(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6899900
(24)【登録日】2021年6月17日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】樹脂製チューブ部材、樹脂製チューブ部材の製造方法、樹脂製管継手及び、樹脂製配管
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20210628BHJP
B29C 65/02 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C65/02
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-526074(P2019-526074)
(86)(22)【出願日】2017年6月29日
(86)【国際出願番号】JP2017024015
(87)【国際公開番号】WO2019003394
(87)【国際公開日】20190103
【審査請求日】2020年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000140890
【氏名又は名称】ミライアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】溜渕 晴也
(72)【発明者】
【氏名】枝村 洋一
【審査官】
関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−237748(JP,A)
【文献】
特開平8−216257(JP,A)
【文献】
特開平5−8284(JP,A)
【文献】
特開2000−43086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 65/00−65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体が流れる内部流路が形成されたチューブ本体と、前記チューブ本体の外周側で該チューブ本体の少なくとも本体端部の周囲を覆って配置されて、前記チューブ本体に固定ないし固着された外筒とを有し、
他の樹脂製チューブ部材もしくは樹脂製管継手の端部に溶着される外筒端部が、その内周側の前記本体端部より軸線方向の外側に突き出て位置し、外筒端部の内面と本体端部の内面とで形成される内面段差が設けられ、
前記外筒端部の端面が、径方向の内側に向かうに従って次第に軸線方向の内側に奥まる向きに傾斜するテーパ形状を有してなる樹脂製チューブ部材。
【請求項2】
前記外筒が、前記チューブ本体に溶着されてなる請求項1に記載の樹脂製チューブ部材。
【請求項3】
前記外筒が、インサート成形により前記チューブ本体に溶着されて形成されてなる請求項2に記載の樹脂製チューブ部材。
【請求項4】
前記内面段差の径方向の高さが、0.5mm〜1.5mmである請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂製チューブ部材。
【請求項5】
チューブ本体の本体端部に対する外筒端部の軸線方向の突出長さが、0.2mm〜1.0mmである請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂製チューブ部材。
【請求項6】
テーパ形状の当該端面の傾斜角度が、軸線方向に直交する平面に対して5°〜10°の範囲内である請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂製チューブ部材。
【請求項7】
前記外筒端部の端面が、チューブ本体の前記本体端部の端面に対して二倍以上の面積を有してなる請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂製チューブ部材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂製チューブ部材を製造する方法であって、チューブ本体の少なくとも本体端部を射出成形金型内に配置し、当該射出成形金型内で樹脂材料を射出することにより、前記チューブ本体の外周側に外筒を形成する外筒成形工程を有する、樹脂製チューブ部材の製造方法。
【請求項9】
外筒成形工程に先立ち、チューブ本体を押出成形により形成する本体成形工程をさらに有する、請求項8に記載の樹脂製チューブ部材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂製チューブ部材と端部の溶着により連結される樹脂製管継手であって、前記樹脂製チューブ部材の前記外筒端部と溶着される継手端部に、内面段差が設けられてなる樹脂製管継手。
【請求項11】
継手端部の前記内面段差の径方向の高さが、0.5mm〜1.5mmである請求項10に記載の樹脂製管継手。
【請求項12】
前記継手端部の端面が、径方向の内側に向かうに従って次第に軸線方向の内側に奥まる向きに傾斜するテーパ形状を有し、テーパ形状の当該端面の傾斜角度が、軸線方向に直交する平面に対して5°〜10°の範囲内である請求項10又は11に記載の樹脂製管継手。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂製チューブ部材を少なくとも一本備える樹脂製配管であって、
前記樹脂製チューブ部材と他の樹脂製チューブ部材もしくは樹脂製管継手との連結箇所、及び/又は、前記樹脂製チューブ部材どうしの連結箇所の内側で、前記内面段差の少なくとも一部が前記外筒端部の樹脂部分で充填されて、当該連結箇所が、前記チューブ本体の内径と等しい又は該内径より大きな内径を有してなる樹脂製配管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内部に流体が流れる内部流路が形成されて、樹脂製管継手もしくは他の樹脂製チューブ部材と端部の溶着により連結される樹脂製チューブ部材、樹脂製チューブ部材の製造方法、樹脂製管継手及び、樹脂製配管に関するものであり、特に、樹脂製チューブ部材を樹脂製管継手もしくは他の樹脂製チューブ部材と端部で溶着した際に発生し得る、いわゆる内ビードを有効に抑制できる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な産業で用いられる薬液輸送ライン等の樹脂製配管は、溶着機を用いて、熱可塑性樹脂等からなる樹脂製管継手や樹脂製チューブ部材のそれぞれの端部を互いに突き合わせて溶着させることにより製造されることがある。
【0003】
このような樹脂製配管の製造方法の一例を詳説すれば、たとえば、溶着機の対をなすクランプ治具のそれぞれに、二個の樹脂製チューブ部材や樹脂製管継手のそれぞれを、それらの端部が互いに対向する姿勢で保持させる。次いで、各クランプ治具に保持させた二個の樹脂製チューブ部材等のそれぞれの端部を、ヒーター等によって加熱することで、それらの端部を溶融させ、その状態で、二個の樹脂製チューブ部材等を互いに接近させて、当該端部を所要の圧力の作用により突き合わせて溶着させる。このような樹脂製チューブ部材等の端部どうしの溶着を繰り返し行って樹脂製チューブ部材等を連結していくことで、所定の形状の配管を製造することができる。
【0004】
ここで、樹脂製チューブ部材どうしを、又は樹脂製チューブ部材と他の樹脂製管継手とを上述したようにして連結するには、十分な溶着強度を得るため、端部を溶着させるに先立って所定の高い温度で加熱するとともに、その後に端部どうしを突き合わせる際に所定の大きな圧力を作用させることが必要になる。
しかるに、この場合、そのような加熱及び加圧に起因して、突き合わせた際に溶融状態の端部で溶融樹脂の流れが生じて、そこで樹脂が内面より内周側に盛り上がった状態で硬化し、溶着部の内面に隆起部が形成されることがある。かかる隆起部は、内ビードと称されることがある。そして、配管の溶着部の内面に形成された内ビードは、部分的に管路内径を狭めるので、液体の通流時に、そこに液溜まりを生じさせるとともに流量の低下を招くという問題がある。
【0005】
この問題に対し、特許文献1では、「合成樹脂製管状部材同士の溶着方法」で、「第1および第2の合成樹脂製管状部材の端部を加熱して溶融させた後、端面同士を突き合わせて溶着する方法であって、突き合わせ時に両管状部材に内圧をかけること」、「加熱前に、両管状部材の突き合わせ端部内径部分を面取りすること」が提案されている。そして、この方法によれば、「突き合わせ部に存在するビード部内面の凸量を小さくすることができ、こうして得られた管状部材を配管に使用することにより、接合部が液体のスムーズな流れを阻害することがなく、また、接合部が液だまりとなって液体の置換に要する時間を長くすることも防止される。」とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−284048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の提案技術では、樹脂製チューブ部材等の端部どうしを突き合わせて溶着する際に内圧をかけることから、溶着機とともに、その内圧をかけるための加圧装置が必要になって設備コストが増大するとともに、加圧による作業時間の増大を招くという他の問題があった。特に、複数個の樹脂製チューブ部材や樹脂製管継手を順次に連結して配管を構成する場合、それらの端部どうしを溶着させるたびに、加圧装置を配置しなければならず、配管の製造能率の低下が否めない。
【0008】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、その目的とするところは、樹脂製チューブ部材を樹脂製管継手もしくは他の樹脂製チューブ部材と端部で溶着する際に溶着部に発生し得る内ビードを有効に抑制することができる樹脂製チューブ部材、樹脂製チューブ部材の製造方法、樹脂製管継手及び、樹脂製配管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の樹脂製チューブ部材は、内部に流体が流れる内部流路が形成されたチューブ本体と、前記チューブ本体の外周側で該チューブ本体の少なくとも本体端部の周囲を覆って配置されて、前記チューブ本体に固定ないし固着された外筒とを有し、他の樹脂製チューブ部材もしくは樹脂製管継手の端部に溶着される外筒端部が、その内周側の前記本体端部より軸線方向の外側に突き出て位置し、外筒端部の内面と本体端部の内面とで形成される内面段差が設けられ、前記外筒端部の端面が、径方向の内側に向かうに従って次第に軸線方向の内側に奥まる向きに傾斜するテーパ形状を有してなるものである。
【0010】
この発明の樹脂製チューブ部材では、前記外筒は、前記チューブ本体に溶着されてなるものであることが好ましい。
この場合においては、前記外筒が、インサート成形により前記チューブ本体に溶着されて形成されてなるものであることがより好ましい。
【0011】
ここで、この発明の樹脂製チューブ部材では、前記内面段差の径方向の高さが、0.5mm〜1.5mmであることが好適である。
またここで、この発明の樹脂製チューブ部材では、チューブ本体の本体端部に対する外筒端部の軸線方向の突出長さが、0.2mm〜1.0mmであることが好ましい。
【0012】
また、この発明の樹脂製チューブ部材では、
テーパ形状の当該端面の傾斜角度が、軸線方向に直交する平面に対して5°〜10°の範囲内であることが好ましい。
【0013】
そしてまた、この発明の樹脂製チューブ部材では、前記外筒端部の端面が、チューブ本体の前記本体端部の端面に対して二倍以上の面積を有することが好ましい。
【0014】
この発明の樹脂製チューブ部材の製造方法は、上記のいずれかの樹脂製チューブ部材を製造する方法であって、チューブ本体の少なくとも本体端部を射出成形金型内に配置し、当該射出成形金型内で樹脂材料を射出することにより、前記チューブ本体の外周側に外筒を形成する外筒成形工程を有するものである。
この発明の樹脂製チューブ部材の製造方法では、外筒成形工程に先立ち、チューブ本体を押出成形により形成する本体成形工程をさらに有することが好ましい。
【0015】
この発明の樹脂製管継手は、上記のいずれかの樹脂製チューブ部材と端部の溶着により連結されるものであって、前記樹脂製チューブ部材の前記外筒端部と溶着される継手端部に、内面段差が設けられてなるものである。
【0016】
この発明の樹脂製管継手では、継手端部の前記内面段差の径方向の高さが、0.5mm〜1.5mmであることが好ましい。
また、この発明の樹脂製管継手では、前記継手端部の端面が、径方向の内側に向かうに従って次第に軸線方向の内側に奥まる向きに傾斜するテーパ形状を有し、テーパ形状の当該端面の傾斜角度が、軸線方向に直交する平面に対して5°〜10°の範囲内であることが好ましい。
【0017】
この発明の樹脂製配管は、上記のいずれかの樹脂製チューブ部材を少なくとも一本備えるものであって、前記樹脂製チューブ部材と他の樹脂製チューブ部材もしくは樹脂製管継手との連結箇所、及び/又は、前記樹脂製チューブ部材どうしの連結箇所の内側で、前記内面段差の少なくとも一部が前記外筒端部の樹脂部分で充填されて、当該連結箇所が、前記チューブ本体の内径と等しい又は該内径より大きな内径を有してなるものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、樹脂製チューブ部材のチューブ本体の外周側にその少なくとも本体端部の周囲を覆う外筒を配置し、端部の溶着に供される当該外筒端部を、その内周側の前記本体端部より軸線方向の外側に突出させて位置させて、そこに内面段差を設けたことにより、他の樹脂製チューブ部材もしくは樹脂製管継手の端部と外筒端部で突き合わせて溶着すると、内周側に盛り上がる樹脂部分が内面段差の少なくとも一部に充填されて、その樹脂部分の内周側への隆起が抑制されるので、溶着部での内ビードの形成を有効に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の一の実施形態の樹脂製チューブ部材の要部を示す、中心軸線を含む縦断面図である。
【
図3】
図1の樹脂製チューブ部材を、それに連結される樹脂製管継手とともに示す縦断面図である。
【
図4】
図3の樹脂製チューブ部材と樹脂製管継手との連結箇所である溶着部を示す縦断面図である。
【
図5】樹脂製チューブ部材の外筒の変形例を示す縦断面図である。
【
図6】樹脂製チューブ部材の外筒の他の変形例を示す縦断面図である。
【
図7】実施例における比較例の樹脂製チューブ部材を端部の溶着前後の状態で示す縦断面図である。
【
図8】実施例における発明例1の樹脂製チューブ部材を端部の溶着前後の状態で示す縦断面図である。
【
図9】実施例における発明例2の樹脂製チューブ部材を端部の溶着前後の状態で示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1に例示する樹脂製チューブ部材1は、内部に、薬液等の液体もしくは気体その他の流体が流れる内部流路Pが形成された直線もしくは曲線状の直管もしくは曲管形状のチューブ本体2と、そのチューブ本体2の外周側でチューブ本体2の少なくとも本体端部2aの周囲を覆って配置されて、チューブ本体2に固定ないし固着された円筒等の筒状をなす外筒3とを有してなるものである。
【0021】
樹脂製チューブ部材1を構成するチューブ本体2及び外筒3は、それぞれパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)又はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂材料からなるものであり、相互に同種もしくは異種の樹脂材料を用いて形成することができる。
【0022】
ここで、この樹脂製チューブ部材1では、
図2に拡大図で示すように、外筒3の外筒端部3aを、その内周側に配置されたチューブ本体2の本体端部2aよりも軸線方向ADの外側に突き出るように位置させ、それにより、外筒端部3aの内面と本体端部2aの内面との間に、径方向の高さの内面段差4が形成されている。
【0023】
より詳細には、樹脂製チューブ部材1は、軸線方向ADの内側のチューブ本体2が存在する部分では、当該チューブ本体2の相対的に小さな内径Dtを有するが、樹脂製チューブ部材1の端部における内面段差4より軸線方向ADの外側では、本体端部2aよりも外筒端部3aが軸線方向ADの外側に突き出てチューブ本体2が存在しなくなって、外筒端部3aの相対的に大きな内径Dcを有する。その結果として、樹脂製チューブ部材1の端部には、内面段差4と外筒端部3aの内面とで区画される拡径スペース5が形成されている。
【0024】
このような樹脂製チューブ部材1を用いて配管を製造するには、樹脂製チューブ部材1と他の樹脂製チューブ部材もしくは樹脂製管継手とを端部で溶着することによる、樹脂製チューブ部材どうしの連結及び/又は、樹脂製チューブ部材と樹脂製管継手との連結を繰り返す。
かかる端部の溶着は具体的には、たとえば、図示しない溶着機の対をなすクランプ治具のそれぞれに、樹脂製チューブ部材1の端部と他の樹脂製チューブ部材もしくは樹脂製管継手の端部とが互いに対向する姿勢で、それらの樹脂製チューブ部材1等をそれぞれ保持させ、その後、クランプ治具に保持させた樹脂製チューブ部材1等の両端部を、ヒーターその他の加熱装置によって加熱して溶融させた状態で、樹脂製チューブ部材1等を互いに接近させ、それらの端部を、所要の圧力の作用により突き合わせることにより行うことができる。
【0025】
ここにおいて、この樹脂製チューブ部材1は、
図3に示すように、その外筒端部3aで、樹脂製管継手11の継手端部11a等と溶着させて連結する。
このことによれば、端部の溶着の際に、樹脂製管継手11の継手端部11aと所定の圧力で溶融状態にて突き合わせられる外筒端部3aでは、当該圧力の作用によりその樹脂部分21が径方向に流れて内周側に移動するも、
図4に示すように、かかる樹脂部分21は、そこに内面段差4を介して設けられた拡径スペース5に入り込むので、樹脂部分21が、配管の管路の一部をなすチューブ本体2の内部流路Pの内面より内周側まで盛り上がることが防止される。それ故に、液溜まりや流量の低下といった問題を招く内ビードの発生を有効に抑制することができる。その結果として、内ビードの形成を考慮することなしに溶着時の加熱及び加圧条件を設定することができるので、端部どうしを十分に高い強度で溶着させることが可能になる。
【0026】
したがって、このようにして製造される樹脂製配管は、それが備える樹脂製チューブ部材1と他の樹脂製チューブ部材もしくは樹脂製管継手11との連結箇所Cpや、樹脂製チューブ部材1どうしの連結箇所の内側では、
図4に示すように、内面段差4の少なくとも一部が外筒端部3aの樹脂部分21で充填されることになるが、その連結箇所Cpは、チューブ本体2の内径Dtと等しいか、又は内径Dtより大きな内径を有することが好ましい。つまり、製造される樹脂製配管の連結箇所Cpで、チューブ本体2の内径Dtよりも内径を小さくする内ビードのような隆起部が存在しなくなるように、樹脂製チューブ部材1の内面段差4や外筒3、チューブ本体2等の寸法形状を設計する。
具体的には、連結箇所Cpでの内径がチューブ本体2の内径Dt以上である場合、連結箇所Cpでの内径とチューブ本体2の内径Dtとの差は、好ましくは、連結箇所Cpの最も径が大きくなる部分で、0mm以上かつ1mm以下とする。連結箇所Cpでの内径がチューブ本体2の内径Dtよりも大きくなりすぎると、液溜りが生じることが懸念される。
【0027】
なおここで、図示の実施形態では、外筒3は、チューブ本体2の本体端部2aを含む端部側部分を覆う領域に配置されている。但し、外筒は、チューブ本体の周囲を軸線方向の全体にわたって覆うように設けられた場合であっても、外筒端部に内面段差が形成されていれば、上述したような内ビード抑制効果を奏することができるので、外筒は、少なくとも本体端部を覆って配置されていればよい。
【0028】
外筒3は、チューブ本体2に溶着されていること、特に後述するようなインサート成形によりチューブ本体2に溶着されていることが好ましいが、これに限らず、たとえば接着剤の使用または、外筒及びチューブ本体のそれぞれに形成する図示しない凹部及び凸部等の嵌合ないし係合その他の種々の手法により固定ないし固着されていてもよい。
【0029】
外筒端部3aと本体端部2aとで形成される内面段差4は、その径方向の高さHsが0.5mm〜1.5mmであることが好適である。内面段差4の径方向の高さHsが0.5mmより小さい場合は、外筒端部3aで樹脂製継手11の継手端部11a等と溶着した際に、樹脂部分21の盛り上がりを許容する内面段差4が小さすぎることによって、そこで内ビードが内周側へ隆起して形成されるおそれがある。この一方で、内面段差4の径方向の高さHsを1.5mmより大きくすれば、溶着強度不足や液溜りが懸念される。
【0030】
また、チューブ本体2の本体端部2aに対する外筒端部3aの軸線方向ADの突出長さLcは、たとえば、0.2mm〜1.0mmとすることが好ましい。外筒端部3aのこの突出長さLcが長すぎる場合は、液溜りが生じる可能性があり、この一方で、突出長さLcが短すぎる場合は、溶着時にチューブ本体2まで溶融し、チューブ本体2の内面を超える内ビードが発生するおそれがあるからである。
【0031】
図示の樹脂製チューブ部材1では、上述したような内面段差4により形成される拡径スペース5は、軸線方向ADに直交する平面に平行な本体端部2aの端面と、外筒端部3aの突出部分の内面とで区画されて、ほぼ矩形断面の環状をなす。
【0032】
なおここで、樹脂製管継手11の継手端部11a等に溶着される外筒端部3aの端面3bの面積は、それとの間で内面段差4を形成する本体端部2aの端面の面積の二倍以上とすることが好ましい。これにより、樹脂製管継手11の継手端部11a等と十分強固に溶着させることができる。但し、外筒端部3aの端面3bの面積が大きすぎると、ヒケ等の外観不良となることが懸念されるので、外筒端部3aの端面3bの面積は、本体端部2aの端面の面積の三倍以下とすることができる。
【0033】
また、溶着時の内周側への樹脂部分の盛り上がりをより有効に防止するため、外筒端部3aの端面3bは、図示の実施形態のように、径方向の内側に向かうに従って次第に軸線方向ADの内側に奥まる向きに傾斜するテーパ形状を有するものとすることができる。より具体的には、外筒端部3aのテーパ形状をなす端面3bの傾斜角度θは、軸線方向ADに直交する平面に対して5°〜10°の範囲内であることが好適である。テーパ形状の端面3bの傾斜角度θを5°未満とすると内周側へ樹脂部分21が盛り上がり過ぎる懸念があり、傾斜角度θを10°より大きくすると溶着不足となるおそれがある。但し、このような外筒端部3aの端面3bのテーパ形状は必須の構成ではない。
なお図示は省略するが、このように外筒端部3aの端面3bをテーパ形状とすることに加えて又はそれに代えて、チューブ本体の本体端部の端面を同様のテーパ形状とすることも可能である。この場合、本体端部のテーパ形状の端面も、軸線方向に直交する平面に対して5°〜10°の範囲内で傾斜するものとすることができる。
【0034】
上述したような外筒3及びそれによる内面段差4は、樹脂製チューブ部材1の両端部に形成されることが、両端部で溶着による内ビードの発生を有効に抑制するとの観点から好ましいが、各端部に溶着される他の樹脂製チューブ部材もしくは樹脂製管継手の端部の態様等に応じて、樹脂製チューブ部材1のいずれか一方の端部のみに、外筒3及び内面段差4が形成されていてもよい。外筒端部3aの端面3bのテーパ形状についても同様に、少なくとも一方の端部に設けることができる。
【0035】
なお、
図5に示す変形例のように、外筒33の外筒端部33aの外面側に、軸線方向の外側で外径を小さくする外面段差34を設けることができる。この外面段差34は、樹脂製管継手11の継手端部11a等との溶着時における樹脂部分の外周側への盛り上がりを効果的に抑制することができるので、配管の配置スペースや外観の観点から好ましい。外面段差34の寸法形状は、端面の大きさなどの所定の条件に応じて適宜設定することができるが、内面段差4と同様の寸法形状としてもよい。
【0036】
また
図6に示す他の変形例のように、外筒43の外筒端部43aの内面に、外筒端部43aの内面側及び軸線方向外側のそれぞれに開口して、軸線方向の外側で内径を大きくする内側凹部46を設けることができる。これにより、内ビードをより確実にチューブ内面よりも外周側に凹ませることができる。この場合であっても、外筒端部43aの端面43bは、チューブ本体2の本体端部2aの端面よりも軸線方向の外側に突き出て位置し、外筒端部43aの内面と本体端部2aの内面との間に内面段差4が形成される。
内側凹部46の軸線方向の形成領域は、たとえば、チューブ本体2の本体端部2aの端面より軸線方向内側に0.5mmの位置から、当該端面より軸線方向外側に1.0mmの位置までとすることができる。また、内側凹部46の径方向の長さは、たとえば0.5mm〜1.0mmとすることができる。
なお
図6に示すところでは、外筒端部43aに、内側凹部46とともに外面段差44を設けているが、図示は省略するが、外面段差44を設けずに内側凹部46のみを設けてもよい。
【0037】
樹脂製チューブ部材1と端部の溶着により連結される樹脂製管継手11の、樹脂製チューブ部材1の外筒端部3aと溶着される継手端部11aにも、樹脂製チューブ部材1のものと実質的に同様の内面段差12が設けられていることが好ましい。この場合、同様の観点から、継手端部11aの内面段差12の径方向の高さが0.5mm〜1.5mmであること、継手端部11aの端面11bが、径方向の内側に向かうに従って次第に軸線方向の内側に奥まる向きに傾斜するテーパ形状を有するものとし、テーパ形状の端面11bの傾斜角度が、軸線方向に直交する平面に対して5°〜10°の範囲内であることがそれぞれ好ましい。
【0038】
樹脂製管継手11としては、たとえば、内部流路が略L字状に折れ曲がるエルボや、内部流路が途中で分岐してT字状等をなすチーズ、内部流路の断面積が途中で変化するレデューサ等がある。
【0039】
以上に述べたような樹脂製チューブ部材1を製造する方法の一例を述べると、はじめに、所定の樹脂材料から押出成形等によりチューブ本体2を形成する本体成形工程を行う。ここでは、押出成形で長尺管状素材を形成し、これを所定の長さに切断することで、チューブ本体2を形成することもできる。この切断は、たとえば、長尺管状素材を大まかにカットする一段目の切断と、その後、高い精度で所定の長さにカットしつつ端面を仕上げる二段目の切断とに分けて行うことができる。
【0040】
しかる後、チューブ本体2の少なくとも本体端部2aを射出成形金型内に配置し、その射出成形金型における、チューブ本体2の周囲に形成しようとする外筒3の形状に対応する内面形状のキャビティに樹脂材料を射出し、そこで当該樹脂材料を冷却硬化させて、チューブ本体2の外周側に外筒3を形成する外筒成形工程を行う。このようなインサート成形により、チューブ本体2の周囲の所定の位置に、所定の形状を有する外筒3を溶着させて形成することができるので、別途形成した外筒3をその後にチューブ本体2に固定ないし固着させる場合に比して、容易にかつ短時間で形成できる点で好ましい。
【0041】
上記のようにインサート成形によりチューブ本体2の周囲に外筒3を形成する外筒成形工程の前に、チューブ本体2の少なくとも本体端部2aを加熱して半溶融状態にする事前加熱工程を行うことも可能である。これにより、外筒成形工程のインサート成形時に、チューブ本体2と外筒3とが強固に一体化することになる。但し、この事前加熱工程は省略してもよい。
【0042】
なおここで、射出成形金型のキャビティ形状を調整することにより、端面3bが上述したテーパ形状を有する外筒3を、チューブ本体2の周囲に成形することができる。あるいは、外筒成形工程では、軸線方向ADに直交する平面に平行な端面を有する外筒3を一旦形成し、外筒成形工程の後、端面カッター等を用いて、外筒端部3aの端面を当該テーパ形状に加工する端部加工工程を行うこともできる。
【実施例】
【0043】
次に、この発明の樹脂製チューブ部材を試作し、その性能を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0044】
比較例として、
図7(a)に示すように、チューブ本体の外周側に外筒を、内面段差が生じないように端面どうしをほぼ同一平面上に位置させて溶着により固定した樹脂製チューブ部材を二本作製した。
これらの樹脂製チューブ部材を端部どうしで突き合わせて相互に溶着させて連結した。ここで、端部溶着時の加熱時間は80sec、押込み量は1.0mmとした。端部溶着後の連結箇所を確認したところ、
図7(b)に示すように、径方向内側に1.5mmの大きさで起立した内ビードが形成された。
【0045】
発明例1として、比較例と同様にしてチューブ本体の外周側に外筒を溶着固定した後、それぞれ、そのチューブ本体の本体端部を軸線方向に0.5mmずつ窪むように切削加工し、
図8(a)に示すように、外筒端部の内面と本体端部の内面との内面段差が形成された樹脂製チューブ部材を二本作製した。
これらの樹脂製チューブ部材を、比較例と同様の条件の下、端部どうしで突き合わせて相互に溶着させて連結した。端部溶着後の連結箇所を確認したところ、
図8(b)に示すように、内ビードは形成されていなかった。なお、連結箇所の内面に若干の溝が確認されたが、このような溝は押込み量等の端部溶着時の条件の調整により無くすことができると考えられる。
【0046】
発明例2として、比較例と同様にしてチューブ本体の外周側に外筒を溶着固定した後、一方のものについては、そのチューブ本体の本体端部を軸線方向に1mm窪むように切削加工し、他方のものについては、その端面に、軸線方向に直交する平面に対する傾斜角度が10°のテーパ形状になるようにテーパカットを施して、
図9(a)に示すように、それぞれ外筒端部の内面と本体端部の内面との内面段差が形成された樹脂製チューブ部材を二本作製した。
これらの樹脂製チューブ部材を、比較例と同様の条件の下、端部どうしで突き合わせて相互に溶着させて連結した。端部溶着後の連結箇所を確認したところ、
図9(b)に示すように、内ビードは形成されていなかった。この発明例2でも、連結箇所の内面に若干の溝が確認された。
【0047】
以上より、この発明によれば、樹脂製チューブ部材を樹脂製管継手もしくは他の樹脂製チューブ部材と端部で溶着する際に、溶着部である連結箇所への内ビードの発生を有効に抑制し得ることが解かった。
【符号の説明】
【0048】
1 樹脂製チューブ部材
2 チューブ本体
2a 本体端部
3 外筒
3a、33a、43a 外筒端部
3b、33b、43b 外筒端部の端面
4 内面段差
34、44 外面段差
5 拡径スペース
46 内側凹部
11 樹脂製管継手
11a 継手端部
11b 端面
12 内面段差
21 樹脂部分
P 内部流路
AD 軸線方向
θ テーパ形状の端面の傾斜角度
Dc 外筒の内径
Dt チューブ本体の内径
Hs 内面段差の径方向の高さ
Lc 外筒端部の軸線方向の突出長さ
Cp 連結箇所