(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記偏向ユニットが、円管を前記ジェット水の進入方向と前記バケットの方向との位置関係で決定される角度で切断した管状部材である請求項1記載のペルトン水車発電機。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態を詳細に説明する。
図1は第1実施形態のペルトン水車発電機の構成を示す側面図、
図2はデフレクタ6が動いてジェット水の方向を変える様子を示す図である。
【0012】
(第1実施形態)
図1に示すように、この第1実施形態のペルトン水車発電機は、横軸型のペルトン水車発電機であり、ハウジング7と、このハウジング7の内部に収容され、発電機の回転軸3にディスク4を介してバケット1を支持して回動可能な水車機構2と、水車機構2のバケット1の凹部(受水部)に向けてジェット水を射出するよう配置された射出装置5と、この射出装置5から射出されるジェット水の射出方向でバケット1を超えたハウジング7の壁面手前の位置に金具などでハウジング7から浮かせて配置した偏向ユニットとしての平板部材11とを備える。ハウジング7は、水車機構2や射出装置5などを収容し、水車機構2の動力元の水を水車機構2に導き排水するための容器である。
【0013】
射出装置5は、先端の開口5bよりジェット水を矢印Aの方向へ射出(放出)する。この例は、ハウジング7に射出装置5を複数(2つ)配置した例である。射出装置5の内部にはニードル弁5aが設けられている。
【0014】
ニードル弁5aの先端部は、ジェット水の射出方向Aに位置する開口5bから突出している。ニードル弁5aは、ジェット水の射出の強さや広がり方など、水の噴出量を調整するための弁である。
【0015】
射出装置5の開口5b近傍には、デフレクタ6が開口5b側に移動自在に設けられており、
図2に示すように、デフレクタ6が開口5bを塞ぐ方向Cへ移動(回動)することでジェット水がデフレクタ6に当たりジェット水の方向をバケット1とは異なる方向Dに変えることができる。これらニードル弁5aおよびデフレクタ6は、制御信号により駆動される。例えばニードル弁5aは、流入流量指令などの制御信号により開度が調整される。
【0016】
バケット1は、ディスク4の周囲に等間隔で複数突設されたお椀のような形状の受水部(凹部)であり、射出装置5から射出されるジェット水を受けてその力を回転軸3に伝えて回転軸3を矢印Bの方向へ回動させる。バケット1はランナの一部の部品である。
【0017】
偏向ユニットは、ジェット水を受けてその方向を変化させ、ジェット水の少なくとも一部をバケット1の裏側に送り出すものである。偏向ユニットの一例としての平板部材11は、例えば板面をジェット水の方向Aに対して所定の角度(30°程度(逆方向からでは150°程度))に向けて配置された金属製の板状部材である。
【0018】
平板部材11は、ジェット水が当たる面を有しており、その面に沿う方向A2に最も近いバケット1の裏面1a(凹部の裏側)が位置するように配置されている。平板部材11は、例えば腐食や摩耗などに強いステンレス板などである。平板部材11としては、耐腐食性や耐摩耗性に優れた材質のものを用いるとよい。平板部材11の幅は、バケット1の幅と同等の幅である。
【0019】
つまりこの平板部材11は、板面に当たったジェット水の方向を変化(偏向)させて、そのうち少なくとも一部の水をバケット1の裏側に送出する。平板部材11は、ハウジング7の壁面から少し浮かせて設けることで、ジェット水がハウジング7に直接当たらなくなり衝撃を和らげる効果がある。なお偏向ユニットとしての機能だけであれば、平板部材11をハウジング7の壁面に直接設けてもよい。
【0020】
続いて、この第1実施形態の動作を説明する。まず、通常運転時の動作を説明する。
通常運転の際は、流入流量指令によりニードル弁の開度を調整し、バケット1にジェット水が衝突することによりバケット1を支持する回転軸3にトルクを伝達し、回転軸3と締結されている発電機(図示せず)のロータを回すことにより発電する。
【0021】
そして、何らかの異常が生じて減速運転するときには、発電機が電路から切り離されて水車機構2が無拘束運転になるため、制御信号によりデフレクタ6を駆動してジェット水の方向をバケット1の方向から他の方向へ反らせることで、バケット1にジェット水が衝突する力を弱め、さらにはジェット水をバケット1に衝突させないようにすることで、急速な回転速度の上昇を防ぐようにしている。
【0022】
ここで、上記異常時に射出装置5内のニードル弁やデフレクタ6が動作不能に陥った場合、発電機が電路から切り離された水車機構2は、ジェット水の状態を変えられないため無拘束速度での運転を継続することになる。
【0023】
無拘束速度での運転で水車の回転数が上昇してゆくと、あるとき、ジェット水がバケット1に触れずに前方に飛び抜ける水、いわゆる「つつぬけ水」が増加するペルトン水車特有の現象が生じる。
【0024】
そこで、本実施形態では、つつぬけ水が進む方向Aのハウジング7の内壁の位置に平板部材11を面に角度(例えば方向Aに対して150°程度の鈍角)をつけて設け、つつぬけ水を面に当てて飛散させる。平板部材11の面に当たって飛散する水の多くは平板部材11の面に沿って進みさらにハウジング7の内壁に当たりその壁面に沿う方向A1へ進む。
【0025】
一方、平板部材11の面に当たって飛散する水のうちの一部は、平板部材11の面に逆らう方向にはね返り、水車機構2の方向A2へ飛散し、バケット1の裏側(凸形状の側)へ送り出される。
【0026】
これにより、バケット1が若干押し戻されるような負荷(回転方向とは逆方向のトルク)がかかり、回転軸3の回転を減速させるので、無拘束速度での回転がある程度の速度で頭打ちになり、最高無拘束速度までには至らないようになる。また回転軸3の回転速度が減速することで、バケット1にジェット水が当たり、つつぬけ水の状態が解消されるため、無拘束運転中であっても水車機構2の回転速度はある程度の範囲で維持される。
【0027】
ここで、
図3を参照して加速度試験を行った結果について説明する。
図3は加速度試験の結果(時間の経過に応じた回転速度の変化)を示すグラフある。
図3のグラフは、この第1実施形態のペルトン水車発電機を、定格回転(100%)で運転中に、ある時点51から発電機を電路から切り離して発電機の負荷をなくし、無拘束運転に切り替えた場合の、時間の経過に応じた回転速度の変化を計測したものである。
【0028】
同図によれば、発電機の負荷をなくしてから水車の回転速度が上昇してゆく中で、最高無拘束速度に達する前のつつぬけ水が生じるタイミング52あたりから、本来の無拘束運転の特性(破線53)に比べて、回転速度の上昇が鈍り、回転速度が頭落ち(符号54)になっていることがわかる。
【0029】
このようにこの第1実施形態のペルトン水車発電機によれば、射出装置5から射出されるジェット水の射出方向Aでバケット1(水車機構2)を超えたハウジング7の壁面手前の位置にジェット水が当たって飛散する方向に面を向けて平板部材11を配置したことで、飛散した一部の水(方向A2に飛散した水)が無拘束速度での運転状態に陥った水車機構2のバケット1の裏面1a側に送り出されて回転を抑制するので、無拘束速度での回転がある程度の速度で頭打ちになり、最高無拘束速度までには至らないようになる。
【0030】
なお、平板部材11の面としては、板の広い平坦な部分だけでなく、厚みをなす面(上面)も含まれる。ジェット水は射出方向Aにビーム状ではなく若干広がって進むため平板部材11の上面に当る水もあり、上面に当って飛散する水もある。水の送り出し方向A2は、バケット1の裏面1aの方向だけに限定されるものではなく、バケット1の回転を抑制するようにバケット1に逆方向の負荷を与える方向ならばよい。
【0031】
この結果、振動が抑制されて、水車回転体や軸受、発電機などの劣化が進み難くなり、ペルトン水車発電機の寿命が延びるとともに、最高無拘束速度に耐え得る過剰な設計をする必要がなくなり、水車発電機としてのコストを低減することができる。
【0032】
(第2実施形態)
続いて、
図4を参照して第2実施形態を説明する。
図4は第2実施形態のペルトン水車発電機の構成を示す側面図である。なお
図4において第1実施形態と同じ構成には同一の符号を付しその説明は省略する。
【0033】
図4に示すように、この第2実施形態のペルトン水車発電機は、射出装置5から射出されるジェット水の射出方向Aでバケット1(水車機構2)を超えたハウジング7の壁面手前の位置に偏向ユニットとしての平板部材12を有する。この平板部材12は、第1実施形態で示した平板部材11よりも高さが高く、ハウジング7の壁面から水車機構2のバケット1にぎりぎり届かない程度の高さ(バケット1の位置に近接する高さ)で設けられている。つまり、平板部材12はハウジング7の壁面またはその手前の位置からバケット1に当たらない程度の近接位置までの幅(高さ)の板面を有するものである。
【0034】
この第2実施形態のペルトン水車発電機の場合、水車機構2のバケット1の位置に近接する高さの平板部材12を設けたことで、飛散する水のうち、方向A2に、より多くの水が送り出せるようになり、第1実施形態よりも大きな減速効果が得られる。
【0035】
(第3実施形態)
続いて、
図5、
図6を参照して第3実施形態を説明する。
図5は第3実施形態のペルトン水車発電機の構成を示す側面図、
図6はこのペルトン水車発電機の偏向ユニットを示す斜視図である。なお
図5において第1実施形態と同じ構成には同一の符号を付しその説明は省略する。
【0036】
図5に示すように、この第3実施形態のペルトン水車発電機は、射出装置5から射出されるジェット水の射出方向Aでバケット1(水車機構2)を超えたハウジング7の壁面手前の位置に偏向ユニットとしてのガイド部材20を有する。
【0037】
図6に示すように、このガイド部材20は、樋状部材21aを並列につなぎ合わせて配置した形状であり、長手方向の一方の端部に底板24および導水板としてのカバー23などからなる導水部(導水ポケット)が設けられている。樋状部材21aは、例えば断面形状が略半円弧の溝が長手方向に伸びたものである。
【0038】
このガイド部材20は、射出装置5から射出されるジェット水が樋状部材21aをつなぎ目の平坦部21bに当るように配置されている。このガイド部材20では、平坦部21bに当たって飛散および左右に分かれて導水部(導水ポケット)の部分に流れ込んだ水が、その内側のガイド面と樋状部材21aの溝を伝って方向A3へ送り出される。送り出される水には樋状部材21aのつなぎ目の平坦部21bに当って飛散する水25も含まれる。
【0039】
このガイド部材20は、射出装置5からのジェット水(
図5の方向A)が樋(とい)どうしの合わせ目の平坦部21bに一定の角度(例えば30°程度)で当たるように配置されている。このガイド部材20は、ジェット水をバケット1の方向へ戻すように送り出す導水部(導水ポケットの内側のガイド面や樋状部材21aの溝など)を有する部材である。
【0040】
この第3実施形態のペルトン水車発電機の場合、ジェット水の射出方向Aでバケット1(水車機構2)を超えたハウジング7の壁面手前の位置にガイド部材20を設けたことで、ガイド部材20に当てって飛散および左右に分離した水が溝を伝って方向A3へ導かれて、より多くの水がバケット1の裏面1a(背面)へ送り出せるようになり、第1、第2実施形態よりも大きな減速効果が得られる。
【0041】
(第4実施形態)
続いて、
図7を参照して第4実施形態を説明する。
図7は第4実施形態のペルトン水車発電機の構成を示す側面図である。なお
図7において第1実施形態と同じ構成には同一の符号を付しその説明は省略する。
図7に示すように、この第4実施形態のペルトン水車発電機は、射出装置5から射出されるジェット水の射出方向Aでバケット1(水車機構2)を超えたハウジング7の壁面手前の位置に偏向ユニットとしての湾曲部材13を有する。
【0042】
図7に示すように、湾曲部材13は、内壁が凹んだ曲面形状の部材であり、内壁の下側の曲面に沿ってジェット水を向かい入れるように、部材の長手方向(軸方向)を水平にして配置されている。水は、内壁の下側の曲面を伝って半回転して内壁の上側の曲面からバケット1の方向A4へ戻るように送り出される。
【0043】
この湾曲部材13は、断面形状が例えば略半円弧の溝の形をなし溝が長手方向に長く水路を形成する導水部といえる。この湾曲部材13では、水路を縦に使いジェット水の方向転換に利用する。
【0044】
この湾曲部材13は、射出装置5からのジェット水(
図7の方向A)が内壁に沿って流入し、バケット1の方向A4へ戻るように配置されている。つまり、この湾曲部材13も、第3実施形態と同様に、ジェット水をバケット1の方向へ戻すように送り出す導水部(樋部材14aの曲面)を有する部材である。
【0045】
この第4実施形態のペルトン水車発電機の場合、ジェット水の射出方向Aでバケット1(水車機構2)を超えたハウジング7の壁面手前の位置に湾曲部材13を配置したことで、ジェット水が湾曲部材13の内壁の曲面に沿って流入して半回転してバケット1の方向A4へ導かれて、より多くの水がバケット1の裏面1a(背面)へ送り出せるようになり、第1乃至第3実施形態よりも大きな減速効果が得られる。
【0046】
(第5実施形態)
続いて、
図8、
図9を参照して第5実施形態を説明する。
図8は第5実施形態のペルトン水車発電機の構成を示す側面図である。なお
図8において第1、第4実施形態と同じ構成には同一の符号を付しその説明は省略する。
図8に示すように、この第5実施形態のペルトン水車発電機は、射出装置5から射出されるジェット水の射出方向Aでバケット1(水車機構2)を超えたハウジング7の壁面手前の位置に偏向ユニットとしての湾曲部材14を有する。
【0047】
図9に示すように、この湾曲部材14は、内壁が凹んだ曲面形状の樋部材14aとこの樋部材14aの長手方向(樋の半円に対する軸方向)両端部に設けられた塞ぎ板14b(以下「蓋14b」と称す)とを有するものであり、内壁側の下側の曲面に沿ってジェット水を向かい入れるように、溝の長手方向を水平にして配置されている。
【0048】
この湾曲部材14では、曲面に沿って向かい入れられた水が曲面を伝って半回転してバケット1の方向A5へ戻るように送り出される。つまり樋部材14aは、断面形状が例えば略半円弧の溝の形をなし、溝が長手方向に長く水路を形成する導水部である。なお、ここでは樋部材14aとして断面形状が半円弧のものを例示したが、これ以外にU字状やV字状、他の形状のものもある。
【0049】
この湾曲部材14は、射出装置5からのジェット水(
図8、
図9の方向A)が内壁に沿う角度でポイント16の位置に流入し、内壁の曲面に沿って半回転して方向A5へ送り出されるように配置されている。また、この湾曲部材14では、流入した水は、蓋14bによって左右に逃げる水がなくなり、余すことなく方向A5へ送り出されるようになる。
なお、この例では、曲面を略半円弧としたが、ジェット水が湾曲部材14に進入する方向Aとバケット1の方向A5との位置関係に応じて、曲面の長さや半径を適宜変えるものとする。
【0050】
この第5実施形態のペルトン水車発電機の場合、ジェット水の射出方向Aでバケット1(水車機構2)を超えたハウジング7の壁面手前の位置に湾曲部材14を配置したことで、ジェット水が湾曲部材14の内壁の曲面に沿って流入して半回転してバケット1の方向A5へ導かれ、しかも樋部材14aの両端に設けた蓋14bにより逃げ水がなく戻されるので、第3実施形態よりも多くの水をバケット1の裏面1a(背面)へ送り出せるようになり、第3実施形態よりも大きな減速効果が得られる。
【0051】
(第6実施形態)
続いて、
図10を参照して第6実施形態を説明する。
図10は第6実施形態のペルトン水車発電機の構成を示す側面図である。なお
図10において第1乃至第6実施形態と同じ構成には同一の符号を付しその説明は省略する。
図10に示すように、この第6実施形態のペルトン水車発電機は、射出装置5から射出されるジェット水の射出方向Aでバケット1(水車機構2)を超えたハウジング7の壁面手前の位置に偏向ユニットとしての筒状部材15を有する。
【0052】
この筒状部材15は、円形のパイプを切り口(開口15a、15b)が並ぶように半円形に切断した形状のものであり、開口15aにジェット水を向かい入れるように配置されており、開口15aに入った水がパイプ内を通って半回転してバケット1の方向A6へ戻すように送り出される。
【0053】
この筒状部材15は、射出装置5からのジェット水が進む方向Aに開口15aが設けられ、筒状部材15の内部を通った水をバケット1の方向へ送り出す方向に開口15bが設けられている。すなわちこの筒状部材15は、円管を所定の角度(ジェット水の進入方向とバケット1の方向とで決定される角度)で切断したものである。
【0054】
この第6実施形態のペルトン水車発電機の場合、ジェット水の射出方向Aでバケット1(水車機構2)を超えたハウジング7の壁面手前の位置に筒状部材15を配置したことで、ジェット水が筒状部材15の開口15aから入ってパイプ内を半回転して開口15bから排出されてバケット1の方向A6へ導かれ、筒状部材15に入った水はほぼすべてがバケット1の裏面1a(背面)へ送り出せるようになり、第1乃至第5実施形態よりも大きな減速効果が得られる。
【0055】
以上説明したように、第1乃至第6実施形態によれば、射出装置5から射出されるジェット水の射出方向Aでバケット1(水車機構2)を超えたハウジング7の壁面手前の位置に偏向ユニットを設けることで、無拘束速度での運転時につつぬけ水をバケット1の背面に当てて水車機構2の回転を抑制し最高無拘束速度に陥ることを防止するので、最高無拘束速度での継続運転で発生する振動がなくなり水車発電機の寿命を延ばすことができる。また最高無拘束速度での継続運転に耐え得る過剰な設計をする必要かなくなり水車発電機(装置)としてのコストを抑えることができる。
【0056】
本発明の実施形態を説明したが、上記各実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。またこれら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。