CD8+細胞により認識される。IGRP
206-214は、抗原性ペプチドVYLKTNVFL(SEQ ID NO: 19)を含む。
【0046】
予防することは、疾患にかかりやすいかまたは影響をうけやすい系もしくは対象において、その疾患または影響をインビトロまたはインビボで防止することを意図している。
【0047】
「組成物」は、活性剤と、不活性(例えば、検出可能な剤もしくは標識)または活性の、例えばアジュバントなどの他の化合物または組成物との組み合わせを意味するものである。特定の態様では、組成物はアジュバントを含まない。
【0048】
「薬学的組成物」は、活性剤と、不活性または活性の担体との組み合わせを含むものであり、該担体は、該組成物をインビトロ、インビボまたはエクスビボでの診断または治療上の使用に適したものにする。
【0049】
「機能的に等価なコドン」という用語は、本明細書中では、例えばアルギニンまたはセリンのための6つのコドンのような、同じアミノ酸をコードするコドンを指すために使用され、さらに、生物学的に等価なアミノ酸をコードするコドンも意味する(下記の表を参照されたい)。
【0051】
本明細書中で用いる「タンパク質」または「ポリペプチド」または「ペプチド」は、少なくとも5個のアミノ酸残基を含む分子を指す。
【0052】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになると考えられる。しかし、本発明の精神内および範囲内でのさまざまな変更および修飾が、この詳細な説明から当業者には明らかになり得るため、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の特定の態様を示すものの、例示のみの目的で与えられることを理解すべきである。
【0053】
説明的態様
本開示は、MSに関連した抗原-MHC複合体に結合されたナノ粒子が、MSまたは脳脊髄炎(EAE)の症状を軽減するという発見に基づく(実施例1)。
【0054】
II.方法
本明細書に記載される方法は、(1)抗病原性(もしくは抗MS)自己反応性T細胞の集団を増殖および/もしくは発生させる目的で;ならびに/または(2)多発性硬化症もしくは多発性硬化症関連障害を有する患者において、または多発性硬化症もしくは多発性硬化症関連障害にかかりやすい患者において、一局面では全身性免疫を損なうことなく、多発性硬化症または多発性硬化症関連障害を治療または予防する目的で、細胞、組織、または対象への抗原-MHC-ナノ粒子複合体の有効量の投与を含むか、またはその代わり該投与から本質的になるか、または該投与からなる。複合体中で使用される抗原は、多発性硬化症関連抗原である。療法を判定しかつモニターする方法は、当技術分野で公知であり、本明細書に簡単に記載される。インビトロで送達される場合、投与は、任意の適切な方法によって、例えば細胞または組織培養培地への投与によって、組成物を組織または細胞と接触させることにより行われ、かつ該投与は、療法が個体に適切であるかどうかを判定するためのスクリーニングとして、または、代用として使用されるもしくは開示された組成物と組み合わせて使用される代替療法を選抜するためのスクリーニングとして有用である。インビボで投与される場合、投与は、全身投与または局所投与によるものである。インビボでは、ヒトへの投与に先立って、代用として使用されるまたは開示された組成物と組み合わせて使用される代替療法を選抜するために、非ヒト動物に対して方法を実施することができる。ヒトまたは非ヒト哺乳動物において、それらはまた、当該疾患または障害を治療するために有用である。
【0055】
方法は、ナノ粒子;MHCタンパク質;および多発性硬化症関連抗原を含むか、該ナノ粒子;MHCタンパク質;および多発性硬化症関連抗原から本質的になるか、または該ナノ粒子;MHCタンパク質;および多発性硬化症関連抗原からなる複合体の、有効量の投与を必要とする。
【0056】
抗原-MHC-ナノ粒子複合体のMHCは、MHC I、MHC II、または非古典的MHCであることができる。MHCタンパク質は、本明細書に記載されている。一態様では、抗原-MHC-ナノ粒子複合体のMHCは、MHCクラスIである。別の態様では、MHCはMHCクラスIIである。他の態様では、抗原-MHC-ナノ粒子複合体のMHC成分は、MHCクラスIIまたは本明細書に記載される非古典的MHC分子である。一局面において、抗原は、ポリペプチド
もしくはSEQ ID NO: 1の等価物を含むか、またはその代わり該ポリペプチドもしくは該等価物から本質的になるか、または該ポリペプチドもしくは該等価物からなる。本発明において使用され得る追加の抗原は、
の群のポリペプチドを含むか、もしくはその代わり該ポリペプチドから本質的になるか、もしくは該ポリペプチドからなるポリペプチド、またはそれらの各々の等価物、またはそれらの組み合わせを含む。
【0057】
ナノ粒子のサイズは、約1 nm〜約1μmの範囲であることができる。特定の態様では、ナノ粒子は、直径が約1μm未満である。他の態様では、ナノ粒子は、直径が約500 nm未満、約400 nm未満、約300 nm未満、約200 nm未満、約100 nm未満、または約50 nm未満である。さらなる態様では、ナノ粒子は、直径が約1 nmから約10 nm、15 nm、20 nm、25 nm、30 nm、40nm、50 nm、75 nm、または100 nmまでである。特定の態様では、ナノ粒子は、約1 nm〜約100 nm、約1 nm〜約50 nm、約1 nm〜約20 nm、または約5 nm〜約20 nmである。
【0058】
複合体のサイズは、約5 nm〜約1μmの範囲であることができる。特定の態様では、複合体は、直径が約1μm未満、またはその代わり100 nm未満である。他の態様では、複合体は、直径が約500 nm未満、約400 nm未満、約300 nm未満、約200 nm未満、約100 nm未満、または約50 nm未満である。さらなる態様では、複合体は、約10 nm〜約50 nm、または約20 nm〜約75 nm、または約25 nm〜約60 nm、または約30 nm〜約60 nm、または一局面において約55 nmである。
【0059】
本出願人は、ナノ粒子上の抗原-MHC複合体の密度が治療効果に寄与することを発見した。したがって、本明細書に開示されるように、少なくとも2個のMHC、またはその代わり少なくとも8個、またはその代わり少なくとも9個、またはその代わり少なくとも10個、またはその代わり少なくとも11個、またはその代わり少なくとも12個のMHCがナノ粒子に複合体化されると仮定して、抗原-MHCナノ粒子複合体は、ナノ粒子の表面積の100 nm
2あたりに約0.05個のMHC分子からの範囲で規定の密度を有することができる。一局面において、複合体は、100 nm
2あたり約0.01個のMHC(0.05個のMHC/100 nm
2)〜約30個のMHC/100 nm
2、またはその代わり0.1個のMHC/100 nm
2〜約25個のMHC/100 nm
2、またはその代わり約0.3個のMHC/100 nm
2〜約25個のMHC/100 nm
2、またはその代わり約0.4個のMHC/100 nm
2〜約25個のMHC/100 nm
2、またはその代わり約0.5個のMHC/100 nm
2〜約20個のMHC/100 nm
2、またはその代わり0.6個のMHC/100 nm
2〜約20個のMHC/100 nm
2、またはその代わり約1.0個のMHC/100 nm
2〜約20個のMHC/100 nm
2、またはその代わり約5.0個のMHC/100 nm
2〜約20個のMHC/100 nm
2、またはその代わり約10.0個のMHC/100 nm
2〜約20個のMHC/100 nm
2、またはその代わり約15個のMHC/100 nm
2〜約20個のMHC/100 nm
2、またはその代わり少なくとも約0.5個、またはその代わり少なくとも約1.0個、またはその代わり少なくとも約5.0個、またはその代わり少なくとも約10.0個、またはその代わり少なくとも約15.0個のMHC/100 nm
2のMHCの密度を有する。一局面において、9個または少なくとも9個のMHCが1個のナノ粒子に複合体化された場合、密度範囲は、約0.3個のMHC/100 nm
2〜約20個のMHC/100 nm
2である。
【0060】
その方法の局面の1つでは、それを必要とする患者において抗炎症性T細胞を蓄積するための方法が提供される。さらなる態様では、T細胞はCD4+またはCD8+ T細胞である。関連する態様では、T細胞はIL-10またはTGFβを分泌する。方法は、本明細書に記載される抗原-MHCナノ粒子複合体の有効量を、それを必要とする患者に投与する工程を含むか、該工程から本質的になるか、または該工程からなる。
【0061】
一態様では、本明細書に記載される方法は、多発性硬化症関連障害を治療するためのものである。方法は、本明細書に記載される抗原-MHCナノ粒子複合体の有効量を、それを必要とする患者に投与する工程を含むか、該工程から本質的になるか、または該工程からなる。関連する態様では、多発性硬化症関連障害は、視神経脊髄炎(NMO)、ブドウ膜炎、および神経障害性疼痛からなる群より選択される。
【0062】
インビトロおよびインビボでの投与様式に関する詳細は、本明細書に記載されている。
【0063】
III.抗原-MHC-ナノ粒子複合体
特定の局面は、全身性免疫を損なうことなくMSを特異的に治療する、MS抗原特異的な医薬を作製するための方法に関する。実施例2には、抗原-MHC-ナノ粒子複合体の作製が記載される。本発明において有用な抗原-MHC-ナノ粒子複合体は、MSに関連した抗原を含む。
【0064】
A.ポリペプチドおよびポリヌクレオチド
さらなる局面は、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含むか、もしくは該アミノ酸配列から本質的になるか、もしくは該アミノ酸配列からなる、単離もしくは精製されたポリペプチド、または、SEQ ID NO: 1に対して少なくとも約80%の配列同一性、もしくはその代わり少なくとも85%、もしくはその代わり少なくとも90%、もしくはその代わり少なくとも95%、もしくはその代わり少なくとも98%の配列同一性を有するポリペプチド、または、SEQ ID NO: 1をコードするポリヌクレオチドもしくはその相補体に対して約80%の配列同一性、もしくはその代わり少なくとも85%、もしくはその代わり少なくとも90%、もしくはその代わり少なくとも95%、もしくはその代わり少なくとも98%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド、または、SEQ ID NO: 1をコードするポリヌクレオチドもしくはその相補体に対して中程度から高いストリンジェンシーの条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドに関する。また、SEQ ID NO: 1に対応するポリペプチド、SEQ ID NO: 1に対して少なくとも約80%の配列同一性を有する、もしくはその代わりSEQ ID NO: 1に対して少なくとも85%、もしくはその代わり少なくとも90%、もしくはその代わり少なくとも95%、もしくはその代わり少なくとも98%の配列同一性を有するポリペプチドまたは等価物をコードする単離および精製されたポリヌクレオチド、または、該ポリヌクレオチド、その等価物もしくはその相補体に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、およびこれらのポリヌクレオチドによりコードされる単離または精製されたポリペプチドが提供される。ポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、それらが天然では会合しない非天然の物質と、例えば、担体、薬学的に許容される担体、ベクター、およびMHC分子と、当技術分野で公知でありかつ本明細書に記載されるナノ粒子と、組み合わせることができる。
【0065】
ペプチド、糖質、脂質、または、本発明の古典的および非古典的MHC分子により提示される他の分子を含むがこれらに限定されない、抗原種由来のセグメント、断片および他の分子を含む、抗原は通常、MHC分子またはその誘導体と複合体化されているか、または該MHC分子またはその誘導体に機能的に結合されている。Tリンパ球による抗原認識は、主要組織適合複合体(MHC)拘束性である。所定のTリンパ球は、抗原が特定のMHC分子に結合している場合だけ該抗原を認識する。一般的に、Tリンパ球は自己MHC分子の存在下でのみ刺激され、かつ抗原は自己MHC分子に結合した該抗原の断片として認識される。MHC拘束性は、認識される抗原の観点から、およびその抗原断片に結合するMHC分子の観点から、Tリンパ球特異性を規定する。特定の局面では、特定の抗原は特定のMHC分子またはそれに由来するポリペプチドと対を形成する。
【0066】
本明細書中で用いる「機能的に結合した」または「コーティングされた」という用語とは、個々のポリペプチド(例えば、MHC)と抗原(例えば、ペプチド)成分が組み合わさって、標的部位で例えば免疫細胞を結合させる前に活性複合体を形成する状況を指す。これには、個々のポリペプチド複合体成分が、合成されるかまたは組換えで発現され、その後に単離されかつ組み合わされて、対象に投与する前にインビトロで複合体を形成する状況;キメラまたは融合ポリペプチド(すなわち、複合体の個別の各タンパク質成分が、単一のポリペプチド鎖に含まれている)が、完全な複合体として合成されるかまたは組換えで発現される状況が含まれる。一般的には、ポリペプチド複合体をナノ粒子に添加すると、ポリペプチド複合体が吸着または結合したナノ粒子が得られ、こうしたナノ粒子は、約0.1:1、0.5:1、1:1、3:1、5:1、7:1、10:1、15:1、20:1、25:1、30:1、35:1、40:1、50:1、100:1、125:1、150:1、175:1、200:1、225:1、250:1、275:1、300:1、325:1、350:1、375:1、400:1、425:1、450:1、475:1、500:1、600:1、700:1、800:1、900:1、1000:1、1500:1、もしくはそれ以上:1、少なくとも約0.1:1、0.5:1、1:1、3:1、5:1、7:1、10:1、15:1、20:1、25:1、30:1、35:1、40:1、50:1、100:1、125:1、150:1、175:1、200:1、225:1、250:1、275:1、300:1、325:1、350:1、375:1、400:1、425:1、450:1、475:1、500:1、600:1、700:1、800:1、900:1、1000:1、1500:1、もしくはそれ以上:1、または多くとも約0.1:1、0.5:1、1:1、3:1、5:1、7:1、10:1、15:1、20:1、25:1、30:1、35:1、40:1、50:1、100:1、125:1、150:1、175:1、200:1、225:1、250:1、275:1、300:1、325:1、350:1、375:1、400:1、425:1、450:1、475:1、500:1、600:1、700:1、800:1、900:1、1000:1、1500:1、もしくはそれ以上:1、より一般的には0.1:1、1:1から50:1または300:1の分子数:ナノ粒子数の比を有する。ナノ粒子のポリペプチド含有量は、標準的な技術を用いて測定することができる。
【0067】
B. MHC分子
細胞内抗原および細胞外抗原は、認識の観点と適切な応答の観点の両面から、免疫系に対してまったく異なるチャレンジを示す。T細胞への抗原の提示は、異なる抗原プロセシング経路を用いる、2つの別個のクラスの分子MHCクラスI(MHC-I)とMHCクラスII(MHC-II)(本明細書においては「pMHC」としても同定されている)によって媒介される。細胞内抗原に由来するペプチドは、ほぼすべての細胞に発現されているMHCクラスI分子によってCD8
+ T細胞に提示されるのに対し、細胞外抗原に由来するペプチドは、MHC-II分子によってCD4
+ T細胞に提示される。しかしながら、この二分法には一定の例外がある。いくつかの研究は、エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれた粒状または可溶性タンパク質から生成されたペプチドが、マクロファージのみならず樹状細胞でもMHC-I分子上に提示されることを示した。本発明の特定の態様では、特定の抗原は、同定されて、適切なMHCクラスIまたはIIポリペプチドの下で抗原-MHC-ナノ粒子複合体で提示される。特定の局面では、特定の患者および特定のペプチドセットのためにどのMHCポリペプチドが使用されるべきかを判定するために、対象の遺伝子構造が評価され得る。特定の態様では、MHCクラス1成分は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、HLA-G、またはCD-1分子の全部または一部を含む。MHC成分がMHCクラスII成分である態様では、MHCクラスII成分は、HLA-DR、HLA-DQ、またはHLA-DPの全部または一部を含むことができる。
【0068】
非古典的MHC分子もまた、本発明のMHC複合体での使用が意図される。非古典的MHC分子は、非多型であり、種間で保存され、かつ、狭くて深い疎水性のリガンド結合ポケットを保有する。これらの結合ポケットは、糖脂質とリン脂質をナチュラルキラーT(NKT)細胞にまたはQa1もしくはHLA-E拘束性CD8+ T細胞などのCD8+ T細胞の特定のサブセットに提示することができる。NKT細胞は、NK細胞マーカーと半不変なT細胞受容体(TCR)を共発現する特異なリンパ球集団を表す。それらは広範な疾患に関連した免疫応答の調節に関与している。
【0069】
C. 抗原成分
本発明の特定の局面は、抗原組成物に関しての方法および組成物を包含し、該抗原組成物には、一般に抗原と呼ばれる、ポリペプチド、ペプチド、核酸、糖質、脂質、および抗原応答を惹起または誘導する他の分子のセグメント、断片またはエピトープが含まれる。特に、自己免疫応答を介して細胞の破壊に導く、抗原決定基の抗原セグメントまたは抗原断片を同定して、本明細書に記載の抗原-MHC-ナノ粒子複合体を作製するのに使用することができる。本発明の態様は、体の細胞または組織において免疫応答を調節するための組成物および方法を包含する。
【0070】
本発明のポリペプチドおよびペプチドは、種々のアミノ酸の欠失、挿入、および/または置換によって修飾することができる。特定の態様では、修飾されたポリペプチドおよび/またはペプチドは、対象において免疫応答を調節することが可能である。いくつかの態様では、タンパク質またはペプチドの野生型バージョンが使用されるが、本発明の多くの態様では、修飾されたタンパク質またはポリペプチドが抗原-MHC-ナノ粒子複合体を生成するために使用される。抗原-MHC-ナノ粒子複合体は、抗炎症性免疫応答を生じさせるために、免疫系のT細胞集団を変更する(すなわち、免疫系を再教育する)ために、かつ/または、特定の組織に抗炎症性T細胞の動員および蓄積を促すために使用することができる。上記の用語は本明細書中では互換的に用いられる。「修飾(された)タンパク質」または「修飾(された)ポリペプチド」または「修飾(された)ペプチド」は、その化学構造、特にそのアミノ酸配列が野生型タンパク質またはポリペプチドに対して変更されている、タンパク質またはポリペプチドを指す。いくつかの態様では、修飾されたタンパク質またはポリペプチドまたはペプチドは、少なくとも1つの変更された活性または機能を有する(タンパク質またはポリペプチドまたはペプチドは複数の活性または機能を有し得るという認識)。特に、修飾されたタンパク質またはポリペプチドまたはペプチドは、1つの活性または機能に関して変更され得るが、他の点では野生型の活性または機能を保持し、例えばMHC-ナノ粒子複合体という状況における場合に免疫系の他の細胞と相互作用する能力または免疫原性を保有すると考えられる。
【0071】
本発明の抗原には、多発性硬化症に関連する抗原が含まれる。そのような抗原には、例えば、米国特許出願第2012-0077686号において開示されるもの、ならびに、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリン関連糖タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイトタンパク質、プロテオリピドタンパク質、オリゴデンドロサイトミエリンオリゴタンパク質、ミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質、オリゴデンドロサイト特異的タンパク質、熱ショックタンパク質、オリゴデンドロサイト特異的タンパク質であるNOGO A、糖タンパク質Po、末梢ミエリンタンパク質22、および2'3'-環状ヌクレオチド3'-ホスホジエステラーゼに由来する抗原が含まれる。特定の態様では、抗原は、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)に由来する。関連する態様では、抗原は、SEQ ID NO: 1の配列を含むペプチドに対して少なくとも80%の同一性を有するペプチド、あるいは、SEQ ID NO: 1の配列もしくはSEQ ID NO: 1の配列に対して少なくとも約80%の配列同一性を有する配列をコードするポリヌクレオチドまたはその相補体に対して中程度から高いストリンジェンシーの条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドに対応する。
【0072】
特定の態様では、タンパク質またはポリペプチド(野生型または修飾型)のサイズは、関心対象のタンパク質またはペプチドの複合体、特にMHC-ペプチド融合体を含めて、限定するものではないが、そこから導き出せる任意の範囲または値を含む、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、875、900、925、950、975、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1750、2000、2250、2500個、もしくはそれ以上のアミノ分子、またはその誘導体を含むことができる。特定の局面では、その誘導体を含む、5、6、7、8、9、10個、またはそれ以上連続したアミノ酸、および抗原の断片、例えば本明細書に開示され参照されるアミノ酸配列などが、抗原として使用され得る。ポリペプチドは、それらの対応する野生型形態よりそれらを短くするトランケーションによって変異させることができるが、それらはまた、(例えば、タンパク質複合体としての提示、免疫原性の増強などのために)特定の機能を有する異種タンパク質配列を融合または結合させることによって変化させることもできると考えられる。
【0073】
タンパク質性組成物は、(i)標準的な分子生物学的技術によるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの発現、(ii)天然源からのタンパク質性化合物の単離、または(iii)タンパク質性物質の化学合成を含めて、当業者に公知の任意の技術によって作製することができる。さまざまな遺伝子のヌクレオチド配列ならびにタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドの配列は、すでに開示されており、かつ認められているコンピュータ化データベース中に見いだすことができる。1つのそのようなデータベースは、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)のGenBankおよびGenPeptデータベース(World Wide Webのncbi.nlm.nih.gov/で入手可能)である。これらの遺伝子のコード領域の全部または一部は、本明細書に開示されたまたは当業者に公知の技術を用いて増幅および/または発現させることができる。
【0074】
これらの組成物の自己抗原エピトープおよび他のポリペプチドのアミノ酸配列変異体は、置換、挿入、または欠失変異体であり得る。本発明のポリペプチドの修飾は、野生型に比べて、ペプチドまたはポリペプチドの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276、277、278、279、280、281、282、283、284、285、286、287、288、289、290、291、292、293、294、295、296、297、298、299、300、301、302、303、304、305、306、307、308、309、310、311、312、313、314、315、316、317、318、319、320、321、322、323、324、325、326、327、328、329、330、331、332、333、334、335、336、337、338、339、340、341、342、343、344、345、346、347、348、349、350、351、352、353、354、355、356、357、358、359、360、361、362、363、364、365、366、367、368、369、370、371、372、373、374、375、376、377、378、379、380、381、382、383、384、385、386、387、388、389、390、391、392、393、394、395、396、397、398、399、400、401、402、403、404、405、406、407、408、409、410、411、412、413、414、415、416、417、418、419、420、421、422、423、424、425、426、427、428、429、430、431、432、433、434、435、436、437、438、439、440、441、442、443、444、445、446、447、448、449、450、451、452、453、454、455、456、457、458、459、460、461、462、463、464、465、466、467、468、469、470、471、472、473、474、475、476、477、478、479、480、481、482、483、484、485、486、487、488、489、490、491、492、493、494、495、496、497、498、499、500個、またはそれ以上の非連続的なまたは連続したアミノ酸に影響を与えることができる。
【0075】
欠失変異体は一般に、天然または野生型アミノ酸配列の1個またはそれ以上の残基を欠いている。個々の残基を欠失すること、またはいくつかの連続したアミノ酸を欠失することが可能である。停止コドンをコード核酸配列に(置換または挿入により)導入して、トランケート型タンパク質を作製することができる。挿入変異体は一般に、ポリペプチド内の非末端部に材料を付加することを含む。これには1個またはそれ以上の残基の挿入が含まれる。融合タンパク質と呼ばれる、末端付加物を作製することもできる。
【0076】
置換変異体は典型的には、タンパク質内の1つまたはそれ以上の部位における、あるアミノ酸と別のアミノ酸との交換を含み、これは、ポリペプチドの1つまたはそれ以上の特性を、他の機能または特性の喪失の有無にかかわらず、調節するように設計され得る。置換は保存的であってよく、すなわち、あるアミノ酸が形状および電荷の類似したアミノ酸と交換される。保存的置換は、当技術分野で周知であり、例えば、以下の交換が含まれる:アラニンからセリンへの;アルギニンからリシンへの;アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジンへの;アスパラギン酸からグルタミン酸への;システインからセリンへの;グルタミンからアスパラギンへの;グルタミン酸からアスパラギン酸への;グリシンからプロリンへの;ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミンへの;イソロイシンからロイシンまたはバリンへの;ロイシンからバリンまたはイソロイシンへの;リシンからアルギニンへの;メチオニンからロイシンまたはイソロイシンへの;フェニルアラニンからチロシン、ロイシンまたはメチオニンへの;セリンからトレオニンへの;トレオニンからセリンへの;トリプトファンからチロシンへの;チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニンへの;およびバリンからイソロイシンまたはロイシンへの交換。あるいは、置換は、非保存的であってもよく、この場合は、細胞受容体に対する結合活性または親和性などの、ポリペプチドまたはペプチドの機能もしくは活性が影響を受ける。非保存的交換は一般に、ある残基を化学的に非類似の残基で置換することを含み、例えば、極性または荷電アミノ酸を非極性または非荷電アミノ酸の代わりに用いるか、またはその逆を含む。
【0077】
本発明のタンパク質は、組換え体であってもよいか、またはインビトロで合成されてもよい。あるいは、組換えタンパク質は、細菌または他の宿主細胞から単離することができる。
【0078】
アミノ酸および核酸配列が、それぞれ、追加のN末端アミノ酸もしくはC末端アミノ酸、または5'もしくは3'核酸配列などの、追加の残基を含むことができ、それでもまだ、その配列が、生物学的タンパク質活性(例えば、免疫原性)の維持を含めて、上述した基準を満たす限り、本質的に本明細書に開示された配列の1つに示されたものであることも理解されると考えられる。末端配列の付加は特に核酸配列に適用され、例えば、核酸配列はそのコード領域の5'または3'部分のいずれかに隣接する種々の非コード配列を含むことができる。
【0079】
本発明の組成物には、1mlあたり約0.001mg〜約10mgの総タンパク質が存在すると企図される。したがって、組成物中のタンパク質の濃度は、約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、50、100μg/mlもしくはmg/ml、またはそれ以上(またはそこから導き出せる任意の範囲)、少なくとも約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、50、100μg/mlもしくはmg/ml、またはそれ以上(またはそこから導き出せる任意の範囲)、あるいは多くとも約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、50、100μg/mlもしくはmg/ml、またはそれ以上(またはそこから導き出せる任意の範囲)であり得る。このうち、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100%、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100%、または多くとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100%が抗原-MHC-ナノ粒子複合体であり得る。
【0080】
本発明は、MSおよび/またはMSに関連した炎症に対する治療を行うために、抗原-MHC-ナノ粒子複合体を投与することを意図している。
【0081】
さらに、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号(Hopp)は、親水性に基づいて一次アミノ酸配列からエピトープを同定して調製することを教示している。Hoppに開示された方法を通して、当業者は、アミノ酸配列内から潜在的なエピトープを同定して、それらの免疫原性を確認することができると考えられる。数多くの科学出版物もまた、アミノ酸配列の解析からの、二次構造の予測およびエピトープの同定を扱っている(Chou and Fasman, Adv. Enzymol., 47:45-148, 1978; 1979; Chous and Fasman, Annu, Rev. Biochem., 47:251-276, 1978, Chou and Fasman, Biochemistry, 13(2):211-222, 1974; Chau and Fasman, Biochemistry, 13(2):222-245, 1974, Chou and Fasman, Biophys. J., 26(3):385-399, 1979)。必要に応じてこれらのいずれかを用いて、米国特許第4,554,101号のHoppの教示を補完することができる。
【0082】
ペプチド以外の分子は、MHC分子と複合体を形成する抗原または抗原断片として使用することができるが、こうした分子として、限定するものではないが、糖質、脂質、小分子などが挙げられる。糖質はさまざまな細胞の外表面の主要な成分である。特定の糖質は異なる分化段階の特徴を示しており、これらの糖質は特異的な抗体によって認識されることが非常に多い。はっきりと区別できる糖質の発現は、特定の細胞タイプに限定され得る。
【0083】
D. 基材/ナノ粒子
特定の局面において、抗原/MHC複合体は基材に機能的に結合され、これは、共有結合によりまたは共有結合によらずに、該基材に結合され得る。基材は、生体適合性および/または生体吸収性の材料を任意で含むナノ粒子の形態であり得る。したがって、一態様では、ナノ粒子は生体適合性および/または生体吸収性である。基材はまた、その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2009/0155292号に以前に記載されたようなナノ粒子の形態をとることもでき、一局面では、これはリポソームではない。ナノ粒子はさまざまな寸法の構造をしていてよく、ナノスフェア、ナノ粒子、または生体適合性で生分解性のナノスフェアもしくは生体適合性で生分解性のナノ粒子として種々に知られている。そのような抗原/MHC複合体を含む粒子状製剤は、ナノ粒子への該複合体の共有結合または非共有結合によって形成することができる。
【0084】
ナノ粒子は、典型的には、実質的に球状のコアと、任意で1つまたはそれ以上の層とからなる。コアのサイズおよび組成は変化しうる。コアのほかに、ナノ粒子は、関心対象の用途に適した機能性を提供するために、1つまたはそれ以上の層があってもよい。層が存在する場合、その厚さは、特定の用途の必要性に応じて変化しうる。例えば、層は有用な光学的性質を付与することができる。
【0085】
層はまた、化学的または生物学的な機能性を付与することもでき、本明細書中では化学的活性層または生物学的活性層といい、これらの機能性のため、1つまたは複数の層は一般に、厚さが約0.001マイクロメートル(1ナノメートル)〜約10マイクロメートルまたはそれ以上の範囲であってよく(希望のナノ粒子径による)、これらの層は通常、ナノ粒子の外表面に適用される。
【0086】
コアと層の組成はさまざまでありうる。粒子またはコアに適する材料には、限定するものではないが、ポリマー、セラミック、ガラス、鉱物などが含まれる。例としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:標準および特殊ガラス、シリカ、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル系ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、フルオロポリマー、シリコン、金属(例えば、鉄、金、銀)、鉱物(例えば、ルビー)、ナノ粒子(例えば、金ナノ粒子、コロイド粒子、金属酸化物、金属硫化物、金属セレン化物、および酸化鉄などの磁性材料)、およびそれらの複合材料。コアは、均一な組成のものでもよいか、または希望する特性に応じて2種類もしくはそれ以上の材料の複合材料であってもよい。特定の局面では、金属ナノ粒子が用いられる。こうした金属粒子またはナノ粒子は、Au、Pt、Pd、Cu、Ag、Co、Fe、Ni、Mn、Sm、Nd、Pr、Gd、Ti、Zr、Si、およびIn、前駆体、それらの二元合金、それらの三元合金、ならびに金属間化合物から形成することができる。その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,712,997号を参照されたい。特定の態様において、コアと層の組成は、ナノ粒子が生体適合性および生体吸収性であるという条件で、変えることができる。コアは、均一な組成のものでもよいか、または希望する特性に応じて2種類またはそれ以上の材料の複合材料であってもよい。特定の局面では、金属ナノスフェアが使用される。これらの金属ナノ粒子はFe、Ca、Gaなどから形成することができる。特定の態様では、ナノ粒子は、金属または金属酸化物を含むコアを含む。
【0087】
先に述べたとおり、ナノ粒子は、コアのほかに、1つまたはそれ以上の層を含むことができる。ナノ粒子は、生分解性の糖または他のポリマーからなる層を含み得る。生分解性の層の例としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:デキストラン;ポリ(エチレングリコール);ポリ(エチレンオキシド);マンニトール;ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)に基づくポリ(エステル);PHB-PHVクラスのポリ(ヒドロキシアルカノエート);および他の改質ポリ(サッカライド)、例えばデンプン、セルロースおよびキトサン。さらに、ナノ粒子は、化学的結合または連結部位のための化学官能基を付着させるのに適した表面を備えた層を含むことができる。
【0088】
層は、当業者に公知のさまざまな方法で、ナノ粒子上に生成させることができる。例としては、Iler, Chemistry of Silica, John Wiley & Sons, 1979; Brinker and Scherer, Sol-gel Science, Academic Press, (1990)に記載されるようなゾル-ゲル化学技術が挙げられる。ナノ粒子上に層を生成させる追加のアプローチには、Partch and Brown, J. Adhesion, 67:259-276, 1998;Pekarek et al., Nature, 367:258, (1994);Hanprasopwattana, Langmuir, 12:3173-3179, (1996);Davies, Advanced Materials, 10:1264-1270, (1998);およびそこに引用された文献に記載されるような、表面化学およびカプセル化技術が含まれる。蒸着技術も使用可能であり;例えば、Golman and Shinohara, Trends Chem. Engin., 6:1-6, (2000);および米国特許第6,387,498号を参照されたい。さらに他のアプローチには、Sukhorukov et al., Polymers Adv. Tech., 9(10-11):759-767, (1998); Caruso et al., Macromolecules, 32(7):2317-2328, (1998); Caruso et al., J.Amer. Chem. Soc., 121(25):6039-6046, (1998);Caruso et al. (1998);Caruso et al.(1999);米国特許第6,103,379号およびそこに引用された文献に記載されるような、交互積層自己集合技術が含まれる。
【0089】
ナノ粒子は、抗原/MHC/共刺激分子複合体およびポリマーを含む水相と非水相とを接触させ、次いで非水相を蒸発させて水相から粒子を凝集させることによって、米国特許第4,589,330号または同第4,818,542号に教示されるとおりに、形成することができる。このような調製に好ましいポリマーは、天然もしくは合成のコポリマーまたはポリマーであり、以下からなる群より選択される:ゼラチン寒天、デンプン、アラビノガラクタン、アルブミン、コラーゲン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコリド-L(-)ラクチドポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(ε-カプロラクトン-CO-乳酸)、ポリ(ε-カプロラクトン-CO-グリコール酸)、ポリ(β-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリエチレン、ポリ(アルキル-2-シアノアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリアミド、ポリ(アミノ酸)、ポリ(2-ヒドロキシエチルDL-アスパルトアミド)、ポリ(エステルウレア)、ポリ(L-フェニルアラニン/エチレングリコール/1,6-ジイソシアナトヘキサン)、およびポリ(メチルメタクリレート)。特に好ましいポリマーは、ポリエステル、例えばポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコリド-L(-)ラクチドポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(ε-カプロラクトン-CO-乳酸)、およびポリ(ε-カプロラクトン-CO-グリコール酸)である。ポリマーを溶解するのに有用な溶媒としては、以下が挙げられる:水、ヘキサフルオロイソプロパノール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、ベンゼン、またはヘキサフルオロアセトンセスキ水和物。
【0090】
ナノ粒子のサイズは、約1 nm〜約1μmの範囲であることができる。特定の態様では、ナノ粒子は、直径が約1μm未満である。他の態様では、ナノ粒子は、直径が約500 nm未満、約400 nm未満、約300 nm未満、約200 nm未満、約100 nm未満、または50 nm未満である。さらなる態様では、ナノ粒子は、直径が、約1 nmから約10 nm、15 nm、20 nm、25 nm、30 nm、40nm、50 nm、75 nm、または100 nmまでである。特定の態様では、ナノ粒子は、約1 nm〜約100 nm、約1 nm〜約50 nm、約1 nm〜約20 nm、または約5 nm〜約20 nmである。
【0091】
複合体のサイズは、約5 nm〜約1μmの範囲であることができる。特定の態様では、複合体は、直径が約1μm未満、またはその代わり100 nm未満である。他の態様では、複合体は、直径が約500 nm未満、約400 nm未満、約300 nm未満、約200 nm未満、約100 nm未満、または約50 nm未満である。さらなる態様では、複合体は、約10 nm〜約50 nm、または約20 nm〜約75 nm、または約25 nm〜約60 nm、または約30 nm〜約60 nm、または一局面において約55 nmである。
【0092】
E. 抗原-MHC複合体とナノ粒子との結合
基材またはナノスフェアを抗原-MHC複合体に結合させるために、以下の手法を適用することができる。
【0093】
表面上での「官能基」の生成を典型的に伴う基材またはナノ粒子の化学修飾(ここで該官能基は抗原-MHC複合体に結合することができる)、および/または、基材もしくはナノ粒子の任意で化学修飾された表面と共有結合型もしくは非共有結合型のいわゆる「連結分子」との連結、ならびにその後の、得られたナノ粒子と抗原-MHC複合体との反応によって、該結合を生じさせることができる。
【0094】
「連結分子」という用語は、基材またはナノ粒子と連結することが可能であり、かつ、抗原-MHC複合体に連結することも可能である、物質を意味する。特定の態様では、抗原-MHC複合体は、リンカーによりナノ粒子に結合される。適切なリンカーの非限定的な例としては、ドーパミン(DPA)-ポリエチレングリコール(PEG)リンカー、例えば、DPA-PEG-NHSエステル、DPA-PEG-オルソピリジル-ジスルフィド(OPSS)および/またはDPA-PEG-アジドが挙げられる。他のリンカーとしては、ペプチドリンカー、エチレングリコール、ビオチン、およびストレプトアビジンが挙げられる。
【0095】
本明細書中で先に用いられている「官能基」という用語は、共有結合を形成する反応性化学基に限定されるものではなく、抗原-MHC複合体とのイオン相互作用または水素結合をもたらす化学基も含まれる。さらに、時として、表面の修飾がエチレングリコールなどの小さい連結分子とナノスフェア表面との反応を必要とするので、表面に生成された「官能基」と「官能基」を有する連結分子との間の厳密な区別は不可能であることに留意すべきである。
【0096】
官能基またはそれらを有する連結分子は、以下から選択することができる:アミノ基、カルボン酸基、チオール、チオエーテル、ジスルフィド、グアニジノ、ヒドロキシル基、アミン基、ビシナルジオール、アルデヒド、α-ハロアセチル基、水銀オルガニル、エステル基、酸ハロゲン化物、酸チオエステル、酸無水物、イソシアネート、イソチオシアネート、スルホン酸ハロゲン化物、イミドエステル、ジアゾアセテート、ジアゾニウム塩、1,2-ジケトン、ホスホン酸、リン酸エステル、スルホン酸、アゾリド、イミダゾール、インドール、N-マレイミド、α-β-不飽和カルボニル化合物、アリールハロゲナイド、またはそれらの誘導体。
【0097】
より高分子量の他の連結分子の非限定的な例は、核酸分子、ポリマー、コポリマー、重合可能なカップリング剤、シリカ、タンパク質、および基材またはナノ粒子に対して反対の極性を有する表面を有する鎖状分子である。核酸は、それ自体が核酸分子を含むが連結分子に対して相補的な配列を有する親和性分子に対して、連結を提供することができる。
【0098】
共有結合性リンカーの具体例としては、ポリ(エチレン)グリコール(PEG)が挙げられる。PEGリンカーは、チオール-PEG-NH
2リンカーであり得る。
【0099】
特定の態様では、本明細書に記載されるリンカーは、規定のサイズを有している。いくつかの態様では、リンカーは、約10kD未満、約5kD未満、約4.5kD未満、約4kD未満、約3.5kD未満、約3kD未満、約2.5kD未満、約2kD未満、または約1kD未満である。さらなる態様では、リンカーは、約0.5kDから約5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、または1kDまでである。さらに別の態様では、リンカーは約1kDから約4.5、4、3.5、3、2.5、2、または1.5kDまでである。
【0100】
重合可能なカップリング剤の例として、ジアセチレン、スチレンブタジエン、酢酸ビニル、アクリレート、アクリルアミド、ビニル化合物、スチレン、酸化シリコン、酸化ホウ素、酸化リン、ホウ酸系、ピロール、ポリピロールおよびリン酸系を挙げることができる。
【0101】
基材またはナノ粒子の表面は、例えば反応性官能基を有するホスホン酸誘導体の結合によって、化学的に修飾することができる。これらのホスホン酸またはホスホン酸エステル誘導体の一例は、「マンニッヒ-メドリツァー(Mannich-Moedritzer)」反応に従って合成することができるイミノ-ビス(メチレンホスホノ)炭酸である。この結合反応は、調製プロセスから直接得られた、または前処理(例えば臭化トリメチルシリルによる)後の、基材またはナノスフェアを用いて行うことができる。最初の場合では、ホスホン酸(エステル)誘導体が、例えば、表面にまだ結合している反応媒体の成分を置換することができる。この置換はより高い温度で促進される。一方、臭化トリメチルシリルは、アルキル基含有リン系錯化剤を脱アルキル化し、それによってホスホン酸(エステル)誘導体の新しい結合部位を生成すると考えられる。ホスホン酸(エステル)誘導体、またはそれに結合した連結分子は、上記と同じ官能基を表示することができる。基材またはナノスフェアの表面処理のさらなる例は、エチレングリコールなどのジオール中で加熱することを含む。なお、合成がすでにジオール中で進行した場合には、この処理は不要になり得ることに留意すべきである。これらの状況下で、直接得られた合成生成物は必要な官能基を示す可能性がある。この処理はしかし、N含有またはP含有錯化剤中で生成された基材またはナノ粒子に適用可能である。このような基材または粒子がエチレングリコールによる後処理を受ける場合には、表面にまだ結合している反応媒体の成分(例えば、錯化剤)をジオールで置換することができ、かつ/または脱アルキル化することができる。
【0102】
粒子表面にまだ結合しているN含有錯化剤を、第2官能基を有する一級アミン誘導体で置き換えることもまた可能である。基材またはナノ粒子の表面はまた、シリカでコーティングすることもできる。シリカは、トリエトキシシランまたはクロロシランなどの有機リンカーと容易に反応するので、有機分子の比較的単純な化学的結合を可能にする。ナノ粒子の表面はまた、ホモ-またはコポリマーでコーティングすることもできる。重合可能なカップリング剤の例は、N-(3-アミノプロピル)-3-メルカプトベンズアミジン、3-(トリメトキシシリル)プロピルヒドラジドおよび(3-トリメトキシシリル)プロピルマレイミドである。重合可能なカップリング剤の他の非限定的な例は、本明細書に記載される。これらのカップリング剤は、コーティングとして生成されるコポリマーのタイプに応じて、単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0103】
酸化物遷移金属化合物を含む基材またはナノ粒子とともに使用できる別の表面修飾技術は、塩素ガスまたは有機塩素化剤による酸化物遷移金属化合物の対応するオキシ塩化物への変換である。こうしたオキシ塩化物は、生体分子にしばしば見られるヒドロキシ基またはアミノ基などの求核試薬と反応することができる。この技術では、例えばリシン側鎖のアミノ基を介して、タンパク質との直接結合を生じさせることが可能である。オキシ塩化物で表面修飾した後でのタンパク質との結合はまた、マレイミドプロピオン酸ヒドラジドなどの二官能性リンカーを用いて行うこともできる。
【0104】
非共有結合型の連結技術に関しては、基材またはナノスフェアと反対の極性または電荷を有する鎖状分子が特に適している。非共有結合でコア/シェルナノスフェアに結合させることができる連結分子の例には、アニオン性、カチオン性もしくは両性イオン性界面活性剤、酸性もしくは塩基性タンパク質、ポリアミン、ポリアミド、ポリスルホン、またはポリカルボン酸が含まれる。基材またはナノスフェアと、反応性官能基を有する両親媒性試薬との間の疎水性相互作用は、必要な連結を生成させることができる。特に、相互に架橋することができる、リン脂質または誘導体化された多糖類などの、両親媒性の性質を有する鎖状分子が有用である。表面上へのこれらの分子の吸着はコインキュベーションによって達成され得る。親和性分子と基材またはナノ粒子の間の結合はまた、非共有結合型の自己組織化結合に基づくこともできる。その一例は、連結分子としてのビオチンを有する単純な検出プローブと、アビジン結合分子またはストレプトアビジン結合分子とを含む。
【0105】
生体分子への官能基のカップリング反応のためのプロトコールは、文献、例えば"Bioconjugate Techniques" (Greg T. Hermanson, Academic Press 1996)に見いだすことができる。生体分子(例えば、MHC分子またはその誘導体)は、酸化、ハロゲン化、アルキル化、アシル化、付加、置換またはアミド化などの有機化学の標準的手法に沿って、共有結合または非共有結合で連結分子に結合させることができる。共有結合または非共有結合した連結分子をカップリングするためのこれらの方法は、基材またはナノスフェアへの連結分子のカップリングの前に、またはその後で、適用することができる。さらに、対応して(例えば、臭化トリメチルシリルにより)前処理された基材またはナノスフェアへの分子の直接結合を行うことがインキュベーションによって可能であり、該基材または該ナノスフェアはこの前処理のため改質表面(例えば、より高い電荷または極性の表面)を示す。
【0106】
F. タンパク質生産
本発明では、本発明のさまざまな態様で使用するためのポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質が記載される。例えば、特定のペプチドおよびそれらの複合体は、免疫応答を誘発または調節するそれらの能力についてアッセイされる。特定の態様では、本発明のペプチドまたはタンパク質の全部もしくは一部はまた、従来の技術に従って、溶液中でまたは固相支持体上で合成することが可能である。種々の自動合成装置が市販されており、公知のプロトコールに従って使用することができる。例えば、各々が参照により本明細書に組み入れられる、Stewart and Young, Solid Phase Peptide Synthesis, 2
nd. Ed., Pierce Chemical Co.l, (1984); Tam et al., J. Am. Chem. Soc., 105:6442, (1983); Merrifield, Science, 232(4748):341-347, (1986); およびBarany and Merrifield, The Peptides, Gross and Meinhofer (Eds.), Academic Press, NY, 1-284, (1979)を参照されたい。あるいは、組換えDNA技術を用いることができ、この方法では、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列が発現ベクターに挿入され、適切な宿主細胞に形質転換またはトランスフェクションされ、かつ発現に適する条件下で培養される。
【0107】
本発明の一態様には、タンパク質の生産のために、微生物などの細胞への遺伝子導入を使用することが含まれる。関心対象のタンパク質の遺伝子が適切な宿主細胞内に導入され、その後適切な条件下で細胞が培養される。ほぼすべてのポリペプチドをコードする核酸を使用することができる。組換え発現ベクターの作製およびそこに含まれる要素は、当業者に公知であり、本明細書に簡潔に記載される。哺乳動物宿主細胞株の例としては、限定するものではないが、Vero細胞およびHeLa細胞、他のB細胞株およびT細胞株、例えばCEM、721.221、H9、Jurkat、Raji、ならびにチャイニーズハムスター卵巣の細胞株、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、3T3、RINおよびMDCK細胞が挙げられる。さらに、宿主細胞株は、挿入配列の発現を調節する細胞株、または所望の方法で遺伝子産物を修飾およびプロセシングする細胞株が選択され得る。そのようなタンパク質産物の修飾(例えば、グリコシル化)およびプロセシング(例えば、切断)はタンパク質の機能にとって重要である。異なる宿主細胞は、タンパク質の翻訳後プロセシングおよび修飾のための特徴的かつ特異的な機構を有する。適切な細胞株または宿主システムが、発現された外来タンパク質の正しい修飾とプロセシングを確実にするために選択され得る。
【0108】
多くの選択システムを使用することができ、限定するものではないが、それぞれtk-細胞中、hgprt-細胞中またはaprt-細胞中のHSVチミジンキナーゼ遺伝子、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子が挙げられる。また、トリメトプリムおよびメトトレキサートへの耐性を付与する、dhfrについて;ミコフェノール酸への耐性を付与する、gptについて;アミノグリコシドG418への耐性を付与する、neoについて;およびハイグロマイシンへの耐性を付与する、hygroについての選択の基礎として代謝拮抗物質耐性を用いることができる。
【0109】
G. 核酸
本発明は、例えばSEQ ID NO:1または2などの本発明のタンパク質、ポリペプチド、ペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドを含むことができる。
【0110】
特定の態様において、本発明は、自己抗原および/またはMHC分子をコードする核酸配列を組み入れている単離された核酸セグメントおよび組換えベクターに関する。「組換え」という用語は、ポリペプチドまたは特定のポリペプチドの名称と組み合わせて用いられ、これは一般的に、インビトロで操作された核酸分子、またはそのような分子の複製物である核酸分子から生成されたポリペプチドを指す。
【0111】
本発明で使用される核酸セグメントは、それらの全長が大幅に変化しうるように、コード配列自体の長さにかかわらず、他の核酸配列、例えばプロモーター、ポリアデニル化シグナル、追加の制限酵素部位、多重クローニング部位、他のコードセグメントなどと組み合わせることができる。したがって、ほぼすべての長さの核酸断片を使用することができると考えられるが、好ましくは、その全長は意図した組換え核酸プロトコールにおける調製および使用の容易さによって制限される。いくつかの場合では、核酸配列は、例えば、ポリペプチドの精製、輸送、分泌、翻訳後修飾を可能にするために、または標的化もしくは効能といった治療上の有用性のために、追加の異種コード配列とともにポリペプチド配列をコードし得る。タグまたは他の異種ポリペプチドは、修飾ポリペプチドをコードする配列に付加することができ、ここで「異種」とは、修飾ポリペプチドと同じでないポリペプチドを指す。
【0112】
IV. 薬学的組成物および投与
本明細書において、疾患の治療のために有用である薬学的組成物を提供する。
【0113】
A. 薬学的組成物
抗原-MHCナノ粒子複合体を単独で、または担体、例えば、組成物中の薬学的に許容される担体と組み合わせて、投与することができる。本発明の組成物は通常、例えば、静脈、皮下、または筋肉内に、注射によって非経口的に投与されることができる。他の投与様式に適する追加の製剤としては、経口製剤が挙げられる。経口製剤は、例えば、医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの、通常用いられる賦形剤を含む。こうした組成物は、液剤、懸濁液剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤または粉剤の形をとり、約10%〜約95%の活性成分、好ましくは約25%〜約70%を含有する。対象の免疫状態を調整する抗原-MHC-ナノ粒子複合体を含有する水性組成物の調製は、本開示を踏まえて、当業者には公知である。特定の態様では、組成物は吸入されることが可能である(例えば、米国特許第6,651,655号参照;その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。一態様では、抗原-MHC-ナノ粒子複合体を全身投与する。
【0114】
典型的には、本発明の組成物は、剤形に適合する様式で、かつ治療に有効でありかつ免疫を調整するような量で、投与される。投与すべき量は治療される対象に依存する。投与を必要とする活性成分の正確な量は、医師の判断によって決まる。しかし、適切な投与量範囲は、1回の投与あたり抗原-MHC-ナノ粒子複合体 10〜数百ナノグラムまたはマイクログラム程度である。また、初回投与およびブースターのための適切な投与計画はまた変えられるが、初回投与とこれに続く後続の投与によって代表される。
【0115】
多くの場合、ペプチド-MHC-ナノ粒子複合体は、約3、4、5、6、7、8、9、10回、もしくはそれ以上、多くとも約3、4、5、6、7、8、9、10回、もしくはそれ以上、または少なくとも約3、4、5、6、7、8、9、10回、もしくはそれ以上、複数回投与することが望ましい。投与は一般的に2日〜12週間隔、より一般的には1週〜2週間隔の範囲である。免疫系のコンディションを維持するために、0.5〜5年、通常は2年の間隔での定期的なブースターが望ましい場合がある。投与の経過は、炎症性免疫応答および/または自己調節性T細胞活性のためのアッセイ法により追跡することができる。
【0116】
いくつかの態様において、薬学的組成物は対象に投与される。本発明の別の局面は、抗原-MHC-ナノ粒子複合体組成物の有効量を対象に投与することを含む。さらに、該組成物は、免疫系の調整剤と組み合わせて投与することができる。該組成物は一般に、薬学的に許容される担体または水性媒体中に溶解または分散される。
【0117】
「薬学的に許容される」または「薬理学に許容される」という用語とは、動物またはヒトに投与した場合、有害反応、アレルギー反応、またはその他の都合の悪い反応を引き起こさない分子実体および組成物を指す。本明細書中で用いる「薬学的に許容される担体」には、ありとあらゆる溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤と抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒体および作用物質の使用は、当技術分野で周知である。慣用の媒体または作用物質が活性成分と適合しない場合を除いて、免疫原性組成物および治療用組成物におけるその使用が企図される。
【0118】
注射用に適した薬学的形態には、無菌の水性液剤または分散液剤;ゴマ油、落花生油、または水性プロピレングリコールを含む製剤;および無菌の注射用溶液または分散液の即時調製のための無菌粉末剤が含まれる。すべての場合に、該形態は無菌でなければならず、しかも容易に注射できる程度に流動性でなければならない。それはまた、製造および貯蔵の条件下で安定しているべきであり、かつ細菌および真菌などの微生物の汚染活動から保護されなければならない。
【0119】
組成物は中性または塩の形態に製剤化することができる。薬学的に許容される塩には、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基により形成される)が含まれ、それらは塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸により形成される。また、遊離カルボキシル基により形成される塩は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することができる。
【0120】
担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリ(エチレングリコール)など)、それらの適切な混合物、および植物油を含む、溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持によって、または界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物活動の防止は、各種の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされる。多くの場合、等張剤、例えば糖類または塩化ナトリウムを含めることが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、その組成物中で、吸収を遅らせる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを使用することによってもたらされる。
【0121】
無菌の注射液剤は、必要な量の活性化合物を、必要に応じて、上に列挙したさまざまな他の成分とともに、適切な溶媒中に加え、その後滅菌する、ことによって調製される。溶液の滅菌は、抗原-MHC-ナノ粒子複合体の治療的特性を弱めないようにして行われ得る。一般的に、分散液剤は、滅菌した各種活性成分を、基礎分散媒と、上に列挙したものから必要とされる他の成分とを含有する無菌ビヒクルに加えることによって、調製される。無菌の注射液剤を調製するための無菌粉剤の場合、好ましい調製方法は真空乾燥および凍結乾燥技術であり、こうした技術は、予め滅菌された溶液から、活性成分と任意の追加的な所望成分との粉末をもたらす。溶液の滅菌のそのような一方法は滅菌濾過であるが、本発明は、抗原-MHC-ナノ粒子複合体の治療的特性を大幅に低下させない、あらゆる滅菌方法を包含するものとする。オートクレーブ滅菌のような、激しい熱と圧力を必要とする滅菌方法は該複合体の三次構造に支障をきたすことがあり、したがって、抗原-MHC-ナノ粒子複合体の治療的特性を有意に低下させる可能性がある。
【0122】
治療用組成物の有効量は、意図した目標に基づいて決定される。「単位用量」または「投与量」という用語は、対象に使用するのに適した物理的に個別の単位を指し、各単位は、その投与、すなわち、適切な投与経路および投与計画に付随して上記の所望の応答を生じるように計算された、該組成物の予め定められた量を含有する。治療数と単位用量の両方に応じて、投与される量は、求められる結果および/または保護に左右される。本組成物の正確な量はまた、医師の判断に左右され、かつ各個体に特有である。用量に影響を与える要因としては、対象の身体的および臨床的状態、投与経路、治療の意図した目標(症状の緩和対治癒)、ならびに特定の組成物の効果、安定性および毒性が挙げられる。処方に関して、液剤は、その剤形に適合した様式でかつ治療または予防に有効であるような量で投与される。製剤は、上記のタイプの注射液剤などの、さまざまな剤形で容易に投与される。
【0123】
B. 併用療法
本発明の組成物および関連する方法、特に、抗原-MHC-ナノ粒子複合体の投与はまた、従来の治療の投与と組み合わせて使用することができる。これらには、Avonex(インターフェロンβ-1a)、Betaseron(インターフェロンβ-1b)、Copaxone(グラチラマー酢酸塩)、Novantrone(ミトキサントロン)、Rebif(インターフェロンβ-1a)、Tysabri(ナタリズマブ)、Gilenya(フィンゴリモド)、グラチラマー、ステロイド、シトキサン、イムラン、バクロフェン、脳深部刺激療法、Ampyra(ダルファムプリジン)、刺鍼術、および理学療法が含まれるが、これらに限定されない。
【0124】
併用療法を用いる場合、例えば、抗原-MHC-ナノ粒子複合体の投与を「A」とし、追加の作用物質を「B」とすると、さまざまな組み合わせを用いることができる。
【0125】
患者/対象への本発明のペプチド-MHC複合体組成物の投与は、もしあれば、毒性を考慮に入れて、このような化合物を投与するための一般的なプロトコールに従うことになる。治療サイクルは必要に応じて繰り返されることが期待される。また、水分補給などの、さまざまな標準治療法を、上記の治療法と組み合わせて適用することも考えられる。
【0126】
C. インビトロ投与またはエクスビボ投与
本明細書中で用いるインビトロ投与という用語とは、対象から取り出された細胞、または培養下の細胞を含むがこれに限定されない、対象の外部に取り出された細胞に対して実施される操作を指す。エクスビボ投与という用語とは、インビトロで操作されて、その後対象に投与される細胞を指す。インビボ投与という用語には、投与を含めて、対象の内部に実施されたすべての操作が含まれる。
【0127】
本発明の特定の局面では、本組成物をインビトロ、エクスビボ、またはインビボのいずれかで投与することができる。特定のインビトロ態様では、自己T細胞が本発明の組成物とともにインキュベートされる。次いで、細胞または組織は、インビトロ分析のためにまたはエクスビボ投与のために使用される。
【実施例】
【0128】
V. 実施例
以下の実施例は、本発明のさまざまな態様を説明する目的で提供され、どのような形であっても本発明を限定するものではない。当業者であれば、本発明は、その目的を成し遂げて、記載した結果および効果を得るだけでなく、本発明に固有の目的、結果および効果を得るのによく適合していることが容易に理解されよう。本明細書に記載の方法とともに本実施例は、ここで態様を代表しており、例示的であり、本発明の範囲への限定を目的としたものではない。特許請求の範囲によって定義される本発明の精神の範囲内に包含されるそれらの変更および他の使用が、当業者には想起されると考えられる。
【0129】
実施例1
慢性EAE自己免疫疾患モデルにおけるpMHCクラスII-NP
本実施例は、EAEマウスモデルにおいてEAEを治療するための、MS関連抗原-MHC複合体でコーティングされたナノ粒子の使用を記載する。この新規の治療アプローチは、単一のMSに関連したペプチドMHC複合体(pMHC)(すなわち疾患1種類あたり1種類のpMHC複合体)でコーティングされたナノ粒子の全身送達のために使用することができる。この発見は、これらの障害の治療において長く求められている目標である、全身性免疫を損なうことなく自己免疫を鈍らせることができる疾患特異的な「ナノワクチン」の合理的な設計を可能にする。
図1は、単一特異性のMSに関連したpMHCクラスIIコーティングナノワクチンが、両方のC57BL/6マウスにおいて確立された実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)を回復できることを示す。このアプローチはまた、MS患者において自己反応性CD4+ T細胞により標的とされることが公知であるヒトpMHC複合体にも適用可能である。これらの前臨床モデルにおける臨床的有効性の実証が、ヒトにおける臨床試験、および潜在的にはMSの治療法の開発のための道を開くであろう。
【0130】
EAEは、脳炎誘発性細胞のCNSへの動員を可能にする血液脳関門の崩壊とともに、自己反応性CD4+細胞の生成を必要とする。C57BL/6(B6)マウスを、300 ngの百日咳毒素の腹腔内注射と同時に、10μg/ml結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を添加したCFA中のpMOG
36-55(200μg)の皮下注射(尾の基部)で免疫した後、2日目にもう1用量の百日咳毒素を投与して、発病する動物(本発明者らのコロニーでは約70%)のすべてにおいて慢性EAEの形態を誘導する(>60日)。
【0131】
図1に示されるように、pMHCクラスII-NP療法(pMOG
38-49/IA
bコーティングNP)は、C57BL/6マウスにおいて確立されたEAEの重症度を軽減する。B6マウスを、CFA中のpMOG
35-55で免疫し、百日咳毒素の静脈内注射で処置した。15段階評価にわたる確立された基準を用いて、EAEの兆候についてマウスを採点した。罹患したマウスを、免疫化の21日後から始まる、毎週2回の7.5〜22.5μgの用量のpMOG
38-49コーティングNPで処置した。重要なことに、この効果は、同起源自己反応性T細胞の全身性増殖と関連している(
図4)。さらに、未処置マウスの脊髄は、有意な脱髄および白質の高密度の単核細胞浸潤物を有していた(
図5)が、pMHC-NPで処置したマウスは、有意により少ない脱髄および単核細胞浸潤物を有していた(
図6)。
図7および
図8は、骨髄辺縁についての代表的な例を示す(各々2匹のマウス)。ここでもまた、pMHC-NPで処置したマウスは、有意により少ない脱髄およびより低い単核細胞浸潤を有している。したがって、pMHC-NPの治療アプローチは、異なる疾患(T1D、EAE)、動物モデルおよび遺伝的背景(NOD、C57BL/6)において、臨床的に有意な応答を誘導する。
【0132】
これらの研究は、MS抗原-MHC-ナノ粒子複合体を用いたMSの治療の、用量依存的な有効性および実現性の証拠を提供する。
【0133】
実施例2
抗原-MHC-ナノ粒子複合体の作製のための方法
所望のサイズの無機ナノ粒子(酸化鉄=IONP;金=GNP)。IONPは熱分解によって作製される。そのように合成されたIONPは、生体適合性であり、タンパク質結合のためにPEG化することができる。IONP上にpMHCおよび/または他のタンパク質をコーティングするには、界面活性剤をコーティングしたNPを、適切な長さの官能化PEGリンカーと反応させる。リンカーは、HPLCで精製して、化学的同一性、純度、分子量、および多分散性を確認するために、
1H-NMR、MALDI/GPC、およびGPCによって特徴決定する。同様のリンカーおよびアプローチを用いてGNPをコーティングすることができるが、ただし、該リンカーはそのNP結合端にチオール(SH)基を有するものである。
【0134】
実施例3
pMHCコーティングされたナノ粒子のサイズ、密度、および曝露
I. 金ベースのpMHCでコーティングされたNPの合成および特徴決定
特定のサイズの金ナノ粒子(GNP)を合成した。GNP調製物のサイズ、密度、表面電荷および単分散性は、分光光度計、透過型電子顕微鏡(TEM)、および動的光散乱を用いて測定する。次にGNP試料を濃縮し、以下で説明するように異なるアプローチを用いて単一特異性pMHC複合体と結合させる。本出願人らは、GNP1個あたりのpMHC結合価を定量するための方法、および単分散性を損なうことなく高い密度(約10
14個/ml)で異なるサイズのpMHCコーティングGNP調製物を濃縮するための方法を開発した(
図11)。
【0135】
II. GNPのpMHC結合能の特徴決定
pMHC複合体は、2つの異なるアプローチを用いてさまざまなサイズのGNPにコーティングした:(i)静電相互作用によるGNP表面へのpMHCのランダム結合;および(ii)チオール-PEG-NH
2リンカーを介する方向性結合(この場合は、GNP安定剤として追加のチオール-PEGリンカーを用いて凝集を防止した)。第1のアプローチは、(GNP1個あたりのpMHCの)非常に高いリガンド密度を可能にするが、pMHC結合の方向性を損なうと考えられた(すなわち、分子のほんの一部だけが、同起源Tリンパ球による認識に利用可能であるようになる可能性がある)。第2のアプローチは、より低い密度のpMHCを保持するがそのC末端を介して指向的に結合された、pMHCコーティングGNPを生成することを目的としていた。両方のアプローチは、14〜40nmの範囲のさまざまな直径のGNPで試験された。両アプローチとも、GNPのpMHC結合能は、サイズの関数、より具体的には表面積の関数であることが確認された(より大きなNP上にはより多くのpMHC数)。驚くべきことに、PEGが介在する結合は、結合の方向性を保証するだけでなく、(当初の予想に反して)個々のGNPの結合能を向上させることが見出された。以下の表1は、そのデータをまとめたものである。
【0136】
(表1)GNPのpMHC結合能
【0137】
III. アゴニスト活性対pMHC含有量
インビトロでpMHCコーティングGNPの機能(アゴニスト)活性に対する、pMHC結合価、GNPサイズ、GNP密度、およびコーティング戦略の影響を試験した。T細胞受容体(TCR)トランスジェニックNODマウス(または8.3-NODマウス)に由来する同起源(IGRP
206-214特異的)ナイーブCD8+ T細胞(本明細書では「8.3-CD8+ T細胞」と呼ばれる)を活性化する各種IGRP
206-214-K
d-GNP調製物の能力を比較した。第1セットの実験は、培養物中の広範なGNP密度にわたってIGRP
206-214-K
d(pMHC)結合価の影響を比較することを目的とした。対照(非同起源)pMHC複合体(Tum-K
d)と結合したGNPを陰性対照として使用した。予想通りに、IGRP
206-214-K
dコーティングされたGNPは(IFNγ産生により測定した場合)これらのT細胞を活性化し、それらはGNP用量(それゆえにpMHC用量)に依存した様式でそのように活性化した(しかし、TUM-K
dコーティングされたGNPはそうでなかった)。
図12は、リンカー法を用いてGNP1個あたり異なる数のpMHC分子でコーティングされた約14nmのGNPを使用する実験を示している。
図12では、2つの異なるpMHC-GNP試料(両方とも約2×10
13個/mlの直径14nmのGNPからなる)に応答して同起源8.3-CD8+ T細胞により分泌されたIFNγの量を比較している。Au-022410およびAu-21910は、それぞれ、約250および約120個pMHC/GNPを保持していた。Au-011810-Cは、約120個対照pMHC/GNPを保持していた。約2倍多い数のpMHC複合体/GNPでコーティングされたGNPは優れたアゴニスト活性を有していた。かくして、pMHCコーティングGNPのアゴニスト活性は、全pMHC(GNP)含有量の関数である。これらの結果は反直感的な結果であった。というのは、最新の技術は、NP上の共刺激分子の非存在下で、各NP上のpMHCの数を増加させることは、同起源T細胞の増殖およびサイトカイン分泌よりもむしろ、結合活性を増加させて、消失(細胞死)を促進し得ることを示唆すると考えられるからである。このことは、低結合活性と高結合活性の両方のT細胞に当てはまると考えられる。例えば、本出願人らによる以前の研究(Han et al., (2005) Nature Medicine 11(6):645-652)などは、高結合活性で認識されるペプチド、または低結合活性で認識されるが高濃度を与えられたペプチドがインビボで同起源T細胞を消失させる能力を増大させていることを示した。したがって、抗原-MHCコーティングされたナノ粒子または可溶性ペプチドの静脈内への治療的送達の状況において、同起源T細胞は、ペプチド親和性および用量に依存した様式で消失するはずである。この予想は、
図12に示したデータによって満たされなかった。
【0138】
IV. ペプチド-MHC-ナノ粒子複合体のアゴニスト活性における結合価閾値
pMHC結合ナノ粒子(pMHC-NP)のアゴニスト活性に対するペプチド-MHC(pMHC)結合価の役割をさらに検討するために、インビトロで同起源(IGRP
206-214/K
d特異的)CD8+ T細胞(本明細書では8.3-CD8+ T細胞と呼ばれる)によるIFNガンマ(IFNγ)の分泌を引き起こすための、IGRP
206-214/K
d pMHC単量体の増加する数を共有結合させた直径8nmの酸化鉄(Fe
3O
4)NPの能力を比較した。表2に示すように、8.3-CD8+ T細胞は、NP1個あたり8個のpMHC単量体でコーティングされたNPの存在下で培養した場合、無視できる量のIFNγを産生したにすぎなかったが、より高いpMHC結合価でコーティングされたNPに応答して、たとえ11個pMHC単量体/NPほどの低い結合価でも、用量応答的に、実質的により多量のIFNγを産生した。
【0139】
(表2)pMHC結合価の増加を伴う結合されたNP(5×10
11個/mLのNP)に応答した、8.3-CD8+ T細胞によるIFNγの分泌
【0140】
pMHC-NPのアゴニスト活性に対するpMHC結合価のこの正の効果は、広範なpMHC-NP密度にわたって維持された(
図13)。しかし、驚いたことに、11個pMHC/NPを保持する25×10
11個(1mlあたり)のNPは、54個pMHC/NPを保持する5×10
11個(1mlあたり)のNPと同様のアゴニスト活性を有していたが、8個pMHC/NPを保持するNPの数を40×10
11個のNP/mlほどの高い値に増加させても最小の効果しかなかった(
図14)。まとめると、これらの結果は、NP数の比較的大きな増加(すなわち5倍)が低結合価でコーティングされたpMHC-NPの低いアゴニスト活性に打ち勝つことのできない、pMHC結合価の閾値が存在し、9および11個pMHC/NPの間にあることを示している(これらのインビトロ実験での>50×10
11個のNPの使用は、高いNP密度に起因する細胞毒性のために有益ではない点に留意されたい)。
【0141】
このpMHC結合価の閾値効果は
図15にさらに示されており、そこでは、IFNγ分泌データがコーティングされたNPによって培養物中に送達された全pMHCの濃度に正規化されている。11個pMHC/NPを保持するNPは、8個pMHC/NPを保持するNPによって誘発されるよりも、広範なpMHC濃度にわたって有意に高いIFNγ応答を誘発した。さらに、これら2つのNP調製物のアゴニスト特性における相違は、実質的に全pMHC含有量とともに増大した。すなわち、8量体対11量体(monodecamer)としてNPにより送達された2.4μg/mlのpMHCのアゴニスト特性の相違は、全pMHCの10倍低い濃度での同処方物のアゴニスト特性の相違よりも、はるかに大きかった。
【0142】
図16は、pMHC-NPのアゴニスト特性に対するpMHC結合価の甚大な効果が、(培養物中の総酸化鉄含有量を正規化するために)より低いNP密度で用いられた(
図13〜15で試験した8nm NPよりもかなり高いpMHC結合価を受け入れることができる)より大きなNPを使用する場合にも見られることを示している。<10個pMHC/NPを保持する直径18nmのNPは4×10
11個のNP/mlまで生物学的活性がほとんどなかったのに対して、より高いpMHC結合価を保持する直径18nmのNPのアゴニスト活性はNP密度とともに直線的に増加した。
図15および16の比較はさらに、61個pMHC/NPを送達する2×10
11個の18nm NPが、同様の数(54個)のpMHC/NPを送達する2×10
11個の8nm NPに類似したアゴニスト活性を有することを示しており、pMHC結合価の効果はNP体積によって大きく影響されないことが示される。
【0143】
まとめると、これらのデータは、pMHCコーティングされたNPが、特定のpMHC結合価閾値(9および11個pMHC/NPの間にある)を上回る強力なアゴニスト活性を獲得することを実証している。pMHC結合価またはNP密度のどちらかの増加は、「閾値」または「閾値上」のpMHC結合価を保持するpMHC-NPのアゴニスト特性を増強することができるが、「閾値下」のpMHC結合価を保持するNPのアゴニスト特性を増強することはできない。
【0144】
V. アゴニスト活性対NPサイズおよび密度
さらなる解析は、全pMHC含有量がインビトロでpMHC-NPのアゴニスト活性に影響を与える唯一の要因ではないこと、およびNPのサイズもまた重要な独立した役割を果たしていることを示した。これを検討するにあたって、異なるサイズ(それぞれ、直径14および40nm)および異なるpMHC結合価であるが、同様の全pMHC含有量の条件下にある、2つのpMHC-GNP試料のアゴニスト活性を比較した。
図17に示した実験では、約200個pMHC分子/GNPを保持する14nm GNP、および約5,000個pMHC/GNPを保持する40nm GNPを使用した。これら2つの試料のGNP密度は、各試料の全pMHC含有量が約450μg/mlとなるように(それぞれ、3×10
13および10
12個のGNP/mLに)調整した。注目すべきことに、8.3-CD8+ T細胞は、広範な全pMHC含有量にわたって、40nmのものに対してよりも14nmのpMHC/GNP化合物に対して、前者が後者よりもはるかに多くのpMHC複合体で装飾されていたという事実にもかかわらず、かなり良好に応答した。このことは、GNP密度(より多くのGNP/同起源T細胞)が鍵となることを示唆した。つまり、4×の1000個pMHC/GNP(4000個pMHC)を保持する40nm NPは、40×の100個pMHC/GNP(4000個pMHC)を保持する10nm NPほど望ましくないと考えられる。したがって、総合すると、これらのデータは、最適なpMHC-GNP調製物は高いpMHC密度で使用される小さなGNPで構成されたものであることを示唆している。これらの小さいNP上のpMHC結合価数の増加は、それらの驚くべき予想外のアゴニスト特性をさらに増大させる。
【0145】
VI. アゴニスト活性対pMHC曝露
上述したように、pMHCコーティングされたGNP試料は、(pMHCカルボキシ末端のアクセプターとしての)3.4kDのチオール-PEG-NH
2リンカーを有するGNPを、GNP安定剤として機能するチオール-PEGリンカーで同時コーティングすることによって作製される。安定化用のチオール-PEGリンカーの長さがそのGNP抗凝集特性に影響を与えるかどうかを調べるために、pMHC分子を結合させるチオール-PEG-NH
2リンカーの能力、ならびに/またはpMHCコーティングGNP、異なるサイズ(2kDおよび5kD、それぞれpMHC-アクセプターリンカーよりも短いサイズと長いサイズ)の安定化用リンカーを用いて調製したpMHCコーティングGNPのアゴニスト特性を比較した。両方のリンカーは同様の抗凝集特性を有すること、および5kDのリンカーはより短い3.4kDのチオール-PEG-NH
2リンカーへのpMHCの結合を妨げなかったことが判明した。しかし、注目すべきことに、短い(2kD)チオール-PEGで保護されたpMHC-GNPは、長い(5kD)チオール-PEGで同時コーティングされたものよりもインビトロで優れたアゴニスト活性を有していた(
図18)。このことは、保護用の長いチオール-PEGリンカーがアクセプターリンカーに結合されたpMHC分子を同起源T細胞への曝露から遮蔽することを示唆している。
【0146】
VII. 高密度のpMHCに共有結合された小さいNPはインビボで最大の自己調節性T細胞増殖効果を与える
NRP-V7/K
d(IGRP
206-214-K
dとも呼ばれる)またはTUM/K
d(対照)のいずれかに結合された、平均径約10nmのナノ粒子を、本明細書に記載の方法に従って作製し、インビボで同起源自己調節性CD8+ T細胞の増殖を誘導するそれらの能力について試験した。
図19は、抗原-MHC-GNPを10週齢の野生型NODマウスに週2回、5週間連続して静脈内注射した実験の結果を示す。治療に応答する循環中のおよび異なるリンパ系組織中の同起源T細胞集団のサイズの変化は、蛍光標識した抗原-MHC四量体を(同起源はもちろん関連のない対照四量体も)用いて細胞懸濁液を染色することによって評価した。以前に当技術分野で示されていたもの(例えば、1〜8個pMHCでコーティングされたナノ粒子が試験された、Tsai et al. (2010) Immunity 32(4):568-580を参照)よりも10〜100個少ないが、GNP1個あたり150個の抗原-MHCでコーティングされた、GNPの投与は、実質的により高い増殖をもたらした(
図19)。それらは、結合価 約8のpMHCでコーティングされたナノ粒子により一般的に得られるレベル(血液中の1〜2%の細胞;例えば、Tsai et al., Immunity, 2010、
図1C参照)よりも数倍高いレベル(すべての循環CD8+ T細胞の最大44%)にCD8+ T細胞をインビボで増殖させた。上記のデータは、高い抗原-MHC結合価でコーティングされた小さなナノ粒子が最大のT細胞増殖効果を提供することを示している。これらの結果は予想外であった。したがって、それは、治療効果に関与しているpMHC-NP-T細胞相互作用の全体的な結合活性ではなく、むしろpMHC-NP療法に応答して増殖するT細胞を生じさせる前駆体集団の結合活性である。この解釈は、本明細書に記載したデータと一致しており、NP上のpMHCの結合価数がpMHC-NPの治療効果を増大させるべきであることを暗示している。
【0147】
実施例4
より高いpMHC結合価でコーティングされたpMHC-GNPによる同起源CD8+T細胞の大規模増殖
次に、pMHC-NPがインビボで同起源T細胞の大量増殖を誘導する可能性があるかどうかを確認した。これは、25μgの全pMHC(NP1個あたり約150個のIGRP
206-214/Kd分子)を保持する3×10
12個の10〜14nm NPの数回の注射でマウスを処理することによって行った。
図20に示したとおり、10回の注射(週2回で10週間)で処理されたマウスは、未処理の対応マウスに比べて、末梢血における同起源IGRP
206-214(NRP-V7)反応性CD8+T細胞の大量増殖を示した(<0.4〜>17%または47%のCD8+T細胞)(下のパネル)。このような増殖は4回のpMHC-NP注射後に屠殺したマウスですでに見られた(上のパネル)。pMHC-NPで増殖された細胞は、同起源pMHC四量体を特異的に結合させたが、非同起源pMHC四量体を結合させなかった(それぞれNRP-V7/K
d対TUM/K
d)。
【0148】
実施例5
pMHC結合金ナノ粒子の調製
pMHCを結合させた金ナノ粒子(pMHC-GNP、12および30nm)の調製。GNPの調製。ボールフラスコ内のダブル蒸留(D.D.)水(200mL)をシリコンオイルバスで沸騰するまで加熱することによって、GNPを調製した。次に、1% HAuCl
4の溶液(4mL)を沸騰水に加えた。その溶液を10分攪拌してから、1%クエン酸Na溶液を添加した。12nmのGNPの場合は、12mLのクエン酸Na溶液を添加した。30nmのGNPの場合は、12mLのクエン酸Na溶液を添加した。クエン酸Na溶液を添加した直後にワイン色が現れる。この反応を完了させるために、GNP溶液をさらに30分攪拌した。これは、Levy, R.ら("Rational and combinatorial design of peptide capping ligands for gold nanoparticles." J Am Chem Soc 126, 10076-84 (2004))に記載される方法を改良したものであり、この文献を参照により本明細書に組み入れる。
【0149】
GNPの表面修飾。GNP溶液に25mMのチオール-PEG-NH
2 (M.W. 3,400)および50mMのチオール-PEG (M.W. 2,000、PEG/GNP比10,000:1)を加えることによって、GNPをペグ化した。この溶液を室温で5時間攪拌した。次に、ペグ化GNPを3×30mLの滅菌D.D.水で洗浄して過剰のPEGを除去し、40mLの100mM MES(C
6H
13NO
4S×H
2O)緩衝液pH5.5中に再懸濁させた。
【0150】
pMHCの結合。pMHC(IGRP
206-214/Kd、4mg)をペグ化GNPの溶液に、一滴ずつ穏やかに攪拌しながら室温で加えた。この混合物を1時間攪拌してから20mgの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を添加する。この混合物をさらに4時間攪拌する。その後、pMHC-GNP複合体を40mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2〜7.4)で3回洗浄して、8mLのPBS中に再懸濁させる。
【0151】
実施例6
pMHC結合金ナノ粒子の調製
pMHCを結合させたGNP(pMHC-GNP、2〜10nm)の調製。GNP(2〜5nm)の調製。250mg(2nm GNPの場合)または50mg(4nm GNPの場合)のドデシルアミンを10mLのDDAB溶液(トルエン中の100mM臭化ジドデシルジメチルアンモニウム(DDAB))中に溶解することによって、2〜5nmのGNPを調製した。次に、100mgの水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム(TBAB)を4mLのDDAB溶液中に溶解した。その後、ドデシルアミンとTBABの溶液を50mL三つ口フラスコ内で窒素下に攪拌しながら混合した。34mgのAuCl
3を4.5mLのDDAB溶液に溶解し、TBABとドデシルアミンの混合溶液に速やかに注入した。溶液はすぐに真っ赤になり、これはGNPの形成を示す。この混合物を30分間連続して攪拌し、15mLのエタノールをその混合物に添加した。その後混合物を4,100×gで12分遠心分離してGNPを沈降させた。
【0152】
GNP(6〜10nm)の調製。6〜10nmのGNPを調製するために、最初にデカン酸(172mg)を10mLのトルエンに溶解し、次にさまざまな量のTBAB溶液(4mLおよび1mL、それぞれ6nmおよび10nm GNPの場合)と50mL三つ口フラスコ内で窒素下に攪拌しながら混合した。その後、AuCl
3 (34mgを4.5mLのDDAB原液に溶解したもの)をTBABとデカン酸の混合溶液に速やかに注入した。溶液はすぐに真っ赤になった。この混合物を30分間連続して攪拌し、15mLのエタノールをその混合物に添加した。その後混合物を4,100×gで12分遠心分離してGNPを沈降させた。
【0153】
GNPの表面修飾。GNPを20mLの0.1Mメルカプトプロパン酸(MPA)メタノール溶液pH10に再懸濁して、室温で1時間攪拌した。次に10mLの酢酸エチルを添加した。その後この混合物を4,100×gで15分遠心分離した。次に、沈降したGNPを30mLの滅菌D.D.水で3回洗浄して、20mLの100mM MES (C
6H
13NO
4S×H
20)緩衝液pH5.5中に再懸濁させた。この混合物に、0.5Mポリオキシエチレンビス(アミン)(10,000:1のPEG/GNP比)および0.1M 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)(最終EDC濃度2mM)の溶液を添加した。次にこの混合物を4時間攪拌した。ペグ化GNPを3×30mLの滅菌D.D.水で洗浄して、過剰のPEGとEDCを除去した。
【0154】
pMHCの結合。ペグ化GNPを20mLの100mM MES (C
6H
13NO
4S×H
20)緩衝液pH5.5中に再懸濁させた。次に、pMHC(5mg/mL、合計10〜30mg)を再懸濁GNP (500:1のpMHC/GNP比)に一滴ずつ添加して、室温で1時間攪拌してから、0.1M 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)(最終EDC濃度2mM)を加えた。この混合物をさらに4時間攪拌した。pMHC-GNP複合体を40mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2〜7.4)で3回洗浄し、その後10〜20mLのPBS中に再懸濁させた。
【0155】
pMHCの最適化。最適なpMHC-NP設計は、可能な限り最高の密度でpMHC単量体がコーティングされた小さな粒子からなり、これは3〜4 nm離れたpMHC複合体をもたらす。これらの原理にしたがって設計されたpMHC-NPは、最適な効力(より低い用量の全pMHCでの最高のアゴニスト活性およびTreg増殖特性)を有する。クラスI pMHC-Npについての知見がpMHCクラスIIコーティングNpについても当てはまることが、実験的に確認されている。最適な密度および用量のpMHCで使用された場合、pMHCクラスIコーティングNpおよびpMHCクラスIIコーティングNpの両方は、同起源自己調節性T細胞を増殖させることができる。したがって、理想的なpMHC-NP設計は、NP上の高密度に詰まったpMHCを送達する能力を伴う。
【0156】
これは、2つの実験的知見により支持される:(1)類似した数のpMHCでコーティングされたより大きなNPは、より小さな対応物よりも、特に結合価の閾値(すなわち10個のpMHC/NP)において、全pMHC投入量とは関係なく、有意にアゴニスト活性が低かった。個々のpMHCを10 nmの間隔に配置する該閾値は、3〜4 nmの間隔距離に達するために60個のpMHC/NPおよび>120個のpMHCを必要とする;および(2)非常に高い密度のpMHCでコーティングされた小さなNPは、同じく全pMHC投入量とは関係なく、最高のアゴニスト活性を有する。したがって、pMHC密度を増加させることによるpMHCの距離の低減(すなわち10 nmの閾値距離から2〜4 nmまで)は、pMHC-NP-T細胞の相互作用の全体的な結合活性およびTCRシグナル伝達能力を増加させる。したがって、アゴニスト活性の閾値は、pMHC分子の数よりむしろ、NP表面上のpMHC分子の密度(pMHC分子間の距離)により規定される。
【0157】
まとめると、これは、自己免疫障害の治療のためにインビボで自己抗原特異的調節性T細胞を増殖させることを目的としたpMHC-NP製剤の最適な設計の基盤となる。本出願人は、最適な製剤が、極めて低い用量のpMHC-NPにおいて、循環CD8+ T細胞またはCD4+ T細胞2つのうち1つという高い出現頻度まで、インビボで自己抗原特異的調節性T細胞を大量増殖させ得ることを示している。治療レベルはこれらの大量増殖を誘導するレベルよりも有意に低いため、このアプローチには、安全性および有効性の裕度が高いという利点があり、これは、進行性の自己免疫状態の治療を可能にするはずである。
【0158】
本発明は好ましい態様および任意の構成により具体的に開示されているが、当業者であれば、本明細書中に開示され、そこに具体化された本発明の修飾、改良、および変更を行うことができ、そのような修飾、改良、および変更は本発明の範囲内にあるということが理解されるべきである。本明細書に提供された材料、方法、および例は、好ましい態様の代表であり、例示であり、本発明の範囲の限定を意図したものではない。
【0159】
本明細書では、本発明を広範かつ包括的に説明してきた。より狭い種および属(generic)開示に含まれる亜属(subgeneric)グループのそれぞれも本発明の一部を形成する。これには、除かれた材料が本明細書に具体的に挙げられているか否かに関係なく、任意の主題を属から取り除く但し書きまたは消極的な限定を有する本発明の一般的記述が含まれる。
【0160】
さらに、本発明の構成または局面がマーカッシュグループの観点から記載されている場合、当業者であれば、本発明はまた、マーカッシュグループの個々のメンバーまたはメンバーのサブグループの観点からも説明されることを認識するであろう。
【0161】
本開示を通して、種々の刊行物、特許および公開された特許明細書は識別引用によって参照される。本明細書中で挙げたすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、それぞれが個々に参考として援用されるのと同程度に、その全体が参照により明示的に組み入れられる。コンフリクトがある場合には、定義を含めて、本発明が優先する。
【0162】
配列一覧
SEQ ID NO: 1:pMOG
38-49抗原:・ GWYRSPFSRVVH。
SEQ ID NO: 2:pMOG
38-49抗原を含むベクターのタンパク質配列(
図9)。
SEQ ID NO: 3:pMOG
38-49抗原を含むベクターのDNA配列(
図9)。